説明

ノロを使用したコンクリート製品及びその製造方法

【課題】従来有効利用することなく産業廃棄物として処分されていた遠心力により分離されたノロ(コンクリート製品の遠心成形時に発生するコンクリートスラッジ)を、コンクリートの練り混ぜ水として使用したコンクリート製品を提供する。
【解決手段】本発明は、遠心成形時に発生するセメント成分、混和材、高性能減水剤成分等を含んだノロを、ガンマ線透過型密度計を用いて濃度管理し、該濃度管理されたノロをコンクリートの練り混ぜ水として使用し、遠心成形によってコンクリート製品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心成形時に発生したノロを使用したコンクリート製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりコンクリートパイルやポール、ヒューム管などのコンクリート製品は遠心力によって成形・締固めして製造されている。遠心成形工程ではコンクリート中の水が絞り出され緻密な組織が生成するが、この水にはセメントや骨材中の微粉分などが混じっており、いわゆるノロとして排出される。このノロは、セメントや砂などの微粉部分を20〜40重量%も含有し、強アルカリ性のため、沈降分離・中和処理の後、固形分は産業廃棄物として処理しなければならない。そのため、この処理に多くの時間と経費が掛っているばかりでなく、最近ではノロの廃棄場所の確保も困難になっており、遠心成形コンクリート製品業界にとって大きな問題になっている。
【0003】
上記ノロ対策として、ベントナイト、シリカフューム及びフライアッシュの1種または2種以上と消泡剤を主成分とするノロ低減材を使用して、ノロの発生の防止とコンクリートを型枠に投入するときに巻き込んだ空気を短時間に脱泡する方法が提案されている(特許文献1参照)。
また、ノロの発生量を抑制する方法として、遠心成型型枠に投入されたコンクリートにスルホン酸基含有芳香族化合物からなる分散剤を添加する工程を有する遠心製品の製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
さらに、ノロ低減剤を使用しない方法として、高速アジテート式混練機を用いて混練する方法(特許文献3参照)等も提案されている。
【0004】
ところで、近年、ノロ(スラッジ)を皆無にする混和材が開発、商品化され、一部で使用されている。例えば、商品名「TNS‐100」((株)太平洋マテリアル製)、商品名「デンカプラスメリット」(電気化学工業(株)製)等がある。
【0005】
しかしながら、上記これらの混和材(剤)はコンクリート用原料としては高価であり、またこれらの混和材(剤)を計量・投入する設備も必要となり、コンクリートの製造コスト増となってしまう。また、上記高速アジテート式混練機等の特殊な設備の設置や維持も、やはりコンクリートの製造コスト増に繋がってしまう。
「TNS‐100」や「デンカプラスメリット」は、使用条件が厳しく、全ての製造条件下でノロの発生量がゼロとなる訳ではない。
【0006】
一方、生コンクリート業界においては、残存生コンクリートから骨材回収後のスラッジ水を沈降分離させて上澄水と沈降スラッジを分離し、それぞれを生コンクリート製造プラントに送り、再利用する方法が提案されている(特許文献4参照)。
しかしながら、遠心成形コンクリート業界では、前述の通りノロの発生抑制等の技術開発はあっても、ノロの再利用・再活用に係わる技術開発は行なわれて来ていない。
【0007】
【特許文献1】特開平09−002853号公報
【特許文献2】特開2001−239513号公報
【特許文献3】特開2004−195940号公報
【特許文献4】特開平09−038417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来有効利用することなく産業廃棄物として処分されていた遠心力により分離されたノロ(コンクリート製品の遠心成形時に発生するコンクリートスラッジ)を、濃度管理し、該濃度管理されたノロをコンクリートの練り混ぜ水として使用したコンクリート製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記問題点を改善すべく、鋭意研究の結果、遠心力により分離されたノロにはセメントの微粒分など強度発現性に寄与する成分はもとより、混和剤も含んでいることから、該ノロをコンクリートの練り混ぜ水として使用し、しかも混和剤の使用量を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
