スロットアンテナ及び車両用窓ガラス
【課題】本発明は、スロットが透明導電膜の縁の近傍に構成されている場合において、平衡−不平衡変換回路を設けることなく、アンテナ特性の劣化を抑えることができる、スロットアンテナ及び車両用窓ガラスの提供を目的とする。
【解決手段】ガラス30に装着される透明導電膜20にスロットが形成されたスロットアンテナであって、中心導体13a及びその両側の接地導体13d,13eが、透明導電膜20の縁20aに接するように透明導電膜20で形成されたコプレーナ線路13と、中心導体13aと接地導体13dとに挟まれたスロット13bに接続されて縁20aから離れる方向に延伸するスロット11と、中心導体13aと接地導体13eとに挟まれたスロット13cに接続されて縁20aから離れる方向に延伸するスロット12とを備え、スロット11とスロット12とによってV字状のスロットが形成されていることを特徴とする、スロットアンテナ。
【解決手段】ガラス30に装着される透明導電膜20にスロットが形成されたスロットアンテナであって、中心導体13a及びその両側の接地導体13d,13eが、透明導電膜20の縁20aに接するように透明導電膜20で形成されたコプレーナ線路13と、中心導体13aと接地導体13dとに挟まれたスロット13bに接続されて縁20aから離れる方向に延伸するスロット11と、中心導体13aと接地導体13eとに挟まれたスロット13cに接続されて縁20aから離れる方向に延伸するスロット12とを備え、スロット11とスロット12とによってV字状のスロットが形成されていることを特徴とする、スロットアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明な基体に装着される透明導電膜にスロットが形成されたスロットアンテナに関する。また、そのスロットアンテナを備えた車両用窓ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、ガラス上の透明導電膜の領域内にスロットが形成されたスロットアンテナが知られている(例えば、特許文献1参照)。このスロットアンテナの給電点6a,6bは、平衡変換回路又は不平衡変換回路3(平衡−不平衡変換回路)を介して同軸ケーブル4の内部導体に接続されるものである。
【特許文献1】特開2001−185928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、導電膜にスロットを有するスロットアンテナの場合、図8に例示されるように、スロット10を導電膜20の縁20a,20bから離れた位置に配置することによって、スロット10の周囲を流れる電流は均一となり、アンテナ特性の劣化を抑えることができる。
【0004】
しかしながら、図9に例示されるように、スロット10を導電膜20の縁20aの近傍に形成されたスロットアンテナの場合、スロット10周囲の電流密度のバランスが崩れて、アンテナ特性が劣化してしまう。
【0005】
この点、上述の特許文献1のスロットアンテナは、スロットが透明導電膜の縁の近傍に設けられているものの、平衡−不平衡変換回路を介さなければ、同軸ケーブルを透明導電膜上の給電点に接続することができない。
【0006】
そこで、本発明は、スロットが透明導電膜の縁の近傍に構成されている場合において、平衡−不平衡変換回路を設けることなく、アンテナ特性の劣化を抑えることができる、スロットアンテナ及び車両用窓ガラスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るスロットアンテナは、
透明な基体に装着される透明導電膜にスロットが形成されたスロットアンテナであって、
前記透明導電膜が前記透明導電膜の縁に接した並列の2本のスロットによって区画されることにより、形成されたコプレーナ線路と、
前記2本のスロットのうち一方のスロットに接続された第1のスロットと、
前記2本のスロットのうち他方のスロットに接続された第2のスロットとを備え、
前記第1及び第2のスロットは、互いに離れ且つ前記縁から離れる方向に延伸することを特徴とする。
【0008】
ここで、前記第1及び第2のスロットは、直線的に延伸する直線状スロットであると好適である。また、前記第1のスロットの延伸方向と前記第2のスロットの延伸方向とに挟まれる角度が、30°以上150°以下であると好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スロットが透明導電膜の縁の近傍に構成されている場合において、平衡−不平衡変換回路を設けることなく、アンテナ特性の劣化を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。なお、形態を説明するための図面において、方向について特に記載しない場合には図面上での方向をいうものとする。また、それらの図面は、窓ガラスが車両に取り付けられた状態での車内視(又は、車外視)の図であり、図面上での左右方向が水平方向に相当する。