説明

ヒンジ装置

【課題】部品数が少なく、回動範囲内で均一な回動トルクを生ずるようにした。
【解決手段】固定部材5に取付けられる樹脂製ヒンジケース1及び回動部材6に取付けられてヒンジケースに回動可能に支持される樹脂製アーム2を備えたヒンジ装置4である。ヒンジケース1は枢支孔13を区画している筒部14、及びその筒部の外周にあって筒部との間に所定の隙間を保っている回動案内部15を一体に形成している。アーム2は枢支孔に回動可能に嵌合される支軸26、及びその支軸を中心とした円弧状摺接面25を一体に形成している。枢支孔13と支軸26との間に生じる摩擦力により回動部材6の固定部材5に対する閉から所定角開く状態までのフリーストップヒンジ用トルクを形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種物品の開閉用として用いられるヒンジ装置に関し、特に設定された回動角度内において所定の回動トルクを生じるようにする場合に好適なヒンジ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には図8に示したヒンジ装置が開示されている。同図のヒンジ装置は、固定部材Sに回動部材Tを回動可能に支持する場合に用いられる。構造は、固定部材Sに抜止めピン7で取付けられてスライダ5及びそのスライダを突出方向へ付勢しているスプリング6を内装したヒンジケース1と、回動部材Tに取付けられて金属製の支軸3を中心にヒンジケース1に回動可能に連結されたアーム2とを備えている。この作動は、アーム2が閉状態から所定角度(閉から半開である30°まで)開くまで、スライダ側に設けられている突起5aとアーム側に設けられているカム4との接触を介してスプリング6のばね圧をアーム2に開き方向の回動トルクとして加え、アーム2が半開(30°)から60°の範囲で更に回動されるときは回動トルクが働かずフリーの状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−186884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ヒンジ装置にあっては、ヒンジケース1、アーム2、支軸3、スプリング6及びスライダ5を必要とし、部品点数が多くコスト高となる。また、動作特性としては、アーム側のカム部4がスライダ側の突起5aを介してスプリング6に接触し、ばね圧によるデッドロック機構を形成しているため、回動部材Tがデッドロックの切替ポイントDに達するまでの操作力が高くなり、また、回動部材Tを再び閉方向へ回動操作するときは切替ポイントを通過した後、回動力が急速に加速して作動するため、衝撃的な打音が生じ、回動部材との間に指を挟むというような障害が生じ易い。
【0005】
なお、以上の動作特性は、用途にによりいろいろ設定されるが、例えば多機能プリンタやコピー機などのように、原稿台(ヒンジケースが取付けられる固定部材)に置かれた原稿用紙上に圧板(アームが取付けられる回動部材)を接して用紙を原稿台と圧板間に挟み込むような用途などでは、圧板の衝撃的な開閉動作に伴う風圧により用紙ずれが生じ、縦横比の揃った正確な画像読取やコピーができなくなり、その都度用紙をセットし直さなければならないため、用紙ずれを防止するためには、設定された回動範囲全般に亘って均一でソフトな回動特性とする方が望ましい。
【0006】
本発明は以上のような背景から工夫されたものである。その目的は、特に、部品数が少なく簡易であり、しかも回動範囲内で均一な回動トルクを生ずるようにしたヒンジ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1の発明は、形態例で特定すると、固定部材5に取付けられる樹脂製のヒンジケース1及び回動部材6に取付けられて前記ヒンジケースに回動可能に支持される樹脂製のアーム2を備えたヒンジ装置4において、前記ヒンジケース1は枢支孔13を区画している筒部14、及びその筒部の外周にあって筒部との間に所定の隙間を保っている回動案内部15を一体に形成しているとともに、前記アーム2は前記枢支孔13に回動可能に嵌合される支軸26、及びその支軸を中心とした円弧状の摺接面25を一体に形成しており、前記枢支孔13と前記支軸26との間に生じる摩擦力(この摩擦力は枢支孔及び支軸の嵌合状態で相対的に回動する際に生じる回動抵抗と同じ意味である)により前記回動部材6の前記固定部材5に対する閉から所定角開く状態までのフリーストップヒンジ用トルクを形成していることを特徴としている。
