説明

セメント系固化材

【課題】六価クロムの溶出抑制効果に優れると共に、固化後の強度が大きいセメント系固化材を提供する。
【解決手段】ポルトランドセメントおよび石膏の水硬性成分に対して、第一鉄化合物または高炉スラグ微粉末の一種または二種と、銅スラグ微粉末とを配合してなることを特徴とし、好ましくは、銅スラグ微粉末の比表面積が6000cm2/g以上であり、ポルトランドセメント含有量50質量%以上、石膏含有量5〜10質量%、銅スラグ微粉末含有量10〜20質量%、第一鉄化合物と高炉スラグ微粉末の一種または二種の含有量10〜20質量%であり、これらの合計含有量が100質量%であるセメント系固化材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六価クロムを含有するセメント系固化物からの六価クロムの溶出防止方法に関する。より詳しくは、六価クロムの溶出抑制効果に優れると共に、固化後の強度が大きいセメント系固化材に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムは六価イオンの状態で溶出し、土壌の汚染源になるので、汚染防止のために六価クロムの溶出量は厳しく制限されており、土壌環境基準では0.05mg/L以下に制限されている。このため、固化処理土からの六価クロムの溶出を防止する方法として、種々の方法が提案され試行されている。
【0003】
六価クロムの溶出量を低減する手段としては、六価クロムを三価クロムに還元する方法が一般的であり、セメントに還元剤ないし吸着剤として高炉スラグなどを配合した処理材が従来から知られている。
【0004】
例えば、特開2001−348571号公報には、水硬性材料(セメント)に高炉スラグ粉末および石膏を配合してなる地盤改良材が記載されており、高炉スラグによってアルミ成分を供給してカルシウムアルミネート系水和物の生成を促進し、またその第一鉄塩等の還元成分によって六価クロムを還元して溶出量を抑えることが記載されている。
【0005】
また、特開2007−222694号公報には、ポルトランドセメントと、高炉スラグ粉末と、石膏とを含む重金属汚染土壌用セメント系固化材が記載されている。高炉スラグ粉末を30〜70質量%含有することによって、汚染土壌の六価クロムと共にセメント自体に含まれる六価クロムの二次的な溶出をも抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−348571号公報
【特許文献2】特開2007−222694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の上記処理材において、高炉スラグ粉末を多量に配合すると、六価クロムの溶出量を低減できるが、固化後の強度発現性が低下するという問題がある。例えば、火山灰質粘性土などは六価クロムの溶出量が多いが、このような被処理土についても、固化後に十分な強度が発現でき、かつ六価クロムの溶出を効果的に抑制する処理材が求められている。
【0008】
また、セメント系固化材は、セメント自体がその原料および燃料に起因して六価クロムを含んでいることから,その硬化後も固化処理土から六価クロムが溶出する危険性を有している。
【0009】
本発明は、従来の上記処理材における上記問題を解決したものであり、六価クロムの溶出抑制効果に優れ、かつ固化後においても十分な強度を発現するセメント系固化材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、以下の構成によって上記問題を解決したセメント系固化材が提供される。
〔1〕ポルトランドセメントおよび石膏の水硬性成分に対して、第一鉄化合物または高炉スラグ微粉末の一種または二種と、銅スラグ微粉末とを配合してなることを特徴とし、六価クロムの溶出を抑制するセメント系固化材。
〔2〕銅スラグ微粉末の比表面積が6000cm2/g以上である上記[1]に記載するセメント系固化材。
〔3〕ポルトランドセメント含有量50質量%以上、石膏含有量5〜10質量%、銅スラグ微粉末含有量10〜20質量%、第一鉄化合物と高炉スラグ微粉末の一種または二種の含有量10〜20質量%であり、これらの合計含有量が100質量%である上記[1]または上記[2]に記載するセメント系固化材。
〔4〕銅スラグ微粉末の酸化鉄含有量40質量%以上、塩基度1.0以下である上記[1]〜上記[3]の何れかに記載するセメント系固化材。
【発明の効果】
【0011】