例えば、窓ガラスが車両の後部に取り付けられるリヤガラスである場合、図面上での左右方向が車幅方向に相当する。なお、本発明は、リヤガラスに限定されず、車両の前部に取り付けられるフロントガラス、車両の側部に取り付けられるサイドガラスであってもよい。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態である車両用透明フィルムスロットアンテナ100の平面図である。スロットアンテナ100は、基板等の基体である車両用窓ガラス30に装着される透明導電膜20にスロットが形成された、ガラス取り付けアンテナである。スロットアンテナ100は、透明導電膜20がその縁20aに接した2本のスロット(13b,13c)によって区画されることにより、第1の導体部である中心導体13aと中心導体13aの一方の側である左側に配置された第2の導体部である接地導体13dと中心導体13aの他方の側である右側に配置された第3の導体部である接地導体13eとが縁20aに接するように形成されたコプレーナ線路13を備えるとともに、それらの2本のスロットのうち一方のスロット13bに接続された第1のスロットであるスロット11と、それらの2本のスロットのうち他方のスロット13cに接続された第2のスロットであるスロット12とを備えている。そして、スロット11とスロット12は、互いに離れ且つ縁20aから離れる方向に延伸している。
【0012】
スロットアンテナ100は、透明導電膜20に形成されたスロット11,12及びコプレーナ線路13により得られる受信信号が、負極側(コールド側(グランド側))のアース部17(17a,17b)を接地基準として、正極側(ホット側)の給電部18から取り出し可能になっており、その受信信号が受信機(不図示)に伝達される。
【0013】
給電部18及びアース部17a,17bは、受信機に接続される給電線が電気的に接続される給電点である。給電線として同軸ケーブルを用いる場合には、給電部18には同軸ケーブルの内部導体が電気的に接続され、アース部17a,17bには共にその同軸ケーブルの外部導体が電気的に接続される。
【0014】
同軸ケーブルと、給電部18及びアース部17とを電気的に接続するためのコネクタを給電部18及びアース部17に実装する構成にすることによって、同軸ケーブルを給電部18及びアース部17に取り付けしやすくなる。給電部18及びアース部17に実装されるコネクタに給電部18及びアース部17での受信信号を増幅するための増幅回路が内蔵されている場合には、その増幅回路のグランドをアース部17と同軸ケーブルの外部導体を電気的に接続し、その増幅回路の入力側に給電部18が電気的に接続され、その増幅回路の出力側に同軸ケーブルの内部導体が接続されるとよい。
【0015】
ここで、図2を用いて、コネクタ300の構成を説明する。コネクタ300は、半導体基板310と、マイクロストリップ信号導体320と、柱状導体330とにより構成される。半導体基板310は、表面310aと、裏面310bとを有する。表面310aには、マイクロストリップ信号導体320が形成されている。裏面310bには、全面にグランド導体が設けられている。柱状導体330は、3本の柱状導体331、332、333から構成される。柱状導体331は、グランド導体とアース部17aとを電気的に接続する。柱状導体333は、グランド導体とアース部17bとを電気的に接続する。柱状導体332は、給電部18とマイクロストリップ信号導体320とを電気的に接続する。ここで、柱状導体332は、グランド導体と電気的に接続されておらず、半導体基板310に形成されたスルーホールを介して、マイクロストリップ信号導体320と電気的に繋がっている。
【0016】
コプレーナ線路13の中心導体13aと中心導体13aの両側に隣接するスロット13b,13cとは、透明導電膜20の一辺である縁20aに略垂直な方向に延伸している。コプレーナ線路13の延伸方向は、窓ガラス30が車体開口部に取り付けられている状態において、上下方向又は略上下方向であることが、上下方向でない場合に比べアンテナ利得向上の点で好適である。中心導体13aの長手方向に直交する方向の第1の側にスロット13bを挟んで接地導体13dが設けられ、中心導体13aの長手方向に直交する方向の第2の側にスロット13cを挟んで接地導体13eが設けられる。このように、縁20aに接するスロット13b,13cによって、中心導体13aと接地導体13dと接地導体13eとが分離されている。
【0017】
スロット11は、透明導電膜20の領域内で直線的に延伸する直線状スロットであって、スロット13bの開放端(縁20aと反対側の開放端)を起点に終端部11eまで延伸するものである。スロット12は、透明導電膜20の領域内で直線的に延伸する直線状スロットであって、スロット13cの開放端(縁20aと反対側の開放端)を起点に終端部12eまで延伸するものである。スロット11とスロット12とによって略V字形状(略ハの字形状)が形成されるように、スロット11とスロット12は互いに離れる方向に延伸している。
【0018】
