スクリーン、リアプロジェクタ、プロジェクションシステムおよび画像表示装置
【課題】投射光によるシンチレーションを確実に防止し、表示ムラやぎらつきの発生を回避することによって、高画質化を図ることのできるスクリーン、リアプロジェクタ、プロジェクションシステムおよび画像表示装置を提供する。
【解決手段】本発明のスクリーン3は、画像光が投射されるスクリーンであって、入射した光を拡散させて射出させる機能を有し、その主面と交差する回転軸を中心として回転可能とされた拡散板3と、前記拡散板3を回転させる拡散板回転手段(モーター35)とを備えたことを特徴とする。
【解決手段】本発明のスクリーン3は、画像光が投射されるスクリーンであって、入射した光を拡散させて射出させる機能を有し、その主面と交差する回転軸を中心として回転可能とされた拡散板3と、前記拡散板3を回転させる拡散板回転手段(モーター35)とを備えたことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン、リアプロジェクタ、プロジェクションシステムおよび画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プロジェクタが急速な普及を見せている。主にプレゼンテーション用途で利用されているフロント型プロジェクタの他、近年はリア型プロジェクタが大画面ディスプレイの一形態として認知度を高めつつある。プロジェクション方式の画像表示装置の最大の利点は、液晶テレビジョン、プラズマディスプレイ等の直視型ディスプレイと比べて低価格で同画面サイズの商品を提供できるところにある。しかしながら、最近は直視型においても低価格化が進んでおり、プロジェクション方式の画像表示装置にはより高い画質性能が求められている。プロジェクタは、光源から射出された光を液晶ライトバルブ等の光変調素子に照射し、光変調素子により変調された投射光をスクリーン上に拡大投射することで画像を表示する。このとき、スクリーンに画像が表示されるだけでなく、視聴者はスクリーン全面にぎらつきを見ることになる。これは、光線の干渉に伴う輝度ムラによるものでスペックルノイズ、あるいはシンチレーションと呼ばれている。
【0003】
ここで、シンチレーションの発生原理について述べる。
図12(a)、(b)に示すように、光源70から照射された光が液晶ライトバルブ(図示略)を透過してスクリーン74に投射される。スクリーン74に投射された投射光は、スクリーン74に含まれる各散乱材72により回折し、それらが二次波源のように振舞うことによって拡散される。図12(b)に示すように、二次波源による2つの球面波が互いの位相関係に応じて光の強め合いや弱め合いを起こすことによって、スクリーン74と鑑賞者との間に明暗の縞模様(干渉縞)が現れる。この干渉縞が発生する像面Sに鑑賞者の目の焦点が合ったとき、鑑賞者は干渉縞をスクリーンをぎらつかせるシンチレーションとして認識する。シンチレーションは、スクリーン面に結像された画像を見ようとする鑑賞者にとって、スクリーン面と鑑賞者の間にあたかもベールやレース布、くもの巣などを張ったかのような不快感を与える。また、鑑賞者はスクリーン上の画像とシンチレーションとの2重の像を見ることになり、それぞれに視点を合わせようとするため、大きな疲労を招く。したがって、このシンチレーションは、鑑賞に堪えないほど大きなストレスを鑑賞者に与えてしまう。
【0004】
ところで、最近のプロジェクタでは、従来の高圧水銀ランプに替わる新しい光源の開発が進められており、特にレーザ光源はエネルギー効率、色再現性、長寿命、瞬時点灯等の点で次世代プロジェクタ用光源として期待が高まっている。しかしながら、レーザ光源によるスクリーン上の投射光は、隣接する領域の光線の位相が揃っていることから干渉性が非常に高いものとなっている。レーザ光のコヒーレント長は数十メートルにも及ぶこともあるため、同一の光源を分割して再合成すると、コヒーレント長より短い光路差を経て合成された光が強い干渉を引き起こすことになる。そのため、高圧水銀ランプよりも鮮明なシンチレーション(干渉縞)が出現してしまう。よって、特にレーザ光源を用いたプロジェクタの製品化において、シンチレーションの低減は必須の技術となっている。
【0005】
このようなシンチレーションの低減対策として、以下の技術が提案されている。
特許文献1に記載の技術はスクリーンの拡散性を最適化したものであり、拡散層、透明層(レンチキュラーレンズ)、拡散層の3層構造からなるスクリーンが記載されている。このように、散乱層の構成が複雑化することによって干渉斑のランダム性は大きくなる。そのため、斑の中の細かい成分(空間周波数が小さい干渉縞)が多くなると、何らかの視線移動が起きた時に人間の眼の残像特性により干渉縞が積分平均化され、干渉縞が消えるという効果が生じ得る。特に、動画鑑賞の場合は頻繁に視線移動が行われるため、シンチレーションの低減が期待できる。
特許文献2には、光、電場、磁場、熱、応力等を光散乱層に付与し、光拡散層に含有されている光散乱体の形状、相対的位置関係や屈折率を時間的に変化させるスクリーンが開示されている。このように、光拡散層による散乱波の散乱分布や位相を時間的に変化させることによってシンチレーションの発生防止が期待できる。
【特許文献1】特開平11−038512号公報
【特許文献2】特開2001−100316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、最終散乱面の散乱状態が固定されているため、散乱面上の各点から発した光線間の干渉がなすスクリーンと鑑賞者の間の空間の光線の位相分布も固定されている。そのため、干渉斑が固定した像として視認されてしまう。よって、頻繁な視線移動がない限り、完全に干渉斑が消えるということにはならず、特に、干渉性の高いレーザ光源を具備するプロジェクタではほとんど効果を得ることができない。また、このような高散乱化による対策では、画像ボケを併発する虞があることから、高画質化を図るという本来の課題を解決することができない。
【0007】
また、特許文献2では、光散乱体の形状や相対的位置関係、屈折率などを変化させるに至るまでに多大な駆動エネルギーを要することになる。また、上記の駆動手段を用いた場合、散乱層へのエネルギー伝達効率も低く、振動、音、不要電磁波、排熱等が発生して快適な鑑賞を阻害する虞がある。さらに、散乱層がフォーカス方向に移動してしまうような構成では画像の大きさが変化してしまう。これにより、水平方向における画像の輪郭線の位置も変わってしまい、画像ボケが生じる原因となっていた。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、投射光によるシンチレーションを確実に防止し、表示ムラやぎらつきの発生を回避することにより、高画質化を図ることのできるスクリーン、リアプロジェクタ、プロジェクションシステムおよび画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明のスクリーンは、画像光が投射されるスクリーンであって、入射した光を拡散させて射出させる機能を有し、その主面と交差する回転軸を中心として回転可能とされた拡散板と、前記拡散板を回転させる拡散板回転手段と、を備えたことを特徴とする。なお、ここで言う「主面」とは、拡散板の光入射面および光射出面となる面であり、拡散板の端面以外の面のことである。また、以下の本発明における「拡散板」とは、入射した光を拡散させて射出させる機能を有するもの全てを総称しており、一般的なスクリーンに用いられるフレネルレンズ板、レンチキュラーレンズ板等も含む概念である。また、これらフレネルレンズ板、レンチキュラーレンズ板とは別に拡散板を備えていても勿論良く、その場合、その拡散板は1枚でも良いし、複数枚で構成されていても良い。したがって、スクリーンの全体構成は、入射した光を拡散させて射出させる機能を有する板体を複数備えており、それらのうちの少なくとも1枚が上記のように回転する構成であれば、本発明の概念に含まれる。
【0010】
本発明の構成によれば、拡散板が拡散板回転手段によってその主面と交差する回転軸を中心として回転するため、拡散板上の一定の領域に照射された投射光の散乱状態が時間を追って様々に変化する。その変化に伴い、視認される干渉縞が移動したり、干渉縞のパターンが複雑に変化する。その結果、人間の眼の残像時間内で干渉縞のパターンが積分平均化され、干渉縞(シンチレーション)が視認されなくなる。これにより、スクリーンと視聴者との間に生じていた干渉縞が解消されて表示ムラやぎらつき感がなくなり、投射光による画像が良好に視認でき、視聴者の疲労も軽減される。また、拡散板が主面と交差する回転軸を中心として回転するということは、略主面内の回転となる。つまり、拡散板がフォーカス方向に移動しないため、画像ボケが生じることもない。
【0011】
さらに本発明では、拡散板の回転運動を用いているため、不快な騒音の発生が比較的抑えられ、静粛なプロジェクションシステムを構成することができる。また、回転に要するエネルギーは回転モーメントと軸抵抗分だけであり、多大なエネルギーを投入する必要がない。拡散板の拡散度によっては、回転数はかなり遅くても(例えば0.1Hz程度以下)、効果が得られる可能性がある。その場合、拡散板回転手段としても低パワーの駆動機構、例えば時計の針を駆動するような駆動機構に近いもので実現できる可能性がある。また、回転機構の場合、消耗部位が少ないので、耐久性に優れたものとなる。さらに、簡単な構成で実現できるので、安全かつ低コストなものとなる。
【0012】
前記回転軸が、前記拡散板における前記画像光が投射される領域の外方に配置されていることが望ましい。
