スタチン封入ナノ粒子含有医薬組成物
【課題】新血管新生治療のための新ナノテクノロジーベース戦略、とりわけ生物分解可能なナノ粒子に封入したスタチンの提供。
【解決手段】スタチンを生体適合性ナノ粒子の内部に封入してなるスタチン封入ナノ粒子を含む医薬組成物であって、前記生体適合性ナノ粒子がポリラクチドグリコライド共重合体またはそのポリエチレングリコール修飾体を含み、2.5〜1,000nmの個数平均粒子径を有する、医薬組成物。かかるスタチン封入ナノ粒子によって、スタチンの局所的処置が可能となり、したがって虚血性新血管新生を初めとする様々なスタチンによって治療可能な疾患の治療有効性の向上がもたらされる。
【解決手段】スタチンを生体適合性ナノ粒子の内部に封入してなるスタチン封入ナノ粒子を含む医薬組成物であって、前記生体適合性ナノ粒子がポリラクチドグリコライド共重合体またはそのポリエチレングリコール修飾体を含み、2.5〜1,000nmの個数平均粒子径を有する、医薬組成物。かかるスタチン封入ナノ粒子によって、スタチンの局所的処置が可能となり、したがって虚血性新血管新生を初めとする様々なスタチンによって治療可能な疾患の治療有効性の向上がもたらされる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新血管新生治療のための新ナノテクノロジーベース戦略、とりわけ生物分解可能なナノ粒子に封入したスタチンを提供する。かかるスタチン封入ナノ粒子によって、スタチンの局所的処置が可能となり、したがって虚血性新血管新生を初めとする様々なスタチンによって治療可能な疾患の治療有効性の向上がもたらされる。
【背景技術】
【0002】
スタチンは、肝でのコレステロール生合成における律速酵素であるHMG−CoA還元酵素を阻害するため、血中から肝へのコレステロール取り込みを促進させ、その結果、強力な血中コレステロール濃度低下作用および血清中性脂肪値低下作用を有する化合物である。スタチンとしては、例えば、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン、リピトールなどが知られている。
【0003】
高脂血症の処置の他に、近年スタチン化合物の様々な疾患の処置に使用し得ることが見出されている。例えば、座瘡および/または皮膚老化の処置に有用であることや(特許文献1);一酸化窒素(NO)介在性血管拡張および血管弛緩を増加させ得ること(特許文献2);そして2度目ないしそれ以後の心筋梗塞の予防に有用であること(特許文献3および4)が知られている。
【0004】
また、スタチンは組織における血管形成を促進するためにも使用することができ、かかるスタチンは新規血管増殖が望まれる疾患の処置に使用することができる(特許文献5)。これは、(1)内皮原種細胞(EPCs)の数と機能の増加;(2)虚血性の/損傷した組織への、EPCs混合の刺激;そして、(3)損害した組織の再生/治癒の促進、が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】U. S. Pat. No. 5,902,805
【特許文献2】WO 99/18952
【特許文献3】U. S. Pat. No. 5,674,893
【特許文献4】U. S. Pat. No. 5,622,985
【特許文献5】WO01/93806
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの有益な効能は、スタチンの「全身性」投与の結果としてもたらされ、臨床環境で使用される量よりも投与量が極端に多い時のみであるが、かかる「全身性」投与にはスタチン副作用である横紋筋融解症ならびに肝障害が発生し易いという問題があった。かかる副作用を回避ないし低減すべく、臨床的に使用可能な量のスタチンを「局所」投与することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、生物分解可能な重合ナノ粒子技術を使用してスタチンをナノ粒子媒介投与するという着想に基づき、臨床服用範囲内でのスタチンのナノ粒子媒介による局所投与が虚血性新血管新生の治療向上に有効であることを見出して、本願発明に至った。ここで、本発明でいう「局所」投与とは、皮膚投与や眼投与等のいわゆる局所投与のみならず、例えば経口投与の後、特定の組織、例えば虚血組織に薬剤が選択的に輸送されて、局所的に処置される場合も含むものとする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のスタチン封入ナノ粒子は、特定組織でのスタチンの効果的な細胞内放出と、新血管新生に関連した治療効力を、横紋筋融解症や肝障害などの潜在的副作用もなく、長期間に亘って示す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】下肢虚血作製後にFITC封入ナノ粒子を筋注した虚血下肢を示す。FITC封入ナノ粒子は、筋細胞および間質組織に取り込まれ、7日後にも筋組織内に残存していた。
【図2】下肢虚血作製後、虚血下肢筋へアトルバスタチンおよび同等量のアトルバスタチンを封入したナノ粒子を筋注した後、下肢虚血から14日目のレーザードップラーでの血流評価(矢印は虚血側)を示す。アトルバスタチン封入ナノ粒子により、虚血側の血流改善が認められた。
【図3】術直後、3日後、7日後、14日後それぞれでの下肢の血流を、レーザードップラーで測定した虚血側の健常側に対する血流比を示す。アトルバスタチン封入ナノ粒子により、7日目から血流の有意な改善が認められた。アトルバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。無処置に対して、*:p<0.05および**:p<0.01、n=8〜12。◆:無処置、■:PLGA、▲:アトルバスタチン、×:PLGA−Ato、*:PEG/CS−Ato。
【図4】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。HE染色にて、アトルバスタチン封入ナノ粒子群では、壊死領域が小さかった(矢印で囲まれた領域)。
【図5】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。内皮細胞のマーカーであるCD31に対する免疫染色にて、アトルバスタチン封入ナノ粒子群で、CD31陽性細胞の有意な増加が認められ、血管新生能(angiogenesis)の亢進が示唆された。アトルバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。
【図6】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。内皮細胞のマーカーであるCD31に対する免疫染色にて、アトルバスタチン封入ナノ粒子群で、CD31陽性細胞の有意な増加が認められ、血管新生能の亢進が示唆された。アトルバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。
【図7】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。アトルバスタチン封入ナノ粒子群で、径20μm以上の血管構造の有意な増加が認められ、機能的血管新生の増加(arteriogenesis)が示唆された。アトルバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。
【図8】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。アトルバスタチン封入ナノ粒子群で、径20μm以上の血管構造の有意な増加が認められ、機能的血管新生の増加が示唆された。アトルバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。
【図9】下肢虚血作製後、虚血下肢筋へピタバスタチンおよび同等量のピタバスタチンを封入したナノ粒子を筋注した後、下肢虚血から14日目のレーザードップラーでの血流評価(矢印は虚血側)。アトルバスタチン封入ナノ粒子により、虚血側の血流改善が認められた。
【図10】術直後、3日後、7日後、14日後それぞれでの下肢の血流を、レーザードップラーで測定した虚血側の健常側に対する血流比を示す。ピタバスタチン封入ナノ粒子により、7日目から血流の有意な改善が認められた。ピタバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。無処置に対して、*:p<0.05および**:p<0.01、n=8〜12。◆:無処置、■:PLGA、▲:アトルバスタチン、×:PLGA−Ato、*:PEG/CS−Ato。
【図11】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。内皮細胞のマーカーであるCD31に対する免疫染色にて、ピタバスタチン封入ナノ粒子群で、CD31陽性細胞の有意な増加が認められ、血管新生能の亢進が示唆された。ピタバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。
【図12】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。内皮細胞のマーカーであるCD31に対する免疫染色にて、ピタバスタチン封入ナノ粒子群で、CD31陽性細胞の有意な増加が認められ、血管新生能の亢進が示唆された。ピタバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。
【図13】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。ピタバスタチン封入ナノ粒子群で、αSMA(α平滑筋アクチン)陽性血管構造の有意な増加が認められ、機能的血管新生の増加が示唆された。ピタバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。
【図14】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。ピタバスタチン封入ナノ粒子群で、αSMA(α平滑筋アクチン)陽性血管構造の有意な増加が認められ、機能的血管新生の増加が示唆された。ピタバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。
【図15】下肢虚血後、ナノ粒子のみ、ピタバスタチン(0.4、4、20mg/kg)のみ、あるいはPLGA−ピタバスタチンを1回筋注し、3日後、7日後、14日後それぞれでの下肢の正常部分に対する虚血部分の比を示す。ピタバスタチンを高用量にしても血管新生作用は得られないが、ピタバスタチン封入ナノ粒子を投与することで血管新生作用を得ることができる。◆:PLGA−Pit、▲:ピタバスタチン0.4mg/kg、■:ピタバスタチン4mg/kg、×:ピタバスタチン20mg/kg。
【図16】虚血作成35日後の血管造影静止画像を使用した、血管数の評価を示す。PLGA−Pit群は他の3群と比較し、有意に血管数の増加が認められた。
【図17】虚血作成後35日後のPLGA−Pit群日本ウサギの筋肉運動前後での動静脈血酸素分圧較差を示す。運動中に動静脈血酸素分圧格差の増大が認められなかった。
