説明

シロキサンポリイミド樹脂の製造方法

【課題】シロキサンポリイミド樹脂の製造の際に、環状シロキサンオリゴマーの開環を抑制すると共に、比較的低沸点の環状シロキサンオリゴマーの混入を抑制する。
【解決手段】(a)溶媒中で第1のテトラカルボン酸二無水物とシロキサンジアミンとを還流条件下でイミド化反応させて酸無水物末端又はアミン末端シロキサンイミドオリゴマーを含む反応混合物を取得し、(b)得られた反応混合物を減圧濃縮して反応濃縮物を取得し、(c)得られた反応濃縮物に、溶媒とシロキサン非含有ジアミンとを添加し、シロキサン非含有ジアミンと反応濃縮物中の酸無水物末端シロキサンイミドオリゴマーとをイミド化反応させ、又は溶媒と第2のテトラカルボン酸二無水物とを添加し、第2のテトラカルボン酸二無水物と反応濃縮物中のアミン末端シロキサンイミドオリゴマーとをイミド化反応させ、それによりシロキサンポリイミド樹脂を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロキサンポリイミド樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族テトラカルボン酸と、芳香族ジアミンとをイミド化してなる芳香族系ポリイミド樹脂は、その優れた耐熱性や絶縁性のために、電子部品の層間絶縁膜やカバーレイの材料として広く使用されているが、そのような芳香族系ポリイミド樹脂に対し、優れた可撓性と接着性とが求められるようになっている。このため、芳香族ジアミンの一部をシロキサンジアミンに代え、ポリイミド骨格にポリシロキサン骨格を導入したシロキサンポリイミド樹脂の使用が増大している。
【0003】
しかしながら、シロキサンポリイミド樹脂の原料であるシロキサンジアミンには、アミノ基を持たない油状の環状シロキサンオリゴマーが不純物として含まれているため、製造したシロキサンポリイミド樹脂を層間絶縁膜やカバーレイ等として電子部品に適用した場合、電子部品を半田リフロー工程等の熱処理工程に投入すると、層間−線間絶縁膜やカバーレイの表面にアウトガスとして発生した環状シロキサンオリゴマーが再付着またはブリードアウトし、電子部品における接点障害や導電性の低下、接着強度の低下等が生ずるという問題があった。
【0004】
この問題を解決するために、ジアミン成分として少なくともジアミノポリシロキサンを含むジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とをトルエンやエーテル系溶媒中でイミド化反応させる際に、例えば、数回に分けて、揮発する溶媒を系外に排出すると共に、溶媒を補充する方法が提案されている(特許文献1)。この方法によれば、油状の環状シロキサンオリゴマーは、溶媒に比べ比較的低沸点であるため、揮発する溶媒と共に、系外に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−263058公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、シロキサンジアミンとその他のジアミンとを同時にイミド化反応に供しているため、一般的にジアミン成分として広く使用されているフェノール系ジアミン(例えば、3,3′−ジアミノ−4,4′−ジヒドロキシフェニルスルホン)をシロキサンジアミンと併用した場合には、フェノール性水酸基とアミノ基とから生ずるオキシアニオンにより環状シロキサンオリゴマーが開環してジアミノシロキサンと反応し、その結果、得られるポリイミド樹脂の特性が意図したものから外れてしまう可能性がある。また、常圧で揮発した溶媒を系外に排出しているため、6量体までの環状のシロキサンオリゴマーを除去できるが、7量体以上のシロキサンオリゴマーや遊離シロキサン化合物を除去できないという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、以上の従来の技術の課題を解決しようとするものであり、イミド化の際に環状シロキサンオリゴマーの開環を抑制し、しかもシロキサンポリイミド樹脂からブリードアウトするような比較的低沸点の不純物である環状シロキサンオリゴマー等がシロキサンポリイミド樹脂に混入することを抑制するようにシロキサンポリイミド樹脂を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ジアミン成分のうちシロキサンジアミンを、まず、酸二無水