説明

トラクタ

【課題】ミッションケースを上下幅の少ない形状にするとともに、ミッションケースの内部で径の大きなPTOクラッチを無理なく配置しながら、PTO変速装置として自由な変速仕様のものを用い易くして所要の機能を得られるようにする。
【解決手段】走行主軸21とPTO主軸71とを、入力軸11の軸心を挟んで両横側位置に振り分けて配設し、走行主軸21よりも下方側に走行主軸21から動力が伝えられる走行カウンタ軸22を配置するとともに、PTO主軸71よりも下方側にPTO主軸71側の動力が伝えられるPTOカウンタ軸72を配置し、このPTOカウンタ軸72にPTOクラッチを備え、PTOカウンタ軸72よりも上方側にPTO変速機構へ動力を伝達するPTO変速入力軸81を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン動力が伝えられる入力軸の動力を、ミッションケース内で走行駆動系とPTO駆動系とに分岐して、走行駆動系の動力を走行デフ機構に伝達するとともに、PTO駆動系の動力をPTO軸からミッションケース外へ取り出すように構成してあるトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように、エンジン動力が伝えられる入力軸の動力を、ミッションケース内で走行駆動系とPTO駆動系とに分岐して、走行駆動系の動力を走行デフ機構に伝達するとともに、PTO駆動系の動力をPTO軸からミッションケース外へ取り出すように構成したトラクタとしては、下記[1]又は[2]に記載のものが知られている。
【0003】
[1]主クラッチを介してエンジン動力が伝えられる入力軸を備え、その入力軸に伝えられた動力を、入力軸の下方に位置をずらして配設された伝動軸に伝え、さらに、その伝動軸から左右の走行駆動系とPTO駆動系とに分岐伝動するように構成し、PTO駆動系のクラッチは、機体後部の差動装置よりも後方側に配設したもの(例えば特許文献1参照)。
[2]エンジン動力が伝えられる入力軸を、伝動方向上手側に配設されている主クラッチの入り切り操作で駆動力が断続されるように構成された走行系入力軸と、前記主クラッチの入り切り操作に関係なくエンジン側の動力が伝達されるように構成されたPTO系入力軸とを同心状に設けた内外二重軸で構成し、内側の軸と外側の軸とのそれぞれから取り出された動力を、ミッションケース内で走行駆動系とPTO駆動系とに分岐して伝動するように構成したもの(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−46606号公報(段落番号〔0008〕、〔0011〕、図2、図3、及び図5参照)
【特許文献2】特開2005−36891号公報(段落番号、〔0014〕、〔0015〕、〔0018〕、図3参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記[1]に記載した従来のものでは、走行駆動系とPTO駆動系とを、ミッションケースの内部で左右に分配することで、ミッションケースの上下幅を極端に大きくすることなく構成しようとしたものである。しかしながら、上記のミッションケース内に配備される走行駆動系とPTO駆動系との各伝動機構は、エンジン動力が伝えられる入力軸から一旦下方に位置をずらして配設された伝動軸から左右に分岐伝動されるように構成してあるため、これらの走行駆動系とPTO駆動系との伝動機構同士を上下に重ねて配設する場合よりはミッションケースの上下幅を削減できるが、前述のようにエンジン動力が伝えられる入力軸から一旦下方に位置をずらして伝動軸が配設されるものであるため、その伝動軸が下方に位置をずらした量だけ、ミッションケースの上下幅が大きくなる傾向がある。
また、この従来構造のものでは、PTOクラッチが走行駆動系の差動装置よりも機体後方側に配設されているため、ミッションケースの機体後方側への延出寸法が大きくなり、機体長さが長くなる傾向があった。
【0006】
上記[2]に記載した従来のものでは、走行駆動系とPTO駆動系とを、エンジン動力が伝えられる入力軸から直ちに左右両側に分岐伝動するように配設したものであるから、前述したような、エンジン動力が伝えられる入力軸から一旦下方に位置をずらして配設された伝動軸から分岐伝動する場合に比べて、ミッションケースの上下幅の増大を回避し易い点では有利である。
そして、この構造のものでは、走行駆動系では、エンジン動力が伝えられる入力軸から分岐伝動される走行主軸よりも下方側に走行カウンタ軸を配置して主ギヤ変速機構を構成し、PTO駆動系では、エンジン動力が伝えられる入力軸から分岐伝動されるPTO主軸よりも下方側にPTOカウンタ軸を配置し、さらに、PTOクラッチを前記エンジン動力が伝えられる入力軸からの動力が伝えられるPTO主軸にではなく、そのPTO主軸から離れた位置のPTOカウンタ軸に設けている。
これによって、前記PTOクラッチを、PTO変速装置よりも伝動方向での上手側に位置させて、エンジン停止状態でのロータリ耕耘装置の爪交換作業などを行い易くするとともに、主ギヤ変速機構から離れた箇所へ配置し易くして、PTOクラッチの大径化を可能にし、大きなトルク伝達が可能な仕様の機種にも適用できるように工夫している。
【0007】
この構造のものでは、前記PTOクラッチからの出力は、そのPTOカウンタ軸を延長した軸をPTO変速入力軸として、そのままPTO変速装置に入力するように構成されている。