上記本発明の構成の場合、回転中心の位置が固定されているため、回転中心は常時静止した点(死点)となる。ところが、シンチレーション防止の観点からは光の散乱状態が時間的に常に変化していることが重要であり、光の散乱状態が変化していない時間が一瞬でもあると、シンチレーションが発生し、視聴者は不快感を感じてしまう。その点、死点となる回転中心(回転軸)が投射領域の外方に配置されていれば、投射領域内は光の散乱状態が時間的に常に変化していることになり、シンチレーションの発生を確実になくすことができる。
【0013】
前記拡散板が、前記回転軸から相対的に遠い外周側において光の拡散度が相対的に小さく、前記回転軸から相対的に近い内周側において光の拡散度が相対的に大きく設定された構成としても良い。
回転運動の場合、線速度は拡散板の外周側と内周側で異なり、外周側で大きく、内周側で小さい。したがって、拡散板の内周側でもシンチレーション除去の効果が十分に得られるよう、回転数、拡散板の数、拡散度等のパラメータを最適化すればよい。特に拡散度については、拡散板の製造工程において場所により適宜調節が可能であるから、外周側で光の拡散度を相対的に小さく、内周側で相対的に大きくすれば、内外周の差が小さくでき、シンチレーションの除去効果が場所によらずにより均一になる。
【0014】
本発明の他のスクリーンは、画像光が投射されるスクリーンであって、入射した光を拡散させて射出させる機能を有し、その主面内に位置する時間的に移動する回転中心に対して前記主面内で回転可能とされた拡散板と、前記拡散板を回転させる拡散板回転手段と、を備えたことを特徴とする。
本構成のスクリーンにおいても、上述した構成のものと同様、画像ボケを生じさせることなく、シンチレーションを確実に除去することができる。また、回転運動を用いていることにより、静粛性、省エネルギー性、耐久性等に優れたものが得られる。また、上述した構成では回転中心の位置が固定されていたのに対し、本構成のスクリーンでは、拡散板の主面内にある回転中心の位置が時間的に移動する。そのため、上記の構成とは異なり、回転中心が投射領域内にあったとしても死点が存在しないことになり、シンチレーションの発生を確実になくすことができる。
【0015】
本発明のリアプロジェクタは、光を射出する光源と、前記光源から射出された光を変調する光変調手段と、前記光変調素子によって変調された光が投射される上記本発明のスクリーンと、前記光変調素子によって変調された光を前記スクリーン上に投射する投射手段と、を備えたことを特徴とする。
本発明のリアプロジェクタによれば、上記本発明のスクリーンを備えているため、画像ボケが生じることなく、シンチレーションが確実に除去され、視聴者が快適に画像を鑑賞することができる。また、拡散板回転手段を例えば筐体の内部に収容すれば、視聴者から拡散板回転手段が見えず、拡散板が回転していることが外部から判りにくくなるので、違和感なく画像を鑑賞することができる。
【0016】
本発明のプロジェクションシステムは、上記本発明のスクリーンと、前記スクリーンに対して画像光を投射する投射エンジンとを備えたことを特徴とする。
本発明のプロジェクションシステムによれば、上記本発明のスクリーンを備えているため、画像ボケが生じることなく、シンチレーションが確実に除去され、鑑賞者が快適に画像を鑑賞することができる。
【0017】
また、前記投射エンジンを複数備え、前記複数の投射エンジンからの画像光が前記スクリーン上の複数の異なる領域にそれぞれ投射される構成としても良い。
複数の投射エンジンからの画像光が複数の領域にそれぞれ投射される構成、いわゆる多面投影型のプロジェクションシステムは、特にイベント会場、博物館、学校等の据付型プロジェクションシステム、または壁埋め込み型プロジェクションシステムに好適である。これらに応用する場合、上記の構成であれば、本発明のスクリーンが一つあれば、複数画面のシンチレーションを一度に除去することができ、設置効率が高いものとなる。このように、本発明は、大規模な施設においてレーザ投射エンジンを用いて大画面ディスプレイを設置する場合などに特に有効である。
【0018】
本発明の画像表示装置は、光を射出する光源と、上記本発明のスクリーンと、前記光源から射出された光を前記スクリーン上で走査する走査手段とを備えたことを特徴とする。
本発明の画像表示装置によれば、上記本発明のスクリーンを備えているため、画像ボケが生じることなく、シンチレーションが確実に除去され、視聴者が快適に画像を鑑賞することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の第1の実施の形態を図1〜図7を参照して説明する。
図1は本実施形態に係るリアプロジェクタの概略構成を示す斜視図である。図2は同、リアプロジェクタの側断面図である。図3はリアプロジェクタの投射光学系の構成を示す概略図である。図4はスクリーンを分解視した状態を示す斜視図である。図5はスクリーンの断面図である。図6はスクリーンの回転手段の変形例を示す正面図である。図7はスクリーンの回転手段の他の変形例を示す正面図である。
以下の図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。また、以下の説明においては、xyz直交座標系を設定し、このxyz直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。そして、スクリーンにおける水平方向(視聴者が見た左右方向)をx方向、スクリーンにおける垂直方向(視聴者が見た上下方向)をy方向、スクリーンの奥行き方向をz方向とする。
【0020】
本実施形態に係るリアプロジェクタは、光源から射出された光を光変調素子により変調し、この変調した光をスクリーンに拡大投射するリア投射型プロジェクタである。リアプロジェクタ1は、図1に示すように、筐体2と、スクリーン3とを備えている。スクリーン3は、筐体2の前面側に取り付けられており、スクリーン3の後面側から画像光が投射され、スクリーン3の前面側に位置した視聴者が画像を鑑賞する。筐体2の前面のスクリーン3の下方にはフロントパネル4が設けられ、フロントパネル4の左右側にはスピーカ(図示略)からの音声を出力する開口部5が設けられている。
【0021】
次に、筐体2内部の構造について説明する。
図2に示すように、筐体2内部の下方には、投射エンジン7が配設されている。投射エンジン7とスクリーン3との間の光路上には、反射ミラー8、反射ミラー9が設置されている。この構成により、投射エンジン7から出射された光がこれら2枚の反射ミラー8,9によって反射され、スクリーン3の上部の投射領域Tに対して拡大投射される。
【0022】
次に、投射エンジン7の概略構成について図3を用いて説明する。
ただし、図3においては、図面の簡略化のため、リアプロジェクタ1の外観を構成する筐体2の図示は省略している。
投射エンジン7は、光源11と、光源11から出射された光を変調する光変調素子12と、光変調素子12により変調された光を投射する投射レンズ13とを備えている。本実施形態においては、光変調素子12として液晶ライトバルブ12R、12G、12Bが用いられている。すなわち、本実施形態のリアプロジェクタ1は、いわゆる液晶プロジェクタである。
【0023】
投射エンジン7は、図3に示すように、光源11、ダイクロイックミラー14,15、反射ミラー16,17,18、入射レンズ19、リレーレンズ20、出射レンズ21、液晶ライトバルブ12R,12G,12B、クロスダイクロイックプリズム22、投射レンズ13等から構成されている。その他、光源11から射出される光の照度分布を均一化するためのインテグレータ光学系、光源11から射出される光の偏光状態を液晶ライトバルブ12R,12G,12Bで用いる偏光に揃える偏光変換光学系を備えていても良い。
【0024】
光源11は、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等のランプ24と、ランプ24の光を反射するリフレクタ25とから構成されている。ダイクロイックミラー14は、光源11からの白色光に含まれる赤色光を透過させるとともに、青色光と緑色光とを反射する機能を有している。ダイクロイックミラー15は、青色光を透過させるとともに、緑色光を反射する機能を有している。よって、ダイクロイックミラー15を透過した赤色光は反射ミラー16で反射されて、赤色光用液晶ライトバルブ12Rに入射される。また、ダイクロイックミラー14で反射された緑色光は、ダイクロイックミラー15によって反射され、緑色光用液晶ライトバルブ12Gに入射される。
【0025】
さらに、ダイクロイックミラー14で反射された青色光は、ダイクロイックミラー15を透過する。青色光に対しては、長い光路による光損失を防ぐため、入射レンズ19、リレーレンズ20および出射レンズ21を含むリレーレンズ系からなる導光手段26が設けられている。この導光手段26を介して青色光が青色光用液晶ライトバルブ12Bに入射される。
【0026】
各液晶ライトバルブ12R,12G,12Bによって変調された3つの色光は、クロスダイクロイックプリズム22に入射する。このクロスダイクロイックプリズム22は4つの直角プリズムを貼り合わせたものであり、その界面には赤光を反射する誘電体多層膜と青光を反射する誘電体多層膜とがX字状に形成されている。これらの誘電体多層膜により3つの色光が合成されて、カラー画像を表す光が形成される。合成された光は、投射光学系である投射レンズ13によってスクリーン3上に投影され、画像が拡大表示される。
【0027】
次に、スクリーン3の構成について図4、図5を用いて説明する。