物成分とイミド化反応させておき、その反応終了後に、常圧下で溶媒と共に環状シロキサンオリゴマー等の揮発性不純物を除去するのではなく、減圧下で溶媒を除去すると、環状シロキサンオリゴマー等の揮発性不純物も十分に除去でき、従って、更にイミド化反応させるべきシロキサン非含有ジアミン又は他のテトラカルボン酸二無水物を後添加しても、環状シロキサンオリゴマーの開環が生じないようにできることを見出し、本願発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、少なくともテトラカルボン酸二無水物とシロキサンジアミンとを反応させてシロキサンポリイミド樹脂を製造する方法であって、以下の工程(a)〜(c):
(a)溶媒中で第1のテトラカルボン酸二無水物とシロキサンジアミンとを還流条件下でイミド化反応させて酸無水物末端又はアミン末端シロキサンイミドオリゴマーを含む反応混合物を得る工程
(b)工程(a)で得られた反応混合物を減圧濃縮して反応濃縮物を得る工程
(c)工程(b)で得られた反応濃縮物に、溶媒とシロキサン非含有ジアミンとを添加し、シロキサン非含有ジアミンと反応濃縮物中の酸無水物末端シロキサンイミドオリゴマーとをイミド化反応させ、又は溶媒と第2のテトラカルボン酸二無水物とを添加し、第2のテトラカルボン酸二無水物と反応濃縮物中のアミン末端シロキサンイミドオリゴマーとをイミド化反応させ、それによりシロキサンポリイミド樹脂を得る工程
を有することを特徴とする製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、上述の製造方法により得られたシロキサンポリイミド樹脂、このシロキサンポリイミド樹脂からなるカバーレイを提供する。
【0011】
更に、本発明は、上述のシロキサンポリイミド樹脂を製造するための合成装置として、加熱可能な反応容器と、反応容器の上方に装着された凝縮器と、凝縮器で凝縮した凝縮物をトラップするトラップ槽と、反応容器内にガスを導入するためのガス導入管とを有する合成装置において、凝縮トラップ槽と反応容器との間は、所定量以上の凝縮物が凝縮トラップ槽に貯留された場合に、過剰の凝縮物を反応容器に戻すためのオーバーフロー管で連結されており、ガス導入管はオーバーフロー管のオーバーフロー面よりも下方に位置するように反応容器に設置されている合成装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ジアミン成分のうちシロキサンジアミンを、まず、テトラカルボン酸二無水物成分とイミド化反応させて酸無水物末端又はアミン末端シロキサンイミドオリゴマーを得ておき、その反応終了後に、減圧下で溶媒と共に環状シロキサンオリゴマー等の揮発性不純物を除去する。このため、6量体までの環状のシロキサンオリゴマーのみならず、ブリードアウトする7量体以上のシロキサンオリゴマーや遊離シロキサン化合物を除去することができる。従って、酸無水物末端又はアミン末端シロキサンイミドオリゴマーに対し、追加的にシロキサン非含有ジアミン又はテトラカルボン酸二無水物をイミド化反応させる際に、シロキサンポリイミド樹脂の特性に影響を与えるような環状シロキサンオリゴマーの開環は生じない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、シロキサンポリイミド樹脂製造用の合成装置の全体図である。
【図2】図2は、実施例1で得た減圧回収物AのGC−MSチャートである。
【図3】図3は、比較例1で得た常圧回収物BのGC−MSチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のシロキサンポリイミド樹脂の製造方法は、少なくともテトラカルボン酸二無水物とシロキサンジアミンとを反応させてシロキサンポリイミド樹脂を製造する方法であって、以下の工程(a)〜(c)を有する。
【0015】
工程(a)
まず、溶媒中で第1のテトラカルボン酸二無水物とシロキサンジアミンとを還流条件下でイミド化反応させて酸無水物末端又はアミン末端シロキサンイミドオリゴマーを含む反応混合物を得る。
【0016】
酸無水物末端シロキサンイミドオリゴマーを得るためには、シロキサンジアミンよりも第1のテトラカルボン酸二無水物のモル量を多くすればよい。逆に、アミン末端シロキサンイミドオリゴマーを得るためには、シロキサンジアミンよりも第1のテトラカルボン酸二無水物のモル量を少なくすればよい。ただし、シロキサンジアミンの使用量は、全テトラカルボン酸二無水物1モルに対し、少なすぎると接着性、可撓性の維持が困難になる傾向があり、多すぎると耐熱性が低下する傾向があるので、好ましくは、0.1〜0.9モル、より好ましくは、0.3〜0.8モルである。