このような構成にすることによって、給電部18を起点に流れる電流は、内縁11bに沿って終端部11eを回り外縁11aに沿ってアース部17aに流れる。つまり、スロット11を極とする電流分布が、スロット11の周囲に発生する。同様に、給電部18を起点に流れる電流は、内縁12bに沿って終端部12eを回り外縁12aに沿ってアース部17bに流れる。つまり、スロット12を極とする電流分布が、スロット12の周囲に発生する。
【0019】
また、受信すべき電波が広い周波数帯を有している場合には、その周波数帯の最小周波数と最大周波数の中心である中心周波数に基づいて、総和(x11+x12+x13a)の値を決めればよい。
【0020】
図3は、本発明に係るスロットアンテナが窓ガラス30に配置される例を示している。4つのスロットアンテナがそれぞれ窓ガラス30の左上側領域、右上側領域、左下側領域及び右下側領域に配設されている。40aは車体上側の車体開口縁、40bは車体右側の車体開口縁、40cは車体下側の車体開口縁、40dは車体左側の車体開口縁である。図3において、窓ガラス30が後部窓ガラスの場合は、中央領域にデフォッガ(不図示)が形成されている。しかし、これに限定されず、4つの領域の少なくとも1つに設けられていればよい。また、左側、右側ではなく中央上側領域、中央下側領域、中央左側領域、中央右側領域に設けられていてもよい。
【0021】
また、本発明においては、上側領域のスロットアンテナが図3のような状態で配設される場合、上側領域のスロットアンテナの形状と上下反転となった形状で図3の下側領域に図示された状態でスロットアンテナが配設されてもよい。
【0022】
上記のように複数個のガラスアンテナを設置した場合、ダイバーシティ受信となり受信特性が向上し好ましい。
【0023】
車両に対する窓ガラス板の取り付け角度は、水平方向に対し、15〜90°、特には、30〜90°が好ましい。
【0024】
また、窓ガラス30や透明導電膜20の素材や形成方法については公知のものを適宜選定して差し支えない。また、透明導電膜20は、窓ガラス30の車両側表面又は車外側表面に装着されるとよい。
【0025】
ここで、図1の形態のスロットアンテナ100の効果について、シミュレーションした結果を示す。図4は、スロットアンテナ100のアンテナ特性を測定するためのシミュレーション条件を示した図である。透明導電膜20の表面抵抗率は、1.7[Ω/sq(オームパースクエア)]としている。スロット11とスロット12が交わる頂点(近似的に給電点に相当)から辺20aまでの距離をΔとする。当該頂点を通る辺20aに平行な仮想線に対してスロット11とスロット12とがそれぞれなす角度をθとする。
【0026】
このときの図1に示すスロットアンテナ100の各部の寸法の想定値は、
x11 :94.75mm
x12 :94.75mm
縁20a,20cの一辺の長さ :180mm
縁20b,20dの一辺の長さ :85mm
スロット幅x13a,x13b,x13c :3.5mm
とする。
【0027】
図5は、θが零のときの、距離Δと放射効率との関係を示した図である。θが零とは、スロット11と12がいずれも辺20aに平行なことを示している。図5に示されるように、距離Δが長くなるにつれて、スロットアンテナ100の放射効率が高くなることを示している。つまり、透明導電膜に形成されるスロットと透明導電膜の縁との距離を大きくすることによって、放射効率を高めることができ、アンテナ特性が向上する。
【0028】
図6は、距離Δの違いによる、角度θと放射効率との関係を示した図である。スロット11となす角度θとスロット12となる角度θは同じ値をとるものとする。図6に示されるように、角度θを零から大きくするに従って放射効率が増加し、角度θが45°のとき最大となり、さらに角度θを大きくすると放射効率は逆に減少する。
【0029】
つまり、スロット11とスロット12とによって形成されるV字の開き角が90°〜180°の領域では、角度θが大きくなるにつれてスロット11,12と縁20aとの間隔が大きくなるため、接地導体13d,13eの領域が広がって接地導体13d,13eのインピーダンスが下がり、スロットアンテナ100の放射効率は上がる。逆に、V字の開き角が90°以下の領域では、角度θが大きくなるにつれてスロット11,12と縁20aとの間隔が大きくなるものの、スロット11とスロット12に挟まれる導体部の領域が狭くなるため、スロット11とスロット12の周囲を流れる電流が互いに干渉し、アンテナ100の放射効率は下がる。
【0030】
したがって、図6によれば、V字の角度が30°以上150°以下(すなわち、角度θが15°以上75°以下)にすることによって、特には、V字の角度が60°以上120°以下(すなわち、角度θが30°以上60°以下)にすることによって、アンテナ100の放射効率が相対的に他の角度範囲より高くなり、優れたアンテナ特性が得られることがわかる。
【実施例】
【0031】