本実施形態のスクリーン3は、図4、図5に示すように、フレネルレンズ板28と、レンチキュラーレンズアレイ板29と、拡散板30と、保護板31とがこの順に積層されて構成されている。これらの部材は、フレネルレンズ板28側が筐体2の内部側、保護板31側が筐体2の外部側(視聴者側)に位置するように、投射光の光路上に積層されている。図5に示すように、レンチキュラレンズアレイ板29の視聴者側には、ブラックマスク32が格子状に設けられている。ブラックマスク32の存在によって、スクリーン3の高コントラスト化を図ることができる。また、筐体2の前面に設けられた窓33(開口部)に保護板31が嵌め込まれている。保護板31の存在によって、拡散板30に外部の埃や塵が付着したり、キズが付くのを防止することができる。なお、図5においては、反射ミラー8,9の図示は省略し、投射エンジン7のみを図示する。また、図5においては、レンチキュラレンズアレイ板29の形状を示す目的で、レンチキュラレンズアレイ板29のみをxy平面内で90°回転させた状態で図示したが、実際は半円柱状の各レンチキュラレンズの長手方向がy方向、径方向がx方向に向いている。
【0028】
拡散板30は、平面視が円形の板材もしくはフィルム材からなり、透明部材中にこの透明部材とは屈折率が異なるビーズ(拡散材)がランダムな分布で分散されたものである。この拡散板30は透過型の拡散板であり、光を一面から他面に透過させつつ拡散させる機能(前方散乱性)を有している。拡散板30は、ガラス板のような板状部材、樹脂等のフィルム状部材のいずれであっても良い。あるいは、拡散板30として、光を拡散させる機能を有するものであれば、拡散材が分散されたものに限らず、表面に凹凸を有する擦りガラス板、拡散面が形成されたフィルム等を用いても良い。
【0029】
本実施形態の場合、スクリーン3には、拡散板30を回転させるためのモータ35(拡散板回転手段)が備えられ、拡散板30の円の中心にモータ35の回転軸36が取り付けられている。回転軸36の延在方向は、拡散板30の主面(光入射面または光射出面)の法線と平行な方向(z方向)である。この構成により、モータ35の回転に伴い、拡散板30の円の中心を回転中心として拡散板30が主面の面内で回転する構成となっている。一方、フレネルレンズ板28、レンチキュラーレンズアレイ板29、保護板31は、筐体2等の任意の支持部材に固定されている。
【0030】
また、フレネルレンズ板28、レンチキュラーレンズアレイ板29、保護板31は、モータ35の回転軸36と干渉しないように拡散板30の上部に配置されている。フレネルレンズ板28とレンチキュラーレンズアレイ板29と拡散板30とが重なり合った矩形状の領域が、投射エンジン7からの画像光が投射される投射領域Tとなる。したがって、拡散板30の回転中心は投射領域Tの外に位置することになる。モータ35は、例えばリアプロジェクタ1の電源投入と同時に回転を開始する構成としても良く、少なくともスクリーン3に画像光が投射されている間は回転を持続している必要がある。
【0031】
フレネルレンズ板28とレンチキュラーレンズアレイ板29とは、一般的なスクリーンで用いられている周知のものを用いることができる。レンチキュラーレンズアレイ板29については、個々のレンチキュラーレンズの長手方向がy方向(スクリーン3の上下方向)に一致するように配置することが望ましい。保護板31は、光透過率の高い任意の板材もしくはフィルムで良い。これらフレネルレンズ板28、レンチキュラーレンズアレイ板29、保護板31は、全て矩形状に形成されており、円形の拡散板30の上側の領域に重なるように配置されている。図4ではフレネルレンズ板28、レンチキュラーレンズアレイ板29、保護板31の寸法が全て同一であるように図示したが、特に寸法が同一である必要はない。
【0032】
本実施形態の構成によれば、光の散乱状態が場所によって異なる拡散板30が主面と垂直な回転軸36を中心として回転するため、拡散板30上の投射領域Tに照射された投射光の散乱状態が時間を追って様々に変化する。その変化に伴い、視聴者が視認する干渉縞が移動したり、干渉縞のパターンが複雑に変化する。その結果、人間の眼の残像時間内で干渉縞のパターンが積分平均化され、干渉縞(シンチレーション)が視認されなくなる。これにより、スクリーン3と視聴者との間に生じていた干渉縞が解消されて表示ムラやぎらつき感がなくなり、投射光による画像が良好に視認できる。また、鑑賞時の視聴者の疲労も軽減される。また本実施形態の場合、拡散板30が主面と直交する回転軸を中心として回転するため、拡散板30のフォーカス方向(z方向)の移動がなく、画像ボケが生じることもない。
【0033】
さらに本実施形態では、拡散板30の回転運動を用いているため、例えば往復直線運動の場合等と比べて不快な騒音の発生が比較的抑えられ、静粛なリアプロジェクタを構成することができる。また、回転に要するエネルギーは回転モーメントと軸抵抗分だけであり、多大なエネルギーを投入する必要がない。拡散板30の拡散度によっては、回転数はかなり遅くても(例えば0.1Hz程度以下)、効果が得られる。その場合、モータ35も低パワーのもので良い。そのため、耐久性、安全性に優れ、低コストなリアプロジェクタを実現できる。
【0034】
本実施形態のような回転機構の場合、拡散板30の回転中心の位置が固定されているため、回転中心は常時静止した点(死点)となり、この場所に光が投射されるとシンチレーションが発生してしまう。その点、本実施形態の場合、死点となる回転中心(回転軸)が投射領域Tの外方に位置しているため、投射領域T内は光の散乱状態が常に変化していることになり、シンチレーションの発生を確実になくすことができる。
【0035】
なお、本実施形態においては、ビーズの分布がランダムな拡散板30を用いるとだけ記載したが、さらに拡散板30の外周側でビーズを粗く、内周側で密に分散させるなどして、回転軸36から遠い外周側で拡散度が小さく、回転軸36に近い内周側で拡散度が大きくなるように設定しても良い。拡散板30上の任意の点の線速度は、拡散板30の外周側で大きく、内周側で小さい。したがって、外周側で光の拡散度を相対的に小さく、内周側で相対的に大きくすれば、内外周での拡散度の時間変化量の差が小さくでき、シンチレーションの除去効果が場所によらずにより均一になる。
【0036】
また、本実施形態においては、拡散板30の中心にモータ35の回転軸36を直結させた、いわゆるダイレクトドライブ方式の回転駆動機構の例を挙げたが、この回転駆動方式に限ることはなく、任意の回転伝達機構を備えたものでも良い。例えば、図6に示す例は、拡散板30に回転軸36はあるものの、回転軸36にモータ等は接続されていない。そして、図示しないモータ等の作動で回転するローラー38(拡散板回転手段)が拡散板30の外周に接触しており、ローラー38の回転に伴い、ローラー38と逆回りに拡散板30が回転する構成である。あるいは図7に示す例は、プーリー39a,39bとベルト40(拡散板回転手段)を介して図示しないモータ等の回転を拡散板30に伝達する構成である。
【0037】
[第2の実施の形態]
以下、本発明の第2の実施の形態を図8を用いて説明する。
本実施形態のリアプロジェクタの基本構成は第1実施形態と同様であり、スクリーンの構成が第1実施形態と異なるのみである。よって、以下では、図8を用いてスクリーンの構成のみを説明することとする。
【0038】
本実施形態のスクリーン43は、第1実施形態と同様、拡散板44が回転可能とされているが、位置が固定された回転中心を持つのではなく、拡散板44の主面内に位置する回転中心が時間とともに移動する点が特徴である。すなわち、本実施形態のスクリーン43は、図8に示すように、拡散板44の形状が楕円形であり、実体的な回転軸を有していない。そして、拡散板44の外周に接触した複数(ここでは4個の例を示す)のローラー45によって拡散板44を支持しつつ回転させている。
【0039】
各ローラー45は、図6に示した第1実施形態のように位置が固定されておらず、拡散板44の外周に接触した状態を保ちつつ自由に移動できる構成となっている。すなわち、各ローラー45の回転軸46にはバネ等の弾性部材47の一端が連結されており、弾性部材47の他端は例えばリアプロジェクタの筐体等の任意の支持部材48に固定されている。さらに、弾性部材47自体は、支持部材48に固定された側の端部を中心として回転可能となっている。よって、ローラー45は、弾性部材47が伸縮可能、回転可能な範囲内において自由に移動できる。これら弾性部材47により全てのローラー45は拡散板44に押し付けられる方向に付勢されており、この4方向の付勢力によって、固定された回転軸がなくても拡散板44を支持することができる。
【0040】
本実施形態の構成においても、干渉縞(シンチレーション)が除去されて表示ムラやぎらつき感がなくなり、投射画像が良好に視認できる、静粛性、省エネルギー性、耐久性、安全性に優れ、低コストなリアプロジェクタを実現できる、等の第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0041】
一方、第1実施形態と異なるのは、本実施形態の構成では拡散板44の回転時に死点がないということである。上述したように、本実施形態ではローラー45の位置が可変であり、かつ拡散板44が楕円形であるため、拡散板44は、例えば図8において実線で示した位置や2点鎖線で示した位置にくることが可能である。したがって、拡散板44は、実体的な回転軸は持たないものの、回転中心(仮想的な回転軸)は持っており、回転中心が時間の経過(拡散板の回転)とともに移動するもの、と見なすことができる。この回転中心は拡散板44内(投射領域内)に位置するが、回転中心が時間的に移動することで死点が存在しないことになるため、シンチレーションの発生を確実になくすことができる。また、拡散板44の回転は、拡散板44面内の回転であるため、拡散板44のフォーカス方向(z方向)の移動がなく、画像ボケが生じることもない。
