フラボノイド類の配糖化方法
【課題】水への溶解性が高く、呈味が改善され、安定性が増したフラボノイド類配糖体の製造方法および、新規なカテキン類配糖体を提供する。
【解決手段】フラボノイドと糖供与体とに、Trichoderma属由来(好ましくは、Trichoderma viride由来又はTrichoderma reesei由来)の配糖化活性を有する酵素剤を作用させる。フラボノイド類には、カテキン類又はそのメチル化体が含まれ;糖供与体には、マルトトリオース残基を含む糖質(好ましくは、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース及びデキストリン、γ-シクロデキストリン又は可溶性澱粉)が含まれる。
【解決手段】フラボノイドと糖供与体とに、Trichoderma属由来(好ましくは、Trichoderma viride由来又はTrichoderma reesei由来)の配糖化活性を有する酵素剤を作用させる。フラボノイド類には、カテキン類又はそのメチル化体が含まれ;糖供与体には、マルトトリオース残基を含む糖質(好ましくは、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース及びデキストリン、γ-シクロデキストリン又は可溶性澱粉)が含まれる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラボノイド類の配糖化に関する。本発明により得られるフラボノイド類の配糖体は、食品、医薬品及び化粧品として用いることができる。
【従来技術】
【0002】
プロアントシアニジン(ブドウ種子抽出物)の血管治療薬としての有用性に関する研究が進んだ理由の一つに、対象となる物質が、熱や酸に対し安定で水によく溶け、吸収性が高いことから、生体内での吸収、代謝を追うマーカーとなり得たことが挙げられる。これに対して、カテキン等のポリフェノール化合物は水に溶けにくいものが多く、また生体内で吸収されにくいという問題がある。
【0003】
水に対する溶解度の改善や安定性の向上を目的に、カテキン等を配糖化する技術が検討されてきた。
例えば、特許文献1は、Xanthomonas campestris WU-9701の培養液から回収した分子量約57,000のα−グルコシダーゼを開示する。この酵素は、マルトース等を供与体とし(マルトトリオース、サイクロデキストリン、澱粉等は供与体としない)、特定の受容体にグルコースを転移して配糖体を合成するものである。ここでは、受容体として、メントール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、1−アミルアルコール、2−アミルアルコール、5−ノニルアルコール等のアルコール性水酸基を有する化合物、及びカプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ノニル酸バニリルアミド、カテキン、エピカテキン、バニリン、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシノール、3,4−ジメトキシフェノール等のフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられている。また、生成が認められた配糖体はモノグルコシドのみである。
【0004】
特許文献2は、カテキン類とグルコース−1−リン酸又はシュークロースとの混合液にシュークロースホスホリラーゼを作用させ、カテキン類配糖体を製造する方法を開示する。ここでは、シュークロースホスホリラーゼの起源として、Leuconostocmesenteroides、Pseudomonas saccharophila、Pseudomonasputrefaciens、Clostridium pasteurianum、Acetobacter xylinum、Pullulariapullulansが挙げられている。ここでは、受容体として、カテキン類としては、(+)−カテキン、(−)−エピカテキン、(−)−エピカテキン3-O-ガレート、(−)−エピガロカテキン、及び(−)−エピガロカテキン3-O-ガレートが挙げられているが、実施例として記載されているのは、(+)−カテキンを受容体に用いて(+)−カテキン 3'-O-α-D-グルコピラノシドを製造した例のみである。
【0005】
特許文献3は、5、7、3'、4'、5'、3"、4"、5"位の少なくとも1つにグルコース残基又は重合度2〜8のマルトオリゴ糖残基が結合しているエピガロカテキン3-O-ガレート誘導体を開示する。ここで実施例として記載されているのは、特許文献2と同様、(-)-エピガロカテキンガレートとグルコース-1-リン酸又はシュークロースとの混合液にシュークロースホスホリラーゼを作用させ、4'-O-α-D-グルコピラノシル(-)-エピガロカテキンガレート及び4',4”-O-α-D-ジ-グルコピラノシル(-)-エピガロカテキンガレートを製造した例のみである。
【0006】
特許文献4は、ポリフェノール類を配糖化することにより渋みを低減した茶抽出物又は茶飲料を開示する。ここでは、茶抽出物又は茶飲料の渋みを低減する具体的な方法として、茶抽出物又は茶飲料に、デキストリン、サイクロデキストリン、澱粉又はこれらの混合物を添加し、これにサイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させる方法が記載されている。実施例においては、緑茶抽出物とα−サイクロデキストリンにBacillus stearothermophilus由来のサイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させ、得られた反応生成物には渋味が低減されたことが述べられており、またこれはエピガロカテキン3-O-ガレートやエピカテキンといったポリフェノール類が配糖化されていたことを示すものである旨が述べられている。しかしながら、反応生成物の具体的な構造は明らかにされていない。
【0007】
特許文献5は、3'位、3'と5位及び3'と7位が配糖化されたカテキン類の配糖体を開示する。ここでは、そのための具体的な方法として、特許文献4と同様、カテキン類及びデキストリン、サイクロデキストリン、澱粉又はこれらの混合物に、Bacillusstearothermophilus由来のサイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させる方法が記載されている。そして、糖供与体としてデキストリンを用いた上記方法による実施例においては、(-)-エピガロカテキン、(-)-エピガロカテキン3-O-ガレート、(-)-エピカテキン3-O-ガレートの配糖体については、分子吸光係数から、各ポリフェノール1分子当り平均で6〜8個グルコースが結合しているものも得られたと考察している。また、上記方法で得られた配糖体にリゾプス・ニベウス由来のグルコアミラーゼを作用させることで、3',7-ジ-O-α-D-グルコピラノシル(-)-エピガロカテキン、3',5-ジ-O-α-D-グルコピラノシル(-)-エピガロカテキン、3'-O-α-D−グルコピラノシル(-)-エピガロカテキン、3',7-ジ-O-α-D-グルコピラノシル(-)-エピガロカテキン3-O-ガレート、3'-O-α-D-グルコピラノシル(-)-エピガロカテキン3-O-ガレート、3'-O-α-D-グルコピラノシル(-)-ガロカテキン、3'-O-α-D−グルコピラノシル(-)-エピカテキン3-O-ガレートの生成を確認している。
【0008】
また、カテキン配糖体の効果として、非特許文献1には、渋みの低減、水溶性の向上、安定性の改善、チロシナーゼ阻害が、非特許文献2には、変異原性抑制が記載されている。
【特許文献1】特開2001-46096
【特許文献2】特開平5-176786(特許第3024848号)
【特許文献3】特開平7-10897(特許第3071610号)
【特許文献4】特開平8-298930(特許第3579496号)
【特許文献5】特開平9-3089(特許第3712285号)
【非特許文献1】Biosci. Biotech. Biochem., 57 (10), 1666-1669 (1993)
【非特許文献2】Biosci. Biotech. Biochem., 57 (10), 1290-1293 (1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらの配糖化技術は、用いる酵素の糖供与体特異性、配糖化可能な化合物についての特異性、配糖化効率等の観点からは充分なものとはいえず、より多様なフラボノイド類を配糖化できる製造方法、およびフラボノイド配糖体が必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、カテキンを含むフラボノイド類の配糖化技術について鋭意検討してきた。その結果、Trichoderma属由来の種々の酵素剤にフラボノイドへの糖転移活性があることを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
本発明は、フラボノイド類と糖供与体とに、Trichoderma属由来の配糖化活性を有する酵素剤を作用させる工程を含む、フラボノイド類の配糖体の製造方法を提供する。
〔フラボノイド類〕
本明細書で「フラボノイド類」というときは、特別な場合を除き、フラボノイド及びエスクレチンを含む。
【0012】
本明細書で「フラボノイド」というときは、特別な場合を除き、カテキン類(フラバノール)、フラバノン、フラボン、フラボノール、フラバノノール、イソフラボン、アントシアン及びカルコン、並びにそのメチル化体をいう。フラボノイドには、ナリンゲニン、ケルセチン、ダイゼイン、ゲニステイン、ケンフェロールが含まれる。本発明に用いることのできるフラボノイドは、天然物由来であってもよく、合成されたものであってもよい。
【0013】
本明細書で「カテキン類」というときは、特別な場合を除き、広義のカテキンの意味で用いており、3-オキシフラバンのポリオキシ誘導体をいう。これには、カテキン、ガロカテキン及びそれらの3-ガロイル体が含まれ、またそれらの光学異性体((+)体、(-)体、(+)-epi体、(-)-epi体)及びラセミ体が含まれる。具体的には、カテキン、ガロカテキン(gallocatechin;GC)、カテキンガレート(catechin-3-O-gallate;CG)、ガロカテキンガレート(gallocatechin-3-O-gallate;GCG)、エピカテキン(epicatechin;EC)、エピガロカテキン(epigallocatechin;EGC)、エピカテキンガレート(epicatechin-3-O-gallate;ECG)及びエピガロカテキンガレート(epigallocatechin-3-O-gallate;EGCG)、並びにそれらの光学異性体が含まれる。カテキン類のメチル化体とは、上述したカテキン類において、少なくとも一つのOH基のHがメチルで置き換わったものをいう。カテキン類のメチル化体の例としては、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート又はエピガロカテキンガレートにおいて、3'位、4'位、3"位及び4"位のいずれかのOH基のHがメチルで置き換わったものを挙げることができる。本発明に用いることのできるカテキン類及びカテキン類のメチル化体は、天然物由来であってもよく、合成されたものであってもよい。天然物の例としては、茶抽出物、その濃縮物及び精製物(例えば、テアビゴ(DSM ニュートリション ジャパン)、ポリフェノン(三井農林)及びサンフェノン(太陽化学)等の緑茶抽出物)、及びベニフウキ抽出物を挙げることができる。
【0014】
本発明には、フラボノイド類として、単一の化合物を用いることができ、また、2種以上のフラボノイド類の混合物を用いることもできる。
〔酵素剤〕
