説明

スチールコード被覆用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】環境に配慮し、将来の石油の供給量の減少に備えつつ、良好なスチールコードとの接着性、耐剥離性が得られるスチールコード被覆用ゴム組成物、及び該スチールコード被覆用ゴム組成物及びスチールコードからなるスチールコード/ゴム複合体を有する空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ゴム成分100質量部に対して、シリカを30〜80質量部、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを0.4〜1.4質量部含むスチールコード被覆用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールコード被覆用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車用タイヤには大きな荷重がかかるため、補強材としてスチールコードが用いられている。
【0003】
従来、スチールコード被覆用ゴム組成物には、主としてカーボンブラックなどのような石油資源由来の原材料が使用されている。しかし近年、地球環境保全に対する関心が高まり、自動車においても例外ではなく、CO2排出抑制の規制が強化され、さらに、石油資源は有限であって供給量が年々減少していることから、将来的に石油価格の高騰が予測され、カーボンブラックなどの石油資源由来の原材料の使用には限界がみられ、非石油資源由来の原材料への代替が望まれている。
【0004】
一方、加硫促進剤に視点をあてると、スチールコード被覆用ゴム組成物には、加硫速度が通常より遅く、スチールコードのメッキ表面との接着反応に有利であるため、加硫促進剤として、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドが一般的に使用されている(例えば、特許文献1)。しかし、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドは、化学物質審査規制法(化審法)の第一種監視化学物質に指定されており、土壌の汚染を考慮すると他の加硫促進剤に置き換える技術開発が重要になってきている。
【0005】
以上のように、スチールコード被覆用ゴム組成物において、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを使用しない、環境に配慮でき、将来の石油の供給量の減少に備えることが可能なゴム組成物が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−231190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、環境に配慮し、将来の石油の供給量の減少に備えつつ、良好なスチールコードとの接着性、耐剥離性が得られるスチールコード被覆用ゴム組成物、及び該スチールコード被覆用ゴム組成物及びスチールコードからなるスチールコード/ゴム複合体を有する空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ゴム成分100質量部に対して、シリカを30〜80質量部、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを0.4〜1.4質量部含むスチールコード被覆用ゴム組成物に関する。
【0009】
上記シリカのチッ素吸着比表面積が100〜200m/gであることが好ましい。
【0010】
上記スチールコード被覆用ゴム組成物は、有機酸コバルトを含むことが好ましい。
【0011】
上記スチールコード被覆用ゴム組成物は、アルカリ性脂肪酸金属塩及び/又は脂肪酸を含むことが好ましい。
【0012】
上記スチールコード被覆用ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して、フェノール系樹脂を2〜6質量部含むことが好ましい。
【0013】
上記スチールコード被覆用ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して、酸化亜鉛を12〜20質量部、硫黄を3.5〜6質量部、シリカ100質量部に対して、シランカップリング剤を1〜15質量部含むことが好ましい。
【0014】
本発明はまた、上記ゴム組成物とスチールコードとからなるスチールコード/ゴム複合体を有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特定量のシリカと、特定量のN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを含むスチールコード被覆用ゴム組成物であるので、環境に配慮し、将来の石油の供給量の減少に備えつつ、良好なスチールコードとの接着性、耐剥離性が得られる。該スチールコード被覆用ゴム組成物をスチールコードに被覆して得られるスチールコード/ゴム複合体を、タイヤのベルト、ブレーカー、カーカス等に使用することにより、上記性能に優れた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して、シリカを30〜80質量部、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを0.4〜1.4質量部含む。
【0017】
本発明では、カーボンブラックに替えて特定量のシリカを配合し、更に、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドに替えて特定量のN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを配合するため、環境に配慮し、将来の石油の供給量の減少に備えることができ、さらに、フィラーとして石油資源由来の原材料であるカーボンブラックを主成分とするスチールコード被覆用ゴム組成物と同等のスチールコードとの接着性、耐剥離性が得られる。