図4のシミュレーション条件にもとづいて、本願発明の実施例と比較例を説明する。本願発明の実施例は、図1の形状のスロットアンテナを用いた。比較例は、上述した特許文献1の図5に開示されたスロットアンテナを用いた。実施例は、距離Δを5mmに固定し、距離Δと角度θに対して、給電点からみたアンテナとのマッチング度をS11<−20dBとなるように、アンテナ長L(x11+x12+x13a)及び入力インピーダンスを調整し、それぞれの放射効率を求めた(表1)。一方、比較例は、距離Δを10mmに固定し、距離Δと角度θに対して、S11<−20dBとなるように、アンテナ長L及び入力インピーダンスを調整し、それぞれの放射効率を求めた(表2)。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
図7は、表1及び表2をグラフ化したものである。図7からわかるように、本願発明のスロットアンテナは、従来のスロットアンテナと同等の放射効率を得られることがわかった。特に、本願発明のスロットアンテナは、角度θ=30°のときに最大の放射効率が得られた。
【0034】
したがって、上述の構成によれば、透明導電膜20の縁20aに接してコプレーナ線路13が形成されているため、コプレーナ線路13が平衡−不平衡変換回路を兼ねることができ、新たな平衡−不平衡変換回路をフィルムアンテナに接続することなく、アンテナ特性の低下を抑えることができる。また、上述の構成によれば、透明導電膜20の縁20aに沿って給電部18とアース部17を共に設けることができるので、窓ガラス13を車体開口部に取り付ける際に、車体開口部側に配索された同軸ケーブルを給電部18とアース部17に容易に取り付けることができる。
【0035】
以上、本発明の好ましい形態について説明したが、その他のスロットアンテナの形態を図10に示す。図10に示すように、並列の2本のスロットが接する透明導電膜20の縁20aa,20bbは、傾斜していてもよい。
【0036】
また、スロット11と12は、一直線状のスロットであったが、その延伸の途中で折り曲げ部があってもよいし、円弧状に曲がって延伸していてもよい。
【0037】
また、18を接地導体(同軸ケーブルの外部導体の接続点)とし、17a,17bを給電点(同軸ケーブルの内部導体の接続点)としてもよい。
【0038】
また、図11に示すように、スロット13bとスロット13cとが接続されていても良い。スロット13bと13cを接続することにより、例えば、コネクタの取り付け位置が構造上、導体膜端部ギリギリに配置できず、やや中よりに配置する場合、スロット13bと13cを接続することでストリップ線路を短くすることができるため、線路による損失を低減させることができる。また、スロット13bと13cを接続しているスロットの幅を変えることで給電する際のインピーダンスを調整する機構を設けることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態である車両用透明フィルムスロットアンテナ100の平面図である。
【図2】本願発明のコネクタを構成を示す斜視図である。
【図3】本発明に係るスロットアンテナが窓ガラス30に配置される例を示している。
【図4】スロットアンテナ100のアンテナ特性を測定するためのシミュレーション条件を示した図である。
【図5】角度θが零のときの、距離Δと放射効率との関係を示した図である。
【図6】距離Δの違いによる、角度θと放射効率との関係を示した図である。
【図7】実施例と比較例における、角度θと放射効率との関係を示した図である。
【図8】導電膜20の縁20a,20bから離れた中央部にスロット10が形成されたフィルムスロットアンテナである。
【図9】導電膜20の縁20aの近傍にスロット10が形成されたフィルムスロットアンテナである。
【図10】本発明の一実施形態である車両用透明フィルムスロットアンテナ200の平面図である。
【図11】本発明の他の実施形態である車両用透明フィルムスロットアンテナの一部拡大図である。
【符号の説明】
【0040】
11,12 スロット
13 コプレーナ線路
13a 中心導体
13b,13c コプレーナ線路のスロット(導体間の間隙)
13d,13e 接地導体
20 透明導電膜
20a,20b,20c,20d,20aa,20ab 縁
30 窓ガラス
40 窓の車体開口縁
18 信号線接続部(給電点)
17a,17b 接地部
100,200 スロットアンテナ
300 コネクタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明な基体に装着される透明導電膜にスロットが形成されたスロットアンテナに関する。また、そのスロットアンテナを備えた車両用窓ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、ガラス上の透明導電膜の領域内にスロットが形成されたスロットアンテナが知られている(例えば、特許文献1参照)。このスロットアンテナの給電点6a,6bは、平衡変換回路又は不平衡変換回路3(平衡−不平衡変換回路)を介して同軸ケーブル4の内部導体に接続されるものである。
