説明

トラクタ

【課題】トラクタに作業機を連結する作業、或いは作業機を清掃する作業等において、作業者が地上に降りた状態であっても迅速にエンジンを停止させたり、或いはPTOクラッチを切り操作することができるようにする。
【解決手段】制御装置は、指令スイッチの何れか一つのスイッチが単独で入りとなった際には、ヒッチ機構を昇降又は傾斜させ、また、二つの指令スイッチが共に入りとなった際には、エンジンを停止させ、或いはPTOクラッチを切る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリ耕耘装置等の作業機を連結するヒッチ機構を備えると共に、このヒッチ機構を昇降又は傾斜させる二つの指令スイッチを作業機連結部の近傍に設けるトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種のトラクタは、機体の後部に三点リンク式のヒッチ機構を備え、このヒッチ機構にロータリ耕耘装置や代掻きハローを適宜連結して耕耘作業を行なう。そして、作業機連結部の近傍にはヒッチ機構を昇降又は傾斜させる指令スイッチを設け、この指令スイッチを操作して作業機の連結作業を迅速に行なえるようにしている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、この場合、指令スイッチを操作してヒッチ機構を昇降又は傾斜させるためには、エンジンを起動させて油圧装置が有効に作用する状態にしておく必要があり、また、この作業機の連結作業を終えた後に、例えば作業機側の耕深センサのカプラを本機の制御装置側に連結する等の付帯的な作業を伴う場合がある。
そして、この付帯的な作業を行なう際には、作業を安全に行なうためにエンジンを停止させた状態で行なうことが望ましく、そのためには操縦部に一旦移動してキースイッチを切り操作してエンジンを停止させる必要がある。
【0003】
一方、トラクタにおいては、ヒッチ機構にロータリ耕耘装置や代掻きハローを適宜連結して耕耘作業を行なった後に、作業機に付着した泥土を取り除く清掃作業が欠かせない。そして、この清掃作業においては、PTOクラッチを入れて耕耘爪を回転させながら注水することによって、泥土の取り除き作業を行なう場合がまま見受けられる。
しかし、注水を終えて更なる作業機の清掃、または点検を行なう場合には、そのまま作業機を駆動させたままで行なうことは安全上において好ましくなく、この場合も、操縦部に一旦移動してPTOクラッチの切り操作、そしてキースイッチを切り操作してエンジンを停止させなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3602647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した通り、トラクタに作業機を連結する作業、或いは作業機を清掃する作業等にあっては、作業者は地上に降りて作業を行なうことになるが、この場合に地上に居ながらにしてエンジンを停止させたり、或いはPTOクラッチを切り操作する有効な手段が存在しない。そのため、作業者は操縦部に移動していちいちこれらの操作を行なわなければならないという煩わしさがあり、迅速な作業を遂行できないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の如き実情に鑑みてこれらの課題を解決することを目的とするものであって、請求項1の発明は、作業機を連結するヒッチ機構を備え、このヒッチ機構を昇降又は傾斜させる二つの指令スイッチを作業機連結部の近傍に設けるトラクタにおいて、前記指令スイッチの何れか一つのスイッチが単独で入りとなった際には、ヒッチ機構を昇降又は傾斜させ、また、二つの指令スイッチが共に入りとなった際には、エンジンを停止するように構成することを特徴とする。
また、請求項2の発明は、作業機を連結するヒッチ機構を備え、このヒッチ機構を昇降又は傾斜させる二つの指令スイッチを、作業機連結部の近傍に設けるトラクタにおいて、前記指令スイッチの何れか一つのスイッチが単独で入りとなった際には、ヒッチ機構を昇降又は傾斜させ、また、二つの指令スイッチが共に入りとなった際には、PTOクラッチを切るように構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明とすることにより、作業者は指令スイッチを同時に押すことによって、地上に居ながらにしてエンジンを停止させることができるから、安全にまた迅速に作業機の連結作業等を行なうことができる。
また、請求項2の発明とすることにより、作業者は指令スイッチを同時に押すことによって、地上に居ながらにしてPTOクラッチを切ることができるから、安全にまた迅速に作業機の清掃作業等を行なうことができる。
そして、これらエンジンを停止させるための指令スイッチ、或いはPTOクラッチを切るための指令スイッチは、ヒッチ機構を昇降又は傾斜させる二つの指令スイッチを用いて構成することができるから、既存のトラクタに新たな付加価値を追加するものでありながら安価にこれらの機能を追加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】トラクタの側面図である。
【図2】昇降指令スイッチ部分の斜視図である。
【図3】制御装置の入出力を示すブロック図である。
【図4】エンジン停止を伴う昇降制御のフローチャートである。
