説明

ステッピングモータ駆動制御装置及びステッピングモータ駆動制御方法

【課題】ステッピングモータの駆動方法を切り替えることにより、複雑な励磁シーケンス等を用いずにステッピングモータを効率よく駆動すると共に、前記駆動方法の切替時における過渡現象を抑制して安定した駆動を実現することを目的とする。
【解決手段】本発明は、マイクロステップ駆動とセンサレス駆動とを切り替えてステッピングモータ2を制御するステッピングモータ駆動制御装置1である。該装置1は、負荷推定器11によってマイクロステップ駆動時の負荷を推定し、該推定した負荷の値を用いて、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動に切り替えたときに前記負荷の値に見合った電流がステッピングモータ2に流れるように、ステッピングモータ2の駆動を制御している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステッピングモータ駆動制御装置及びステッピングモータ駆動制御方法に関し、特に、複数の駆動方法を選択的に切り替えて実行するように制御するステッピングモータ駆動制御装置及びステッピングモータ駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステッピングモータの駆動方法としては、定電流マイクロステップ駆動が一般的に知られている。しかしながら、この駆動方法では負荷に因らず一定電流を流してモータを駆動するため、効率が悪いという問題があった。そこで、効率の良い制御を行なうために、センサレス制御を適用することが考えられている。センサレス制御とは、回転子位置及び/又は速度を検出するセンサ(位置検出センサ、回転速度センサ等)を用いないで実行するモータ駆動制御方法である。ステッピングモータのモータモデルは一般の同期電動機のモデルと同一である。したがって、同期電動機全般に提案されているセンサレス制御を適用することができる。
【0003】
センサレス制御を利用したステッピングモータの駆動方法としては、例えば特許文献1が挙げられる。特許文献1の制御方法においては、低速領域ではオープンループ制御とし、高速領域ではステッピングモータ内に生成される逆起電力をドライバからの電圧と電流により算出し、この算出された逆起電力を利用してロータとステータの位置関係を求め、この位置関係を利用してロータの位置を制御するクローズドループ制御を採用している。
【0004】
特許文献2に開示された駆動制御装置では、ステッピングモータの回転速度を基準値と比較し、基準値より低いときはオープンループによる駆動系統を選択し、基準値より高いときはクローズドループによる駆動系を選択するように構成されている。
【0005】
特許文献3に開示された駆動制御装置は、チョッパオフ直後に開放相のスイッチング素子を短期間オンさせ、スイッチング素子の出力静電容量を速やかに充放電するように構成されている。
【特許文献1】特開平9−322592号公報
【特許文献2】特開平5−103500号公報
【特許文献3】特開平10−42594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1〜3に開示されたステッピングモータの駆動制御においては、それぞれ次のような問題点がある。特許文献1及び特許文献2に開示された駆動制御装置では、モータが負荷を負った場合に、オープンループ制御とクローズドループ制御とを切り替えると、切替時に大きな過渡現象が生じてしまう。また、特許文献3に開示された駆動制御では、複雑な励磁シーケンスを用いて逆起電力を検出する必要がある。
【0007】
これらの従来技術の問題点に鑑みて、本発明の目的は、ステッピングモータの駆動方法を切り替えることにより、複雑な励磁シーケンス等を用いずにステッピングモータを効率よく駆動すると共に、前記駆動方法の切替時における過渡現象を抑制して安定した駆動を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、マイクロステップ駆動とセンサレス駆動とを切り替えてステッピングモータを制御するステッピングモータ駆動制御装置であって、前記ステッピングモータに流れる実電流を検出する電流検出器と、前記センサレス駆動を実行するために、位置指示と前記検出した実電流に基づいて、前記ステッピングモータの各相に流す駆動電流を決定するためのセンサレス駆動指令を形成するセンサレス制御手段と、前記マイクロステップ駆動時における前記ステッピングモータの負荷を推定して第1の負荷推定値を得る負荷推定器とを備え、前記センサレス制御手段は、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動に切り替えたときに、前記推定した負荷に見合う前記駆動電流を決定するための前記センサレス駆動指令を前記第1の負荷推定値を用いて形成するように構成されている。
【0009】
上記ステッピングモータ駆動制御装置は、前記位置指示に基づいて速度指示を形成する速度指示器をさらに備え、前記センサレス制御手段は、前記速度指示と前記実電流に基づいて推定された推定速度との偏差にPI補償を施すことによって得られるトルク分電流指示を用いて前記センサレス駆動指令を形成するように、かつ前記センサレス駆動に切り替えたときに、前記第1の負荷推定値を用いて前記PI補償のための積分要素の初期値を設定するように構成してもよい。
【0010】
また、前記マイクロステップ駆動を実行するために、前記位置指示に基づいて、前記ステッピングモータの各相に流す駆動電流を決定するためのマイクロステップ駆動指令を形成するマイクロステップ制御手段を備え、前記センサレス制御手段は、前記センサレス駆動時における前記ステッピングモータの負荷を推定して第2の負荷推定値を算出し、前記マイクロステップ制御手段は、前記センサレス駆動からマイクロステップ駆動に切り替えたときに、前記推定したセンサレス駆動時の負荷に見合う前記駆動電流を決定するための前記マイクロステップ駆動指令を形成するように構成してもよい。
【0011】
さらに、前記位置指示に基づいて電気角指示を形成する電気角指示器をさらに備え、該電気角指示器は、センサレス駆動からマイクロステップ駆動に切り替えたときに、前記第2の負荷推定値を用いて電気角指示を形成し、前記マイクロステップ制御手段は、前記電気角指示に基づいて、前記マイクロステップ駆動指令を形成するように構成してもよい。