このため、径の大きなPTOクラッチが主ギヤ変速機構からの離間距離を大きくするようにミッションケース内でのケース外壁近くに配設されていると、そのPTOクラッチからの出力を伝えるPTOカウンタ軸をPTO変速入力軸とするPTO変速装置は、ミッションケース自体の上下方向寸法を増大しない限り、PTO変速入力軸よりもミッションケース内の中央側寄り箇所にしかPTO変速装置を構成する伝動軸を配設するスペースがない。しかしながら、ミッションケースの上下方向寸法を大きくすると、車体腹下の車高が低くなりすぎる傾向がある。
しかも、最終的にミッションケースからケース外へ動力を導くためのPTO軸は、アタッチメントとして装備する作業装置の取付構造等との関係から、予め適正な位置関係が定められているので、そのPTO軸の位置を変更することは好ましいものではなく、これに伴いPTO変速装置から取り出される出力軸の位置も、PTO軸と同心、もしくはその近くであるのが望ましい。
このような諸条件から、上記構造のものでは、PTO変速装置を変速段数の大きいものにしたり、PTO変速装置での逆転伝動構造を組み込むことが困難であった。
【0008】
本発明の目的は、ミッションケースの断面形状をできるだけ上下幅の少ない形状とするとともに、ミッションケースの内部で径の大きなPTOクラッチを無理なく配置しながら、PTO変速装置として自由な変速仕様のものを用い易くして所要の機能を得られるようにし、ミッションケース内の後段側に備えたPTO軸の位置などの設計変更を要することなく、多様なPTO変速構造を備えられるようにしたトラクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明によるトラクタでは、下記の技術手段を講じたものである。
〔解決手段1〕
請求項1に記載のように、エンジン動力が伝えられる入力軸の動力を、ミッションケース内で走行駆動系とPTO駆動系とに分岐して、走行駆動系の動力を走行デフ機構に伝達するとともに、PTO駆動系の動力をPTO軸からミッションケース外へ取り出すように構成してあるトラクタにおいて、
前記入力軸を、伝動方向上手側に配設されている主クラッチの入り切り操作で駆動力が断続されるように構成された走行系入力軸と、前記主クラッチの入り切り操作に関係なくエンジン側の動力が伝達されるように構成されたPTO系入力軸とを同心状に設けた内外二重軸で構成し、
前記走行系入力軸に備えた走行系出力ギヤに噛合う走行入力ギヤを備えて駆動力が伝達される走行主軸と、前記PTO系入力軸に備えたPTO系出力ギヤに噛合うPTO入力ギヤを備えて駆動力が伝達されるPTO主軸とを、前記入力軸の軸心を挟んで両横側位置に振り分けて配設し、
前記走行主軸よりも下方側に走行主軸から動力が伝えられる走行カウンタ軸を配置するとともに、前記走行主軸と走行カウンタ軸とに変速用ギヤを備えてギヤ変速機構を構成し、
前記PTO主軸よりも下方側にPTO主軸側の動力が伝えられるPTOカウンタ軸を配置し、このPTOカウンタ軸にPTO駆動系への動力を断続するPTOクラッチを備えるとともに、
前記PTOカウンタ軸よりも上方側にPTO変速機構へ動力を伝達するPTO変速入力軸を備え、このPTO変速入力軸に前記PTOクラッチを経て入力された動力を、PTO変速機構で変速してPTO軸から取り出すように構成したことを特徴とする。
【0010】
〔解決手段1にかかる発明の作用及び効果〕
上記のように、走行駆動系の駆動を断ってもPTO駆動系を独立して駆動することのできる所謂ライブPTOでの駆動状態を、走行系入力軸とPTO系入力軸とを同心状に設けた内外二重軸で現出できるようにしたことにより、これらを別軸で構成する場合に比べて、ミッションケース内での空間の利用効率を上げてコンパクトに構成できるようにしている。
そして、このように内外二重軸で構成された走行系入力軸とPTO系入力軸とを用いたものでありながら、それらの両入力軸から走行駆動系とPTO駆動系とに対する動力の分配は、エンジン動力が伝えられる入力軸から一旦下方に位置をずらして配設された伝動軸から分岐伝動するのではなく、エンジン動力が伝えられる入力軸から直ちに左右両側に分岐伝動するように配設したものであるから、分岐箇所の位置を下方の伝動軸とした場合よりもミッションケースの上下幅が大きくなることを避けて、ミッションケースを上下幅の少ない形状とすることができる。
【0011】
また、PTOクラッチは、走行系入力軸とともに内外二重軸で構成されたPTO系入力軸からの動力が伝えられるPTO主軸にではなく、そのPTO主軸から離れた位置のPTOカウンタ軸に設けてあるので、前記ギヤ変速機構からは離れた箇所に位置し、PTOクラッチの大径化が可能となり、大きなトルク伝達が可能な仕様の機種にも適用し易い構成とすることができる。
さらにPTOクラッチはPTO変速装置よりも伝動方向での上手側に配設されるので、エンジン停止状態でのロータリ耕耘装置の爪交換作業などを行い易くする点でも有用である。つまり、PTO駆動系の動力を断続するPTOクラッチが、PTO変速機構よりも伝動方向での下手側に配設されたものであれば、エンジン停止状態でPTOクラッチが制動された状態となっていて、ロータリ耕耘装置のロータリ爪の回転位置を変更することができないため、ロータリ耕耘装置の爪交換作業などを行い難い場合がある。
これに対して本発明のものでは、PTOクラッチをPTO変速装置よりも伝動方向での上手側に配設しているので、伝動方向下手側のPTO変速装置を中立状態とすることにより、ロータリ耕耘装置のロータリ爪の回転位置を非駆動状態で自由に位置変更することが可能となり、爪交換作業を行い易くなる利点がある。