【図18】虚血作成35日後のPLGA−FITC群日本ウサギの筋肉運動前後での動静脈血酸素分圧較差を示す。運動中に動静脈血酸素分圧格差の増大を認めた。
【図19】虚血作成35日後のPit群日本ウサギの筋肉運動前後での動静脈血酸素分圧較差を示す。運動中に動静脈血酸素分圧格差の増大を認めた。
【図20】虚血作成35日後の無処置(PBS投与)群日本ウサギの筋肉運動前後での動静脈血酸素分圧較差を示す。運動中に動静脈血酸素分圧格差の増大を認めた。
【図21】非虚血マウス(コントロール)および虚血後14日目の無治療群とピタバスタチン封入ナノ粒子投与群より末梢血を採取し、血管内皮前駆細胞(EPC)数を測定して算出した末梢血白血球中の割合(%)を示す。ピタバスタチン封入ナノ粒子投与によるスタチンの局所送達による血管新生作用は、骨髄を含む全身への作用というより、虚血局所での作用が主体であることが理解できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
第1の態様において本発明は、スタチンを生体適合性ナノ粒子の内部に封入してなるスタチン封入ナノ粒子を含む医薬組成物を提供する。
【0011】
スタチンには、HMG−CoA(3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−コエンザイムA)還元酵素阻害剤として知られるあらゆる化合物を含有し、例えばU. S. Patent No. 5,622,985; U. S. Patent No. 5,135,935; U. S. Patent No. 5,356,896; U. S. Patent No. 4,920,109; U. S. Patent No. 5,286,895; U. S. Patent No. 5,262,435; U. S. Patent No. 5,260,332; U. S. Patent No. 5,317,031; U. S. Patent No. 5,283,256; U. S. Patent No. 5,256,689; U. S. Patent No. 5,182,298; U. S. Patent No. 5, 369, 125; U. S. Patent No. 5,302,604; U. S. Patent No. 5,166,171; U. S. Patent No. 5,202,327; U. S. Patent No. 5,276,021; U. S. Patent No. 5,196,440; U. S. Patent No. 5,091,386 ; U. S. Patent No. 5,091,378; U. S. Patent No. 4,904,646; U. S. Patent No. 5,385,932; U. S. Patent No. 5,250,435; U. S. Patent No. 5,132,312; U. S. Patent No. 5,130,306; U. S. Patent No. 5,116,870; U. S. Patent No. 5,112,857; U. S. Patent No. 5,102,911; U. S. Patent No. 5,098,931; U. S. Patent No. 5,081,136; U. S. Patent No. 5,025,000; U. S. Patent No. 5,021,453; U. S. Patent No. 5,017,716; U. S. Patent No. 5,001,144; U. S. Patent No. 5,001,128; U. S. Patent No. 4,997, 837; U. S. Patent No. 4,996,234; U. S. Patent No. 4,994,494; U. S. Patent No. 4,992,429; U. S. Patent No. 4,970,231; U. S. Patent No. 4,968,693; U. S. Patent No. 4,963,538; U. S. Patent No. 4,957,940; U. S. Patent No. 4,950,675; U. S. Patent No. 4,946,864; U. S. Patent No. 4,946,860; U. S. Patent No. 4,940,800; U. S. Patent No. 4,940,727; U. S. Patent No. 4,939,143; U. S. Patent No. 4,929,620; U. S. Patent No. 4,923,861; U. S. Patent No. 4,906,657; U. S. Patent No. 4,906,624; and U. S. Patent No. 4,897,402に記載のものが含まれ得るが、特にプラバスタチン(U. S. Patent No. 4,346,227)、シンバスタチン(U. S. Patent No. 4,444,784)、フルバスタチン(U. S. Patent No. 4,739, 073)、アトルバスタチン(U. S. Patent No. 5,273,995)、ピタバスタチン、ロスバスタチン(U. S. Patent No. 4,231,938)およびリピトール、とりわけピタバスタチンおよびアトルバスタチンが好ましい。これらの文献を出典明示により本願明細書の一部とする。
【0012】
本発明のナノ粒子には、1種またはそれ以上のスタチンを封入することができる。あるいは、1種またはそれ以上のスタチンとその他の薬剤を封入することもできる。スタチンと共に封入され得るその他の薬剤には、新血管形成効果を有する薬剤、抗生物質、抗炎症剤、ビタミン、あるいはスタチンと併用することが望ましくない薬剤以外のものを使用することができる。
【0013】
本発明の生体適合性ナノ粒子は、生体適合性ポリマー、例えば生体適合性ポリエステルから製造することができる。「生体適合性ポリエステル」なる用語は、本発明において、例えばD,L−ラクチド、D−ラクチド、L−ラクチド、D,L−乳酸、D−乳酸、L−乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε−カプロラクトン、ε−ヒドロキシヘキサン酸、γ−ブチロラクトン、γ−ヒドロキシ酪酸、δ−バレロラクトン、δ−ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸などから選択される一種またはそれ以上のモノマーを重合することにより合成される、任意のポリエステルを意味する。好ましい態様において、生体適合性ポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、または乳酸・アスパラギン酸共重合体、とりわけPLGAまたはPEG/CS−PLGA(ポリエチレングリコール/キトサン修飾−PLGA)である。
【0014】
本明細書において使用される、「PLGA」なる語は、様々な割合の、例えば1:99〜99:1、好ましくは3:1の乳酸またはラクチドと、グリコール酸またはグリコライドからなるコポリマー、すなわちポリラクチドグリコライド共重合体を意味する。PLGAは任意のモノマーから常套の方法で合成してもよいし、市販のものを使用してもよい。市販のPLGAとしては、例えばPLGA7520(乳酸:グリコール酸=75:25、平均重量分子量20,000、和光純薬)が挙げられる。乳酸およびグリコール酸の含有量が25重量%〜65重量%であるPLGAは非晶質であり、アセトンなどの有機溶媒に可溶であるから好ましい。
【0015】
ポリマーは様々な平均鎖長をもち、その結果、様々な内部粘性およびポリマー特性の差異をもたらすが、とりわけ生体への刺激や毒性が低く、生体適合性で、投与後分解して代謝される生体内分解性のものが好ましい。また、生体適合性ポリマーから得られたナノ粒子は封入するスタチンを持続して放出することが好ましい。このようなポリマーとしては、例えば5,000〜200,000の分子量のもの、例えば15,000〜25,000の分子量のものが好ましい。
【0016】
また、生体適合性ポリマーの表面をポリエチレングリコール(PEG)で修飾しておくと、水溶性のスタチンとポリマーの親和性が向上し、封入が容易になるため好ましい。
【0017】
本発明のスタチン含有ナノ粒子は、生体適合性ポリマーとスタチンを光散乱法で測定したときに1,000nm未満、例えば2.5〜1,000nm、より好ましくは約5〜500nm、さらに好ましくは25〜300nm、最も好ましくは約50〜200nmの個数平均粒子径を有する粒子に加工することができる方法であればいかなる方法によっても製造することができるが、好ましくは球形晶析法を使用して製造する。球形晶析法は、化合物合成の最終プロセスにおける結晶の生成・成長プロセスを制御することで、球状の結晶粒子を設計し、その物性を直接制御して加工することができる方法である。この球形晶析法の一つに、エマルジョン溶媒拡散法(ESD法)がある。
【0018】
ESD法は、簡単に説明すると、薬物を封入する基剤ポリマーとなる生体適合性ポリマー等を溶解できる良溶媒と、これとは逆に生体適合性ポリマーを溶解しない貧溶媒の二種類の溶媒を用いる。この良溶媒には、生体適合性ポリマーを溶解し、且つ貧溶媒へ混和する有機溶媒を用いる。良溶媒および貧溶媒の種類は、封入されるスタチンの種類等に応じて決定されるものであり特に限定されるものではないが、本発明のナノ粒子は、人体へ作用させる医薬製剤の原料として用いられるため、人体に対して安全性が高く、且つ環境負荷の少ないものを用いることが好ましい。
【0019】
このような貧溶媒としては、水、或いは界面活性剤を添加した水が挙げられるが、例えば界面活性剤としてポリビニルアルコールを添加したポリビニルアルコール水溶液が好適に用いられる。ポリビニルアルコール以外の界面活性剤としては、レシチン、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。なお、余剰のポリビニルアルコールが残存している場合は、溶媒留去工程の後に、遠心分離等によりポリビニルアルコールを除去する工程(除去工程)を設けても良い。
【0020】
良溶媒としては、低沸点且つ難水溶性の有機溶媒であるハロゲン化アルカン類、アセトン、メタノール、エタノール、エチルアセテート、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等が挙げられるが、例えば環境や人体に対する悪影響が少ないアセトンのみ、若しくはアセトンとエタノールの混合液が好適に用いられる。
【0021】
まず、良溶媒中に生体適合性ポリマーを溶解後、この生体適合性ポリマーが析出しないように、薬物溶解液を良溶媒中へ添加混合する。このポリマーと薬物を含む混合液を、貧溶媒中に攪拌下、滴下すると、混合液中の良溶媒が貧溶媒中へ急速に拡散移行する。その結果、貧溶媒中で良溶媒の乳化が起き、サブミクロンサイズの良溶媒のエマルジョン滴が形成される。さらに、良溶媒と貧溶媒の相互拡散により、エマルジョン内から有機溶媒が貧溶媒へと継続的に拡散していくので、エマルジョン滴内の生体適合性ポリマー並びに薬物の溶解度が低下し、最終的に、薬物を包含した球形結晶粒子のポリマーナノ粒子が生成する。
【0022】
