説明

タイミング信号のジッタ除去回路を備える電子内視鏡システム

【課題】電子内視鏡システムにおいて画像信号にノイズが混入する原因となるジッタを除去する。
【解決手段】電子内視鏡と、ビデオプロセッサと、撮像素子を駆動するためのドライブ回路と、撮像素子が出力する映像信号が入力される相関二重サンプリング回路と、相関二重サンプリング回路からの出力信号が入力されるA/D変換回路と、ドライブ回路と相関二重サンプリング回路とA/D変換回路とにタイミング信号を供給するタイミング信号生成回路とを備える電子内視鏡システムであって、タイミング信号生成回路とドライブ回路の間、タイミング信号生成回路と相関二重サンプリング回路の間、又はタイミング信号生成回路とA/D変換回路の間の少なくとも1つの間にPLL回路が接続されていることを特徴とする電子内視鏡システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々のタイミング信号に含まれるジッタを除去するジッタ除去回路を備える電子内視鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医師が患者の体腔内を観察するために使用する装置として一般的に電子内視鏡が知られている。医師は、長尺の挿入部を体腔内に挿入することによって体腔内の部位を観察したり、必要に応じて処置具を電子内視鏡に設けられた処置具チャンネルに挿通して挿入部先端から突出させて対象部位の治療処置をすることができる。このような電子内視鏡を備える電子内視鏡システムは、電子内視鏡の他、電子内視鏡に接続されて電子内視鏡から受信した画像を処理したり電子内視鏡の動作を制御したり等、種々の処理を行うビデオプロセッサを備えている。
【0003】
電子内視鏡の挿入部の先端には、集光レンズ等からなる対物光学系と、該対物光学系によってその受光面に結像された体腔内の観察対象部位を画像信号に変換するためのCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子が設けられている。そして、電子内視鏡に備えられる撮像素子のサイズは、電子内視鏡先端の径を決定する重要な要因となっている。すなわち、撮像素子のサイズが大きい場合、電子内視鏡先端の径は大きくなり、撮像素子のサイズが小さい場合、電子内視鏡先端の径は小さくなる。電子内視鏡の体腔内に挿入される部分は、可撓性を有する細い管と撮像素子が設けられた先端部から構成されている。電子内視鏡が挿入される患者の体腔内にある種々の管は細いため、体腔内に挿入される電子内視鏡の挿入部を小型化することによって、患者の負担を少しでも軽減することが望まれている。
【0004】
従って、撮像素子の画素のサイズも小さくなり、撮像素子の光電変換特性も低い。さらに、通常、体腔内は自然光が届かないため、電子内視鏡と接続されるビデオプロセッサ内の光源や外部光源からの照明光を電子内視鏡を用いて対象部位に照射して撮像を行う。そこで、撮像範囲内の暗い像の輪郭を鮮明に表示するために撮像素子の感度特性を高くしているが、高感度になる分、特に暗部のノイズが強調されて表示される現象が発生する。
【0005】
ノイズの影響による画像の乱れを防止する電子内視鏡システムの一例が、特許文献1に開示されている。特許文献1の電子内視鏡システムでは、画像不良状態検出回路を設け、この画像不良状態検出回路によって高周波ノイズの影響により画像が正常でないと判定されたときに供給電源のリセット、クロック信号のタイミングのリセット、画像生成用の設定データのリセット等が行われ、これによって、表示画像を正常な状態に復帰させている。
【0006】
ここで、従来の電子内視鏡システムにおける映像信号とサンプリングパルスのタイミングについて図1を参照しながら説明する。撮像素子からのアナログ出力信号のノイズを低減するために、CDS(Correlated Double Sampling;相関二重サンプリング)回路がよく用いられている。CDS回路では、デジタル映像信号をサンプリングするために、撮像素子のアナログ出力信号中の映像信号期間をサンプリングするためのサンプリングパルスと、フィードスルー期間をサンプリングするためのサンプリングパルスが用いられる。そして、フィードスルー期間をサンプリングすることにより映像信号の黒レベルが決定され、映像信号期間をサンプリングすることにより映像信号の飽和レベルが決定される。従って、サンプリングした黒レベルと飽和レベルとの幅によって映像信号の明るさが決まる。図1に示すように、フィードスルー期間のサンプリングは、黒レベルサンプリング信号の立ち上がりにおいて実行し、映像信号期間のサンプリングは、映像信号サンプリング信号の立ち上がりにおいて実行する。CDS回路は、映像信号期間中にサンプリングされた電圧値とフィードスルー期間中にサンプリングされた電圧値との差分を抽出することにより、ノイズが除去された映像信号を出力することができる。すなわち、撮像素子のアナログ出力信号は、フィードスルー期間においてリセットノイズを含む信号が出力され、続く映像信号期間において該リセットノイズと映像信号が重畳した信号が出力される。従って、それらの期間における出力の差分をとることにより、リセットノイズが除去された映像信号が出力される。