【0012】
例えば、前記センサレス制御手段は、予め設定され又は算出された推定励磁分電流指示と、前記トルク分電流指示と、前記実電流に基づいて推定された推定電気角とに基づいて、前記センサレス駆動指令を形成する。
【0013】
一例として、前記センサレス制御手段は、速度・電気角推定器を備え、速度・電気角推定器は、前記実電流とモータモデルから算出された推定電流との差分から前記推定速度と前記推定電気角を算出する。
【0014】
他の例として、前記センサレス制御手段は、電流制御器と適応オブザーバを備え、前記電流制御器は、前記実電流から算出されたdq軸電流と、前記推定励磁分電流指示と、前記トルク分電流指示とからdq軸電圧指示を形成し、前記適応オブザーバは、前記dq軸電流と前記dq軸電圧指示とから前記推定速度と前記推定電気角を算出する。
【0015】
さらに、前記位置指示と前記推定電気角とを比較して、両者の偏差を算出する位置誤差調整器を備え、前記電気角指示器は、前記センサレス駆動からマイクロステップ駆動に切り替えたときに、前記偏差を前記位置指示に加算して、該偏差を加算した位置指示と前記第2の負荷推定値とから前記電気角指示を形成するように構成してもよい。
【0016】
また、本発明は、マイクロステップ駆動とセンサレス駆動とを切り替えてステッピングモータを制御するステッピングモータ駆動制御方法であって、前記ステッピングモータに流れる実電流を検出する電流検出ステップと、前記センサレス駆動を実行するために、位置指示と前記検出した実電流に基づいて、前記ステッピングモータの各相に流す駆動電流を決定するためのセンサレス駆動指令を形成するセンサレス制御ステップと、前記マイクロステップ駆動時における前記ステッピングモータの負荷を推定して第1の負荷推定値を得る第1の負荷推定ステップとを含み、前記センサレス制御ステップは、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動に切り替えたときに、前記推定した負荷に見合う前記駆動電流を決定するための前記センサレス駆動指令を前記第1の負荷推定値を用いて形成するステップを含む。
【0017】
上記ステッピングモータ駆動制御方法は、前記マイクロステップ駆動を実行するために、前記位置指示に基づいて、前記ステッピングモータの各相に流す駆動電流を決定するためのマイクロステップ駆動指令を形成するマイクロステップ制御ステップと、前記センサレス駆動時の前記ステッピングモータの負荷を推定して第2の負荷推定値を得る第2の負荷推定ステップとを含み、前記マイクロステップ制御ステップは、前記センサレス駆動からマイクロステップ駆動に切り替えたときに、前記推定したセンサレス制御時の負荷に見合う前記駆動電流を決定するための前記マイクロステップ駆動指令を形成するように構成してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るステッピングモータ駆動制御装置及びステッピングモータ駆動制御方法では、マイクロステップ駆動とセンサレス駆動とを切り替えてステッピングモータを制御する。マイクロステップ駆動は、一般的にすべての回転速度領域において有効ではなく低速領域において優位性が高いという性質がある。一方、センサレス駆動は、一般的にステッピングモータの停止時及び低速領域よりも中・高速領域において優位性が高いという性質がある。
【0019】
本発明では、複雑な励磁シーケンス等を用いずに、マイクロステップ駆動とセンサレス駆動とを切り替えてステッピングモータを制御するため、停止時及び低速領域においてマイクロステップ駆動を実行し、中・高速領域においてセンサレス駆動を実行することによって、精度が高く効率の良い制御を行なうことが可能となっている。
【0020】
さらに、本発明は、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動に切り替えたときに、マイクロステップ駆動時におけるステッピングモータの負荷を推定して得られた負荷推定値を用いて、モータ駆動電流を決定するためのセンサレス駆動指令を形成している。したがって、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動に切り替えた瞬間及び直後において、前記センサレス駆動指令にマイクロステップ駆動時の負荷推定値が反映されるため、マイクロステップ駆動時の負荷に見合う電流が前記ステッピングモータに流れる。したがって、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動に切り替えたときに生じる速度変動等の過渡現象を抑制して安定した駆動を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の第1の実施形態を添付の図により説明する。図1に本実施形態に係るステッピングモータ駆動制御装置の回路図を模式的に示す。ステッピングモータ駆動制御装置1は、外部から与えられた位置指示θに基づいてN相HB形ステッピングモータ2の回転子位置制御を実行している。この位置制御に際しては、マイクロステップ駆動とセンサレス駆動とが選択的に切り替えられて実行される。本実施形態において、ステッピングモータ駆動制御装置1は、ステッピングモータ2の停止時と低速領域においてマイクロステップ駆動を実行し、中・高速領域においてセンサレス駆動を実行するように構成されている。
【0022】
まず、停止時はマイクロステップ駆動で位置を保持し、位置指示θが入力されると、マイクロステップ駆動で始動する。その後、速度が中高速になると、位置指示θを入力とする駆動方法切替器3によりセンサレス駆動に駆動方法を切り替える。停止位置に近づくと、ステッピングモータ2は減速し、低速となったところで駆動方法切替器3によってマイクロステップ駆動に切り替え、停止位置で停止する。
【0023】
マイクロステップ駆動とセンサレス駆動を切り替える基準値である速度閾値は予め設定されている。駆動方法切替器3は、位置指示θから速度を算出し、算出した速度と予め設定された速度閾値とを比較して、マイクロステップ駆動を実行するか、センサレス駆動を実行するかを判定して、切替信号を出力し、スイッチ4を介してマイクロステップ駆動とセンサレス駆動とを切り替えている。
【0024】
[センサレス駆動時]
定常状態におけるセンサレス駆動について以下に説明する。
