説明

ドラムブレーキ

【課題】ドラムブレーキを押付機構の作動により解除できなくなる異常が生じた場合に、ブレーキ力を強制的に小さくする。
【解決手段】アンカ16には3つの雌ねじ穴が形成され、3つのボルト18,19,38が螺合させられる。また、バッキングプレート8のボルト38の雌ねじ穴に対応する位置には長穴52が形成される。異常によりドラムブレーキを解除できなくなった場合には、ボルト19を取り外し、ボルト38に力を加えて、アンカ16を、ボルト18を中心として矢印X方向に回動させる。一対のブレーキシュー20a,20bを縮径させることができ、ブレーキ力を小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車輪の回転を抑制するドラムブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のドラムブレーキにおいては、アンカがドラムの半径方向に移動可能に設けられる。アンカは、バッキングプレートに設けられた長穴にアンカに設けられた突部が係合した状態で、2本のボルトによって固定されている。また、アンカのブレーキシューが当接する面は、半径方向内方へ向かうにつれてアンカの幅が小さくなる向きに傾斜している。この特許文献1に記載のドラムブレーキにおいて、ブレーキライニングの磨耗によりブレーキシューを取り外して交換する場合には、アンカの2本のボルトを外し、突部を長穴に沿って移動させることにより、アンカを半径方向外方へ移動させることができる。それにより、一対のブレーキシューを縮径させることができ、ブレーキシューを取り外し易くすることができる。
特許文献2に記載のドラムブレーキにおいては、ドラムブレーキの作用時にも非作用時にも回動可能なアンカが設けられる。アンカは楕円状を成したものであり、長軸が半径方向に延びた姿勢で設けられる。また、長軸の中心に回動軸が設けられ、この回動軸にリンクを介してサスペンション部材が連結される。ブレーキ作用時に、アンカが回動させられて、一対のブレーキシューが拡径させられるため、その分、ブレーキシリンダのピストンの前進量を小さくすることができ、運転者のブレーキペダルの踏込量を小さくすることができる。また、ブレーキの非作用時に、ねじ機構を利用してアンカを回動させれば、ブレーキシューを拡径させて、ブレーキライニングとドラム内周面との間の隙間を調節することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63−86434号公報
【特許文献2】特開昭60−104444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、ドラムブレーキにおいて、ブレーキ力を強制的に小さくできるようにすることである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0005】
請求項1に記載のドラムブレーキは、(a)車両の車輪と共に回転し、内周面を摩擦面とするドラムと、(b)非回転体であるバッキングプレートに相対移動可能に取り付けられ、外周面に摩擦材を有するシューと、(c)そのシューの一端部が当接するアンカと、(d)前記シューの他端部に係合させられ、前記シューを、前記一端部が前記アンカに当接した状態で拡開させて、前記摩擦面に押し付ける押付機構とを含むドラムブレーキであって、前記アンカを、前記バッキングプレートに回動可能に保持するとともに、当該ドラムブレーキの作用時に前記回動を阻止する阻止機構を備えた回動保持装置を含むものとされる。
請求項1に記載のドラムブレーキにおいて、押付機構の作動により、一対のブレーキシューの一端部がアンカに当接し、拡径させられ、ドラムの摩擦面に押し付けられる。アンカの回動は阻止機構によって阻止されているため、ドラムブレーキの作用時にアンカが回動することはなく、ブレーキ力を付与することができる。
一方、押付機構が作動不能になってドラムブレーキを解除できなくなると、車両を自力で走行させることができなくなるという問題がある。それに対して、例えば、押付機構が電動モータにより作動させられるものである場合には、電動モータの出力軸を強制的に回転させる方法が考えられるが、電動モータの回転を押付機構に伝達する回転伝達機構の固着異常が生じた場合には、ドラムブレーキを解除することができない。
そこで、請求項1に記載のドラムブレーキにおいては、アンカを回動可能とした。アンカを回動させれば、一対のブレーキシューの一端部間の距離を小さくすることができ、拡開力を小さくすることができる。ブレーキシューのドラムへの押付力を小さくすることができ、車両を自力で走行させることが可能となる。
