説明

コンバイン

【課題】コンバインの圃場間移動において、路上への泥の落下を少なくすると共に、移動時間を短縮して作業能率を高める。
【解決手段】左右一対のクローラ(1,1)を装備した走行フレーム(2)上に脱穀装置(3)を搭載し、該脱穀装置(3)の前方に刈取搬送装置(4)を昇降自在に設け、走行フレーム(2)には、前記クローラ(1,1)に代えて走行することが可能な左右のホイール型走行装置(5,5)を着脱自在に取り付ける構成とし、前記クローラ(1,1)を駆動する走行ミッション装置(6)からホイール型走行装置(5,5)へ走行動力を伝動する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からコンバインは、湿田の収穫作業において、比較的重い車体でも沈下させずに走行するために、ホイールより接地面積を広くして接地圧を高くしたクローラが使用されている。しかしながら、例えば、特許文献1に示されているコンバインは、明細書、及び図面から明らかなように、前輪と後輪とを設けたホイールタイプの走行装置を装備した構成となっている。
【0003】
そして、特許文献2によって公開されているコンバインは、クローラによる走行装置を設け、穀粒タンクが搭載されている側に補助車輪を設け、そのタンクに穀粒が充填されて重量が増したときに補助的に機台を支える構成とした技術が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭58−113323号公報
【特許文献2】実開昭62−74517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来からコンバインは、脱穀装置やグレンタンク等を搭載した重い走行フレームを支えて湿田の収穫作業を行うときには、ホイール型走行装置よりも接地面積の広いために、接地圧が高く、車体の沈下を軽減するのに適しているクローラ走行装置が有効である。一方、非作業時に路上を走行する場合には、比較的高速走行が可能で、しかも、泥土や藁屑を路上に落さないホイール型の走行装置が適している。
【0006】
このように、従来のクローラを装備しているコンバインは、重量の大きい走行フレームを広い接地面積による高い接地圧で支えながら走行するから、湿田の収穫作業には適するが、ホイールに比較して路上走行において、高速走行が困難であり、路上に、湿田走行で付着している泥土や藁屑の飛散(落下)が多く、掃除等の余分な手間の掛かる課題があった。
【0007】
この出願の発明は、走行フレームにクローラとホイールとの二つの走行装置を設け、収穫作業時にはクローラで車体の沈下を防止しながら走行し、非作業時の路上走行には、ホイールによって路上を汚さないで、比較的高速走行を可能にしたコンバインを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記課題を解決するために、つぎのような技術的手段を講じる。
すなわち、左右一対のクローラ(1,1)を装備した走行フレーム(2)上に脱穀装置(3)を搭載し、該脱穀装置(3)の前方に刈取搬送装置(4)を昇降自在に設け、走行フレーム(2)には、前記クローラ(1,1)に代えて走行することが可能な左右のホイール型走行装置(5,5)を着脱自在に取り付ける構成とし、前記クローラ(1,1)を駆動する走行ミッション装置(6)からホイール型走行装置(5,5)へ走行動力を伝動する構成としたことを特徴とするコンバインとしたものである。
【0009】
収穫作業中にはクローラ(1,1)によって、湿田中でも車体の沈下を少なくしながら走行し、路上走行時にはクローラ(1,1)に代えてホイール型走行装置(5,5)によって走行し、路上に泥土や藁屑を落下させて汚すことがほとんどなく、高速で走行することができるコンバインとしている。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、収穫作業を行うときには、クローラ(1,1)によって走行しながら、例え湿田における作業であっても、広い接地面積によって、常に、高い接地圧が保持できるから、走行フレーム(2)を支えながら車体の沈下を防止して作業を行うことができ、作業が終了して路上走行に移る場合に、クローラ(1,1)からホイール型走行装置(5,5)に代えて、湿田で付着した泥土や藁屑を路上にほとんど落とさずに走行でき、清掃の手間が要らず、高速で走行することができて、圃場間移動の時間を短縮して作業能率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】二つの走行装置を装備したコンバインの作用側面図
【図2】二つの走行装置を装備したコンバインの背面図
【図3】二つの走行装置を装備したコンバインの側面図
【図4】後輪の折り畳み作用を示すコンバインの作用側面図
【図5】実施例を示すコンバインの側面図
【図6】(A)ローリング制御作動を利用してホイールを着脱するコンバインの正面図 (B)ピッチング制御作動を利用してホイールを着脱するコンバインの側面図 (C)ローリング制御作動を利用してホイールを着脱するコンバインの背面図
【図7】後部ジャッキにより持ち上げたコンバインの側面図
【図8】後部ジャッキにより持ち上げたコンバインの背面図
【図9】前部ジャッキにより持ち上げたコンバインの側面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づいてこの発明の実施例を具体的に説明する。
