セラミック積層基板の製造方法
【課題】 内部空間に導体材料を充填して導体配線および貫通導体が形成されるセラミック積層基板において、孔径を一層小さくして配線密度を高め得る製造方法を提供する。
【解決手段】 内部ダミー配線28および貫通孔30が形成された複数枚のグリーンシート26を積層して剛性の高い平坦な加圧面38で加圧して積層体とし、焼成処理を施すと、グリーンシート26が緻密に焼結させられると同時に、内部ダミー配線28が消失させられることによりその形状の層状空間が形成される。そして、層状空間および貫通孔30内に注入された融液が固化することにより内部配線14および貫通導体24が形成されて積層基板が得られる。そのため、実質的に変形しない平坦な加圧面38によってグリーンシート26がその表面に対して垂直方向に加圧されることから、面方向における変形が抑制されるので、貫通孔30が中空のままでも変形し或いは潰れることが好適に抑制される。
【解決手段】 内部ダミー配線28および貫通孔30が形成された複数枚のグリーンシート26を積層して剛性の高い平坦な加圧面38で加圧して積層体とし、焼成処理を施すと、グリーンシート26が緻密に焼結させられると同時に、内部ダミー配線28が消失させられることによりその形状の層状空間が形成される。そして、層状空間および貫通孔30内に注入された融液が固化することにより内部配線14および貫通導体24が形成されて積層基板が得られる。そのため、実質的に変形しない平坦な加圧面38によってグリーンシート26がその表面に対して垂直方向に加圧されることから、面方向における変形が抑制されるので、貫通孔30が中空のままでも変形し或いは潰れることが好適に抑制される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック積層基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミック積層基板は、複数のセラミック層の各々に形成された導体配線が貫通導体で相互に接続されたものであって、耐熱性が高く且つ信頼性が高いことから電子部品回路等に多用されている。このようなセラミック積層基板を製造するに際して、焼結基板内部の層間に設けられた配線形状の層状空隙および各層を貫通して設けられたその層状空隙を相互に連通させる貫通空隙内に、金、銀、銅、アルミニウム等の比抵抗の小さい(すなわち導電性の高い)導体材料を充填することにより、貫通導体で相互に接続された導体配線を内部に形成する基板の製造方法が知られている。
【0003】
例えば、複数枚のグリーンシート(すなわちセラミックスの未焼成シート)の各々に貫通孔(すなわちスルーホール)を設け、貫通孔の各々にタングステンやモリブデン等の高融点金属のペーストを充填すると共に、各々の表面にそのペーストを所定の配線形状で塗布して、積層および焼成することによって内部に多孔質の導体配線および貫通導体を形成し、その多孔質導体の空隙内に銅を溶融させて浸透させる多層配線基板の製造方法がその一例である(例えば特許文献1,2等参照)。
【0004】
また、高融点金属のペーストに代えて、基板の焼結温度で揮散する易揮散性材料(すなわち熱揮散性材料)のペーストを貫通穴内に充填すると共に表面に配線形状で塗布して、積層および焼成することによりその易揮散性材料が消失させられて内部に形成された配線形状の層状空間および貫通孔内に、金、銀、銅、アルミニウム等の融液を流し込む製造方法も提案されている(例えば特許文献3等参照)。
【0005】
これらの製造方法によれば、グリーンシートに導体ペーストを配線形状に塗布して積層および焼成することによりその導体ペーストでそのまま導体配線を形成する従来のシート積層法に対して、アルミナ(Al2O3)、酸化ベリリウム(BeO)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si3N4)等を主成分として1500(℃)以上で高温焼成される熱伝導率の高い高温積層基板を用いながら、導体配線材料の融点に対する制約が無くなっているので、比抵抗の小さい金、銀、銅、アルミニウム等を配線材料として用い得る利点がある。また、これらの導体材料は熱伝導率も高いことから、放熱性の面でも有利である。特に、前記特許文献3に記載された製造方法では、融液を充填すべき範囲が完全な空間となっているため、多孔質導体に形成された小さな気孔内に銅の融液を浸透させる特許文献1,2に記載された製造方法に比較して、融液の充填が容易であると共に、配線全体が金等の比抵抗の小さい材料で構成されるため断面積を小さくしながら配線抵抗を十分に低くできる利点がある。特に、銅は、マイグレーションが生じ難く好適である。
【0006】
因みに、グリーンシートに塗布した導体材料で導体配線や貫通導体をそのまま形成する従来のシート積層法では、配線厚みによって形成されたグリーンシート表面の段差が積層時に他のグリーンシートに吸収されることから積層数が実質的に制限されないので、積層数の上限が低い厚膜印刷積層法に比較して複雑な回路設計が可能となる利点がある。しかしながら、このようなシート積層法において、熱伝導率の高い高温積層基板を用いると、その焼成温度よりも融点の十分にタングステン、モリブデン、白金、イリジウム等の比抵抗の大きい材料に配線材料が限定される。これに対して、1000(℃)付近で焼成処理を施す低温焼成基板に金、銀等の配線材料を用いることが提案されており、このようなものでは内部に配線以外に抵抗体、コンデンサ、コイル等を設けることができる利点もあるが、ガラスやガラスを含むセラミックスから成る低温焼成基板は熱伝導率が低く放熱性に劣る問題があった。
【特許文献1】特開平5−218656号公報
【特許文献2】特開平5−267849号公報
【特許文献3】特開平7−170074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜3の何れに記載された製造方法においても、貫通孔に高融点金属或いは易揮散性材料のペーストを充填することが必須であるため、配線密度を高めるために孔径を小さくするほど充填が困難になり延いては基板の製造が困難になる不都合があった。貫通孔内にペーストが充填されていないと、積層して圧着する際のグリーンシートの変形で貫通孔が変形し或いは潰れるため、層間の導通を確保できないのである。また、充填量が過剰になると貫通孔からグリーンシート表面にはみ出して配線密度を低下させるが、この問題も孔径が小さくなるほど顕著となる。
【0008】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、内部空間に導体材料を充填して導体配線および貫通導体が形成されるセラミック積層基板において、孔径を一層小さくして配線密度を高め得る製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
斯かる目的を達成するため、第1発明の要旨とするところは、(a)複数枚のグリーンシートの各々の表面に凹溝または熱揮散性を有する突条を所定の配線形状で設けて凹凸模様を形成する凹凸形成工程と、(b)前記複数枚のグリーンシートの各々の前記所定の配線形状と重なる所定位置に貫通孔を形成する穿孔工程と、(c)前記凹凸模様および前記貫通孔が設けられた前記複数枚のグリーンシートを積層して加圧時に実質的に変形しない所定の剛性を有する平坦な加圧面で加圧することにより相互に接着して積層体とする圧着工程と、(d)前記積層体を焼成することにより複数の絶縁体層をそれぞれ貫通する前記貫通孔で相互に連通させられた前記配線形状の複数の層状空間が内部に形成された焼結基板を得る焼成工程と、(e)前記複数の層状空間および前記貫通孔内に溶融状態の導体材料を注入する導体材料注入工程とを、含むことにある。
【0010】
また、第2発明の要旨とするところは、(a)各々の表面に所定の配線形状で凹溝を有すると共に各々の配線形状と重なる所定位置に貫通孔を有する複数枚のセラミックシートを積層して加熱しつつ、加圧時に実質的に変形しない所定の剛性を有する平坦な加圧面で加圧して相互に接合することにより、複数の絶縁体層をそれぞれ貫通する前記貫通孔で相互に連通させられた前記配線形状の複数の層状空間が内部に形成された接合基板を得る加熱圧着工程と、(b)前記複数の層状空間および前記貫通孔内に溶融状態の導体材料を注入する導体材料注入工程とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0011】
前記第1発明によれば、凹凸形成工程および穿孔工程において凹凸模様および貫通孔が形成された複数枚のグリーンシートを、圧着工程において積層して加圧時に実質的に変形しない程度に剛性の高い平坦な加圧面で加圧して積層体とすると、その積層体の層間には凹溝により形成された層状空間または熱揮散性を有する突条が備えられる。焼成工程において、これに焼成処理を施すと、グリーンシートが緻密に焼結させられると同時に、凹溝がそのまま残存し或いは熱揮散性の突条が消失させられることによって、その形状の層状空間が絶縁体層をそれぞれ貫通する貫通孔で相互に連通させられた状態で形成される。そして、導体材料注入工程において焼結基板の層状空間および貫通孔内に注入された導体材料が固化することにより導体配線および貫通導体が形成されてセラミック積層基板が得られる。そのため、グリーンシートの貫通孔内には熱揮散性材料等が何ら充填されないので、貫通孔からの充填材料のはみ出しに対処するために孔径を大きくして配線密度を低下させる必要がない。このとき、圧着工程においては、実質的に変形せず平坦なままに保たれた加圧面によってグリーンシートがその表面に対して垂直方向に加圧されることから、面方向における変形が抑制されるので、貫通孔に熱揮散性材料や金属ペースト等が充填されていなくとも、貫通孔が変形し或いは潰れることが好適に抑制される。例えば、突条が設けられる態様においても、その高さ寸法は例えば20(μm)程度に過ぎない配線厚みに相当する大きさであって十分に小さいことから、グリーンシートの厚み方向の変形で殆ど吸収され、貫通孔の変形に影響しない。なお、貫通孔の変形は、グリーンシートの変形に追随するから、開口面積が著しく小さくなったり潰れが生じるほどの大きな変形でなければ許容される。したがって、セラミック積層基板を製造するに際して、グリーンシートに設ける孔径を一層小さくして配線密度を一層高めることができる。
【0012】
また、前記第2発明によれば、加熱圧着工程において焼成済のセラミックシートが相互に接合されると、絶縁体層をそれぞれ貫通する貫通孔で相互に連通させられた状態で凹溝形状の層状空間が形成される。そして、導体材料注入工程において接合基板の層状空間および貫通孔内に注入された導体材料が固化することにより導体配線および貫通導体が形成されてセラミック積層基板が得られる。そのため、積層するに際してセラミックシートの貫通孔内には熱揮散性材料等が何ら充填されないので、貫通孔からの充填材料のはみ出しに対処するために孔径を大きくして配線密度を低下させる必要がない。このとき、加熱圧着工程においては、実質的に変形せず平坦なままに保たれた加圧面によってセラミックシートがその表面に対して垂直方向に加圧されることから、加熱されることによって軟化させられていても面方向における変形が抑制されるので、貫通孔に熱揮散性材料や金属ペースト等が充填されていなくとも、貫通孔が変形し或いは潰れることが好適に抑制される。したがって、セラミック積層基板を製造するに際して、セラミックシートに設ける孔径を一層小さくして配線密度を一層高めることができる。なお、本願においてセラミックシートは焼成済のものをいう。
【0013】
なお、本願において「実質的に変形しない」とは、全く変形が認められないか、無視できる程度の変形であることを意味する。すなわち、加圧対象であるグリーンシート或いはセラミックシートよりも高い剛性を有していれば足りる。例えば、グリーンシート積層の条件は、一般に、加圧力が3〜40(MPa)程度、温度が室温よりも60〜100(℃)程度だけ高い温度であるから、このような条件で変形が無いか、無視できる程度の変形に留まるもので加圧面を構成すればよい。加圧面が変形しても、その変形に伴うグリーンシートの変形が弾性的なものであって加圧力を除去したときに元の形状に復帰するのであれば、そのような加圧面の変形は無視できる。このような加圧面を構成する材料としては、例えば、一般に成形型に用いられる金属材料が好適であり、セラミック材料や合成樹脂であっても差し支えない。特に、カーボンやセラミック粉末を分散させた合成樹脂は剛性が高く好適である。
【0014】
ここで、好適には、前記セラミック積層基板の製造方法は、前記導体材料注入工程に先立って前記層状空間の内面に前記絶縁体層よりも前記溶融状態の導体材料が濡れ易い被覆層を形成する被覆層形成工程を含むものである。このようにすれば、層状空間および絶縁体層を貫通する貫通孔に溶融状態の導体材料を注入するに先立ち、その層状空間の内面に絶縁体層よりも導体材料が濡れ易い被覆層が設けられるので、層状空間の内壁面と導体材料との間に空隙が生じることが好適に抑制され、その空隙に起因する回路抵抗の増大や導体の密着強度の低下が好適に抑制される。
【0015】
