説明

コンバイン

【課題】刈取穀稈がないときに扱胴226を簡単に停止できて動力損失を低減できるものでありながら、エンジン14の回転数を低下させることなく扱胴226を作動させても、脱穀駆動ベルト162等の扱胴駆動機構の損傷を低減でき、製造コスト又はメンテナンスコスト等を低減できるようにしたコンバインを提供するものである。
【解決手段】エンジン14を搭載した走行機体1と、扱胴226を有する脱穀装置5と、扱胴226にエンジン14からの動力を伝達する扱胴変速機構389,401を備えたコンバインにおいて、扱胴226の回転数を選択可能な扱胴変速機構389,401の変速モード中に、扱胴226に伝達される回転駆動力が殆ど零になる中立ゾーンを設定している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場に植立した穀稈を刈取って穀粒を収集するコンバイン、又は飼料用穀稈を刈取って飼料として収集する飼料コンバイン等のコンバインに係り、より詳しくは、扱胴の回転数を選択可能な扱胴変速機構を備えたコンバインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンバインは、エンジンを搭載した走行機体を備え、走行機体に左右一対の走行クローラを装設し、左右一対の走行クローラを駆動制御して圃場等を移動するように構成している。また、コンバインは、圃場に植立した未刈り穀稈の株元を刈刃装置によって切断し、穀稈搬送手段としての穀稈搬送装置によって脱穀装置にその穀稈を搬送し、脱穀装置によってその穀稈を脱穀して、穀粒を収集するように構成している。(例えば、特許文献1参照)また、従来、脱穀装置の扱胴に駆動力を伝達する無段変速機を設け、扱胴の回転数を無段階に変更するように構成していた(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。さらに、刈取装置又は脱穀装置にエンジンの動力を伝達させるカウンタケースを備える技術(特許文献3参照)や、エンジンの回転数を低下させて脱穀クラッチを入り作動させる技術(特許文献4参照)も公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平2−12841号公報
【特許文献2】特開平6−14639号公報
【特許文献3】特開2004−138166号公報
【特許文献4】特開2005−255042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来技術(特許文献1)では、脱穀負荷が増大したときに扱胴の回転トルクを増大でき、前記従来技術(特許文献2)では、車速を減速したときに扱胴の回転数を増大して扱き残しを低減できたが、刈取穀稈の性状に扱胴の回転数を適応させる場合、オペレータの経験等に基づきオペレータの手動操作によって扱胴の回転数を無段階に変更させて、扱胴の回転数を適正回転数に調整する必要があるから、刈取穀稈の性状を判断するオペレータの誤操作(刈取穀稈の性状の判断ミス)によって、刈取穀稈の性状に対して扱胴の回転数が不適正に設定されることがあり、排藁に穀粒が混入する刺さり粒の発生、又は穀稈が切断されて穀粒に混入する稈切れの発生等を簡単に防止できない等の問題がある。また、カウンタケースの外側方に扱胴変速機構を設ける構造では、扱胴の駆動構造の簡略化又は製造コストの低減などを容易に図り得ない等の問題がある。さらに、前記従来技術(特許文献4参照)では、脱穀クラッチをスムーズに入り作動して脱穀駆動ベルトの損傷を低減できるが、エンジンの回転数を低下させる必要があるから、脱穀クラッチを入り作動時、走行駆動力が不足する等の問題がある。
【0005】
本発明の目的は、扱胴変速機構を設けた従来技術を改良したコンバインを提供するもので、刈取穀稈がないときに扱胴を簡単に停止できて駆動力損失を低減できるものでありながら、エンジンの回転数を低下させることなく扱胴を作動させても、脱穀駆動ベルト等の扱胴駆動機構の損傷を低減でき、製造コスト又はメンテナンスコスト等を低減できるようにしたコンバインを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、請求項1に係る発明のコンバインは、エンジンを搭載した走行機体と、扱胴を有する脱穀装置と、前記扱胴に前記エンジンからの動力を伝達する扱胴変速機構を備えたコンバインにおいて、前記扱胴の回転数を選択可能な前記扱胴変速機構の変速モード中に、前記扱胴に伝達される回転駆動力が殆ど零になる中立ゾーンを設定したものである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のコンバインにおいて、前記刈取装置又は前記脱穀装置に前記エンジンの動力を伝達させるカウンタケースを備える構造であって、前記カウンタケースに前記扱胴変速機構を内設し、前記扱胴変速機構をクラッチ形多段変速機によって形成し、前記扱胴の回転数を多段階に変速可能に構成したものである。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のコンバインにおいて、前記刈取装置又は前記脱穀装置に前記エンジンの動力を伝達させるカウンタケースを備える構造であって、前記カウンタケースに前記扱胴変速機構を配置し、前記扱胴変速機構を無段変速機によって形成し、前記扱胴の回転数を無段階に変速可能に構成したものである。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のコンバインにおいて、運転姿勢のオペレータが運転席から操作可能な位置に前記扱胴変速機構の変速操作具を配置し、前記扱胴変速機構の変速動作を電気的に遠隔制御するように構成したものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、エンジンを搭載した走行機体と、扱胴を有する脱穀装置と、前記扱胴に前記エンジンからの動力を伝達する扱胴変速機構を備えたコンバインにおいて、前記扱胴の回転数を選択可能な前記扱胴変速機構の変速モード中に、前記扱胴に伝達される回転駆動力が殆ど零になる中立ゾーンを設定したものであるから、脱穀クラッチが入り維持されていることによって、穀粒選別機構(揺動選別盤等)の駆動が継続された状態で、前記扱胴を停止でき、前記扱胴等の駆動騒音や、前記エンジンの出力損失等を低減できる。しかも、従来構造に比べ、前記扱胴等の脱穀駆動ベルトの耐久性を向上できる。例えば、前記脱穀駆動ベルトを緊張した状態に維持しながら、前記脱穀駆動ベルト又はプーリを空転させることなく、零回転(停止状態)から所定回転数に前記扱胴の回転数を上げるように作動できる。即ち、前記脱穀駆動ベルトの半クラッチ作用によって、前記エンジンの出力回転数と前記扱胴の実回転数との差を吸収させる必要がないから、前記脱穀駆動ベルト等の扱胴駆動機構の損傷を低減できる。前記脱穀駆動ベルト等の扱胴駆動機構のメンテナンス作業性を向上でき、メンテナンスコスト等を低減できる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、前記刈取装置又は前記脱穀装置に前記エンジンの動力を伝達させるカウンタケースを備える構造であって、前記カウンタケースに前記扱胴変速機構を内設し、前記扱胴変速機構をクラッチ形多段変速機によって形成し、前記扱胴の回転数を多段階に変速可能に構成したものであるから、前記カウンタケースの一部を利用して、前記扱胴変速機構をコンパクトに組付けて低コストに構成できる。クラッチ形多段変速機の変速段数の選択等によって前記扱胴変速機構の製造コスト又はメンテナンスコスト等を簡単に低減できる。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、前記刈取装置又は前記脱穀装置に前記エンジンの動力を伝達させるカウンタケースを備える構造であって、前記カウンタケースに前記扱胴変速機構を配置し、前記扱胴変速機構を無段変速機によって形成し、前記扱胴の回転数を無段階に変速可能に構成したものであるから、前記扱胴の回転数を任意の回転数に簡単に設定できる。例えば、作物の種類や作物の生育状況等に幅広く適応可能に、前記扱胴の回転数を設定でき、前記扱胴の脱粒性能を向上できる。