説明

シリコーン変性アダマンタン誘導体、光ラジカル硬化性樹脂組成物及び光ラジカル硬化性樹脂組成物の製造方法

【課題】 新規な特定の構造のシリコーン変性アダマンタン誘導体により、低照度の光照射でも硬化し、良好な耐湿性だけでなく各種基材に対しても良好な接着性を示す硬化物を得ることができる光ラジカル硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 下記一般式(1)で示されるシリコーン変性アダマンタン誘導体。
【化1】


(式中、Rは互いに独立に、水素原子またはメチル基であり、Rは互いに独立に、メチル基またはフェニル基であり、nは2〜1000の整数であり、kは0〜2のである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電気・電子部品の保護用コーティング剤として有用な新規シリコーン変性アダマンタン誘導体、光ラジカル硬化性樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線等を照射することによって硬化する組成物としてはアクリル(メタクリル)変性シリコーン樹脂(特許文献1)や分子鎖の両末端にアクリル基あるいはメタクリル基を有するオルガノポリシロキサンと光重合開始剤からなるオルガノポリシロキサン(特許文献2)などが既に知られている。
【0003】
しかしながら、これらの組成物は基材に対する接着性が低く、また充分な耐湿性を持っておらず、紫外線等の影響を受けやすい液晶電極、有機EL電極、プラズマディスプレイ電極の保護用コーティング剤として使用するには不十分であった。
従って、各種電気・電子部品(特に、液晶電極、有機EL電極、プラズマディスプレイ電極等)の保護用コーティング剤として有用な、基材に対する接着性に優れ、充分な耐湿性を有する材料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−163183号公報
【特許文献2】特開平11−302348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、新規な特定の構造のシリコーン変性アダマンタン誘導体を用いることにより、低照度の光照射でも硬化し、良好な耐湿性だけでなく各種基材に対しても良好な接着性を示す硬化物を得ることができる光ラジカル硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明によれば、下記一般式(1)で示されるシリコーン変性アダマンタン誘導体を提供する。
【化1】

(式中、Rは互いに独立に、水素原子またはメチル基であり、Rは互いに独立に、メチル基またはフェニル基であり、nは2〜1000の整数であり、kは0〜2の正数である。)
【0007】
このようなシリコーン変性アダマンタン誘導体は、アクリル基および/またはメタクリル基を含有する光ラジカル重合性化合物であり、紫外線等の光源に対する感度が高いため、低光量の紫外線照射条件でも良好に硬化(ラジカル重合)することができる。
【0008】
またこの場合、シリコーン変性アダマンタン誘導体が、下記一般式(2)で示されるものであることが好ましい。
【化2】

(式中、n、R、Rは前述の通りである。)
【0009】
上記一般式(2)で示されるシリコーン変性アダマンタン誘導体は、安価にかつ容易に合成することができるために好ましい。
【0010】
また、本発明は、下記(A)〜(C)成分を含有する光ラジカル硬化性樹脂組成物を提供する。
(A)下記一般式(1)で示されるシリコーン変性アダマンタン誘導体
【化3】

(式中、Rは互いに独立に、水素原子またはメチル基であり、Rは互いに独立に、メチル基またはフェニル基であり、nは2〜1000の整数であり、kは0〜2の正数である。)
(B)光ラジカル開始剤
(C)ラジカル連鎖移動剤
【0011】
このような光ラジカル硬化性樹脂組成物は、低照度で容易に硬化し、良好な耐湿性だけでなく各種基材に対しても良好な接着性を有する硬化物を得ることができるため、紫外線等の影響を受けやすい液晶電極、有機EL電極、プラズマディスプレイ電極の保護用コーティング剤として特に有用である。
【0012】
またこの場合、前記(A)シリコーン変性アダマンタン誘導体が、下記一般式(2)で示されるシリコーン変性アダマンタン誘導体であることが好ましい。
【化4】