速度指示器5は位置指示θから速度指示ωを算出してセンサレス制御部6に出力する。センサレス制御部6は、速度指示ωと、ステッピングモータ2に流れている実電流iとに基づいて、センサレス駆動用指令VsNを算出して、PWMインバータ7に出力する。ステッピングモータ2に流れている実電流iは、電流検出器8で検出される。前記センサレス駆動用指令VsNは、ステッピングモータ2の各相に流す駆動電流を決定するための指令値である。
【0025】
本実施形態おけるセンサレス制御部6は、定常状態においてセンサレス制御を行なってセンサレス駆動用指令VsNを形成する手段であればよく、特定のセンサレス制御を行なう手段に限定されるものではない。
【0026】
センサレス制御部6の一例を以下に簡単に説明する。センサレス制御部6は、(図示しない)PI制御器を有する速度制御器を備えている。この速度制御器は、速度指示器5から出力された速度指示と実電流iに基づいて推定された推定速度との差分を算出し、該差分に対してPI制御を行ない、トルク分電流指示を形成する。センサレス制御部6は、形成されたトルク分電流指示と、予め設定され又は算出された推定励磁分電流指示と、実電流iに基づいて推定された推定電気角とから、前記センサレス駆動用指令VsNを算出して、PWMインバータ7に出力する。PWMインバータ7は前記センサレス駆動用指令VsNを電力増幅し、ステッピングモータ2をセンサレス駆動する。
【0027】
なお、センサレス制御部6は、センサレス駆動を実行している間、センサレス駆動時の負荷の値を示す負荷推定値Tを算出している。この負荷推定値は後述のようにセンサレス駆動からマイクロステップ駆動への切替時において、駆動制御に用いられる。該負荷推定値Tsの算出については、後の[センサレス駆動からマイクロステップ駆動への切替時]において詳述する。
【0028】
[マイクロステップ駆動時]
定常状態におけるマイクロステップ駆動について以下に説明する。入力された位置指示θから電気角指示器9が電気角指示θを算出する。電気角指示θはステッピングモータ2の励磁電気角を指示する値である。マイクロステップ制御部10は、算出された電気角指示θと電流検出器8によって検出したステッピングモータ2の実電流iと外部から与えられたマイクロステップ電流指示(マイクロステップ駆動用設定電流値)に基づいて、マイクロステップ駆動用指令VmNを形成して出力する。マイクロステップ駆動用指令VmNは、ステッピングモータ2の各相に流す駆動電流を決定するための指令値である。算出されたマイクロステップ駆動用指令VmNは、PWMインバータ7に出力され、PWMインバータ7はマイクロステップ駆動用指令VmNを電力増幅し、ステッピングモータ2をマイクロステップ駆動する。
【0029】
なお、負荷推定器11は、マイクロステップ駆動を実行している間、マイクロステップ駆動時の負荷の値を示す負荷推定値Tを算出している。この負荷推定値Tは後述のようにマイクロステップ駆動からセンサレス駆動への切替時において、駆動制御に用いられる。該負荷推定値Tの算出については、後の[マイクロステップ駆動からセンサレス駆動への切替時]において詳述する。
【0030】
[マイクロステップ駆動からセンサレス駆動への切替時]
以下に、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動へ切り替えるときのステッピングモータ駆動制御装置1の動作について説明する。
ステッピングモータの駆動において、負荷のない場合には、マイクロステップ駆動とセンサレス駆動の両駆動方式における電気角を合致させて切り替えを行うことで、速度変動のない切り替え動作を行うことが出来る。しかしながら、負荷がある場合には、過渡現象として速度変動が生じる。特にマイクロステップ駆動からセンサレス駆動に切り替える場合には大きな速度変動を生じ、場合によっては制御不能となる。
【0031】
多くのセンサレス制御は、積分器を備えた速度制御器を用いて、要求トルクに応じた電流を流すように電流を制御する。駆動方法切り替え時点ではセンサレス駆動を行っていないため、切替時のトルク分電流指示は、速度制御器における積分器の初期値によって決定される。すなわち、積分器の初期値がゼロに設定されている場合、切替時のトルク分電流指示はゼロになる。したがって、有負荷の場合、負荷に見合ったトルク分電流指示が形成されるまでに速度変動が生じる。
【0032】
図3は、ステッピングモータが負荷を負った場合における、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動へ切り替えたときの時間と速度の関係を示す実験結果である。
図3においては、時間0の時点でマイクロステップ駆動からセンサレス駆動に切り替わっている。図3から明らかなように、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動に切り替えた直後から0.4秒を超える間において大きな速度変動が生じている。
【0033】
そこで、本発明においては、マイクロステップ駆動時の定常状態の負荷を推定し、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動へ切り替えたときに、推定した負荷に見合った電流がステッピングモータに流れるように制御を行なうことによって、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動への切替時における速度変動を抑制している。
【0034】
本実施形態では、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動に切り替えたときに、マイクロステップ駆動時の負荷に見合った積分初期値を速度制御器の積分器に設定することによって、前記負荷に見合った電流がステッピングモータに流れるように制御している。
【0035】
先に述べたようにマイクロステップ駆動時の負荷の値を示す負荷推定値Tは、マイクロステップ駆動時に負荷推定器11によって算出される。
図2に負荷推定器11の回路図を模式的に示す。以下、図2を参照して負荷Tの算出方法を説明する。ステッピングモータ2の発生トルクTは鎖交磁束数φと電流Iと磁束位置(回転子位置)θreと励磁位置(励磁電気角)θから次式で求めることが出来る。
【数1】