前記カウンタケースの内部又は外部を利用して、前記扱胴変速機構をコンパクトに組付けて低コストに構成できる。前記カウンタケースの内部に前記扱胴変速機構を配置した場合、前記扱胴変速機構を容易に保護できる。一方、前記カウンタケースの外部に前記扱胴変速機構を配置した場合、前記扱胴変速機構のメンテナンス作業性を向上できる。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、運転姿勢のオペレータが運転席から操作可能な位置に前記扱胴変速機構の変速操作具を配置し、前記扱胴変速機構の変速動作を電気的に遠隔制御するように構成したものであるから、油圧クラッチや比例弁などの電気的制御手段を利用し、有線又は無線操作にて前記扱胴変速機構を遠隔制御することによって、前記変速操作具の操作等によって前記扱胴変速機構を簡単に自動制御できる。例えば、オペレータが搭乗するキャビンを設ける機種において、前記キャビンの展開などが必要なエンジン又はミッションケース等の本機側のメンテナンス作業性を向上できる。また、前記扱胴変速機構の制御を容易に自動化でき、収穫作業速度(車速、刈取速度)等の運転状況や収穫作業状況等の脱穀作業条件の変化に関連させて、前記扱胴変速機構の自動制御を実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態の6条刈り用コンバインの側面図である。
【図2】同平面図である。
【図3】刈取装置の側面説明図である。
【図4】刈取装置の平面説明図である。
【図5】図1のコンバインの駆動系統図である。
【図6】ミッションケース等の駆動系統図である。
【図7】カウンタケース等の駆動系統図である。
【図8】図1のコンバインの油圧回路図である。
【図9】エンジン及びミッションケースの左側面図である。
【図10】エンジン及びミッションケースの平面図である。
【図11】エンジン及びミッションケースの前方視斜視図である。
【図12】第2実施形態を示すカウンタケース等の駆動系統図である。
【図13】扱胴変速制御のブロック回路図である。
【図14】扱胴変速制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。図1はコンバインの左側面図、図2はコンバインの平面図である。図1及び図2を参照して、コンバインの全体構造について説明する。なお、以下の説明では、走行機体1の前進方向に向かって左側を単に左側と称し、同じく前進方向に向かって右側を単に右側と称する。図1及び図2に示す如く、走行部としての左右一対の走行クローラ2にて支持された走行機体1を備える。走行機体1の前部には、穀稈を刈取りながら取込む6条刈り用の刈取装置3が、単動式の昇降用油圧シリンダ4によって刈取回動支点軸4a回りに昇降調節可能に装着される。走行機体1には、フィードチェン6を有する脱穀装置5と、該脱穀装置5から取出された穀粒を貯留する穀粒タンク7とが横並び状に搭載される。なお、脱穀装置5が走行機体1の前進方向左側に、穀粒タンク7が走行機体1の前進方向右側に配置される。走行機体1の後部に旋回可能な排出オーガ8が設けられ、穀粒タンク7の内部の穀粒が、排出オーガ8の籾投げ口9からトラックの荷台またはコンテナ等に排出されるように構成されている。刈取装置3の右側方で、穀粒タンク7の前側方には、運転キャビン10が設けられている。
【0016】
運転キャビン10内には、操縦ハンドル11と、運転座席12と、主変速レバー43と、副変速スイッチ44と、脱穀クラッチ及び刈取クラッチを入り切り操作する作業クラッチレバー45とを配置している。なお、運転キャビン10には、オペレータが搭乗するステップ(図示省略)と、操縦ハンドル11を設けたハンドルコラム46と、前記各レバー43,45及びスイッチ44等を設けたレバーコラム47とが配置されている。運転座席12の下方の走行機体1には、動力源としてのエンジン14が配置されている。
【0017】
図1に示す如く、走行機体1の下面側に左右のトラックフレーム21を配置している。トラックフレーム21には、走行クローラ2にエンジン14の動力を伝える駆動スプロケット22と、走行クローラ2のテンションを維持するテンションローラ23と、走行クローラ2の接地側を接地状態に保持する複数のトラックローラ24と、走行クローラ2の非接地側を保持する中間ローラ25とを設けている。駆動スプロケット22によって走行クローラ2の前側を支持し、テンションローラ23によって走行クローラ2の後側を支持し、トラックローラ24によって走行クローラ2の接地側を支持し、中間ローラ25によって走行クローラ2の非接地側を支持する。
【0018】
図1、図2に示す如く、刈取装置3の刈取回動支点軸4aに連結した刈取フレーム221の下方には、圃場に植立した未刈り穀稈(穀稈)の株元を切断するバリカン式の刈刃装置222が設けられている。刈取フレーム221の前方には、圃場に植立した未刈り穀稈を引起す6条分の穀稈引起装置223が配置されている。穀稈引起装置223とフィードチェン6の前端部(送り始端側)との間には、刈刃装置222によって刈取られた刈取り穀稈を搬送する穀稈搬送装置224が配置される。なお、穀稈引起装置223の下部前方には、圃場に植立した未刈り穀稈を分草する6条分の分草体225が突設されている。エンジン14にて走行クローラ2を駆動して圃場内を移動しながら、刈取装置3によって圃場に植立した未刈り穀稈を連続的に刈取る。
【0019】
次に、図3及び図4を参照して刈取装置3の構造を説明する。図3及び図4に示す如く、刈取フレーム221は、走行機体1の前端側の軸受台15に回動可能に支持した刈取入力ケース16と、刈取入力ケース16から前方に向けて延長する縦伝動ケース18と、縦伝動ケース18の前端側で左右方向に向けて延長する横伝動ケース19と、横伝動ケース19に連結する6条分の分草フレーム20とによって形成されている。分草フレーム20の前端側に6条分の分草体225が配置されている。機体左右方向に水平に横架した刈取入力ケース16内には、エンジン14からの動力が伝達される刈取り入力軸17が組込まれている。
【0020】
穀稈引起装置223は、分草板225によって分草された未刈穀稈を起立させる複数の引起タイン128を有する6条分の引起ケース129を有する。穀稈搬送装置224は、右側2条分の引起ケース129から導入される右側2条分の穀稈の株元側を掻込む左右の右スターホイル130R及び左右の右掻込ベルト131Rと、左側2つの引起ケース129から導入される左側2条分の穀稈の株元側を掻込む左右の左スターホイル130L及び左右の左掻込ベルト131Lと、中央2つの引起ケース129から導入される中央2条分の穀稈の株元側を掻込む左右の中央スターホイル130C及び左右の中央掻込ベルト131Cとを有する。
【0021】
刈刃装置222は、右スターホイル130R及び左右の右掻込ベルト131R、左スターホイル130L及び左右の左掻込ベルト131L、中央スターホイル130C及び左右の中央掻込ベルト131Cによって掻込まれた6条分の穀稈の株元を切断するバリカン形の左右の刈刃132を有する。
【0022】
また、穀稈搬送装置224は、右側2条分のスターホイル130R及び掻込ベルト131Rによって掻込まれた右側2条分の刈取穀稈の株元側を後方に搬送する右株元搬送チェン133Rと、左側2条分のスターホイル130L及び掻込ベルト131Lによって掻込まれた左側2条分の刈取穀稈の株元側を右株元搬送チェン133Rの搬送終端部に合流させる左株元搬送チェン133Lと、中央2条分のスターホイル130C及び掻込ベルト131Cによって掻込まれた中央2条分の刈取穀稈の株元側を後方に搬送して右株元搬送チェン133Rの搬送途中に合流させる中央株元搬送チェン133Cを有する。左右及び中央の株元搬送チェン133R,133L,133Cによって、右株元搬送チェン133Rの搬送終端部に、6条分の刈取穀稈の株元側を合流させる。
【0023】
穀稈搬送装置224は、右株元搬送チェン133Rから6条分の刈取穀稈の株元側を受継ぐ穀稈搬送手段としての縦搬送チェン134と、縦搬送チェン134の搬送終端部からフィードチェン6の搬送始端部に6条分の刈取穀稈の株元側を搬送する補助搬送手段としての補助株元搬送チェン135,136とを有する。縦搬送チェン134から、補助株元搬送チェン135,136を介して、フィードチェン6の搬送始端部に、6条分の刈取穀稈の株元側を搬送する。