【0007】
サンプリング信号は、意図したタイミングで、すなわち、映像信号期間をサンプリングするためのサンプリング信号は映像信号期間中の所定の範囲内に、フィードスルー期間をサンプリングするためのサンプリング信号はフィードスルー期間中の所定の範囲内に、それぞれ供給されるように設定されている。そして、CDS回路に供給されるサンプリング信号は、そのタイミングが意図したタイミングから外れてしまうと、CDS回路において映像信号の正常なサンプリングが行われず、結果として、モニタ等に出力される画像に異常が生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−77846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図1に示すように、撮像素子から出力される映像信号が理想的な映像信号であれば、フィードスルー期間及び映像信号期間のパルスは一定のレベルにて維持されている。しかし、実際は、電子内視鏡の先端部に配設された撮像素子から出力されるアナログ出力信号は、挿入部を経て操作部に至る長尺のケーブルや操作部からコネクタ部に至る長尺のケーブルを伝送してCDS回路に到達するため、伝送中に波形が劣化してフィードスルー期間及び映像信号期間において時間的に出力レベルが変化する波形となってCDS回路に入力される。
【0010】
このような状態の波形においては、フィードスルー期間や映像信号期間における信号のサンプリング位置が変動すれば取得する信号レベルも変動する。すなわち、黒レベルと飽和レベルとの幅が変動する。電子内視鏡の撮像素子は感度を高めているため、取得する信号レベルの変動が小さなものであっても、モニタに表示される観察画像には、術者が視認できる程大きなノイズとして現れてしまう。
【0011】
サンプリング位置が変動する原因の1つとして、電子内視鏡において撮像処理を行う各部に供給されるタイミング信号に含まれるジッタが挙げられる。撮像素子から出力される映像信号は、撮像素子を駆動するタイミング信号に同期して読み出されるため、当該タイミング信号にジッタが存在する場合、撮像素子から出力される信号にも対応するジッタが含まれると考えられる。また、ジッタは、タイミング信号の生成方法や伝送経路の長さ等によって異なることがあるため、タイミング信号が有するジッタと撮像素子から出力される映像信号に含まれるジッタとは成分が異なる場合がある。特に電子内視鏡では、上記のように撮像素子からCDS回路までの伝送経路が長いため、撮像素子を駆動するタイミング信号に同期して出力される映像信号と、当該映像信号をサンプリングするためのタイミング信号との間には必然的に時間的なずれが生じるため、互いの信号に含まれるジッタ成分が打ち消し合うことはほとんどない。つまり、たとえ撮像処理を行う各部に供給されるタイミング信号すべてにおいてジッタが同期していても、電子内視鏡の構成による伝送遅延が発生することにより、結果として非同期性のジッタになってノイズとして観察画像に現れてしまう。特に、ジッタが周期的に現れる信号においては、ジッタが擬似的な周期信号となりモニタ上では縞として術者に認識される可能性がある。
【0012】
ここで上記の特許文献1に示すような従来の電子内視鏡システムを用いる場合、例えば高周波メス等を使用する際に発生するノイズによって画像が乱れたり表示されなくなった場合を検出して自動的にシステムリセットを実行すると、術者にとっては不意に画像処理が停止してモニタにおける画像表示が中断される。従って、特にモニタでの観察画像の確認中にシステムリセットが発生すると、たとえ中断が短時間であっても施術に支障をきたす可能性がある。