(式中、n、R、Rは前述の通りである。)
【0013】
上記一般式(2)で示されるシリコーン変性アダマンタン誘導体は、安価にかつ容易に合成することができるため、上記一般式(2)で示されるシリコーン変性アダマンタン誘導体を含有する光ラジカル硬化性樹脂組成物は経済的に優位である。
【0014】
またこの場合、前記(B)光ラジカル開始剤が、(B1)ケトン化合物、(B2)アシルホスフィン化合物、(B3)チオキサントン化合物から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
【0015】
(B)光ラジカル開始剤は、紫外線等による光照射により重合活性種を発生するいずれの化合物も使用することができるが、(B1)ケトン化合物、(B2)アシルホスフィン化合物、(B3)チオキサントン化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0016】
またこの場合、光ラジカル硬化性樹脂組成物は、前記(A)成分を30〜99質量%、前記(B)成分を0.05〜15質量%、及び前記(C)成分を0.01〜10質量%で含有するものであることが好ましい。
【0017】
各成分が上記のような割合で含有されている光ラジカル硬化性樹脂組成物であれば、紫外線等の光源に対してより高感度な組成物となり、硬化速度が向上する。
【0018】
また本発明は、前記光ラジカル硬化性樹脂組成物の製造方法であって、前記(B)光ラジカル開始剤と前記(C)ラジカル連鎖移動剤を均一に混合した混合物と、前記(A)シリコーン変性アダマンタン誘導体とを混合する工程を含むことを特徴とする光ラジカル硬化性樹脂組成物の製造方法を提供する。
【0019】
(B)光ラジカル開始剤と(C)ラジカル連鎖移動剤を混合し、均一化することにより、室温でも光ラジカル開始剤およびラジカル連鎖移動剤が析出しない安定な混合物となるため、(A)シリコーン変性アダマンタン誘導体との混合を室温で行うことが可能になる。また、光ラジカル硬化性樹脂組成物中での光ラジカル開始剤及びラジカル連鎖移動剤の再結晶化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のシリコーン変性アダマンタン誘導体を含む光ラジカル硬化性樹脂組成物は、低照度でも容易に硬化し、良好な耐湿性だけでなく各種基材に対しても良好な接着性を有する硬化物を提供することができるため、紫外線等の影響を受けやすい液晶電極、有機EL電極、プラズマディスプレイ電極の保護用コーティング剤として特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、下記一般式(1)で示される新規な光ラジカル重合性化合物としてのアクリル基および/またはメタクリル基を含有するシリコーン変性アダマンタン誘導体が、紫外線等の光源に対する感度が高いことを見出した。
【化5】

(式中、Rは互いに独立に、水素原子またはメチル基であり、Rは互いに独立に、メチル基またはフェニル基であり、nは2〜1000の整数であり、kは0〜2の正数である。)
また、該シリコーン変性アダマンタン誘導体を含む光ラジカル硬化性樹脂組成物であれば、低照度の条件であっても、良好な耐湿性と接着性とを両立した硬化物を提供することができることを見出し、本発明に至った。
【0022】
[光ラジカル硬化性樹脂組成物]
本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物は、少なくとも、下記(A)〜(C)成分を含有するものである。
(A)シリコーン変性アダマンタン誘導体
本発明のシリコーン変性アダマンタン誘導体は、アクリル基および/またはメタクリル基を含有する光ラジカル重合性化合物であり、紫外線等の光源に対する感度が高いため、低光量の紫外線照射条件でも良好に硬化することができる。該シリコーン変性アダマンタン誘導体は、RSiOで示されるシロキサン繰り返し単位からなるシリコーン鎖を含有し、該シリコーン鎖のケイ素原子の数(即ち、重合度n)が2〜1000である。nは、好ましくは2〜100、より好ましくは2〜20である。
【0023】
本発明のシリコーン変性アダマンタン誘導体は、特許第3704169号公報に開示されている方法に基づき、下記一般式(3)で示されるジ(メタ)アクリルアダマンタン誘導体と、下記一般式(4)で示される直鎖オルガノハイドロジェンポリシロキサンとを、ロジウム触媒の存在下でヒドロシリル化することにより得られる。下記一般式(3)で示されるジ(メタ)アクリルアダマンタン誘導体は、アダマンタンを(メタ)アクリル酸エステル残基で変性した化合物である。
【化6】