まず、コンバイン10は、図面に示すように、左右一対のクローラ1,1を装備した走行フレーム2上に脱穀装置3を搭載し、その前部側に刈取搬送装置4を設けて、刈取・脱穀作用ができる構成としている。そして、前記刈取搬送装置4は、図1に示すように、前部低位置に分草杆11を設け、そのすぐ背後に、上部を後方にして傾斜させた穀稈引起し装置12を設け、その下方に刈取装置13を設け、更に、その刈取装置13の上方から、脱穀装置3の穀稈供給口14との間に株元側を挟持し、穂先側を係合しながら搬送する上下2段の穀稈搬送装置15を設けて構成している。
【0013】
そして、ホイール型走行装置5,5は、図1、及び図2に示すように、前記クローラ1,1を装備している走行フレーム2に、前輪5a,5aと後輪5b,5bとを設けて、クローラ1,1に代えて走行できる構成とするが、以下、具体的に実施例を説明する。
【0014】
まず、左右一対のクローラ1,1は、図1、及び図2に示すように、走行フレーム2の下側に装備するが、前部を駆動スプロケット16,16に係合し、後部を調節転輪17,17に巻き掛け、中間部の接地側には複数個の遊動転輪18,18,18を配置して押圧した状態に張圧して巻き掛けた構成としている。そして、前記駆動スプロケット16,16は、走行フレーム2の前部に設けられた走行ミッション装置6から左右両側に延長したホイールシャフト20に軸着されており、クローラ1,1に係合して走行動力を伝動する構成としている。そして、調節転輪17は、弾性材からなる調節具21から延長した張圧ロット22の先端部位に遊嵌状態に軸受けし、クローラ1,1の張圧度を常に一定に保持するように、自動と手動とで調整ができる構成としている。23は上部転輪を示し、クローラ1の上側の緩みを、裏側から上方へ張圧する構成としている。
【0015】
そして、トラックローラフレーム25は、図1及び図3に示すように、各遊動転輪18,18,18と調節転輪17、及び上部転輪23を回転自在に軸受して支持した構成としている。そして、上部が油圧機構26に連結した大型のL型杆27の下部と、その大型のL型杆27の中間部に設けた連杆28の前部に連結されて一体に作動ができるように構成された前側L型杆27の下部とに前記トラックローラフレーム25が連結された構成としている。なお、大型のL型杆27と前側L型杆27とは、中間部位が走行フレーム2側の定位置に枢着され、揺動回動する構成となっている。
【0016】
したがって、左右一対のクローラ1,1は、前記油圧機構26に作動油が供給されてピストン(前記油圧機構26)が後方に伸びる方向に作動すると、大型のL型杆27、連杆28、前側L型杆27を介して、前記トラックローラフレーム25が、各々遊動転輪18,18,18と調節転輪17、及び上部転輪23が一体の状態で下方に降下作動して前輪5a,5a、及び後輪5b,5bより低い位置まで下がり、クローラ走行が可能な接地状態に達する構成としている。
【0017】
このように、コンバイン10による収穫作業に移る前には、左右一対のクローラ1,1は、昇降機構によって走行位置まで下げる制御操作を行うと、前記トラックローラフレーム25が、上記の如く、油圧作動で下方に移動するが、そのとき、前部の駆動スプロケット16と、これを軸受けしているホイールシャフト20を中心(支点)にしてクローラ1が下方に回動する状態で接地位置まで移動することになる。
【0018】
つぎに、前輪5a,5aは、図1、及び図2に示すように、クローラ1,1の前部外側に、前記ホイールシャフト20の延長部を軸受けした車輪支持ケース30,30に支持した構成とし、該車輪支持ケース30,30は、ミッションケース(走行ミッション装置6)側から支持された構成となっている。そして、前輪5a,5aと後輪5b,5bは、図3に示す実施例のように、上側の走行フレーム2に上部を連結して垂下した支持杆32,32によってそれぞれ車軸31,31を軸受けさせて支持し、補強した構成としている。そして、前輪5a,5aは、図1に示すように、穀稈搬送装置15の下方で、しかも、外側に離れた位置に配置しているから、刈取後、穀稈搬送装置15によって搬送されてくる穀稈が、例え、長稈であっても、その株元が接触する心配はなく、障害が起きることはない構成となっている。
【0019】
そして、前記クローラ1,1と前輪5a,5aとは、両方が同時に伝動されることはなく、前記ホイールシャフト20に軸架している駆動スプロケット16,16と、左右の車輪支持ケース30,30に軸装している車軸31,31とには、それぞれ伝動を遮断、接続するクラッチ装置を装備し、一方が伝動中には他方が中断され、他方が伝動中には一方が中断できる構成となっている。
【0020】
このように、クローラ1,1は、収穫作業中には動力を伝動して駆動し、そのときには前輪5a,5aは停止して動力の無駄な消費が発生しない特徴がある。
そして、実施例におけるクローラ1,1の上下調節操作装置は、通常の操作範囲に加えて、「走行モード」を設定し、手動による操作が不可能なゾーンを構成している。すなわち、走行モードとは、図1の実線で示すように、クローラ1,1がホイール型走行装置5,5より高い位置にあって、前・後輪5a,5a、5b,5bが接地状態で、路上を走行する範囲であるが、そのとき、クローラ1,1の上下操作を手動ではできないように規制した構成としている。
【0021】
