説明

スイッチング電源装置

【課題】簡単な構成で小型化が容易であり、高効率で高精度、高応答のスイッチング電源装置を提供する。
【解決手段】トランスT1の1次巻線N1に接続された入力電源10と、メインスイッチング素子TR1と、トランスT1の2次巻線N2に接続された整流回路18と、整流回路18の出力を平滑するチョークコイルLoとコンデンサC1から成る平滑回路20を有する。平滑回路20の出力電圧がフィードバックされ出力電圧を制御するためのフィードバック制御回路12を備える。平滑回路20のチョークコイルLoのサブ巻線Nsubに、サブスイッチング素子Q1とコンデンサC1を接続し、メインスイッチング素子TR1のオフ期間に、サブ巻線Nsubに接続されたサブスイッチング素子Q1をオンさせて、サブ巻線Nsubに発生するチョークコイルLoの誘起電圧を電圧信号として、フィードバック制御回路12へ帰還させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電圧を所望の電圧に変換し電子機器に供給するためのスイッチング電源装置に関するもので、特に、フィードバック制御回路を備えたスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1〜3に開示されているように、フォワード型コンバータの出力チョークコイルにメイン巻線と結合するようにサブ巻線を設け、出力チョークコイルに発生する誘起電圧を、サブ巻線からダイオードを介して電圧信号として取り出し、この電圧信号をフィードバック制御回路に入力して出力電圧制御を行なうスイッチング電源装置が提案されていた。各特許文献に開示された電源回路は、出力チョークコイルを含む整流平滑回路の整流素子としてダイオードを用いた例が開示されている。
【0003】
一方、低電圧出力のスイッチング電源を高効率化するために、近年、整流回路として同期整流回路が一般的に用いられるようになっている。従って、各特許文献に開示された従来例の電源回路において、スイッチング電源の高効率化のために、整流回路に同期整流回路を適用することは容易に推測できる。
【0004】
そこで、同期整流回路を備えたスイッチング電源回路に、上記従来の出力チョークコイルに発生する誘起電圧を検知することでフィードバック制御を行なう電源装置の回路について、図7を基にして説明する。図7に示すスイッチング電源装置は、直流入力電源10の出力端子間にトランスT1の1次巻線N1と、メインスイッチング素子TR1が直列に接続され、メインスイッチング素子TR1の制御端子には、フィードバック制御回路12の出力により出力パルス幅を制御するメインスイッチング素子駆動回路14の出力が接続されている。
【0005】
トランスT1の2次巻線N2には、直列に接続されたMOS−FET等の同期整流素子TR2、TR3を備え、同期整流素子TR2、TR3のゲートには同期整流素子駆動回路16の出力が接続されている。同期整流素子TR2、TR3と同期整流素子駆動回路16により同期整流回路18を構成している。同期整流素子TR3のドレイン−ソース間には、出力コンデンサCoと出力チョークコイルLoから構成される平滑回路20が接続され、出力コンデンサCoの両端に負荷22が接続されている。
【0006】
出力チョークコイルLoには、メイン巻線Nmainとサブ巻線Nsubが設けられ、ここに、ダイオードD1とコンデンサC1から構成される出力チョークコイル誘起電圧検出回路15が接続されている。コンデンサC1は、メインスイッチング素子TR1がオフの期間に出力チョークコイルLoに発生する誘起電圧を取り出して蓄えるもので、コンデンサC1の電圧は、フィードバック制御回路12の誤差アンプ13の反転入力端子に接続されている。誤差アンプ13の非反転入力端子には、基準電圧Vrefが入力している。
【0007】
このスイッチング電源装置は、メインスイッチング素子駆動回路14が、メインスイッチング素子TR1の駆動パルス幅を制御することにより、スイッチング電源装置の出力電圧Voの制御を行なう。メインスイッチング素子駆動回路14は、フィードバック制御回路12がコンデンサC1の電圧VC1と基準電圧Vrefが等しくなるように、メインスイッチング素子TR1の駆動パルス幅を決定する。
【特許文献1】特開平6−284714号公報
【特許文献2】特開2003−33024号公報