【0013】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、電子内視鏡システムにおいて、システム全体の処理動作を中断することなく周期的に発生する縞ノイズやランダムノイズ等の画像劣化の原因となるジッタを削除ないし抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一実施形態における電子内視鏡システムは、対象部位を撮像するための撮像素子を有する電子内視鏡と、該電子内視鏡を介して該撮像素子が出力する映像信号を受信するビデオプロセッサと、該撮像素子を駆動するためのドライブ回路と、該撮像素子が出力する映像信号が入力される相関二重サンプリング回路と、該相関二重サンプリング回路からの出力信号が入力されるA/D変換回路と、該ドライブ回路と該相関二重サンプリング回路と該A/D変換回路とにタイミング信号を供給するタイミング信号生成回路と、を備える電子内視鏡システムであって、タイミング信号生成回路とドライブ回路の間、タイミング信号生成回路と相関二重サンプリング回路の間、又はタイミング信号生成回路とA/D変換回路の間の少なくとも1つの間にPLL回路が接続されている。このため、映像信号を生成ないし処理する回路に対して周期的なジッタが除去されたタイミング信号を供給し、映像信号にノイズが混入することを回避することができる。
【0015】
好ましくは、PLL回路は、タイミング信号生成回路とは物理的に分離して設けられている。従って、タイミング信号生成回路内で発生するノイズがPLL回路に伝搬しないように構成することができるため、PLL回路から出力されるタイミング信号に、タイミング信号生成回路の動作に起因するジッタが発生しない。また、PLL回路は、入力信号から所定の帯域内の周波数に対応する信号を抽出するPLLフィルタを有する。従って、例えばPLLフィルタの帯域特性を水平同期信号以下に設定することにより、不要なジッタが現れる周波数帯域のみを遮断するようにPLL回路を構成することができる。
【0016】
さらに好ましくは、タイミング信号生成回路、ドライブ回路、相関二重サンプリング回路、A/D変換回路及びPLL回路は、電子内視鏡内に設けられている。また、タイミング信号生成回路、ドライブ回路、相関二重サンプリング回路、A/D変換回路及びPLL回路は、電子内視鏡のコネクタ部に設けられている。または、ドライブ回路及びPLL回路は、撮像素子が設けられた電子内視鏡の先端部に設けられている。または、タイミング信号生成回路、ドライブ回路、相関二重サンプリング回路、A/D変換回路及びPLL回路は、電子内視鏡の操作部内に設けられている。または、タイミング信号生成回路、ドライブ回路、相関二重サンプリング回路、A/D変換回路及びPLL回路は、ビデオプロセッサ内に設けられている。このため、各回路の配置スペースやコスト、リードタイム等、電子内視鏡やビデオプロセッサを構成する上でのさまざまな制約に応じて柔軟に構成を変更しつつ、周期的なジッタを除去したタイミング信号に基づく映像信号処理を実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電子内視鏡システムによれば、周期的なジッタを除去したタイミング信号を供給することにより、システムにおける処理動作を中断させることなく、当該ジッタに起因する縞ノイズ等の画像劣化を回避して映像信号を処理し、診断に良好な観察画像をモニタに表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、理想的な映像信号及び実際の映像信号の波形とサンプリング信号によるサンプリングのタイミングを示す図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態における電子内視鏡の全体を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明の第1の実施形態における電子内視鏡の構成を示すブロック図である。
【図4】図4(a)は、本発明の一実施形態におけるPLL回路の構成を示すブロック図であり、図4(b)は、該PLL回路内のPLLフィルタの回路構成を示す概略図である。
【図5】図5(a)〜(c)は、本発明の一実施形態におけるPLL回路による信号の処理を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の第2の実施形態における電子内視鏡の構成を示すブロック図である。
【図7】図7は、本発明の第3の実施形態における電子内視鏡の構成を示すブロック図である。
【図8】図8は、本発明の第4の実施形態における電子内視鏡及びビデオプロセッサの構成を示すブロック図である。
【図9】図9は、本発明の一実施形態におけるPLLフィルタの回路構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態における電子内視鏡システムについて説明する。なお、複数の図にまたがって同じ部材を示す場合は同じ番号を付すこととする。
