説明

コンバイン

【課題】刈取装置の逆転操作時に刈取装置の逆転速度が過剰になることを防止することができるコンバインを提供する。
【解決手段】刈取装置30の回転駆動方向を刈取作業時の正転方向とは反対側の逆転方向へ切り替える刈取逆転機構360と、刈取逆転機構360を操作するための刈取逆転操作部材341と、刈取逆転操作部材341の逆転操作に連動して、主変速操作部材310の最大操作可能位置を通常の最大操作可能位置よりも低速側に規制する走行側HST出力規制機構313とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行側変速手段の出力により駆動可能な刈取装置を備えたコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
穀稈を刈り取り、刈取穀稈を脱穀装置に向けて搬送する刈取装置を備えたコンバインは従前から公知である。このようなコンバインにおいては刈取穀稈の搬送経路において搬送詰まりを起こす場合がある。特に、複数条の穀稈を刈り取るように構成されたコンバインにおいては複数条の刈取穀稈が合流する搬送箇所において搬送詰まりを起こす場合がある。
このような搬送詰まりに対処する構成として、エンジン出力軸から刈取装置へ至る伝動経路に、前記刈取装置への動力伝達方向を正転方向から逆転方向へ切り替える動力切替機構を備えたコンバインが公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
詳しくは、前記コンバインは走行側変速手段(走行側HST)を備えており、車速に同調させた速度で前記刈取装置を駆動可能とすべく前記走行側HSTの出力を前記刈取装置に伝達させ、且つ、後進時に前記刈取装置が逆転駆動されることを防止する為に前記走行側HSTから前記刈取装置へ至る伝動経路に前記走行側HSTの正転方向(前進方向)の回転出力を伝達しつつ逆転方向の回転出力は遮断する一方向クラッチが介挿されている。そして、前記一方向クラッチより伝動方向下流側に前記動力切替機構が備えられている。
かかる構成の前記コンバインにおいては、前記動力切替機構によって前記刈取装置への動力伝達方向を逆転方向に切り替えた状態で、主変速操作部材によって前記走行側HSTを正転方向へ操作することにより、前記刈取装置を逆転駆動させることができる。
【0003】
しかしながら、前記従来のコンバインにおいては、通常の刈取操作時(前記コンバインを前進方向へ走行させつつ、前記刈取装置によって穀稈の刈取作業を行い、刈取穀稈を前記脱穀装置へ向けて搬送する操作時)と、前記刈取装置の逆転操作時とにおいて、前記走行側HSTの出力特性は同一となっている。
即ち、前記刈取装置の逆転操作時においても、前記主変速操作部材は通常の刈取操作時と同様の範囲で操作可能とされており、従って、前記刈取装置の逆転操作時に該刈取装置が不必要に高速回転し、詰まり穀稈が過剰な勢いで吹き飛ばされる等の問題が生じ得る。
さらに、前記従来のコンバインにおける前記動力切替機構は、前記一方向クラッチより伝動方向下流側に配設された逆転ギヤ列と、前記走行側HSTから前記刈取装置へ正転方向で動力伝達する通常の伝動経路又は前記走行側HSTから前記逆転ギヤ列を介して前記刈取装置へ逆転方向で動力伝達する逆転伝動経路とを切り替える切替部材とを備えている。
即ち、前記従来のコンバインは、前記走行側HSTから前記刈取装置への伝動機構とは別に前記逆転ギヤ列及び前記切替部材を備える必要があり、従って、伝動機構の大型化及び複雑化によってコスト高を招くという問題もあった。
【特許文献1】特開2006−296441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記従来技術に鑑みなされたものであり、刈取装置の逆転操作時に刈取装置の逆転速度が過剰になることを防止することができるコンバインの提供を一の目的とする。
また、本発明は、より簡単な構成で刈取装置を逆転させることができるコンバインの提供を他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るコンバインは、駆動源から作動的に動力を入力し、主変速操作部材への人為操作に応じて走行装置へ向けて前進方向及び後進方向の無段回転動力を出力する走行側変速手段と、機体前方に配設され、少なくとも前記走行側変速手段の出力を入力する車速同調伝動経路を介して駆動可能な刈取装置と、前記刈取装置から刈取穀稈を引き継ぐフィードチェーン装置と、前記フィードチェーン装置によって搬送される刈取穀稈に対して脱穀処理を行う脱穀装置と、前記刈取装置の回転駆動方向を刈取作業時の正転方向とは反対側の逆転方向へ切り替える刈取逆転機構と、前記刈取逆転機構を操作するための刈取逆転操作部材とを備えたコンバインであって、前記刈取逆転操作部材の逆転操作に連動して、前記主変速操作部材の最大操作可能位置を通常の最大操作可能位置よりも低速側に規制する走行側変速手段出力規制機構を備えたことを特徴とするものである。
【0006】
上記構成のコンバインによれば、刈取逆転操作部材を人為操作することにより、刈取装置の回転駆動方向が刈取作業時の正転方向とは反対側の逆転方向へ切り替えられる。
この際、走行側変速手段出力規制機構が刈取逆転操作部材の逆転操作に連動して主変速操作部材の最大操作可能位置が通常の最大操作可能位置よりも低速側に規制される。これにより、刈取逆転操作部材を逆転操作した上で、主変速操作部材を操作して走行側変速手段の出力を車速同調伝動経路を介して逆転駆動させた際に、走行装置への後進駆動時より最大出力が低く抑えられる。
【0007】
このように、主変速操作部材の操作量を規制することにより、刈取装置の逆転操作時に刈取装置の逆転速度が過剰になることを有効に防止することができる。
【0008】
好ましくは、前記車速同調伝動経路には、前記走行側変速手段の正転方向への出力を前記刈取装置へ伝達し且つ逆転方向への出力を遮断する一方向クラッチが介挿されており、前記刈取逆転機構は、前記刈取逆転操作部材の逆転操作に連動して前記一方向クラッチの作用を不能とするように構成されており、前記走行側変速手段出力規制機構は、後進方向の最大操作可能位置を通常の最大操作可能位置よりも低速側に規制するように構成されている。
【0009】
この場合、通常時において、車速同調伝動経路に介挿された一方向クラッチにより、走行側変速手段の正転方向への出力は車速同調伝動経路を介して刈取装置へ伝達される一方、走行側変速手段の逆転方向への出力は誤作動防止のため遮断される。ここで、刈取逆転操作部材が逆転操作されると、これに連動して、刈取逆転機構が前記一方向クラッチの作用を不能にさせることにより、走行側変速手段の逆転方向への出力が車速同調伝動経路を介して刈取装置へ伝達可能となる。この際、走行側変速手段出力規制機構は、後進方向の最大操作可能位置が通常の最大操作可能位置よりも低速側に規制される。