【0006】
請求項2に記載のドラムブレーキにおいては、前記回動保持装置が、(i)前記アンカに設けられ、(a)回動中心を形成する第1固定部材と、(b)その第1固定部材から隔たって設けられ、取り外し可能な第2固定部材と、(c)前記第1固定部材から隔たって設けられ、前記アンカに回転モーメントを付与可能な係合部と、(ii)前記バッキングプレートの前記係合部に対応する部分に形成され、前記回動中心を中心とする円弧に沿った長穴とを含むものとされる。
アンカは、第1固定部材と第2固定部材とによって回動が阻止された状態でバッキングプレートに固定される。
第1固定部材と第2固定部材とは互いに隔たった位置に設けられる。第1固定部材と第2固定部材とは、アンカにおける接線方向(アンカの長手方向であり、厳密にいうと、アンカの中心点におけるドラムの内周面の接平面に平行な方向である)に隔たって設けられることが望ましいが不可欠ではない。
また、第2固定部材は取り外し可能なものであり、ボルトとすることが望ましい。第2固定部材は、バッキングプレートのアンカが設けられる側とは反対側から取り外し可能なものとすることが望ましい。
第1固定部材は、ピンであっても、ボルトであってもよい。
係合部は、アンカに回転モーメントを付与する場合に使用される。係合部には、被係合部材(実際に力を加える部分)が、常時、係合させられていても、回転モーメントを付与する場合に限って係合させられるようにしてもよい。常時係合させられている場合において、被係合部材は、アンカを固定する固定部材としての機能を有するものとすることができるが不可欠ではない。また、被係合部材は、バッキングプレートのアンカが設けられる側とは反対側に突出した突部を有するものとすることが望ましい。
バッキングプレートの、アンカが取り付けられる部分の、係合部に対応する部分には長穴が形成される。長穴は、第1固定部材を中心とする円の一部に沿った形状を成す。したがって、第2固定部材を取り外して、被係合部材に長穴に沿った向きの力を加えれば、アンカを第1固定部材の周りに回動させることができる。
アンカを回動させる作業は、バッキングプレートのアンカが設けられた側とは反対側から行われるようにすることが望ましい。例えば、ドラム、押付機構、ブレーキシュー、アンカ等がユニット化されて、カバー等で覆われた状態で、バッキングプレートに取り付けられる場合には、押付機構が作動不能になっても、直接、ブレーキシュー、アンカ等に接触することができなくなる。それに対して、アンカを回動させる作業が、バッキングプレートのユニットが取り付けられる側とは反対側から行われるようにすれば、ユニット化されてカバーで覆われていても、ドラムブレーキのブレーキ力を小さくすることができる。
第1固定部材は、アンカにおける接線方向の中心点から隔たった位置に設けることが望ましい。そして、アンカは、アンカにおける接線方向の両端部の各々と第1固定部材との間の長さが長い方の部分(大径部)が半径方向の内側へ、短い方の部分(小径部)が外側へ移動する向きに、回動させることが望ましい。アンカとドラムとの間の隙間が狭いからである。また、バッキングプレートに設けられた長穴は、そのバッキングプレートの半径方向の最も外周側の端部が、前記係合部に対応する向きに伸びたものとすることが望ましい。
本明細書において、「アンカにおける接線方向」とは、アンカにおけるドラムの円周方向あるいはアンカの長手方向であり、厳密にいえば、アンカの長手方向の中心点におけるドラムの内周面の接平面と平行な方向である。また、「アンカにおける半径方向」とは、アンカにおけるドラムの半径方向であり、厳密にいえば、アンカの接線方向の中心点におけるドラムの半径方向と平行な方向である。
請求項3に記載のドラムブレーキにおいては、前記アンカにおける接線方向の両端部の各々の前記ブレーキシューが当接しない部分が、前記回動中心を中心として、前記回動中心と前記ブレーキシューが当接する部分との間の長さを半径とする円の内側に位置する形状を成したものとされる。
アンカにおける接線方向の両端部の各々にはブレーキシューの一端部がそれぞれ当接する。ブレーキシューのアンカに対する当接点はパッドの磨耗量の増加に伴って変化する。また、パーキングブレーキの作用作動時において、ブレーキシューは、押付機構の作動により、アンカへの当接点が移動させられつつ、拡径させられることが知られている。そのため、これらの事情に基づけば、アンカのブレーキシューが当接する部分(以下、シュー当接部と称する)の範囲(当接点の移動範囲も含む)が決まる。
