ゼオライトナノチャンネル内への炭素充填
【課題】ゼオライトの限られたナノチャンネル中に「できる限り多く」炭素原子を充填し、新規のナノカーボンを得る製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質ゼオライト鋳型の表面および細孔内に有機化合物を導入し、前記有機化合物を化学気相成長により炭素化して炭素/ゼオライト複合体を得るステップと、前記炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去するステップとを含んだ、BET比表面積が800m2/g以下で、かつ水素の炭素に対する重量割合(H/C重量比)が1wt%未満である炭素材料の製造方法。
【解決手段】多孔質ゼオライト鋳型の表面および細孔内に有機化合物を導入し、前記有機化合物を化学気相成長により炭素化して炭素/ゼオライト複合体を得るステップと、前記炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去するステップとを含んだ、BET比表面積が800m2/g以下で、かつ水素の炭素に対する重量割合(H/C重量比)が1wt%未満である炭素材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳型合成(Template synthesis)
鋳型のナノ空間内で、ナノカーボンネットワークの大きさとアーキテクチャーが制御できる。アルミニウム陽極酸化(AAO)皮膜を鋳型として用いることで、得られるカーボンナノチューブの大きさをAAOの径を変えることで微妙に調整できることが報告された(Orikasa H., Inokuma N., Ittisanronnachai S., Wang X−H, Kitakami O., Kyotani T., Chemical communications 2008, 19, 2215−2217)。さらに、マイクロ細孔(micropores)(<2nm)、メソ細孔(mesopores)(2〜50nm)、またはマクロ細孔(macropores)、(>50nm)の均一細孔を備えた多くの多孔質炭素が、アルミニウム陽極酸化(AAO)皮膜、ゼオライト、メソ細孔シリカ、および合成シリカオパールを含む種々の無機鋳型を用いて鋳型合成により合成可能である。多孔質炭素の一般的鋳型合成プロセスは以下のとおりである。
【0003】
1)炭素前駆体/無機鋳型複合体の準備
2)炭素化(Carbonization)
3)無機鋳型の除去
多孔質炭素材料を均一の細孔のみならず規則的周期的な細孔配列とするために、高い剛性の無機鋳型が必要とされる。ゼオライトはアルミノシリケート材質で規則正しく均一なサブナノメートルサイズであり、マイクロ細孔炭素の合成用鋳型として用いられて来ており、得られた炭素材料はゼオライト鋳型炭素(Zeolite templated carbon;ZTC)と呼ばれる。ZTCの合成プロセスを図1.1に示す。まず、炭素が化学気相成長(CVD)法によりゼオライトのナノチャンネルに導入される。次に得られた炭素/ゼオライト複合体を水溶性のHF(フッ酸)溶剤にて洗浄し、ゼオライトを除去する。最後に、残留物としてZTCが得られる。Y型ゼオライトのマイクロ細孔ネットワークはダイヤモンド型の構造のため、結果物であるZTCもまたダイヤモンド類似の骨格構造を持つ。数種類のゼオライト鋳型炭素(ZTC)がいくつかのゼオライトの型や炭素源のタイプを変えて開発されて来た。ZTCは、たとえばメタンや水素の貯蔵用の吸着体、電気2重層キャパシタ用電極、燃料電池の電極における白金(Pt)ナノ粒子の担持体といった多様な適用対象が考えられ、すぐれたポテンシャルを持っている。
【0004】
ゼオライト鋳型炭素におけるバッキーボール類似の構造
Y型ゼオライトのナノチャンネル内で合成されたゼオライト鋳型炭素(ZTC)は、親であるY型ゼオライトに由来する、きわめて大きな表面積(約4000m2/g)、驚くほど均一なマイクロ細孔、および長周期規則性を持っている。このZTCの準備・調製には2ステップステップが用いられた。最初のステップでは、フルフリルアルコール(FA)を含浸させ、ゼオライト細孔内で重合させる。この最初の炭素充填後、化学気相成長(CVD)プロセスを実施する。そのようなZTCの分子構造が最近提案され、そこではバッキーボール類似のナノグラフェンから成り、図1.2に示すような3次元の規則的なネットワークに組み込まれた構造を持っている(Nishihara H., Yang Q−H., Hou P−X, Unno M., Yamauchi S., Saito R., Juan I. Parades, Amilia Martinez−Alonso., Juan M.D. Tascon, Sato Y., Terauchi M., and Kyotani T., Carbon 2009, 47, 1220−30)。
【0005】
図1.1のZTCの分子モデルによれば、約36の炭素原子が各スーパーケージ内に導入されており、ゼオライト細孔容積のわずか35%のみが炭素で充填されるに過ぎないことを示している。したがってY型ゼオライトのこれらの限られたナノ空間にさらに炭素原子を充填できる可能性があり、ごく最近、2ステップCVDプロセスを用いることによるカーボン充填量を増やす研究がなされ、得られた炭素は図1.3に示すようなフラーレン類似のネットワーク構造であることが提案された。
【発明の概要】
【0006】
本研究の目的
本研究は、Y型ゼオライトの限られたナノチャンネル中に「できる限り多く」炭素原子を充填することを目的とする。もっとずっと多くの炭素原子をY型ゼオライトの細孔内に導入できれば、これまで一度も合成されなかったユニークなナノカーボンネットワークが得られるかもしれない。Y型ゼオライトの3次元細孔システム内での二つのその可能性が図1.4に示される。フラーレンネットワークと、負のガウス局面を持ち、カーボンシュワルツァイトとなったナノチューブネットワーク構造である。2種類のCVD法が採用され、一つが炭素源ガスが常時・連続的にシステムに供給される連続CVDプロセス、他のひとつが炭素源ガスがシステムにパルス状に送られるプレッシャーパルスCVDである。炭素充填のためのプレッシャーパルスCVDプロセスの効率・有効性について考察する。最後にこのCVDプロセスによって調製された分子構造の可能性のあるモデルを提案する。
【0007】
本発明のひとつのアスペクトによれば、炭素材料であってBET比表面積が800m2/g以上で、かつ水素の炭素に対する重量割合・元素比(H/C重量比)は1wt%より低い。
【0008】
本発明のもうひとつのアスペクトによれば、請求項1から8のいずれかに記載の炭素材料の製造方法であって、次のステップを含む。
【0009】
多孔質ゼオライト鋳型の表面および細孔内に有機化合物を導入し、化学気相成長により前記有機化合物を炭素化し、炭素/ゼオライト複合体を得るステップと、
炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去するステップ。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1.1】図1.1は、ゼオライト鋳型炭素(ZTC)の合成プロセスを示す。
【図1.2】図1.2は、ゼオライト鋳型炭素の分子モデルであって、(a)ゼオライト内部に埋め込まれた状態、(b)Y型ゼオライト鋳型の規則性に従ったバッキーボールユニットにより構成された分子モデルの拡大図を示す。
【図1.3】図1.3は、フラーレン類似のネットワーク構造を示す。
【図1.4】図1.4は、本研究の目的の概念を示すイメージ図を示す。
【図2.1】図2.1は、プレッシャーパルスCVDで用いられた縦置き石英反応器のカムを示す。
【図2.2】図2.2は、プレッシャーパルスCVDにおける実験装置の概要図を示す。
【図2.3】図2.3は、短減圧時間のプレッシャーパルスCVDからの総アセチレン供給量に対し炭素含有量をプロットしたものを示す。
【図2.4】図2.4は、総アセチレン供給量に対し炭素含有量をプロットした図(HYを用いた場合)を示す。
【図2.5】図2.5は、プレッシャーパルスCVDプロセスにおけるパルス印加(パルシング)、レスティングステップを概観したものを示す。
【図2.6】図2.6は、総アセチレン供給量に対し炭素含有量をプロットした図(Nay/PFAおよびHYを600℃で用いた場合)を示す。
【図2.7】図2.7は、総アセチレン供給量に対する炭素含有量をプロットした図(HYを600℃およびと700℃で用いた場合)を示す。
【図2.8】図2.8は、HY−20%Ac7(3198−1s60s)−H9(3)に対して、700℃のプレッシャーパルスCVDにより調製した炭素材料のXRDパターンを示す。
【図2.9】図2.9は、炭素材料のDTG(示差熱重量回折)パターンであって、それぞれ、(a)HY−20%Ac7(3198−1s60s)−H9(3)に対して700℃でプレッシャーパルスCVDにより調製されたもの、(b)HY−20%Ac7(3198−1s60s)−H9(3)に対して700℃で連続CVDで調製されたものを示す。
【図2.10】図2.10は、総アセチレン供給量に対して炭素含有量をプロットした図(HYに対して2ステッププレッシャーパルスCVDにより得られたもの)を示す。
【図2.11】図2.11は、2ステッププレッシャーパルスCVDによって得られた炭素材料のXRDパターンを示す。
【図2.12】図2.12は、800℃でのバーニング後の残留物のEDSスペクトルを示す。
【図2.13】図2.13は、標準シリカ(SiO2)のXRDパターンを示す。
【図2.14】図2.14は、2ステッププレッシャーパルスCVDにより得られた炭素材料のDTGパターンを示す。
【図2.15】図2.15は、2ステッププレッシャーパルスCVDにより得られた炭素材料のラマンスペクトルを示す。
【図2.16】図2.16は、HYに対する2ステップ連続CVDにより得られた炭素材料のN2吸着等温線を示す。
【図2.1−(Apx−1)】図2.1−(Apx−1)は、調製試料のTEM写真であって、(a)ソフトエッチング装置による酸素プラズマ処理前、(b)処理後を示す。
【図2.2−(Apx−1)】図2.2−(Apx−1)は、調製試料のTEM写真であって、20分間の酸素プラズマ処理後のものを示す。
【図2.3−(Apx−1)】図2.3−(Apx−1)は、調製試料のTEM写真であって、10分間−10分間の酸素プラズマ処理後のものを示す。
【図2.1−(Apx−2)】図2.1−(Apx−2)は、全体プロセスとH2O2中での溶解後の溶液を示す。
【図2.2−(Apx−2)】図2.2−(Apx−2)は、KMnO4による滴定を示す。
【図2.3−(Apx−2)】図2.3−(Apx−2)は、C60−H2O2−70C−1dayのTOF−MSスペクトルを示す。
【図2.4−(Apx−2)】図2.4−(Apx−2)は、H2O2中での溶解後、KMnO4での滴定後の各溶液を示す。
【図2.5−(Apx−2)】図2.5−(Apx−2)は、NaY/PFA−5%Ac6(6)−Ac7(6)−H2O2−70C−4daysのTOF−MSスペクトルを示す。
【図2.1−(Apx−3)】図2.1−(Apx−3)は、単層カーボンナノチューブ(SWNT)の理論比表面積の計算(付録3)を示す。
【図3.1】図3.1は、分子モデルであって、(a)C68の構造ユニットからなるもの、(b)C88からなるものを示す。
【図3.2】図3.2は、C76構造ユニットからなる分子モデルを示す。
【図3.3】図3.3は、C72H8構造ユニットからなる分子構造モデル(青色の元素は水素原子)を示す。
【図4.1】図4.1は、ゼオライト骨格内に埋め込まれたZTCの分子構造を示す。
【図4.2】図4.2は、プレッシャーパルスCVDと連続CVDプロセスでの総アセチレン供給量に対する炭素含有量をプロットした図を示す。
【図4.3】図4.3は、2ステッププレッシャーパルスCVDにより得られた炭素材料のDTGパターン(昇温割合 1℃/分)を示す。
【図4.4】図4.4は、2ステッププレッシャーパルスCVDプロセスにより得られた生成物の可能性のある分子構造(炭素含有量を元にして)を示す。
【図5.1】図5.1は、2ステッププレッシャーパルスCVDプロセスにより得られた生成物の可能性のある分子構造(炭素含有量を元にして)を示す。
【図6.1】図6.1は、方法IIによるプレッシャーパルスCVDを示す。
【図6.2】図6.2は、方法IIによるパルスCVD装置を示す。
【図6.3】図6.3は、短減圧時間によるプレッシャーパルスCVDの結果を示す。
【図6.4】図6.4は、長減圧時間によるプレッシャーパルスCVDの結果を示す。
【図6.5】図6.5は、HYに対する、700℃でのプレッシャーパルスCVDの結果を示す。
【図6.6】図6.6は、2ステップパルスCVDの結果を示す。
【図6.7】図6.7は、内部炭素の分析結果を示す。
【図6.8】図6.8は、ゼオライトのひとつのスーパーケージに72個の炭素原子を含むことを示す。
【図6.9】図6.9は、分子構造の結果を示す。
【図6.10】図6.10は、分子構造の結果を示す。
【図6.11】図6.11は、可能性のある分子構造の結果を示す。
【図6.12】図6.12は、BET比表面積結果を示す。
【図6.13】図6.13は、理論比表面積を示す。
【図6.14】図6.14は、他の可能性の結果を示す。
【図6.15】図6.15は、まとめを示す。
【図7.1】図7.1は、ZTCとカーボンナノジャングルジムの製法を示す。
【図7.2】図7.2は、内部炭素の分析結果を示す。
【図7.3】図7.3は、72個の炭素原子が含まれることを示す。
【図7.4】図7.4は、分子構造の結果を示す。
【図7.5】図7.5は、分子構造の結果を示す。
【図7.6】図7.6は熱抵抗特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[炭素材料および炭素材料の製造方法(第1章)]
本発明の炭素材料は、BET比表面積が800m2/g以上で、かつ水素の炭素に対する重量割合(H/C重量比)は1wt%未満であることを特徴とする(請求項1)。好ましくは、炭素材料は細孔規則構造を持ち、細孔の規則構造の基礎を形成する規則的周期(repeated distance identity period)が1.8nm以下である(請求項2)。さらに好ましくは、炭素材料は、細孔規則構造を持ち、細孔規則構造の基礎を形成する規則的周期が1.8nm以下であるのに加え、Cu管球(X線CuKa)を用いたX線回折により確認される、細孔規則構造に由来するピークが5°以上の2θで存在し、5°未満の2θでは細孔規則構造由来のピークが存在しない(請求項3)。代表的には、炭素材料はゼオライト鋳型炭素とカーボンシェルから形成され、炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去することによって得られる。炭素/ゼオライト複合体はゼオライト鋳型と、炭素をゼオライト鋳型に導入することにより得られたナノチャンネル内の規則構造ゼオライト鋳型炭素、およびゼオライト鋳型の外部表面を囲むカーボンシェルにより形成される。そしてゼオライト鋳型炭素の、炭素/ゼオライト複合体の全体重量に対する含有量は36wt%以上、好ましくは37wt%を越え、さらに好ましくは38.0wt%以上である(請求項4〜6)。さらに、ゼオライト鋳型炭素は好ましくはBET比表面積が1500m2/g以上であり、水素の炭素に対する重量割合(H/C重量比)が1wt%未満であり(請求項7)、さらに好ましくは、BET比表面積が1900m2/g以上であり、水素の炭素に対する重量割合(H/C重量比)が0.86wt%未満である(請求項8)。本発明の炭素材料は新規な炭素材料であって、高い比表面積、均一な細孔、酸化抵抗および高耐電圧性を合わせ持ち、電気自動車(EV)または燃料電池車(FCV)に有利に適用できる。炭素材料を電極材として用いれば、優れた特性を有する2重層キャパシターが得られる。その理由はキャパシターが、特性の優れたキャパシターとなるための、次の5つの要求を満たすからである。(1)比表面積が大きい。特に、ゼオライト鋳型炭素は大きな比表面積により大容量を獲得することができる。(2)単位表面積あたりの容量(比容量)が大きい。多くのエッジがある場合や凹凸面が共存するる場合には、比容量を増やすことができない。他方、特にゼオライト鋳型炭素といった本発明の炭素材料はエッジの数が少ないかまったくない凸面構造を持っている。したがって、正の曲率が1nmを下回ることも実現可能であり、比容量が増し、大容量が達成できる。(3)無駄なスペースが存在しない。よって、大容量が得られる。(4)構造的にエッジの数が少ない、よって耐圧(voltage registance)を増やすことができる。従来の多くのエッジを持つ構造では、電圧が上昇するとエッジが酸化し耐圧(容量)は下がる。他方、特にゼオライト鋳型炭素といった、本発明による炭素材料はエッジの数が少ないか存在しない凸面構造を持っている。したがって、耐圧(高容量)が得られる。(5)電解質イオンの移動抵抗が小さいこと。本発明の、特にゼオライト鋳型炭素といった炭素材料を用いることで鋳型のナノチャンネルが多量の炭素で充填され、炭素材料は規則的に指向したナノ細孔を得て、内部抵抗を減らす(急速充電)ことができる。さらには、本発明による炭素材料は容易には熱分解しにくいため、耐熱性と耐酸化性を備える。具体的には、多くのエッジを持つ従来構造では、エッジが容易に酸化し、熱分解のピーク温度(重量減少が最大になる温度)は528℃である。他方、本発明による、特にゼオライト鋳型炭素といった炭素材料においては、エッジの数が少ないかエッジがない凸面構造を持っている。したがって、容易に酸化し難く、熱分解ピーク温度も560℃で、耐熱性が32℃改善することを示している。このような良好な耐酸化性を持つ炭素材料はキャパシタ、さまざまな電気セルの電極材等、幅広く適用可能である。良好な酸化抵抗を備えた炭素材料であればキャパシターにおいて容量増加をもたらす。従来の多くのエッジを持つ構造だと、耐圧性能は低く、キャパシターのクランプ電圧は3Vである。本発明によればエッジの数が少ないかまたは存在しないので、キャパシターのクランプ電圧は、電圧抵抗の改善により4Vまで増加させることができる。
【0012】
本発明による鋳型に用いるゼオライトはとくには制限はなく、従来のゼオライトや派生ゼオライトを含む種々のゼオライトが利用可能である。代表的な例としては、固有の名称(構造コード)で表現すれば、LTA、CHA、ACO、AFG、AEN、AFI、AET、AEL、ATT、AFN、AST、ERI、AEI、SOD、AWO、AWW、ANA、ATV、ATO、FAU、AFO、AFT、VFI、APC、APD、AHT、APC、GIS、MOR、MFI、ASV、STI、EAB、BEA、BPH、BIK、BOG、MEL、EMT、BRE、LOS、CAN、CZP、CAS、NON、MTN、CHI、CON、CFI、HEU、CLO、AFY、CGF、CGS、EMT/FAU、MTW、DAC、DFO、DFT、DDR、STI、DOH、MTN、EDH、PAU、MFI、EPI、MWW、ERI、ESV、EUO、MTT、FER、RHO、ZON、GIS、VSV、GME、NAT、GOO、NES、VFI、PHI、HEU、TON、ITE、IFR、ISV、LTL、EDI、MER、LAU、LEV、ABW、ERI/OFF、BPH、LTN、LIO、LOS、LOV、MAZ、RHO、OFF、HEU、ERI、ATS、ATN、AFS、VFI、MTF、IFR、MSO、AEL、MEP、NAT、AFY、MON、MOR、JBW、NON、RUT、LEV、MPI、FER、NES、KFI、RHO、PAR、LTL、PHI、RON、RTE、RUT、RSN、RTH、ATO、LEV、AFR、AFX、SGT、YUG、STT、STF、SFF、SFE、SAO、SAT、SAS、SAV、TER、THO、ABW、EAB、TSC、MFI、SBS、SBE、SBT、OSI、DON、VET、VNI、WEI、WEN、THO、VSV、VET、VNI、CZP、KFI、MEI、EUO、NON、MFS等が挙げられる。
【0013】
本発明の電極材料は、本炭素材料を用いることを特徴とする(請求項9)。電極材料には、たとえば、キャパシタ用電極材料、燃料電池用電極材料、リチウム電池用電極材料(特にアノード電極材)、空気電池用電極材(特にカソード電極材)が含まれる。電極材は電解質イオンの移動抵抗が低く、プロトン伝導性とイオン伝導性に優れ、また耐酸化性と耐高圧性能が優れていることは上述のとおりである。したがって低い内部抵抗、大容量、高耐圧性、および急速充電性にすぐれた電極材に広く応用できる。
【0014】
本発明による電気セルは、本炭素材料を用いることを特徴とする(請求項10)。電気セルには、燃料電池、リチウム電池、空気電池が例として挙げられる。上述のとおり、電気セルは電解質イオンの移動抵抗が低い、プロトンの伝導性、イオンの伝導性に優れ、また耐酸化性能および耐圧性の良好な炭素材料が用いられる。したがって、低い内部抵抗、大容量、高耐圧性、および急速充電性にすぐれた電気セルに広く応用できる。代表的には、電気自動車、ハイブリッド電気自動車および燃料電池車、ラップトップコンピュータや携帯電話などのモバイルの電源、産業用および家庭用の電力供給用定置式電源などを含む分野に広く適用可能である。
【0015】
