説明

タンパク質捕捉剤

【課題】タンパク質、特に免疫グロブリンの捕捉に有用な捕捉剤を提供する。
【解決手段】一般式(1)


(式中、R1は水素原子、炭素数1から4のアルキル基、または炭素数1から4のハロアルキル基もしくはフェニル基を表し、R2は水素原子、炭素数1から4のアルキル基、炭素数7から11のアラルキル基、アミノ基で置換されていてもよいフェニル基、またはチエニル基を表し、Xは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1から4のアルコキシ基、ハロアルコキシ基、または炭素数7から11のアラルキルオキシ基を表す。)で表される2−(インドール−3−イル)エチルアミノ基を、カルボニル基を介して不溶性担体に固定化して得られる、タンパク質の捕捉に有用な捕捉剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリプタミン誘導体を不溶性担体に固定化して得られる、各種タンパク質、特に免疫グロブリンの捕捉に利用可能な捕捉剤に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の吸着、濃縮、除去(これらをあわせ、以下「捕捉」という。)は、生化学的な試料を取り扱う実験、試験、検査、製造において広く用いられている操作であり、多くの方法が知られている。捕捉方法の例としては、ゲル透過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィーや、膜濃縮法、硫酸アンモニウム(硫安)沈殿法、トリクロロ酢酸(TCA)沈殿法、アセトン沈殿法、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿法、免疫沈澱法などがあげられ、目的、使用環境、操作コストなどに応じ、単独または組み合わせて使用される。
【0003】
タンパク質をはじめとして多くの生体成分は温度、pH、有機溶媒、高濃度の塩(特にカオトロピック塩)の影響を受けやすい。そのため、生理的な環境から大きく異なる環境に移されると、生体成分に非可逆的な構造変化が起き、生体成分本来の生物活性を失ったり、生体成分自体が分解することが知られている。したがって、前述の捕捉方法は生理的な環境下で行なうのが好ましい。
【0004】
タンパク質に結合する性質を有した化合物には様々なものが知られているが、そのような化合物をタンパク質捕捉の目的で用いる場合、該化合物を不溶性担体に結合して得られる捕捉剤の形で用いるのが一般的である。ここで、不溶性担体に結合させる化合物のことを一般にリガンドと呼ぶ。高分子化合物のリガンドの一例としては、プロテインA(特許文献1)のようなタンパク質、ヘパリン(特許文献2)のような多糖、ε−ポリリジン(特許文献3)のようなポリペプチドがあげられる。低分子化合物のリガンドの一例としては、スルホン誘導体(特許文献4)、トリアジン誘導体(特許文献5)、メルカプト複素環式化合物(特許文献6)、4−(アルキルチオエチル)ピリジン誘導体(非特許文献1)、トリプトファン(特許文献7)があげられる。なお、特許文献7で開示のトリプトファンをリガンドとした捕捉剤は、pH5以下の酸性条件下で良好なタンパク質捕捉能を有しているが、当該環境は生理的な環境とは異なるため、必ずしも好ましいリガンドとはいえない。また、トリプタミン誘導体をリガンドとして利用した例はこれまでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−522085号公報
【特許文献2】特開2001−086984号公報
【特許文献3】特開2001−218839号公報
【特許文献4】米国特許4696980号公報
【特許文献5】米国特許6117996号公報
【特許文献6】特表平10−500615号公報
【特許文献7】特開2010−210497号公報
【特許文献8】WO96/09116号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bioseparation,9(4),211−221,2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、タンパク質、特に免疫グロブリンの捕捉に有用な、トリプタミン誘導体を不溶性担体に固定化して得られる捕捉剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明の下記一般式(1)で示されるトリプタミン誘導体を不溶性担体に固定化して得られる捕捉剤が、タンパク質、特に免疫グロブリンを簡便に捕捉するのに有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、一般式(1)
