説明

バレル研磨装置および方法

【課題】研磨対象であるワークを研磨媒体に埋没させることなく、ワークの外周部のみを規定量研磨することができるバレル研磨装置および方法を提供する。
【解決手段】研磨対象となるワーク1と、研磨媒体2と、研磨媒体収容槽3と、ワーク支持部とを備え、研磨媒体収容槽3は、その内部空間に円周面を含み、円周面の少なくとも一部の周面全体に研磨媒体2を分布させるように、研磨媒体収容槽3を円周面の円周方向に回転させる槽回転駆動機構をさらに備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固定された研磨対象を研磨するバレル研磨装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来におけるバレル研磨装置は、同一バレルの中で研磨媒体と研磨対象であるワークをともに流動させワークを研磨するもの(例えば、特許文献1を参照)や、ワークを支持している場合においても研磨媒体にワーク全体を浸漬するもの(例えば、特許文献2を参照)が常であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−197411号公報
【特許文献2】特開平11−216660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、研磨対象であるワークを研磨媒体に埋没させ、研磨媒体と研磨対象であるワークを供に槽内において流動させた場合には、ワーク全体に研磨媒体が接触することからワークの外周部のみを規定量研磨することが不可能であり、ワークの外周部以外の研磨不要な部分も研磨されてしまう。
【0005】
また、ワークが研磨媒体の中で不規則に泳動し、槽内面への衝突や複数のワークを同時に研磨した場合のワーク相互の衝突によって不測の損傷が発生する虞がある。
【0006】
さらに、研磨対象であるワークを研磨媒体に埋没させるため、高価な研磨媒体が多量に必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のバレル研磨装置は、上記課題を解決するために、固定された研磨対象を研磨するバレル研磨装置であって、研磨対象となるワークと、前記ワークを研磨する研磨媒体と、前期ワークおよび前記研磨媒体を収容する研磨媒体収容槽と、前記ワークを支持するワーク支持部とを備え、前記研磨媒体収容槽は、その内部空間に円周面を含み、前記円周面の少なくとも一部の周面全体に前記研磨媒体を分布させるように、前記研磨媒体収容槽を前記円周面の円周方向に回転させる槽回転駆動機構をさらに備えるようにしたものである。
【0008】
本発明によれば、回転する研磨媒体収容槽において、研磨媒体収容槽内部の周面全体に分布した研磨媒体が、回転の遠心力により研磨媒体収容槽の内壁面近傍に圧縮されて密集し、この回転する研磨媒体の密集体がワーク支持腕に支持されたワークの表面の一部に接触するので、目的とするワークの表面のみが研磨される。
【0009】
また、上記のバレル研磨装置において、前記ワークを前記研磨媒体収容槽の内部で自転させるためのワーク自転駆動機構をさらに備えていてもよい。
【0010】
本発明によれば、上述した回転する研磨媒体の密集体に対し、自ら回転するワークが接触するので、ワークの回転方向および回転速度の設定により、研磨媒体とワークとの衝突力が任意に調整され、ひいては、研磨能力が調整される。
【0011】
また、上記のバレル研磨装置において、前記ワーク支持部は、前記ワークと前記研磨媒体との位置を調整するためのワーク位置調整機構を備えていてもよい。
【0012】
本発明によれば、ワークの支持位置の調整により、ワークと上述した回転する研磨媒体の密集体との距離、即ち、接触度合が任意に調整され、ひいては、研磨能力が調整される。
【0013】
