説明

トライアック制御装置

【課題】トライアックに対するトリガパルス信号の出力タイミングの遅れにより、電気負荷に印加される電圧の波形に歪みが生じることを防止したトライアックの制御装置を提供する。
【解決手段】高電位側の出力部が交流電源7の第1の出力部8bと接続された直流電源20と、直流電源20から供給される電力により作動するマイクロコンピュータ10と、入力側が交流電源7の第2の出力部8aと接続されると共に、出力側がマイクロコンピュータ10の入力ポートPinと接続された位相進み回路30とを備え、マイクロコンピュータ10は、入力ポートPinの入力論理がHighからLowに切り換わった時及びLowからHighに切り換わった時に、スリープモードからアクティブモードに移行して、ゲート駆動回路40にトリガパルス信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力制御用に用いられるトライアックの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、図6に示したように、交流電源100と電気負荷(電気ヒータ等)101の間に接続されたトライアック102により、交流電源100から電気負荷101への通電を制御する回路構成が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
図6に示した回路においては、交流電源の第1の出力部110aが直流電源120の高電位側(Vcc,5V)の出力部と接続されている。そして、マイクロコンピュータ130(以下、マイコン130という)の出力ポートGP2からトランジスタ131のベースにトリガパルス信号を入力して、トランジスタ131をONすることにより、トライアック102をONさせている。
【0004】
また、交流電源100の第2の出力部110bが抵抗140を介してマイコン130の論理入力ポートGP3に入力され、マイコン130は、論理入力ポートGP3の入力論理がHighからLowに切り換わった時及びLowからHighに切り換わった時に、交流電源100のゼロクロスが生じたことを検知している。
【0005】
ここで、論理入力ポートGP3に入力される電圧は、図7(a)に示したように、5Vにプルアップされたダイオード150及びツェナーダイオード132と、0Vにプルダウンされたダイオード151により、上限が約5.6Vに制限されると共に下限が約−0.6Vに制限される。
【0006】
そして、シュミットトリガバッファ152によりHigh/Lowの論理に変換されるが、シュミットトリガバッファ152におけるLowからHighへの切換えの閾値は約4V、HiレベルからLoレベルへの切換えの閾値は約1Vと、ヒステリシスを有している。また、交流電源100がゼロクロスとなった時に、第2の出力部110bの電位は5V(Vcc)となる。
【0007】
そのため、論理入力ポートGP3の入力論理がHighからLowに切り換わった時及びLowからHighに切り換わった時をゼロクロスとして検出すると、ゼロクロスの検出タイミングが交流電源100の実際のゼロクロスの発生タイミングとずれることになる。
【0008】
すなわち、交流電源100の出力が負から正に切り換わるとき(立上りのゼロクロス)は、論理入力ポートGP3への入力電圧が4Vになった時点でマイコン130はゼロクロスを検出する。そのため、交流電源100の出力電圧が0V(第2の出力端子110bの電位が5V)になる時点である本来のゼロクロスよりも、早いタイミング(4Vから5Vに電圧が上昇するまでの時間分早くなる)でゼロクロスが検出される。
【0009】
また、交流電源100の出力が正から負に切り換わるとき(立下りのゼロクロス)は、論理入力ポートGP3への入力電圧が1Vになった時点でマイコン130がゼロクロスを検出する。そのため、交流電源100の出力電圧が0V(第2の出力端子110bの電位が5V)になる時点である本来のゼロクロスよりも、遅いタイミング(5Vから1Vに電圧が低下するまでの時間分遅くなる)でゼロクロスが検出される。
【0010】
図7(b)は、このように本来のゼロクロスとは異なるタイミングで検出されたゼロクロスに基づいて、トリガパルス信号を出力した場合のタイミングチャートを示したものである。図7(b)においては、(1)の交流電源100のゼロクロスに対して、(2)のマイコン130でのゼロクロスの検出のタイミングが、t31,t33,t35,t37で遅れている。そのため、(3)のトライアック131に対するトリガパルス信号の出力が遅れ、(4)の電気負荷101に印加される負荷電圧がX1〜X4の箇所で遮断されている。
【0011】
そして、このように、負荷電圧が遮断されることにより、負荷電圧の波形に歪みが生じてノイズが発生するという不都合があった。
【0012】