【0024】
穀稈搬送装置224は、右株元搬送チェン133Rにて搬送される右側2条分の刈取穀稈の穂先側を搬送する右穂先搬送タイン137Rと、左株元搬送チェン133Lにて搬送される左側2条分の刈取穀稈の穂先側を搬送する左穂先搬送タイン137Lと、中央株元搬送チェン133Cにて搬送される中央2条分の刈取穀稈の穂先側を搬送する中央穂先搬送タイン137Cとを有する。縦搬送チェン134にて6条分の刈取穀稈の株元が挟持搬送され、6条分の刈取穀稈の穂先側が右穂先搬送タイン137Rの送り終端側にて搬送され、脱穀装置5の扱胴226設置室内に、刈取装置3で刈取った6条分の刈取穀稈の穂先側が搬送されて、穀粒が脱粒される。
【0025】
次に、図5を参照してコンバインの駆動構造を説明する。図5に示す如く、刈取り入力軸17に、縦伝動軸140及び横伝動軸141及び左搬送駆動軸142を介して引起横伝動軸143を連結する。引起横伝動軸143は、6条分の各引起ケース29の引起タイン駆動軸144にそれぞれ連結している。分草体225の後方で分草フレーム20の上方に引起ケース129が立設され、引起ケース129の上端側の背面から引起タイン駆動軸144を突出している。引起タイン駆動軸144及び引起横伝動軸143を介して、複数の引起タイン128を設けた引起タインチェン128aが駆動される。
【0026】
図5に示す如く、横伝動軸141に左右のクランク軸145を介して左右の刈刃132を連結する。横伝動軸141を介して左右の刈刃132を同期させて駆動するように構成している。なお、刈刃装置222は、6条分の刈幅の中央部で分割して左右の刈刃132を形成し、左右の刈刃132を相反する方向に往復移動させ、往復移動によって発生する左右の刈刃132の振動(慣性力)を相殺可能に構成している。
【0027】
図5に示す如く、刈取り入力軸17に縦伝動ケース18内の縦伝動軸140の一端側を連結する。縦伝動軸140の他端側に横伝動ケース19内の横伝動軸141を連結する。縦伝動軸140及び横伝動軸141から穀稈搬送装置224の各駆動部に刈取り入力軸17の回転力を伝える。即ち、縦伝動軸140には、右搬送駆動軸146を連結している。縦伝動軸140及び右搬送駆動軸146を介して、右株元搬送チェン133R及び右穂先搬送タイン137Rと、右スターホイル130R及び右掻込ベルト131Rとを駆動するように構成している。また、縦伝動軸140及び後搬送駆動軸147を介して、補助株元搬送チェン135及び右穂先搬送タイン137Rを駆動するように構成している。なお、補助株元搬送チェン136は、フィードチェン6側から駆動力が伝達される。
【0028】
また、横伝動軸141の左端側に左搬送駆動軸142を連結している。左搬送駆動軸142を介して、左株元搬送チェン133L及び左穂先搬送タイン137Lと、左スターホイル130L及び左掻込ベルト131Lとを駆動するように構成している。また、横伝動軸141に中央搬送駆動軸148を連結し、中央搬送駆動軸148を介して、中央株元搬送チェン133C及び中央穂先搬送タイン137Cと、中央スターホイル130C及び中央掻込ベルト131Cとを駆動するように構成している。
【0029】
次に、図1及び図2を参照して、脱穀装置5の構造を説明する。図1及び図2に示す如く、脱穀装置5には、穀稈脱穀用の扱胴226と、扱胴226の下方に落下する脱粒物を選別する揺動選別盤227及び唐箕ファン228と、扱胴226の後部から取出される脱穀排出物を再処理する処理胴229と、揺動選別盤227の後部の排塵を排出する排塵ファン230を備えている。なお、扱胴226の回転軸芯線は、フィードチェン6による穀稈の搬送方向(換言すると走行機体1の進行方向)に沿って延びている。刈取装置3から穀稈搬送装置224によって搬送された穀稈の株元側は、フィードチェン6に受け継がれて挟持搬送される。そして、この穀稈の穂先側が脱穀装置5の扱室内に搬入されて扱胴226にて脱穀される。
【0030】
図1に示す如く、揺動選別盤227の下方側には、揺動選別盤227にて選別された穀粒(一番物)を取出す一番コンベヤ231と、枝梗付き穀粒等の二番物を取出す二番コンベヤ232とが設けられている。本実施形態の両コンベヤ231,232は、走行機体1の進行方向前側から一番コンベヤ231、二番コンベヤ232の順で、側面視において走行クローラ2の後部上方の走行機体1の上面側に横設されている。前記した揺動選別盤227と、唐箕ファン228と、一番コンベヤ231と、二番コンベヤ232と、排塵ファン230と、選別ファン241等によって、穀物選別機構245を構成している。
【0031】
図1に示す如く、揺動選別盤227は、扱胴226の下方に張設された受網237から漏下した脱穀物が、フィードパン238及びチャフシーブ239によって揺動選別(比重選別)されるように構成している。揺動選別盤227から落下した穀粒は、その穀粒中の粉塵が唐箕ファン228からの選別風によって除去され、一番コンベヤ231に落下することになる。一番コンベヤ231のうち脱穀装置5における穀粒タンク7寄りの一側壁(実施形態では右側壁)から外向きに突出した終端部には、上下方向に延びる揚穀コンベヤ233が連通接続されている。一番コンベヤ231から取出された穀粒は、揚穀コンベヤ233を介して穀粒タンク7に搬入され、穀粒タンク7に収集される。
【0032】
また、図1に示す如く、揺動選別盤227は、揺動選別(比重選別、唐箕風選別)によってチャフシーブ239から枝梗付き穀粒等の二番物を二番コンベヤ232に落下させるように構成している。チャフシーブ239の下方に落下する二番物を風選する選別ファン241を備える。チャフシーブ239から落下した二番物は、その穀粒中の粉塵及び藁屑が選別ファン241からの選別風(唐箕風)によって除去され、二番コンベヤ232に落下する。二番コンベヤ232のうち脱穀装置5における穀粒タンク7寄りの一側壁から外向きに突出した終端部は、還元コンベヤ236を介して、フィードパン238の後部(チャフシーブ239の前部)の上面側に連通接続され、二番物を揺動選別盤227の上面側に戻して再選別するように構成している。
【0033】
一方、図1及び図2に示す如く、フィードチェン6の後端側(送り終端側)には、排藁チェン234と排藁カッタ235が配置されている。フィードチェン6の後端側から排藁チェン234に受継がれた排藁(穀粒が脱粒された稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後部に設けられた排藁カッタ235にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方下方に排出される。
【0034】
次に、図5を参照しながら、刈取装置3、脱穀装置5、フィードチェン6、排藁チェン234、排藁カッタ235等の駆動構造について説明する。図5に示す如く、エンジン14の左側にその出力軸150を突出する。エンジン14の出力軸150に走行駆動ベルト151を介してミッションケース88の走行入力軸152を連結し、エンジン14の回転駆動力が、前側の出力軸150からミッションケース88に伝達されて変速された後、左右の車軸153を介して左右の走行クローラ2に伝達され、左右の走行クローラ2がエンジン14の回転力によって駆動されるように構成している。
【0035】
図5に示す如く、エンジン14を冷却するためのラジエータ用の冷却ファン154が、エンジン14の右側に突出した出力軸150に設けられている。また、エンジン14の右側の出力軸150に排出オーガ駆動軸157を連結し、エンジン14の回転駆動力によって排出オーガ駆動軸157を介して排出オーガ8が駆動され、穀粒タンク7内の穀粒がコンテナ等に排出されるように構成している。
【0036】
次に、図5、図7を参照して、カウンタケース(ギヤケース)89等の動力伝達構造を説明する。図5、図7に示す如く、脱穀装置5の各部にエンジン14の回転駆動力を伝える脱穀選別作業入力軸165と、扱胴226及び処理胴230に脱穀選別作業入力軸165の回転駆動力を伝える扱胴駆動軸160を備える。エンジン14の左側の出力軸150には、テンションローラ形脱穀クラッチ161及び脱穀駆動ベルト162を介して、脱穀選別作業入力軸165を連結する。扱胴駆動軸160上に、扱胴変速ギヤ機構389としての扱胴低速ギヤ115及び扱胴高速ギヤ116を配置する。脱穀選別作業入力軸165の回転力が、扱胴低速ギヤ115又は扱胴高速ギヤ116を介して扱胴駆動軸160に伝達される。