また、上記のバレル研磨装置において、前記ワークは、ホブカッターであってもよい。
【0014】
本発明によれば、円形部材の外周部に多数の刃先を有する形状であるホブカッターに対し、上述した回転する研磨媒体の密集体が、ホブカッターの外周部のみに接触するので、ホブカッターの刃先のみが選択的に研磨される。
【0015】
本発明のバレル研磨方法は、上記課題を解決するために、固定された研磨対象を研磨するバレル研磨方法であって、研磨対象となるワークをワーク支持腕に固定し、前記ワークおよび前記ワークを研磨する研磨媒体を内部空間に円周面を含む研磨媒体収容槽に収容するステップと、前記研磨媒体収容槽を回転させることにより前記研磨媒体を前記円周面の少なくとも一部の周面全体に分布させて回転の遠心力により前記研磨媒体を圧縮し、前記研磨媒体に前記ワークを接触させて前記ワークを研磨するステップとを備え、前記ワークを研磨するステップにおいて、前記研磨媒体収容槽の回転速度を調整することにより、前記研磨媒体の圧縮状態を変化させ、前記ワークの研磨能力を制御するステップを含むものである。
【0016】
本発明によれば、回転する研磨媒体収容槽において、研磨媒体収容槽内部の周面全体に分布した研磨媒体が、回転の遠心力により研磨媒体収容槽の内壁面近傍に圧縮されて密集し、この回転する研磨媒体の密集体がワーク支持腕に支持されたワークの表面の一部に接触するので、目的とするワークの表面のみが研磨される。また、研磨媒体収容槽の回転速度の調整により、高速回転した場合とその高速回転に比べて低速回転した場合とで研磨媒体収容槽内側から外側へかかる研磨媒体への遠心力が異なり、研磨媒体の圧縮状態の変更により研磨能力が任意に設定される。
【発明の効果】
【0017】
本発明のバレル研磨装置およびバレル研磨方法を用いることにより、研磨対象であるワークを研磨媒体に埋没させることがないため、ワークの外周部以外の研磨不要な部分を研磨することなく、損傷無しにワークの外周部のみを規定量研磨することができる。
【0018】
また、研磨媒体収容槽の回転により研磨媒体を研磨媒体収容槽の内面に遠心力によりほぼ均等平滑に分布させるため、高価な研磨媒体の使用量を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のバレル研磨装置の一実施例を示す外観図である。
【図2】本発明のバレル研磨装置の一実施例を示す層回転駆動機構の内部構成図である。
【図3】本発明のバレル研磨装置の一実施例を示す研磨媒体収容槽の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施形態の一例として、ワークに歯切り工具の一つであるホブカッターを採用して以下に説明する。
【0021】
図1は、本実施形態におけるバレル研磨装置の外観図である。図2は、本実施形態における層回転駆動機構の内部構成図である。図3は、本実施形態における研磨媒体収容槽の断面図である。
【0022】
図1ないし図3を参照して、1は研磨対象ワークであるホブカッター、2は研磨媒体を収容する研磨媒体収容槽、3は研磨媒体、4は研磨対象ワークであるホブカッターへ自転駆動力を伝達する機能とワークの位置を調節する機能を有する自転駆動力伝達機構、5はワークを支持し自転駆動力を伝達するワーク支持腕自転駆動軸、6はワークの自転駆動力発生源であるモータからの駆動力を伝達するワーク自転駆動モータ駆動軸、7はワークの自転駆動力発生源であるワーク自転駆動モータ、8は研磨媒体収容槽中心軸と同軸上に配置締結されている研磨媒体収容槽回転駆動ギア、9は研磨媒体収容槽回転駆動ギアに駆動源からの駆動力を伝達する研磨媒体収容槽回転駆動力伝達ギア、10は研磨媒体収容槽回転駆動力伝達ギアに研磨媒体収容槽回転駆動力発生源であるモータからの駆動力を伝達する研磨媒体収容槽回転駆動モータ駆動軸、11は研磨媒体収容槽回転駆動力発生源である研磨媒体収容槽回転駆動モータ、12は研磨媒体収容槽内を閉塞する研磨媒体収容槽蓋、13は研磨媒体収容槽内を観測するための研磨媒体収容槽内のぞき窓、14は研磨媒体収容槽3及びその回転駆動機構全体を支持する支持架台である。15は研磨媒体収容槽3及びその回転駆動機構全体を連結し、支持架台14に固定可能な自由回転を行う研磨媒体収容槽回転軸である。