鎖交磁束数φはモータ定数、電流Iは相電流のピーク値であって、予め設定値として与えられている。励磁位置θは電気角指示θに対応する指示値であるため既知である。したがって、磁束位置(回転子位置)θreを推定できれば、負荷T(発生トルクT)を推定することが出来る。
【0036】
負荷推定器11に備えられた誘起起電圧推定演算装置20は、電流検出器8で検出した実電流iとマイクロステップ駆動指令VmNから各相の誘起起電圧eを推定する。誘起起電圧推定演算装置20には、N相2相変換装置21が接続されている。N相2相変換装置21は、推定された各相の誘起起電圧eを2相交流に変換して誘起起電圧eα、eβを求める。
【0037】
負荷推定器11は、さらに、sin関数発生器22とcos関数発生器23とを備えている。sin関数発生器22は、あらかじめ求め又は推定しておいた回転子位置推定電気角θestreを入力としてsinθestreを算出する。乗算器24は、算出されたsinθestreと推定した2相交流誘起起電圧の1相分eβとを入力として乗算を行う。
【0038】
同様に、cos関数発生器23は、あらかじめ求め又は推定しておいた回転子位置推定電気角θestreを入力としてcosθestreを算出する。乗算器26は、算出したcosθestreと推定した2相交流誘起起電圧の1相分eαとを入力として乗算を行う。ここで求めたeβ×sinθestreとeα×cosθestreとの値を減算器25に入力して、その差であるeα×cosθestre−eβ×sinθestreを求める。
【0039】
求めたeα×cosθestre−eβ×sinθestreを第1の増幅器27に入力して、これを増幅する。第1の増幅器27で増幅した出力を第1の積分器28に入力して積分する。該第1の積分器28により積分した出力結果を、さらに第2の積分器29に入力して積分するとともに、前記第1の積分器28からの出力を、前記第2の積分器29に並列に接続される前記第2の増幅器30に入力して増幅する。そして第2の積分器29からの積分結果と第2の増幅器30からの増幅結果とを、加算器31に入力して積分出力と増幅出力とを加算する。
【0040】
加算器31からの算出出力θestreをステッピングモータ2の回転子の推定位置にすると共に、該算出出力を、前記あらかじめ求められ又は推定されて入力された回転子位置に代えるように、sin関数発生器22とcos関数発生器23にフィードバックして、繰り返し演算する。
【0041】
この動作を繰り返すことにより、前記加算器31からの算出出力をステッピングモータ2の推定される回転子位置θestreとしている。負荷推定値算出部32は、推定された回転子位置θestreと電気角指示器9から出力された電気角指示(励磁電気角)θとを入力としてマイクロステップ駆動時の負荷推定値Tを算出する。
【0042】
次に、上記に説明した負荷推定器11の作用を数式を用いてより詳細に説明する。
各相の印加電圧をV、電流をI、誘起起電圧をE、インピーダンスをZとおけば、N相ステッピングモータの電流電圧方程式は次式となる。
【0043】
【数2】

ここで、V、I、EはN列の行列、ZはN行N列の行列である。
電圧Vにはマイクロステップ駆動指令VmNを、電流Iには電流検出器8で検出した実電流iを、N相ステッピングモータのインピーダンスZにはあらかじめ測定しておいた値(各相のインダクタンス値と抵抗値)を用いれば、誘起起電圧Eは次式から求められる。
【0044】
【数3】

この計算を行う部分を誘起起電圧推定演算装置20とする。求めた誘起起電圧の推定値を2相交流に変換する。例えば、3相交流を2相交流に変換する変換行列cは次式となる。
【0045】
【数4】

対象となるモータが3相であった場合は上式を用いる。相数により変換行列を変更する。N相2相変換装置21は、誘起起電圧推定演算装置20で求めたN相の誘起起電圧推定結果を変換行列で2相交流に変換し、2相交流の誘起起電圧の瞬時値を算出する。
【0046】
次に、推定した誘起電圧情報から位置情報を得る方法を説明する。
前記誘起電圧eα、eβを誘起させる、界磁のα、β相の電機子巻線鎖交磁束数ψfα、ψfβは、その最大値をψ′とすると次式で表される。
【数5】

【0047】
ここで、θreは、α相電機子巻線を基準として時計回りに取った界磁の角度(電気角)であり、ωreを電気角速度とすると次式で表される。
【数6】

このときの各相の誘起電圧eα、eβは次式となる。
【数7】

【0048】
ステッピングモータ2の回転子の推定位置演算結果θestreの正弦(sin)値及び余弦(cos)値を求め、それぞれの値と誘起電圧eα、eβとを乗算すると次式となる。
【数8】

この計算を行う部分は、sin関数発生器22、cos関数発生器23及び乗算器24,26である。
【0049】
前記(10)式から前記(11)式を減算すると次式となる。
【数9】

ここで、θestre≒θreであれば、次式の関係が成り立つ。
【数10】

【0050】
前記(13)式を前記(12)式に代入すると次式となる。
【数11】

前記(14)式は、推定結果θestreと実測値θreの偏差に比例した値となることが分かる。この計算を行う部分が減算器25である。
【0051】
すなわち、図2における減算器25からの出力結果は、θre−θestreの計算を行ったこととなる。そこで、第1の増幅器27の増幅率をA1、第2の増幅器30の増幅率をA2、第1、第2の積分器27,28の伝達関数を1/sとおき、図2における誘起起電圧推定演算装置20以後の伝達関数を求めると次式となる。
【数12】

前記(15)式は、ステッピングモータ2の回転子の推定位置θestreと実位置θreとは、時間∽(無限大)で一致するトラッキングフィルタとなっていることを示している。
【0052】
また、前記回転子の推定位置を、所望のダンピングファクタや固有振動数の応答で求めようとするために、前記第1の増幅器27の増幅率A1、前記第2の増幅器30の増幅率A2を設定することができる。
【0053】
負荷推定値算出部32は(図示しない)減算器で、推定された回転子位置(電気角)θestreと電気角指示器9から出力された電気角指示(励磁電気角)θとの差を算出する。ここで、求めた回転子推定位置θestreは、α相電機子巻線を基準として時計回りに取った誘起電圧の電気角の推定結果である。従って、界磁位置は90゜進んだ角度となる。したがって、前記減算器で算出された差にπ/2を(図示しない)加算器で加算して、負荷角θ−θreを推定する。