一般式(1)
【0010】
【化1】

(式中、Rは水素原子、炭素数1から4のアルキル基、または炭素数1から4のハロアルキル基もしくは水酸基で置換されていてもよいフェニル基を表し、Rは水素原子、炭素数1から4のアルキル基、炭素数7から11のアラルキル基、アミノ基で置換されていてもよいフェニル基、またはチエニル基を表し、Xは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1から4のアルコキシ基、炭素数1から4のハロアルコキシ基、または炭素数7から11のアラルキルオキシ基を表す。但し、R、RおよびXは同時に水素原子にはなり得ない。)で表される2−(インドール−3−イル)エチルアミノ基を、カルボニル基を介して不溶性担体に固定化して得られるタンパク質捕捉剤に関するものである。
その具体例として、不溶性担体とカルボニル基導入剤とを反応させ、次いで一般式(1a)
【0011】
【化2】

(式中、Rは水素原子、炭素数1から4のアルキル基、または炭素数1から4のハロアルキル基もしくは水酸基で置換されていてもよいフェニル基を表し、Rは水素原子、炭素数1から4のアルキル基、炭素数7から11のアラルキル基、アミノ基で置換されていてもよいフェニル基、またはチエニル基を表し、Xは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1から4のアルコキシ基、炭素数1から4のハロアルコキシ基、または炭素数7から11のアラルキルオキシ基を表す。但し、R、RおよびXは同時に水素原子にはなり得ない。)で表される2−(インドール−3−イル)エチルアミノ基と反応させて得られる、タンパク質捕捉剤がある。
【0012】
また本発明は、本発明のタンパク質捕捉剤を用いた、タンパク質の分離精製法に関するものである。
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
はじめに本発明のタンパク質捕捉剤(1)およびトリプタミン誘導体(1a)における、R、R、Xの定義を以下に示す。
【0015】
およびRで表される炭素数1から4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基が例示できる。
【0016】
で表される炭素数1から4のハロアルキル基または水酸基で置換されていてもよいフェニル基としては、フェニル基、2−トリフルオロメチルフェニル基、3−トリフルオロメチルフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、4−(パーフルオロエチル)フェニル基、2−ヒドロキシフェニル基、3−ヒドロキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基が例示できる。
【0017】
で表される炭素数7から11のアラルキル基としては、ベンジル基、2−フェネチル基、1−ナフチルメチル基が例示できる。
【0018】
で表されるアミノ基で置換されていてもよいフェニル基としては、2−アミノフェニル基、3−アミノフェニル基、4−アミノフェニル基が例示できる。
【0019】
で表されるチエニル基としては、2−チエニル基、3−チエニル基が例示できる。
【0020】
Xで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれかである。
【0021】
Xで表される炭素数1から4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、ブトキシ基が例示できる。
【0022】
Xで表される炭素数1から4のハロアルコキシ基としては、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、パーフルオロエトキシ基が例示できる。
【0023】
Xで表される炭素数7から11のアラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、1−ナフチルメチルオキシ基が例示できる。
【0024】