【特許文献3】特開2003−33025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来例に同期整流回路を組み合わせると、出力電圧制御に問題が生じ、スイッチング電源としての特性が悪化する。即ち、図7のスイッチング電源装置は、ダイオードD1の順方向電圧VFの温度特性の影響がスイッチング電源装置の出力電圧に現れるため、周囲温度の影響を受けて、出力電圧Voが変化する特性のスイッチング電源装置になってしまうと言った問題がある。図7のスイッチング電源装置が周囲温度の影響を受けて、出力電圧Voが変化する特性について、以下で説明する。
【0009】
出力チョークコイルLoのサブ巻線Nsubに発生する誘起電圧Vflsubは、出力チョークコイルLoのメイン巻線Nmainとサブ巻線Nsubの巻数比とスイッチング電源装置の出力電圧Voから、式(1)のように表される。
【数1】

【0010】
出力チョークコイル誘起電圧検出回路15のコンデンサC1は、出力チョークコイルLoのサブ巻線Nsubに発生する誘起電圧Vflsubを、ダイオードD1を介して蓄える。ダイオードD1は順方向電圧VFの電圧降下を発生させるため、コンデンサC1の電圧VC1は、式(2)で表される。
【数2】

【0011】
このスイッチング電源装置は、出力チョークコイル誘起電圧検出回路15のコンデンサC1の電圧VC1の電圧を基準電圧Vrefと同じになるように制御を行なっているため、式(3)が成り立つ。
【数3】

【0012】
式(3)を変形すると式(4)が得られる。
【数4】

【0013】
基準電圧Vrefは、通常、一定値であることから、式(5)が得られる。
【数5】

【0014】
式(5)から、出力電圧Voは、ダイオードD1の順方向電圧VFの影響を受けて変化することがわかる。
【0015】
ここで、出力チョークコイル誘起電圧検出回路15のダイオードD1は、PN接合のダイオードやショットキーバリアダイオードが用いられるが、これらのダイオードは、周囲温度が高いと順方向電圧VFが低くなり、周囲温度が低いと順方向電圧VFが高くなるように変化する。従って、図7のような構成のスイッチング電源装置は、周囲温度で出力電圧Voが変動する特性を持つことになる。一般に、スイッチング電源装置は、周囲温度が変化しても出力電圧Voが一定であることが求められることから、周囲温度の変化で、出力電圧Voが変化してしまうことは好ましくないものである。
【0016】
特に、この問題は、低電圧・大電流出力のスイッチング電源で顕著になる。例えば、出力電圧が1Vで大電流出力のスイッチング電源では、出力チョークコイルLoのメイン巻線Nmainは1ターンで設計されることが多い。これは、低電圧出力であるため、インダクタンスが小さくても良いから巻数を減らせることと、巻数を減らすことで、電流が流れる経路を短くすることができるため抵抗成分を減少させることが可能となり、損失を低減することができるためである。
【0017】
仮に、このスイッチング電源の出力チョークコイルLoのサブ巻線Nsubを1ターンとすると、ダイオードD1の順方向電圧VFが変化した分だけ、出力電圧Voが変化するスイッチング電源となってしまう。もし、ダイオードD1にPN接合のダイオードを用いたとすると、ダイオードD1の順方向電圧VFは、周囲温度が−40℃では約0.8V、20℃では約0.6V、80℃では約0.4Vとなると予測され、高温から低温で約0.4Vの温度変動を持つ。従って、−40℃から80℃では1V出力のうち、0.4Vも出力電圧が変動するスイッチング電源となってしまう。
【0018】
そこで、このスイッチング電源の出力電圧変動を小さくするためには、式(5)から、出力チョークコイルLoのメイン巻線Nmainに対してサブ巻線Nsubの巻数を大きくすることで改善できる。もし、スイッチング電源装置の出力電圧変動を0.1%以下にしたいとすると、式(6)のようになる。
【数6】

【0019】
出力電圧変動を0.1%以下にしたいとすると、出力チョークコイルLoのサブ巻線Nsubは400ターンも必要となり、出力チョークコイルの巻線スペースを多く占拠し、その分だけ、メイン巻線Nmainのスペースが削られ、メイン巻線Nmainの抵抗成分の増加につながる。抵抗成分の増加は、スイッチング電源の損失の増加につながり、スイッチング電源の効率を低下させることになる。
【0020】
また、近年のスイッチング電源では、プリント基板上にトランスや出力チョークコイルのコイルパターンを形成して、制御回路と一体化することで小型化・高性能化を実現する構造が用いられることがあるが、プリント基板上のコイルパターンでサブ巻線Nsubを400ターンも設けることは不可能であり、従来例の回路では、このスイッチング電源は現実的には作れないことになる。
