説明

コンバイン

【課題】手扱作業部近傍で機体を左下がり傾斜させることで、手扱作業の能率を向上する。
【解決手段】機体に対して左右のクローラ走行装置(5,5)を独立して昇降するクローラ昇降装置(31,32)と、機体の左右傾斜角度を検出する傾斜角度検出手段(44)の検出または運転操作部(4)に設けた手動傾斜操作手段(48)の検出に基づき、クローラ昇降装置(31,32)を昇降制御して機体の左右傾斜または車高を制御する傾斜制御手段(41)を備え、脱穀部(3)に手扱作業部(11)を備えたコンバインにおいて、前記手扱作業部(11)の近傍に左傾斜操作手段(15)を設け、左傾斜操作手段(15)を操作すると機体が左下がり傾斜姿勢となるように、左傾斜操作手段(15)と前記傾斜制御手段(41)とを連係させると共に、機体が左下がり傾斜姿勢となる時に前処理部(2)の下部が地面に突っ込むのを防止する突っ込み防止手段を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱穀部の穀稈投入部に手扱作業部を備えたコンバインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、オペレータが運転席からコンバインを運転操作して圃場の穀稈を刈取ることにより、刈取られた穀稈は自動的に脱穀部まで搬送され、脱粒および選別した穀粒をグレンタンクに貯留し、脱粒後の穀稈は脱穀部後方の排ワラ処理部にて処理されてコンバインの後方に排出される。
しかしながら、圃場の各所に刈り残した穀稈や圃場の四隅の穀稈は、手作業でコンバインの手扱作業部から脱穀部に投入する必要があり、従来のコンバインでは、手扱作業部の近傍に設けた左傾斜スイッチにより、コンバインを左下がり傾斜させた状態で手扱作業をするものがあった(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−236604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1のものは、特に大型のコンバインで手扱作業部が高位置にあっても、運転操作部に戻ることなく手扱作業部に備えた左傾斜スイッチの操作により機体を左下がり傾斜させて手扱作業部を低位置にできるので、小柄な作業者でも容易に手扱作業を行うことができる。しかしながら、前処理部が地面に接地、或いは接近した状態で左傾斜スイッチを操作して機体を左下がり傾斜させると、前処理部の左下部が地面に突っ込んでしまい圃場や機体を傷めてしまう課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、コンバインの機体を支持する左右のクローラ走行装置と、機体に対して左右のクローラ走行装置を独立して昇降するクローラ昇降装置と、機体の左右傾斜角度を検出する傾斜角度検出手段と、コンバインを運転操作する運転操作部に設けた手動傾斜操作手段と、傾斜角度検出手段の検出または手動傾斜操作手段の検出に基づき、クローラ昇降装置を昇降制御して機体の左右傾斜または車高を制御する傾斜制御手段を備え、機体に対して昇降自在に支持されて穀稈を刈取り脱穀部へ搬送する前処理部と、搬送された穀稈を脱粒処理する脱穀部と、脱穀部に手扱作業部を備えたコンバインにおいて、前記手扱作業部の近傍に左傾斜操作手段を設け、左傾斜操作手段を操作すると機体が左下がり傾斜姿勢となるように、左傾斜操作手段と前記傾斜制御手段とを連係させると共に、機体が左下がり傾斜姿勢となる時に前処理部の下部が地面に突っ込むのを防止する突っ込み防止手段を設けている。
【発明の効果】
【0005】
従って、本発明の請求項1に係る構成によれば、特に大型のコンバインで手扱作業部が高位置にあっても、運転操作部に戻ることなく手扱作業部の近傍に備えた左傾斜操作手段の操作により機体を左下がり傾斜させて手扱作業部を低位置にできるので、小柄な作業者でも容易に手扱作業を行うことができると共に、前処理部が地面に接地、或いは接近した状態で機体を左下がり傾斜させても突っ込み防止手段により前処理の地面への突っ込みが防止されるから、作業者が前処理部の高さを気にせず左傾斜操作手段を操作できるので作業性が良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の実施の形態について、以下図面の例に基づいて説明する。
図1,2は、コンバインの左側面図及び平面図である。