また、好適には、前記溶融状態の導体材料は、前記絶縁体層との濡れ性を改善するための添加成分を含むものである。このようにすれば、絶縁体層の層間に設けられた層状空間およびその絶縁体層を貫通する貫通孔に溶融状態の導体材料を注入するに際して、絶縁体層との濡れ性を改善するための添加成分を含む導体材料が用いられることから、層状空間の内壁面と導体材料との間に空隙が生じることが好適に抑制され、その空隙に起因する回路抵抗の増大や導体の密着強度の低下が好適に抑制される
【0016】
因みに、前記特許文献3に記載された基板の製造方法においても、導体材料の注入は必ずしも容易ではなく、基板材料と導体材料との濡れ性が悪い(すなわち接触角が大きい)場合には、層状空間や貫通孔の内壁面と注入された導体材料との間に隙間が生じ、回路抵抗が増大すると共に、導体の密着強度が不足して回路の信頼性が低下する問題があった。なお、上記第2発明および第3発明の何れによる場合にも、層状空間内や貫通孔内に存在することとなる導体材料以外の成分量は僅かに留まり、しかも、セラミックスから成る絶縁体層と導体材料との界面に集中することとなるので、被覆層を設け或いは添加成分を添加しても、配線抵抗は殆ど増大しない。
【0017】
好適には、前記積層基板は、表面に導体配線を備えたものであり、前記セラミック積層基板の製造方法は、前記導体材料注入工程の後に導体ペーストを表面に塗布してその表面導体配線を形成する工程を含むものである。この表面導体配線を形成するための導体ペーストは、導体配線形成に利用される一般的な導体ペーストが用いられ得る。
【0018】
また、前記グリーンシートは、公知の種々の成形方法で製造したものを用い得る。例えば、セラミック粉末に適当な成形助剤(バインダ)を添加して、適当な溶媒と共に混練することにより、その溶媒内に分散させて所望の粘度を有するスラリーを調製する。このスラリーを用いて、例えばドクターブレード法等のシート成形法によって適当な厚さ寸法に成形すればよい。また、押出成形法、粉末プレス成形法、射出成形法等で成形することもできる。粉末プレス成形や射出成形法による場合には、シート成形と同時に凹溝や貫通孔を形成することも可能である。
【0019】
また、上記セラミック粉末は、例えば、高温焼成基板に一般に利用されるアルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素、ジルコニア、ムライト等から成るものである。これらのセラミック粉末には、必要に応じて種々の焼結助剤が添加される。
【0020】
また、成形助剤としては、例えば、エチルセルロース系、アクリル系、ブチラール系等を合成樹脂材料を用い得る。また、分散溶媒としては、例えば、アルコール系材料や水を用いることができる。
【0021】
また、前記凹凸形成工程は、好適には、前記凹溝を反転した突条を備えた加圧面で押圧することにより、前記グリーンシートの表面に前記凹溝を形成するものである。一層好適には、その押圧時にグリーンシートが加熱される。このようにすれば、凹溝を形成するときの加圧力を小さくすることができる。
【0022】
また、前記凹凸形成工程は、好適には、前記グリーンシートの表面にスクリーン印刷法を用いて熱揮散性材料で前記突条を形成するものである。熱揮散性材料は、例えば、エチルセルロースやアクリル樹脂を適当な溶媒に溶解したビヒクルである。また、このビヒクルをそのまま用いてもよいが、揮散する温度よりも低温で軟化変形して所望の形状の空隙を形成できない場合には、熱、電子線、紫外線等で硬化する樹脂を添加し、印刷形成後に硬化処理を施せばよい。揮散温度は材料によって相違するが、例えば600(℃)程度の低温である。また、熱揮散性材料の粘性が低い場合には、精細なパターン形成が困難であると共に、所定の厚さ寸法の確保が困難になるので、例えば、前記溶剤に溶解しない有機物粉末を添加するとよい。このような有機物粉末としては、例えば、テレフタル酸系等の低分子化合物や、ポリスチレン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等の高分子化合物が挙げられる。また、熱等で硬化する樹脂を添加することに代えて、グリーンシートの熱圧着時に軟化変形しない粉末を添加すれば、突条の形成後に硬化処理を施す必要はない。このような粉末としては、例えば、炭素粉末が挙げられる。
【0023】
また、前記穿孔工程は、好適には、金型を用いた打抜き加工や、レーザ加工で前記貫通孔を形成するものである。なお、凹凸形成工程と、穿孔工程の順序は何れが先であっても差し支えない。凹凸形成工程が熱揮散性の突条を形成するものである場合において穿孔工程が先に実施される場合には、その突条を形成するための熱揮散性材料が貫通孔内に入る可能性があるが、何ら支障はない。
【0024】
また、前記圧着工程は、例えば、前記グリーンシートに含まれる樹脂、可塑剤や溶剤等の接着性を利用してグリーンシートを相互に接着するものであるが、それらの接着力は、例えば、グリーンシートの曝される温度、雰囲気、圧力等を調節してガラス化させることによって発揮させられる。雰囲気調節による方法としては、例えば、水蒸気雰囲気、溶剤雰囲気、グリーンシートの表面への溶剤塗布等が挙げられる。
【0025】
また、上記圧着工程は、好適には、減圧下で実施される。このようにすれば、グリーンシートの相互間から空気が好適に排出された状態でグリーンシートが相互に接着されることから、積層体に気泡が生じることが好適に抑制される。
【0026】
また、好適には、圧着工程は、前記グリーンシートの外周縁の位置を規制する型の中でそのグリーンシートを厚み方向に加圧するものである。このようにすれば、グリーンシートの面に沿った方向(横方向)の動きが制限されることから、貫通孔の変形が一層抑制される利点がある。例えば、貫通孔の孔径が現状の打抜きによる限界である0.1(mm)程度であれば、全く変形しないか、機能上全く支障のない程度の変形に留まる。
【0027】
また、上記圧着工程は、加圧しつつ加熱することにより、圧着と同時にグリーンシートを焼結させるものであってもよい。すなわち、本発明のセラミック積層基板の製造方法は、上記圧着工程と前記焼成工程とを同時に実施する所謂ホットプレス法を用いるものであってもよい。
【0028】
また、圧着工程は、機械的な加圧力を用いるものであっても、超音波を用いた所謂超音波溶接であってもよい。
【0029】
また、前記導体材料注入工程は、好適には、比抵抗が小さい材料、例えばAg、Au、Cu、Al或いはこれらを主成分とする合金の融液を注入するものである。前記焼結基板には、注入される溶融状態の導体材料温度で変形や変質が生じないだけの耐熱性が必要とされる。例えば、上記4つの金属の融点は1085(℃)以下であるから、例えば、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化硼素、酸化ベリリウム、マグネシア、ムライト、ジルコニア等のセラミック材料が好適に用いられる。特に、これらのうちムライトおよびジルコニア以外のものは熱伝導率も大きく好ましい。なお、低温焼成基板材料であっても、導体材料の種類に応じた耐熱性を有していれば用いることができ、内部配線抵抗を小さくする効果を享受できる。
【0030】
なお、上記セラミック材料のうち、アルミナは絶縁性、強度、熱伝導性といった性能と価格とのバランスが優れていることから多用されている。しかしながら、グリーンシートに配線を形成して積層、焼成するシート積層法では、大気中(酸化雰囲気中)で焼成可能な導体材料はPtやIr等の高価な貴金属材料に限られ、比較的安価なW、Mo等の材料を用いた場合には高コストの非酸化性雰囲気で焼成することが必要である。本発明によれば、グリーンシートの焼成工程後に導体材料を注入して配線を形成するので、酸化され易い安価な導体材料を用いながら大気中での焼成が可能となる利点がある。
【0031】
また、放熱性が特に求められる用途には、熱伝導性の特に優れたAlNが、高強度が要求される場合には、Si3N4といった非酸化物系セラミック材料が利用され、これらは、熱伝導率が何れも20(℃)において20(W/m・K)以上と優れているが、非酸化雰囲気での焼成が必須であると共に、焼成温度が1500(℃)以上であることから、比抵抗が4(μΩ・cm)以下の配線材料(例えば、Au、Ag、Al、Cu、これらの合金)を使用できなかった。本発明によれば、これらの材料においても、比抵抗の小さい配線材料を利用できる利点がある。
【0032】
また、導体材料注入工程は、導体材料の種類に応じた雰囲気下で実施される。例えば、Au、Ag等が用いられる場合には、大気雰囲気中でも差し支えないが、Cu、Al等が用いられる場合には、短時間であれば大気雰囲気中でも可能であるが酸素が少ない雰囲気下で実施することが好ましい。
【0033】
また、前記導体材料注入工程は、好適には、前記焼結基板を前記導体材料の溶融温度以上の温度に加熱した状態で実施される。このようにすれば、焼結基板の表面で導体材料が急激に冷却されて内部に十分に注入される前に凝固とすることが好適に抑制されると共に、焼結基板が急加熱されて破損することが好適に抑制される。なお、このようにする場合には、導体材料の注入後、焼結基板が徐冷される。
【0034】
また、前記導体材料注入工程は、好適には、前記焼結基板の表面および裏面の一方の気圧を相対的に低く保ちつつ他方から前記導体材料を注入するものである。このようにすれば、微細な貫通孔および層状空間の毛細管現象だけで注入する場合に比較して、注入が一層容易になる。但し、毛細管現象だけでも注入は可能であるため、気圧差を設けるか否かは、作業性を考慮して決定すればよい。なお、気圧差を設ける方法としては、一般的な金属の鋳込み成形に用いられる加圧装置や減圧装置を用い得る。
【0035】
また、前記セラミック層よりも前記導体材料が濡れ易い前記被覆層は、例えば、Bi、V、Mn、Mo、W、Cuの少なくとも一種の酸化物から成るものである。このような被覆層は、例えば、これらの金属の化合物(例えば、塩化物、硝酸塩化合物、アンモニウム塩化合物、アルキル基を有する各種の金属化合物、蓚酸化合物、クエン酸化合物、金属アルコレート等)の少なくとも一種を適当な溶媒(例えば、水、アルコール、有機溶媒等)に溶解した溶液を焼結基板の層状空間および貫通孔内に充填し、熱分解して酸化することにより形成することができる。また、酸化物や酸化物に変化し得る固体であっても、粒子径が0.1(μm)以下と小さく溶液に分散させ得るものであれば利用できる。また、好適には、被覆層は、0.02〜2(mg/cm2)の範囲内の付着量となるように設けられる。
【0036】
また、セラミック層との濡れ性を改善するために前記導体材料に添加される成分は、例えば、上記金属の極微粉酸化物である。このような用途の極微粉の大きさは、例えば0.2(μm)程度以下が好ましい。なお、添加量は、5(容量%)以下が好ましい。粉末を添加すると導体材料の粘性が増大するため、添加量が過剰になると却って充填性が低下する。
【0037】
なお、上記のような用途の添加成分としては、Ti、Zn、Mg、Si、Bi、V、Mn、Mo、W、Cuから選ばれる少なくとも一種の金属である。これらは活性が高いことからセラミック層や前記のような配線材料との親和性が高いため、濡れ性改善に有効である。これらの金属は、例えば0.1〜5(容量%)の範囲で添加されることが好ましい。
【0038】
なお、上述したような導体材料にBi等の金属を添加して濡れ性を改善する効果は、アルミナ等の酸化物セラミックスに対して顕著であり、AlN等の非酸化物系セラミックスに対しては高い効果が得られない。しかしながら、非酸化物系セラミックスの場合にも、その表面を僅かに酸化させることで高い効果を得ることができる。
【0039】
また、導体材料を注入する際に、その充填表面が焼結基板の表面と同一平面に位置することが好ましいが、焼結基板表面に対して僅かに凹または凸になっていても差し支えない。例えば凸になっていても、表面配線を形成する際のスクリーン印刷等の妨げにならない程度、例えば20(μm)程度の凸であれば何ら問題がない。また、妨げとなる程度に凸になった場合には、研削、研磨、ブラスト処理等によって仕上げ加工を施せばよい。
【0040】
また、好適には、前記貫通孔は、焼結基板の表面と裏面とで同一位置において開口するように設けられる。このようにすれば、複数個の焼結基板を重ね合わせて、最上位置にある焼結基板の貫通孔から一括して導体材料を注入できるので導体材料注入工程が一層簡単になる。なお、このような設計が困難な場合には、表面の貫通孔と裏面の貫通孔とを接続するためのダミー基板を焼結基板相互間に介挿して導体材料を注入すればよい。注入、冷却後に積層方向に対して垂直な方向に剪断応力を作用させることにより、ダミー基板と焼結基板とを接続する導体を破断し、分離することが可能となる。この結果、焼結基板の表面と同一高さの充填が得られる利点もある。
【0041】