【0023】
図1ないし図3に示すように、本実施形態におけるバレル研磨装置は、円筒状の研磨媒体収容槽3を具備しており、研磨媒体2は研磨媒体収容槽3に収容される。
【0024】
研磨媒体2は、セラミクス粒等の乾式砥粒研磨または湿式砥粒研磨等種々の研磨媒体であるが、特にこれらに限定されない。
【0025】
研磨媒体収容槽3は、図2および図3に示すように、その内部空間の少なくとも一部に、回転時に研磨媒体2の層を形成するための円周面領域を有している。
【0026】
また、研磨媒体収容槽3は、支持架台14に研磨媒体収容槽回転軸15を介して回転自在に固定されている。研磨媒体収容槽回転軸15は、図示しないクランプ機構を用いて半固定の状態とすることにより、研磨媒体収容槽3を任意の位置角度で維持することができる。
【0027】
研磨媒体収容槽回転軸15で構成される機構を調整して、研磨媒体収容槽3の円筒軸を垂直状態に移動させることにより、研磨媒体収容槽3を水平状態から直立状態(研磨媒体収容槽直立状態16)の間の任意の位置角度に維持することができる。
【0028】
図2に示すように、ワーク1は、ワーク自転駆動機構により自転する。即ち、ワーク1は、少なくとも自転駆動力伝達機構4、ワーク支持腕自転駆動軸5、ワーク自転駆動モータ駆動軸6を介してワーク自転駆動モータ7の回転駆動力が伝達されることにより自転する。
【0029】
なお、ワーク自転駆動モータ7の回転速度および回転方向(正転・逆転)を任意に変化させることにより、ワーク1の回転速度および回転方向(正転・逆転)を変更することができる。
【0030】
ワーク自転駆動力伝達機構4は、自転駆動力伝達を損なうことなくワーク1の位置を変化させることにより、ワーク1と研磨媒体2との距離、即ち、接触度合を任意に調整することができる。
【0031】
また、研磨媒体収容槽3は、槽回転駆動機構により回転する。即ち、研磨媒体収容槽3は、少なくとも研磨媒体収容槽回転駆動ギア8、研磨媒体収容槽回転駆動力伝達ギア9、研磨媒体収容槽回転駆動モータ駆動軸10を介して研磨媒体収容槽回転駆動モータ11の回転駆動力が伝達されることにより回転する。
【0032】
なお、研磨媒体収容槽回転駆動モータ11の回転速度および回転方向(正転・逆転)を任意に変化させることにより、研磨媒体収容槽3の回転速度および回転方向(正転・逆転)を変更することができる。
【0033】
さらに、研磨媒体2を収納した研磨媒体収容槽3の回転速度を速くすることにより、研磨媒体2に研磨媒体収容槽3の内側へ向かう遠心力が増大し、研磨媒体2が圧縮される。このようにして、図2および図3に示すように、回転する研磨媒体収容槽3内部の円周面領域において、研磨媒体2の層が形成される。
【0034】
また、研磨媒体2の圧縮状態により、研磨媒体2研磨能力が変化する。よって、研磨媒体収容槽3の回転速度を変化させることにより、任意の研磨能力を得ることができる。
【0035】
そして、自転駆動モータ7、研磨媒体収容槽回転駆動モータ11の回転速度の変更により、ワーク1と研磨媒体収容槽3の回転速度の組合せが種々選択可能となり、研磨媒体2とワーク1との接触時の速度変化による任意の研磨能力を得ることができる。
【0036】
次にワーク1であるホブカッターの刃先部分のみを研磨する場合の実施例を以下に示す。
【0037】
図1に示すように、研磨媒体収容槽3の回転軸(円筒軸)が垂直な状態になるように、支持架台14に設けられた研磨媒体収容槽回転軸15を調整した。