(式中、Rは互いに独立に、水素原子またはメチル基である。)
【化7】

(式中、nは2〜1000、好ましくは2〜100、より好ましくは2〜20の整数であり、Rは互いに独立に、メチル基またはフェニル基である。)
【0024】
例えば、上記(3)式で示したジ(メタ)アクリルアダマンタン誘導体、及び該ジ(メタ)アクリルアダマンタン誘導体と上記(4)式で示したオルガノハイドロジェンポリシロキサンの合計質量あたりロジウム相当量が5〜200ppmとなる量のロジウム触媒、酸化防止剤としてジ(メタ)アクリルアダマンタン誘導体に対して200〜5000ppmとなる量のBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、溶媒としてトリ(メタ)アクリルイソシアヌレートとこれと同量のトルエンを60〜130℃、好ましくは80℃〜110℃で攪拌しながら加熱した中に、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを、ジ(メタ)アクリルアダマンタン誘導体:オルガノハイドロジェンポリシロキサン=1:0.25〜1:1(モル比)、好ましくは1:0.5〜1:0.7(モル比)となる量で攪拌しながら滴下する。その後、前記温度下で3〜5時間攪拌した後、減圧ストリップによってトルエンを除去し、目的とするシリコーン変性アダマンタン誘導体を得ることができる。
【0025】
ヒドロシリル化に用いるロジウム触媒としては、例えば、RhCl(PhP)、RhCl・3HO、[RhClEt、[RhCl(cod)]等が挙げられる(但し、Phはフェニル基、Etはエチル基、codはシクロオクタジエンである)。
【0026】
上記方法により、下記一般式(1)に示すシリコーン変性アダマンタン誘導体を得ることができる。
【化8】

(式中、kは0〜2の正数であり、n、R、R1は上述の通り。)
【0027】
中でも、合成が容易であることから、下記一般式(2)に示されるシリコーン変性アダマンタン誘導体が好ましい。
【化9】