本発明によるキャパシターは、本炭素材料を用いることを特徴とする(請求項11)。上述のとおり、キャパシタは電解質イオンの移動抵抗が低く、プロトンの伝導性、イオンの伝導性に優れ、また耐酸化性能および耐圧性の良好な炭素材料が用いられる。したがって、低い内部抵抗、大容量、高耐圧性能、および急速充電性にすぐれたキャパシタに広く応用できる。特にバッテリに比べ耐久性に優れているため、電気自動車、ハイブリッド電気自動車および燃料電池車といった自動車の電気セル分野において広く適用可能である。
【0016】
本発明の炭素材料の製造方法は、多孔質ゼオライト鋳型の表面および内部細孔に有機化合物を導入し、化学気相成長(CVD)により有機化合物を炭化し炭素/ゼオライト複合体を得るステップ、および、炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去するステップを含む(請求項12)。さらに、本発明の炭素材料の製造方法は、ゼオライト鋳型に炭素を導入し、ゼオライト鋳型炭素とゼオライト鋳型の外部表面を囲うカーボンシェルから形成される炭素/ゼオライト複合体を得るステップ、および炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去してゼオライト鋳型炭素とカーボンシェルからなる炭素材料を得るステップを含む(請求項13)。好ましくは、炭素/ゼオライト複合体を得るために、プレッシャーパルスCVDプロセスを採用し、減圧とガスパルス供給を繰り返す(請求項14)。
【0017】
有機化合物としては水素、またはホウ素原子、あるいは、窒素原子、リン原子、硫黄原子、酸素原子、ケイ素原子を含むヘテロ原子等の有機化合物でよい。また、有機化合物は不飽和または飽和有機化合物でもよいし、これらの混合物でもよい。有機化合物としては、二重結合及び/又は三重結合をもつ不飽和直鎖または分枝鎖の炭化水素、飽和直鎖または分枝鎖の炭化水素などが含まれてよく、さらに飽和環式炭化水素、芳香族炭化水素なども含まれてよい。該有機物は、アセチレン、メチルアセチレン、エチレン、プロピレン、イソプレン、シクロプロパン、メタン、エタン、プロパン、ベンゼン、ビニル化合物、およびエチレンオキサイドなどが挙げられる。これらのうちで、有利には、多孔質体の細孔内に入り込むことのできる、たとえば、アセチレン、エチレン、メタン、エタンなどが好適なものとして挙げられる。有機化合物は、高温でのCVD法に用いるものと、より低温でCVDに用いるものとでは、互いに同一のものであっても異なっていてもよい。例えば、低温でのCVDでは、アセチレンまたはエチレンを使用し、より高温でのCVDには、プロピレン、イソプレンまたはベンゼンを使用するなどとしてよい。
【0018】
炭素/ゼオライト複合体を得るステップについても特に制限はなく、化学的気相成長(CVD)を用いることが可能である。好ましくはプレッシャーパルスCVDプロセスを用いて減圧とガスパルス供給を繰り返し行うのが本発明の炭素材料を得るのにきわめて有利である。特に、減圧とガスパルス供給を繰り返すことにより、ゼオライト鋳型内の細孔の内部と外部間に圧力差・差圧が発生する。この差圧による駆動力・促進力を利用して、多量の炭素が細孔に導入され得る。具体的には、減圧―ガスパルス供給を繰り返すことによりゼオライト鋳型の細孔内への炭素充填量(炭素含有量)は36wt%まで上昇させることができ、この方法は画期的な方法と言える。さらに、詳述すると、ゼオライト鋳型(template)がロータリポンプに接続された反応器内に載置される。10Pa以下の圧力に減圧・真空排気され、続いてCVD温度、700℃まで加熱して、有機化合物(窒素N2中,0.1から70vol%)を反応器内にパルスで1秒間送り込む。このパルス操作後、60秒間、減圧・真空排気し、10Pa以下にまで減圧する。この減圧―ガスパルシングサイクル(パルシング減圧プロセス)を、CVD温度400〜850℃の下で、200〜50,000回(好ましくは、500から10,000回)繰り返し行う。続いて、850℃から1100℃で、1分間から100時間(好ましくは、5分間から1時間)の間熱処理を実施し、炭素/ゼオライト複合体を調製する。2ステッププレッシャーパルスCVD法では、上述の減圧ーガスパルシングサイクルをCVD温度400〜850℃で200から50,000サイクル(好ましくは、500から10,000)行い、炭素の蒸着・堆積を繰り返す。そして上記減圧―ガスパルシングサイクルを、より高い温度である500から900℃で、200から50,000サイクル(好ましくは、500から10,000)実施し、炭素の堆積を繰り返し実施する。この方法により、ゼオライト鋳型内で、きわめて高い炭素含有量(内部含有量)である37wt%またはこれ以上が実現可能である。
【0019】
炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去するステップは特に制限はなく、従来の方法、すなわち多くのエッジを持つ炭素材料の製法を同様に採用できる。たとえば、ゼオライト鋳型から炭素部分を開放・離型するために、フッ酸(HF 46wt%)洗浄により室温から90℃までの範囲で1分間以上(好ましくは5分間から48時間)洗浄することが可能である。この洗浄により、ゼオライト鋳型炭素とカーボンシェルからなる炭素材料が得られる。
【0020】
[2ステップ連続CVDから得られるゼオライト鋳型炭素(第2章)]
(1.はじめに)
以前、2ステップアセチレンCVDを用いて、多量の炭素をHタイプのY型是ゼオライト(HY)のナノチャンネル中に堆積することが出来たと以前報告されている(1)。本章ではCVD時間を単純に延長することで、より多くの炭素を充填させる試みがなされた。さらにCVDプロセス前にフルフリルアルコール(FA)に浸漬、重合させることにより炭素の導入を行うアイデアも検討された。
【0021】
(2.実験)
(2.1 Y型ゼオライト)
Y型ゼオライトは無機多孔質結晶で、シリカ(SiO2)とアルミナ(Al2O3)の骨格を持つ。Y型ゼオライトは3次元の細孔システムを持ち、細孔入り口が7.4Å、内部キャビティ(またはスーパーケージ)が13Åである。本研究においては、2種のY型ゼオライトが鋳型(テンプレート)として用いられた。Naタイプ(NaY)とHタイプ(HY)である。Y型ゼオライトにおけるカチオン(Na+、H+)の存在により骨格が安定する。いずれのタイプもTosoh Corporationから購入され、その物性を以下の表2.1に列挙する。ゼオライト鋳型は、以下のすべての実験実施前に、150℃で8時間、減圧下(真空下)で乾燥した。
【0022】
【表1】
【0023】
(2.2 ゼオライトナノチャンネル内へのフルフリルアルコール(FA)の浸漬と重合)
FAをゼオライトナノチャンネル内に浸漬し、重合するプロセスについては他に記載がある(2)。簡単に説明すると、乾燥したNaY(10g)をフラスコ内に入れ、80℃まで加熱して1時間保持する。次に、150℃まで加熱し、さらに8時間保持した。最後に室温まで冷却する。すべての操作は減圧下で実施されることに留意されたい。NaYが完全に冷やされた後、FA(C5H6O2、Wako Pure Chemical Industries Ltd.350g)をNaYを内包したフラスコ内に導入し、1時間保持(減圧下)、そして、N2ガス(150ml/min)をプロセスに導入する。NaYはこの状態で7時間攪拌された。
【0024】
混合物は遠心分離され(クボター8010)、固形部をメシチレン(C6H3(CH3)3、和光純薬株式会社)にて洗浄した。この遠心分離、洗浄プロセスは5回繰り返され、FA/ゼオライト複合体はテフロンフィルター(アドバンテック、撥水PTFE 0.5ミクロン)を用いて分離された。濾過ステップの後、FA/ゼオライト複合体は、縦置き石英管反応器内に置かれ、FAの重合が150℃にて、行われた。
【0025】
市場に流通するPFA/ゼオライト化合物は、Nippon Steel Chemical Co.,Ltdより購入されたもの(重合中間体(ポリメライズドーインターミディエート:polymerized−intermadiate)、ロット番号.F36−F37 ブレンド)も実験室で調製されたものと比較して使用したことに留意する。Nippon Steel Chemical Co.,Ltd.製のPFA/ゼオライト複合体および実験室で得られたもののTGパターンから、両サンプルのTG測定中の総重量ロスはほとんど同じで、それぞれ、Nippon Steel Chemical Co.,Ltd.のPFA/ゼオライトが22.8wt%、実験室で調製されたものが23.1wt%であった。したがって、日産からもらった複合体を以下の実験では用いた。
【0026】
(2.3 HYゼオライトに対する長時間CVDを伴う2ステップCVDについて)
乾燥したHY(0.5g)を縦型石英管反応器に入れ、次に電気炉内に置いた。600℃に加熱し第1ステップのアセチレン(N2中、5vol%、総流量150ml/分)CVDを6時間実施した。次に室温まで冷却し、大気条件で1夜放置した。翌日、窒素ガスをまず反応器に(150ml/分)、1時間流入させてから、700℃まで加熱し、第2ステップのCVDを6時間行った。最後に窒素雰囲気(150ml/分)下で900℃、3時間熱処理した。得られた炭素/ゼオライト複合体は以下のとおりラベリングされた。
【0027】
HY−5%Ac6(6)−Ac7(6)−H9(3)−Z
CVD時間は、各CVDステップにおいて以前の研究における2時間から、6時間に延長したことに留意されたい。炭素材料はゼオライト鋳型から、室温、6時間でのHF(ホウ酸)洗浄(46wt%、Wako Pure Chemical Industries Ltd、100gHF当り、〜0.3gの複合体)により分離した。炭素部分をその後テフロン膜フィルター(アドバンテック、撥水PTFE,細孔径0.2ミクロン)により収集し、蒸留水により十分洗浄して、150℃、8時間、減圧・真空下で乾燥させた。得られた炭素材料は以下のようにラベリングした。
【0028】
HY−5%Ac6(6)−Ac7(6)−H9(3)
(2.4 NaY/PFAに対する2ステップCVD)
すべての合成条件はセクション2.3と同一であるが、セクション2.2において得られたNaY/PFA(0.5g)を、HYの代わりに用い、結果物を以下のようにラベリングする。
【0029】
NaY/PFA−5%Ac6(6)−Ac7(6)−H9(3)−Z
セクション2.3と同様にHF(ホウ酸)洗浄を実施し、セクション2.3と同様にゼオライト鋳型から炭素を分離し、得られた炭素材料を以下のようにレベリングした。
【0030】
NaY/PFA−5%Ac6(6)−Ac7(6)−H9(3)
(2.5 評価)
(2.5.1 熱重量分析(TGA))
合成された炭素/ゼオライト複合体における炭素含有量を熱重量分析装置(Shimazu DTG−60H)を用いて特定した。複合体はアルミナパンに入れ、800℃まで加熱した。空のアルミナパンもまた同一のプロフィールを用いて分析した。分析中において重量変化がはっきりと観察できるTGパターンの信頼できるデータを得るためには、得られたTGパターンから空のアルミナパンのTGパターンを差し引くことによりこの影響を取り除かなければならない。
【0031】
(2.5.2 X線回折分析(XRD))
X線回折装置(Shimazu XRD−6000 で CuKa線を30kV,20mAで放射)を用いて得られた炭素材料の規則性構造の評価を行った。測定条件を表2.2に挙げる。シリコン製試料ホルダーを用いた。
【0032】
【表2】
【0033】
(2.5.3 透過型電子顕微鏡 (TEM))
調製試料の結晶構造を透過型電子顕微鏡(TEM,JEM−2010 JEOL製)を用い、加速電圧200kVで観察した。観察前、エタノールに浸漬し、Cuグリッド(タイプB)に載せて、80℃、30分間乾燥させた。
【0034】
(2.5.4 示差・微分熱重量分析(DTG))
TG測定から得られたデータを用いてDTG分析を実施した(Shimazu、DTG−60H)。炭素材料をアルミナパンにいれ、800℃まで加熱した。
【0035】
なお、温度プログラムは、550℃までは、DTG測定時にも使用された。
【0036】
(2.5.5 走査電子顕微鏡(SEM))
得られた材料(試料)は電界放出型走査電子顕微鏡(SEM,ヒタチ S−4800)を用いて直接観察した。カーボンテープ上に材料を載置し、金属の蒸着なしで観察した。
【0037】
(2.5.6 窒素吸着量測定)
−196℃にてN2吸着分析を行った(BEL Japan、BELSORP−max)。得られた炭素材料の吸着―放出特性と比表面積を評価した。結果物(試料)は測定前に150℃で6時間、減圧下で脱気処理を施した。比表面積は、相対圧P/P0の範囲が0.01<P/P0<0.05で、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)法により計算され、全細孔容積は、P/P0=0.96の場合で計算した。
【0038】
(2.5.7 ラマン分光)
炭素材料(試料)のラマンスペクトルをラマン分光光度計(Jasco(ジャスコ) NRS−3000FL)により、緑色レーザを用い、波長532nmにて記録した。測定前、ラマンシフトをSi標準(Si Standard)により、表2.3に記した条件の下で校正した。炭素試料の測定条件は表2.4に記す。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
(3.結果と考察)
(3.1 CVD時間延長を伴った2ステップCVD)
炭素/ゼオライト複合体のTGAパターンを、HY−5%Ac6(6)−Ac7(6)−H9(3)−Zでラベリングして、この2ステップCVDプロセスから得た。この複合体中の炭素含有量はTG測定中の重量ロスから計算されており、結果としての炭素含有量は43.7wt%と、前の研究のHY−5%Ac6(2)−Ac7(2)−H9(3)−Zにおける38wt%を大きく上回る。しかしながら両ケースにおけるXRDパターンは、2θで、6.4°の位置で急峻なピーク値を持つことで、ゼオライト細孔内に堆積した規則性構造の炭素(内部炭素(インナーカーボン))を示し、ゼオライト鋳型に由来する構造的周期性を示しているだけではなく、2θがおおよそ25°近辺で幅広のピークを持ち、積層した炭素(の存在)をも反映している。以前の報告ではこの積層炭素はゼオライトの結晶の外表面に堆積したもの、いわゆる外部炭素であるとされた。この外部炭素を酸素プラズマ処理により除去する試みもなされたが成功しなかった(付録1参照)。
【0042】
内部炭素の割合をTGA結果から計算されたDTG分析を用いて求める試みがなされた。TGA中の重量ロスは、2つの矢印で示すように2つのステップから成っている。このTGA結果から計算されたDTGパターンは、560℃と630℃に2つのピークを持ち、ガウス関数によるフィッテング(Gaussian fitting)から計算された面積割合を図示する。
【0043】
それぞれのピークを特定するため、同じ炭素試料を550℃で、2時間焼成・燃焼し、得られたDTGパターンでは、第1のピークのみが残り、測定中の質量低減は60wt%であった。さらに、残留物をTEMとSEMとで観察した結果、この試料は外部カーボンシェルのみを持つことが分かった(内部炭素のみが550℃で消失した)。したがってDTGパターンにおける第1のピークは内部炭素に対応するものであることと結論づけられる。
【0044】
図2.3(a)に示すようにDTGパターンにおける各ピークの面積割合はそれぞれ67%、33%であり、第1のピークは内部炭素に対応する。これらの結果から内部炭素は33wt%と求められた。この値は、前の研究で短いCVD期間を用いた場合と同一であり、このことはCVD時間の延長によってゼオライト細孔内により多くの炭素を取り込めることにはならはないことを意味しており、HYを鋳型として用いて2ステップ連続CVDを行った場合の最大炭素含有量は33wt%であることを示すものである。
【0045】
(3.2 NaY/PFAに対する2ステップCVD)
前セクション3.1で考察したように、強い酸性質を示し小さなカチオンサイズを備えたHYを用いてもゼオライト細孔内に炭素を有効に導入することができない。よって、連続CVDプロセス前にNaY中にFAを含浸、重合させることで、炭素をある程度導入するというアイデアが検討された。ここでFAはHYに対しては酸性度が強すぎHYに付着すると、均一に含浸される前にただちに重合してしまうため、使用不能であることに留意されたい。CVD時間に対し、炭素含有量をプロットしたものから、NaY/PFAに対し、5vol%アセチレンガスを供給、CVD温度600℃では、CVD時間、6時間で26wt%の最高値に達する。よって、このステップを2ステップCVDの第1のステップとした。第2ステップのCVDは700℃、6時間行われ、結果の炭素含有量は、TGパターンから計算して、39.6wt%である。
【0046】
この炭素材料、NaY/PFA−5%Ac6(6)−Ac7(6)−H9(3)、はまさに内部および外部炭素からなる二重構造を持っていることが、XRDパターンとTEM写真から確認される。明らかにこの炭素材料は、ゼオライト鋳型に起因する非常に高い構造規則性を備えHYを用いて調製した炭素材料よりも高いことが分かる。浸漬・重合プロセスのおかげで、FAが均一にゼオライト細孔に含浸させられこれらの限られた、隔成されたナノチャンネル内で重合される。HYに対してこの2ステップCVDを行った場合には、炭素はランダムにゼオライト鋳型の内側と外側に堆積し、細孔の閉塞をきたす可能性があるものと推測される。その結果、炭素は有効にナノチャンネル内に充填できないであろう。
【0047】
内部炭素の割合を特定するために、再度DTG分析を用いた。結果のDTGパターンから、それぞれのピークの面積割合は、ガウスフィッテングにより計算され、それぞれ81wt%、19wt%であった。既述のとおり、最初のピークが内部炭素に対応する。これらの結果から本材料(試料)の炭素含有量は34.6wt%と算出され、これはHYを用いて調製されたもの(33wt%)より高い。これらの結果からFAをゼオライト鋳型に均一に浸漬・重合させるメリットが明らかである。調製された材料は高い構造規則性のみならず高い内部炭素量を持つ。このように高い炭素含有量により、試料はフラーレンに類似した構造を備えることが推定される。したがってこの試料をTOF−MS技術を用い、H2O2中に溶解すること(付録2参照)で分析した。しかし、C60に相当するピークは認められなかった。
【0048】
Nay/PFAに対して、2ステップ連続CVDにより調製された炭素材料のN2吸着等温線は、IUPACに基づく、I型の等温線に区分され、細孔性状(microporosity)の生成度合いを示している。相対圧が0.01〜0.95の範囲においてBET比表面積は1720m2/gであり、相対圧が0.96のときで計算された全細孔容積は0.74cm3/gである。内部炭素の理論表面積は、BET比表面積およびDTGパターンにおける割合(fraction)から計算でき、結果は2100m2/gであった。この値は1nmの外径を持つSWNT(単層カーボンナノチューブ)に関するもので、、以下の式で表される(詳細は、付録3参照)。
【0049】
【数1】
【0050】
市場に流通しNippon Steel Chemical Co..Ltdから納入された通常のZTCと、NaY/PFAに対して2ステップ連続CVDを行って調製された炭素材料のラマンスペクトル(分光)から、これらラマンスペクトルから炭素材料についての代表的なラマン特性が観察でき、接線方向のGバンド、欠陥由来のDバンドを含んでいる。さらに、500cm−1以下で広域のラマン特性、いわゆるラジアルブリージングモード(RBM)振動が観測される。このRBM類似の特徴は非常に小さな曲率半径を持つ曲面グラファイトシートの存在を示唆している。ZTCの場合、このRBM類似は230〜430cm−1に現れ、曲率半径が230〜430cm−1単層グラフェンシートがY型ゼオライトの幾何学的細孔サイズ(0.74〜1.3nm)(3)内に充填されていることを示している。しかしながら、NaY/PFAに対して2ステップ連続CVDにより調製された炭素材料の場合にはこの特徴が100〜480cm−1の範囲に現れ、Y型ゼオライトにおける1.3nmの幾何学的細孔サイズよりも大きな曲率半径の存在を示唆している。これはゼオライト粒子の外表面の外部炭素によるものでランダムに積層され、いくつかは1.3nmよりも大きな曲率を形成しているためと考えられる。
【0051】
上述のとおり炭素試料を550℃まで燃焼させると、内部炭素は焼失し、外部炭素のシェル構造が残ることになる。この550℃までの熱処理を経た炭素試料のラマンスペクトルでは、Dバンドの強度がGバンドの強度とほとんど同じになっており、内部炭素の消失によるものと推定される。しかしながら、RBM類似の特徴は同じ領域で依然として見られる。このことは外部に積層した炭素がランダムに堆積し、径の変化となっていることを示している。さらに、このRBM類似の特徴は内部炭素には関係しない。
【0052】
(4.結論)
FAのNayゼオライト内への浸漬および重合と、それに続く、600℃および700℃での2ステップ連続CVDによりゼオライトナノチャンネル内に炭素が充填され、内部炭素含有量は34.6wt%に(炭素/ゼオライト複合体の時点で)達した。さらに得られた炭素材料はゼオライト鋳型に由来する高い構造的規則性を備える。これらの知見はFAをY型ゼオライトのナノチャンネル内部に均一に浸漬、重合させるという浸漬および重合プロセスのメリットを示唆している。
【0053】
参考文献
[1] Imai Katsuaki, Tohoku University、修士論文 2008.