この場合、マイコン130が常時動作しているときには、初回のゼロクロスの検出タイミングに基づいて、ゼロクロスの検出タイミングの遅れ分を補正して次回以降のトリガパルス信号の出力タイミングを決定することにより、トリガパルス信号の出力の遅れが生じないように対応することができる。
【0013】
しかし、省電力化のために、論理入力ポートGP3の論理入力の切り換わりを割込み条件として、マイコン130をスリープモードからアクティブモードに移行させてトリガパルス信号を出力する構成とするときには、このような対応をすることができない。
【非特許文献1】マイクロチップ社(Microchip Technology Inc.) 「トライアックを用いたローコスト電気レンジ制御」(Low-Cost Electric Range Control Using a Triac),(米国),アプリケーションノート958(AN958),2004年,p.4−5
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記背景を鑑みてなされたものであり、トライアックに対するトリガパルス信号の出力タイミングの遅れにより、電気負荷に印加される電圧の波形に歪みが生じることを防止したトライアックの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、交流電源の第1の出力部及び第2の出力部とトライアックを介して接続された電気負荷への通電を、該トライアックのゲートにトリガパルス信号を出力することによって制御するトライアック制御装置に関する。
【0016】
そして、高電位側の出力部が前記交流電源の第1の出力部と接続された直流電源と、該直流電源から供給される電力により作動して、少なくともプログラムの実行を停止するスリープモードと、プログラムを実行するアクティブモードとを切換える機能を有するマイクロコンピュータと、該マイクロコンピュータから出力されるトリガパルス信号を入力し、該トリガパルス信号を入力しているときに前記トライアックのゲートを前記直流電源の低電位側の出力部に導通するゲート駆動回路と、入力側が前記交流電源の第2の出力部と接続されると共に、出力側が前記マイクロコンピュータの論理入力ポートと接続された位相進み回路とを備え、前記マイクロコンピュータは、スリープモードにおいて前記論理入力ポートの入力論理がHighからLowに切り換わったとき及びLowからHighに切り換わったときに、アクティブモードに移行し、前記トリガパルス信号を出力してスリープモードに戻ることを特徴とする。
【0017】
かかる本発明によれば、前記直流電源の高電位側の出力部が前記交流電源の第1の出力部と接続され、前記交流電源の第2の出力部が前記位相進み回路を介して前記マイクロコンピュータの前記論理入力ポートに接続されている。そして、このように、前記位相進み回路を備えることにより、前記交流電源の出力電圧が正から負に切り換わるときに、それに応じて前記論理入力ポートの入力論理がHighからLowに切り換わるタイミングを早めることができる。
【0018】
そのため、前記交流電源の出力電圧が正から負に切り換わるときに、それに応じて前記マイクロコンピュータがスリープモードからアクティブモードに移行して前記トリガパルス信号を出力するタイミングが早くなる。そして、これにより、前記トリガパルス信号の出力の遅れにより前記トライアックがOFFして、前記交流電源から前記電気負荷への通電が遮断されることを回避し、前記電気負荷に印加される電圧に歪みが生じてノイズが発生することを防止することができる。
【0019】
また、前記マイクロコンピュータは、前記論理入力ポートの入力論理がHighからLowに切り換わってスリープモードからアクティブモードに移行したときに、該移行時点から前記位相進み回路による位相の進み度合に基づいて決定した第1の所定時間が経過した時に、前記トリガパルス信号を出力することを特徴とする。
【0020】
かかる本発明によれば、前記位相進み回路による位相の進み度合に基づいて決定した前記第1の所定時間が経過した時に、前記トリガパルス信号を出力することによって、前記トリガパルス信号を出力を開始するタイミングを前記交流電源の立下りのゼロクロスが生じる直前に合わせることができる。そして、これにより、前記トリガパルス信号の出力時間を短くして、前記トリガパルス信号の出力に伴なう消費電力を低減することができる。
【0021】
また、前記マイクロコンピュータは、前記論理入力ポートの入力論理がLowからHighに切り換わってスリープモードからアクティブモードに移行したときに、該移行時点から前記位相進み回路による位相の進み度合に基づいて決定した第2の所定時間が経過した時に、前記トリガパルス信号を出力することを特徴とする。
【0022】
