説明

ハイブリッド方式のコンバイン

【課題】刈取装置の位置エネルギーを電力に変換してバッテリに蓄えて適宜にコンバインの駆動部に設ける電動機を駆動することで、さらなる低燃費化を図る。
【解決手段】機台(3)の下部に前後にスライドするようにラック杆(56)を設け、ラック杆(56)と発電機(25)の入力軸に固着したピニオンギヤ(58)とを噛み合わせ、刈取装置(8)に設ける前ナローガイド(23)を後方へ延長する後ナローガイド(24)をラック杆(56)に連結し、刈取装置(8)の下降時の位置エネルギーでラック杆(56)を後方へスライドさせピニオンギヤ(58)を回転させて発電機(25)で発電し、発電した電力をバッテリ(29)に蓄え、この電力で機体の回転各部に適宜設ける駆動補助モータ(40)を駆動する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源として内燃機関(エンジン)と電動モータを搭載したハイブリッド方式のコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
コンバインの動力源は、内燃機関(エンジン)が使用されているが、省燃費化や低騒音化の目的で電動モータを併用したいわゆるハイブリッド方式のコンバインが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の発明は、エンジンを最高出力付近の回転数に固定して収穫作業を行い、この収穫作業中のエンジン余裕出力を電力に変換してバッテリに蓄えておき、このバッテリに蓄えた電力にて電動機を駆動して圃場内外における単なる移動走行を行うことが出来るようにしている。
【0004】
また、特許文献2に記載の発明は、走行装置を駆動する内燃機関と電動モータとを備えたコンバインで、内燃機関の駆動で発電する発電機で発電された電力をバッテリに蓄えて、このバッテリに蓄えられた電力をコンバインの動力源の一部又は全部として利用出来るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−320805号公報
【特許文献2】特開2004−242558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載の発明は、エンジンを燃焼効率が高い最高出力回転数付近で常に駆動するので燃料を有効に利用することになるが、駆動余力で充電するバッテリが満充電状態になってもエンジンを高回転のままで回転を維持することになって必要以上に燃料を使用する場合もある。
【0007】
また、特許文献2に記載の発明は、エンジン駆動出力を小さくしても電動モータがエンジン出力を補うことができ、エンジンからの燃焼排ガスの排出量を減らすことができ、またエンジンの振動と騒音が比較的小さくなる。
【0008】
しかしながら、これらの従来技術は、全てエンジンの駆動余力を電力としてバッテリに蓄え、その蓄えた電力で電動機を駆動して走行或は走行補助に利用するものであるために、バッテリに蓄えた電力も燃料を燃焼して得られたエネルギーであって、燃料消費量があまり低減されない。
【0009】
そこで、本発明では、燃料を燃焼して取り出されるエンジン出力の一部を電力に変換してバッテリに蓄えるのではなく、コンバインの収穫作業時に昇降させる刈取装置が下降する際の位置エネルギーを電力に変換してバッテリに蓄えて適宜にコンバインの駆動部に設ける電動機を駆動することで、さらに低燃費となるハイブリッド方式のコンバインを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
即ち、本発明は、エンジンと脱穀装置(4)と操縦部(7)を搭載し走行装置(2)を具備した機台(3)の前側に刈取装置(8)を上昇シリンダ(19)で昇降可能に設けたコンバインにおいて、機台(3)の下部に前後にスライドするようにラック杆(56)を設け、このラック杆(56)の歯に発電機(25)の入力軸に固着のピニオンギヤ(58)を噛み合わせ、刈取装置(8)の下側部に設ける前ナローガイド(23)を後方へ延長する後ナローガイド(24)を前記ラック杆(56)に連結して刈取装置(8)の昇降でラック杆(56)を前後にスライドさせる構成とし、刈取装置(8)の下降時の位置エネルギーでラック杆(56)を後方へスライドさせピニオンギヤ(58)を回転させて発電機(25)で発電し、その発電した電力をバッテリ(29)に蓄え、機体の回