【0008】
以上の本発明において、「固定部材」は、例えばプリンタやコピー機などの主要部を構成している物品本体である。「回動部材」は、例えばプリンタやコピー機の主要部を構成している物品本体に対しヒンジ装置を介して回動可能に支持されている蓋等の回動される物品である。「フリーストップヒンジ」は、回動部材ないしはアームの回動範囲内において、アームが回動操作を停止すればその位置で回動を少なくとも一時的に停止した状態に維持されるようにしたヒンジである。
【0009】
以上の本発明は、請求項2〜4のごとく具体化されることがより好ましい。すなわち、
(1)前記回動案内部と前記摺接面との間に生ずる接触圧を加える構成である(請求項2)。
(2)前記支軸26は、軸方向に設けられた1以上の軸穴24aを有し、前記筒部14の枢支孔に対し前記軸穴を介した弾性変形可能に嵌合されている構成である(請求項3)。この軸穴は、形態例の中空穴状のものに限られずスリット状の軸穴であってもよい。要は支軸が軸穴を介し軸径方向に変形容易になる構成である。
(3)前記筒部14と前記回動案内部15との間に介挿されて一端を前記ヒンジケース1に係止し、他端を前記支軸26に係止した捻りコイルばね3を有し、前記回動部材6の前記固定部材5に対する閉状態から所定角開く状態までの間に前記捻りコイルばねにより開方向のトルクを加える構成である(請求項4)。
【0010】
(4)前記ヒンジケース及び前記アームの各樹脂材料は、異なる樹脂からなり、かつ、その線膨張係数が共に9〜11×10−5/Kの範囲にある樹脂の組み合わせからなる構成である(請求項5)
(5)前記ヒンジケース及び前記アームの一方の樹脂材料がポリアセタール、他方の樹脂材料がポリブチレンテレフタレート又はポリアミドからなる構成である(請求項6)。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明では、部品数が2点であり、特許文献1に比べ簡素化されることに加え、回動部材が固定部材に対する閉状態から所定角開く状態までのフリーストップヒンジ用トルク、つまり枢支孔と支軸との間に生じる摩擦力によりゆっくりと動作し、切替ポイントもないためポイント通過による急速な開閉動作がなく、これに伴う不具合を防止できる。
【0012】
請求項2の発明では、回動案内部と摺接面との間に生ずる接触圧も加わるため安定かつ確実なフリーストップヒンジ用トルクを得ることができる。これに対し、請求項3の発明では、枢支孔及び支軸の嵌合力つまり支軸が筒部の枢支孔に対し支軸の軸方向に延びた軸穴を介した弾性変形特性により、回動案内部及び摺接面の間の接触圧と共にフリーストップヒンジ用トルクを良好な操作質感を保って容易に付与できる。
【0013】
請求項4の発明では、以上の効果に加え、捻りコイルばねによるばね圧が加わることにより、回動部材の開側への回動時にはばね圧に応じてフリーストップヒンジ用トルクによる抵抗を減少して良好な操作性を実現し、閉側への回動時にはソフトランディングにより閉止可能となる。要は回動部材の回動範囲内における操作質感を向上できる。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1から4を補完するものであり、樹脂成形の精度が同一で、嵌合度合いが同程度であることを前提として、各種樹脂の成形と組合せによる回動トルク波形を計測した結果から得られたものである。具体的には、ヒンジケース及びアームの各樹脂材料として、(ヒンジ装置の使用時の温度範囲が−30〜60℃内における)線膨張係数が共に9〜11×10−5/Kの範囲に収る樹脂材料であって、異種の樹脂材料同士の組合せがステックスリップ(上記嵌合力や接触圧で固着し、その状態で力を加えると急速に回動したり、固着する状態が継続し、思うような操作制御力を得られない状態を指す)が起き難く、操作質感を良好に維持できる。