【0017】
工程(a)において、イミド化反応を還流条件下で行う理由は、ディーンスターク分離管等を用いてイミド化水を溶媒と共沸させて除くためである。従って、溶媒としては、テトラカルボン酸二無水物とシロキサンジアミンとの間のイミド化反応が生ずる温度で還流する溶媒であって、共沸により水を分離できる溶媒を使用する。このような溶媒としては、ジグライム、トリグライム等のグライム類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒や、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン系溶媒、それらの混合物を使用することができる。また、発明の効果を損なわない限り、トルエン、キシレン、ベンゼン、メシチレン等の非極性溶媒、N−メチル−2−ピロリドン等の溶媒を併用してもよい。本工程(a)では、還流温度等の点から好ましくはグライム類と非極性溶媒との混合溶媒、中でもトリグライムと、ベンゼン、トルエン、キシレン及びメシチレンからなる群より選択される少なくとも一種との混合溶媒(w/w=1/(0.1〜10))を好ましく使用できる。
【0018】
工程(a)における溶媒の使用量は、溶媒や反応基質の種類により異なるが、少なすぎるとモノマー分散不良や還流効率の低下を引き起こし、多すぎると溶媒の気化熱が大きくなり反応槽内の温度が上がりにくくなるので、第1のテトラカルボン酸二無水物とシロキサンジアミンとの合計の質量が5〜60質量%となる量で使用することが好ましい。
【0019】
イミド化反応の反応温度は、溶媒や反応基質の種類や使用量により異なるが、低すぎるとイミド化反応が完結せず、高すぎるとイミド化反応以外の副反応が生じる可能性があるので、好ましくは150〜220℃、より好ましくは160〜200℃である。反応時間は、理論量のイミド化水を除去するに要した時間であり、通常0.5〜12時間、好ましくは1〜8時間である。
【0020】
本発明で使用する第1のテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,4,3′,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4′−オキシジフタル酸二無水物、3,4,3′,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、9,9−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4′−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビストリメリート二無水物、2,2−ビス(4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン二無水物等を挙げることができる。中でも、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物を好ましく使用できる。
【0021】
本発明で使用するシロキサンジアミンとしては、少なくとも分子内にジメチルシリレン骨格を有する化合物であり、従来より、ポリイミド樹脂のシロキサン変性に用いられているものを使用できる。中でも、難燃性、相溶性確保の点から以下の式(1)の構造を有するものを好ましく使用できる。
【0022】
【化1】

【0023】
式(1)中、nは1〜30の整数、好ましくは1〜20の整数であり、mは0〜20の整数、好ましくは1〜20の整数である。難燃性が特に必要ない場合には、シロキサンジアミンとしてmが0のものを使用し、難燃性が必要な場合はmが1以上のものを使用することが好ましい。このようなシロキサンジアミンの具体例としては、信越化学工業(株)製のKF−8010(m=0)、X−22−9409(m>1)を挙げることができる。なお、シロキサンジアミンとして、アミノ基がtert−ブトキシカルボニル基などのカルバメート系、フタロイル基などのイミド系、p−トルエンスルホニル基などのスルホンアミド系により保護されているものも使用できる。
【0024】