好ましくは、薬物封入ナノ粒子には、薬物が0.1〜99%(w/v)、例えば0.1〜30%(w/v)、より好ましくは1〜10%(w/v)封入される。薬物には1種以上のスタチン及び所望によりその他の薬剤が含まれる。
【0023】
上記球形晶析法では、物理化学的な手法でナノ粒子を形成でき、しかも得られるナノ粒子が略球形であるため触媒や原料化合物の残留といった問題を考慮する必要がなく、粒子径のばらつきが少ないナノ粒子を、容易に形成することができる。その後、良溶媒である有機溶媒を遠心分離または減圧留去し(溶媒留去工程)、薬物封入ナノ粒子粉末を得る。そして、得られた粉末をそのまま、或いは必要に応じて凍結乾燥等により再分散可能な凝集粒子に複合化し(複合化工程)、複合粒子とした後、容器内に充填してスタチン含有ナノ粒子とする。
【0024】
また、ナノ粒子内部へのスタチンの封入率を高めるため、貧溶媒にカチオン性高分子を添加することが好ましい。カチオン性高分子を貧溶媒中に添加した場合は、ナノ粒子表面に吸着したカチオン性高分子がエマルション滴表面に存在するスタチンと相互作用し、貧溶媒中へのスタチンの漏出を抑制することができるものと考えられる。
【0025】
カチオン性高分子としては、キトサン及びキトサン誘導体、セルロースに複数のカチオン基を結合させたカチオン化セルロース、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のポリアミノ化合物、ポリオルニチン、ポリリジン等のポリアミノ酸、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルピリジニウムクロリド、アルキルアミノメタクリレート4級塩重合物(DAM)、アルキルアミノメタクリレート4級塩・アクリルアミド共重合物(DAA)等が挙げられるが、特にキトサン或いはその誘導体が好適に用いられる。
【0026】
キトサンは、アミノ基を有する糖の1種であるグルコサミンが多数結合した天然高分子であり、乳化安定性、保形性、生分解性、生体適合性、抗菌性等の特徴を有するため、化粧品や食品、衣料品、医薬品等の原料として広く用いられている。このキトサンを貧溶媒中に添加することにより、生体への悪影響がなく、安全性の高いスタチン封入ナノ粒子を製造することができる。
【0027】
また、良溶媒中での核酸化合物の親和性及び分散安定性を向上させるため、良溶媒中にDOTAP等のカチオン性脂質を添加し、核酸化合物と複合体を形成させても良い。但し、細胞内において放出されたカチオン性脂質により細胞障害性を示すおそれがあるため、添加量には注意が必要である。
【0028】
以上のようにして得られたナノ粒子は、凍結乾燥等により粉末化させる際に再分散可能な凝集粒子(ナノコンポジット)に複合化できる。このとき、有機または無機の物質を再分散可能に複合化させ、ナノ粒子と共に乾燥させることが好ましい。例えば、糖アルコールやショ糖を適用することにより、封入率のばらつきを効果的に防止するとともに、糖アルコール等が賦形剤となりナノ粒子の取り扱い性を高めることができる。糖アルコールとしては、マンニトール、トレハロース、ソルビトール、エリスリトール、マルチトース、キシリトースなどが挙げられ、この中でも特にトレハロースが好ましい。
【0029】
この複合化により、使用前まではナノ粒子が集まった、取り扱いやすい凝集粒子となっており、使用時に水分に触れることでナノ粒子に戻って高反応性等の特性を復元する複合粒子となる。なお、凍結乾燥法に代えて、流動層乾燥造粒法(例えば、ホソカワミクロン(株)製アグロマスタAGMを使用)により複合化して、再度分離可能な状態で一体化することもできる。
【0030】
このようにして得られる本発明のスタチン含有ナノ粒子は、HMG−CoA還元酵素が関与する様々な状態、例えば組織の血管新生不全(またはその素因)を特徴とする状態、すなわち組織が十分に脈管化される必要のある、新血管形成が必要な状態、ならびに(1)糖尿病性潰瘍、(2)壊疽、(3)治癒促進のために新血管形成が必要な外科または他の創傷、(4)バージャー症候群、(5)高血圧(肺高血圧症を含む)、(6)虚血疾患、例えば脳血管虚血、腎虚血、肺虚血、肢虚血、虚血性心筋症、心筋虚血、筋、脳、腎臓および肺等の組織の虚血、高血圧、潰瘍(例えば糖尿病性潰瘍)、微小血管の減少を特徴とする外科創傷または他の状態が含まれる。好ましい態様において、本発明によって処置される状態は、治療的血管形成によって処置される状態、とりわけ虚血である。
【0031】
本発明において「処置」とは、状態の処置および予防を含む。
【0032】
また、本発明のスタチン封入ナノ粒子は、内皮細胞、白血球、心筋細胞および繊維芽細胞のような他の細胞タイプによって同様に取り込まれるため、いくつかの難治疾患処置に本発明のスタチン封入ナノ粒子を適用することができる。したがって、本発明の広い局面で、本発明のスタチン封入ナノ粒子はまた、重症の家族性高コレステロール血症、肺高血圧症、動脈硬化症、大動脈瘤、変性性神経疾患、アルツハイマー病、脳血管性痴呆、臓器線維化、悪性腫瘍の処置に使用できる。
【0033】
従って、さらなる局面において、本発明はスタチンによって処置される疾患および/または状態の予防および処置のための、本発明のスタチン封入ナノ粒子を組み込まれた薬剤送達システムに関する。
【0034】
本発明の特定の発見によると、本発明はまた、本発明のスタチン封入ナノ粒子の治療上有効用量を、スタチンによって処置可能な疾患および/または状態を有する温血動物(ヒトを含む)へと投与する、温血動物の処置法を提供する。
【0035】
本発明のナノ粒子を含む医薬組成物は、局所的、経腸的、例えば経口的もしくは経直腸的、または非経腸的投与に、とりわけ筋、静脈または動脈注射に適しており、そして、無機または有機、固体または液体であり得る薬学的に許容される担体を含み得る。たとえば、経口投与用本発明の医薬組成物は、希釈剤、例えばラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロースおよび/またはグリセロール、および/または滑沢剤、例えばケイ酸、タルク、ステアリン酸もしくはステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸カルシウムのようなその塩、および/またはポリエチレングリコール、および/または安定化剤と共に本発明のナノ粒子を含み、とりわけ錠剤またはゼラチンカプセルを使用することができる。錠剤はまた結合剤および、所望により、崩壊剤、吸着剤、染料、香味料および甘味剤を含み得る。本発明のナノ粒子はまた非経腸的投与用組成物の形または注入溶液の形で使用できる。かかる溶液は、賦形剤、例えば安定化剤、保存剤、湿潤剤および/または乳化剤、浸透圧を調節する塩および/またはバッファーを含む。本医薬組成物は、当業者に既知の方法で製造され、そして約0.1%〜99%、とりわけ約1%〜約50%、好ましくは1〜20%(%は重量%)の有効成分を含む。
【0036】
使用される本発明のナノ粒子の用量範囲は、温血動物の種、体重および年齢、投与形態、特定の使用される物質および処置される疾患の状態を含む、当業者に既知の要素に依存している。特に記載がない限り、本発明のナノ粒子は、好ましくは1日に1〜4回の投与される。とりわけ好ましい態様において本発明の医薬組成物は、その長期間の薬剤放出能力のため(例えば図1参照)、毎日、隔日、1週間に1回、隔週、1ヶ月に1回等の様々な投与頻度で投与することができる。好ましくは、かかる頻度は当業者に既知の要素に依存し、医師等により容易に決定される。
【0037】
本発明のスタチン封入ナノ粒子によって投与されるスタチンは、治療上有効量を投与される。有効量とは、所望の結果を得るために必要なスタチンの量であり、処置する状態の進行の遅延、阻害、予防、逆転または治癒をもたらすのに必要な量であり、典型的には、約0.01mg/kg〜約1000mg/kg、好ましくは約0.1mg/kg〜約200mg/kg、より好ましくは約0.2mg/kg〜約20mg/kgであり、1日に1回、またはそれ以上に分割して投与することができる。
【実施例】
【0038】
スタチン封入ナノ粒子の製造
i)アトルバスタチン封入PLGA
PLGA(和光純薬、PLGA7520、乳酸:グリコール酸=75:25、平均重量分子量20,000)1.2gとアトルバスタチン120mgをアセトン40mL、エタノール20mLの混液に溶解しポリマー溶液とした。これを40℃、400rpmで攪拌した0.5wt%PVA溶液120mL中に一定速度(4mL/min)で滴下しアトルバスタチン封入PLGAナノ粒子懸濁液を得た。続いて減圧下40℃、100rpmで攪拌を続けながら、有機溶媒(アセトン、エタノール)を留去した。約2時間溶媒留去後、懸濁液をフィルターろ過(目開き32μm)し、ろ液を一晩凍結乾燥し、アトルバスタチン封入PLGAナノ粒子を得た。アトルバスタチンは、ナノ粒子中6.3%(w/v)封入された。アトルバスタチンに代えて蛍光マーカー(FITC)を封入したPLGAナノ粒子を、同様に製造した。蛍光マーカーは、ナノ粒子中5%(w/v)封入された。
【0039】
ii)アトルバスタチン封入PEG/CS−PLGA
peg−PLGA(Absorbable Polymers International製;乳酸/グリコール酸=75/25、分子量22,900 そのうちpeg分子量6,000)1.2gとアトルバスタチン120mgをアセトン40mL、エタノール20mLの混液に溶解しポリマー溶液とした。これを40℃、400rpmで攪拌した0.04wt%キトサン(片倉チッカリン、モイスコートPX、塩化N−〔2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル〕キトサン)水溶液120mL中に一定速度(4mL/min)で滴下しアトルバスタチン封入peg−PLGAナノ粒子懸濁液を得た。続いて減圧下40℃、100rpmで攪拌を続けながら、有機溶媒(アセトン、エタノール)を留去した。約2時間半溶媒留去後、懸濁液をフィルターろ過(目開き32μm)し、アトルバスタチン封入PEG/CS−PLGAナノ粒子を得た。アトルバスタチンは、ナノ粒子中8.8%(w/v)封入された。アトルバスタチンに代えて蛍光マーカー(FITC)を封入したPEG/CS−PLGAナノ粒子を、同様に製造した。蛍光マーカーは、ナノ粒子中2.4%(w/v)封入された。
【0040】
iii)アトルバスタチンに代えて、ピタバスタチンを封入したPLGAナノ粒子およびPEG/CS−PLGAナノ粒子をそれぞれ製造した。ピタバスタチンはPLGAナノ粒子中5.5%(w/v)封入され、PEG/CS−PLGAナノ粒子中2.3%(w/v)封入された。
【0041】
動物と実験上プロトコル
研究プロトコルは、九州大学医学部、動物実験倫理委員会により検討され、承認を得、実験は、アメリカ生理学会のガイドラインに従って行われた。
i)アトルバスタチン封入ナノ粒子の評価