本発明には、Trichoderma属由来の配糖化活性を有する酵素剤を用いる。Trichoderma属には、Trichoderma viride、Trichoderma reesei、Trichoderma saturnisporum、Trichoderma ghanense、Trichodermakoningii、 Trichoderma hamatum、Trichoderma harzianum及びTrichodermapolysporumが含まれる。
【0015】
本明細書でいう酵素剤は、特別な場合を除き、単一の酵素からなる場合もあり、複数の酵素の混合物である場合もある。酵素剤は、少なくとも配糖化活性を有する酵素を含むが、セルラーゼ又はグルカナーゼ(例えば、β-1,3-glucanase)等として使用されている糖質分解に関連する他の酵素を含んでいてもよい。また、本発明の酵素剤は、酵素成分以外に適当な添加剤を含んでいてもよい。これには、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、緩衝剤、保存剤がある。
【0016】
本発明に用いることができる酵素剤は、少なくとも配糖化活性を有する。
本明細書で「配糖化活性」というときは、フラボノイド類に糖残基を転移する活性を有することをいう。ある酵素が、フラボノイド類に糖残基を転移する活性を有するか否かは、特別な場合を除き、例えば、本明細書の実施例に示されているように、フラボノイド(例えば、カテキン)と適切な糖供与体(例えば、デキストリン)との混合液に、対象酵素を供し、充分な時間反応させ、反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等に供して、分析することにより確認することができる。
【0017】
本発明の酵素剤は、配糖化活性とともに、他の活性、例えばデキストリナーゼ活性を有していてもよい。本明細書で「デキストリナーゼ」というときは、特別な場合を除き、澱粉、デキストリン等、α-グルコシド結合した糖質を加水分解することができる酵素をいう。デキストリナーゼは、アミラーゼの一種である。対象がデキストリナーゼ活性を有するか否かは、適切な条件下で、市販のデキストリン(例えば、澱粉を酸、熱又は酵素により加水分解し、平均分子量を3,500程度としたもの)に対して作用させ、デキストリンが加水分解されているか否かにより、判断することができる。当業者であれば、対象を作用させる反応の適切な条件、及びデキストリンが加水分解されているか否かを判断するための手法を、適宜設計することができる。
【0018】
本発明においては、酵素剤として、Trichoderma属由来の配糖化活性を有するものを好適に用いることができる。本発明においては、酵素剤として、Trichoderma viride由来のセルラーゼ酵素剤、及びβ-1,3-グルカナーゼ酵素剤として使用されているものを有効に用いうる。本発明者らの検討によると、セルラーゼ又はグルカナーゼ(例えば、β-1,3-glucanase)等として使用されているTrichoderma属由来の種々の酵素剤が配糖化活性を共存しており、そしてこのような酵素剤が、フラボノイド類の配糖化において、有効に使用できることが分かっている。例えば、本発明には、本明細書の実施例2の表1に列記されているようなものとして市販されているものを用いることができる。
【0019】
また、当業者であればTrichoderma属に属する菌(例えば、Trichoderma viride、Trichodermareesei、Trichoderma saturnisporum、Trichoderma ghanense、Trichodermakoningii、 Trichoderma hamatum、Trichoderma harzianum又はTrichodermapolysporum)の培養物から、従来技術を利用して配糖化酵素を単離・精製し、酵素剤として本発明に用いることができる。このような配糖化酵素のうち、特に好ましい例は、Trichoderma viride IAM 5141株の培養上清から得られる配糖化酵素(本明細書では、「TRa2」ということもある。)、及びそのホモログ、すなわち下記の(i)、(j)又は(k)を含有するタンパク質(好ましくは、下記の(i)、(j)又は(k)であるタンパク質)である:
(i)配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(j)配列番号:10に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつフラボノイド類の配糖化活性を有するタンパク質;
(k)配列番号:10に記載のアミノ酸配列と少なくとも60%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつフラボノイド類の配糖化活性を有するタンパク質。
【0020】
特に好ましい別の例は、上述の新規配糖化酵素タンパク質において推定分泌シグナル配列部分を除いた成熟タンパク質及びそのホモログ、すなわち下記の(p)、(q)又は(r)を含有するタンパク質(好ましくは、下記の(p)、(q)又は(r)であるタンパク質)である:
(p)配列番号:26に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(q)配列番号:26に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつフラボノイド類の配糖化活性を有するタンパク質;
(r)配列番号:26に記載のアミノ酸配列と少なくとも60%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつフラボノイド類の配糖化活性を有するタンパク質。
【0021】
配列番号:25には成熟タンパク質としてのTRa2をコードするcDNAの塩基配列、すなわち配列番号9の61-1389番目の塩基配列が、配列番号:26には成熟タンパク質としてのTRa2のアミノ酸配列、すなわち配列番号10の21-463番目のアミノ酸配列が示されている。
【0022】
また、下記のタンパク質も、本発明に用いることができる配糖化酵素の例として挙げることができる:
・Trichoderma属由来であり、好ましくはTrichoderma viride、Trichodermareesei、Trichoderma saturnisporum、Trichoderma ghanense、Trichodermakoningii、 Trichoderma hamatum、Trichoderma harzianum又はTrichodermapolysporum由来であり、配列番号:11〜24のいずれか一に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチドによってコードされる、フラボノイド類の配糖化活性を有するタンパク質。
【0023】
このようなタンパク質の好ましい例は、配列番号:11〜24のいずれか一に記載の塩基配列を含み、配列番号:6、9又は25に記載の塩基配列と高い同一性を有するポリヌクレオチドによってコードされる、フラボノイド類の配糖化活性を有するタンパク質である。
【0024】
なお、本明細書で「1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」というときの置換等されるアミノ酸の個数は、そのアミノ酸配列を有するタンパク質が所望の機能を有する限り特に限定されないが、1〜9個又は1〜4個程度であるか、性質の似たアミノ酸への置換であれば、さらに多くの個数の置換等がありうる。このようなアミノ酸配列に係るタンパク質を調製するための手段は、当業者にはよく知られている。ポリヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の同一性に関する検索・解析は、当業者には周知のアルゴリズム又はプログラム(例えば、BLASTN、BLASTX、BLASTP、ClustalW)により行うことができる。プログラムを用いる場合のパラメーターは、当業者であれば適切に設定することができ、また各プログラムのデフォルトパラメーターを用いてもよい。これらの解析方法の具体的な手法もまた、当業者には周知である。また、本明細書において、塩基配列に関し、高い同一性というときは、少なくとも60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を指す。また、アミノ酸配列に関し、高い同一性というときは、少なくとも60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を指す。
【0025】
本発明には1種類のみの配糖化酵素を用いることもでき、また複数種類の配糖化酵素を組み合わせて用いることもできる。
〔糖供与体〕
本明細書で「糖供与体」というときは、特別な場合を除き、本発明の方法において酵素の基質となり、加水分解されてフラボノイド類に対して糖残基を供給しうる糖質をいう。本発明に用いることができる糖供与体は、マルトトリオース残基を含む糖質であり、これには、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、デキストリン、γ-シクロデキストリン、及び可溶性澱粉が含まれる。本明細書で「デキストリン」というときは、特別な場合を除き、澱粉を加水分解したものをいい、「可溶性澱粉」というときは、特別な場合を除き、澱粉の加水分解物であって、熱水に可溶であるものをいう。加水分解は、酸、熱、酵素等のいずれの手法によってもよい。本発明においては、デキストリンとして、例えば平均分子量が約3,500のものを、可溶性澱粉として、例えば平均分子量が約100万のものを用いることができる。
【0026】
〔配糖体〕
本発明によって提供されるフラボノイド類の配糖体は、下式で表されるものである:
【0027】
【化1】
【0028】
式中:
R1〜R5は、少なくとも一つが糖残基であり、他はOH若しくはOCH3であるか、又は
R1〜R4は、少なくとも一つが糖残基であり、他はOH若しくはOCH3であり、R5はHであり;そして
Xは、H、CH3、ガロイル基又はメチル化されたガロイル基である。
【0029】
これには、さらに、下記のフラボノイド類の配糖体が含まれる:
式(I)中、
R1〜R4は、少なくとも一つがα結合したグルコース残基又はマルトース残基又はマルトオリゴ糖残基であり、他方はOHであり;
R5は、OH又はHであり;そして
Xは、H又はガロイル基である。
【0030】
これには、さらに、下式で表されるフラボノイド類の配糖体が含まれる:
5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
7-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
4'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン;
4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン;
3'-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;及び
3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート及びそれらの光学異性体。
【0031】