なお、工程(a)におけるイミド化の際に、必要に応じてトリエチルアミン等の3級アミン、芳香族系イソキノリン、ピリジン等の塩基性触媒や、安息香酸、パラヒドロキシ安息香酸などの酸触媒を添加してもよい。
【0025】
工程(b)
工程(a)の反応終了後、工程(a)で得られた反応混合物を減圧濃縮して反応濃縮物を得る。この工程(b)は、工程(a)で使用するシロキサンジアミン中に環状シロキサンオリゴマーが不純物として含有されていた場合に、その環状シロキサンオリゴマーを除去する工程となる。即ち、減圧濃縮することにより、溶媒と微量の水と共に、揮発性の環状シロキサンオリゴマー、更に遊離シロキサン化合物(例えば低分子量シロキサンモノアミン、低分子量シロキサン)とを効率よく除去することができる。この減圧濃縮の際の温度は、低すぎると環状シロキサンまたは遊離シロキサン化合物の除去効率が悪化するので、工程(a)のイミド化反応温度と同温または、大気圧での溶剤沸点温度とすることが好ましい。
【0026】
減圧濃縮の際の圧力は、減圧度が十分でないと環状シロキサンまたは遊離シロキサン化合物の除去効率が悪化し、逆に減圧しすぎることは処理コストの過度の増大を招くので、好ましくは0.3〜91kPa、より好ましくは11〜51kPaである。
【0027】
工程(c)
次に、工程(b)で得られた反応濃縮物が酸無水物末端シロキサンイミドオリゴマーである場合には、反応濃縮物に、溶媒とシロキサン非含有ジアミンとを添加し、シロキサン非含有ジアミンと酸無水物末端シロキサンイミドオリゴマーとをイミド化反応させ、それによりシロキサンポリイミド樹脂を得る。この場合、必要に応じてシロキサン非含有ジアミンと共に第2のテトラカルボン酸二無水物を添加してもよい。
【0028】
又は、反応濃縮物がアミン末端シロキサンイミドオリゴマーである場合には、反応濃縮物に、溶媒と第2のテトラカルボン酸二無水物とを添加し、第2のテトラカルボン酸二無水物と反応濃縮物中のアミン末端シロキサンイミドオリゴマーとをイミド化反応させ、それによりシロキサンポリイミド樹脂を得る。この場合、必要に応じて第2のテトラカルボン酸二無水物と共にシロキサン非含有ジアミンを添加してもよい。
【0029】
工程(b)の後で溶媒を添加するのは、溶剤調整のためであり、その工程によりポリイミド固形分濃度を調整する事が可能となる。溶媒としては、工程(a)で用い得るものを使用できる。特に、シロキサンポリイミド樹脂をワニスとして使用する場合には、コーティング時の吸湿によるポリイミド析出を防ぐために、比較的吸湿性の低い溶媒であるエーテル系溶媒、ラクトン系溶媒、非極性溶媒などを単独、または混合して使用することができる。特に、本工程(c)では、トリグライム(別名:トリエチレングリコールジメチルエーテル)とγ−ブチロラクトンとの混合溶媒(w/w=1/(0.1〜10))を好ましく使用できる。
【0030】
工程(c)において使用する“シロキサン非含有ジアミン”としては、分子内にジメチルシリレン骨格を持たないジアミンを使用することができ、その具体例としては、3,3′−ジアミノ−4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)へミサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3′−ジアミノ−4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、3,3′−ジヒドロキシ−4,4′−ジアミノビフェニル、2,4−ジアミノフェノール、9,9−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等のジアミノフェノール誘導体;p−フェニレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2′−ビス(トリフルオロメチル)−4,4′−ジアミノビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′−ジアミノベンズアニリド、5,5′−メチレン−ビス(アントラニック酸)、9,9−ビス[4−(4−アミノフェノキシフェニル)]フルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェノキシ)フルオレン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4′−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、o−トリジンスルホン等の芳香族ジアミン;trans−1,4−シクロヘキサンジアミン、cis−1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂肪族ジアミンを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