(式中、n、R、R1は上述の通り。)
【0028】
(A)成分は、光ラジカル硬化性樹脂組成物中に30〜99質量%、好ましくは70〜98質量%となる量で配合するのがよい。このような割合で配合することにより、本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物は紫外線等の光源に対してより高感度となり硬化速度が向上する。なお、上記反応においてジ(メタ)アクリルアダマンタン誘導体が未反応で残存する場合、あるいは、上記式(1)で示される化合物の側鎖(メタ)アクリル基とオルガノハイドロジェンポリシロキサンが反応した化合物が生成する場合があるが、除去することなく光ラジカル硬化樹脂組成物中に含有されていてもよい。
【0029】
(B)光ラジカル開始剤
光ラジカル開始剤としては、紫外線等による光照射により重合活性種を発生するいずれの化合物も使用することができるが、特に(B1)ケトン化合物、(B2)アシルホスフィン化合物、(B3)チオキサントン化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
(B1)ケトン化合物としては、光ラジカル開始剤として用いることのできるものを際限無く使用することができ、具体的にはα−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−イソプロピルフェニル)プロパノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−ドデシルフェニル)プロパノン、及び、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパノン、ベンゾフェノン、2−メチルベンゾフェノン、3−メチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、4−メトキシベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4−ブロモベンゾフェノン、2−カルボキシベンゾフェノン、2−エトキシカルボニルベンゾフェノン、ベンゾフェノンテトラカルボン酸又はそのテトラメチルエステル、4,4’−ビス(ジアルキルアミノ)ベンゾフェノン類(例えば4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジシクロヘキシルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジヒドロキシエチルアミノ)ベンゾフェノン)、4−メトキシ−4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4−ジメチルアミノベンゾフェノン、4−ジメチルアミノアセトフェノン、ベンジル、アントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−メチルアントラキノン、フェナントラキノン、フルオレノン、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−1−ブタノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−1−プロパノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノールオリゴマー、ベンゾイン、ベンゾインエーテル類(例えばベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、ベンジルジメチルケタール)、アクリドン、クロロアクリドン、N−メチルアクリドン、N−ブチルアクリドン、N−ブチル−クロロアクリドン等が挙げられる。
【0031】
(B2)アシルホスフィン化合物としては、光ラジカル開始剤として用いることのできるものを際限無く使用することができ、具体的には2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。ビスアシルフォスフィンオキサイド類としては、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、(2,5,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドが挙げられる。
【0032】
(B3)チオキサントン化合物としては、光ラジカル開始剤として用いることのできるものを際限無く使用することができ、具体的には、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントンなどが挙げられる。
【0033】
上記(B1)〜(B3)の光重合開始剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。(B)成分の合計質量((B1)〜(B3)の合計質量)は、光ラジカル硬化性樹脂組成物中に0.05〜15質量%、好ましくは0.5〜6質量%となる量で配合することが好ましい。
【0034】
(C)ラジカル連鎖移動剤
ラジカル連鎖移動剤は、酸素等の不活性なラジカル捕捉剤にトラップされた重合活性種を再活性化させる為に用い、このような機能を持つ化合物であれば特に制限されるものではないが、例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−(メタクリロイルオキシ)エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、[4−(メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタノン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート等が挙げられる。特に好適な連鎖移動剤としては、2−エチルへキシル−4−ジメチルアミノベンゾエート、[4−(メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタノンが挙げられる。これらのラジカル連鎖移動剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
ラジカル連鎖移動剤(C)は光ラジカル硬化性樹脂組成物中に0.01〜10質量%、好ましくは0.4〜5質量%となる量で配合することが好ましい。
【0036】
なお、本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物に用いる成分として、上述した(A)、(B)、(C)の各成分はそれぞれ一つもしくは複数の化合物を含んでいてもよい。
【0037】
その他成分
光ラジカル硬化性樹脂組成物の硬化物の接着性を更に向上させるために、本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物にさらに接着助剤を添加することができる。具体的には、メチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、プロピルシアノアクリレート、ブチルシアノアクリレート等のシアノアクリル酸のアルキルエステルなどのシアノアクリレート骨格を有する化合物、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン等に代表されるエポキシ官能基含有アルコキシシラン、またはこれらの部分加水分解縮合物であるシランカップリング剤などを挙げることができる。上記接着助剤の骨格が化学結合により複数種類組み合わされているものであってもよい。接着助剤の配合量は、光ラジカル硬化性樹脂組成物中に0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%で配合するのがよい。
【0038】
更に、本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物には必要により溶媒を配合することができる。溶媒としては、例えばn−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の炭素原子数5〜15の非極性炭化水素系溶媒が好ましい。また、含ヘテロ溶媒(即ち、炭素、水素以外のヘテロ原子を含有する溶媒)を使用してもよく、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエーテル系、エステル系溶媒、ヘキサメチルジシラン、ヘキサメチルジシロキサン等のシラン系、シロキサン系溶媒が使用できる。また、フルオロアルカン、フルオロアルキルエーテル等の含フッ素系溶媒を使用することもできる。溶剤の配合量は、光ラジカル硬化性樹脂組成物中に0.1〜60質量%、好ましくは30〜50質量%となる量で添加すると光ラジカル開始剤の溶解性を向上させることができるため好ましい。
【0039】
[光ラジカル硬化性樹脂組成物の製造方法]
本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物は、(B)光ラジカル開始剤及び(C)ラジカル連鎖移動剤をあらかじめ50〜150℃、好ましくは100〜150℃の高温で混合し、加熱溶解することにより均一化した混合物と、(A)シリコーン変性アダマンタン誘導体とを5℃〜45℃、好ましくは10℃〜40℃で混合することによって製造することができる。(B)光ラジカル開始剤と(C)ラジカル連鎖移動剤を先に混合し、均一化することにより、室温でも光ラジカル開始剤およびラジカル連鎖移動剤が析出しない安定な混合物となるため、(A)シリコーン変性アダマンタン誘導体との混合を室温で行うことが可能になる。また、前記方法により製造することで、光ラジカル硬化性樹脂組成物中での光ラジカル開始剤及びラジカル連鎖移動剤の再結晶化を抑制することができる。
【0040】
このように得られた光ラジカル硬化性樹脂組成物は、(A)シリコーン変性アダマンタン誘導体を含むものであるため、短時間の光照射で容易に硬化し、硬化物が良好な耐湿性だけでなく各種基材に対しても良好な接着性を有する。従って、紫外線等の影響を受けやすい液晶電極、有機EL電極、プラズマディスプレイ電極の保護用コーティング剤としてのみならず、各種電気・電子部品の保護用コーティング剤としても有用である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下の記載において部は質量部を意味し、MはRHSiO1/2単位を、DはRSiO単位を意味する。
【0042】
(実施例1)
シリコーン変性アダマンタン誘導体の調製
撹拌機、滴定漏斗、温度計および還流冷却器を備えたセパラブルフラスコ中に、ジアクリルアダマンタン552.28g、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)[RhCl((PhP)]0.23g(ロジウム相当量:ポリジメチルシロキサンおよびジアクリルアダマンタンの合計質量に対して20ppm)、BHT1.10g(ジアクリルアダマンタンに対して2000ppm)、及びトルエン552.28gを仕込み、撹拌しながら80℃に加熱した。前記フラスコ中に、Mで示されるポリジメチルシロキサン726g(ジアクリルアダマンタン:ポリジメチルシロキサン=2:1(モル比))を10g/分以下の滴下速度で攪拌しながら滴下した。滴下終了後、80℃で3時間攪拌し、その後減圧ストリップによってトルエンを除去し、液状の生成物1214gを得た(10%未満の未反応ジアクリルアダマンタンが含まれる事をGPCにより確認した)。
【0043】
H−NMRおよびGPCによる測定の結果、得られた生成物は下記式(5)で示されるシリコーン変性アダマンタンであった。なお、H−NMRは以下の装置を使用して行った。
H−NMR:AVANCE III 400型(ブルカー・バイオスピン社製)
GPC:SC−8020(東ソー社製)
【化10】

