ディンプル板およびその製造方法、並びに放熱板およびその製造方法
【課題】放熱板の厚さ方向の熱伝導率を高くし、かつ、放熱板の厚さ方向における放熱特性を放熱板の部分によらず均一に維持することができ、さらに、Invar比が大きく、板面方向の熱膨張係数が低い放熱板を実現できるディンプル板およびその製造方法、並びに放熱板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】平板5の表面に、平板5の長手方向と幅方向に所定のピッチで形成された複数のディンプル2を有するディンプル板1において、ディンプル2の幅方向のピッチが0.5mm以下であり、平板5の表面積に対して、ディンプル2の底部にて平板5を貫通する空孔3が形成されている領域の面積の割合が15%以下である。
【解決手段】平板5の表面に、平板5の長手方向と幅方向に所定のピッチで形成された複数のディンプル2を有するディンプル板1において、ディンプル2の幅方向のピッチが0.5mm以下であり、平板5の表面積に対して、ディンプル2の底部にて平板5を貫通する空孔3が形成されている領域の面積の割合が15%以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低熱膨張、高熱伝導の複合放熱板のコアに用いるディンプル板およびその製造方法、並びにそれを用いた放熱板およびその製造方法に係り、特に、エキスパンドメタルの欠点である製造時の作業性の悪さを改善し、高速に製造可能であり、低価格で、高特性となるディンプル板およびその製造方法、並びに放熱板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、多孔板、あるいは網目状板として、エキスパンドメタルが知られており、規格としても、JIS−G3351「エキスパンドメタル Expanded Metals」にて規定され、多方面に応用されている。
【0003】
エキスパンドメタルの特徴は、パンチングメタルと異なり、製造時に打抜き屑が出ないために製造歩留りがよく、素材の100%を製品にできる点にある。
【0004】
エキスパンドメタルのメッシュ形状(網目形状)の一例を図12(a)〜(c)に示す。
【0005】
図12(a)〜(c)に示すように、エキスパンドメタル71の孔72は菱形、あるいは亀型状となっており、その表面および断面は、段差73が付いた形状となっている。
【0006】
図13(a)〜(f)に示すように、従来のエキスパンドメタルの製造方法では、波目状の刃を有する波刃81を上方に、平刃82を下方に配置し、これら波刃81と平刃82を用いて、素材となる平板83を順次刻んで孔72を形成し、多孔板、すなわちエキスパンドメタル71を製造している。
【0007】
従来のエキスパンドメタルの製造装置80は、素材送りローラー84と切断装置85とからなり、切断装置85では、下方に固定された平刃82に対し、上方に配置された波目状の波刃81を、上下方向と横方向(図示左奥から右手前の方向)へ移動できるように構成されている。
【0008】
このエキスパンドメタルの製造装置80を用いてエキスパンドメタル71を製造する際は、図13(a)に示すように、まず、波刃81と平刃82間に素材送りローラー84から平板83を送込み、図13(b)に示すように、波刃81を下降させて平板83を波刃81と平刃82間でせん断する。このとき、平板83を完全に切断しないように波刃81を途中で止める。これにより、平板83に一定間隔で刻みを入れ、それと同時に平板83を、波刃81の波形状(波目状)に成形する。
【0009】
その後、図13(c)に示すように、波刃81を上昇させた後、図13(d)に示すように、素材送りローラー84により平板83を送込み(素材送りローラー84で送りを入れ)、同時に、波刃81を、波目形状のピッチ(波ピッチ)pに対して半ピッチ(p/2)横方向に移動する。そして、図13(e),(f)に示すように、同様に、波刃81を下降させて平板83に刻みを入れ、平板83を波目状に成形する。
【0010】
その後、再び素材送りローラー84により平板83を送込み、波刃81の横方向の位置を半ピッチ元に戻し、平板83に一定間隔の刻みを入れ、平板83を波目状に成形する。これを連続的に繰り返すことで、エキスパンドメタル71が製造される。以上が、エキスパンドメタル71の基本的な製造方法である。
【0011】
エキスパンドメタル71の網目(メッシュ)の形状は、その製造方法に直接関係しており、素材である平板83の板厚Toに対し、メッシュの微細幅(刻み幅)Wは、素材送りローラー84による平板83の送り量(送りピッチ)と等しくなり、平板83の送込み方向での隣同士の孔72の接続幅(孔72の周囲の枠体の幅)は2Wとなる。メッシュの幅方向ピッチ(山ピッチ)Lwは、波刃81の波ピッチpと等しくなる。また、メッシュの長手方向ピッチSwは、波刃81の送込み量(波刃81をせん断時にどれだけ下降させるか)に対応することとなる。
【0012】
このように、エキスパンドメタル71は、多孔板を製造する際の歩留りがよく、効率的な加工が可能であるが、欠点もある。それは、上述の製造方法と関係し、従来のエキスパンドメタル71では、その表面に段差73がついており、板厚Toに対し、大きい孔72の形状となる点である。すなわち、従来のエキスパンドメタルの製造方法では、板厚Toに対し、微細な孔72を有する微細多孔板を製造することができないという問題がある。また、刻みを1条ずつ入れるために、製造速度が遅く、加工能率が落ちるという問題もある。
【0013】
JIS−G3351は、一般には、板厚Toに対し、孔サイズ(幅方向ピッチLw)が10〜100倍と大きい網状の多孔板を作る方法であるが、その開孔率が問題となる。つまり、従来、孔サイズが板厚Toの10〜100倍と大きい網状の多孔板であれば製造は可能であるが、板厚Toに対し孔サイズが小さい微細多孔板は製造するのが難しい。微小な孔サイズを有する多孔板としては、非特許文献1に記載されている程度であり、その孔サイズは、板厚Toの5倍以上であった。
【0014】
ここで、エキスパンドメタル71の孔形状について、さらに考察する。
【0015】
エキスパンドメタル71の形状は、図12(a)〜(c)に示すごとくで、その製造方法は、図13(a)〜(f)で説明した通り、平板83を、下方に固定した平刃82に対し、上方に配置した波刃81をピッチ毎(平板83を送込む毎)に左右に動かしながら、交互に打ち抜くことで、網目状の多孔板すなわちエキスパンドメタル71を成形するものである。しかし、板厚Toのわりに微細な孔サイズのエキスパンドメタル71を成形しようとする場合、成形限界が存在する。
【0016】
図14にエキスパンドメタル71の切断成形部の略図を示す。従来のエキスパンドメタルの製造方法では、素材である平板83を平刃82と波刃81で切断成形するわけであるが、波刃81により波目状に成形される平板83の先端部(以下、成形部という)91の後方(平刃82側)では、波刃81の端部81aと接する部分の平板83が、平刃82に押し込まれてせん断破断し、幅Lhの孔72が形成される。このとき、平板83の波刃81の凹部に位置する部分(以下、残存橋部という)92が残存し、この残存橋部92が、成形部91と後方の平板83とを接続する。
【0017】
成形部91は、波刃81の先端部(底部)により曲げ変形を受ける。その結果、せん断によって孔72が形成されることになる。成形部91は、曲げ変形を受けるために、±の降伏応力を生じ、塑性変形する。
【0018】
板厚Toのわりに微細な孔サイズのエキスパンドメタル71における成形限界は、成形部91後方(成形部91と後方の平板83との接続部分)の残存橋部92にせん断破断が発生するか否かにより決まる。すなわち、成形部91後方の残存橋部92のせん断力と成形部91の曲げ変形力の大小により、成形限界は決まる。
【0019】
1ピッチ当たりの平板83側の残存橋部92のせん断力Fsは、下式(1)で表される。
Fs=(Lw−Lh)ToτI ・・・(1)
但し、Lw:メッシュの幅方向ピッチ
Lh:孔の幅
To:板厚
τI:素材(平板)のせん断応力
【0020】
1ピッチ当たりの成形部91の曲げ変形力をFbとすると、曲げ中央部のモーメントMは、下式(2)で表される。
M=Fb/2×Lh/2=Fb×Lh/4 ・・・(2)
【0021】
また、ミーゼスの降伏条件より、曲げ中央部のモーメントMは、[数1]に示す式(3)で表される。
【0022】
【数1】
【0023】
式(2)および式(3)から、成形部91の曲げ変形力Fbは、[数2]に示す式(4)で表される。
【0024】
【数2】
【0025】
エキスパンドメタル71が正常に成形できる条件は、下式(5)で表される。
Fs>Fb ・・・(5)
【0026】
したがって、その限界条件は、式(5)に式(1),(4)を代入すると、[数3]に示す式(6)で表される。
【0027】
【数3】
【0028】
通常、送りピッチ(刻み幅W)は、平板83の板厚Toとほぼ等しいことから、W=Toとすると、式(6)は[数4]に示す式(7)のようになる。
【0029】
【数4】
【0030】
すなわち、従来のエキスパンドメタルの製造方法では、どのような網目形状でも形成できるわけではなく、平板83の板厚Toが限定されており、平板83の板厚Toの限界値はメッシュの幅方向ピッチLwと比例関係にある。つまり、メッシュの幅方向ピッチLwが小さいエキスパンドメタル71を製造しようとすると、平板83の板厚Toの限界値も小さくなり、板厚Toが大きい厚肉材ではメッシュの幅方向ピッチLwが小さいエキスパンドメタル71、すなわち微細多孔板を製造できないということとなる。
【0031】
図15に、JIS市販品(JIS市販)と、市販されている微小エキスパンドメタルとして非特許文献2のエキスパンドメタル(微細市販)における板厚Toと幅方向ピッチLwの関係を示す。また、上述の式(7)より得られる板厚Toの限界値(E限界線)を併せて示す。図15に示すように、両者共に上述の式(7)を満足する形状範囲に入っており、板厚Toが大きなものや、幅方向ピッチLwが小さい、すなわち微細な孔を有するエキスパンドメタルは製造されていない。
【0032】
特許文献1では、従来のエキスパンドメタルの加工限界(上述の式(6)および式(7))を改善するアイデアが提案されている。特許文献1では、切断平刃の先に、上方の波刃と同期して動く波目状のバッカープレートを置く対策がなされており、これにより、上述の加工限界を改善することが可能となっている。しかし、この対策では、負荷力を補助する程度でバックアップが完全ではなく、さらなる強力な対策が必要である。
【0033】
また、特許文献2では、刻みが細かく、加工速度が上がらない点について、網目形状を2段同時に成形し、倍に加工速度を改善することが提案されている。しかし、この点に関しては、もっと桁違いの改善が必要である。
【0034】
さらに、特許文献3では、エキスパンドメタルを量産的に製造する方法として、ロール方式で、断続的なスリッターと押し広げロールを用いてエキスパンドメタルを製造する方法が述べられているが、これは、現状品のなかでも、厚さのわりに、孔サイズが大きい場合のみに適用できる製造方法であり、微細多孔板の製造には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0035】
【特許文献1】特開平1−127119号公報
【特許文献2】特開2003−33824号公報
【特許文献3】特開2007−175720号公報
【非特許文献】
【0036】
【非特許文献1】スズキテクノス株式会社、[online]、[平成21年6月19日検索]、インターネット<URL:http://www.suzuki-tkns.co.jp/product/expanded/index.html>
【非特許文献2】コスモ株式会社、[online]、[平成21年6月19日検索]、インターネット<URL:http://www.cosmo9.co.jp/zairyo_metal.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
従来技術の問題点の第1は、多孔板の形状が、目的の用途に合っていない点である。
【0038】
コアにInvar材からなるエキスパンドメタルを用いて放熱板を作製する場合、上述のエキスパンドメタルの加工限界から、幅方向の孔ピッチが大きくなり、例えば、放熱板に大きさが数mm程度の半導体素子を搭載する場合に、半導体素子の放熱板への搭載場所によっては半導体素子で発生する熱を適切に放熱することができない場合がある。
【0039】
製造方法の側面における問題点としては、生産性にあり、エキスパンドメタルでは刻みを1条ずつ入れるために加工速度が遅い点である。大きな網目形状を作るのであれば問題ないが、送りピッチ(刻み幅)が1mm以下のオーダーの微細多孔板をこの方式で製造しようとすると、極めて時間がかかり、結果的に高価なものとなってしまう。安価な微細多孔板を製造するためには、高速化が必須である。パンチングメタルでは、多孔を1ストロークで打ち抜くことも可能であるが、この場合には、打抜き屑のため、生産上の歩留りが問題である。また、パンチングメタルでは、孔入口部はエッジとなっており、孔中へのメタルフローを確保することが難しい。