【0054】
負荷推定値算出部32は、推定した負荷角θ−θreと予め設定されている相電流のピーク電流値iとモータ定数φから前記(1)式を用いて負荷推定値Tを算出する。負荷推定器11は、前述のように、前記(15)式によって表されるトラッキングフィルタによって推定された回転子位置を用いて負荷推定値Tを算出している。該トラッキングフィルタは高周波成分をカットするフィルタ機能を有しているため、負荷推定器11による負荷推定値Tの算出に際して、検出ノイズによる負荷推定値の変動を除去することができる。
【0055】
マイクロステップ駆動からセンサレス制御に切り替えられると、センサレス制御部は、負荷推定値算出部32で推定された負荷推定値Tを取得して、速度制御器に備えられた積分器の初期値を負荷推定値Tに見合う値に設定する。ここで、負荷推定値Tは、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動へ切り替えられる直前に算出された負荷推定値Tである。前記積分初期値は、負荷推定値Tをトルク定数で除算して電流に換算し、さらに制御ゲインで除算することにより決定される。
【0056】
このように、速度制御器の積分器の初期値をマイクロステップ駆動時の負荷の値に見合う値に設定することによって、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動へ切り替えた瞬間及び直後にマイクロステップ駆動時の負荷に見合う電流がステッピングモータに流れるように制御され、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動へ切り替えたときの速度変動を抑制することができる。
【0057】
図4は、ステッピングモータ駆動制御装置1において、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動へ切り替えたときの時間と速度の関係を示す実験結果である。
図4からも明らかなように、本実施形態においては、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動へ切り替えたときの過渡現象が抑制されて、切替時の速度変動はほとんど生じていない。
【0058】
[センサレス駆動からマイクロステップ駆動への切替時]
センサレス駆動からマイクロステップ駆動への切替時においては、電気角指示器9が、センサレス駆動時におけるモータ2の負荷の値を示す負荷推定値Tを、センサレス制御部6から取得し、該推定負荷値Tと入力された位置指示θとに基づいて、該推定負荷値Tに見合う電流をステッピングモータ2に流すように電気角指示θを形成する。
【0059】
センサレス制御では、一般的にオブザーバやモータ逆モデルを使用して磁束位置を推定し、推定した磁束位置に基づいてトルク分電流の大きさを制御している。したがって、センサレス制御部6は、トルク定数とトルク分電流から負荷推定値Tを算出している。
【0060】
センサレス駆動からマイクロステップ駆動への切替時に、電気角指示器9が取得する負荷推定値Tは、センサレス駆動からマイクロステップ駆動へ切り替えられる直前にセンサレス制御部6で算出された負荷推定値Tである。
【0061】
上記のように、センサレス駆動からマイクロステップ駆動へ切り替えられるときに、推定負荷値Tに見合う電流がステッピングモータ2に流れるため、センサレス駆動からマイクロステップ駆動への切替時における速度変動を抑制することができる。
【0062】
以上に説明したように、本実施形態では、マイクロステップ駆動とセンサレス駆動とを選択的に切り替えることによって効率の良い位置制御を実現すると共に、マイクロステップ駆動とセンサレス駆動とを切り替えるときに、それぞれ切替前の負荷の値に見合う電流をステッピングモータ2に流すように制御しているため、切替時の速度変動を抑制して安定した制御を実現している。
さらに、負荷推定器11における負荷推定方法として、前述の方法を実行しているため、モータに検出巻線等を用いないので、特別なモータを必要としない。また検出巻線等を使わないので、特別な検出回路を必要とせず、CPUで演算が可能である。
【0063】
[第2の実施形態]
図5に第2の実施形態を示す。ステッピングモータ駆動制御装置40は、第1の実施形態と同様に、N相HB形ステッピングモータ39の停止時と低速領域においてマイクロステップ駆動を実行し、中・高速領域においてセンサレス駆動を実行するように構成されている。駆動方法の切替は、第1の実施形態と同様に、駆動方法切替器42によって実行される。駆動方法切替器42から出力された切替信号に応じてスイッチ43,44が切り替えられることによって、上記駆動方法が切り替えられる。図5においては、スイッチ43,44はマイクロステップ駆動を選択している。
【0064】
速度指示器45に接続された減算器46、速度制御器47、電流制御器48、モータモデル49、速度・電気角推定器50及び座標変換器51は、第1の実施形態におけるセンサレス制御部6に対応する。電気角指示器52に接続された座標変換器53、減算器54、電流制御器55は、第1の実施形態におけるマイクロステップ制御部10に対応する。負荷推定器56は、第1の実施形態における負荷推定器11と同様の処理を実行する。
【0065】
定常状態におけるセンサレス駆動では、位置指示θを入力とする速度指示器45から出力された速度指示ωと、電流検出器41によって検出された実電流iに基づいて推定された推定速度とが減算器46に入力されて、速度指示ωと推定速度との差分が速度制御器47に入力される。速度制御器47は、PI制御器を備え、入力された差分に対してPI制御を行なってトルク分電流指示として電流制御器48に出力する。
【0066】
電流制御器48は、予め設定され又は算出された推定励磁分電流指示とトルク分電流指示とから、dq軸電圧指示Vdqsをスイッチ43を介して座標変換器58に出力する。座標変換器58には、さらに、電流検出器41によって検出された実電流iに基づいて算出された推定電気角がスイッチ44を介して入力される。
【0067】
座標変換器58は、dq軸電圧指示Vdqsと推定電気角とを入力としてdq−3相変換を実行し、センサレス駆動用指令VsNをPWMインバータ59に出力する。PWMインバータ59はセンサレス駆動用指令VsNを電力増幅し、ステッピングモータ2をセンサレス駆動する。