【0042】
[第3の実施の形態]
以下、本発明の第3の実施の形態を図9、図10を用いて説明する。
本実施形態は、スクリーンと、スクリーンと別体の投射エンジンとを備えたプロジェクションシステムの例である。スクリーンの基本構成は第1実施形態と同様であるため、図9、図10において図5等と共通な構成要素には同一の符号を付し、共通部分の詳細な説明は省略する。
【0043】
第1実施形態では、円形の拡散板の上側だけを1つの投射領域とした。これに対して、本実施形態では、円形の拡散板を有効利用するために、図9、図10に示すように、1つの拡散板30上に複数の投射領域T1〜T4を設けている。各投射領域T1〜T4には、第1実施形態で説明したように、フレネルレンズ板とレンチキュラーレンズアレイ板とがそれぞれ配置されている(図示略)。これらフレネルレンズ板、レンチキュラーレンズアレイ板は、各投射領域のみに対応して矩形状のものが個別に配置されていても良いし、複数の投射領域にわたって一体のものが配置されていても良い。
【0044】
図9に示すプロジェクションシステムは、拡散板30の上側と下側に2つの投射領域T1,T2を設け、これに対応するように2つの投射エンジン7a,7bを配置した例である。2つの投射エンジン7a,7bからの画像光が2つの異なる投射領域T1,T2にそれぞれ投射される。図10に示すプロジェクションシステムは、拡散板30の上下左右に4つの投射領域T1〜T4を設け、これに対応するように図示しない4つの投射エンジン(図示略)を配置した例である。また、図10に示すように、投射領域T1〜T4に対応する位置に窓49a(開口)を形成したマスク化粧板49をスクリーンの前面側(視聴者側)に配置しても良い。
【0045】
本実施形態のように、複数の投射エンジンからの画像光が複数の投射領域にそれぞれ投射される構成、いわゆる多面投影型のプロジェクションシステムは、特にイベント会場、博物館、学校等の据付型プロジェクションシステム、あるいは壁埋め込み型プロジェクションシステムに好適である。これらに応用する場合、上記の構成であれば、本発明のスクリーンが一つあれば、複数画面のシンチレーションを一度に除去することができ、設置効率が高いものとなる。このように、本発明は、大規模な施設においてレーザ投射エンジンを用いて大画面ディスプレイを設置する場合などに特に有効である。この場合、図10にイメージを示したように、複数の画面に別個の画像を投影することができる。あるいは、複数の投射領域を隣接させて配置し、例えば一連のパノラマ画像を投射する方式、いわゆるタイリング方式による大画面化を実現することもできる。
【0046】
[第4の実施の形態]
次に、第4の実施の形態について図11を参照して説明する。
本実施形態は、液晶ライトバルブ等の光変調素子を用いず、走査部を用いた画像表示装置である。なお、スクリーンの構成は、上記第1実施形態と同様であるため、共通の構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0047】
図11は、リアプロジェクタ120(画像表示装置)の概略構成を示す断面図である。
本実施形態のリアプロジェクタ120は、図11に示すように、レーザ光を射出する光源102と、コリメート光学系104とビーム整形光学系105とを含むレンズ光学系103と、入射されたレーザ光を2次元方向に走査するスキャナ82(走査手段)と、走査された光を拡大投射する投射レンズ114と、投射された光をスクリーン3に向けて反射する反射ミラー109と、駆動部107を備えている。光源102は、赤色のレーザ光を射出する赤色レーザダイオード102Rと、緑色のレーザ光を射出する緑色レーザダイオード102Gと、青色のレーザ光を射出する青色レーザダイオード102Bとを有する。
【0048】
レーザダイオード102R,102G,102Bから出射されたレーザ光は、レンズ光学系103を介してスキャナ82に入射する。入射したレーザ光は、スキャナ82により2次元方向にスキャン(走査)され、投射レンズ114、反射ミラー109を介してスクリーン3に投射される。このようにして、本実施形態のリアプロジェクタ120は、光源102から射出されたレーザ光をスキャナ82によりスクリーン3上で走査させることにより画像を形成するようになっている。
【0049】
本実施形態のようにレーザ光源を用いたスキャン型のリアプロジェクタ120においても、上記実施形態のスクリーン3を用いているので、上記実施形態と同様の作用効果が得られ、効果的にシンチレーションを低減させることができる。
【0050】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば第1実施形態では拡散板の回転軸を拡散板の主面に対して垂直(法線方向)に配置したが、拡散板の主面に対して垂直以外の角度をなすように若干傾けて配置しても良い。この場合、拡散板は、主面内で回転するのではなく、面ぶれを起こしながら回転することになる。よって、特に拡散板の外周側ではフォーカス方向への移動が生じるため、多少の画像ボケが生じる虞はあるものの、シンチレーションをより効果的に除去することができる。この構成において、さらに拡散板の面の位置に応じて高速に投射画像を変更する構成としても良い。これにより、例えば奥行き情報を持った3次元画像の表示が可能となる。
【0051】
また、上記実施形態では、スクリーンがフレネルレンズ板、レンチキュラーレンズアレイ板、拡散板の3枚を備え、拡散板が回転する構成としたが、これらのうちの少なくとも1枚が回転する構成であれば良い。あるいは、拡散板を複数とし、それらのうちの少なくとも1枚が回転する構成としても良い。いずれの場合も上記実施形態と同様の作用、効果を得ることができる。その他、上記実施形態で例示した拡散板、拡散板回転機構等の具体的な構成については、上記実施形態に限らず、適宜変更が可能である。また、リアプロジェクタ全体についても、光変調素子として液晶ライトバルブを用いたものの他、DMD(Digital Micromirror Device)素子等の反射型光変調素子を用いたものに本発明を採用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態のリアプロジェクタの構成を示す斜視図である。
【図2】同、リアプロジェクタの側断面図である。
【図3】同、リアプロジェクタの投射エンジンの光学系の概略構成図である。
【図4】同、リアプロジェクタのスクリーンを分解した状態を示す斜視図である。
【図5】同、スクリーンの断面図である。
【図6】同、スクリーンの回転手段の変形例を示す正面図である。
【図7】同、スクリーンの回転手段の他の変形例を示す正面図である。
【図8】本発明の第2実施形態のスクリーンを示す正面図である。
【図9】本発明の第3実施形態のプロジェクションシステムを示す正面図である。
【図10】同、プロジェクションシステムの他の例を示す正面図である。
【図11】本発明の第4実施形態の画像表示装置を示す断面図である。
【図12】シンチレーションの発生原理を説明するための図である。
【符号の説明】
【0053】
1,120…リアプロジェクタ(画像表示装置)、3,43…スクリーン、7…投射エンジン、12,12R,12G,12B…液晶ライトバルブ(光変調素子)、13…投射レンズ、28…フレネルレンズ板、29…レンチキュラーレンズアレイ板、30,44…拡散板、35…モータ(拡散板回転手段)、36…回転軸、38,45…ローラー(拡散板回転手段)、39a,39b…プーリー(拡散板回転手段)、40…ベルト(拡散板回転手段)、T…投射領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン、リアプロジェクタ、プロジェクションシステムおよび画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プロジェクタが急速な普及を見せている。主にプレゼンテーション用途で利用されているフロント型プロジェクタの他、近年はリア型プロジェクタが大画面ディスプレイの一形態として認知度を高めつつある。プロジェクション方式の画像表示装置の最大の利点は、液晶テレビジョン、プラズマディスプレイ等の直視型ディスプレイと比べて低価格で同画面サイズの商品を提供できるところにある。しかしながら、最近は直視型においても低価格化が進んでおり、プロジェクション方式の画像表示装置にはより高い画質性能が求められている。プロジェクタは、光源から射出された光を液晶ライトバルブ等の光変調素子に照射し、光変調素子により変調された投射光をスクリーン上に拡大投射することで画像を表示する。このとき、スクリーンに画像が表示されるだけでなく、視聴者はスクリーン全面にぎらつきを見ることになる。これは、光線の干渉に伴う輝度ムラによるものでスペックルノイズ、あるいはシンチレーションと呼ばれている。
【0003】
ここで、シンチレーションの発生原理について述べる。
図12(a)、(b)に示すように、光源70から照射された光が液晶ライトバルブ(図示略)を透過してスクリーン74に投射される。スクリーン74に投射された投射光は、スクリーン74に含まれる各散乱材72により回折し、それらが二次波源のように振舞うことによって拡散される。図12(b)に示すように、二次波源による2つの球面波が互いの位相関係に応じて光の強め合いや弱め合いを起こすことによって、スクリーン74と鑑賞者との間に明暗の縞模様(干渉縞)が現れる。この干渉縞が発生する像面Sに鑑賞者の目の焦点が合ったとき、鑑賞者は干渉縞をスクリーンをぎらつかせるシンチレーションとして認識する。シンチレーションは、スクリーン面に結像された画像を見ようとする鑑賞者にとって、スクリーン面と鑑賞者の間にあたかもベールやレース布、くもの巣などを張ったかのような不快感を与える。また、鑑賞者はスクリーン上の画像とシンチレーションとの2重の像を見ることになり、それぞれに視点を合わせようとするため、大きな疲労を招く。したがって、このシンチレーションは、鑑賞に堪えないほど大きなストレスを鑑賞者に与えてしまう。