【0040】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、低熱膨張、高熱伝導の複合放熱板のコアに用いる微細多孔板の構造とその効率的な製造方法を提供することで、形状的には、板厚のわりに微小ピッチで、小サイズの多孔でありながら、複合材化する際に、表面高熱伝導材が、コア孔内にメタルフローし易い構造のディンプル板およびその製造方法、並びに放熱板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0041】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、平板の表面に、前記平板の長手方向と幅方向に所定のピッチで形成された複数のディンプルを有するディンプル板において、前記ディンプルの幅方向のピッチが0.5mm以下であり、前記平板の表面積に対して、前記ディンプルの底部にて前記平板を貫通する空孔が形成されている領域の面積の割合が15%以下であるディンプル板である。
【0042】
請求項2の発明は、請求項1に記載のディンプル板と、該ディンプル板の表面に接合されると共に、その一部が前記ディンプル内に充填された伝熱板とを備えた放熱板である。
【0043】
請求項3の発明は、波目形状の刃を有する波刃を上型および下型に備え、これら上型と下型を対向配置し、前記上型と前記下型間に平板を送り込むと共に、前記平板を前記上型の波刃と前記下型の波刃で上下からプレスして、前記平板を波目形状に成形してディンプル板を製造する方法であって、前記上型および下型は、階段状の段付波刃からなる多段波刃を有し、前記平板を前記多段波刃の階段状の傾斜方向に送り込むと共に、前記平板を前記多段波刃で上下からプレスして、前記平板に前記多段波刃の上下動1ストロークで複数の凹凸を形成して微細凹凸板を形成する工程と、前記微細凹凸板を上下に対向配置された平ロール間に送り込んで圧延することにより、前記微細凹凸板の表面を平坦化して、表面にディンプルを有するディンプル板を形成する工程とを備えたディンプル板の製造方法である。
【0044】
請求項4の発明は、円周面上に波目形状の段付波刃を有する2つの多段波刃ロールを形成すると共に、これら2つの多段波刃ロールを上下に対向配置し、その上下の多段波刃ロール間に平板を送り込んで、前記平板を圧延すると共に、前記平板を前記多段波刃ロールに形成された前記段付波刃で順次上下からプレスして、前記平板に連続的に凹凸を形成して微細凹凸板を形成する工程と、前記微細凹凸板を上下に対向配置された平ロール間に送り込んで圧延することにより、前記微細凹凸板の表面を平坦化して、表面にディンプルを有するディンプル板を形成する工程とを備えたディンプル板の製造方法である。
【0045】
請求項5の発明は、請求項3または4に記載のディンプル板の製造方法により製造された前記ディンプル板の表面に、伝熱板をクラッド圧延により接合し、前記ディンプルの中に伝熱板の一部を充填する放熱板の製造方法である。
【0046】
請求項6の発明は、前記ディンプル板は、前記伝熱板より小さい熱膨張係数を有する材料からなり、前記伝熱板は、前記ディンプル板より高い熱伝導率を有する材料からなる請求項5記載の放熱板の製造方法である。
【発明の効果】
【0047】
本発明のディンプル板によれば、このディンプル板を用いて製造する放熱板の厚さ方向の熱伝導率を高くし、かつ、放熱板の厚さ方向における放熱特性を放熱板の部分によらず均一に維持することができ、さらに、Invar比が大きく、板面方向の熱膨張係数が低い放熱板を実現できる。
【0048】
本発明のディンプル板の製造方法によれば、低熱膨張、高熱伝導の複合放熱板のコアに用いる微細多孔板に好適な構造のディンプル板を効率的に製造可能となり、形状的には、板厚のわりに微小ピッチで、小サイズの多孔でありながら、複合材化する際に、表面高熱伝導材が、コア孔内にメタルフローし易い構造のディンプル板を高い生産性で製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施の形態に係るディンプル板を示す斜視図であり、(a)は略三角形状のディンプルを備えた両面ディンプル孔付ディンプル板の斜視図であり、(b)は略六角形状のディンプルを備えた両面ディンプル孔付ディンプル板の斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るディンプル板の断面図であり、(a)は両面ディンプル板、(b)は両面ディンプル孔付ディンプル板の断面図である。
【図3】両面ディンプル孔付ディンプル板の外観を示す写真であり、(a)は略三角形状のディンプルを備えた両面ディンプル孔付ディンプル板の写真であり、(b)は略六角形状のディンプルを備えた両面ディンプル孔付ディンプル板の写真である。
【図4】(a)〜(d)は、本発明の一実施の形態に係るディンプル板の製造方法を説明する図であり、多孔傾斜プレス法により微細多孔凹凸板を形成する工程を説明する図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係るディンプル板の製造方法を説明する図であり、多孔傾斜プレス法により微細多孔凹凸板を形成する工程を説明する図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係るディンプル板の製造方法を説明する図であり、平ロール圧延により微細多孔凹凸板からディンプル板を形成する工程を説明する図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る放熱板の分解斜視図である。
【図8】本発明の一実施の形態に係るディンプル板の製造方法を説明する図であり、多孔溝付け圧延法により微細多孔凹凸板を形成する工程を説明する図である。
【図9】実施例におけるディンプル板の製造工程を説明する図である。
【図10】本発明において、送りピッチW、幅ピッチLw、長ピッチSw、素材板厚To、成形板厚T2がどの部分の長さであるかを示す図であり、(a)は微細多孔凹凸板,(b)はディンプル板を示す図である。
【図11】実施例の微細多孔凹凸板の孔形状を、従来のエキスパンドメタルの孔形状(板厚Toと幅方向ピッチLwの関係)と成形限界を示すグラフ図に書き込んだものである。
【図12】従来のエキスパンドメタルを示す図であり、(a)は平面図、(b)はその拡大図、(c)は12C−12C線断面図である。
【図13】(a)〜(f)は、従来のエキスパンドメタルの製造方法を説明する図である。
【図14】従来のエキスパンドメタルの変形状態(成形限界)を説明する図である。
【図15】従来のエキスパンドメタルの孔形状(板厚Toと幅方向ピッチLwの関係)と成形限界を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0051】
まず、本実施の形態に係る放熱板に用いるディンプル板について図1,2を用いて説明する。
【0052】
図1に示すように、ディンプル板1は、平板5の表面に、平板5の長手方向と幅方向に所定のピッチで形成された複数の凹状のディンプル(凹み、窪み)2を有して形成される。ディンプル板1は、平板5にディンプル2を多数形成した構造であることから、微細多孔板とも呼ばれる。なお、図1では表されていないが、ディンプル板1は長尺に形成されており、上述の長手方向とはその長尺の形状における長手方向をいい、幅方向とは長尺の形状における幅方向(長手方向と垂直な方向)をいう。また、詳細は後述するが、長手方向は、ディンプル板1を製造する際の平板5の送り込み方向である。
【0053】
ディンプル板1は、後述する伝熱板を構成する材料の熱膨張係数より小さい熱膨張係数(線膨張係数)を有する材料、すなわち低熱膨張材から形成される。具体的には、ディンプル板1は、Invar合金(インバー合金)から形成され、Fe−36mass%Ni、Fe−36.5mass%Ni、Fe−32mass%Ni−5mass%Coからなるスーパーインバー(Super Invar)材、Fe−54mass%Co−9.5mass%Cr等を用いることができる。
【0054】
ディンプル2は当該ディンプル2が形成されている平板5の板厚よりも、薄い肉厚を有して形成される。ディンプル板1では、ディンプル2が形成されている部分が薄肉な薄肉部となっている。なお、ディンプル板1としては、平板5の板厚よりも薄い厚さの複数の薄肉部を有すると共に、薄肉部のピッチが所定のピッチ以下であればよく、ディンプル2の形状は、凹状(すなわち、ディンプル板1を貫通する孔を有さない状態)、孔状(すなわち、ディンプル板1を貫通する孔を有する形態)等に限られない。
【0055】
ディンプル板1の形態には、以下のような形態を挙げることができる。
【0056】
図2(a)に示すディンプル板1aは、表面Sに複数のディンプル2を有すると共に、裏面Rにも複数のディンプル2を有する。ただし、表面Sに形成されるディンプル2aと裏面Rに形成されるディンプル2bとはディンプル板1aを構成する材料により隔離されている。すなわち、ディンプル板1aにおいてディンプル2aとディンプル2bとは、各々隔たれた状態に保たれる(以下、図2(a)のようなディンプル板1aを「両面ディンプル板1a」ということがある)。
【0057】
また、図2(b)に示すディンプル板1bは、表面Sに複数のディンプル2を有すると共に、裏面Rにも複数のディンプル2を有する。さらに、ディンプル板1bにおいては、表面Sに設けられるディンプル2aと裏面Rに設けられるディンプル2bとが、それぞれの底部近傍において空孔3を介して接続されている。すなわち、ディンプル2aとディンプル2bとは、ディンプル板1bを貫通する空孔3を介して接続されている(以下、図2(b)のようなディンプル板1bを「両面ディンプル孔付ディンプル板1b」ということがある)。なお、図1では、この両面ディンプル孔付ディンプル板1bを示しており、図1(a)は略三角形状のディンプル2を備えた両面ディンプル孔付ディンプル板1b、図1(b)は略六角形状のディンプルを備えた両面ディンプル孔付ディンプル板1bを示している。
【0058】
図3は、ディンプル板1(両面ディンプル孔付ディンプル板1b)の外観を示す写真である。図3(a)に示すディンプル板1のディンプル2の平面視における形状(以下、単に「ディンプル板面形状」という)は、略三角形状である。ディンプル板面形状としては、三角形状に限られず、円形、楕円形等の円弧を有する形状、四角形、六角形、八角形などの多角形状等の形状にすることもできる。また、図3(b)に略六角形状のディンプル2を備えた両面ディンプル孔付ディンプル板1bの写真を示す。ディンプル板面形状は、製造の容易さの観点からは略六角形状にすることが好ましい。
【0059】
また、ディンプル板1では、放熱板の放熱特性を確保することを目的として、ディンプル板1の表面におけるディンプル2の占める割合、すなわちディンプル板1の表面積に対してディンプル2が形成されている領域の面積の割合(以下、「ディンプル占有率」ということがある)は、30%以下にすることが好ましい。
【0060】
さらに、ディンプル板1のディンプル2に空孔3を設ける場合、当該空孔3は、平面視にて、ディンプル2がディンプル板1の表面に占める面積の半分以下の面積を占めることが好ましい。本実施の形態に係るディンプル板1では、平板5の表面積に対して、ディンプル2の底部にて平板5を貫通する空孔3が形成されている領域の面積(つまり空孔3の投影面積)の割合(以下、「ディンプル貫通率」ということがある)が15%以下とされる。ディンプル貫通率を15%以下とする理由は、ディンプル貫通率が15%を超えてしまうと、空孔3のサイズが大きいことから放熱板におけるディンプル板1の断面比率(すなわちInvar比)を大きくすることができず、板面方光の熱膨張係数が低い放熱板を提供できなくなるためである。なお、空孔3を形成しない両面ディンプル板1aは、当然ながらディンプル貫通率が15%以下となる。
【0061】
ところで、例えば、放熱板に大きさが数mm程度の半導体素子を搭載する場合に、ディンプル2(あるいは空孔3)のピッチが所定値以上の場合を想定すると、半導体素子の放熱板への搭載場所によっては、半導体素子で発生した熱を適切に放熱することができない場合がある。つまり、ディンプル2(あるいは空孔3)のピッチはある程度微細でないと、放熱板の厚さ方向の熱伝導率が悪化してしまう。したがって、本実施の形態においては、放熱板の厚さ方向における伝熱特性を放熱板の部分によらず略同一に維持することを目的として、複数のディンプル2(あるいは空孔3)はそれぞれ、長手方向及び幅方向において、例えば、1mm以下のピッチ、好ましくは0.7mm以下、より好ましくは0.5mm以下のピッチであって、ピッチが略均一となるように形成される。特に、放熱板を製造する際(クラッド圧延の際)に幅方向のサイズがほぼ変化しないことから、放熱板における厚さ方向の熱伝導率を高く維持し、かつ、厚さ方向の熱伝導率の分布を均一とするためにも、ディンプル2(あるいは空孔3)の幅方向のピッチは0.5mm以下に形成される。
【0062】
さて、ディンプル板1の製造方法は、大きく分けて、平板5に微細な凹凸を形成した微細凹凸板を形成する工程と、微細凹凸板を平ロールで圧延してディンプル板1を形成する工程とからなる。
【0063】
ここで、本実施の形態に係るディンプル板の製造方法を説明するに先立ち、微細凹凸板を形成する工程に用いる微細凹凸板の製造装置について説明する。ここでは、一例として、両面ディンプル孔付ディンプル板1b(図2(b)参照)を製造する場合を説明する。
【0064】
なお、両面ディンプル孔付ディンプル板1bを製造する場合、微細凹凸板には、平板5を貫通する空孔3が形成されることとなるが、以下、このような空孔3を有する微細凹凸板を微細多孔凹凸板と呼称する。また、同様に、微細多孔凹凸板を製造する装置を微細多孔凹凸板の製造装置と呼称する。
【0065】
