説明

トング式吊具

【課題】
ワークの自重を利用したリンク機構の回転動作でワークを挟込んで吊持するトング式吊具について、装置構成が小型,簡素であるという利点が損なわれず、ワークの吊持作業の安全性が確保されるようにする。
【解決手段】
ワークWの自重を利用したリンク機構の回転動作でワークWを挟込んで吊持するものである。相対してワークWを挟込む挟込支持部13がリンク機構を構成するトングアーム2の下部にそれぞれ回転可能に取付けられている。一方のトングアーム2には、一方の挟込支持部13を回転駆動する回転駆動部16が取付けられている。回転駆動部16は、手動の操作ハンドル16aで回転操作されるウオームギア16b,ウオームホイール16cのギア噛合構造からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの自重を利用したリンク機構の回転動作でワークを挟込んで吊持するトング式吊具に係る技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
トング式吊具は、ワークの自重を利用して回転動作される4節回転機構等のリンク機構によってワークを挟込むように構成することで、ワークの挟込みを駆動する挟込駆動部を別個に備えることを不要にして、装置構成の小型化,簡素化が図られている。
【0003】
このトング式吊具では、ワークの加工に対応してワークの吊持の姿勢(向き)を変更する必要がある場合、吊持を解除して床面等で姿勢を変更した後に再度吊持するという煩雑な作業が必要になる。このため、トング式吊具について、ワークを吊持したまま姿勢を変更できるようにする技術の開発が要望されている。
【0004】
従来、トング式吊具についてワークを吊持したまま姿勢を変更できるようにする技術としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【0005】
特許文献1には、ワークの自重を利用したリンク機構の回転動作でワークを挟込んで吊持するものであって、相対してワークを挟込む挟込支持部がリンク機構を構成するトングアームの下部にそれぞれ回転可能に取付けられ、一方のトングアームに一方の挟込支持部を回転駆動するギア減速部,モータからなる回転駆動部が取付けられたトング式吊具が記載されている。
【0006】
特許文献1に係るトング式吊具は、回転駆動部で一方の挟込支持部を回転駆動させることで、両挟込支持部を通る軸中心線を中心としてワークを回転させて、トングアームの下部に吊持されているワークの姿勢を変更することができるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−330283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に係るトング式吊具では、挟込支持部を回転駆動する回転駆動部がギア減速部,モータからなり大型であるため、装置構成が小型,簡素であるという利点が損なわれてしまうという問題点がある。また、挟込支持部を回転駆動する大型(大重量)の回転駆動部が一方のトングアームに取付けられ、ワークの挟込みの両側の重量バランスが崩れてしまっているため、ワークの吊持作業の安全性が確保されにくくなっているという問題点がある。
【0009】
本発明は、このような問題点を考慮してなされたもので、装置構成が小型,簡素であるという利点が損なわれることなく、しかもワークの吊持作業の安全性が確保されるトング式吊具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の課題を解決するため、本発明に係るトング式吊具は、特許請求の範囲の各請求項に記載の手段を採用する。
【0011】
即ち、請求項1では、ワークの自重を利用したリンク機構の回転動作でワークを挟込んで吊持するものであって、相対してワークを挟込む挟込支持部がリンク機構を構成するトングアームの下部にそれぞれ回転可能に取付けられ、一方のトングアームに一方の挟込支持部を回転駆動する回転駆動部が取付けられたトング式吊具において、回転駆動部は手動の操作ハンドルで回転操作されるウオームギア,ウオームホイールのギア噛合構造からなることを特徴とする。
【0012】
この手段では、回転駆動部が手動で回転操作されるコンパクトな機械要素で構成されることで、回転駆動部の大型化,複雑化,重量増加が避けられる。
【0013】
また、請求項2では、請求項1のトング式吊具において、挟込支持部は球面軸受を介してトングアームに変位可能に支持されていることを特徴とする。
【0014】