このように、通常時誤作動防止のための車速同調伝動経路への逆転方向出力を遮断する一方向クラッチの作用を刈取逆転操作部材の逆転操作時において不能とさせることで刈取装置を逆転させ得る構成としているため、刈取逆転機構として別途逆転ギヤ等を介挿することなく簡単に構成することができ、部品点数の増加及び伝動機構の大型化を可及的に防止することができる。
【0010】
好ましくは、前記刈取装置は、刈取前の穀稈を引き起こす引起し機構と、前記引起し機構の駆動速度を変速可能な引起し変速機構と、前記引起し機構により引き起こされた穀稈を刈り取る刈取機構と、前記刈取機構によって刈り取られた穀稈を前記フィードチェーン装置へ向けて搬送する刈取搬送機構とを有し、前記引起し変速機構は、中立位置及び変速位置をとり得るように構成された引起し変速操作部材への人為操作に応じて中立状態又は作動状態をとるように構成され、前記引起し変速操作部材は、前記刈取逆転操作部材としても兼用されるように、前記引起し変速機構を中立状態に保持したままで前記刈取逆転機構を作動させる刈取逆転位置をとり得る。
【0011】
この場合、引起し機構の駆動速度を変速させる引起し変速操作部材を中立位置へ人為操作することにより、引起し変速機構が中立状態となり、刈取前の穀稈を引き起こす引起し機構に車速同調伝動経路からの出力の伝達が遮断される。この状態において、引起し変速操作部材を刈取逆転位置に操作することにより、引起し変速機構を中立状態に保持したまま、刈取逆転機構が作動される。
このように、引起し変速操作部材を刈取逆転操作部材として兼用し、引起し変速機構中立状態に保持したまま刈取逆転機構を作動させ得る構成とすることにより、刈取装置の逆転作動時において、逆転作動の必要がなく、しかも逆転作動ができないタインを有する引起し機構を作動させずにすむため、別途一方向クラッチ等を用いることなく、搬送詰まりを解消させることができる。
【0012】
好ましくは、前記刈取搬送機構は、複数のタインを有するタイン式搬送機構とタインを有しないチェーン式搬送機構とを有し、前記タイン式搬送機構への駆動経路においてのみ、前記車速同調伝動経路からの正転方向への出力を前記刈取装置へ伝達し且つ逆転方向への出力を遮断する一方向クラッチが介挿されている。
【0013】
この場合、刈取逆転操作部材を操作することにより刈取装置が逆転作動する際に、刈取搬送機構のうち、タインを有しないチェーン式搬送機構のみが逆転作動し、複数のタインを有するタイン式搬送機構は、介挿された一方向クラッチにより逆転方向への出力が遮断され、逆転作動しない。
従って、構造上、逆転作動ができないタイン式搬送機構を逆転させることなく有効に搬送詰まりを解消させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るコンバインによれば、走行側変速手段出力規制機構が刈取逆転操作部材の逆転操作に連動して主変速操作部材の最大操作可能位置が通常の最大操作可能位置よりも低速側に規制されるため、刈取逆転操作部材を逆転操作した上で、主変速操作部材を操作して走行側変速手段の出力を車速同調伝動経路を介して逆転駆動させた際に、走行装置への後進駆動時より最大出力が低く抑えられる。
従って、主変速操作部材の操作量を規制することにより、刈取装置の逆転操作時に刈取装置の逆転速度が過剰になることを有効に防止することができる。
また、本発明に係るコンバインの好ましい態様によれば、通常時誤作動防止のための車速同調伝動経路への逆転方向出力を遮断する一方向クラッチの作用を刈取逆転操作部材の逆転操作時において不能とさせることで刈取装置を逆転させ得る構成とすることにより、刈取逆転機構として別途逆転ギヤ等を介挿することなく簡単に構成することができ、部品点数の増加及び伝動機構の大型化を可及的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、添付図面を参照しつつ説明する。
図1〜図3は、それぞれ、本発明の一実施形態に係るコンバイン1の側面図,正面図及び伝動模式図である。
【0016】
図1〜図3に示すように、前記コンバイン1は、本機フレーム2と、前記本機フレーム2に支持された駆動源であるエンジン9と、前記本機フレーム2に連結された左右一対の走行装置(本実施の形態においては、クローラ式走行装置)10と、前記エンジン9からの回転動力を変速して前記一対の走行装置10へ出力する走行系トランスミッション100と、前記本機フレーム2の前方において該本機フレーム2に昇降可能に支持された刈取フレーム11に設けられた刈取装置30と、前記刈取装置30によって刈り取られた穀稈を前記本機フレーム2の左側方において後方へ搬送するフィードチェーン装置20と、前記フィードチェーン装置20によって搬送される穀稈に対して脱穀処理を行うように、前記本機フレーム2の左部分に配設された脱穀装置40と、前記脱穀装置40の下方に配設された揺動選別装置50と、前記エンジン9から作動的に定速動力を入力し且つ前記走行系トランスミッション100の下記走行側変速手段(本実施形態では走行側HST)120から作動的に車速同調動力を入力して、前記刈取装置30、前記フィードチェーン装置20、前記脱穀装置40及び前記揺動選別装置50を含む作業機に向けて回転動力を出力する作業機系トランスミッション200と、前記本機フレーム2の右前方部分に配設された運転席5と、前記揺動選別装置50によって選別された穀粒を収容するグレンタンク6であって、前記運転席5の後方に配設されたグレンタンク6と、前記フィードチェーン装置20から脱穀済の排藁を受け継ぎ、該排藁を後方へ搬送する排藁搬送装置60とを備えている。
【0017】
まず、前記コンバイン1における伝動構造について説明する。
前記コンバイン1の伝動構造は、前記エンジン9から前記走行装置10へ至る走行系伝動経路に介挿された前記走行系トランスミッション100と、前記エンジン9から前記作業機へ至る作業機系伝動経路に介挿された前記作業機系トランスミッション200とを備えている。
【0018】
図4に、前記走行系トランスミッション100の伝動模式図を示す。
図3及び図4に示すように、前記走行系トランスミッション100は、前記エンジン9に作動連結された走行側HST120及び旋回側HST130と、前記両HST120,130の出力を合成して一対の走行系出力軸55a,bに伝達する走行系伝動機構140と、前記走行系伝動機構140を収容すると共に、前記走行側HST120及び前記旋回側HST130を支持するミッションケース110とを備えている。
