説明

ステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する方法及び装置

【課題】
ステッピングモータの低速でのマイクロステップ駆動と高速でのセンサレス駆動の両方において、ステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する。
【解決手段】
本発明の方法は、インバータ3からステッピングモータ1に供給されるモータ電流を電流検出器2が検出し、外部から入力されるパルス入力を電気角に変換し、電流検出器2により検出されたモータ電流と電気角とを2軸直流電流値に変換し、2軸直流電流値と外部からの電流指示値との偏差から2軸直流電圧指示値を算出し、2軸直流電圧指示値と予め求められ又は予め推定されたステッピングモータ1の回転子の速度とを用いて、モータ電流を磁束オブザーバ8が推定し、磁束オブザーバ8により推定されたモータ電流と2軸直流電流値との偏差から回転子の速度を推定し、推定された回転子の速度を積分して回転子の位置を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する方法及び装置に関する。具体的には、本発明は、ステッピングモータの低速運転時のマイクロステップ駆動の制御に好適な回転子の位置及び速度を推定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステッピングモータは、位置センサを使用することなくパルスというデジタル量で制御できるモータである。そのため、コンピュータ制御での位置決め用途に広く使われている。
【0003】
このようなステッピングモータの回転子の位置及び速度を検出するために、モータの非励磁状態のコイルに発生する誘起電圧を利用する手法(特許文献1参照)や、モータに誘起電圧検出用の巻線を特別に設けて、その巻線に発生する誘起電圧を利用する手法(特許文献2、3参照)がある。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の手法にあっては、非励磁状態のない、低速運転時のいわゆるマイクロステップ駆動には応用できず、また、高速運転時には、非励磁状態の時間が短くなり、誘起電圧の検出が難しいという問題がある。また、特許文献2、3に記載の手法にあっては、別途、専用のステッピングモータを用意しなければならないという問題がある。
【0005】
このような問題点を解決するため、本願出願人は、モーターモデルと2次トラッキングフィルタを用いて回転子の位置を推定する方法に係る発明について特許を受けている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平2−19720号公報
【特許文献2】特開平5−284790号公報
【特許文献3】特開平10−257745号公報
【特許文献4】特許第4235436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献4に記載の方法にあっては、マイクロステップ駆動には応用可能であるものの、回転子の位置の推定結果を用いてセンサレス駆動することが難しく、高速でのセンサレス駆動時にステッピングモータが脱調してしまうという問題があった。
【0008】
また、磁束オブザーバを用いた回転子の位置及び速度の推定にあっては、ステッピングモータの高速運転時には適用できるものの、低速運転時には適用できないという問題があった。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みなされたもので、その目的は上記の問題点を解消し、ステッピングモータの低速でのマイクロステップ駆動と高速でのセンサレス駆動の両方に適用ができながら、特別な専用モータを必要とせずに、ステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する方法は、インバータからステッピングモータに供給されるモータ電流を電流検出器が検出し、外部から入力されるパルス入力を電気角に変換し、前記電流検出器により検出されたモータ電流と前記電気角とを2軸直流電流値に変換し、前記2軸直流電流値と外部からの電流指示値との偏差から2軸直流電圧指示値を算出し、前記2軸直流電圧指示値と予め求められ又は予め推定された前記ステッピングモータの回転子の速度とを用いて、前記モータ電流を磁束オブザーバが推定し、前記磁束オブザーバにより推定されたモータ電流と前記2軸直流電流値との偏差から前記回転子の速度を推定し、推定された前記回転子の速度を積分して該回転子の位置を推定することを特徴とする。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係るステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する方法は、インバータからステッピングモータに供給されるモータ電流を電流検出器が検出し、外部から入力されるパルス入力を電気角に変換し、前記電気角から得られた正弦波信号と外部からの電流指示値とを乗算して交流電流指示値を求め、前記交流電流指示値と前記電流検出器により検出されたモータ電流との偏差から電圧指示値を算出し、前記電圧指示値と前記電気角を2軸直流電圧指示値に変換し、前記2軸直流電圧指示値と予め求められ又は予め推定された前記ステッピングモータの回転子の速度とを用いて、磁束オブザーバが前記モータ電流を推定し、前記電流検出器により検出されたモータ電流と前記電気角とを2軸直流電流値に変換し、前記磁束オブザーバにより推定されたモータ電流と前記2軸直流電流値との偏差から前記回転子の速度を推定し、推定された前記回転子の速度を積分して該回転子の位置を推定することを特徴とする。