[2] Matsuoka K., Yamagishi Y., Yamazaki T., Setoyama N., Tomita A., and Kyotani T., Carbon 2005, 43, 876−9.
[3] Nishihara H., Yang Q−H., Hou P−X, Unno M., Yamauchi S., Saito R., Juan I. Parades, Amilia Martinez−Alonso., Juan M.D. Tascon, Sato Y., Terauchi M., and Kyotani T., Carbon 2009, 47, 1220−30.
[プレッシャーバルスCVDによって得られるゼオライト鋳型炭素(第3章)]
(1.はじめに)
第2章では、連続CVDによる炭素充填について研究され、得られた炭素ゼオライト複合体が34.6wt%の炭素含有量を持つことが報告された。この章では、プレッシャーパルスCVDを使ってさらに多くの炭素をY型ゼオライトの限られたナノチャンネル内に充填するための試みがなされた。圧力差(差圧)に基づく促進力を与えることで炭素はこれらナノチャンネル内に詰め込まれ、結果としての複合体は高い内部炭素含有量を持つであろう。最後に、このプレッシャーパルスCVDプロセスの効率・有効性につき、従来のCVDと比較しながら考察した。
【0054】
(2.実験)
(2.1 HYに対して短減圧時間でのプレッシャーパルスCVD)
乾燥させたHY(0.25g、第2章、セクション2.1で記載のもの)を図2.1に図示する縦置き(垂直)石英管反応器(リアクター)内にセットする。反応器はロータリポンプに接続されている。つぎに反応器は、下記概観図(図2.2)に示すとおり縦型の電気炉内に置かれた。反応器は最低圧が10Pa以下になるまで減圧され、ついで600℃まで加熱・昇温してからCVDが行われた。パルスシング前、アセチレンガス(N2中5vol%、総流量50ml/min)を流した。パルシングステップにおいて、青い鎖線に1秒間切り替えることでアセチレンガスをパルス供給した。このパルスステップのあと、アセチレンガスは赤い鎖線で示すように切り替えられ、反応器は再度1秒間減圧された。なお、このパルスー減圧条件において、圧力は700〜800Paのレンジ内で変化する。このパルスー減圧プロセスを30000から50000サイクル繰り返し行った。しかしながらこのような実験を継続するのは困難であった。したがって、数日間に分け、毎日CVDを6時間行った。毎日のCVDの後、室温まで冷却し、大気圧下で一夜放置した。次のCVDは翌日行った。その前に、反応器は30分間減圧し、600℃まで加熱、プレッシャーパルスCVDを開始した。これをパルスサイクルが所望の値になるまで繰り返した。最後にN2通風(150ml/min)下で900℃、3時間熱処理を加えて得られた炭素/ゼオライト複合体を以下のようにラベリングした。
【0055】
HY−5%Ac6(N−1s1s)−H9(3)−Z ここに、N=30000および50000
HF(ホウ酸)洗浄も行い、第2章、セクション2.3と同様ゼオライト鋳型から炭素を分離し、得られた炭素材料を以下のようにラベリングした。
【0056】
HY−5%Ac6(N−1s1s)−H9(3) ここに、N=30000および50000
ここで、より高いアセチレンガス濃度(N2中 20vol%、総流量50ml/min)での実験も行い、同様なパルスー減圧条件(1s、1s)で、パルスー減圧ステップを10000サイクル繰り返した。結果の炭素/ゼオライト複合体を以下のようにラベリングした。
【0057】
HY−20%Ac6(10000−1s1s)−H9(3)−Z
比較のため、連続CVDの実験も行った。HYを鋳型として使い、アセチレンガス(N2中5vol%、総流量150ml/min)CVDを600℃、2時間行い、続けて900℃、3時間熱処理を行った。得られた炭素/ゼオライト複合体を以下のようにラベリングした。
【0058】
HY−5%Ac6(2)−H9(3)−Z
(2.2 HYに対し長減圧時間でのプレッシャーパルスCVD)
本セクションにおける実験装置構成は、セクション2.1と同じであるが、パルスー減圧ステップが異なる。乾燥したHY(0.25g)を鋳型として用い、アセチレン(N2中、20vol%)CVDを600℃にて実施した。パルスー減圧ステップは1秒、60秒に各々変更した。ここでパルスー減圧ステップ条件に関し、圧力は10〜200Paの範囲で変化させた。パルスー減圧プロセスは、2655、4951および5895サイクル、続けて繰り返し実施した。得られた炭素/ゼオライト複合体は以下のようにラベリングした。
【0059】
HY−20%Ac6(N−1s60s)−Z、 ここに、N=2655、4951および5895
比較のために連続CVDの実験も行った。鋳型としてHYを用い、アセチレン(N2中、20vol%、総流量150ml/min)CVDを600℃にて、それぞれ0.5、1、および1.5時間実施した。900℃、3時間の熱処理後に得られた炭素/ゼオライト複合体を次のようにラベリングした。
【0060】
HY−20%Ac6(t)−H9(3)−Z ここに、t= 0.5、1および1.5時間
(2.3 NaY/PFAに対するプレッシャーパルスCVD)
NaY/PFA(0.25g、調製プロセスについては第3章、セクション2.2に記載した)を用い、パルスー減圧条件はセクション2.2(1sおよび60s)と同一である。このステップを連続して繰り返し、708、1652および2537サイクル実施した。CVD条件もセクション2.2と同じであった(600℃、N2中、20vol%のアセチレンガス)。得られた炭素/ゼオライト複合体は次のようにラベリングした。
【0061】
NaY/PFA−20%Ac6(N−1s60s)−Z ここに、N=708、1652および2537
比較のために、NaY/PFAに対し実験を行った。得られた炭素/ゼオライト複合体を次のようにラベリングした。
【0062】
NaY/PFA−20%Ac6(t)−H9(3)−Z ここに、t=4、6および10時間
(2.4 HYに対し、700℃でのプレッシャーパルスCVD)
CVD温度が700℃であり、パルス減圧ステップを連続して983、2045、および3198サイクル繰り返した以外は、セクション2.2と同じ条件で、。得られた炭素/ゼオライト複合体を以下のようにラベリングした。
【0063】
HY−20%Ac7(N−1s60s)−Z ここに、N=983、2045および3198
HYに対し、700℃での連続CVDも比較のために行われ、得られた炭素/ゼオライト複合体を以下のようにラベリングした。
【0064】
HY−20%Ac7(t)−H9(3)−Z ここに、t=1および2時間
(2.5 HYに対する2ステッププレッシャーパルスCVD)
セクション2.2で得られた炭素/ゼオライト複合体、HY−20%Ac6(5895−1s60s)−Zを第2回目のプレッシャーパルスCVDに供し、700℃、同じアセチレンガス濃度の20vol%およびパルスー減圧ステップ(1sおよび60s)で実施、連続して944,2360および3752サイクル繰り返した。得られた炭素/ゼオライト複合体は次のようにラベリングした。
【0065】
HY−20%Ac6(5895)−Ac7(N−1s60s)−Z ここに、N=944、2360および3752
プレッシャーパルスCVDにより得られた全試料をまとめて、以下の表3.1に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
(2.6 評価)
すべての評価は、第2章、セクション2.5のものと同じであった。
【0068】
(3.結果と考察)
(3.1 HYへの炭素充填に対する減圧時間の影響)
図2.3に、短時間減圧のプレッシャーパルスCVDによる総アセチレン供給量に対し炭素含有量をプロットしたものを示す。このデータから、プレッシャーパルスCVDプロセスは、炭素含有量が連続CVDと同様な傾向であることから効果が認められないと思われる。さらにアセチレンガス濃度を20vol%に増やしても炭素量はさほど増加できない。しかしながら、高濃度にすることで、トータルのCVD時間は短縮できた。したがって今後のすべての実験においてこの濃度を使用した。
【0069】
図2.4は長減圧時間のプレッシャーパルスCVDによる総アセチレン供給量に対し炭素含有量をプロットしたものを示している。減圧時間を60sまで増やすことでプレッシャーパルスCVDプロセスの効果が顕著に認められ、得られた炭素含有量は、連続CVDより総アセチレン供給量は少ないにも関わらず、おおよそ34wt%の最大値に達することができた。これはプレッシャーパルスCVD中の差圧の結果であると考えられる。図2.5に示すようにCVD処理の前にゼオライト鋳型は減圧され、ゼオライト細孔の内部、外部とも10Paの低圧に置かれる。アセチレンガスがシステムにパルス供給されると、ゼオライト細孔外部圧(Pout)は上昇し、他方、ゼオライト細孔の内部圧(Pin)は依然同じに保たれる。その結果、この差圧により、CVDが行われているときにアセチレンガスがゼオライト細孔に押し込まれる。パルスステップ終了後、システムは再度減圧され、余分なアセチレンガスと堆積しない炭素系分子はシステムから取り除かれる。レスティング(休息)時間がすべての余剰物を除去するのに十分長時間であれば、ゼオライト鋳型はCVDプロセス中を通してフレッシュな状態に保たれる。
【0070】
(3.2 NaY/PFAに対するプレッシャーパルスCVD)
プレッシャーパルスCVDの実験において、CVDプロセス前に炭素を導入するアイデアも検討した。第2章の結論で述べたように、FAをNaYゼオライト内部に浸漬し重合することにより内部炭素含有量は格段に増加しうる。図2.6はNaY/PFAを用いて調製された試料について総アセチレン供給量に対する炭素含有量をプロッタしたものを、HYに対するデータとともに示したものである。プレッシャーパルスCVDプロセスの効果が歴然に現れており、HYについて既述したことと同様であるが、HYを用いた場合と比べ、炭素含有量は依然として少ない(連続CVDの場合と異なり、NaY/PFAはHYより良好であった)。この反対についての説明はいまだに不明である。ひとつの可能性としては、プレッシャーパルスのCVDの差圧により炭素がゼオライト細孔に押し込まれることである。高効率を達成するためには、細孔は“空隙”になっていて炭素がこの駆動力・促進力によって細孔内に容易に導入される必要がある。HYはNaYのそれより小さなカチオンサイズであること、(炭素充填にはより多くのスペース)、さらに、“空”である。したがってHYで得られた複合体はNay/PFAにより調製された複合体よりも高い炭素含有量を持つ。この観点から、プレッシャーパルスCVDプロセスにおいては差圧(圧力差)が、高い炭素含有量を達成するための主要要因となる。
【0071】
(3.3 HYに対し700℃でプレッシャーパルスCVD)
CVD温度を上昇させることで、システム内のすべての種の原子振動が増大する。これを考慮し、高温度がプレッシャーパルスCVDプロセス中の炭素堆積に重要な影響を与えるのではないかと考えられた。図2.7に示すように、この実験から得られた炭素含有量を総アセチレン供給量に対しプロットし、HYを用いて600℃で調製したものと比較した。高温条件によりもたらされる別の駆動力を考慮することによって非常に高い炭素含有量が得られることが認められる。しかしながら、予想したとおり、ゼオライト細孔内部のみならず、ゼオライト結晶の外表面までも炭素が堆積していることが、図2.8に示すXRDパターンにより確認される。第3章において述べたとおり、2θが6.4°において急峻なピークは内部炭素の規則的構造を表しており、2θが25°近辺の幅広のピークは外部炭素の存在を反映している。
【0072】
第3章で前述と同様に、DTGを用いて内部炭素の割合を特定する試みがなされた。炭素材料、HY−20%Ac7(3198−1s60s)−H9(3)、のDTGパターンを図2.9(a)に、ガウスフィッティングにより計算された面積割合とともに図示する。内部炭素に対応した第1のピークとして、内部炭素量が第1のピークの面積割合から計算できる。その結果、本試料の内部炭素含有量は35.9wt%であり、連続CVDを使って得られたHY−20%Ac7(2)−H9(3)に対する33.6wt%(図2.9(b)のDTGパターンから計算)より高い。これらの結果から二つの主要な駆動力、すなわち差圧と高温条件とを考慮した、700℃雰囲気でのプレッシャーパルスCVDプロセスの有効性が示された。
【0073】
(3.4 HYに対する2ステッププレッシャーパルスCVD)
600℃および700℃、特に、700℃でのプレッシャーパルスCVDプロセスの有効性については、すでにセクション3.3で説明したとおりである。より高い炭素含有率を得るため、最初の炭素堆積は低い温度(600℃)で大部分がゼオライト細孔の内部で行われ、最高値に達する。700℃での第2の炭素堆積により、プレッシャーパルスCVDプロセス中の高温と差圧によってさらに炭素含有量を増加する。これらの実験により得られた炭素含有量を総アセチレン供給量に対してプロットしたものを、図2.10に、600℃での第1CVDのデータと共に示す。炭素含有量が最大値である約31wt%到達後、700℃での第2回目のCVDにより、図2.10に示すように炭素含有量を56wt%まで増加させることができる。
【0074】
この炭素材料もXRDで確認されるとおり(図2.11)内部炭素と外部炭素(outer carbon)を持つ。特に外部炭素を反映した広幅化ピークが明瞭に観察できる。結果的に、ゼオライト細孔の内部だけでなくゼオライト結晶の外部表面にも多量の炭素が堆積している。さらに2θが18.1°で小さなピークが顕著に観察できる。このピークを特定するため炭素試料を800℃で燃焼させ、残留物をTEM観察に供すると共に、観察中にEDS(エネルギー分散型X線分光器)を用いて元素分析を実施した。図2.12が、EDSスペクトルと残留物中のSi、Alおよび酸素を含んだ元素を示している。よって、XRDパターン中の小さなピークはシリカ(SiO2)および/またはアルミナ(Al2O3)からなる物質を反映しておりHF洗浄後も残留したものであると考えられる。この結果は図2.13に示す基準SiO2のXRDパターンとよく一致する。
【0075】
2ステッププレッシャーパルスCVDによって得られたこの試料のDTGパターンを図2.14に、ガウスフィッティングにより計算された面積割合と共に図示する。DTG結果から計算された内部炭素含有量は37.4wt%にまで上昇している。これはこれまでのところY型ゼオライトの限られたナノチャンネル中に充填された炭素量としては最大である。
【0076】
これらの結果からプレッシャーパルスCVDプロセスの優位性・効率性が示された。600℃の第1炭素堆積で、炭素は大抵がゼオライト細孔内部に堆積させ、続いて700℃での第2炭素堆積により、圧力差と高温状態が重要な役割を担って炭素をこれらのナノチャンネルに押し込める。結果的に、きわめて高い炭素含有量でこれまで到達できなかった37.4wt%を達成することができた。
【0077】
この炭素試料において、炭素材料の代表的なラマン特性も観察でき、1600cm−1でのGバンド、1340cm−1でのDバンド、および500cm−1以下の周波数でのRBM類似のバンドである(図2.15)。しかしながら多量の外部炭素の存在によりDバンドの強度は第2章で得られたものと比較して増加した。さらに200cm−1以下でのRMB類似の特性が明瞭に観察でき、前の第2章での言及した外部炭素の存在に起因するものと推察される。
【0078】
図2.16はHYに対して2ステップ連続CVDを行って調製された炭素材料のN2吸着等温線を示す。この等温線はIUPACによるI型等温線に分類されるものでマイクロ細孔(microporosity)の生成状況を表す。BET比表面積は相対圧が0.01〜0.05で980m2/gと計算され、トータル細孔容積は相対圧が0.96のときで0.48cm3/gと求められた。内部炭素の理論表面積は、BET比表面積とDTGパターンからの割合から求められ、計算値は1900m2/gである。第2章に既述した式をベースにこの値はSWNTの外部径1.28nmに相当し、ゼオライトのスーパーケージ内に挿入可能の大きさである。
【0079】
(4.結論)
本章では、プレッシャーパルスCVDが備える有効性・効率性が明らかとなった。本実験における圧力差に由来する駆動力・促進力により、炭素がY型ゼオライトの限られたナノチャンネル中に有効に充填され、37.4wt%の内部炭素含有量を炭素/ゼオライト複合体の段階で達成できた(これまで達成できた最高値)。得られた材料は,1.28nmの直径のSWNTに類似の構造を有し、ゼオライトスーパーケージ内に装填可能である。
【0080】
[分子構造の構築 (第4章)]
(1.はじめに)
前の第3章において、炭素をY型ゼオライトの限られたナノチャンネルに導入するのに有効なツールとしてプレッシャーパルスCVDプロセスが開発された。この方法により得られた炭素/ゼオライト複合体はゼオライト細孔に極めて高い炭素量を含有している。われわれの知る限り、この値はこれまで得られた最大値である。本章では、分子モデリングソフト、Chem3D Ultra 11.0、を用い炭素の分子構造の構築を試みた。安定化分子構造を得るためにMOPAC(半経験的分子軌道法計算ソフト)を使用した。
最後に実験結果とマッチする可能性のある分子構造を提起した。
【0081】
(2.実験)
分子モデリングソフトウエア、Chem3D Ultra 11.0 (Cambridge Soft Co.)を使い分子構造を構築するために、ゼオライト空隙内部のグラフェン層に6角形、5角形および/または7角形を相互接続し組み込んだ。分子構造の幾何学的最適計算は、半経験的ハミルトンPM5(semi−empirical Hamiltonian PMS)を用い、MOPAC(Fujitsu Limitedの Scigress Explorer 7.6に内包)のMOZYMEアルゴリズムと組み合わせて実施した。
【0082】
(3.結果と考察)
合理的な分子構造は、これまでいくつかの評価技術(TEM,ラマン分光、XRD)を用いて得られた構造情報と整合していなければならない。さらに、MOPACの半経験的ハミルトンPM5を用いた幾何学的最適計算上でエネルギー的に安定である必要もある。グラフェンシートは5角形および/または7角形の存在下、人工的に曲げてゼオライト細孔の局面に適合する必要がある。さらに、Y型ゼオライトのスーパーケージはダイヤモンドにおける炭素原子と同様に結合しているため4面体ネットワーク構造を示す必要がある。ひとつの可能性はカーボンシュワルツァイトと呼ばれている負の局面を持つグラフェンネットワークである。二つのそのような考え得る炭素モデルを図3.1(a−b)に示すが、炭素原子同士はsp2結合によって連結されていると仮定した。いずれのモデルも構造ユニットからなり、各ユニットはY型ゼオライトのひとつのスーパーケージ内に納まっている。図3.1(a)と(b)のモデルのユニットはそれぞれ88個、68個の炭素原子を含み、それぞれ炭素/ゼオライト複合体の段階で炭素含有量36wt%、42wt%に相当する。図3.1(a)のモデルの理論炭素含有量は実験値の37wt%にきわめて近い。もし4個の炭素原子をこのモデルに加えることができれば、理論炭素量は実験したものと一致する。しかしながら、この構造は完全でかつ安定しており、よって、さらに炭素を追加することは困難である。図3.1(b)のモデルにおいては14個の炭素原子を取らないと37wt%炭素含有量にできない。そのような炭素原子除去は規則性構造の破壊につながる。したがって、これら二つのモデルは可能性のある構造とは考えられない。