(k≒1、R=CH3、=H)
【0044】
(実施例2)
光ラジカル硬化性樹脂組成物の調製
(B)光ラジカル開始剤として2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−1−プロパノン(チバスペシャリティケミカルズ、商品名 IRGACURE 907)2部、(C)ラジカル連鎖移動剤として[4−(メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタノン(日本化薬製、商品名 KAYACURE BMS)を0.5部混合した上で、100℃、10分間で加熱溶解した。この液体を室温に冷却し、上記式(5)で示されるシリコーン変性アダマンタン100部に加え、攪拌及び脱泡操作により光ラジカル硬化性樹脂組成物を得た。
【0045】
(実施例3)
実施例1において、Mで示されるポリジメチルシロキサンに変えて、Mで示されるポリジメチルシロキサンを用いた他は、実施例1と同様の方法でシリコーン変性アダマンタンを調製した。H−NMRおよびGPCによる測定の結果、得られた生成物は下記式(6)で示されるシリコーン変性アダマンタンであった(10%未満の未反応ジアクリルアダマンタンが含まれる事をGPCにより確認した)。該化合物を用い、実施例2と同様に光ラジカル硬化性樹脂組成物を調製した。
【化11】

(k≒1.5、R=CH、R=H)
【0046】
(実施例4)
実施例1において、Mで示されるポリジメチルシロキサンに変えて、M18で示されるポリジメチルシロキサンを用いた他は、実施例1と同様の方法でシリコーン変性アダマンタンを調製した。H−NMRおよびGPCによる測定の結果、得られた生成物は下記式(7)で示されるシリコーン変性アダマンタンであった(10%未満の未反応ジアクリルアダマンタンが含まれる事をGPCにより確認した)。該化合物を用い、実施例2と同様に光ラジカル硬化性樹脂組成物を調製した。
【化12】

(k≒1、R=CH3、=H)
【0047】
(比較例1)
上記式(5)で示されるシリコーン変性アダマンタン100部に替えて、下記式(8)で表される特開2008−163183に開示されているアクリル変性シリコーン100部を使用した他は、実施例2と同様に光ラジカル硬化性樹脂組成物を調製した。
【化13】