そして、端部の、ブレーキシューが当接する範囲以外の、ブレーキシューが当接しない部分(以下、シュー非当接部と称する)は、回動中心を中心として、回動中心と荷重作用部との間の長さを半径とする円の内側に位置する形状とされる。その結果、アンカを回動し易くすることができる。
回動中心とシュー当接部との間の長さは、例えば、回動中心からシュー当接部のシュー非当接部との境界部までの長さとすることができる。
請求項4に記載のドラムブレーキにおいては、前記回動保持装置が、前記バッキングプレートの前記アンカが設けられた面とは反対の面に設けられ、前記バッキングプレートに形成された前記長穴を覆う形状を成した補助プレートを含むものとされる。
補助プレートにより長穴が覆われるため、長穴から水や泥がドラム側に侵入することを回避できる。補助プレートは、平面視において、アンカより面積が大きいものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態であるドラムブレーキの正面断面図である。
【図2】(a)上記ドラムブレーキにおいてアンカ、バッキングプレートの一部、補助プレートの分解斜視図である。(b)図1のBB断面図である。
【図3】上記ドラムブレーキのアンカ周辺を示す平面図である。
【図4】上記ドラムブレーキにおいてアンカが回動させられた状態を示す概念図である。
【図5】上記ドラムブレーキに取り付けられる別の形状を成したアンカの平面図である。
【図6】上記ドラムブレーキにさらに別のアンカが取り付けられた場合のアンカ周辺を示す平面図である。
【図7】上記ドラムブレーキに別のアンカが取り付けられた場合のアンカの周辺を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態であるドラムブレーキについて図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0009】
実施例1に係るドラムブレーキは、図示しない車体に取り付けられた非回転部材としてのバッキングプレート8と、内周側に摩擦面10を備えて車輪と共に回転するドラム12とを含む。バッキングプレート8の一直径方向に隔たった位置には、電動アクチュエータ13の押付機構14が固定されるとともに、アンカ16が2つのボルト18、19によって固定される。また、アンカ16と押付機構14との間に、各々円弧状を成す一対のブレーキシュー20a,20bがドラム12の内周面である摩擦面10に対面する状態で、シューホールドダウン装置22a,22bによってバッキングプレート8の面に沿って移動可能に取り付けられている。
なお、バッキングプレート8の中央に設けられた貫通穴は、図示しないアクスルシャフトの貫通を許容するためのものである。
また、本実施例において、電動アクチュエータ13は電動モータ24を含み、押付機構14は電動モータ24によって作動させられる。
【0010】
一対のブレーキシュー20a,20bは、それぞれ、一端部がアンカ16に当接した状態で、他端部が押付機構14により拡開可能に支持される。また、ブレーキシュー20a,20bの各々の外周面には摩擦材としてのブレーキライニング26a,26bが保持され、それら一対のブレーキライニング26a,26bがドラム12の摩擦面10に摺接させられることにより、それらブレーキライニング26a,26bとドラム12との間に摩擦力が発生する。
さらに、一対のブレーキシュー20a,20bの他端部同士の間には、アジャスタ付きストラット28と、リターンスプリング29とが設けられる。アジャスタ付きストラット28は、ブレーキライニング26a,26bの摩耗に応じて、これら一対のブレーキライニング26a,26bとドラム内周面10との隙間を調整するものである。
このように、本ドラムブレーキは、リーディング・トレーリング式のものである。
【0011】
図1,3に示すように、アンカ16において、ボルト18とボルト19とが接線方向に互いに隔たって設けられ、ボルト19とボルト38とが半径方向に隔たって設けられる。換言すれば、ボルト18がアンカ16の中心軸線L上に設けられ、ボルト19,38が、それぞれ、中心軸線Lの反対側に設けられる。なお、本実施例において、ボルト38は、アンカ16をバッキングプレート8に固定する機能を有しないものである。
具体的に、アンカ16には、図2(a)、(b)に示すように、車輪の回転軸線と平行な方向に伸びた3つの雌ねじ穴40,41,42が形成される。雌ねじ穴40と雌ねじ穴41,42とが接線方向に隔たって、雌ねじ穴41と雌ねじ穴42とが半径方向に隔たって形成されるのである。