【0037】
また、図1、図2、図7に示す如く、扱胴駆動軸160に、スプラインを介して、軸芯線方向にスライド可能に扱胴変速シフタ381を軸支する。扱胴低速ギヤ115と扱胴変速シフタ381との間の扱胴駆動軸160上には、低速切換用の湿式多板クラッチ体382を設ける。低速切換用の湿式多板クラッチ体382と扱胴変速シフタ381を介して、脱穀選別作業入力軸165から扱胴駆動軸160に扱胴低速回転力を伝達する。また、扱胴高速ギヤ116と扱胴変速シフタ381との間の扱胴駆動軸160上には、高速切換用の湿式多板クラッチ体383を設ける。高速切換用の湿式多板クラッチ体383と扱胴変速シフタ381を介して、脱穀選別作業入力軸165から扱胴駆動軸160に扱胴高速回転力を伝達する。
【0038】
図7に示す如く、扱胴変速シフタ381に扱胴変速操作アーム395を連結する。扱胴変速操作アーム395に扱胴変速リンク機構397を介して扱胴変速アクチュエータとしての扱胴変速油圧シリンダ384を連結する。また、図1、図2、図7に示す如く、刈取装置3と運転キャビン10の間、即ち刈取装置3の右側部に対面した運転キャビン10の左外側部に扱胴変速レバー398を配置する。扱胴変速レバー398の基部に扱胴低速スイッチ385と扱胴高速スイッチ386を設ける。
【0039】
上記の構成により、運転座席12に座乗したオペレータが、運転キャビン10の左側の窓から手を出して、扱胴変速レバー398を操作し、扱胴低速スイッチ385又は扱胴高速スイッチ386を択一的にオン作動させ、扱胴変速油圧シリンダ384によって扱胴変速シフタ381を扱胴低速側又は扱胴高速側に変速作動させ、扱胴低速回転力又は扱胴高速回転力を扱胴駆動軸160に向けて出力するように構成している。穀稈の脱粒状況又は穀粒の選別状況が平均的な標準作業において、扱胴226は扱胴低速回転力によって駆動される。一方、脱粒しやすい穀稈の刈取作業を伴う収穫作業において、扱胴226は扱胴高速回転力によって駆動され、収穫作業の移動速度を高速側に維持して、作業時間を短縮可能に構成している。また、選別損失が多い脱穀作業を伴う収穫作業において、扱胴226は扱胴高速回転力によって駆動され、刺さり粒の発生(排藁に穀粒が混入して排藁カッタ235部から機外に排出される)等を抑えて、穀粒の選別損失を低減しながら、フィードチェン6にて搬送される穀稈の脱穀作業が実行されるように構成している。
【0040】
また、図5、図7に示す如く、扱胴駆動軸160には、扱胴駆動プーリ159及び扱胴駆動ベルト117を介して、扱胴226を軸支した扱胴軸163と、処理胴229を軸支した処理胴軸164とを連結する。エンジン14の略一定回転数の回転力によって、扱胴226及び処理胴229が所定回転数(低速回転数又は高速回転数)で回転するように構成している。また、エンジン14の略一定回転数の回転力によって、脱穀選別作業入力軸165を介して、揺動選別盤227、唐箕ファン228、一番コンベヤ231、二番コンベヤ232、選別ファン241、排塵ファン230等の穀粒選別機構が略一定回転数で回転するように構成している。
【0041】
図5、図7、図9乃至図11に示す如く、エンジン14の左側方で、脱穀装置5の前側方の走行機体1上に、カウンタケース89を設けている。カウンタケース89には、上述した扱胴駆動軸160と、扱胴駆動軸160に連結する脱穀選別作業入力軸165と、PTO軸99に連結する車速同調軸100と、脱穀選別作業入力軸165又は車速同調軸100に連結する刈取伝動軸101と、刈取り入力軸17に連結する刈取駆動軸102と、フィードチェン6を駆動するフィードチェン駆動軸103とを配置している。脱穀駆動プーリ118及び脱穀駆動ベルト162を介して、エンジン14の出力軸15が脱穀選別作業入力軸165に連結されている。刈取装置3及び脱穀装置5に脱穀選別作業入力軸165から刈取駆動力及び脱穀駆動力を伝達させる。PTOプーリ119、PTOベルト120、PTOカウンタ軸121上のPTOカウンタプーリ122a,122b、車速同調プーリ104、車速同調ベルト123を介して、ミッションケース88のPTO軸99が車速同調軸100に連結され、カウンタケース89にPTO軸99から車速同調駆動力を伝達させる。
【0042】
図7に示す如く、カウンタケース89内の車速同調軸100上には、刈取装置3に車速同調軸100の車速同調回転力を伝える一方向クラッチ105を設けている。車速同調軸100に、刈取変速機構108と一方向クラッチ105とを介して、刈取伝動軸101を連結する。刈取変速機構108は、低速側変速ギヤ106と高速側変速ギヤ107とを有する。低速及び中立(零回転)及び高速の各刈取変速を行う刈取変速操作手段(図示省略)と刈取変速スライダ108aによって低速側変速ギヤ106又は高速側変速ギヤ107を刈取伝動軸101に択一的に係合させ、車速同調軸100から刈取変速機構108を介して刈取伝動軸101に刈取変速出力を伝えるように構成している。
【0043】
図7に示す如く、脱穀選別作業入力軸165に一定回転機構111を介して刈取伝動軸101を連結する。一定回転機構111は、低速側一定回転ギヤ109と高速側一定回転ギヤ110とを有する。低速及び中立(零回転)及び高速の各一定回転変速を行う一定回転変速操作手段(図示省略)と一定回転切換スライダ111aによって低速側一定回転ギヤ109又は高速側一定回転ギヤ110を刈取伝動軸101に択一的に係合させ、脱穀選別作業入力軸165から一定回転機構111を介して刈取伝動軸101に一定回転変速出力を伝えるように構成している。
【0044】
また、刈取伝動軸101にトルクリミッタ114を介して刈取駆動軸102を連結する。刈取駆動軸102に、刈取駆動プーリ124及び刈取駆動ベルト125を介して刈取り入力軸17を連結させ、刈取装置3に刈取駆動軸102から刈取駆動力を伝達させる。刈取作業の維持に必要な一定回転数の回転出力が低速側一定回転ギヤ109を介して脱穀選別作業入力軸165から刈取伝動軸101に伝達される。したがって、走行機体1の移動速度に関係なく、低速側一定回転ギヤ109からの一定回転数で刈取り入力軸17を作動させて刈取作業を維持でき、圃場の枕地での方向転換作業性等を向上できる。脱穀選別プーリ126及び選別駆動ベルト127を介して、脱穀選別作業入力軸165が唐箕ファン228又は一番コンベヤ231等に連結され、脱穀装置5の穀物選別機構245(唐箕ファン228等)に脱穀選別作業入力軸165から脱穀駆動力を伝達させる。
【0045】
また、車速同調軸100及び高速側変速ギヤ107からの車速同調出力の最高速よりも早い一定回転数の回転出力が高速側一定回転ギヤ110を介して脱穀選別作業入力軸165から刈取伝動軸101に伝達される。したがって、車速同調出力の最高速よりも早い高速側一定回転ギヤ110からの一定回転数で刈取り入力軸17を作動でき、倒伏穀稈の刈取り作業性等を向上できる。なお、トルクリミッタ114によって設定したトルク以下の回転力で刈取り入力軸17が作動して、刈刃132等が損傷するのを防止している。
【0046】
カウンタケース89には、脱穀選別作業入力軸165にフィードチェン駆動軸103を連結する遊星ギヤ形変速構造のフィードチェン同調機構112が設けられている。脱穀選別作業入力軸165の回転出力が、フィードチェン同調機構112によって刈取伝動軸101の回転数に比例して変速されて、フィードチェン駆動軸103に伝達される。即ち、フィードチェン同調機構112を介してフィードチェン6を作動することによって、穀稈の搬送に必要な最低回転数(低速側一定回転ギヤ109からの一定回転数)を確保し乍ら、フィードチェン6の穀稈搬送速度を車速と同調させて変更可能に構成している。
【0047】