九州大学動物実験研究室で育てられた雄のC57BL/6J野生タイプのマウスを実験に使用した。塩酸ケタミンとキシラジン塩酸塩の腹腔内注射による麻酔の後、動物の左大腿動脈を結紮し切除して片側のみの後脚虚血を作成した。虚血誘導性新血管形成におけるスタチンの役割を調べるため、一群のAto−マウス(Atoグループ)にアトルバスタチン[0.01のmg/100μl(0.5mg/kg)]を筋内注射した。PLGA−Ato−マウス(PLGA−Atoグループ)の一群と、PEG/CS−PLGA−Ato−マウス(PEG/CS−Atoグループ)の一群に、それぞれアトルバスタチン封入PLGAナノ粒子(0.16mg/100μl)と、アトルバスタチン封入PEG/CS−PLGAナノ粒子(0.12mg/100μl、各0.01mgのアトルバスタチンを含む)を筋内注射した。対照群として、PLGA−FITC−マウス(FITCグループ)の一群にFITC封入PLGAナノ粒子(0.16mg/100μl)を筋内注射し、PEG/CS−PLGA−FITC−マウス(PEG/CS−FITCグループ)の一群に、FITC封入PLGAナノ粒子(0.12mg/100μl)を筋内注射し、そしてもう一群のマウス(NTグループ)は、処置を施さなかった。マウスは、後脚虚血誘導直後、左大腿動脈と脛骨筋肉にアトルバスタチン、またはナノ粒子を27−ゲージ針で注射された。
【0042】
(i)組織学的観察
ナノ粒子の投与後の動態を調べるため、FITCグループおよびPEG/CS−FITCグループマウスの筋組織を、虚血作成から7日後に採取し、光学顕微鏡および蛍光顕微鏡でそれぞれ観察を行った。結果を図1に示す。いずれのグループでも虚血作成7日後に蛍光が観察されることから、筋組織内にナノ粒子が残存している。
【0043】
(ii)ドップラーレーザーの局所灌流イメージング
肢血流の測定を、0日目(手術の直後)、3日目、7日目と14日目に、ドップラーレーザー局所灌流イメージング(LDPI)アナライザー(モアー・インストラメント社製)で行った。14日目の結果を図2に示す。また、LDPIインデックスを、標準の手足のものと虚血性のものとの比率として表した(図3)。Atoグループ、PLGAのみを投与したグループ、NTグループでは血流の改善が見られなかったが、PLGA−AtoグループとPEG/CS−Atoグループでは虚血側の血流改善が認められる。
【0044】
(iii)虚血14日後の組織学的評価
壊死領域を、HE染色した筋組織を観察することによって各グループ毎に比較した。結果を図4に示す。PLGA−AtoグループおよびPEG/CS−AtoグループではNTグループやAtoグループと比較して壊死領域が小さい。
【0045】
毛管密度を、抗マウス血小板内皮細胞接着分子(PECAM)−1抗体(サンタクルス)による、免疫組織化学的染色によって測定した。結果を図5および6に示す。PLGA−AtoグループおよびPEG/CS−AtoグループではNTグループやAtoグループと比較して内皮細胞の増加が見られる。
【0046】
径20μm以上の血管構造を測定した。結果を図7および8に示す。PLGA−AtoグループおよびPEG/CS−AtoグループではNTグループやAtoグループと比較して血管構造の増加が見られる。
【0047】
(iv)血清学的評価
下肢虚血から14日後の血清学的評価を、下記表に示す。血清中の全コレステロール、トリグリセリド、ミオグロビン、CK、BUN、Creは各群間で差がなかった。アトルバスタチンおよびアトルバスタチン封入ナノ粒子の筋注により、横紋筋融解を示唆する所見はみられなかった。
【表1】
【0048】
ii)ピタバスタチン封入ナノ粒子の評価
アトルバスタチン封入ナノ粒子と同様に、マウスを麻酔し、虚血を作成した後、一群のPit−マウス(Pitグループ)にピタバスタチン[0.01のmg/100μl(0.5mg/kg)]を筋内注射した。PLGA−Pit−マウス(PLGA−Pitグループ)の一群と、PEG/CS−PLGA−Pit−マウス(PEG/CS−Pitグループ)の一群に、それぞれピタバスタチン封入PLGAナノ粒子(0.18mg/100μl)と、アトルバスタチン封入PEG/CS−PLGAナノ粒子(0.44mg/100μl、各0.01mgのアトルバスタチンを含む)を筋内注射した。対照群として、PLGA−マウス(PLGAグループ)の一群にPLGAナノ粒子(0.18mg/100μl)を筋内注射し、そしてもう一群のマウス(NTグループ)は、処置を施さなかった。
【0049】
(i)ドップラーレーザーの局所灌流イメージング
肢血流の測定を、0日目(手術の直後)、3日目、7日目と14日目に、ドップラーレーザー局所灌流イメージング(LDPI)アナライザー(モアー・インストラメント社製)で行った。14日目の結果を図9に示す。また、LDPIインデックスを、標準の手足のものと虚血性のものとの比率として表した(図10)。Pitグループ、PLGAのみを投与したグループ、NTグループでは血流の改善が見られなかったが、PLGA−PitグループとPEG/CS−Pitグループでは虚血側の血流改善が認められる。
【0050】
(iii)虚血14日後の組織学的評価
毛管密度を、抗マウス血小板内皮細胞接着分子(PECAM)−1抗体(サンタクルス)による、免疫組織化学的染色によって測定した。結果を図11および12に示す。PLGA−PitグループではNTグループやPitグループと比較して内皮細胞(CD31陽性細胞)の増加が見られる。
【0051】
動脈形成を、αSMAの免疫染色によって測定した。結果を図13および14に示す。PLGA−PitグループではNTグループやPitグループと比較して血管構造の増加が見られる。
【0052】
虚血マウスにナノ粒子のみ、ピタバスタチン(0.4、4、20mg/kg)のみ、あるいはPLGA−ピタバスタチンを1回筋注して、虚血組織の快復率を測定した。結果を図15に示す。ピタバスタチンの投与量を増加しても血管新生効果の向上は認められなかったが、PLGA−ピタバスタチンでは顕著な快復が見られた。
【0053】
(iv)虚血35日後の組織学的評価
日本ウサギ(2.7〜3.2kg)の片足の大腿動脈を結紮除去することによって下肢虚血を作成した。作成7日後にPLGA−ピタバスタチン投与群、PLGA−FITC投与群、ピタバスタチン投与群とPBS投与群の4群にランダムに分け、それぞれの治療物質を虚血筋肉内に5ml(ピタバスタチン封入ナノ粒子濃度6mg/ml、ピタバスタチンとして0.33mg/ml)筋肉注射した。筋肉注射28日後(虚血作成35日後)に血管造影を行った。5Frのカテーテルを右内頸動脈より挿入し、透視下に左内腸骨動脈に留置した。ミリスロール0.25mgをカテーテルより動脈内注入した後、造影剤を1ml/秒の速度で5秒間注入し血管造影を行った。造影剤注入開始3秒後の静止画像を使い、血管数の評価を行った。上縁を大腿骨下縁、下縁を大腿四頭筋下縁、内縁を内腸骨動脈(本幹は計測しない。)、外縁は血管切断末梢部の範囲内で5mm方眼のグリッドを作成し血管の走行が認められた方眼数を全方眼数で割った値を血管造影スコア(angiographic score)とした。
【0054】
結果;Angiographic score;PLGA−Pit群;0.74±0.04(Mean±SE)、Pit群;0.51±0.04、PLGA−FITC群;0.59±0.03、PBS群;0.58±0.02であった(図16)。PLGA−Pit群は他の3群と比較し、有意に血管数の増加が認められた。血管造影で確認できる血管数の増加は、ナノ粒子を使ったスタチンによる治療が虚血組織内の動脈形成を効率よく生じさせることを示唆する。
【0055】
虚血下肢の筋肉運動時の血流不足がナノスタチン投与によって改善するか検討した。虚血作成35日後に十分な麻酔下に虚血下肢筋肉の電気刺激を行い筋肉運動のモデルとした。30分間の運動を行い、虚血下肢の静脈血の採血を0分、15分、30分の時点で行った。動脈血は0分の時点で採血した。これにより各時点での動静脈血酸素分圧較差を測定した。また、0分の時点でのヘモグロビン濃度を測定した。統計解析はBonferroni’s Multiple Comparison TestによるRepeated Measures ANOVAを使用した。ヘモグロビン濃度についてはOne-way analysis of varianceを使用した。
【0056】
結果;ナノスタチン投与群以外の群は運動中に動静脈血酸素分圧格差の増大を認めた(図17〜20)。ヘモグロビン濃度については各群間に差はなかった。Fickの原理によれば、血液拍出量は、酸素消費量÷(Hb×1.36×10×動静脈血酸素分圧格差)で求められる。この原理を下肢虚血の運動モデルに当てはめると、下肢筋肉での酸素消費量を一定と仮定し、Hb値に差がないこと考慮すると、下肢運動時の下肢への血液供給量は動静脈血酸素分圧格差に反比例することになる。ナノスタチン投与群以外の群では運動時に動静脈血酸素分圧格差が有意に増大していることから血液供給不足が示唆されるが、それがナノスタチン投与により防止できた。
【0057】
(v)ナノ粒子による局所的処置
非虚血マウス(コントロール)および虚血後14日目の無治療群とピタバスタチン封入ナノ粒子投与群より末梢血を採取した。末梢血0.5mlを溶血後、得られた白血球をFITC付抗Sca−1抗体1μgとPE付抗Flk−1抗体1μgとともに30分、4℃でインキュベーションし、フローサイトメトリーにて解析した。Sca−1およびFlk−1ともに陽性の細胞を血管内皮前駆細胞(EPC)として、末梢血白血球中の割合(%)を算出した。
結果:非虚血マウスにおける末梢血EPC0.51±0.09%に対し、虚血マウスでは無治療群1.19±0.05%、スタチン封入ナノ粒子群1.21±0.03%といずれも有意に増加していた。しかし、無治療群とスタチン封入ナノ粒子群ではほぼ同等であった(図21)。下肢虚血により骨髄から末梢血へのEPC動員が増加するものの、スタチン封入ナノ粒子によるさらなる増加はみられなかった。これにより、ナノ粒子によるスタチンの局所送達による血管新生作用は、骨髄を含む全身への作用というより、虚血局所での作用が主体であることが理解できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新血管新生治療のための新ナノテクノロジーベース戦略、とりわけ生物分解可能なナノ粒子に封入したスタチンを提供する。かかるスタチン封入ナノ粒子によって、スタチンの局所的処置が可能となり、したがって虚血性新血管新生を初めとする様々なスタチンによって治療可能な疾患の治療有効性の向上がもたらされる。
【背景技術】
【0002】
スタチンは、肝でのコレステロール生合成における律速酵素であるHMG−CoA還元酵素を阻害するため、血中から肝へのコレステロール取り込みを促進させ、その結果、強力な血中コレステロール濃度低下作用および血清中性脂肪値低下作用を有する化合物である。スタチンとしては、例えば、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン、リピトールなどが知られている。
【0003】
高脂血症の処置の他に、近年スタチン化合物の様々な疾患の処置に使用し得ることが見出されている。例えば、座瘡および/または皮膚老化の処置に有用であることや(特許文献1);一酸化窒素(NO)介在性血管拡張および血管弛緩を増加させ得ること(特許文献2);そして2度目ないしそれ以後の心筋梗塞の予防に有用であること(特許文献3および4)が知られている。
【0004】