また、好適には、前記凹凸形成工程は、前記複数枚のグリーンシートのうち最上層に位置させられることとなるものの表面にも、その表面に形成しようとする配線形状の凹溝を設けるものであり、前記導体材料注入工程は、その導体材料に濡れない材料で構成された平坦面を備え且つ焼結基板の貫通孔に対応する位置に注入用貫通孔を備えた平板状治具をその焼結基板の表面に載せて、その注入用貫通孔から導体材料を注入するものである。このようにすれば、焼結基板の表面の導体配線が内部配線と同時に形成されることから、製造工程が一層簡単になる利点がある。しかも、表面配線が基板表面と略同一平面上に位置することから、その表面への部品搭載や印刷回路形成が一層容易になる利点がある。なお、上記平板状治具を用いないで注入することも可能であるが、焼結基板表面が自由な状態でその表面の凹溝内に導体材料が充填されると、その表面張力で決定される厚みの盛り上がりが生じて所望の厚さ寸法が得られない可能性がある。上記平板状治具の構成材料としては、導体材料に濡れにくい材料、例えば、AlN、Si3N4、BN等が好適である。
【0042】
また、導体材料を注入するに際しては、貫通孔からの導体材料の漏れを防ぐために、焼結基板を一対の平板状治具で挟んで保持することが好ましい。このとき、注入側の平板状治具には焼結基板の貫通孔の開口位置等に注入用貫通孔が設けられる。他方の平板状治具は、緻密なものであっても焼結基板との隙間を通してガスの流通が可能であるが、導体材料からのガス抜きが促進されるように通気性を有するものが望ましい。なお、導体材料の注入は、例えば、焼結基板の下面側から行うことができる。
【0043】
また、好適には、前記グリーンシートに形成される前記貫通孔は、0.25(mm)以下の直径とすることが好ましい。このようにすれば、焼結基板と導体材料との熱膨張係数の相違に起因する応力が十分に小さくなるので、その焼結基板の破壊や導体の剥離が好適に抑制される。なお、層状空間内に充填される導体材料は、厚さ寸法を薄くすることが容易であり、例えば20(μm)程度以下にすれば、十分に断面積が小さくなるので、熱応力の問題は何ら生じない。凹溝を設ける場合においても、突条を設ける場合においても、このような小さい深さ寸法或いは高さ寸法で設けることに何ら困難性はない。これに対して、貫通孔は、打抜き或いはレーザ加工の何れの製造方法による場合にも、凹溝の深さ寸法等に比較して極めて大きい開口径となるため、焼結基板との間の熱膨張係数差が問題となるのである。なお、凹溝の幅寸法は深さ寸法の20倍以下に留めることが望ましい。これを超えると積層圧着の際に上に載せられたグリーンシートが凹溝底面に固着して層状空間が得られなくなる可能性がある。20倍以下であれば、グリーンシートの弾性によって形状が戻るため問題がない。
【0044】
また、本発明によれば、基板の焼成工程の後に配線の形成工程が実施されることから、配線材料に比抵抗の小さい低融点の材料を用いることができる。そのため、線幅の細い微細配線としても十分な導電性を確保できる。なお、本発明の製造方法では、基板の焼成工程の他に導体材料を溶融させて流し込むための熱工程が追加されることとなるが、導体材料の融点が1100(℃)以下と低温であるため、エネルギー損失は僅かに留まる。
【0045】
また、導体配線をグリーンシートにスクリーン印刷で設けていた従来のシート積層法では、精細な配線パターンを形成するために例えば10(μm)以下の微細な金属粉を必要としていた。この金属粉の微細化は、Auを除けば原料価格と同等以上の高コストを必要とするものであったが、本発明によれば、金属粉の微細化が無用となる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0047】
図1は、本発明の一実施例の製造方法が適用されることにより製造された多層基板10の断面構造を模式的に示す図である。多層基板10は、複数層、例えば6層の絶縁体層12a,12b,〜12fが積層されると共に、それらの相互間に内部配線層14a,14b,〜14eが備えられ、更に、その表面16および裏面18にそれぞれ表面側配線層20および裏面側配線層22が備えられたものである。
【0048】
上記の絶縁体層12は、例えば純度96(%)程度のアルミナ(Al2O3)から成る実質的に気孔率が零の緻密なセラミックスであって、それぞれ0.2(mm)程度の厚さ寸法を備えている。また、上記の配線層14,20,22は、例えば銅等の比抵抗の極めて小さい導体材料から成るものであって、それぞれ例えば10(μm)程度の厚さ寸法で設けられている。すなわち、本実施例においては、絶縁体層12が1500(℃)以上の高温で焼成されるアルミナで構成されるにも拘わらず、配線層14,20,22は比抵抗が1.67(μΩ・cm)程度と極めて低い銅で構成されている。なお、上述したように配線層14,20,22は、絶縁体層12に比較して著しく薄いものであるが、図示の便宜上、比較的厚く描いている。
【0049】
また、上記配線層14,20,22は、絶縁体層12を貫通して設けられた直径が0.1(mm)程度の貫通導体24によって相互に連通させられることにより、積層基板10内に複雑な配線を形成している。この貫通導体24も、配線14等と同様に銅で構成されたものである。そのため、内部配線全体が比抵抗の小さい銅で形成されていることから、積層基板10内の配線抵抗は著しく低くなっている。なお、積層基板10の表面16および裏面18には、電子回路を構成するための抵抗体、コンデンサ、コイル、半導体等の部品が実装されるが、図1および以下の各図においてはこれらを省略した。また、貫通導体24は、例えば直径0.1(mm)程度の大きさで設けられているが、図示の便宜上、比較的大きく描いている。
【0050】
このような積層基板10の特性を、導体材料にタングステンが用いられた他は同一寸法・形状および同一配線形状に構成した従来の積層基板と比較したところ、内部配線抵抗が従来の1/10程度であることが確かめられた。これは、比抵抗が5.65(μΩ・cm)程度であるタングステンに比較して銅の比抵抗が著しく低いことに加え、タングステンを焼結した従来の積層基板の導体は空隙、焼結助剤や粒界が存在するのに対し、配線層14等が比較して緻密で焼結助剤等の添加物を含んでいないためと考えられる。また、積層基板10は、従来のものに比較して熱伝導性が5(%)程度大きく、重量が0.4(%)程度軽くなっていた。この相違は、銅とタングステンの熱伝導率や比重の相違に起因するものと考えられる。この相違の程度は内部配線形状に応じて変化するが、どのような構造であっても従来に比較して熱伝導性が大きく且つ重量が軽くなる。
【0051】
また、内部配線層14と表面配線層20,裏面配線層22との密着性は、従来の積層基板と同等であった。但し、内部配線がタングステンで構成された従来の積層基板は、表面配線層および裏面配線層に銀、金、銅、アルミニウム等を用いる場合には、それらの接合力を高めるための中間層を内部配線層上に形成することが必須であったのに対し、積層基板10によれば、内部配線層14が銅で構成されていることから、中間層などは何ら必要としない利点がある。
【0052】
上記の積層基板10は、例えば、図2に示される工程に従って製造される。以下、図2および工程の各段階における基板の状態を示す図3〜図11を参照して製造方法を説明する。先ず、グリーンシート成形工程P1では、例えば、純度96(%)程度で平均粒径が2(μm)程度のアルミナ粉末を用意し、例えばアクリル樹脂等のバインダ、水、分散剤、消泡剤、可塑剤等と共に混練して泥漿(スラリー)を調製して、スリップキャスティングによって厚さ寸法が焼成後厚みで例えば0.2(mm)程度のグリーンシートを成形した。次いで、打抜き工程P2において、これを製造しようとする基板形状に応じた形状に打ち抜き、図3に示すグリーンシート26を製造した。
【0053】
次いで、内部ダミー配線形成工程P3においては、熱揮散性ペースト調製工程S1において別途調製した熱揮散性ペーストを用いて、グリーンシート26の表面に形成しようとする配線形状に応じた形状の内部ダミー配線28すなわち突条を例えば20(μm)程度の厚さ寸法で形成した。なお、上記熱揮散性ペーストは、例えば、エチルセルロースをターピネオールに溶解したビヒクルであり、必要に応じ平均粒径が1〜3(μm)程度のスチレンビーズがペースト中に分散される。図4は、内部ダミー配線28が形成されたグリーンシート26の断面を模式的に表したものである。本実施例においては、この内部ダミー配線形成工程P3が凹凸形成工程に対応する。
【0054】
次いで、穿孔工程P4においては、内部ダミー配線28を形成したグリーンシート26を、例えば打抜き型で打ち抜くことにより、配線形状毎に定められた位置に例えば直径0.1(mm)程度の貫通孔(スルーホール)30を形成する。図5は、貫通孔30が形成されたグリーンシート26の断面を模式的に表したものである。このような順序で形成されることから、貫通孔30内には前記樹脂液が何ら入り込んでいない。
【0055】
なお、内部ダミー配線形成工程P3と穿孔工程P4とは反対の順序で実施してもよい。この場合、内部ダミー配線28は、穿孔されたグリーンシート26或いは貫通孔30と対面させられる他のグリーンシート26に形成することができる。前者ではダミー配線材料が若干貫通孔30内にダレ込んでもよいが、貫通孔30内を熱揮散性ペーストで充填する必要はない。後者では積層時に内部ダミー配線28の厚み分だけ貫通孔30が変形するが、後述する焼成工程P6により内部ダミー配線28を消失させた後に形成される空間の連続性には問題が無い。
【0056】
次いで、積層圧着工程P5では、上記のようにして相互に異なる形状で内部ダミー配線28および貫通孔30がそれぞれ設けられた複数枚例えば6枚のグリーンシート26を、圧着装置の枠32内に重ねて配置し、例えば75(℃)程度の温度に加熱しつつ加圧板34,34で上下面から10(MPa)程度の圧力で加圧する。これにより、グリーンシート26内の樹脂成分がガラス化して相互に圧着され、積層体36が得られる。この加圧板34は、例えば、SKD11(焼入鋼)、SUS304(非焼入鋼)等の加圧成形型材料で構成され、グリーンシート26に向かう加圧面38が平坦で、上記加圧力では実質的にその加圧面38が変形しない程度の剛性を備えたものである。図6に加圧開始時の状態を、図7に圧着後の状態をそれぞれ示す。なお、一番上に積層されるグリーンシート26には、内部ダミー配線28が設けられていない。また、加熱に代えて、グリーンシート26内の樹脂成分を溶解或いは膨潤させる溶剤を塗布して加圧圧着することもできる。
【0057】
上記の圧着過程において、内部ダミー配線28は、加熱により軟化させられたグリーンシート26内に押し込まれるので、重ねられた複数枚のグリーンシート26が相互に密着させられ、その相互間すなわち層間に内部ダミー配線28が初期の状態を略保ったまま設けられることとなる。このとき、上記のように平坦で剛性の高い加圧面で加圧されることから、グリーンシート26の表面に平行な方向の剪断応力は何ら作用しない。そのため、貫通孔30は、この圧着工程においても殆ど変形せず、形成時の直径0.1(mm)程度の円形断面に保たれている。
【0058】
次いで、焼成工程P6においては、グリーンシート26が圧着された積層体36を大気中にて例えば1600(℃)程度の最高保持温度で焼成処理する。これにより、グリーンシート26が緻密に焼結させられ、図8に示される絶縁層12が積層された焼結基板40が得られる。この焼成過程において、内部ダミー配線28は分解或いは揮発することによって消失させられるので、焼結基板40の内部には、当初から形成されていた空隙すなわち貫通孔30と、内部ダミー配線28が設けられていた位置に形成された空隙すなわち配線形状の層状空間42とが備えられている。なお、焼成工程P6を、積層圧着工程P5に先立って実施することもできる。その場合には、得られたセラミックシートをホットプレス装置によって高温で加熱しつつ加圧して接合すればよい。すなわち、この場合にも、積層圧着する装置に一層の耐熱性と剛性が要求される他は、同様に考えることができる。
【0059】
次いで、被覆層形成工程P7では、被覆溶液調製工程S2で別途用意した銅イオンを含む水溶液、例えばCu(NO3)2水溶液を、焼結基板40内の空隙30,42に注入し、乾燥後、例えば大気中にて1100(℃)程度の最高保持温度で焼成処理を施す。これにより、焼結基板40の空隙30,42の内壁面に例えばCuO等の銅酸化物から成る被覆層44が1(μm)以下の膜状或いは島状に点在して形成される。或いは、適切な酸素分圧下であれば、CuOとAl2O3が反応して極薄い反応層が形成される。図9は、この段階における焼結基板40の右側部分を省略して示している。本実施例では、配線材料として銅が用いられているので、上記被覆層44の構成材料は、銅との濡れ性が高い材料を選択したものである。なお、この被覆層44は、上記のように極めて薄い層であるので、他の図においては全て省略した。
【0060】
次いで、導体注入工程P8では、図10に示される銅注入装置46を用いて焼結基板40の空隙30,42に銅を注入する。焼結基板40は、例えば1100(℃)程度の温度に予熱された後、その最下層12に形成されている貫通孔30に対応する複数の注入孔48を備えた蓋部材50の平坦な表面に載せられ、その上面には、押え板52が載せられている。蓋部材50は、例えば、緻密な金属或いはセラミックス等から成るものであり、その注入孔48の開口径は、貫通孔30の開口径より1(mm)程度大きいものである。また、押え板52は、例えば多孔質の窒化珪素等から成るものであって、その略平坦な下面が焼結基板40に密着させられている。焼結基板40の側方には、1100(℃)程度に保持された銅の融液54が蓄えられた貯湯槽56が備えられており、蓋部材50の下側に設けられた融液注入室58に通路60を介して連通させられている。貯湯槽56内の融液54の液面は、焼結基板40の上面よりも高くなるように融液量が調節される。