図4に示すように、微細多孔凹凸板の製造装置41は、図示しない素材送りローラーと切断装置42とからなる。切断装置42では、波目形状の段付波刃を有する多段波刃を上型43および下型44に備え、これら上型43と下型44を対向配置し、上型43と下型44間に、素材となる平板5を素材送りローラーから所定周期で間欠的に送り込むようにされる。
【0066】
図5に示すように、上方に配置された上型43は、波目形状(凹凸波形状)の段刃を有する複数(図5では5段)の段付波刃6a〜6eを、その波目形状が1/5〜1/2ピッチずつずれるように平板5の送り込み方向に階段状の多段波刃6からなる。各段付波刃6a〜6eの段幅は、製造する微細多孔凹凸板45の刻み幅Wと等しく形成されている。
【0067】
また、下方に配置された下型44は、上型43と同様に、波目形状(凹凸波形状)の段刃を有する複数(図5では5段)の段付波刃7a〜7eを、その波目形状が1/5〜1/2ピッチずつずれるように平板5の送り込み方向に階段状の多段波刃7からなる。
【0068】
本実施の形態では、多段波刃6,7を、5段の段付波刃6a〜6e,7a〜7eとした場合を説明するが、段付波刃の数はこれに限らない。
【0069】
なお、本実施の形態では、Invar合金からなるディンプル板1を製造するため、平板5としてInvar合金からなるものを用いるが、平板5の材質としては、特に規定するものではなく、基本的には、延性のある金属材、例えば、銅、アルミニウム、鉄、チタン、ニッケル、ニオブ、金、銀、およびInvar(Fe−36Ni)等や、それらの合金系等を用いてもよい。また、金属に限らず、延性のある材料であれば、プラスチック、セラミック成形素材等も加工は可能である。つまり、ここでは放熱板に用いるディンプル板1を製造する場合を説明するが、本発明のディンプル板の製造方法で製造するディンプル板1の用途はこれに限定されるものではなく、様々な用途に用いることが可能である。
【0070】
次に、本実施の形態に係るディンプル板の製造方法について説明する。
【0071】
本実施の形態に係るディンプル板の製造方法では、まず、図4(a)に示すように、素材送りローラーにより加工素材となる平板5を、切断装置42の上型43と下型44間(すなわち多段波刃6,7間)に、多段波刃6,7の階段状の傾斜方向(図4(a)では右上から左下の方向)に送り込み、図4(b)に示すように、平板5を多段波刃6,7で上下からプレス(嵌合成形)する。
【0072】
プレスの際の変形状態を図5に詳しく示す。図5は、上型43と下型44とそれにより成形した微細多孔凹凸板45(平板5の変形部位)を示すものであり、上下の多段波刃6,7を開き、平板5と平板5の一部に成形された微細多孔凹凸板45を示したものである。
【0073】
図5に示すように、上側の多段波刃6を、下側の多段波刃7に押し付けることで、上下の多段波刃6,7間に配置された平板5を加工する。
【0074】
このとき、対向する上下の段付波刃6aと7aの押し付けにより曲げ変形部8aが形成され、段付波刃6aと7bの押し付けにより、せん断部9aが形成される。同様にして、段付波刃6bと7b、6cと7c、6dと7d、6eと7eの押し付けにより、曲げ変形部8b〜8eが順次形成され、段付波刃6bと7c、6cと7d、6dと7eの押し付けにより、せん断変形部9b〜9dが順次形成される。
【0075】
曲げ変形部8a〜8eでは、上下の多段波刃6,7の波目形状を転写した曲げ変形がなされるのに対し、せん断変形部9a〜9dでは、段付波刃6aと7b、6bと7c、6cと7d、6dと7e間のせん断(段付波刃6a〜6dの段付波刃6e側の側面でのせん断)により、ディンプル2となる凹凸(薄肉部)と空孔3とを含む凹凸編目構造が形成され、微細多孔凹凸板45となる。
【0076】
その後、図4(c)に示すように、除荷・開放すると、1ストローク分の成形が終了する。第1ストロークの成形が終了した後、図4(d)に示すように、平板5を1ストローク分送り込み、図4(d)に示すように、第1ストロークと同様にして第2ストロークの成形を行う。これを繰返すことで、無限長さの微細多孔凹凸板45が得られる。
【0077】
このように、本実施の形態では、平板5を多段波刃6,7で上下からプレスし、多段波刃6,7の上下動1ストロークで平板5に複数の凹凸を形成して微細多孔凹凸板45を形成する。以下、このような微細多孔凹凸板45の加工法を多孔傾斜プレス法と呼称する。得られた微細多孔凹凸板45は、表面に凸部が形成されるため加工前の平板5と比較して厚くなっている。
【0078】
なお、空孔3を形成しない両面ディンプル板1a(図2(a)参照)を成形する際には、平板5がせん断されてしまわない程度に、段付波刃6a〜6e,7a〜7eにギャップ(間隔)を設けるようにすればよい。
【0079】
微細多孔凹凸板の製造装置41により微細多孔凹凸板45を形成した後、図6に示すように、微細多孔凹凸板45を、上下に対向配置された平ロール46間に送り込み、平ロール46による圧延を行う。これにより、微細多孔凹凸板45の表面に形成された凸部を平滑にして平坦化し、板厚を元の素材厚(平板5の厚さ)に戻す。以上により、表面にディンプル2が形成されたディンプル板1が得られる。なお、図6では、図の簡略化のため、ディンプル1の空孔3を省略している。
【0080】
得られたディンプル板1の幅方向のピッチは、段付波刃6a〜6e,7a〜7eの波目形状のピッチと一致するが、長手方向のピッチは、ディンプル2ができる分、ディンプル比率相当長手方向に伸びたものとなる。
【0081】
ここで、本実施の形態に係るディンプル板の製造方法で微細凹凸化あるいは微細多孔化が可能な理由について説明する。
【0082】
本実施の形態では、波刃(段付波刃6a〜6e,7a〜7e)同士で平板5を成形することになる。このとき、段付波刃6a,7a間に挿入された平板5は、段付波刃6aと段付波刃7aで挟まれ、曲げ変形し、段付波刃6a,7aの波目形状を転写し成形される。その際の発生する曲げ変形力Ffは、従来のエキスパンドメタルにおける式(4)と同じで、[数5]に示す式(8)で表される。
【0083】
【数5】
【0084】
成形部の平板5側は、せん断変形で孔があき、その際の負荷は、段付波刃6a,7bで与えられ、そのせん断力(負荷力)Fhは、従来のエキスパンドメタルにおける式(1)と同じで、下式(9)で表される。
Fh=Fs=(Lw−Lh)ToτI ・・・(9)
【0085】
せん断を開始した直後では、孔の幅Lhが零に近いので、Fh=LwToτIの負荷であるが、孔が大きくなると、式(9)の負荷となる。
【0086】
結局、第1段目の段付波刃7aに負荷される力Fwは、下式(10)で表される。
Fw=Ff+Fh ・・・(10)
【0087】
本実施の形態に係るディンプル板の製造方法は、多孔傾斜プレス法による成形法、つまり多段法による成形法であり、成形のための曲げ変形力Ffは、下方の第1段目の段付波刃7aにより負荷されるために、その分の力が、成形部の平板5側(成形部と後方の平板5との接続部分)に負荷されることはなく、限界条件は成立せず、安定に網目状成形体を成形することができる。
【0088】
段付波刃6b,7b間、段付波刃6bと7c間での成形についても、同様に、式(8)〜(10)が成立する。それ以降の変形でも同様である。
【0089】
1ストロークでn段成形すれば、その分ストロークは長くなるが、荷重は、一定で、変わらない。また、網目繋ぎ部(残存橋部)で切れる心配はなく、加工速度は、n倍に増速することになる。
【0090】
従来のエキスパンドメタルの製造方法では、図15で説明したように加工限界があり、厚肉材では、E限界線よりも小さな孔ピッチLwの多孔材が製造不可能であったが、本発明の多段成形法では、そのような限界はない。
【0091】
次に、本実施の形態に係る放熱板について説明する。ここでは、ディンプル板1として、図2(b)の両面ディンプル孔付ディンプル板1bを用いた放熱板を説明する。
【0092】
本実施の形態に係る放熱板は、ディンプル板1と、ディンプル板1の表面に接合されると共に、その一部がディンプル2内に充填された伝熱板とを備える。
【0093】
ディンプル板は、伝熱板より小さい熱膨張係数を有する材料からなり、ここでは、Invar合金からなる。伝熱板は、ディンプル板1より高い熱伝導率を有する材料からなり、例えば、銅または銅合金、あるいはアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。本実施の形態では、伝熱板として銅を用いる。
【0094】
図7に示すように、本実施の形態に係る放熱板100は、Invar合金からなるディンプル板1を銅からなる伝熱板14で挟んだCIC構造に形成される。
【0095】
ディンプル板1の表面S側に配置された伝熱板14aは、ディンプル板1の表面Sに接合されると共に、表面S側に形成されたディンプル2a内に充填され、ディンプル2a内の表面に接合される。
【0096】
同様に、ディンプル板1の裏面R側に配置された伝熱板14bは、ディンプル板1の裏面Rに接合されると共に、裏面R側に形成されたディンプル2b内に充填され、ディンプル2b内の表面に接合される。
【0097】
さらに、両伝熱板14a,14bは、空孔3を介して互いに接合される。なお、図7では、図の簡略化のため空孔3を省略している。
【0098】
このようにして得られた放熱板100は、1mm以上の板厚において、厚さ方向の熱伝導率が150(W/℃・m)以上であり、かつ、板面方向の熱膨張係数が1.2×10-5(1/K)以下と、低熱膨張、高熱伝導であり、かつ、ヒートシンク材などとして十分使用可能な厚手な放熱板100を実現できる。
【0099】
放熱板100では、ディンプル板1として両面ディンプル孔付ディンプル板1b(図2(b)参照)を用いており、表面S側のディンプル2a、裏面R側のディンプル2bいずれにも、伝熱板14を構成する材料が充填されることになるため、ディンプル2と伝熱板14との接合面積を増加させ接合強度を強くすることができる。なお、ディンプル板1として両面ディンプル板1a(図2(a)参照)を用いても同様の効果が得られる。
【0100】
放熱板100を製造する際には、ディンプル板1を伝熱板14a,14bで挟み、クラッド圧延する。すると、ディンプル板1の表裏面に伝熱板14a,14bがそれぞれ接合され、かつ、伝熱板14aを構成する材料がディンプル2a内に流入してディンプル2a内の表面に接合されると共に、伝熱板14bを構成する材料がディンプル2b内に流入してディンプル2b内の表面に接合される。さらに、表面S側のディンプル2aに流入した伝熱板14aを構成する材料と、裏面R側のディンプル2bに流入した伝熱板14bを構成する材料とが空孔3を介して互いに接合され、伝熱板14a,14b同士が、空孔3を介して互いに接合され、放熱板100が得られる。
【0101】
以上説明したように、本実施の形態に係るディンプル板1では、ディンプル2の幅方向のピッチを0.5mm以下とし、平板5の表面積に対して、ディンプル2の底部にて平板5を貫通する空孔3が形成されている領域の面積の割合を15%以下としている。
【0102】
クラッド圧延の際には幅方向のピッチは変化しないため、ディンプル板1におけるディンプル2の幅方向のピッチを0.5mm以下とすることで、ディンプル板1を用いて放熱板100を製造した際に、放熱板100の厚さ方向の熱伝導率を高くし、かつ、放熱板100の厚さ方向における放熱特性を放熱板100の部分によらず均一に維持することができる。
【0103】
また、平板5の表面積に対して、ディンプル2の底部にて平板5を貫通する空孔3が形成されている領域の面積の割合を15%以下とすることで、空孔3の大きさを小さくし、放熱板100におけるディンプル2の断面比率、すなわちInvar比を大きくでき、板面方向の熱膨張係数の低い放熱板100を実現できる。
【0104】
また、本実施の形態に係るディンプル板の製造方法では、上型43および下型44を、段付波刃6a〜6e,7a〜7eを階段状の多段波刃6,7で形成し、平板5を多段波刃6,7の階段状の傾斜方向に送り込むと共に、平板5を多段波刃6,7で上下からプレスして、平板5に多段波刃6,7の上下動1ストロークで複数の凹凸を形成して微細多孔凹凸板45を形成する工程と、微細多孔凹凸板45を上下に対向配置された平ロール46間に送り込んで圧延することにより、微細多孔凹凸板45の表面を平坦化して、表面にディンプル2を有するディンプル板1を形成する工程とを備えている。
【0105】
厚さ方向の熱伝導性が良好なCu/Invar合金/Al材などの複合放熱板は、以前よりアイディアはあるが、今もって市販レベルで使われていない。これは、放熱板に適したInvar多孔板、エキスパンドメタルが製造できないからで、エキスパンドメタルには、そもそも製造上の限界があり、要求形状そのものが、市販レベルで製造できないからである。
【0106】
本発明では、エキスパンドメタルの製造方法を基本的に改善し、板厚のわりに微小ピッチのディンプル板1(微細多孔板)を製造することが可能となり、ディンプル板1の板厚を薄くすることなく微細多孔化または微細凹凸化が可能となる。
【0107】
つまり、本発明によれば、形状安定性の点で効果を発揮し、従来のエキスパンドメタルの製造方法では、厚肉の素材を加工すると、網目のつなぎ部がせん断変形で切れてしまうため、成形品の加工には制限があり、図15のE限界線以上の肉厚範囲でないと成形できないことを述べたが、本発明の製造方法では、そのような制限はなく、従来技術では加工不可能な厚肉材であっても、微細ピッチのディンプル板1の成形が可能となる。
【0108】