次に、図5、図6を参照して、ミッションケース88等の動力伝達構造を説明する。図5、図6に示す如く、ミッションケース88に、1対の直進用第1油圧ポンプ(HST走行ポンプ)55及び直進用第1油圧モータ(HST走行モータ)56を有する直進(走行主変速)用の油圧式無段変速機構53と、1対の旋回用第2油圧ポンプ(HST旋回ポンプ)57及び旋回用第2油圧モータ(HST旋回モータ)58を有する旋回用の油圧式無段変速機構54とを設ける。第1油圧ポンプ55及び第2油圧ポンプ57の各ポンプ軸59に、ミッションケース88の走行入力軸152をそれぞれ連結させて駆動するように構成している。走行入力軸152上に走行入力プーリ155を設け、走行入力プーリ155に走行駆動ベルト151を掛け回している。走行入力プーリ155に走行駆動ベルト151を介してエンジン14の出力を伝達する。また、ミッションケース88にPTO軸99を配置している。PTO軸99は、直進用モータ軸60及び主変速出力用カウンタ軸70を介して、第1油圧モータ56によって駆動される。ミッションケース88からこの左外側にPTO軸99の一端側を突設させている。PTO軸99上にPTOプーリ119を設け、PTOプーリ119に車速同調ベルト123を掛け回している。
【0048】
図5、図6に示す如く、エンジン14の出力軸150から出力される駆動力は、走行駆動ベルト151及び走行入力軸152を介して、第1油圧ポンプ55のポンプ軸59及び第2油圧ポンプ57のポンプ軸59にそれぞれ伝達される。直進用油圧式無段変速機構53では、ポンプ軸59に伝達された動力にて、第1油圧ポンプ55から第1油圧モータ56に向けて作動油が適宜送り込まれる。同様に、旋回用油圧式無段変速機構54では、ポンプ軸59に伝達された動力にて、第2油圧ポンプ57から第2油圧モータ58に向けて作動油が適宜送り込まれる。
【0049】
なお、ポンプ軸59には、油圧ポンプ55,57及び油圧モータ56,58に作動油を供給するためのチャージポンプ251が取付けられている。直進用油圧式無段変速機構53は、操縦部9に配置された主変速レバー43や操縦ハンドル11の操作量に応じて、第1油圧ポンプ55における回転斜板の傾斜角度を変更調節して、第1油圧モータ56への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第1油圧モータ56から突出した直進用モータ軸60の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。
【0050】
図6に示す如く、直進用モータ軸60の回転動力は、直進伝達ギヤ機構62から副変速ギヤ機構51に伝達される。副変速ギヤ機構51は、副変速シフタ64によって切換える副変速低速ギヤ62及び副変速高速ギヤ63を有する。レバーコラム47に配置された副変速スイッチ44の操作にて、直進用モータ軸60の出力回転数を低速又は高速という2段階の変速段に切換えるように構成している。なお、副変速の低速と高速との間には、中立位置(副変速の出力が零になる位置)を有している。なお、副変速スイッチ44には、低速切換釦と、中立切換釦と、高速切換釦が配置されている。低速切換釦又は中立切換釦又は高速切換釦の押し操作によって、副変速出力が、超低速出力、低速出力、中立、高速出力に択一的に切換わる。
【0051】
図6に示す如く、副変速ギヤ機構51の出力側に設けられた駐車ブレーキ軸65(副変速出力軸)には、ドラム式の駐車ブレーキ66が設けられている。副変速ギヤ機構51からの回転動力は、駐車ブレーキ軸65に固着された副変速出力ギヤ67から左右の差動機構52に伝達される。左右の差動機構52は、遊星ギヤ機構68をそれぞれ備えている。また、駐車ブレーキ軸65上に直進用パルス発生回転輪体92を設け、直進用パルス発生回転輪体92に直進用ピックアップ回転センサ93(直進車速センサ)を対向させて配置し、回転センサ93によって、直進出力の回転数(直進車速、副変速出力ギヤ67出力)を検出するように構成している。
【0052】
図6に示す如く、左右各遊星ギヤ機構68は、1つのサンギヤ71と、サンギヤ71に噛合う複数の遊星ギヤ72と、遊星ギヤ72に噛合うリングギヤ73と、複数の遊星ギヤ72を同一円周上に回転可能に配置するキャリヤ74とをそれぞれ備えている。左右の遊星ギヤ機構68のキャリヤ74は、同一軸線上において適宜間隔を設けて相対向させて配置されている。左右のサンギヤ71が設けられたサンギヤ軸75にセンタギヤ76を固着している。
【0053】
左右の各リングギヤ73は、その内周面の内歯を複数の遊星ギヤ72に噛合わせた状態で、サンギヤ軸75に同心状に配置されている。また、左右の各リングギヤ73は、その外周面の外歯を左右旋回出力ギヤ86に噛合わせて、中継軸85に連結させている。各リングギヤ73は、キャリヤ74の外側面から左右外向きに突出した左右の強制デフ出力軸77に回転可能に軸支されている。左右の強制デフ出力軸77に、ファイナルギヤ78a,78bを介して左右の車軸153が連結されている。左右の車軸153には左右の駆動スプロケット22が取付けられている。従って、副変速ギヤ機構51から左右の遊星ギヤ機構68に伝達された回転動力は、左右の車軸153から各駆動スプロケット22に同方向の同一回転数にて伝達され、左右の走行クローラ2を同方向の同一回転数にて駆動して、走行機体1を直進(前進、後退)移動させる。
【0054】
旋回用油圧式無段変速機構54は、操縦部9に配置された主変速レバー43や操縦ハンドル11の回動操作量に応じて、第2油圧ポンプ57における回転斜板の傾斜角度を変更調節して、第2油圧モータ58への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第2油圧モータ58から突出した旋回用モータ軸61の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。また、後述する操向カウンタ軸80上に旋回用パルス発生回転輪体94を設け、旋回用パルス発生回転輪体94に旋回用ピックアップ回転センサ95を対向させて配置し、回転センサ95(旋回車速センサ)によって、第2油圧モータ58の操向出力の回転数(旋回車速)を検出するように構成している。
【0055】
また、ミッションケース88内には、旋回用モータ軸61(操向入力軸)上に設ける湿式多板形の旋回ブレーキ79(操向ブレーキ)と、旋回用モータ軸61に減速ギヤ81を介して連結する操向カウンタ軸80と、操向カウンタ軸80に減速ギヤ86を介して連結する操向出力軸85と、左リングギヤ73に逆転ギヤ84を介して操向出力軸85を連結する左入力ギヤ機構82と、右リングギヤ73に操向出力軸85を連結する右入力ギヤ機構83とを設けている。旋回用モータ軸61の回転動力は、操向カウンタ軸80に伝達される。操向カウンタ軸80に伝達された回転動力は、左の入力ギヤ機構82の左中間ギヤ87及び86逆転ギヤ84を介して逆転回転動力として、右の入力ギヤ機構83の右中間ギヤ87を介して正転回転動力として、左右のリングギヤ73にそれぞれ伝達される。
【0056】
副変速ギヤ機構51を中立にした場合は、第1油圧モータ56から左右の遊星ギヤ機構68への動力伝達が阻止される。副変速ギヤ機構51から中立以外の副変速出力時に、副変速低速ギヤ62又は副変速高速ギヤ63を介して第1油圧モータ56から左右の遊星ギヤ機構68へ動力伝達される。一方、第2油圧ポンプ57の出力をニュートラル状態とし、且つ旋回ブレーキ79を入り状態とした場合は、第2油圧モータ58から左右の遊星ギヤ機構68への動力伝達が阻止される。第2油圧ポンプ57の出力をニュートラル以外の状態とし、且つ旋回ブレーキ79を切り状態とした場合は、第2油圧モータ58の回転動力が、左入力ギヤ機構82及び逆転ギヤ84を介して左リングギヤ73に伝達される一方、右入力ギヤ機構83を介して右リングギヤ73に伝達される。
【0057】
その結果、第2油圧モータ58の正回転(逆回転)時は、互いに逆方向の同一回転数で、左リングギヤ73が逆転(正転)し、右リングギヤ73が正転(逆転)する。即ち、各モータ軸60,61からの変速出力は、副変速ギヤ機構51又は差動機構52をそれぞれ経由して、左右の走行クローラ2の駆動スプロケット22にそれぞれ伝達され、走行機体1の車速(走行速度)及び進行方向が決定される。
【0058】