【0018】
フィラーとしてカーボンブラックを主成分とするスチールコード被覆用ゴム組成物において、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドに替えてN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを配合した場合には、加硫速度が速くなり、接着性が大幅に低下してしまう。一方、フィラーとしてシリカを主成分とするスチールコード被覆用ゴム組成物において、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドに替えてN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを配合すると、シリカの存在により、加硫速度が遅くなる傾向があり、特定量のシリカと特定量のN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを併用することにより、加硫速度を適度な速度に調整でき、良好な接着性が得られる。また同時に良好な耐剥離性も得られる。
【0019】
本発明に使用されるゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、環境に配慮でき、将来の石油の供給量の減少に備えることができ、さらに、良好な接着性、耐剥離性が得られるという理由から、NRが好ましい。
【0020】
NRとしては、TSR20、RSS♯3などのゴム工業において一般的に使用されているものでよい。
【0021】
ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは100質量%である。60質量%未満であると、環境に配慮し、将来の石油の供給量の減少に備えることができず、さらに、良好な接着性、耐剥離性も得られないおそれがある。
【0022】
本発明のゴム組成物は、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを含有する。
【0023】
N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.4質量部以上、好ましくは0.6質量部以上、更に好ましくは0.8質量部以上である。0.4質量部未満であると、接着力が低くなり、耐剥離性が低下する。該N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドの含有量は、1.4質量部以下、好ましくは1.2質量部以下である。1.4質量部を超えると、評点が低くなり、接着性が低下する。N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドの含有量が上記範囲内であると、特定量のシリカと併用することにより、加硫速度を適度な速度に調整でき、良好な接着性が得られる。また同時に良好な耐剥離性も得られる。
【0024】
本発明では、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドと共に、他の加硫促進剤を併用してもよい。併用できる他の加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系若しくはアルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、又は、キサンテート系加硫促進剤が挙げられる。
【0025】
本発明のゴム組成物は、シリカを含有する。シリカとしては、例えば、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)などが挙げられる。なかでも、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0026】
シリカのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは100m/g以上、より好ましくは110m/g以上である。100m/g未満であると、加硫速度を遅くする効果が充分に得られないおそれがある。また、シリカのNSAは、好ましくは200m/g以下、より好ましくは190m/g以下である。200m/gを超えると、シリカが分散しにくくなり、加工性が悪化するおそれがある。
なお、シリカのNSAは、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
また、特定量のN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを配合すると、ゴムの硬度が低くなるという問題があるが、例えば、NSAが100〜130m/gのシリカ(1)と、NSAが160〜190m/gのシリカ(2)とを併用することにより、良好な接着性、耐剥離性、加工性を得つつ、硬度も向上でき、耐久性、操縦安定性を向上できる。シリカ(1)とシリカ(2)を組み合わせる場合には、その質量比(シリカ(1)の配合量/シリカ(2)の配合量)は、0.8〜1.2が好ましい。
【0027】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、30質量部以上、好ましくは40質量部以上、より好ましくは55質量部以上である。30質量部未満であると、シリカを配合した効果が充分に得られないおそれがある。該シリカの含有量は、80質量部以下、好ましくは70質量部以下である。80質量部を超えると、シリカが分散しにくくなり、加工性が悪化するおそれがある。シリカの含有量が上記範囲内であると、特定量のN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドと併用することにより、加硫速度を適度な速度に調整でき、良好な接着性が得られる。また同時に良好な耐剥離性も得られる。