【0068】
前記推定速度及び前記推定電気角は、速度・電気角推定器50によって算出される。速度・電気角推定器50には、モータモデル49から取得されたモデル電流と、座標変換器51を介して軸変換された実電流とが入力される。モータモデル49は、モータの数学モデルであって、電圧速度から電流値を推定するものである。座標変換器51は、電流検出器41によって検知された相電流とフィードバックされた推定電気角を入力として3相−dq変換を実行して励磁分電流とトルク分電流とを算出し、速度・電気角推定器50に出力している。
【0069】
速度・電気角推定器50はモデル電流と実電流(3相−dq変換された前記励磁分電流とトルク分電流)との差分(誤差)から速度及び電気角を算出して、推定速度及び前記推定電気角を出力している。
【0070】
定常状態におけるマイクロステップ駆動では、電気角指示器52が位置指示θを入力として電気角指示(励磁電気角)θを出力する。座標変換器53は電気角指示θと電流検出器41によって検出された実電流iとを入力として3相−dq変換を実行して直流電流を算出し、該直流電流を減算器54に出力する。減算器54は、入力されたマイクロステップ電流指示と前記直流電流との差分を算出して電流制御器55に出力する。電流制御器55は、入力値に対してPI制御を行なって、dq軸電圧指示Vdqmを出力する。
【0071】
出力されたdq軸電圧指示Vdqmはスイッチ43を介して座標変換器58に出力される。座標変換器58には、さらに、電気角指示器52から出力された電気角指示θがスイッチ44を介して入力される。座標変換器58はdq軸電圧指示Vdqmと電気角指示θとを入力としてdq−3相変換を実行し、マイクロステップ駆動用指令VmNをPWMインバータ59に入力する。PWMインバータ59はマイクロステップ駆動用指令VmNを電力増幅し、ステッピングモータ39をマイクロステップ駆動する。
【0072】
マイクロステップ駆動からセンサレス駆動に切り替わるときには、第1の実施形態と同様に、負荷推定器56で推定された推定負荷値Tに見合った積分初期値が速度制御器47の積分器に設定される。したがって、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動に切り替わるときの速度変動を抑制することができる。なお、本実施形態では、モータ逆モデルを用いてdq軸電圧指示Vdqsを算出しているため、電流制御器48おいてPI制御器を設ける必要がない。よって、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動に切り替えるときに電流制御器48において積分初期値を設定する必要はない。
【0073】
センサレス駆動からマイクロステップ駆動に切り替わるときには、センサレス駆動時の負荷の値を示す負荷推定値Tが速度制御器47から電気角指示器52に出力される。速度制御器47は前記速度指示ωと推定速度との差分に基づいて算出したトルク分電流に対して、予め与えられているモータ定数を乗じて負荷推定値Tを算出している。
【0074】
電気角指示器52には、さらに位置指示θが入力される。この位置指示θは、前記マイクロステップ駆動に切り替わる際に位置誤差調整器57にも入力される。以下、位置誤差調整器57について説明する。速度・電気角推定器50で推定された推定電気角が位置誤差調整器57に入力される。位置誤差調整器57は、推定電気角と位置指示θとを入力として両者の偏差を算出し、該偏差を電気角指示器52に出力する。電気角指示器52は入力された偏差を位置指示θに加算する。電気角指示器52は、前記偏差を加算した位置指示θと負荷推定値Tとから、センサレス駆動時の負荷に見合う電流がモータ39に流れるように、電気角指示(励磁電気角)θを形成して、座標変換器53に出力している。
【0075】
前記位置誤差調整器57は、速度制御系であるセンサレス駆動と位置制御系であるマイクロステップ駆動とを切り替えるときに生じる演算誤差を解消する目的を有している。すなわち、センサレス駆動では、速度指示器45を介して位置指示θから速度指示ωを算出する等、位置と速度の変換を実行している。したがって、このような変換の過程で生じた演算誤差によって速度指示と位置指示の整合がとれなくなる可能性がある。
【0076】
そこで、位置誤差調整器57は、速度指示と位置指示の整合をとるために、入力された推定電気角と入力された位置指示θとの偏差を算出して、電気角指示器52に出力している。そして、電気角指示器52は該偏差を位置指示θに加算して電気角指示θを形成している。これにより、マイクロステップ駆動に切り替えたときに、演算誤差等が解消された電気角指示θが出力されることになる。
【0077】
[第3の実施形態]
図6に第3の実施形態を示す。N相HB形モータ61を駆動制御するステッピングモータ駆動制御装置60において、速度指示器62に接続された減算器63、速度制御器64、電流制御器65、適応オブザーバ66、積分器67、座標変換器68は、第1の実施形態におけるセンサレス制御部6に対応する。電気角指示器69に接続された座標変換器70、(図示しない)減算器を備えた電流制御器71は第1の実施形態におけるマイクロステップ制御部10に対応する。負荷推定器72は、第1の実施形態における負荷推定器11と同様の処理を実行する。駆動方法切替器73による駆動方法の切替及び定常状態のマイクロステップ駆動については、第2の実施形態と同様であるため、説明を省略する。なお、図6においては、スイッチ74,75はマイクロステップ駆動を選択している。
【0078】
定常状態のセンサレス駆動において、速度指示器62は位置指示θを入力として速度指示ωを算出して減算器63に入力する。減算器63は速度指示器62から出力された速度指示ωと電流検出器76によって検出された実電流に基づいて推定された推定速度との差分を算出して速度制御器64に出力する。速度制御器64は、PI制御器を備え、入力された差分に対してPI制御を行なってトルク分電流指示を形成し、該トルク分電流指示を電流制御器65に出力している。
【0079】
電流制御器65は、PI制御器を備え、予め設定され又は算出された推定励磁分電流指示及びトルク分電流指示と、電流検出器76によって検出された実電流から算出された励磁分電流及びトルク分電流との差分を算出してPI制御を実行し、dq軸電圧指示Vdqsを形成して出力している。dq軸電圧指示Vdqsはスイッチ74を介して座標変換器77に入力される。座標変換器77には、さらにスイッチ75を介して、電流検出器76によって検出された実電流に基づいて推定された推定電気角が入力される。