【0021】
本発明は、上記背景技術に鑑みて成されたもので、簡単な構成で小型化が容易であり、高効率で高精度のスイッチング電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この発明は、1次巻線と2次巻線を有したトランスと、前記トランスの1次巻線に接続された入力電源と、前記1次巻線に印加される前記入力電源電圧をオン/オフするメインスイッチング素子と、前記トランスの2次巻線に接続され、前記2次巻線の出力電力の同期整流を行う整流回路と、この整流回路の出力を平滑するチョークコイルとコンデンサから成る平滑回路と、前記平滑回路の出力電圧がフィードバックされ前記出力電圧を所定の電圧に制御するためのフィードバック制御回路と、前記フィードバック制御回路の出力により前記メインスイッチング素子をオン/オフするメインスイッチング素子駆動回路と、前記メインスイッチング素子駆動回路の出力信号に同期して動作する同期整流素子駆動回路と、この同期整流素子駆動回路によりオン/オフする同期整流素子を備え、前記メインスイッチング素子駆動回路の出力により前記メインスイッチング素子の駆動パルス幅を制御することによって、前記平滑回路の出力電圧が所定の電圧になるように制御するスイッチング電源装置であって、前記平滑回路のチョークコイルには、メイン巻線とサブ巻線が設けられ、前記サブ巻線にサブスイッチング素子とコンデンサを接続し、前記メインスイッチング素子のオフ期間に、前記サブ巻線に接続された前記サブスイッチング素子をオンさせて、前記サブ巻線に発生する前記チョークコイルの誘起電圧を電圧信号として取り出し、前記電圧信号を前記フィードバック制御回路に入力することにより、前記出力電圧を所定の電圧に制御するスイッチング電源装置である。
【0023】
前記サブスイッチング素子は、前記メインスイッチング素子がオフしてから所定の第1のデットタイムの後オンし、前記サブスイッチング素子がオフした後、所定の第2のデットタイムを経て前記メインスイッチング素子がオンするように制御されるものである。
【0024】
前記メインスイッチング素子がオフしてから前記サブスイッチング素子がオンするまでの前記第1のデットタイムは、前記メインスイッチング素子がオフしてから前記同期整流素子がオンし、その後、前記サブスイッチング素子がオンするまでの期間に設定されており、前記サブスイッチング素子がオフしてから前記メインスイッチング素子がオンするまでの前記第2のデットタイムは、前記サブスイッチング素子がオフしてから前期同期整流素子がオフし、その後、メインスイッチング素子がオンするまでの期間に設定されている。
【0025】
また、前記同期整流素子及び前記サブスイッチング素子は、MOS−FETであり、前記同期整流素子の寄生ダイオードの順方向に発生し得る電圧に、前記チョークコイルのメイン巻線とサブ巻線の巻数比を掛けた値が、前記サブスイッチング素子の寄生ダイオードの順方向電圧以下となるように、前記巻数比を選定したものである。
【0026】
その他、前記サブ巻線に発生する前記チョークコイルの誘起電圧を電圧信号として取り出し、前記電圧信号をスイッチング電源保護回路に入力することで、スイッチング電源の異常動作の検出に用いるようにしても良い。また、前記チョークコイルは、プリント基板上にコイルパターンが形成されて成るものである。
【発明の効果】
【0027】
この発明は、出力チョークコイルのサブ巻線を利用して、出力電圧のフィードバック制御を行い、出力チョークコイル誘起電圧検出回路に、従来例のダイオードに代えてMOS−FET等のスイッチング素子を用いて、本願発明の制御を行うことにより、容易に電源装置を小型化高性能化することができ、高効率で高精度のスイッチング電源装置を提供することができる。さらに、スイッチング電源装置の負荷電流急変時の出力電圧低下に対するスイッチング電源装置のフィードバック回路の応答性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、この発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。図1は、この発明の第一実施形態のスイッチング電源装置を示すもので、図7に示す回路と同様の部材は同一符号を付して説明する。このスイッチング電源装置は、直流入力電源10の出力端子間にトランスT1の1次巻線N1と、MOS−FET等のメインスイッチング素子TR1が直列に接続され、メインスイッチング素子TR1の制御端子には、フィードバック制御回路12の出力により出力パルス幅を制御するメインスイッチング素子駆動回路24の出力が接続されている。メインスイッチング素子駆動回路24には、後述するサブスイッチング素子駆動回路26も設けられている。