【0012】
上記ステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する方法の別の形態によれば、前記磁束オブザーバがd軸電圧を負数とし、q軸電圧を正数として電流を推定する。
【0013】
上記ステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する方法の別の形態によれば、推定された前記回転子の位置及び速度を、前記ステッピングモータのマイクロステップ駆動時の制御に用いる。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に係るステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する装置は、インバータからステッピングモータに供給されるモータ電流を検出する電流検出器と、外部から入力されるパルス入力を電気角に変換する電気角演算器と、前記電流検出器により検出されたモータ電流と前記電気角とを2軸直流電流値に変換するN相/AB座標変換器と、前記2軸直流電流値と外部からの電流指示値との偏差から2軸直流電圧指示値を算出する電流制御器と、前記2軸直流電圧指示値と予め求められ又は予め推定された前記ステッピングモータの回転子の速度とを用いて、前記モータ電流を推定する磁束オブザーバと、前記磁束オブザーバにより推定されたモータ電流と前記2軸直流電流値との偏差から前記回転子の速度を推定する速度推定器と、推定された前記回転子の速度を積分して該回転子の位置を推定する積分器とを備えたことを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明に係るステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する装置は、インバータからステッピングモータに供給されるモータ電流を検出する電流検出器と、外部から入力されるパルス入力を電気角に変換する電気角演算器と、前記電気角から得られた正弦波信号と外部からの電流指示値とを乗算して交流電流指示値を求める乗算器と、前記交流電流指示値と前記電流検出器により検出されたモータ電流との偏差から電圧指示値を算出する電流制御器と、前記電圧指示値と前記電気角を2軸直流電圧指示値に変換する第1のN相/AB座標変換器と、前記2軸直流電圧指示値と予め求められ又は予め推定された前記ステッピングモータの回転子の速度とを用いて、前記モータ電流を推定する磁束オブザーバと、前記電流検出器により検出されたモータ電流と前記電気角とを2軸直流電流値に変換する第2のN相/AB座標変換器と、前記磁束オブザーバにより推定されたモータ電流と前記2軸直流電流値との偏差から前記回転子の速度を推定する速度推定器と、推定された前記回転子の速度を積分して該回転子の位置を推定する積分器とを備えたことを特徴とする。
【0016】
上記ステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する装置の別の形態によれば、前記磁束オブザーバがd軸電圧を負数とし、q軸電圧を正数として電流を推定する。
【0017】
上記ステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する装置の別の形態によれば、推定された前記回転子の位置及び速度を、前記ステッピングモータのマイクロステップ駆動時の制御に用いる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する方法は、インバータからステッピングモータに供給されるモータ電流を電流検出器が検出し、外部から入力されるパルス入力を電気角に変換し、前記電流検出器により検出されたモータ電流と前記電気角とを2軸直流電流値に変換し、前記2軸直流電流値と外部からの電流指示値との偏差から2軸直流電圧指示値を算出し、前記2軸直流電圧指示値と予め求められ又は予め推定された前記ステッピングモータの回転子の速度とを用いて、前記モータ電流を磁束オブザーバが推定し、前記磁束オブザーバにより推定されたモータ電流と前記2軸直流電流値との偏差から前記回転子の速度を推定し、推定された前記回転子の速度を積分して該回転子の位置を推定することを特徴とするため、磁束オブザーバを用いてステッピングモータの回転子の位置及び速度を効率的に推定することができる。そして、推定された回転子の位置から回転子のトルクを推定することができる。
【0019】