すなわち、第2油圧モータ58を停止させて左右リングギヤ73を静止固定させた状態で、第1油圧モータ56が駆動すると、直進用モータ軸60からの回転出力は左右サンギヤ71に左右同一回転数で伝達され、遊星ギヤ72及びキャリヤ74を介して、左右の走行クローラ2が同方向の同一回転数にて駆動され、走行機体1が直進走行する。
【0059】
逆に、第1油圧モータ56を停止させて左右サンギヤ71を静止固定させた状態で、第2油圧モータ58を駆動させると、旋回用モータ軸61からの回転動力にて、左のリングギヤ73が正回転(逆回転)し、右のリングギヤ73は逆回転(正回転)する。その結果、左右の走行クローラ2の駆動スプロケット22のうち、一方が前進回転し、他方が後退回転し、走行機体1はその場で方向転換(信地旋回スピンターン)される。
【0060】
また、第1油圧モータ56によって左右サンギヤ71を駆動しながら、第2油圧モータ58によって左右リングギヤ73を駆動することによって、左右の走行クローラ2の速度に差が生じ、走行機体1は前進又は後退しながら信地旋回半径より大きい旋回半径で左又は右に旋回(Uターン)する。このときの旋回半径は左右の走行クローラ2の速度差に応じて決定される。
【0061】
次に、図8を参照して、コンバインの油圧回路構造について説明する。図8に示す如く、油圧回路250には、上述した第1油圧ポンプ55と、第1油圧モータ56と、第2油圧ポンプ57と、第2油圧モータ58と、チャージポンプ251とを備える。第1油圧ポンプ55と第1油圧モータ56が、閉ループ状直進油路252によって接続される。第2油圧ポンプ57と第2油圧モータ58が、閉ループ状旋回油路253によって接続される。エンジン14によって第1油圧ポンプ55と第2油圧ポンプ57が駆動され、第1油圧ポンプ55の斜板角制御又は第2油圧ポンプ57の斜板角制御によって、第1油圧モータ56又は第2油圧モータ58を正転又は逆転作動するように構成している。
【0062】
一方、前記操縦ハンドル11の手動スイッチ遠隔操作によって電気的に切換える電磁油圧形操向バルブ270と、前記チャージポンプ251に操向バルブ270を介して接続させる操向シリンダ271を設ける。そして、操縦ハンドル11を操作した場合、操縦ハンドル11の操舵角が操舵角センサ(図示省略)等にて検出されて、操向バルブ270が切換えられると、操向シリンダ271が作動して第2油圧ポンプ57の斜板57a角度を変更させ、第2油圧モータ58の旋回用モータ軸61の回転数を無段階に変化させたり、逆転させる左右操向動作を行わせ、走行(移動)方向を左右に変更して圃場枕地で方向転換したり進路を修正する。また、操向用の油圧サーボ機構275が形成されている。斜板57aの角度調節動作によって操向バルブ270が中立復帰するフィードバック動作を油圧サーボ機構275にて行わせ、操縦ハンドル11の操作量に比例させて斜板57a角度を変化させ、第2油圧モータ58の回転数を変更させるように構成している。
【0063】
また、図8に示す如く、前記主変速レバー43の手動スイッチ遠隔操作によって電気的に切換える電磁油圧形変速バルブ272と、前記チャージポンプ251に変速バルブ272を介して接続させる変速シリンダ273を設ける。そして、主変速レバー43を操作した場合、主変速レバー43の操作量が主変速センサ(図示省略)等にて検出されて、変速バルブ272が切換えられると、変速シリンダ273が作動して第1油圧ポンプ55の斜板55a角度を変更させ、第1油圧モータ56の直進用モータ軸60の回転数を無段階に変化させたり、逆転させる走行変速動作を行わせ、また、走行変速用の油圧サーボ機構277が形成されている。斜板55aの角度調節動作によって変速バルブ272が中立復帰するフィードバック動作を油圧サーボ機構277にて行わせ、主変速レバー43の操作量に比例させて斜板55a角度を変化させ、第1油圧モータ56の回転数を変更させ、主変速レバー43の操作によって直進用モータ軸60を前後進回転させるように構成している。
【0064】
また、図8に示す如く、刈取変速機構108の刈取変速スライダ108aを作動させる油圧刈取変速シリンダ280と、一定回転機構111の一定回転切換スライダ111aを作動させる油圧刈取定速シリンダ281と、上記した扱胴変速油圧シリンダ384とを備える。刈取変速シリンダ280と、刈取定速シリンダ281は、前記カウンタケース89の上面蓋(油路ベース)の内面側に配置する。刈取変速シリンダ280を作動させる電磁油圧形刈取変速バルブ282と、刈取定速シリンダ281を作動させる電磁油圧形刈取定速バルブ283と、扱胴変速油圧シリンダ384を作動させる電磁油圧形扱胴変速バルブ284を、前記チャージポンプ251に並列にそれぞれ油圧接続させる。
【0065】
即ち、電磁比例制御形油圧扱胴変速バルブ284の制御によって扱胴変速油圧シリンダ384のピストンロッドを進出又は退入させ、扱胴変速シフタ381を中立から標準(低速)出力側又は高速出力側に切換えるように構成している。なお、カウンタケース89のメインケース体91の上面に上面蓋(油路ベース)90を着脱自在にボルト止め固定させ、メインケース体91の上面開口を閉塞すると共に、上面蓋90の上面側に前記の各バルブ282,283を配置し、前記上面蓋90の下面側に各シリンダ280,281を配置し、各シリンダ280,281をメインケース体91に内設させる。また、前記カウンタケース89内の図示しないフォーク軸に、刈取変速スライダ108aを切換える変速フォーク(図示省略)、並びに一定回転切換スライダ111aを切換える定速フォーク(図示省略)を軸芯方向に摺動自在に設け、前記各バルブ282,283の制御によって各シリンダ280,281のピストンロッドを進出又は退入させ、前記変速フォークを中立から高速又は標準(低速)出力側に切換える一方、前記定速フォークを中立から高速一定回転側または低速一定回転側に切換えるように構成している。
【0066】
また、前記バルブ282,283,284が中立のとき、前記各シリンダ280,281,384のピストンロッドをチャージポンプ251の油圧力によって中立位置に復動させて、バネ等を設けることなくスライダ108a,111aや扱胴変速シフタ381を加圧状態で中立位置に復帰させて支持できる。複動形の各シリンダ280,281,384によって3ポジション切換を適正に行わせることができ、コンパクトで確実な切換え機構を構成でき、刈取変速機構108または一定回転機構111の一方又は両方の切換え構造と、扱胴変速ギヤ機構389の切換え構造とを簡略化でき、刈取変速や扱胴変速などの操作性を向上できるように構成している。
【0067】
図1、図5、図7、図9に示す如く、エンジン14を搭載した走行機体1と、扱胴226を有する脱穀装置5と、エンジン14の動力を扱胴226に伝達する扱胴変速ギヤ機構389を備えている。収穫作業条件に基づき、扱胴226の回転数を多段的に選択可能な扱胴変速ギヤとしての扱胴高速ギヤ116、扱胴低速ギヤ115列によって扱胴変速手段としての扱胴変速ギヤ機構389を構成している。したがって、扱胴変速ギヤ機構389を介して扱胴226の回転数を多段的に切換えることによって、複数の作業条件別に扱胴226の脱粒機能を簡単に変更できる。手動のギヤ変速に比べて変速動作の応答性を向上できる。扱胴226の変速範囲で中立域(零回転状態)を形成し、扱胴226だけを停止でき、圃場の枕地での旋回等において、エンジン14の損失馬力を低減できる。その結果、エンジン14の燃費を向上できる。湿田などの圃場内における走行クローラ2の駆動力(走破力)を確保できる。
【0068】
次に、図5、図7、図9乃至図11を参照しながら、エンジン14と、ミッションケース88と、カウンタケース89の伝動構造について説明する。図5、図7、図9乃至図11に示す如く、走行機体1の上面の右側にエンジン14が搭載され、走行機体1の左右幅中央の前方にミッションケース88が設置され、走行機体1の上面の左側にカウンタケース89が配置されている。左右方向に延長されたエンジン14の出力軸150の左側端部に出力プーリ149を軸支し、ミッションケース88の左側の上部の走行入力プーリ155と出力プーリ149の間に走行駆動ベルト151を掛け回している。その構成により、ミッションケース88の各無段変速機構53,54にエンジン14の出力がそれぞれ伝達される。
【0069】