また、特定量のN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを配合すると、ゴムの硬度が低くなるという問題があるが、例えば、シリカ量を55質量部以上とすることにより、良好な接着性、耐剥離性を得つつ、硬度も向上でき、耐久性、操縦安定性を向上できる。
【0028】
本発明のゴム組成物には、環境に配慮し、将来の石油の供給量の減少に備えつつ、良好なスチールコードとの接着性を得るという観点から、カーボンブラックを配合しないほうがよい。
シリカ及びカーボンブラックの合計100質量%中のシリカの含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
【0029】
上記ゴム組成物は、シリカとともにシランカップリング剤を含むことが好ましい。
シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド等のスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシランなどのビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランのグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシランなどのニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシランなどのクロロ系等が挙げられる。なかでも、スルフィド系が好ましく、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドがより好ましい。
【0030】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。1質量部未満では、破壊強度が大きく低下する傾向がある。また、該シランカップリング剤の含有量は、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。15質量部を超えると、コストの増加に見合った効果が得られない傾向がある。
【0031】
本発明のゴム組成物には、有機酸コバルトを含有することが好ましい。有機酸コバルトは、スチールコードとゴム成分とを架橋する性質を有する。したがって、有機酸コバルトをゴム組成物に配合することにより、スチールコードに対するゴム組成物の接着性、耐剥離性を向上させることができる。
【0032】
有機酸コバルトとしては、例えば、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ホウ素3ネオデカン酸コバルト等を用いることができる。なかでも、コスト削減と性能向上とを両立できるという点から、ステアリン酸コバルトを用いることが好ましい。
【0033】
有機酸コバルトの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、コバルトに換算して好ましくは0.06質量部以上、より好ましくは0.08質量部以上である。0.06質量部未満では、スチールコードに対するゴム組成物の接着性、耐剥離性を充分に向上することができないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは0.3質量部以下、より好ましくは0.25質量部以下、更に好ましくは0.17質量部以下である。0.3質量部を超えると、コストが高くなる傾向がある。
【0034】
本発明のゴム組成物には、酸化亜鉛を含有することが好ましい。酸化亜鉛を配合する場合、酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは12質量部以上、より好ましくは13質量部以上である。12質量部未満では、ゴム成分とスチールコードとの接着反応性が低下し、接着性、耐剥離性が悪化するおそれがある。また、酸化亜鉛の含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは17質量部以下である。20質量部を超えると、酸化亜鉛の分散性が悪くなり、接着性、耐剥離性が悪化するおそれがある。
【0035】
本発明では、加硫剤として硫黄を好適に使用できる。硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0036】
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3.5質量部以上、より好ましくは4質量部以上である。また、該含有量は、好ましくは6質量部以下、より好ましくは5.5質量部以下である。硫黄の含有量が上記範囲内であると、良好なスチールコードに対する接着性や耐剥離性が得られる。
【0037】
上述のように、特定量のN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを配合すると、ゴムの硬度が低くなるという問題があるが、例えば、シリカ量を55質量部以上とすることにより、良好な接着性、耐剥離性を得つつ、硬度も向上でき、耐久性、操縦安定性を向上できる。しかし、シリカ量を55質量部以上とすることにより、加工性が低下するという新たな問題が発生した。この新たに発生した問題に対して、シリカ量を55質量部以上とした場合であっても、アルカリ性脂肪酸金属塩及び/又は脂肪酸を含むことにより、良好な接着性、耐剥離性、硬度を得つつ、加工性を向上できる。