【0029】
トランスT1の2次巻線N2には、直列に接続されたMOS−FET等の同期整流素子TR2、TR3を備え、同期整流素子TR2、TR3のゲートには、同期整流素子TR2、TR3を相補的にオン/オフする同期整流素子駆動回路16の出力が接続されている。同期整流素子TR2、TR3と同期整流素子駆動回路16により、トランスT1の2次巻線N2による出力を同期整流する同期整流回路18を構成している。同期整流素子TR3のドレイン−ソース間には、出力コンデンサCoと出力チョークコイルLoから構成される平滑回路20が接続され、出力コンデンサCoの両端に負荷22が接続されている。
【0030】
出力チョークコイルLoには、メイン巻線Nmainとサブ巻線Nsubが設けられ、メイン巻線Nmainのドットのある側が同期整流素子TR2を介して2次巻線N2のドットのない側の端子に接続され、メイン巻線Nmainのドットのない側は負荷22に接続されている。また、サブ巻線Nsubは、サブスイッチング素子Q1に接続されている。サブスイッチング素子Q1は、図7に示す従来例のダイオードD1の代わりに設置されたもので、コンデンサC1とともに出力チョークコイル誘起電圧検出回路25を形成している。コンデンサC1は、サブスイッチング素子Q1を介してサブ巻線Nsubの両端間に接続され、コンデンサC1の一端がフィードバック制御回路12内の誤差アンプ13の反転入力端子に接続され、他端が接地している。
【0031】
サブスイッチング素子Q1には、メインスイッチング素子駆動回路24内に設けられたサブスイッチング素子駆動回路26の出力が接続されている。出力チョークコイル誘起電圧検出回路25は、メインスイッチング素子TR1がオフの期間に、サブスイッチング素子Q1がオンして、出力チョークコイルLoに発生する誘起電圧をコンデンサC1に蓄えるものである。コンデンサC1の電圧は、フィードバック制御回路12内の誤差アンプ13の反転入力端子に接続され、誤差アンプ13の非反転入力端子には、基準電圧Vrefが接続されている。
【0032】
この実施形態のスイッチング電源装置の動作は、メインスイッチング素子駆動回路24がメインスイッチング素子TR1の駆動パルス幅を制御することにより、スイッチング電源装置の出力電圧Voの制御を行なう。メインスイッチング素子駆動回路24は、フィードバック制御回路12が、出力チョークコイル誘起電圧検出回路25のコンデンサC1の電圧VC1と基準電圧Vrefが等しくなるように、メインスイッチング素子TR1の駆動パルス幅を決定する。
【0033】
この実施形態のスイッチング電源装置は、同期整流素子TR2、TR3が理想的に動作し、サブスイッチング素子Q1も理想的な動作をしたとすると、図2に示すタイミングチャートのように動作する。メインスイッチング素子TR1がオンのときに、同期整流素子TR2がオンし、同期整流素子TR3はオフしている。そして、メインスイッチング素子TR1がオフすると同時に、同期整流素子TR2、TR3はオン/オフが反転する。
【0034】
また、サブスイッチング素子駆動回路26は、メインスイッチング素子TR1がオフの時にサブスイッチング素子Q1をオンする制御を行い、メインスイッチング素子TR1がオンのときにサブスイッチング素子Q1がオフするように制御する。
【0035】
この実施形態のスイッチング電源装置によれば、出力チョークコイルLoのサブ巻線Nsubを利用して、出力電圧のフィードバック制御を正確に行うことができ、従来のダイオードによる電圧低下がなく、温度による変動も生じないものである。さらに、低電圧で大電流のスイッチング電源装置においても、高効率の電源装置を提供することができる。
【0036】
次に、この発明の第二実施形態のスイッチング電源装置について図3〜図5を基にして説明する。ここで上記実施形態と同様の部材は同一の符号を付して説明を省略する。この実施形態では、実際の同期整流回路18内の同期整流素子駆動回路16が、同期整流素子TR3をオンさせるのに時間遅れを持つことを考慮した構成及び動作としたものである。この実施形態の出力チョークコイル誘起電圧検出回路25は、NチャンネルMOS−FETのサブスイッチング素子Q1のドレインをサブ巻線Nsubのドットのない側の端子に接続し、ソースをコンデンサC1の接地端子に接続している。
【0037】