本発明により得られるフラボノイド類の配糖体は、対応するフラボノイド類に比較して、水溶性が向上しうる。例えば、5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンは(+)-カテキンに比べて少なくとも40倍以上の溶解性を示し、5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートも(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートに比べて著しく溶解性が向上することが確認できている(実施例参照)。そして、フラボノイド類を配糖化することは、フラボノイド類の呈味の改変にも寄与しうる。例えば、(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートを多く含む緑茶抽出物を配糖化処理したところ、配糖化処理していないものに比べて、配糖化処理物及び単一に精製した各配糖体(5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート、7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート、7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート)ともに、渋味が著しく低い値を示すことが確認でき、またパネラーによる官能評価でも苦味・渋味が少なくなり飲みやすいという評価結果が得られている。さらに、本発明者らの検討によると、カテキンに比べて4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンは熱に対して安定であったことから、本発明により得られるフラボノイド類の配糖体は、対応するフラボノイド類に比較して熱安定性が向上しうる。。
【0032】
したがって本発明は、フラボノイド類と糖供与体とに、Trichoderma属由来(好ましくは、Trichoderma viride由来又はTrichoderma reesei由来)の配糖化活性を有する酵素剤を作用させる工程を含む、フラボノイド類の改質方法も提供する。本明細書で「改質」というときは、少なくとも水溶性の向上、呈味の改善及び安定性の向上のいずれかを意味する。
【0033】
本発明の改質方法においても、フラボノイド類の例として、カテキン類又はそのメチル化体を挙げることができ、糖供与体の例として、マルトトリオース残基を含む糖質(好ましくは、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、デキストリン、γ-シクロデキストリン又は可溶性澱粉)を挙げることができる。フラボノイド類の水溶性を向上する際も、酵素剤としては、Trichoderma属由来の配糖化活性を有するものを好適に用いることができ、また、Trichoderma viride由来の、セルラーゼ酵素剤又はβ-1,3-グルカナーゼ酵素剤として使用されているものを有効に用いうる。それぞれの用語についての説明は、上述したとおりである。
【0034】
〔本発明の配糖化酵素の酵素学的性質〕
本発明に用いることのできる酵素剤中に含まれる配糖化酵素のうち、特に好ましい例は、Trichoderma viride由来又はTrichoderma reesei由来の配糖化酵素である。この酵素は、フラボノイドと糖供与体との反応において、以下のような酵素学的特徴を有する。
【0035】
糖供与体選択性:
本酵素は、実施例に示した条件では、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、可溶性澱粉、デキストリン、γ-シクロデキストリン等を糖供与体とするが、セロビオース、デキストラン、マルトース一水和物、カルボキシメチルセルロースナトリウム、イソマルトオリゴ糖、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン等は糖供与体としない。また、グルコース1分子又は2分子からなる糖のみならず、グルコース3分子(G3)以上の糖鎖長の配糖体を産生することができる配糖化酵素である。
【0036】
基質特異性:
本酵素は、カテキン、エピガロカテキンガレート、ナリンゲニン、ケルセチン、ダイゼイン、ゲニステイン、ケンフェロール等の主要なフラボノイドやエスクレチンなどを含むポリフェノールに対し、広く作用し、配糖化することができる。
【0037】
反応最適pH、温度:
本酵素は、実施例に示した条件では、pH約4.5〜約7.0、特にpH約5.0〜約6.5でよく反応し、また約30〜約55℃、特に約45〜約55℃でよく反応する。
【0038】
〔配糖体の用途〕
本発明により得られた配糖体は、食品用組成物、医薬用組成物又は化粧用組成物として用いることができる。より詳細には、例えばカテキン類配糖体を配合したものは、カテキンと同様に、抗アレルギー、抗酸化、抗癌、抗炎症、抗菌・抗う歯、抗ウイルス、解毒、腸内フローラ改善、消臭、血漿コレステロール上昇抑制、血圧上昇抑制、血糖上昇抑制、血小板凝集抑制、痴呆予防、体脂肪燃焼、体脂肪蓄積抑制、持久力向上、抗疲労、腎機能改善のための剤として、あるいは食品用組成物、医薬用組成物又は化粧用組成物として用いることができる。
【0039】
食品用組成物は、栄養補助食品、健康食品、食事療法用食品、総合健康食品、サプリメント及び飲料を含む。飲料は、茶飲料、ジュース、清涼飲料、ドリンク剤を含む。医薬品組成物は、医薬品又は医薬部外品とすることができ、経口製剤又は皮膚用外用剤であることが好ましく、液剤、錠剤、顆粒剤、丸剤、シロップ剤、又はローション剤、スプレー剤、硬膏剤、軟膏剤の形態とすることができる。化粧用組成物は、クリーム、液状ローション、乳液状ローション、スプレーの形態とすることができる。
【0040】
本発明の食品用組成物、医薬用組成物又は化粧用組成物中における配糖体の配合量は、特に限定されないが、当業者であれば、対応するフラボノイド類の好ましい一日摂取量を参考に、溶解性、呈味等を考慮して、適宜設計することができる。例えば、組成物中における本発明の配糖体の配合量を0.01〜99.9重量%とすることができ、また本発明の配糖体を一日当たり100 mg〜20 gを1〜数回(例えば3回)に分けて摂取することができるように、組成物中の配合量を決定することができる。
【0041】
本発明の食品用組成物、医薬用組成物又は化粧用組成物には、食品、医薬又は化粧品として許容できる種々の成分を添加することができる。これらの添加剤及び/又は成分の例として、ビタミン類、糖類、賦形剤、崩壊剤、結合剤、潤沢剤、乳化剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤、着色剤、矯味剤、香料、凝固剤、pH調整剤、増粘剤、茶エキス、生薬エキス、無機塩等が挙げられる。
【0042】
〔他の態様〕
本発明において、酵素剤に含まれる酵素タンパク質は、適当な担体に固定化し、固定化酵素として用いることができる。担体としては、同様の目的で使用される従来の樹脂、例えば、塩基性樹脂(例えば、MARATHON WBA(Dow Chemical社製)、SAシリーズ、WAシリーズ又はFPシリーズ(三菱化学)、及びアンバーライトIRA904(オルガノ))、疎水性樹脂(例えば、ダイアイオンFPHA13(三菱化学)、HPシリーズ(三菱化学)、アンバーライトXAD7(オルガノ))等を用いることができる。他に、エキスプレスイオンD(Whatman)、DEAE-トヨパール650M(東ソー)、DEAE-セファロースCL4B(Amersham Biosciences)等も好適に用いうる。固定化の方法としては、従来の、物理的吸着、イオン結合又は共有結合を介して固定化する結合法、二価性官能基をもつ試薬で架橋固定化する架橋法、網目構造のゲル又は半透膜の中に酵素を包埋する包括法のいずれも採りうる。例えば、まず各樹脂5mlに対し、蒸留水に溶解した酵素20〜2,000 mg、例えば50〜400 mgを吸着させた後、上清を除去し、乾燥することによる。
【0043】
本発明により、Trichoderma属(例えば、Trichoderma viride、Trichoderma reesei、Trichodermasaturnisporum、Trichoderma ghanense、Trichoderma koningii、 Trichoderma hamatum、Trichoderma harzianum又はTrichodermapolysporum、好ましくはTrichoderma viride)由来の配糖化活性を有する酵素を含む、フラボノイド類を配糖化するための酵素剤も提供される。酵素剤は、1又は2以上の子嚢菌類の糸状菌由来の糖質分解酵素を含み、それ以外の添加物(例えば、酵素を安定化するための成分や、糖供与体成分、他の酵素)を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0044】
本発明により、フラボノイド類を効率的に配糖化することができる。特に、カテキン類の5位、7位、3'位、4'位の配糖化を効率的に行うことができる。
本発明によりフラボノイド類を配糖化することによって、水溶性を向上することができる。そのため、本発明により、フラボノイド類の経口吸収性を高めることができると考えられる。また、水溶性の向上は、水への溶解速度の向上、ひいては生体内での吸収速度の向上に資するものである。したがって、本発明により、フラボノイド類の有用な活性、例えば抗酸化活性を、生体内で効率よく発揮させることが可能となる。
【0045】
また、本発明によりフラボノイド類を配糖化することによって、フラボノイド類の呈味を改変することができる。特にフラボノイド類としてカテキン類のように苦味、渋味を呈するものを本発明により配糖化する場合には、そのような呈味を低減することができる。
【0046】
また、本発明によりフラボノイドを配糖化することによって、熱安定性を向上することができる。
【実施例】
【0047】
〔実施例1:Trichoderma培養液のカテキン配糖化活性〕
Trichoderma viride IAM 5141株のスラントから、酵母エキス(Difco)1%、ポリペプトン(日本製薬)1%、デキストリン(ナカライテスク)2%の液体培地 10mlに植菌し、30℃で1日間振とう培養を行い、前培養液とした。さらに、上記液体培地900mlに前培養液を全量植菌して30℃で3日間培養を行い、フィルターろ過により培養上清液を調製した。培養上清690mlに対して、硫酸アンモニウム387g(80%飽和)を添加し攪拌した後、遠心分離により沈殿を回収した。得られた沈殿に10mlの0.1M酢酸バッファー(pH5.0)を加え、粗酵素液とした。
【0048】
粗酵素液100μlに対して、カテキン3mg、デキストリン10mgを添加し、50℃で24時間攪拌して酵素反応を行った。反応液を0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)で10倍希釈し、10μlを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析を行った。
【0049】
分析条件
カラム:Develosil C30-UG-5(4.6x150mm)
グラジエント条件: 5%B液 → 50%B液 / 20分間
溶離液A:0.1%TFA / 蒸留水
溶離液B:90%アセトニトリル/ 0.08%TFA
流量:1ml/min
検出波長:280nm
図1に示したとおり、上記反応によるカテキン配糖体の生成を確認できた。また、糖供与体としてγ-サイクロデキストリンを用いた場合にも同様の配糖体の生成を確認できた。このことから、T. viride IAM5141株はデキストリン又はγサイクロデキストリンを糖供与体として、カテキンを配糖化する酵素を分泌生産していることが示唆された。
【0050】
〔実施例2:Trichoderma属由来の種々の酵素剤の性質〕
(+)−カテキン 3mgを0.1M 酢酸バッファー(pH5) 100μlに溶解して、各酵素剤 10mg又は10μl及び可溶性澱粉(ナカライテスク) 10mg又はデキストリン 10mgを混合し、50℃で1日撹拌した。反応後、その遠心上清を10倍希釈してHPLC分析を行った。分析条件は実施例1の通りとした。
【0051】
用いた酵素剤及び実験結果を下表に示した。
【0052】
【表1】
【0053】