【0038】
アルカリ性脂肪酸金属塩における金属としてはナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、亜鉛などが挙げられ、なかでも、カルシウム、亜鉛、バリウムが好ましく、カルシウムがより好ましい。アルカリ性脂肪酸金属塩の具体例としては、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム等のステアリン酸金属塩、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸マグネシウム、オレイン酸カルシウム、オレイン酸バリウム等のオレイン酸金属塩などが挙げられる。なかでも、融点とコストのバランスから、ステアリン酸金属塩が好ましく、ステアリン酸カルシウムよりが好ましい。
【0039】
アルカリ性脂肪酸金属塩の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上である。1質量部未満であると、アルカリ性脂肪酸金属塩配合による充分な効果を得ることが難しい傾向がある。該アルカリ性脂肪酸金属塩の含有量は、好ましくは6質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。6質量部を超えると、ゴム強度が低下するおそれがある。
【0040】
脂肪酸としては、特に限定されないが、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、カプリル酸等の飽和脂肪酸やオレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。なかでも、供給面やゴムとの相溶性が良好であるという理由から、飽和脂肪酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。
【0041】
脂肪酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上である。0.3質量部未満であると、脂肪酸配合による充分な効果を得ることが難しい傾向がある。該脂肪酸の含有量は、好ましくは6質量部以下、より好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。6質量部を超えると、押出時にブリードするおそれがある。
【0042】
特定量のN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを配合すると、ゴムの硬度が低くなるという問題があるが、上述のように、シリカ量を55質量部以上としなくても、例えば、フェノール系樹脂を配合することにより、良好な接着性、耐剥離性、硬度、加工性が得られる。
【0043】
フェノール系樹脂としては、フェノール樹脂、変性フェノール樹脂などが挙げられる。上記フェノール樹脂は、フェノールと、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラールなどのアルデヒド類とを酸又はアルカリ触媒で反応させることにより得られるものであり、上記変性フェノール樹脂は、カシューオイル、トールオイル、アマニ油、各種動植物油、不飽和脂肪酸、ロジン、アルキルベンゼン樹脂、アニリン、メラミンなどの化合物を用いて変性したフェノール樹脂である。
【0044】
フェノール系樹脂としては、硬化反応により充分な硬度が得られる点から、変性フェノール樹脂が好ましく、カシューオイル変性フェノール樹脂がより好ましい。
【0045】
上記カシューオイル変性フェノール樹脂としては、下記式(1)で示されるものを好適に使用できる。
【化1】

【0046】
式(1)中、pは、反応性が良く、分散性が向上する点で、1〜9の整数であり、5〜6が好ましい。
【0047】
フェノール系樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは2.5質量部以上である。2質量部未満であると、フェノール系樹脂配合による充分な効果を得ることが難しい傾向がある。該フェノール系樹脂の含有量は、好ましくは6質量部以下、より好ましくは5.5質量部以下である。6質量部を超えると、接着性、耐剥離性が低下するおそれがある。
【0048】
本発明のゴム組成物が、フェノール系樹脂を含有する場合、フェノール系樹脂の硬化作用を有する硬化剤を含むことが好ましい。これにより、フェノール系樹脂が架橋され、フェノール系樹脂を配合した効果がより好適に得られる。上記硬化剤としては、上記硬化作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)、ヘキサメトキシメチロールメラミン(HMMM)、ヘキサメトキシメチロールパンタメチルエーテル(HMMPME)、メラミン、メチロールメラミンなどが挙げられる。なかでも、フェノール樹脂の硬度を上昇させる作用に優れるという点から、HMT、HMMM、HMMPMEが好ましく、HMTがより好ましい。
【0049】
硬化剤の含有量は、フェノール系樹脂100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。5質量部未満であると、充分に硬化できず、充分な硬度が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは30質量部以下、より好ましくは25質量部以下である。30質量部を超えると、硬化が不均一になるおそれや、押出し時にスコーチが発生するおそれがある。
【0050】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、クレー等の補強用充填剤、加工助剤、各種老化防止剤、オイル等の軟化剤、ワックスなどを適宜配合することができる。