【0020】
図2に、本発明における電子内視鏡100の全体の模式図を示す。電子内視鏡100は、先端部10、挿入部11、操作部12、ユニバーサルコード13、コネクタ部14からなる。先端部10には、対象部位を撮像するための撮像素子が設けられている。また、光源からの照明光を対象部位に照射するための配光光学系、対象部位からの反射光を受光して撮像素子の撮像面に対象部位の像を結ぶための対物光学系、生検鉗子や細胞採取用ブラシ、異物除去用鉗子、洗浄用パイプ、注射針等、種々の処置具を出没させて対象部位の治療を行うための処置具突出口、副送水を噴射するための副送水口や対物光学系を洗浄するための送気送水口が、先端部10に設けられている。副送水口は、洗浄液を噴射させて視野内にある汚物を除去したり、染色液を噴射させて対象部位を染色したりするために用いられる。送気送水口は、送気によって患者の管腔を広げて視野を確保したり、体液や出血等で対物光学系のレンズ表面が汚れて内視鏡の観察性能が低下した場合に、洗浄液を噴射してレンズ表面の汚れを除去し、空気を送ってレンズ表面の液滴を飛ばすことで視界を回復したりするために用いられる。
【0021】
挿入部11は、患者の体内に挿入される長尺の可撓管からなり、挿入部11内には先端部10の撮像素子を駆動したり光学ズームを行うために対物光学系を光軸方向に移動したりするための制御信号を伝送する信号線や、対象部位を照射するための照明光を配光光学系に供給するファイババンドル、操作部12の処置具挿入口15から挿入された処置具を処置具突出口に導く処置具チャンネル等が配設されている。なお、信号線やファイババンドルは、操作部12、ユニバーサルコード13を挿通されてコネクタ部14まで延在している。操作部12には、術者により各種操作が入力されるボタン群17、回動操作に応じて挿入部11を湾曲させるアングルノブ16、処置具挿入口15が設けられている。処置具挿入口15は、電子内視鏡100の先端部10に設けられている処置具突出口に通じている。また、ボタン群17の操作により、観察対象部位への送気や送水、体液等の吸引、モニタ上の画面の静止画像を取得するフリーズ操作、測光パターンの切り替え、画像記録媒体への観察対象部位の静止画像や動画の記録等、種々の処理を行うことができる。ユニバーサルコード13はコネクタ部14を介してビデオプロセッサ(図示せず)に接続される。ユニバーサルコード13は、ビデオプロセッサ内の光源部にて発生される照明光を先端部10に送ったり、先端部10に配設された撮像素子からの映像信号をビデオプロセッサに伝送したり、アングルノブ16やボタン群17からの操作信号をビデオプロセッサに伝送したりする。
【0022】
図3に、本発明の第1の実施形態における電子内視鏡システムの電子内視鏡100の先端部10及びコネクタ部14の概略のブロック図を示す。コネクタ部14には、電子内視鏡100内の撮像処理を行うための種々の処理部が格納されている。タイミング信号生成回路23は、撮像素子33を駆動制御するためのドライブ回路21と、撮像素子33から出力される映像信号からリセットノイズ等のノイズを除去するCDS回路28と、CDS回路28からの出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路29に対してタイミング信号を出力する。タイミング信号生成回路23は、水晶振動子24から生成されるクロック信号に基づいてドライブ回路21、CDS回路28、A/D変換回路29のそれぞれに対応するタイミング信号を生成し、各タイミング信号をそれぞれのPLL(Phase Locked Loop)回路25〜27に送る。
【0023】
図4(a)に本実施形態におけるPLL回路25〜27のブロック図を示す。PLL回路25〜27は、位相比較器40、PLLフィルタ41及びVCO(Voltage Controlled Oscillator)42からなる。タイミング信号生成回路23から出力されるタイミング信号は、まず位相比較器40に入力される。位相比較器40にはVCO42からの出力信号も入力される。位相比較器40は、入力されるタイミング信号とVCO42からの出力信号の位相を比較し、これら2つの信号の位相差に応じた誤差信号を出力する。PLLフィルタ41は、位相比較器40から出力される誤差信号から高周波成分を除去して平滑化し、VCO42の制御電圧を生成する。PLLフィルタとしては、図4(b)に示すラグ型LPF(Low Pass Filter)の他に、ラグリード型LPF等を用いることができる。