メーカーに拠らず広く、セルラーゼとして市販されているTrichoderma属由来の酵素剤に、カテキン類の配糖化活性が認められることを見出した。
〔実施例3:フラボノイド配糖体の製造(1)〕
a. 5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン及び7-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンの製造:
(+)-カテキン60mgに対して、可溶性澱粉(ナカライテスク)200mg、セルラーゼT「アマノ」4 (天野エンザイム) 200mg、0.1M 酢酸バッファー(pH5) 2 mlを混合し、50℃、3日間撹拌した。反応後、その遠心上清をカラム:Develosil C30-UG-5(20×250 mm, 野村化学)、A液: 0.1% TFA/蒸留水, B液: 90% アセトニトリル/0.08%TFA, 溶出条件:20% B液、流速:4 ml/min、検出波長:280 nmで分画精製を行った。生成した主ピーク画分を回収して凍結乾燥標品を調製した。
【0054】
7-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン:m/z 450.9、NMR :δppm (D2O);2.48 (1H, dd), 2.80 (1H, dd), 3.42 (1H, t), 3.4-3.7 (4H, m), 3.80 (1H, t), 4.14 (1H, q), 4.69 (1H, d), 5.47 (1H, d), 6.23 (1H, d), 6.27 (1H, d), 6.78 (1H, dd), 6.84 (1H, d), 6.86 (1H, d)。
【0055】
5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン:m/z 450.8、NMRδppm (D2O);2.62 (1H, dd), 2.81 (1H, dd), 3.43 (1H, t), 3.45-3.55 (1H, m), 3.6-3.7 (3H, m), 3.83 (1H, t), 4.18 (1H, dd), 4.76 (1H, d), 5.61 (1H, d), 6.09 (1H, d), 6.31 (1H, d), 6.77 (1H, d), 6.8-6.9 (2H, m))。
【0056】
b. 5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートの製造:
(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート120 mgに対して、デキストリン(ナカライテスク)400 mg、セルラーゼ“オノズカ”RS(ヤクルト薬品工業)400 mg、0.1 M 酢酸バッファー(pH 5) 3 mlを混合し、50 ℃、 3日間撹拌した。反応後、その遠心上清をカラム:Develosil C30-UG-5(20×250 mm)、溶出条件:40%メタノール、流速:3 ml/min、検出波長:280 nmで分画精製を行った。主ピーク画分は5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートであった。
【0057】
5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート:m/z 643.0、NMRδppm (D2O);;2.8- 3.1 (2H, m), 3.52 (1H, t), 3.7-3.8 (4H, m), 3.91 (1H, t), 5.01 (1H, s), 5.54 (1H, s), 5.6 (1H, broad s), 6.35 (1H, s), 6.43 (1H, s), 6.57 (2H, s), 6.95 (2H, s))。
【0058】
c. 7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート及び7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートの製造:
エピガロカテキンガレート3gに対して、パンセラーゼBR(ヤクルト薬品工業)5g、デキストリン 10g、0.1M 酢酸バッファー(pH5) 100mlを混合し、50℃,4時間撹拌した。反応後、その遠心上清をセファロースLH20(Amersham Biosciences)100mlカラムに吸着させた。蒸留水200ml、30%エタノール200ml、40%エタノール 200mlでステップワイズ溶出を行い、配糖体画分を回収・凍結乾燥品を調製した。さらに50mgを蒸留水 5mlに溶解して、カラム:DevelosilC30-UG-5(20×250mm)、A液:0.1%TFA/蒸留水,B液:90%メタノール/0.1%TFA、溶出条件:30%B、流速:3ml/min、検出波長:280nmで分画精製を行った。主成分として、7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート及び7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートを得た。
【0059】
7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート:m/z 621.1, NMRδppm (D2O);2.98 (1H, d), 3.08 (1H, d), 3.53 (1H, t), 3.68 (1H, s), 3.7-3.9 (3H, m), 3.92 (1H, t), 5.14 (1H, s), 5.62 (2H, broad s), 6.40 (1H, s), 6.48 (1H, s), 6.61 (2H, s), 6.99 (2H, s)。
【0060】
7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート:m/z 783.1、NMRδppm (D2O);2.93 (1H, dd), 3.00 (1H, dd), 3.43 (1H, t), 3.60 (1H, dd), 3.7-3.9 (9H, m), 4.18 (1H, t), 4.96 (1H, s), 5.21 (1H, d), 5.51 (1H, bs), 5.59 (1H, d), 6.35 (1H, d), 6.43 (1H, d), 6.57 (2H, s), 6.96 (2H, s)。
【0061】
〔実施例4:フラボノイド配糖体の製造(2)〕
1. PCRによるα−アミラーゼホモログの部分配列のクローニング:
デキストリン及びγ‐サイクロデキストリンは、グルコースがα-1,4結合で結合したポリマーであり、目的とする酵素はこれを分解する活性を有していることから、α−アミラーゼファミリー様の酵素である可能性が示唆された。
【0062】
そこで、トリコデルマと同じ子嚢菌類の糸状菌でゲノム配列が明らかになっている微生物のうち、Aspergillus nidulans、Neurosporacrassa、Magnaporthe grisea、Fusarium graminearum のゲノム情報データベースから、プロテインファミリーデータベース(PFAM)のalpha-amylase, catalytic domain(accession No. PF00128)のモチーフを持つ推定ORFのアミノ酸配列をそれぞれ9個、6個、8個、6個抽出した。これらを配列相同性検索プログラムであるClustalWによりアライメントを作成し、系統樹作成プログラムであるTree viewにより系統樹を作成し、相同性をもとにグループ分けを行った。図2のグループ1の4つのアミノ酸配列(括弧内はGenebank アクセッションNo.)MG02772.4(EAA47529)、MG10209.4(EAA48146)、AN3388.2(EAA63356)、FG03842.1(EAA71544)をアライメントし、保存性の高い部分(図3 下線部)のアミノ酸配列に対応するオリゴDNAを合成した。
【0063】
AMY-12f:
5'-TAYTGYGGNGGNACNTTYAARGGNYT-3'(配列番号:1)
AMY-15r:
5'-TTYTCNACRTGYTTNACNGTRTCDAT-3'(配列番号:2)
AMY-17r:
5'-GGTNAYRTCYTCNCKRTTNGCNGGRTC-3'(配列番号:3)
先に培養したT. viride IAM5141菌体約1gの湿菌体よりDNeasy plant Maxi Kit(QIAGEN)により、ゲノムDNAを抽出した。このゲノムDNA50ngを鋳型として、プライマーAMY-12fとプライマーAMY-15r、又はプライマーAMY-12fとプライマーAMY-17rを用いてPCR反応を行った。すなわち、ExTaq(タカラバイオ社製)を用いて、94℃ 2分、(94℃ 1分、50℃1分、72℃ 1分)を30サイクル、72℃ 10分の反応を行った。PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分析したところ、プライマーAMY-12fとプライマーAMY-15rの組み合わせで約0.6kbp、プライマーAMY-12fとプライマーAMY-17rの組み合わせで約1.0kbpの断片が確認できた。そこで、これらのDNA断片をアガロースゲルから切り出し、GFX PCR DNA and Gel Band Purifiction Kit(アマシャムバイオサイエンス)によりDNAを精製した。これをTOPO-TA cloning kit(インビトロジェン)にてクローニングし、塩基配列の解析をABI3100Avant(アプライドバイオシステムズ社製)にて行った。前者で得られた塩基配列は後者で得られた塩基配列に含まれていた。この塩基配列をGenBankに登録されているアミノ酸配列に対してBlastxにより相同性検索を行ったところ、MG10209.4(EAA48146)と最も高い相同性を示した。
【0064】
2. アミラーゼホモログのゲノム配列の決定:
得られた約1.0kbpの塩基配列をもとに、以下のプライマーを設計し、Inverse PCR(逆PCR)を行った。
【0065】
TRa2-2:
5'-CCAACCTGGTATCTACATAC-3'(配列番号:4)
TRa2-3:
5'-AGATGGCATCAAATCCCAT-3'(配列番号:5)
まず、T. viride IAM5141より調製したゲノムDNAをHindIIIあるいはPstIで完全消化し、ligation high(東洋紡)により、16℃で一晩反応させ、セルフライゲーションにより閉環させた。これらのDNA 0.1μgを鋳型として、上記プライマーTRa2-2及びTRa2-3を用いてPCR反応を行った。PCRは、LA Taq(タカラバイオ)を使用して、94℃ 2分、(95℃ 30秒、66℃ 15分)を30サイクル、72℃ 10分の反応を行った。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で分析したところ、HindIIIで消化したゲノムDNAを鋳型としたものでは約2kb、PstIで消化したゲノムを鋳型としたものでは約4.5kbのDNA断片が確認できた。これらをそれぞれアガロースゲルから切り出し、前述と同様にクローニングした。挿入された断片の両端からそれぞれ塩基配列を決定した。HindIIIで消化したゲノム由来のものとPstIで消化したゲノム由来のものは、当該制限酵素サイトまでの塩基配列が一致していた。こうして得られた塩基配列を、先に得られた部分配列と連結した。この塩基配列を図4(TRa2-gDNA)及び配列番号:6に示す。図2グループ1の4つの配列との比較及び、開始コドンや終始コドンの出現などからα−アミラーゼホモログのコード領域を推定した。開始コドンは塩基番号423-425のATG、終始コドンは1926-1928のTAAであると考えられた。
【0066】