他方、“第2のテトラカルボン酸二無水物”としては、既に例示した第1のテトラカルボン酸二無水物と同様のものを使用することができる。ここで、第1のテトラカルボン酸二無水物と第2のテトラカルボン酸二無水物とは同一でも異なっていてもよい。
【0032】
工程(b)で得られた反応濃縮が酸無水物末端シロキサンイミドオリゴマーの場合、工程(c)で使用するシロキサン非含有ジアミンの使用量は、機械特性が十分なカバーレイを得るための分子量を確保するために、シロキサンジアミンと合算したモル数が、全テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、好ましくは0.1〜0.9モル、より好ましくは0.3〜0.8モルとなる量である。
【0033】
一方、工程(b)で得られた反応濃縮がアミン末端シロキサンイミドオリゴマーの場合には、工程(c)で使用する第2のテトラカルボン酸二無水物の使用量は、機械特性が十分なカバーレイを得るための分子量を確保するために、第1のテトラカルボン酸二無水物と第2のテトラカルボン酸二無水物とを合算したモル数1モルに対して、シロキサンジアミンとシロキサン非含有ジアミンとを合算した全ジアミン成分が好ましくは0.8〜1.2モル、より好ましくは0.9〜1.1モルとなる量である。
【0034】
なお、工程(c)におけるイミド化の際に、工程(a)の場合と同様に、必要に応じてトリエチルアミン等の3級アミン、芳香族系イソキノリン、ピリジン等の塩基性触媒や、安息香酸、パラヒドロキシ安息香酸などの酸触媒を添加してもよい。
【0035】
工程(c)におけるイミド化反応温度に関し、工程(c)においては極性基を有する酸二無水物やジアミン成分を使用した場合には、ワイゼルベルグ効果により生成したシロキサンポリイミド樹脂の粘度が増大し、撹拌棒の周囲に巻き付く現象が生ずることがある。生成したシロキサンポリイミド樹脂の粘度の増大を避けるためには、反応系中に水を存在させることが好ましい。この場合、水の量が少なすぎると増粘する危険性が高まり、多すぎるとポリイミドの分子量が低下する恐れがあるので、反応混合物中に0.01〜1.1質量%の割合で水を存在させることが好ましい。
【0036】
工程(c)におけるイミド化の際の反応温度は、溶媒や反応基質の種類や使用量により異なるが、低すぎるとイミド化反応が完結せず、高すぎるとイミド化反応以外の副反応が生じる可能性があるので、好ましくは、150〜220℃、より好ましくは、160〜200℃である。反応時間は、通常0.5〜12時間、好ましくは、1〜8時間である。これにより、環状シロキサンおよび遊離シロキサンの含有量が少ないシロキサンポリイミド樹脂がワニス状態で得られる。
【0037】
本発明のシロキサンポリイミド樹脂の製造方法は、図1に示すシロキサンポリイミド樹脂を製造するための合成装置によりワンバッチで製造することが可能である。
【0038】
図1はシロキサンポリイミド樹脂を製造するための合成装置の全体図である。この合成装置は、加熱装置1で加熱可能な反応容器2と、反応容器2の上方に装着された凝縮器3と、凝縮器3で凝縮した凝縮物をトラップする凝縮トラップ槽4と、反応容器2内にガスを導入するためのガス導入管5とを有する。凝縮トラップ槽4には貯留した凝縮物を系外に排出するためのドレイン4aが設置されている。凝縮トラップ槽4と反応容器2との間は、所定量以上の凝縮物が凝縮トラップ槽4に貯留された場合に、過剰の凝縮物を反応容器2に戻すためのオーバーフロー管6で連結されている。また、ガス導入管5はオーバーフロー管6のオーバーフロー面6aよりも下方に位置するように反応容器2に設置されている。更に、反応容器2には減圧装置7が連結されている。ここで、ガス導入管5を、オーバーフロー管6のオーバーフロー面6aよりも下方に位置するように反応容器2に設置する理由は、ガス導入管5から反応容器2内の反応混合物RMの液面近くに導入されたガスが、反応混合物RMの液面から揮発した環状シロキサンオリゴマーと水と溶媒とを、ガス流に乗せて効率良く凝縮器3へ導くことができるためである。また、反応容器2には撹拌装置8が設置されている。また、図示してはいないが温度測定装置も設置されている。