、RおよびXの組合せは、免疫グロブリンの捕捉において良好な性能を示す点で、Rが水素原子、メチル基、4−ヒドロキシフェニル基のいずれかであり、Rが水素原子であり、Xが水素原子、5−クロロ、5−メトキシ、5−ベンジルオキシ、7−メトキシ、7−ベンジルオキシのいずれかであることが好ましく、以下の(A)または(B)の組み合わせであるとさらに好ましい:
(A)Rがメチル基または4−ヒドロキシフェニル基であり、Rが水素原子であり、Xが水素原子
(B)RおよびRが水素原子であり、Xが5−クロロ、5−メトキシ、5−ベンジルオキシ、7−メトキシまたは7−ベンジルオキシ
本発明のタンパク質捕捉剤の製造原料であるトリプタミン誘導体(1a)は、市販品として入手可能な化合物や、既知の方法で合成できる化合物を用いることができる。また、必要に応じて、これらの塩酸塩を用いてもよい。トリプタミン誘導体(1a)の不溶性担体(gel)に対する固定化量は、タンパク質の捕捉の性能がよい点で、100μmol/mL(gel)以上が好ましい。
【0025】
本発明のタンパク質捕捉剤の製造原料である不溶性担体に特に限定はなく、アガロース、アルギネート、カラゲナン、キチン、セルロース、デキストリン、デキストラン、デンプン等の多糖や、ポリビニルアルコール、水酸基を導入したポリメタクリレート、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリウレタン等の合成高分子が例示できる。中でも、トヨパール(商品名、東ソー社製)等水酸基を導入したポリメタクリレート、Sepharose 6 Fast Flow(商品名、GEヘルスケア社製)等のアガロース、セルファインGCL−2000(商品名、チッソ社製)等のセルロースが不溶性担体として好ましい。不溶性担体の形状、表面構造、重合度については特に限定はないが、オープンカラムに充填して使用する態様では、微粒子状とすると捕捉性能がよい点で好ましい。また、粒子径を1から100μmの範囲とすると、圧力損失を抑えつつタンパク質の吸着量を上げることができるため好ましい。さらに、水酸基を400μmol/mL(gel)以上含有した不溶性担体(gel)は、トリプタミン誘導体(1a)の固定化量を多くすることができる点で好ましい。
【0026】
本発明のタンパク質捕捉剤の製造方法に特に限定はなく、例えばWO96/09116号(特許文献8)に記載の方法に準じて製造することができる。具体的には、不溶性担体上の水酸基をカルボニル導入剤で処理し、次いでトリプタミン誘導体(1a)と反応させることにより製造することができる。用いることのできるカルボニル基導入剤としては、1,1’−カルボニルジイミダゾール、クロロギ酸エチル、クロロギ酸−p−ニトロフェニルエステル、炭酸ビス(トリクロロメチル)、トリクロロメチルクロロホルメート、ホスゲンダイマーが例示できる。この中で、1,1’−カルボニルジイミダゾールが固定化量が多い点で好ましい。
【0027】
次に、本発明のタンパク質捕捉剤を用いたタンパク質の捕捉について説明する。
【0028】
本発明のタンパク質捕捉剤を用いて、捕捉することができるタンパク質としては、血漿タンパク質成分(例えば血漿中の免疫グロブリン)、血清アルブミン、血液凝固因子、ラクトアルブミンやラクトフェリンなどの乳タンパク質成分、天然には微量しか存在しないペプチドホルモン、インターフェロン、インターロイキン、成長因子、成長抑制因子、ワクチンが例示できる。また、人工的に設計した遺伝子組換えタンパク質も含まれる。中でも免疫グロブリンが、本発明のタンパク質捕捉剤(1)の特徴を活かせる点で好ましい。なお、ここでいう免疫グロブリンは、その類縁体、フラグメントまたは融合体を含んでもよい。ここでいう類縁体とは、免疫グロブリンの構造や機能が少なくとも部分的に保持された、天然もしくは人工的に作られたタンパク質またはタンパク質コンジュゲートを指し、フラグメントとは、酵素的な処理または遺伝子工学的な設計によって作製された、免疫グロブリンの部分構造を有したタンパク質を指し、融合体とは各種サイトカインやサイトカイン受容体など生物活性を有したタンパク質の機能部分を、免疫グロブリンの全体または一部と遺伝子工学的に融合させて作製したものを指す。
【0029】