3. α−アミラーゼホモログのcDNAのクローニング:
先に培養したT. viride IAM5141株の菌体約0.1gより、RNeasy plant mini kitにより全RNAを抽出した。1μgの全RNAをスーパースクリプトファーストストランドシステム for RT-PCR(インビトロジェン)でランダムヘキサマーを用いて、cDNAを合成した。
【0067】
先に得られたゲノム配列をもとに、以下のプライマーを設計した。
TRa2EcoRI-f2:
5'-GGAATTCATGAAGCTTCGATCCGCCGTCCC-3'(配列番号:7)
TRa2XhoI-r2:
5'-CCGCTCGAGTTATGAAGACAGCAGCACAAT-3'(配列番号:8)
合成されたcDNAを鋳型として、上記プライマーTRa2EcoRI-f2及びTRa2XhoI-r2を用いて、PCR反応を行った。PCRは、Ex Taq(タカラバイオ)を使用し、94℃ 2分、(94℃ 1分、55℃ 1分、72℃ 2分)を30サイクル、72℃ 10分の反応を行った。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で分析したところ、約1.5kbのDNA断片が確認できた。これをアガロースゲルより切り出し、GFXにて精製した。得られたDNA断片をTOPO-TA cloning kit(インビトロジェン)にてクローニングして、プラスミドpCRTRa2-cDNAを構築し、cDNAの塩基配列を決定した(図4、図5及び配列番号:9)。先に得られたゲノムDNA配列とcDNA配列を比較したところ、ゲノム配列には2つのイントロンが含まれていた(図4)。cDNA配列には、1392bpのORFがあり、463アミノ酸残基からなるタンパク質をコードしていた(図5及び配列番号:10)。この遺伝子をTRa2と命名した。本遺伝子によりコードされる推定アミノ酸配列をSignalP(Nielsen H. et.al., Protein Eng., 10, 1-6, 1997 )で解析した結果、N末端から20アミノ酸残基は分泌シグナル配列であると考えられた。さらに、TRa2によりコードされる推定アミノ酸配列を前述の方法に従って相同性検索を行ったところ、AN3388.2(EAA63356)ともっとも高い相同性を示した。TRa2タンパク質の推定アミノ酸配列を、既知のα-アミラーゼであるタカアミラーゼのアミノ酸配列と比較した。その結果、α-アミラーゼファミリー酵素の4つの保存領域が本酵素においても保存されており(図6、2重下線)、活性中心とされるアスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、アスパラギン酸残基がすべて保存されていた(図6、*印アミノ酸残基)。
【0068】
4. TRa2タンパク質の酵母での分泌発現系の構築:
プラスミドpCRTRa2-cDNAを制限酵素EcoRI及びXhoIで消化して得られた約1.5kbの断片を、プラスミドpYE22m(Biosci. Biotech. Biochem., 59(7), 1221-1228, 1995)を制限酵素EcoRI及びSalIで消化した断片とligation high(東洋紡)を用いて連結し、プラスミドpYETRa2を得た。
【0069】
プラスミドpYETRa2により、酵母S. cerevisiae EH1315株を酢酸リチウム法により、形質転換した。得られた形質転換株をTRa2-1株とした。TRa2-1株をYPD(Difco)液体培地 10mlに一白金耳植菌し、30℃で2日間振とう培養した。TRa2タンパク質はN末に20アミノ酸残基からなる分泌シグナル配列が存在するので、培養液中に分泌されると考えられた。そこで遠心分離により、菌体を沈殿させ培養上清を回収した。
【0070】
5. TRa2の糖分解活性の測定:
培養上清500μlをMicrocon YM-30(アミコン)を用いて、約5倍に濃縮した。上記濃縮液10μlを、0.5%のマルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、デキストリン、α-サイクロデキストリン、β-サイクロデキストリン、又は γ-サイクロデキストリンを含む20mM 酢酸バッファー(pH5.0)100μlに添加し、50℃で1時間反応させた。
【0071】
反応終了後、以下のとおりTLCにて分析した。プレートは、シリカゲルG-60プレート(メルク)を使用し、展開液として、2−プロパノール:アセトン:0.5M乳酸=2:2:1を使用した。検出は、硫酸:エタノール=1:9を噴霧して風乾したのち、ホットプレートで熱することにより行った。その結果、ベクターpYE22mにて形質転換したコントロール株(C-1株)の培養液では、いずれの糖の分解も確認できなかった。一方、TRa2-1株の培養液ではマルトトリオース、マルトテトラオース、デキストリン及びγ-サイクロデキストリンが分解されて主にマルトース及びグルコースが生成することが確認できたが、マルトース、α-サイクロデキストリン及びβ-サイクロデキストリンの分解は確認できなかった。
【0072】
6. TRa2の糖転移活性の測定:
培養上清の原液、又はVIVASPIN 10,000MWCO/PES製(VIVASCIENCE社)にて約5倍に濃縮した培養上清濃縮液100μlに(+)-カテキン又は(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート 3mgと、デキストリン10mgを加えて、50℃にて1日間攪拌しながら反応させた。反応終了後、反応液を0.1%トリフルオロ酢酸溶液にて10倍希釈し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて、実施例1と同様の条件で分析した。その結果、ベクターpYE22mにて形質転換したコントロール株(C-1株)の培養上清と反応させた反応液には、反応生成物が確認できなかったのに対し、TRa2-1株では、カテキン配糖体及びエピガロカテキン-3-O-ガレート配糖体の生成が確認できた(図7)。
【0073】
7. TRa2によるカテキン配糖体の製造:
TRa2-1株をYPD液体培地200mlに植菌し30℃で3日間振とう培養した。遠心分離により菌体を集め、培養上清を得た。この培養上清100mlを限外ろ過ディスク:NMWL30000/再生セルロースで0.1M 酢酸バッファー(pH5) 100mlを加えながら50mlになるまで濃縮し、TRa2酵素液とした。上記TRa2酵素液50mlに(+)-カテキン1.5gとデキストリン 5gを混合し、45℃,18hr撹拌した。反応液を遠心分離し、上清をLH20(Amersham Biosciences)樹脂60ml/Ф2.5×20cmカラムに吸着させた。蒸留水120ml、10%エタノール240mlで溶出し、配糖体画分を回収・凍結乾燥し、凍乾末530mgを得た。その50mgをとって蒸留水 5mlに溶かし、DevelosilC30-UG-5カラム20×250mm、A:0.1%TFA/蒸留水,B:90%メタノール/0.1%TFA,30%B、3ml/min、280nmで分取した。HPLCの保持時間の早い順にピーク1〜6を回収・凍結乾燥した。MS及びNMR解析から、ピーク1は5-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン、ピーク2は5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン、ピーク3は4'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン、ピーク4は4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン、ピーク5は3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン、ピーク6は3'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンであることが示唆された。
【0074】
5-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン:m/z 615.2、NMRδppm (D2O);2.71 (1H, dd), 2.85 (1H, dd), 3.42 (1H, t), 3.56-3.85 (9H, m), 4.19 (1H, t), 4.26 (1H, dd), 4.87 (1H, d), 5.70 (1H, d), 6.19 (1H, d), 6.39 (1H, d), 6.83 (1H, dd), 6.90-6.93 (2H, m) 。
【0075】
5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン:m/z 450.8、NMRδppm (D2O);2.62 (1H, dd), 2.81 (1H, dd), 3.43 (1H, t), 3.45-3.55 (1H, m), 3.6-3.7 (3H, m), 3.83 (1H, t), 4.18 (1H, dd), 4.76 (1H, d), 5.61 (1H, d), 6.09 (1H, d), 6.31 (1H, d), 6.77 (1H, d), 6.8-6.9 (2H, m) 。
【0076】
4'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン:m/z 615.2、NMRδppm (D2O);2.54 (1H, dd), 2.81 (1H, dd), 3.43 (1H, t), 3.60 (1H, dd), 3.68-3.94 (9H, m), 4.19-4.28 (2H, m), 4.82 (1H, d), 5.44 (1H, d), 5.62 (1H, d), 6.04 (1H, d), 6.11 (1H, d), 6.91 (1H, dd), 7.00 (1H, d), 7.22 (1H, d)。
【0077】
4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン:m/z 453.2、NMRδppm (D2O);2.45 (1H, dd), 2.73 (1H, dd), 3.45 (1H, t), 3.65-3.75 (4H, m), 4.11 (1H, dd), 4.7-4.75 (2H, m), 5.53 (1H, d), 5.95 (1H, d), 6.02 (1H, d), 6.83 (1H, dd), 6.91 (1H, d), 7.15 (1H, d) 。
【0078】
3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン:m/z 615.2、NMRδppm (D2O);2.54 (1H, dd), 2.80 (1H, dd), 3.44 (1H, t), 3.59 ( 1H, dd), 3.67-3.90 (9H, m), 4.17-4.24 (2H, m), 4.83 (1H, d), 5.41 (1H, d), 5.55 (1H, d), 6.03 (1H, d), 6.10 (1H, d), 7.10 (1H, d), 7.06 (1H, d), 7.26 (1H, d)。
【0079】
3'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン:m/z 453.2、NMRδppm (D2O);2.43 (1H, dd), 2.73 (1H, dd), 3.27 (1H, s), 3.44 (1H, t), 3.6-3.7 (4H, m), 3.88 (1H, t), 4.10 (1H, dd), 4.69 (1H, d), 5.46 (1H, d), 5.93 (1H, s), 6.01 (1H, s), 6.89 (1H, d), 6.94 (1H, dd), 7.18 (1H, d) 。