そして、このように径の大きいPTOクラッチを採用した場合にも、前記PTOカウンタ軸よりも上方側にPTO変速機構へ動力を伝達するPTO変速入力軸を備えることにより、PTO変速装置としては、PTOクラッチが設けられたPTOカウンタ軸に対して離れた位置にPTO変速入力軸を配設することができる。その結果、ミッションケース内でPTO変速入力軸の周辺に空間的余裕を形成し易く、そのPTO変速入力軸周りの空間を利用してPTO変速装置を空間的な制約の少ない状態で配設し易い。
【0012】
〔解決手段2〕
上記課題を解決するために講じた本発明の他の技術手段は、請求項2に記載のように、PTO変速機構では、PTO変速入力軸から動力が伝達されるPTO変速カウンタ軸と、前記PTO変速入力軸から伝達される動力を逆転させて前記PTO変速カウンタ軸に伝達するPTO変速逆転軸とを、PTO変速入力軸の横側方での一方側で、上下に振り分けて配設してある点に特徴がある。
【0013】
〔解決手段2にかかる発明の作用及び効果〕
上記のように、PTO変速入力軸の横側方での外方側で、PTO変速カウンタ軸とPTO変速逆転軸とを上下に振り分けて配設してあるので、PTOカウンタ軸よりも上方側にPTO変速機構へ動力を伝達するPTO変速入力軸を備えることによって、PTO変速入力軸の外方側にできた上下方向の空間を有効利用することができる。
つまり、上述したように、PTOカウンタ軸よりも上方側にPTO変速入力軸を備えさせて、PTO変速入力軸のミッションケース内での位置を少し上方側へ移行させ、そのPTO変速入力軸の上下にできる空間をPTO変速カウンタ軸とPTO変速逆転軸との配設用空間として利用するものであり、かつ、PTO変速カウンタ軸とPTO変速逆転軸とを上下に振り分けて、これらのPTO変速カウンタ軸とPTO変速逆転軸との横側方での配設スペースをも削減することで、ミッションケース内におけるPTO変速入力軸の外方側の空間を有効利用して、PTO変速カウンタ軸とPTO変速逆転軸とをコンパクトに配設することができる。
したがって、ミッションケースの上下方向での寸法を増大させたり、ミッションケースの横方向幅を必要以上に大きくしたりすることなく、多段の変速や正逆転変速を含めて多様な変速形態を備えるPTO変速装置であっても、ミッションケース内における空間の利用効率を高めることによってコンパクトに配設し得る利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】トラクタの全体側面図
【図2】運転部周りの平面図
【図3】伝動系を示す線図
【図4】伝動系の展開図
【図5】図4におけるV-V線での断面図
【図6】図4におけるVI-VI線での断面図
【図7】図4におけるVII-VII線での断面図
【図8】図4におけるVIII-VIII線での断面図
【図9】図4におけるIX-IX線での断面図
【図10】図4におけるX-X線での断面図
【図11】ミッションケース内における上下方向断面での各軸の配設位置関係を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の一例を図面の記載に基づいて説明する。
【0016】
〔トラクタの全体構成〕
図1に、本発明に係るPTO軸駆動構造を備えたトラクタの全体側面が示されている。このトラクタは、エンジン1、クラッチハウジング2、および、ミッションケース3を直結してなるモノボディ型の車体の前後に、ステアリングハンドル4で操向される前輪5と、向き固定の主推進車輪としての後輪6とを軸支装着した4輪駆動型に構成されている。
このトラクタは、前記ミッションケース3の後部に備えた3点リンク機構7に各種作業装置を駆動昇降可能に連結することができるとともに、図示されない後部ヒッチにトレーラなどを連結できるように構成されている。
【0017】
図2は運転部周りを示す平面図であり、前記モノボディ型の車体の上側に、ほぼ扁平に形成された操縦部デッキ8を備え、操縦部デッキ8上に運転座席9が配設されている。この運転座席9の前方にステアリングハンドル4を備え、ステアリングハンドル4の左脇に、後述する前後進変速機構30を操作するための前後進切換えレバー37が配備されている。また、運転座席9の前方側の操縦部デッキ8上には、主クラッチ10を入り切り操作するための主クラッチペダル14が配設してある。
前記運転座席9の左脇に、後述する主ギヤ変速機構(ギヤ変速機構に相当する)20を操作する主変速レバー26、及び副ギヤ変速機構40を操作する副変速レバー49が配備され、運転座席9の右脇には、PTOクラッチ70を入り切り操作するためのPTOクラッチレバー73、及びPTO変速機構80を変速操作するPTO変速レバー86が配設されている。
【0018】
〔伝動機構〕
図3に、伝動系統の概略が示されている。エンジン1の出力は、入力軸11に伝達され、この入力軸11に伝達された動力がミッションケース3において走行駆動系とPTO駆動系とに分岐され、走行駆動系の動力をデフ機構55に伝達するとともに、PTO駆動系の動力をPTO軸15からミッションケース3外へ取り出すように構成してある。
【0019】
前記入力軸11は、エンジン1からの動力が主クラッチ10を介して断続されるように構成されている筒状の走行系入力軸12と、前記主クラッチ10の入り切り操作に関係なくエンジン1側の動力が伝達されるように、エンジン1の出力軸(図外)に一体に取り付けられてエンジン1の出力軸と同一軸芯周りで回動する出力回転体1Aに連動させたPTO系入力軸13とで構成され、このPTO系入力軸13を前記筒状の走行系入力軸12に同心状に内嵌させることによって、入力軸11が内外二重軸に構成されている。