本発明のタンパク質捕捉剤をオープンカラムに充填し、緩衝液、金属塩溶液、アミノ酸溶液、アルコール溶液等の溶離液を通液することで、タンパク質の捕捉を行なうことができる。本発明のタンパク質捕捉剤(1)を充填したカラムの溶離液として用いる緩衝液としては、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、Tris、PIPES、ACES、Cholamine、BES、MOPS、TES、HEPESが例示できる。溶離液として用いる金属塩溶液に含まれる金属塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムが例示できる。溶離液として用いるアミノ酸溶液に含まれるアミノ酸としては、グリシン、アルギニン、ベータアラニン、ガンマアミノ酪酸が例示できる。溶離液として用いるアルコール溶液に含まれるアルコールとしては、エタノール、イソプロパノール、グリセロール、エチレングリコールが例示できる。なお、前述した溶液を混合した溶液も溶離液として用いることもできる。溶離液のpHは5から9の範囲内であれば、目的とするタンパク質を捕捉できるが、pHは6から8の範囲内とするとタンパク質の変性が少ない点で好ましい。本発明のタンパク質捕捉剤(1)を用いて、免疫グロブリン、またはその類縁体、フラグメントもしくは融合体を捕捉する場合、例えば、pHを6から8に調整した塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液を通液するクロマトグラフィーを実施すればよい。
【0030】
本発明のタンパク質捕捉剤(1)は、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などのアルカリ性水溶液、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸の水溶液、塩酸グアニジン水溶液、尿素水溶液などのタンパク変性剤水溶液、アルギニンやヒスチジンなどのアミノ酸を含んだ水溶液、ドデシル硫酸ナトリウム、Tween(商品名)などの界面活性剤水溶液、メタノール、エタノール、イソプロパノール、グリセロール、エチレングリコールなどのアルコール溶液、またはこれら溶液を混合した溶液を用いて洗浄することによって、初期状態に復帰させることができ、繰り返し使用することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明のタンパク質捕捉剤(1)は、有用なタンパク質、特に免疫グロブリンを簡便に捕捉できる。そのため、医療用タンパク質、特に免疫グロブリンの工業的な分離精製において極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0033】
実施例1 ポリメタクリレートゲルのイミダゾリルカルボニル化
(1)不溶性担体として、ポリメタクリレートゲルであるトヨパール(TOYOPEARL HW−65F、商品名、東ソー社製)を用いた。まず該ゲルを遠沈管に充填し100×gで遠心分離することで、沈降ゲル(10mL)を得た。
(2)吸引濾過により溶媒を除去し、ゲルを1,4−ジオキサン(50mL×5)で洗浄した。
(3)ゲルに1,4−ジオキサン(10mL)と1,1’−カルボニルジイミダゾール(1.0g,6.17mmol)を添加し、40℃で1時間、150rpmでレシプロ振とうし、反応させた。
(4)100×gでゲルを遠心分離し、反応液を吸引濾過した。
(5)ゲルを1,4−ジオキサン(20mL×4)で洗浄することで、水酸基をイミダゾリルカルボニル化したポリメタクリレートゲルを得た。
【0034】
実施例2 5−メトキシトリプタミンのポリメタクリレートゲルへの固定化
(1)実施例1に記載の方法で製造した、水酸基をイミダゾリルカルボニル化したポリメタクリレートゲル(2mL)に、5−メトキシトリプタミンの1,4−ジオキサン溶液(1.23mol/L,1.9mL)を加え、45℃で一晩、150rpmでレシプロ振とうし、反応させた。
(2)反応終了後、ゲルを1,4−ジオキサン(4mL×5)で洗浄した。
(3)さらに水(10mL×10)で洗浄後、0.1mol/L塩酸(10mL)を加え、25℃で15分間、150rpmでロータリー振とうした。
(4)反応液をろ過し、水(10mL×10)で洗浄した。
(5)0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(10mL)を加え、25℃で15分間、150rpmでロータリー振とうした。
(6)反応液を濾過後、さらに水(10mL×10)で洗浄することで、5−メトキシトリプタミン固定化ポリメタクリレートゲル(固定化ゲル11)を得た。
【0035】
反応終了後のゲルを洗浄した、1,4−ジオキサンろ液中に含まれる未反応の5−メトキシトリプタミンの量を液体クロマトグラフィーで分析し、固定化ゲル11に固定化された5−メトキシトリプタミンの量を算出した。その結果、固定化量は460μmol/mL(gel)であった。