この実施形態のスイッチング電源素子の動作は、図4に示すように、同期整流素子TR3の駆動がメインスイッチング素子TR1の動作に対して、デッドタイムを持って動作する。この動作により、スイッチング電源装置の出力電圧精度に影響を及ぼすので、これを避けた動作としている。このスイッチング電源の出力電圧精度に影響を及ぼすのは同期整流素子TR3の動作であり、同期整流素子TR3は、メインスイッチング素子TR1がオフしてから、同期整流素子TR3がオンするまでに若干の時間遅れ(期間A)を持つ。これは、実際の同期整流素子駆動回路16は、同期整流素子TR3をオンさせるのに時間遅れを持つためである。
【0038】
また、実際の同期整流回路18は、同期整流素子TR3がオフしてから、メインスイッチング素子TR1がオンするまでに若干の時間遅れ(期間C)を持つように制御が行なわれる。これは、メインスイッチング素子TR1がオンしたときに、同期整流素子TR3がオンしている状態にあると、入力電源10の両端がメインスイッチング素子TR1、トランスT1、同期整流素子TR3を介して短絡された状態となるため、大きな損失を発生する。そこで、メインスイッチング素子TR1と同期整流素子TR3が確実に同時オンしないようにするために、若干の時間遅れを持つように制御が行なわれるものである。
【0039】
期間Aおよび期間Cでは、メインスイッチング素子TR1と同期整流素子TR3が同時にオフしている期間である。このとき、出力チョークコイルLoには、誘起電圧が発生し、図5(a)に示すように、同期整流素子TR3の寄生ダイオードDb3が導通している状態となる。この期間では、出力チョークコイルLoの誘起電圧は、スイッチング電源の出力電圧Voに同期整流素子TR3の寄生ダイオードDb3の順方向電圧VF3を足した電圧となる。
【0040】
同期整流素子TR3がオンしている期間Bでは、図5(b)に示すように、同期整流素子TR3の寄生ダイオードDb3に電流が流れないため、順方向電圧VF3は発生しない。従って、出力チョークコイルLoの誘起電圧は、スイッチング電源の出力電圧Voとなる。
【0041】
従って、図3に示す電源回路において、サブスイッチング素子Q1を、メインスイッチング素子TR1がオフすると同時にオンし、メインスイッチング素子TR1がオンすると同時にサブスイッチング素子Q1をオフする制御を行なうと、期間Aおよび期間Cの出力チョークコイルLoの誘起電圧の変動がそのままコンデンサC1に現れる。一方、スイッチング素子駆動回路24は、コンデンサC1の電圧が基準電圧Vrefと同じになるように、メインスイッチング素子TR1の駆動パルス幅を制御する。コンデンサC1に、期間Aおよび期間Cの出力チョークコイルLoの誘起電圧の変動がそのまま現れたとすると、期間Aおよび期間Cの影響を受けない場合に比べて、コンデンサC1の平均電圧が上昇することになる。従って、スイッチング素子駆動回路24は、期間Aおよび期間Cの影響分だけ、スイッチング電源の出力電圧Voが低くなるように、メインスイッチング素子TR1の駆動パルス幅を制御する。期間Aおよび期間Cは、短い時間であるため、スイッチング電源の出力電圧Voが極端に低くなるような制御が行なわれることはないが、スイッチング電源の出力電圧Voの精度が悪化する原因となる。
【0042】
そこで、この実施形態の電源装置では、図4のように、出力チョークコイルLoのサブ巻線Nsubに接続されたサブスイッチング素子Q1は、メインスイッチング素子TR1がオフしてから、期間Aより僅かに長いデットタイムT1を持ってオンし、メインスイッチング素子TR1がオンする前であって期間Cより僅かに早いタイミングでサブスイッチング素子Q1がオフするように制御されたデットタイムT2を持ってメインスイッチング素子TR1がオンする。
【0043】
この制御を行なうことにより、期間Aおよび期間Cの影響をなくし、出力電圧Voの制御精度を高いものにすることができる。なお、サブスイッチング素子Q1は、オフ状態のときは、その寄生ダイオードDbq1のみが導通できる状態となっているため、期間Aおよび期間Cの出力チョークコイルLoの誘起電圧の変動は、サブスイッチング素子Q1の寄生ダイオードDbq1の順方向電圧を超えた場合のみ、コンデンサC1に影響を与える。これについては、出力チョークコイルLoの誘起電圧の変動は、同期整流素子TR3の寄生ダイオードDb3の順方向電圧VF3に出力チョークコイルLoのメイン巻線Nmainとサブ巻線Nsubの巻数比を掛けた値となるため、同期整流素子TR3の寄生ダイオードDb3の順方向に発生し得る電圧に、チョークコイルLoのメイン巻線Nmainとサブ巻線Nsubの巻数比を掛けた値が、サブスイッチング素子Q1の寄生ダイオードDbq1の順方向電圧以下となるように巻数比を選定すれば、期間Aおよび期間Cの出力チョークコイルLoの誘起電圧の変動は、コンデンサC1に全く影響を及ぼさない。