【0083】
よって他の可能性のあるモデルの構築の努力がなされ、図3.2に示す24個の6角形と、12個の7角形を持つ構造ユニットが考えられた。このモデルユニットは76個の炭素原子を有し、炭素/ゼオライト複合体の段階で39wt%の炭素含有量に相当する。このモデルの理論的炭素含有量は依然実験値の37wt%よりも高い。よって4個の炭素原子を取り除いて、炭素量を下げた。この除去後、図3.3に示すとおり、8個の水素原子が加えられ、モデルの安定性を確保した、構造ユニットはC72H8となり、炭素含有量37wt%に相当する。
【0084】
(4.結論)
内部炭素量についての実験結果を元に、6角形と7角形からなる構造ユニットから生成されたモデルを作成した。実験値に近い理論炭素含有量を持つ最も可能性のあるモデルはC76ユニットからなり、12個の7角形と、24個の6角形からなる。さらに、いくつかの炭素原子を取り除いて理論炭素含有量を実験値と合わせた結果、C72H8から高税されるナノチューブ類似のネットワーク構造が依然安定しており、ゼオライトの細孔システム内に挿入可能である。
【0085】
[まとめ (第5章)]
発明の背景で、炭素、sp2炭素の種類、および炭素シュワルツァイト(carbon schwarzite)と呼ばれるユニークな負の局面構造の簡単な紹介をし、合わせてこれまで文献で紹介されている合成方法に触れながら規則的周期性を備えるそのような構造を合成することの難しさについて述べた。これを受けて、炭素が互いに鋳型のナノスペース内で結合されている鋳型技術を用いれば。そのような負の局面は均一に合成可能であることを提示した。
【0086】
第2章では炭素源が連続的にシステムに供給される連続CVDを用いてY型ゼオライトの細孔に炭素充填することを提示した。2ステップ連続CVDプロセスに先だってゼオライト内部にフルフリアルコール(FA)を浸漬、重合する方法により炭素がゼオライト細孔に均一に導入されることがわかった。得られた炭素材料は、ゼオライト鋳型に由来する高い構造規則性を示すばかりでなく、34.6wt%という高い内部炭素量を有する。
【0087】
第3章に記載のように、さらなる炭素をゼオライト細孔に導入すべく努力がなされた。この章では、炭素源が非常に短時間、すなわち、パルス的にシステムに導入されるCVDプロセスを開発し、いわゆるプレッシャーパルスCVDとした。プレッシャーパルスCVDの優位性、有効性を連続プロセスと比較しながら示した。この実験での圧力差に起因する駆動力・促進力により、Y型ゼオライトの限られたナノチャンネルに炭素が有効に詰め込まれ、結果的に37.4wt%という非常に高い内部炭素含有量を達成できた。
【0088】
内部炭素含有量の実験結果を元に、いくつかの可能性のある分子モデルの構築が第4章では試みられた。モデルは、6角形(6員環)と7角形(7員環)からなる構造ユニットから生成された。最も可能性の高いモデルは、理論炭素含有量が実験値に近く、C76ユニットから構成されれ、12個の7角形(7員環)と24個の6角形(6員環)からなる。さらに、いくつかの炭素原子を除去し、理論値を実験結果の炭素含有量にマッチさせたものとして、C72H8からなる構造ユニットによって構築されたナノチューブ類似のネットワーク構造が依然安定しており、ゼオライト細孔システム内に挿入可能である。
【0089】
結論的には、本論文は多量の炭素をY型ゼオライトの限られたナノチャンネルに満たす有効な方法についても提起した。この鋳型により、シュワルツァイト(schwarzite)として提案される、マイナスの局面を持つナノカーボンネットワークが合成可能である。そのような構造の証明のためには、さらなる実験データが必要であるが、本論文は、シュワルツァイトの合成と応用に向けた更なる研究を目指した良い出発点であった。
【0090】
[酸素プラズマ処理を使った外部炭素の除去(付録1)]
(1.はじめに)
連続CVD、プレッシャーパルスCVDいずれの方法によっても得られた材料は2つの部分、すなわち内部および外部炭素から成るので、外部に積層する炭素は不要な生成物と考えられ内部成分の分析の障害となりうる。よって、酸素プラズマ処理を使った酸化により外部炭素のみを除去するアイデアが検討された。
【0091】
(2.実験(1))
2ステップ連続CVDにより得られた炭素/ゼオライト複合体、HY−5%Ac6(2)−Ac7(2)−H9(3)−Z、を用いた。石英ボートに載せ、ソフトエッチング容器(meiwafosis, SEDE/AB ソフトエッチング装置)に配置した。容器内は8mPaまで徐々に減圧した。この圧力において、酸素ガス存在下で(アルゴンガス中31.04vol%)、18mAの電流が供給された。この段階で、酸化が行われ2時間保持された。酸化後、室温まで冷却された。得られた炭素/ゼオライト複合体はHF(ホウ酸)処理され、ゼオライト鋳型を除去した。結果物の炭素材料はTEM観察された。
【0092】
(3.結果と考察(1))
図2.1−(Apx−1)(a−b)は調製試料のTEM写真であって、それぞれ酸素プラズマ処理前と後のものを示している。いくつかのTEM写真が撮られたわけではないが(30〜50画像)、これら二つのケースの間(プラズマ処理前と跡)に違いは観察されなかった。したがってソフトエッチング装置を用いても、外部炭素は除去できないと結論づけられる。
【0093】
(4.実験(2))
よって、外部酸素の酸化のためにより高出力によるエッチング(Yamato Plasma Reactor,PR301S)が採用された。セクション3で述べたと同じ炭素/ゼオライト複合体が石英ボートに乗せ、プラズマ反応器の容器に配置された。このケースでは、20分(出力 70W)のプラズマ処理と、10分間、さらに引き続き10分間(10−10分、最初の10分後、均質化するために試料を混合した)のプラズマ処理を行った。得られた複合体はHF洗浄し最後にTEM観察した。
【0094】
(5.結果と考察(2))
図2.2−(Apx−1)と2.3−(Apx−1)のTEM写真は、20分の酸素プラズマ処理後と10分−10分のプラズマ処理後のものをそれぞれ示す。外部炭素の除去は顕著に観察されるものの、酸化は均一に行われていない。これらの結果より酸素プラズマ処理では外部炭素を均一には取り除けないことがわかった。
【0095】
[炭素材料のH2O2中での溶解(付録2)]
(1.はじめに)
2ステップ連続CVDにより得られた炭素材は互いにネットワークとして結合しているフラーレンから成るとの考えから、この試料から過酸化水素のような酸化剤との溶解によりフラーレンを抽出できるのではないかと考えた。
【0096】
(2.実験(1))
基準として、C60を、H2O2(20ml、30%)に溶解させ、70℃、24時間攪拌した。溶液(5ml)を3時間、6時間、10時間および24時間経過後、採取し、0.2M KMnO4溶液で滴定して余分なH2O2を取り除いた。最後に、24時間経過後の溶液を、TOF−MSにより分析した。
【0097】
(3.結果と考察(1))
図2.1−(Apx−2)に本実験の全体プロセスを示す。KMnO4による滴定後の溶液の写真は図2.2−(Apx−2)に示す。
【0098】
図2−3−(Apx−2)は、H2O2に1日間、溶解されたC60のTOF−MSスペクトルを示したものである。C60(m/z=720)に対応したピークがはっきり観察されるとともに、酸化したC60分子、すなわち、C60(OH)41を反映した高分子量におけるピークも観察される。
【0099】
(4.実験(2))
2ステップ連続CVDにより得られた炭素材料(10mg)、NaY/PFA−5%Ac6(6)−Ac7(6)−H9(3)をH2O2(20ml、30%)に溶解させ、70℃で4日間連続攪拌した。溶液(5ml)を1、2および4日後に採取し、0.2M KMnO4で滴定し、余分なH2O2を除去した。最後に、溶液を4日後にTOF−MSにより分析した。
【0100】
(5.結果と考察(2))
図2.4−(Apx−2)はこの実験の全体プロセスを、H2O2への溶解後、KMnO4による滴定後のものと共に示したものである。H2O2中での溶解後、4日間で、溶液は透明になるが、KMnO4による滴定後は、茶色に変色した。この結果からこの段階で単素材料はほとんどが酸化されたと推定される。よって、この試料のみTOF−MSにより分析された。
【0101】
図2.5−(Apx−2)は2ステップ連続CVDにより得られた炭素材料をH2O2に4日間溶解後のTOF−MSスペクトルを示している。C60に対応したピークは観察されない。m/zが300以下でのいくつかのピークは、小さな炭化水素分子に対応したものと推定される。さらに、m/z=525、580で観測される2つのピークはそれぞれC38(OH)4、C47(OH)分子を示す。2つの説明が考慮される:C60またはC60に近い分子はH2O2によってはネットワークから抽出できないか、または、試料がC60またはC60に近い分子を含んでいないかである。
【0102】
[単層カーボンナノチューブ(SWNT)の理論比表面積の計算(付録3)](図2.1−(Apx−3))
[ゼオライトナノチャンネル内に形成される負の局面を有するグラフェンネットワークの可能性のある構造(第6章)]
プレッシャーパルスCVD技術を用いることによりY型ゼオライトの限られたナノチャンネル内に多量の炭素を有効に充填することができた。ゼオライトに導入された炭素量を元に可能性のある分子モデルを提案した;負の局面を持つグラフェンネットワークであり、単層カーボンナノチューブがゼオライトナノチャンネル内に充填されてジャングルジムのようになっている。
【0103】
(1.はじめに)
Y型ゼオライトのナノチャンネル内部では、炭素が堆積しゼオライトナノチャンネルに沿って3次元ネットワークが形成されている。ゼオライト鋳型除去後は、ゼオライト鋳型炭素(ZTC)が得られる。ZTCの分子構造が最近提案され(1)、図4.1に示すようにバッキーボール類似のユニットから組みあがったものである。この分子構造からゼオライトナノチャンネル内にさらに炭素原子を導入できる空間があることが予見される。さらなる導入ができれば、フラーレンネットワークまたはナノチューブネットワーク(または、カーボンシュワルツァイト)といったユニークなナノカーボンネットワークが得られる可能性がある。本稿では、プレッシャーパルスCVDプロセスにより多量の炭素をゼオライトに充たす試みがなされ、このプレッシャーパルスCVDプロセスの有効性について考察する。最後にこのCVDプロセスにより調製された可能性のある分子構造を提案する。
【0104】
(2.実験)
HタイプのY型ゼオライト(HY,SiO2/A12O3=10,Tosoh Corporation)を鋳型として用いた。150℃で減圧下、8時間乾燥させてから使用に供した。乾燥ゼオライトをロータリーポンプと接続された縦置き石英反応器(リアクター)に載せた。反応器は10Pa以下まで減圧してから、CVD温度まで昇温・加熱した。この温度で、アセチレンガス(N2中で20vol%)を反応器内に1秒間パルス供給した。パルスステップ後、再度60秒減圧し、圧力を10Pa以下まで下げた。このパルスー減圧プロセスをCVD温度600℃または700℃にて、数千回繰り返した。最後に試料に900℃、3時間の熱処理を施した。このようにして得られた炭素ゼオライト複合体はHF(46wt%)で洗浄され、炭素部分をゼオライト鋳型から脱離させた。生成物は熱重量分析(TGA),X線回折(XRD)、および透過型電子顕微鏡(TEM)で評価した。
【0105】
(3.結果と考察)
図4.2に炭素/ゼオライト複合体の炭素量を総アセチレン供給量に対してプロットしたもので、プレッシャーパルスCVDプロセスにより得られたものと連続CVDにより得られたものとを比較した。600℃ではプレッシャーパルスCVDでの挙動は連続のものと比べさしたる違いは見られず、より高い700℃になると連続CVDに比べプレッシャーパルスCVDの場合は、炭素の摂取量は急激に増えている。炭素の堆積はゼオライトナノチャンネルの内側だけではなく、ゼオライト結晶の外表面でも起こっている(XRDおよびTEMにて確認されたとおり)が、ゼオライト内部における炭素(内部炭素)の堆積割合は、プレッシャーパルスCVDの場合(35.9wt%)が、連続の場合(33.6wt%)より高い。この割合計算は、550℃と650℃での二つのピーク(図示せず)を示した示差・微分熱重量(DTG)パターンから計算された。炭素試料を550℃まで加熱した後はTEMおよびSEMで確認できたように内部炭素のみが燃焼するため、最初のピークは内部炭素に対応している。さらに、2ステッププレッシャーパルスCVDを用いて、炭素を最初に600℃で、続けて700℃で堆積させることで、非常に高い内部炭素量、37.4wt%(図4.3のDTGパターン中の第1ピークの割合から計算)が達成できる。このような高い値はY型ゼオライトのひとつのスーパーケージ内につき72個の炭素原子に相当する。可能性のある分子構造を構築する試みのため、分子モデリングソフト、Chem3D Ultra 11.0(Cambridge Soft Co.)を使用した。その際、ゼオライトナノチャンネルの局面内側に充填されているのはsp2炭素のみと仮定した。図4.4は、2つの可能性のある分子構造を示したもので、C72、C72H8ユニットから構成されおり、このモデルの理論炭素含有量は、それぞれ、37.5wt%、37.8wt%であり、実験結果(37.4wt%)に近い。ここにこれら2つのモデルは、半経験的ハミルトンPM5を用い、MOPAC(Fujitsu Limitedの Scigress Explorer 7.6に内包)のMOZYMEアルゴリズムと組み合わせて行った幾何学的安定化計算によりエネルギー的に安定しているとされるものである。
【0106】
(4.結論)
大量の炭素をプレッシャーパルスCVDプロセスを用いてY型ゼオライトの限られたナノチャンネル内に成功裏に充填することができる。2ステッププレッシャーパルスCVDによれば最大炭素含有量37.4wt%を達成できる。可能性のある構造モデルとして、Y型ゼオライト鋳型のナノチャンネル内に充填・挿入された負の局面を持つ構造モデルを提案した。
【0107】
参考文献 [1]H. Nishihara et al, Carbon 2009,47, 1220−1230
[ゼオライトナノチャンネル内に形成された負の曲面を有するグラフェンネットワークの可能性のある構造(第7章)]
Y型ゼオライトのナノチャンネルの内部では、炭素が堆積されゼオライトナノチャンネルに沿って3次元ネットワークが形成され得る。ゼオライト鋳型除去後は、ゼオライト鋳型炭素(ZTC)を得られる。ZTCの分子構造が最近提案され(H. Nishihara et al, Carbon 2009,47, 1220−1230)、バッキーボール類似のユニットから組みあがったものである。この分子構造からゼオライトナノチャンネルにさらに炭素原子を導入できる空間があることが予見される。さらなる導入ができれば、フラーレンネットワークまたはナノチューブネットワーク(またはカーボンシュワルツァイト)といったユニークなナノカーボンネットワークが得られる可能性がある。本稿では、プレッシャーパルスCVDプロセスにより多量の炭素をゼオライト内に充たす試みがなされ、このプレッシャーパルスCVDプロセスの有効性について考察する。最後に、このCVDプロセスにより調製された可能性のある分子構造を提案する。
【0108】
2ステッププレッシャーパルスCVDを用いて、炭素を最初に600℃で、続けて700℃で堆積させることで、非常に高い内部炭素量、37.4wt%が達成できる。このような高い値はY型ゼオライトのひとつのスーパーケージ内につき72個の炭素原子が存在することに相当する。可能性のある分子構造を構築する試みのため、分子モデリングソフト、Chem3D Ultra 11.0(Cambride Soft Co.)を使用した。その際、ゼオライトナノチャネルの曲面内側に充填されているのはsp2炭素のみと仮定した。図5.1は2つの可能性のある分子構造であってC72,C72H8のユニットから構成されており、このモデルの理論炭素含有量は、それぞれ、37.5wt%、37.8wt%であり、実験値(37.4 wt%)に近い。ここにこれら2つのモデルは、半経験的ハミルトンPM5を用い、MOPAC(Fujitsu Limitedのソフトウエア Scigress Explorer 7.6に内包)のMOZYMEアルゴリズムと組み合わせて行った幾何学的安定化計算によりエネルギー的に安定しているとされるものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳型合成(Template synthesis)
鋳型のナノ空間内で、ナノカーボンネットワークの大きさとアーキテクチャーが制御できる。アルミニウム陽極酸化(AAO)皮膜を鋳型として用いることで、得られるカーボンナノチューブの大きさをAAOの径を変えることで微妙に調整できることが報告された(Orikasa H., Inokuma N., Ittisanronnachai S., Wang X−H, Kitakami O., Kyotani T., Chemical communications 2008, 19, 2215−2217)。さらに、マイクロ細孔(micropores)(<2nm)、メソ細孔(mesopores)(2〜50nm)、またはマクロ細孔(macropores)、(>50nm)の均一細孔を備えた多くの多孔質炭素が、アルミニウム陽極酸化(AAO)皮膜、ゼオライト、メソ細孔シリカ、および合成シリカオパールを含む種々の無機鋳型を用いて鋳型合成により合成可能である。多孔質炭素の一般的鋳型合成プロセスは以下のとおりである。
【0003】
1)炭素前駆体/無機鋳型複合体の準備
2)炭素化(Carbonization)
3)無機鋳型の除去
多孔質炭素材料を均一の細孔のみならず規則的周期的な細孔配列とするために、高い剛性の無機鋳型が必要とされる。ゼオライトはアルミノシリケート材質で規則正しく均一なサブナノメートルサイズであり、マイクロ細孔炭素の合成用鋳型として用いられて来ており、得られた炭素材料はゼオライト鋳型炭素(Zeolite templated carbon;ZTC)と呼ばれる。ZTCの合成プロセスを図1.1に示す。まず、炭素が化学気相成長(CVD)法によりゼオライトのナノチャンネルに導入される。次に得られた炭素/ゼオライト複合体を水溶性のHF(フッ酸)溶剤にて洗浄し、ゼオライトを除去する。最後に、残留物としてZTCが得られる。Y型ゼオライトのマイクロ細孔ネットワークはダイヤモンド型の構造のため、結果物であるZTCもまたダイヤモンド類似の骨格構造を持つ。数種類のゼオライト鋳型炭素(ZTC)がいくつかのゼオライトの型や炭素源のタイプを変えて開発されて来た。ZTCは、たとえばメタンや水素の貯蔵用の吸着体、電気2重層キャパシタ用電極、燃料電池の電極における白金(Pt)ナノ粒子の担持体といった多様な適用対象が考えられ、すぐれたポテンシャルを持っている。
【0004】
ゼオライト鋳型炭素におけるバッキーボール類似の構造
Y型ゼオライトのナノチャンネル内で合成されたゼオライト鋳型炭素(ZTC)は、親であるY型ゼオライトに由来する、きわめて大きな表面積(約4000m2/g)、驚くほど均一なマイクロ細孔、および長周期規則性を持っている。このZTCの準備・調製には2ステップステップが用いられた。最初のステップでは、フルフリルアルコール(FA)を含浸させ、ゼオライト細孔内で重合させる。この最初の炭素充填後、化学気相成長(CVD)プロセスを実施する。そのようなZTCの分子構造が最近提案され、そこではバッキーボール類似のナノグラフェンから成り、図1.2に示すような3次元の規則的なネットワークに組み込まれた構造を持っている(Nishihara H., Yang Q−H., Hou P−X, Unno M., Yamauchi S., Saito R., Juan I. Parades, Amilia Martinez−Alonso., Juan M.D. Tascon, Sato Y., Terauchi M., and Kyotani T., Carbon 2009, 47, 1220−30)。
