説明

スイッチング電源装置

【課題】トランスの巻線の数を増やすことなく、定電圧回路における電力損失を低減することができるスイッチング電源装置を提供する。
【解決手段】スイッチング電源装置1の補助電源部は、補助巻線T3の誘起電圧を直流化して第1の直流化電圧V1を生成する第1の直流化手段D4と、該誘起電圧を直流化するとともに第1の直流化電圧V1よりも高い第2の直流化電圧Vに昇圧する第2の直流化手段(D3、C3)と、昇圧後の第2の直流化電圧V2を既定電圧を超えないように制限しながら出力する定電圧回路5とを備え、補助巻線T3の誘起電圧が上昇すると、第1の直流化手段D4からの電圧供給に先立って定電圧回路5からアクティブフィルタ制御回路4に電圧を供給した後、第1の直流化電圧V1が定電圧回路5からの出力電圧Vを超えると、定電圧化手段5の動作を停止させるとともに、第1の直流化手段D4からアクティブフィルタ制御回路4に電圧を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスイッチング電源装置に関し、特に、補助巻線の誘起電圧に基づいて、アクティブフィルタを制御する制御回路に電源電圧を供給するための直流の補助電圧を生成するスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
商用交流電圧を整流した後にアクティブフィルタに供給して力率を改善するとともに、世界各国の各種商用交流電圧においても使用できるよう構成したワールドワイドなスイッチング電源装置として、例えば、図3に示すスイッチング電源装置が知られている。
【0003】
図3に示すように、このスイッチング電源装置10は、100V/200V系の商用交流電源から供給された商用交流電圧VACIN(85〜132V/187V〜264V)を整流する整流手段(ダイオードブリッジ回路D1)を備えている。そして、このダイオードブリッジ回路D1の出力電圧は、アクティブフィルタ2に供給されている。
【0004】
アクティブフィルタ2は、チョーク等のリアクトルを介してダイオードブリッジ回路D1の出力端子間に接続されたスイッチング手段を有し、このスイッチング手段のスイッチング動作はアクティブフィルタ制御回路4からの制御信号によって制御される。アクティブフィルタ2によれば、ダイオードブリッジ回路D1の出力電圧を整形して正弦波状とすることにより、力率を改善することができる。
【0005】
アクティブフィルタ2の出力端子間には、平滑用コンデンサC1と、トランスTの一次巻線T1およびスイッチング手段(例えば、電力用FETQ1)のドレイン・ソース導電路とからなる直列回路が接続されている。電力用FETQ1のゲートにはDC−DCコンバータ制御回路3からの制御信号が入力される。これにより、電力用FETQ1の導通期間が制御され、一次巻線T1にスイッチング電圧が供給される。
【0006】
トランスTは二次巻線T2を有し、その一端には整流手段をなすダイオードD2のアノードが接続されている。また、ダイオードD2のカソードは平滑手段をなす平滑用コンデンサC2の一端に接続され、平滑用コンデンサC2の他端は二次巻線T2の他端に接続されている。平滑用コンデンサC2の両端からは、不図示の負荷に供給するための直流の二次側出力電圧VDCOUTが出力される。
【0007】
図3に示すように、トランスTは、一次巻線T1、二次巻線T2の他に補助巻線T3を有している。補助巻線T3は、トランスTのコアに一次巻線T1と同一の極性で巻回されており、図3には示されていないが一次巻線T1に直列に接続されている。なお、以下の説明では、補助巻線T3の2つの端部のうち、一次巻線T1と相互に接続される側の端部を「相互接続端」と呼び、その反対側の端部を「非相互接続端」(図3において、●が付されている側の端部)と呼ぶこととする。
【0008】
補助巻線T3の誘起電圧に基づいて、DC−DCコンバータ制御回路3およびアクティブフィルタ制御回路4の電源電圧となる補助電圧V4を生成する補助電源部には、例えば、非特許文献1に記載の定電圧回路5とダイオードD6とが備えられている。ダイオードD6のアノードは補助巻線T3の非相互接続端に接続され、ダイオードD6のカソードは定電圧回路5を構成するトランジスタQ2のコレクタに接続されている。
【0009】
トランジスタQ2のベースは、定電圧素子(例えば、ツェナーダイオードZD)のカソードに接続され、ツェナーダイオードZDのアノードは補助巻線T3の相互接続端に接続されている。トランジスタQ2のコレクタとベースとの間には抵抗器Rが接続され、エミッタは平滑用コンデンサC4の一端に接続されている。また、平滑用コンデンサC4の他端は補助巻線T3の相互接続端に接続されている。