【特許文献1】特開2001−185928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、導電膜にスロットを有するスロットアンテナの場合、図8に例示されるように、スロット10を導電膜20の縁20a,20bから離れた位置に配置することによって、スロット10の周囲を流れる電流は均一となり、アンテナ特性の劣化を抑えることができる。
【0004】
しかしながら、図9に例示されるように、スロット10を導電膜20の縁20aの近傍に形成されたスロットアンテナの場合、スロット10周囲の電流密度のバランスが崩れて、アンテナ特性が劣化してしまう。
【0005】
この点、上述の特許文献1のスロットアンテナは、スロットが透明導電膜の縁の近傍に設けられているものの、平衡−不平衡変換回路を介さなければ、同軸ケーブルを透明導電膜上の給電点に接続することができない。
【0006】
そこで、本発明は、スロットが透明導電膜の縁の近傍に構成されている場合において、平衡−不平衡変換回路を設けることなく、アンテナ特性の劣化を抑えることができる、スロットアンテナ及び車両用窓ガラスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るスロットアンテナは、
透明な基体に装着される透明導電膜にスロットが形成されたスロットアンテナであって、
前記透明導電膜が前記透明導電膜の縁に接した並列の2本のスロットによって区画されることにより、形成されたコプレーナ線路と、
前記2本のスロットのうち一方のスロットに接続された第1のスロットと、
前記2本のスロットのうち他方のスロットに接続された第2のスロットとを備え、
前記第1及び第2のスロットは、互いに離れ且つ前記縁から離れる方向に延伸することを特徴とする。
【0008】
ここで、前記第1及び第2のスロットは、直線的に延伸する直線状スロットであると好適である。また、前記第1のスロットの延伸方向と前記第2のスロットの延伸方向とに挟まれる角度が、30°以上150°以下であると好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スロットが透明導電膜の縁の近傍に構成されている場合において、平衡−不平衡変換回路を設けることなく、アンテナ特性の劣化を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。なお、形態を説明するための図面において、方向について特に記載しない場合には図面上での方向をいうものとする。また、それらの図面は、窓ガラスが車両に取り付けられた状態での車内視(又は、車外視)の図であり、図面上での左右方向が水平方向に相当する。例えば、窓ガラスが車両の後部に取り付けられるリヤガラスである場合、図面上での左右方向が車幅方向に相当する。なお、本発明は、リヤガラスに限定されず、車両の前部に取り付けられるフロントガラス、車両の側部に取り付けられるサイドガラスであってもよい。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態である車両用透明フィルムスロットアンテナ100の平面図である。スロットアンテナ100は、基板等の基体である車両用窓ガラス30に装着される透明導電膜20にスロットが形成された、ガラス取り付けアンテナである。スロットアンテナ100は、透明導電膜20がその縁20aに接した2本のスロット(13b,13c)によって区画されることにより、第1の導体部である中心導体13aと中心導体13aの一方の側である左側に配置された第2の導体部である接地導体13dと中心導体13aの他方の側である右側に配置された第3の導体部である接地導体13eとが縁20aに接するように形成されたコプレーナ線路13を備えるとともに、それらの2本のスロットのうち一方のスロット13bに接続された第1のスロットであるスロット11と、それらの2本のスロットのうち他方のスロット13cに接続された第2のスロットであるスロット12とを備えている。そして、スロット11とスロット12は、互いに離れ且つ縁20aから離れる方向に延伸している。
【0012】
スロットアンテナ100は、透明導電膜20に形成されたスロット11,12及びコプレーナ線路13により得られる受信信号が、負極側(コールド側(グランド側))のアース部17(17a,17b)を接地基準として、正極側(ホット側)の給電部18から取り出し可能になっており、その受信信号が受信機(不図示)に伝達される。
【0013】
給電部18及びアース部17a,17bは、受信機に接続される給電線が電気的に接続される給電点である。給電線として同軸ケーブルを用いる場合には、給電部18には同軸ケーブルの内部導体が電気的に接続され、アース部17a,17bには共にその同軸ケーブルの外部導体が電気的に接続される。
【0014】