本発明の処理材は、ポルトランドセメントおよび石膏の水硬性成分に対して、銅スラグ微粉末と共に、第一鉄化合物および高炉スラグ微粉末の一種または二種を配合することによって、銅スラグ微粉末とこれら第一鉄化合物ないし高炉スラグが相乗的な効果を発揮するので、硫酸第一鉄、高炉スラグ微粉末、銅スラグ微粉末をおのおの単独に含むもの、あるいは硫酸第一鉄と高炉スラグ微粉末を含有するものに比べて格段に六価クロム溶出量が少なく、かつ固化後の圧縮強度が大きい。
【0012】
具体的には、実施例に示すように、例えば、ポルトランドセメントおよび石膏の水硬性成分に対して、硫酸第一鉄、高炉スラグ微粉末、銅スラグ微粉末をおのおの単独に配合した場合の六価クロム溶出量は0.12〜0.14mg/Lであるが、銅スラグ微粉末と共に第一鉄化合物および高炉スラグ微粉末の一種または二種を併用した本発明の処理材の六価クロム溶出量は0.02mg/Lであり、六価クロム溶出量が大幅に抑制される。
【0013】
また、実施例に示すように、本発明の処理材を混合した土壌の一軸圧縮強度は5000kN/m2以上であるが、ポルトランドセメントおよび石膏の水硬性成分に対して、硫酸第一鉄、高炉スラグ微粉末、銅スラグ微粉末をおのおの単独に配合した処理材を用いた場合の一軸圧縮強度は4800〜4870kN/m2であり、本発明の処理材よりも圧縮強度が小さい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、比表面積はブレーン比表面積である。
本発明の処理材は、ポルトランドセメントおよび石膏の水硬性成分に対して、第一鉄化合物または高炉スラグ微粉末の一種または二種と、銅スラグ微粉末とを配合してなることを特徴とし、六価クロムの溶出を抑制するセメント系固化材である。
【0015】
ポルトランドセメントは、規格(JIS R5210:2003「ポルトランドセメント」)に定めるものを使用することができる。特に普通ポルトランドセメントや早強ポルトランドセメントを好適に使用することができる。本発明の処理材に含まれるポルトランドセメントの含有量は50質量%以上であり、50〜60質量%が好ましい。
【0016】
石膏は、二水石膏、半水石膏、無水石膏のいずれも使用することができる。なお、強度の発現性を高めるには無水石膏が好ましい。本発明の処理材に含まれる石膏の含有量は、SO3基準で5〜10質量%が好ましい。石膏含有量が5質量%よりも少ないと十分な強度を得るのが難しく、10質量%よりも多いと強度に低下傾向が顕われてくるので好ましくない。なお、この石膏はポルトランドセメントに本来含まれているものとは別の追加的な石膏成分である。
【0017】
本発明のセメント系固化材は、ポルトランドセメントおよび石膏の水硬性成分と共に、固定化促進成分として、銅スラグ微粉末と共に、第一鉄化合物および高炉スラグ微粉末の一種または二種を含む。
【0018】
本発明のセメント系固化材は、固定化促進成分の必須成分として銅スラグ微粉末を含有する。銅スラグは、実施例の表1に示すように、鉄分の含有量が多く、アルミニウム、カルシウム、およびマグネシウムなどの塩基成分の含有量は数%である。具体的には、例えば、銅スラグの酸化鉄含有量は40質量%以上であり、塩基度1.0以下である。なお、塩基度はシリカ含有量に対する塩基成分量の比(Al23+CaO+MgO)/SiO2である。
【0019】
一方、高炉スラグはカルシウム分が多く、鉄分含有量は1%以下である。従って、本発明のセメント系固化材において、銅スラグ微粉末と高炉スラグ微粉末を併用することによって鉄分と共にカルシウム分が供給され、また、銅スラグ微粉末と硫酸第一鉄を併用することによって、硫酸第一鉄の還元性によって鉄分の多い銅スラグ微粉末が活性化されるなどの相乗的な作用が期待される。
【0020】
銅スラグ微粉末の粉末度は比表面積6000cm2/g以上が好ましい。実施例に示すように、銅スラグ微粉末の比表面積が4000cm2/g以下では固化処理後の圧縮強度が十分に向上せず、六価クロムの溶出量をやや抑制できない傾向がある。
【0021】
本発明のセメント系固化材中の銅スラグ微粉末含有量は10〜20質量%が好ましい。銅スラグ微粉末量が10質量%より少ないと、その効果が十分ではなく、20質量%より多いと、相対的に他の成分量が少なくなるので好ましくない。
【0022】
本発明のセメント系固化材は、銅スラグ微粉末と共に、第一鉄化合物または高炉スラグ微粉末の一種または二種を含む。第一鉄化合物としては硫酸第一鉄が好ましい。硫酸第一鉄などの第一鉄化合物は還元性を有し、六価クロムを三価クロムに還元して固定する作用を有する。
【0023】