かかる本発明によれば、前記位相進み回路による位相の進み度合に基づいて決定した前記第1の所定時間が経過した時に、前記トリガパルス信号を出力することによって、前記トリガパルス信号を出力を開始するタイミングを前記交流電源の立上りのゼロクロスが生じる直前に合わせることができる。そして、これにより、前記トリガパルス信号の出力時間を短くして、前記トリガパルス信号の出力に伴なう消費電力を低減することができる。
【0023】
また、前記位相進み回路は、第1の抵抗とコンデンサとを直列に接続した直列回路と第2の抵抗とを並列に接続して構成され、該第1の抵抗と該第2の抵抗の接続部が前記交流電源の第1の出力部に接続されると共に、該コンデンサと該第2の抵抗との接続部が前記マイクロコンピュータの前記論理入力ポートに接続されていることを特徴とする。
【0024】
かかる本発明によれば、抵抗とコンデンサを用いた簡易な構成により、前記位相進み回路を構成することができる。
【0025】
また、前記交流電源の半周期における前記電気負荷の通電量の最大値を検出して、少なくとも前記交流電源の次のゼロクロスまで保持する電流検出保持手段を備え、前記マイクロコンピュータは、スリープモードからアクティブモードに移行したときに、前記電流検出保持手段に保持された通電量のピーク値を読み込んで、前記電気負荷の通電異常を検知することを特徴とする。
【0026】
かかる本発明によれば、前記電流検出保持手段により前記交流電源の半周期における前記電気負荷の通電量の最大値が、前記交流電源の次のゼロクロスまで保持される。そのため、前記マイクロコンピュータは、アクティブモードに移行したときに、直前のスリープモード中の前記電気負荷の通電量の最大値に基づいて、前記電気負荷の通電異常を検知することができる。
【0027】
また、前記電気負荷は電気ヒータであり、前記マイクロコンピュータは、温度検出手段による温度検出信号が入力される温度入力ポートを有し、スリープモードからアクティブモードに移行したときに、該温度検出信号による検出温度と所定の目標温度とを比較して、前記トリガパルス信号を出力するか否かを決定し、前記トリガパルス信号を出力しなかったときには、前記交流電源の次の半周期において前記電流検出保持手段により保持される通電量のピーク値については、前記電気負荷の通電異常を検知しないことを特徴とする。
【0028】
かかる本発明において、前記マイクロコンピュータが、アクティブモードにおいて前記トリガパルス信号を出力しなかったときには、前記交流電源の次に半周期においては前記電気負荷に通電されない。そのため、該半周期において前記電流検出保持手段により保持された通電量のピーク値については、前記電気負荷の通電異常を検知しないことにより、前記電気負荷に通電されているときに限定して、前記電気負荷の通電異常を検知することができる。
【0029】
また、前記マイクロコンピュータは、前記トリガパルス信号として、第3の所定時間内に所定回数断続的にパルス信号を出力することを特徴とする。
【0030】
かかる本発明において、例えば、前記交流電源がゼロクロス制御によりON/OFFされるSSRを介して供給され、ゼロクロス検出の誤差により、ゼロクロス付近の出力電圧が遮断された状態で前記交流電源の出力電圧が前記電気負荷に印加される状態となる場合がある。この場合に、本発明によれば、前記トリガパルス信号として、前記3の所定時間内でパルス信号を所定回数断続的に出力することにより、前記交流電源が遮断される時間が前記第3の所定時間よりも短ければ、前記トライアックをONして前記交流電源から前記電気負荷に通電させることができる。そして、このように、前記トリガパルス信号として、前記3の所定時間内でパルス信号を所定回数断続的に出力することにより、前記トリガ信号を前記第3の所定時間が経過するまで継続的に出力する場合よりも、前記トリガ信号の出力に伴なう電力消費を低減することができる。
【0031】
また、前記マイクロコンピュータは、前記第3の所定時間内に所定回数パルス信号を出力するときに、後に出力する該パルス信号の出力時間を、先に出力した該パルス信号の出力時間よりも短くすることを特徴とする。
【0032】
かかる本発明において、前記交流電源の出力電圧はゼロクロス点を過ぎると次第に上昇するため、前記トライアックをONさせるために必要となるトリガパルス信号の出力時間が短くなる。そこで、前記トリガパルス信号を出力するときに、後に出力する前記パルス信号の出力時間を、先に出力した前記パルス信号の出力時間よりも短くすることができ、これにより、トリガパルス信号の出力に伴なう消費電力をさらに低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の実施の形態の一例について、図1〜図5を参照して説明する。図1は本実施の形態のトライアック制御装置1の回路構成図であり、本実施のトライアック制御装置1は電気ヒータを用いた温調制御を実行するものである。
【0034】