PLLフィルタ41から出力される制御電圧はVCO42に入力され、制御電圧に応じて出力周波数が変化する。VCOには、加えられる電圧でアノードとカソードと間の容量が変化する可変容量ダイオードによって水晶の負荷容量を変化させて発振周波数をスライドさせるVCXO(Voltage Controlled Cristal Oscillator)等が採用される。VCO42では、入力信号に対して、出力の位相が遅れればVCO42の周波数を上げて位相を進め、逆に出力の位相が進めばVCO42の周波数を下げて位相を遅らせる。このようにして、PLL回路25〜27では、出力周波数が、基準の入力に対して位相も周波数も同じになるように制御される。
【0024】
図5(a)〜(c)は、PLL回路25〜27への入力信号の周波数の時間的な変化と、PLLフィルタ41において入力信号に含まれるジッタを除去する際のフィルタ特性と入力信号の周波数及び強度との関係と、PLL回路25〜27からの出力信号の周波数の時間的な変化を示すグラフである。なお、図5(a)及び(c)においては、入力信号(タイミング信号)の周波数の平均値を平均周波数として点線で示している。図5(a)に示すように、タイミング信号生成回路23から出力されるタイミング信号は、周波数が時間的に変位する特性を示す。このタイミング信号には周期的に発生するジッタ(高周波成分)が含まれている。そして、このタイミング信号がPLLフィルタ41に入力されると、図5(b)に示すように、PLLフィルタ41の帯域特性の範囲外の特定の周波数に現れるジッタの成分が除去される。従って、PLLフィルタにより、入力信号から所定の帯域内の周波数に対応する信号を抽出することができる。このとき、帯域は、例えば水平同期信号の周波数以下等、特定の帯域に制限され、これにより必要な映像信号の周波数は保持して不要なジッタのみが除去されるようにPLLフィルタ41を動作させることができる。ジッタを除去することにより、PLL回路25〜27において、被制御信号である出力信号が、入力信号に含まれるジッタが原因で発生する周波数変化に追従することがなくなる。従って、PLL回路25〜27から出力されるタイミング信号には、PLLフィルタ41の帯域特性の範囲外に現れるジッタは含まれず、図5(c)に示すような、周期的なジッタが除去されたタイミング信号が、ドライブ回路21、CDS回路28、A/D変換回路29に供給される。
【0025】
ドライブ回路21用のPLL回路25から出力されるタイミング信号は、ドライブ回路21の前段に設けられているゲート回路22に送られる。撮像素子33は、ブランキング期間に基づくタイミングで、光電変換により蓄積した電荷を転送する。そこで、ゲート回路22では、このような間欠的な転送タイミングに合わせてPLL回路25から出力されるタイミング信号を整形する。タイミング信号はゲート回路22を経由してドライブ回路21に入力される。ドライブ回路21は、入力されるタイミング信号に基づいて撮像素子33を駆動する。撮像素子33は、対象部位からの反射光を対物光学系32を介して受光し、受光した光を光電変換により電荷として蓄積する。蓄積された電荷は撮像素子33内で電圧信号(又は電流信号)に変換され、映像信号としてCDS回路28に転送される。映像信号は、CDS回路28において撮像素子33のランダムノイズであるアンプノイズ及びリセットノイズが除去された後、A/D変換回路29に送られてデジタル信号に変換される。CDS回路28及びA/D変換回路29には、タイミング信号生成回路23によってそれぞれの回路に対応するタイミング信号が生成され、PLL回路26,27によって上記のPLL回路25における説明と同様、周期的なジッタが除去されたタイミング信号が供給される。従って、CDS回路28及びA/D変換回路29も、撮像素子33と同様に周期的なジッタに影響を受けずに駆動して映像信号を処理することができる。A/D変換回路29によってデジタル信号に変換された映像信号は、信号処理回路30に送られ、このデジタル信号に基づいて増幅処理、色調整、画素位置補正処理等のさまざまな処理を行って映像を生成する。また、生成された映像はI/O部31を介してビデオプロセッサに送られ、ビデオプロセッサにてNTSC(National Television System Committee)やPAL(Phase Alternating Line)等の所定の規格に準拠する信号に変換されてモニタに出力される。これにより、対象部位の映像がモニタに表示される。なお、制御回路20は、上記各回路に対して各回路が実行する処理を制御する制御信号を出力する。