低熱膨張材を用いて形成したディンプル板1は、厚手でかつ微細構造であることから、ヒートシンク材などとして好適な低熱膨張で高熱伝導な放熱板100を得ることが可能となり、その適用効果が大きい。さらには、本発明によれば、複合材化して放熱板100を製造する際に、表面高熱伝導材である伝熱板14が、空孔3内にメタルフローし易い多孔体構造のディンプル板1が得られる。つまり、本発明によれば、強度のある平板5に微細多数のディンプル2があり、金属複合化の際に板厚方向にメタルフローし易い、微小孔(空孔3)を有するディンプル板1を実現できる。
【0109】
また、本発明によれば、形状安定性の点で効果があるのみでなく、生産性の点でも効果を発揮する。従来の波刃と平刃を用いて1条ずつ刻みを入れる製造方法に対して、本実施の形態では、刻み幅W相当の厚さを有する段付波刃6a〜6e,7a〜7eを備えた多段波刃6,7を用い、多段波刃6,7同士で、多条の刻みを1ストロークで成形するもので、加工速度は、使用する段付波刃6a〜6e,7a〜7eの枚数倍となり、生産性の極めて高い製造が可能となる。
【0110】
例えば、50枚の段付波刃6a〜6e,7a〜7eを備えた多段波刃6,7として用いることで、1ストロークで成形できる長さを、50倍に改善でき、加工速度もその比率で高速化できる。この効果は、特に従来技術では生産性が落ちてしまう微細ピッチのディンプル板1(微細多孔板)で効果が大きく、大サイズ品でも同様の効果が期待できる。
【0111】
次に本発明の他の実施の形態を説明する。
【0112】
上記実施の形態では、多孔傾斜プレス法で微細多孔凹凸板45を形成することにより、微細多孔で底肉厚の薄いディンプル2を有するディンプル板1を製造する場合を説明したが、微細多孔凹凸板45は、圧延加工によって成形することも可能である。以下、微細多孔凹凸板45を圧延加工により形成する方法を多孔溝付け圧延法と呼称する。
【0113】
多孔溝付け圧延法では、図8に示すような微細多孔凹凸板の製造装置51を用いて微細多孔凹凸板45を形成する。
【0114】
微細多孔凹凸板の製造装置51は、円周面上に波目形状の刃を有する段付波刃52a,53aを階段状に多段に形成した2つの多段波刃ロール52,53を形成すると共に、これら2つの多段波刃ロール52,53を上下に対向配置してなる。
【0115】
つまり、微細多孔凹凸板の製造装置51は、図4,5で説明した微細多孔凹凸板の製造装置41における階段状の多段波刃6,7をロール円周面上に形成した多段波刃ロール52,53を上下に対向配置したものであり、上下の多段波刃ロール52,53を嵌合させた状態で圧延することにより、図5と同様の微細多孔凹凸板45を形成できるものである。
【0116】
微細多孔凹凸板の製造装置51を用いて微細多孔凹凸板45を形成する際には、上下の多段波刃ロール52,53間に平板5を送り込み、平板5を多段波刃ロール52,53に形成された段付波刃52a,53aで順次上下からプレスして、平板5に連続的に凹凸を形成して微細多孔凹凸板45を形成する。
【0117】
上方の段付波刃52aを、下方の段付波刃53aに押し付けることで、その間に挿入された平板5を加工し、対向する上下の段付波刃52aと53aの押し付けで曲げ変形部が形成され、上方の段付波刃52aと次の段の下方の段付波刃53aとの押し付けでせん断変形部9が形成される。以上により、微細多孔凹凸板45が圧延法で製造できることになる。
【0118】
得られた微細多孔凹凸板45を、図6と同様に、平ロール46で圧延することにより、微細多孔のディンプル板1を製造することができる。
【0119】
多孔溝付け圧延法では、上述の多孔傾斜プレス法と同様に、曲げによる曲げ変形とせん断変形による薄肉化穿孔の変形を隣り合わせ、これらを互い違いに行うことにより、微細多孔凹凸板45の成形を可能としている。せん断部の上下の段付波刃52a,53aのギャップは、5/100mm以下になるようにしてやることが重要である。
【0120】
多孔溝付け圧延法でも、多孔傾斜プレス法と同様に、微細多孔凹凸板45を形成でき、ディンプル板1を製造することができるが、生産性の面では、完全に連続的に作業ができ、加工速度を上げることが可能な多孔溝付け圧延法の方が効率がよい。一方、寸法精度の面では多孔傾斜プレス法の方が良好となる。よって、用途に応じていずれかの加工法を選択するようにすればよい。
【実施例】
【0121】
本発明の実施にあたり、ディンプル板1の製造工程を図9に示す。
【0122】
図9に示すように、平板(素材平板)5は、まず、多孔傾斜プレス、あるいは、多孔溝付け圧延により、微細多孔凹凸板45に加工され、その後、平滑化圧延を行い、微細多孔のディンプル板1とされる。
【0123】
素材の平板5としては、材質としてInvar合金(Fe−36mass%Ni)を用い、板厚0.2mmと0.3mm、幅50mmの平板を用いた。
【0124】
多孔傾斜プレス法については、図4,5に示す微細多孔凹凸板の製造装置41を用い、段付波刃の長手方向ピッチを0.2mmとし、これを50山階段状のトータル10mmの多段波刃6,7の一体型(上型43、下型44)を用いてプレスを行った。したがって、1ストロークで10mm成形でき、ストローク毎に10mmの素材送りを多段波刃6,7の階段状の傾斜方向に入れることで、連続的な成形ができ、数mから数十mの網目状の微細多孔凹凸板45を形成することができた。多段波刃6,7のプレスにより、成形厚は、平板5の約2倍となり、それを図6に示すように平ロール46で圧延し、もとの素材厚(平板5の厚さ)まで戻すと共に、表面の凹凸を平滑にし、微細多孔のディンプル板1を製作した。
【0125】
また、多孔溝付け圧延法では、多孔傾斜プレス法の多段波刃6,7と同じ幅方向、長手方向ピッチ、同じ波目形状の多段波刃を有する多段波刃ロール52,53を製作し、それにより、溝付け、穿孔ロール圧延を行った。多段波刃ロール52,53としては、外径φ50mmで、円周方向に0.2mmピッチ、785山の段付波刃を有するものを用いた。この多段波刃ロール52,53により、網目状の微細多孔凹凸板45を製作し、引き続き、図6の平ロール46による圧延を行い、微細多孔のディンプル板1を製作した。
【0126】
表1に、本発明の多孔傾斜プレス法および多孔溝付け圧延法で製作した微細多孔凹凸板45、ディンプル板1(実施例)、そして従来のエキスパンド微細多孔板(従来例)とを比較した結果を示す。なお、表1における送りピッチW、幅ピッチLw、長ピッチSw、素材板厚To、成形板厚T2がどの部分の長さであるかを、図10(a),(b)に示している。
【0127】
【表1】
【0128】
表1に示すように、本発明の実施例では、Invar合金からなる平板5として板厚が0.2mm、0.3mmと厚いものを用い、波刃ピッチ(幅ピッチLw)を0.5mmと小さくした場合であっても、安定した形状の微細多孔凹凸板45、ディンプル板1を形成でき、所要の寸法の微細多孔凹凸板45、ディンプル板1を形成できた。
【0129】
一方、従来のエキスパンド成形を用いた従来例では、繋ぎ部(接続部)が切れてしまい正常な成形は不可能であった。
【0130】
従来のエキスパンドメタルの製品サイズ(図15)と比較して、本発明で作成した微細多孔凹凸板45のデータ(本発明品)を記入したものが図11である。図11に示すように、本発明によれば、E限界線を越えた領域でも正常な成形が可能であることがわかる。エキスパンド成形を用いた従来例では、計算通りに、加工限界であるE限界線を越えたサイズは実現できなかった。
【0131】
このように、本発明によれば、従来技術では加工不可能な厚肉材であっても、微細ピッチのディンプル板1の成形が可能となる。なお、本実施例では、プレス法では、段付波刃数50山の多段波刃6,7を用い、圧延法では、φ50mmの多段波刃ロール52,53を用いた場合を説明したが、その数およびサイズは規定されるものではなく、さらに大きくし、生産性を上げることも可能である。
【0132】
次に、本発明のディンプル板の製造方法で製作したInvar合金からなるディンプル板1を用いて、放熱板100を製作し、その特性評価を行った。
【0133】
図7に示すように、幅ピッチLw=0.5mm、成形板厚T2=0.2mmのディンプル板1を、板厚0.2mmのCuからなる伝熱板14で上下方向から挟んでクラッド圧延し、CIC構造となる放熱板100を製作した。
【0134】
具体的な製作は、70%程度の加工度で冷間圧延を行った後、Invar合金とCuの界面に金属間化合物を形成しないように、約600℃で拡散熱処理を行った。これにより、上下に配置した伝熱板14同士がディンプル板1の空孔3内において接合する。最終的な放熱板100の板厚は0.2mmであった。
【0135】
また、さらに、応用実施例として、ディンプル板1のピッチを微細にしたもの、伝熱板14の厚さを薄くし、それに合わせ、70%程度の加工度は変えずに仕上がり厚さを変えて放熱板100を試作した。実施例における条件は、ディンプル板1における空孔3の面積比(ディンプル貫通率)を15%以下にしており、同時に、孔ピッチ(幅方向)を0.5mm以下としている。
【0136】
また、比較例として、ディンプル貫通率を15%を超えるようにしたもの、あるいは孔ピッチ(幅方向)を0.5mmを超えるサイズとしたディンプル板を製作し、そのディンプル板を用いた放熱板の特性を調べた。
【0137】
実施例と比較例の構成および特性測定結果を表2に示す。
【0138】
【表2】
【0139】
表2に示すように、板面方向の熱膨張係数、厚さ方向の熱伝導率、および局部均一性に関して許容条件を設定した。許容条件は、板面方向の熱膨張係数は1.2×10-5(1/K)以下であること、厚さ方向の熱伝導率は170(W/℃・m)以上であることとし、局部均一性については、熱伝導率にシミュレートする特性値として、板厚方向の電気抵抗の微細分布を測定し、局部均一性の評価とし、○、×の判定をした。
【0140】
その結果、実施例、比較例ともに、厚さ方向の熱伝導率については、いずれも許容条件を満足した。また、板面方向の熱膨張係数および局部均一性の特性については、実施例は、いずれも許容条件を満足した。特に、実施例C1の0.35mmピッチのディンプル板1を用いた放熱板100については、局部均一性が特に良好で、二重丸の評価であった。
【0141】
比較例については、板面方向の熱膨張係数、局部均一性の特性のどちらかが許容条件を満たさないという結果であった。孔ピッチを0.7mmと大きくした比較例H1,H3では、共に局部均一性が不十分で、局部的に電気抵抗が大きくなる箇所があり、厚さ方向の熱伝導率分布が均一でないと予測される。ディンプル貫通率を15%よりも大きくした比較例H2,H3では、結果的にディンプル比率が大きくなってしまい、放熱板におけるInvar比率が小さくなり、板面方向の熱膨張係数が1.4×10-5(1/K)以上となってしまい許容条件を満足しなかった。
【0142】
以上より、板面方向の熱膨張係数、厚さ方向の熱伝導率、および局部均一性を共に満足した放熱板100を得るためには、0.5mmピッチ以下であると同時に、空孔3の面積比(ディンプル貫通率)が15%以下のディンプル板1を用いる必要がある。
【符号の説明】
【0143】
1 ディンプル板
2 ディンプル
3 空孔
5 平板
【技術分野】
【0001】
本発明は、低熱膨張、高熱伝導の複合放熱板のコアに用いるディンプル板およびその製造方法、並びにそれを用いた放熱板およびその製造方法に係り、特に、エキスパンドメタルの欠点である製造時の作業性の悪さを改善し、高速に製造可能であり、低価格で、高特性となるディンプル板およびその製造方法、並びに放熱板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、多孔板、あるいは網目状板として、エキスパンドメタルが知られており、規格としても、JIS−G3351「エキスパンドメタル Expanded Metals」にて規定され、多方面に応用されている。
【0003】
エキスパンドメタルの特徴は、パンチングメタルと異なり、製造時に打抜き屑が出ないために製造歩留りがよく、素材の100%を製品にできる点にある。
【0004】
エキスパンドメタルのメッシュ形状(網目形状)の一例を図12(a)〜(c)に示す。
【0005】
図12(a)〜(c)に示すように、エキスパンドメタル71の孔72は菱形、あるいは亀型状となっており、その表面および断面は、段差73が付いた形状となっている。
【0006】
図13(a)〜(f)に示すように、従来のエキスパンドメタルの製造方法では、波目状の刃を有する波刃81を上方に、平刃82を下方に配置し、これら波刃81と平刃82を用いて、素材となる平板83を順次刻んで孔72を形成し、多孔板、すなわちエキスパンドメタル71を製造している。
【0007】
従来のエキスパンドメタルの製造装置80は、素材送りローラー84と切断装置85とからなり、切断装置85では、下方に固定された平刃82に対し、上方に配置された波目状の波刃81を、上下方向と横方向(図示左奥から右手前の方向)へ移動できるように構成されている。
【0008】
このエキスパンドメタルの製造装置80を用いてエキスパンドメタル71を製造する際は、図13(a)に示すように、まず、波刃81と平刃82間に素材送りローラー84から平板83を送込み、図13(b)に示すように、波刃81を下降させて平板83を波刃81と平刃82間でせん断する。このとき、平板83を完全に切断しないように波刃81を途中で止める。これにより、平板83に一定間隔で刻みを入れ、それと同時に平板83を、波刃81の波形状(波目状)に成形する。
【0009】