【図5】PTOクラッチ入切を伴う傾斜制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1はトラクタであって、トラクタ1は前輪2及び後輪3を備える機体の前部に、エンジン4をボンネット5で覆った状態で搭載してあり、機体の中央部に設けるキャビン6内には、ステアリングハンドル7、運転席8等からなる操縦部を設ける。
また、機体の後部には、三点リンク式のヒッチ機構9を介して、ロータリ耕耘装置10が連結されている。そして、ヒッチ機構9は左右のロワーリンク11と中央のトップリンク12を備え、図示しないリフトシリンダが伸縮作動すると左右一対のリフトロッドを介して吊持したロワーリンク11が回動して、ロータリ耕耘装置10が昇降作動する。さらに、左右一対のリフトロッドの内、一方はリフトロッドシリンダによって構成され、このリフトロッドシリンダを伸縮作動させると、ロータリ耕耘装置10は左右に傾斜するが、これらの基本構成は何れも従来通りである。
【0010】
次に図2において、13、14は昇降指令スイッチであって、昇降スイッチ13,14は後輪3の左側フェンダ15部分に装着してあり、その内、上昇スイッチ13を押すと、前述したリフトシリンダが伸長してロータリ耕耘装置10が上昇し、また、下降スイッチ14を押すとリフトシリンダが縮小してロータリ耕耘装置10が下降するように構成されている。
さらに、図示しない機体の右側のフェンダ15部分には、昇降指令スイッチ13,14と同様に構成された傾斜指令スイッチ17、18が設けてあり、その内、一方の左上げスイッチ17を押すと、前述したリフトロッドシリンダが伸長してロータリ耕耘装置10が左上がりに傾斜し、また、右上げスイッチ18を押すとリフトロッドシリンダが縮小してロータリ耕耘装置10が右上がりに傾斜するように構成されているが、これらの基本構成も従来通りである。
【0011】
図3は、前述の指令スイッチ13,14,17,18によってリフトシリンダ、或いはリフトロッドシリンダを伸縮作動させる制御装置のブロック図を示しており、制御装置19は、例えばマイクロコンピュータを用いて構成されており、その入力側には、指令スイッチ13,14,17,18の外、作業機昇降レバーの操作角を検出するポジションセンサ20、リフトシリンダの回動角を検出するリフトアームセンサ21、リフトロッドシリンダの作動位置を検出するリフトロッドセンサ22、作業機への動力伝達を入り切りするPTOスイッチ23等が接続される。なお、制御装置19には、これ以外にロータリ耕耘装置10に設けられるリヤカバーの角度変化を検出する深さセンサや、機体の左右傾斜を検出する傾斜センサ等が接続されており、これらのセンサ信号に基づいて耕深自動制御や傾斜自動制御が実行される。
一方、制御装置19の出力側には、リフトシリンダの伸縮作動を切り換える電磁バルブの上昇比例ソレノイド24、下降比例ソレノイド25、リフトロッドシリンダの伸縮作動を切り換える伸長ソレノイド26、縮小ソレノイド27、そして、エンジン4に供給する燃料を遮断してエンジン4を停止させる燃料カットソレノイド28、PTOクラッチを入切りする電磁バルブの比例ソレノイド29等が接続される。なお、トラクタ1のメイン電源を入り切りすると共に、エンジン4を始動させるキースイッチ30の信号も制御装置19に入力されている。
【0012】
そして、上記のように構成される制御装置19は、前述の指令スイッチ13,14,17,18からの信号に基づいて、作業機の昇降又は傾斜制御(即ちヒッチ機構9の昇降又は傾斜制御)を行なうようにプログラムされており、その内、作業機の昇降制御は、概略、図4のフローチャートに示す通りに行なわれる。
即ち、制御装置19は、先ず指令スイッチ13,14の作動状態を読み込んだ後、上昇スイッチ13が押されて上げ指令が発せられているか、また、下降スイッチ14が押されて下げ指令が発せられているかを判断する。
そして、この場合に上げ指令も下げ指令もない場合は、現状を維持して実質的な制御は行なわれないが、上げ指令が発せられていて下げ指令が出されていない場合は、リフトシリンダの上昇比例ソレノイド24が通電されて作業機は上昇する(上昇制御)。また、逆に上げ指令が出されていない状態で下げ指令が出されている場合は、リフトシリンダの下降比例ソレノイド25が通電されて作業機は下降する(下降制御)。
なお、この場合の上昇又は下降制御は、上昇又は下降スイッチ13、14が単独で押されている間のみ行なわれるものであり、作業機昇降レバーを操作して作業機を昇降させる場合の昇降速度より比較的に緩やかな所定の速度で作業機は昇降するように構成してある。
【0013】
さらに、制御装置19は、上昇及び下降スイッチ13、14が共に押されて上げ指令及び下げ指令が同時に発せられた際には、PTOクラッチの入切り状態を判断し、現在PTOスイッチ23によってPTOクラッチが入り状態である場合には、比例ソレノイド29への通電を断ってPTOクラッチを切り状態とする。また、PTOクラッチが既に切り状態である場合には、燃料カットソレノイド28への通電を断ってエンジン4を停止させる。
なお、制御装置19はエンジン4を停止させた場合には、自らに供給される電源回路を遮断する。これによって制御装置19はその機能を停止して、キースイッチ30をそのまま入り状態に放置したとしても、制御装置に電源は供給されないからバッテリあがりを防止することができる。
【0014】
次に作業機の傾斜制御の概略を図5のフローチャートに基づいて説明すると、制御装置19は、指令スイッチ17,18の作動状態を読み込んだ後、左上げスイッチ17が押されて左上げ指令が発せられているか、また、右上げスイッチ18が押されて右上げ指令が発せられているかを判断する。