【0015】
請求項6の発明では、請求項5の異種の樹脂材料の組合せのうち、ヒンジケース及びアームの一方がポリアセタール、他方がポリブチレンテレフタレート又はポリアミドの組み合わせが最良の動作特性を具備できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明形態のヒンジ装置を示し、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は(b)のA−A線拡大断面図である。
【図2】上記ヒンジ装置の外観を示し、(a)は分解斜視図、(b)は組立状態での斜視図である。
【図3】上記ヒンジ装置のヒンジケースを示し、(a)は正面図、(b)は 側面図、(c)は(a)のB−B線断面図、(d)は(a)のC−C線断面図である。
【図4】上記ヒンジ装置のアームを示し、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は(a)のD−D線断面図、(d)は(a)のE矢印方向から見た部分図、(e)は(b)のF−F線断面図である。
【図5】上記ヒンジ装置の使用状態を模式化して示す説明図である。
【図6】上記ヒンジ装置の動作特性のうち、各樹脂材料の組合わせによる温度変化に伴う操作力の変化を示すグラフで、(a)は発明の範囲内にある樹脂材料の組み合わせ例を示し、(b)は発明の範囲外の樹脂材料の組み合わせ例を示している。
【図7】上記ヒンジ装置の動作特性のうち、各樹脂材料の組合せによるトルク波形の変化を示すグラフである。
【図8】特許文献1のヒンジ装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明形態を図面を参照して説明する。図1〜図5はヒンジ装置の構造を示し、図6〜図8はヒンジ装置の構成部材の樹脂材料を変えたときの動作特性及び評価例を示している。以下の説明では装置構造、組立、使用例、試験例の順に詳述する。
【0018】
(装置構造)形態のヒンジ装置4は、図5の使用例に示されるように、固定部材5に取付けられるヒンジケース1と、回動部材6に取付けられるアーム2と、ヒンジケース1とアーム2との間に介挿されたアシスト用の捻りコイルばね3の3部品から構成されている。また、ヒンジケース1及びアーム2は、後述する異種の樹脂材料の組合せからなる射出成形体である。捻りコイルばね3はばね鋼製である。
【0019】
ここで、ヒンジケース1は、図2及び図3に示されるごとく取付用としての角柱形の差込部10と、差込部10の上端側にあって差込部10と交差する方向に突出されて枢支孔13を区画している筒部14、及び筒部14の外周にあって筒部14との間に所定の隙間16を保っている回動案内部15とを一体に形成している。差込部10は、位置決め用リブ11を有し、ヒンジケース1を固定部材5に取付ける場合、固定部材側に設けられている取付用凹所5aに対しリブ11を介して位置決めされた状態に装着される。符号10a,10bは必要に応じ形成される欠肉部である。
【0020】
また、ヒンジケース1は、差込部10の上端側に突設された縦壁部12に対し横向きに突出された中心側の筒部14と、筒部14と所定の隙間16を保って同方向に突出された外側の略筒形の回動案内部15と、図3(a)の状態で下外側の角部に突出されたアーム回動規制用の凸部16と、回動案内部15を区画している筒形内のうち突出端側の内周面に突出されたばね規制用の複数の爪17とを有している。
【0021】
筒部14は、内径がX寸法の円状枢支孔13を区画している。回動案内部15は、図3(a)から推察されるごとく、その筒状の外周面が枢支孔13の孔の中心を支点とする同心円と重なる部分(上側部分)と、同心円から外側にずれる部分(下側部分)とで形成されている。本発明の回動案内部15は、少なくとも、枢支孔13の孔の中心を支点とする同心円と重なる外周面部分ないしは円弧部分を有していればよい。また、回動案内部15は、内側の筒部14の先端よりも長く設定されており、その長くなった内周部に爪17を突設している。隙間16は、捻りコイルばね3を余裕を持って配置される大きさとなっている。符号12aは、爪17を形成するため縦壁部12に貫通された型抜き穴である。