尚、本発明で用いるノロとは、遠心力により分離されたノロ(コンクリート製品の遠心成形時に発生するコンクリートスラッジ)のことを指し、しかも固体部分と水とを分離していない状態のものを指すものとする。
【0011】
即ち、本発明の第一の発明は、遠心力により分離されたノロをコンクリートの練り混ぜ水として使用することを特徴とするコンクリート製品の製造方法である。
第二の発明は、濃度管理されたノロであることを特徴とする第一の発明に記載のコンクリート製品の製造方法である。
第三の発明は、ガンマ線透過型密度計を用いて濃度管理されたノロであることを特徴とする第二の発明に記載のコンクリート製品の製造方法である。
第四の発明は、遠心成形によって製造されることを特徴とする第一の発明、第二の発明、及び第三の発明に記載のコンクリート製品の製造方法である。
第五の発明は、第一の発明〜第四の発明に記載の何れかの製造方法によって製造されたことを特徴とするコンクリート製品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコンクリート製品は、従来有効利用することなく産業廃棄物として処分されていた遠心力により分離されたノロを有効利用するものであるので、産業廃棄物としてのノロの処理に要した費用を削減することができると共に、コンクリート用混和剤の使用量も削減することができ、極めて経済的である。
さらに、スラッジの水和を停止させる機能を有する安定化スラリー用安定化剤(例えば、商品名:デルボクリーン110、(株)エヌエムビー製)を用いれば、余剰なノロを翌日も使用でき、処理費をゼロには近づけることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について説明する。
本発明の第一の発明は、遠心力により分離されたノロをコンクリートの練り混ぜ水として使用することを特徴とするコンクリート製品の製造方法である。
【0014】
パイルやヒューム管等は遠心力成形によって製造されている。その際、高強度にするために高性能減水剤を多量に添加して水セメント比を下げ、必要に応じてシリカヒュームや膨張材等の混和材を添加してコンクリートを作り、型枠に投入し、回転数を段階的に大きくし、遠心成形されている。
このように、高性能減水剤を多量に添加するため、管内面のモルタル層が締まらず、多量のノロが発生するものであり、高性能減水剤の添加量が多くなる程、ノロの発生量も多くなるのである。
【0015】
このノロは、水と共にセメント成分、混和材、高性能減水剤成分等が絞り出されたものである。
即ち、セメント成分、混和材、高性能減水剤成分等を含んだノロは、コンクリートに必要な成分を多量に含んでいることから、本発明の第一の発明は、このノロをコンクリートの練り混ぜ水として有効に活用してコンクリート製品を製造するものである。
これによって、ノロ中に含まれる成分を考慮して、初期配合のセメント、混和材、高性能減水剤等の使用量を削減することができる。
ノロ中に含まれる成分は何れもコンクリートに必要なものであるので、このノロを練り混ぜ水に使用してコンクリート製品を製造しても、何等コンクリートに悪影響を及ぼすものではない。
【0016】
尚、ノロを練り混ぜ水として全量使用しても良いし、通常の練り混ぜ水(水道水)の一部を代替として使用しても良い。
【0017】
本発明の第二の発明は、濃度管理されたノロをコンクリートの練り混ぜ水として使用することを特徴とするコンクリート製品の製造方法である。
【0018】
前述した通り、ノロにはセメント成分、混和材、高性能減水剤成分等を含んでいる。
ノロ中の固形分率は、配合・遠心条件によって異なるが略5〜90%であり、しかも高性能減水剤濃度は極めて高く、活性の高い状態にあるものである。
従って、ノロの濃度を適正に管理して使用すれば、初期配合の各材料の使用量を削減することができる。
【0019】
ノロ中の固形分率が高くなりすぎると、粘性や活性が高いため作業性や凝結性に問題を生じるため、好ましくない。
また、ノロ中の固形分率が低くなりすぎると、活性が低いためわざわざノロを使用するメリットは少ない。
【0020】
尚、固形分率が高いノロと低いノロとを適宜混合して、所定の濃度に調整して使用しても良い。
【0021】
また、上述のノロや所定の濃度に調整したノロを練り混ぜ水として全量使用しても良いし、通常の練り混ぜ水(水道水)の一部を代替として使用しても良い。
【0022】
本発明の第三の発明は、ガンマ線透過型密度計を用いて濃度管理されたノロをコンクリートの練り混ぜ水として使用することを特徴とするコンクリート製品の製造方法である。
【0023】
本発明では、ノロの濃度を適正に管理できる方法であれば、特にその方法は限定されるものではない。