本発明に係るステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する方法は、インバータからステッピングモータに供給されるモータ電流を電流検出器が検出し、外部から入力されるパルス入力を電気角に変換し、前記電気角から得られた正弦波信号と外部からの電流指示値とを乗算して交流電流指示値を求め、前記交流電流指示値と前記電流検出器により検出されたモータ電流との偏差から電圧指示値を算出し、前記電圧指示値と前記電気角を2軸直流電圧指示値に変換し、前記2軸直流電圧指示値と予め求められ又は予め推定された前記ステッピングモータの回転子の速度とを用いて、磁束オブザーバが前記モータ電流を推定し、前記電流検出器により検出されたモータ電流と前記電気角とを2軸直流電流値に変換し、前記磁束オブザーバにより推定されたモータ電流と前記2軸直流電流値との偏差から前記回転子の速度を推定し、推定された前記回転子の速度を積分して該回転子の位置を推定することを特徴とするため、交流量で電流制御を行った場合にも、磁束オブザーバを用いてステッピングモータの回転子の位置及び速度を効率的に推定することができる。そして、推定された回転子の位置から回転子のトルクを推定することができる。
【0020】
上記ステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する方法の別の形態によれば、前記磁束オブザーバがd軸電圧を負数とし、q軸電圧を正数として電流を推定するため、回転子の速度と位置に加えて、ステッピングモータへ供給される電流も精度良く推定することができる。
【0021】
上記ステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する方法の別の形態によれば、推定された前記回転子の位置及び速度を、前記ステッピングモータのマイクロステップ駆動時の制御に用いるため、ステッピングモータの低速運転時のマイクロステップ駆動においても、回転子の位置と速度を推定することができる。
【0022】
本発明に係るステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する装置は、インバータからステッピングモータに供給されるモータ電流を検出する電流検出器と、外部から入力されるパルス入力を電気角に変換する電気角演算器と、前記電流検出器により検出されたモータ電流と前記電気角とを2軸直流電流値に変換するN相/AB座標変換器と、前記2軸直流電流値と外部からの電流指示値との偏差から2軸直流電圧指示値を算出する電流制御器と、前記2軸直流電圧指示値と予め求められ又は予め推定された前記ステッピングモータの回転子の速度とを用いて、前記モータ電流を推定する磁束オブザーバと、前記磁束オブザーバにより推定されたモータ電流と前記2軸直流電流値との偏差から前記回転子の速度を推定する速度推定器と、推定された前記回転子の速度を積分して該回転子の位置を推定する積分器とを備えたことを特徴とするため、磁束オブザーバを用いてステッピングモータの回転子の位置及び速度を効率的に推定することができる。そして、推定された回転子の位置から回転子のトルクを推定することができる。
【0023】
本発明に係るステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する装置は、インバータからステッピングモータに供給されるモータ電流を検出する電流検出器と、外部から入力されるパルス入力を電気角に変換する電気角演算器と、前記電気角から得られた正弦波信号と外部からの電流指示値とを乗算して交流電流指示値を求める乗算器と、前記交流電流指示値と前記電流検出器により検出されたモータ電流との偏差から電圧指示値を算出する電流制御器と、前記電圧指示値と前記電気角を2軸直流電圧指示値に変換する第1のN相/AB座標変換器と、前記2軸直流電圧指示値と予め求められ又は予め推定された前記ステッピングモータの回転子の速度とを用いて、前記モータ電流を推定する磁束オブザーバと、前記電流検出器により検出されたモータ電流と前記電気角とを2軸直流電流値に変換する第2のN相/AB座標変換器と、前記磁束オブザーバにより推定されたモータ電流と前記2軸直流電流値との偏差から前記回転子の速度を推定する速度推定器と、推定された前記回転子の速度を積分して該回転子の位置を推定する積分器とを備えたことを特徴とするため、交流量で電流制御を行った場合にも、磁束オブザーバを用いてステッピングモータの回転子の位置及び速度を効率的に推定することができる。そして、推定された回転子の位置から回転子のトルクを推定することができる。
【0024】
上記ステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する装置の別の形態によれば、前記磁束オブザーバがd軸電圧を負数とし、q軸電圧を正数として電流を推定するため、回転子の速度と位置に加えて、ステッピングモータへ供給される電流も精度良く推定することができる。
【0025】
上記ステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する装置の別の形態によれば、推定された前記回転子の位置及び速度を、前記ステッピングモータのマイクロステップ駆動時の制御に用いるため、ステッピングモータの低速運転時のマイクロステップ駆動においても、回転子の位置と速度を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する装置の一実施形態を示す構成系統図である。