【0044】
また、従来例のように、ダイオードD1を用いて出力チョークコイルLoの誘起電圧を検出すると、スイッチング電源装置の負荷電流急変時にスイッチング電源装置の出力電圧Voが低下しても、コンデンサC1の電圧が即座には低下しない。これは、ダイオードD1は、カソードからアノードに電流を流すことができないためである。従って、従来の回路では、スイッチング電源装置の出力電圧Voが低下すると、出力チョークコイルLoの誘起電圧が低下するが、スイッチング電源装置の出力電圧Voが低下する前の出力チョークコイルLoの誘起電圧がコンデンサC1に蓄えられているため、出力チョークコイルLoの誘起電圧の低下を瞬時に反映できない。つまり、従来例の回路では、スイッチング素子駆動回路内のフィードバック制御回路が、スイッチング電源装置の出力電圧Voの低下を瞬時に検出することができないものであった。
【0045】
これに対して、この実施形態の電源装置では、負荷電流の急変にも瞬時に追従可能な電源装置を形成することができる。即ち、この実施形態の電源装置では、ダイオードD1をサブスイッチング素子Q1に換えてMOS−FETとすることにより、MOS−FETがオン期間中は、ドレインからソース、ソースからドレインへと双方向に電流を流すことができる。このため、出力チョークコイルLoの誘起電圧が低下すると、コンデンサC1の電圧が瞬時に低下し、スイッチング素子駆動回路内のフィードバック制御回路が、スイッチング電源装置の出力電圧Voの低下を瞬時に検出することが可能となり、負荷電流急変時の出力電圧低下に対するフィードバック制御回路の応答性を向上させることができる。
【0046】
また、この発明の電源装置の回路は、プリント基板上にトランスや出力チョークコイルのコイルパターンを形成して、制御回路と一体化することで小型化・高性能化を実現した構成のスイッチング電源について特に有効であり、少ない出力チョークコイルのサブ巻線の巻数で、スイッチング電源の出力電圧を高精度に制御することが可能となる。
【0047】
なお、この実施形態のサブスイッチング素子Q1は、図6のようにPチャンネルMOS−FETを用いた回路で構成しても良い。この実施形態でも上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0048】
上記の実施例では、出力チョークコイルに発生する誘起電圧をサブスイッチング素子Q1およびコンデンサC1を介して、フィードバック制御回路に入力し、スイッチング電源装置の出力電圧の安定化制御に用いた例のみを示したが、コンデンサC1の電圧をスイッチング電源保護回路に入力してスイッチング電源装置の異常動作を検出し、過電圧保護回路や不足電圧保護回路等のスイッチング電源装置の保護回路の制御に用いることも可能である。
【0049】
また、上記の実施形態での回路は、シングルフォワードコンバータによるものであるが、プッシュプルコンバータ、フルブリッジコンバータ、ハーフブリッジコンバータ等の出力チョークコイルと同期整流回路を備える何れのコンバータ回路においても同様の効果が得られる。また、同期整流回路は、カレントダブラー同期整流回路を用いた場合でも同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明の第一実施形態のスイッチング電源装置の概略ブロック図である。
【図2】この発明の第一実施形態のスイッチング電源装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図3】この発明の第二実施形態のスイッチング電源装置の概略回路図である。
【図4】この発明の第二実施形態のスイッチング電源装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図5】この発明の第二実施形態のスイッチング電源装置の出力チョークコイルの発生電圧を示す概略回路図である。
【図6】この発明の第二実施形態のスイッチング電源装置の変形例の概略回路図である。
【図7】従来のスイッチング電源装置の概略ブロック図である。
【符号の説明】
【0051】
10 直流入力電源
12 フィードバック制御回路
16 同期整流素子駆動回路
18 同期整流回路