例えば、レーザー回折法に基づく高濃度スラリー用粒度分布測定機、超音波の減衰量から計測する超音波濃度計、コロイド振動法によるコロイド振動電位測定装置、ガンマ線が配管内の流体を通過する際の減衰の程度から流体の密度を計測するガンマ線透過型密度計等が挙げられる。
【0024】
尚、既設配管に簡単に後付けして、密度(濃度)を非接触で測定することができ、しかも、管理区域の設定や放射線取扱主任者の設置等が必要ないガンマ線透過型密度計が、ノロの濃度管理には特に好ましい。
【0025】
遠心成形製品製造時に発生するノロは、その製品毎に配合や遠心成形方法が略固定されているので、発生するノロの配合も略固定される。したがって、流体全体の密度を測定するガンマ線透過型密度計でノロ全体の密度を測定して濃度管理に使用しても何等問題ない。
特に、ノロの発生基と同種の遠心成形製造用コンクリートの練り水として使用する場合は特に問題はない。
【0026】
本発明の第四の発明は、遠心力により分離されたノロを遠心成形用コンクリートの練り混ぜ水として使用して遠心成形コンクリート製品を製造するものである。
【0027】
即ち、ヒューム管やパイル等の遠心成形時に発生したノロは、そのノロ中のセメント成分や高性能減水剤成分の成分割合が、ヒューム管やパイル等の初期配合時の成分割合に近いため、ヒューム管やパイル等の遠心成形時の練り混ぜ水として再利用することが最も好ましい。
【0028】
即ち、ヒューム管製造時に発生したノロは、ヒューム管製造用コンクリートの練り混ぜ水として使用することが、パイル製造時に発生したノロは、パイル製造用コンクリートの練り混ぜ水として使用することが、ポール製造時に発生したノロは、ポール製造用コンクリートの練り混ぜ水として使用することがそれぞれ最も好ましい。
【0029】
ノロをヒューム管製造用コンクリートの練り混ぜ水として使用する場合は、固形分率で5%〜35%が好ましく、5%〜30%が特に好ましい。
ノロをパイル製造用コンクリートの練り混ぜ水として使用する場合は、固形分率は、30%〜90%が好ましく、35%〜85%が特に好ましい。
ノロをポール製造用コンクリートの練り混ぜ水として使用する場合は、固形分率は、10%〜50%が好ましく、15%〜40%が特に好ましい。
尚、固形分率(%)とは、乾燥後のノロ質量÷発生直後のノロ質量×100で表したものである。
【0030】
第五の発明は、遠心力により分離されたノロをコンクリートの練り混ぜ水として使用することを特徴とするコンクリート製品の製造方法によって製造されたコンクリート製品である。
したがって、本発明のコンクリート製品は、ノロ中に含まれる成分を有効活用しているので、初期配合のセメント、混和材、高性能減水剤等の使用量を削減できており、経済的メリットを有するものである。
さらに、従来産業廃棄物として処理されていたノロを資源として再利用するものである。
【0031】
尚、遠心成形時に発生したノロを、生コンクリート製造時の練り混ぜ水として有効利用しても良い。
即ち、生コンクリート製造時に発生したスラッジは、骨材回収後にスラッジ水を沈降分離させて上澄水と沈降スラッジを分離し、それぞれを生コンクリート製造プラントに送り、再利用するものであるから、スラッジ発生から長時間を要しており、活性は低くなっている。
またこのスラッジ水には骨材等の洗浄水も含まれることから、セメント成分や混和剤成分等は希釈されて低濃度となっている。
したがって、生コンクリート製造時に発生したスラッジを有効利用するよりも、活性の高い遠心成形時に発生したノロを有効利用する方が、コンクリート製造にはより適している。
【0032】
次に、本発明のコンクリート製品の製造方法の一例について説明する。
配合物の混練方法は、特に限定されるものではなく、例えば、(a)水(ノロを一部含む)、ナフタリン系高性能減水剤以外の材料を予め混合して、プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材、水(ノロを一部含む)及びナフタリン系高性能減水剤をミキサに投入し、混練する方法、(b)粉末状のナフタリン系高性能減水剤を用意し、水以外の材料を予め混合して、プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材及び水(ノロを一部含む)をミキサに投入し、混練する方法、(c)各材料を各々個別にミキサに投入し、混練する方法、等を採用することができる。
【0033】
混練に用いるミキサは、通常のコンクリートの混練に用いられるどのタイプのものでも
よく、例えば、揺動型ミキサ、パンタイプミキサ、二軸練りミキサ等が用いられる。
混練後、配合物を型枠に投入し、必要に応じて振動遠心成形、または遠心成形を行い、その後養生することにより、本発明のコンクリート製品が得られる。