同軸ケーブルと、給電部18及びアース部17とを電気的に接続するためのコネクタを給電部18及びアース部17に実装する構成にすることによって、同軸ケーブルを給電部18及びアース部17に取り付けしやすくなる。給電部18及びアース部17に実装されるコネクタに給電部18及びアース部17での受信信号を増幅するための増幅回路が内蔵されている場合には、その増幅回路のグランドをアース部17と同軸ケーブルの外部導体を電気的に接続し、その増幅回路の入力側に給電部18が電気的に接続され、その増幅回路の出力側に同軸ケーブルの内部導体が接続されるとよい。
【0015】
ここで、図2を用いて、コネクタ300の構成を説明する。コネクタ300は、半導体基板310と、マイクロストリップ信号導体320と、柱状導体330とにより構成される。半導体基板310は、表面310aと、裏面310bとを有する。表面310aには、マイクロストリップ信号導体320が形成されている。裏面310bには、全面にグランド導体が設けられている。柱状導体330は、3本の柱状導体331、332、333から構成される。柱状導体331は、グランド導体とアース部17aとを電気的に接続する。柱状導体333は、グランド導体とアース部17bとを電気的に接続する。柱状導体332は、給電部18とマイクロストリップ信号導体320とを電気的に接続する。ここで、柱状導体332は、グランド導体と電気的に接続されておらず、半導体基板310に形成されたスルーホールを介して、マイクロストリップ信号導体320と電気的に繋がっている。
【0016】
コプレーナ線路13の中心導体13aと中心導体13aの両側に隣接するスロット13b,13cとは、透明導電膜20の一辺である縁20aに略垂直な方向に延伸している。コプレーナ線路13の延伸方向は、窓ガラス30が車体開口部に取り付けられている状態において、上下方向又は略上下方向であることが、上下方向でない場合に比べアンテナ利得向上の点で好適である。中心導体13aの長手方向に直交する方向の第1の側にスロット13bを挟んで接地導体13dが設けられ、中心導体13aの長手方向に直交する方向の第2の側にスロット13cを挟んで接地導体13eが設けられる。このように、縁20aに接するスロット13b,13cによって、中心導体13aと接地導体13dと接地導体13eとが分離されている。
【0017】
スロット11は、透明導電膜20の領域内で直線的に延伸する直線状スロットであって、スロット13bの開放端(縁20aと反対側の開放端)を起点に終端部11eまで延伸するものである。スロット12は、透明導電膜20の領域内で直線的に延伸する直線状スロットであって、スロット13cの開放端(縁20aと反対側の開放端)を起点に終端部12eまで延伸するものである。スロット11とスロット12とによって略V字形状(略ハの字形状)が形成されるように、スロット11とスロット12は互いに離れる方向に延伸している。
【0018】
このような構成にすることによって、給電部18を起点に流れる電流は、内縁11bに沿って終端部11eを回り外縁11aに沿ってアース部17aに流れる。つまり、スロット11を極とする電流分布が、スロット11の周囲に発生する。同様に、給電部18を起点に流れる電流は、内縁12bに沿って終端部12eを回り外縁12aに沿ってアース部17bに流れる。つまり、スロット12を極とする電流分布が、スロット12の周囲に発生する。
【0019】
また、受信すべき電波が広い周波数帯を有している場合には、その周波数帯の最小周波数と最大周波数の中心である中心周波数に基づいて、総和(x11+x12+x13a)の値を決めればよい。
【0020】
図3は、本発明に係るスロットアンテナが窓ガラス30に配置される例を示している。4つのスロットアンテナがそれぞれ窓ガラス30の左上側領域、右上側領域、左下側領域及び右下側領域に配設されている。40aは車体上側の車体開口縁、40bは車体右側の車体開口縁、40cは車体下側の車体開口縁、40dは車体左側の車体開口縁である。図3において、窓ガラス30が後部窓ガラスの場合は、中央領域にデフォッガ(不図示)が形成されている。しかし、これに限定されず、4つの領域の少なくとも1つに設けられていればよい。また、左側、右側ではなく中央上側領域、中央下側領域、中央左側領域、中央右側領域に設けられていてもよい。
【0021】
また、本発明においては、上側領域のスロットアンテナが図3のような状態で配設される場合、上側領域のスロットアンテナの形状と上下反転となった形状で図3の下側領域に図示された状態でスロットアンテナが配設されてもよい。
【0022】
上記のように複数個のガラスアンテナを設置した場合、ダイバーシティ受信となり受信特性が向上し好ましい。
【0023】
車両に対する窓ガラス板の取り付け角度は、水平方向に対し、15〜90°、特には、30〜90°が好ましい。
【0024】
また、窓ガラス30や透明導電膜20の素材や形成方法については公知のものを適宜選定して差し支えない。また、透明導電膜20は、窓ガラス30の車両側表面又は車外側表面に装着されるとよい。
【0025】