【0061】
このように構成された銅注入装置46によれば、貯湯槽56内の融液54の液面が焼結基板40よりも高くされていることから、その液面との重力差によって、融液54は、注入孔48から焼結基板40に向かって供給される。この注入孔48上には貫通孔30が位置させられているので、融液54は、その貫通孔30から焼結基板40内に送り込まれ、その貫通孔30に連続する層状空間42を経由して、更に、それに連通する貫通孔30,層状空間42を経由して、焼結基板40の上面まで送られる。焼結基板40の上面に開口する貫通孔30は、多孔質の押え板52によって塞がれているので、その貫通孔30から融液54が飛び出すことはない。また、融液54から発生したガスは、押え板52と焼結基板40との隙間や、多孔質の押え板52を通って焼結基板40の外部に排出される。なお、銅の注入は、焼結基板40の貫通孔30上に銅片を置いて加熱する方法でも可能である。この場合、銅片の大きさは内部空間の大きさに応じて適宜決定される。また、内部空間を減圧すれば確実に無気孔で銅を注入させ得る。
【0062】
上記のようにして焼結基板40内に十分に融液54を注入して、焼結基板40を冷却した後、取出し工程P9では、上記の押え板52を除去すると共に、銅注入装置46から焼結基板40を取り出す。この工程では、例えば、焼結基板40を蓋部材50に対して横方向に移動させることで、貫通孔30から注入孔48に連続して注入され且つ硬化させられた銅をそれらの境界で破断し、焼結基板40を引き剥がす。図11に取り出した焼結基板40を示すように、その内部の貫通孔30および層状空間42内が銅で満たされることによって貫通導体24および内部配線層14が形成されている。焼結基板40の表面16および裏面18には、それぞれ押え板52および蓋部材50が密接させられていたため、貫通導体24は、それら表面16および裏面18と略面一に形成されている。
【0063】
前記の多層基板10は、このようにして内部配線層14および貫通導体24が設けられた焼結基板40に、例えばスクリーン印刷法を用いて表面側配線層20および裏面側配線層22を形成することによって製造される。
【0064】
上述したように、本実施例によれば、内部ダミー配線形成工程P3および穿孔工程P4において内部ダミー配線28および貫通孔30が形成された複数枚のグリーンシート26を、積層圧着工程P5において積層して剛性の高い平坦な加圧面38で加圧して積層体36とすると、その積層体36の層間には内部ダミー配線28から成る突条が備えられる。焼成工程P6において、これに焼成処理を施すと、グリーンシート26が緻密に焼結させられると同時に、内部ダミー配線28が消失させられることによってその形状の層状空間42が形成される。そして、導体注入工程P8において焼結基板40の層状空間42および貫通孔30内に注入された融液54が固化することにより内部配線14および貫通導体24が形成されて積層基板10が得られる。そのため、積層圧着工程P5においては、実質的に変形せず平坦なままに保たれた加圧面38によってグリーンシート26がその表面に対して垂直方向に加圧されることから、面方向における変形が抑制されるので、貫通孔30が中空のままであっても、変形し或いは潰れることが好適に抑制される。したがって、そのような変形等を考慮する必要がないので、積層基板10を製造するに際して、グリーンシート26に設ける孔径を一層小さくして配線密度を一層高めることができる。また、貫通孔充填材のはみ出しによって配線密度が低下することもない。
【0065】
しかも、本実施例によれば、層状空間42および貫通孔30に融液54を注入するに先立ち、それらの内面に焼結基板40よりも融液54が濡れ易い被覆層44が設けられるので、層状空間42および貫通孔30の内壁面と融液54との間に空隙が生じることが好適に抑制され、その空隙に起因する回路抵抗の増大や導体の密着強度の低下が好適に抑制される。
【0066】
また、本実施例によれば、積層圧着が枠32内においてグリーンシート26の横方向の動きを制限した状態で行われることから、貫通孔30の変形が一層抑制される利点がある。
【0067】
また、本実施例においては、融液54を注入するに際して、貫通孔30が押え板52および蓋部材50で塞がれることから、注入された融液54の表面の位置がそれら押え板52および蓋部材50で規制されるため、表面16および裏面18の平坦性が高められる利点がある。
【0068】
次に、本発明の他の実施例を説明する。図12に示される実施態様は、前記の図2の被覆層形成工程P7までを同様に実施した後、導体注入工程P8を異なる態様で実施したものである。図12において、複数枚の焼結基板40a,40b,40cは、蓋部材50上にダミー基板62a,62bを介して積層されている。ダミー基板62は、表面に沿って伸びる層状空間64と、その層状空間62を表面および裏面に連通させる貫通孔66,68をそれぞれ内部に備えたものである。これら貫通孔66,68は、それぞれ上下に位置する焼結基板40の貫通孔30と同一位置に設けられている。そのため、上下の焼結基板40,40の貫通孔30,30は、ダミー基板62を介して連通させられている。なお、複数枚の焼結基板40が重ねられている他は、前述した図10に示される実施態様と同様であり、焼結基板40の上には、押え板52が配置される。
【0069】
このように重ねて配置された焼結基板40a,40b,40cに対して、図10に示される場合と同様に銅注入装置46の注入孔48から貫通孔30に融液54を注入すると、一番下の焼結基板40a内を通ってその上面に設けられている貫通孔30から流れ出て、ダミー基板62aの貫通孔66内に入る。貫通孔66に入った融液54は、層状空間64、貫通孔68を経て、中間に位置する焼結基板40b内に貫通孔30から入り、その内部を通って上側に位置するダミー基板62b内にその貫通孔66から入る。そして、その貫通孔68を通って上側に位置する焼結基板40c内に入る。そのため、本実施例によれば、重ねられた3枚の焼結基板40内に一括して融液54を注入できるので、製造効率が高められる利点がある。
【0070】
なお、上記の焼結基板40は、図から明らかなように、裏面に開口する貫通孔30の位置と、表面に開口する貫通孔30の位置とが面方向において一致していない。そのため、複数枚を直接重ねると、貫通孔30が互いに塞がれることとなるので、一括して融液54を注入することができないが、上記のようにダミー基板62内に融液54の流路を確保することで一括処理が可能となるのである。なお、表面および裏面の貫通孔30の位置が揃っている場合には、ダミー基板62を用いることなく、焼結基板40を重ねて融液54を注入することができる。
【0071】
図13は、更に他の実施例で用いられるグリーンシート70の断面構造を説明する図であって、前記実施例の図5に対応する図である。このグリーンシート70の表面には、前記の内部ダミー配線28に代えて、配線形状の凹溝72が、例えば10(μm)程度の配線厚みに等しい深さ寸法で形成されている。この凹溝72は、例えば、前記の打抜き工程P2においてグリーンシート70を打ち抜く際に、凹溝72を反転した形状すなわち配線形状の突条が加圧面に形成された打抜き型を用いることによって形成されたものである。なお、打抜きと凹溝形成とを別々の工程で実施しても差し支えない。
【0072】
このように構成されたグリーンシート70も、前記のグリーンシート26と同様に積層して圧着し、内部に形成された空間に融液52等の導体材料を注入することで積層基板10を構成することができる。すなわち、内部ダミー配線28で突条を形成した場合と略同様な構造が実現されるのである。この場合においても、加圧面38を平坦且つ剛性の高い材料で構成することにより、貫通孔30や凹溝72を殆ど変形させることなく積層圧着することが可能である。
【0073】
図14は、更に別の実施例を説明する図である。この実施例では、例えば、上記のグリーンシート70を用いることができる。すなわち、貫通孔30および凹溝72がそれぞれ形成された複数枚のグリーンシート70を重ね合わせ、前記の図6に示されるように圧着する。このとき、最上層に位置するグリーンシート70にも凹溝72が形成されており、最下層に位置するグリーンシート70には、上下両面に凹溝72が形成されている。次いで、これに焼成処理を施し、焼結基板74を作製した後、導体材料の融液54を貫通孔30から注入する。図14は、この注入時の配置を示しており、焼結基板74の最上層に位置する絶縁体層76aおよび最下層に位置する絶縁体層76bにも凹溝72が形成されているため、焼結基板74と押え板52との間および蓋部材50との間に配線形状の層状空間が形成されている。
【0074】
そのため、本実施例によれば、注入孔48から注入された融液54は、焼結基板74と蓋部材50との間の層状空間(凹溝72)を満たしつつ、焼結基板74内を通って最上位置の絶縁体層76に到達し、その絶縁体層76と押え板52との間の空間にも満たされる。図15は、融液54の冷却後、銅注入装置46から取り出した焼結基板74を示す図である。上記のようにして融液54が満たされる結果、焼結基板74の表面78および裏面80には、それと面一に表面側配線層82および裏面側配線層84が形成されている。
【0075】
したがって、本実施例によれば、表面側配線層82および裏面側配線層84が内部配線層14および貫通導体24と同時に形成されることから、これらを別々に形成する場合に比較して、工程が簡単になる利点がある。しかも、形成された表面側配線層82および裏面側配線層84は、表面78および裏面80に突き出していないことから、それら表面78および裏面80への部品の実装や配線形成が一層容易になる利点がある。
【0076】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施例の積層基板の断面構造を説明する図である。
【図2】図1の積層基板の製造方法を説明する工程図である。
【図3】シート成形後、所定の形状に打ち抜かれたグリーンシートを示す斜視図である。
【図4】グリーンシートの表面に樹脂膜を形成した状態を模式的に示す断面図である。
【図5】グリーンシートに貫通孔を設けた状態を模式的に示す断面図である。
【図6】積層圧着工程の実施状態を模式的に示す断面図である。
【図7】圧着形成された積層体を模式的に示す断面図である。
【図8】図7の積層体を焼成して得られた焼結基板を模式的に示す断面図である。
【図9】被覆層の形成状態を説明する図である。
【図10】図8の焼結基板の内部空間に導体融液を注入する工程を模式的に示す断面図である。
【図11】導体が充填された焼結基板を模式的に示す断面図である。
【図12】本発明の他の実施例であって、複数枚の焼結基板を積層して導体融液を注入する工程を模式的に示す断面図である。
【図13】本発明の更に他の実施例であって、グリーンシートに凹溝が設けられる態様を説明する図である。
【図14】本発明の更に他の実施例の製造方法の要部であって、基板表面に凹溝を設けた場合の注入工程を説明する図である。
【図15】図14に示す実施例において形成された基板を示す断面図である。
【符号の説明】
【0078】
10:多層基板、12:絶縁体層、14:内部配線層、20:表面配線層、22:裏面配線層、24:貫通導体、26:グリーンシート、28:樹脂膜、30:貫通孔、34:加圧板、36:積層体、38:加圧面、40:焼結基板、42:層状空間、44:被覆層
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック積層基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミック積層基板は、複数のセラミック層の各々に形成された導体配線が貫通導体で相互に接続されたものであって、耐熱性が高く且つ信頼性が高いことから電子部品回路等に多用されている。このようなセラミック積層基板を製造するに際して、焼結基板内部の層間に設けられた配線形状の層状空隙および各層を貫通して設けられたその層状空隙を相互に連通させる貫通空隙内に、金、銀、銅、アルミニウム等の比抵抗の小さい(すなわち導電性の高い)導体材料を充填することにより、貫通導体で相互に接続された導体配線を内部に形成する基板の製造方法が知られている。
【0003】
例えば、複数枚のグリーンシート(すなわちセラミックスの未焼成シート)の各々に貫通孔(すなわちスルーホール)を設け、貫通孔の各々にタングステンやモリブデン等の高融点金属のペーストを充填すると共に、各々の表面にそのペーストを所定の配線形状で塗布して、積層および焼成することによって内部に多孔質の導体配線および貫通導体を形成し、その多孔質導体の空隙内に銅を溶融させて浸透させる多層配線基板の製造方法がその一例である(例えば特許文献1,2等参照)。