【図2】定電流マイクロステップ駆動時の電流電圧ベクトル図である。
【図3】磁束オブザーバの入力電圧と電流推定結果とを示す図である。
【図4】定電流マイクロステップ駆動時の回転子の位置の推定結果を示す図である。
【図5】本発明のステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する装置の他の実施形態を示す構成系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に基づいたステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する装置を示す構成系統図である。
【0029】
1はN相ステッピングモータであり、このN相ステッピングモータ1にはインバータ3が接続されている。インバータ3は、図示しない交流電源に接続されており、交流電源から供給される電力をN相ステッピングモータ1に供給する。このインバータ3にはAB/N相座標変換器4が接続されており、このAB/N相座標変換器4はN相交流電圧指示値をインバータ3へ出力する。AB/N相座標変換器4には電流制御器6が接続されており、この電流制御器6は2軸直流電圧指示値をAB/N相座標変換器4に出力する。この電流制御器6には減算器11が接続されている。この減算器11には、外部からの2軸直流電流指示値と、後述するN相/AB座標変換器5からの2軸直流電流値とが入力され、減算される。
【0030】
N相ステッピングモータ1とインバータ3との間には電流検出器2が設けられ、電流検出器2はN相/AB座標変換器5に接続されている。電流検出器2は、インバータ3からN相ステッピングモータに供給されるモータ電流を検出し、検出値をN相/AB座標変換器5に出力する。N相/AB座標変換器5は前記減算器11に接続されている。7は電気角演算器であり、この電気角演算器7は前記AB/N相座標変換器4とN相/AB座標変換器5とに接続されている。電気角演算器7は、外部から入力されたパルスを基に電気角を演算し、演算した電気角をAB/N相座標変換器4とN相/AB座標変換器5とに出力する。N相/AB座標変換器5は、電気角演算器7により演算された電気角と、電流検出器2により検出されたモータ電流とを2軸直流電流値へ変換し、その2軸直流電流値を減算器11へ出力する。
【0031】
前記電流制御器6には磁束オブザーバ8が接続されている。この磁束オブザーバ8は、電流制御器6の出力である2軸直流電圧指示値と、速度推定器9により予め求められ又は予め推定された回転子の速度とを用いて、N相ステッピングモータ1へ供給されている電流を推定するものである。この磁束オブザーバ8は減算器12に接続されて、推定電流を出力する。減算器12にはN相/AB座標変換器5が接続されており、前記磁束オブザーバ8からの推定電流から前記2軸直流電流値が減算される。この減算器12には速度推定器9が接続されており、速度推定器9には前記磁束オブザーバ8とともに積分器10が接続されている。速度推定器9は磁束オブザーバ8と積分器10とに推定速度を出力する。積分器10は、速度推定器9から入力された推定速度から推定位置を算出する。
【0032】
上記のような構成の装置において、N相ステッピングモータ1はインバータ3から交流電力が供給されて駆動される。このときモータに流れるモータ電流は、電流検出器2により検出される。また、電気角演算器7は外部から入力されたパルスを電気角に変換する。一方、N相/AB座標変換器5は、電流検出器2により検出されたモータ電流を、直交座標系(A軸、B軸)を座標軸においた直流へと変換する処理を行う。具体的には、N相/AB座標変換器5は、電気角演算器7により得られた電気角と電流検出器2により検出された電流検出値とを用いて2軸直流電流値に変換する。減算器11は、この2軸直流電流値と外部から入力された2軸直流電流指示値との偏差を求める。この偏差を用いて、電流制御器6は2軸直流電圧指示値を算出する。この2軸直流電圧指示値と電気角とを用いてAB/N相座標変換器4はN相交流電圧指示値を求めて、インバータ3へ出力する。これにより、N相ステッピングモータ1は、定電流マイクロステップ駆動(開ループ駆動)する。
【0033】
次に、N相ステッピングモータ1が定電流マイクロステップ駆動(開ループ駆動)している際の回転子の位置と速度を推定する流れについて述べる。まず、磁束オブザーバ8は、電流制御器6の出力である2軸直流電圧指示値と、速度推定器9により予め求められ又は予め推定された回転子の速度とを用いて、N相ステッピングモータ1へ供給されている電流を推定する。減算器12は、磁束オブザーバ8により推定された電流と2軸直流電流値との偏差を求める。この偏差の入力を受けて、速度推定器9は回転子の速度を推定する。速度推定器9に入力される偏差がゼロとなるまで、速度推定器9は回転子の速度を推定し、推定した速度を磁束オブザーバ8へ出力する。積分器10は、速度推定器9により得られた回転子の推定速度を積分して、回転子の位置を推定する。
【0034】
次に、N相ステッピングモータ1が3相ステッピングモータである場合の作用を説明する。3相ステッピングモータのαβ座標における状態方程式は次式で表される。
【数1】