【0039】
図1の合成装置を構成する個々の部品は、従来の化学反応装置で用いられているものを適宜選択して利用することができる。
【0040】
本発明の製造方法により得られたシロキサンポリイミド樹脂は、従来のシロキサンポリイミド樹脂と異なり、環状シロキサンオリゴマーや遊離シロキサン化合物が殆ど除去されたものである。このシロキサンポリイミド樹脂は、環状シロキサンオリゴマーのブリードアウト現象および再加熱の際の環状シロキサン由来のアウトガスの発生量が低減されているので、様々な電子部品用の絶縁材料、例えばフレキシブルプリント基板用のカバーレイとして有用である。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0042】
実施例1(酸無水物末端シロキサンオリゴマーを経由する例)
図1のシロキサンポリイミド樹脂用合成装置の反応容器(20L)に、4372.65g(3.24mol)のジアミノシロキサン(アミン当量675g/mol、X−22−9409、信越化学工業(株))と、1994.54g(5.54mol)の3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(リカシッドDSDA、新日本理化(株);純度99.6%)と、3000gのトリグライムと、1100gのトルエンとを投入し、混合物を2時間十分に撹拌した。その後、185℃まで昇温させ、2時間その温度を保ち、凝縮トラップ槽で水を回収しながら、反応液を還流撹拌した。
【0043】
反応液の温度185℃に保持したまま、系内の圧力を11KPaまで減圧し、溶媒、水、環状シロキサンオリゴマーを含有する減圧回収物Aを取得すると共に、反応濃縮物(酸二無水物末端シロキサンイミドオリゴマー)を得た。酸化皮膜が除去されたシリコンウェハー上にオリゴマー溶液を塗布し、100℃で10分間乾燥させFT−IR透過法によって末端官能基の同定を行った。1780cm−1付近にイミドカルボニルの吸収が出現し、1860cm−1付近に環状酸無水物カルボニル伸縮振動の吸収が確認できる事から酸無水物末端シロキサンオリゴマーの生成が確認できた。
【0044】
反応濃縮物を80℃まで放冷し、反応濃縮物に632.81g(2.25mol)の3,3′−ジアミノ−4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン(BSDA、小西化学工業(株);純度99.7%)と、3300gのトリグライムと700gのγ−ブチロラクトンとを投入し、室温で12時間撹拌した。撹拌後、185℃まで昇温し、その温度で2時間加熱撹拌した。その後、室温まで冷却し、シロキサンポリイミド樹脂のワニスを得た(表1参照)。合成経路については以下に示す(合成スキームA)。

















【0045】
【化2】



【0046】
実施例2(酸無水物末端シロキサンオリゴマーを経由する例)
図1のシロキサンポリイミド樹脂用合成装置の反応容器(20L)に、3206.41g(2.38mol)のジアミノシロキサン(アミン当量675g/mol、X−22−9409、信越化学工業(株))と、1725.84g(4.80mol)の3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(リカシッドDSDA、新日本理化(株);純度99.6%)と、3000gのトリグライムと、1100gのトルエンとを投入し、混合物を2時間十分に撹拌した。その後、185℃まで昇温させ、2時間その温度を保ち、凝縮トラップ槽で水を回収しながら、反応液を還流撹拌した。
【0047】
反応液の温度185℃に保持したまま、系内の圧力を11KPaまで減圧し、溶媒、水、環状シロキサンオリゴマーを含有する減圧回収物を取得すると共に、反応濃縮物(酸無水物末端シロキサンイミドオリゴマー)を得た。酸化皮膜が除去されたシリコンウェハー上にオリゴマー溶液を塗布し、100℃で10分間乾燥させFT−IR透過法によって末端官能基の同定を行った。1780cm−1付近にイミドカルボニルの吸収が出現し、1860cm−1付近に環状酸無水物カルボニル伸縮振動の吸収が確認できる事から酸無水物末端シロキサンオリゴマーの生成が確認できた。