その後、図13(c)に示すように、波刃81を上昇させた後、図13(d)に示すように、素材送りローラー84により平板83を送込み(素材送りローラー84で送りを入れ)、同時に、波刃81を、波目形状のピッチ(波ピッチ)pに対して半ピッチ(p/2)横方向に移動する。そして、図13(e),(f)に示すように、同様に、波刃81を下降させて平板83に刻みを入れ、平板83を波目状に成形する。
【0010】
その後、再び素材送りローラー84により平板83を送込み、波刃81の横方向の位置を半ピッチ元に戻し、平板83に一定間隔の刻みを入れ、平板83を波目状に成形する。これを連続的に繰り返すことで、エキスパンドメタル71が製造される。以上が、エキスパンドメタル71の基本的な製造方法である。
【0011】
エキスパンドメタル71の網目(メッシュ)の形状は、その製造方法に直接関係しており、素材である平板83の板厚Toに対し、メッシュの微細幅(刻み幅)Wは、素材送りローラー84による平板83の送り量(送りピッチ)と等しくなり、平板83の送込み方向での隣同士の孔72の接続幅(孔72の周囲の枠体の幅)は2Wとなる。メッシュの幅方向ピッチ(山ピッチ)Lwは、波刃81の波ピッチpと等しくなる。また、メッシュの長手方向ピッチSwは、波刃81の送込み量(波刃81をせん断時にどれだけ下降させるか)に対応することとなる。
【0012】
このように、エキスパンドメタル71は、多孔板を製造する際の歩留りがよく、効率的な加工が可能であるが、欠点もある。それは、上述の製造方法と関係し、従来のエキスパンドメタル71では、その表面に段差73がついており、板厚Toに対し、大きい孔72の形状となる点である。すなわち、従来のエキスパンドメタルの製造方法では、板厚Toに対し、微細な孔72を有する微細多孔板を製造することができないという問題がある。また、刻みを1条ずつ入れるために、製造速度が遅く、加工能率が落ちるという問題もある。
【0013】
JIS−G3351は、一般には、板厚Toに対し、孔サイズ(幅方向ピッチLw)が10〜100倍と大きい網状の多孔板を作る方法であるが、その開孔率が問題となる。つまり、従来、孔サイズが板厚Toの10〜100倍と大きい網状の多孔板であれば製造は可能であるが、板厚Toに対し孔サイズが小さい微細多孔板は製造するのが難しい。微小な孔サイズを有する多孔板としては、非特許文献1に記載されている程度であり、その孔サイズは、板厚Toの5倍以上であった。
【0014】
ここで、エキスパンドメタル71の孔形状について、さらに考察する。
【0015】
エキスパンドメタル71の形状は、図12(a)〜(c)に示すごとくで、その製造方法は、図13(a)〜(f)で説明した通り、平板83を、下方に固定した平刃82に対し、上方に配置した波刃81をピッチ毎(平板83を送込む毎)に左右に動かしながら、交互に打ち抜くことで、網目状の多孔板すなわちエキスパンドメタル71を成形するものである。しかし、板厚Toのわりに微細な孔サイズのエキスパンドメタル71を成形しようとする場合、成形限界が存在する。
【0016】
図14にエキスパンドメタル71の切断成形部の略図を示す。従来のエキスパンドメタルの製造方法では、素材である平板83を平刃82と波刃81で切断成形するわけであるが、波刃81により波目状に成形される平板83の先端部(以下、成形部という)91の後方(平刃82側)では、波刃81の端部81aと接する部分の平板83が、平刃82に押し込まれてせん断破断し、幅Lhの孔72が形成される。このとき、平板83の波刃81の凹部に位置する部分(以下、残存橋部という)92が残存し、この残存橋部92が、成形部91と後方の平板83とを接続する。
【0017】
成形部91は、波刃81の先端部(底部)により曲げ変形を受ける。その結果、せん断によって孔72が形成されることになる。成形部91は、曲げ変形を受けるために、±の降伏応力を生じ、塑性変形する。
【0018】
板厚Toのわりに微細な孔サイズのエキスパンドメタル71における成形限界は、成形部91後方(成形部91と後方の平板83との接続部分)の残存橋部92にせん断破断が発生するか否かにより決まる。すなわち、成形部91後方の残存橋部92のせん断力と成形部91の曲げ変形力の大小により、成形限界は決まる。
【0019】
1ピッチ当たりの平板83側の残存橋部92のせん断力Fsは、下式(1)で表される。
Fs=(Lw−Lh)ToτI ・・・(1)
但し、Lw:メッシュの幅方向ピッチ
Lh:孔の幅
To:板厚
τI:素材(平板)のせん断応力
【0020】
1ピッチ当たりの成形部91の曲げ変形力をFbとすると、曲げ中央部のモーメントMは、下式(2)で表される。
M=Fb/2×Lh/2=Fb×Lh/4 ・・・(2)
【0021】
また、ミーゼスの降伏条件より、曲げ中央部のモーメントMは、[数1]に示す式(3)で表される。
【0022】
【数1】
【0023】
式(2)および式(3)から、成形部91の曲げ変形力Fbは、[数2]に示す式(4)で表される。
【0024】
【数2】
【0025】
エキスパンドメタル71が正常に成形できる条件は、下式(5)で表される。
Fs>Fb ・・・(5)
【0026】
したがって、その限界条件は、式(5)に式(1),(4)を代入すると、[数3]に示す式(6)で表される。
【0027】
【数3】
【0028】
通常、送りピッチ(刻み幅W)は、平板83の板厚Toとほぼ等しいことから、W=Toとすると、式(6)は[数4]に示す式(7)のようになる。
【0029】
【数4】
【0030】
すなわち、従来のエキスパンドメタルの製造方法では、どのような網目形状でも形成できるわけではなく、平板83の板厚Toが限定されており、平板83の板厚Toの限界値はメッシュの幅方向ピッチLwと比例関係にある。つまり、メッシュの幅方向ピッチLwが小さいエキスパンドメタル71を製造しようとすると、平板83の板厚Toの限界値も小さくなり、板厚Toが大きい厚肉材ではメッシュの幅方向ピッチLwが小さいエキスパンドメタル71、すなわち微細多孔板を製造できないということとなる。
【0031】
図15に、JIS市販品(JIS市販)と、市販されている微小エキスパンドメタルとして非特許文献2のエキスパンドメタル(微細市販)における板厚Toと幅方向ピッチLwの関係を示す。また、上述の式(7)より得られる板厚Toの限界値(E限界線)を併せて示す。図15に示すように、両者共に上述の式(7)を満足する形状範囲に入っており、板厚Toが大きなものや、幅方向ピッチLwが小さい、すなわち微細な孔を有するエキスパンドメタルは製造されていない。
【0032】
特許文献1では、従来のエキスパンドメタルの加工限界(上述の式(6)および式(7))を改善するアイデアが提案されている。特許文献1では、切断平刃の先に、上方の波刃と同期して動く波目状のバッカープレートを置く対策がなされており、これにより、上述の加工限界を改善することが可能となっている。しかし、この対策では、負荷力を補助する程度でバックアップが完全ではなく、さらなる強力な対策が必要である。
【0033】
また、特許文献2では、刻みが細かく、加工速度が上がらない点について、網目形状を2段同時に成形し、倍に加工速度を改善することが提案されている。しかし、この点に関しては、もっと桁違いの改善が必要である。
【0034】
さらに、特許文献3では、エキスパンドメタルを量産的に製造する方法として、ロール方式で、断続的なスリッターと押し広げロールを用いてエキスパンドメタルを製造する方法が述べられているが、これは、現状品のなかでも、厚さのわりに、孔サイズが大きい場合のみに適用できる製造方法であり、微細多孔板の製造には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0035】
【特許文献1】特開平1−127119号公報
【特許文献2】特開2003−33824号公報
【特許文献3】特開2007−175720号公報
【非特許文献】
【0036】
【非特許文献1】スズキテクノス株式会社、[online]、[平成21年6月19日検索]、インターネット<URL:http://www.suzuki-tkns.co.jp/product/expanded/index.html>
【非特許文献2】コスモ株式会社、[online]、[平成21年6月19日検索]、インターネット<URL:http://www.cosmo9.co.jp/zairyo_metal.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
従来技術の問題点の第1は、多孔板の形状が、目的の用途に合っていない点である。
【0038】
コアにInvar材からなるエキスパンドメタルを用いて放熱板を作製する場合、上述のエキスパンドメタルの加工限界から、幅方向の孔ピッチが大きくなり、例えば、放熱板に大きさが数mm程度の半導体素子を搭載する場合に、半導体素子の放熱板への搭載場所によっては半導体素子で発生する熱を適切に放熱することができない場合がある。
【0039】
製造方法の側面における問題点としては、生産性にあり、エキスパンドメタルでは刻みを1条ずつ入れるために加工速度が遅い点である。大きな網目形状を作るのであれば問題ないが、送りピッチ(刻み幅)が1mm以下のオーダーの微細多孔板をこの方式で製造しようとすると、極めて時間がかかり、結果的に高価なものとなってしまう。安価な微細多孔板を製造するためには、高速化が必須である。パンチングメタルでは、多孔を1ストロークで打ち抜くことも可能であるが、この場合には、打抜き屑のため、生産上の歩留りが問題である。また、パンチングメタルでは、孔入口部はエッジとなっており、孔中へのメタルフローを確保することが難しい。
【0040】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、低熱膨張、高熱伝導の複合放熱板のコアに用いる微細多孔板の構造とその効率的な製造方法を提供することで、形状的には、板厚のわりに微小ピッチで、小サイズの多孔でありながら、複合材化する際に、表面高熱伝導材が、コア孔内にメタルフローし易い構造のディンプル板およびその製造方法、並びに放熱板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0041】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、平板の表面に、前記平板の長手方向と幅方向に所定のピッチで形成された複数のディンプルを有するディンプル板において、前記ディンプルの幅方向のピッチが0.5mm以下であり、前記平板の表面積に対して、前記ディンプルの底部にて前記平板を貫通する空孔が形成されている領域の面積の割合が15%以下であるディンプル板である。
【0042】
請求項2の発明は、請求項1に記載のディンプル板と、該ディンプル板の表面に接合されると共に、その一部が前記ディンプル内に充填された伝熱板とを備えた放熱板である。
【0043】
請求項3の発明は、波目形状の刃を有する波刃を上型および下型に備え、これら上型と下型を対向配置し、前記上型と前記下型間に平板を送り込むと共に、前記平板を前記上型の波刃と前記下型の波刃で上下からプレスして、前記平板を波目形状に成形してディンプル板を製造する方法であって、前記上型および下型は、階段状の段付波刃からなる多段波刃を有し、前記平板を前記多段波刃の階段状の傾斜方向に送り込むと共に、前記平板を前記多段波刃で上下からプレスして、前記平板に前記多段波刃の上下動1ストロークで複数の凹凸を形成して微細凹凸板を形成する工程と、前記微細凹凸板を上下に対向配置された平ロール間に送り込んで圧延することにより、前記微細凹凸板の表面を平坦化して、表面にディンプルを有するディンプル板を形成する工程とを備えたディンプル板の製造方法である。
【0044】
請求項4の発明は、円周面上に波目形状の段付波刃を有する2つの多段波刃ロールを形成すると共に、これら2つの多段波刃ロールを上下に対向配置し、その上下の多段波刃ロール間に平板を送り込んで、前記平板を圧延すると共に、前記平板を前記多段波刃ロールに形成された前記段付波刃で順次上下からプレスして、前記平板に連続的に凹凸を形成して微細凹凸板を形成する工程と、前記微細凹凸板を上下に対向配置された平ロール間に送り込んで圧延することにより、前記微細凹凸板の表面を平坦化して、表面にディンプルを有するディンプル板を形成する工程とを備えたディンプル板の製造方法である。
【0045】
請求項5の発明は、請求項3または4に記載のディンプル板の製造方法により製造された前記ディンプル板の表面に、伝熱板をクラッド圧延により接合し、前記ディンプルの中に伝熱板の一部を充填する放熱板の製造方法である。
【0046】
請求項6の発明は、前記ディンプル板は、前記伝熱板より小さい熱膨張係数を有する材料からなり、前記伝熱板は、前記ディンプル板より高い熱伝導率を有する材料からなる請求項5記載の放熱板の製造方法である。
【発明の効果】
【0047】
本発明のディンプル板によれば、このディンプル板を用いて製造する放熱板の厚さ方向の熱伝導率を高くし、かつ、放熱板の厚さ方向における放熱特性を放熱板の部分によらず均一に維持することができ、さらに、Invar比が大きく、板面方向の熱膨張係数が低い放熱板を実現できる。
【0048】
