説明

フェーズドアレーアンテナ

【課題】 増幅器に入力されるマイクロ波を増幅する際に増幅器の非線形効果により高調波が発生し、その発生した高調波が特定の角度方向に高いレベルで放射されるのを抑圧したフェーズドアレーアンテナを得る。
【解決手段】 複数の素子アンテナ1と、各々の素子アンテナ1に接続される増幅器8、9と移相器6を有するフェーズドアレーアンテナにおいて、各々の素子アンテナ1と増幅器8、9とを接続する伝送線路の長さを、ランダム化した構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各素子アンテナに接続される移相器と増幅器を有し、移相器の設定位相を適宜可変することにより所望の指向性を得るフェーズドアレーアンテナの、高調波抑圧に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェーズドアレーアンテナの高調波を抑圧するためのアンテナ構成として、アンテナの前面に周波数選択板を設置してアンテナから放射される高調波を除去するものが知られている(例えば特許文献1参照)。このフェーズドアレーアンテナでは、各素子アンテナと各素子アンテナに接続される増幅器との間が同一構成となっている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−120728
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フェーズドアレーアンテナにおいて、増幅器に入力されるマイクロ波を増幅する際に増幅器の非線形効果により高調波が発生し、その発生する高調波の位相値は基本波の位相値と同一となる。
一般的なフェーズドアレーアレーアンテナは、増幅器から素子アンテナまでの距離を等しくしているため、素子アンテナから放射される高調波は基本波と同様に等位相となる波面を形成し、特定の角度方向に指向性を有する。この指向性は基本波の指向角度に対して、2倍波は約1/2の指向角度、3倍波は約1/3の指向角度、m倍波は約1/mの指向角度となり、特定の角度方向に高いレベルの高調波が放射されるという問題があった。
【0005】
また、従来例のように周波数選択板を設置する場合、数mの大きなアンテナを製造することが難しくなり、また基本波の周波数帯域の広いレーダでは、広帯域な周波数選択板の性能が十分取れない為に、高調波の抑圧が不十分となる問題もあった。
【0006】
ここで、従来のアンテナ構成における高調波の放射メカニズムについて具体的に説明する。図4は、4素子のフェーズドアレーアンテナの構成図であり、φ1a乃至φ4aは各増幅器出力の位相値、φ1r乃至φ4rは素子アンテナ出力の位相値であり、Lは各伝送線路2の長さ、Dは素子アンテナ間隔、θmは基本波の指向角度、θHは高調波の指向角度である。
【0007】
この際、基本波の周波数を1GHz(波長約300mm)、素子アンテナ間隔Dを150mm、φ1aを0度、φ2aを90度、φ3aを180度、φ4aを270度、自由空間での伝送線路長Lを75mmとする。この場合において、基本波は伝送線路2にて90度位相が回転するため、各素子アンテナから放射される基本波の位相値φ1rは90度、φ2rは180度、φ3rは270度、φ4rは0度となる。すなわち、各素子アンテナでの励振位相差φdは90度間隔となり、基本波の指向角度θmは45度となる。
【0008】
同様に、2倍の高調波である2GHz(波長約150mm)のφ1a乃至φ4aは基本波と同一であるが、伝送線路2での位相回転量は基本波の2倍である180度となる。よって、各素子アンテナから放射される2倍の高調波の位相値φ1rは180度、φ2rは270度、φ3rは0度、φ4rは90度となる。すなわち、各素子アンテナ間の励振位相差は90度間隔となり、2倍の高調波の指向角度θHは14.47度となり、基本波の約1/2の指向角度となって、特定の指向角度θHに高いレベルの高調波が放射されてしまう。
【0009】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、フェーズドアレーアンテナから放射される高調波を、簡易な構造で抑圧することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明によるフェーズドアレーアンテナは、複数の素子アンテナと、各々の素子アンテナに接続される増幅器および移相器を有したモジュールとを備え、各々の素子アンテナとモジュール間を接続する伝送線路の長さを、相互にランダム化したものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、簡易な構成で、放射される高調波を抑圧するフェーズドアレーアンテナを得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
図1はこの発明に係る実施の形態1によるフェーズドアレーアンテナの構成を示す図である。図において、フェーズドアレーアンテナは、複数の素子アンテナ1と、複数のRFモジュール3と、給電回路4とを備えて構成される。RF(Radio Frequency)モジュール3は素子アンテナ1に接続される。伝送線路2は、各々の素子アンテナ1とRFモジュール3との間にそれぞれ接続され、各々の長さが相互にランダム化(一様乱数値に設定)されている。給電回路4は複数のRFモジュールに接続される。
【0013】
図2はRFモジュール3の構成を示す図である。RFモジュール3は、移相器6、スイッチ7、送信用増幅器8、受信用増幅器9から構成される。端子5はRFモジュール3の給電回路4に接続される。端子10はRFモジュール3の伝送線路2に接続される。送信用増幅器8は端子5から入力される送信信号を高出力増幅する。受信用増幅器9は端子10から入力される受信信号を低雑音増幅する。スイッチ7は送信及び受信を切り替える。移相器6は端子5から入力される送信信号の位相を可変する。