【0019】
前記走行側HST120は、図3及び図4に示すように、前記エンジン9に作動連結された可変容積型の走行ポンプ120Pと、前記走行ポンプ120Pによって流体的に駆動される可変容積型の走行モータ120Mとを備えている。
【0020】
詳しくは、前記可変容積型の走行ポンプ120Pは、前記エンジン9に作動連結された走行側ポンプ軸121と、前記走行側ポンプ軸121に相対回転不能に支持された走行側油圧ポンプ本体122と、前記走行側油圧ポンプ本体122の容積量を変更させる走行ポンプ側容積調整手段123とを備えている。
本実施の形態においては、前記走行ポンプ側容積調整手段123は、走行ポンプ側可動斜板と、前記走行ポンプ側可動斜板を傾転させる走行ポンプ側制御軸とを有している。
【0021】
前記可変容積型の走行モータ120Mは、前記走行側油圧ポンプ本体122と流体接続された走行側油圧モータ本体127と、前記走行側油圧モータ本体127を相対回転不能に支持する走行側モータ軸126と、前記走行側油圧モータ本体127の容積量を変更させる走行モータ側容積調整手段128とを備えている。
本実施の形態においては、前記走行モータ側容積調整手段128は、走行モータ側可動斜板と、前記走行モータ側可動斜板を傾転させる走行モータ側制御軸とを有している。
【0022】
前記走行側HST120は、HSTレバー等の人為操作可能な主変速操作部材(後述)によって操作される。即ち、前記主変速操作部材を人為操作することにより、前記走行ポンプ側可動斜板が傾転して前記走行ポンプ120Pの容積量が変更されるようになっている。
【0023】
前記旋回側HST130は、図3及び図4に示すように、前記エンジン9に作動連結された旋回ポンプ130Pと、前記旋回ポンプ130Pによって流体的に駆動される旋回モータ130Mとを備えている。
【0024】
前記旋回ポンプ130P及び前記旋回モータ130Mは少なくとも一方が可変容積型とされている。
本実施の形態においては、図3に示すように、前記旋回ポンプ130Pが可変容積型とされ、且つ、前記旋回モータ130Mは固定容積型とされている。
【0025】
詳しくは、前記可変容積型の旋回ポンプ130Pは、前記エンジン9に作動連結された旋回側ポンプ軸131と、前記旋回側ポンプ軸131に相対回転不能に支持された旋回側油圧ポンプ本体132と、前記旋回側油圧ポンプ本体132の容積量を変更させる旋回ポンプ側容積調整手段133とを備えている。
本実施の形態においては、前記旋回ポンプ側容積調整手段133は、旋回ポンプ側可動斜板と、前記旋回ポンプ側可動斜板を傾転させる旋回ポンプ側制御軸とを有している。
【0026】
前記固定容積型の旋回モータ130Mは、前記旋回側油圧ポンプ本体132と流体接続された旋回側油圧モータ本体137と、前記旋回側油圧モータ本体137を相対回転不能に支持する旋回側モータ軸136と、前記旋回側油圧モータ本体の容積量を固定する固定斜板(図示せず)とを有している。
【0027】
前記旋回側HST130は、旋回操作装置によって操作される。
詳しくは、前記旋回操作装置は、ステアリングハンドル等の人為操作可能な旋回操作部材(図示せず)によって操作される。即ち、前記ステアリングハンドルを人為操作した際の前記ステアリングハンドルの切れ角に応じて、前記旋回ポンプ側可動斜板が傾転されるようになっている。
【0028】
前記走行系伝動機構140は、図4に示すように、一対の第1及び第2遊星ギヤ機構170a,bと、前記走行側モータ軸126の回転動力を前記第1及び第2遊星ギヤ機構170a,bに同一回転方向で伝達する走行側出力伝動機構180と、前記旋回側モータ軸136の回転動力を前記第1及び第2遊星ギヤ機構170a,bの一方に正転方向で伝達し且つ他方に逆転方向で伝達する旋回側出力伝動機構190とを備えている。
【0029】
前記第1及び第2遊星ギヤ機構170a,bは前記走行側出力伝動機構180及び前記旋回側出力伝動機構190からの回転動力を、それぞれ、第1及び第2走行系出力軸55a,bに伝達するように構成されている。
詳しくは、前記第1及び第2遊星ギヤ機構170a,bは、それぞれ、サンギヤ171と、前記サンギヤ171の回りを公転し得るように該サンギヤ171に噛合された遊星ギヤ172と、前記遊星ギヤ172を相対回転自在に支持すると共に、前記遊星ギヤ172と共に前記サンギヤ171の回りを公転するキャリア173と、前記遊星ギヤ172と噛合するインターナルギヤ174とを備えている。
本実施の形態においては、前記インターナルギヤ174に前記走行側出力伝動機構180が作動連結され且つ前記サンギヤ171に前記旋回側出力伝動機構190が作動連結されており、前記キャリア173に対応する前記走行系出力軸55a,bが作動連結されている。
【0030】
前記走行側出力伝動機構180は、前記走行側モータ軸126に作動連結された走行側出力軸181と、前記走行側出力軸181に作動連結された分岐軸185と、前記分岐軸185の回転動力を前記第1遊星ギヤ機構170aの前記インターナルギヤ174に伝達する第1走行側出力ギヤ列186aと、前記分岐軸185の回転動力を前記第2遊星ギヤ機構170bの前記インターナルギヤ174に伝達する第2走行側出力ギヤ列186bとを有している。
前記第1及び第2走行側出力ギヤ列186a,bは、伝動方向及び伝動比が互いに同一とされている。
【0031】
なお、本実施の形態においては、前記走行側出力伝動機構180は、前記構成に加えて、前記走行側モータ軸126に作動的に制動力を付加し得る駐車用ブレーキ装置182を備えている。
本実施の形態においては、前記駐車用ブレーキ装置182は、動力伝達方向に関し前記走行側出力軸181及び前記分岐軸185の間に配設されている。
具体的には、前記駐車用ブレーキ装置182は、前記走行側出力軸181から回転動力を受け且つ前記分岐軸185へ出力するブレーキ軸183と、前記ブレーキ軸183に対して選択的に制動力を付加し得るブレーキユニット184とを備えている。
【0032】
さらに、本実施の形態においては、前記走行側出力伝動機構180は、前記走行側モータ軸124の回転動力を多段変速させる副変速機構187を備えている。
本実施の形態においては、前記副変速機構187は、前記走行側出力軸181及び前記走行側ブレーキ軸183の間で多段変速可能に構成されている。
【0033】