【0035】
ただし、Rは電機子抵抗であり、Lは1相分のインダクタンスであり、ωは回転角速度である。φは固定子磁束であり、φαsはα軸の固定子磁束であり、φβsはβ軸の固定子磁束である。φは回転子磁束であり、φαrはα軸の回転子磁束であり、φβrはβ軸の回転子磁束である。vαsはα相の電圧であり、vβsはα相の電圧であり、iαsはα相の電流であり、iβsはβ相の電流である。
【0036】
次式で定義する磁束オブザーバを用いれば、制御入力と測定出力から状態変数を再現することができる。
【数2】

【0037】
ただし、行列Hはゲインであり、
【数3】

は回転子の推定速度であり、
【数4】

は固定子の推定磁束であり、
【数5】

は回転子の推定磁束であり、
【数6】

は3相ステッピングモータの推定電流である。
【0038】
dq座標の磁束オブザーバは次式で表される。
【数7】

【0039】
このときの3相ステッピングモータの推定電流と実電流との誤差は次式で求められる。
【数8】

【0040】
実電流と推定電流との誤差の未知パラメータは、回転子の推定速度
【数9】

と運転速度ωである。したがって、何らかの推定器を用いて電流誤差から推定速度
【数10】

を算出し、算出した推定速度
【数11】

を誤差ブロックにフィードバックさせることにより、速度誤差はゼロに収束する。まず、電流誤差ベクトルの差分をスカラー量に変換するため次式の演算を行う。
【数12】

【0041】
(5)式の分母を展開し整理し総磁束量で除算すると次式となる。
【数13】

【0042】
回転子の推定速度のパラメータ調整則をPI制御器とし、次式で推定する。
【数14】

【0043】
整理すると次式となる。
【数15】

【0044】
ステッピングモータでは回転子q軸磁束はゼロとする運転周波数を選択することで、推定q軸磁束はゼロとなる。(8)式は次式となる。
【数16】

この(9)式の計算は、速度推定器9によって行われる。
【0045】
次に運転速度ωを求める。(3)式の状態方程式最下段に注目する。
【数17】

【0046】
(10)式において、回転子推定q軸磁束をゼロとおき、運転速度ωについて解くと、次式となる。
【数18】

【0047】
速度推定器9が(9)式により算出した回転子の推定速度を積分器10が積分することで、回転子の位置を推定することができる。
【0048】
開ループ駆動時、2軸直流(AB軸)で電流制御を行い、電気角は入力パルスから作成する。電流ベクトルを基準とし、無負荷で開ループ駆動を行った場合のベクトル図を図2に示している。図中、iは電流ベクトルであり、φは磁束ベクトルであり、eは誘起電圧ベクトルであり、Vは電圧ベクトルであり、Rは電機子抵抗であり、ωは回転子の速度であり、Lは1相分のインダクタンスである。図2では電流ベクトルiをA軸と置いているが、電流ベクトルの位置をどこに置いても駆動可能である。
【0049】
速度と位置の推定を行う磁束オブザーバ8の入力であるdq軸電圧指示値は、開ループ駆動時のAB軸電圧指示値とする。
【0050】
開ループ電圧と磁束オブザーバ8のベクトル図を図3に示している。図中の誘起電圧ベクトルeを中心とする円は、モータのインピーダンスωLと推定電流ベクトル
【数19】