また、スタチンは組織における血管形成を促進するためにも使用することができ、かかるスタチンは新規血管増殖が望まれる疾患の処置に使用することができる(特許文献5)。これは、(1)内皮原種細胞(EPCs)の数と機能の増加;(2)虚血性の/損傷した組織への、EPCs混合の刺激;そして、(3)損害した組織の再生/治癒の促進、が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】U. S. Pat. No. 5,902,805
【特許文献2】WO 99/18952
【特許文献3】U. S. Pat. No. 5,674,893
【特許文献4】U. S. Pat. No. 5,622,985
【特許文献5】WO01/93806
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの有益な効能は、スタチンの「全身性」投与の結果としてもたらされ、臨床環境で使用される量よりも投与量が極端に多い時のみであるが、かかる「全身性」投与にはスタチン副作用である横紋筋融解症ならびに肝障害が発生し易いという問題があった。かかる副作用を回避ないし低減すべく、臨床的に使用可能な量のスタチンを「局所」投与することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、生物分解可能な重合ナノ粒子技術を使用してスタチンをナノ粒子媒介投与するという着想に基づき、臨床服用範囲内でのスタチンのナノ粒子媒介による局所投与が虚血性新血管新生の治療向上に有効であることを見出して、本願発明に至った。ここで、本発明でいう「局所」投与とは、皮膚投与や眼投与等のいわゆる局所投与のみならず、例えば経口投与の後、特定の組織、例えば虚血組織に薬剤が選択的に輸送されて、局所的に処置される場合も含むものとする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のスタチン封入ナノ粒子は、特定組織でのスタチンの効果的な細胞内放出と、新血管新生に関連した治療効力を、横紋筋融解症や肝障害などの潜在的副作用もなく、長期間に亘って示す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】下肢虚血作製後にFITC封入ナノ粒子を筋注した虚血下肢を示す。FITC封入ナノ粒子は、筋細胞および間質組織に取り込まれ、7日後にも筋組織内に残存していた。
【図2】下肢虚血作製後、虚血下肢筋へアトルバスタチンおよび同等量のアトルバスタチンを封入したナノ粒子を筋注した後、下肢虚血から14日目のレーザードップラーでの血流評価(矢印は虚血側)を示す。アトルバスタチン封入ナノ粒子により、虚血側の血流改善が認められた。
【図3】術直後、3日後、7日後、14日後それぞれでの下肢の血流を、レーザードップラーで測定した虚血側の健常側に対する血流比を示す。アトルバスタチン封入ナノ粒子により、7日目から血流の有意な改善が認められた。アトルバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。無処置に対して、*:p<0.05および**:p<0.01、n=8〜12。◆:無処置、■:PLGA、▲:アトルバスタチン、×:PLGA−Ato、*:PEG/CS−Ato。
【図4】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。HE染色にて、アトルバスタチン封入ナノ粒子群では、壊死領域が小さかった(矢印で囲まれた領域)。
【図5】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。内皮細胞のマーカーであるCD31に対する免疫染色にて、アトルバスタチン封入ナノ粒子群で、CD31陽性細胞の有意な増加が認められ、血管新生能(angiogenesis)の亢進が示唆された。アトルバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。
【図6】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。内皮細胞のマーカーであるCD31に対する免疫染色にて、アトルバスタチン封入ナノ粒子群で、CD31陽性細胞の有意な増加が認められ、血管新生能の亢進が示唆された。アトルバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。
【図7】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。アトルバスタチン封入ナノ粒子群で、径20μm以上の血管構造の有意な増加が認められ、機能的血管新生の増加(arteriogenesis)が示唆された。アトルバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。
【図8】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。アトルバスタチン封入ナノ粒子群で、径20μm以上の血管構造の有意な増加が認められ、機能的血管新生の増加が示唆された。アトルバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。
【図9】下肢虚血作製後、虚血下肢筋へピタバスタチンおよび同等量のピタバスタチンを封入したナノ粒子を筋注した後、下肢虚血から14日目のレーザードップラーでの血流評価(矢印は虚血側)。アトルバスタチン封入ナノ粒子により、虚血側の血流改善が認められた。
【図10】術直後、3日後、7日後、14日後それぞれでの下肢の血流を、レーザードップラーで測定した虚血側の健常側に対する血流比を示す。ピタバスタチン封入ナノ粒子により、7日目から血流の有意な改善が認められた。ピタバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。無処置に対して、*:p<0.05および**:p<0.01、n=8〜12。◆:無処置、■:PLGA、▲:アトルバスタチン、×:PLGA−Ato、*:PEG/CS−Ato。
【図11】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。内皮細胞のマーカーであるCD31に対する免疫染色にて、ピタバスタチン封入ナノ粒子群で、CD31陽性細胞の有意な増加が認められ、血管新生能の亢進が示唆された。ピタバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。
【図12】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。内皮細胞のマーカーであるCD31に対する免疫染色にて、ピタバスタチン封入ナノ粒子群で、CD31陽性細胞の有意な増加が認められ、血管新生能の亢進が示唆された。ピタバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。
【図13】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。ピタバスタチン封入ナノ粒子群で、αSMA(α平滑筋アクチン)陽性血管構造の有意な増加が認められ、機能的血管新生の増加が示唆された。ピタバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。
【図14】下肢虚血から14日目の虚血側下肢筋の組織学的評価を示す。ピタバスタチン封入ナノ粒子群で、αSMA(α平滑筋アクチン)陽性血管構造の有意な増加が認められ、機能的血管新生の増加が示唆された。ピタバスタチンのみおよびPLGAのみでは、無処置群と差がなかった。
【図15】下肢虚血後、ナノ粒子のみ、ピタバスタチン(0.4、4、20mg/kg)のみ、あるいはPLGA−ピタバスタチンを1回筋注し、3日後、7日後、14日後それぞれでの下肢の正常部分に対する虚血部分の比を示す。ピタバスタチンを高用量にしても血管新生作用は得られないが、ピタバスタチン封入ナノ粒子を投与することで血管新生作用を得ることができる。◆:PLGA−Pit、▲:ピタバスタチン0.4mg/kg、■:ピタバスタチン4mg/kg、×:ピタバスタチン20mg/kg。
【図16】虚血作成35日後の血管造影静止画像を使用した、血管数の評価を示す。PLGA−Pit群は他の3群と比較し、有意に血管数の増加が認められた。
【図17】虚血作成後35日後のPLGA−Pit群日本ウサギの筋肉運動前後での動静脈血酸素分圧較差を示す。運動中に動静脈血酸素分圧格差の増大が認められなかった。
【図18】虚血作成35日後のPLGA−FITC群日本ウサギの筋肉運動前後での動静脈血酸素分圧較差を示す。運動中に動静脈血酸素分圧格差の増大を認めた。
【図19】虚血作成35日後のPit群日本ウサギの筋肉運動前後での動静脈血酸素分圧較差を示す。運動中に動静脈血酸素分圧格差の増大を認めた。
【図20】虚血作成35日後の無処置(PBS投与)群日本ウサギの筋肉運動前後での動静脈血酸素分圧較差を示す。運動中に動静脈血酸素分圧格差の増大を認めた。
【図21】非虚血マウス(コントロール)および虚血後14日目の無治療群とピタバスタチン封入ナノ粒子投与群より末梢血を採取し、血管内皮前駆細胞(EPC)数を測定して算出した末梢血白血球中の割合(%)を示す。ピタバスタチン封入ナノ粒子投与によるスタチンの局所送達による血管新生作用は、骨髄を含む全身への作用というより、虚血局所での作用が主体であることが理解できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
第1の態様において本発明は、スタチンを生体適合性ナノ粒子の内部に封入してなるスタチン封入ナノ粒子を含む医薬組成物を提供する。
【0011】
スタチンには、HMG−CoA(3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−コエンザイムA)還元酵素阻害剤として知られるあらゆる化合物を含有し、例えばU. S. Patent No. 5,622,985; U. S. Patent No. 5,135,935; U. S. Patent No. 5,356,896; U. S. Patent No. 4,920,109; U. S. Patent No. 5,286,895; U. S. Patent No. 5,262,435; U. S. Patent No. 5,260,332; U. S. Patent No. 5,317,031; U. S. Patent No. 5,283,256; U. S. Patent No. 5,256,689; U. S. Patent No. 5,182,298; U. S. Patent No. 5, 369, 125; U. S. Patent No. 5,302,604; U. S. Patent No. 5,166,171; U. S. Patent No. 5,202,327; U. S. Patent No. 5,276,021; U. S. Patent No. 5,196,440; U. S. Patent No. 5,091,386 ; U. S. Patent No. 5,091,378; U. S. Patent No. 4,904,646; U. S. Patent No. 5,385,932; U. S. Patent No. 5,250,435; U. S. Patent No. 