【0080】
8. TRa2によるエピガロカテキン-3-O-ガレート配糖体の製造:
TRa2-1株をYPD液体培地100mlに植菌し30℃で3日間振とう培養した。遠心分離により菌体を集め、培養上清を得た。この培養上清45mlを限外ろ過ディスク:NMWL30000/再生セルロースで0.1M 酢酸バッファー(pH5) 50mlを加えながら20mlになるまで濃縮し、TRa2酵素液とした。TRa酵素液 20mlに(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート600mgとデキストリン 2gを混合し、50℃、1日撹拌した。反応液を遠心し、上清をLH20樹脂25ml/Ф1.5×30cmカラムに吸着させた。蒸留水100ml、10%エタノール100ml、20%エタノール100ml、30%エタノール200mlで溶出し、30%エタノール画分を回収・凍結乾燥した。凍乾末120mgを蒸留水12mlに溶かし、DevelosilC30-UG-5カラム20×250mm、A:0.1%TFA/蒸留水,B:90%メタノール/0.1%TFA,40%B、3ml/min、280nmで分取した。MS及びNMR解析から、ピーク2は7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート、ピーク5は3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート、ピーク6は3'-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートであることが示唆された。一方、ピーク3はMS(m/z 621.2、1107.3)から、グルコシドとマルトテトラオシドの混合物であることが示唆され、保持時間からグルコシドは7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートであると考えられた。
【0081】
7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート:m/z 783.2、NMRδppm (CD3OD); 2.88 (1H, dd), 2.01 (1H, dd), 3.26 (1H, t), 3.46 (1H, dd), 3.6-3.9 (9H, m), 4.08 (1H, t), 5.00 (1H, s), 5.20 (1H, d), 5.43 (1H, d), 5.54 (1H, s), 6.27 (1H, d), 6.34 (1H, d), 6.51 (2H, d), 6.94 (2H, d)。
【0082】
3'-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート:m/z 621.1, δppm (CD3OD);2.88 (1H, dd), 2.99 (1H, dd), 3.42 (1H, dd), 3.51 (1H, t), 3.69 (1H, m), 3.8-3.9 (3H, m), 4.88 (1H, d), 4.98 (1H, s), 5.49 (1H, broad s), 5.95 (1H, d), 5.96 (1H, d), 6.65 (1H, d), 7.01 (2H, s), 7.11 (1H, d) 。
【0083】
3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート:m/z 783.2, δppm (CD3OD);2.87 (1H, broad d), 2.99 (1H, dd), 3.27 (1H, t), 3.44-3.48 (2H, m), 3.6-3.8 (4H, m), 3.85 (2H, d), 3.98 (1H, dd), 4.06 (H, t), 4.85 (1H, d), 4.99 (1H, s), 5.28 (1H, d), 5.49 (1H, broad s), 5.94 (1H, d), 5.96 (1H, d), 6.64 (1H, d), 7.01 (2H, s), 7.09 (1H, d) 。
【0084】
9.His-tagを付加したTRa2タンパク質(TRa2-His)の発現:
TRa2-His発現用プラスミドの構築と形質転換酵母の取得
TRa2タンパク質のC末端にHis-tagを付加して酵母で発現させるために、以下のプライマーを設計した。
TRa2HisXhoI-r2: Gctcgagttagtggtggtggtggtggtgtgaagacagcagcaa(配列番号:27)
プラスミドpCRTRa2-cDNAを鋳型として、プライマーTraEcoRI-f2とプライマーTRa2HisXhoI-r2を用いて、PCR反応を行った。PCRは、Ex Taq(タカラバイオ)を使用し、94℃ 2分、(94℃ 1分、58℃ 1分、72℃ 2分)を25サイクル、72℃ 10分の反応を行った。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で分析したところ、約1.5kbのDNA断片が確認できた。これをアガロースゲルより切り出し、GFXにて精製した。得られたDNA断片をTOPO-TA cloning kit(インビトロジェン)にてクローニングして、塩基配列を確認しプラスミドpCRTRa2-cDNA-Hisとした。pCRTRa2-cDNA-HisをEcoRIとXhoIで消化して約1.5kbのDNA断片を、プラスミドpYE22mを制限酵素EcoRI及びSalIで消化した断片とligation high(東洋紡)を用いて連結し、プラスミドpYE-TRa2-Hisを得た。
プラスミドpYE-TRa2-Hisにて酵母S. cerevisiae EH1315株を形質転換した。得られた形質転換株をTRa2-3株とした。
【0085】
培養
TRa2-3株をSD(-Trp) 20 mlにて30℃、16 hr培養した。前培養液をSD(-Trp) + 100 mM KH2PO4-KOH (pH 6.0) 1 Lに植菌し、30℃、3 days培養した。遠心分離により培養液上清を回収した。
【0086】
精製
培養液上清をBuffer S1[20 mM NaH2PO4-NaOH (pH 7.4)、10 mM イミダゾール、0.5 M NaCl、15 mM 2-メルカプトエタノール]にて平衡化したN2+キレート済みのChelating Sepharose Fast Flow (5 ml、Pharmacia Biotech)カラムにアプライし、同バッファー(40 ml)で洗浄した。続いてBuffer E1[20 mM NaH2PO4-NaOH (pH 7.4)、200 mM イミダゾール、0.5 M NaCl、15 mM 2-メルカプトエタノール]によりカラムに結合したタンパク質を溶出した。活性画分を集め、VIVASPIN(30,000 MWCO、VIVASCIENCE)を用いて脱塩、濃縮した。
【0087】
続いて、酵素溶液をBuffer S2[20 mM KH2PO4-KOH (pH 7.4)、15 mM 2-メルカプトエタノール、0.1% CHAPS]にて平衡化したResource Q (1 ml、Pharmacia Biotech)カラムにアプライ(1.5 ml/min)し、同バッファー(10 ml)で洗浄した。続いてBuffer E2[20 mM KH2PO4-KOH (pH 7.4)、0.6 M NaCl、15 mM 2-メルカプトエタノール、0.1% CHAPS]の0-100%直線濃度勾配(60 ml)によりカラムに結合したタンパク質を溶出した。活性画分を集め、VIVASPIN(30,000 MWCO、VIVASCIENCE)を用いて脱塩、濃縮した。
【0088】
再度、同手順でResource Qカラムクロマトグラフィーを行い、活性を示しかつSDS-PAGE上で単一バンドの画分を集め、VIVASPIN(30,000 MWCO、VIVASCIENCE)を用いて脱塩、濃縮した。
【0089】
酵素活性測定:
糖転移活性
反応液(10 mM エピガロカテキン-3-O-ガレート、10 mg デキストリン、100 mM Acetate-NaOH(pH 5.3)、酵素溶液)100 μlを45℃、24 hr攪拌し、0.5% TFA 100 μlを添加することで反応を停止した。反応停止後のサンプルを遠心分離し、上清を回収した。生成物を以下のような条件でHPLCにて分析し、エピガロカテキン-3-O-ガレート配糖体の生成を確認した。HPLC条件:溶離液A、0.1% TFA;溶離液B、90% アセトニトリル、0.08% TFA;分析カラム、Devolosil C30-UG-5 (4.6 x 150 mm、NOMURA CHEMICAL);流速、1 ml/min;分離モード、0 min-5%B、20 min-50%B、20.5 min-5%B、25 min-5%B
〔実施例5:糖選択性及び糖鎖長特異性〕
糖供与体選択性1:
(+)-カテキン6mgに対して、セルラーゼ「オノズカ」RS 20mg、各種糖供与体 20mg、0.1M 酢酸バッファー(pH5) 200μlを混合し、50℃,1日撹拌した。反応後、その遠心上清を10倍希釈しHPLC分析を行った。糖供与体はセロビオース(Sigma)、デキストラン(Sigma)、マルトース(ナカライテスク)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(ナカライテスク)、可溶性澱粉(ナカライテスク)、デキストリン(ナカライテスク)、イソマルトオリゴ糖(和光純薬)、α-シクロデキストリン(和光純薬)、γ-シクロデキストリン(和光純薬)、トレハロース二水和物(ナカライテスク)を使用した。
【0090】
【表2】
【0091】
可溶性澱粉、デキストリン、γ-シクロデキストリンに作用してカテキン配糖体を生成したが、他の糖類には作用しなかった。
糖供与体選択性2:
(+)-カテキン3mgに対して、セルラーゼ「オノズカ」RS 10mg、各種糖供与体10 mg、0.1 M 酢酸バッファー(pH5) 100μlを混合し、50℃で1日撹拌した。糖供与体はマルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース及びデキストリン(ナカライテスク)、γ-シクロデキストリン(和光純薬)を使用した。反応後、その遠心上清を10倍希釈しHPLC分析を行った。
【0092】
結果を下表に示した。
【0093】
【表3】
【0094】
〔実施例6:基質特異性〕
TRa2-1株をYPD培地10 mlにて、30℃で一晩振とう培養した。静止期に達した培養液を同培地に接種し(2%(v/v))、30℃で3日間振とう培養した。培養後、遠心分離にて上清を回収し、5倍に濃縮してTRa2の粗酵素溶液を得た。酵素反応溶液(0.5 mM 及び 10 mM 糖受容体基質((+)-カテキン、(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート、エスクレチン、ナリンゲニン、ケルセチン、ダイゼイン、ゲニステイン、ケンフェロール)、10 mg デキストリン、100 mM 酢酸バッファー (pH 5.2)、粗酵素溶液)100μlにて45℃、24 hr反応させ、HPLCにて分析した。結果を図8に示した。
【0095】
受容体基質と配糖体生成物の面積比(%)は、(+)-カテキン:10%、(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート:17.7%、エスクレチン:3.5%、ナリンゲニン:4.4%、ケルセチン:9.4%、ダイゼイン:10.7%、ゲニステイン:6.8%、ケンフェロール:3.1%であった。
【0096】
〔実施例7:最適pH、温度の検討〕