この手段では、挟込支持部が球面軸受を介してトングアームに支持されることで、挟込支持部がワークの被挟込面に対応して変位される。
【0015】
また、請求項3では、請求項2のトング式吊具において、一方の挟込支持部と回転駆動部とは自在継手を介して非固定的に連結されていることを特徴とする。
【0016】
この手段では、一方の挟込支持部と回転駆動部とが自在継手を介して非固定的に連結されることで、変位した挟込支持部に対する回転駆動部の駆動伝達系が確保される。
【0017】
また、請求項4では、請求項1〜3のいずれかのトング式吊具において、他方のトングアームは下部にバランサが取付けられていることを特徴とする。
【0018】
この手段では、他方のトングアームの下部にバランサが取付けられることで、ワークの挟込みの両側の重量バランスの調整が可能になる。
【0019】
また、請求項5では、請求項1〜4のいずれかのトング式吊具において、両方のトングアームは相対する挟込支持部の間隔を調整可能な間隔調整機構が設けられていることを特徴とする。
【0020】
この手段では、両方のトングアームに間隔調整機構が設けられることで、相対してワークを挟込む挟込支持部の間隔が調整される。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るトング式吊具は、回転駆動部が手動で回転操作されるコンパクトな機械要素で構成されることで、回転駆動部の大型化,複雑化,重量増加が避けられるため、装置構成が小型,簡素であるという利点が損なわれることなく、しかもワークの吊持作業の安全性が確保される効果がある。
【0022】
さらに、請求項2として、挟込支持部が球面軸受を介してトングアームに支持されることで、挟込支持部がワークの被挟込面に対応して変位されるため、ワークを確実に挟込むことができる効果がある。
【0023】
さらに、請求項3として、一方の挟込支持部と回転駆動部とが自在継手を介して非固定的に連結されることで、変位した挟込支持部に対する回転駆動部の駆動伝達系が確保されるため、回転駆動部によって挟込支持部を確実に回転駆動することができる効果がある。
【0024】
さらに、請求項4として、他方のトングアームの下部にバランサが取付けられることで、ワークの挟込みの両側の重量バランスの調整が可能になるため、ワークの吊持作業の安全性がより確実に確保される効果がある。
【0025】
さらに、請求項5として、両方のトングアームに間隔調整機構が設けられることで、相対してワークを挟込む挟込支持部の間隔が調整されるため、大きさの異なるワークの吊持に対応することができ汎用性が高くなる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るトング式吊具を実施するための形態の吊持状態の正面図である。
【図2】図1の要部の拡大横断面図である。
【図3】図1の他の要部の拡大横断面図である。
【図4】図4の拡大縦断面図である。
【図5】図4の他動作図である。
【図6】図1のさらに他の要部の動作を示す拡大図である。
【図7】図1の吊持の前のワークへの位置決め作業を示す図である。
【図8】図1の吊持の直前状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係るトング式吊具を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
この形態では、直方体形のインゴットのようなワークWの吊持に好適なものを示してある。
【0029】
この形態は、図1に示すように、1対の2本の上部リンクアーム1と1対の2本のトングアーム(下部リンクアーム)2とによってワークWの自重を利用して回転動作される4節回転機構からなるリンク機構が構成されている。
【0030】
即ち、上部リンクアーム1は、上端部が共通の単一の連結軸3で互いに回動可能に連結され、下端部が連結軸4でトングアーム2の上端部にそれぞれ回動可能に連結されている。トングアーム2は、中途部が交差するように共通の単一の連結軸5で互いに回動可能に連結されている。上部リンクアーム1とトングアーム2の上半部とは、側面形状が平行四角形(菱形)を呈している。
【0031】
最上部に位置される連結軸3には、クレーン等から繰出された吊ワイア6が掛けられる吊掛体7が回動可能に連結されている。吊掛体7には、重錘8が固定されている。
【0032】