図1を参照して、トライアック制御装置1には、接続端子2a,2bを介してサーミスタ5(本発明の温度検出手段に相当する)が接続されている。また、接続端子2c,2dを介して電気ヒータ6(本発明の電気負荷に相当する)が接続され、接続端子2d,2eを介して交流電源7が接続されている。
【0035】
トライアック制御装置1はマイクロコンピュータ10(以下、マイコン10という)によりその作動が制御され、DC5Vを生成する直流電源回路20(本発明の直流電源に相当する)、接続端子2dとマイコン10の論理入力ポートPinの間に接続された位相進み回路30、接続端子2cと接続端子2eの間に接続されたトライアック45、トライアック45のゲートとマイコン10の出力ポートPoutの間に接続されたゲート駆動回路40、トライアック45と接続端子2eの間に接続された電流検出用の抵抗51を有して、マイコン10のAD入力ポート(アナログ/デジタル変換入力ポート)AD2に接続されたピークホールド回路50(本発明の電流検出保持手段に相当する)、及び接続端子2aとマイコン10のAD入力ポートAD1(本発明の温度入力ポートに相当する)の間に接続されたサーミスタ入力回路60とを備えている。
【0036】
なお、マイコン10は、内蔵するクロックの発振を停止してプログラムの実行を停止するスリープモードと、該クロックを発振させてプログラムを実行するアクティブモードとを切換える機能を有する。また、論理入力ポートPinは割込み機能を有する入力ポートである。
【0037】
また、マイコン10の論理入力ポートPinは、上述した図7(a)の論理入力ポートGP3と同様に、ダイオードを介して5Vにプルアップされると共に0Vにプルダウンされ、シュミットトリガバッファを介して論理入力High/Lowが切換えられる。
【0038】
直流電源回路20は、ツェナーダイオード21を備えて交流電源7の出力電力から約5Vの直流電圧を生成し、該直流電圧をマイコン10とピークホールド回路50とサーミスタ入力回路60とに供給する。なお、直流電源回路20の高電位側(5V側)の出力部は、接続端子2eを介して交流電源7の第1の出力部8bと接続されている。
【0039】
位相進み回路30は、交流電源7の第2の出力部8aの電位の位相を進ませるものであり、抵抗31(本発明の第1の抵抗に相当する)とコンデンサ32を直列に接続した直列回路を抵抗33(本発明の第2の抵抗に相当する)と並列に接続して構成されている。そして、位相進み回路30の入力側(抵抗31と抵抗33の接続部側)が接続端子2dと接続され、位相進み回路30の出力側(抵抗33とコンデンサ32の接続部側)がマイコン10の論理入力ポートPinに接続されている。
【0040】
位相進み回路30による位相の進み度合は、抵抗31,33とコンデンサ32による時定数によって決まり、例えば、抵抗31が1MΩ、抵抗33が450kΩ、コンデンサ32が470pFに設定される。
【0041】
ゲート駆動回路40は、トライアック45のゲートをトランジスタ41を介してGND(0V,直流電源回路20の低電位側の出力部)に導通することにより、トライアック45をONさせるものである。マイコン10の出力ポートPoutの出力レベルがHigh(5V)であるときは、トランジスタ41がONしてトライアック45のゲートがGNDに導通し、出力ポートPoutの出力レベルLow(0V)であるときには、トランジスタ41がOFFしてトライアック45のゲートがGNDから遮断される。
【0042】
ピークホールド回路50は、電気ヒータ6の通電量を、トライアック45と接続端子2e間に接続された抵抗51の端子間の電圧の変化(5V電位側52aに対するオペアンプ53への入力側52bの電圧の変化)に変換して検出するものであり、交流電源7の出力電圧が負(52bの電圧が5Vよりも低下する)であるときの入力電圧のピーク値を保持する。そして、マイコン10は、ADポートAD2に入力されるピークホールド回路の出力電圧をデジタル値に変換して取り込む。
【0043】
サーミスタ入力回路60は、温度により変化するサーミスタ5の抵抗を、サーミスタ5での降下電圧により検出するためのものであり、マイコン10は、ADポートAD1に入力される電圧(本発明の温度検出信号に相当する)をデジタル値に変換して取り込む。
【0044】
次に、図2示したフローチャートに従って、トライアック制御装置1の動作について説明する。交流電源7からの電力供給が開始され、直流電源回路20からマイコン10に5Vの電源が供給されるとマイコン10が起動する。そして、マイコン10はSTEP1で初期設定を行い、次のSTEP2で、論理入力ポートPinの論理入力のHigh/Lowの切り換わりに基づいて、交流電源の出力周波数が50Hzであるか60Hzであるかを判定する。
【0045】