前記旋回側出力伝動機構190は、前記旋回側モータ軸136に作動連結された旋回側出力軸191と、前記旋回側出力軸191に作動連結された共通軸192と、前記共通軸192の回転動力を前記第1遊星ギヤ機構170aの前記サンギヤ171に伝達する第1旋回側出力ギヤ列193aと、前記共通軸192の回転動力を前記第2遊星ギヤ機構170bの前記サンギヤ171に伝達する第2旋回側出力ギヤ列193bとを有している。
前記第1及び第2旋回側出力ギヤ列193a,bは、伝動比は同一であるが、伝動方向は互いに対して反対となるように構成されている。
【0034】
なお、図4中の符号194は、前記旋回側モータ軸134に作動的に制動力を付加し得る旋回側ブレーキ装置であり、符号195は、前記旋回側出力軸134から前記共通軸192への動力伝達を係合又は遮断させるクラッチ装置である。
又、図4中の符号129は、前記入力軸140からの動力によって回転駆動される冷却ファンであり、符号501は各変速機構等を油圧作動させるための圧油を供給するチャージポンプである。
【0035】
前記作業機系トランスミッション200は、前記エンジン9からの定速回転動力及び前記走行系HST120からの車速同調回転動力を入力し、前記脱穀装置40及び前記揺動選別装置50に対しては定速回転動力を出力し、且つ、前記刈取装置30及び前記フィードチェーン装置20に対しては定速回転動力又は車速同調回転動力を選択的に出力し得るように構成されている。
【0036】
図5に、前記作業機系トランスミッション200の伝動模式図を示す。
詳しくは、図3及び図5に示すように、前記作業機系トランスミッション200は、カウンターケース210と、脱穀クラッチ機構45を介して前記エンジン9に作動連結される定速入力軸220と、前記定速入力軸220に作動連結され、前記脱穀装置40の扱胴駆動軸41へ向けて回転動力を出力する脱穀出力軸221と、前記定速入力軸220に作動連結された定速伝動軸223と、前記走行側モータ軸126に作動連結される車速同調入力軸224と、変速伝動軸225と、前記車速同調入力軸224及び前記変速伝動軸225の間で変速を行う車速同調側変速機構240と、前記定速伝動軸223及び前記変速伝動軸225の間で変速を行う定速側変速機構250と、前記変速伝動軸225に作動連結され、前記刈取装置30へ向けて出力する刈取出力軸226と、前記定速伝動軸223の回転動力及び前記変速伝動軸225の回転動力を合成するFC変速機構280と、前記FC変速機構280の出力部に作動連結され、前記フィードチェーン部20へ向けて回転動力を出力するフィードチェーン出力軸227とを備えている。車速同調入力軸224、変速伝動軸225及び刈取出力軸226は、走行側HST120の出力を刈取装置30へ入力する車速同調伝動経路に含まれる。
【0037】
本実施の形態においては、前記定速入力軸220及び前記脱穀出力軸221は、図5に示すように、単一軸によって一体形成されている。
即ち、前記単一軸は、一端部が前記カウンターケース210から後方へ突出し且つ他端部が前記カウンターケース210から前方へ突出するように、車輌前後方向に沿って前記カウンターケース210に支持されており、前記一端部が前記エンジン9に作動連結される入力端部を形成し且つ前記他端部が前記脱穀装置40へ向けて回転動力を出力する出力端部を形成している。
【0038】
前記定速入力軸220(前記単一軸の前記一端部)には定速入力プーリ201が装着されており、該定速入力プーリ201に巻き回された定速入力ベルト202を介して前記エンジン9から前記定速入力軸220へ定速回転動力が入力されるようになっている。
前記脱穀用出力軸221(前記単一軸の前記他端部)には脱穀出力プーリ203が装着されており、該脱穀出力プーリ203に巻き回された脱穀出力ベルト204を介して前記脱穀部40へ前記エンジン9からの定速回転動力を伝達するようになっている。
【0039】
本実施の形態においては、前記脱穀クラッチ機構45は、前記定速入力ベルト202に対してテンションを付加/解除させることで、前記エンジン9から前記定速入力軸220への動力伝達を係合又は遮断させ得るように構成されている。
【0040】
前記定速伝動軸223は、図5に示すように、一端部が前記定速入力軸220に作動連結し且つ他端部が前記カウンターケース210から外方へ突出するように、車輌幅方向に沿って前記カウンターケース210に支持されている。
前記定速伝動軸220の前記他端部は、前記揺動選別装置50へ向けて定速回転動力を出力する揺動選別用出力軸228を形成している。
前記揺動選別用出力軸228(前記定速伝動軸223の前記他端部)には揺動出力プーリ205が装着されている。
【0041】
前記車速同調入力軸224は、一端部が前記カウンターケース210から外方へ突出した状態で、車輌幅方向に沿うように前記カウンターケース210に支持されている。
前記車速同調入力軸224の前記一端部には、車速同調入力プーリ206が装着されている。
前記変速伝動軸225は、前記定速伝動軸223及び前記車速同調入力軸224と略平行となるように前記カウンターケース210に支持されている。
【0042】
さらに、前記作業機系トランスミッション200には、図3及び図5に示すように、前記車速同調入力軸224及び前記車速同調変速機構240の間に介挿された一方向クラッチ350が備えられている。
【0043】
前記車速同調側変速機構240は、前記車速同調入力軸224から前記変速伝動軸225への伝動状態を選択的に高速伝動状態、低速伝動状態又は動力遮断状態に切り替えるように構成されている。
【0044】
詳しくは、前記車速同調側変速機構240は、図5に示すように、前記車速同調入力軸224に作動連結された高速ギヤ列241及び低速ギヤ列242と、前記高速ギヤ列241又は前記定速ギヤ列242の何れか一方を前記変速伝動軸225に作動連結させ得る車速同調用シフター243とを備えている。
【0045】
前記車速同調用シフター243は、前記高速ギヤ列241を前記変速伝動軸225に作動連結させる高速位置と、前記低速ギヤ列242を前記変速伝動軸225に作動連結させる低速位置と、前記高速ギヤ列241及び前記低速ギヤ列242の双方を前記変速伝動軸225に対して作動連結させない中立位置とをとり得るようになっている。
【0046】
前記運転席5近傍には、刈取スイッチ及び刈取変速レバー(ともに図示せず)が備えられている。
そして、前記刈取スイッチのOFF操作に基づき、前記車速同調用シフター243が中立位置に位置し、前記刈取スイッチのON操作に基づき、前記車速同調用シフター243が前記刈取変速レバーの操作位置に対応した高速位置又は低速位置に位置するように、制御装置(図示せず)により位置制御される。
【0047】