【0020】
〔走行駆動系の伝動〕
走行系入力軸12から走行駆動系に分岐された動力は、走行主軸21と走行カウンタ軸22との間、及び前後進変速機構30のシャトル主軸31とシャトルカウンタ軸32との間に配設された主ギヤ変速機構20、前記走行主軸21と走行カウンタ軸22との伝動下手側において動力伝達を断続する変速操作用クラッチ25、前後進切換えを行う前後進変速機構30、および、副ギヤ変速機構40を経て、あるいは超低速作業用のクリープ変速機構50を経て、最終変速軸であるベベルピニオンギヤ軸42に伝達され、デフ機構55を介して左右の後輪6に伝達されるように構成してある。
また、走行駆動系には、前記ベベルピニオンギヤ軸42に伝達される動力を、前輪5に対して伝達するための前輪駆動機構60も備えられている。
【0021】
入力軸11から前記主ギヤ変速機構20への動力伝達は、主クラッチ10を介してエンジン1からの動力が断続されるように構成されている筒状の走行系入力軸12に伝えられる。この走行系入力軸12には、伝動方向下手側の軸端部に走行系出力ギヤ12aを設けてあり、前記主ギヤ変速機構20の走行主軸21に備えた走行入力ギヤ21aに前記走行系出力ギヤ12aを噛合させた状態で動力伝達を行うように構成してある。
【0022】
この主ギヤ変速機構20は、前記走行系入力軸12からの動力が伝えられる走行主軸21と、その走行主軸21と平行に配設された走行カウンタ軸22とのそれぞれに備えられた4対の変速ギヤ21b,21c,21d,21e,23a,23b,23c,23dを備え、これらの変速ギヤ21b,21c,21d,21e,23a,23b,23c,23dを2つのシフトスリーブ24a,24bで前後に選択シフトして高低4段の変速を行うように構成されたシンクロメッシュ式変速機構が採用されている。
これとともに、後述する前後進変速機構30のシャトル主軸31と、そのシャトル主軸31に平行なシャトルカウンタ軸32とに備えられた2対の変速ギヤ32a,32b,35a,35bを備え、それらの変速ギヤ32a,32b,35a,35bを高低変速用シフトスリーブ36bによって択一的に選択切換して高低2段の変速を行うように構成されたシンクロメッシュ式変速機構が採用されている。
したがって、この主ギヤ変速機構20では、走行主軸21と平行に配設された走行カウンタ軸22とのそれぞれに備えられた4対の変速ギヤ21b,21c,21d,21e,23a,23b,23c,23dの選択切換による4段の変速と、シャトル主軸31とシャトルカウンタ軸32とに備えられた2対の変速ギヤ32a,32b,35a,35bの選択切換による2段の変速とにより、高低8段の変速操作を行えるように構成されている。
【0023】
主ギヤ変速機構20の走行カウンタ軸22の伝動下手側には、前記走行カウンタ軸22と前後進変速機構30のシャトル主軸31との間で動力を断続する変速操作用クラッチ25が配設されている。
この変速操作用クラッチ25は、前記主変速レバー26による変速操作が開始されたことを適宜検出手段(図外)で検知することにより、主ギヤ変速機構20のシフトスリーブ24a,24b,36bの作動に先立って切り操作され、シフトスリーブ24a,24b,36bの作動後に入り操作されるように、シフト操作に同期して断続するように切換操作されるものであり、主ギヤ変速機構20の変速操作を滑らかに行わせるように連係させた周知の構造のものである。
上記の変速操作用クラッチ25の入り切り操作は、圧油供給状態で摩擦板を押圧して入り操作し、供給された圧油の排出に伴って内蔵付勢バネが復元することによって切り操作されるように周知の油圧機器で制御されるものであり、その油圧機器の制御は、図示しない制御装置によって行われるように構成してある。
【0024】
前後進変速機構30は、前記走行カウンタ軸22からの動力が伝えられるシャトル主軸31と、そのシャトル主軸31に平行なシャトルカウンタ軸32、及びシャトルバック軸33とを備えている。
前記シャトル主軸31は、シャトル主軸31と一体に回動される駆動回転体31aと、その駆動回転体31aの駆動力を前進駆動側に伝達する前進中継ギヤ34aと、後進駆動側に伝達する後進中継ギヤ34bとを備えて、前後進切換用シフトスリーブ36aによって前進中継ギヤ34aと、後進中継ギヤ34bとに駆動力伝達方向を択一的に選択切換可能に構成してある。
前記前進中継ギヤ34aには、前記主ギヤ変速機構20の変速段の一部を構成する2対の変速ギヤ32a,32b,35a,35bを連係作動させるように構成してある。すなわち、前記前進中継ギヤ34aには、筒軸部分34cを介して前進側駆動回転体34dが一体に装備されている。
前記前進中継ギヤ34aを選択するように前後進切換用シフトスリーブ36aを切り換えると、前進側駆動回転体34dに駆動力が伝達される。この前進側駆動回転体34dに伝達された駆動力を高低2段に切り換えて前進駆動側に伝達するように、前記シャトル主軸31と前記筒軸部分34cとの夫々に遊嵌させた変速ギヤ35a,35bを備え、高低変速用シフトスリーブ36bによって低速側変速ギヤ35a又は高速側変速ギヤ35bの何れかを選択切換できるように構成してある。
【0025】
前記シャトルカウンタ軸32には、前記シャトル主軸31側の変速ギヤ35a,35bと噛合する2つの変速ギヤ32a,32bを設けるとともに、前記シャトルバック軸33側の逆転ギヤ33aと噛合する逆転伝動ギヤ32cを備えている。
前記シャトル主軸31側の後進中継ギヤ34bには、後進伝動ギヤ34eが一体に形成してあり、この後進伝動ギヤ34eからシャトルバック軸33側の逆転ギヤ33aに後進用の駆動力が伝達されるように構成してある。