【0080】
座標変換器77はdq軸電圧指示Vdqsと推定電気角とを入力としてdq−3相変換を実行し、センサレス駆動用指令VsNをPWMインバータ78に入力する。PWMインバータ78はセンサレス駆動用指令VsNを電力増幅し、ステッピングモータ61をセンサレス駆動する。
【0081】
前記推定速度及び前記推定電気角は、適応オブザーバ66によって算出される。適応オブザーバ66には電流検出器76によって検出された実電流が座標変換器68を介して入力される。座標変換器68はフィードバックされた推定電気角と入力された実電流(相電流)とから、3相−dq変換を実行して、励磁分電流とトルク分電流(dq軸電流)とを算出して、適応オブザーバ66に入力している。
【0082】
適応オブザーバ66は、入力された実電流(dq軸電流)と、電流制御器65から出力されたdq軸電圧指示Vdqsの電圧とから推定速度を算出し、該推定速度を積分器67を介して積分することによって推定電気角を算出している。
本実施形態のように、センサレス制御手段として適応オブザーバ66を使用すると、各制御部分のゲイン設定が容易になる。
【0083】
マイクロステップ駆動からセンサレス駆動に切り替えるときは、上記第2の実施形態と同様に、負荷推定器72で算出した負荷推定値Tに見合う積分初期値を速度制御器64の積分器に設定する。加えて、本実施形態では、電流制御器65においてもPI制御を実行しているため、電流制御器65の積分器においても、負荷推定器72で算出した負荷推定値Tに見合う積分初期値を設定する。
【0084】
センサレス駆動からマイクロステップ駆動に切り替えるときは、上記第2の実施形態と同様に、速度制御器64から出力されたセンサレス駆動時の負荷推定値Tを電気角指示器69に入力する。位置誤差調整器79は、位置指示θと適応オブザーバ66で推定された推定電気角とを入力として、両者の偏差を電気角指示器69に出力する。電気角指示器69は、該偏差を加算した位置指示θと負荷推定値Tとから、センサレス駆動時の負荷に見合った電流がステッピングモータ61に流れるように、電気角指示(励磁電気角)θを形成している。
【0085】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
例えば、上記実施形態における定常時のセンサレス制御及びマイクロステップ制御は上記実施形態に限定されない。他の構成要素及び制御によって実行される様々なセンサレス制御及びマイクロステップ制御を本発明に適用することができる。
また、上記第1の実施形態における負荷推定器ではトラッキングフィルタを用いて回転子推定位置を算出しているがこれに限定されない。例えば、逆正接関を用いて回転子推定位置θestreを算出することもできる。この場合、前記N相2相変換装置21によって2相交流に変換して求められた誘起起電圧eα、eβを、逆正接関数に入力し、該逆正接関数からの出力をフィルタに入力し、該フィルタからの出力を回転子推定位置θestreとして前記負荷推定値算出部32に出力するように構成しても良い。
既述の実施形態では、N相HB形ステッピングモータを駆動対象のモータとして採用しているがこれに限定されず、他のタイプのステッピングモータを駆動対象としても良い。
【0086】
上記第2及び第3の実施形態では、位置誤差調整器は、センサレス駆動からマイクロステップ駆動へ切り替えたときに動作している。しかしながら、位置誤差調整器57,79はセンサレス駆動中に動作して位置誤差を調整することもできる。この場合、位置誤差調整器57,79は、センサレス駆動中において、位置指示θと推定電気角の偏差を算出して速度指示器45,62に出力する。速度指示器45,62は該偏差を位置指示θに加算して該偏差を加算した位置指示θから速度指示を算出することによって、演算誤差等が補正された速度指示を出力する。このように、センサレス駆動中に速度指示器45,62から出力される速度指示が位置誤差調整器57,79を介してすでに調整されている場合には、マイクロステップ駆動へ切り替える際に、推定電気角の位置指示θに対する誤差等を補正する必要はない。したがって、上記第2及び第3の実施形態において、センサレス駆動中に位置誤差調整器57,79を介して上記速度指示を調整した場合には、位置誤差調整器57,79は、前記偏差を電気角指示器52,69に出力する必要はない。
【0087】
上記第2及び第3の実施形態において、センサレス制御時の負荷推定値Tは速度制御器47,64においてトルク分電流に基づいて算出されているが、これに限定されない。例えば、座標変換器51,68から出力されるトルク分電流に、任意の演算手段を介してモータ定数を乗じることによってセンサレス制御時の負荷推定値Tを算出し、該算出した負荷推定値Tを電気角指示器52,69に入力するように構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】第1の実施形態に係るステッピングモータ駆動制御装置の模式的な回路図である。
【図2】第1の実施形態に係る負荷推定器の模式的な回路図である。
【図3】マイクロステップ駆動とセンサレス駆動とを切り替えたときの速度変動を示すグラフである。
【図4】第1の実施形態に係るステッピングモータ駆動制御装置によってマイクロステップ駆動とセンサレス駆動とを切り替えたときの速度変動を示すグラフである。
【図5】第2の実施形態に係るステッピングモータ駆動制御装置の模式的な回路図である。
【図6】第3の実施形態に係るステッピングモータ駆動制御装置の模式的な回路図である。
【符号の説明】
【0089】
1,40,60 ステッピングモータ駆動制御装置
2,39,61 ステッピングモータ
3,42,73 駆動方法切替器
5,45,62 速度指示器
6 センサレス制御部
8,41,76 電流検出器
9,52,69 電気角指示器
10 マイクロステップ制御部
11,56,72 負荷推定器
47,64 速度制御器
48,65 電流制御器
49 モータモデル
50 速度・電気角推定器
57,79 位置誤差調整器
66 適応オブザーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロステップ駆動とセンサレス駆動とを切り替えてステッピングモータを制御するステッピングモータ駆動制御装置であって、