【0004】
また、高融点金属のペーストに代えて、基板の焼結温度で揮散する易揮散性材料(すなわち熱揮散性材料)のペーストを貫通穴内に充填すると共に表面に配線形状で塗布して、積層および焼成することによりその易揮散性材料が消失させられて内部に形成された配線形状の層状空間および貫通孔内に、金、銀、銅、アルミニウム等の融液を流し込む製造方法も提案されている(例えば特許文献3等参照)。
【0005】
これらの製造方法によれば、グリーンシートに導体ペーストを配線形状に塗布して積層および焼成することによりその導体ペーストでそのまま導体配線を形成する従来のシート積層法に対して、アルミナ(Al2O3)、酸化ベリリウム(BeO)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si3N4)等を主成分として1500(℃)以上で高温焼成される熱伝導率の高い高温積層基板を用いながら、導体配線材料の融点に対する制約が無くなっているので、比抵抗の小さい金、銀、銅、アルミニウム等を配線材料として用い得る利点がある。また、これらの導体材料は熱伝導率も高いことから、放熱性の面でも有利である。特に、前記特許文献3に記載された製造方法では、融液を充填すべき範囲が完全な空間となっているため、多孔質導体に形成された小さな気孔内に銅の融液を浸透させる特許文献1,2に記載された製造方法に比較して、融液の充填が容易であると共に、配線全体が金等の比抵抗の小さい材料で構成されるため断面積を小さくしながら配線抵抗を十分に低くできる利点がある。特に、銅は、マイグレーションが生じ難く好適である。
【0006】
因みに、グリーンシートに塗布した導体材料で導体配線や貫通導体をそのまま形成する従来のシート積層法では、配線厚みによって形成されたグリーンシート表面の段差が積層時に他のグリーンシートに吸収されることから積層数が実質的に制限されないので、積層数の上限が低い厚膜印刷積層法に比較して複雑な回路設計が可能となる利点がある。しかしながら、このようなシート積層法において、熱伝導率の高い高温積層基板を用いると、その焼成温度よりも融点の十分にタングステン、モリブデン、白金、イリジウム等の比抵抗の大きい材料に配線材料が限定される。これに対して、1000(℃)付近で焼成処理を施す低温焼成基板に金、銀等の配線材料を用いることが提案されており、このようなものでは内部に配線以外に抵抗体、コンデンサ、コイル等を設けることができる利点もあるが、ガラスやガラスを含むセラミックスから成る低温焼成基板は熱伝導率が低く放熱性に劣る問題があった。
【特許文献1】特開平5−218656号公報
【特許文献2】特開平5−267849号公報
【特許文献3】特開平7−170074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜3の何れに記載された製造方法においても、貫通孔に高融点金属或いは易揮散性材料のペーストを充填することが必須であるため、配線密度を高めるために孔径を小さくするほど充填が困難になり延いては基板の製造が困難になる不都合があった。貫通孔内にペーストが充填されていないと、積層して圧着する際のグリーンシートの変形で貫通孔が変形し或いは潰れるため、層間の導通を確保できないのである。また、充填量が過剰になると貫通孔からグリーンシート表面にはみ出して配線密度を低下させるが、この問題も孔径が小さくなるほど顕著となる。
【0008】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、内部空間に導体材料を充填して導体配線および貫通導体が形成されるセラミック積層基板において、孔径を一層小さくして配線密度を高め得る製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
斯かる目的を達成するため、第1発明の要旨とするところは、(a)複数枚のグリーンシートの各々の表面に凹溝または熱揮散性を有する突条を所定の配線形状で設けて凹凸模様を形成する凹凸形成工程と、(b)前記複数枚のグリーンシートの各々の前記所定の配線形状と重なる所定位置に貫通孔を形成する穿孔工程と、(c)前記凹凸模様および前記貫通孔が設けられた前記複数枚のグリーンシートを積層して加圧時に実質的に変形しない所定の剛性を有する平坦な加圧面で加圧することにより相互に接着して積層体とする圧着工程と、(d)前記積層体を焼成することにより複数の絶縁体層をそれぞれ貫通する前記貫通孔で相互に連通させられた前記配線形状の複数の層状空間が内部に形成された焼結基板を得る焼成工程と、(e)前記複数の層状空間および前記貫通孔内に溶融状態の導体材料を注入する導体材料注入工程とを、含むことにある。
【0010】
また、第2発明の要旨とするところは、(a)各々の表面に所定の配線形状で凹溝を有すると共に各々の配線形状と重なる所定位置に貫通孔を有する複数枚のセラミックシートを積層して加熱しつつ、加圧時に実質的に変形しない所定の剛性を有する平坦な加圧面で加圧して相互に接合することにより、複数の絶縁体層をそれぞれ貫通する前記貫通孔で相互に連通させられた前記配線形状の複数の層状空間が内部に形成された接合基板を得る加熱圧着工程と、(b)前記複数の層状空間および前記貫通孔内に溶融状態の導体材料を注入する導体材料注入工程とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0011】
前記第1発明によれば、凹凸形成工程および穿孔工程において凹凸模様および貫通孔が形成された複数枚のグリーンシートを、圧着工程において積層して加圧時に実質的に変形しない程度に剛性の高い平坦な加圧面で加圧して積層体とすると、その積層体の層間には凹溝により形成された層状空間または熱揮散性を有する突条が備えられる。焼成工程において、これに焼成処理を施すと、グリーンシートが緻密に焼結させられると同時に、凹溝がそのまま残存し或いは熱揮散性の突条が消失させられることによって、その形状の層状空間が絶縁体層をそれぞれ貫通する貫通孔で相互に連通させられた状態で形成される。そして、導体材料注入工程において焼結基板の層状空間および貫通孔内に注入された導体材料が固化することにより導体配線および貫通導体が形成されてセラミック積層基板が得られる。そのため、グリーンシートの貫通孔内には熱揮散性材料等が何ら充填されないので、貫通孔からの充填材料のはみ出しに対処するために孔径を大きくして配線密度を低下させる必要がない。このとき、圧着工程においては、実質的に変形せず平坦なままに保たれた加圧面によってグリーンシートがその表面に対して垂直方向に加圧されることから、面方向における変形が抑制されるので、貫通孔に熱揮散性材料や金属ペースト等が充填されていなくとも、貫通孔が変形し或いは潰れることが好適に抑制される。例えば、突条が設けられる態様においても、その高さ寸法は例えば20(μm)程度に過ぎない配線厚みに相当する大きさであって十分に小さいことから、グリーンシートの厚み方向の変形で殆ど吸収され、貫通孔の変形に影響しない。なお、貫通孔の変形は、グリーンシートの変形に追随するから、開口面積が著しく小さくなったり潰れが生じるほどの大きな変形でなければ許容される。したがって、セラミック積層基板を製造するに際して、グリーンシートに設ける孔径を一層小さくして配線密度を一層高めることができる。
【0012】
また、前記第2発明によれば、加熱圧着工程において焼成済のセラミックシートが相互に接合されると、絶縁体層をそれぞれ貫通する貫通孔で相互に連通させられた状態で凹溝形状の層状空間が形成される。そして、導体材料注入工程において接合基板の層状空間および貫通孔内に注入された導体材料が固化することにより導体配線および貫通導体が形成されてセラミック積層基板が得られる。そのため、積層するに際してセラミックシートの貫通孔内には熱揮散性材料等が何ら充填されないので、貫通孔からの充填材料のはみ出しに対処するために孔径を大きくして配線密度を低下させる必要がない。このとき、加熱圧着工程においては、実質的に変形せず平坦なままに保たれた加圧面によってセラミックシートがその表面に対して垂直方向に加圧されることから、加熱されることによって軟化させられていても面方向における変形が抑制されるので、貫通孔に熱揮散性材料や金属ペースト等が充填されていなくとも、貫通孔が変形し或いは潰れることが好適に抑制される。したがって、セラミック積層基板を製造するに際して、セラミックシートに設ける孔径を一層小さくして配線密度を一層高めることができる。なお、本願においてセラミックシートは焼成済のものをいう。
【0013】
なお、本願において「実質的に変形しない」とは、全く変形が認められないか、無視できる程度の変形であることを意味する。すなわち、加圧対象であるグリーンシート或いはセラミックシートよりも高い剛性を有していれば足りる。例えば、グリーンシート積層の条件は、一般に、加圧力が3〜40(MPa)程度、温度が室温よりも60〜100(℃)程度だけ高い温度であるから、このような条件で変形が無いか、無視できる程度の変形に留まるもので加圧面を構成すればよい。加圧面が変形しても、その変形に伴うグリーンシートの変形が弾性的なものであって加圧力を除去したときに元の形状に復帰するのであれば、そのような加圧面の変形は無視できる。このような加圧面を構成する材料としては、例えば、一般に成形型に用いられる金属材料が好適であり、セラミック材料や合成樹脂であっても差し支えない。特に、カーボンやセラミック粉末を分散させた合成樹脂は剛性が高く好適である。
【0014】
ここで、好適には、前記セラミック積層基板の製造方法は、前記導体材料注入工程に先立って前記層状空間の内面に前記絶縁体層よりも前記溶融状態の導体材料が濡れ易い被覆層を形成する被覆層形成工程を含むものである。このようにすれば、層状空間および絶縁体層を貫通する貫通孔に溶融状態の導体材料を注入するに先立ち、その層状空間の内面に絶縁体層よりも導体材料が濡れ易い被覆層が設けられるので、層状空間の内壁面と導体材料との間に空隙が生じることが好適に抑制され、その空隙に起因する回路抵抗の増大や導体の密着強度の低下が好適に抑制される。
【0015】
また、好適には、前記溶融状態の導体材料は、前記絶縁体層との濡れ性を改善するための添加成分を含むものである。このようにすれば、絶縁体層の層間に設けられた層状空間およびその絶縁体層を貫通する貫通孔に溶融状態の導体材料を注入するに際して、絶縁体層との濡れ性を改善するための添加成分を含む導体材料が用いられることから、層状空間の内壁面と導体材料との間に空隙が生じることが好適に抑制され、その空隙に起因する回路抵抗の増大や導体の密着強度の低下が好適に抑制される
【0016】
因みに、前記特許文献3に記載された基板の製造方法においても、導体材料の注入は必ずしも容易ではなく、基板材料と導体材料との濡れ性が悪い(すなわち接触角が大きい)場合には、層状空間や貫通孔の内壁面と注入された導体材料との間に隙間が生じ、回路抵抗が増大すると共に、導体の密着強度が不足して回路の信頼性が低下する問題があった。なお、上記第2発明および第3発明の何れによる場合にも、層状空間内や貫通孔内に存在することとなる導体材料以外の成分量は僅かに留まり、しかも、セラミックスから成る絶縁体層と導体材料との界面に集中することとなるので、被覆層を設け或いは添加成分を添加しても、配線抵抗は殆ど増大しない。
【0017】
好適には、前記積層基板は、表面に導体配線を備えたものであり、前記セラミック積層基板の製造方法は、前記導体材料注入工程の後に導体ペーストを表面に塗布してその表面導体配線を形成する工程を含むものである。この表面導体配線を形成するための導体ペーストは、導体配線形成に利用される一般的な導体ペーストが用いられ得る。
【0018】
また、前記グリーンシートは、公知の種々の成形方法で製造したものを用い得る。例えば、セラミック粉末に適当な成形助剤(バインダ)を添加して、適当な溶媒と共に混練することにより、その溶媒内に分散させて所望の粘度を有するスラリーを調製する。このスラリーを用いて、例えばドクターブレード法等のシート成形法によって適当な厚さ寸法に成形すればよい。また、押出成形法、粉末プレス成形法、射出成形法等で成形することもできる。粉末プレス成形や射出成形法による場合には、シート成形と同時に凹溝や貫通孔を形成することも可能である。
【0019】
また、上記セラミック粉末は、例えば、高温焼成基板に一般に利用されるアルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素、ジルコニア、ムライト等から成るものである。これらのセラミック粉末には、必要に応じて種々の焼結助剤が添加される。
【0020】
また、成形助剤としては、例えば、エチルセルロース系、アクリル系、ブチラール系等を合成樹脂材料を用い得る。また、分散溶媒としては、例えば、アルコール系材料や水を用いることができる。
【0021】
また、前記凹凸形成工程は、好適には、前記凹溝を反転した突条を備えた加圧面で押圧することにより、前記グリーンシートの表面に前記凹溝を形成するものである。一層好適には、その押圧時にグリーンシートが加熱される。このようにすれば、凹溝を形成するときの加圧力を小さくすることができる。