【0004】
ところで、最近のプロジェクタでは、従来の高圧水銀ランプに替わる新しい光源の開発が進められており、特にレーザ光源はエネルギー効率、色再現性、長寿命、瞬時点灯等の点で次世代プロジェクタ用光源として期待が高まっている。しかしながら、レーザ光源によるスクリーン上の投射光は、隣接する領域の光線の位相が揃っていることから干渉性が非常に高いものとなっている。レーザ光のコヒーレント長は数十メートルにも及ぶこともあるため、同一の光源を分割して再合成すると、コヒーレント長より短い光路差を経て合成された光が強い干渉を引き起こすことになる。そのため、高圧水銀ランプよりも鮮明なシンチレーション(干渉縞)が出現してしまう。よって、特にレーザ光源を用いたプロジェクタの製品化において、シンチレーションの低減は必須の技術となっている。
【0005】
このようなシンチレーションの低減対策として、以下の技術が提案されている。
特許文献1に記載の技術はスクリーンの拡散性を最適化したものであり、拡散層、透明層(レンチキュラーレンズ)、拡散層の3層構造からなるスクリーンが記載されている。このように、散乱層の構成が複雑化することによって干渉斑のランダム性は大きくなる。そのため、斑の中の細かい成分(空間周波数が小さい干渉縞)が多くなると、何らかの視線移動が起きた時に人間の眼の残像特性により干渉縞が積分平均化され、干渉縞が消えるという効果が生じ得る。特に、動画鑑賞の場合は頻繁に視線移動が行われるため、シンチレーションの低減が期待できる。
特許文献2には、光、電場、磁場、熱、応力等を光散乱層に付与し、光拡散層に含有されている光散乱体の形状、相対的位置関係や屈折率を時間的に変化させるスクリーンが開示されている。このように、光拡散層による散乱波の散乱分布や位相を時間的に変化させることによってシンチレーションの発生防止が期待できる。
【特許文献1】特開平11−038512号公報
【特許文献2】特開2001−100316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、最終散乱面の散乱状態が固定されているため、散乱面上の各点から発した光線間の干渉がなすスクリーンと鑑賞者の間の空間の光線の位相分布も固定されている。そのため、干渉斑が固定した像として視認されてしまう。よって、頻繁な視線移動がない限り、完全に干渉斑が消えるということにはならず、特に、干渉性の高いレーザ光源を具備するプロジェクタではほとんど効果を得ることができない。また、このような高散乱化による対策では、画像ボケを併発する虞があることから、高画質化を図るという本来の課題を解決することができない。
【0007】
また、特許文献2では、光散乱体の形状や相対的位置関係、屈折率などを変化させるに至るまでに多大な駆動エネルギーを要することになる。また、上記の駆動手段を用いた場合、散乱層へのエネルギー伝達効率も低く、振動、音、不要電磁波、排熱等が発生して快適な鑑賞を阻害する虞がある。さらに、散乱層がフォーカス方向に移動してしまうような構成では画像の大きさが変化してしまう。これにより、水平方向における画像の輪郭線の位置も変わってしまい、画像ボケが生じる原因となっていた。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、投射光によるシンチレーションを確実に防止し、表示ムラやぎらつきの発生を回避することにより、高画質化を図ることのできるスクリーン、リアプロジェクタ、プロジェクションシステムおよび画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明のスクリーンは、画像光が投射されるスクリーンであって、入射した光を拡散させて射出させる機能を有し、その主面と交差する回転軸を中心として回転可能とされた拡散板と、前記拡散板を回転させる拡散板回転手段と、を備えたことを特徴とする。なお、ここで言う「主面」とは、拡散板の光入射面および光射出面となる面であり、拡散板の端面以外の面のことである。また、以下の本発明における「拡散板」とは、入射した光を拡散させて射出させる機能を有するもの全てを総称しており、一般的なスクリーンに用いられるフレネルレンズ板、レンチキュラーレンズ板等も含む概念である。また、これらフレネルレンズ板、レンチキュラーレンズ板とは別に拡散板を備えていても勿論良く、その場合、その拡散板は1枚でも良いし、複数枚で構成されていても良い。したがって、スクリーンの全体構成は、入射した光を拡散させて射出させる機能を有する板体を複数備えており、それらのうちの少なくとも1枚が上記のように回転する構成であれば、本発明の概念に含まれる。
【0010】
本発明の構成によれば、拡散板が拡散板回転手段によってその主面と交差する回転軸を中心として回転するため、拡散板上の一定の領域に照射された投射光の散乱状態が時間を追って様々に変化する。その変化に伴い、視認される干渉縞が移動したり、干渉縞のパターンが複雑に変化する。その結果、人間の眼の残像時間内で干渉縞のパターンが積分平均化され、干渉縞(シンチレーション)が視認されなくなる。これにより、スクリーンと視聴者との間に生じていた干渉縞が解消されて表示ムラやぎらつき感がなくなり、投射光による画像が良好に視認でき、視聴者の疲労も軽減される。また、拡散板が主面と交差する回転軸を中心として回転するということは、略主面内の回転となる。つまり、拡散板がフォーカス方向に移動しないため、画像ボケが生じることもない。
【0011】
さらに本発明では、拡散板の回転運動を用いているため、不快な騒音の発生が比較的抑えられ、静粛なプロジェクションシステムを構成することができる。また、回転に要するエネルギーは回転モーメントと軸抵抗分だけであり、多大なエネルギーを投入する必要がない。拡散板の拡散度によっては、回転数はかなり遅くても(例えば0.1Hz程度以下)、効果が得られる可能性がある。その場合、拡散板回転手段としても低パワーの駆動機構、例えば時計の針を駆動するような駆動機構に近いもので実現できる可能性がある。また、回転機構の場合、消耗部位が少ないので、耐久性に優れたものとなる。さらに、簡単な構成で実現できるので、安全かつ低コストなものとなる。
【0012】
前記回転軸が、前記拡散板における前記画像光が投射される領域の外方に配置されていることが望ましい。
上記本発明の構成の場合、回転中心の位置が固定されているため、回転中心は常時静止した点(死点)となる。ところが、シンチレーション防止の観点からは光の散乱状態が時間的に常に変化していることが重要であり、光の散乱状態が変化していない時間が一瞬でもあると、シンチレーションが発生し、視聴者は不快感を感じてしまう。その点、死点となる回転中心(回転軸)が投射領域の外方に配置されていれば、投射領域内は光の散乱状態が時間的に常に変化していることになり、シンチレーションの発生を確実になくすことができる。
【0013】
前記拡散板が、前記回転軸から相対的に遠い外周側において光の拡散度が相対的に小さく、前記回転軸から相対的に近い内周側において光の拡散度が相対的に大きく設定された構成としても良い。
回転運動の場合、線速度は拡散板の外周側と内周側で異なり、外周側で大きく、内周側で小さい。したがって、拡散板の内周側でもシンチレーション除去の効果が十分に得られるよう、回転数、拡散板の数、拡散度等のパラメータを最適化すればよい。特に拡散度については、拡散板の製造工程において場所により適宜調節が可能であるから、外周側で光の拡散度を相対的に小さく、内周側で相対的に大きくすれば、内外周の差が小さくでき、シンチレーションの除去効果が場所によらずにより均一になる。
【0014】
本発明の他のスクリーンは、画像光が投射されるスクリーンであって、入射した光を拡散させて射出させる機能を有し、その主面内に位置する時間的に移動する回転中心に対して前記主面内で回転可能とされた拡散板と、前記拡散板を回転させる拡散板回転手段と、を備えたことを特徴とする。
本構成のスクリーンにおいても、上述した構成のものと同様、画像ボケを生じさせることなく、シンチレーションを確実に除去することができる。また、回転運動を用いていることにより、静粛性、省エネルギー性、耐久性等に優れたものが得られる。また、上述した構成では回転中心の位置が固定されていたのに対し、本構成のスクリーンでは、拡散板の主面内にある回転中心の位置が時間的に移動する。そのため、上記の構成とは異なり、回転中心が投射領域内にあったとしても死点が存在しないことになり、シンチレーションの発生を確実になくすことができる。
【0015】
本発明のリアプロジェクタは、光を射出する光源と、前記光源から射出された光を変調する光変調手段と、前記光変調素子によって変調された光が投射される上記本発明のスクリーンと、前記光変調素子によって変調された光を前記スクリーン上に投射する投射手段と、を備えたことを特徴とする。
本発明のリアプロジェクタによれば、上記本発明のスクリーンを備えているため、画像ボケが生じることなく、シンチレーションが確実に除去され、視聴者が快適に画像を鑑賞することができる。また、拡散板回転手段を例えば筐体の内部に収容すれば、視聴者から拡散板回転手段が見えず、拡散板が回転していることが外部から判りにくくなるので、違和感なく画像を鑑賞することができる。
【0016】
本発明のプロジェクションシステムは、上記本発明のスクリーンと、前記スクリーンに対して画像光を投射する投射エンジンとを備えたことを特徴とする。