【0005】
図1.1のZTCの分子モデルによれば、約36の炭素原子が各スーパーケージ内に導入されており、ゼオライト細孔容積のわずか35%のみが炭素で充填されるに過ぎないことを示している。したがってY型ゼオライトのこれらの限られたナノ空間にさらに炭素原子を充填できる可能性があり、ごく最近、2ステップCVDプロセスを用いることによるカーボン充填量を増やす研究がなされ、得られた炭素は図1.3に示すようなフラーレン類似のネットワーク構造であることが提案された。
【発明の概要】
【0006】
本研究の目的
本研究は、Y型ゼオライトの限られたナノチャンネル中に「できる限り多く」炭素原子を充填することを目的とする。もっとずっと多くの炭素原子をY型ゼオライトの細孔内に導入できれば、これまで一度も合成されなかったユニークなナノカーボンネットワークが得られるかもしれない。Y型ゼオライトの3次元細孔システム内での二つのその可能性が図1.4に示される。フラーレンネットワークと、負のガウス局面を持ち、カーボンシュワルツァイトとなったナノチューブネットワーク構造である。2種類のCVD法が採用され、一つが炭素源ガスが常時・連続的にシステムに供給される連続CVDプロセス、他のひとつが炭素源ガスがシステムにパルス状に送られるプレッシャーパルスCVDである。炭素充填のためのプレッシャーパルスCVDプロセスの効率・有効性について考察する。最後にこのCVDプロセスによって調製された分子構造の可能性のあるモデルを提案する。
【0007】
本発明のひとつのアスペクトによれば、炭素材料であってBET比表面積が800m2/g以上で、かつ水素の炭素に対する重量割合・元素比(H/C重量比)は1wt%より低い。
【0008】
本発明のもうひとつのアスペクトによれば、請求項1から8のいずれかに記載の炭素材料の製造方法であって、次のステップを含む。
【0009】
多孔質ゼオライト鋳型の表面および細孔内に有機化合物を導入し、化学気相成長により前記有機化合物を炭素化し、炭素/ゼオライト複合体を得るステップと、
炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去するステップ。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1.1】図1.1は、ゼオライト鋳型炭素(ZTC)の合成プロセスを示す。
【図1.2】図1.2は、ゼオライト鋳型炭素の分子モデルであって、(a)ゼオライト内部に埋め込まれた状態、(b)Y型ゼオライト鋳型の規則性に従ったバッキーボールユニットにより構成された分子モデルの拡大図を示す。
【図1.3】図1.3は、フラーレン類似のネットワーク構造を示す。
【図1.4】図1.4は、本研究の目的の概念を示すイメージ図を示す。
【図2.1】図2.1は、プレッシャーパルスCVDで用いられた縦置き石英反応器のカムを示す。
【図2.2】図2.2は、プレッシャーパルスCVDにおける実験装置の概要図を示す。
【図2.3】図2.3は、短減圧時間のプレッシャーパルスCVDからの総アセチレン供給量に対し炭素含有量をプロットしたものを示す。
【図2.4】図2.4は、総アセチレン供給量に対し炭素含有量をプロットした図(HYを用いた場合)を示す。
【図2.5】図2.5は、プレッシャーパルスCVDプロセスにおけるパルス印加(パルシング)、レスティングステップを概観したものを示す。
【図2.6】図2.6は、総アセチレン供給量に対し炭素含有量をプロットした図(Nay/PFAおよびHYを600℃で用いた場合)を示す。
【図2.7】図2.7は、総アセチレン供給量に対する炭素含有量をプロットした図(HYを600℃およびと700℃で用いた場合)を示す。
【図2.8】図2.8は、HY−20%Ac7(3198−1s60s)−H9(3)に対して、700℃のプレッシャーパルスCVDにより調製した炭素材料のXRDパターンを示す。
【図2.9】図2.9は、炭素材料のDTG(示差熱重量回折)パターンであって、それぞれ、(a)HY−20%Ac7(3198−1s60s)−H9(3)に対して700℃でプレッシャーパルスCVDにより調製されたもの、(b)HY−20%Ac7(3198−1s60s)−H9(3)に対して700℃で連続CVDで調製されたものを示す。
【図2.10】図2.10は、総アセチレン供給量に対して炭素含有量をプロットした図(HYに対して2ステッププレッシャーパルスCVDにより得られたもの)を示す。
【図2.11】図2.11は、2ステッププレッシャーパルスCVDによって得られた炭素材料のXRDパターンを示す。
【図2.12】図2.12は、800℃でのバーニング後の残留物のEDSスペクトルを示す。
【図2.13】図2.13は、標準シリカ(SiO2)のXRDパターンを示す。
【図2.14】図2.14は、2ステッププレッシャーパルスCVDにより得られた炭素材料のDTGパターンを示す。
【図2.15】図2.15は、2ステッププレッシャーパルスCVDにより得られた炭素材料のラマンスペクトルを示す。
【図2.16】図2.16は、HYに対する2ステップ連続CVDにより得られた炭素材料のN2吸着等温線を示す。
【図2.1−(Apx−1)】図2.1−(Apx−1)は、調製試料のTEM写真であって、(a)ソフトエッチング装置による酸素プラズマ処理前、(b)処理後を示す。
【図2.2−(Apx−1)】図2.2−(Apx−1)は、調製試料のTEM写真であって、20分間の酸素プラズマ処理後のものを示す。
【図2.3−(Apx−1)】図2.3−(Apx−1)は、調製試料のTEM写真であって、10分間−10分間の酸素プラズマ処理後のものを示す。
【図2.1−(Apx−2)】図2.1−(Apx−2)は、全体プロセスとH2O2中での溶解後の溶液を示す。
【図2.2−(Apx−2)】図2.2−(Apx−2)は、KMnO4による滴定を示す。
【図2.3−(Apx−2)】図2.3−(Apx−2)は、C60−H2O2−70C−1dayのTOF−MSスペクトルを示す。
【図2.4−(Apx−2)】図2.4−(Apx−2)は、H2O2中での溶解後、KMnO4での滴定後の各溶液を示す。
【図2.5−(Apx−2)】図2.5−(Apx−2)は、NaY/PFA−5%Ac6(6)−Ac7(6)−H2O2−70C−4daysのTOF−MSスペクトルを示す。
【図2.1−(Apx−3)】図2.1−(Apx−3)は、単層カーボンナノチューブ(SWNT)の理論比表面積の計算(付録3)を示す。
【図3.1】図3.1は、分子モデルであって、(a)C68の構造ユニットからなるもの、(b)C88からなるものを示す。
【図3.2】図3.2は、C76構造ユニットからなる分子モデルを示す。
【図3.3】図3.3は、C72H8構造ユニットからなる分子構造モデル(青色の元素は水素原子)を示す。
【図4.1】図4.1は、ゼオライト骨格内に埋め込まれたZTCの分子構造を示す。
【図4.2】図4.2は、プレッシャーパルスCVDと連続CVDプロセスでの総アセチレン供給量に対する炭素含有量をプロットした図を示す。
【図4.3】図4.3は、2ステッププレッシャーパルスCVDにより得られた炭素材料のDTGパターン(昇温割合 1℃/分)を示す。
【図4.4】図4.4は、2ステッププレッシャーパルスCVDプロセスにより得られた生成物の可能性のある分子構造(炭素含有量を元にして)を示す。
【図5.1】図5.1は、2ステッププレッシャーパルスCVDプロセスにより得られた生成物の可能性のある分子構造(炭素含有量を元にして)を示す。
【図6.1】図6.1は、方法IIによるプレッシャーパルスCVDを示す。
【図6.2】図6.2は、方法IIによるパルスCVD装置を示す。
【図6.3】図6.3は、短減圧時間によるプレッシャーパルスCVDの結果を示す。
【図6.4】図6.4は、長減圧時間によるプレッシャーパルスCVDの結果を示す。
【図6.5】図6.5は、HYに対する、700℃でのプレッシャーパルスCVDの結果を示す。
【図6.6】図6.6は、2ステップパルスCVDの結果を示す。
【図6.7】図6.7は、内部炭素の分析結果を示す。
【図6.8】図6.8は、ゼオライトのひとつのスーパーケージに72個の炭素原子を含むことを示す。
【図6.9】図6.9は、分子構造の結果を示す。
【図6.10】図6.10は、分子構造の結果を示す。
【図6.11】図6.11は、可能性のある分子構造の結果を示す。
【図6.12】図6.12は、BET比表面積結果を示す。
【図6.13】図6.13は、理論比表面積を示す。
【図6.14】図6.14は、他の可能性の結果を示す。
【図6.15】図6.15は、まとめを示す。
【図7.1】図7.1は、ZTCとカーボンナノジャングルジムの製法を示す。
【図7.2】図7.2は、内部炭素の分析結果を示す。
【図7.3】図7.3は、72個の炭素原子が含まれることを示す。
【図7.4】図7.4は、分子構造の結果を示す。
【図7.5】図7.5は、分子構造の結果を示す。
【図7.6】図7.6は熱抵抗特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[炭素材料および炭素材料の製造方法(第1章)]
本発明の炭素材料は、BET比表面積が800m2/g以上で、かつ水素の炭素に対する重量割合(H/C重量比)は1wt%未満であることを特徴とする(請求項1)。好ましくは、炭素材料は細孔規則構造を持ち、細孔の規則構造の基礎を形成する規則的周期(repeated distance identity period)が1.8nm以下である(請求項2)。さらに好ましくは、炭素材料は、細孔規則構造を持ち、細孔規則構造の基礎を形成する規則的周期が1.8nm以下であるのに加え、Cu管球(X線CuKa)を用いたX線回折により確認される、細孔規則構造に由来するピークが5°以上の2θで存在し、5°未満の2θでは細孔規則構造由来のピークが存在しない(請求項3)。代表的には、炭素材料はゼオライト鋳型炭素とカーボンシェルから形成され、炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去することによって得られる。炭素/ゼオライト複合体はゼオライト鋳型と、炭素をゼオライト鋳型に導入することにより得られたナノチャンネル内の規則構造ゼオライト鋳型炭素、およびゼオライト鋳型の外部表面を囲むカーボンシェルにより形成される。そしてゼオライト鋳型炭素の、炭素/ゼオライト複合体の全体重量に対する含有量は36wt%以上、好ましくは37wt%を越え、さらに好ましくは38.0wt%以上である(請求項4〜6)。さらに、ゼオライト鋳型炭素は好ましくはBET比表面積が1500m2/g以上であり、水素の炭素に対する重量割合(H/C重量比)が1wt%未満であり(請求項7)、さらに好ましくは、BET比表面積が1900m2/g以上であり、水素の炭素に対する重量割合(H/C重量比)が0.86wt%未満である(請求項8)。本発明の炭素材料は新規な炭素材料であって、高い比表面積、均一な細孔、酸化抵抗および高耐電圧性を合わせ持ち、電気自動車(EV)または燃料電池車(FCV)に有利に適用できる。炭素材料を電極材として用いれば、優れた特性を有する2重層キャパシターが得られる。その理由はキャパシターが、特性の優れたキャパシターとなるための、次の5つの要求を満たすからである。(1)比表面積が大きい。特に、ゼオライト鋳型炭素は大きな比表面積により大容量を獲得することができる。(2)単位表面積あたりの容量(比容量)が大きい。多くのエッジがある場合や凹凸面が共存するる場合には、比容量を増やすことができない。他方、特にゼオライト鋳型炭素といった本発明の炭素材料はエッジの数が少ないかまったくない凸面構造を持っている。したがって、正の曲率が1nmを下回ることも実現可能であり、比容量が増し、大容量が達成できる。(3)無駄なスペースが存在しない。よって、大容量が得られる。(4)構造的にエッジの数が少ない、よって耐圧(voltage registance)を増やすことができる。従来の多くのエッジを持つ構造では、電圧が上昇するとエッジが酸化し耐圧(容量)は下がる。他方、特にゼオライト鋳型炭素といった、本発明による炭素材料はエッジの数が少ないか存在しない凸面構造を持っている。したがって、耐圧(高容量)が得られる。(5)電解質イオンの移動抵抗が小さいこと。本発明の、特にゼオライト鋳型炭素といった炭素材料を用いることで鋳型のナノチャンネルが多量の炭素で充填され、炭素材料は規則的に指向したナノ細孔を得て、内部抵抗を減らす(急速充電)ことができる。さらには、本発明による炭素材料は容易には熱分解しにくいため、耐熱性と耐酸化性を備える。具体的には、多くのエッジを持つ従来構造では、エッジが容易に酸化し、熱分解のピーク温度(重量減少が最大になる温度)は528℃である。他方、本発明による、特にゼオライト鋳型炭素といった炭素材料においては、エッジの数が少ないかエッジがない凸面構造を持っている。したがって、容易に酸化し難く、熱分解ピーク温度も560℃で、耐熱性が32℃改善することを示している。このような良好な耐酸化性を持つ炭素材料はキャパシタ、さまざまな電気セルの電極材等、幅広く適用可能である。良好な酸化抵抗を備えた炭素材料であればキャパシターにおいて容量増加をもたらす。従来の多くのエッジを持つ構造だと、耐圧性能は低く、キャパシターのクランプ電圧は3Vである。本発明によればエッジの数が少ないかまたは存在しないので、キャパシターのクランプ電圧は、電圧抵抗の改善により4Vまで増加させることができる。
【0012】
本発明による鋳型に用いるゼオライトはとくには制限はなく、従来のゼオライトや派生ゼオライトを含む種々のゼオライトが利用可能である。代表的な例としては、固有の名称(構造コード)で表現すれば、LTA、CHA、ACO、AFG、AEN、AFI、AET、AEL、ATT、AFN、AST、ERI、AEI、SOD、AWO、AWW、ANA、ATV、ATO、FAU、AFO、AFT、VFI、APC、APD、AHT、APC、GIS、MOR、MFI、ASV、STI、EAB、BEA、BPH、BIK、BOG、MEL、EMT、BRE、LOS、CAN、CZP、CAS、NON、MTN、CHI、CON、CFI、HEU、CLO、AFY、CGF、CGS、EMT/FAU、MTW、DAC、DFO、DFT、DDR、STI、DOH、MTN、EDH、PAU、MFI、EPI、MWW、ERI、ESV、EUO、MTT、FER、RHO、ZON、GIS、VSV、GME、NAT、GOO、NES、VFI、PHI、HEU、TON、ITE、IFR、ISV、LTL、EDI、MER、LAU、LEV、ABW、ERI/OFF、BPH、LTN、LIO、LOS、LOV、MAZ、RHO、OFF、HEU、ERI、ATS、ATN、AFS、VFI、MTF、IFR、MSO、AEL、MEP、NAT、AFY、MON、MOR、JBW、NON、RUT、LEV、MPI、FER、NES、KFI、RHO、PAR、LTL、PHI、RON、RTE、RUT、RSN、RTH、ATO、LEV、AFR、AFX、SGT、YUG、STT、STF、SFF、SFE、SAO、SAT、SAS、SAV、TER、THO、ABW、EAB、TSC、MFI、SBS、SBE、SBT、OSI、DON、VET、VNI、WEI、WEN、THO、VSV、VET、VNI、CZP、KFI、MEI、EUO、NON、MFS等が挙げられる。
【0013】
本発明の電極材料は、本炭素材料を用いることを特徴とする(請求項9)。電極材料には、たとえば、キャパシタ用電極材料、燃料電池用電極材料、リチウム電池用電極材料(特にアノード電極材)、空気電池用電極材(特にカソード電極材)が含まれる。電極材は電解質イオンの移動抵抗が低く、プロトン伝導性とイオン伝導性に優れ、また耐酸化性と耐高圧性能が優れていることは上述のとおりである。したがって低い内部抵抗、大容量、高耐圧性、および急速充電性にすぐれた電極材に広く応用できる。
【0014】
本発明による電気セルは、本炭素材料を用いることを特徴とする(請求項10)。電気セルには、燃料電池、リチウム電池、空気電池が例として挙げられる。上述のとおり、電気セルは電解質イオンの移動抵抗が低い、プロトンの伝導性、イオンの伝導性に優れ、また耐酸化性能および耐圧性の良好な炭素材料が用いられる。したがって、低い内部抵抗、大容量、高耐圧性、および急速充電性にすぐれた電気セルに広く応用できる。代表的には、電気自動車、ハイブリッド電気自動車および燃料電池車、ラップトップコンピュータや携帯電話などのモバイルの電源、産業用および家庭用の電力供給用定置式電源などを含む分野に広く適用可能である。
【0015】
本発明によるキャパシターは、本炭素材料を用いることを特徴とする(請求項11)。上述のとおり、キャパシタは電解質イオンの移動抵抗が低く、プロトンの伝導性、イオンの伝導性に優れ、また耐酸化性能および耐圧性の良好な炭素材料が用いられる。したがって、低い内部抵抗、大容量、高耐圧性能、および急速充電性にすぐれたキャパシタに広く応用できる。特にバッテリに比べ耐久性に優れているため、電気自動車、ハイブリッド電気自動車および燃料電池車といった自動車の電気セル分野において広く適用可能である。
【0016】
本発明の炭素材料の製造方法は、多孔質ゼオライト鋳型の表面および内部細孔に有機化合物を導入し、化学気相成長(CVD)により有機化合物を炭化し炭素/ゼオライト複合体を得るステップ、および、炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去するステップを含む(請求項12)。さらに、本発明の炭素材料の製造方法は、ゼオライト鋳型に炭素を導入し、ゼオライト鋳型炭素とゼオライト鋳型の外部表面を囲うカーボンシェルから形成される炭素/ゼオライト複合体を得るステップ、および炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去してゼオライト鋳型炭素とカーボンシェルからなる炭素材料を得るステップを含む(請求項13)。好ましくは、炭素/ゼオライト複合体を得るために、プレッシャーパルスCVDプロセスを採用し、減圧とガスパルス供給を繰り返す(請求項14)。
【0017】
有機化合物としては水素、またはホウ素原子、あるいは、窒素原子、リン原子、硫黄原子、酸素原子、ケイ素原子を含むヘテロ原子等の有機化合物でよい。また、有機化合物は不飽和または飽和有機化合物でもよいし、これらの混合物でもよい。有機化合物としては、二重結合及び/又は三重結合をもつ不飽和直鎖または分枝鎖の炭化水素、飽和直鎖または分枝鎖の炭化水素などが含まれてよく、さらに飽和環式炭化水素、芳香族炭化水素なども含まれてよい。該有機物は、アセチレン、メチルアセチレン、エチレン、プロピレン、イソプレン、シクロプロパン、メタン、エタン、プロパン、ベンゼン、ビニル化合物、およびエチレンオキサイドなどが挙げられる。これらのうちで、有利には、多孔質体の細孔内に入り込むことのできる、たとえば、アセチレン、エチレン、メタン、エタンなどが好適なものとして挙げられる。有機化合物は、高温でのCVD法に用いるものと、より低温でCVDに用いるものとでは、互いに同一のものであっても異なっていてもよい。例えば、低温でのCVDでは、アセチレンまたはエチレンを使用し、より高温でのCVDには、プロピレン、イソプレンまたはベンゼンを使用するなどとしてよい。
【0018】