【0022】
また、前記凹凸形成工程は、好適には、前記グリーンシートの表面にスクリーン印刷法を用いて熱揮散性材料で前記突条を形成するものである。熱揮散性材料は、例えば、エチルセルロースやアクリル樹脂を適当な溶媒に溶解したビヒクルである。また、このビヒクルをそのまま用いてもよいが、揮散する温度よりも低温で軟化変形して所望の形状の空隙を形成できない場合には、熱、電子線、紫外線等で硬化する樹脂を添加し、印刷形成後に硬化処理を施せばよい。揮散温度は材料によって相違するが、例えば600(℃)程度の低温である。また、熱揮散性材料の粘性が低い場合には、精細なパターン形成が困難であると共に、所定の厚さ寸法の確保が困難になるので、例えば、前記溶剤に溶解しない有機物粉末を添加するとよい。このような有機物粉末としては、例えば、テレフタル酸系等の低分子化合物や、ポリスチレン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等の高分子化合物が挙げられる。また、熱等で硬化する樹脂を添加することに代えて、グリーンシートの熱圧着時に軟化変形しない粉末を添加すれば、突条の形成後に硬化処理を施す必要はない。このような粉末としては、例えば、炭素粉末が挙げられる。
【0023】
また、前記穿孔工程は、好適には、金型を用いた打抜き加工や、レーザ加工で前記貫通孔を形成するものである。なお、凹凸形成工程と、穿孔工程の順序は何れが先であっても差し支えない。凹凸形成工程が熱揮散性の突条を形成するものである場合において穿孔工程が先に実施される場合には、その突条を形成するための熱揮散性材料が貫通孔内に入る可能性があるが、何ら支障はない。
【0024】
また、前記圧着工程は、例えば、前記グリーンシートに含まれる樹脂、可塑剤や溶剤等の接着性を利用してグリーンシートを相互に接着するものであるが、それらの接着力は、例えば、グリーンシートの曝される温度、雰囲気、圧力等を調節してガラス化させることによって発揮させられる。雰囲気調節による方法としては、例えば、水蒸気雰囲気、溶剤雰囲気、グリーンシートの表面への溶剤塗布等が挙げられる。
【0025】
また、上記圧着工程は、好適には、減圧下で実施される。このようにすれば、グリーンシートの相互間から空気が好適に排出された状態でグリーンシートが相互に接着されることから、積層体に気泡が生じることが好適に抑制される。
【0026】
また、好適には、圧着工程は、前記グリーンシートの外周縁の位置を規制する型の中でそのグリーンシートを厚み方向に加圧するものである。このようにすれば、グリーンシートの面に沿った方向(横方向)の動きが制限されることから、貫通孔の変形が一層抑制される利点がある。例えば、貫通孔の孔径が現状の打抜きによる限界である0.1(mm)程度であれば、全く変形しないか、機能上全く支障のない程度の変形に留まる。
【0027】
また、上記圧着工程は、加圧しつつ加熱することにより、圧着と同時にグリーンシートを焼結させるものであってもよい。すなわち、本発明のセラミック積層基板の製造方法は、上記圧着工程と前記焼成工程とを同時に実施する所謂ホットプレス法を用いるものであってもよい。
【0028】
また、圧着工程は、機械的な加圧力を用いるものであっても、超音波を用いた所謂超音波溶接であってもよい。
【0029】
また、前記導体材料注入工程は、好適には、比抵抗が小さい材料、例えばAg、Au、Cu、Al或いはこれらを主成分とする合金の融液を注入するものである。前記焼結基板には、注入される溶融状態の導体材料温度で変形や変質が生じないだけの耐熱性が必要とされる。例えば、上記4つの金属の融点は1085(℃)以下であるから、例えば、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化硼素、酸化ベリリウム、マグネシア、ムライト、ジルコニア等のセラミック材料が好適に用いられる。特に、これらのうちムライトおよびジルコニア以外のものは熱伝導率も大きく好ましい。なお、低温焼成基板材料であっても、導体材料の種類に応じた耐熱性を有していれば用いることができ、内部配線抵抗を小さくする効果を享受できる。
【0030】
なお、上記セラミック材料のうち、アルミナは絶縁性、強度、熱伝導性といった性能と価格とのバランスが優れていることから多用されている。しかしながら、グリーンシートに配線を形成して積層、焼成するシート積層法では、大気中(酸化雰囲気中)で焼成可能な導体材料はPtやIr等の高価な貴金属材料に限られ、比較的安価なW、Mo等の材料を用いた場合には高コストの非酸化性雰囲気で焼成することが必要である。本発明によれば、グリーンシートの焼成工程後に導体材料を注入して配線を形成するので、酸化され易い安価な導体材料を用いながら大気中での焼成が可能となる利点がある。
【0031】
また、放熱性が特に求められる用途には、熱伝導性の特に優れたAlNが、高強度が要求される場合には、Si3N4といった非酸化物系セラミック材料が利用され、これらは、熱伝導率が何れも20(℃)において20(W/m・K)以上と優れているが、非酸化雰囲気での焼成が必須であると共に、焼成温度が1500(℃)以上であることから、比抵抗が4(μΩ・cm)以下の配線材料(例えば、Au、Ag、Al、Cu、これらの合金)を使用できなかった。本発明によれば、これらの材料においても、比抵抗の小さい配線材料を利用できる利点がある。
【0032】
また、導体材料注入工程は、導体材料の種類に応じた雰囲気下で実施される。例えば、Au、Ag等が用いられる場合には、大気雰囲気中でも差し支えないが、Cu、Al等が用いられる場合には、短時間であれば大気雰囲気中でも可能であるが酸素が少ない雰囲気下で実施することが好ましい。
【0033】
また、前記導体材料注入工程は、好適には、前記焼結基板を前記導体材料の溶融温度以上の温度に加熱した状態で実施される。このようにすれば、焼結基板の表面で導体材料が急激に冷却されて内部に十分に注入される前に凝固とすることが好適に抑制されると共に、焼結基板が急加熱されて破損することが好適に抑制される。なお、このようにする場合には、導体材料の注入後、焼結基板が徐冷される。
【0034】
また、前記導体材料注入工程は、好適には、前記焼結基板の表面および裏面の一方の気圧を相対的に低く保ちつつ他方から前記導体材料を注入するものである。このようにすれば、微細な貫通孔および層状空間の毛細管現象だけで注入する場合に比較して、注入が一層容易になる。但し、毛細管現象だけでも注入は可能であるため、気圧差を設けるか否かは、作業性を考慮して決定すればよい。なお、気圧差を設ける方法としては、一般的な金属の鋳込み成形に用いられる加圧装置や減圧装置を用い得る。
【0035】
また、前記セラミック層よりも前記導体材料が濡れ易い前記被覆層は、例えば、Bi、V、Mn、Mo、W、Cuの少なくとも一種の酸化物から成るものである。このような被覆層は、例えば、これらの金属の化合物(例えば、塩化物、硝酸塩化合物、アンモニウム塩化合物、アルキル基を有する各種の金属化合物、蓚酸化合物、クエン酸化合物、金属アルコレート等)の少なくとも一種を適当な溶媒(例えば、水、アルコール、有機溶媒等)に溶解した溶液を焼結基板の層状空間および貫通孔内に充填し、熱分解して酸化することにより形成することができる。また、酸化物や酸化物に変化し得る固体であっても、粒子径が0.1(μm)以下と小さく溶液に分散させ得るものであれば利用できる。また、好適には、被覆層は、0.02〜2(mg/cm2)の範囲内の付着量となるように設けられる。
【0036】
また、セラミック層との濡れ性を改善するために前記導体材料に添加される成分は、例えば、上記金属の極微粉酸化物である。このような用途の極微粉の大きさは、例えば0.2(μm)程度以下が好ましい。なお、添加量は、5(容量%)以下が好ましい。粉末を添加すると導体材料の粘性が増大するため、添加量が過剰になると却って充填性が低下する。
【0037】
なお、上記のような用途の添加成分としては、Ti、Zn、Mg、Si、Bi、V、Mn、Mo、W、Cuから選ばれる少なくとも一種の金属である。これらは活性が高いことからセラミック層や前記のような配線材料との親和性が高いため、濡れ性改善に有効である。これらの金属は、例えば0.1〜5(容量%)の範囲で添加されることが好ましい。
【0038】
なお、上述したような導体材料にBi等の金属を添加して濡れ性を改善する効果は、アルミナ等の酸化物セラミックスに対して顕著であり、AlN等の非酸化物系セラミックスに対しては高い効果が得られない。しかしながら、非酸化物系セラミックスの場合にも、その表面を僅かに酸化させることで高い効果を得ることができる。
【0039】
また、導体材料を注入する際に、その充填表面が焼結基板の表面と同一平面に位置することが好ましいが、焼結基板表面に対して僅かに凹または凸になっていても差し支えない。例えば凸になっていても、表面配線を形成する際のスクリーン印刷等の妨げにならない程度、例えば20(μm)程度の凸であれば何ら問題がない。また、妨げとなる程度に凸になった場合には、研削、研磨、ブラスト処理等によって仕上げ加工を施せばよい。
【0040】
また、好適には、前記貫通孔は、焼結基板の表面と裏面とで同一位置において開口するように設けられる。このようにすれば、複数個の焼結基板を重ね合わせて、最上位置にある焼結基板の貫通孔から一括して導体材料を注入できるので導体材料注入工程が一層簡単になる。なお、このような設計が困難な場合には、表面の貫通孔と裏面の貫通孔とを接続するためのダミー基板を焼結基板相互間に介挿して導体材料を注入すればよい。注入、冷却後に積層方向に対して垂直な方向に剪断応力を作用させることにより、ダミー基板と焼結基板とを接続する導体を破断し、分離することが可能となる。この結果、焼結基板の表面と同一高さの充填が得られる利点もある。
【0041】
また、好適には、前記凹凸形成工程は、前記複数枚のグリーンシートのうち最上層に位置させられることとなるものの表面にも、その表面に形成しようとする配線形状の凹溝を設けるものであり、前記導体材料注入工程は、その導体材料に濡れない材料で構成された平坦面を備え且つ焼結基板の貫通孔に対応する位置に注入用貫通孔を備えた平板状治具をその焼結基板の表面に載せて、その注入用貫通孔から導体材料を注入するものである。このようにすれば、焼結基板の表面の導体配線が内部配線と同時に形成されることから、製造工程が一層簡単になる利点がある。しかも、表面配線が基板表面と略同一平面上に位置することから、その表面への部品搭載や印刷回路形成が一層容易になる利点がある。なお、上記平板状治具を用いないで注入することも可能であるが、焼結基板表面が自由な状態でその表面の凹溝内に導体材料が充填されると、その表面張力で決定される厚みの盛り上がりが生じて所望の厚さ寸法が得られない可能性がある。上記平板状治具の構成材料としては、導体材料に濡れにくい材料、例えば、AlN、Si3N4、BN等が好適である。
【0042】
また、導体材料を注入するに際しては、貫通孔からの導体材料の漏れを防ぐために、焼結基板を一対の平板状治具で挟んで保持することが好ましい。このとき、注入側の平板状治具には焼結基板の貫通孔の開口位置等に注入用貫通孔が設けられる。他方の平板状治具は、緻密なものであっても焼結基板との隙間を通してガスの流通が可能であるが、導体材料からのガス抜きが促進されるように通気性を有するものが望ましい。なお、導体材料の注入は、例えば、焼結基板の下面側から行うことができる。
【0043】
また、好適には、前記グリーンシートに形成される前記貫通孔は、0.25(mm)以下の直径とすることが好ましい。このようにすれば、焼結基板と導体材料との熱膨張係数の相違に起因する応力が十分に小さくなるので、その焼結基板の破壊や導体の剥離が好適に抑制される。なお、層状空間内に充填される導体材料は、厚さ寸法を薄くすることが容易であり、例えば20(μm)程度以下にすれば、十分に断面積が小さくなるので、熱応力の問題は何ら生じない。凹溝を設ける場合においても、突条を設ける場合においても、このような小さい深さ寸法或いは高さ寸法で設けることに何ら困難性はない。これに対して、貫通孔は、打抜き或いはレーザ加工の何れの製造方法による場合にも、凹溝の深さ寸法等に比較して極めて大きい開口径となるため、焼結基板との間の熱膨張係数差が問題となるのである。なお、凹溝の幅寸法は深さ寸法の20倍以下に留めることが望ましい。これを超えると積層圧着の際に上に載せられたグリーンシートが凹溝底面に固着して層状空間が得られなくなる可能性がある。20倍以下であれば、グリーンシートの弾性によって形状が戻るため問題がない。
【0044】
また、本発明によれば、基板の焼成工程の後に配線の形成工程が実施されることから、配線材料に比抵抗の小さい低融点の材料を用いることができる。そのため、線幅の細い微細配線としても十分な導電性を確保できる。なお、本発明の製造方法では、基板の焼成工程の他に導体材料を溶融させて流し込むための熱工程が追加されることとなるが、導体材料の融点が1100(℃)以下と低温であるため、エネルギー損失は僅かに留まる。
【0045】