本発明のディンプル板の製造方法によれば、低熱膨張、高熱伝導の複合放熱板のコアに用いる微細多孔板に好適な構造のディンプル板を効率的に製造可能となり、形状的には、板厚のわりに微小ピッチで、小サイズの多孔でありながら、複合材化する際に、表面高熱伝導材が、コア孔内にメタルフローし易い構造のディンプル板を高い生産性で製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施の形態に係るディンプル板を示す斜視図であり、(a)は略三角形状のディンプルを備えた両面ディンプル孔付ディンプル板の斜視図であり、(b)は略六角形状のディンプルを備えた両面ディンプル孔付ディンプル板の斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るディンプル板の断面図であり、(a)は両面ディンプル板、(b)は両面ディンプル孔付ディンプル板の断面図である。
【図3】両面ディンプル孔付ディンプル板の外観を示す写真であり、(a)は略三角形状のディンプルを備えた両面ディンプル孔付ディンプル板の写真であり、(b)は略六角形状のディンプルを備えた両面ディンプル孔付ディンプル板の写真である。
【図4】(a)〜(d)は、本発明の一実施の形態に係るディンプル板の製造方法を説明する図であり、多孔傾斜プレス法により微細多孔凹凸板を形成する工程を説明する図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係るディンプル板の製造方法を説明する図であり、多孔傾斜プレス法により微細多孔凹凸板を形成する工程を説明する図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係るディンプル板の製造方法を説明する図であり、平ロール圧延により微細多孔凹凸板からディンプル板を形成する工程を説明する図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る放熱板の分解斜視図である。
【図8】本発明の一実施の形態に係るディンプル板の製造方法を説明する図であり、多孔溝付け圧延法により微細多孔凹凸板を形成する工程を説明する図である。
【図9】実施例におけるディンプル板の製造工程を説明する図である。
【図10】本発明において、送りピッチW、幅ピッチLw、長ピッチSw、素材板厚To、成形板厚T2がどの部分の長さであるかを示す図であり、(a)は微細多孔凹凸板,(b)はディンプル板を示す図である。
【図11】実施例の微細多孔凹凸板の孔形状を、従来のエキスパンドメタルの孔形状(板厚Toと幅方向ピッチLwの関係)と成形限界を示すグラフ図に書き込んだものである。
【図12】従来のエキスパンドメタルを示す図であり、(a)は平面図、(b)はその拡大図、(c)は12C−12C線断面図である。
【図13】(a)〜(f)は、従来のエキスパンドメタルの製造方法を説明する図である。
【図14】従来のエキスパンドメタルの変形状態(成形限界)を説明する図である。
【図15】従来のエキスパンドメタルの孔形状(板厚Toと幅方向ピッチLwの関係)と成形限界を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0051】
まず、本実施の形態に係る放熱板に用いるディンプル板について図1,2を用いて説明する。
【0052】
図1に示すように、ディンプル板1は、平板5の表面に、平板5の長手方向と幅方向に所定のピッチで形成された複数の凹状のディンプル(凹み、窪み)2を有して形成される。ディンプル板1は、平板5にディンプル2を多数形成した構造であることから、微細多孔板とも呼ばれる。なお、図1では表されていないが、ディンプル板1は長尺に形成されており、上述の長手方向とはその長尺の形状における長手方向をいい、幅方向とは長尺の形状における幅方向(長手方向と垂直な方向)をいう。また、詳細は後述するが、長手方向は、ディンプル板1を製造する際の平板5の送り込み方向である。
【0053】
ディンプル板1は、後述する伝熱板を構成する材料の熱膨張係数より小さい熱膨張係数(線膨張係数)を有する材料、すなわち低熱膨張材から形成される。具体的には、ディンプル板1は、Invar合金(インバー合金)から形成され、Fe−36mass%Ni、Fe−36.5mass%Ni、Fe−32mass%Ni−5mass%Coからなるスーパーインバー(Super Invar)材、Fe−54mass%Co−9.5mass%Cr等を用いることができる。
【0054】
ディンプル2は当該ディンプル2が形成されている平板5の板厚よりも、薄い肉厚を有して形成される。ディンプル板1では、ディンプル2が形成されている部分が薄肉な薄肉部となっている。なお、ディンプル板1としては、平板5の板厚よりも薄い厚さの複数の薄肉部を有すると共に、薄肉部のピッチが所定のピッチ以下であればよく、ディンプル2の形状は、凹状(すなわち、ディンプル板1を貫通する孔を有さない状態)、孔状(すなわち、ディンプル板1を貫通する孔を有する形態)等に限られない。
【0055】
ディンプル板1の形態には、以下のような形態を挙げることができる。
【0056】
図2(a)に示すディンプル板1aは、表面Sに複数のディンプル2を有すると共に、裏面Rにも複数のディンプル2を有する。ただし、表面Sに形成されるディンプル2aと裏面Rに形成されるディンプル2bとはディンプル板1aを構成する材料により隔離されている。すなわち、ディンプル板1aにおいてディンプル2aとディンプル2bとは、各々隔たれた状態に保たれる(以下、図2(a)のようなディンプル板1aを「両面ディンプル板1a」ということがある)。
【0057】
また、図2(b)に示すディンプル板1bは、表面Sに複数のディンプル2を有すると共に、裏面Rにも複数のディンプル2を有する。さらに、ディンプル板1bにおいては、表面Sに設けられるディンプル2aと裏面Rに設けられるディンプル2bとが、それぞれの底部近傍において空孔3を介して接続されている。すなわち、ディンプル2aとディンプル2bとは、ディンプル板1bを貫通する空孔3を介して接続されている(以下、図2(b)のようなディンプル板1bを「両面ディンプル孔付ディンプル板1b」ということがある)。なお、図1では、この両面ディンプル孔付ディンプル板1bを示しており、図1(a)は略三角形状のディンプル2を備えた両面ディンプル孔付ディンプル板1b、図1(b)は略六角形状のディンプルを備えた両面ディンプル孔付ディンプル板1bを示している。
【0058】
図3は、ディンプル板1(両面ディンプル孔付ディンプル板1b)の外観を示す写真である。図3(a)に示すディンプル板1のディンプル2の平面視における形状(以下、単に「ディンプル板面形状」という)は、略三角形状である。ディンプル板面形状としては、三角形状に限られず、円形、楕円形等の円弧を有する形状、四角形、六角形、八角形などの多角形状等の形状にすることもできる。また、図3(b)に略六角形状のディンプル2を備えた両面ディンプル孔付ディンプル板1bの写真を示す。ディンプル板面形状は、製造の容易さの観点からは略六角形状にすることが好ましい。
【0059】
また、ディンプル板1では、放熱板の放熱特性を確保することを目的として、ディンプル板1の表面におけるディンプル2の占める割合、すなわちディンプル板1の表面積に対してディンプル2が形成されている領域の面積の割合(以下、「ディンプル占有率」ということがある)は、30%以下にすることが好ましい。
【0060】
さらに、ディンプル板1のディンプル2に空孔3を設ける場合、当該空孔3は、平面視にて、ディンプル2がディンプル板1の表面に占める面積の半分以下の面積を占めることが好ましい。本実施の形態に係るディンプル板1では、平板5の表面積に対して、ディンプル2の底部にて平板5を貫通する空孔3が形成されている領域の面積(つまり空孔3の投影面積)の割合(以下、「ディンプル貫通率」ということがある)が15%以下とされる。ディンプル貫通率を15%以下とする理由は、ディンプル貫通率が15%を超えてしまうと、空孔3のサイズが大きいことから放熱板におけるディンプル板1の断面比率(すなわちInvar比)を大きくすることができず、板面方光の熱膨張係数が低い放熱板を提供できなくなるためである。なお、空孔3を形成しない両面ディンプル板1aは、当然ながらディンプル貫通率が15%以下となる。
【0061】
ところで、例えば、放熱板に大きさが数mm程度の半導体素子を搭載する場合に、ディンプル2(あるいは空孔3)のピッチが所定値以上の場合を想定すると、半導体素子の放熱板への搭載場所によっては、半導体素子で発生した熱を適切に放熱することができない場合がある。つまり、ディンプル2(あるいは空孔3)のピッチはある程度微細でないと、放熱板の厚さ方向の熱伝導率が悪化してしまう。したがって、本実施の形態においては、放熱板の厚さ方向における伝熱特性を放熱板の部分によらず略同一に維持することを目的として、複数のディンプル2(あるいは空孔3)はそれぞれ、長手方向及び幅方向において、例えば、1mm以下のピッチ、好ましくは0.7mm以下、より好ましくは0.5mm以下のピッチであって、ピッチが略均一となるように形成される。特に、放熱板を製造する際(クラッド圧延の際)に幅方向のサイズがほぼ変化しないことから、放熱板における厚さ方向の熱伝導率を高く維持し、かつ、厚さ方向の熱伝導率の分布を均一とするためにも、ディンプル2(あるいは空孔3)の幅方向のピッチは0.5mm以下に形成される。
【0062】
さて、ディンプル板1の製造方法は、大きく分けて、平板5に微細な凹凸を形成した微細凹凸板を形成する工程と、微細凹凸板を平ロールで圧延してディンプル板1を形成する工程とからなる。
【0063】
ここで、本実施の形態に係るディンプル板の製造方法を説明するに先立ち、微細凹凸板を形成する工程に用いる微細凹凸板の製造装置について説明する。ここでは、一例として、両面ディンプル孔付ディンプル板1b(図2(b)参照)を製造する場合を説明する。
【0064】
なお、両面ディンプル孔付ディンプル板1bを製造する場合、微細凹凸板には、平板5を貫通する空孔3が形成されることとなるが、以下、このような空孔3を有する微細凹凸板を微細多孔凹凸板と呼称する。また、同様に、微細多孔凹凸板を製造する装置を微細多孔凹凸板の製造装置と呼称する。
【0065】
図4に示すように、微細多孔凹凸板の製造装置41は、図示しない素材送りローラーと切断装置42とからなる。切断装置42では、波目形状の段付波刃を有する多段波刃を上型43および下型44に備え、これら上型43と下型44を対向配置し、上型43と下型44間に、素材となる平板5を素材送りローラーから所定周期で間欠的に送り込むようにされる。
【0066】
図5に示すように、上方に配置された上型43は、波目形状(凹凸波形状)の段刃を有する複数(図5では5段)の段付波刃6a〜6eを、その波目形状が1/5〜1/2ピッチずつずれるように平板5の送り込み方向に階段状の多段波刃6からなる。各段付波刃6a〜6eの段幅は、製造する微細多孔凹凸板45の刻み幅Wと等しく形成されている。
【0067】
また、下方に配置された下型44は、上型43と同様に、波目形状(凹凸波形状)の段刃を有する複数(図5では5段)の段付波刃7a〜7eを、その波目形状が1/5〜1/2ピッチずつずれるように平板5の送り込み方向に階段状の多段波刃7からなる。
【0068】
本実施の形態では、多段波刃6,7を、5段の段付波刃6a〜6e,7a〜7eとした場合を説明するが、段付波刃の数はこれに限らない。
【0069】
なお、本実施の形態では、Invar合金からなるディンプル板1を製造するため、平板5としてInvar合金からなるものを用いるが、平板5の材質としては、特に規定するものではなく、基本的には、延性のある金属材、例えば、銅、アルミニウム、鉄、チタン、ニッケル、ニオブ、金、銀、およびInvar(Fe−36Ni)等や、それらの合金系等を用いてもよい。また、金属に限らず、延性のある材料であれば、プラスチック、セラミック成形素材等も加工は可能である。つまり、ここでは放熱板に用いるディンプル板1を製造する場合を説明するが、本発明のディンプル板の製造方法で製造するディンプル板1の用途はこれに限定されるものではなく、様々な用途に用いることが可能である。
【0070】
次に、本実施の形態に係るディンプル板の製造方法について説明する。
【0071】
本実施の形態に係るディンプル板の製造方法では、まず、図4(a)に示すように、素材送りローラーにより加工素材となる平板5を、切断装置42の上型43と下型44間(すなわち多段波刃6,7間)に、多段波刃6,7の階段状の傾斜方向(図4(a)では右上から左下の方向)に送り込み、図4(b)に示すように、平板5を多段波刃6,7で上下からプレス(嵌合成形)する。
【0072】
プレスの際の変形状態を図5に詳しく示す。図5は、上型43と下型44とそれにより成形した微細多孔凹凸板45(平板5の変形部位)を示すものであり、上下の多段波刃6,7を開き、平板5と平板5の一部に成形された微細多孔凹凸板45を示したものである。
【0073】
図5に示すように、上側の多段波刃6を、下側の多段波刃7に押し付けることで、上下の多段波刃6,7間に配置された平板5を加工する。
【0074】
このとき、対向する上下の段付波刃6aと7aの押し付けにより曲げ変形部8aが形成され、段付波刃6aと7bの押し付けにより、せん断部9aが形成される。同様にして、段付波刃6bと7b、6cと7c、6dと7d、6eと7eの押し付けにより、曲げ変形部8b〜8eが順次形成され、段付波刃6bと7c、6cと7d、6dと7eの押し付けにより、せん断変形部9b〜9dが順次形成される。
【0075】
曲げ変形部8a〜8eでは、上下の多段波刃6,7の波目形状を転写した曲げ変形がなされるのに対し、せん断変形部9a〜9dでは、段付波刃6aと7b、6bと7c、6cと7d、6dと7e間のせん断(段付波刃6a〜6dの段付波刃6e側の側面でのせん断)により、ディンプル2となる凹凸(薄肉部)と空孔3とを含む凹凸編目構造が形成され、微細多孔凹凸板45となる。