高炉スラグは規格(JIS R 5211:2003「高炉セメント」)に規定される品質を有するものであれば良い。高炉スラグ微粉末の粉末度は比表面積3500cm2/g以上が良く、4500cm2/g以上が好ましい。高炉スラグ微粉末を含有することによって、水硬性が向上するなどの作用によって六価クロムの固定化が促進される。
【0024】
本発明のセメント系固化材において、銅スラグ微粉末は必須成分として含むが、第一鉄化合物と高炉スラグ微粉末は、何れか一種、または二種を含むものであれば良い。セメント系固化材中のこれらの含有量は、一種の場合には10〜20質量%が好ましく、二種の場合にはその合計量で10〜20質量%が好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。
セメント系固化材の材料として、普通ポルトランドセメント(三菱マテリアル社製品)、無水せっこう(関東化学社製品)、硫酸第一鉄(関東化学社製品)、高炉スラグ微粉末(宇部三菱セメント社製品)、および銅スラグ微粉末(三菱マテリアル社製品)を使用した。上記各材料の化学組成を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
〔実施例1〜5〕
上記各材料を表2に示す配合割合に従って混合し、本発明のセメント系固化材を調製した。なお、実施例1〜4の銅スラグ微粉末の比表面積は6220cm2/gであり、実施例5の銅スラグ微粉末の比表面積は3920cm2/gである。
〔比較例1〜3〕
上記各材料を表2に示す配合割合に従って混合し、比較例のセメント系固化材を調製した。
【0028】
上記セメント系固化材を最終処理場から採取した廃棄物と、別の場所で採取した一般土壌A、Bに対して、上記固化材を250kg/m3の質量割合で混合し、これらを水比100%で混練して供試体とした。この供試体について、固化後の一軸圧縮強度を規格(JIS A 1216「土の一軸圧縮試験方法」)に従って測定し、六価クロム溶出量を環境庁告示第46号に従って測定した。供試体に使用した廃棄物および土壌A、Bの物性を表3に示す。測定結果を表4に示す。
【0029】
表4に示すように、実施例1〜4の固化材は、廃棄物および一般土壌A〜Bについて、何れも、一軸圧縮強度が5100kN/m2以上であり、大きな圧縮強度が得られる。また、六価クロムの溶出量は0.02mg/Lであり、溶出量が格段に少ない。なお、銅スラグ微粉末の粉末度が6000cm2/g以下の実施例5は、廃棄物および一般土壌A〜Bについて、一軸圧縮強度5000〜5080kN/m2、および六価クロムの溶出量0.05mg/Lであり、実施例1〜4に比べて、一軸圧縮強度および六価クロム溶出抑制効果がやや低い。
【0030】
一方、固定化促進成分として硫酸第一鉄、高炉スラグ微粉末、銅スラグ微粉末の何れか一種を単独に用いた比較例1〜3は、これらの含有量が実施例1〜3、実施例5の固定化促進成分の合計含有量と同量(30質量%)であるが、廃棄物および一般土壌A〜Bについて、一軸圧縮強度は4800〜4920kN/m2であり実施例1〜4に比べて大幅に低い。また、六価クロムの溶出量は0.12〜0.14mg/Lであり、実施例1〜4に比べて6〜7倍である。
【0031】
以上のように、本発明に係る実施例1〜4の固化材は、比較例1〜3に比べて六価クロムの溶出量は1/6〜1/7に低減しており、格段に優れた溶出抑制効果を発揮する。また、一軸圧縮強度も大きい。
【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメントおよび石膏の水硬性成分に対して、第一鉄化合物または高炉スラグ微粉末の一種または二種と、銅スラグ微粉末とを配合してなることを特徴とし、六価クロムの溶出を抑制するセメント系固化材。
【請求項2】
銅スラグ微粉末の比表面積が6000cm2/g以上である請求項1に記載するセメント系固化材。
【請求項3】
ポルトランドセメント含有量50質量%以上、石膏含有量5〜10質量%、銅スラグ微粉末含有量10〜20質量%、第一鉄化合物と高炉スラグ微粉末の一種または二種の含有量10〜20質量%であり、これらの合計含有量が100質量%である請求項1または請求項2に記載するセメント系固化材。
【請求項4】
銅スラグ微粉末の酸化鉄含有量40質量%以上、塩基度1.0以下である請求項1〜請求項3の何れかに記載するセメント系固化材。

【公開番号】特開2011−93738(P2011−93738A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248705(P2009−248705)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】