また、バッキングプレート8の、アンカ16が取り付けられる部分の、雌ねじ穴40,41,42に対応する位置には、それぞれ、車輪の回転軸線と平行な方向に伸びた貫通穴50,51,52が形成される。雌ねじ穴40,41に対応する貫通穴50,51は丸穴(断面形状が円)であり、雌ねじ穴42に対応する貫通穴52は長穴とされている。長穴52は、平面視(車輪の回転軸線と平行な方向から見た場合)において、貫通穴50の中心を中心とする円弧状を成したものであり、半径方向の外周側の端部が雌ねじ穴42に対応する。
さらに、バッキングプレート8の裏面(ドラム12が取り付けられる側とは反対側の面)には、補助プレート58が設けられ、補助プレート58のアンカ16に対応する部分の、雌ねじ穴40,41,42に対応する位置に、それぞれ、丸穴である貫通穴60,61,62が設けられる。補助プレート58は、平面視において、アンカ16より面積が大きいものであり、バッキングプレート8の長穴52を覆い得る大きさとされる。
アンカ16を固定する場合には、アンカ16をバッキングプレート8の表面(ドラム14が配設される側)に、補助プレート58をバッキングプレート8の裏面に、雌ねじ穴41〜42,貫通穴50〜52,貫通穴60〜62が、互いに対応する状態で配設し、補助プレート58側から、ボルト18,19を締め付けることにより、アンカ16をバッキングプレート8に固定する。また、ボルト38は、長穴52を貫通して、アンカ16に係合させられる。
本実施例においては、ボルト18が回動中心を形成する第1固定部材とされ、ボルト19が取り外し可能な第2固定部材とされる。また、雌ねじ穴42等により回転モーメントを付与可能な係合部が構成され、ボルト38により被係合部材が構成される。
さらに、ボルト18、ボルト19等により阻止機構が構成され、ボルト18,19,38,雌ねじ穴40〜42,丸穴50,51,長穴52,貫通穴60〜62等により回動保持装置が構成される。
【0012】
アンカ16は、図3に示すように、平面視において概して長方形を成したものであり、長手方向が接線方向と平行になる姿勢で設けられる。接線方向、すなわち、長手方向の両側の端部70,72が、それぞれ、半径方向と平行な平坦面74a,74bと、平坦面74a,74bの半径方向の両側にそれぞれ設けられた傾斜面76a,b,78a,bとを有する形状を成す。
平坦面74a,74bは、アンカ16の端部70,72の中央部に設けられ、ドラムブレーキの作用時に、ブレーキシュー20a,20bが当接する部分(シュー当接部)Bsである。例えば、本実施例に係るドラムブレーキがパーキングブレーキとして作動させられる場合に、押付機構14の作動により、ブレーキシュー20a,20bは、アンカ16への当接点が移動させられつつ、拡径させられる。また、当接点は、ブレーキライニング26a,bの磨耗量の増加によっても変化する。これら事情に基づいて、平坦面74a,74bの大きさ(範囲)が定められるのである。
【0013】
傾斜面76a,76bおよび傾斜面78a,78bは、ブレーキシュー20a,20bが当接しない部分(シュー非当接部)Boである。上述のように、当接点の移動等を考慮しても、ブレーキシュー20a,20bが当接する予定がない面である。
傾斜面76bは、ボルト18の中心Pを中心として、その中心Pから平坦面74bの端部Qまでの長さを半径Rとした円の円弧Cより内側に存在する面である。半径Rは、中心Pと端部Qとの間の長さであり、中心Pから平坦面74bに対する垂線の長さPSと、垂線との交点Sと端部Qとの間の長さQSとから、式
R=√(PS2+SQ2
に従って求めることができる。
傾斜面78aは、ボルト18の中心Pを中心として、その中心Pと平坦面74aの端部Q′との間の長さを半径R′とした円の円弧C′より内側に存在する面である。半径R′は、中心Pと平坦面74aへの垂線の長さPS′と、垂線との交点S′と端部Q′との間の長さQ′S′とから、式
R′=√(PS′2+S′Q′2
に従って求められる。
また、傾斜面76aは、傾斜面76bと、アンカ16の接線方向の中心点Aを通り、ドラム12の半径方向に伸びる対称面APに対して対称な形状とされ、傾斜面78bは、対称面APに対して傾斜面76aと対称な形状とされる。
換言すれば、アンカ16は、長方形を成した部材のコーナ部の各々に切欠80〜84が設けられた形状を成す。
【0014】
以上のように構成されたドラムブレーキにおいて、電動モータ24は、パーキングブレーキのロック要求があった場合にもサービスブレーキの作用要求があった場合にも作動させられる。