中央部に位置される2つの連結軸4には、上部リンクアーム1とトングアーム2の上半部とが形成する平行四角形を横断して側方へ突出する補助アーム9が連結されている。補助アーム9には、突出端部寄りに一方(側方への突出側)の連結軸4をスライド可能に連結するスライド溝10が刻設され、突出端部に作業員が手を掛けることのできる操作レバー11が取付けられている。スライド溝10は、図6に詳細に示されるように、補助アーム9の長さ方向に長く延びた本体溝10aと、本体溝10aに連通され本体溝10aの補助アーム9の突出端部側の端部から直交して上方へ短く延びたロック溝10bとからなる。
【0033】
最上部に位置される連結軸3と最下部に位置される連結軸5とには、上下方向にスライドされる案内板12が連結されている。案内板12には、下端部にワークWに突当てられる突当板19が固定されている。
【0034】
この形態のトングアーム2には、下部に相対してワークWを挟込む挟込支持部13がそれぞれ取付けられる足形の可動取付部14が間隔調整機構15を介して設けられている。
【0035】
挟込支持部13は、図2,図3に示すように、ワークWに当接される挟込盤13aの回転軸13bに球面体13cが固定され、可動取付部14に回動可能で軸方向が変位可能に取付けられている。
【0036】
可動取付部14は、下半部14aが連結軸14bを介して上半部14cに回動可能に連結され、下半部14aがバネ材14dで互いに近接するように弾圧され少しの角度θをもって傾斜されるようになっている。下半部14aには、図2,図3に示すように、挟込支持部13の球面体13cに対応して球面軸受を構成する球面座14eが固定されている。
【0037】
間隔調整機構15は、可動取付部14の上半部14cの上端部に穿孔されたボルト挿通孔と、トングアーム2の下端部に穿孔され横方向(トングアーム2の相対方向)に並列された複数のボルト挿通孔15aとからなる。この間隔調整機構15は、取付ボルト15bが挿通されるボルト挿通孔15aを選択することによって、可動取付部14の間隔が調整されることになる。
【0038】
この形態の一方の挟込支持部13を回転駆動する回転駆動部16は、図2〜図5に示すように、手動の操作ハンドル16aの回転操作によって噛合されたウオームギア16b,ウオームホイール16cを介して回転駆動されるようになっている。操作ハンドル16aは、可動取付部14の下半部14aに回転可能に支持された操作軸16dの端部に取付けられている。ウオームギア16bは、操作軸16dに同軸に固定されている。ウオームホイール16cは、可動取付部14の下半部14aに回転可能に支持され操作軸16dに直交する駆動軸16eに同軸に固定されている。
【0039】
回転駆動部16の駆動軸16eは、自在継手17を介して挟込支持部13の回転軸13bに連結されている。自在継手17は、挟込支持部13の回転軸13bに堀込まれた6角穴17aと、回転駆動部16の駆動軸16eに加工された6角ヘッド17bとからなる。この自在継手17は、図4,図5に詳細に示されるように、6角穴17aよりも6角ヘッド17bが小径に設定されて挟込支持部13の軸方向の変位を許容するスペースSが形成されるとともに、6角穴17aの内接円aよりも6角ヘッド17bの外接円bの方が大きく設定されて駆動伝達が可能になっている。
【0040】
また、回転駆動部16が設けられていない他方の挟込支持部13が支持されている可動取付部14の下半部14aには、バランサ18が取付けられている。このバランサ18は、複数枚のリング板が同軸に積層されていて任意の個数に増減させることができるようになっている。
【0041】
この形態を使用するには、図7に示すように、ワークWのX,Yの中心だしをして、案内板12をスライド降下させて突当板19をワークWに突当てる。このとき、連結軸4がスライド溝10のロック溝10に係止され、上部リンクアーム1とトングアーム2の上半部とが形成する平行四角形が上下に圧縮された状態になっている。なお、ワークWの大きさに対応して間隔調整機構15を調整することになる。また、ワークWの重量変位に対応してバランサ18の個数を調整することになる。
【0042】
そして、図6に示すように、操作レバー11を操作して連結軸4をスライド溝10のロック溝10から本体溝10aに移動させる。この結果、トングアーム2,挟込支持部13,可動取付部14,間隔調整機構15,回転駆動部16等の自重によって、上部リンクアーム1とトングアーム2の上半部とが形成する平行四角形が突当板19を支点として正確に上下に拡開され、挟込支持部13がワークWを挟込むことになる。このとき、挟込支持部13の球面体13cと可動取付部14の球面座14eとの球面軸受と、可動取付部14の上半部14cに対する下半部14aの回動とによって、ワークWの被挟込面に精度がなくても確実に挟込むことができる。