また、導体配線をグリーンシートにスクリーン印刷で設けていた従来のシート積層法では、精細な配線パターンを形成するために例えば10(μm)以下の微細な金属粉を必要としていた。この金属粉の微細化は、Auを除けば原料価格と同等以上の高コストを必要とするものであったが、本発明によれば、金属粉の微細化が無用となる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0047】
図1は、本発明の一実施例の製造方法が適用されることにより製造された多層基板10の断面構造を模式的に示す図である。多層基板10は、複数層、例えば6層の絶縁体層12a,12b,〜12fが積層されると共に、それらの相互間に内部配線層14a,14b,〜14eが備えられ、更に、その表面16および裏面18にそれぞれ表面側配線層20および裏面側配線層22が備えられたものである。
【0048】
上記の絶縁体層12は、例えば純度96(%)程度のアルミナ(Al2O3)から成る実質的に気孔率が零の緻密なセラミックスであって、それぞれ0.2(mm)程度の厚さ寸法を備えている。また、上記の配線層14,20,22は、例えば銅等の比抵抗の極めて小さい導体材料から成るものであって、それぞれ例えば10(μm)程度の厚さ寸法で設けられている。すなわち、本実施例においては、絶縁体層12が1500(℃)以上の高温で焼成されるアルミナで構成されるにも拘わらず、配線層14,20,22は比抵抗が1.67(μΩ・cm)程度と極めて低い銅で構成されている。なお、上述したように配線層14,20,22は、絶縁体層12に比較して著しく薄いものであるが、図示の便宜上、比較的厚く描いている。
【0049】
また、上記配線層14,20,22は、絶縁体層12を貫通して設けられた直径が0.1(mm)程度の貫通導体24によって相互に連通させられることにより、積層基板10内に複雑な配線を形成している。この貫通導体24も、配線14等と同様に銅で構成されたものである。そのため、内部配線全体が比抵抗の小さい銅で形成されていることから、積層基板10内の配線抵抗は著しく低くなっている。なお、積層基板10の表面16および裏面18には、電子回路を構成するための抵抗体、コンデンサ、コイル、半導体等の部品が実装されるが、図1および以下の各図においてはこれらを省略した。また、貫通導体24は、例えば直径0.1(mm)程度の大きさで設けられているが、図示の便宜上、比較的大きく描いている。
【0050】
このような積層基板10の特性を、導体材料にタングステンが用いられた他は同一寸法・形状および同一配線形状に構成した従来の積層基板と比較したところ、内部配線抵抗が従来の1/10程度であることが確かめられた。これは、比抵抗が5.65(μΩ・cm)程度であるタングステンに比較して銅の比抵抗が著しく低いことに加え、タングステンを焼結した従来の積層基板の導体は空隙、焼結助剤や粒界が存在するのに対し、配線層14等が比較して緻密で焼結助剤等の添加物を含んでいないためと考えられる。また、積層基板10は、従来のものに比較して熱伝導性が5(%)程度大きく、重量が0.4(%)程度軽くなっていた。この相違は、銅とタングステンの熱伝導率や比重の相違に起因するものと考えられる。この相違の程度は内部配線形状に応じて変化するが、どのような構造であっても従来に比較して熱伝導性が大きく且つ重量が軽くなる。
【0051】
また、内部配線層14と表面配線層20,裏面配線層22との密着性は、従来の積層基板と同等であった。但し、内部配線がタングステンで構成された従来の積層基板は、表面配線層および裏面配線層に銀、金、銅、アルミニウム等を用いる場合には、それらの接合力を高めるための中間層を内部配線層上に形成することが必須であったのに対し、積層基板10によれば、内部配線層14が銅で構成されていることから、中間層などは何ら必要としない利点がある。
【0052】
上記の積層基板10は、例えば、図2に示される工程に従って製造される。以下、図2および工程の各段階における基板の状態を示す図3〜図11を参照して製造方法を説明する。先ず、グリーンシート成形工程P1では、例えば、純度96(%)程度で平均粒径が2(μm)程度のアルミナ粉末を用意し、例えばアクリル樹脂等のバインダ、水、分散剤、消泡剤、可塑剤等と共に混練して泥漿(スラリー)を調製して、スリップキャスティングによって厚さ寸法が焼成後厚みで例えば0.2(mm)程度のグリーンシートを成形した。次いで、打抜き工程P2において、これを製造しようとする基板形状に応じた形状に打ち抜き、図3に示すグリーンシート26を製造した。
【0053】
次いで、内部ダミー配線形成工程P3においては、熱揮散性ペースト調製工程S1において別途調製した熱揮散性ペーストを用いて、グリーンシート26の表面に形成しようとする配線形状に応じた形状の内部ダミー配線28すなわち突条を例えば20(μm)程度の厚さ寸法で形成した。なお、上記熱揮散性ペーストは、例えば、エチルセルロースをターピネオールに溶解したビヒクルであり、必要に応じ平均粒径が1〜3(μm)程度のスチレンビーズがペースト中に分散される。図4は、内部ダミー配線28が形成されたグリーンシート26の断面を模式的に表したものである。本実施例においては、この内部ダミー配線形成工程P3が凹凸形成工程に対応する。
【0054】
次いで、穿孔工程P4においては、内部ダミー配線28を形成したグリーンシート26を、例えば打抜き型で打ち抜くことにより、配線形状毎に定められた位置に例えば直径0.1(mm)程度の貫通孔(スルーホール)30を形成する。図5は、貫通孔30が形成されたグリーンシート26の断面を模式的に表したものである。このような順序で形成されることから、貫通孔30内には前記樹脂液が何ら入り込んでいない。
【0055】
なお、内部ダミー配線形成工程P3と穿孔工程P4とは反対の順序で実施してもよい。この場合、内部ダミー配線28は、穿孔されたグリーンシート26或いは貫通孔30と対面させられる他のグリーンシート26に形成することができる。前者ではダミー配線材料が若干貫通孔30内にダレ込んでもよいが、貫通孔30内を熱揮散性ペーストで充填する必要はない。後者では積層時に内部ダミー配線28の厚み分だけ貫通孔30が変形するが、後述する焼成工程P6により内部ダミー配線28を消失させた後に形成される空間の連続性には問題が無い。
【0056】
次いで、積層圧着工程P5では、上記のようにして相互に異なる形状で内部ダミー配線28および貫通孔30がそれぞれ設けられた複数枚例えば6枚のグリーンシート26を、圧着装置の枠32内に重ねて配置し、例えば75(℃)程度の温度に加熱しつつ加圧板34,34で上下面から10(MPa)程度の圧力で加圧する。これにより、グリーンシート26内の樹脂成分がガラス化して相互に圧着され、積層体36が得られる。この加圧板34は、例えば、SKD11(焼入鋼)、SUS304(非焼入鋼)等の加圧成形型材料で構成され、グリーンシート26に向かう加圧面38が平坦で、上記加圧力では実質的にその加圧面38が変形しない程度の剛性を備えたものである。図6に加圧開始時の状態を、図7に圧着後の状態をそれぞれ示す。なお、一番上に積層されるグリーンシート26には、内部ダミー配線28が設けられていない。また、加熱に代えて、グリーンシート26内の樹脂成分を溶解或いは膨潤させる溶剤を塗布して加圧圧着することもできる。
【0057】
上記の圧着過程において、内部ダミー配線28は、加熱により軟化させられたグリーンシート26内に押し込まれるので、重ねられた複数枚のグリーンシート26が相互に密着させられ、その相互間すなわち層間に内部ダミー配線28が初期の状態を略保ったまま設けられることとなる。このとき、上記のように平坦で剛性の高い加圧面で加圧されることから、グリーンシート26の表面に平行な方向の剪断応力は何ら作用しない。そのため、貫通孔30は、この圧着工程においても殆ど変形せず、形成時の直径0.1(mm)程度の円形断面に保たれている。
【0058】
次いで、焼成工程P6においては、グリーンシート26が圧着された積層体36を大気中にて例えば1600(℃)程度の最高保持温度で焼成処理する。これにより、グリーンシート26が緻密に焼結させられ、図8に示される絶縁層12が積層された焼結基板40が得られる。この焼成過程において、内部ダミー配線28は分解或いは揮発することによって消失させられるので、焼結基板40の内部には、当初から形成されていた空隙すなわち貫通孔30と、内部ダミー配線28が設けられていた位置に形成された空隙すなわち配線形状の層状空間42とが備えられている。なお、焼成工程P6を、積層圧着工程P5に先立って実施することもできる。その場合には、得られたセラミックシートをホットプレス装置によって高温で加熱しつつ加圧して接合すればよい。すなわち、この場合にも、積層圧着する装置に一層の耐熱性と剛性が要求される他は、同様に考えることができる。
【0059】
次いで、被覆層形成工程P7では、被覆溶液調製工程S2で別途用意した銅イオンを含む水溶液、例えばCu(NO3)2水溶液を、焼結基板40内の空隙30,42に注入し、乾燥後、例えば大気中にて1100(℃)程度の最高保持温度で焼成処理を施す。これにより、焼結基板40の空隙30,42の内壁面に例えばCuO等の銅酸化物から成る被覆層44が1(μm)以下の膜状或いは島状に点在して形成される。或いは、適切な酸素分圧下であれば、CuOとAl2O3が反応して極薄い反応層が形成される。図9は、この段階における焼結基板40の右側部分を省略して示している。本実施例では、配線材料として銅が用いられているので、上記被覆層44の構成材料は、銅との濡れ性が高い材料を選択したものである。なお、この被覆層44は、上記のように極めて薄い層であるので、他の図においては全て省略した。
【0060】
次いで、導体注入工程P8では、図10に示される銅注入装置46を用いて焼結基板40の空隙30,42に銅を注入する。焼結基板40は、例えば1100(℃)程度の温度に予熱された後、その最下層12に形成されている貫通孔30に対応する複数の注入孔48を備えた蓋部材50の平坦な表面に載せられ、その上面には、押え板52が載せられている。蓋部材50は、例えば、緻密な金属或いはセラミックス等から成るものであり、その注入孔48の開口径は、貫通孔30の開口径より1(mm)程度大きいものである。また、押え板52は、例えば多孔質の窒化珪素等から成るものであって、その略平坦な下面が焼結基板40に密着させられている。焼結基板40の側方には、1100(℃)程度に保持された銅の融液54が蓄えられた貯湯槽56が備えられており、蓋部材50の下側に設けられた融液注入室58に通路60を介して連通させられている。貯湯槽56内の融液54の液面は、焼結基板40の上面よりも高くなるように融液量が調節される。
【0061】
このように構成された銅注入装置46によれば、貯湯槽56内の融液54の液面が焼結基板40よりも高くされていることから、その液面との重力差によって、融液54は、注入孔48から焼結基板40に向かって供給される。この注入孔48上には貫通孔30が位置させられているので、融液54は、その貫通孔30から焼結基板40内に送り込まれ、その貫通孔30に連続する層状空間42を経由して、更に、それに連通する貫通孔30,層状空間42を経由して、焼結基板40の上面まで送られる。焼結基板40の上面に開口する貫通孔30は、多孔質の押え板52によって塞がれているので、その貫通孔30から融液54が飛び出すことはない。また、融液54から発生したガスは、押え板52と焼結基板40との隙間や、多孔質の押え板52を通って焼結基板40の外部に排出される。なお、銅の注入は、焼結基板40の貫通孔30上に銅片を置いて加熱する方法でも可能である。この場合、銅片の大きさは内部空間の大きさに応じて適宜決定される。また、内部空間を減圧すれば確実に無気孔で銅を注入させ得る。
【0062】
上記のようにして焼結基板40内に十分に融液54を注入して、焼結基板40を冷却した後、取出し工程P9では、上記の押え板52を除去すると共に、銅注入装置46から焼結基板40を取り出す。この工程では、例えば、焼結基板40を蓋部材50に対して横方向に移動させることで、貫通孔30から注入孔48に連続して注入され且つ硬化させられた銅をそれらの境界で破断し、焼結基板40を引き剥がす。図11に取り出した焼結基板40を示すように、その内部の貫通孔30および層状空間42内が銅で満たされることによって貫通導体24および内部配線層14が形成されている。焼結基板40の表面16および裏面18には、それぞれ押え板52および蓋部材50が密接させられていたため、貫通導体24は、それら表面16および裏面18と略面一に形成されている。
【0063】
前記の多層基板10は、このようにして内部配線層14および貫通導体24が設けられた焼結基板40に、例えばスクリーン印刷法を用いて表面側配線層20および裏面側配線層22を形成することによって製造される。
【0064】