本発明のプロジェクションシステムによれば、上記本発明のスクリーンを備えているため、画像ボケが生じることなく、シンチレーションが確実に除去され、鑑賞者が快適に画像を鑑賞することができる。
【0017】
また、前記投射エンジンを複数備え、前記複数の投射エンジンからの画像光が前記スクリーン上の複数の異なる領域にそれぞれ投射される構成としても良い。
複数の投射エンジンからの画像光が複数の領域にそれぞれ投射される構成、いわゆる多面投影型のプロジェクションシステムは、特にイベント会場、博物館、学校等の据付型プロジェクションシステム、または壁埋め込み型プロジェクションシステムに好適である。これらに応用する場合、上記の構成であれば、本発明のスクリーンが一つあれば、複数画面のシンチレーションを一度に除去することができ、設置効率が高いものとなる。このように、本発明は、大規模な施設においてレーザ投射エンジンを用いて大画面ディスプレイを設置する場合などに特に有効である。
【0018】
本発明の画像表示装置は、光を射出する光源と、上記本発明のスクリーンと、前記光源から射出された光を前記スクリーン上で走査する走査手段とを備えたことを特徴とする。
本発明の画像表示装置によれば、上記本発明のスクリーンを備えているため、画像ボケが生じることなく、シンチレーションが確実に除去され、視聴者が快適に画像を鑑賞することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の第1の実施の形態を図1〜図7を参照して説明する。
図1は本実施形態に係るリアプロジェクタの概略構成を示す斜視図である。図2は同、リアプロジェクタの側断面図である。図3はリアプロジェクタの投射光学系の構成を示す概略図である。図4はスクリーンを分解視した状態を示す斜視図である。図5はスクリーンの断面図である。図6はスクリーンの回転手段の変形例を示す正面図である。図7はスクリーンの回転手段の他の変形例を示す正面図である。
以下の図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。また、以下の説明においては、xyz直交座標系を設定し、このxyz直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。そして、スクリーンにおける水平方向(視聴者が見た左右方向)をx方向、スクリーンにおける垂直方向(視聴者が見た上下方向)をy方向、スクリーンの奥行き方向をz方向とする。
【0020】
本実施形態に係るリアプロジェクタは、光源から射出された光を光変調素子により変調し、この変調した光をスクリーンに拡大投射するリア投射型プロジェクタである。リアプロジェクタ1は、図1に示すように、筐体2と、スクリーン3とを備えている。スクリーン3は、筐体2の前面側に取り付けられており、スクリーン3の後面側から画像光が投射され、スクリーン3の前面側に位置した視聴者が画像を鑑賞する。筐体2の前面のスクリーン3の下方にはフロントパネル4が設けられ、フロントパネル4の左右側にはスピーカ(図示略)からの音声を出力する開口部5が設けられている。
【0021】
次に、筐体2内部の構造について説明する。
図2に示すように、筐体2内部の下方には、投射エンジン7が配設されている。投射エンジン7とスクリーン3との間の光路上には、反射ミラー8、反射ミラー9が設置されている。この構成により、投射エンジン7から出射された光がこれら2枚の反射ミラー8,9によって反射され、スクリーン3の上部の投射領域Tに対して拡大投射される。
【0022】
次に、投射エンジン7の概略構成について図3を用いて説明する。
ただし、図3においては、図面の簡略化のため、リアプロジェクタ1の外観を構成する筐体2の図示は省略している。
投射エンジン7は、光源11と、光源11から出射された光を変調する光変調素子12と、光変調素子12により変調された光を投射する投射レンズ13とを備えている。本実施形態においては、光変調素子12として液晶ライトバルブ12R、12G、12Bが用いられている。すなわち、本実施形態のリアプロジェクタ1は、いわゆる液晶プロジェクタである。
【0023】
投射エンジン7は、図3に示すように、光源11、ダイクロイックミラー14,15、反射ミラー16,17,18、入射レンズ19、リレーレンズ20、出射レンズ21、液晶ライトバルブ12R,12G,12B、クロスダイクロイックプリズム22、投射レンズ13等から構成されている。その他、光源11から射出される光の照度分布を均一化するためのインテグレータ光学系、光源11から射出される光の偏光状態を液晶ライトバルブ12R,12G,12Bで用いる偏光に揃える偏光変換光学系を備えていても良い。
【0024】
光源11は、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等のランプ24と、ランプ24の光を反射するリフレクタ25とから構成されている。ダイクロイックミラー14は、光源11からの白色光に含まれる赤色光を透過させるとともに、青色光と緑色光とを反射する機能を有している。ダイクロイックミラー15は、青色光を透過させるとともに、緑色光を反射する機能を有している。よって、ダイクロイックミラー15を透過した赤色光は反射ミラー16で反射されて、赤色光用液晶ライトバルブ12Rに入射される。また、ダイクロイックミラー14で反射された緑色光は、ダイクロイックミラー15によって反射され、緑色光用液晶ライトバルブ12Gに入射される。
【0025】
さらに、ダイクロイックミラー14で反射された青色光は、ダイクロイックミラー15を透過する。青色光に対しては、長い光路による光損失を防ぐため、入射レンズ19、リレーレンズ20および出射レンズ21を含むリレーレンズ系からなる導光手段26が設けられている。この導光手段26を介して青色光が青色光用液晶ライトバルブ12Bに入射される。
【0026】
各液晶ライトバルブ12R,12G,12Bによって変調された3つの色光は、クロスダイクロイックプリズム22に入射する。このクロスダイクロイックプリズム22は4つの直角プリズムを貼り合わせたものであり、その界面には赤光を反射する誘電体多層膜と青光を反射する誘電体多層膜とがX字状に形成されている。これらの誘電体多層膜により3つの色光が合成されて、カラー画像を表す光が形成される。合成された光は、投射光学系である投射レンズ13によってスクリーン3上に投影され、画像が拡大表示される。
【0027】
次に、スクリーン3の構成について図4、図5を用いて説明する。
本実施形態のスクリーン3は、図4、図5に示すように、フレネルレンズ板28と、レンチキュラーレンズアレイ板29と、拡散板30と、保護板31とがこの順に積層されて構成されている。これらの部材は、フレネルレンズ板28側が筐体2の内部側、保護板31側が筐体2の外部側(視聴者側)に位置するように、投射光の光路上に積層されている。図5に示すように、レンチキュラレンズアレイ板29の視聴者側には、ブラックマスク32が格子状に設けられている。ブラックマスク32の存在によって、スクリーン3の高コントラスト化を図ることができる。また、筐体2の前面に設けられた窓33(開口部)に保護板31が嵌め込まれている。保護板31の存在によって、拡散板30に外部の埃や塵が付着したり、キズが付くのを防止することができる。なお、図5においては、反射ミラー8,9の図示は省略し、投射エンジン7のみを図示する。また、図5においては、レンチキュラレンズアレイ板29の形状を示す目的で、レンチキュラレンズアレイ板29のみをxy平面内で90°回転させた状態で図示したが、実際は半円柱状の各レンチキュラレンズの長手方向がy方向、径方向がx方向に向いている。
【0028】
拡散板30は、平面視が円形の板材もしくはフィルム材からなり、透明部材中にこの透明部材とは屈折率が異なるビーズ(拡散材)がランダムな分布で分散されたものである。この拡散板30は透過型の拡散板であり、光を一面から他面に透過させつつ拡散させる機能(前方散乱性)を有している。拡散板30は、ガラス板のような板状部材、樹脂等のフィルム状部材のいずれであっても良い。あるいは、拡散板30として、光を拡散させる機能を有するものであれば、拡散材が分散されたものに限らず、表面に凹凸を有する擦りガラス板、拡散面が形成されたフィルム等を用いても良い。
【0029】
本実施形態の場合、スクリーン3には、拡散板30を回転させるためのモータ35(拡散板回転手段)が備えられ、拡散板30の円の中心にモータ35の回転軸36が取り付けられている。回転軸36の延在方向は、拡散板30の主面(光入射面または光射出面)の法線と平行な方向(z方向)である。この構成により、モータ35の回転に伴い、拡散板30の円の中心を回転中心として拡散板30が主面の面内で回転する構成となっている。一方、フレネルレンズ板28、レンチキュラーレンズアレイ板29、保護板31は、筐体2等の任意の支持部材に固定されている。
【0030】
また、フレネルレンズ板28、レンチキュラーレンズアレイ板29、保護板31は、モータ35の回転軸36と干渉しないように拡散板30の上部に配置されている。フレネルレンズ板28とレンチキュラーレンズアレイ板29と拡散板30とが重なり合った矩形状の領域が、投射エンジン7からの画像光が投射される投射領域Tとなる。したがって、拡散板30の回転中心は投射領域Tの外に位置することになる。モータ35は、例えばリアプロジェクタ1の電源投入と同時に回転を開始する構成としても良く、少なくともスクリーン3に画像光が投射されている間は回転を持続している必要がある。
【0031】