【0010】
そして、平滑用コンデンサC4の両端からは、DC−DCコンバータ制御回路3およびアクティブフィルタ制御回路4の電源電圧となる補助電圧V4が出力される。
【0011】
前記の通り、スイッチング電源装置10に入力される商用交流電圧VACINは85V〜264Vの広い範囲で変動するが、このスイッチング電源装置10によれば、補助巻線T3の誘起電圧がある程度上昇するとツェナーダイオードZDが導通状態となり、補助電圧V4が制限される。これにより、過電圧が供給されることによるDC−DCコンバータ制御回路3およびアクティブフィルタ制御回路4の破損等が防がれている。
【0012】
図4は、上記スイッチング電源装置10を改良・発展させたスイッチング電源装置である(例えば、特許文献1参照)。この図に示すように、スイッチング電源装置11では、商用交流電圧VACINの入力が開始された起動直後にのみ定電圧回路5が動作し、その後、定電圧回路5は停止するようになっている。したがって、このスイッチング電源装置11によれば、定電圧回路5における損失発生を低減することができる。
【0013】
より詳しくは、このスイッチング電源装置11において、トランスTは、一次巻線T1、二次巻線T2の他に2つの補助巻線T3、T4を有している。補助巻線T3、T4は、トランスTのコアに一次巻線T1と同一の極性で巻回されており、図4には示されていないが一次巻線T1と補助巻線T3とは直列に接続されている。なお、以下の説明では、補助巻線T3の2つの端部のうち、一次巻線T1と相互に接続される側の端部を「相互接続端」と呼び、その反対側の端部を「非相互接続端」(図4において、●が付されている側の端部)と呼ぶこととする。また、補助巻線T4の2つの端部のうち、補助巻線T3と相互に接続される側の端部を「相互接続端」と呼び、その反対側の端部を「非相互接続端」(図4において、●が付されている側の端部)と呼ぶこととする。
【0014】
補助電源部には、主に定電圧回路5とダイオードD6とが備えられている。ダイオードD6のアノードは補助巻線T4の非相互接続端に接続され、ダイオードD6のカソードは定電圧回路5を構成するトランジスタQ2のコレクタに接続されている。
【0015】
トランジスタQ2のベースは、ツェナーダイオードZDのカソードに接続され、ツェナーダイオードZDのアノードは補助巻線T3の相互接続端に接続されている。トランジスタQ2のコレクタとベースとの間には抵抗器Rが接続され、エミッタは順方向に接続されたダイオードD5を介して平滑用コンデンサC4の一端に接続されている。補助巻線T3の非相互接続端も、順方向に接続されたダイオードD4を介して平滑用コンデンサC4の一端に接続されている。また、平滑用コンデンサC4の他端は補助巻線T3の相互接続端に接続されている。
【0016】
そして、平滑用コンデンサC4の両端からは、DC−DCコンバータ制御回路3およびアクティブフィルタ制御回路4の電源電圧となる補助電圧V4が出力される。
【0017】
図5に示すように、時間t0において商用交流電圧VACINの入力が開始され、アクティブフィルタ2の出力電圧V0が上昇すると、それに伴って補助巻線T3の誘起電圧をダイオードDで直流化した電圧V1と、補助巻線T3および補助巻線T4の誘起電圧の和電圧をダイオードDで直流化した電圧V2(=定電圧回路5の入力電圧)も上昇する。図5(B)(C)の比較から明らかなように、電圧V2は電圧V1よりも上昇率が高いので、ダイオードD5が導通状態となり、定電圧回路5の出力電圧V3によって平滑用コンデンサC4が充電される。そして、補助電圧V4は、DC−DCコンバータ制御回路3およびアクティブフィルタ制御回路4を正常に動作させるのに必要な電圧まで比較的短時間で上昇する。
【0018】
その後、時間t1になり、ツェナーダイオードZDが導通状態となると、定電圧回路5の出力電圧V3はそれ以上上昇することなく一定電圧VZDに維持される。そして、補助巻線T3の誘起電圧が上昇を続け、時間t2において電圧V1が電圧V3を超えると、ダイオードD4は導通状態となる。そして、平滑用コンデンサC4は、ダイオードD4を通じて充電されるようになる。
【0019】
また、ダイオードD5は非導通状態となり、定電圧回路5の動作は停止する。したがって、これ以後、定電圧回路5において損失が発生することはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2001−16851号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】実用電子回路ハンドブック1「トランジスタと組み合わせた定電圧回路」、CQ出版社、1972年9月、p.375、図4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