【0022】
アーム2は、図2及び図4に示されるごとく角柱形の連結部20と、連結部20の複数箇所に突出された取付部21〜22と、連結部20の長手方向の一端側に突出された支持板部24と、支持板部24の内面から連結部20の幅方向に突出された支軸26と、支軸26よりも連結部20側に配置された円弧状の摺接面25とを一体に有している。
符号12aは必要に応じ形成される欠肉部である。
【0023】
連結部20は、図5の使用例に示されるごとく取付部21〜22が回動部材6の配置部に対しねじ等を介して装着される。支持板部24は、連結部20の一端側にあって、正面側に概略半円状に突出されるとともに、支軸26を内面側の中心から突出している。支軸26は、図4(e)のごとくその軸径Mがヒンジケース側の枢支孔13の孔径Xに対して同じか、若干小さくなるよう設定されている。一例としては、(孔径X−軸径M)の値が0〜0.5mm程度、或いは支軸が枢支孔に軽く圧入されるよう設定することが好ましい。
【0024】
また、支軸26の先端には径小軸部27が形成されている。径小軸部27には凹溝28が先端面に設けられている。支持板部24及び支軸26には、図4(c),(e)のごとく複数(この例では4つ)の軸穴24aが連続して設けられている。各軸穴24aは、支軸26の中心を支点とした同心円周上に設けられ、支軸26の軸方向で軸先端手前まで延びている。この構成は、支軸26が図4(e)のごとくヒンジケース側の枢支孔13に嵌合された状態で、支軸26が筒部の枢支孔13に対し軸穴24aを介した弾性変形可能に形成されることにより、後述する回動案内部15及び摺接面25の間の接触圧と共にフリーストップヒンジ用トルクを良好な操作質感を保って付与可能にする。
【0025】
また、摺接面25は、図4(c),(d)のごとく連結部20の対応端面側に位置し、かつ支持板部24の内面に起立した状態に設けられている。摺接面25の形状は、支軸26の中心を支点とした半径Rの円弧面に形成されている。すなわち、半径Rの円弧面は、上記した本発明の回動案内部15、つまり枢支孔13の孔の中心を支点とする半径Nの外周面部分ないしは円弧部分とほぼ同じ曲率となっている。
【0026】
(組立)以上のアーム2をヒンジケース1に組付ける場合には、支軸26が筒部14の枢支孔13に挿入嵌合されると、摺接面25が上記した本発明の回動案内部15と対向する。その後、この例では、捻りコイルばね3がアーム2とヒンジケース1との間に介在される。捻りコイルばね3は、ヒンジケース側にあって、筒部14と回動案内部分15を区画している筒状との間の隙間16に配置され、奥側の他端3bが上記した縦壁部12に貫通された型抜き穴12aに係止され、一端3aが付勢力に抗して支軸26の先端の凹溝28に係止される。また、捻りコイルばね3は、以上の組み込み状態で、一端側のコイル部分が爪17の内側に規制されることにより、隙間16内に位置規制されて外れなくなる。
【0027】
なお、以上のヒンジ装置4は捻りコイルばね3を省略してもよい。その場合は、支軸26を突起などで抜け止めする構造を追加し、支軸26が筒部14の枢支孔13から不用意に外れないように処理される。構造特徴は、枢支孔13及び支軸26の嵌合で生じる嵌合力と、回動案内部15及び摺接面25の間に生ずる接触圧とにより、回動部材6の固定部材5に対する閉状態から所定角開く状態までのフリーストップヒンジ用トルクを簡易かつ良好に得られる。特に、回動部材6が閉から開方向、及び開から閉方向へ回動される過程では、アーム側支軸26がヒンジケース側筒部の枢支孔13に対し軸穴26aの存在により径方向に弾性変形可能になっているため良好な操作質感が得られる。
【0028】