続くSTEP3で、マイコン10はスリープモードに移行し、次のSTEP3で、入力ポートPinの論理入力がLowからHigh或いはHighからLowに切り換わって、割込みが生じるのを待つ。このように、マイコン10をスリープモードとすることにより、割込みが生じるまでの待機期間中のマイコン10の消費電力を低減することができる。また、マイコン10から発生するノイズは、アクティブモードの方がスリープモードよりも多くなるので、マイコン10をスリープモードとすることによりマイコン10から発生するノイズを減少させることができる。
【0046】
STEP4で割込みが生じたときにSTEP5に進み、マイコン10はスリープモードからアクティブモードに移行して、クロックの発信とプログラムの実行を再開する。続くSTEP6で、マイコン10は、直前の交流電源7の半周期が負であってサイリスタ45をONさせたか否かを判断する。
【0047】
そして、交流電源7の直前の半周期が負であってサイリスタ45をONさせたとき、すなわち、交流電源7の直前の半周期が負であって、該半周期における電気ヒータ6の通電量のピーク値がピークホールド回路50で保持されているときは、STEP10に分岐する。
【0048】
STEP10で、マイコン10はADポートAD2の入力電圧のデジタル変換値を読み込み、該デジタル値を予め設定された通電異常の判定値と比較することにより、電気ヒータ6の通電量が異常であるか否かを判断する。そして、電気ヒータ6の通電量が異常であっあときにはSTEP12に進み、マイコン10は動作を停止する。これにより、以後の電気ヒータ6への通電が禁止され、電気ヒータ7の異常が生じている状態で電気ヒータ7への通電が継続されることを回避している。
【0049】
一方、STEP6で、交流電源7の直前の半周期が正であったとき、及び交流電源7の直前の半周期が負であって電気ヒータ6への通電がなされなかったときには、STEP7に進み、マイコン10はSTEP10,STEP11による電流異常の検知を行わない。これにより、ピークホールド回路50に、電気ヒータ6への通電量のピーク値が保持されていない状態であるときには、電気ヒータ6の通電異常を判断しないようにしている。
【0050】
なお、STEP6で、交流電源7の直前の半周期の正/負は判断せずにサイリスタ45をONさせたか否かのみを判断し、サイリスタ45をONさせたときには、ADポートAD2の入力電圧のデジタル変換値を読み込んで、該半周期における電気ヒータ6の通電量の検出値としてメモリに保持するようにしてもよい。そして、メモリに保持した複数の半周期における電気ヒータ6の通電量の平均をとって、通電異常の判定値と比較することにより、電気ヒータ6の通電量が異常であるか否かを判断してもよい。
【0051】
次のSTEP7,STEP8及びSTEP20〜STEP22は、サーミスタ5の検出温度Tsが目標温度Ta付近に維持されるように、トライアック45をON/OFFして電気ヒータ6への通電を制御するための処理である。STEP7で、マイコン10はADポートAD1の入力電圧のデジタル変換値からサーミスタ5による検出温度Tsを検知する。そして、次のSTEP8で、マイコン10は検出温度Tsが目標温度Taよりも低いか否かを判断する。
【0052】
STEP8で検出温度Tsが目標温度Taよりも低かったときはSTEP20に分岐する。そして、マイコン10は、STEP20で、STEP2で判定した交流電源7の周波数(50Hz又は60Hz)と、STEP4における割り込み入力の種類(立上りゼロクロス又は立下りゼロクロス)により、以下の表1による4パターンの待ち時間を決定する。
【0053】
【表1】

【0054】
ここで、Tma1は、交流電源7の出力周波数が50Hzであるときに、論理入力ポートPinの論理入力がHighからLowに切り換わった時点から、交流電源7のゼロクロスが生じるまでの時間よりも若干短い時間に設定される。また、Tma2は、交流電源7の出力周波数が50Hzであるときに、論理入力ポートPinの論理入力がLowからHighに切り換わった時点から、交流電源7のゼロクロスが生じるまでの時間よりも若干短い時間に設定される。
【0055】
同様に、Tmb1は、交流電源7の出力周波数が60Hzであるときに、論理入力ポートPinの論理入力がHighからLowに切り換わった時点から、交流電源7のゼロクロスが生じるまでの時間よりも若干短い時間に設定される。また、Tmb2は、交流電源7の出力周波数が60Hzであるときに、論理入力ポートPinの論理入力がLowからHighに切り換わった時点から、交流電源7のゼロクロスが生じるまでの時間よりも若干短い時間に設定される。
【0056】
なお、Tma1及びTmb1は本発明の第1の所定時間に相当し、Tma2及びTmb2は本発明の第2の所定時間に相当する。そして、Tma1,Tma2,Tmb1,Tmb2は、位相進み回路30による位相進み度合に基づいて設定される。
【0057】