前記定速側変速機構250は、前記定速伝動軸223から前記変速伝動軸225への伝動状態を選択的に流し込み伝動状態、高速カット伝動状態又は動力遮断状態に切り替えるように構成されている。
【0048】
詳しくは、前記定速側変速機構250は、図5に示すように、前記定速伝動軸223に作動連結された流し込み用ギヤ列251及び高速カット用ギヤ列252と、前記流し込み用ギヤ列251又は前記高速カット用ギヤ列252の何れか一方を前記変速伝動軸225に作動連結させ得る定速用シフター253とを備えている。
【0049】
前記定速用シフター253は、前記流し込み用ギヤ列251を前記変速伝動軸225に作動連結させる流し込み位置と、前記高速カット用ギヤ列252を前記変速伝動軸225に作動連結させる高速カット位置と、前記流し込み用ギヤ列251及び前記高速カット用ギヤ列252の双方を前記変速伝動軸225に作動連結させない中立位置とをとり得るようになっている。
【0050】
前記定速側変速機構250は、運転席5近傍に備えられる操作部材(図示せず)の操作に基づき、前記定速用シフター253が流し込み位置、高速カット位置又は中立位置のうち前記操作部材の操作に対応した位置に位置するように制御される。
【0051】
前記FC変速機構280は、図5に示すように、遊星ギヤ機構を有している。
詳しくは、前記FC変速機構280は、サンギヤ281と、前記サンギヤ281の回りを公転し得るように該サンギヤ281に噛合された遊星ギヤ282と、前記遊星ギヤ282を相対回転自在に支持すると共に、前記遊星ギヤ282と共に前記サンギヤ281の回りを公転するキャリア283と、前記遊星ギヤ282と噛合するインターナルギヤ284とを備えており、前記サンギヤ281に前記定速伝動軸223の回転動力が入力され且つ前記インターナルギヤ284に前記変速伝動軸225の回転動力が入力され、前記キャリア283が前記フィードチェーン出力軸227に作動連結されている。
なお、本実施の形態においては、前記キャリア283及び前記フィードチェーン出力軸227の間には、FCクラッチ機構285が介挿されている。
【0052】
前記刈取出力軸226は、一端部が外方へ延在された状態で前記カウンターケース210に支持されている。
前記刈取出力軸226の前記一端部には、刈取出力プーリ207が装着されている。
なお、本実施の形態においては、前記刈取出力軸226は、トルクリミッター229を介して前記変速伝動軸225に作動連結されている。
【0053】
刈取出力プーリ207は、中間伝達機構150を介して、刈取入力軸151に連結連動されており、該刈取入力軸151から前記刈取装置30に動力が入力される。
【0054】
ここで、前記刈取フレーム11に支持された刈取装置30について説明する。図2及び図3に示すように、前記刈取フレーム11には、左右幅方向に一定の条間隔を開けて穀稈を分草する分草板31と、各分草板31により分草された穀稈を引き起こす引起し機構32と、前記引起し機構32により引き起こされた穀稈の株元を掻込む掻込み機構33と、掻込み機構33により掻込まれた穀稈の株元を刈り取る刈取機構34と、前記刈取機構34により刈り取られた刈取穀稈を前記フィードチェーン装置20へ向けて搬送する刈取搬送機構とが設けられている。前記刈取搬送機構は、刈取穀稈の下部を脱穀装置40側へ搬送する下部搬送機構35と、刈取穀稈の上部を脱穀装置40側へ搬送する上部搬送機構36と、刈取穀稈の穂先部を搬送する穂先搬送機構37と、下部搬送機構35から縦搬送機構38を介してフィードチェーン装置20へ刈取穀稈を受渡すための補助をする補助搬送機構39とを有している。前記刈取搬送機構は、複数のタインを有するタイン式搬送機構とタインを有しないチェーン式搬送機構とに区別でき、このうち、タイン式搬送機構は、上部搬送機構36であり、チェーン式搬送機構は、下部搬送機構35、穂先搬送機構37、縦搬送機構38及び補助搬送機構39である。
また、前記引起し機構32もタイン式搬送機構と同様の構成を有している。なお、前記引起し機構32には、左右に隣接する分草板31間の直後方位置に上下方向に伸延する引起しケース300が立設されている。
【0055】
前記上部搬送機構36は、左側部の穀稈の上部を掻上げて内側後方の合流部へ搬送する左側上部搬送機構36Lと、中央部の穀稈の上部を掻上げて内側後方の合流部へ搬送する左側上部搬送機構36Mと、右側部の穀稈の上部を掻上げて内側後方の合流部へ搬送する右側上部搬送機構36Rとを具備している。
【0056】
前記下部搬送機構35は、左側部の穀稈の下部を挟扼して内側後方の合流部へ搬送する左側下部搬送機構35Lと、中央部の穀稈の下部を挟扼して内側後方の合流部へ搬送する中央下部搬送機構35Mと、右側部の穀稈の下部を挟扼して内側後方の合流部へ搬送する右側下部搬送機構35Rとを具備している。縦搬送機構38は、下部搬送搬送機構24により搬送されて合流部で合流した穀稈の下部を挟扼してフィードチェーン装置20へ搬送する。また、左側上部搬送機構36Lは、左側下部搬送機構35Lと、中央上部搬送機構36Mは、中央下部搬送機構35Mと、右側上部搬送機構36Rは、右側下部搬送機構35R及び縦搬送機構38と、それぞれ上下に対向配置されており、穀稈の上下部を確実に保持して搬送するようにしている。
【0057】
エンジン9から刈取入力軸151に伝達された動力は、刈取2軸152、刈取3軸153、引起し1軸154を介して、引起し1軸155に伝達される。そして、該引起し1軸154には、穀稈の倒伏度合等に応じて前記引起し機構32の引起しベルトの駆動速度を変速可能な引起し変速機構160が接続されており、該引起し変速機構160により変速された動力を引起し1軸155に伝達している。前記引起し1軸155の前端には、入力側ベベルギヤ156が固定されており、該入力側ベベルギヤ156は出力側ベベルギヤ157に係合している。出力側ベベルギヤ157は、引起し3軸158に一体的に回動可能に固設されている。そして、該引起し3軸158から、前記引起し機構32及び穂先搬送機構37へ動力を伝達する構成としている。
【0058】
本実施形態のコンバイン1には、前記刈取装置30の回転駆動方向を刈取作業時の正転方向とは反対側の逆転方向へ切り替える刈取逆転機構360(図7参照)と、前記刈取逆転機構を操作するための刈取逆転操作部材とが設けられている。そして本実施形態の前記刈取逆転機構360は、前記刈取逆転操作部材の逆転操作に連動して前記車速同調伝動経路である車速同調入力軸224に介挿された前記一方向クラッチ350の作用を不能とするように構成されている。
【0059】