このようにして、上記前後進変速機構30は、前後進切換のための正逆転切換えを行うように構成されたシンクロメッシュ式変速機構が採用されている。
【0026】
前後進変速機構30のシャトルカウンタ軸32から出力された走行用動力は、副ギヤ変速機構40を経て、あるいは超低速作業用のクリープ変速機構50を経て、ベベルピニオンギヤ軸42に伝達されるように構成してある。
つまり、副ギヤ変速機構40は、副変速入力軸41と一体に回動される駆動回転体41a,41bを備えるとともに、副変速入力軸41とベベルピニオンギヤ軸42との間で、2対の副変速ギヤ43b,43c,45c,42bを備えている。
上記の2対の副変速ギヤ43b,43c,45c,42bは、前記副変速入力軸41と一体に回動される駆動回転体41a,41bとの間で個別に設けた第1シフトスリーブ44aと、第2シフトスリーブ44bと、前記ベベルピニオンギヤ軸42と一体に回動される駆動回転体42aとの間に設けた第3シフトスリーブ46とを備えて高低変速可能なシンクロメッシュ式変速機構が採用されている。
【0027】
この副ギヤ変速機構40では、第1シフトスリーブ44aを第1副変速ギヤ43b側に係合するように切り換え操作し、第2シフトスリーブ44bを第2副変速ギヤ43c側との係合を解除するように切り換え操作し、第3シフトスリーブ46を第3副変速ギヤ45c側に係合するように切り換え操作することにより、副変速の「低速」状態でベベルピニオンギヤ軸42の駆動を行うように構成してある。
また、第1シフトスリーブ44aの第1副変速ギヤ43bに対する係合を解除し、第2シフトスリーブ44bを第2副変速ギヤ43cに係合するように切り換え操作するとともに、第3シフトスリーブ46を第3副変速ギヤ45cとの係合を解除するように切り換え操作することにより、第2副変速ギヤ43c及び第4副変速ギヤ42bを介して副変速の「高速」状態でベベルピニオンギヤ軸42の駆動を行うように構成してある。
【0028】
クリープ変速機構50は、前記副変速入力軸41とベベルピニオンギヤ軸42との間で、クリープ変速用の1対の変速ギヤ43a,45aを備えるとともに、ベベルピニオンギヤ軸42とクリープ変速軸51との間で、クリープ変速用の2対の変速ギヤ45b,45d,51a,51bを備えている。
そして、前記クリープ変速用の各変速ギヤ43a,45a,45b,45d,51a,51bの選択操作を、前記副ギヤ変速機構40の第1副変速ギヤ43bを選択操作するための第1シフトスリーブ44a、及び第3副変速ギヤ45cを選択操作するための第3シフトスリーブ46とを利用して行えるようにしてある。
つまり、第1副変速ギヤ43b側への操作とは逆方向への第1シフトスリーブ44aの操作で前記クリープ変速用の1対の第1クリープ変速ギヤ43aの選択操作を行い、第3副変速ギヤ45c側への操作とは逆方向への第3シフトスリーブ46の操作で前記クリープ変速用の第2クリープ変速ギヤ45dの選択操作を行うように構成してある。
このとき、第2シフトスリーブ44bは、第2副変速ギヤ43cの駆動を解除する位置にある。
【0029】
前記ベベルピニオンギヤ軸42の後端近くには、後述する前輪駆動機構60への前輪出力用ギヤ42cが一体回動自在に装着されている。この前輪出力用ギヤ42cは、後述するPTO軸15の途中に遊嵌支持された中継ギヤ48を介して、前輪駆動機構60に走行駆動力を伝達するものである。
前記ベベルピニオンギヤ軸42の後端のベベルギヤ47は、デフ機構55の差動ギヤ55aに噛合しており、このデフ機構55を介して左右の後輪6へ走行用動力を出力するように構成されている。
【0030】
前輪駆動機構60は、前記中継ギヤ48を介して伝達された駆動力を、後述する四輪駆動軸62を経て前輪駆動軸64(図5乃至図10参照)を介して前輪5に伝達することにより、前輪5を駆動する四輪駆動状態、及び前輪5への動力伝達を断って後輪6のみによって駆動する二輪駆動状態とに切換操作自在に構成されているとともに、直進状態では前輪5と後輪6とを等速駆動しながら、旋回状態での駆動時には、前輪5を後輪6のほぼ2倍の周速度で駆動する倍速駆動を行うように構成された周知の構造のものである。
すなわち、中継ギヤ48から入力された動力を、倍速駆動軸61に備えた各変速ギヤ61a,61b,61c、及び四輪駆動軸62に備えた各変速ギヤ62a,62bと、前輪駆動クラッチ63を利用し、前記変速ギヤ61c,61b,62bを経て直進用の等速動力が伝達される等速駆動状態と、前記変速ギヤ61c,61a,62aを経て旋回用の倍速動力が伝達される倍速駆動状態とに、前輪駆動クラッチ63を切換操作可能に構成してある。さらに、前輪駆動クラッチ63を切り状態にするとともに、各変速ギヤ62a,62bの何れの側からも動力が伝達されないようにして、前記中継ギヤ48から入力された動力を前輪5側へ出力しない二輪駆動状態にも切換可能に構成されている。
上記の前輪駆動クラッチ63は、図示しないがステアリング操作機構と連係されていて、所定角度以上に前輪5がステアリング操作されると前記前輪駆動クラッチ63を等速駆動状態から倍速駆動状態に切換操作するように構成された周知の構造のものであり、等速での四輪駆動又は二輪駆動状態を選択する際には、ステアリング操作機構との連係作動を断って、四輪駆動又は二輪駆動状態の何れかを選択することのできる選択スイッチ(図外)を備えている。
【0031】
〔PTO駆動系の伝動〕