【0051】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0052】
スチールコード/ゴム複合体に用いられるスチールコードとしては、とくに制限はないが、たとえば、1×n構成の単撚りスチールコード、k+m構成の層撚りスチールコード等があげられる。ここで、1×n構成の単撚りスチールコードとは、n本のフィラメントを撚りあわせて得られる1層の撚りスチールコードのことである。また、k+m構成の層撚りスチールコードとは、撚り方向、撚りピッチの異なる2層構造を持ち、内層にk本のフィラメント、外層にm本のフィラメントを有するスチールコードのことである。nは1〜27の整数、kは1〜10の整数、mは1〜3の整数である。スチールコードの表面は、ゴム組成物に対する接着性を向上させるため、黄銅(真鍮)、Zn等でメッキすることが好ましい。
【0053】
スチールコード/ゴム複合体は、スチールコードを本発明のゴム組成物により被覆して得られる。該スチールコード/ゴム複合体は、スチールコードをゴムにより被覆して得られるタイヤの部材(例えば、ベルト、ブレーカー、カーカス)に好適に使用できる。スチールコード/ゴム複合体を、スチールコードをゴムにより被覆して得られるタイヤの部材に使用した場合、環境に配慮し、将来の石油の供給量の減少に備えることができ、さらに、良好な接着性、耐剥離性が得られ、耐久性に優れた空気入りタイヤが得られる。
【0054】
本発明の空気入りタイヤは、以下に示す工程によって得ることができる。
まず、スチールコードを上記ゴム組成物で被覆してから、ベルト等の部材の形状に成形する。次に、成形した部材を他のタイヤ部材と貼りあわせることにより、未加硫タイヤを調製する。その後、未加硫タイヤを加硫することにより、本発明の空気入りタイヤを得ることができる。
【実施例】
【0055】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0056】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:KR7
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイヤブラックH(N330、NSA:79m/g、DBP:105ml/100g)
シリカ1:エボニックデグッサ社製のウルトラシルVN3(NSA:175m/g)
シリカ2:ローディア(株)製のZEOSIL 115Gr(NSA:115m/g)
ステアリン酸カルシウム:日油(株)製のステアリン酸カルシウム
ステアリン酸:日油(株)製の桐
樹脂:住友ベークライト(株)製のPR12686(上記式(1)で表されるカシューオイル変性フェノール樹脂)
シランカップリング剤:エボニックデグッサ社製のSi266(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲンFR(アミンとケトンの反応品を精製したものでアミンの残留がないもの、キノリン系老化防止剤)
ステアリン酸コバルト:大日本インキ化学工業(株)製のcost−F(コバルト含有量:9.5質量%)
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤DZ:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDZ(N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤CZ:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
HMT:大内新興化学工業(株)製のノクセラーH(ヘキサメチレンテトラミン(硬化剤))
【0057】
実施例及び比較例
表1に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄、HMT及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄、HMT及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で3分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。更に、得られた未加硫ゴム組成物をシート状に圧延後、金型で170℃、21kgf/cmの条件下で15分間プレス加硫し、加硫ゴムシートを得た。
【0058】
また、得られた未加硫ゴム組成物を用いてスチールコードを被覆し、プレス加硫し、剥離試験用サンプルを作製した。具体的には、スチールコードを38本/5cmの間隔になるように両面に0.7mmの未加硫ゴム組成物からなるシートを貼り付け、更に3mmの未加硫ゴム組成物からなるシートを両面に貼り付け、150℃の条件下で30分間プレス加硫した。更に、スチールコードを配置している2.5cmの幅にカットし、表の3mmのゴムを一部剥がすことにより、剥離試験用サンプルを作製した。
【0059】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴムシート、剥離試験用サンプルについて下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
(ムーニー粘度)
JIS K 6300−1「未加硫ゴム−物理特性−第1部:ムーニー粘度計による粘度及びスコーチタイムの求め方」に準じて、ムーニー粘度試験機を用いて、1分間の予熱によって熱せられた130℃の温度条件にて、小ローターを回転させ、4分間経過した時点での上記未加硫ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4/130℃)を測定した。ムーニー粘度が小さいほど粘度が低く、加工性に優れることを示す。
