説明

チップキャリア及び光通信モジュール

【課題】光変調器と半導体レーザにそれぞれ接続するワイヤ間の電気的クロストークを低減する。
【解決手段】入力される駆動電流に応じてレーザを発光する半導体レーザ部12と、入力される変調信号に応じて半導体レーザ部12により発光されるレーザを変調する光変調器部14と、半導体レーザ部12に駆動電流を伝達する第1のワイヤ30と、光変調器部14に変調信号を伝達する第2のワイヤ34と、を備え、第1のワイヤ30と第2のワイヤ34のそれぞれの接続端部の位置により規定される当該各ワイヤの向きが交差して形成される小さい方の角度を60度以上としたチップキャリア10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップキャリア及び光通信モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザに光変調器を集積した光変調器集積型半導体レーザは小型化と通信の高速化の両立が可能な素子であり、通信システムにおいて広く利用されている。こうした光変調器集積型半導体レーザは、下記の特許文献1に記載されているように、光変調器と半導体レーザのそれぞれに変調電流と駆動電流を供給するワイヤが接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−90302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図5は、光変調器集積型半導体レーザを備えた従来のチップキャリア11の構成を示した平面図である。図5に示されるように、従来のチップキャリア11においては、光変調器部14に接続されたワイヤ34と、半導体レーザ部12に接続されたワイヤ30とが、チップキャリア11を上側から見た場合に略平行に配置されている。
【0005】
光変調器部14に接続されたワイヤ34を流れる変調電流(変調信号)は高い周波数で変調されているため、略平行に配置されたワイヤ30,34間の相互インダクタンスにより半導体レーザ部12に接続されたワイヤ30に流れる駆動電流に影響を与えてしまう。このように光変調器部14と半導体レーザ部12との間に電気的クロストークが存在すると、光変調器集積型半導体レーザの周波数応答特性において、半導体レーザの素子構造により定まる緩和振動周波数という固有振動にピークやディップが出現し、伝送特性が悪化してしまう。
【0006】
そこで、本発明では、光変調器と半導体レーザにそれぞれ接続するワイヤ間の電気的クロストークを低減することができるチップキャリア及び光通信モジュールを提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るチップキャリアは、入力される駆動電流に応じてレーザを発光する半導体レーザ部と、入力される変調信号に応じて前記半導体レーザ部により発光されるレーザを変調する光変調器部と、前記半導体レーザ部に前記駆動電流を伝達する第1のワイヤと、前記光変調器部に前記変調信号を伝達する第2のワイヤと、を備え、前記第1のワイヤと前記第2のワイヤのそれぞれの接続端部の位置により規定される当該各ワイヤの向きが交差して形成される小さい方の角度を60度以上としたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の他の一態様に係るチップキャリアでは、前記光変調器部と終端抵抗とを接続するワイヤと、前記第1のワイヤの向きが交差して形成される小さい方の角度を60度以上としたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の他の一態様に係るチップキャリアでは、前記第1のワイヤにより前記半導体レーザ部と接続するチップコンデンサをさらに備え、前記チップコンデンサに接続されたワイヤと、前記第2のワイヤの向きが交差して形成される小さい方の角度を60度以上としたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の他の一態様に係るチップキャリアでは、前記第1のワイヤと前記第2のワイヤの向きを略直交させたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の他の一態様に係るチップキャリアでは、前記半導体レーザ部と前記第1のワイヤとの接続部と、前記光変調器部と前記第2のワイヤとの接続部とを、前記半導体レーザ部と前記光変調器部とが