図において、1は機体フレーム、2は機体フレーム1に対して昇降自在に支持されて穀稈を刈取り脱穀部3まで搬送する前処理部、4はコンバインの運転操作をする運転操作部、5はエンジン部に備えられたエンジン6の動力を走行トランスミッション7を介して駆動するクローラ走行装置、8は脱穀部3で脱粒および選別された穀粒を貯留するグレンタンク、9はグレンタンク8に貯留された穀粒を機外へ排出する排出オーガである。
【0007】
コンバインの運転操作部4には、オペレータが着座する座席10、前後方向に操作することにより機体を停止状態から前後進方向に車速を切り替える主変速レバー、前処理部2の昇降操作および機体の操向操作を行うマルチステアリングレバー、前処理部2および脱穀部3の動力を断続操作する作業機・刈取クラッチレバー等を備えている。
【0008】
脱穀部3の手扱作業部11周辺、本実施形態においては扱胴カバー12の側面前方側で、脱穀フィードチェン13の穀稈挟持搬送の開始位置近傍に、手扱ぎ作業時に操作するスイッチをまとめて配置してあり、14はエンジン6を停止する緊急停止スイッチ、15は脱穀部3の動力を断続操作すると共に、機体を左下がり傾斜させる手扱操作手段(左傾斜操作手段)である。尚、前記手扱操作手段15はモーメンタリスイッチより構成され、以下、手扱スイッチ15と称する。
【0009】
図3はコンバインの伝動図であり、エンジン6の動力は走行トランスミッション7の走行HST16(油圧無段変速装置)に伝動するとともに、脱穀部3を経由して搬送カウンタ17の搬送HST18に伝動している。搬送HST18にて変速された動力は脱穀フィードチェン13と前処理部2に伝動している。19は刈取クラッチであり、後述する刈取クラッチ制御モータ57によりテンションアームを上下回動することにより前処理部2への伝動を入り切りする。20は作業機クラッチであり、後述する作業機クラッチ制御モータ56によりテンションアームを上下回動することにより脱穀部3への伝動を入り切りする。
【0010】
図4はコンバインの油圧回路図であり、21はオイルタンク22より油圧回路に圧油を供給する油圧ポンプ、23は走行トランスミッション7内の左右サイドクラッチを択一的に切断する左右サイドクラッチシリンダ、24は走行トランスミッション7内の左右サイドブレーキを択一的に制動する左右サイドブレーキシリンダであり、25は操向切替バルブ、26は可変リリーフバルブである。27は前処理部2を昇降する前処理昇降シリンダであり、28は前処理昇降切替バルブである。29は排出オーガ9を昇降駆動するオーガ昇降シリンダであり、30は排出オーガ昇降切替バルブである。31,32はコンバインを左右独立的に昇降駆動する左右の車高シリンダ(クローラ昇降装置)であり、33,34は左右車高切替バルブである。35はアンロード弁であり、各切替バルブ25,28,30,33,34を作動させながらアンロード弁35をPWM制御することでインチング作動させることで、各シリンダ23,24,27,29,31,32の作動速度を制御できる。
【0011】
図5はクローラ走行装置部分の左側面図である。
機体フレーム1は、平行リンクからなる支持部37を介して左右のクローラ走行装置5側に支持されている。このとき前記機体フレーム1と前記支持部37との間には、左右の車高シリンダ31,32が設けられており、該左右の車高シリンダ31,32を伸縮させることで、機体フレーム1に対して左右のクローラ走行装置5を独立して昇降調節可能となっている。
【0012】
図6は本発明を用いたコンバインの制御ブロック図である。41は各種制御手段を備えるマイコンであり、内部には変速制御手段と傾斜制御手段と前処理昇降制御手段および作
業機クラッチ制御手段を備えていて、その入力側には、主変速レバーの変速位置を検出する主変速レバーポテンショ42、作業機・刈取クラッチレバーの操作位置を検出する作業機・刈取クラッチレバーポテンショ43、機体の左右傾斜角度を検出する傾斜センサ(傾斜角度検出手段)44、左右のクローラ走行装置5に対する機体の高さをそれぞれ検出する左右車高センサ45,46、運転操作部4に設けられ傾斜自動制御をON・OFFする傾斜自動スイッチ47、運転操作部4に設けられ機体の左右傾斜を任意の角度に変更する手動傾斜レバースイッチ(手動傾斜操作手段)48、緊急停止スイッチ14、手扱スイッチ15、前記マルチステアリングレバーを操作することによりON・OFFする前処理下降スイッチ50及び前処理上昇スイッチ51、前処理部2の昇降高さ(前処理高さ)を検出する前処理高さ検出手段52が接続されている。
【0013】