ところで、一般に、スイッチング電源装置で使用されるトランスは、サイズ、その他の要因により、設けることができる巻線の数量が制限される場合が多い。この点、図4に示す従来のスイッチング電源装置11では、上昇率の異なる2つの電圧V1、V2を生成するために、トランスTに、一次巻線T1、二次巻線Tの他に2つの補助巻線(T、T4)を設ける必要がある。したがって、小形のトランスを使用せざるを得ないスイッチング電源装置には、図4に示す従来の構成を適用することはできなかった。
【0023】
そこで、本発明は、トランスの巻線の数を増やすことなく、定電圧回路における電力損失を低減することができるスイッチング電源装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するために、本発明に係るスイッチング電源装置は、外部から入力された交流電圧を整流および平滑して得た一次側直流電圧が供給されるアクティブフィルタと、前記アクティブフィルタを制御するアクティブフィルタ制御回路と、アクティブフィルタから出力される出力電圧をスイッチングしてスイッチング電圧を生成するスイッチング手段と、一次巻線、二次巻線および前記一次巻線に直列に接続されて前記一次側直流電圧の上昇に伴って誘起電圧が上昇する補助巻線を有し、前記一次巻線に前記スイッチング電圧が供給されるトランスと、前記二次巻線に誘起された電圧を整流および平滑して直流の二次側出力電圧を生成する出力電圧生成手段と、前記補助巻線の誘起電圧に基づいて直流の補助電圧を生成して該補助電圧を電源電圧として前記アクティブフィルタ制御回路に供給する補助電源部とを備えたスイッチング電源装置であって、前記補助電源部は、前記補助巻線と前記アクティブフィルタ制御回路との間に介装され、前記補助巻線の誘起電圧を直流化して第1の直流化電圧を生成し、該第1の直流化電圧を前記補助電圧として前記アクティブフィルタ制御回路に供給可能な第1の直流化手段と、前記補助巻線に接続され、前記補助巻線の誘起電圧を直流化するとともに前記第1の直流化電圧よりも電圧が高い第2の直流化電圧に昇圧する第2の直流化手段と、前記第2の直流化電圧を、予め設定された既定電圧を超えないように制限しながら前記アクティブフィルタ制御回路に供給可能な定電圧化手段とを備え、前記アクティブフィルタの出力電圧の上昇に伴って前記補助巻線の誘起電圧が上昇すると、前記第1の直流化手段からの電圧供給に先立って前記定電圧化手段から前記アクティブフィルタ制御回路に電圧を供給した後、前記第1の直流化電圧が前記定電圧化手段からの出力電圧を超えると、前記定電圧化手段の動作を停止させるとともに、前記第1の直流化手段から前記アクティブフィルタ制御回路に電圧を供給することを特徴とする。
【0025】
上記構成によれば、補助巻線の誘起電圧を直流化する第1の直流化手段と、定電圧化手段とからアクティブフィルタ制御回路に電源電圧を供給可能となっている。ここで、定電圧化手段には、第2の直流化手段によって補助巻線の誘起電圧が直流化されるとともに第1の直流化電圧よりも電圧が高い第2の直流化電圧が入力される。また、定電圧化手段は、第2の直流電圧を予め設定された既定電圧を超えないように制限しながらアクティブフィルタ制御回路に供給可能となっている。
そして、アクティブフィルタの出力電圧の上昇に伴って補助巻線の誘起電圧が上昇すると、第1の直流化手段からの電圧供給に先立って定電圧化手段からアクティブフィルタ制御回路に電圧を供給するので、起動時に補助電圧を急激に上昇させることができ、該電圧を電源電圧とするアクティブフィルタ制御回路の動作を早期に開始させることができる。しかも、補助電圧は、定電圧化手段によって既定電圧を超えないように制限されるので、外部から入力される交流電圧の範囲が広い場合でも、補助電圧が高くなりすぎるのを防止してアクティブフィルタ制御回路に安定して電源電圧を供給することができる。
さらに、第1の直流化電圧が定電圧化手段からの出力電圧を超えると、定電圧化手段の動作を停止させるとともに、第1の直流化手段からアクティブフィルタ制御回路に電圧を供給するので、定電圧化手段の消費電力を削減することができる。すなわち、補助電圧を急激に上昇させる必要がない起動完了後においては、定電圧化手段の動作が停止し、定電圧化手段における電力損失を低減することができる。しかも、上記動作を単一の補助巻線で実現しているので、トランスの巻線の数を増やすことなく、トランスの小形化を図ることができる。