前記ステッピングモータに流れる実電流を検出する電流検出器と、
前記センサレス駆動を実行するために、位置指示と前記検出した実電流に基づいて、前記ステッピングモータの各相に流す駆動電流を決定するためのセンサレス駆動指令を形成するセンサレス制御手段と、
前記マイクロステップ駆動時における前記ステッピングモータの負荷を推定して第1の負荷推定値を得る負荷推定器と
を備え、
前記センサレス制御手段は、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動に切り替えたときに、前記推定した負荷に見合う前記駆動電流を決定するための前記センサレス駆動指令を前記第1の負荷推定値を用いて形成するように構成されている、ステッピングモータ駆動制御装置。
【請求項2】
前記位置指示に基づいて速度指示を形成する速度指示器をさらに備え、
前記センサレス制御手段は、前記速度指示と前記実電流に基づいて推定された推定速度との偏差にPI補償を施すことによって得られるトルク分電流指示を用いて前記センサレス駆動指令を形成するように、かつ前記センサレス駆動に切り替えたときに、前記第1の負荷推定値を用いて前記PI補償のための積分要素の初期値を設定するように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のステッピングモータ駆動制御装置。
【請求項3】
前記マイクロステップ駆動を実行するために、前記位置指示に基づいて、前記ステッピングモータの各相に流す駆動電流を決定するためのマイクロステップ駆動指令を形成するマイクロステップ制御手段を備え、
前記センサレス制御手段は、前記センサレス駆動時における前記ステッピングモータの負荷を推定して第2の負荷推定値を算出し、
前記マイクロステップ制御手段は、前記センサレス駆動からマイクロステップ駆動に切り替えたときに、前記推定したセンサレス駆動時の負荷に見合う前記駆動電流を決定するための前記マイクロステップ駆動指令を形成するように構成されている、請求項1又は2に記載のステッピングモータ駆動制御装置。
【請求項4】
前記位置指示に基づいて電気角指示を形成する電気角指示器をさらに備え、
該電気角指示器は、センサレス駆動からマイクロステップ駆動に切り替えたときに、前記第2の負荷推定値を用いて電気角指示を形成し、
前記マイクロステップ制御手段は、前記電気角指示に基づいて、前記マイクロステップ駆動指令を形成することを特徴とする、請求項3に記載のステッピングモータ駆動制御装置。
【請求項5】
前記センサレス制御手段は、予め設定され又は算出された推定励磁分電流指示と、前記トルク分電流指示と、前記実電流に基づいて推定された推定電気角とに基づいて、前記センサレス駆動指令を形成することを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載のステッピングモータ駆動制御装置。
【請求項6】
前記センサレス制御手段は、速度・電気角推定器を備え、
速度・電気角推定器は、前記実電流とモータモデルから算出された推定電流との差分から前記推定速度と前記推定電気角を算出することを特徴とする、請求項5に記載のステッピングモータ駆動制御装置。
【請求項7】
前記センサレス制御手段は、電流制御器と適応オブザーバを備え、
前記電流制御器は、前記実電流から算出されたdq軸電流と、前記推定励磁分電流指示と、前記トルク分電流指示とからdq軸電圧指示を形成し、
前記適応オブザーバは、前記dq軸電流と前記dq軸電圧指示とから前記推定速度と前記推定電気角を算出することを特徴とする、請求項5に記載のステッピングモータ駆動制御装置。
【請求項8】
前記位置指示と前記推定電気角とを比較して、両者の偏差を算出する位置誤差調整器をさらに備え、
前記電気角指示器は、前記センサレス駆動からマイクロステップ駆動に切り替えたときに、前記偏差を前記位置指示に加算して、該偏差を加算した位置指示と前記第2の負荷推定値とから前記電気角指示を形成することを特徴とする、請求項4に従属する請求項5〜7のいずれか1項に記載のステッピングモータ駆動制御装置。
【請求項9】
マイクロステップ駆動とセンサレス駆動とを切り替えてステッピングモータを制御するステッピングモータ駆動制御方法であって、
前記ステッピングモータに流れる実電流を検出する電流検出ステップと、
前記センサレス駆動を実行するために、位置指示と前記検出した実電流に基づいて、前記ステッピングモータの各相に流す駆動電流を決定するためのセンサレス駆動指令を形成するセンサレス制御ステップと、
前記マイクロステップ駆動時における前記ステッピングモータの負荷を推定して第1の負荷推定値を得る第1の負荷推定ステップと
を含み、
前記センサレス制御ステップは、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動に切り替えたときに、前記推定した負荷に見合う前記駆動電流を決定するための前記センサレス駆動指令を前記第1の負荷推定値を用いて形成するステップを含む、ステッピングモータ駆動制御方法。
【請求項10】
前記マイクロステップ駆動を実行するために、前記位置指示に基づいて、前記ステッピングモータの各相に流す駆動電流を決定するためのマイクロステップ駆動指令を形成するマイクロステップ制御ステップと、
前記センサレス駆動時の前記ステッピングモータの負荷を推定して第2の負荷推定値を得る第2の負荷推定ステップと
を含み、
前記マイクロステップ制御ステップは、前記センサレス駆動からマイクロステップ駆動に切り替えたときに、前記推定したセンサレス制御時の負荷に見合う前記駆動電流を決定するための前記マイクロステップ駆動指令を形成するように構成されている、請求項9に記載のステッピングモータ駆動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−213244(P2009−213244A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53104(P2008−53104)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000103792)オリエンタルモーター株式会社 (150)
【Fターム(参考)】