5,132,312; U. S. Patent No. 5,130,306; U. S. Patent No. 5,116,870; U. S. Patent No. 5,112,857; U. S. Patent No. 5,102,911; U. S. Patent No. 5,098,931; U. S. Patent No. 5,081,136; U. S. Patent No. 5,025,000; U. S. Patent No. 5,021,453; U. S. Patent No. 5,017,716; U. S. Patent No. 5,001,144; U. S. Patent No. 5,001,128; U. S. Patent No. 4,997, 837; U. S. Patent No. 4,996,234; U. S. Patent No. 4,994,494; U. S. Patent No. 4,992,429; U. S. Patent No. 4,970,231; U. S. Patent No. 4,968,693; U. S. Patent No. 4,963,538; U. S. Patent No. 4,957,940; U. S. Patent No. 4,950,675; U. S. Patent No. 4,946,864; U. S. Patent No. 4,946,860; U. S. Patent No. 4,940,800; U. S. Patent No. 4,940,727; U. S. Patent No. 4,939,143; U. S. Patent No. 4,929,620; U. S. Patent No. 4,923,861; U. S. Patent No. 4,906,657; U. S. Patent No. 4,906,624; and U. S. Patent No. 4,897,402に記載のものが含まれ得るが、特にプラバスタチン(U. S. Patent No. 4,346,227)、シンバスタチン(U. S. Patent No. 4,444,784)、フルバスタチン(U. S. Patent No. 4,739, 073)、アトルバスタチン(U. S. Patent No. 5,273,995)、ピタバスタチン、ロスバスタチン(U. S. Patent No. 4,231,938)およびリピトール、とりわけピタバスタチンおよびアトルバスタチンが好ましい。これらの文献を出典明示により本願明細書の一部とする。
【0012】
本発明のナノ粒子には、1種またはそれ以上のスタチンを封入することができる。あるいは、1種またはそれ以上のスタチンとその他の薬剤を封入することもできる。スタチンと共に封入され得るその他の薬剤には、新血管形成効果を有する薬剤、抗生物質、抗炎症剤、ビタミン、あるいはスタチンと併用することが望ましくない薬剤以外のものを使用することができる。
【0013】
本発明の生体適合性ナノ粒子は、生体適合性ポリマー、例えば生体適合性ポリエステルから製造することができる。「生体適合性ポリエステル」なる用語は、本発明において、例えばD,L−ラクチド、D−ラクチド、L−ラクチド、D,L−乳酸、D−乳酸、L−乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε−カプロラクトン、ε−ヒドロキシヘキサン酸、γ−ブチロラクトン、γ−ヒドロキシ酪酸、δ−バレロラクトン、δ−ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸などから選択される一種またはそれ以上のモノマーを重合することにより合成される、任意のポリエステルを意味する。好ましい態様において、生体適合性ポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、または乳酸・アスパラギン酸共重合体、とりわけPLGAまたはPEG/CS−PLGA(ポリエチレングリコール/キトサン修飾−PLGA)である。
【0014】
本明細書において使用される、「PLGA」なる語は、様々な割合の、例えば1:99〜99:1、好ましくは3:1の乳酸またはラクチドと、グリコール酸またはグリコライドからなるコポリマー、すなわちポリラクチドグリコライド共重合体を意味する。PLGAは任意のモノマーから常套の方法で合成してもよいし、市販のものを使用してもよい。市販のPLGAとしては、例えばPLGA7520(乳酸:グリコール酸=75:25、平均重量分子量20,000、和光純薬)が挙げられる。乳酸およびグリコール酸の含有量が25重量%〜65重量%であるPLGAは非晶質であり、アセトンなどの有機溶媒に可溶であるから好ましい。
【0015】
ポリマーは様々な平均鎖長をもち、その結果、様々な内部粘性およびポリマー特性の差異をもたらすが、とりわけ生体への刺激や毒性が低く、生体適合性で、投与後分解して代謝される生体内分解性のものが好ましい。また、生体適合性ポリマーから得られたナノ粒子は封入するスタチンを持続して放出することが好ましい。このようなポリマーとしては、例えば5,000〜200,000の分子量のもの、例えば15,000〜25,000の分子量のものが好ましい。
【0016】
また、生体適合性ポリマーの表面をポリエチレングリコール(PEG)で修飾しておくと、水溶性のスタチンとポリマーの親和性が向上し、封入が容易になるため好ましい。
【0017】
本発明のスタチン含有ナノ粒子は、生体適合性ポリマーとスタチンを光散乱法で測定したときに1,000nm未満、例えば2.5〜1,000nm、より好ましくは約5〜500nm、さらに好ましくは25〜300nm、最も好ましくは約50〜200nmの個数平均粒子径を有する粒子に加工することができる方法であればいかなる方法によっても製造することができるが、好ましくは球形晶析法を使用して製造する。球形晶析法は、化合物合成の最終プロセスにおける結晶の生成・成長プロセスを制御することで、球状の結晶粒子を設計し、その物性を直接制御して加工することができる方法である。この球形晶析法の一つに、エマルジョン溶媒拡散法(ESD法)がある。
【0018】
ESD法は、簡単に説明すると、薬物を封入する基剤ポリマーとなる生体適合性ポリマー等を溶解できる良溶媒と、これとは逆に生体適合性ポリマーを溶解しない貧溶媒の二種類の溶媒を用いる。この良溶媒には、生体適合性ポリマーを溶解し、且つ貧溶媒へ混和する有機溶媒を用いる。良溶媒および貧溶媒の種類は、封入されるスタチンの種類等に応じて決定されるものであり特に限定されるものではないが、本発明のナノ粒子は、人体へ作用させる医薬製剤の原料として用いられるため、人体に対して安全性が高く、且つ環境負荷の少ないものを用いることが好ましい。
【0019】
このような貧溶媒としては、水、或いは界面活性剤を添加した水が挙げられるが、例えば界面活性剤としてポリビニルアルコールを添加したポリビニルアルコール水溶液が好適に用いられる。ポリビニルアルコール以外の界面活性剤としては、レシチン、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。なお、余剰のポリビニルアルコールが残存している場合は、溶媒留去工程の後に、遠心分離等によりポリビニルアルコールを除去する工程(除去工程)を設けても良い。
【0020】
良溶媒としては、低沸点且つ難水溶性の有機溶媒であるハロゲン化アルカン類、アセトン、メタノール、エタノール、エチルアセテート、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等が挙げられるが、例えば環境や人体に対する悪影響が少ないアセトンのみ、若しくはアセトンとエタノールの混合液が好適に用いられる。
【0021】
まず、良溶媒中に生体適合性ポリマーを溶解後、この生体適合性ポリマーが析出しないように、薬物溶解液を良溶媒中へ添加混合する。このポリマーと薬物を含む混合液を、貧溶媒中に攪拌下、滴下すると、混合液中の良溶媒が貧溶媒中へ急速に拡散移行する。その結果、貧溶媒中で良溶媒の乳化が起き、サブミクロンサイズの良溶媒のエマルジョン滴が形成される。さらに、良溶媒と貧溶媒の相互拡散により、エマルジョン内から有機溶媒が貧溶媒へと継続的に拡散していくので、エマルジョン滴内の生体適合性ポリマー並びに薬物の溶解度が低下し、最終的に、薬物を包含した球形結晶粒子のポリマーナノ粒子が生成する。
【0022】
好ましくは、薬物封入ナノ粒子には、薬物が0.1〜99%(w/v)、例えば0.1〜30%(w/v)、より好ましくは1〜10%(w/v)封入される。薬物には1種以上のスタチン及び所望によりその他の薬剤が含まれる。
【0023】
上記球形晶析法では、物理化学的な手法でナノ粒子を形成でき、しかも得られるナノ粒子が略球形であるため触媒や原料化合物の残留といった問題を考慮する必要がなく、粒子径のばらつきが少ないナノ粒子を、容易に形成することができる。その後、良溶媒である有機溶媒を遠心分離または減圧留去し(溶媒留去工程)、薬物封入ナノ粒子粉末を得る。そして、得られた粉末をそのまま、或いは必要に応じて凍結乾燥等により再分散可能な凝集粒子に複合化し(複合化工程)、複合粒子とした後、容器内に充填してスタチン含有ナノ粒子とする。
【0024】
また、ナノ粒子内部へのスタチンの封入率を高めるため、貧溶媒にカチオン性高分子を添加することが好ましい。カチオン性高分子を貧溶媒中に添加した場合は、ナノ粒子表面に吸着したカチオン性高分子がエマルション滴表面に存在するスタチンと相互作用し、貧溶媒中へのスタチンの漏出を抑制することができるものと考えられる。
【0025】
カチオン性高分子としては、キトサン及びキトサン誘導体、セルロースに複数のカチオン基を結合させたカチオン化セルロース、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のポリアミノ化合物、ポリオルニチン、ポリリジン等のポリアミノ酸、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルピリジニウムクロリド、アルキルアミノメタクリレート4級塩重合物(DAM)、アルキルアミノメタクリレート4級塩・アクリルアミド共重合物(DAA)等が挙げられるが、特にキトサン或いはその誘導体が好適に用いられる。
【0026】
キトサンは、アミノ基を有する糖の1種であるグルコサミンが多数結合した天然高分子であり、乳化安定性、保形性、生分解性、生体適合性、抗菌性等の特徴を有するため、化粧品や食品、衣料品、医薬品等の原料として広く用いられている。このキトサンを貧溶媒中に添加することにより、生体への悪影響がなく、安全性の高いスタチン封入ナノ粒子を製造することができる。
【0027】
また、良溶媒中での核酸化合物の親和性及び分散安定性を向上させるため、良溶媒中にDOTAP等のカチオン性脂質を添加し、核酸化合物と複合体を形成させても良い。但し、細胞内において放出されたカチオン性脂質により細胞障害性を示すおそれがあるため、添加量には注意が必要である。
【0028】