ここで、図1の形態のスロットアンテナ100の効果について、シミュレーションした結果を示す。図4は、スロットアンテナ100のアンテナ特性を測定するためのシミュレーション条件を示した図である。透明導電膜20の表面抵抗率は、1.7[Ω/sq(オームパースクエア)]としている。スロット11とスロット12が交わる頂点(近似的に給電点に相当)から辺20aまでの距離をΔとする。当該頂点を通る辺20aに平行な仮想線に対してスロット11とスロット12とがそれぞれなす角度をθとする。
【0026】
このときの図1に示すスロットアンテナ100の各部の寸法の想定値は、
x11 :94.75mm
x12 :94.75mm
縁20a,20cの一辺の長さ :180mm
縁20b,20dの一辺の長さ :85mm
スロット幅x13a,x13b,x13c :3.5mm
とする。
【0027】
図5は、θが零のときの、距離Δと放射効率との関係を示した図である。θが零とは、スロット11と12がいずれも辺20aに平行なことを示している。図5に示されるように、距離Δが長くなるにつれて、スロットアンテナ100の放射効率が高くなることを示している。つまり、透明導電膜に形成されるスロットと透明導電膜の縁との距離を大きくすることによって、放射効率を高めることができ、アンテナ特性が向上する。
【0028】
図6は、距離Δの違いによる、角度θと放射効率との関係を示した図である。スロット11となす角度θとスロット12となる角度θは同じ値をとるものとする。図6に示されるように、角度θを零から大きくするに従って放射効率が増加し、角度θが45°のとき最大となり、さらに角度θを大きくすると放射効率は逆に減少する。
【0029】
つまり、スロット11とスロット12とによって形成されるV字の開き角が90°〜180°の領域では、角度θが大きくなるにつれてスロット11,12と縁20aとの間隔が大きくなるため、接地導体13d,13eの領域が広がって接地導体13d,13eのインピーダンスが下がり、スロットアンテナ100の放射効率は上がる。逆に、V字の開き角が90°以下の領域では、角度θが大きくなるにつれてスロット11,12と縁20aとの間隔が大きくなるものの、スロット11とスロット12に挟まれる導体部の領域が狭くなるため、スロット11とスロット12の周囲を流れる電流が互いに干渉し、アンテナ100の放射効率は下がる。
【0030】
したがって、図6によれば、V字の角度が30°以上150°以下(すなわち、角度θが15°以上75°以下)にすることによって、特には、V字の角度が60°以上120°以下(すなわち、角度θが30°以上60°以下)にすることによって、アンテナ100の放射効率が相対的に他の角度範囲より高くなり、優れたアンテナ特性が得られることがわかる。
【実施例】
【0031】
図4のシミュレーション条件にもとづいて、本願発明の実施例と比較例を説明する。本願発明の実施例は、図1の形状のスロットアンテナを用いた。比較例は、上述した特許文献1の図5に開示されたスロットアンテナを用いた。実施例は、距離Δを5mmに固定し、距離Δと角度θに対して、給電点からみたアンテナとのマッチング度をS11<−20dBとなるように、アンテナ長L(x11+x12+x13a)及び入力インピーダンスを調整し、それぞれの放射効率を求めた(表1)。一方、比較例は、距離Δを10mmに固定し、距離Δと角度θに対して、S11<−20dBとなるように、アンテナ長L及び入力インピーダンスを調整し、それぞれの放射効率を求めた(表2)。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
図7は、表1及び表2をグラフ化したものである。図7からわかるように、本願発明のスロットアンテナは、従来のスロットアンテナと同等の放射効率を得られることがわかった。特に、本願発明のスロットアンテナは、角度θ=30°のときに最大の放射効率が得られた。
【0034】
したがって、上述の構成によれば、透明導電膜20の縁20aに接してコプレーナ線路13が形成されているため、コプレーナ線路13が平衡−不平衡変換回路を兼ねることができ、新たな平衡−不平衡変換回路をフィルムアンテナに接続することなく、アンテナ特性の低下を抑えることができる。また、上述の構成によれば、透明導電膜20の縁20aに沿って給電部18とアース部17を共に設けることができるので、窓ガラス13を車体開口部に取り付ける際に、車体開口部側に配索された同軸ケーブルを給電部18とアース部17に容易に取り付けることができる。
【0035】
以上、本発明の好ましい形態について説明したが、その他のスロットアンテナの形態を図10に示す。図10に示すように、並列の2本のスロットが接する透明導電膜20の縁20aa,20bbは、傾斜していてもよい。
【0036】
また、スロット11と12は、一直線状のスロットであったが、その延伸の途中で折り曲げ部があってもよいし、円弧状に曲がって延伸していてもよい。
【0037】
また、18を接地導体(同軸ケーブルの外部導体の接続点)とし、17a,17bを給電点(同軸ケーブルの内部導体の接続点)としてもよい。
【0038】