【0076】
その後、図4(c)に示すように、除荷・開放すると、1ストローク分の成形が終了する。第1ストロークの成形が終了した後、図4(d)に示すように、平板5を1ストローク分送り込み、図4(d)に示すように、第1ストロークと同様にして第2ストロークの成形を行う。これを繰返すことで、無限長さの微細多孔凹凸板45が得られる。
【0077】
このように、本実施の形態では、平板5を多段波刃6,7で上下からプレスし、多段波刃6,7の上下動1ストロークで平板5に複数の凹凸を形成して微細多孔凹凸板45を形成する。以下、このような微細多孔凹凸板45の加工法を多孔傾斜プレス法と呼称する。得られた微細多孔凹凸板45は、表面に凸部が形成されるため加工前の平板5と比較して厚くなっている。
【0078】
なお、空孔3を形成しない両面ディンプル板1a(図2(a)参照)を成形する際には、平板5がせん断されてしまわない程度に、段付波刃6a〜6e,7a〜7eにギャップ(間隔)を設けるようにすればよい。
【0079】
微細多孔凹凸板の製造装置41により微細多孔凹凸板45を形成した後、図6に示すように、微細多孔凹凸板45を、上下に対向配置された平ロール46間に送り込み、平ロール46による圧延を行う。これにより、微細多孔凹凸板45の表面に形成された凸部を平滑にして平坦化し、板厚を元の素材厚(平板5の厚さ)に戻す。以上により、表面にディンプル2が形成されたディンプル板1が得られる。なお、図6では、図の簡略化のため、ディンプル1の空孔3を省略している。
【0080】
得られたディンプル板1の幅方向のピッチは、段付波刃6a〜6e,7a〜7eの波目形状のピッチと一致するが、長手方向のピッチは、ディンプル2ができる分、ディンプル比率相当長手方向に伸びたものとなる。
【0081】
ここで、本実施の形態に係るディンプル板の製造方法で微細凹凸化あるいは微細多孔化が可能な理由について説明する。
【0082】
本実施の形態では、波刃(段付波刃6a〜6e,7a〜7e)同士で平板5を成形することになる。このとき、段付波刃6a,7a間に挿入された平板5は、段付波刃6aと段付波刃7aで挟まれ、曲げ変形し、段付波刃6a,7aの波目形状を転写し成形される。その際の発生する曲げ変形力Ffは、従来のエキスパンドメタルにおける式(4)と同じで、[数5]に示す式(8)で表される。
【0083】
【数5】
【0084】
成形部の平板5側は、せん断変形で孔があき、その際の負荷は、段付波刃6a,7bで与えられ、そのせん断力(負荷力)Fhは、従来のエキスパンドメタルにおける式(1)と同じで、下式(9)で表される。
Fh=Fs=(Lw−Lh)ToτI ・・・(9)
【0085】
せん断を開始した直後では、孔の幅Lhが零に近いので、Fh=LwToτIの負荷であるが、孔が大きくなると、式(9)の負荷となる。
【0086】
結局、第1段目の段付波刃7aに負荷される力Fwは、下式(10)で表される。
Fw=Ff+Fh ・・・(10)
【0087】
本実施の形態に係るディンプル板の製造方法は、多孔傾斜プレス法による成形法、つまり多段法による成形法であり、成形のための曲げ変形力Ffは、下方の第1段目の段付波刃7aにより負荷されるために、その分の力が、成形部の平板5側(成形部と後方の平板5との接続部分)に負荷されることはなく、限界条件は成立せず、安定に網目状成形体を成形することができる。
【0088】
段付波刃6b,7b間、段付波刃6bと7c間での成形についても、同様に、式(8)〜(10)が成立する。それ以降の変形でも同様である。
【0089】
1ストロークでn段成形すれば、その分ストロークは長くなるが、荷重は、一定で、変わらない。また、網目繋ぎ部(残存橋部)で切れる心配はなく、加工速度は、n倍に増速することになる。
【0090】
従来のエキスパンドメタルの製造方法では、図15で説明したように加工限界があり、厚肉材では、E限界線よりも小さな孔ピッチLwの多孔材が製造不可能であったが、本発明の多段成形法では、そのような限界はない。
【0091】
次に、本実施の形態に係る放熱板について説明する。ここでは、ディンプル板1として、図2(b)の両面ディンプル孔付ディンプル板1bを用いた放熱板を説明する。
【0092】
本実施の形態に係る放熱板は、ディンプル板1と、ディンプル板1の表面に接合されると共に、その一部がディンプル2内に充填された伝熱板とを備える。
【0093】
ディンプル板は、伝熱板より小さい熱膨張係数を有する材料からなり、ここでは、Invar合金からなる。伝熱板は、ディンプル板1より高い熱伝導率を有する材料からなり、例えば、銅または銅合金、あるいはアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。本実施の形態では、伝熱板として銅を用いる。
【0094】
図7に示すように、本実施の形態に係る放熱板100は、Invar合金からなるディンプル板1を銅からなる伝熱板14で挟んだCIC構造に形成される。
【0095】
ディンプル板1の表面S側に配置された伝熱板14aは、ディンプル板1の表面Sに接合されると共に、表面S側に形成されたディンプル2a内に充填され、ディンプル2a内の表面に接合される。
【0096】
同様に、ディンプル板1の裏面R側に配置された伝熱板14bは、ディンプル板1の裏面Rに接合されると共に、裏面R側に形成されたディンプル2b内に充填され、ディンプル2b内の表面に接合される。
【0097】
さらに、両伝熱板14a,14bは、空孔3を介して互いに接合される。なお、図7では、図の簡略化のため空孔3を省略している。
【0098】
このようにして得られた放熱板100は、1mm以上の板厚において、厚さ方向の熱伝導率が150(W/℃・m)以上であり、かつ、板面方向の熱膨張係数が1.2×10-5(1/K)以下と、低熱膨張、高熱伝導であり、かつ、ヒートシンク材などとして十分使用可能な厚手な放熱板100を実現できる。
【0099】
放熱板100では、ディンプル板1として両面ディンプル孔付ディンプル板1b(図2(b)参照)を用いており、表面S側のディンプル2a、裏面R側のディンプル2bいずれにも、伝熱板14を構成する材料が充填されることになるため、ディンプル2と伝熱板14との接合面積を増加させ接合強度を強くすることができる。なお、ディンプル板1として両面ディンプル板1a(図2(a)参照)を用いても同様の効果が得られる。
【0100】
放熱板100を製造する際には、ディンプル板1を伝熱板14a,14bで挟み、クラッド圧延する。すると、ディンプル板1の表裏面に伝熱板14a,14bがそれぞれ接合され、かつ、伝熱板14aを構成する材料がディンプル2a内に流入してディンプル2a内の表面に接合されると共に、伝熱板14bを構成する材料がディンプル2b内に流入してディンプル2b内の表面に接合される。さらに、表面S側のディンプル2aに流入した伝熱板14aを構成する材料と、裏面R側のディンプル2bに流入した伝熱板14bを構成する材料とが空孔3を介して互いに接合され、伝熱板14a,14b同士が、空孔3を介して互いに接合され、放熱板100が得られる。
【0101】
以上説明したように、本実施の形態に係るディンプル板1では、ディンプル2の幅方向のピッチを0.5mm以下とし、平板5の表面積に対して、ディンプル2の底部にて平板5を貫通する空孔3が形成されている領域の面積の割合を15%以下としている。
【0102】
クラッド圧延の際には幅方向のピッチは変化しないため、ディンプル板1におけるディンプル2の幅方向のピッチを0.5mm以下とすることで、ディンプル板1を用いて放熱板100を製造した際に、放熱板100の厚さ方向の熱伝導率を高くし、かつ、放熱板100の厚さ方向における放熱特性を放熱板100の部分によらず均一に維持することができる。
【0103】
また、平板5の表面積に対して、ディンプル2の底部にて平板5を貫通する空孔3が形成されている領域の面積の割合を15%以下とすることで、空孔3の大きさを小さくし、放熱板100におけるディンプル2の断面比率、すなわちInvar比を大きくでき、板面方向の熱膨張係数の低い放熱板100を実現できる。
【0104】
また、本実施の形態に係るディンプル板の製造方法では、上型43および下型44を、段付波刃6a〜6e,7a〜7eを階段状の多段波刃6,7で形成し、平板5を多段波刃6,7の階段状の傾斜方向に送り込むと共に、平板5を多段波刃6,7で上下からプレスして、平板5に多段波刃6,7の上下動1ストロークで複数の凹凸を形成して微細多孔凹凸板45を形成する工程と、微細多孔凹凸板45を上下に対向配置された平ロール46間に送り込んで圧延することにより、微細多孔凹凸板45の表面を平坦化して、表面にディンプル2を有するディンプル板1を形成する工程とを備えている。
【0105】
厚さ方向の熱伝導性が良好なCu/Invar合金/Al材などの複合放熱板は、以前よりアイディアはあるが、今もって市販レベルで使われていない。これは、放熱板に適したInvar多孔板、エキスパンドメタルが製造できないからで、エキスパンドメタルには、そもそも製造上の限界があり、要求形状そのものが、市販レベルで製造できないからである。
【0106】
本発明では、エキスパンドメタルの製造方法を基本的に改善し、板厚のわりに微小ピッチのディンプル板1(微細多孔板)を製造することが可能となり、ディンプル板1の板厚を薄くすることなく微細多孔化または微細凹凸化が可能となる。
【0107】
つまり、本発明によれば、形状安定性の点で効果を発揮し、従来のエキスパンドメタルの製造方法では、厚肉の素材を加工すると、網目のつなぎ部がせん断変形で切れてしまうため、成形品の加工には制限があり、図15のE限界線以上の肉厚範囲でないと成形できないことを述べたが、本発明の製造方法では、そのような制限はなく、従来技術では加工不可能な厚肉材であっても、微細ピッチのディンプル板1の成形が可能となる。
【0108】
低熱膨張材を用いて形成したディンプル板1は、厚手でかつ微細構造であることから、ヒートシンク材などとして好適な低熱膨張で高熱伝導な放熱板100を得ることが可能となり、その適用効果が大きい。さらには、本発明によれば、複合材化して放熱板100を製造する際に、表面高熱伝導材である伝熱板14が、空孔3内にメタルフローし易い多孔体構造のディンプル板1が得られる。つまり、本発明によれば、強度のある平板5に微細多数のディンプル2があり、金属複合化の際に板厚方向にメタルフローし易い、微小孔(空孔3)を有するディンプル板1を実現できる。
【0109】
また、本発明によれば、形状安定性の点で効果があるのみでなく、生産性の点でも効果を発揮する。従来の波刃と平刃を用いて1条ずつ刻みを入れる製造方法に対して、本実施の形態では、刻み幅W相当の厚さを有する段付波刃6a〜6e,7a〜7eを備えた多段波刃6,7を用い、多段波刃6,7同士で、多条の刻みを1ストロークで成形するもので、加工速度は、使用する段付波刃6a〜6e,7a〜7eの枚数倍となり、生産性の極めて高い製造が可能となる。
【0110】
例えば、50枚の段付波刃6a〜6e,7a〜7eを備えた多段波刃6,7として用いることで、1ストロークで成形できる長さを、50倍に改善でき、加工速度もその比率で高速化できる。この効果は、特に従来技術では生産性が落ちてしまう微細ピッチのディンプル板1(微細多孔板)で効果が大きく、大サイズ品でも同様の効果が期待できる。
【0111】
次に本発明の他の実施の形態を説明する。
【0112】
上記実施の形態では、多孔傾斜プレス法で微細多孔凹凸板45を形成することにより、微細多孔で底肉厚の薄いディンプル2を有するディンプル板1を製造する場合を説明したが、微細多孔凹凸板45は、圧延加工によって成形することも可能である。以下、微細多孔凹凸板45を圧延加工により形成する方法を多孔溝付け圧延法と呼称する。
【0113】
多孔溝付け圧延法では、図8に示すような微細多孔凹凸板の製造装置51を用いて微細多孔凹凸板45を形成する。
【0114】
微細多孔凹凸板の製造装置51は、円周面上に波目形状の刃を有する段付波刃52a,53aを階段状に多段に形成した2つの多段波刃ロール52,53を形成すると共に、これら2つの多段波刃ロール52,53を上下に対向配置してなる。
【0115】
つまり、微細多孔凹凸板の製造装置51は、図4,5で説明した微細多孔凹凸板の製造装置41における階段状の多段波刃6,7をロール円周面上に形成した多段波刃ロール52,53を上下に対向配置したものであり、上下の多段波刃ロール52,53を嵌合させた状態で圧延することにより、図5と同様の微細多孔凹凸板45を形成できるものである。
【0116】
微細多孔凹凸板の製造装置51を用いて微細多孔凹凸板45を形成する際には、上下の多段波刃ロール52,53間に平板5を送り込み、平板5を多段波刃ロール52,53に形成された段付波刃52a,53aで順次上下からプレスして、平板5に連続的に凹凸を形成して微細多孔凹凸板45を形成する。
【0117】
上方の段付波刃52aを、下方の段付波刃53aに押し付けることで、その間に挿入された平板5を加工し、対向する上下の段付波刃52aと53aの押し付けで曲げ変形部が形成され、上方の段付波刃52aと次の段の下方の段付波刃53aとの押し付けでせん断変形部9が形成される。以上により、微細多孔凹凸板45が圧延法で製造できることになる。
【0118】
得られた微細多孔凹凸板45を、図6と同様に、平ロール46で圧延することにより、微細多孔のディンプル板1を製造することができる。
【0119】