転各部に適宜設ける駆動補助モータ(40)を前記バッテリ(29)からの電力で駆動する構成としたことを特徴とするハイブリッド方式のコンバインとした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、刈取装置(8)の上昇はエンジンで駆動される油圧ポンプから供給されるオイルで上昇シリンダ(19)を伸長作動させて行うが、刈取装置(8)が下降する際の位置エネルギーで、刈取装置(8)の下側部に設ける前ナローガイド(23)を後方へ延長する後ナローガイド(24)に連結したラック杆(56)を後方へスライドさせピニオンギヤ(58)を回転させて発電機(25)を回して発電し、この発電した電力をバッテリ(29)に蓄えて、その蓄えた電力で脱穀装置(4)の回転各部に適宜設ける駆動補助モータ(40)を駆動しているので、重量の重い刈取装置(8)の位置エネルギーが効果的に利用され、前記従来のハイブリッド方式のコンバインにおけるエンジンだけの高効率利用による燃料消費量低減よりもさらに効果的に燃料消費量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】コンバインの側面図である。
【図2】コンバインの背面図である。
【図3】別実施例のミッションケースの動力伝動線図である。
【図4】別実施例のミッションケースの動力伝動線図である。
【図5】別実施例のミッションケースの動力伝動線図である。
【図6】要部の平断面図である。
【図7】脱穀装置の側断面図である。
【図8】脱穀装置の側断面図である。
【図9】脱穀装置の側断面図である。
【図10】脱穀装置の正断面図である。
【図11】脱穀装置の側断面図である。
【図12】脱穀装置の側断面図である。
【図13】脱穀装置の側断面図である。
【図14】脱穀装置の正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
まず、コンバインの機体構成について説明する。
図1と図2に示す実施例では、コンバイン1は、左右のクローラ式の走行装置2の上側に枠組みされた機台3を設け、該機台3の左側部に脱穀装置4を搭載し、該脱穀装置4の右側にグレンタンク5を搭載し、このグレンタンク5の前側下部に原動部6を設け、原動部6の上部に操縦部7を設け、操縦部7と前記脱穀装置4との前側に刈取装置8を設けている。
【0014】
走行装置2は、機台3の下部に左右の転輪フレーム9,9を設け、この転輪フレーム9,9に枢支した多数の転輪10,10と後端部の緊張輪11,11と前端部に取り付けた駆動スプロケット13,13と、前記転輪10,10と、緊張輪11,11とに亘って巻き掛けるクローラベルト14,14で構成する。エンジンの動力がミッションケース内で変速されて駆動スプロケット13,13を駆動して走行する。
【0015】
脱穀装置4は、側部にフィードチェン15を備え、内部に扱胴(図示省略)を回転自在に備えた上側の扱室と、揺動選別棚、唐箕、一番移送螺旋、二番移送螺旋等を備えた下側の選別室とから構成する。該脱穀装置4は、後述するエンジンの駆動力によって駆動する構成である。尚、該脱穀装置4の後側には、脱穀後の排藁を切断して圃場に排出する排藁カッター16を搭載する。
【0016】
刈取装置8は、分草板20や刈刃装置22や引起装置21や穀稈搬送装置を取り付けた刈取支持フレーム17を機台3の前上部に刈取枢支軸18で枢支し、機台3と刈取支持フレーム17の間に刈取装置8を油圧で上昇させる上昇シリンダ19を介装している。
【0017】
そして、刈取装置8の左右側部に張り出して前ナローガイド23を刈取支持フレーム17に取り付け、左側の前ナローガイド23に連結して後ナローガイド24を後方へ伸ばしてラック杆56に連結する。
【0018】
ラック杆56は、下面にラックギヤを形成し、機台3へ前後にスライドするように取り付けている。このラックギヤに噛み合うピニオンギヤ58を入力軸に取り付けた発電機25とバッテリ29を機台3に取り付け、ラック杆56が後方へスライドしてピニオンギヤ58を回転し発電機25で発電した電力をバッテリ29に蓄電する。なお、刈取装置8が上昇してラック杆56が前方へスライドする際にはピニオンギヤ58の回転に抵抗が加わらないようにピニオンギヤ58と発電機25の入力軸との取付部にワンウェイクラッチを設けている。
【0019】
図3は、発電機25の設置別実施例を示すミッションケース内の動力伝動線図である。