【0026】
また、上記スイッチング電源装置の第2の直流化手段は、具体的には、補助巻線の両端のうち補助巻線と一次巻線とが相互に接続される相互接続端にアノードが接続されたダイオードと、前記ダイオードのカソードに一端が接続され、他端が補助巻線の両端のうち相互接続端と異なる非相互接続端に接続されたコンデンサとを有し、ダイオードのカソードを定電圧化手段に接続させることで構成することができる。
また、第1の直流化手段は、補助巻線の両端のうちの補助巻線と一次巻線とが相互に接続される非相互接続端にアノードが接続され、カソードがアクティブフィルタ制御回路に接続されたダイオードで構成することができる。
【0027】
また、前記既定電圧は、ツェナーダイオードの降伏電圧によって簡単に設定することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、トランスの巻線の数を増やすことなく、定電圧回路における電力損失を低減することができるスイッチング電源装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るスイッチング電源装置の回路図である。
【図2】図1に示すスイッチング電源装置の各部電圧波形を単純化したグラフである。
【図3】従来のスイッチング電源装置の回路図である。
【図4】従来のスイッチング電源装置の回路図である。
【図5】図4に示すスイッチング電源装置の各部電圧波形を単純化したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図1および図2を参照して、本発明に係るスイッチング電源装置の好ましい実施形態について説明する。なお、図1において、図3と同一の符号を付した構成要素については従来技術で説明したものと同様なので、ここでは説明を省略する。
【0031】
図1に示すように、本発明に係るスイッチング電源装置1において、トランスTは、一次巻線T1、二次巻線T2の他に1つの補助巻線T3を有している。そして、この補助巻線T3、定電圧化手段としての定電圧回路5、コンデンサC3および複数のダイオードD3〜D5で補助電源部が構成されている。補助巻線T3は、トランスTのコアに一次巻線T1と同一の極性で巻回されており、図1には示されていないが一次巻線T1に直列に接続されている。なお、以下の説明では、補助巻線T3の2つの端部のうち、一次巻線T1と相互に接続される側の端部を「相互接続端」と呼び、その反対側の端部を「非相互接続端」(図1において、●が付されている側の端部)と呼ぶこととする。
【0032】
補助電源部において、補助巻線T3の誘起電圧を整流するダイオードD4(本発明の「第1の直流化手段」に相当)のアノードが補助巻線T3の非相互接続端に接続され、カソードがDC−DCコンバータ制御回路3およびアクティブフィルタ制御回路4の電源端子に接続されている。このため、ダイオードD4は補助巻線T3の誘起電圧を直流化して生成された補助電圧(本発明の「第1の直流化電圧」に相当)を電源電圧としてDC−DCコンバータ制御回路3とアクティブフィルタ制御回路4とに供給可能となっている。
【0033】
一方、ダイオードD3のアノードは補助巻線T3の相互接続端に接続され、カソードは定電圧回路5を構成するトランジスタQ2のコレクタに接続されている。また、ダイオードD3のカソードはコンデンサC3の一端に接続され、コンデンサC3の他端は補助巻線T3の非相互接続端に接続されている。ダイオードD3とコンデンサC3は、補助巻線T3の誘起電圧を直流化するとともに第1の直流化電圧V1よりも高い電圧(本発明の「第2の直流化電圧」に相当)に昇圧する。このように、ダイオードD3とコンデンサC3が本発明の「第2の直流化手段」を構成している。
【0034】
定電圧回路5を構成するトランジスタQ2のベースには、ツェナーダイオードZDのカソードが接続され、ツェナーダイオードZDのアノードは補助巻線T3の相互接続端に接続されている。トランジスタQ2のコレクタとベースとの間には抵抗器Rが接続されている。トランジスタQ2のエミッタにはダイオードD5のアノードが接続され、ダイオードD5のカソードは平滑用コンデンサC4の一端に接続されている。ダイオードD5はトランジスタQ2に逆電圧が印加されるのを防止する。平滑用コンデンサC4の他端は補助巻線T3の相互接続端に接続されている。
【0035】