多孔溝付け圧延法では、上述の多孔傾斜プレス法と同様に、曲げによる曲げ変形とせん断変形による薄肉化穿孔の変形を隣り合わせ、これらを互い違いに行うことにより、微細多孔凹凸板45の成形を可能としている。せん断部の上下の段付波刃52a,53aのギャップは、5/100mm以下になるようにしてやることが重要である。
【0120】
多孔溝付け圧延法でも、多孔傾斜プレス法と同様に、微細多孔凹凸板45を形成でき、ディンプル板1を製造することができるが、生産性の面では、完全に連続的に作業ができ、加工速度を上げることが可能な多孔溝付け圧延法の方が効率がよい。一方、寸法精度の面では多孔傾斜プレス法の方が良好となる。よって、用途に応じていずれかの加工法を選択するようにすればよい。
【実施例】
【0121】
本発明の実施にあたり、ディンプル板1の製造工程を図9に示す。
【0122】
図9に示すように、平板(素材平板)5は、まず、多孔傾斜プレス、あるいは、多孔溝付け圧延により、微細多孔凹凸板45に加工され、その後、平滑化圧延を行い、微細多孔のディンプル板1とされる。
【0123】
素材の平板5としては、材質としてInvar合金(Fe−36mass%Ni)を用い、板厚0.2mmと0.3mm、幅50mmの平板を用いた。
【0124】
多孔傾斜プレス法については、図4,5に示す微細多孔凹凸板の製造装置41を用い、段付波刃の長手方向ピッチを0.2mmとし、これを50山階段状のトータル10mmの多段波刃6,7の一体型(上型43、下型44)を用いてプレスを行った。したがって、1ストロークで10mm成形でき、ストローク毎に10mmの素材送りを多段波刃6,7の階段状の傾斜方向に入れることで、連続的な成形ができ、数mから数十mの網目状の微細多孔凹凸板45を形成することができた。多段波刃6,7のプレスにより、成形厚は、平板5の約2倍となり、それを図6に示すように平ロール46で圧延し、もとの素材厚(平板5の厚さ)まで戻すと共に、表面の凹凸を平滑にし、微細多孔のディンプル板1を製作した。
【0125】
また、多孔溝付け圧延法では、多孔傾斜プレス法の多段波刃6,7と同じ幅方向、長手方向ピッチ、同じ波目形状の多段波刃を有する多段波刃ロール52,53を製作し、それにより、溝付け、穿孔ロール圧延を行った。多段波刃ロール52,53としては、外径φ50mmで、円周方向に0.2mmピッチ、785山の段付波刃を有するものを用いた。この多段波刃ロール52,53により、網目状の微細多孔凹凸板45を製作し、引き続き、図6の平ロール46による圧延を行い、微細多孔のディンプル板1を製作した。
【0126】
表1に、本発明の多孔傾斜プレス法および多孔溝付け圧延法で製作した微細多孔凹凸板45、ディンプル板1(実施例)、そして従来のエキスパンド微細多孔板(従来例)とを比較した結果を示す。なお、表1における送りピッチW、幅ピッチLw、長ピッチSw、素材板厚To、成形板厚T2がどの部分の長さであるかを、図10(a),(b)に示している。
【0127】
【表1】
【0128】
表1に示すように、本発明の実施例では、Invar合金からなる平板5として板厚が0.2mm、0.3mmと厚いものを用い、波刃ピッチ(幅ピッチLw)を0.5mmと小さくした場合であっても、安定した形状の微細多孔凹凸板45、ディンプル板1を形成でき、所要の寸法の微細多孔凹凸板45、ディンプル板1を形成できた。
【0129】
一方、従来のエキスパンド成形を用いた従来例では、繋ぎ部(接続部)が切れてしまい正常な成形は不可能であった。
【0130】
従来のエキスパンドメタルの製品サイズ(図15)と比較して、本発明で作成した微細多孔凹凸板45のデータ(本発明品)を記入したものが図11である。図11に示すように、本発明によれば、E限界線を越えた領域でも正常な成形が可能であることがわかる。エキスパンド成形を用いた従来例では、計算通りに、加工限界であるE限界線を越えたサイズは実現できなかった。
【0131】
このように、本発明によれば、従来技術では加工不可能な厚肉材であっても、微細ピッチのディンプル板1の成形が可能となる。なお、本実施例では、プレス法では、段付波刃数50山の多段波刃6,7を用い、圧延法では、φ50mmの多段波刃ロール52,53を用いた場合を説明したが、その数およびサイズは規定されるものではなく、さらに大きくし、生産性を上げることも可能である。
【0132】
次に、本発明のディンプル板の製造方法で製作したInvar合金からなるディンプル板1を用いて、放熱板100を製作し、その特性評価を行った。
【0133】
図7に示すように、幅ピッチLw=0.5mm、成形板厚T2=0.2mmのディンプル板1を、板厚0.2mmのCuからなる伝熱板14で上下方向から挟んでクラッド圧延し、CIC構造となる放熱板100を製作した。
【0134】
具体的な製作は、70%程度の加工度で冷間圧延を行った後、Invar合金とCuの界面に金属間化合物を形成しないように、約600℃で拡散熱処理を行った。これにより、上下に配置した伝熱板14同士がディンプル板1の空孔3内において接合する。最終的な放熱板100の板厚は0.2mmであった。
【0135】
また、さらに、応用実施例として、ディンプル板1のピッチを微細にしたもの、伝熱板14の厚さを薄くし、それに合わせ、70%程度の加工度は変えずに仕上がり厚さを変えて放熱板100を試作した。実施例における条件は、ディンプル板1における空孔3の面積比(ディンプル貫通率)を15%以下にしており、同時に、孔ピッチ(幅方向)を0.5mm以下としている。
【0136】
また、比較例として、ディンプル貫通率を15%を超えるようにしたもの、あるいは孔ピッチ(幅方向)を0.5mmを超えるサイズとしたディンプル板を製作し、そのディンプル板を用いた放熱板の特性を調べた。
【0137】
実施例と比較例の構成および特性測定結果を表2に示す。
【0138】
【表2】
【0139】
表2に示すように、板面方向の熱膨張係数、厚さ方向の熱伝導率、および局部均一性に関して許容条件を設定した。許容条件は、板面方向の熱膨張係数は1.2×10-5(1/K)以下であること、厚さ方向の熱伝導率は170(W/℃・m)以上であることとし、局部均一性については、熱伝導率にシミュレートする特性値として、板厚方向の電気抵抗の微細分布を測定し、局部均一性の評価とし、○、×の判定をした。
【0140】
その結果、実施例、比較例ともに、厚さ方向の熱伝導率については、いずれも許容条件を満足した。また、板面方向の熱膨張係数および局部均一性の特性については、実施例は、いずれも許容条件を満足した。特に、実施例C1の0.35mmピッチのディンプル板1を用いた放熱板100については、局部均一性が特に良好で、二重丸の評価であった。
【0141】
比較例については、板面方向の熱膨張係数、局部均一性の特性のどちらかが許容条件を満たさないという結果であった。孔ピッチを0.7mmと大きくした比較例H1,H3では、共に局部均一性が不十分で、局部的に電気抵抗が大きくなる箇所があり、厚さ方向の熱伝導率分布が均一でないと予測される。ディンプル貫通率を15%よりも大きくした比較例H2,H3では、結果的にディンプル比率が大きくなってしまい、放熱板におけるInvar比率が小さくなり、板面方向の熱膨張係数が1.4×10-5(1/K)以上となってしまい許容条件を満足しなかった。
【0142】
以上より、板面方向の熱膨張係数、厚さ方向の熱伝導率、および局部均一性を共に満足した放熱板100を得るためには、0.5mmピッチ以下であると同時に、空孔3の面積比(ディンプル貫通率)が15%以下のディンプル板1を用いる必要がある。
【符号の説明】
【0143】
1 ディンプル板
2 ディンプル
3 空孔
5 平板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板の表面に、前記平板の長手方向と幅方向に所定のピッチで形成された複数のディンプルを有するディンプル板において、
前記ディンプルの幅方向のピッチが0.5mm以下であり、前記平板の表面積に対して、前記ディンプルの底部にて前記平板を貫通する空孔が形成されている領域の面積の割合が15%以下であることを特徴とするディンプル板。
【請求項2】
請求項1に記載のディンプル板と、該ディンプル板の表面に接合されると共に、その一部が前記ディンプル内に充填された伝熱板とを備えたことを特徴とする放熱板。
【請求項3】
波目形状の刃を有する波刃を上型および下型に備え、これら上型と下型を対向配置し、前記上型と前記下型間に平板を送り込むと共に、前記平板を前記上型の波刃と前記下型の波刃で上下からプレスして、前記平板を波目形状に成形してディンプル板を製造する方法であって、
前記上型および下型は、階段状の段付波刃からなる多段波刃を有し、前記平板を前記多段波刃の階段状の傾斜方向に送り込むと共に、前記平板を前記多段波刃で上下からプレスして、前記平板に前記多段波刃の上下動1ストロークで複数の凹凸を形成して微細凹凸板を形成する工程と、
前記微細凹凸板を上下に対向配置された平ロール間に送り込んで圧延することにより、前記微細凹凸板の表面を平坦化して、表面にディンプルを有するディンプル板を形成する工程とを備えたことを特徴とするディンプル板の製造方法。
【請求項4】
円周面上に波目形状の段付波刃を有する2つの多段波刃ロールを形成すると共に、これら2つの多段波刃ロールを上下に対向配置し、その上下の多段波刃ロール間に平板を送り込んで、前記平板を圧延すると共に、前記平板を前記多段波刃ロールに形成された前記段付波刃で順次上下からプレスして、前記平板に連続的に凹凸を形成して微細凹凸板を形成する工程と、
前記微細凹凸板を上下に対向配置された平ロール間に送り込んで圧延することにより、前記微細凹凸板の表面を平坦化して、表面にディンプルを有するディンプル板を形成する工程とを備えたことを特徴とするディンプル板の製造方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載のディンプル板の製造方法により製造された前記ディンプル板の表面に、伝熱板をクラッド圧延により接合し、前記ディンプルの中に伝熱板の一部を充填することを特徴とする放熱板の製造方法。
【請求項6】
前記ディンプル板は、前記伝熱板より小さい熱膨張係数を有する材料からなり、
前記伝熱板は、前記ディンプル板より高い熱伝導率を有する材料からなる請求項5記載の放熱板の製造方法。
【請求項1】
平板の表面に、前記平板の長手方向と幅方向に所定のピッチで形成された複数のディンプルを有するディンプル板において、
前記ディンプルの幅方向のピッチが0.5mm以下であり、前記平板の表面積に対して、前記ディンプルの底部にて前記平板を貫通する空孔が形成されている領域の面積の割合が15%以下であることを特徴とするディンプル板。
【請求項2】
請求項1に記載のディンプル板と、該ディンプル板の表面に接合されると共に、その一部が前記ディンプル内に充填された伝熱板とを備えたことを特徴とする放熱板。
【請求項3】
波目形状の刃を有する波刃を上型および下型に備え、これら上型と下型を対向配置し、前記上型と前記下型間に平板を送り込むと共に、前記平板を前記上型の波刃と前記下型の波刃で上下からプレスして、前記平板を波目形状に成形してディンプル板を製造する方法であって、
前記上型および下型は、階段状の段付波刃からなる多段波刃を有し、前記平板を前記多段波刃の階段状の傾斜方向に送り込むと共に、前記平板を前記多段波刃で上下からプレスして、前記平板に前記多段波刃の上下動1ストロークで複数の凹凸を形成して微細凹凸板を形成する工程と、
前記微細凹凸板を上下に対向配置された平ロール間に送り込んで圧延することにより、前記微細凹凸板の表面を平坦化して、表面にディンプルを有するディンプル板を形成する工程とを備えたことを特徴とするディンプル板の製造方法。
【請求項4】
円周面上に波目形状の段付波刃を有する2つの多段波刃ロールを形成すると共に、これら2つの多段波刃ロールを上下に対向配置し、その上下の多段波刃ロール間に平板を送り込んで、前記平板を圧延すると共に、前記平板を前記多段波刃ロールに形成された前記段付波刃で順次上下からプレスして、前記平板に連続的に凹凸を形成して微細凹凸板を形成する工程と、
前記微細凹凸板を上下に対向配置された平ロール間に送り込んで圧延することにより、前記微細凹凸板の表面を平坦化して、表面にディンプルを有するディンプル板を形成する工程とを備えたことを特徴とするディンプル板の製造方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載のディンプル板の製造方法により製造された前記ディンプル板の表面に、伝熱板をクラッド圧延により接合し、前記ディンプルの中に伝熱板の一部を充填することを特徴とする放熱板の製造方法。
【請求項6】
前記ディンプル板は、前記伝熱板より小さい熱膨張係数を有する材料からなり、
前記伝熱板は、前記ディンプル板より高い熱伝導率を有する材料からなる請求項5記載の放熱板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
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【図4】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−129640(P2011−129640A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285470(P2009−285470)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
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