パーキングブレーキのロック要求あるいはサービスブレーキの作用要求があった場合には、電動モータ24が正方向に回転させられる。押付機構14の作動により、一対のブレーキシュー20a,20bは、それぞれ、一端部がアンカ16に当接させられて、拡径させられ、ドラム12の摩擦面10に押し付けられる。アンカ16は、ボルト18,19により回動が阻止された状態で固定されているため、良好にブレーキ力を付与することができる。また、パーキングブレーキのロック作動時において、一対のブレーキシュー20a,20bは、当接点がアンカ16の平坦面74a,bを外周側に移動させられつつ拡開させられるため、パーキングブレーキのロック中において、シュー当接点は、図4の端部Qa′,Qb近傍にある。
パーキングブレーキのリリース要求あるはサービスブレーキの解除要求が検出されると、電動モータ24が逆方向に回転させられて、押付機構14が駆動される。一対のブレーキシュー20a,20bは縮径させられ、リターンスプリング29により非作用位置まで戻される。
【0015】
一方、電動モータ24の異常等により押付機構14が作動不能となり、ドラムブレーキを解除できなくなると、車両を自力で走行させることができなくなるという問題がある。
それに対して、本実施例に係るドラムブレーキにおいてはアンカ16が回動可能とされているため、ドラムブレーキにおいて、ブレーキシュー20a,20bのドラム12への押付力を小さくすることできる。
例えば、バッキングプレート8のドラム12が設けられる側の反対側から、作業者がボルト19を外し、ボルト18を緩める。そして、工具等を利用して、ボルト38に、図4の矢印X方向の力を加える。その結果、アンカ16をボルト18の周りに、矢印Xの方向に、端部72が内周側に入り込む方向に回動させることができる。
また、傾斜面76bが、円弧Cの内側に存在する形状とされ、かつ、パーキングブレーキの作用時に、ブレーキシュー20a,bは、アンカ16の平坦面74a,bのQa,Qb付近において当接している。そのため、アンカ16のX方向の回動により、一対のブレーキシュー20a,20bの一端部同士の間の距離を小さくすることができ、一対のブレーキシュー20a,20bを縮径させることができる。ドラム12の摩擦面10への押付力を小さくすることができ、車両を自力で走行させることが可能となる。さらに、アンカ16のX方向の回動に伴って、一対のブレーキシュー20a,20bの一端部同士の間の距離が大きくなることがない(あるいは、大きくなっても、それほど大きくなることがない)ため、アンカ16を容易に回動させることができる。
【0016】
なお、アンカ16において、傾斜面78aを設けることは不可欠ではない。ブレーキ作用時にブレーキシュー20a,20bが端部Qa′,Qb付近に位置することが多く、かつ、アンカ16の回動角度を大きくする必要がない場合には、傾斜面78aを設ける必要性は低いのである。
また、アンカ16の回動の途中には、一対のブレーキシュー20a,20bが拡開させられることもあるが、結果的に(所望の角度だけ回動させた後に)、一対のブレーキシュー20a,20bが縮径させられれば、ブレーキ力を小さくすることができる。
【実施例2】
【0017】
また、アンカは、図5に示す形状を成したものとすることができる。
アンカ100において、接線方向の両側の端部102、104のうち、ブレーキシュー20aが当接する側(回動中心を形成するボルト18に近い側)の形状を、回動中心Pを中心として半径をRaとした円弧Caに沿った形状とする。半径Raは、ブレーキシュー20aのアンカ100への当接点に基づいて決まる長さであり、例えば、実施例1のアンカ16における平坦面74aへの垂線の長さとすることができる。
また、端部104の形状は、対称面APに対して端部102と対称な形状とした。
このように、端部102,104を、円弧に沿った形状を成したものとすれば、ブレーキ作用時のブレーキシュー20a,20bの当接点がいずれであっても、容易にアンカ100を回動させることができる。
【実施例3】
【0018】
また、実施例1において、ボルト18が第1固定部材とされ、ボルト19が第2固定部材とされたが、それに限らない。
その場合の一例を図6に示す。アンカ130において、ボルト38が第1固定部材とされ、ボルト18が第2固定部材とされ、雌ねじ穴41等が係合部とされる。バッキングプレート8の雌ねじ穴41(ボルト19)に対応する部分には長穴132が形成される。
アンカ130を回動させる場合には、ボルト18が取り外され、ボルト38が緩められて、ボルト19に力が加えられる。アンカ130には、回転モーメントが加えられるため、ボルト38の回りに矢印Y方向に回動させられる。本実施例においては、補助プレートをアンカ130と同じ大きさとすることができる。
なお、バッキングプレート8に設ける長穴は、雌ねじ穴40に対応する位置に設けることもできる。その場合には、ボルト19が取り外し可能な第2固定部材とされ、雌ねじ穴40が係合部とされる。