エンジンからの回転を変速する油圧無段変速装置60の出力軸に固着のギヤ61からカウンタギヤ62を介してセンタギヤ63が回転している。このセンタギヤ63にサイドクラッチ64R,64Lが係合して左右ホイルギヤ65R,65Lを回転して左右ホイルギヤ67R,67Lと一体の駆動スプロケット13が回転して走行装置2が走行する。サイドクラッチ64R,64Lの外側には、左右ブレーキギヤ66R,66Lを設ける。
【0020】
サイドクラッチ64R,64Lの片側を左右ブレーキギヤ66R,66Lに係合して旋回する場合には、左右ブレーキギヤ66R,66Lが発電機25の入力軸に固着の発電ギヤ67R,67Lに噛み合っているので、発電機25の回転抵抗で駆動スプロケット13の回転を低下させて内側減速で旋回走行となるが、この時に回される発電機25が発電して別に設けるバッテリ29に充電する。
【0021】
図4は、デファレンシャルギヤ68を用いたミッションケースの発電機25設置実施例における動力伝動線図である。
エンジンからの回転を変速する油圧無段変速装置60の出力軸に固着のギヤ61からカウンタギヤ62を介してセンタギヤ63が回転し、さらにデファレンシャルギヤ68を回転している。デファレンシャルギヤ68の左右サイドギヤ71R,71Lには左右ホイルギヤ65R,65Lが噛み合って駆動スプロケット13を回転し、デファレンシャルギヤ68の左右センタギヤ72R,72Lにはサイドクラッチギヤ69R,69Lを噛み合わせ、サイドクラッチギヤ69R、69Lに左右発電機25R,25Lの入力軸に固着の発電ギヤ70R,70Lを噛み合わせている。
【0022】
サイドクラッチギヤ69R,69Lをロックすると左右ホイルギヤ65R,65Lが等速で回転され直進走行する。サイドクラッチギヤ69R、69Lの片側のロックが解除されると解除された側の左右発電機25R,25Lが回転するが、回転抵抗によってロック側の左右ホイルギヤ65R,65Lが低速回転して旋回内側となる。この左右発電機25R,25Lの回転によって発電した電力が別に設けるバッテリ29に充電される。
【0023】
図5は、遊星ギヤ73を用いたミッションケースの発電機25設置実施例における動力伝動線図である。
エンジンからの回転を変速する油圧無段変速装置60の出力軸に固着のギヤ61からカウンタギヤ62を介してセンタギヤ63が回転し、さらにセンタギヤ63が遊星ギヤ73のサンギヤ74を回転している。遊星ギヤ73の左右外周ギヤ75R,75Lには左右ホイルギヤ65R,65Lが噛み合って駆動スプロケット13を回転し、遊星ギヤ73の左右キャリアギヤ76R,76Lにはサイドクラッチギヤ69R,69Lを噛み合わせ、サイドクラッチギヤ69R、69Lに左右発電機25R,25Lの入力軸に固着の発電ギヤ70R,70Lを噛み合わせている。
【0024】
サイドクラッチギヤ69R,69Lをロックすると左右ホイルギヤ65R,65Lが等速で回転され直進走行する。サイドクラッチギヤ69R、69Lの片側のロックが解除されると解除された側の左右発電機25R,25Lが回転するが、回転抵抗によってロック側の左右ホイルギヤ65R,65Lが低速回転して旋回内側となる。この左右発電機25R,25Lの回転によって発電した電力が別に設けるバッテリ29に充電される。
【0025】
図6は、駆動力補助部の実施例で、内部でベベルギヤ34,35,37を噛み合わせた入力軸32と補助軸39と出力軸36をアシストケース30に軸支している。入力軸32にはエンジンからの駆動回転を伝動する入力プーリ31を取り付け、回転を入力クラッチ33とベベルギヤ34から出力軸36に取り付けたベベルギヤ35に伝動する。また、補助軸39は補助モータ40の出力軸で、補助クラッチ38とベベルギヤ37で補助モータ40の回転駆動力をベベルギヤ35に伝動する。入力クラッチ33と補助クラッチ38は、通常は入力クラッチ33を入れ補助クラッチ38を切って入力軸32の回転を出力軸36に伝動しているが、エンジンの出力が低下して入力軸32の回転が低下すると入力クラッチ33を切り補助クラッチ38を入れて補助モータ40の駆動力で出力軸36を回転するようにしている。なお、モータ40にキャパシタ41を取り付けている。
【0026】
図7は、補助モータ40を脱穀装置4の脱穀入力軸45の駆動補助に使用した実施例で、脱穀入力軸45に装着した脱穀入力プーリ46に補助モータ40からの補助ベルト伝動42とエンジンプーリ43からのエンジンベルト伝動44を行っている。脱穀入力プーリ46は回転が速い側の駆動力を受けて脱穀入力軸45に伝動するものである。