(使用例)以上のヒンジ装置4は、図5に示したごとくヒンジケース1が固定部材5に装着され、アーム2が回動部材6に装着される。そして、ヒンジ装置4は、アーム2がヒンジケース1に対し直角になると、回動部材6の閉止状態となり、捻りりコイルばね3のばね力がゼロ又はほぼゼロとなり、この状態からアーム2がヒンジケース1に対し開方向へ回動するのに伴ってばね力が漸増し、同図の実線で示した最大回動角度位置(この例では55°)で最大のばね力を発揮し、トルクが最大となる。逆に、その最大トルクから回動部材6が閉じられるのに伴ってばね力が漸減し、閉止状態で再びばね力が0又はほぼ0となる。その動作特性では、最小トルクのソフトランディングにより閉止できるため、操作質感を良好に維持できる。
【0029】
(試験例)次に、作動特性として、以上のヒンジケース1及びアーム2の各樹脂材料による影響を調べたときの一例を説明する。ヒンジケース1に対するアーム2のスムーズな回動特性を得るためには、射出成形精度と、支軸26及び枢支孔13の嵌合部などの嵌め合い寸法設定に加えて、使用する樹脂材料の選定が重要であり、特に実用温度域において、温度変化に伴う操作力の変化を最小に抑えることが不可欠である。本発明者らは、以上の観点から、樹脂材料として、ヒンジケース1の材料と、アーム2の材料との組み合わせを変えたものを作成し、使用環境として−25℃〜50℃、又は、−30℃〜60℃までの間の操作力を測定し評価した。図6はその組み合わせと及びその温度特性をまとめたものである。
【0030】
用いた樹脂材料としては、ポリアセタール(以下、POMと略記する。又は、M90とNWはそのPOMの材料グレードである)、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略記する)、ポリアミド66(以下、PA66と略記する)、ポリフェニレンサルフェイド(以下、PPSと略記する)である。これら各樹脂は一般にエンジニアリングプラスチックとして良く知られたものであり、それぞれを同一樹脂同士、または異種樹脂同士を組合わせて、各温度におけるヒンジ特性を計測した結果、上記数値範囲を満足する異種樹脂同士の組合せを得るに至った(請求項4,5)。
【0031】
すなわち、ヒンジケース1の樹脂材料とアーム2の樹脂材料との組み合わせは、(NW+NW),(PBT+NW),(PA66+M90),(PBT+PA66),(M90+PA66),(PA66+PBT)の6種類である。図6(a)のものは−25℃〜50℃、同図(b)のものは−30℃〜60℃、までの間の操作力を測定したところ、同図に示す結果となった。測定方法としては、各温度において、回転速度5rpmとし、角度0〜55°までのトルク(N・m)を測定した。またトルクは±1/100の誤差範囲を含んでいる。
【0032】
また、図7は、常温(25℃)で角度0〜30°まで回動させる際のトルク変動を測定した結果を示したものであり、縦軸にはトルク(N・m)、横軸には回動角度(deg)を示している。この図からは、角度0からの立上がり状態での初期トルクが大きい点は何れも同じであるが、その後の波形の大きなものは、スティックスリップ、すなわち、固着と離間が交互に起き易く、動作フィーリングが悪い例であり、NW+NWの組合せがその代表例として掲げられている。このことから、樹脂材料が同種の場合には線膨張率が同一であっても、その親和性などによって固着が生じ易いことが分かり、従って同一樹脂材料同士の組合せは、本発明の範囲からは除外される。
【0033】
これに対し、波形が小さなものは、スティックスリップが起き難く、スムーズな回動が可能となっており、ヒンジケース1とアーム2の組合せが、PA66+M90、又はその逆の組合せがその代表例であり、かつ発生トルクも高いため、何れもがヒンジケース1及びアーム2の組合せにより、スムーズな回動動作を実現できることが分かる。加えて、PA66と、M90の各線膨張率は、9〜11×10−5/Kの数値範囲内にあり、実用域における温度変化による発生トルクの変動も小さいため、本発明ではPA66とM90の組合せが最も推奨される。
【0034】