(式中、Meはメチル基、Phはフェニル基、L=700〜850の整数、M=150〜350の整数である。)
【0048】
各樹脂組成物を深さ1mm、幅120mm、長さ170mmの金型に流し込み、メタルハライド水銀灯2灯を備えるコンベア装置(照度:40W/cm)で2秒間紫外線を照射し(エネルギー量:200mJ)、硬化物を得た。
【0049】
[硬度の評価]
得られた硬化物について、JIS K 6301に準拠して、その硬度をスプリング式A型試験機によって測定した。
【0050】
[水蒸気透過率の評価]
得られた硬化物について、JIS Z 0208に準拠して、その水蒸気透過率を測定した。
【0051】
[ガラスとの接着性の評価]
幅25mm、長さ75mmのスライドガラスにマスキングテープで深さ0.2mm、幅2mmの溝を作成し、溝に各樹脂組成物をシリンジで流し込み、その上に2mm×2mmのガラスチップをのせ、メタルハライド水銀灯2灯を備えるコンベア装置(照度:40W/cm)で2秒間紫外線を照射し(エネルギー量:200mJ)、硬化物を得た。得られた硬化物のガラスとの接着性について万能ボンドテスター(DAGE SERIES 4000)を用いて0.2mm/秒の速度で接着片を弾くことでそれぞれ接着力を測定した。得られた結果を表1に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1の結果から明らかなように、本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物は、低照度で充分に硬化するだけでなく、紫外線等を使用した硬化条件下で優れた硬化性を示し、低い水蒸気透過率(優れた耐湿性)及び優れた基材(ガラス)との接着性を有することが確認された。これに対し、特開2008−163183に開示されているアクリル変性シリコーンを用いた比較例1の光ラジカル硬化性樹脂組成物は硬度、耐湿性、接着性に劣る結果となった。
【0054】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に含有される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるシリコーン変性アダマンタン誘導体。
【化1】

(式中、Rは互いに独立に、水素原子またはメチル基であり、Rは互いに独立に、メチル基またはフェニル基であり、nは2〜1000の整数であり、kは0〜2の正数である。)
【請求項2】
下記一般式(2)で示される請求項1に記載のシリコーン変性アダマンタン誘導体。
【化2】

(式中、n、R、Rは前述の通りである。)
【請求項3】
下記(A)〜(C)成分を含有する光ラジカル硬化性樹脂組成物。
(A)下記一般式(1)で示されるシリコーン変性アダマンタン誘導体
【化3】

(式中、Rは互いに独立に、水素原子またはメチル基であり、Rは互いに独立に、メチル基またはフェニル基であり、nは2〜1000の整数であり、kは0〜2の正数である。)
(B)光ラジカル開始剤
(C)ラジカル連鎖移動剤
【請求項4】
前記(A)シリコーン変性アダマンタン誘導体が、下記一般式(2)で示されるシリコーン変性アダマンタン誘導体であることを特徴とする請求項3に記載の光ラジカル硬化性樹脂組成物。
【化4】

(式中、n、R、Rは前述の通りである。)
【請求項5】
前記(B)光ラジカル開始剤が、
(B1)ケトン化合物、
(B2)アシルホスフィン化合物、
(B3)チオキサントン化合物、
から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の光ラジカル硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(A)成分を30〜99質量%、前記(B)成分を0.05〜15質量%、及び前記(C)成分を0.01〜10質量%で含有するものであることを特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれか1項に記載の光ラジカル硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項3乃至請求項6のいずれか一項に記載の光ラジカル硬化性樹脂組成物の製造方法であって、前記(B)光ラジカル開始剤と前記(C)ラジカル連鎖移動剤を均一に混合した混合物と、前記(A)シリコーン変性アダマンタン誘導体とを混合する工程を含むことを特徴とする光ラジカル硬化性樹脂組成物の製造方法。


【公開番号】特開2012−111854(P2012−111854A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262062(P2010−262062)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】