ここで、前記引起し変速機構160は、中立位置及び変速位置をとり得るように構成された引起し変速操作部材への人為操作に応じて中立状態又は作動状態をとるように構成されている。
そして、前記引起し変速操作部材は、前記刈取逆転操作部材としても兼用されるように、前記引起し変速機構を中立状態に保持したままで前記刈取逆転機構360を作動させる刈取逆転位置をとり得るように構成されている。
【0060】
図6に、引起し変速操作部材を含む引起し変速操作装置340の概略図を示す。
前記引起し変速操作装置340は、図6に示すように、前記引起し変速操作部材である引起し変速レバー341と、前記引起し変速レバー341を中立位置N及び変速位置L,M,H間を揺動可能とする第1ガイド溝342a及び前記中立位置Nから側方に位置する刈取逆転位置Xへと揺動可能とする第2ガイド溝342bを有するガイドプレート342と、前記引起し変速レバー341が連結部材343を介して支持されるレバー基部344と、前記レバー基部343に対して前記引起し変速レバー341を前記第1ガイド溝342aに沿って揺動可能とするように前記レバー基部344の先端部と連結部材344の基端部とが枢支される第1揺動軸345と、前記レバー基部343に対して前記引起し変速レバー341を前記第2ガイド溝342bに沿って揺動可能とするように連結部材344の先端部と前記引起し変速レバー341の基端部とが枢支される第2揺動軸346と、前記引起し変速レバー341の前記第2揺動軸346の軸線回りの揺動に連動して前記軸線回りに揺動可能な揺動片347と、一端部が前記揺動片347の先端部に取り付けられ、他端部が前記刈取逆転機構360に作動連結される操作側連結部材348とを有している。
【0061】
図7に、図5に示す作業機系トランスミッションにおける一方向クラッチ350近傍の断面図を示す。
前記一方向クラッチ350は、図7に示すように、車速同調入力軸224と同軸上にあり、前記車速同調入力軸224の軸線方向移動不能且つ軸線回り相対回転可能な回転部材351と、前記車速同調入力軸224の軸線方向回転部材側に爪部352aを有し、前記車速同調入力軸224に軸線回り回転不能且つ軸線方向移動可能な可動部材352と、前記可動部材352を当該可動部材352の前記回転部材351とは反対側から前記車速同調入力軸224の軸線方向回転部材側に付勢する付勢部材353とを有している。
前記回転部材351には、前記爪部352aに噛合する凹部351aが設けられ、前記爪部352a及び前記凹部351aは、前記車速同調入力軸224の軸線回り一方側(正転側)の回転時には、互いに噛合することで前記回転部材351が前記車速同調入力軸224と供回りし、前記軸線回り他方側(逆転側)の回転時には、前記可動部材352が前記付勢部材353の付勢力に抗して前記車速同調入力軸224の軸線方向付勢部材側(軸線に沿って回転部材351から離間する方向)に移動させる形状(片側テーパ形状)とされている。
【0062】
そして、前記刈取逆転機構360は、前記車速同調入力軸224に略直交した状態で、前記可動部材352の爪部352aが前記回転部材351の凹部351aと噛合された状態の前記可動部材352における前記車速同調入力軸224の軸線方向付勢部材側端面上となる規制位置及び前記規制位置に対して前記車速同調入力軸224の径方向に離間した解除位置のいずれかに切り替え可能に位置し得る規制部材(規制ピン)361と、前記規制部材361を前記車速同調入力軸224に略直交する軸線回りに揺動させる揺動部材362と、一端部が前記揺動部材352に連結され、他端部が前記刈取逆転操作部材である引起し変速レバー341の刈取逆転位置Xへの揺動に連動するように連結されるように、前記操作側連結部材348に連結された作動側連結部材363とを有している。
【0063】
上記のような構成において、通常作業時(刈取装置30の正転時)には、引起し変速操作部材である引起し変速レバー341は、中立位置N又は変速位置L,M,Hのいずれかに位置し、引起し変速機構160が中立状態(非刈取時)又は作動状態(刈取時)となっている。このとき、刈取逆転機構360の規制部材361は、解除位置にあり、車速同調入力軸224に介挿されている一方向クラッチ350の作用を可能としている。即ち、前記規制部材361が解除位置にあることにより、走行側HST120の正転方向への出力が車速同調伝動経路を介して刈取装置30へ伝達される一方、走行側HST120の逆転方向への出力が誤作動防止のため遮断されるように車速同調入力軸224に介挿された一方向クラッチ350が作用する。具体的には、車速同調入力軸224に逆転方向の出力が入力されると、可動部材352の車速同調入力軸224の軸線回りの回転により、回転部材351の凹部351aと可動部材352の爪部352aのテーパ面とが押し付けられるため、可動部材352が回転部材351に対して車速同調入力軸224の軸線方向に互いに離間する方向に力が発生し、付勢部材353の付勢力に抗して可動部材352が前記軸線方向付勢部材側へ押し上げられる。可動部材352の前記軸線回りの回転により、押し上げられた可動部材352は、再び、回転部材351の凹部351aに入り込むが、この際も前記爪部352aのテーパ面と前記凹部とが当接して可動部材352は再び押し上げられ、これが繰り返される。従って、可動部材352が逆転方向にいくら回転しても回転部材351は回転しないため、車速同調入力軸224の逆転方向への回転は、刈取装置30へは伝達されない。
【0064】
ここで、刈取装置30で穀稈詰まりが生じた場合、前記主変速操作部材及び副変速操作部材をともに中立位置に操作することにより、走行側HST120及び副変速機構187を中立状態にして、走行装置10に駆動力が伝達されないようにした状態で、前記引起し変速レバー341を中立位置Nに位置させ、引き続き、中立位置Nから第1ガイド溝342aに直交する第2ガイド溝342bにある刈取位置Xへ操作する。これにより、引起し変速機構160は中立状態で保持され、且つ、引起し変速レバー341が第2揺動軸346の軸線回りに揺動するのに連動して揺動片347が第2揺動軸346の軸線回りに揺動することにより、操作側連結部材348に連結された作動側連結部材363を介して刈取逆転機構360の揺動部材362が揺動し、規制部材361が前記一方向クラッチ350の可動部材352の爪部352aが前記回転部材351の凹部351aと噛合された状態の前記可動部材352における前記車速同調入力軸224の軸線方向付勢部材側端面上となる規制位置に位置される。
【0065】