フレネルレンズ板28とレンチキュラーレンズアレイ板29とは、一般的なスクリーンで用いられている周知のものを用いることができる。レンチキュラーレンズアレイ板29については、個々のレンチキュラーレンズの長手方向がy方向(スクリーン3の上下方向)に一致するように配置することが望ましい。保護板31は、光透過率の高い任意の板材もしくはフィルムで良い。これらフレネルレンズ板28、レンチキュラーレンズアレイ板29、保護板31は、全て矩形状に形成されており、円形の拡散板30の上側の領域に重なるように配置されている。図4ではフレネルレンズ板28、レンチキュラーレンズアレイ板29、保護板31の寸法が全て同一であるように図示したが、特に寸法が同一である必要はない。
【0032】
本実施形態の構成によれば、光の散乱状態が場所によって異なる拡散板30が主面と垂直な回転軸36を中心として回転するため、拡散板30上の投射領域Tに照射された投射光の散乱状態が時間を追って様々に変化する。その変化に伴い、視聴者が視認する干渉縞が移動したり、干渉縞のパターンが複雑に変化する。その結果、人間の眼の残像時間内で干渉縞のパターンが積分平均化され、干渉縞(シンチレーション)が視認されなくなる。これにより、スクリーン3と視聴者との間に生じていた干渉縞が解消されて表示ムラやぎらつき感がなくなり、投射光による画像が良好に視認できる。また、鑑賞時の視聴者の疲労も軽減される。また本実施形態の場合、拡散板30が主面と直交する回転軸を中心として回転するため、拡散板30のフォーカス方向(z方向)の移動がなく、画像ボケが生じることもない。
【0033】
さらに本実施形態では、拡散板30の回転運動を用いているため、例えば往復直線運動の場合等と比べて不快な騒音の発生が比較的抑えられ、静粛なリアプロジェクタを構成することができる。また、回転に要するエネルギーは回転モーメントと軸抵抗分だけであり、多大なエネルギーを投入する必要がない。拡散板30の拡散度によっては、回転数はかなり遅くても(例えば0.1Hz程度以下)、効果が得られる。その場合、モータ35も低パワーのもので良い。そのため、耐久性、安全性に優れ、低コストなリアプロジェクタを実現できる。
【0034】
本実施形態のような回転機構の場合、拡散板30の回転中心の位置が固定されているため、回転中心は常時静止した点(死点)となり、この場所に光が投射されるとシンチレーションが発生してしまう。その点、本実施形態の場合、死点となる回転中心(回転軸)が投射領域Tの外方に位置しているため、投射領域T内は光の散乱状態が常に変化していることになり、シンチレーションの発生を確実になくすことができる。
【0035】
なお、本実施形態においては、ビーズの分布がランダムな拡散板30を用いるとだけ記載したが、さらに拡散板30の外周側でビーズを粗く、内周側で密に分散させるなどして、回転軸36から遠い外周側で拡散度が小さく、回転軸36に近い内周側で拡散度が大きくなるように設定しても良い。拡散板30上の任意の点の線速度は、拡散板30の外周側で大きく、内周側で小さい。したがって、外周側で光の拡散度を相対的に小さく、内周側で相対的に大きくすれば、内外周での拡散度の時間変化量の差が小さくでき、シンチレーションの除去効果が場所によらずにより均一になる。
【0036】
また、本実施形態においては、拡散板30の中心にモータ35の回転軸36を直結させた、いわゆるダイレクトドライブ方式の回転駆動機構の例を挙げたが、この回転駆動方式に限ることはなく、任意の回転伝達機構を備えたものでも良い。例えば、図6に示す例は、拡散板30に回転軸36はあるものの、回転軸36にモータ等は接続されていない。そして、図示しないモータ等の作動で回転するローラー38(拡散板回転手段)が拡散板30の外周に接触しており、ローラー38の回転に伴い、ローラー38と逆回りに拡散板30が回転する構成である。あるいは図7に示す例は、プーリー39a,39bとベルト40(拡散板回転手段)を介して図示しないモータ等の回転を拡散板30に伝達する構成である。
【0037】
[第2の実施の形態]
以下、本発明の第2の実施の形態を図8を用いて説明する。
本実施形態のリアプロジェクタの基本構成は第1実施形態と同様であり、スクリーンの構成が第1実施形態と異なるのみである。よって、以下では、図8を用いてスクリーンの構成のみを説明することとする。
【0038】
本実施形態のスクリーン43は、第1実施形態と同様、拡散板44が回転可能とされているが、位置が固定された回転中心を持つのではなく、拡散板44の主面内に位置する回転中心が時間とともに移動する点が特徴である。すなわち、本実施形態のスクリーン43は、図8に示すように、拡散板44の形状が楕円形であり、実体的な回転軸を有していない。そして、拡散板44の外周に接触した複数(ここでは4個の例を示す)のローラー45によって拡散板44を支持しつつ回転させている。
【0039】
各ローラー45は、図6に示した第1実施形態のように位置が固定されておらず、拡散板44の外周に接触した状態を保ちつつ自由に移動できる構成となっている。すなわち、各ローラー45の回転軸46にはバネ等の弾性部材47の一端が連結されており、弾性部材47の他端は例えばリアプロジェクタの筐体等の任意の支持部材48に固定されている。さらに、弾性部材47自体は、支持部材48に固定された側の端部を中心として回転可能となっている。よって、ローラー45は、弾性部材47が伸縮可能、回転可能な範囲内において自由に移動できる。これら弾性部材47により全てのローラー45は拡散板44に押し付けられる方向に付勢されており、この4方向の付勢力によって、固定された回転軸がなくても拡散板44を支持することができる。
【0040】
本実施形態の構成においても、干渉縞(シンチレーション)が除去されて表示ムラやぎらつき感がなくなり、投射画像が良好に視認できる、静粛性、省エネルギー性、耐久性、安全性に優れ、低コストなリアプロジェクタを実現できる、等の第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0041】
一方、第1実施形態と異なるのは、本実施形態の構成では拡散板44の回転時に死点がないということである。上述したように、本実施形態ではローラー45の位置が可変であり、かつ拡散板44が楕円形であるため、拡散板44は、例えば図8において実線で示した位置や2点鎖線で示した位置にくることが可能である。したがって、拡散板44は、実体的な回転軸は持たないものの、回転中心(仮想的な回転軸)は持っており、回転中心が時間の経過(拡散板の回転)とともに移動するもの、と見なすことができる。この回転中心は拡散板44内(投射領域内)に位置するが、回転中心が時間的に移動することで死点が存在しないことになるため、シンチレーションの発生を確実になくすことができる。また、拡散板44の回転は、拡散板44面内の回転であるため、拡散板44のフォーカス方向(z方向)の移動がなく、画像ボケが生じることもない。
【0042】
[第3の実施の形態]
以下、本発明の第3の実施の形態を図9、図10を用いて説明する。
本実施形態は、スクリーンと、スクリーンと別体の投射エンジンとを備えたプロジェクションシステムの例である。スクリーンの基本構成は第1実施形態と同様であるため、図9、図10において図5等と共通な構成要素には同一の符号を付し、共通部分の詳細な説明は省略する。
【0043】
第1実施形態では、円形の拡散板の上側だけを1つの投射領域とした。これに対して、本実施形態では、円形の拡散板を有効利用するために、図9、図10に示すように、1つの拡散板30上に複数の投射領域T1〜T4を設けている。各投射領域T1〜T4には、第1実施形態で説明したように、フレネルレンズ板とレンチキュラーレンズアレイ板とがそれぞれ配置されている(図示略)。これらフレネルレンズ板、レンチキュラーレンズアレイ板は、各投射領域のみに対応して矩形状のものが個別に配置されていても良いし、複数の投射領域にわたって一体のものが配置されていても良い。
【0044】
図9に示すプロジェクションシステムは、拡散板30の上側と下側に2つの投射領域T1,T2を設け、これに対応するように2つの投射エンジン7a,7bを配置した例である。2つの投射エンジン7a,7bからの画像光が2つの異なる投射領域T1,T2にそれぞれ投射される。図10に示すプロジェクションシステムは、拡散板30の上下左右に4つの投射領域T1〜T4を設け、これに対応するように図示しない4つの投射エンジン(図示略)を配置した例である。また、図10に示すように、投射領域T1〜T4に対応する位置に窓49a(開口)を形成したマスク化粧板49をスクリーンの前面側(視聴者側)に配置しても良い。
【0045】
本実施形態のように、複数の投射エンジンからの画像光が複数の投射領域にそれぞれ投射される構成、いわゆる多面投影型のプロジェクションシステムは、特にイベント会場、博物館、学校等の据付型プロジェクションシステム、あるいは壁埋め込み型プロジェクションシステムに好適である。これらに応用する場合、上記の構成であれば、本発明のスクリーンが一つあれば、複数画面のシンチレーションを一度に除去することができ、設置効率が高いものとなる。このように、本発明は、大規模な施設においてレーザ投射エンジンを用いて大画面ディスプレイを設置する場合などに特に有効である。この場合、図10にイメージを示したように、複数の画面に別個の画像を投影することができる。あるいは、複数の投射領域を隣接させて配置し、例えば一連のパノラマ画像を投射する方式、いわゆるタイリング方式による大画面化を実現することもできる。
【0046】
[第4の実施の形態]
次に、第4の実施の形態について図11を参照して説明する。
本実施形態は、液晶ライトバルブ等の光変調素子を用いず、走査部を用いた画像表示装置である。なお、スクリーンの構成は、上記第1実施形態と同様であるため、共通の構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0047】