【0036】
実施例3 5−メトキシトリプタミン固定化ポリメタクリレートゲル(固定化ゲル11)のタンパク質捕捉量測定
(1)実施例2に記載の方法で製造した固定化ゲル11を、オープンカラム(バイオスピンエンプティーカラム、商品名、BioRad社製)に充填し、100×gで1分間遠心分離し、沈降ゲル(0.5mL)を得た。
(2)ヒト免疫グロブリン溶液(150mg/mL,化血研製)3mLを、150mMの塩化ナトリウムを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)(緩衝液A)10.5mLで希釈することでタンパク質溶液(1.5mL,免疫グロブリン50mgを含む)を調製し、これを固定化ゲル11を充填したカラムに添加した。
(3)マイクロチューブローテーター(アズワン社製MTR103)を用いて25℃で一晩回転した後、40×gで2分間遠心濾過した。
(4)カラムに緩衝液A(1.5mL)を加え、40×gで2分間遠心濾過する洗浄操作を、計4回繰り返した。
(5)カラムに100mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)1.5mLを加え、40×gで2分間遠心濾過するタンパク質回収操作を、計4回繰り返した。
【0037】
タンパク質回収液の280nmにおける吸光度をU−2900スペクトロフォトメーター(日立製作所製)で測定し、それぞれの回収液に含まれる免疫グロブリンの総量から、捕捉量を算出した。その結果、タンパク質の捕捉量は44mg/mL(gel)であった。
【0038】
実施例4 5−クロロトリプタミンのポリメタクリレートゲルへの固定化
(1)実施例1に記載の方法で製造した、水酸基をイミダゾリルカルボニル化したポリメタクリレートゲル(2mL)に、5−クロロトリプタミンの(1,4−ジオキサン:水=1:1)溶液(1.23mol/L,1.9mL)を加え、45℃で一晩、150rpmでレシプロ振とうし、反応させた。
(2)反応終了後、得られたゲルを(1,4−ジオキサン:水=1:1)溶液(4mL×5)で洗浄した。
(3)更に水(10mL×10)で洗浄した後、0.1mol/L塩酸(10mL)を加え、25℃で15分間、150rpmでロータリー振とう後、水(10mL×10)で洗浄した。
(4)0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(10mL)を加え、25℃で15分間、150rpmでロータリー振とうした。
(5)濾過後、さらに水(10mL×10)で洗浄することで5−クロロトリプタミン固定化ポリメタクリレートゲル(固定化ゲル10)を得た。
【0039】
洗浄した(1,4−ジオキサン:水=1:1)溶液(ろ液)中の未反応の5−クロロプタミンの量を液体クロマトグラフィーで分析し、固定化ゲル10に固定化された5−クロロトリプタミンの量を算出した。その結果、固定化量は320μmol/mL(gel)であった。
【0040】
実施例5 5−クロロトリプタミン固定化ポリメタクリレートゲル(固定化ゲル10)のタンパク質捕捉量測定
実施例3の記載と同様な方法で、固定化ゲル10のタンパク質捕捉量を測定した。タンパク質の捕捉量は42mg/mL(gel)であった。
【0041】
実施例6 2−(4−ヒドロキシフェニル)トリプタミンのポリメタクリレートゲルへの固定化
(1)実施例1に記載の方法で製造した、水酸基をイミダゾリルカルボニル化したポリメタクリレートゲル(2mL)に、0.3mol/Lの2−(4−ヒドロキシフェニル)トリプタミン塩酸塩の(1,4−ジオキサン:水=1:1)溶液(1.9mL)と、トリエチルアミン(622mg,6.15mmol)を加え、45℃で一晩、150rpmでレシプロ振とうし、反応させた。
(2)反応終了後、水(4mL×5)で洗浄し、更に水(10mL×10)で洗浄した後、0.1mol/L塩酸(10mL)を加え、25℃で15分間、150rpmでロータリー振とうした。
(3)水(10mL×10)で洗浄後、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(10mL)を加え、25℃で15分間、150rpmでロータリー振とうした。
(4)濾過後、さらに水(10mL×10)で洗浄することで、2−(4−ヒドロキシフェニル)トリプタミン固定化ポリメタクリレートゲル(固定化ゲル4)を得た。