【0048】
反応濃縮物を80℃まで放冷し、反応濃縮物に667.75g(2.38mol)の3,3′−ジアミノ−4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン(BSDA、小西化学工業(株);純度99.7%)と、3300gのトリグライムと2100gのγ−ブチロラクトンとを投入し、室温で12時間撹拌した。撹拌後、185℃まで昇温し、その温度で2時間加熱撹拌した。その後、室温まで冷却し、シロキサンポリイミド樹脂のワニスを得た(表1参照)。合成経路については合成スキームAに示す。
【0049】
実施例3(アミン末端シロキサンオリゴマーを経由する例)
図1のシロキサンポリイミド樹脂用合成装置の反応容器(20L)に、3935.39g(2.92mol)のジアミノシロキサン(アミン当量675g/mol、X−22−9409、信越化学工業(株))と、897.54g(2.50mol)の3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(リカシッドDSDA、新日本理化(株);純度99.6%)と、3000gのトリグライムと、1100gのトルエンとを投入し、混合物を2時間十分に撹拌した。その後、185℃まで昇温させ、2時間その温度を保ち、凝縮トラップ槽で水を回収しながら、反応液を還流撹拌した。(表1参照)。
【0050】
反応液の温度185℃に保持したまま、系内の圧力を11KPaまで減圧し、溶媒、水、環状シロキサンオリゴマーを含有する減圧回収物を取得すると共に、反応濃縮物(アミン末端シロキサンイミドオリゴマー)を得た。酸化皮膜が除去されたシリコンウェハー上にオリゴマー溶液を塗布し、100℃で10分間乾燥させFT−IR透過法によって末端官能基の同定を行った。1780cm−1付近にイミドカルボニルの吸収が出現し、3400cm−1付近にNH伸縮振動に基づく吸収が確認できる事からアミン末端シロキサンオリゴマーの生成が確認できた。
【0051】
反応濃縮物を80℃まで放冷し、反応濃縮物に569.53g(2.03mol)の3,3′−ジアミノ−4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン(BSDA、小西化学工業(株);純度99.7%)と、897.54g(2.50mol)の3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(リカシッドDSDA、新日本理化(株);純度99.6%)と、3300gのトリグライムと1400gのγ−ブチロラクトンとを投入し、室温で12時間撹拌した。撹拌後、185℃まで昇温し、その温度で2時間加熱撹拌した。その後、室温まで冷却し、シロキサンポリイミド樹脂のワニスを得た。実施例3の合成スキームを以下に示す(合成スキームB)。


【0052】
【化3】






【0053】
【表1】

【0054】
比較例1
溶媒、水及び環状シロキサンオリゴマーの回収を、常圧で行ったこと以外は、実施例1を繰り返し、常圧回収物Bを得た。
【0055】
<評価>
実施例1で得られた減圧回収物Aと比較例1で得られた常圧回収物Bとを、GC−MS(6890/5973GC−MS、Agilent社製)を用いて測定した。得られた結果を図2及び図3に示す。これらの図から解るように、比較例1の場合には、3〜6量体(D3〜D6)の環状シロキサンオリゴマーを回収除去できたのに対し、実施例1の場合には、3〜6量体の環状シロキサンオリゴマーだけでなく、7量体(D7)の環状シロキサンオリゴマーや更に分子量の大きい遊離シロキサン化合物までも回収除去できたことが解る。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のシロキサンポリイミド樹脂の製造方法においては、ジアミン成分のうちシロキサンジアミンを、まず、酸二無水物成分とでイミド化しておき、その反応終了後に、減圧下で溶媒と共に環状シロキサンオリゴマー等の揮発性不純物を除去する。このため、6量体までの環状のシロキサンオリゴマーのみならず、ブリードアウトするような7量体以上のシロキサンオリゴマーや遊離シロキサン化合物を除去することができる。従って、本発明の製造方法は、電子部品の性能劣化の原因とならない環状シロキサンオリゴマーの製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 加熱装置