マイコン41の出力側には、走行HST16のトラニオン軸を操作する走行HST制御モータ55、作業機クラッチ20を断続操作する作業機クラッチ制御モータ56、刈取クラッチ19を断続操作する刈取クラッチ制御モータ57、左右の車高シリンダ31,32をそれぞれ昇降駆動する左右車高ソレノイド58,59、エンジン6を強制的に停止させるエンジン停止ソレノイド60、搬送HST18のトラニオン軸を操作する搬送HST制御モータ61、前処理昇降シリンダ27を昇降駆動する前処理昇降ソレノイド62、ホーン63が接続されている。
【0014】
図7は本発明のマイコン41による手扱制御を示すフローチャートであり、S1で「手扱スイッチ15がOFF→ONに変化したか」を判断して、「YES」であればS2に進み、「NO」であればS1に戻る。S2で「手扱フラグの状態」を判断して、「=0」であればS3で「ホーン63を吹鳴らし、前処理昇降シリンダ27を所定高さに制御し、左車高シリンダ31を最下降位置に制御し、右車高シリンダ32を最上昇位置に制御し、作業機クラッチ20をON(接続)し、刈取クラッチ19をOFF(切断)し、搬送HST18を手扱作業用の回転に制御し、手扱フラグを1にセット」してS1に戻り、「=1」であればS4で「ホーン63を吹鳴らし、作業機クラッチ20をOFF(切断)し、搬送HST18を中立に制御し、左右車高シリンダ31,32を手扱前位置に制御し、前処理昇降シリンダを手扱前高さに制御し、手扱フラグを0にセット」してS1に戻る。
【0015】
次に本願発明の作用について説明する。
通常の刈取作業時には、主変速レバーの操作位置を主変速レバーポテンショ42により検出し、マイコン41が走行HST制御モータ55を介して走行HST16のトラニオン軸を操作することによりコンバインは前後進する。また、作業機・刈取クラッチレバーの操作位置を作業機・刈取クラッチレバーポテンショ43により検出し、作業機クラッチON位置の時は、マイコン41が作業機クラッチ制御モータ56を介して作業機クラッチ20を接続し、刈取クラッチON位置の時は、作業機クラッチON位置の内容に加えてマイコン41が刈取クラッチ制御モータ57を介して刈取クラッチ19を接続すると共に、搬送HST制御モータ61を介して搬送HST18のトラニオン軸を操作することにより前処理部2及び脱穀フィードチェン13を駆動する。この時、マイコン41はコンバインの車速を基に搬送HST18の速度を制御する。即ち、車速が0の時には前処理部2及び脱穀フィードチェン13の駆動を停止し、車速が速くなるほど前処理部2及び脱穀フィードチェン13の搬送速度が速くなるように搬送HST18の速度を車速に連係させて変速制御している。
【0016】
手扱作業時には、機体が停止して前処理部2及び脱穀フィードチェン13は停止している。作業機クラッチ20と刈取クラッチ19とがともに切断されている状態で、手扱作業部11にある手扱スイッチ15をON操作すると、マイコン41は先ずホーン63を吹鳴らして手扱制御により機体が左下がり傾斜姿勢に制御されることを事前に報知する。次にマイコン41は前処理昇降ソレノイド62を介して前処理昇降シリンダ27を昇降駆動操
作することにより前処理部2を所定の高さに制御してから、左右車高ソレノイド58,59を介して左右の車高シリンダ31,32をそれぞれ昇降駆動操作することによりコンバインをあらかじめ設定された左下がり傾斜姿勢(図8参照)とした後、作業機クラッチ制御モータ56を介して作業機クラッチ20を接続し、刈取クラッチ制御モータ57を介して刈取クラッチ19を切断し、搬送HST制御モータ61を介して搬送HST18のトラニオン軸を操作することにより、脱穀フィードチェン13をあらかじめ設定された速度(手扱作業用速度)で回転させる。この時、機体が左下がり傾斜姿勢となる時に突っ込み防止手段により前処理部2左下部の地面への突っ込みが防止される。即ち、本発明では、前処理昇降シリンダ27、前処理昇降切替バルブ28、マイコン41及び、前処理昇降ソレノイド62等で突っ込み防止手段を構成しており、機体が左下がり傾斜姿勢となるのに伴って前処理部2の左下部が下がり地面に突っ込みそうになるのを、自動的に前処理部2を上昇させることによって防止している。また、機体の左下がり傾斜姿勢への変更が終了してから脱穀フィードチェン13が駆動されるので、脱穀フィードチェン13の不要な駆動を防止できる。
【0017】