【0027】
図8は、脱穀装置4の揺動軸に装着した揺動入力プーリ47へ補助モータ40からの補助ベルト伝動42とエンジン側からのエンジンベルト伝動44を入力していて、エンジンベルト伝動44の回転が低下すると補助モータ40の駆動で揺動入力軸を回転駆動する。
【0028】
図9は、脱穀装置4の処理胴軸に装着した処理胴入力プーリ48へ補助モータ40からの補助ベルト伝動42とエンジン側からのエンジンベルト伝動44を入力していて、エンジンベルト伝動44の回転が低下すると補助モータ40の駆動で処理胴軸を回転駆動する。
【0029】
図10は、脱穀装置4の扱胴軸に装着した扱胴軸入力プーリ49へ補助モータ40からの補助ベルト伝動42とエンジン側からのエンジンベルト伝動44を入力していて、エンジンベルト伝動44の回転が低下すると補助モータ40の駆動で処理胴軸を回転駆動する。
【0030】
図11は、脱穀装置4後部のカッター入力軸に装着したカッター入力プーリ50へ補助モータ40からの補助ベルト伝動42とエンジン側からのエンジンベルト伝動44を入力していて、エンジンベルト伝動44の回転が低下すると補助モータ40の駆動でカッター入力軸を回転駆動する。
【0031】
図12は、脱穀装置4の吸引入力軸に装着した吸引入力プーリ51へ補助モータ40からの補助ベルト伝動42とエンジン側からのエンジンベルト伝動44を入力していて、エンジンベルト伝動44の回転が低下すると補助モータ40の駆動で吸引入力軸を回転駆動する。
【0032】
図13は、脱穀装置4の一番移送螺旋軸に装着した一番螺旋入力プーリ52へ補助モータ40からの補助ベルト伝動42とエンジン側からのエンジンベルト伝動44を入力していて、エンジンベルト伝動44の回転が低下すると補助モータ40の駆動で一番移送螺旋軸を回転駆動する。
【0033】
図14は、脱穀装置4の排藁チェン駆動軸に装着した排藁チェン駆動入力プーリ53へ補助モータ40からの補助ベルト伝動42とエンジン側からのエンジンベルト伝動44を入力していて、エンジンベルト伝動44の回転が低下すると補助モータ40の駆動で排藁チェン駆動軸を回転駆動する。
【0034】
図示を省略するが、グレンタンク5の内部に乾燥風を送り込む乾燥ブロア駆動軸に前記と同様の乾燥ブロア駆動入力プーリを装着して、エンジン側動力の低下時に補助モータ40で乾燥ブロア駆動軸を駆動するようにすることも出来る。
【0035】
なお、補助モータ40は常時駆動しても良いが、エンジン回転の低下を検出してその時に駆動するようにした方がより省燃費になる。
【符号の説明】
【0036】
1 コンバイン
2 走行装置
3 機台
4 脱穀装置
7 操縦部
8 刈取装置
19 上昇シリンダ
23 前ナローガイド
24 後ナローガイド
25 発電機
29 バッテリ
40 駆動補助モータ
56 ラック杆
58 ピニオンギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと脱穀装置(4)と操縦部(7)を搭載し走行装置(2)を具備した機台(3)の前側に刈取装置(8)を上昇シリンダ(19)で昇降可能に設けたコンバインにおいて、機台(3)の下部に前後にスライドするようにラック杆(56)を設け、このラック杆(56)の歯に発電機(25)の入力軸に固着のピニオンギヤ(58)を噛み合わせ、刈取装置(8)の下側部に設ける前ナローガイド(23)を後方へ延長する後ナローガイド(24)を前記ラック杆(56)に連結して刈取装置(8)の昇降でラック杆(56)を前後にスライドさせる構成とし、刈取装置(8)の下降時の位置エネルギーでラック杆(56)を後方へスライドさせピニオンギヤ(58)を回転させて発電機(25)で発電し、その発電した電力をバッテリ(29)に蓄え、機体の回転各部に適宜設ける駆動補助モータ(40)を前記バッテリ(29)からの電力で駆動する構成としたことを特徴とするハイブリッド方式のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−273562(P2010−273562A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126691(P2009−126691)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】