形成された光変調器集積型半導体レーザチップのメサストライプを介して対向する位置に設けたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の他の一態様に係る光通信モジュールでは、入力される駆動電流に応じてレーザを発光する半導体レーザ部と、入力される変調信号に応じて前記半導体レーザ部により発光されるレーザを変調する光変調器部と、前記半導体レーザ部に前記駆動電流を伝達する第1のワイヤと、前記光変調器部に前記変調信号を伝達する第2のワイヤと、を備えたチップキャリアと、前記半導体レーザ部の後方に設けられた受光素子と、を備え、前記半導体レーザ部と前記第1のワイヤとの接続部と、前記光変調器部と前記第2のワイヤとの接続部とを、前記半導体レーザ部と前記光変調器部とが形成された光変調器集積型半導体レーザチップのメサストライプを介して対向する位置に設け、前記第1のワイヤと前記第2のワイヤのそれぞれの接続端部の位置により規定される当該各ワイヤの向きが交差して形成される小さい方の角度を60度以上としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、半導体レーザ部に駆動電流を伝達するワイヤと、光変調器部に変調信号を伝達するワイヤ間の電気的クロストークを低減させることができる。
【0014】
本発明の一態様によれば、半導体レーザ部に駆動電流を伝達するワイヤと、変調信号を伝達するワイヤ間の電気的クロストークを低減させることができる。
【0015】
本発明の一態様によれば、半導体レーザ部に間接的に接続されるワイヤと、光変調器部に変調信号を伝達するワイヤ間の電気的クロストークを低減させることができる。
【0016】
本発明の一態様によれば、半導体レーザ部に駆動電流を伝達するワイヤと、光変調器部に変調信号を伝達するワイヤ間の電気的クロストークをほぼ無くすことができる。
【0017】
本発明の一態様によれば、光変調器部に変調信号を伝達するワイヤ長を短くできる。
【0018】
本発明の一態様によれば、受光素子の設置位置を確保しつつ、半導体レーザ部に駆動電流を伝達するワイヤと、光変調器部に変調信号を伝達するワイヤ間の電気的クロストークを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施形態に係るチップキャリアの構成を示す平面図である。
【図2】第2の実施形態に係るチップキャリアの構成を示す平面図である。
【図3】第3の実施形態に係るチップキャリアの構成を示す平面図である。
【図4】チップキャリアを組み込んだ光通信モジュールを示す図である。
【図5】光変調器集積型半導体レーザを備えた従来のチップキャリアの構成を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0021】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るチップキャリア10の構成を示す平面図である。図1に示されるように、チップキャリア10は、半導体レーザ部12と光変調器部14を形成した光変調器集積型レーザチップ16、グラウンドパタン18、チップコンデンサ20、マイクロストリップライン22、終端抵抗24、ワイヤ30,32,34,36を含み構成されている。
【0022】
半導体レーザ部12は、図示しない電流源から駆動電流を供給されてレーザを出力する光出力素子である。半導体レーザ部12に設けられた電極13は、ワイヤ30を介してチップコンデンサ20に接続されている。また、電流源から出力された駆動電流は、ワイヤ32、チップコンデンサ20、そしてワイヤ30を介して半導体レーザ部12に入力する。チップコンデンサ20は、半導体レーザ部12への高周波雑音を除去する目的で設けられ、グラウンドパタン18上に形成されている。なお、グラウンドパタン18には接地用のスルーホール19が設けられている。
【0023】
光変調器部14は、図示しない信号源から供給される変調信号(変調電流)に応じて、半導体レーザ部12から出力されたレーザを吸収して変調する素子であり、例えば電界吸収型光変調素子としてよい。光変調器部14に設けられた電極15は、ワイヤ34を介して高周波の変調信号を伝達するマイクロストリップライン22と接続され、さらにワイヤ36を介して終端抵抗24と接続されている。また、マイクロストリップライン22には、インピーダンス整合のための抵抗23が設けられている。
【0024】