また、平滑用コンデンサC4の一端には、ダイオードD4のカソードが接続されている。つまり、平滑用コンデンサC4の一端には、ダイオードD4のカソードとダイオードD5のカソードとが接続されており、平滑用コンデンサC4は、補助巻線T3からダイオードD4を介して供給される第1の直流化電圧V1と、ダイオードD5を介して供給される定電圧回路5の出力電圧V3とによって選択的に充電される。
【0036】
そして、この充電により、平滑用コンデンサC4の両端には、DC−DCコンバータ制御回路3およびアクティブフィルタ制御回路4の電源電圧となる補助電圧V4が発生する。なお、図1に示すように、定電圧回路5には、補助巻線T3の誘起電圧をダイオードDで直流化した電圧とコンデンサC3の両端電圧との和電圧、すなわち第2の直流化手段によって第1の直流化電圧よりも高く昇圧された電圧(第2の直流化電圧)V2が入力される。
【0037】
続いて、図2を参照して、本発明に係るスイッチング電源装置1の起動時の動作について説明する。
【0038】
図2に示すように、時間t0において商用交流電圧VACINの入力が開始され、アクティブフィルタ2の出力電圧V0が上昇し始めると、それに伴って補助巻線T3の誘起電圧が上昇し始める。また、これとともに、ダイオードD3を介してコンデンサC3が充電される。前記の通り、第2の直流化電圧(定電圧回路5の入力電圧)V2は、補助巻線T3の誘起電圧をダイオードDで直流化した第1の直流化電圧V1とコンデンサC3の両端電圧の和電圧である。したがって、図2(B)(C)の比較から明らかなように、第2の直流化電圧V2は第1の直流化電圧V1よりも急激に上昇する。そして、ダイオードD5が導通状態となり、定電圧回路5の出力電圧V3によって平滑用コンデンサC4が充電され、補助電圧V4が上昇する。すなわち、アクティブフィルタ2の出力電圧V0の上昇に伴って補助巻線T3の誘起電圧が上昇すると、ダイオードD4を介した電圧供給に先立って、定電圧回路5からDC−DCコンバータ制御回路3およびアクティブフィルタ制御回路4に電源電圧が供給される。
【0039】
第2の直流化電圧V2が上昇を続けると、それに応じてツェナーダイオードZDの逆バイアス電圧も上昇して行く。そして、時間t1になると、第2の直流化電圧V2がツェナーダイオードZDの降伏電圧VZDを超え、ツェナーダイオードZDは導通状態となる。したがって、第2の直流化電圧V2が上昇を続けても定電圧回路5の出力電圧V3はそれ以上上昇することなく一定電圧(≒VZD)に維持される。なお、降伏電圧VZDは、DC−DCコンバータ制御回路3およびアクティブフィルタ制御回路4を正常に動作させるのに最低限必要となる電圧よりも高めに設定される。すなわち、定電圧回路5は、第2の直流化電圧V2を、予め設定された既定電圧を超えないように制限しながら電源電圧としてDC−DCコンバータ制御回路3およびアクティブフィルタ制御回路4に供給可能になっている。
【0040】
その後、補助巻線T3の誘起電圧がさらに上昇し、時間t2において第1の直流化電圧V1が定電圧回路5の出力電圧V3を超えると、ダイオードD5に代わってダイオードD4が導通状態となる。そして、それ以降、平滑用コンデンサC4は、ダイオードD4を介して供給される電圧(第1の直流化電圧)V1によって充電される。
【0041】
一方、ダイオードD5が非導通状態となると、定電圧回路5の動作は停止する。したがって、時間t2以降、定電圧回路5において電力損失が発生することはない。
【0042】
その後、時間t3においてアクティブフィルタ2の出力電圧V0が安定すると、第1の直流化電圧V1は電圧VT3で一定となる。また、DC−DCコンバータ制御回路3およびアクティブフィルタ制御回路4に供給される補助電圧V4も、電圧VT3にほぼ等しい電圧で一定となる。
【0043】
つまり、本発明に係るスイッチング電源装置1では、起動直後は定電圧回路5の出力電圧(第2の直流化電圧V2を定電圧回路5で既定電圧を超えないように制限した電圧)V3を利用して平滑用コンデンサC4の充電が行われ、補助電圧V4が急激に上昇する。そして、その後、補助巻線T3の誘起電圧が上昇してくると、定電圧回路5の動作が停止し、第1の直流化電圧V1を利用して平滑用コンデンサC4の充電が行われる。これにより、起動完了後(時間t2以降)に、定電圧回路5が動作して電力損失が発生するのを防ぐことができる。しかも、上記動作を単一の補助巻線T3で実現しているので、トランスの巻線の数を増やすことなく、トランスの小形化を図ることができる。
【0044】
以上、本発明に係るスイッチング電源装置の好ましい実施形態について説明してきたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