そして、この場合、左上げ指令も右上げ指令も出されていない場合は、現状を維持して実質的な制御を行なわないが、左上げ指令が発せられていて右上げ指令が出されていない場合は、リフトロッドシリンダの伸長ソレノイド26が通電されて作業機は左上がりに傾斜する(左上げ制御)。また、逆に左上げ指令が出されていない状態で右上げ指令が出されている場合は、リフトロッドシリンダの縮小ソレノイド27が通電されて作業機は右上がりに傾斜する(右上げ制御)。
【0015】
さらに、制御装置19は、左上げ及び右上げスイッチ17、18が共に押されて左上げ指令及び右上げ指令が同時に発せられた際には、PTOクラッチの入切り状態を判断し、現在PTOスイッチ23によってPTOクラッチが入り状態である場合には、比例ソレノイド29への通電を断ってPTOクラッチを切り状態とする。また、PTOクラッチが切り状態である場合には、比例ソレノイド29へ通電してPTOクラッチを入り状態とする。
従って、この場合には、PTOクラッチを入りとして作業機に動力を伝達させたり、PTOクラッチを切って作業機への動力伝達を遮断したりといった反復的な作動制御を、左上げ及び右上げスイッチ17、18の同時押し操作によって可能にしている。
【0016】
以上の如く構成された本実施形態によれば、機体後部の作業機連結部の近傍にヒッチ機構9を昇降及び傾斜させる指令スイッチ13,14,17,18を設けており、例えばロータリ耕耘装置10に替えて代掻きハローを装着する場合は、左右のロワーリンク11先端の作業機連結部の位置を、指令スイッチ13,14,17,18を操作してハロー側の下部連結部の位置に合わせて両者を結合すると共に、トップリンク12の先端連結部をハロー側の上部連結部に結合する。
そして、この連結作業を終了すると、ハロー側の耕深センサのカプラを本機の制御装置19に連結する等の付帯的な作業が必要な場合がある。この場合、作業者は上昇及び下降スイッチ13、14を同時に押すことによって、PTOクラッチが入り状態である場合には、PTOクラッチを切り状態とし、また、再度、上昇及び下降スイッチ13、14を同時に押すことによって、燃料カットソレノイド28への通電を断ってエンジン4を停止させることができる。そのため、この付帯的な作業はエンジン4を停止させた安全な状態で行なうことができると共に、エンジン4の無駄な燃料消費を防止することができるといった利点がある。
【0017】
一方、ロータリ耕耘装置10や代掻きハロー等を用いて耕耘作業を行なった後には、作業機に付着した泥土を取り除く清掃作業を行なう。この場合に作業者はPTOクラッチを入れてロータリ耕耘装置10の耕耘爪を回転させながら、別途用意したホースを用いて注水することによって、耕耘爪等に付着した泥土を洗い流すことがある。
そして、耕耘爪を回転させながら注水しても取り除ききれなかった草藁等は、作業者の手で自ら取り除く必要があり、この場合には、PTOクラッチを切り操作し、また好ましくはエンジンを停止させた状態で作業を行なうことが望ましい。
このような場合、作業者は、左上げ及び右上げスイッチ17、18を同時に押すことによってPTOクラッチの入り切りを地上に居ながらにして操作することができ、作業機の清掃作業を能率的行なうことができる。
また、上昇及び下降スイッチ13、14を同時に押すことによってエンジン4を停止させた安全な状態で草藁の取り除き作業を行なうことができるといった利点がある。
【0018】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば指令スイッチとして上昇及び下降スイッチ13、14、或いは左上げ及び右上げスイッチ17、18の一方のみを用いること、また、図4に示すエンジン停止を伴う制御を左上げ及び右上げスイッチ17、18によって行うといった任意の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0019】
1 トラクタ
9 ヒッチ機構
13 上昇スイッチ
14 下降スイッチ
17 左上げスイッチ
18 右上げスイッチ
19 制御装置
28 燃料カットソレノイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機を連結するヒッチ機構を備え、このヒッチ機構を昇降又は傾斜させる二つの指令スイッチを作業機連結部の近傍に設けるトラクタにおいて、前記指令スイッチの何れか一つのスイッチが単独で入りとなった際には、ヒッチ機構を昇降又は傾斜させ、また、二つの指令スイッチが共に入りとなった際には、エンジンを停止するように構成してあるトラクタ。
【請求項2】
作業機を連結するヒッチ機構を備え、このヒッチ機構を昇降又は傾斜させる二つの指令スイッチを作業機連結部の近傍に設けるトラクタにおいて、前記指令スイッチの何れか一つのスイッチが単独で入りとなった際には、ヒッチ機構を昇降又は傾斜させ、また、二つの指令スイッチが共に入りとなった際には、PTOクラッチを切るように構成してあるトラクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−187616(P2010−187616A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36894(P2009−36894)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】