【実施例4】
【0019】
さらに、3つのボルトの位置も、実施例1におけるそれに限らない。その場合の一例を図7に示す。アンカ140において、3つの雌ねじ穴142,144,146が、中心軸線L上に(長手方向に直線状に)、互いに隔たって設けられ、それぞれに、ボルト152,154,156が螺合させられる。本実施例においては、両端に位置するボルト152,156のうち一方のボルト152が第1固定部材とされ、他方のボルト156が被係合部材とされ、中間に位置するボルト154が取り外し可能な第2固定部材とされる。バッキングプレート8の雌ねじ穴146に対応する位置には長穴160が形成される。
アンカ140を回動させる場合には、ボルト154が取り外され、ボルト152が緩められる。そして、ボルト156に力が加えられ、アンカ140がZ方向に回動させられる。
【0020】
なお、上記実施例1〜4においては、固定部材も被係合部材もボルトが使用されたが、第1固定部材、被係合部材の少なくとも一方はピンとすることができる。被係合部材をピンとした場合には、補助プレート58およびピンが被係合部材とされ、補助プレート58に力を加えて、アンカを回動させる。
また、被係合部を常時(正常時に)係合部に係合させておく必要は必ずしもなく、アンカを回動させる場合に係合させてもよい。その意味において、被係合部材は、ボルトに限らない。
さらに、アンカの形状は問わない。実施例2において、端部102,104の形状を、緩やかな曲線とすることもできる。
また、ドラムブレーキの構造は問わない。例えば、押付機構14は、液圧のブレーキシリンダを含むものとすることもできる。また、サービスブレーキとパーキングブレーキとで、押付機構を別個のものとすることもできる。さらに、ドラムブレーキを、デュオサーボ型のドラムブレーキとしたり、ツーリーディング型のドラムブレーキとしたりすること等もできる。
本発明は、上述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0021】
8:バッキングプレート 16,100,120,140:アンカ 18,19,38,152,154,156:ボルト 40,41,42,142,144,146:雌ねじ穴 52,132,160:長穴 58:補助プレート 74a,b:平坦面 76a,b,78a,b:傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪と共に回転し、内周面を摩擦面とするドラムと、
非回転体であるバッキングプレートに相対移動可能に取り付けられ、外周面に摩擦材を有するシューと、
そのシューの一端部が当接するアンカと、
前記シューの他端部に係合させられ、前記シューを、前記一端部が前記アンカに当接した状態で拡開させて、前記摩擦面に押し付ける押付機構と
を含むドラムブレーキであって、
前記アンカを、前記バッキングプレートに回動可能に保持するとともに、当該ドラムブレーキの作用時に前記回動を阻止する阻止機構を備えた回動保持装置を含むことを特徴とするドラムブレーキ。
【請求項2】
前記回動保持装置が、(i)前記アンカに設けられ、(a)回動中心を形成する第1固定部材と、(b)その第1固定部材から隔たって設けられ、取り外し可能な第2固定部材と、(c)前記第1固定部材から隔たって設けられ、前記アンカに回転モーメントを付与可能な係合部と、(ii)前記バッキングプレートの前記係合部に対応する部分に形成され、前記回動中心を中心とする円弧に沿った長穴とを含む請求項1に記載のドラムブレーキ。
【請求項3】
前記アンカにおける前記ドラムの内周面の接平面と平行な方向の両端部の各々の前記ブレーキシューが当接しない部分が、前記回動中心を中心として、前記回動中心と前記ブレーキシューが当接する部分との間の長さを半径とする円の内側に位置する形状を成した請求項2に記載のドラムブレーキ。
【請求項4】
前記回動保持装置が、前記バッキングプレートの前記アンカが設けられた面とは反対の面に設けられ、前記バッキングプレートに形成された前記長穴を覆う形状を成した補助プレートを含む請求項2または3に記載のドラムブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−255696(P2010−255696A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104456(P2009−104456)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】