【0042】
反応終了後のゲルを洗浄した水溶液(ろ液)中の未反応の2−(4−ヒドロキシフェニル)トリプタミンの量を液体クロマトグラフィーで分析し、固定化ゲル4に固定化された2−(4−ヒドロキシフェニル)トリプタミンの量を算出した。その結果、固定化量は60μmol/mL(gel)であった。
【0043】
実施例7 2−(4−ヒドロキシフェニル)トリプタミン固定化ポリメタクリレートゲル(固定化ゲル4)のタンパク質捕捉量測定
実施例3の記載と同様な方法で、固定化ゲル4のタンパク質捕捉量を測定した。タンパク質の捕捉量は40mg/mL(gel)であった。
【0044】
実施例8 アガロースゲルのイミダゾリルカルボニル化
実施例1の記載と同様な方法で、アガロースゲルであるSepharose 6 Fast Flow(商品名、GEヘルスケア社製)の水酸基をイミダゾリルカルボニル化した。
【0045】
実施例9 5−クロロトリプタミンのアガロースゲルへの固定化
実施例4の記載と同様な方法で、実施例8に記載の方法で調製した、水酸基をイミダゾリルカルボニル化したアガロースゲル(2mL)への5−クロロトリプタミンの固定化を行ない、5−クロロトリプタミン固定化アガロースゲル(固定化ゲル17)を得た。実施例4の記載と同様な方法で分析した結果、固定化ゲル17に固定化された5−クロロトリプタミンの固定化量は340μmol/mL(gel)であった。
【0046】
実施例10 5−クロロトリプタミン固定化アガロースゲル(固定化ゲル17)のタンパク質捕捉量測定
実施例3の記載と同様な方法で、固定化ゲル17のタンパク質捕捉量を測定した。タンパク質の捕捉量は80mg/mL(gel)であった。
【0047】
実施例11 セルロースゲルのイミダゾリルカルボニル化
実施例1の記載と同様な方法で、セルロースゲルであるセルファインGCL−2000(商品名、チッソ社製)の水酸基をイミダゾリルカルボニル化した。
【0048】
実施例12 5−クロロトリプタミンのセルロースゲルへの固定化
実施例4の記載と同様な方法で、実施例11に記載の方法で調製した、水酸基をイミダゾリルカルボニル化したセルロースゲル(2mL)への5−クロロトリプタミンの固定化を行ない、5−クロロトリプタミン固定化セルロースゲル(固定化ゲル18)を得た。実施例4の記載と同様な方法で分析した結果、固定化ゲル18に固定化された5−クロロトリプタミンの固定化量は580μmol/mL(gel)であった。
【0049】
実施例13 5−クロロトリプタミン固定化セルロースゲル(固定化ゲル18)のタンパク質捕捉量測定
実施例3の記載と同様な方法で、固定化ゲル18のタンパク質捕捉量を測定した。タンパク質の捕捉量は52mg/mL(gel)であった。
【0050】
参考例1 2−(4−ヒドロキシフェニル)−3−[(2−フタルイミド)エチル]インドールの合成
【0051】
【化3】

2−ブロモ−3−[(2−フタルイミド)エチル]インドール(1.50g,4.06mmol)のトルエン/エタノール(10mL/10mL)混合溶液に4−ヒドロキシフェニルホウ酸(840mg,6.09mmol)、塩化パラジウム(II)(36mg,0.203mmol)、トリフェニルホスフィン(106mg,0.406mmol)、塩化リチウム(172mg,4.06mmol)、炭酸ナトリウム(860mg,8.12mmol)を加え、封管容器、アルゴン雰囲気下で80℃・8時間加熱撹拌した。反応終了後、反応混合物に水を加え、酢酸エチル(20mL)で2回抽出後、有機層を飽和食塩水(50mL)で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、乾燥剤を濾別し溶媒を減圧留去した。得られた混合物を自動設定中圧カラムクロマトグラフィーシステム(山善社製)で精製することで黄色固体の2−(4−ヒドロキシフェニル)−3−[(2−フタルイミド)エチル]インドール(521mg,34%)を得た。
H−NMR(400MHz,DMSO−d,TMS,ppm):δ 3.12(t,J=7.6Hz,2H),3.80(t,J=7.6Hz,2H),6.80(d,J=8.6Hz,2H),7.00(dd,J=7.6 and 7.6Hz,1H),7.07(dd,J=7.6 and 7.6Hz,1H),7.32(d,J=7.6Hz,1H),7.42(d,J=8.6Hz,2H),7.57(d,J=7.6Hz,1H),7.78−7.82(m,4H),9.61(s,1H),11.0(s,1H).