炭素/ゼオライト複合体を得るステップについても特に制限はなく、化学的気相成長(CVD)を用いることが可能である。好ましくはプレッシャーパルスCVDプロセスを用いて減圧とガスパルス供給を繰り返し行うのが本発明の炭素材料を得るのにきわめて有利である。特に、減圧とガスパルス供給を繰り返すことにより、ゼオライト鋳型内の細孔の内部と外部間に圧力差・差圧が発生する。この差圧による駆動力・促進力を利用して、多量の炭素が細孔に導入され得る。具体的には、減圧―ガスパルス供給を繰り返すことによりゼオライト鋳型の細孔内への炭素充填量(炭素含有量)は36wt%まで上昇させることができ、この方法は画期的な方法と言える。さらに、詳述すると、ゼオライト鋳型(template)がロータリポンプに接続された反応器内に載置される。10Pa以下の圧力に減圧・真空排気され、続いてCVD温度、700℃まで加熱して、有機化合物(窒素N2中,0.1から70vol%)を反応器内にパルスで1秒間送り込む。このパルス操作後、60秒間、減圧・真空排気し、10Pa以下にまで減圧する。この減圧―ガスパルシングサイクル(パルシング減圧プロセス)を、CVD温度400〜850℃の下で、200〜50,000回(好ましくは、500から10,000回)繰り返し行う。続いて、850℃から1100℃で、1分間から100時間(好ましくは、5分間から1時間)の間熱処理を実施し、炭素/ゼオライト複合体を調製する。2ステッププレッシャーパルスCVD法では、上述の減圧ーガスパルシングサイクルをCVD温度400〜850℃で200から50,000サイクル(好ましくは、500から10,000)行い、炭素の蒸着・堆積を繰り返す。そして上記減圧―ガスパルシングサイクルを、より高い温度である500から900℃で、200から50,000サイクル(好ましくは、500から10,000)実施し、炭素の堆積を繰り返し実施する。この方法により、ゼオライト鋳型内で、きわめて高い炭素含有量(内部含有量)である37wt%またはこれ以上が実現可能である。
【0019】
炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去するステップは特に制限はなく、従来の方法、すなわち多くのエッジを持つ炭素材料の製法を同様に採用できる。たとえば、ゼオライト鋳型から炭素部分を開放・離型するために、フッ酸(HF 46wt%)洗浄により室温から90℃までの範囲で1分間以上(好ましくは5分間から48時間)洗浄することが可能である。この洗浄により、ゼオライト鋳型炭素とカーボンシェルからなる炭素材料が得られる。
【0020】
[2ステップ連続CVDから得られるゼオライト鋳型炭素(第2章)]
(1.はじめに)
以前、2ステップアセチレンCVDを用いて、多量の炭素をHタイプのY型是ゼオライト(HY)のナノチャンネル中に堆積することが出来たと以前報告されている(1)。本章ではCVD時間を単純に延長することで、より多くの炭素を充填させる試みがなされた。さらにCVDプロセス前にフルフリルアルコール(FA)に浸漬、重合させることにより炭素の導入を行うアイデアも検討された。
【0021】
(2.実験)
(2.1 Y型ゼオライト)
Y型ゼオライトは無機多孔質結晶で、シリカ(SiO2)とアルミナ(Al2O3)の骨格を持つ。Y型ゼオライトは3次元の細孔システムを持ち、細孔入り口が7.4Å、内部キャビティ(またはスーパーケージ)が13Åである。本研究においては、2種のY型ゼオライトが鋳型(テンプレート)として用いられた。Naタイプ(NaY)とHタイプ(HY)である。Y型ゼオライトにおけるカチオン(Na+、H+)の存在により骨格が安定する。いずれのタイプもTosoh Corporationから購入され、その物性を以下の表2.1に列挙する。ゼオライト鋳型は、以下のすべての実験実施前に、150℃で8時間、減圧下(真空下)で乾燥した。
【0022】
【表1】
【0023】
(2.2 ゼオライトナノチャンネル内へのフルフリルアルコール(FA)の浸漬と重合)
FAをゼオライトナノチャンネル内に浸漬し、重合するプロセスについては他に記載がある(2)。簡単に説明すると、乾燥したNaY(10g)をフラスコ内に入れ、80℃まで加熱して1時間保持する。次に、150℃まで加熱し、さらに8時間保持した。最後に室温まで冷却する。すべての操作は減圧下で実施されることに留意されたい。NaYが完全に冷やされた後、FA(C5H6O2、Wako Pure Chemical Industries Ltd.350g)をNaYを内包したフラスコ内に導入し、1時間保持(減圧下)、そして、N2ガス(150ml/min)をプロセスに導入する。NaYはこの状態で7時間攪拌された。
【0024】
混合物は遠心分離され(クボター8010)、固形部をメシチレン(C6H3(CH3)3、和光純薬株式会社)にて洗浄した。この遠心分離、洗浄プロセスは5回繰り返され、FA/ゼオライト複合体はテフロンフィルター(アドバンテック、撥水PTFE 0.5ミクロン)を用いて分離された。濾過ステップの後、FA/ゼオライト複合体は、縦置き石英管反応器内に置かれ、FAの重合が150℃にて、行われた。
【0025】
市場に流通するPFA/ゼオライト化合物は、Nippon Steel Chemical Co.,Ltdより購入されたもの(重合中間体(ポリメライズドーインターミディエート:polymerized−intermadiate)、ロット番号.F36−F37 ブレンド)も実験室で調製されたものと比較して使用したことに留意する。Nippon Steel Chemical Co.,Ltd.製のPFA/ゼオライト複合体および実験室で得られたもののTGパターンから、両サンプルのTG測定中の総重量ロスはほとんど同じで、それぞれ、Nippon Steel Chemical Co.,Ltd.のPFA/ゼオライトが22.8wt%、実験室で調製されたものが23.1wt%であった。したがって、日産からもらった複合体を以下の実験では用いた。
【0026】
(2.3 HYゼオライトに対する長時間CVDを伴う2ステップCVDについて)
乾燥したHY(0.5g)を縦型石英管反応器に入れ、次に電気炉内に置いた。600℃に加熱し第1ステップのアセチレン(N2中、5vol%、総流量150ml/分)CVDを6時間実施した。次に室温まで冷却し、大気条件で1夜放置した。翌日、窒素ガスをまず反応器に(150ml/分)、1時間流入させてから、700℃まで加熱し、第2ステップのCVDを6時間行った。最後に窒素雰囲気(150ml/分)下で900℃、3時間熱処理した。得られた炭素/ゼオライト複合体は以下のとおりラベリングされた。
【0027】
HY−5%Ac6(6)−Ac7(6)−H9(3)−Z
CVD時間は、各CVDステップにおいて以前の研究における2時間から、6時間に延長したことに留意されたい。炭素材料はゼオライト鋳型から、室温、6時間でのHF(ホウ酸)洗浄(46wt%、Wako Pure Chemical Industries Ltd、100gHF当り、〜0.3gの複合体)により分離した。炭素部分をその後テフロン膜フィルター(アドバンテック、撥水PTFE,細孔径0.2ミクロン)により収集し、蒸留水により十分洗浄して、150℃、8時間、減圧・真空下で乾燥させた。得られた炭素材料は以下のようにラベリングした。
【0028】
HY−5%Ac6(6)−Ac7(6)−H9(3)
(2.4 NaY/PFAに対する2ステップCVD)
すべての合成条件はセクション2.3と同一であるが、セクション2.2において得られたNaY/PFA(0.5g)を、HYの代わりに用い、結果物を以下のようにラベリングする。
【0029】
NaY/PFA−5%Ac6(6)−Ac7(6)−H9(3)−Z
セクション2.3と同様にHF(ホウ酸)洗浄を実施し、セクション2.3と同様にゼオライト鋳型から炭素を分離し、得られた炭素材料を以下のようにレベリングした。
【0030】
NaY/PFA−5%Ac6(6)−Ac7(6)−H9(3)
(2.5 評価)
(2.5.1 熱重量分析(TGA))
合成された炭素/ゼオライト複合体における炭素含有量を熱重量分析装置(Shimazu DTG−60H)を用いて特定した。複合体はアルミナパンに入れ、800℃まで加熱した。空のアルミナパンもまた同一のプロフィールを用いて分析した。分析中において重量変化がはっきりと観察できるTGパターンの信頼できるデータを得るためには、得られたTGパターンから空のアルミナパンのTGパターンを差し引くことによりこの影響を取り除かなければならない。
【0031】
(2.5.2 X線回折分析(XRD))
X線回折装置(Shimazu XRD−6000 で CuKa線を30kV,20mAで放射)を用いて得られた炭素材料の規則性構造の評価を行った。測定条件を表2.2に挙げる。シリコン製試料ホルダーを用いた。
【0032】
【表2】
【0033】
(2.5.3 透過型電子顕微鏡 (TEM))
調製試料の結晶構造を透過型電子顕微鏡(TEM,JEM−2010 JEOL製)を用い、加速電圧200kVで観察した。観察前、エタノールに浸漬し、Cuグリッド(タイプB)に載せて、80℃、30分間乾燥させた。
【0034】
(2.5.4 示差・微分熱重量分析(DTG))
TG測定から得られたデータを用いてDTG分析を実施した(Shimazu、DTG−60H)。炭素材料をアルミナパンにいれ、800℃まで加熱した。
【0035】
なお、温度プログラムは、550℃までは、DTG測定時にも使用された。
【0036】
(2.5.5 走査電子顕微鏡(SEM))
得られた材料(試料)は電界放出型走査電子顕微鏡(SEM,ヒタチ S−4800)を用いて直接観察した。カーボンテープ上に材料を載置し、金属の蒸着なしで観察した。
【0037】
(2.5.6 窒素吸着量測定)
−196℃にてN2吸着分析を行った(BEL Japan、BELSORP−max)。得られた炭素材料の吸着―放出特性と比表面積を評価した。結果物(試料)は測定前に150℃で6時間、減圧下で脱気処理を施した。比表面積は、相対圧P/P0の範囲が0.01<P/P0<0.05で、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)法により計算され、全細孔容積は、P/P0=0.96の場合で計算した。
【0038】
(2.5.7 ラマン分光)
炭素材料(試料)のラマンスペクトルをラマン分光光度計(Jasco(ジャスコ) NRS−3000FL)により、緑色レーザを用い、波長532nmにて記録した。測定前、ラマンシフトをSi標準(Si Standard)により、表2.3に記した条件の下で校正した。炭素試料の測定条件は表2.4に記す。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
(3.結果と考察)
(3.1 CVD時間延長を伴った2ステップCVD)
炭素/ゼオライト複合体のTGAパターンを、HY−5%Ac6(6)−Ac7(6)−H9(3)−Zでラベリングして、この2ステップCVDプロセスから得た。この複合体中の炭素含有量はTG測定中の重量ロスから計算されており、結果としての炭素含有量は43.7wt%と、前の研究のHY−5%Ac6(2)−Ac7(2)−H9(3)−Zにおける38wt%を大きく上回る。しかしながら両ケースにおけるXRDパターンは、2θで、6.4°の位置で急峻なピーク値を持つことで、ゼオライト細孔内に堆積した規則性構造の炭素(内部炭素(インナーカーボン))を示し、ゼオライト鋳型に由来する構造的周期性を示しているだけではなく、2θがおおよそ25°近辺で幅広のピークを持ち、積層した炭素(の存在)をも反映している。以前の報告ではこの積層炭素はゼオライトの結晶の外表面に堆積したもの、いわゆる外部炭素であるとされた。この外部炭素を酸素プラズマ処理により除去する試みもなされたが成功しなかった(付録1参照)。
【0042】
内部炭素の割合をTGA結果から計算されたDTG分析を用いて求める試みがなされた。TGA中の重量ロスは、2つの矢印で示すように2つのステップから成っている。このTGA結果から計算されたDTGパターンは、560℃と630℃に2つのピークを持ち、ガウス関数によるフィッテング(Gaussian fitting)から計算された面積割合を図示する。
【0043】
それぞれのピークを特定するため、同じ炭素試料を550℃で、2時間焼成・燃焼し、得られたDTGパターンでは、第1のピークのみが残り、測定中の質量低減は60wt%であった。さらに、残留物をTEMとSEMとで観察した結果、この試料は外部カーボンシェルのみを持つことが分かった(内部炭素のみが550℃で消失した)。したがってDTGパターンにおける第1のピークは内部炭素に対応するものであることと結論づけられる。
【0044】
図2.3(a)に示すようにDTGパターンにおける各ピークの面積割合はそれぞれ67%、33%であり、第1のピークは内部炭素に対応する。これらの結果から内部炭素は33wt%と求められた。この値は、前の研究で短いCVD期間を用いた場合と同一であり、このことはCVD時間の延長によってゼオライト細孔内により多くの炭素を取り込めることにはならはないことを意味しており、HYを鋳型として用いて2ステップ連続CVDを行った場合の最大炭素含有量は33wt%であることを示すものである。
【0045】
(3.2 NaY/PFAに対する2ステップCVD)
前セクション3.1で考察したように、強い酸性質を示し小さなカチオンサイズを備えたHYを用いてもゼオライト細孔内に炭素を有効に導入することができない。よって、連続CVDプロセス前にNaY中にFAを含浸、重合させることで、炭素をある程度導入するというアイデアが検討された。ここでFAはHYに対しては酸性度が強すぎHYに付着すると、均一に含浸される前にただちに重合してしまうため、使用不能であることに留意されたい。CVD時間に対し、炭素含有量をプロットしたものから、NaY/PFAに対し、5vol%アセチレンガスを供給、CVD温度600℃では、CVD時間、6時間で26wt%の最高値に達する。よって、このステップを2ステップCVDの第1のステップとした。第2ステップのCVDは700℃、6時間行われ、結果の炭素含有量は、TGパターンから計算して、39.6wt%である。
【0046】
この炭素材料、NaY/PFA−5%Ac6(6)−Ac7(6)−H9(3)、はまさに内部および外部炭素からなる二重構造を持っていることが、XRDパターンとTEM写真から確認される。明らかにこの炭素材料は、ゼオライト鋳型に起因する非常に高い構造規則性を備えHYを用いて調製した炭素材料よりも高いことが分かる。浸漬・重合プロセスのおかげで、FAが均一にゼオライト細孔に含浸させられこれらの限られた、隔成されたナノチャンネル内で重合される。HYに対してこの2ステップCVDを行った場合には、炭素はランダムにゼオライト鋳型の内側と外側に堆積し、細孔の閉塞をきたす可能性があるものと推測される。その結果、炭素は有効にナノチャンネル内に充填できないであろう。
【0047】
内部炭素の割合を特定するために、再度DTG分析を用いた。結果のDTGパターンから、それぞれのピークの面積割合は、ガウスフィッテングにより計算され、それぞれ81wt%、19wt%であった。既述のとおり、最初のピークが内部炭素に対応する。これらの結果から本材料(試料)の炭素含有量は34.6wt%と算出され、これはHYを用いて調製されたもの(33wt%)より高い。これらの結果からFAをゼオライト鋳型に均一に浸漬・重合させるメリットが明らかである。調製された材料は高い構造規則性のみならず高い内部炭素量を持つ。このように高い炭素含有量により、試料はフラーレンに類似した構造を備えることが推定される。したがってこの試料をTOF−MS技術を用い、H2O2中に溶解すること(付録2参照)で分析した。しかし、C60に相当するピークは認められなかった。
【0048】
Nay/PFAに対して、2ステップ連続CVDにより調製された炭素材料のN2吸着等温線は、IUPACに基づく、I型の等温線に区分され、細孔性状(microporosity)の生成度合いを示している。相対圧が0.01〜0.95の範囲においてBET比表面積は1720m2/gであり、相対圧が0.96のときで計算された全細孔容積は0.74cm3/gである。内部炭素の理論表面積は、BET比表面積およびDTGパターンにおける割合(fraction)から計算でき、結果は2100m2/gであった。この値は1nmの外径を持つSWNT(単層カーボンナノチューブ)に関するもので、、以下の式で表される(詳細は、付録3参照)。
【0049】
【数1】
【0050】
市場に流通しNippon Steel Chemical Co..Ltdから納入された通常のZTCと、NaY/PFAに対して2ステップ連続CVDを行って調製された炭素材料のラマンスペクトル(分光)から、これらラマンスペクトルから炭素材料についての代表的なラマン特性が観察でき、接線方向のGバンド、欠陥由来のDバンドを含んでいる。さらに、500cm−1以下で広域のラマン特性、いわゆるラジアルブリージングモード(RBM)振動が観測される。このRBM類似の特徴は非常に小さな曲率半径を持つ曲面グラファイトシートの存在を示唆している。ZTCの場合、このRBM類似は230〜430cm−1に現れ、曲率半径が230〜430cm−1単層グラフェンシートがY型ゼオライトの幾何学的細孔サイズ(0.74〜1.3nm)(3)内に充填されていることを示している。しかしながら、NaY/PFAに対して2ステップ連続CVDにより調製された炭素材料の場合にはこの特徴が100〜480cm−1の範囲に現れ、Y型ゼオライトにおける1.3nmの幾何学的細孔サイズよりも大きな曲率半径の存在を示唆している。これはゼオライト粒子の外表面の外部炭素によるものでランダムに積層され、いくつかは1.3nmよりも大きな曲率を形成しているためと考えられる。
【0051】
上述のとおり炭素試料を550℃まで燃焼させると、内部炭素は焼失し、外部炭素のシェル構造が残ることになる。この550℃までの熱処理を経た炭素試料のラマンスペクトルでは、Dバンドの強度がGバンドの強度とほとんど同じになっており、内部炭素の消失によるものと推定される。しかしながら、RBM類似の特徴は同じ領域で依然として見られる。このことは外部に積層した炭素がランダムに堆積し、径の変化となっていることを示している。さらに、このRBM類似の特徴は内部炭素には関係しない。
【0052】
(4.結論)
FAのNayゼオライト内への浸漬および重合と、それに続く、600℃および700℃での2ステップ連続CVDによりゼオライトナノチャンネル内に炭素が充填され、内部炭素含有量は34.6wt%に(炭素/ゼオライト複合体の時点で)達した。さらに得られた炭素材料はゼオライト鋳型に由来する高い構造的規則性を備える。これらの知見はFAをY型ゼオライトのナノチャンネル内部に均一に浸漬、重合させるという浸漬および重合プロセスのメリットを示唆している。
【0053】
参考文献
[1] Imai Katsuaki, Tohoku University、修士論文 2008.
[2] Matsuoka K., Yamagishi Y., Yamazaki T., Setoyama N., Tomita A., and Kyotani T., Carbon 2005, 43, 876−9.
[3] Nishihara H., Yang Q−H., Hou P−X, Unno M., Yamauchi S., Saito R., Juan I. Parades, Amilia Martinez−Alonso., Juan M.D. Tascon, Sato Y., Terauchi M., and Kyotani T., Carbon 2009, 47, 1220−30.