図1に示されたワイヤは直線的に描かれているが、実際には接続端間を結ぶアーチ状の形態となっており、ワイヤは他のワイヤとの相互インダクタンスの影響を受ける。特に高周波信号を伝送するワイヤ34,36により、半導体レーザ部12に駆動電流を供給するワイヤ30,32が受ける影響は光信号の劣化に直結するため、これらのワイヤ間の相互インダクタンスによる電気的クロストークを低減させることが必要となる。ここでワイヤ間の角度をθとすると、ワイヤ間で電気的クロストークを生じさせる相互誘導Mは、以下の式(1)により表される。
M∝cosθ ・・・(1)
【0025】
そこで、本発明では、ワイヤ30,32とワイヤ34,36とのなす角度を60度以上で配置することで、ワイヤ30,32とワイヤ34,36を平行に配置する場合に比べて相互誘導Mを少なくとも半減させ、ワイヤ間の電気的クロストークを低減させるようにしている。そして、上記のように高周波信号を伝達するワイヤ34,36と、半導体レーザ部12に駆動電流を伝達するワイヤ30、32とのなす角度が60度以上となるように配置することにより、半導体レーザ部12からの光出力にノイズが発生するのを抑制し、伝送特性を良好に保つことができる。
【0026】
特に、図1に示されるように、ワイヤ30,32とワイヤ34,36とを略直交に配置することにより、相互誘導Mは略0となるため、高周波の変調信号を伝達するワイヤ34,36が、半導体レーザ部12に駆動電流を供給するワイヤ30,32に与える相互誘導による電気的クロストークを極めて小さくすることができる。
【0027】
なお、ワイヤ間の角度とは、2つのワイヤの向き(ベクトル)のなす小さい方の(鋭角の)角度であり、ワイヤの向きは、チップキャリア10を上から見た場合のワイヤの両端を結んだ方向として規定することとしてよい。
【0028】
次に、図2を参照しながら、本発明の第2の実施形態について説明する。図2に示したのは、第2の実施形態に係るチップキャリア10の構成を示す平面図である。第2の実施形態に係るチップキャリア10は、第1の実施形態に係るチップキャリア10においてチップコンデンサ20を除去した構成に相当し、その他の点は共通している。このように第2の実施形態に係るチップキャリア10では、チップキャリア10を除去することにより、半導体レーザ部12に接続されるワイヤの設置自由度を向上させるほか、半導体レーザ部12の後方出射光を受光するフォトダイオードの設置場所を容易に確保することができる。
【0029】
次に、図3を参照しながら、本発明の第3の実施形態について説明する。図3は、第3の実施形態に係るチップキャリア10の構成を示す平面図である。図3に示されるように、第3の実施形態に係るチップキャリア10は、第1の実施形態に係るチップキャリア10と、ワイヤと半導体レーザ部12の接続位置、ワイヤと光変調器部14の接続位置、終端抵抗24の配置、そしてチップコンデンサ20の有無において相違している。以下、相違点について説明する。
【0030】
第3の実施形態に係るチップキャリア10では、半導体レーザ部12とワイヤ30との接続部と、光変調器部14とワイヤとの接続部とを、光変調器集積型レーザチップ16のメサストライプ17を介して対向する位置に設けることとしている。
【0031】
具体的には、メサストライプ17により区切られる光変調器部14の領域のうち、マイクロストリップライン22に近い側にワイヤ34を接続する電極15を設けることとしている。このように構成することにより、マイクロストリップライン22に遠い側にワイヤ34を接続する電極15を設ける場合に比べて、光変調器部14とマイクロストリップライン22とを接続するワイヤ長を短くすることができる。また、終端抵抗24を、マイクロストリップライン22に接続することにより、光変調器部14と終端抵抗24を接続するワイヤを取り付ける必要がなくなり、ワイヤの取り付けにより光変調器部14を損傷してしまうリスクを回避することができる。
【0032】
また、第3の実施形態に係るチップキャリア10では、チップコンデンサ20を設けないようにしたことにより、図4に示すチップキャリア10を組み込んだ光通信モジュール100において、半導体レーザ部12の後方出射光を受光するモニターフォトダイオード40(受光素子)を配置するスペースが生まれる。そして、第3の実施形態に係るチップキャリア10では、メサストライプ17により区切られる半導体レーザ部12の領域のうち、モニターフォトダイオード40に対して遠い側にワイヤ30を接続することにより、モニターフォトダイオード40に対して近い側にワイヤ30を接続する場合に比べて、光変調器部14に接続されるワイヤ34と、半導体レーザ部12に接続されるワイヤ30との角度を直交に近づけ、両者間での電気的クロストークをより低減させることができる。