(+)-カテキン6mgに対して、パンセラーゼBR(ヤクルト薬品工業) 20mg、デキストリン(ナカライテスク)20mg、各種緩衝液 200ulを混合し、50℃、6時間撹拌した。緩衝液は0.1M 酢酸バッファー(pH4〜5.5)、0.1M リン酸バッファー(pH6〜7)、0.1M トリス塩酸バッファー(pH7.6〜9)を用いた。反応後、その遠心上清を10倍希釈しHPLC分析を行った。結果を図9(左)に示した。
【0097】
(+)-カテキン6mgとデキストリン(ナカライテスク)20mgを0.1M 酢酸バッファー(pH5) 200ulに50℃で溶かし、放冷後パンセラーゼBR(ヤクルト薬品工業)20mgを混合し、20〜60℃、6時間撹拌した。反応後、その遠心上清を10倍希釈しHPLC分析を行った。結果を図9(右)に示した。
【0098】
〔実施例8:配糖体の熱安定性〕
100μMの(+)-カテキン又は実施例4で得た4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンを含む10mM リン酸カリウムバッファー(pH7.0) 30μlを4〜100℃の各温度で0〜4時間処理した後、氷中に移し、続いて0.1% TFA 60μlを加えて実施例1と同様にHPLCで分析した。各温度で処理したときの(+)-カテキン又は4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンの残存量を図10に示した。カテキンに比べ4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンは熱に対して安定であった。
【0099】
〔実施例9:配糖体の溶解性〕
(+)-カテキン又は実施例3で得た5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンを10〜450mg/mlの各濃度になるよう水に添加し、激しく攪拌することにより溶解させた。その後、遠心分離により沈殿物を除去し上清をHPLCにより分析し、(+)-カテキン及び5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンの量を定量した。また、(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート又は5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートを同様に溶解性の検討を行った。その結果を図11に示した。
【0100】
(+)-カテキンはほとんど水に溶けないのに対し、5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンは少なくとも40倍以上の溶解性を示した。(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートも同様に配糖体化することで、著しく溶解性が向上することを確認した。
【0101】
〔実施例10:固定化酵素の調製〕
固定化樹脂としてエキスプレスイオンD(Whatman)、ダイアイオンFPHA13(三菱化学)、DEAE-トヨパール650M(東ソー)、DEAE-セファロースCL4B(Amersham Biosciences)、アンバーライトIRA904(オルガノ)について検討を行った。まず各樹脂5mlを蒸留水8mlに溶解したセルラーゼRS 240 mgに添加して30分間撹拌した後、蒸留水で2回洗浄して凍結乾燥を行い固定化酵素とした。各固定化酵素5 mlをカラム(12 x 150 mm)につめて、カテキン450 mgに対してデキストリン1500 mg、0.1 M 酢酸バッファー(pH 5)15 mlを循環させ、50℃、4日間反応を行った。反応後、反応液を10倍希釈しHPLC分析を行った。その結果を表4に示した。
【0102】
【表4】
【0103】
〔実施例11:メチル化カテキンの配糖化〕
(-)-エピガロカテキン-3-(3"-O-メチル)ガレート 2.7mgに対して、パンセラーゼBR 9mg、デキストリン 9mg、0.1M酢酸バッファー(pH5)90μlを混合し、50℃、18時間撹拌した。反応後、その遠心上清を10倍希釈しHPLC分析を行った。その結果を図12に示した。
【0104】
〔実施例12:酵素剤併用による配糖化〕
(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートを多く含む緑茶抽出物(商品名テアビゴ、DSM ニュートリション ジャパン)30gに対して、パンセラーゼBR 100g、クラスターデキストリン(江崎グリコ)100g、α-サイクロデキストリン 100g、サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(天野エンザイム)100mlを0.1M酢酸バッファー(pH5)1000mlに混合し、50℃、3.5時間撹拌した。反応後、その遠心上清をセファロースLH20(Amersham Biosciences)1000mlカラムに吸着させた。蒸留水6000mlで洗浄後、30%エタノール6000mlでステップワイズ溶出を行い、濃縮・凍結乾燥して配糖体画分13.9gを調製した。
【0105】
〔実施例13:配糖体の味に関する評価〕
実施例12で調製した配糖体(BR−1)、単一に精製した各配糖体;5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート(5G-1)、5-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート(5GG-1)、7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート(7G-1)及び原料である緑茶抽出物(TVG-1)を各200ppmとなるように蒸留水に溶解し、人間の舌を模した「人工脂質膜」電極の電位差を味の強弱として表す味センサー(味香り戦略研究所)により味質の評価を行った。その結果を図13に示す。コントロールである緑茶抽出物(TVG-1)に比べて、各配糖体ともに渋味が著しく低い値を示し、配糖体とすることで味質が改善された。またパネラーによる官能評価でも苦味・渋味が少なくなり飲みやすいといった評価結果であった。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】図1は、Trichoderma viride IAM 5141 粗酵素液でカテキンを処理した際の、HPLC分析チャートである。
【図2】図2は、Aspergillus nidulans、Neurosporacrassa、Magnaporthe grisea、Fusarium graminearum のゲノム情報データベースから抽出した、alpha-amylase, catalytic domain(accession No. PF00128)のモチーフを持つ推定ORFのアミノ酸配列について、系統樹作成プログラムであるTree viewにより作成した系統樹を示した図である。
【図3】図3は、図2のグループ1の4つのアミノ酸配列をアライメントし、保存性の高い部分(下線部)を示した図である。
【図4】図4は、TRa2のゲノムDNA配列(配列番号:6)とcDNA配列(配列番号:9)を比較した図である。
【図5】図5は、TRa2のcDNA塩基配列、及びそれに対応する推定アミノ酸配列を示した図である。2重下線部は推定分泌シグナル配列。
【図6】図6は、TRa2の推定アミノ酸配列とタカアミラーゼ前駆体アミノ酸配列(GBNo.BAA00336)の一次構造を比較した図である。下線部:TRa2の推定分泌シグナル、破線下線部:タカアミラーゼの分泌シグナル、2重下線部:α‐アミラーゼファミリー酵素で高度に保存されている4つの領域、*印アミノ酸残基:触媒部位に位置するアミノ酸残基。
【図7】図7は、形質転換体(TRa2-1株)の培養上清の原液、又はその濃縮液に、(+)-カテキン又は(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートと、デキストリンを加えて反応させた際の、反応液のHPLC分析チャートである。
【図8】図8は、形質転換体(TRa2-1株)の培養上清から調製したTRa2の粗酵素溶液に、各糖受容体基質((+)-カテキン、(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート、エスクレチン、ナリンゲニン、ケルセチン、ダイゼイン、ゲニステイン、ケンフェロール)、デキストリンを加えて反応させた際の、配糖化活性を示したグラフである。
【図9】図9は、酵素剤の配糖化反応における至適pH、及び至適温度を示したグラフである。
【図10】図10は、(+)-カテキン又は4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンを含む溶液を4〜100℃の各温度で0〜4時間処理した後の、それぞれの残存量を示したグラフである。
【図11】図11は、(+)-カテキン及びその配糖体、並びに(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート及びその配糖体の、水への溶解性を示したグラフである。
【図12】図12は、(-)-エピガロカテキン-3-(3"-O-メチル)ガレート、デキストリン及び酵素剤を混合して反応した際の、反応液のHPLC分析チャートである。
【図13】図13は、(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートを多く含む緑茶抽出物(TVG-1)、その配糖体画分(BR−1)、及びBR−1に含まれる各配糖体の単一精製物(5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート(5G-1)、5-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート(5GG-1)、7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート(7G-1))についての、味センサーによる味質レーダーチャートである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラボノイド類の配糖化に関する。本発明により得られるフラボノイド類の配糖体は、食品、医薬品及び化粧品として用いることができる。
【従来技術】
【0002】
プロアントシアニジン(ブドウ種子抽出物)の血管治療薬としての有用性に関する研究が進んだ理由の一つに、対象となる物質が、熱や酸に対し安定で水によく溶け、吸収性が高いことから、生体内での吸収、代謝を追うマーカーとなり得たことが挙げられる。これに対して、カテキン等のポリフェノール化合物は水に溶けにくいものが多く、また生体内で吸収されにくいという問題がある。
【0003】
水に対する溶解度の改善や安定性の向上を目的に、カテキン等を配糖化する技術が検討されてきた。
例えば、特許文献1は、Xanthomonas campestris WU-9701の培養液から回収した分子量約57,000のα−グルコシダーゼを開示する。この酵素は、マルトース等を供与体とし(マルトトリオース、サイクロデキストリン、澱粉等は供与体としない)、特定の受容体にグルコースを転移して配糖体を合成するものである。ここでは、受容体として、メントール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、1−アミルアルコール、2−アミルアルコール、5−ノニルアルコール等のアルコール性水酸基を有する化合物、及びカプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ノニル酸バニリルアミド、カテキン、エピカテキン、バニリン、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシノール、3,4−ジメトキシフェノール等のフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられている。また、生成が認められた配糖体はモノグルコシドのみである。