また、図11に示すように、スロット13bとスロット13cとが接続されていても良い。スロット13bと13cを接続することにより、例えば、コネクタの取り付け位置が構造上、導体膜端部ギリギリに配置できず、やや中よりに配置する場合、スロット13bと13cを接続することでストリップ線路を短くすることができるため、線路による損失を低減させることができる。また、スロット13bと13cを接続しているスロットの幅を変えることで給電する際のインピーダンスを調整する機構を設けることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態である車両用透明フィルムスロットアンテナ100の平面図である。
【図2】本願発明のコネクタを構成を示す斜視図である。
【図3】本発明に係るスロットアンテナが窓ガラス30に配置される例を示している。
【図4】スロットアンテナ100のアンテナ特性を測定するためのシミュレーション条件を示した図である。
【図5】角度θが零のときの、距離Δと放射効率との関係を示した図である。
【図6】距離Δの違いによる、角度θと放射効率との関係を示した図である。
【図7】実施例と比較例における、角度θと放射効率との関係を示した図である。
【図8】導電膜20の縁20a,20bから離れた中央部にスロット10が形成されたフィルムスロットアンテナである。
【図9】導電膜20の縁20aの近傍にスロット10が形成されたフィルムスロットアンテナである。
【図10】本発明の一実施形態である車両用透明フィルムスロットアンテナ200の平面図である。
【図11】本発明の他の実施形態である車両用透明フィルムスロットアンテナの一部拡大図である。
【符号の説明】
【0040】
11,12 スロット
13 コプレーナ線路
13a 中心導体
13b,13c コプレーナ線路のスロット(導体間の間隙)
13d,13e 接地導体
20 透明導電膜
20a,20b,20c,20d,20aa,20ab 縁
30 窓ガラス
40 窓の車体開口縁
18 信号線接続部(給電点)
17a,17b 接地部
100,200 スロットアンテナ
300 コネクタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な基体に装着される透明導電膜にスロットが形成されたスロットアンテナであって、
前記透明導電膜が前記透明導電膜の縁に接した並列の2本のスロットによって区画されることにより、形成されたコプレーナ線路と、
前記2本のスロットのうち一方のスロットに接続された第1のスロットと、
前記2本のスロットのうち他方のスロットに接続された第2のスロットとを備え、
前記第1及び第2のスロットは、互いに離れ且つ前記縁から離れる方向に延伸することを特徴とする、スロットアンテナ。
【請求項2】
前記第1のスロットと前記第2のスロットとによって略V字形状が形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のスロットアンテナ。
【請求項3】
前記第1のスロットの延伸方向と前記第2のスロットの延伸方向とに挟まれる角度が、30°以上150°以下である、請求項2に記載のスロットアンテナ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のスロットアンテナを備えた車両用窓ガラス。
【請求項1】
透明な基体に装着される透明導電膜にスロットが形成されたスロットアンテナであって、
前記透明導電膜が前記透明導電膜の縁に接した並列の2本のスロットによって区画されることにより、形成されたコプレーナ線路と、
前記2本のスロットのうち一方のスロットに接続された第1のスロットと、
前記2本のスロットのうち他方のスロットに接続された第2のスロットとを備え、
前記第1及び第2のスロットは、互いに離れ且つ前記縁から離れる方向に延伸することを特徴とする、スロットアンテナ。
【請求項2】
前記第1のスロットと前記第2のスロットとによって略V字形状が形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のスロットアンテナ。
【請求項3】
前記第1のスロットの延伸方向と前記第2のスロットの延伸方向とに挟まれる角度が、30°以上150°以下である、請求項2に記載のスロットアンテナ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のスロットアンテナを備えた車両用窓ガラス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−114688(P2010−114688A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285844(P2008−285844)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
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