これにより、刈取逆転機構360の規制部材361が一方向クラッチ350の可動部材352における車速同調入力軸224の軸線方向付勢部材側への移動を規制する。即ち、可動部材352の爪部352aが回転部材351の凹部351aに当接することにより可動部材352が回転部材351に対して付勢部材352側に押し上げられようとする際、可動部材352が規制位置にある規制部材361に当接されるため、可動部材352の前記軸線回りの回転力が軸線方向へ逃げられない結果、回転部材351を前記軸線回りに回転させる力に変換される。これによって、回転部材351は、逆転方向への回転を車速同調伝動経路下流側にある刈取装置30へ向けて伝達する。
【0066】
このように、刈取逆転操作部材として兼用される引起し変速レバー341を用いて逆転操作されると、これに連動して、刈取逆転機構360が前記一方向クラッチ350の作用を不能にさせることにより、走行側HST120の逆転方向への出力が車速同調伝動経路を介して刈取装置30へ伝達可能となる。
従って、通常時誤作動防止のための車速同調伝動経路への逆転方向出力を遮断する一方向クラッチ350の作用を刈取逆転操作部材の逆転操作時において不能とさせることで刈取装置30を逆転させ得る構成としているため、刈取逆転機構360として別途逆転ギヤ等を介挿することなく簡単に構成することができ、部品点数の増加及び伝導機構の大型化を可及的に防止することができる。
また、刈取逆転機構360の作動時に、引起し変速機構160を中立状態に保持することにより、逆転作動の必要性がなく(詰まりが生じる箇所ではなく)、しかも逆転作動ができないタインを有する引起し機構32を逆転作動させずにすむため、引起し機構32に対して別途一方向クラッチ等を用いることなく、搬送詰まりを解消させることができる。
【0067】
なお、前記刈取逆転機構360は、前記副変速機構187が中立状態の場合に作動可能となるように構成されることとしてもよい。例えば、副変速機構187の中立状態を検出可能として、副変速機構187が中立状態にない場合には、引起し変速レバー341の側方への揺動を不能とする規制部材を設けることとしてもよい。
【0068】
本実施形態において、車速同調伝動経路を介して刈取装置30に伝えられた逆転方向への回転は、前記刈取搬送機構のうち、前記下部搬送機構35、前記上部搬送機構36及び前記補助搬送機構39に伝達される。
【0069】
ここで、前記刈取搬送機構のうち、複数のタインを有する前記タイン式搬送機構である上部搬送機構36への駆動経路においてのみ、前記車速同調伝動経路からの正転方向への出力を前記刈取装置30へ伝達し且つ逆転方向への出力を遮断する一方向クラッチが介挿されている。本実施形態においては、前記上部搬送機構36の上流側に一方向クラッチ370が介挿されている。
図8に、図3に示す上部搬送機構36の概略図を示す。
ここでは、図8に示すように、前記上部搬送機構36L,36M,36Rは、駆動スプロケット371、従動スプロケット372、チェーン373及び複数のタイン374を有する。前記タイン374が設けられるチェーン373を駆動するための駆動スプロケット371には、駆動軸375との間に一方向クラッチ370が介挿されている。
このように、上部搬送機構36L,36M.36Rの駆動スプロケット372に逆転方向の駆動を遮断する一方向クラッチ370を介挿することにより、刈取搬送機構に逆転の動力が伝達された時、タイン374を有する上部搬送機構36L,36M,36Rは逆転作動せず、下部搬送機構35、縦搬送機構38及び補助搬送機構39等のタインを有しないチェーン式搬送機構のみが逆転作動する。
従って、構造上、逆転作動ができないタイン式搬送機構を逆転させることなく有効に搬送詰まりを解消させることができる。
【0070】
本実施形態のコンバイン1は、前記刈取逆転操作部材を兼ねる引起し変速レバー341の逆転操作に連動して、前記主変速操作部材の最大操作可能位置を通常の最大操作可能位置よりも低速側に規制する走行側変速手段出力規制機構(本実施形態では走行側HST出力規制機構)を備えている。より詳しくは、前記走行側HST出力規制機構は、後進方向の最大操作可能位置を通常の最大操作可能位置よりも低速側に規制するように構成されている。
図9に、主変速操作部材を含む主変速操作装置の概略図を示す。
【0071】
主変速操作装置は、図9に示すように、揺動軸311に軸線回り揺動可能に軸支された前記主変速操作部材であるHSTレバー310と、前記HSTレバー310を中立位置Nから前進方向に揺動させて最大正転位置Fに位置可能な前進方向ガイド溝312a及び前記中立位置Nから後進方向に揺動させて最大逆転位置Rに位置可能な後進方向ガイド溝312bを有するガイドプレート312とを有する。
【0072】
そして、前記走行側HST出力規制機構313は、HSTレバー310の後進側への揺動を規制する規制部材(規制板)314であって、前記HSTレバー310の後進側ガイド溝312bが設けられたガイドプレート312に略沿って揺動可能とすべく前記ガイドプレート312に略直交する揺動軸315に軸支された規制部材314と、前記規制部材314が前記後進側ガイド溝312bの外側に位置するように付勢する付勢部材316と、一端部が前記付勢部材316の付勢力に抗して前記規制部材314を前記後進側ガイド溝312bの後進側の所定領域を覆う位置に揺動させ得るように連結され、他端部が前記刈取逆転操作部材である引起し変速レバー341の刈取逆転位置Xへの揺動に連動するように連結されるように、前記操作側連結部材348に連結された規制側連結部材317とを有する。
【0073】
前述の通り、刈取逆転操作部材である引起し変速レバー341を刈取逆転位置Xに操作することにより、刈取逆転機構360が作動して、刈取装置30への逆転方向の駆動力が伝達可能となる。この状態で前記HSTレバー310を後進側に操作すると、走行側HST120から逆転方向の駆動力が出力され、車速同調伝動経路を介して刈取装置30へ逆転方向の駆動力が伝達される。
本実施形態における走行側HST120の出力は、前進方向及び後進方向の何れへも無段の回転動力として出力される。即ち、HSTレバー310を前進方向へ操作する場合は、正転方向の駆動力が最大となる最大正転位置Fに向けて操作(揺動角を大きく)すればするほど正転方向の出力が無段階に増大する一方、HSTレバー310を後進方向へ操作する場合は、逆転方向の駆動力が最大となる最大逆転位置Rに向けて操作すればするほど逆転方向の出力が無段階に増大する。
【0074】
ここで、本実施形態においては、前記引起し変速レバー341を刈取逆転位置Xに操作すると、走行側HST出力規制機構313が前記引起し変速レバー341の逆転操作に連動してHSTレバー310の後進方向の最大操作可能位置が通常の最大操作可能位置である最大逆転位置Rよりも低速側の規制時最大位置Yに規制される。