一方、排出オーガ8を収納(非作業)位置に支持する柱状フレーム290が走行機体1の上面に立設され、その柱状フレーム290の基端部の前面に軸受体291を介してPTOカウンタ軸121が回転自在に軸支されている。PTOカウンタ軸121上のPTOカウンタプーリ122aとPTOプーリ119の間にPTOベルト120を掛け回している。また、PTOカウンタ軸121上のPTOカウンタプーリ122bと車速同調プーリ104の間に車速同調ベルト123を掛け回している。その構成により、PTO軸99から車速同調軸100にミッションケース88の車速同調駆動力が伝達される。
【0070】
さらに、エンジン14の出力軸150上の出力プーリ149と脱穀駆動プーリ118の間に脱穀駆動ベルト162を掛け回している。また、脱穀クラッチ161を切換える脱穀入力アクチュエータとしての脱穀クラッチ用電動モータ175と、穀物選別機構245にエンジン14の動力を伝達する選別駆動軸としての脱穀選別作業入力軸165とを備える。作業クラッチレバー45の操作によって脱穀クラッチ用電動モータ175を作動させて、脱穀クラッチ161を入り動作させることによって脱穀駆動ベルト162が緊張状態に維持され、カウンタケース89にエンジン14の出力が伝達される一方、脱穀クラッチ161の切り動作によって脱穀駆動ベルト162が弛緩状態に維持される。
【0071】
エンジン14の後方の走行機体1の上面にクラッチユニットシャーシ176を配置し、クラッチユニットシャーシ176に脱穀クラッチ入り切り機構177を組付け、クラッチユニットシャーシ176に脱穀クラッチ用電動モータ175を設ける。脱穀クラッチ161を支持したテンションアーム(図示省略)に、脱穀クラッチ入り切り機構177を介して、脱穀クラッチ用電動モータ175が連結されている。カウンタケース89に軸支された脱穀選別作業入力軸165上の脱穀駆動プーリ118を挟んで、カウンタケース89と反対側に脱穀クラッチ用電動モータ175が配置される。
【0072】
即ち、脱穀クラッチ用電動モータ175又は脱穀クラッチ入り切り機構177が設置されるスペースをカウンタケース89側に確保する必要がないから、カウンタケース89の右側に近接させて脱穀駆動プーリ118を支持できる。脱穀クラッチ用電動モータ175又は脱穀クラッチ入り切り機構177等に規制されることなく、脱穀選別作業入力軸165の延長に伴う軸受構造の高剛性化などを不要にして、大きな変速比(減速比)が設定可能な大径の脱穀駆動プーリ118を簡単に設置できる。
【0073】
また、走行機体1の上面に複数のケース受け台94を突出させる一方、カウンタケース89のメインケース体91の左側端部の前面及び後面と、カウンタケース89の右側ケース体92の左側端部の前面及び後面とに、複数の支持脚体95,96をそれぞれ一体的に形成する。各ケース受け台94の上面に各支持脚体95,96をそれぞれ載置し、各ケース受け台94に各支持脚体95,96をケース支持ボルト97にてそれぞれ締結している。即ち、右側ケース体92と左側ケース体93がメインケース体91に一体的に合体された状態で、カウンタケース89が走行機体1に着脱されるように構成している。なお、左側ケース体93は、メインケース体91に複数本のボルトにて締結されている。
【0074】
次に、図12は扱胴変速機構(カウンタケース89)の第2実施形態を示すもので、図7に示す扱胴変速ギヤ機構389に代えて、扱胴油圧無段変速機構401を設けている。扱胴油圧無段変速機構401は、閉ループ油圧回路にて接続された扱胴変速油圧ポンプ402と扱胴変速油圧モータ403を有する。扱胴変速油圧ポンプ402の扱胴変速入力用のポンプ軸404に、ベベルギヤ405を介して、脱穀選別作業入力軸165を連結する。脱穀選別作業入力軸165によって扱胴変速油圧ポンプ402を駆動するように構成している。一方、扱胴駆動軸160上に扱胴変速油圧モータ403を設け、扱胴変速油圧モータ403によって扱胴駆動軸160を回転させるように構成している。
【0075】
また、扱胴変速油圧ポンプ402のトラニオンアーム(図示省略)に扱胴変速操作アーム395を連結する。扱胴変速操作アーム395に扱胴変速リンク機構397を介して扱胴変速アクチュエータとしての扱胴変速油圧シリンダ384を連結する。運転座席12に座乗したオペレータが扱胴変速レバー398を操作し、扱胴低速スイッチ385又は扱胴高速スイッチ386を択一的にオン作動させ、電磁比例制御式の扱胴変速バルブ284によって、扱胴変速油圧シリンダ384を中立位置から扱胴低速側又は扱胴高速側に無段階に作動させるように構成している。
【0076】
即ち、扱胴変速油圧シリンダ384によって扱胴変速操作アーム395を介して扱胴変速油圧ポンプ402の出力を扱胴低速側又は扱胴高速側に変速作動させる。その結果、扱胴変速油圧モータ403の油圧出力(扱胴駆動軸160の回転数)が無段階に増減制御され、扱胴無段変速回転力が扱胴駆動軸160から扱胴226に向けて出力されるように構成している。扱胴226の回転数を無段変速することによって、オペレータが望む任意の回転数に扱胴226の回転数を選択できる。扱胴変速油圧シリンダ384等の変速装置を電磁制御することによって、キャビン10を開閉させるメンテナンス作業性を維持しながら、ハーネスの設置だけで、扱胴低速スイッチ385又は扱胴高速スイッチ386等の変速操作具をキャビン10内に配置できる。
【0077】
次に、図13、図14を参照して、扱胴変速油圧シリンダ384の制御回路及び制御態様を説明する。図13に示す如く、エンジン14等を作動させるキースイッチ411と、主変速レバー43の変速操作位置を電気的に検出する主変速センサ412と、エンジン14の回転数を電気的に検出するエンジン回転センサ413と、作業クラッチレバー45の操作によって脱穀クラッチ用電動モータ175を作動させる脱穀作業スイッチ414と、扱胴低速スイッチ385と、扱胴高速スイッチ386を、マイクロコンピュータで形成する作業コントローラ415に入力接続する。
【0078】
また、図13に示す如く、脱穀クラッチ用電動モータ175と、扱胴変速バルブ284の電磁ソレノイドと、ブザー等の報知機416を作業コントローラ415に出力接続する。キースイッチ411のオン操作によって、図14のフローチャートに示す扱胴変速制御が実行され、扱胴226が低速回転乃至高速回転にて駆動される一方、揺動選別盤227等の穀粒選別機構を作動させながら、扱胴226と処理胴229だけを停止させることによって、エンジン14の負荷を軽減するように構成している。
【0079】
即ち、図14のフローチャートに示す如く、扱胴変速制御が実行される。先ず、キースイッチ411がオン操作されてエンジン14が始動され、作業クラッチレバー45がオン操作されて、脱穀作業スイッチ414がオンになり、脱穀クラッチ161が入り制御されると、扱胴低速制御によって扱胴226が低速回転数にて駆動され、刈取穀稈を脱穀する収穫作業が開始される。エンジン14は、半固定状態のアクセルレバー(図示省略)の設定によって、一定回転で定格運転される。また、収穫作業中、負荷によって変動するエンジン14の回転数がエンジン回転センサ413から入力されると、エンジン回転センサ413値に基づき、エンジン14の負荷が所定よりも軽負荷の状態(扱胴226を高速回転数にて駆動可能な扱胴高速作業範囲)であるか否かを判断する。
【0080】
そして、エンジン14の負荷が所定よりも軽負荷の状態ではないときには、扱胴低速制御によって、扱胴226の低速回転駆動が維持され、収穫作業が継続される。一方、エンジン14の負荷が所定よりも軽負荷の状態であるときには、扱胴高速制御によって扱胴226が高速回転数にて駆動され、エンジン14の負荷が所定負荷に維持されて収穫作業が継続される。扱胴226を高速回転させることによって、刺さり粒(排藁中に保持されて機外に放出される穀粒)等を低減できる。
【0081】
また、扱胴高速制御によって扱胴226が高速回転数にて駆動された場合、扱胴226の高速回転駆動をオペレータが察知して、エンジン14の負荷を所定範囲に維持するように、オペレータが車速を増速して高速移動することにより、収穫作業能率を向上できる。なお、オペレータが扱胴変速レバー398を操作して、扱胴低速スイッチ385又は扱胴高速スイッチ386をオンにしても、上述した扱胴低速制御又は扱胴高速制御が優先して実行され、オペレータの不適正な操作(エンジン14の過負荷運転等)を防止する。