上述したように、本実施例によれば、内部ダミー配線形成工程P3および穿孔工程P4において内部ダミー配線28および貫通孔30が形成された複数枚のグリーンシート26を、積層圧着工程P5において積層して剛性の高い平坦な加圧面38で加圧して積層体36とすると、その積層体36の層間には内部ダミー配線28から成る突条が備えられる。焼成工程P6において、これに焼成処理を施すと、グリーンシート26が緻密に焼結させられると同時に、内部ダミー配線28が消失させられることによってその形状の層状空間42が形成される。そして、導体注入工程P8において焼結基板40の層状空間42および貫通孔30内に注入された融液54が固化することにより内部配線14および貫通導体24が形成されて積層基板10が得られる。そのため、積層圧着工程P5においては、実質的に変形せず平坦なままに保たれた加圧面38によってグリーンシート26がその表面に対して垂直方向に加圧されることから、面方向における変形が抑制されるので、貫通孔30が中空のままであっても、変形し或いは潰れることが好適に抑制される。したがって、そのような変形等を考慮する必要がないので、積層基板10を製造するに際して、グリーンシート26に設ける孔径を一層小さくして配線密度を一層高めることができる。また、貫通孔充填材のはみ出しによって配線密度が低下することもない。
【0065】
しかも、本実施例によれば、層状空間42および貫通孔30に融液54を注入するに先立ち、それらの内面に焼結基板40よりも融液54が濡れ易い被覆層44が設けられるので、層状空間42および貫通孔30の内壁面と融液54との間に空隙が生じることが好適に抑制され、その空隙に起因する回路抵抗の増大や導体の密着強度の低下が好適に抑制される。
【0066】
また、本実施例によれば、積層圧着が枠32内においてグリーンシート26の横方向の動きを制限した状態で行われることから、貫通孔30の変形が一層抑制される利点がある。
【0067】
また、本実施例においては、融液54を注入するに際して、貫通孔30が押え板52および蓋部材50で塞がれることから、注入された融液54の表面の位置がそれら押え板52および蓋部材50で規制されるため、表面16および裏面18の平坦性が高められる利点がある。
【0068】
次に、本発明の他の実施例を説明する。図12に示される実施態様は、前記の図2の被覆層形成工程P7までを同様に実施した後、導体注入工程P8を異なる態様で実施したものである。図12において、複数枚の焼結基板40a,40b,40cは、蓋部材50上にダミー基板62a,62bを介して積層されている。ダミー基板62は、表面に沿って伸びる層状空間64と、その層状空間62を表面および裏面に連通させる貫通孔66,68をそれぞれ内部に備えたものである。これら貫通孔66,68は、それぞれ上下に位置する焼結基板40の貫通孔30と同一位置に設けられている。そのため、上下の焼結基板40,40の貫通孔30,30は、ダミー基板62を介して連通させられている。なお、複数枚の焼結基板40が重ねられている他は、前述した図10に示される実施態様と同様であり、焼結基板40の上には、押え板52が配置される。
【0069】
このように重ねて配置された焼結基板40a,40b,40cに対して、図10に示される場合と同様に銅注入装置46の注入孔48から貫通孔30に融液54を注入すると、一番下の焼結基板40a内を通ってその上面に設けられている貫通孔30から流れ出て、ダミー基板62aの貫通孔66内に入る。貫通孔66に入った融液54は、層状空間64、貫通孔68を経て、中間に位置する焼結基板40b内に貫通孔30から入り、その内部を通って上側に位置するダミー基板62b内にその貫通孔66から入る。そして、その貫通孔68を通って上側に位置する焼結基板40c内に入る。そのため、本実施例によれば、重ねられた3枚の焼結基板40内に一括して融液54を注入できるので、製造効率が高められる利点がある。
【0070】
なお、上記の焼結基板40は、図から明らかなように、裏面に開口する貫通孔30の位置と、表面に開口する貫通孔30の位置とが面方向において一致していない。そのため、複数枚を直接重ねると、貫通孔30が互いに塞がれることとなるので、一括して融液54を注入することができないが、上記のようにダミー基板62内に融液54の流路を確保することで一括処理が可能となるのである。なお、表面および裏面の貫通孔30の位置が揃っている場合には、ダミー基板62を用いることなく、焼結基板40を重ねて融液54を注入することができる。
【0071】
図13は、更に他の実施例で用いられるグリーンシート70の断面構造を説明する図であって、前記実施例の図5に対応する図である。このグリーンシート70の表面には、前記の内部ダミー配線28に代えて、配線形状の凹溝72が、例えば10(μm)程度の配線厚みに等しい深さ寸法で形成されている。この凹溝72は、例えば、前記の打抜き工程P2においてグリーンシート70を打ち抜く際に、凹溝72を反転した形状すなわち配線形状の突条が加圧面に形成された打抜き型を用いることによって形成されたものである。なお、打抜きと凹溝形成とを別々の工程で実施しても差し支えない。
【0072】
このように構成されたグリーンシート70も、前記のグリーンシート26と同様に積層して圧着し、内部に形成された空間に融液52等の導体材料を注入することで積層基板10を構成することができる。すなわち、内部ダミー配線28で突条を形成した場合と略同様な構造が実現されるのである。この場合においても、加圧面38を平坦且つ剛性の高い材料で構成することにより、貫通孔30や凹溝72を殆ど変形させることなく積層圧着することが可能である。
【0073】
図14は、更に別の実施例を説明する図である。この実施例では、例えば、上記のグリーンシート70を用いることができる。すなわち、貫通孔30および凹溝72がそれぞれ形成された複数枚のグリーンシート70を重ね合わせ、前記の図6に示されるように圧着する。このとき、最上層に位置するグリーンシート70にも凹溝72が形成されており、最下層に位置するグリーンシート70には、上下両面に凹溝72が形成されている。次いで、これに焼成処理を施し、焼結基板74を作製した後、導体材料の融液54を貫通孔30から注入する。図14は、この注入時の配置を示しており、焼結基板74の最上層に位置する絶縁体層76aおよび最下層に位置する絶縁体層76bにも凹溝72が形成されているため、焼結基板74と押え板52との間および蓋部材50との間に配線形状の層状空間が形成されている。
【0074】
そのため、本実施例によれば、注入孔48から注入された融液54は、焼結基板74と蓋部材50との間の層状空間(凹溝72)を満たしつつ、焼結基板74内を通って最上位置の絶縁体層76に到達し、その絶縁体層76と押え板52との間の空間にも満たされる。図15は、融液54の冷却後、銅注入装置46から取り出した焼結基板74を示す図である。上記のようにして融液54が満たされる結果、焼結基板74の表面78および裏面80には、それと面一に表面側配線層82および裏面側配線層84が形成されている。
【0075】
したがって、本実施例によれば、表面側配線層82および裏面側配線層84が内部配線層14および貫通導体24と同時に形成されることから、これらを別々に形成する場合に比較して、工程が簡単になる利点がある。しかも、形成された表面側配線層82および裏面側配線層84は、表面78および裏面80に突き出していないことから、それら表面78および裏面80への部品の実装や配線形成が一層容易になる利点がある。
【0076】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施例の積層基板の断面構造を説明する図である。
【図2】図1の積層基板の製造方法を説明する工程図である。
【図3】シート成形後、所定の形状に打ち抜かれたグリーンシートを示す斜視図である。
【図4】グリーンシートの表面に樹脂膜を形成した状態を模式的に示す断面図である。
【図5】グリーンシートに貫通孔を設けた状態を模式的に示す断面図である。
【図6】積層圧着工程の実施状態を模式的に示す断面図である。
【図7】圧着形成された積層体を模式的に示す断面図である。
【図8】図7の積層体を焼成して得られた焼結基板を模式的に示す断面図である。
【図9】被覆層の形成状態を説明する図である。
【図10】図8の焼結基板の内部空間に導体融液を注入する工程を模式的に示す断面図である。
【図11】導体が充填された焼結基板を模式的に示す断面図である。
【図12】本発明の他の実施例であって、複数枚の焼結基板を積層して導体融液を注入する工程を模式的に示す断面図である。
【図13】本発明の更に他の実施例であって、グリーンシートに凹溝が設けられる態様を説明する図である。
【図14】本発明の更に他の実施例の製造方法の要部であって、基板表面に凹溝を設けた場合の注入工程を説明する図である。
【図15】図14に示す実施例において形成された基板を示す断面図である。
【符号の説明】
【0078】
10:多層基板、12:絶縁体層、14:内部配線層、20:表面配線層、22:裏面配線層、24:貫通導体、26:グリーンシート、28:樹脂膜、30:貫通孔、34:加圧板、36:積層体、38:加圧面、40:焼結基板、42:層状空間、44:被覆層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のグリーンシートの各々の表面に凹溝または熱揮散性を有する突条を所定の配線形状で設けて凹凸模様を形成する凹凸形成工程と、
前記複数枚のグリーンシートの各々の前記所定の配線形状と重なる所定位置に貫通孔を形成する穿孔工程と、
前記凹凸模様および前記貫通孔が設けられた前記複数枚のグリーンシートを積層して加圧時に実質的に変形しない所定の剛性を有する平坦な加圧面で加圧することにより相互に接着して積層体とする圧着工程と、
前記積層体を焼成することにより複数の絶縁体層をそれぞれ貫通する前記貫通孔で相互に連通させられた前記配線形状の複数の層状空間が内部に形成された焼結基板を得る焼成工程と、
前記複数の層状空間および前記貫通孔内に溶融状態の導体材料を注入する導体材料注入工程と
を、含むことを特徴とするセラミック積層基板の製造方法。
【請求項2】
各々の表面に所定の配線形状で凹溝を有すると共に各々の配線形状と重なる所定位置に貫通孔を有する複数枚のセラミックシートを積層して加熱しつつ、加圧時に実質的に変形しない所定の剛性を有する平坦な加圧面で加圧して相互に接合することにより、複数の絶縁体層をそれぞれ貫通する前記貫通孔で相互に連通させられた前記配線形状の複数の層状空間が内部に形成された接合基板を得る加熱圧着工程と、
前記複数の層状空間および前記貫通孔内に溶融状態の導体材料を注入する導体材料注入工程と
を、含むことを特徴とするセラミック積層基板の製造方法。
【請求項3】
前記導体材料注入工程に先立って前記層状空間の内面に前記絶縁体層よりも前記溶融状態の導体材料が濡れ易い被覆層を形成する被覆層形成工程を含むものである請求項1または請求項2のセラミック積層基板の製造方法。
【請求項4】
前記溶融状態の導体材料は、前記絶縁体層との濡れ性を改善するための添加成分を含むものである請求項1または請求項2のセラミック積層基板の製造方法。
【請求項1】
複数枚のグリーンシートの各々の表面に凹溝または熱揮散性を有する突条を所定の配線形状で設けて凹凸模様を形成する凹凸形成工程と、
前記複数枚のグリーンシートの各々の前記所定の配線形状と重なる所定位置に貫通孔を形成する穿孔工程と、
前記凹凸模様および前記貫通孔が設けられた前記複数枚のグリーンシートを積層して加圧時に実質的に変形しない所定の剛性を有する平坦な加圧面で加圧することにより相互に接着して積層体とする圧着工程と、
前記積層体を焼成することにより複数の絶縁体層をそれぞれ貫通する前記貫通孔で相互に連通させられた前記配線形状の複数の層状空間が内部に形成された焼結基板を得る焼成工程と、
前記複数の層状空間および前記貫通孔内に溶融状態の導体材料を注入する導体材料注入工程と
を、含むことを特徴とするセラミック積層基板の製造方法。
【請求項2】
各々の表面に所定の配線形状で凹溝を有すると共に各々の配線形状と重なる所定位置に貫通孔を有する複数枚のセラミックシートを積層して加熱しつつ、加圧時に実質的に変形しない所定の剛性を有する平坦な加圧面で加圧して相互に接合することにより、複数の絶縁体層をそれぞれ貫通する前記貫通孔で相互に連通させられた前記配線形状の複数の層状空間が内部に形成された接合基板を得る加熱圧着工程と、
前記複数の層状空間および前記貫通孔内に溶融状態の導体材料を注入する導体材料注入工程と
を、含むことを特徴とするセラミック積層基板の製造方法。
【請求項3】
前記導体材料注入工程に先立って前記層状空間の内面に前記絶縁体層よりも前記溶融状態の導体材料が濡れ易い被覆層を形成する被覆層形成工程を含むものである請求項1または請求項2のセラミック積層基板の製造方法。
【請求項4】
前記溶融状態の導体材料は、前記絶縁体層との濡れ性を改善するための添加成分を含むものである請求項1または請求項2のセラミック積層基板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−32439(P2006−32439A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205249(P2004−205249)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】
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