参考例2 2−[2−(4−ヒドロキシフェニル)インドール−3−イル]エチルアミン塩酸塩の合成
【0052】
【化4】

2−(4−ヒドロキシフェニル)−3−[(2−フタルイミド)エチル]インドール(521mg,1.34mmol)をエタノール(80mL)懸濁し、次いでヒドラジン一水和物(1mL)を加え、室温で12時間撹拌した。反応終了後、エタノールと過剰のヒドラジン一水和物を完全に留去し、固体を析出させた。得られた固体を1M塩酸(20mL×2)で洗浄し、ろ過した。得られたろ液を完全に乾固させることによって、黄土色固体の2−[2−(4−ヒドロキシフェニル)インドール−3−イル]エチルアミン塩酸塩(360mg,93%)を得た。
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,ppm):δ 3.14(t,J=2.9Hz,4H),3.50(brs,2H),6.76(dd,J=2.1 and 6.6Hz,2H),7.14(ddd,J=1.1 and 7.5 and 7.5 Hz,1H),7.21(ddd,J=1.1 and 7.5 and 7.5Hz,1H),7.26(brs,1H),7.35(dd,J=1.1 and 7.5Hz,1H),7.41(dd,J=2.1 and 6.6Hz,2H),7.61(dd,J=1.1 and 7.5Hz,1H),8.02(s,1H).
実施例および参考例に記載の方法に基づき製造可能な、トリプタミン誘導体、該誘導体を固定化した担体(固定化ゲル)、該固定化ゲルのトリプタミン誘導体固定化量、および該固定化ゲルによるタンパク質(ヒト免疫グロブリン)捕捉量をまとめた表を表1から6に示す。
【0053】
【化5】

【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
【表5】

【0059】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子、炭素数1から4のアルキル基、または炭素数1から4のハロアルキル基もしくは水酸基で置換されていてもよいフェニル基を表し、Rは水素原子、炭素数1から4のアルキル基、炭素数7から11のアラルキル基、アミノ基で置換されていてもよいフェニル基、またはチエニル基を表し、Xは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1から4のアルコキシ基、炭素数1から4のハロアルコキシ基、または炭素数7から11のアラルキルオキシ基を表す。但し、R、RおよびXは同時に水素原子にはなり得ない。)で表される2−(インドール−3−イル)エチルアミノ基を、カルボニル基を介して不溶性担体に固定化して得られる、タンパク質捕捉剤。
【請求項2】
不溶性担体とカルボニル基導入剤とを反応させ、次いで一般式(1a)
【化2】

(式中、Rは水素原子、炭素数1から4のアルキル基、または炭素数1から4のハロアルキル基もしくは水酸基で置換されていてもよいフェニル基を表し、Rは水素原子、炭素数1から4のアルキル基、炭素数7から11のアラルキル基、アミノ基で置換されていてもよいフェニル基、またはチエニル基を表し、Xは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1から4のアルコキシ基、炭素数1から4のハロアルコキシ基、または炭素数7から11のアラルキルオキシ基を表す。但し、R、RおよびXは同時に水素原子にはなり得ない。)で表される2−(インドール−3−イル)エチルアミノ基と反応させて得られる、請求項1に記載のタンパク質捕捉剤。
【請求項3】
カルボニル基導入剤が、1,1’−カルボニルジイミダゾールである請求項2に記載のタンパク質捕捉剤。
【請求項4】
が水素原子、メチル基または4−ヒドロキシフェニル基であり、Rが水素原子であり、Xが水素原子、5−クロロ、5−メトキシ、5−ベンジルオキシ、7−メトキシまたは7−ベンジルオキシである請求項1から3のいずれかに記載のタンパク質捕捉剤。
【請求項5】
およびXが下記(A)または(B)である請求項4に記載のタンパク質捕捉剤。
(A)Rがメチル基または4−ヒドロキシフェニル基であり、Xが水素原子
(B)Rが水素原子であり、Xが5−クロロ、5−メトキシ、5−ベンジルオキシ、7−メトキシまたは7−ベンジルオキシ
【請求項6】
不溶性担体が、水酸基を導入したポリメタクリレート、アガロース、セルロースのいずれかである、請求項1から5のいずれかに記載のタンパク質捕捉剤。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のタンパク質捕捉剤を用いた、タンパク質の分離精製法。
【請求項8】
タンパク質が、免疫グロブリンまたはその類縁体、フラグメントもしくは融合体である、請求項7に記載の分離精製法。

【公開番号】特開2013−63922(P2013−63922A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202811(P2011−202811)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(000173762)公益財団法人相模中央化学研究所 (151)
【Fターム(参考)】