入力軸11のうち、PTO系入力軸13は、筒状の走行系入力軸12を前後に貫通して設けられ、前端側は、主クラッチ10のクラッチ入り切り操作に関係なくエンジン1側の駆動力が伝達される出力回転体1Aに連結されていて、出力回転体1Aとともに常時回転するように構成されている。
そして、PTO系入力軸13の後端側は前記走行系入力軸12よりも後方側に延出されていて、その後端部にPTO駆動系に対して動力を伝えるためのPTO系出力ギヤ13aが一体に設けられている。
【0032】
PTO系入力軸13からPTO駆動系に分岐された動力は、PTOクラッチ70、および、PTO変速機構80を介してミッションケース3の後端から後方に向けて突設されたPTO軸15に伝達されるように構成してある。
前記PTOクラッチ70は、運転座席9の右横側部に備えた人為操作用のPTOクラッチレバー73によって人為的に入り切り操作されるものであり、その入り切り操作は、圧油供給状態で摩擦板を押圧して入り操作し、供給された圧油の排出に伴って内蔵付勢バネが復元することによって切り操作されるように構成してある。そして、この切り操作とともに、伝動下手側に制動力が作用するように構成してある。このPTOクラッチ70の切り操作及び切り操作後の伝動下手側への制動操作は周知の油圧機器で制御されるものであり、その油圧機器の制御は、図示しない制御装置によって行われるように構成してある。
【0033】
PTO系入力軸13からPTOクラッチ70への動力は、PTO系入力軸13の後端部に設けたPTO系出力ギヤ13aに噛合するPTO入力ギヤ71aを備えたPTO主軸71、及び、そのPTO主軸71のPTO入力ギヤ71aと噛合する伝動ギヤ72aを備えたPTOカウンタ軸72を介して伝達される。
【0034】
PTOクラッチ70は、圧油の給排によって入り切り操作される周知の油圧操作式の多板クラッチによって構成されている。すなわち、圧油が排出されると内装バネ(図示せず)によってピストン部材(図示せず)が押し戻されることで「クラッチ切り」状態がもたらされ、圧油の供給によってピストン部材を内装バネに抗して進出変位させることで摩擦板群が圧接されて「クラッチ入り」状態がもたらされるようになっている。
PTOクラッチ70のクラッチ入り状態で伝動下手側へ伝えられた動力は、PTOカウンタ軸72の伝動下手側の端部に設けられた出力ギヤ72bを介して、PTO変速機構80のPTO変速入力軸81の伝動上手側の端部に設けてある入力ギヤ81aに伝達される。
PTOクラッチ70のクラッチ切り状態では、内装バネによって押し戻されたピストン部材を介してPTOクラッチ70の一部がミッションケース3内の固定箇所に押し付けられて制動され、PTOカウンタ軸72の回転が抑制されることにより、伝動下手側の回動が止められることになる。
【0035】
PTO変速機構80は、PTOカウンタ軸72からの動力が伝えられるPTO変速入力軸81と、そのPTO変速入力軸81と平行に配設されたPTO変速カウンタ軸82、及びPTO変速逆転軸83とを備えている。
そして、PTO変速カウンタ軸82と一体に回動される駆動回転体82a,82bを備えるとともに、PTO変速入力軸81とPTO変速カウンタ軸82とのそれぞれに備えられた4対の変速ギヤ81b,81d,81e,81f,84a,84b,84c,84dを備え、これらの変速ギヤ81b,81d,81e,81f,84a,84b,84c,84dを2つのシフトスリーブ85a,85bで前後に選択シフトして正転側での高低4段の変速を行うように構成されたシンクロメッシュ式変速機構が採用されている。
【0036】
また、PTO変速入力軸81とPTO変速逆転軸83との間にも1対の変速ギヤ81c,83aを備えているが、この変速ギヤ81c,83aの対は、PTO変速入力軸81の変速ギヤ81cが固定ギヤで、PTO変速逆転軸83に備えた変速ギヤ83aがPTO変速逆転軸83の軸芯方向でスライド操作自在に構成され、PTO変速入力軸81側の固定の変速ギヤ81cに対して係脱自在に構成されている。
つまり、PTO変速入力軸81側の変速ギヤ81cに対してPTO変速逆転軸83に備えた変速ギヤ83aを係合させると、PTO変速入力軸81側の変速ギヤ81cからPTO変速逆転軸83の変速ギヤ83a、及びPTO変速カウンタ軸82の幅広のシフトスリーブ85aを介して、逆転動力がPTO変速カウンタ軸82に入力される。
【0037】
PTO変速カウンタ軸82の後端部には、出力ギヤ82cが一体回動するように設けてあり、この出力ギヤ82cに噛合する伝動ギヤ86aがPTO軸15の前端側に設けてある。
PTO変速機構80は、シフトスリーブ85a,85bをシフトフォーク(図外)によって前後にシフトして高低4段の変速を行うコンスタントメッシュ式変速機構が採用されており、そのシフトフォークをシフト操作するように、運転座席9の右脇に上下揺動可能に前記PTO変速レバー86が配備されている。
【0038】
〔ミッションケース〕
上記の走行系伝動機構、及びPTO系伝動機構は、クラッチハウジング2及びミッションケース3内で次のように区画された状態で配設されている。
すなわち、クラッチハウジング2及びミッションケース3内は、図3及び図4に示すように、機体前方側から第1室M1、第2室M2、第3室M3、第4室M4、第5室M5、第6室M6に区画してある。
第1室M1に主クラッチ10及び入力軸11が配設され、第2室M2に、主ギヤ変速機構20、及びPTOクラッチ70が配設され、第3室M3に変速操作用クラッチ25が配設され、第4室M4に前後進変速機構30及びPTO変速機構80が配設され、第5室M5に副ギヤ変速機構40、及びクリープ変速機構50、ならびに前輪駆動機構60が配設され、第6室M6にデフ機構55が配設されている。