[プレッシャーバルスCVDによって得られるゼオライト鋳型炭素(第3章)]
(1.はじめに)
第2章では、連続CVDによる炭素充填について研究され、得られた炭素ゼオライト複合体が34.6wt%の炭素含有量を持つことが報告された。この章では、プレッシャーパルスCVDを使ってさらに多くの炭素をY型ゼオライトの限られたナノチャンネル内に充填するための試みがなされた。圧力差(差圧)に基づく促進力を与えることで炭素はこれらナノチャンネル内に詰め込まれ、結果としての複合体は高い内部炭素含有量を持つであろう。最後に、このプレッシャーパルスCVDプロセスの効率・有効性につき、従来のCVDと比較しながら考察した。
【0054】
(2.実験)
(2.1 HYに対して短減圧時間でのプレッシャーパルスCVD)
乾燥させたHY(0.25g、第2章、セクション2.1で記載のもの)を図2.1に図示する縦置き(垂直)石英管反応器(リアクター)内にセットする。反応器はロータリポンプに接続されている。つぎに反応器は、下記概観図(図2.2)に示すとおり縦型の電気炉内に置かれた。反応器は最低圧が10Pa以下になるまで減圧され、ついで600℃まで加熱・昇温してからCVDが行われた。パルスシング前、アセチレンガス(N2中5vol%、総流量50ml/min)を流した。パルシングステップにおいて、青い鎖線に1秒間切り替えることでアセチレンガスをパルス供給した。このパルスステップのあと、アセチレンガスは赤い鎖線で示すように切り替えられ、反応器は再度1秒間減圧された。なお、このパルスー減圧条件において、圧力は700〜800Paのレンジ内で変化する。このパルスー減圧プロセスを30000から50000サイクル繰り返し行った。しかしながらこのような実験を継続するのは困難であった。したがって、数日間に分け、毎日CVDを6時間行った。毎日のCVDの後、室温まで冷却し、大気圧下で一夜放置した。次のCVDは翌日行った。その前に、反応器は30分間減圧し、600℃まで加熱、プレッシャーパルスCVDを開始した。これをパルスサイクルが所望の値になるまで繰り返した。最後にN2通風(150ml/min)下で900℃、3時間熱処理を加えて得られた炭素/ゼオライト複合体を以下のようにラベリングした。
【0055】
HY−5%Ac6(N−1s1s)−H9(3)−Z ここに、N=30000および50000
HF(ホウ酸)洗浄も行い、第2章、セクション2.3と同様ゼオライト鋳型から炭素を分離し、得られた炭素材料を以下のようにラベリングした。
【0056】
HY−5%Ac6(N−1s1s)−H9(3) ここに、N=30000および50000
ここで、より高いアセチレンガス濃度(N2中 20vol%、総流量50ml/min)での実験も行い、同様なパルスー減圧条件(1s、1s)で、パルスー減圧ステップを10000サイクル繰り返した。結果の炭素/ゼオライト複合体を以下のようにラベリングした。
【0057】
HY−20%Ac6(10000−1s1s)−H9(3)−Z
比較のため、連続CVDの実験も行った。HYを鋳型として使い、アセチレンガス(N2中5vol%、総流量150ml/min)CVDを600℃、2時間行い、続けて900℃、3時間熱処理を行った。得られた炭素/ゼオライト複合体を以下のようにラベリングした。
【0058】
HY−5%Ac6(2)−H9(3)−Z
(2.2 HYに対し長減圧時間でのプレッシャーパルスCVD)
本セクションにおける実験装置構成は、セクション2.1と同じであるが、パルスー減圧ステップが異なる。乾燥したHY(0.25g)を鋳型として用い、アセチレン(N2中、20vol%)CVDを600℃にて実施した。パルスー減圧ステップは1秒、60秒に各々変更した。ここでパルスー減圧ステップ条件に関し、圧力は10〜200Paの範囲で変化させた。パルスー減圧プロセスは、2655、4951および5895サイクル、続けて繰り返し実施した。得られた炭素/ゼオライト複合体は以下のようにラベリングした。
【0059】
HY−20%Ac6(N−1s60s)−Z、 ここに、N=2655、4951および5895
比較のために連続CVDの実験も行った。鋳型としてHYを用い、アセチレン(N2中、20vol%、総流量150ml/min)CVDを600℃にて、それぞれ0.5、1、および1.5時間実施した。900℃、3時間の熱処理後に得られた炭素/ゼオライト複合体を次のようにラベリングした。
【0060】
HY−20%Ac6(t)−H9(3)−Z ここに、t= 0.5、1および1.5時間
(2.3 NaY/PFAに対するプレッシャーパルスCVD)
NaY/PFA(0.25g、調製プロセスについては第3章、セクション2.2に記載した)を用い、パルスー減圧条件はセクション2.2(1sおよび60s)と同一である。このステップを連続して繰り返し、708、1652および2537サイクル実施した。CVD条件もセクション2.2と同じであった(600℃、N2中、20vol%のアセチレンガス)。得られた炭素/ゼオライト複合体は次のようにラベリングした。
【0061】
NaY/PFA−20%Ac6(N−1s60s)−Z ここに、N=708、1652および2537
比較のために、NaY/PFAに対し実験を行った。得られた炭素/ゼオライト複合体を次のようにラベリングした。
【0062】
NaY/PFA−20%Ac6(t)−H9(3)−Z ここに、t=4、6および10時間
(2.4 HYに対し、700℃でのプレッシャーパルスCVD)
CVD温度が700℃であり、パルス減圧ステップを連続して983、2045、および3198サイクル繰り返した以外は、セクション2.2と同じ条件で、。得られた炭素/ゼオライト複合体を以下のようにラベリングした。
【0063】
HY−20%Ac7(N−1s60s)−Z ここに、N=983、2045および3198
HYに対し、700℃での連続CVDも比較のために行われ、得られた炭素/ゼオライト複合体を以下のようにラベリングした。
【0064】
HY−20%Ac7(t)−H9(3)−Z ここに、t=1および2時間
(2.5 HYに対する2ステッププレッシャーパルスCVD)
セクション2.2で得られた炭素/ゼオライト複合体、HY−20%Ac6(5895−1s60s)−Zを第2回目のプレッシャーパルスCVDに供し、700℃、同じアセチレンガス濃度の20vol%およびパルスー減圧ステップ(1sおよび60s)で実施、連続して944,2360および3752サイクル繰り返した。得られた炭素/ゼオライト複合体は次のようにラベリングした。
【0065】
HY−20%Ac6(5895)−Ac7(N−1s60s)−Z ここに、N=944、2360および3752
プレッシャーパルスCVDにより得られた全試料をまとめて、以下の表3.1に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
(2.6 評価)
すべての評価は、第2章、セクション2.5のものと同じであった。
【0068】
(3.結果と考察)
(3.1 HYへの炭素充填に対する減圧時間の影響)
図2.3に、短時間減圧のプレッシャーパルスCVDによる総アセチレン供給量に対し炭素含有量をプロットしたものを示す。このデータから、プレッシャーパルスCVDプロセスは、炭素含有量が連続CVDと同様な傾向であることから効果が認められないと思われる。さらにアセチレンガス濃度を20vol%に増やしても炭素量はさほど増加できない。しかしながら、高濃度にすることで、トータルのCVD時間は短縮できた。したがって今後のすべての実験においてこの濃度を使用した。
【0069】
図2.4は長減圧時間のプレッシャーパルスCVDによる総アセチレン供給量に対し炭素含有量をプロットしたものを示している。減圧時間を60sまで増やすことでプレッシャーパルスCVDプロセスの効果が顕著に認められ、得られた炭素含有量は、連続CVDより総アセチレン供給量は少ないにも関わらず、おおよそ34wt%の最大値に達することができた。これはプレッシャーパルスCVD中の差圧の結果であると考えられる。図2.5に示すようにCVD処理の前にゼオライト鋳型は減圧され、ゼオライト細孔の内部、外部とも10Paの低圧に置かれる。アセチレンガスがシステムにパルス供給されると、ゼオライト細孔外部圧(Pout)は上昇し、他方、ゼオライト細孔の内部圧(Pin)は依然同じに保たれる。その結果、この差圧により、CVDが行われているときにアセチレンガスがゼオライト細孔に押し込まれる。パルスステップ終了後、システムは再度減圧され、余分なアセチレンガスと堆積しない炭素系分子はシステムから取り除かれる。レスティング(休息)時間がすべての余剰物を除去するのに十分長時間であれば、ゼオライト鋳型はCVDプロセス中を通してフレッシュな状態に保たれる。
【0070】
(3.2 NaY/PFAに対するプレッシャーパルスCVD)
プレッシャーパルスCVDの実験において、CVDプロセス前に炭素を導入するアイデアも検討した。第2章の結論で述べたように、FAをNaYゼオライト内部に浸漬し重合することにより内部炭素含有量は格段に増加しうる。図2.6はNaY/PFAを用いて調製された試料について総アセチレン供給量に対する炭素含有量をプロッタしたものを、HYに対するデータとともに示したものである。プレッシャーパルスCVDプロセスの効果が歴然に現れており、HYについて既述したことと同様であるが、HYを用いた場合と比べ、炭素含有量は依然として少ない(連続CVDの場合と異なり、NaY/PFAはHYより良好であった)。この反対についての説明はいまだに不明である。ひとつの可能性としては、プレッシャーパルスのCVDの差圧により炭素がゼオライト細孔に押し込まれることである。高効率を達成するためには、細孔は“空隙”になっていて炭素がこの駆動力・促進力によって細孔内に容易に導入される必要がある。HYはNaYのそれより小さなカチオンサイズであること、(炭素充填にはより多くのスペース)、さらに、“空”である。したがってHYで得られた複合体はNay/PFAにより調製された複合体よりも高い炭素含有量を持つ。この観点から、プレッシャーパルスCVDプロセスにおいては差圧(圧力差)が、高い炭素含有量を達成するための主要要因となる。
【0071】
(3.3 HYに対し700℃でプレッシャーパルスCVD)
CVD温度を上昇させることで、システム内のすべての種の原子振動が増大する。これを考慮し、高温度がプレッシャーパルスCVDプロセス中の炭素堆積に重要な影響を与えるのではないかと考えられた。図2.7に示すように、この実験から得られた炭素含有量を総アセチレン供給量に対しプロットし、HYを用いて600℃で調製したものと比較した。高温条件によりもたらされる別の駆動力を考慮することによって非常に高い炭素含有量が得られることが認められる。しかしながら、予想したとおり、ゼオライト細孔内部のみならず、ゼオライト結晶の外表面までも炭素が堆積していることが、図2.8に示すXRDパターンにより確認される。第3章において述べたとおり、2θが6.4°において急峻なピークは内部炭素の規則的構造を表しており、2θが25°近辺の幅広のピークは外部炭素の存在を反映している。
【0072】
第3章で前述と同様に、DTGを用いて内部炭素の割合を特定する試みがなされた。炭素材料、HY−20%Ac7(3198−1s60s)−H9(3)、のDTGパターンを図2.9(a)に、ガウスフィッティングにより計算された面積割合とともに図示する。内部炭素に対応した第1のピークとして、内部炭素量が第1のピークの面積割合から計算できる。その結果、本試料の内部炭素含有量は35.9wt%であり、連続CVDを使って得られたHY−20%Ac7(2)−H9(3)に対する33.6wt%(図2.9(b)のDTGパターンから計算)より高い。これらの結果から二つの主要な駆動力、すなわち差圧と高温条件とを考慮した、700℃雰囲気でのプレッシャーパルスCVDプロセスの有効性が示された。
【0073】
(3.4 HYに対する2ステッププレッシャーパルスCVD)
600℃および700℃、特に、700℃でのプレッシャーパルスCVDプロセスの有効性については、すでにセクション3.3で説明したとおりである。より高い炭素含有率を得るため、最初の炭素堆積は低い温度(600℃)で大部分がゼオライト細孔の内部で行われ、最高値に達する。700℃での第2の炭素堆積により、プレッシャーパルスCVDプロセス中の高温と差圧によってさらに炭素含有量を増加する。これらの実験により得られた炭素含有量を総アセチレン供給量に対してプロットしたものを、図2.10に、600℃での第1CVDのデータと共に示す。炭素含有量が最大値である約31wt%到達後、700℃での第2回目のCVDにより、図2.10に示すように炭素含有量を56wt%まで増加させることができる。
【0074】
この炭素材料もXRDで確認されるとおり(図2.11)内部炭素と外部炭素(outer carbon)を持つ。特に外部炭素を反映した広幅化ピークが明瞭に観察できる。結果的に、ゼオライト細孔の内部だけでなくゼオライト結晶の外部表面にも多量の炭素が堆積している。さらに2θが18.1°で小さなピークが顕著に観察できる。このピークを特定するため炭素試料を800℃で燃焼させ、残留物をTEM観察に供すると共に、観察中にEDS(エネルギー分散型X線分光器)を用いて元素分析を実施した。図2.12が、EDSスペクトルと残留物中のSi、Alおよび酸素を含んだ元素を示している。よって、XRDパターン中の小さなピークはシリカ(SiO2)および/またはアルミナ(Al2O3)からなる物質を反映しておりHF洗浄後も残留したものであると考えられる。この結果は図2.13に示す基準SiO2のXRDパターンとよく一致する。
【0075】
2ステッププレッシャーパルスCVDによって得られたこの試料のDTGパターンを図2.14に、ガウスフィッティングにより計算された面積割合と共に図示する。DTG結果から計算された内部炭素含有量は37.4wt%にまで上昇している。これはこれまでのところY型ゼオライトの限られたナノチャンネル中に充填された炭素量としては最大である。
【0076】
これらの結果からプレッシャーパルスCVDプロセスの優位性・効率性が示された。600℃の第1炭素堆積で、炭素は大抵がゼオライト細孔内部に堆積させ、続いて700℃での第2炭素堆積により、圧力差と高温状態が重要な役割を担って炭素をこれらのナノチャンネルに押し込める。結果的に、きわめて高い炭素含有量でこれまで到達できなかった37.4wt%を達成することができた。
【0077】
この炭素試料において、炭素材料の代表的なラマン特性も観察でき、1600cm−1でのGバンド、1340cm−1でのDバンド、および500cm−1以下の周波数でのRBM類似のバンドである(図2.15)。しかしながら多量の外部炭素の存在によりDバンドの強度は第2章で得られたものと比較して増加した。さらに200cm−1以下でのRMB類似の特性が明瞭に観察でき、前の第2章での言及した外部炭素の存在に起因するものと推察される。
【0078】
図2.16はHYに対して2ステップ連続CVDを行って調製された炭素材料のN2吸着等温線を示す。この等温線はIUPACによるI型等温線に分類されるものでマイクロ細孔(microporosity)の生成状況を表す。BET比表面積は相対圧が0.01〜0.05で980m2/gと計算され、トータル細孔容積は相対圧が0.96のときで0.48cm3/gと求められた。内部炭素の理論表面積は、BET比表面積とDTGパターンからの割合から求められ、計算値は1900m2/gである。第2章に既述した式をベースにこの値はSWNTの外部径1.28nmに相当し、ゼオライトのスーパーケージ内に挿入可能の大きさである。
【0079】
(4.結論)
本章では、プレッシャーパルスCVDが備える有効性・効率性が明らかとなった。本実験における圧力差に由来する駆動力・促進力により、炭素がY型ゼオライトの限られたナノチャンネル中に有効に充填され、37.4wt%の内部炭素含有量を炭素/ゼオライト複合体の段階で達成できた(これまで達成できた最高値)。得られた材料は,1.28nmの直径のSWNTに類似の構造を有し、ゼオライトスーパーケージ内に装填可能である。
【0080】
[分子構造の構築 (第4章)]
(1.はじめに)
前の第3章において、炭素をY型ゼオライトの限られたナノチャンネルに導入するのに有効なツールとしてプレッシャーパルスCVDプロセスが開発された。この方法により得られた炭素/ゼオライト複合体はゼオライト細孔に極めて高い炭素量を含有している。われわれの知る限り、この値はこれまで得られた最大値である。本章では、分子モデリングソフト、Chem3D Ultra 11.0、を用い炭素の分子構造の構築を試みた。安定化分子構造を得るためにMOPAC(半経験的分子軌道法計算ソフト)を使用した。
最後に実験結果とマッチする可能性のある分子構造を提起した。
【0081】
(2.実験)
分子モデリングソフトウエア、Chem3D Ultra 11.0 (Cambridge Soft Co.)を使い分子構造を構築するために、ゼオライト空隙内部のグラフェン層に6角形、5角形および/または7角形を相互接続し組み込んだ。分子構造の幾何学的最適計算は、半経験的ハミルトンPM5(semi−empirical Hamiltonian PMS)を用い、MOPAC(Fujitsu Limitedの Scigress Explorer 7.6に内包)のMOZYMEアルゴリズムと組み合わせて実施した。
【0082】
(3.結果と考察)
合理的な分子構造は、これまでいくつかの評価技術(TEM,ラマン分光、XRD)を用いて得られた構造情報と整合していなければならない。さらに、MOPACの半経験的ハミルトンPM5を用いた幾何学的最適計算上でエネルギー的に安定である必要もある。グラフェンシートは5角形および/または7角形の存在下、人工的に曲げてゼオライト細孔の局面に適合する必要がある。さらに、Y型ゼオライトのスーパーケージはダイヤモンドにおける炭素原子と同様に結合しているため4面体ネットワーク構造を示す必要がある。ひとつの可能性はカーボンシュワルツァイトと呼ばれている負の局面を持つグラフェンネットワークである。二つのそのような考え得る炭素モデルを図3.1(a−b)に示すが、炭素原子同士はsp2結合によって連結されていると仮定した。いずれのモデルも構造ユニットからなり、各ユニットはY型ゼオライトのひとつのスーパーケージ内に納まっている。図3.1(a)と(b)のモデルのユニットはそれぞれ88個、68個の炭素原子を含み、それぞれ炭素/ゼオライト複合体の段階で炭素含有量36wt%、42wt%に相当する。図3.1(a)のモデルの理論炭素含有量は実験値の37wt%にきわめて近い。もし4個の炭素原子をこのモデルに加えることができれば、理論炭素量は実験したものと一致する。しかしながら、この構造は完全でかつ安定しており、よって、さらに炭素を追加することは困難である。図3.1(b)のモデルにおいては14個の炭素原子を取らないと37wt%炭素含有量にできない。そのような炭素原子除去は規則性構造の破壊につながる。したがって、これら二つのモデルは可能性のある構造とは考えられない。
【0083】
よって他の可能性のあるモデルの構築の努力がなされ、図3.2に示す24個の6角形と、12個の7角形を持つ構造ユニットが考えられた。このモデルユニットは76個の炭素原子を有し、炭素/ゼオライト複合体の段階で39wt%の炭素含有量に相当する。このモデルの理論的炭素含有量は依然実験値の37wt%よりも高い。よって4個の炭素原子を取り除いて、炭素量を下げた。この除去後、図3.3に示すとおり、8個の水素原子が加えられ、モデルの安定性を確保した、構造ユニットはC72H8となり、炭素含有量37wt%に相当する。
【0084】
(4.結論)
内部炭素量についての実験結果を元に、6角形と7角形からなる構造ユニットから生成されたモデルを作成した。実験値に近い理論炭素含有量を持つ最も可能性のあるモデルはC76ユニットからなり、12個の7角形と、24個の6角形からなる。さらに、いくつかの炭素原子を取り除いて理論炭素含有量を実験値と合わせた結果、C72H8から高税されるナノチューブ類似のネットワーク構造が依然安定しており、ゼオライトの細孔システム内に挿入可能である。
【0085】
[まとめ (第5章)]
発明の背景で、炭素、sp2炭素の種類、および炭素シュワルツァイト(carbon schwarzite)と呼ばれるユニークな負の局面構造の簡単な紹介をし、合わせてこれまで文献で紹介されている合成方法に触れながら規則的周期性を備えるそのような構造を合成することの難しさについて述べた。これを受けて、炭素が互いに鋳型のナノスペース内で結合されている鋳型技術を用いれば。そのような負の局面は均一に合成可能であることを提示した。
【0086】
第2章では炭素源が連続的にシステムに供給される連続CVDを用いてY型ゼオライトの細孔に炭素充填することを提示した。2ステップ連続CVDプロセスに先だってゼオライト内部にフルフリアルコール(FA)を浸漬、重合する方法により炭素がゼオライト細孔に均一に導入されることがわかった。得られた炭素材料は、ゼオライト鋳型に由来する高い構造規則性を示すばかりでなく、34.6wt%という高い内部炭素量を有する。
【0087】
第3章に記載のように、さらなる炭素をゼオライト細孔に導入すべく努力がなされた。この章では、炭素源が非常に短時間、すなわち、パルス的にシステムに導入されるCVDプロセスを開発し、いわゆるプレッシャーパルスCVDとした。プレッシャーパルスCVDの優位性、有効性を連続プロセスと比較しながら示した。この実験での圧力差に起因する駆動力・促進力により、Y型ゼオライトの限られたナノチャンネルに炭素が有効に詰め込まれ、結果的に37.4wt%という非常に高い内部炭素含有量を達成できた。
【0088】
内部炭素含有量の実験結果を元に、いくつかの可能性のある分子モデルの構築が第4章では試みられた。モデルは、6角形(6員環)と7角形(7員環)からなる構造ユニットから生成された。最も可能性の高いモデルは、理論炭素含有量が実験値に近く、C76ユニットから構成されれ、12個の7角形(7員環)と24個の6角形(6員環)からなる。さらに、いくつかの炭素原子を除去し、理論値を実験結果の炭素含有量にマッチさせたものとして、C72H8からなる構造ユニットによって構築されたナノチューブ類似のネットワーク構造が依然安定しており、ゼオライト細孔システム内に挿入可能である。
【0089】
結論的には、本論文は多量の炭素をY型ゼオライトの限られたナノチャンネルに満たす有効な方法についても提起した。この鋳型により、シュワルツァイト(schwarzite)として提案される、マイナスの局面を持つナノカーボンネットワークが合成可能である。そのような構造の証明のためには、さらなる実験データが必要であるが、本論文は、シュワルツァイトの合成と応用に向けた更なる研究を目指した良い出発点であった。
【0090】
[酸素プラズマ処理を使った外部炭素の除去(付録1)]
(1.はじめに)
連続CVD、プレッシャーパルスCVDいずれの方法によっても得られた材料は2つの部分、すなわち内部および外部炭素から成るので、外部に積層する炭素は不要な生成物と考えられ内部成分の分析の障害となりうる。よって、酸素プラズマ処理を使った酸化により外部炭素のみを除去するアイデアが検討された。
【0091】
(2.実験(1))