【0026】
次に、図6に本発明の第2の実施形態における電子内視鏡システムの電子内視鏡200の先端部50及びコネクタ部51の概略を示すブロック図を示す。本実施形態においては、第1の実施形態と異なり、ドライブ回路21、ゲート回路22及びPLL回路25が、電子内視鏡200の先端部50内に配設されている。第1の実施形態において用いられているその他の回路はコネクタ部51に配設されている。このため、PLL回路25から出力されるタイミング信号がゲート回路22及びドライブ回路21を経由して撮像素子33に至るまでの伝送経路長を短くすることができる。従って、PLL回路25によって周期的なジッタが除去されたタイミング信号の伝送中にノイズが混入しにくくなり、撮像素子33から出力される映像信号を、図1に示す理想的な映像信号に近づけることができる。なお、各ブロックの処理については、第1の実施形態と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0027】
次に、図7に本発明の第3の実施形態における電子内視鏡システムの電子内視鏡300の先端部60、操作部61及びコネクタ部62の概略のブロック図を示す。本実施形態においては、第1及び第2の実施形態と異なり、タイミング信号生成回路23、PLL回路25〜27、またPLL回路25〜27によりジッタが除去されたタイミング信号が供給されるドライブ回路21、ゲート回路22、CDS回路28及びA/D変換回路29が、操作部61内に配設されている。このため、第1の実施形態に比べてPLL回路25から撮像素子33までのタイミング信号の伝送経路長や撮像素子33からA/D変換回路29までのアナログの映像信号の伝送経路長を短くすることができるため、これらの信号の伝送中にノイズが混入する可能性を低減することができる。なお、各ブロックの処理については、第1の実施形態と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0028】
次に、図8に本発明の第4の実施形態における電子内視鏡システムの電子内視鏡の先端部70及びビデオプロセッサ71の概略のブロック図を示す。本実施形態においては、第1〜第3の実施形態と異なり、制御回路20、ドライブ回路21、ゲート回路22、タイミング信号生成回路23、PLL回路25〜27、CDS回路28、A/D変換回路29、信号処理回路30の各回路がビデオプロセッサ71内に配設されている。各ブロックの処理については、第1の実施形態と同じであるため、詳細な説明は省略する。第4の実施形態における電子内視鏡システムでは、第1〜第3の実施形態に比べて、電子内視鏡の回路構成を簡素化させて製造コスト面で有利な上、リードタイム短縮の効果も得ることができる。
【0029】
なお、いずれの実施形態においても、PLL回路25〜27は、タイミング信号生成回路23とは独立して配設することが望ましい。すなわち、PLL回路25〜27が、タイミング信号生成回路23と同一のパッケージ又はチップに含まれないように物理的に分離することで、タイミング信号生成回路23から発生したノイズがPLL回路25〜27に伝搬しないようにする。さらに、PLL回路25〜27を基準電源等ともノイズフィルタ等によって分離することで、電源変動に伴うノイズをPLL回路25〜27に伝搬しないようにすることができる。
【0030】
PLL回路の応答特性は、組み合わせる撮像素子の駆動信号周波数や各伝送経路のケーブル長等によって最適な値が異なるため、電子内視鏡システムの構成に応じてPLLフィルタの特性を変更可能であることが望ましい。そこで、上記の実施形態においては、図4(b)に示すPLLフィルタ41の他に、図9に示すような複数(図ではR1,R2,R3の3つ)の抵抗を並列に接続してスイッチ(図ではSW1,SW2,SW3)により抵抗を切り換えることにより、PLLフィルタの帯域特性を変更させる構成とすることもできる。PLLフィルタの抵抗の切り替えは、制御回路20によりスイッチを切り替えることにより行う。PLLフィルタの抵抗を切り替えることにより、PLL回路25〜27におけるカットオフ周波数を変更することができる。なお、抵抗の切り替えを行う代わりにコンデンサの容量を変更する構成を採用することもできる。さらに、PLL回路25〜27には、上記の説明におけるアナログPLL回路の他に、PLLフィルタ部分をデジタルフィルタ化したPLL回路等を採用しても本発明の効果を達成することができる。なお、PLLフィルタ部分をデジタル化することでフィルタ帯域の変更が容易になり、上記のように電子内視鏡システムの構成に応じてフィルタ特性を変更する必要がある場合、特性を十分に適合化させることが期待できる。