【0039】
各室M1〜M6は、夫々第1隔壁W1〜第6隔壁W6で仕切られており、走行系伝動機構、及びPTO系伝動機構の各軸は、各隔壁W1〜W6にボールベアリングあるいはスラストベアリングを介して回動自在に支持されている。
つまり、第1隔壁W1には、入力軸11の後端側が軸支されているとともに、主ギヤ変速機構20及びPTOクラッチ70の前端側の各軸が支持されており、この第1隔壁W1よりも前方側がクラッチハウジング2の内部となる第1室M1となっている。
第2隔壁W2には、前記主ギヤ変速機構20及びPTOクラッチ70の後端側の各軸が支持されているとともに、変速操作用クラッチ25の前端側を支持する走行カウンタ軸22、及びPTO変速機構80に動力を伝達するPTO変速入力軸81が支持され、この第2隔壁W2と前記第1隔壁W1との間がミッションケース3内の第2室M2となっている。
【0040】
第3隔壁W3には、前記変速操作用クラッチ25の後端側を支持するシャトル主軸31、及びその他の前後進変速機構30の前端側の各軸、及びPTO変速機構80の前端側の各軸が支持され、この第3隔壁W3と前記第2隔壁W2との間がミッションケース3内の第3室M3となっている。
【0041】
第4隔壁W4には、前記前後進変速機構30の後端側の各軸、及びPTO変速機構80の後端側の各軸が支持されている。そして第5隔壁W5には、副ギヤ変速機構40の前端側の各軸、及び前輪駆動機構60の前端側の各軸が支持されている。
上記の第4隔壁W4と前記第3隔壁W3との間、及び第5隔壁W5と前記第4隔壁W4との間が、ミッションケース3内の第4室M4となっている。
【0042】
第6隔壁W6には、前記副ギヤ変速機構40の後端側の各軸、及び前輪駆動機構60の後端側の各軸が支持され、この第6隔壁W6と前記第5隔壁W5との間がミッションケース3内の第5室M5となっており、この第6隔壁W6よりも後方側がミッションケース3内の第6室M6となっている。
【0043】
〔軸の配置〕
上記の各室M1〜M6に配設される各軸の配置を図5乃至図10に示す。
図5は、図4に示すV-V線での断面を示し、クラッチハウジング2を上下方向で輪切りにした状態を示している。図中の符号64は、前輪駆動機構60の四輪駆動軸62から前方へ延出されている前輪駆動軸を示す。
図6は、図4に示すVI-VI線での断面を示し、ミッションケース3を上下方向で輪切りにした状態を示すものであり、図中の符号16は、走行駆動系の入力部を覆うカバー体である。
【0044】
図7は、図4に示すVII-VII線での断面を示し、ミッションケース3を上下方向で輪切りにした状態を示すものであり、入力軸11から、走行主軸21とPTO主軸71とを左右に振り分けるように配設し、さらに走行主軸21の下方側に走行カウンタ軸22を配設し、PTO主軸71の下方側にPTOカウンタ軸72を配設している。この状態でミッションケース3の外形形状はかなり横長の形状となっている。
【0045】
図8は、図4に示すVIII-VIII線での断面を示し、ミッションケース3を上下方向で輪切りにした状態を示すものである。
この位置では、入力軸11は存在しないので、入力軸11部分を内装するためのミッションケース3の上方側への突出箇所がなくなり、ミッションケース3の外形形状はさらに横長の形状となっている。このミッションケース3の外形形状は、ミッションケース3内の第3室M3及び第4室M4の第4隔壁W4と前記第3隔壁W3との間に相当する範囲の外形状であり、ほぼ扁平な操縦部デッキ8はこの外形形状のミッションケース3の上方を含む範囲に配設されるものである。尚図中の符号Pは、入力軸11の軸芯位置を示す。
【0046】
図9は、図4に示すIX-IX線での断面を示し、ミッションケース3を上下方向で輪切りにした状態を示すものである。
この位置では、前後方向で運転座席9の下方側に相当する位置となり、後述する図10でミッションケース3の上下方向寸法が大きくなってくるので、ケース断面を徐々に大きくするように上下方向への突出部分を有した形状となっている。
【0047】
図10は、図4に示すX-X線での断面を示し、ミッションケース3を上下方向で輪切りにした状態を示すものである。
この位置では、前後方向で運転座席9の下方側に相当する位置となり、副ギヤ変速機構40、クリープ変速機構50、及び前輪駆動機構60など、多くの伝動機構が錯綜しているため、上下方向寸法が大きくなり、ミッションケース3の外形形状は縦長に近い形状になっている。
【0048】
このクラッチハウジング2及びミッションケース3内に配設される各軸の位置関係を、後方側からの前後方向視で一つの図面に描くと図11に示すようになる。
この図で示されるように入力軸11から走行主軸21とPTO主軸71が左右に振り分けられて斜め下方に配設され、さらに走行主軸21の斜め下方に走行カウンタ軸22が配設されて同軸芯上に変速操作用クラッチ25が配設される。また、PTO主軸71の下方側で斜め外方寄り箇所にPTOカウンタ軸72が配設され、同軸芯上にPTOクラッチ70が配設されている。
【0049】
走行駆動系では、前記走行カウンタ軸22と同軸芯位置に前後進変速機構30のシャトル主軸31が配設され、そのシャトル主軸31の位置からミッションケース3内での上方側の斜め外側と斜め内側とにシャトルカウンタ軸32とシャトルバック軸33とを振り分けて配設している。