このように、走行モードにおける手動操作の規制は、誤操作を未然に防止して、安全に路上走行ができるものとなっている。
そして、コンバイン10は、走行モードを設定しているときには、刈取搬送装置4、及び脱穀装置3等の収穫作業に関係する各装置を作業状態に操作することはできないように規制した構成として、路上走行中における安全が確保されている。
【0022】
しかしながら、実施例のコンバイン10は、収穫作業が完了した後の籾の排出作業については、走行モード中であっても排出クラッチの操作を可能にし、農道に待機する籾の運搬車まで高速で運転し、そのまま籾排出ができるものとしている。
【0023】
そして、実施例の場合、収穫作業中、例えば、脱穀クラッチレバーか、或いは刈取クラッチレバーの少なくとも一方がONの状態にあるときには、走行モードへの設定操作が出来ない構成とし、走行側への切換時に、誤操作の発生を未然に防止する配慮した構成を取っている。
【0024】
つぎに、図4に示した実施例について説明する。
後輪5b,5bは、図4に示すように、走行フレーム2の後部において、下側機枠34に回動自在に枢着した支持アーム35に遊動状態に軸架した構成としている。そして、支持アーム35は、後輪5b,5bを接地させた位置と後方に回動して持ち上げた位置とに折り畳み可能とし、両方の位置で走行フレーム2に対して固定と解除ができる構成としている。実施例の場合、後輪5b,5bは、後方に回動した折り畳み位置では、走行フレーム2の後端(コンバインの後端部)より後方に突出させた位置で固定できる構成としている。
【0025】
以上のように構成すると、後輪5b,5bは、図4に仮想線で示すように、後進時に後方に障害物がある場合、他の部分より最初に衝突してコンバイン機体の損傷を未然に防止できる特徴がある。そして、後輪5b,5bは、収穫作業時には、常に、図4に示した仮想線の後部位置に回動させて走行すると、湿田走行の場合、泥押しやごみだまりをなくすことが出来る特徴もある。
【0026】
つぎに、図5に示した実施例について説明する。
実施例は、図面の側面視で解るように、前輪5a,5aと後輪5b,5bとを、クローラ1,1の前端部位と後端部位より内側に配置して軸架し、クローラ1,1の前後長さより短い前後間隔に構成している。この場合、前輪5a,5aと後輪5b,5bは、左右のクローラ1,1のすぐ外側において、前輪5aの走行跡を後輪5bが通るように軸架し、正面視において、コンバイン10の機体横幅(一方が脱穀装置の外側機枠と他方がグレンタンクの外側機枠)より狭い位置に配置した構成としている。
【0027】
以上のように構成すると、実施例は、走行時に車輪5a,5a、5b,5bが障害(コンバイン横幅より狭いから)となることはほとんどなく、小回りとができる特徴がある。
更に、後輪5b,5bは、前側に寄った位置に軸架されているから、すぐ上側の排藁カッター37によって切断されて圃場面に落下してくる切断藁を被ることがなくなった利点もある。
【0028】
つぎに、前輪5,5、及び後輪5,5の着脱作業について、図6、乃至図9に基づいて説明する。
通常、クローラ1,1や前・後輪5a,5a、5b,5bの着脱作業は、図7、乃至図9に示すように、コンバイン10に装備した前部ジャッキ40と後部ジャッキ41とを利用して、コンバイン車体を持ち上げて行なうが、実施例の場合、コンバイン10に装備されているピッチング制御作動機構、及びローリング制御作動機構の作動を利用して行なう構成としている。
【0029】
まず、コンバイン10は、図6(A)(C)に示すように、エンジンを駆動しながら車体の油圧機構を作動させて、ローリング制御を働かせながら、一方側のクローラ1を高くして斜めに持ち上げて車輪5aを取付けることができる。なお、ピッチング作動を利用してコンバイン車体を持ち上げる場合には、図6(B)に示すように、左右両側のクローラ1,1を油圧制御機構を作動させて同時に持ち上げて車輪5a,5aの着脱作業ができる。
【0030】
このように、この発明の実施例は、コンバイン10に装備されているローリング制御装置の如く、車体に備わっている制御機構を有効に利用して車輪5a,5aの着脱作業を容易に行なうようにしている。
【符号の説明】
【0031】
1 クローラ
2 走行フレーム
3 脱穀装置
4 刈取搬送装置
5 ホイール型走行装置
6 走行ミッション装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のクローラ(1,1)を装備した走行フレーム(2)上に脱穀装置(3)を搭載し、該脱穀装置(3)の前方に刈取搬送装置(4)を昇降自在に設け、走行フレーム(2)には、前記クローラ(1,1)に代えて走行することが可能な左右のホイール型走行装置(5,5)を着脱自在に取り付ける構成とし、前記クローラ(1,1)を駆動する走行ミッション装置(6)からホイール型走行装置(5,5)へ走行動力を伝動する構成としたことを特徴とするコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−252704(P2010−252704A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107203(P2009−107203)
【出願日】平成21年4月25日(2009.4.25)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】