例えば、図1に示すスイッチング電源装置1では、補助電圧V4をDC−DCコンバータ制御回路3およびアクティブフィルタ制御回路4に供給しているが、アクティブフィルタ制御回路4にのみ供給してもよい。
【0045】
また、ダイオードD5は、トランジスタQ2のエミッタ−ベース間に逆バイアスがかかるのを防止するためのものであり、そのような心配がない場合は省略することができる。
【0046】
また、定電圧回路5は、以下の条件を満たす他の公知の定電圧回路に置き換えることができる。
条件1:入力電圧が既定電圧(例えば、降伏電圧VZD)を超えるまでは、入力電圧にほぼ等しい出力電圧を出力する。
条件2:入力電圧が既定電圧を超えると、入力電圧の如何に拘わらず、既定電圧にほぼ等しい出力電圧を出力する。
【符号の説明】
【0047】
1 スイッチング電源装置
2 アクティブフィルタ
3 DC−DCコンバータ制御回路
4 アクティブフィルタ制御回路
5 定電圧回路
T トランス
1 一次巻線
2 二次巻線
3 補助巻線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から入力された交流電圧を整流および平滑して得た一次側直流電圧が供給されるアクティブフィルタと、
前記アクティブフィルタを制御するアクティブフィルタ制御回路と、
アクティブフィルタから出力される出力電圧をスイッチングしてスイッチング電圧を生成するスイッチング手段と、
一次巻線、二次巻線および前記一次巻線に直列に接続されて前記一次側直流電圧の上昇に伴って誘起電圧が上昇する補助巻線を有し、前記一次巻線に前記スイッチング電圧が供給されるトランスと、
前記二次巻線に誘起された電圧を整流および平滑して直流の二次側出力電圧を生成する出力電圧生成手段と、
前記補助巻線の誘起電圧に基づいて直流の補助電圧を生成して該補助電圧を電源電圧として前記アクティブフィルタ制御回路に供給する補助電源部とを備えたスイッチング電源装置であって、
前記補助電源部は、
前記補助巻線と前記アクティブフィルタ制御回路との間に介装され、前記補助巻線の誘起電圧を直流化して第1の直流化電圧を生成し、該第1の直流化電圧を前記補助電圧として前記アクティブフィルタ制御回路に供給可能な第1の直流化手段と、
前記補助巻線に接続され、前記補助巻線の誘起電圧を直流化するとともに前記第1の直流化電圧よりも電圧が高い第2の直流化電圧に昇圧する第2の直流化手段と、
前記第2の直流化電圧を、予め設定された既定電圧を超えないように制限しながら前記アクティブフィルタ制御回路に供給可能な定電圧化手段と、
を備え、
前記アクティブフィルタの出力電圧の上昇に伴って前記補助巻線の誘起電圧が上昇すると、前記第1の直流化手段からの電圧供給に先立って前記定電圧化手段から前記アクティブフィルタ制御回路に電圧を供給した後、前記第1の直流化電圧が前記定電圧化手段からの出力電圧を超えると、前記定電圧化手段の動作を停止させるとともに、前記第1の直流化手段から前記アクティブフィルタ制御回路に電圧を供給することを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記第2の直流化手段は、前記補助巻線の両端のうち前記補助巻線と前記一次巻線とが相互に接続される相互接続端にアノードが接続されたダイオードと、前記ダイオードのカソードに一端が接続され、他端が前記補助巻線の両端のうち前記相互接続端と異なる非相互接続端に接続されたコンデンサとを有し、
前記ダイオードのカソードが前記定電圧化手段に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記第1の直流化手段は、前記補助巻線の両端のうち前記補助巻線と前記一次巻線とが相互に接続される非相互接続端にアノードが接続され、カソードが前記アクティブフィルタ制御回路に接続されたダイオードを有することを特徴とする請求項1または2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
前記既定電圧は、ツェナーダイオードの降伏電圧によって設定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスイッチング電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−252481(P2010−252481A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97938(P2009−97938)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】