【0038】
次に、研磨媒体収容槽3内を閉塞する研磨媒体収容槽蓋12を取外した。そして、ワーク支持腕自転駆動軸5にワーク1であるホブカッターを取付け、研磨媒体収容槽3に研磨媒体2を充填収容した後、研磨媒体収容槽3に研磨媒体収容槽蓋12を取り付けて再び閉塞した。
【0039】
また、研磨媒体収容槽3の回転軸が水平な状態になるように、支持架台14に設けられた研磨媒体収容槽回転軸15を調整した。
【0040】
研磨媒体収容槽回転駆動モータ11を起動し、研磨媒体収容槽3を円周方向に任意速度で回転させ、図3に示すように、研磨媒体2が研磨媒体収容槽3の内面全てにほぼ均等平滑に分布している状態を研磨媒体収容槽内のぞき窓13から確認した。また、ワーク1であるホブカッターの刃先が、自転駆動力伝達機構4により研磨媒体2に接触していることを確認した。
【0041】
そして、ワーク自転駆動モータ7を起動し、ワーク1を任意速度で研磨媒体収容槽3と逆方向に自転させ、ワーク1と研磨媒体収容槽3を所定時間回転させた。
【0042】
このとき、研磨媒体収容槽3の回転速度を調整することにより、研磨媒体2の圧縮状態を変化させ、ワーク1の研磨能力の調整を適宜行った。
【0043】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記の実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0044】
1 ワーク
2 研磨媒体
3 研磨媒体収容槽
4 自転駆動力伝達機構
5 ワーク支持腕自転駆動軸
6 ワーク自転駆動モータ駆動軸
7 ワーク自転駆動モータ
8 研磨媒体収容槽回転駆動ギア
9 研磨媒体収容槽回転駆動力伝達ギア
10 研磨媒体収容槽回転駆動モータ駆動軸
11 研磨媒体収容槽回転駆動モータ
12 研磨媒体収容槽蓋
13 研磨媒体収容槽のぞき窓
14 支持架台
15 研磨媒体収容槽回転軸
16 研磨媒体収容槽直立状態

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定された研磨対象を研磨するバレル研磨装置であって、
研磨対象となるワークと、前記ワークを研磨する研磨媒体と、前記ワークおよび前記研磨媒体を収容する研磨媒体収容槽と、前記ワークを支持するワーク支持部とを備え、
前記研磨媒体収容槽は、その内部空間に円周面を含み、
前記円周面の少なくとも一部の周面全体に前記研磨媒体を分布させるように、前記研磨媒体収容槽を前記円周面の円周方向に回転させる槽回転駆動機構をさらに備える、バレル研磨装置。
【請求項2】
前記ワークを前記研磨媒体収容槽の内部で自転させるためのワーク自転駆動機構をさらに備える、請求項1に記載のバレル研磨装置。
【請求項3】
前記ワーク支持部は、前記ワークと前記研磨媒体との位置を調整するためのワーク位置調整機構を備える、請求項1または2に記載のバレル研磨装置。
【請求項4】
前記ワークは、ホブカッターである、請求項1、2、または3に記載のバレル研磨装置。
【請求項5】
固定された研磨対象を研磨するバレル研磨方法であって、
研磨対象となるワークをワーク支持腕に固定し、前記ワークおよび前記ワークを研磨する研磨媒体を内部空間に円周面を含む研磨媒体収容槽に収容するステップと、
前記研磨媒体収容槽を回転させることにより前記研磨媒体を前記円周面の少なくとも一部の周面全体に分布させて回転の遠心力により前記研磨媒体を圧縮し、前記研磨媒体に前記ワークを接触させて前記ワークを研磨するステップとを備え、
前記ワークを研磨するステップにおいて、前記研磨媒体収容槽の回転速度を調整することにより、前記研磨媒体の圧縮状態を変化させ、前記ワークの研磨能力を制御するステップを含む、バレル研磨方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate