説明

ディスクブレーキ

【課題】大型化を抑制すると共に、製造効率を向上させるディスクブレーキを提供する。
【解決手段】本ディスクブレーキ1aは、ピストンブーツ21の一端部を、キャリパ本体4のシリンダ部5の内周面に設けた第1拡径溝部25とピストン9の外周面との間にリング部材30を介して固定すると共に、ピストンブーツ21の他端部を、ピストン9の底部の外周面に設けた環状溝22に嵌合するので、本ディスクブレーキ1aの大型化を抑制すると共に、製造効率を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリパ本体内をピストンが移動して、ブレーキパッドをディスクロータに押圧するディスクブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキには、キャリパ本体内に、ピストンが挿入される円筒状のスリーブを取り付け、ピストンの底部の側壁に設けた外周溝と、スリーブの先端部の側壁に設けた外周壁とに、ゴム又は合成樹脂等の可撓性を有する蛇腹状のダストシール(ピストンブーツ)が嵌合して、スリーブとピストンとの間をシールする構成のものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−255652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に係る電動ディスクブレーキでは、ダストシールをキャリパ本体に組み付けるための部品点数が多く、製造効率が悪い。また、特許文献1に係る電動ディスクブレーキでは、ダストシールの一端部を、ピストンの外周に装着されたスリーブの外周溝に嵌合するために、該スリーブの外周溝とシリンダ部の内周面との間にスペースを確保する必要があり、結果的に、キャリパ本体がシリンダ部の径方向に大型化する、という懸念があった。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、キャリパ本体の大型化を抑制し得るディスクブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、本発明は、キャリパ本体内を移動して、ブレーキパッドをディスクロータに押圧するピストンを備えたディスクブレーキにおいて、ピストンブーツの一端部を、前記キャリパ本体のシリンダ部の内周面と前記ピストンの外周面との間にリング部材を介して固定すると共に、前記ピストンブーツの他端部を前記ピストンの外周面に係止することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のディスクブレーキによれば、大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態に係るディスクブレーキを示す断面図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】第2の実施形態に係るディスクブレーキの要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態を図1〜図3に基づいて詳細に説明する。
まず、本発明の第1の実施形態に係る電動ディスクブレーキ1aを、図1及び図2に基づいて説明する。
第1の実施形態に係る電動ディスクブレーキ1aは、図1に示すように、キャリパ浮動型ディスクブレーキであって、車輪と共に回転するディスクロータDと、サスペンション部材等の車体側の非回転部分(図示せず)に固定されるキャリア2と、ディスクロータDの両側に配置されてキャリア2によって支持される一対のインナブレーキパッド3B及びアウタブレーキパッド3Aと、ディスクロータDを跨ぐように配置されてキャリア2に対してディスクロータDの軸方向に沿って移動可能に支持されたキャリパ本体4とを備えている。
【0010】
キャリパ本体4には、ディスクロータDの一側に対向して開口する貫通穴を有する円筒状のシリンダ部5及びシリンダ部5からディスクロータDを跨いで反対側へ延びる爪部6が一体的に形成されている。キャリパ本体4のシリンダ部5内には、ピストンユニット7及び電動モータ8が設けられている。
【0011】
ピストンユニット7は、シリンダ部5に挿入されて軸方向に沿って移動可能に案内される有底円筒状のピストン9と、ピストン9の内部に収容された回転−直動変換機構であるボールランプ機構10及び差動減速機構11と、パッド摩耗補償機構12とを一体化したものである。
【0012】
ボールランプ機構10は、回転ディスク13及び直動ディスク14の傾斜溝間に鋼球であるボール15が介装されており、回転ディスク13と直動ディスク14とを相対回転させることにより、傾斜溝間でボール15が転動して、回転ディスク13と直動ディスク14とを回転角度に応じて軸方向に相対移動させる。これにより、回転運動を直線運動に変換する。なお、本実施形態においては、回転−直動変換機構をボールランプ機構10としているが、ボールネジ機構やローラランプ機構、精密ローラネジ機構等としてもよい。
【0013】
差動減速機構11は、ボールランプ機構10と電動モータ8との間に介装され、電動モータ8のロータ17の回転を所定の減速比で減速してボールランプ機構10の回転ディスク13に伝達する。パッド摩耗補償機構12は、インナブレーキパッド3B及びアウタブレーキパッド3Bの摩耗(ディスクロータDとの接触位置の変化)に対して、電動モータ8の回転時に調整スクリュ18を回転させて前進させ、ピストンユニット7を追従させるようになっている。電動モータ8は、図示しない制御装置により、そのステータ20のコイルへ制御電流が供給されてロータ17の回転が制御される構成である。
【0014】
図1及び図2に示すように、ピストン9の底部の外周壁と、キャリパ本体4のシリンダ部5の内周面との間には、ゴム又は合成樹脂等の可撓性を有する蛇腹状のピストンブーツ21が配設され、キャリパ本体4のシリンダ部5とピストン9との間をシールしている。
【0015】
詳しくは、図2に示すように、ピストン9の底部の外周壁に環状溝22が形成される。一方、キャリパ本体4のシリンダ部5のディスクロータD側の端部の内周面には、その内径が拡径される第1拡径溝部25と、該第1拡径溝部25からディスクロータD側に連続して該第1拡径溝部25より小径に形成される第2拡径溝部26と、該第2拡径溝部26からディスクロータD側に連続して該第2拡径溝部26より小径に形成される第3拡径溝部27と、該第3拡径溝部27からディスクロータD側に連続してディスクロータD側に向かって次第に拡径するように形成される第4拡径溝部28とが形成される。
【0016】
なお、第1拡径溝部25の内径は、後述するピストンブーツ21の一端部となるシリンダ固定部21Aの外径に一致し、その軸方向の長さはピストンブーツ21の一端部の軸方向の長さと一致する。また、第2拡径部26の内径は、後述するリング部材30の外径に一致し、その軸方向の長さは該リング部材30の厚みと一致する。さらに、第3拡径溝部27の内径は、上述したように、第2拡径溝部26の内径より小径に形成されるので、リング部材30の外径よりも小径となる。
【0017】
ピストンブーツ21は、図2に示すように、全体として筒状に形成され、その両端部には、断面略矩形の環状に形成され、ピストンブーツ21の一端部となるシリンダ固定部21Aと、ピストンブーツ21の他端部となるピストン固定部21Bとが設けられている。これらシリンダ固定部21Aとピストン固定部21Bとの間には、蛇腹状部21Cが形成され、ピストンブーツ21がピストン9の移動に伴って伸縮可能になっている。る。ピストンブーツ21のシリンダ固定部21Aの内周面には内方に湾曲して環状で突設する突起部31が形成される。この突起部31により、ピストン9とシリンダ部5との間がシールされ、シリンダ部5内への水分や埃等の異物の侵入を防止している。また、ピストンブーツ21のピストン固定部21BのディスクロータD側となる面には、ディスクロータD側に環状に突起した係合突起32が形成される。
【0018】
上記のようなピストンブーツ21をキャリパ本体4に組み付けるには、まず、ピストンブーツ21の一端部となるシリンダ固定部21Aを、シリンダ部5の内周面における第1拡径溝部25に嵌合させる。これにより、ピストンブーツ21の一端部の内周面に設けた突起部31がピストン9の外周面に密着される。続いて、リング部材30を、ピストンブーツ21のシリンダ固定部21AのディスクロータD側の面に接触するように、シリンダ部5の内周面における第2拡径溝部26と、ピストンブーツ21のシリンダ固定部21Aに近い蛇腹部21Cとの間に嵌合させる。この時、リング部材30が配置される、蛇腹部21Cのシリンダ固定部21Aに近い部位が径方向内側に弾性変形した状態となる。また、リング部材30の外径がシリンダ部5の内周面における第3拡径溝部27の内径よりも大径に形成されるので、リング部材30のディスクロータD側への移動が規制される。
【0019】
この結果、ピストンブーツ21の一端部となるシリンダ固定部21Aが、シリンダ部5の内周面に設けた第1拡径溝部25とピストン9の外周面との間にリング部材30により固定され、しかも、シリンダ部5の内周面とピストン9の外周面との間がピストンブーツ21の一端部の内周面に設けた突起部31によりシールされる。なお、ピストンブーツ21の蛇腹部21Cの一部が、シリンダ部5の内周面における第4拡径溝部28に沿うように延びる。一方、ピストンブーツ21の他端部となるピストン固定部21Bは、ピストン9の外周壁に設けた環状溝22に嵌合され、他端部のディスクロータD側の面に設けた係合突起32が、環状溝22のディスクロータD側の面に係合される。
【0020】
次に、上述した第1の実施形態に係るディスクブレーキ1aの作用について説明する。運転者によるブレーキ操作に基づいて、電動モータ8に制御電流を供給してロータ17を回転させる。ロータ17の回転は、差動減速機構11によって所定の減速比で減速され、ボールランプ機構10の回転ディスク13を回転させる。ボールランプ機構10では、回転ディスク13の回転を直動部材14の直線運動に変換してピストン9を前進させる。ピストン9の前進により、インナブレーキパッド3BがディスクロータDに押圧され、その反力によってキャリパ本体4が移動して、爪部6がアウタブレーキパッド3AをディスクロータDに押圧して制動力を発生させる。なお、インナブレーキパッド3B及びアウタブレーキパッド3Aが摩耗した場合には、制動時にパッド摩耗補償機構12によって、摩耗量に応じて調整スクリュ18を回転させて前進させ、これにより、ボールランプ機構10を摩耗に追従して前進させて摩耗を補償する。
【0021】
以上説明した本発明の第1の実施形態に係るディスクブレーキ1aによれば、ピストンブーツ21の一端部となるシリンダ固定部21Aがシリンダ部5の内周面に設けた第1拡径溝部25とピストン9の外周面との間にリング部材30により固定されるので、従来のように、ピストンやスリーブ等に設けたピストンブーツ21のシリンダ固定部21Aが嵌合する外周溝とシリンダ部5の内周面との間にピストンブーツ21のシリンダ固定部21Aを取り付けるためのスペースを確保する必要がなく、キャリパ本体4の、特に、シリンダ部5の径方向をコンパクトにすることでき、ディスクブレーキの小型化を図ることができる。
【0022】
ピストンブーツ21の取付に際しては、ピストンブーツ21の一端部となるシリンダ固定部21Aを径方向に大きく押し広げることなく、第1拡径溝部25に嵌合させてリング部材30を嵌めるだけで取付可能であるので、ディスクブレーキの製造効率を向上させることが可能となる。また、ピストンブーツ21の交換時には、リング部材30を着脱するだけで交換可能であるので、着脱作業が容易となる。したがって、ディスクブレーキのメンテナンス性に優れる。しかも、ピストンブーツ21の一端部をシリンダ部5の内周面の第1拡径溝部25に装着すると、その一端部の内周面に設けた突起部31がピストン9の外周面に密着されているので、従来のように、ピストンブーツ21の他に、ピストン9の外周面とシリンダ部5の内周面との間にシール部材を設ける必要がなく、部品点数を削減することができる。
【0023】
次に、第2の実施形態に係るディスクブレーキ1bを図3に基づいて説明する。第2の実施形態に係るディスクブレーキ1bを説明する際には、第1の実施形態に係るディスクブレーキ1aとの相違点のみを説明する。
【0024】
キャリパ本体4のシリンダ部5のディスクロータD側の端部の内周面に、その内径が拡径される第1拡径溝部25と、該第1拡径溝部25の内周面のディスクロータD寄りに設けられ、該第1拡径溝部25の内径よりも拡径される環状溝36と、第1拡径溝部25から連続してディスクロータD側に向かって次第に拡径されるように形成される第4拡径溝部28とが形成される。なお、第1拡径溝部25の内径は、ピストンブーツ21の一端部となるシリンダ固定部21Aの外径に一致し、その軸方向の長さはピストンブーツ21の一端部の軸方向の長さよりも長く形成される。また、第1拡径溝部25の内径は第1リング部材37の外径に一致し、環状溝36の内径が第2リング部材38の外径に一致する。また、第2リング部材38の内径は第1リング部材37の外径よりも小径に形成される。第1リング部材37の厚みと第2リング部材38の厚みとは略同じで、第2リング部材38の厚みと環状溝36の幅とが一致する。
【0025】
ピストンブーツ21をキャリパ本体4に組み付けるには、まず、ピストンブーツ21の一端部となるシリンダ固定部21Aをシリンダ部5の内周面における第1拡径溝部25の電動モータ8側端部へ配置する。続いて、第1リング部材37を第1拡径溝部25内に挿入して、ピストンブーツ21のシリンダ固定部21AのディスクロータD側の面に当接させると共に、第1拡径溝部25とピストンブーツ21のシリンダ固定部21Aに近い蛇腹部21Cとの間に配置する。この時、第1リング部材37が配置される、ピストンブーツ21の蛇腹部21Cの部位が径方向内側に弾性変形した状態となる。また、ピストンブーツ21のシリンダ固定部21Aの内周面に設けた突起部31がピストン9の外周面に密着される。続いて、第2リング部材38を第1拡径溝部25の内周面に設けた環状溝36に嵌合する。すると、第2リング部材38と第1リング部材37とが互いに接触すると共に、第2リング部材38の内径が第1リング部材37の外径よりも小径に形成されるので、第1リング部材37のディスクロータD側への移動が規制される。この結果、ピストンブーツ21のシリンダ固定部21Aが、シリンダ部5の内周面に設けた第1拡径溝部25とピストン9の外周面との間に第1リング部材37及び第2リング部材38により固定される。
【0026】
以上説明した第2の実施形態に係るディスクブレーキ1bの効果は、第1の実施形態に係るディスクブレーキ1aの効果と略同じであるが、第2の実施形態に係るディスクブレーキ1bでは、第1の実施形態に係るディスクブレーキ1aよりも、ピストンブーツ21の一端部が固定されるシリンダ部5の内周面における溝形状を簡素化することができ、溝加工が容易となるので、ディスクブレーキの製造効率を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1a、1b ディスクブレーキ,3A アウタブレーキパッド,3B インナブレーキパッド,4 キャリパ本体,5 シリンダ部,8 電動モータ,9 ピストン,10 ボールランプ機構(回転−直動変換機構),21 ピストンブーツ,21A シリンダ固定部(ピストンブーツの一端部),21B ピストン固定部(ピストンブーツの他端部),22 環状溝,25 第1拡径溝部,26 第2拡径溝部,27 第3拡径溝部,28 第4拡径溝部,30 リング部材,31 突起部,35 周壁,36 環状溝,37 第1リング部材,38 第2リング部材,D ディスクロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリパ本体内を移動して、ブレーキパッドをディスクロータに押圧するピストンを備えたディスクブレーキにおいて、
ピストンブーツの一端部を、前記キャリパ本体のシリンダ部の内周面と前記ピストンの外周面との間にリング部材を介して固定すると共に、前記ピストンブーツの他端部を前記ピストンの外周面に係止することを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記リング部材は、前記ピストンブーツの一端部を径方向に弾性変形した状態で前記シリンダ部の内周面と前記ピストンの外周面との間に固定することを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項3】
前記キャリパ本体内に、電動モータと、該電動モータからの回転を直線運動に変換して前記ピストンを移動させる回転−直動変換機構とを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−11301(P2013−11301A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144151(P2011−144151)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】