【0061】
(T10、T95)
JIS K 6300−1「未加硫ゴム−物理特性−第1部:ムーニー粘度計による粘度及びスコーチタイムの求め方」に準じて、キュラストメーターを用いて、160℃、振幅角度±1度、振幅数1.67Hzの条件下において、上記未加硫ゴム組成物からなる試験片を振動を加えながら加硫することで、トルクが10%上昇する時間(最大荷重に対して10%硬化するまでの時間)T10(分)、トルクが95%上昇する時間(最大荷重に対して95%硬化するまでの時間)T95(分)を測定した。
T10が大きいほど、スコーチタイムが長い(初期加硫速度が遅い)ことを示す。
T95が大きいほど、加硫速度が遅いことを示す。
【0062】
(硬度)
各加硫ゴムシートを用いてゴムの硬度をJIS K6253「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」に準拠し、25℃の温度で硬度計を用いて測定した(ショア−A測定)。数値が大きいほど硬く、操縦安定性に優れることを示す。
【0063】
(接着試験(ゴム被覆率、接着力))
剥離試験用サンプルを用いて接着試験を行い、ゴム被覆率(%)、接着力(N)をそれぞれ測定した。なお、ゴム被覆率は、スチールコードとゴム間を剥離したときの剥離面のゴムの覆われている割合を示し、5点満点で評価した。点数(評点)が大きいほど、ゴムの覆われている割合が多く、接着性に優れている。
また、接着力は、インストロン引っ張り試験機で剥離試験用サンプルの上下をつかみ、50mm/分の速度で引っ張り、平均応力(接着力)を測定した。接着力が大きいほど剥離しにくく、耐剥離性に優れている。
【0064】
【表1】

【0065】
表1の結果より、特定量のシリカと、特定量の加硫促進剤CZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)を含む実施例は、環境に配慮し、将来の石油の供給量の減少に備えつつ、良好なスチールコードとの接着性、耐剥離性が得られた。
【0066】
スチールコード被覆用ゴムは、一般的に比較例4のように、カーボンブラックを配合し、更に、加硫促進剤DZ(N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)を配合する。比較例5のように、比較例4において、加硫促進剤DZを加硫促進剤CZに変更すると、加硫速度(T95)が速くなり、接着性が大幅に低下する。
【0067】
一方、比較例1、2、3、実施例1の比較により、特定量のシリカを含む配合系において、加硫促進剤DZを加硫促進剤CZに変更すると、カーボンブラック配合系とは逆に加硫速度(T95)が遅くなった。そして、特定量を超える加硫促進剤CZを含む比較例2、3では、比較例1に比べて、接着性が低下したものの、特定量の加硫促進剤CZを含む実施例1では、接着性の低下が見られず、更に接着力(耐剥離性)は比較例4を大幅に上回った。
【0068】
実施例1では、硬度が少し低い結果となった。一方、実施例1のシリカ量を増量した実施例2では、硬度、接着性、耐剥離性がバランスよく向上できた。しかし、加工性が少し劣る結果となった。加工性を改良するために、実施例2に更に、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸を配合した実施例3、4では、硬度、接着性、耐剥離性、加工性がバランスよく向上できた。また、実施例5のように、NSAが異なる2種類のシリカを併用することでも、硬度、接着性、耐剥離性、加工性がバランスよく向上できた。
【0069】
また、実施例6、7のように、フェノール系樹脂を配合することにより、硬度、接着性、耐剥離性、加工性がバランスよく向上できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部に対して、シリカを30〜80質量部、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを0.4〜1.4質量部含むスチールコード被覆用ゴム組成物。
【請求項2】
前記シリカのチッ素吸着比表面積が100〜200m/gである請求項1記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
【請求項3】
有機酸コバルトを含む請求項1又は2記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
【請求項4】
アルカリ性脂肪酸金属塩及び/又は脂肪酸を含む請求項1〜3のいずれかに記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
【請求項5】
ゴム成分100質量部に対して、フェノール系樹脂を2〜6質量部含む請求項1〜4のいずれかに記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
【請求項6】
ゴム成分100質量部に対して、酸化亜鉛を12〜20質量部、硫黄を3.5〜6質量部、シリカ100質量部に対して、シランカップリング剤を1〜15質量部含む請求項1〜5のいずれかに記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物とスチールコードとからなるスチールコード/ゴム複合体を有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2013−87266(P2013−87266A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231999(P2011−231999)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】