【0031】
また、PLL回路25〜27においてサンプリングクロック等のタイミングを調整するために、帰還路(VCOから位相比較器に至る経路)上に遅延回路を挿入することによって、PLL回路25〜27における入力と出力の間に位相差を設定して、遅延量を制御することによりPLL回路25〜27の間でタイミング信号の出力タイミングを調整することができる。さらに、出力信号の周波数を定める分周器を設けることもできる。
【0032】
以上が本発明の実施形態に関する説明である。本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲においてさまざまな変形が可能である。例えば、上記の説明では、PLLフィルタは1次のLPFとしているが、2次以上の高次のLPFを用いることもできる。
【符号の説明】
【0033】
10,50,60,70 先端部
12,61 操作部
21 ドライブ回路
22 ゲート回路
23 タイミング信号生成回路
25〜27 PLL回路
28 CDS回路
29 A/D変換回路
33 撮像素子
41 PLLフィルタ
71 ビデオプロセッサ
100,200,300 電子内視鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象部位を撮像するための撮像素子を有する電子内視鏡と、該電子内視鏡を介して該撮像素子が出力する映像信号を受信するビデオプロセッサと、該撮像素子を駆動するためのドライブ回路と、該撮像素子が出力する映像信号が入力される相関二重サンプリング回路と、該相関二重サンプリング回路からの出力信号が入力されるA/D変換回路と、該ドライブ回路と該相関二重サンプリング回路と該A/D変換回路とにタイミング信号を供給するタイミング信号生成回路と、を備える電子内視鏡システムであって、
前記タイミング信号生成回路と前記ドライブ回路の間、該タイミング信号生成回路と前記相関二重サンプリング回路の間、又は該タイミング信号生成回路と前記A/D変換回路の間の少なくとも1つの間に、PLL回路が接続されている、
ことを特徴とする電子内視鏡システム。
【請求項2】
前記PLL回路は、前記タイミング信号生成回路とは物理的に分離して設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電子内視鏡システム。
【請求項3】
前記PLL回路は、入力信号から所定の帯域内の周波数に対応する信号を抽出するPLLフィルタを有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電子内視鏡システム。
【請求項4】
前記タイミング信号生成回路、前記ドライブ回路、前記相関二重サンプリング回路、前記A/D変換回路及び前記PLL回路は、前記電子内視鏡内に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電子内視鏡システム。
【請求項5】
前記タイミング信号生成回路、前記ドライブ回路、前記相関二重サンプリング回路、前記A/D変換回路及び前記PLL回路は、前記電子内視鏡のコネクタ部に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の電子内視鏡システム。
【請求項6】
前記ドライブ回路及び前記PLL回路は、前記撮像素子が設けられた前記電子内視鏡の先端部に設けられている、
ことを特徴とする請求項4に記載の電子内視鏡システム。
【請求項7】
前記タイミング信号生成回路、前記ドライブ回路、前記相関二重サンプリング回路、前記A/D変換回路及び前記PLL回路は、前記電子内視鏡の操作部内に設けられている、
ことを特徴とする請求項4に記載の電子内視鏡システム。
【請求項8】
前記タイミング信号生成回路、前記ドライブ回路、前記相関二重サンプリング回路、前記A/D変換回路及び前記PLL回路は、前記ビデオプロセッサ内に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電子内視鏡システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−167502(P2011−167502A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208790(P2010−208790)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】