なお、遠心成形は、1〜4Gの遠心力で1〜6分間成形し、さらに5〜10Gの遠心力で1〜5分間成形し、さらに20〜35Gの遠心力で1〜10分間成形することが好ましい。
また、養生方法は、特に限定されるものではなく、気中養生や蒸気養生等を行なえば良い。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
1.使用材料及び配合
(1)セメント;ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)454kg/m3
(2)シリカフューム(BET比表面積:20.1m/g) 46kg/m3
(3)細骨材;砕砂(最大粒径:5mm) 719kg/m3
(4)粗骨材;砕石(最大粒径:20mm) 906kg/m3
(5)混和剤;ナフタリン系高性能減水剤(商品名:マイティ150)10.6kg/m3
(6)水;水道水 119.4kg/m3
(7)ノロ(固形分率78.3%);138.8kg/m3
【0035】
2.水硬性組成物の調整
予め上記配合のセメント、シリカフューム、細骨材、粗骨材を混合しておき、該混合物、水、高性能減水剤を二軸ミキサに投入し混練した。そして、該混練物を型枠内に投入し、遠心成形を行った。この時の遠心成形の条件は、初速(4G)5分、中速(10G)5分、高速(35G)10分であった。次に、蒸気養生を行ってコンクリートパイルを製造した。尚、この時の養生条件は、前置(20℃)2時間、蒸気養生(80℃)5時間であった。
【0036】
[比較例1]
1.使用材料及び配合
(1)セメント;ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)543kg/m3
(2)シリカフューム(BET比表面積:20.1m/g) 60kg/m3
(3)細骨材;砕砂(最大粒径:5mm) 724kg/m3
(4)粗骨材;砕石(最大粒径:20mm) 906kg/m3
(5)混和剤;ナフタリン系高性能減水剤(商品名:マイティ150)13.3kg/m3
(6)水;水道水 146.7kg/m3
【0037】
2.水硬性組成物の調整
予め上記配合のセメント、シリカフューム、細骨材、粗骨材を混合しておき、該混合物、水、高性能減水剤を二軸ミキサに投入し混練した。そして、該混練物を型枠内に投入し、遠心成形を行った。この時の遠心成形の条件は、初速(4G)5分、中速(10G)5分、高速(35G)10分であった。次に、蒸気養生を行ってコンクリートパイルを製造した。尚、この時の養生条件は、前置(20℃)2時間、蒸気養生(80℃)5時間であった。
【0038】
実施例1及び比較例1についての試験結果を表−1に示す。
尚、スランプはJIS A 1101、圧縮強度はJIS A 1108(材齢7日)に準じて測定した。

【0039】
表−1で示した通り、ノロを使用した本発明のコンクリートパイルは、121N/mm以上の圧縮強度が出ており、内面も平滑で綺麗に仕上がっていた。また、流動性保持時間も何等問題がかった。
【0040】
以上説明したように、本発明によれば、従来産業廃棄物として処分していた遠心成形時に発生するノロを、遠心成形用コンクリート製品製造時の練り混ぜ水や生コンクリート製造時の練り混ぜ水として使用することができる。
従って、従来産業廃棄物としての処理費を削減できるばかりでなく、廃棄物の削減に寄与することができる。
しかも、高性能減水剤の使用量を削減することができ、且つ従来と同等の121N/mm以上の圧縮強度を有する超高強度の遠心成形体を製造することが可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心力により分離されたノロをコンクリートの練り混ぜ水として使用することを特徴とするコンクリート製品の製造方法。
【請求項2】
濃度管理されたノロであることを特徴とする請求項1記載のコンクリート製品の製造方法。
【請求項3】
ガンマ線透過型密度計を用いて濃度管理されたノロであることを特徴とする請求項2記載のコンクリート製品の製造方法。
【請求項4】
遠心成形によって製造されることを特徴とする請求項1、請求項2、及び請求項3記載のコンクリート製品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4記載の何れかの製造方法によって製造されたことを特徴とするコンクリート製品。



【公開番号】特開2008−246901(P2008−246901A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92119(P2007−92119)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】