次のSTEP21で、マイコン10はSTEP20で決定した待ち時間(Tma1,Tma2,Tmb1,Tmb2のうちのいすれか)が経過するのを待ってSTEP22に進み、サイリスタ45をONさせるために最低限必要となるトリガパルス信号の入力時間よりも若干長く設定した時間が経過するまで、トリガパルス信号を出力ポートPoutから出力する。これにより、トライアック45がONして、次のゼロクロスまで電気ヒータ6に通電される。そして、STEP3に進んでマイコン10はスリープモードに移行し、STEP4以下の処理が繰り返し実行される。
【0058】
図3は、以上説明した図2のフローチャートによる処理を実行したときの、(1)交流電源7の出力電圧、(2)上述した背景技術における従来のトライアック制御回路によるゼロクロスの検出タイミング、(3)本実施の形態のトライアック制御装置1によるゼロクロスの検出タイミング、(4)マイコン10のスリープモード/アクティブモードの切り換わり、(5)サーミスタ5の検出温度、(6)トリガパルス信号の出力、(7)電気ヒータ6への印加電圧、及び(8)ピークホールド回路の出力電圧の推移を、時間軸tを共通として示したタイミングチャートである。
【0059】
本実施の形態のトライアック制御装置1においては、位相進み回路30を備えることにより、(2)の従来のトライアック制御におけるゼロクロスの検出タイミングに対して、(3)示したように、立下りゼロクロス(t11,t13,t15,t17)の検出タイミングを早めることができ、実際の立下がりゼロクロスの発生時よりも前の時点で入力ポートPinの論理入力がHighからLowに切り換わるように設定することができる。
【0060】
そして、このように設定して、入力ポートPinの論理入力の反転(High→Low,Low→High)により割込みを発生させることにより、(4)に示したように、t11,t12,…,t18で(1)の交流電源7のゼロクロスが生じる前に、マイコン10をスリープモードからアクティブモードに切換えることができる。
【0061】
そして、図2のSTEP20〜STEP22の処理により、上記表1により決定した待ち時間が経過した時にトリガパルス信号を出力することによって、(6)に示したように、交流電源7のゼロクロス点からトライアック45をONさせるために必要な最小時間を確保したトリガパルス信号を出力することができる。
【0062】
これにより、(7)に示したように、電気ヒータ6に交流電源7の出力電圧をそのまま印加することができる。そのため、トリガパルス信号の出力タイミングの遅れにより、電気ヒータ6への通電が遮断されて電気ヒータ6に印加される電圧の波形が歪み、ノイズが発生することを防止することができる。
【0063】
また、上述したSTEP7,STEP8のサーミスタ6による検出温度Tsと目標温度Taの比較により、(5)において検出温度Tsが目標温度Taよりも低いとき(t10,t11,t12,t16)は、(6)でトリガパルス信号が出力され、(5)において検出温度Tsが目標温度Ta以上であるとき(t13,t14,t15,t17)には、(6)でトリガパルス信号は出力されない。
【0064】
また、上述した図2のSTEP6による判断によって、(8)のピークホールド回路50の出力電圧による電気ヒータ6の通電異常の有無が判断されるのは、直前の交流電源7の半周期が負であって電気ヒータ6に通電されたt12のアクティブモード時のみとなる。
【0065】
そして、これにより、直前の交流電源7の半周期が正であるとき、及び、直前の交流電源7の半周期が負であってトライアック45がONされなったときに、ピークホールド回路50の出力に基づいて、誤った通電異常が検知されることを防止することができる。
【0066】
次に、図4に示したように、トライアック制御装置1が、例えば校舎の各教室に備えられた暖房機70a,70b,70c,…にそれぞれ内蔵されて、各暖房機の電気ヒータ6への通電量をトライアック45のON/OFFにより制御するときに、交流電源7からの通電を個別に遮断するためのスイッチ70a,70b,70c,…の他に、全ての暖房機70a,70b,70c,…への通電を一括して管理するために、スイッチ61によりSSR60のON/OFFを切換える構成とする場合がある。
【0067】
そして、この場合、SSR60においては、交流電源7のゼロクロスを検出してSSR60を構成するトライアックのゲートへのトリガパルス信号の出力タイミングが決定されるが、該トリガパルス信号の出力タイミングが交流電源7のゼロクロスから遅れる場合がある。
【0068】
図5は、このように、SSR60におけるトライアックのゲートへのトリガパルス信号の出力タイミングが、交流電源7のゼロクロスから遅れた場合における、(1)各暖房装置70a,71a,71c,…に供給される交流電圧、(2)トリガパルス信号の出力パターン1、(3)トリガパルス信号の出力パターン2、及び(4)トリガパルス信号の出力パターン1又は2による各暖房装置70a,71a,71c,…の負荷電圧の推移を、時間軸tを共通として示したタイミングチャートである。