【0043】
この後、図8に示すように、吊ワイア6を引上げることによって、リンク機構の回転動作でワークWが強固に挟込まれて吊持されることになる。この後、左右の重量バランスが不良である場合には、バランサ18の個数を調整する。
【0044】
吊持されたワークWの姿勢を変更するには、図1に示すように、案内板12をスライド上昇させて突当板19をワークWから離し、ワークWを吊持したまま回転駆動部16を手動で駆動操作することになる。
【0045】
即ち、回転駆動部16の操作ハンドル16aを回転操作すると、操作軸16d,ウオームギア16bが回転され、これに伴ってウオームギア16bに噛合されているウオームホイール16cさらには駆動軸16eが回転され、究極的に挟込支持部13が回転駆動されることになる。この結果、相対する挟込支持部13を通る軸中心線を中心としてワークWが回転され姿勢が変更されることになる。従って、ワークWの姿勢の変更の際に、吊持を解除して床面等で姿勢を変更した後に再度吊持するという煩雑な作業が不要になる。なお、回転駆動部16のウオームギア16b,ウオームホイール16cのギア噛合構造の摩擦が大きいため、回転駆動が不測にスリップしたり逆転したりするようなことはない。
【0046】
なお、回転駆動部16の駆動では、挟込支持部13が被挟込面に精度のないワークWを挟込んで軸方向が変位しても、自在継手17によって確実な駆動伝達系が確保される。
【0047】
この形態によると、回転駆動部16が手動で回転操作されるコンパクトな機械要素で構成されるため、回転駆動部16の大型化,複雑化,重量増加が避けられる。従って、装置構成が小型,簡素であるという本来の利点が損なわれることない。また、ワークWの挟込みの両側の重量バランスが崩れることがなく、バランサ18による重量バランスの調整も可能であることから、ワークWの吊持作業の安全性が確保される。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係るトング式吊具は、直方体形のインゴット以外に広範な材質,形状のワークWの吊持に使用が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 上部リンクアーム
2 トングアーム(下部リンクアーム)
3,4,5 連結軸
13 挟込支持部
13c 球面体(球面軸受)
14 可動取付部
14e 球面座(球面軸受)
15 間隔調整機構
16 回転駆動部
16a 操作ハンドル
16b ウオームギア
16c ウオームホイール
17 自在継手
18 バランサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの自重を利用したリンク機構の回転動作でワークを挟込んで吊持するものであって、相対してワークを挟込む挟込支持部がリンク機構を構成するトングアームの下部にそれぞれ回転可能に取付けられ、一方のトングアームに一方の挟込支持部を回転駆動する回転駆動部が取付けられたトング式吊具において、回転駆動部は手動の操作ハンドルで回転操作されるウオームギア,ウオームホイールのギア噛合構造からなることを特徴とするトング式吊具。
【請求項2】
請求項1のトング式吊具において、挟込支持部は球面軸受を介してトングアームに変位可能に支持されていることを特徴とするトング式吊具。
【請求項3】
請求項2のトング式吊具において、一方の挟込支持部と回転駆動部とは自在継手を介して非固定的に連結されていることを特徴とするトング式吊具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかのトング式吊具において、他方のトングアームは下部にバランサが取付けられていることを特徴とするトング式吊具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかのトング式吊具において、両方のトングアームは相対する挟込支持部の間隔を調整可能な間隔調整機構が設けられていることを特徴とするトング式吊具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−144342(P2012−144342A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4447(P2011−4447)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(511011528)有限会社 竹沢アルミ工業所 (1)
【Fターム(参考)】