2 反応容器
3 凝縮器
4 凝縮トラップ槽
4a ドレイン
5 ガス導入管
6 オーバーフロー管
6a オーバーフロー面
7 減圧装置
8 撹拌装置
RM 反応混合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともテトラカルボン酸二無水物とシロキサンジアミンとを反応させてシロキサンポリイミド樹脂を製造する方法であって、以下の工程(a)〜(c):
(a)溶媒中で第1のテトラカルボン酸二無水物とシロキサンジアミンとを還流条件下でイミド化反応させて酸無水物末端又はアミン末端シロキサンイミドオリゴマーを含む反応混合物を得る工程
(b)工程(a)で得られた反応混合物を減圧濃縮して反応濃縮物を得る工程
(c)工程(b)で得られた反応濃縮物に、溶媒とシロキサン非含有ジアミンとを添加し、シロキサン非含有ジアミンと反応濃縮物中の酸無水物末端シロキサンイミドオリゴマーとをイミド化反応させ、又は溶媒と第2のテトラカルボン酸二無水物とを添加し、第2のテトラカルボン酸二無水物と反応濃縮物中のアミン末端シロキサンイミドオリゴマーとをイミド化反応させ、それによりシロキサンポリイミド樹脂を得る工程
を有することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
テトラカルボン酸二無水物が、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
シロキサンジアミンが、式(1)
【化1】

(式中、nは1〜30の整数であり、mは0〜20の整数である。)
の構造を有する請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
シロキサン非含有ジアミンが、ジアミノフェノール誘導体である請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
ジアミノフェノール誘導体が、3,3′−ジアミノ−4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホンである請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
工程(a)で使用する溶媒が、グライム類と非極性溶媒との混合溶媒である請求項1記載の製造方法。
【請求項7】
グライム類がトリグライムであり、非極性溶媒がベンゼン、トルエン、キシレン及びメシチレンからなる群より選択される少なくとも一種である請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
工程(c)で使用する溶媒が、トリグライムとγ−ブチロラクトンとの混合溶媒である請求項1記載の製造方法。
【請求項9】
工程(a)におけるイミド化反応を150〜220℃で行う請求項1記載の製造方法。
【請求項10】
工程(b)における減圧濃縮を、150〜220℃で行う請求項1記載の製造方法。
【請求項11】
工程(c)におけるイミド化反応を、0.01〜1.1質量%の水の存在下で行う請求項1記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法により得られたシロキサンポリイミド樹脂。
【請求項13】
請求項12のシロキサンポリイミド樹脂からなるカバーレイ。
【請求項14】
加熱可能な反応容器と、反応容器の上方に装着された凝縮器と、凝縮器で凝縮した凝縮物をトラップするトラップ槽と、反応容器内にガスを導入するためのガス導入管とを有する、請求項1記載のシロキサンポリイミド樹脂を製造するための合成装置において、凝縮トラップ槽と反応容器との間は、所定量以上の凝縮物が凝縮トラップ槽に貯留された場合に、過剰の凝縮物を反応容器に戻すためのオーバーフロー管で連結されており、ガス導入管はオーバーフロー管のオーバーフロー面よりも下方に位置するように反応容器に設置されている合成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−31225(P2010−31225A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11643(P2009−11643)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】