【0075】
より具体的には、引起し変速レバー341が前記第2揺動軸346の軸線回りに揺動するのに連動して前記揺動片347が第2揺動軸346の軸線回りに揺動することにより、前記操作側連結部材348に連結された規制側連結部材317を介して走行側HST出力規制機構313の規制部材314が付勢部材316の付勢力に抗して揺動軸315回りに揺動し、主変速操作装置の後進側ガイド溝312bの後進側の所定領域を覆う位置に位置される。
【0076】
これにより、刈取逆転操作部材である引起し変速レバー341を逆転操作した上で、HSTレバー310を操作して走行側HST120の出力を車速同調伝動経路を介して逆転駆動させた際に、HSTレバー310の後進側への揺動が中立位置Nと規制時最大位置Yとの間に規制されるため、走行側HST120における走行装置10への後進駆動時より最大出力が低く抑えられる。
なお、前記走行側HST出力規制機構313による規制時における最大出力速度は、0.2m/s以下が好ましい。
【0077】
このように、主変速操作部材であるHSTレバー120の操作量を規制することにより、刈取装置の逆転操作時に刈取装置30の逆転速度が過剰になることを有効に防止することができる。
【0078】
以上、本発明に係る実施の形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
例えば、本実施形態においては、刈取逆転操作部材を引起し変速操作部材である引起し変速レバー341と兼用することとしたが、これに限られず、例えば、前記副変速機構187を人為操作するための副変速操作部材と兼用することとしてもよい。
また、刈取逆転機構として前記特許文献1に記載の態様を採用したコンバインに走行側HST出力規制機構を設けることとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態に係るコンバインの側面図である。
【図2】図2は、図1に示すコンバインの正面図である。
【図3】図3は、図1及び図2に示すコンバインの伝動模式図である。
【図4】図4は、図1〜図3に示すコンバインにおける走行系トランスミッションの伝動模式図である。
【図5】図5は、図1〜図3に示すコンバインにおける作業機系トランスミッションの伝動模式図である。
【図6】図6は、引起し変速操作部材を含む引起し変速操作装置の概略図である。
【図7】図7は、図5に示す作業機系トランスミッションにおける一方向クラッチ近傍の断面図である。
【図8】図8は、図3に示す上部搬送機構の概略図である。
【図9】図9は、主変速操作部材を含む主変速操作装置の概略図である。
【符号の説明】
【0080】
1 コンバイン
9 エンジン(駆動源)
10 走行装置
20 フィードチェーン装置
30 刈取装置
40 脱穀装置
120 走行側HST(走行側変速手段)
310 HSTレバー(主変速操作部材)
224,225,226 車速同調伝動経路
360 刈取逆転機構
341 引起し変速操作部材(刈取逆転操作部材)
313 走行側HST出力規制機構(走行側変速手段出力規制機構)
350 一方向クラッチ(車速同調伝動経路に介挿される)
32 引起し機構
160 引起し変速機構
34 刈取機構
35,37,38,39 チェーン式搬送機構(刈取搬送機構)
36 タイン式搬送機構(刈取搬送機構)
370 一方向クラッチ(タイン式搬送機構への駆動経路に介挿される)
X 刈取逆転位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源から作動的に動力を入力し、主変速操作部材への人為操作に応じて走行装置へ向けて前進方向及び後進方向の無段回転動力を出力する走行側変速手段と、機体前方に配設され、少なくとも前記走行側変速手段の出力を入力する車速同調伝動経路を介して駆動可能な刈取装置と、前記刈取装置から刈取穀稈を引き継ぐフィードチェーン装置と、前記フィードチェーン装置によって搬送される刈取穀稈に対して脱穀処理を行う脱穀装置と、前記刈取装置の回転駆動方向を刈取作業時の正転方向とは反対側の逆転方向へ切り替える刈取逆転機構と、前記刈取逆転機構を操作するための刈取逆転操作部材とを備えたコンバインであって、
前記刈取逆転操作部材の逆転操作に連動して、前記主変速操作部材の最大操作可能位置を通常の最大操作可能位置よりも低速側に規制する走行側変速手段出力規制機構を備えたことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記車速同調伝動経路には、前記走行側変速手段の正転方向への出力を前記刈取装置へ伝達し且つ逆転方向への出力を遮断する一方向クラッチが介挿されており、
前記刈取逆転機構は、前記刈取逆転操作部材の逆転操作に連動して前記一方向クラッチの作用を不能とするように構成されており、
前記走行側変速手段出力規制機構は、後進方向の最大操作可能位置を通常の最大操作可能位置よりも低速側に規制するように構成されていることを特徴とする請求項1記載のコンバイン。
【請求項3】
前記刈取装置は、刈取前の穀稈を引き起こす引起し機構と、前記引起し機構の駆動速度を変速可能な引起し変速機構と、前記引起し機構により引き起こされた穀稈を刈り取る刈取機構と、前記刈取機構によって刈り取られた穀稈を前記フィードチェーン装置へ向けて搬送する刈取搬送機構とを有し、
前記引起し変速機構は、中立位置及び変速位置をとり得るように構成された引起し変速操作部材への人為操作に応じて中立状態又は作動状態をとるように構成され、
前記引起し変速操作部材は、前記刈取逆転操作部材としても兼用されるように、前記引起し変速機構を中立状態に保持したままで前記刈取逆転機構を作動させる刈取逆転位置をとり得ることを特徴とする請求項1又は2記載のコンバイン。
【請求項4】
前記刈取搬送機構は、複数のタインを有するタイン式搬送機構とタインを有しないチェーン式搬送機構とを有し、前記タイン式搬送機構への駆動経路においてのみ、前記車速同調伝動経路からの正転方向への出力を前記刈取装置へ伝達し且つ逆転方向への出力を遮断する一方向クラッチが介挿されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−22249(P2009−22249A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191131(P2007−191131)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】