【0033】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態では、マイクロストリップライン22の信号伝達方向と略平行に光変調器部14に接続されるワイヤ34を設け、略垂直に半導体レーザ部12に接続されるワイヤ30を設けることとしているが、マイクロストリップライン22と各ワイヤとの配置関係は上記の実施形態において示したものと異なっていても構わない。
【符号の説明】
【0034】
10,11 チップキャリア、12 半導体レーザ部、13 電極、14 光変調器部、15 電極、16 光変調器集積型レーザチップ、17 メサストライプ、18 グラウンドパタン、19 スルーホール、20 チップコンデンサ、22 マイクロストリップライン、23 抵抗、24 終端抵抗、30,32,34,36 ワイヤ、40 モニターフォトダイオード、100 光通信モジュール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される駆動電流に応じてレーザを発光する半導体レーザ部と、
入力される変調信号に応じて前記半導体レーザ部により発光されるレーザを変調する光変調器部と、
前記半導体レーザ部に前記駆動電流を伝達する第1のワイヤと、
前記光変調器部に前記変調信号を伝達する第2のワイヤと、を備え、
前記第1のワイヤと前記第2のワイヤのそれぞれの接続端部の位置により規定される当該各ワイヤの向きが交差して形成される小さい方の角度を60度以上としたことを特徴とするチップキャリア。
【請求項2】
前記光変調器部と終端抵抗とを接続するワイヤと、前記第1のワイヤの向きが交差して形成される小さい方の角度を60度以上とした
ことを特徴とする請求項1に記載のチップキャリア。
【請求項3】
前記第1のワイヤにより前記半導体レーザ部と接続するチップコンデンサをさらに備え、
前記チップコンデンサに接続されたワイヤと、前記第2のワイヤの向きが交差して形成される小さい方の角度を60度以上とした
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のチップキャリア。
【請求項4】
前記第1のワイヤと前記第2のワイヤの向きを略直交させた
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のチップキャリア。
【請求項5】
前記半導体レーザ部と前記第1のワイヤとの接続部と、前記光変調器部と前記第2のワイヤとの接続部とを、前記半導体レーザ部と前記光変調器部とが形成された光変調器集積型半導体レーザチップのメサストライプを介して対向する位置に設けた
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のチップキャリア。
【請求項6】
入力される駆動電流に応じてレーザを発光する半導体レーザ部と、
入力される変調信号に応じて前記半導体レーザ部により発光されるレーザを変調する光変調器部と、
前記半導体レーザ部に前記駆動電流を伝達する第1のワイヤと、
前記光変調器部に前記変調信号を伝達する第2のワイヤと、を備えたチップキャリアと、
前記半導体レーザ部の後方に設けられた受光素子と、を備え、
前記半導体レーザ部と前記第1のワイヤとの接続部と、前記光変調器部と前記第2のワイヤとの接続部とを、前記半導体レーザ部と前記光変調器部とが形成された光変調器集積型半導体レーザチップのメサストライプを介して対向する位置に設け、
前記第1のワイヤと前記第2のワイヤのそれぞれの接続端部の位置により規定される当該各ワイヤの向きが交差して形成される小さい方の角度を60度以上とした
ことを特徴とする光通信モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−103418(P2011−103418A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258549(P2009−258549)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(301005371)日本オプネクスト株式会社 (311)
【Fターム(参考)】