【0069】
図5の(1)に示したように、SSR60におけるトリガパルス信号の出力タイミングの遅れにより、交流電源7の出力の一部がゼロクロス発生時から遮断されている場合(t20〜t21,t22〜t23)、トライアック制御装置1側では、SSR60がONして交流電源7から通電された後(t21〜,t23〜)に、トライアック45に対するトリガパルス信号を出力しなければ、トライアック45をONさせることができない。
【0070】
そこで、(2)に示したように、トリガパルス信号Tp1の出力時間を交流電源の遮断期間(t20〜t21,t22〜t23)よりも長くすることが考えられる。しかし、この場合には、トリガパルス信号の出力に伴なう消費電力が多くなるという不都合がある。
【0071】
そこで、上述した図2のSTEP22におけるトリガパルス信号の出力形態を、図5の(3)に示したように、トライアック45をONするために必要な最小時間よりも若干長く設定した時間幅のトリガパルス信号Tp2を出力した後、さらに、トリガパルス信号Tp2以下のパルス幅のトリガパルス信号Tp3を(図5では5回)出力するようにしてもよい。
【0072】
このように、トリガパルス信号Tp2を出力した後、更にトリガパルス信号Tp3を断続的に出力することにより、交流電源7の出力の一部がゼロクロスの発生時から遮断される状況であっても、(4)に示したように、トライアック45をONさせて電気ヒータ6に通電することができる。
【0073】
そして、このように、トリガパルス信号Tp2とTp3を断続的に出力することにより、(2)に示したトリガパルス信号Tp1を連続的に出力する場合よりも、トリガパルス信号の出力に伴なう消費電力を低減することができる。なお、図5の(3)において、トリガパルス信号Tp2及びTp3を出力する期間Aが本発明の第3の所定時間に相当する。
【0074】
また、交流電源の出力電圧が増大するにつれて、トライアックをONさせるために必要となるトリガパルス信号の出力時間は短くなる。そこで、トリガパルス信号Tp3のパルス幅を次第に短くしてもよい。これにより、トリガパルス信号Tp3の出力に伴なう消費電力を低減することができる。
【0075】
なお、本実施の形態においては、本発明の電気負荷として電気ヒータ6を示したが、電気モータ等の他の種類の電気負荷への交流電源の通電制御をトライアックにより行う場合にも、本発明の適用が可能である。
【0076】
また、本実施の形態では、ピークホールド回路50により、電気ヒータ6への通電量のピーク値を保持して電気ヒータ6の通電異常を検知したが、他の構成により電気ヒータ6への通電量のピーク値を保持して通電異常を検知してもよい。また、通電異常を検知しない場合にも、本発明の効果を得ることができる。
【0077】
また、本実施の形態では、本発明の位相進み回路として、図1に示した位相進み回路30の構成を採用したが、交流電源7の出力電圧の位相を進ませるものであれば、他の構成の位相進み回路を用いてもよい。
【0078】
また、本実施の形態では、上述した表1により、論理入力ポートPinへの論理入力がHighからLow及びLowからHighに切り換わった時点から、所定時間(Tma1,Tma2,Tmb1,Tmb2)が経過した時にトリガパルス信号を出力するようにしたが、論理入力ポートPinへの論理入力がHighからLow及びLowからHighに切り換わった時に、直ちにトリガパルス信号を出力するようにしてもよい。また、論理入力ポートPinへの論理入力がHighからLowに切り換わった時、或いはLowからHighに切り換わった時の一方についてのみ、切り換わった時から所定時間が経過した時にトリガパルス信号を出力し、他方については、切り換わった時に直ちにトリガパルス信号を出力するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】トライアック制御装置の回路構成図。
【図2】トライアック制御装置の作動フローチャート。
【図3】トライアック制御装置の作動時のタイミングチャート。
【図4】SSRによる遮断回路を介して、複数の空調機器に交流電力が供給される態様の構成図。
【図5】トリガパルス信号の出力態様を説明するためのタイミングチャート。
【図6】従来のトライアック制御の回路構成図。
【図7】図6に示した回路におけるゼロクロス検出の説明図、及び作動時のタイミングチャート。
【符号の説明】
【0080】
1…トライアック制御装置、5…サーミスタ、6…電気ヒータ(電気負荷)、7…交流電源、10…マイクロコンピュータ、20…直流電源回路、30…位相進み回路、40…ゲート駆動回路、45…トライアック、50…ピークホールド回路(電流検出保持手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源の第1の出力部及び第2の出力部とトライアックを介して接続された電気負荷への通電を、該トライアックのゲートにトリガパルス信号を出力することによって制御するトライアック制御装置であって、