図11は、リアプロジェクタ120(画像表示装置)の概略構成を示す断面図である。
本実施形態のリアプロジェクタ120は、図11に示すように、レーザ光を射出する光源102と、コリメート光学系104とビーム整形光学系105とを含むレンズ光学系103と、入射されたレーザ光を2次元方向に走査するスキャナ82(走査手段)と、走査された光を拡大投射する投射レンズ114と、投射された光をスクリーン3に向けて反射する反射ミラー109と、駆動部107を備えている。光源102は、赤色のレーザ光を射出する赤色レーザダイオード102Rと、緑色のレーザ光を射出する緑色レーザダイオード102Gと、青色のレーザ光を射出する青色レーザダイオード102Bとを有する。
【0048】
レーザダイオード102R,102G,102Bから出射されたレーザ光は、レンズ光学系103を介してスキャナ82に入射する。入射したレーザ光は、スキャナ82により2次元方向にスキャン(走査)され、投射レンズ114、反射ミラー109を介してスクリーン3に投射される。このようにして、本実施形態のリアプロジェクタ120は、光源102から射出されたレーザ光をスキャナ82によりスクリーン3上で走査させることにより画像を形成するようになっている。
【0049】
本実施形態のようにレーザ光源を用いたスキャン型のリアプロジェクタ120においても、上記実施形態のスクリーン3を用いているので、上記実施形態と同様の作用効果が得られ、効果的にシンチレーションを低減させることができる。
【0050】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば第1実施形態では拡散板の回転軸を拡散板の主面に対して垂直(法線方向)に配置したが、拡散板の主面に対して垂直以外の角度をなすように若干傾けて配置しても良い。この場合、拡散板は、主面内で回転するのではなく、面ぶれを起こしながら回転することになる。よって、特に拡散板の外周側ではフォーカス方向への移動が生じるため、多少の画像ボケが生じる虞はあるものの、シンチレーションをより効果的に除去することができる。この構成において、さらに拡散板の面の位置に応じて高速に投射画像を変更する構成としても良い。これにより、例えば奥行き情報を持った3次元画像の表示が可能となる。
【0051】
また、上記実施形態では、スクリーンがフレネルレンズ板、レンチキュラーレンズアレイ板、拡散板の3枚を備え、拡散板が回転する構成としたが、これらのうちの少なくとも1枚が回転する構成であれば良い。あるいは、拡散板を複数とし、それらのうちの少なくとも1枚が回転する構成としても良い。いずれの場合も上記実施形態と同様の作用、効果を得ることができる。その他、上記実施形態で例示した拡散板、拡散板回転機構等の具体的な構成については、上記実施形態に限らず、適宜変更が可能である。また、リアプロジェクタ全体についても、光変調素子として液晶ライトバルブを用いたものの他、DMD(Digital Micromirror Device)素子等の反射型光変調素子を用いたものに本発明を採用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態のリアプロジェクタの構成を示す斜視図である。
【図2】同、リアプロジェクタの側断面図である。
【図3】同、リアプロジェクタの投射エンジンの光学系の概略構成図である。
【図4】同、リアプロジェクタのスクリーンを分解した状態を示す斜視図である。
【図5】同、スクリーンの断面図である。
【図6】同、スクリーンの回転手段の変形例を示す正面図である。
【図7】同、スクリーンの回転手段の他の変形例を示す正面図である。
【図8】本発明の第2実施形態のスクリーンを示す正面図である。
【図9】本発明の第3実施形態のプロジェクションシステムを示す正面図である。
【図10】同、プロジェクションシステムの他の例を示す正面図である。
【図11】本発明の第4実施形態の画像表示装置を示す断面図である。
【図12】シンチレーションの発生原理を説明するための図である。
【符号の説明】
【0053】
1,120…リアプロジェクタ(画像表示装置)、3,43…スクリーン、7…投射エンジン、12,12R,12G,12B…液晶ライトバルブ(光変調素子)、13…投射レンズ、28…フレネルレンズ板、29…レンチキュラーレンズアレイ板、30,44…拡散板、35…モータ(拡散板回転手段)、36…回転軸、38,45…ローラー(拡散板回転手段)、39a,39b…プーリー(拡散板回転手段)、40…ベルト(拡散板回転手段)、T…投射領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像光が投射されるスクリーンであって、
入射した光を拡散させて射出させる機能を有し、その主面と交差する回転軸を中心として回転可能とされた拡散板と、
前記拡散板を回転させる拡散板回転手段と、を備えたことを特徴とするスクリーン。
【請求項2】
前記回転軸が、前記拡散板における前記画像光が投射される領域の外方に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のスクリーン。
【請求項3】
前記拡散板が、前記回転軸から相対的に遠い外周側において光の拡散度が相対的に小さく、前記回転軸から相対的に近い内周側において光の拡散度が相対的に大きく設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のスクリーン。
【請求項4】
画像光が投射されるスクリーンであって、
入射した光を拡散させて射出させる機能を有し、その主面内に位置し時間的に移動する回転中心に対して前記主面内で回転可能とされた拡散板と、
前記拡散板を回転させる拡散板回転手段と、を備えたことを特徴とするスクリーン。
【請求項5】
光を射出する光源と、
前記光源から射出された光を変調する光変調手段と、
前記光変調素子によって変調された光が投射される請求項1ないし4のいずれか一項に記載のスクリーンと、
前記光変調素子によって変調された光を前記スクリーン上に投射する投射手段と、を備えたことを特徴とするリアプロジェクタ。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のスクリーンと、前記スクリーンに対して画像光を投射する投射エンジンとを備えたことを特徴とするプロジェクションシステム。
【請求項7】
前記投射エンジンを複数備え、前記複数の投射エンジンからの画像光が前記スクリーン上の複数の異なる領域にそれぞれ投射されることを特徴とする請求項6に記載のプロジェクションシステム。
【請求項8】
光を射出する光源と、
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のスクリーンと、
前記光源から射出された光を前記スクリーン上で走査する走査手段と、を備えたことを特徴とする画像表示装置。
【請求項1】
画像光が投射されるスクリーンであって、
入射した光を拡散させて射出させる機能を有し、その主面と交差する回転軸を中心として回転可能とされた拡散板と、
前記拡散板を回転させる拡散板回転手段と、を備えたことを特徴とするスクリーン。
【請求項2】
前記回転軸が、前記拡散板における前記画像光が投射される領域の外方に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のスクリーン。
【請求項3】
前記拡散板が、前記回転軸から相対的に遠い外周側において光の拡散度が相対的に小さく、前記回転軸から相対的に近い内周側において光の拡散度が相対的に大きく設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のスクリーン。
【請求項4】
画像光が投射されるスクリーンであって、
入射した光を拡散させて射出させる機能を有し、その主面内に位置し時間的に移動する回転中心に対して前記主面内で回転可能とされた拡散板と、
前記拡散板を回転させる拡散板回転手段と、を備えたことを特徴とするスクリーン。
【請求項5】
光を射出する光源と、
前記光源から射出された光を変調する光変調手段と、
前記光変調素子によって変調された光が投射される請求項1ないし4のいずれか一項に記載のスクリーンと、
前記光変調素子によって変調された光を前記スクリーン上に投射する投射手段と、を備えたことを特徴とするリアプロジェクタ。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のスクリーンと、前記スクリーンに対して画像光を投射する投射エンジンとを備えたことを特徴とするプロジェクションシステム。
【請求項7】
前記投射エンジンを複数備え、前記複数の投射エンジンからの画像光が前記スクリーン上の複数の異なる領域にそれぞれ投射されることを特徴とする請求項6に記載のプロジェクションシステム。
【請求項8】
光を射出する光源と、
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のスクリーンと、
前記光源から射出された光を前記スクリーン上で走査する走査手段と、を備えたことを特徴とする画像表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−334240(P2007−334240A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169033(P2006−169033)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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