なお、ヒンジケース1にPPSを用い、アーム2にPOMを用いた組合せの場合には、図6(b)に示されるごとく高温になるほど回動トルクが低下することが示されている。このことはPPSの線膨張係数=2×10−5/Kであるのに対し、POMの線膨張係数=10×10−5/Kであり、両樹脂素材の線膨張係数に差があるため温度特性が低下するためと考えられる。
【0035】
また、異種の樹脂材料の組合せであって、その線膨張係数が上述する所定の数値範囲内に収っていることのほか、表面滑性や、自己潤滑性、スプリング特性、耐衝撃性、耐摩耗性などを選定要因とすることが望ましいことは勿論である。また、以上のヒンジ装置の用途としては、多機能プリンタやコピー機の圧板などの開閉用途などの常時一定の回動トルクであって閉鎖時にソフトランディングにより閉止される蓋体の開閉用ヒンジ装置として好適である。
【0036】
なお、本発明は、以上の形態に制約されるものではなく、請求項で特定される技術要素を備えておればよく、細部については種々変形したり展開可能なものである。その一例としては、樹脂材料の組み合わせとしては以上の試験例を参考にして更に変形したり、嵌合部などにグリスを塗布するようにすることである。
【符号の説明】
【0037】
1…ヒンジケース(10は差込部、13は枢支孔、14は筒部、15は回動案内部)
2…アーム(20は連結部、24は支持部、25は摺接面、26は支軸)
3…捻りコイルばね(3aは一端、3bは他端)
4…ヒンジ装置
5…固定部材
6…回動部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材に取付けられる樹脂製のヒンジケース及び回動部材に取付けられて前記ヒンジケースに回動可能に支持される樹脂製のアームを備えたヒンジ装置において、
前記ヒンジケースは枢支孔を区画している筒部、及びその筒部の外周にあって筒部との間に所定の隙間を保っている回動案内部を一体に形成しているとともに、前記アームは前記枢支孔に回動可能に嵌合される支軸、及びその支軸を中心とした円弧状の摺接面を一体に形成しており、
前記枢支孔と前記支軸との間で生じる摩擦力により前記回動部材の前記固定部材に対する閉から所定角開く状態までのフリーストップヒンジ用トルクを形成していることを特徴とするヒンジ装置。
【請求項2】
前記回動案内部と前記摺接面との間に生ずる接触圧を加えることを特徴とする請求項1に記載のヒンジ装置。
【請求項3】
前記支軸は軸方向に設けられた1以上の軸穴を有し、前記筒部の枢支孔に対し前記軸穴を介した弾性変形可能に嵌合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のヒンジ装置。
【請求項4】
前記筒部と前記回動案内部との間に介挿されて一端を前記ヒンジケースに係止し、他端を前記支軸に係止した捻りコイルばねを有し、前記回動部材の前記固定部材に対する閉状態から所定角開く状態までの間に前記捻りコイルばねにより開方向のトルクを加えることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のヒンジ装置。
【請求項5】
前記ヒンジケース及び前記アームの各樹脂材料は、異なる樹脂からなり、かつ、その線膨張係数が共に9〜11×10−5/Kの範囲にある樹脂の組み合わせからことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載のヒンジ装置。
【請求項6】
前記ヒンジケース及び前記アームの一方の樹脂材料がポリアセタール、他方の樹脂材料がポリブチレンテレフタレート又はポリアミドからなることを特徴とする請求項5に記載のヒンジ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−226603(P2011−226603A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98353(P2010−98353)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)
【Fターム(参考)】