とによる電圧ベクトル
【数20】

の取りえる軌跡である。
【0051】
図3において、開ループ電圧ベクトルを、q軸成分が負となるVあるいはVとすると、開ループ電圧ベクトルV、Vのいずれも電圧ベクトルの軌跡とは一致しないため、回転子の位置と速度の推定は収束することができない。
【0052】
また、開ループ電圧ベクトルを、d軸成分及びq軸成分がともに正となるVとすると、位置と速度の推定結果は収束することができる。他方、図2のB軸と図3のq軸の向きが逆であり、さらにd軸に制御器が存在しないため、大きなd軸電流誤差Δidsを生じる。
【0053】
開ループ電圧ベクトルを、q軸成分が正となりd軸成分が負となるVとすると、位置と速度の推定結果は収束し、かつd軸の電流誤差Δidsも小さくなる。
【0054】
そこで、開ループ駆動時における磁束オブザーバ8の電圧ベクトルは、q軸成分を正とし、d軸成分を負とすると、推定電流は実電流と位相πの位置となる。
【0055】
したがって、開ループ駆動時は磁束オブザーバ8の入力となるd軸電圧指示値を負とし、q軸電圧指示値を正として、(3)式と(11)式とを演算する磁束オブザーバ8でモータ電流を推定する。推定した電流と実電流との偏差を用いて(9)式を演算する速度推定器9で速度を推定することで開ループ駆動時の回転子の位置を求めることができる。
【0056】
開ループで駆動中に上記の手法を用いて、3相ステッピングモータの回転子の位置を推定した結果を図4に示している。図4の横軸は時間(秒)を表しており、縦軸は電気角(πラジアン)を表している。そして、符号Xは回転子の実位置を示しており、符号Yは推定された回転子の位置を示している。この図4によれば、実位置Xに対し推定された位置Yは180度位相で検出されていることがわかる。
【0057】
上記のような構成の装置によれば、低速運転時のマイクロステップ駆動と高速運転時のセンサレス駆動との双方において、磁束オブザーバ8を用いて回転子の速度と位置を推定することができる。そして、推定された回転子の位置から回転子のトルクを推定することができる。加えて、N相ステッピングモータ1へ供給される電流も精度良く推定できる。
【0058】
図5は、本発明の他の実施形態を示したもので、同一部分は同符号を付して同一部分の説明は省略する。
【0059】
図5に示した装置では、電流制御器6と電流検出器2とに減算器11が接続されている。減算器11には乗算器13が接続されている。乗算器13には正弦波発生器14が接続されている。乗算器13は、外部から電流指示値の入力を受ける。正弦波発生器14には、外部からパルスを入力される電気角演算器7が接続されており、この電気角演算器7には、後述する第1のN相/AB座標変換器15と第2のN相/AB座標変換器16とに接続されている。
【0060】
15は第1のN相/AB座標変換器であり、第1のN相/AB座標変換器15は電気角演算器7とともに電流制御器6に接続されている。16は第2のN相/AB座標変換器であり、第2のN相/AB座標変換器16は電気角演算器7とともに電流検出器2に接続されている。第1のN相/AB座標変換器15には磁束オブザーバ8が接続されている。磁束オブザーバ8と第2のN相/AB座標変換器16には、磁束オブザーバ8からの推定電流と第2のN相/AB座標変換器16からの2軸直流電流値を減算する減算器12が接続されている。
【0061】
上記のような構成の装置において、電流制御は交流量により行われる。具体的には、電気角演算器7は外部から入力されたパルスを電気角に変換する。この電気角に基づいて正弦波発生器14は正弦波信号を乗算器13へ出力する。乗算器13は入力された正弦波信号と外部からの電流指示値とを乗算して交流電流指示値を求め、減算器11へ出力する。減算器11は、交流電流指示値と電流検出器2の出力である交流電流との偏差を算出する。この偏差を用いて、電流制御器6は電圧指示値を算出し、インバータ3へ出力する。このようにして、N相ステッピングモータ1は、定電流マイクロステップ駆動(開ループ駆動)する。