【0014】
このように構成されたフェーズドアレーアンテナにおいて、給電回路4に基本波を入力しアンテナより電波を放射する場合について説明を行なう。
給電回路4に入力されたマイクロ波は、複数のRFモジュール3a乃至3nに分配される。各RFモジュール3において、給電回路4に接続される端子5から入力されたマイクロ波は移相器6にてアレー指向性に適した位相値となるように位相を可変される。この移相器6にて位相を可変されたマイクロ波は、送信増幅器8に接続されるように切り替えられたスイッチ7aを介して、送信用増幅器8へ伝送される。送信用増幅器8は、マイクロ波を所望の送信電力へ増幅し、スイッチ7bを介して伝送線路2に接続される端子10へ送出する。RFモジュール3から出力されたマイクロ波は伝送線路2を介して素子アンテナ1へ伝送され、素子アンテナ1から空間へ放射される。各素子アンテナ1から放射されるマイクロ波は、前述の通り各RFモジュール3の移相器6にてアレー指向性に適した位相値とされており、所望の角度方向に指向性を有する放射パターンとなる。
【0015】
ここで、送信用増幅器8にて基本波を増幅する際に、増幅器の非線形効果により高調波が発生する。この高調波の発生時の位相値は基準波と同一であり、RFモジュール3から伝送線路2を介して素子アンテナ1へ伝送される。前述の伝送線路2は各伝送線路長をランダム化している為、素子アンテナ間の励振位相差もランダムとなり、特定の角度方向に高いレベルの高調波が送信されなくなる。
【0016】
従来例(図4)と同様に、これについて具体的に説明する。図3は4素子のフェーズドアレーアンテナの構成図であり、L1乃至L4は長さをランダム化した伝送線路長であり、それ以外は図4に示した従来例と同一である。すなわち、φ1a乃至φ4aは各増幅器出力の位相値、φ1r乃至φ4rは素子アンテナ出力の位相値であり、Dは素子アンテナ間隔、θmは基本波の指向角度である。また、伝送線路長L1は50mm、L2は75mm、L3は200mm、L4は300mmとし、φ1aは300度、φ2aは0度、φ3aは300度、φ4aは270度となるように各RFモジュール内の移相器6の位相値を設定する。このように、各増幅器出力の位相値が、0度から360度の間で一様ランダム分布となるように、各素子アンテナ1に接続される伝送線路2の伝送線路長を、それぞれ設定する。
【0017】
この場合、各伝送線路での位相回転量はL1では60度、L2では90度、L3では300度、L4では360度である為、基本波のφ1rは0度、φ2rは90度、φ3rは180度、φ4rは270度となり、各素子アンテナでの励振位相差は90度間隔となり、基本波の指向角度θmは45度となる。
【0018】
同様に高調波である2倍波(2GHz)の伝送線路2での位相回転量は基本波の2倍となり、L1では120度、L2では180度、L3では480度、L4では720度である為、基本波のφ1rは60度、φ2rは180度、φ3rは60度、φ4rは270度となり、各素子アンテナでの励振位相差が一定とならず、特定の角度方向に指向性は持たない。これにより、高いレベルの高調波が送信されなくなる。3倍波(3GHz)、4倍波(4GHz)でも、同様に素子アンテナでの励振位相差は一定とならない。
【0019】
以上のような構成とすることにより、各々の素子アンテナ1とRFモジュール3とを接続する伝送線路2の線路長をランダム化することにより、放射される高調波を抑圧するアンテナ構成を得ることができる。
【0020】
また、実施の形態1では伝送線路2の長さをランダムとしているが、各伝送線路での部分に遅延線路或いは位相器等による等価的に伝送線路長を変えることが可能なマイクロ波回路を用いた構成でも同様な効果が得られることは言うまでもない。
【0021】
さらに、放射される基本波と高調波との電力レベル差がRFモジュールから出力される上記電力レベル差よりも下がる為、RFモジュールから出力される高調波のスペックを下げることが可能となり、抑圧フィルタにおける通過帯域や制限帯域等の仕様を緩和したり、安価にする効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施の形態1を示すフェーズドアレーアンテナの構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1のフェーズドアレーアンテナを構成するRFモジュールの構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1による4素子フェーズドアレーアンテナの構成図である。
【図4】従来の4素子フェーズドアレーアンテナの構成図である。
【符号の説明】
【0023】
1 素子アンテナ、2 伝送線路、3 RFモジュール、4 給電回路、5 モジュール給電回路側端子、6 位相器、7 スイッチ、8 送信用増幅器、9 受信用増幅器、10 モジュール素子アンテナ側端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素子アンテナと、各々の素子アンテナに接続される増幅器および移相器を有したモジュールとを備え、
各々の素子アンテナとモジュール間を接続する伝送線路の長さを、相互にランダム化したことを特徴とするフェーズドアレーアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−118317(P2009−118317A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−290819(P2007−290819)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】