2ステップ連続CVDにより得られた炭素/ゼオライト複合体、HY−5%Ac6(2)−Ac7(2)−H9(3)−Z、を用いた。石英ボートに載せ、ソフトエッチング容器(meiwafosis, SEDE/AB ソフトエッチング装置)に配置した。容器内は8mPaまで徐々に減圧した。この圧力において、酸素ガス存在下で(アルゴンガス中31.04vol%)、18mAの電流が供給された。この段階で、酸化が行われ2時間保持された。酸化後、室温まで冷却された。得られた炭素/ゼオライト複合体はHF(ホウ酸)処理され、ゼオライト鋳型を除去した。結果物の炭素材料はTEM観察された。
【0092】
(3.結果と考察(1))
図2.1−(Apx−1)(a−b)は調製試料のTEM写真であって、それぞれ酸素プラズマ処理前と後のものを示している。いくつかのTEM写真が撮られたわけではないが(30〜50画像)、これら二つのケースの間(プラズマ処理前と跡)に違いは観察されなかった。したがってソフトエッチング装置を用いても、外部炭素は除去できないと結論づけられる。
【0093】
(4.実験(2))
よって、外部酸素の酸化のためにより高出力によるエッチング(Yamato Plasma Reactor,PR301S)が採用された。セクション3で述べたと同じ炭素/ゼオライト複合体が石英ボートに乗せ、プラズマ反応器の容器に配置された。このケースでは、20分(出力 70W)のプラズマ処理と、10分間、さらに引き続き10分間(10−10分、最初の10分後、均質化するために試料を混合した)のプラズマ処理を行った。得られた複合体はHF洗浄し最後にTEM観察した。
【0094】
(5.結果と考察(2))
図2.2−(Apx−1)と2.3−(Apx−1)のTEM写真は、20分の酸素プラズマ処理後と10分−10分のプラズマ処理後のものをそれぞれ示す。外部炭素の除去は顕著に観察されるものの、酸化は均一に行われていない。これらの結果より酸素プラズマ処理では外部炭素を均一には取り除けないことがわかった。
【0095】
[炭素材料のH2O2中での溶解(付録2)]
(1.はじめに)
2ステップ連続CVDにより得られた炭素材は互いにネットワークとして結合しているフラーレンから成るとの考えから、この試料から過酸化水素のような酸化剤との溶解によりフラーレンを抽出できるのではないかと考えた。
【0096】
(2.実験(1))
基準として、C60を、H2O2(20ml、30%)に溶解させ、70℃、24時間攪拌した。溶液(5ml)を3時間、6時間、10時間および24時間経過後、採取し、0.2M KMnO4溶液で滴定して余分なH2O2を取り除いた。最後に、24時間経過後の溶液を、TOF−MSにより分析した。
【0097】
(3.結果と考察(1))
図2.1−(Apx−2)に本実験の全体プロセスを示す。KMnO4による滴定後の溶液の写真は図2.2−(Apx−2)に示す。
【0098】
図2−3−(Apx−2)は、H2O2に1日間、溶解されたC60のTOF−MSスペクトルを示したものである。C60(m/z=720)に対応したピークがはっきり観察されるとともに、酸化したC60分子、すなわち、C60(OH)41を反映した高分子量におけるピークも観察される。
【0099】
(4.実験(2))
2ステップ連続CVDにより得られた炭素材料(10mg)、NaY/PFA−5%Ac6(6)−Ac7(6)−H9(3)をH2O2(20ml、30%)に溶解させ、70℃で4日間連続攪拌した。溶液(5ml)を1、2および4日後に採取し、0.2M KMnO4で滴定し、余分なH2O2を除去した。最後に、溶液を4日後にTOF−MSにより分析した。
【0100】
(5.結果と考察(2))
図2.4−(Apx−2)はこの実験の全体プロセスを、H2O2への溶解後、KMnO4による滴定後のものと共に示したものである。H2O2中での溶解後、4日間で、溶液は透明になるが、KMnO4による滴定後は、茶色に変色した。この結果からこの段階で単素材料はほとんどが酸化されたと推定される。よって、この試料のみTOF−MSにより分析された。
【0101】
図2.5−(Apx−2)は2ステップ連続CVDにより得られた炭素材料をH2O2に4日間溶解後のTOF−MSスペクトルを示している。C60に対応したピークは観察されない。m/zが300以下でのいくつかのピークは、小さな炭化水素分子に対応したものと推定される。さらに、m/z=525、580で観測される2つのピークはそれぞれC38(OH)4、C47(OH)分子を示す。2つの説明が考慮される:C60またはC60に近い分子はH2O2によってはネットワークから抽出できないか、または、試料がC60またはC60に近い分子を含んでいないかである。
【0102】
[単層カーボンナノチューブ(SWNT)の理論比表面積の計算(付録3)](図2.1−(Apx−3))
[ゼオライトナノチャンネル内に形成される負の局面を有するグラフェンネットワークの可能性のある構造(第6章)]
プレッシャーパルスCVD技術を用いることによりY型ゼオライトの限られたナノチャンネル内に多量の炭素を有効に充填することができた。ゼオライトに導入された炭素量を元に可能性のある分子モデルを提案した;負の局面を持つグラフェンネットワークであり、単層カーボンナノチューブがゼオライトナノチャンネル内に充填されてジャングルジムのようになっている。
【0103】
(1.はじめに)
Y型ゼオライトのナノチャンネル内部では、炭素が堆積しゼオライトナノチャンネルに沿って3次元ネットワークが形成されている。ゼオライト鋳型除去後は、ゼオライト鋳型炭素(ZTC)が得られる。ZTCの分子構造が最近提案され(1)、図4.1に示すようにバッキーボール類似のユニットから組みあがったものである。この分子構造からゼオライトナノチャンネル内にさらに炭素原子を導入できる空間があることが予見される。さらなる導入ができれば、フラーレンネットワークまたはナノチューブネットワーク(または、カーボンシュワルツァイト)といったユニークなナノカーボンネットワークが得られる可能性がある。本稿では、プレッシャーパルスCVDプロセスにより多量の炭素をゼオライトに充たす試みがなされ、このプレッシャーパルスCVDプロセスの有効性について考察する。最後にこのCVDプロセスにより調製された可能性のある分子構造を提案する。
【0104】
(2.実験)
HタイプのY型ゼオライト(HY,SiO2/A12O3=10,Tosoh Corporation)を鋳型として用いた。150℃で減圧下、8時間乾燥させてから使用に供した。乾燥ゼオライトをロータリーポンプと接続された縦置き石英反応器(リアクター)に載せた。反応器は10Pa以下まで減圧してから、CVD温度まで昇温・加熱した。この温度で、アセチレンガス(N2中で20vol%)を反応器内に1秒間パルス供給した。パルスステップ後、再度60秒減圧し、圧力を10Pa以下まで下げた。このパルスー減圧プロセスをCVD温度600℃または700℃にて、数千回繰り返した。最後に試料に900℃、3時間の熱処理を施した。このようにして得られた炭素ゼオライト複合体はHF(46wt%)で洗浄され、炭素部分をゼオライト鋳型から脱離させた。生成物は熱重量分析(TGA),X線回折(XRD)、および透過型電子顕微鏡(TEM)で評価した。
【0105】
(3.結果と考察)
図4.2に炭素/ゼオライト複合体の炭素量を総アセチレン供給量に対してプロットしたもので、プレッシャーパルスCVDプロセスにより得られたものと連続CVDにより得られたものとを比較した。600℃ではプレッシャーパルスCVDでの挙動は連続のものと比べさしたる違いは見られず、より高い700℃になると連続CVDに比べプレッシャーパルスCVDの場合は、炭素の摂取量は急激に増えている。炭素の堆積はゼオライトナノチャンネルの内側だけではなく、ゼオライト結晶の外表面でも起こっている(XRDおよびTEMにて確認されたとおり)が、ゼオライト内部における炭素(内部炭素)の堆積割合は、プレッシャーパルスCVDの場合(35.9wt%)が、連続の場合(33.6wt%)より高い。この割合計算は、550℃と650℃での二つのピーク(図示せず)を示した示差・微分熱重量(DTG)パターンから計算された。炭素試料を550℃まで加熱した後はTEMおよびSEMで確認できたように内部炭素のみが燃焼するため、最初のピークは内部炭素に対応している。さらに、2ステッププレッシャーパルスCVDを用いて、炭素を最初に600℃で、続けて700℃で堆積させることで、非常に高い内部炭素量、37.4wt%(図4.3のDTGパターン中の第1ピークの割合から計算)が達成できる。このような高い値はY型ゼオライトのひとつのスーパーケージ内につき72個の炭素原子に相当する。可能性のある分子構造を構築する試みのため、分子モデリングソフト、Chem3D Ultra 11.0(Cambridge Soft Co.)を使用した。その際、ゼオライトナノチャンネルの局面内側に充填されているのはsp2炭素のみと仮定した。図4.4は、2つの可能性のある分子構造を示したもので、C72、C72H8ユニットから構成されおり、このモデルの理論炭素含有量は、それぞれ、37.5wt%、37.8wt%であり、実験結果(37.4wt%)に近い。ここにこれら2つのモデルは、半経験的ハミルトンPM5を用い、MOPAC(Fujitsu Limitedの Scigress Explorer 7.6に内包)のMOZYMEアルゴリズムと組み合わせて行った幾何学的安定化計算によりエネルギー的に安定しているとされるものである。
【0106】
(4.結論)
大量の炭素をプレッシャーパルスCVDプロセスを用いてY型ゼオライトの限られたナノチャンネル内に成功裏に充填することができる。2ステッププレッシャーパルスCVDによれば最大炭素含有量37.4wt%を達成できる。可能性のある構造モデルとして、Y型ゼオライト鋳型のナノチャンネル内に充填・挿入された負の局面を持つ構造モデルを提案した。
【0107】
参考文献 [1]H. Nishihara et al, Carbon 2009,47, 1220−1230
[ゼオライトナノチャンネル内に形成された負の曲面を有するグラフェンネットワークの可能性のある構造(第7章)]
Y型ゼオライトのナノチャンネルの内部では、炭素が堆積されゼオライトナノチャンネルに沿って3次元ネットワークが形成され得る。ゼオライト鋳型除去後は、ゼオライト鋳型炭素(ZTC)を得られる。ZTCの分子構造が最近提案され(H. Nishihara et al, Carbon 2009,47, 1220−1230)、バッキーボール類似のユニットから組みあがったものである。この分子構造からゼオライトナノチャンネルにさらに炭素原子を導入できる空間があることが予見される。さらなる導入ができれば、フラーレンネットワークまたはナノチューブネットワーク(またはカーボンシュワルツァイト)といったユニークなナノカーボンネットワークが得られる可能性がある。本稿では、プレッシャーパルスCVDプロセスにより多量の炭素をゼオライト内に充たす試みがなされ、このプレッシャーパルスCVDプロセスの有効性について考察する。最後に、このCVDプロセスにより調製された可能性のある分子構造を提案する。
【0108】
2ステッププレッシャーパルスCVDを用いて、炭素を最初に600℃で、続けて700℃で堆積させることで、非常に高い内部炭素量、37.4wt%が達成できる。このような高い値はY型ゼオライトのひとつのスーパーケージ内につき72個の炭素原子が存在することに相当する。可能性のある分子構造を構築する試みのため、分子モデリングソフト、Chem3D Ultra 11.0(Cambride Soft Co.)を使用した。その際、ゼオライトナノチャネルの曲面内側に充填されているのはsp2炭素のみと仮定した。図5.1は2つの可能性のある分子構造であってC72,C72H8のユニットから構成されており、このモデルの理論炭素含有量は、それぞれ、37.5wt%、37.8wt%であり、実験値(37.4 wt%)に近い。ここにこれら2つのモデルは、半経験的ハミルトンPM5を用い、MOPAC(Fujitsu Limitedのソフトウエア Scigress Explorer 7.6に内包)のMOZYMEアルゴリズムと組み合わせて行った幾何学的安定化計算によりエネルギー的に安定しているとされるものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が800m2/g以上で、かつ水素の炭素に対する重量割合(H/C重量比)が1wt%未満である炭素材料。
【請求項2】
前記炭素材料は、細孔規則構造を有し、細孔規則構造の基礎を形成する規則的周期が1.8nm以下である請求項1に記載の炭素材料。
【請求項3】
前記炭素材料は、細孔規則構造を有し、細孔規則構造の基礎を形成する規則的周期が1.8nm以下であり、前記細孔規則構造に由来し、Cu管球(Cu Kα)を使用したX線回折で認められるピーク位置が5°以上の2θで存在すると共に、5°未満の2θでは前記細孔規則構造に由来するピークが認められない、請求項1または2に記載の炭素材料。
【請求項4】
前記炭素材料は、炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去することで得られるゼオライト鋳型炭素およびカーボンシェルから形成され、
前記炭素/ゼオライト複合体は、ゼオライト鋳型、ゼオライト鋳型内に炭素を充填することで得られるナノチャンネル内に形成される規則構造を有するゼオライト鋳型炭素、およびゼオライト鋳型の外表面を囲むカーボンシェルからなり、さらに
前記ゼオライト鋳型炭素の炭素/ゼオライト複合体の総重量に対する含有量は36重量%以上である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の炭素材料。
【請求項5】
前記ゼオライト鋳型炭素の含有量は、炭素/ゼオライト複合体の総重量に対し37重量%を越える請求項4に記載の炭素材料。
【請求項6】
前記ゼオライト鋳型炭素の含有量は、炭素/ゼオライト複合体の総重量に対し38.0重量%以上である、請求項4または5に記載の炭素材料。
【請求項7】
前記ゼオライト鋳型炭素は、BET比表面積が1500m2/g以上で、かつ水素の炭素に対する重量割合(H/C重量比)が1wt%未満である請求項4〜6のいずれか1項に記載の炭素材料。
【請求項8】
前記ゼオライト鋳型炭素は、比表面積が1900m2/g以上で、かつ水素の炭素に対する重量割合(H/C重量比)が0.86wt%未満である請求項4〜6のいずれか1項に記載の炭素材料。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭素材料を用いる電極材料。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭素材料を用いる電池。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭素材料を用いるキャパシタ。
【請求項12】
多孔質ゼオライト鋳型の表面および細孔内に有機化合物を導入し、前記有機化合物を化学気相成長により炭素化して炭素/ゼオライト複合体を得るステップと、
前記炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去するステップとを含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項13】
ゼオライト鋳型内に炭素を導入し、ゼオライト鋳型炭素とゼオライト鋳型の外表面を囲むカーボンシェルから形成される炭素/ゼオライト複合体を得るステップと、
前記炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去して、ゼオライト鋳型炭素とカーボンシェルから形成される炭素材料を得るステップとを含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項14】
炭素/ゼオライト複合体を得るため、繰り返し減圧―ガスパルシングサイクルを実施するプレッシャーパルスCVD法を用いる請求項12または13に記載の方法。
【請求項1】
BET比表面積が800m2/g以上で、かつ水素の炭素に対する重量割合(H/C重量比)が1wt%未満である炭素材料。
【請求項2】
前記炭素材料は、細孔規則構造を有し、細孔規則構造の基礎を形成する規則的周期が1.8nm以下である請求項1に記載の炭素材料。
【請求項3】
前記炭素材料は、細孔規則構造を有し、細孔規則構造の基礎を形成する規則的周期が1.8nm以下であり、前記細孔規則構造に由来し、Cu管球(Cu Kα)を使用したX線回折で認められるピーク位置が5°以上の2θで存在すると共に、5°未満の2θでは前記細孔規則構造に由来するピークが認められない、請求項1または2に記載の炭素材料。
【請求項4】
前記炭素材料は、炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去することで得られるゼオライト鋳型炭素およびカーボンシェルから形成され、
前記炭素/ゼオライト複合体は、ゼオライト鋳型、ゼオライト鋳型内に炭素を充填することで得られるナノチャンネル内に形成される規則構造を有するゼオライト鋳型炭素、およびゼオライト鋳型の外表面を囲むカーボンシェルからなり、さらに
前記ゼオライト鋳型炭素の炭素/ゼオライト複合体の総重量に対する含有量は36重量%以上である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の炭素材料。
【請求項5】
前記ゼオライト鋳型炭素の含有量は、炭素/ゼオライト複合体の総重量に対し37重量%を越える請求項4に記載の炭素材料。
【請求項6】
前記ゼオライト鋳型炭素の含有量は、炭素/ゼオライト複合体の総重量に対し38.0重量%以上である、請求項4または5に記載の炭素材料。
【請求項7】
前記ゼオライト鋳型炭素は、BET比表面積が1500m2/g以上で、かつ水素の炭素に対する重量割合(H/C重量比)が1wt%未満である請求項4〜6のいずれか1項に記載の炭素材料。
【請求項8】
前記ゼオライト鋳型炭素は、比表面積が1900m2/g以上で、かつ水素の炭素に対する重量割合(H/C重量比)が0.86wt%未満である請求項4〜6のいずれか1項に記載の炭素材料。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭素材料を用いる電極材料。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭素材料を用いる電池。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭素材料を用いるキャパシタ。
【請求項12】
多孔質ゼオライト鋳型の表面および細孔内に有機化合物を導入し、前記有機化合物を化学気相成長により炭素化して炭素/ゼオライト複合体を得るステップと、
前記炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去するステップとを含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項13】
ゼオライト鋳型内に炭素を導入し、ゼオライト鋳型炭素とゼオライト鋳型の外表面を囲むカーボンシェルから形成される炭素/ゼオライト複合体を得るステップと、
前記炭素/ゼオライト複合体からゼオライト鋳型を除去して、ゼオライト鋳型炭素とカーボンシェルから形成される炭素材料を得るステップとを含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項14】
炭素/ゼオライト複合体を得るため、繰り返し減圧―ガスパルシングサイクルを実施するプレッシャーパルスCVD法を用いる請求項12または13に記載の方法。
【図1.1】
【図1.2】
【図1.3】
【図1.4】
【図2.1】
【図2.2】
【図2.3】
【図2.4】
【図2.5】
【図2.6】
【図2.7】
【図2.8】
【図2.9】
【図2.10】
【図2.11】
【図2.12】
【図2.13】
【図2.14】
【図2.15】
【図2.16】
【図2.1−(Apx−1)】
【図2.2−(Apx−1)】
【図2.3−(Apx−1)】
【図2.1−(Apx−2)】
【図2.2−(Apx−2)】
【図2.3−(Apx−2)】
【図2.4−(Apx−2)】
【図2.5−(Apx−2)】
【図2.1−(Apx−3)】
【図3.1】
【図3.2】
【図3.3】
【図4.1】
【図4.2】
【図4.3】
【図4.4】
【図5.1】
【図6.1】
【図6.2】
【図6.3】
【図6.4】
【図6.5】
【図6.6】
【図6.7】
【図6.8】
【図6.9】
【図6.10】
【図6.11】
【図6.12】
【図6.13】
【図6.14】
【図6.15】
【図7.1】
【図7.2】
【図7.3】
【図7.4】
【図7.5】
【図7.6】
【図1.2】
【図1.3】
【図1.4】
【図2.1】
【図2.2】
【図2.3】
【図2.4】
【図2.5】
【図2.6】
【図2.7】
【図2.8】
【図2.9】
【図2.10】
【図2.11】
【図2.12】
【図2.13】
【図2.14】
【図2.15】
【図2.16】
【図2.1−(Apx−1)】
【図2.2−(Apx−1)】
【図2.3−(Apx−1)】
【図2.1−(Apx−2)】
【図2.2−(Apx−2)】
【図2.3−(Apx−2)】
【図2.4−(Apx−2)】
【図2.5−(Apx−2)】
【図2.1−(Apx−3)】
【図3.1】
【図3.2】
【図3.3】
【図4.1】
【図4.2】
【図4.3】
【図4.4】
【図5.1】
【図6.1】
【図6.2】
【図6.3】
【図6.4】
【図6.5】
【図6.6】
【図6.7】
【図6.8】
【図6.9】
【図6.10】
【図6.11】
【図6.12】
【図6.13】
【図6.14】
【図6.15】
【図7.1】
【図7.2】
【図7.3】
【図7.4】
【図7.5】
【図7.6】
【公開番号】特開2012−211069(P2012−211069A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−35278(P2012−35278)
【出願日】平成24年2月21日(2012.2.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 国立大学法人東北大学(共催者)、国立大学法人東北大学 工学研究科 平成22年度 修士論文本審査(研究発表)、平成22年8月19日 炭素材料学会、第37回炭素材料学会年会要旨集、平成22年11月30日 炭素材料学会、第37回炭素材料学会年会、平成22年12月1日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−35278(P2012−35278)
【出願日】平成24年2月21日(2012.2.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 国立大学法人東北大学(共催者)、国立大学法人東北大学 工学研究科 平成22年度 修士論文本審査(研究発表)、平成22年8月19日 炭素材料学会、第37回炭素材料学会年会要旨集、平成22年11月30日 炭素材料学会、第37回炭素材料学会年会、平成22年12月1日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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