【0062】
N相ステッピングモータ1が定電流マイクロステップ駆動(開ループ駆動)している際の回転子の位置と速度を推定するために、まず、第1のN相/AB座標変換器15は、電流制御器6の出力である電圧指示値と電気角演算器7の出力である電気角とから2軸直流電圧指示値を求めて磁束オブザーバ8へ出力する。磁束オブザーバ8は、2軸直流電圧指示値と、速度推定器9により予め求められ又は予め推定された回転子の速度とから電流を推定する。第2のN相/AB座標変換器16は、電流検出器2により検出された交流電流と、電気角演算器7の出力である電気角とを2軸直流電流値へ変換して減算器12へ出力する。減算器12は、2軸直流電流値と磁束オブザーバ8により推定された電流との偏差を求めて速度推定器9へ出力する。速度推定器9は、入力された偏差から回転子の速度を推定する。速度推定器9に入力される偏差がゼロとなるまで、速度推定器9は回転子の速度を推定し、推定した速度を磁束オブザーバ8へ出力する。積分器10は、速度推定器9により得られた回転子の推定速度を積分して、回転子の位置を推定する。
【0063】
上記のような構成の装置によれば、交流量で電流制御を行った場合にも、低速運転時のマイクロステップ駆動と高速運転時のセンサレス駆動との双方において、磁束オブザーバ8を用いて回転子の速度と位置を推定することができる。そして、推定された回転子の位置から回転子のトルクを推定することができる。加えて、N相ステッピングモータ1へ供給される電流も精度良く推定できる。
【符号の説明】
【0064】
1 N相ステッピングモータ
2 電流検出器
3 インバータ
4 AB/N相座標変換器
5 N相/AB座標変換器
6 電流制御器
7 電気角演算器
8 磁束オブザーバ
9 速度推定器
10 積分器
11、12 減算器
13 乗算器
14 正弦波発生器
15 第1のN相/AB座標変換器
16 第2のN相/AB座標変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータからステッピングモータに供給されるモータ電流を電流検出器が検出し、
外部から入力されるパルス入力を電気角に変換し、
前記電流検出器により検出されたモータ電流と前記電気角とを2軸直流電流値に変換し、
前記2軸直流電流値と外部からの電流指示値との偏差から2軸直流電圧指示値を算出し、
前記2軸直流電圧指示値と予め求められ又は予め推定された前記ステッピングモータの回転子の速度とを用いて、前記モータ電流を磁束オブザーバが推定し、
前記磁束オブザーバにより推定されたモータ電流と前記2軸直流電流値との偏差から前記回転子の速度を推定し、
推定された前記回転子の速度を積分して該回転子の位置を推定することを特徴とするステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する方法。
【請求項2】
インバータからステッピングモータに供給されるモータ電流を電流検出器が検出し、
外部から入力されるパルス入力を電気角に変換し、
前記電気角から得られた正弦波信号と外部からの電流指示値とを乗算して交流電流指示値を求め、
前記交流電流指示値と前記電流検出器により検出されたモータ電流との偏差から電圧指示値を算出し、
前記電圧指示値と前記電気角を2軸直流電圧指示値に変換し、
前記2軸直流電圧指示値と予め求められ又は予め推定された前記ステッピングモータの回転子の速度とを用いて、磁束オブザーバが前記モータ電流を推定し、
前記電流検出器により検出されたモータ電流と前記電気角とを2軸直流電流値に変換し、
前記磁束オブザーバにより推定されたモータ電流と前記2軸直流電流値との偏差から前記回転子の速度を推定し、