【0082】
さらに、例えば圃場の枕地での方向転換等において、扱胴226によって脱粒していた穀稈がなくなった場合、扱胴226が空回転していることをオペレータが察知して、扱胴変速レバー398を操作して、扱胴低速スイッチ385及び扱胴高速スイッチ386をともにオフにして、扱胴変速を中立(扱胴226の回転数が零)の状態に切換える扱胴停止制御によって、扱胴226及び処理胴229を停止させる。扱胴226及び処理胴229の停止によって、扱胴226等の駆動騒音やエンジン14の出力損失等を低減できる。また、圃場の枕地で走行負荷が大きくなっても、定格運転(一定回転)状態のエンジン14を過負荷運転することなく、走行クローラ2を駆動できる。
【0083】
なお、扱胴低速スイッチ385及び扱胴高速スイッチ386は、オンオフ切換スイッチ構造に形成したが、増速変速信号又は減速変速信号を無段階に出力させるポテンショメータ等の可変抵抗器構造に形成してもよい。一方、扱胴226及び処理胴229が停止しても、脱穀クラッチ161が入り維持されていることによって、揺動選別盤227等の穀粒選別機構の駆動が継続され、穀粒選別損失が発生するのを防止できる。
【0084】
他方、脱穀クラッチ161が入り維持されていることによって、脱穀駆動ベルト162の緊張状態が維持され、且つ扱胴226を再作動時、湿式多板クラッチ体382,383(又は扱胴油圧無段変速機構401)の半クラッチ作用によって、扱胴226が所定回転数に増速されるから、脱穀クラッチ161を切り入りして扱胴226を再作動させるのに比べ、脱穀駆動ベルト162等の損傷を低減できる。
【0085】
図5、図7、図12、図13に示す如く、エンジン14を搭載した走行機体1と、扱胴226を有する脱穀装置5と、扱胴226にエンジン14からの動力を伝達する扱胴変速機構389,401を備えたコンバインにおいて、扱胴226の回転数を選択可能な扱胴変速機構としての扱胴変速ギヤ機構389又は扱胴油圧無段変速機構401の変速モード中に、扱胴226に伝達される回転駆動力が殆ど零になる中立ゾーンを設定している。したがって、脱穀クラッチ161が入り維持されていることによって、揺動選別盤227等の穀粒選別機構の駆動が継続された状態で、扱胴226を停止でき、扱胴226等の駆動騒音や、エンジン14の出力損失等を低減できる。
【0086】
また、従来構造に比べ、扱胴226等を駆動するための脱穀駆動ベルト162の耐久性を向上できる。例えば、脱穀駆動ベルト162を緊張した状態に維持しながら、脱穀駆動ベルト162又はプーリを空転させることなく、零回転(停止状態)から所定回転数に扱胴226の回転数をスムーズに上げるように作動できる。即ち、脱穀駆動ベルト162の半クラッチ作用によって、エンジン14の出力回転数と扱胴226の実回転数との差を吸収させる必要がないから、脱穀駆動ベルト162等の扱胴駆動機構の損傷を低減できる。脱穀駆動ベルト162等のメンテナンス作業性を向上でき、メンテナンスコスト等を低減できる。
【0087】
図5、図7、図12、図13に示す如く、刈取装置3又は脱穀装置5にエンジン14の動力を伝達させるカウンタギヤケース89を備える構造であって、カウンタギヤケース89に扱胴変速機構389を内設し、扱胴変速機構を扱胴変速ギヤ機構(クラッチ形多段変速機)389によって形成し、扱胴226の回転数を多段階に変速可能に構成している。したがって、カウンタギヤケース89の一部を利用して、扱胴変速ギヤ機構389をコンパクトに組付けて低コストに構成できる。クラッチ形多段変速機の変速段数の選択等によって扱胴変速ギヤ機構389の製造コスト又はメンテナンスコスト等を簡単に低減できる。
【0088】
図5、図7、図12、図13に示す如く、刈取装置3又は脱穀装置5にエンジン14の動力を伝達させるカウンタギヤケース89を備える構造であって、カウンタギヤケース89に扱胴変速機構401を配置し、扱胴変速機構を扱胴油圧無段変速機構(無段変速機)401によって形成し、扱胴226の回転数を無段階に変速可能に構成している。したがって、扱胴226の回転数を任意の回転数に簡単に設定できる。例えば、作物の種類や作物の生育状況等に幅広く適応可能に、扱胴226の回転数を設定でき、扱胴226の脱粒性能を向上できる。カウンタギヤケース89の内部又は外部を利用して、扱胴油圧無段変速機構401をコンパクトに組付けて低コストに構成できる。カウンタギヤケース89の内部に扱胴油圧無段変速機構401を配置した場合、扱胴油圧無段変速機構401を容易に保護できる。一方、カウンタギヤケース89の外部に扱胴油圧無段変速機構401を配置した場合、扱胴油圧無段変速機構401のメンテナンス作業性を向上できる。
【0089】
図1、図7、図12、図13に示す如く、運転姿勢のオペレータが運転座席12から操作可能な位置に扱胴変速機構389,401の変速操作具としての扱胴変速レバー398(扱胴低速スイッチ385、扱胴高速スイッチ386)を配置し、扱胴変速機構389,401の変速動作を電気的に遠隔制御するように構成している。したがって、油圧クラッチや比例弁などの電気的制御手段を利用し、有線又は無線操作にて扱胴変速機構389,401を遠隔制御することによって、扱胴変速レバー398(扱胴低速スイッチ385、扱胴高速スイッチ386)の操作等によって扱胴変速機構389,401を簡単に自動制御できる。例えば、オペレータが搭乗するキャビン10を設ける機種において、キャビン10の展開などが必要なエンジン又はミッションケース等の本機側のメンテナンス作業性を向上できる。また、扱胴変速機構389,401の制御を容易に自動化でき、収穫作業速度(車速、刈取速度)等の運転状況や収穫作業状況等の脱穀作業条件の変化に関連させて、扱胴変速機構389,401の自動制御を実行できる。
【符号の説明】
【0090】
1 走行機体
3 刈取装置
5 脱穀装置
12 運転座席
14 エンジン
89 カウンタギヤケース
226 扱胴
385 扱胴低速スイッチ(変速操作具)
386 扱胴高速スイッチ(変速操作具)
389 扱胴変速ギヤ機構(扱胴変速機構、クラッチ形多段変速機)
398 扱胴変速レバー(変速操作具)
401 扱胴油圧無段変速機構(扱胴変速機構、無段変速機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを搭載した走行機体と、扱胴を有する脱穀装置と、前記扱胴に前記エンジンからの動力を伝達する扱胴変速機構を備えたコンバインにおいて、
前記扱胴の回転数を選択可能な前記扱胴変速機構の変速モード中に、前記扱胴に伝達される回転駆動力が殆ど零になる中立ゾーンを設定したことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記刈取装置又は前記脱穀装置に前記エンジンの動力を伝達させるカウンタケースを備える構造であって、前記カウンタケースに前記扱胴変速機構を内設し、前記扱胴変速機構をクラッチ形多段変速機によって形成し、前記扱胴の回転数を多段階に変速可能に構成したことを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。
【請求項3】
前記刈取装置又は前記脱穀装置に前記エンジンの動力を伝達させるカウンタケースを備える構造であって、前記カウンタケースに前記扱胴変速機構を配置し、前記扱胴変速機構を無段変速機によって形成し、前記扱胴の回転数を無段階に変速可能に構成したことを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。
【請求項4】
運転姿勢のオペレータが運転席から操作可能な位置に前記扱胴変速機構の変速操作具を配置し、前記扱胴変速機構の変速動作を電気的に遠隔制御するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−167094(P2011−167094A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31991(P2010−31991)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】