20 平滑回路
22 負荷
24 フィードバック制御回路
25 出力チョークコイル誘起電圧検出回路
26 サブスイッチング素子駆動回路
TR1 メインスイッチング素子
TR2,TR3 同期整流素子
Q1 サブスイッチング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次巻線と2次巻線を有したトランスと、前記トランスの1次巻線に接続された入力電源と、前記1次巻線に印加される前記入力電源電圧をオン/オフするメインスイッチング素子と、前記トランスの2次巻線に接続され、前記2次巻線の出力電力の同期整流を行う整流回路と、この整流回路の出力を平滑するチョークコイルとコンデンサから成る平滑回路と、前記平滑回路の出力電圧がフィードバックされ前記出力電圧を所定の電圧に制御するためのフィードバック制御回路と、前記フィードバック制御回路の出力により前記メインスイッチング素子をオン/オフするメインスイッチング素子駆動回路と、前記メインスイッチング素子駆動回路の出力信号に同期して動作する同期整流素子駆動回路と、この同期整流素子駆動回路によりオン/オフする同期整流素子を備え、前記メインスイッチング素子駆動回路の出力により前記メインスイッチング素子の駆動パルス幅を制御することによって、前記平滑回路の出力電圧が所定の電圧になるように制御するスイッチング電源装置において、
前記平滑回路のチョークコイルには、メイン巻線とサブ巻線が設けられ、前記サブ巻線にサブスイッチング素子とコンデンサを接続し、前記メインスイッチング素子のオフ期間に、前記サブ巻線に接続された前記サブスイッチング素子をオンさせて、前記サブ巻線に発生する前記チョークコイルの誘起電圧を電圧信号として取り出し、前記電圧信号を前記フィードバック制御回路に入力することにより、前記出力電圧を所定の電圧に制御することを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記サブスイッチング素子は、前記メインスイッチング素子がオフしてから所定の第1のデットタイムの後オンし、前記サブスイッチング素子がオフした後、所定の第2のデットタイムを経て前記メインスイッチング素子がオンするように制御されることを特徴とする請求項1記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記メインスイッチング素子がオフしてから前記サブスイッチング素子がオンするまでの前記第1のデットタイムは、前記メインスイッチング素子がオフしてから前記同期整流素子がオンし、その後、前記サブスイッチング素子がオンするまでの期間に設定され、前記サブスイッチング素子がオフしてから前記メインスイッチング素子がオンするまでの前記第2のデットタイムは、前記サブスイッチング素子がオフしてから前期同期整流素子がオフし、その後、メインスイッチング素子がオンするまでの期間に設定されていることを特徴とする請求項2記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
前記同期整流素子及び前記サブスイッチング素子は、MOS−FETであり、前記同期整流素子の寄生ダイオードの順方向に発生し得る電圧に、前記チョークコイルのメイン巻線とサブ巻線の巻数比を掛けた値が、前記サブスイッチング素子の寄生ダイオードの順方向電圧以下となるように、前記巻数比を選定したことを特徴とする請求項1、2または3記載のスイッチング電源装置。
【請求項5】
前記サブ巻線に発生する前記チョークコイルの誘起電圧を電圧信号として取り出し、前記電圧信号をスイッチング電源保護回路に入力することで、スイッチング電源の異常動作の検出に用いることを特徴とする請求項1、2、3または4記載のスイッチング電源装置。
【請求項6】
前記チョークコイルは、プリント基板上にコイルパターンが形成されて成ることを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載のスイッチング電源装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−278639(P2008−278639A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119504(P2007−119504)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000103208)コーセル株式会社 (80)
【Fターム(参考)】