以上のようにして得られたナノ粒子は、凍結乾燥等により粉末化させる際に再分散可能な凝集粒子(ナノコンポジット)に複合化できる。このとき、有機または無機の物質を再分散可能に複合化させ、ナノ粒子と共に乾燥させることが好ましい。例えば、糖アルコールやショ糖を適用することにより、封入率のばらつきを効果的に防止するとともに、糖アルコール等が賦形剤となりナノ粒子の取り扱い性を高めることができる。糖アルコールとしては、マンニトール、トレハロース、ソルビトール、エリスリトール、マルチトース、キシリトースなどが挙げられ、この中でも特にトレハロースが好ましい。
【0029】
この複合化により、使用前まではナノ粒子が集まった、取り扱いやすい凝集粒子となっており、使用時に水分に触れることでナノ粒子に戻って高反応性等の特性を復元する複合粒子となる。なお、凍結乾燥法に代えて、流動層乾燥造粒法(例えば、ホソカワミクロン(株)製アグロマスタAGMを使用)により複合化して、再度分離可能な状態で一体化することもできる。
【0030】
このようにして得られる本発明のスタチン含有ナノ粒子は、HMG−CoA還元酵素が関与する様々な状態、例えば組織の血管新生不全(またはその素因)を特徴とする状態、すなわち組織が十分に脈管化される必要のある、新血管形成が必要な状態、ならびに(1)糖尿病性潰瘍、(2)壊疽、(3)治癒促進のために新血管形成が必要な外科または他の創傷、(4)バージャー症候群、(5)高血圧(肺高血圧症を含む)、(6)虚血疾患、例えば脳血管虚血、腎虚血、肺虚血、肢虚血、虚血性心筋症、心筋虚血、筋、脳、腎臓および肺等の組織の虚血、高血圧、潰瘍(例えば糖尿病性潰瘍)、微小血管の減少を特徴とする外科創傷または他の状態が含まれる。好ましい態様において、本発明によって処置される状態は、治療的血管形成によって処置される状態、とりわけ虚血である。
【0031】
本発明において「処置」とは、状態の処置および予防を含む。
【0032】
また、本発明のスタチン封入ナノ粒子は、内皮細胞、白血球、心筋細胞および繊維芽細胞のような他の細胞タイプによって同様に取り込まれるため、いくつかの難治疾患処置に本発明のスタチン封入ナノ粒子を適用することができる。したがって、本発明の広い局面で、本発明のスタチン封入ナノ粒子はまた、重症の家族性高コレステロール血症、肺高血圧症、動脈硬化症、大動脈瘤、変性性神経疾患、アルツハイマー病、脳血管性痴呆、臓器線維化、悪性腫瘍の処置に使用できる。
【0033】
従って、さらなる局面において、本発明はスタチンによって処置される疾患および/または状態の予防および処置のための、本発明のスタチン封入ナノ粒子を組み込まれた薬剤送達システムに関する。
【0034】
本発明の特定の発見によると、本発明はまた、本発明のスタチン封入ナノ粒子の治療上有効用量を、スタチンによって処置可能な疾患および/または状態を有する温血動物(ヒトを含む)へと投与する、温血動物の処置法を提供する。
【0035】
本発明のナノ粒子を含む医薬組成物は、局所的、経腸的、例えば経口的もしくは経直腸的、または非経腸的投与に、とりわけ筋、静脈または動脈注射に適しており、そして、無機または有機、固体または液体であり得る薬学的に許容される担体を含み得る。たとえば、経口投与用本発明の医薬組成物は、希釈剤、例えばラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロースおよび/またはグリセロール、および/または滑沢剤、例えばケイ酸、タルク、ステアリン酸もしくはステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸カルシウムのようなその塩、および/またはポリエチレングリコール、および/または安定化剤と共に本発明のナノ粒子を含み、とりわけ錠剤またはゼラチンカプセルを使用することができる。錠剤はまた結合剤および、所望により、崩壊剤、吸着剤、染料、香味料および甘味剤を含み得る。本発明のナノ粒子はまた非経腸的投与用組成物の形または注入溶液の形で使用できる。かかる溶液は、賦形剤、例えば安定化剤、保存剤、湿潤剤および/または乳化剤、浸透圧を調節する塩および/またはバッファーを含む。本医薬組成物は、当業者に既知の方法で製造され、そして約0.1%〜99%、とりわけ約1%〜約50%、好ましくは1〜20%(%は重量%)の有効成分を含む。
【0036】
使用される本発明のナノ粒子の用量範囲は、温血動物の種、体重および年齢、投与形態、特定の使用される物質および処置される疾患の状態を含む、当業者に既知の要素に依存している。特に記載がない限り、本発明のナノ粒子は、好ましくは1日に1〜4回の投与される。とりわけ好ましい態様において本発明の医薬組成物は、その長期間の薬剤放出能力のため(例えば図1参照)、毎日、隔日、1週間に1回、隔週、1ヶ月に1回等の様々な投与頻度で投与することができる。好ましくは、かかる頻度は当業者に既知の要素に依存し、医師等により容易に決定される。
【0037】
本発明のスタチン封入ナノ粒子によって投与されるスタチンは、治療上有効量を投与される。有効量とは、所望の結果を得るために必要なスタチンの量であり、処置する状態の進行の遅延、阻害、予防、逆転または治癒をもたらすのに必要な量であり、典型的には、約0.01mg/kg〜約1000mg/kg、好ましくは約0.1mg/kg〜約200mg/kg、より好ましくは約0.2mg/kg〜約20mg/kgであり、1日に1回、またはそれ以上に分割して投与することができる。
【実施例】
【0038】
スタチン封入ナノ粒子の製造
i)アトルバスタチン封入PLGA
PLGA(和光純薬、PLGA7520、乳酸:グリコール酸=75:25、平均重量分子量20,000)1.2gとアトルバスタチン120mgをアセトン40mL、エタノール20mLの混液に溶解しポリマー溶液とした。これを40℃、400rpmで攪拌した0.5wt%PVA溶液120mL中に一定速度(4mL/min)で滴下しアトルバスタチン封入PLGAナノ粒子懸濁液を得た。続いて減圧下40℃、100rpmで攪拌を続けながら、有機溶媒(アセトン、エタノール)を留去した。約2時間溶媒留去後、懸濁液をフィルターろ過(目開き32μm)し、ろ液を一晩凍結乾燥し、アトルバスタチン封入PLGAナノ粒子を得た。アトルバスタチンは、ナノ粒子中6.3%(w/v)封入された。アトルバスタチンに代えて蛍光マーカー(FITC)を封入したPLGAナノ粒子を、同様に製造した。蛍光マーカーは、ナノ粒子中5%(w/v)封入された。
【0039】
ii)アトルバスタチン封入PEG/CS−PLGA
peg−PLGA(Absorbable Polymers International製;乳酸/グリコール酸=75/25、分子量22,900 そのうちpeg分子量6,000)1.2gとアトルバスタチン120mgをアセトン40mL、エタノール20mLの混液に溶解しポリマー溶液とした。これを40℃、400rpmで攪拌した0.04wt%キトサン(片倉チッカリン、モイスコートPX、塩化N−〔2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル〕キトサン)水溶液120mL中に一定速度(4mL/min)で滴下しアトルバスタチン封入peg−PLGAナノ粒子懸濁液を得た。続いて減圧下40℃、100rpmで攪拌を続けながら、有機溶媒(アセトン、エタノール)を留去した。約2時間半溶媒留去後、懸濁液をフィルターろ過(目開き32μm)し、アトルバスタチン封入PEG/CS−PLGAナノ粒子を得た。アトルバスタチンは、ナノ粒子中8.8%(w/v)封入された。アトルバスタチンに代えて蛍光マーカー(FITC)を封入したPEG/CS−PLGAナノ粒子を、同様に製造した。蛍光マーカーは、ナノ粒子中2.4%(w/v)封入された。
【0040】
iii)アトルバスタチンに代えて、ピタバスタチンを封入したPLGAナノ粒子およびPEG/CS−PLGAナノ粒子をそれぞれ製造した。ピタバスタチンはPLGAナノ粒子中5.5%(w/v)封入され、PEG/CS−PLGAナノ粒子中2.3%(w/v)封入された。
【0041】
動物と実験上プロトコル
研究プロトコルは、九州大学医学部、動物実験倫理委員会により検討され、承認を得、実験は、アメリカ生理学会のガイドラインに従って行われた。
i)アトルバスタチン封入ナノ粒子の評価
九州大学動物実験研究室で育てられた雄のC57BL/6J野生タイプのマウスを実験に使用した。塩酸ケタミンとキシラジン塩酸塩の腹腔内注射による麻酔の後、動物の左大腿動脈を結紮し切除して片側のみの後脚虚血を作成した。虚血誘導性新血管形成におけるスタチンの役割を調べるため、一群のAto−マウス(Atoグループ)にアトルバスタチン[0.01のmg/100μl(0.5mg/kg)]を筋内注射した。PLGA−Ato−マウス(PLGA−Atoグループ)の一群と、PEG/CS−PLGA−Ato−マウス(PEG/CS−Atoグループ)の一群に、それぞれアトルバスタチン封入PLGAナノ粒子(0.16mg/100μl)と、アトルバスタチン封入PEG/CS−PLGAナノ粒子(0.12mg/100μl、各0.01mgのアトルバスタチンを含む)を筋内注射した。対照群として、PLGA−FITC−マウス(FITCグループ)の一群にFITC封入PLGAナノ粒子(0.16mg/100μl)を筋内注射し、PEG/CS−PLGA−FITC−マウス(PEG/CS−FITCグループ)の一群に、FITC封入PLGAナノ粒子(0.12mg/100μl)を筋内注射し、そしてもう一群のマウス(NTグループ)は、処置を施さなかった。マウスは、後脚虚血誘導直後、左大腿動脈と脛骨筋肉にアトルバスタチン、またはナノ粒子を27−ゲージ針で注射された。
【0042】
(i)組織学的観察
ナノ粒子の投与後の動態を調べるため、FITCグループおよびPEG/CS−FITCグループマウスの筋組織を、虚血作成から7日後に採取し、光学顕微鏡および蛍光顕微鏡でそれぞれ観察を行った。結果を図1に示す。いずれのグループでも虚血作成7日後に蛍光が観察されることから、筋組織内にナノ粒子が残存している。
【0043】
(ii)ドップラーレーザーの局所灌流イメージング
肢血流の測定を、0日目(手術の直後)、3日目、7日目と14日目に、ドップラーレーザー局所灌流イメージング(LDPI)アナライザー(モアー・インストラメント社製)で行った。14日目の結果を図2に示す。また、LDPIインデックスを、標準の手足のものと虚血性のものとの比率として表した(図3)。Atoグループ、PLGAのみを投与したグループ、NTグループでは血流の改善が見られなかったが、PLGA−AtoグループとPEG/CS−Atoグループでは虚血側の血流改善が認められる。
【0044】
(iii)虚血14日後の組織学的評価
壊死領域を、HE染色した筋組織を観察することによって各グループ毎に比較した。結果を図4に示す。PLGA−AtoグループおよびPEG/CS−AtoグループではNTグループやAtoグループと比較して壊死領域が小さい。
【0045】
毛管密度を、抗マウス血小板内皮細胞接着分子(PECAM)−1抗体(サンタクルス)による、免疫組織化学的染色によって測定した。結果を図5および6に示す。PLGA−AtoグループおよびPEG/CS−AtoグループではNTグループやAtoグループと比較して内皮細胞の増加が見られる。
【0046】
径20μm以上の血管構造を測定した。結果を図7および8に示す。PLGA−AtoグループおよびPEG/CS−AtoグループではNTグループやAtoグループと比較して血管構造の増加が見られる。
【0047】
(iv)血清学的評価