そして、前記シャトルカウンタ軸32と同軸芯上に副ギヤ変速機構40の副変速入力軸41が配設され、そのシャトルカウンタ軸32からさらに上方斜め内方寄り位置にベベルピニオンギヤ軸42が配設されており、このにベベルピニオンギヤ軸42は、自走車体の横方向での中心位置に近い位置で、かつ前記入力軸11の延長線に近い位置に配設されている。
クリープ変速機構50のクリープ変速軸51は、前記ベベルピニオンギヤ軸42よりも上方側の斜め外方寄り箇所で、後述するPTO変速機構80が配設された箇所よりも高い上方側に配設してあり、前輪駆動機構60の倍速駆動軸61及び四輪駆動軸62は、PTO変速機構80が配設された箇所よりも低い下方側に配設されている。
【0050】
PTO駆動系では、PTOカウンタ軸72の上方側で斜め内方側寄り位置にPTO変速機構80のPTO変速入力軸81が配設してある。このPTO変速入力軸81は前記PTO主軸71と同軸芯上に位置するように配設されている。
そして、前記PTO変速入力軸81の下方側で斜め外方寄り箇所にPTO変速カウンタ軸82が配設され、PTO変速入力軸81の外方寄り箇所でPTO変速入力軸81の軸芯よりも高い位置にPTO変速逆転軸83が配設されている。前記PTO変速カウンタ軸82の配設位置は、前記PTOカウンタ軸72と、高さ及び横方向の位置が近いほぼ同軸芯位置である。
前記PTO変速カウンタ軸82の上方側で斜め内方側寄り箇所にPTO軸15が配設されている。このPTO軸15は、自走車体の横方向での中心位置に近い位置で、かつ前記入力軸11の鉛直下方位置に配設されている。
【0051】
この図11に示されるクラッチハウジング2の外形を示す仮想線は、図6に示す位置での断面の外形を表し、ミッションケース3の外形を表す2つの仮想線は、図8に示す位置での断面の外形と、図10に示す位置での断面の外形とを表している。
【0052】
〔他の実施形態〕
上記の実施形態では、PTO駆動系でのPTO主軸71と同軸芯上にPTO変速機構80のPTO変速入力軸81が位置するように構成された構造のものを示したが、これに限らず、PTO主軸71の軸芯とPTO変速機構80のPTO変速入力軸81の軸芯とは互いに位置ずれした状態に配設されたものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、実施形態で示したように、走行駆動系とPTO駆動系の各操作を油圧操作手段によって行う構造のものに限らず、機械的操作機構を用いて人為操作で行うようにした構造のものにも適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 エンジン
3 ミッションケース
10 主クラッチ
11 入力軸
12 走行系入力軸
12a 走行系出力ギヤ
13 PTO系入力軸
13a PTO系出力ギヤ
15 PTO軸
20 ギヤ変速機構(主ギヤ変速機構)
21 走行主軸
21a 走行入力ギヤ
22 走行カウンタ軸
25 変速操作クラッチ
30 前後進変速機構
40 副ギヤ変速機構
55 走行デフ機構
60 前輪駆動機構
70 PTOクラッチ
71 PTO主軸
71a PTO入力ギヤ
72 PTOカウンタ軸
80 PTO変速機構
81 PTO変速入力軸
82 PTO変速カウンタ軸
83 PTO変速逆転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン動力が伝えられる入力軸の動力を、ミッションケース内で走行駆動系とPTO駆動系とに分岐して、走行駆動系の動力を走行デフ機構に伝達するとともに、PTO駆動系の動力をPTO軸からミッションケース外へ取り出すように構成してあるトラクタにおいて、
前記入力軸を、伝動方向上手側に配設されている主クラッチの入り切り操作で駆動力が断続されるように構成された走行系入力軸と、前記主クラッチの入り切り操作に関係なくエンジン側の動力が伝達されるように構成されたPTO系入力軸とを同心状に設けた内外二重軸で構成し、
前記走行系入力軸に備えた走行系出力ギヤに噛合う走行入力ギヤを備えて駆動力が伝達される走行主軸と、前記PTO系入力軸に備えたPTO系出力ギヤに噛合うPTO入力ギヤを備えて駆動力が伝達されるPTO主軸とを、前記入力軸の軸心を挟んで両横側位置に振り分けて配設し、
前記走行主軸よりも下方側に走行主軸から動力が伝えられる走行カウンタ軸を配置するとともに、前記走行主軸と走行カウンタ軸とに変速用ギヤを備えてギヤ変速機構を構成し、
前記PTO主軸よりも下方側にPTO主軸側の動力が伝えられるPTOカウンタ軸を配置し、このPTOカウンタ軸にPTO駆動系への動力を断続するPTOクラッチを備えるとともに、
前記PTOカウンタ軸よりも上方側にPTO変速機構へ動力を伝達するPTO変速入力軸を備え、このPTO変速入力軸に前記PTOクラッチを経て入力された動力を、PTO変速機構で変速してPTO軸から取り出すように構成したことを特徴とするトラクタ。
【請求項2】
PTO変速機構では、PTO変速入力軸から動力が伝達されるPTO変速カウンタ軸と、前記PTO変速入力軸から伝達される動力を逆転させて前記PTO変速カウンタ軸に伝達するPTO変速逆転軸とを、PTO変速入力軸の横側方での一方側で、上下に振り分けて配設してある請求項1記載のトラクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−1145(P2012−1145A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139260(P2010−139260)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】