推定された前記回転子の速度を積分して該回転子の位置を推定することを特徴とするステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する方法。
【請求項3】
前記磁束オブザーバがd軸電圧を負数とし、q軸電圧を正数として前記モータ電流を推定することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
推定された前記回転子の位置及び速度を、前記ステッピングモータのマイクロステップ駆動時の制御に用いることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
インバータからステッピングモータに供給されるモータ電流を検出する電流検出器と、
外部から入力されるパルス入力を電気角に変換する電気角演算器と、
前記電流検出器により検出されたモータ電流と前記電気角とを2軸直流電流値に変換するN相/AB座標変換器と、
前記2軸直流電流値と外部からの電流指示値との偏差から2軸直流電圧指示値を算出する電流制御器と、
前記2軸直流電圧指示値と予め求められ又は予め推定された前記ステッピングモータの回転子の速度とを用いて、前記モータ電流を推定する磁束オブザーバと、
前記磁束オブザーバにより推定されたモータ電流と前記2軸直流電流値との偏差から前記回転子の速度を推定する速度推定器と、
推定された前記回転子の速度を積分して該回転子の位置を推定する積分器と
を備えたことを特徴とするステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する装置。
【請求項6】
インバータからステッピングモータに供給されるモータ電流を検出する電流検出器と、
外部から入力されるパルス入力を電気角に変換する電気角演算器と、
前記電気角から得られた正弦波信号と外部からの電流指示値とを乗算して交流電流指示値を求める乗算器と、
前記交流電流指示値と前記電流検出器により検出されたモータ電流との偏差から電圧指示値を算出する電流制御器と、
前記電圧指示値と前記電気角を2軸直流電圧指示値に変換する第1のN相/AB座標変換器と、
前記2軸直流電圧指示値と予め求められ又は予め推定された前記ステッピングモータの回転子の速度とを用いて、前記モータ電流を推定する磁束オブザーバと、
前記電流検出器により検出されたモータ電流と前記電気角とを2軸直流電流値に変換する第2のN相/AB座標変換器と、
前記磁束オブザーバにより推定されたモータ電流と前記2軸直流電流値との偏差から前記回転子の速度を推定する速度推定器と、
推定された前記回転子の速度を積分して該回転子の位置を推定する積分器と
を備えたことを特徴とするステッピングモータの回転子の位置及び速度を推定する装置。
【請求項7】
前記磁束オブザーバがd軸電圧を負数とし、q軸電圧を正数として前記モータ電流を推定することを特徴とする請求項5又は6に記載の装置。
【請求項8】
推定された前記回転子の位置及び速度を、前記ステッピングモータのマイクロステップ駆動時の制御に用いることを特徴とする請求項7に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−239518(P2011−239518A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107091(P2010−107091)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行者名〕 日本AEM学会 〔刊行物名〕 第18回MAGDAコンファレンスin東京 電磁現象及び電磁力に関するコンファレンス講演論文集 〔発行年月日〕 平成21年11月19日
【出願人】(000103792)オリエンタルモーター株式会社 (150)
【Fターム(参考)】