下肢虚血から14日後の血清学的評価を、下記表に示す。血清中の全コレステロール、トリグリセリド、ミオグロビン、CK、BUN、Creは各群間で差がなかった。アトルバスタチンおよびアトルバスタチン封入ナノ粒子の筋注により、横紋筋融解を示唆する所見はみられなかった。
【表1】
【0048】
ii)ピタバスタチン封入ナノ粒子の評価
アトルバスタチン封入ナノ粒子と同様に、マウスを麻酔し、虚血を作成した後、一群のPit−マウス(Pitグループ)にピタバスタチン[0.01のmg/100μl(0.5mg/kg)]を筋内注射した。PLGA−Pit−マウス(PLGA−Pitグループ)の一群と、PEG/CS−PLGA−Pit−マウス(PEG/CS−Pitグループ)の一群に、それぞれピタバスタチン封入PLGAナノ粒子(0.18mg/100μl)と、アトルバスタチン封入PEG/CS−PLGAナノ粒子(0.44mg/100μl、各0.01mgのアトルバスタチンを含む)を筋内注射した。対照群として、PLGA−マウス(PLGAグループ)の一群にPLGAナノ粒子(0.18mg/100μl)を筋内注射し、そしてもう一群のマウス(NTグループ)は、処置を施さなかった。
【0049】
(i)ドップラーレーザーの局所灌流イメージング
肢血流の測定を、0日目(手術の直後)、3日目、7日目と14日目に、ドップラーレーザー局所灌流イメージング(LDPI)アナライザー(モアー・インストラメント社製)で行った。14日目の結果を図9に示す。また、LDPIインデックスを、標準の手足のものと虚血性のものとの比率として表した(図10)。Pitグループ、PLGAのみを投与したグループ、NTグループでは血流の改善が見られなかったが、PLGA−PitグループとPEG/CS−Pitグループでは虚血側の血流改善が認められる。
【0050】
(iii)虚血14日後の組織学的評価
毛管密度を、抗マウス血小板内皮細胞接着分子(PECAM)−1抗体(サンタクルス)による、免疫組織化学的染色によって測定した。結果を図11および12に示す。PLGA−PitグループではNTグループやPitグループと比較して内皮細胞(CD31陽性細胞)の増加が見られる。
【0051】
動脈形成を、αSMAの免疫染色によって測定した。結果を図13および14に示す。PLGA−PitグループではNTグループやPitグループと比較して血管構造の増加が見られる。
【0052】
虚血マウスにナノ粒子のみ、ピタバスタチン(0.4、4、20mg/kg)のみ、あるいはPLGA−ピタバスタチンを1回筋注して、虚血組織の快復率を測定した。結果を図15に示す。ピタバスタチンの投与量を増加しても血管新生効果の向上は認められなかったが、PLGA−ピタバスタチンでは顕著な快復が見られた。
【0053】
(iv)虚血35日後の組織学的評価
日本ウサギ(2.7〜3.2kg)の片足の大腿動脈を結紮除去することによって下肢虚血を作成した。作成7日後にPLGA−ピタバスタチン投与群、PLGA−FITC投与群、ピタバスタチン投与群とPBS投与群の4群にランダムに分け、それぞれの治療物質を虚血筋肉内に5ml(ピタバスタチン封入ナノ粒子濃度6mg/ml、ピタバスタチンとして0.33mg/ml)筋肉注射した。筋肉注射28日後(虚血作成35日後)に血管造影を行った。5Frのカテーテルを右内頸動脈より挿入し、透視下に左内腸骨動脈に留置した。ミリスロール0.25mgをカテーテルより動脈内注入した後、造影剤を1ml/秒の速度で5秒間注入し血管造影を行った。造影剤注入開始3秒後の静止画像を使い、血管数の評価を行った。上縁を大腿骨下縁、下縁を大腿四頭筋下縁、内縁を内腸骨動脈(本幹は計測しない。)、外縁は血管切断末梢部の範囲内で5mm方眼のグリッドを作成し血管の走行が認められた方眼数を全方眼数で割った値を血管造影スコア(angiographic score)とした。
【0054】
結果;Angiographic score;PLGA−Pit群;0.74±0.04(Mean±SE)、Pit群;0.51±0.04、PLGA−FITC群;0.59±0.03、PBS群;0.58±0.02であった(図16)。PLGA−Pit群は他の3群と比較し、有意に血管数の増加が認められた。血管造影で確認できる血管数の増加は、ナノ粒子を使ったスタチンによる治療が虚血組織内の動脈形成を効率よく生じさせることを示唆する。
【0055】
虚血下肢の筋肉運動時の血流不足がナノスタチン投与によって改善するか検討した。虚血作成35日後に十分な麻酔下に虚血下肢筋肉の電気刺激を行い筋肉運動のモデルとした。30分間の運動を行い、虚血下肢の静脈血の採血を0分、15分、30分の時点で行った。動脈血は0分の時点で採血した。これにより各時点での動静脈血酸素分圧較差を測定した。また、0分の時点でのヘモグロビン濃度を測定した。統計解析はBonferroni’s Multiple Comparison TestによるRepeated Measures ANOVAを使用した。ヘモグロビン濃度についてはOne-way analysis of varianceを使用した。
【0056】
結果;ナノスタチン投与群以外の群は運動中に動静脈血酸素分圧格差の増大を認めた(図17〜20)。ヘモグロビン濃度については各群間に差はなかった。Fickの原理によれば、血液拍出量は、酸素消費量÷(Hb×1.36×10×動静脈血酸素分圧格差)で求められる。この原理を下肢虚血の運動モデルに当てはめると、下肢筋肉での酸素消費量を一定と仮定し、Hb値に差がないこと考慮すると、下肢運動時の下肢への血液供給量は動静脈血酸素分圧格差に反比例することになる。ナノスタチン投与群以外の群では運動時に動静脈血酸素分圧格差が有意に増大していることから血液供給不足が示唆されるが、それがナノスタチン投与により防止できた。
【0057】
(v)ナノ粒子による局所的処置
非虚血マウス(コントロール)および虚血後14日目の無治療群とピタバスタチン封入ナノ粒子投与群より末梢血を採取した。末梢血0.5mlを溶血後、得られた白血球をFITC付抗Sca−1抗体1μgとPE付抗Flk−1抗体1μgとともに30分、4℃でインキュベーションし、フローサイトメトリーにて解析した。Sca−1およびFlk−1ともに陽性の細胞を血管内皮前駆細胞(EPC)として、末梢血白血球中の割合(%)を算出した。
結果:非虚血マウスにおける末梢血EPC0.51±0.09%に対し、虚血マウスでは無治療群1.19±0.05%、スタチン封入ナノ粒子群1.21±0.03%といずれも有意に増加していた。しかし、無治療群とスタチン封入ナノ粒子群ではほぼ同等であった(図21)。下肢虚血により骨髄から末梢血へのEPC動員が増加するものの、スタチン封入ナノ粒子によるさらなる増加はみられなかった。これにより、ナノ粒子によるスタチンの局所送達による血管新生作用は、骨髄を含む全身への作用というより、虚血局所での作用が主体であることが理解できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタチンを生体適合性ナノ粒子の内部に封入してなるスタチン封入ナノ粒子を含む医薬組成物であって、前記生体適合性ナノ粒子がポリラクチドグリコライド共重合体またはそのポリエチレングリコール修飾体を含み、2.5〜1,000nmの個数平均粒子径を有する、医薬組成物。
【請求項2】
スタチンがプラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチンおよびロスバスタチンから選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
スタチンがピタバスタチンまたはアトルバスタチンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
1種以上のスタチンを封入した、請求項1〜3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
スタチンと共にその他の薬剤を封入した、請求項1〜4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
その他の薬剤が、新血管形成効果を有する薬剤、抗生物質、抗炎症剤、ビタミン、またはスタチンと併用することが望ましくない薬剤以外のものである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
肺性高血圧の処置又は予防に使用するための、請求項1〜6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項1】
スタチンを生体適合性ナノ粒子の内部に封入してなるスタチン封入ナノ粒子を含む医薬組成物であって、前記生体適合性ナノ粒子がポリラクチドグリコライド共重合体またはそのポリエチレングリコール修飾体を含み、2.5〜1,000nmの個数平均粒子径を有する、医薬組成物。
【請求項2】
スタチンがプラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチンおよびロスバスタチンから選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
スタチンがピタバスタチンまたはアトルバスタチンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
1種以上のスタチンを封入した、請求項1〜3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
スタチンと共にその他の薬剤を封入した、請求項1〜4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
その他の薬剤が、新血管形成効果を有する薬剤、抗生物質、抗炎症剤、ビタミン、またはスタチンと併用することが望ましくない薬剤以外のものである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
肺性高血圧の処置又は予防に使用するための、請求項1〜6のいずれかに記載の医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−21002(P2012−21002A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164071(P2011−164071)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【分割の表示】特願2008−532124(P2008−532124)の分割
【原出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【出願人】(511097186)株式会社 先端医療開発 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【分割の表示】特願2008−532124(P2008−532124)の分割
【原出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【出願人】(511097186)株式会社 先端医療開発 (1)
【Fターム(参考)】
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