手扱作業を終了する場合には、手扱スイッチ15を再度ON操作すると、マイコン41は先ずホーン63を吹鳴らして機体が左下がり傾斜状態から水平状態に復帰することを事前に報知する。次にマイコン41は作業機クラッチ制御モータ56を介して作業機クラッチ20を切断し、搬送HST制御モータ61を介して搬送HST18のトラニオン軸を操作することにより、脱穀フィードチェン13の駆動を停止させる。次に左右車高ソレノイド58,59を介して左右の車高シリンダ31,32をそれぞれ昇降駆動操作することによりコンバインを水平状態(手扱前状態)へ復帰させた後、前処理昇降ソレノイド62を介して前処理昇降シリンダ27を昇降駆動操作することにより前処理部2を手扱前高さに制御する。よって、手扱スイッチ15を再度ON操作すれば、コンバインの車高などが手扱作業前の状態へ復帰するので作業性が良い。
【0018】
本実施例では、手扱作業時に脱穀部3の動力を断続操作する手扱スイッチ15と、機体を左下がり傾斜させる左傾斜スイッチとを1つのスイッチで構成したが、手扱スイッチ15と左傾斜スイッチとを2つに分けて構成してもよい。
【0019】
本実施例では、前処理高さ検出手段52(ポテンショ)により機体に対する前処理部2の高さを検出するように構成したが、ポテンショに代えて超音波センサや接地センサ等の対地高さ検出手段を採用し、地面に対する前処理部2の高さを直接検出する構成としてもよい。また、本実施例では、機体を左下がり傾斜させる前段階において前処理部2を地面に突っ込まない高さまで上昇させることで前処理部2の地面への突っ込みを防止したが、対地高さ検出手段の検出に基づいて前処理部2と地面とが近づいた時に前処理昇降シリンダ27を上昇操作する構成としてもよい。
【0020】
本実施例では、手扱スイッチ15をON操作すると、一連の動作(図7のS3)が完了するまで動作を止める手段がなかったが、その動作中に手扱スイッチ15をON操作すると動作が途中で中断され、また手扱スイッチ15をON操作すると中断された状態から再開されるように構成してもよい。また手扱スイッチ15を長押し操作やダブルクリック操作をした場合には手扱ぎ前の状態へ復帰するように構成すれば、動作途中から手扱ぎ前状態への復帰が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】コンバインの左側面図。
【図2】同上平面図。
【図3】コンバインの伝動図。
【図4】コンバインの油圧回路図。
【図5】クローラ走行装置部分の左側面図であり、(a)は車高シリンダが縮んだ状態。(b)は車高シリンダが伸びた状態。
【図6】コンバインの制御ブロック図。
【図7】手扱制御を示すフローチャート。
【図8】左下がり傾斜姿勢であるコンバインの背面図。
【符号の説明】
【0022】
1 機体フレーム
2 前処理部
3 脱穀部
5 クローラ走行装置
11 手扱作業部
15 手扱スイッチ(左傾斜操作手段)
31 車高シリンダ(クローラ昇降装置)
32 車高シリンダ(クローラ昇降装置)
41 マイコン(傾斜制御手段)
44 傾斜センサ(傾斜角度検出手段)
48 手動傾斜レバースイッチ(手動傾斜操作手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンバインの機体を支持する左右のクローラ走行装置(5,5)と、機体に対して左右のクローラ走行装置(5,5)を独立して昇降するクローラ昇降装置(31,32)と、機体の左右傾斜角度を検出する傾斜角度検出手段(44)と、コンバインを運転操作する運転操作部(4)に設けた手動傾斜操作手段(48)と、傾斜角度検出手段(44)の検出または手動傾斜操作手段(48)の検出に基づき、クローラ昇降装置(31,32)を昇降制御して機体の左右傾斜または車高を制御する傾斜制御手段(41)を備え、機体に対して昇降自在に支持されて穀稈を刈取り脱穀部へ搬送する前処理部(2)と、搬送された穀稈を脱粒処理する脱穀部(3)と、脱穀部(3)に手扱作業部(11)を備えたコンバインにおいて、前記手扱作業部(11)の近傍に左傾斜操作手段(15)を設け、左傾斜操作手段(15)を操作すると機体が左下がり傾斜姿勢となるように、左傾斜操作手段(15)と前記傾斜制御手段(41)とを連係させると共に、機体が左下がり傾斜姿勢となる時に前処理部(2)の下部が地面に突っ込むのを防止する突っ込み防止手段を設けたことを特徴とするコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−82035(P2009−82035A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254079(P2007−254079)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】