高電位側の出力部が前記交流電源の第1の出力部と接続された直流電源と、
該直流電源から供給される電力により作動して、少なくともプログラムの実行を停止するスリープモードと、プログラムを実行するアクティブモードとを切換える機能を有するマイクロコンピュータと、
該マイクロコンピュータから出力されるトリガパルス信号を入力し、該トリガパルス信号を入力しているときに前記トライアックのゲートを前記直流電源の低電位側の出力部に導通するゲート駆動回路と、
入力側が前記交流電源の第2の出力部と接続されると共に、出力側が前記マイクロコンピュータの論理入力ポートと接続された位相進み回路とを備え、
前記マイクロコンピュータは、スリープモードにおいて前記論理入力ポートの入力論理がHighからLowに切り換わったとき及びLowからHighに切り換わったときに、アクティブモードに移行し、前記トリガパルス信号を出力してスリープモードに戻ることを特徴とするトライアック制御装置。
【請求項2】
前記マイクロコンピュータは、前記論理入力ポートの入力論理がHighからLowに切り換わってスリープモードからアクティブモードに移行したときに、該移行時点から前記位相進み回路による位相の進み度合に基づいて決定した第1の所定時間が経過した時に、前記トリガパルス信号を出力することを特徴とする請求項1記載のトライアック制御装置。
【請求項3】
前記マイクロコンピュータは、前記論理入力ポートの入力論理がLowからHighに切り換わってスリープモードからアクティブモードに移行したときに、該移行時点から前記位相進み回路による位相の進み度合に基づいて決定した第2の所定時間が経過した時に、前記トリガパルス信号を出力することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のトライアック制御装置。
【請求項4】
前記位相進み回路は、第1の抵抗とコンデンサとを直列に接続した直列回路と第2の抵抗とを並列に接続して構成され、該第1の抵抗と該第2の抵抗の接続部が前記交流電源の第1の出力部に接続されると共に、該コンデンサと該第2の抵抗との接続部が前記マイクロコンピュータの前記論理入力ポートに接続されていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか1項記載のトライアック制御装置。
【請求項5】
前記交流電源の半周期における前記電気負荷の通電量の最大値を検出して、少なくとも前記交流電源の次のゼロクロスまで保持する電流検出保持手段を備え、
前記マイクロコンピュータは、スリープモードからアクティブモードに移行したときに、前記電流検出保持手段に保持された通電量のピーク値を読み込んで、前記電気負荷の通電異常を検知することを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか1項記載のトライアック制御装置。
【請求項6】
前記電気負荷は電気ヒータであり、
前記マイクロコンピュータは、温度検出手段による温度検出信号が入力される温度入力ポートを有し、スリープモードからアクティブモードに移行したときに、該温度検出信号による検出温度と所定の目標温度とを比較して、前記トリガパルス信号を出力するか否かを決定し、前記トリガパルス信号を出力しなかったときには、前記交流電源の次の半周期において前記電流検出保持手段により保持される通電量のピーク値については、前記電気負荷の通電異常を検知しないことを特徴とする請求項5記載のトライアック制御装置。
【請求項7】
前記マイクロコンピュータは、前記トリガパルス信号として、第3の所定時間内に所定回数断続的にパルス信号を出力することを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか1項記載のトライアック制御装置。
【請求項8】
前記マイクロコンピュータは、前記第3の所定時間内に所定回数パルス信号を出力するときに、後に出力する該パルス信号の出力時間を、先に出力した該パルス信号の出力時間よりも短くすることを特徴とする請求項7記載のトライアック制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−301565(P2008−301565A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142046(P2007−142046)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(399040449)シーアールボックス株式会社 (3)
【Fターム(参考)】