【0004】
特許文献2は、カテキン類とグルコース−1−リン酸又はシュークロースとの混合液にシュークロースホスホリラーゼを作用させ、カテキン類配糖体を製造する方法を開示する。ここでは、シュークロースホスホリラーゼの起源として、Leuconostocmesenteroides、Pseudomonas saccharophila、Pseudomonasputrefaciens、Clostridium pasteurianum、Acetobacter xylinum、Pullulariapullulansが挙げられている。ここでは、受容体として、カテキン類としては、(+)−カテキン、(−)−エピカテキン、(−)−エピカテキン3-O-ガレート、(−)−エピガロカテキン、及び(−)−エピガロカテキン3-O-ガレートが挙げられているが、実施例として記載されているのは、(+)−カテキンを受容体に用いて(+)−カテキン 3'-O-α-D-グルコピラノシドを製造した例のみである。
【0005】
特許文献3は、5、7、3'、4'、5'、3"、4"、5"位の少なくとも1つにグルコース残基又は重合度2〜8のマルトオリゴ糖残基が結合しているエピガロカテキン3-O-ガレート誘導体を開示する。ここで実施例として記載されているのは、特許文献2と同様、(-)-エピガロカテキンガレートとグルコース-1-リン酸又はシュークロースとの混合液にシュークロースホスホリラーゼを作用させ、4'-O-α-D-グルコピラノシル(-)-エピガロカテキンガレート及び4',4”-O-α-D-ジ-グルコピラノシル(-)-エピガロカテキンガレートを製造した例のみである。
【0006】
特許文献4は、ポリフェノール類を配糖化することにより渋みを低減した茶抽出物又は茶飲料を開示する。ここでは、茶抽出物又は茶飲料の渋みを低減する具体的な方法として、茶抽出物又は茶飲料に、デキストリン、サイクロデキストリン、澱粉又はこれらの混合物を添加し、これにサイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させる方法が記載されている。実施例においては、緑茶抽出物とα−サイクロデキストリンにBacillus stearothermophilus由来のサイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させ、得られた反応生成物には渋味が低減されたことが述べられており、またこれはエピガロカテキン3-O-ガレートやエピカテキンといったポリフェノール類が配糖化されていたことを示すものである旨が述べられている。しかしながら、反応生成物の具体的な構造は明らかにされていない。
【0007】
特許文献5は、3'位、3'と5位及び3'と7位が配糖化されたカテキン類の配糖体を開示する。ここでは、そのための具体的な方法として、特許文献4と同様、カテキン類及びデキストリン、サイクロデキストリン、澱粉又はこれらの混合物に、Bacillusstearothermophilus由来のサイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させる方法が記載されている。そして、糖供与体としてデキストリンを用いた上記方法による実施例においては、(-)-エピガロカテキン、(-)-エピガロカテキン3-O-ガレート、(-)-エピカテキン3-O-ガレートの配糖体については、分子吸光係数から、各ポリフェノール1分子当り平均で6〜8個グルコースが結合しているものも得られたと考察している。また、上記方法で得られた配糖体にリゾプス・ニベウス由来のグルコアミラーゼを作用させることで、3',7-ジ-O-α-D-グルコピラノシル(-)-エピガロカテキン、3',5-ジ-O-α-D-グルコピラノシル(-)-エピガロカテキン、3'-O-α-D−グルコピラノシル(-)-エピガロカテキン、3',7-ジ-O-α-D-グルコピラノシル(-)-エピガロカテキン3-O-ガレート、3'-O-α-D-グルコピラノシル(-)-エピガロカテキン3-O-ガレート、3'-O-α-D-グルコピラノシル(-)-ガロカテキン、3'-O-α-D−グルコピラノシル(-)-エピカテキン3-O-ガレートの生成を確認している。
【0008】
また、カテキン配糖体の効果として、非特許文献1には、渋みの低減、水溶性の向上、安定性の改善、チロシナーゼ阻害が、非特許文献2には、変異原性抑制が記載されている。
【特許文献1】特開2001-46096
【特許文献2】特開平5-176786(特許第3024848号)
【特許文献3】特開平7-10897(特許第3071610号)
【特許文献4】特開平8-298930(特許第3579496号)
【特許文献5】特開平9-3089(特許第3712285号)
【非特許文献1】Biosci. Biotech. Biochem., 57 (10), 1666-1669 (1993)
【非特許文献2】Biosci. Biotech. Biochem., 57 (10), 1290-1293 (1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらの配糖化技術は、用いる酵素の糖供与体特異性、配糖化可能な化合物についての特異性、配糖化効率等の観点からは充分なものとはいえず、より多様なフラボノイド類を配糖化できる製造方法、およびフラボノイド配糖体が必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、カテキンを含むフラボノイド類の配糖化技術について鋭意検討してきた。その結果、Trichoderma属由来の種々の酵素剤にフラボノイドへの糖転移活性があることを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
本発明は、フラボノイド類と糖供与体とに、Trichoderma属由来の配糖化活性を有する酵素剤を作用させる工程を含む、フラボノイド類の配糖体の製造方法を提供する。
〔フラボノイド類〕
本明細書で「フラボノイド類」というときは、特別な場合を除き、フラボノイド及びエスクレチンを含む。
【0012】
本明細書で「フラボノイド」というときは、特別な場合を除き、カテキン類(フラバノール)、フラバノン、フラボン、フラボノール、フラバノノール、イソフラボン、アントシアン及びカルコン、並びにそのメチル化体をいう。フラボノイドには、ナリンゲニン、ケルセチン、ダイゼイン、ゲニステイン、ケンフェロールが含まれる。本発明に用いることのできるフラボノイドは、天然物由来であってもよく、合成されたものであってもよい。
【0013】
本明細書で「カテキン類」というときは、特別な場合を除き、広義のカテキンの意味で用いており、3-オキシフラバンのポリオキシ誘導体をいう。これには、カテキン、ガロカテキン及びそれらの3-ガロイル体が含まれ、またそれらの光学異性体((+)体、(-)体、(+)-epi体、(-)-epi体)及びラセミ体が含まれる。具体的には、カテキン、ガロカテキン(gallocatechin;GC)、カテキンガレート(catechin-3-O-gallate;CG)、ガロカテキンガレート(gallocatechin-3-O-gallate;GCG)、エピカテキン(epicatechin;EC)、エピガロカテキン(epigallocatechin;EGC)、エピカテキンガレート(epicatechin-3-O-gallate;ECG)及びエピガロカテキンガレート(epigallocatechin-3-O-gallate;EGCG)、並びにそれらの光学異性体が含まれる。カテキン類のメチル化体とは、上述したカテキン類において、少なくとも一つのOH基のHがメチルで置き換わったものをいう。カテキン類のメチル化体の例としては、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート又はエピガロカテキンガレートにおいて、3'位、4'位、3"位及び4"位のいずれかのOH基のHがメチルで置き換わったものを挙げることができる。本発明に用いることのできるカテキン類及びカテキン類のメチル化体は、天然物由来であってもよく、合成されたものであってもよい。天然物の例としては、茶抽出物、その濃縮物及び精製物(例えば、テアビゴ(DSM ニュートリション ジャパン)、ポリフェノン(三井農林)及びサンフェノン(太陽化学)等の緑茶抽出物)、及びベニフウキ抽出物を挙げることができる。
【0014】
本発明には、フラボノイド類として、単一の化合物を用いることができ、また、2種以上のフラボノイド類の混合物を用いることもできる。
〔酵素剤〕
本発明には、Trichoderma属由来の配糖化活性を有する酵素剤を用いる。Trichoderma属には、Trichoderma viride、Trichoderma reesei、Trichoderma saturnisporum、Trichoderma ghanense、Trichodermakoningii、 Trichoderma hamatum、Trichoderma harzianum及びTrichodermapolysporumが含まれる。
【0015】
本明細書でいう酵素剤は、特別な場合を除き、単一の酵素からなる場合もあり、複数の酵素の混合物である場合もある。酵素剤は、少なくとも配糖化活性を有する酵素を含むが、セルラーゼ又はグルカナーゼ(例えば、β-1,3-glucanase)等として使用されている糖質分解に関連する他の酵素を含んでいてもよい。また、本発明の酵素剤は、酵素成分以外に適当な添加剤を含んでいてもよい。これには、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、緩衝剤、保存剤がある。
【0016】
本発明に用いることができる酵素剤は、少なくとも配糖化活性を有する。
本明細書で「配糖化活性」というときは、フラボノイド類に糖残基を転移する活性を有することをいう。ある酵素が、フラボノイド類に糖残基を転移する活性を有するか否かは、特別な場合を除き、例えば、本明細書の実施例に示されているように、フラボノイド(例えば、カテキン)と適切な糖供与体(例えば、デキストリン)との混合液に、対象酵素を供し、充分な時間反応させ、反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等に供して、分析することにより確認することができる。
【0017】
本発明の酵素剤は、配糖化活性とともに、他の活性、例えばデキストリナーゼ活性を有していてもよい。本明細書で「デキストリナーゼ」というときは、特別な場合を除き、澱粉、デキストリン等、α-グルコシド結合した糖質を加水分解することができる酵素をいう。デキストリナーゼは、アミラーゼの一種である。対象がデキストリナーゼ活性を有するか否かは、適切な条件下で、市販のデキストリン(例えば、澱粉を酸、熱又は酵素により加水分解し、平均分子量を3,500程度としたもの)に対して作用させ、デキストリンが加水分解されているか否かにより、判断することができる。当業者であれば、対象を作用させる反応の適切な条件、及びデキストリンが加水分解されているか否かを判断するための手法を、適宜設計することができる。
【0018】
本発明においては、酵素剤として、Trichoderma属由来の配糖化活性を有するものを好適に用いることができる。本発明においては、酵素剤として、Trichoderma viride由来のセルラーゼ酵素剤、及びβ-1,3-グルカナーゼ酵素剤として使用されているものを有効に用いうる。本発明者らの検討によると、セルラーゼ又はグルカナーゼ(例えば、β-1,3-glucanase)等として使用されているTrichoderma属由来の種々の酵素剤が配糖化活性を共存しており、そしてこのような酵素剤が、フラボノイド類の配糖化において、有効に使用できることが分かっている。例えば、本発明には、本明細書の実施例2の表1に列記されているようなものとして市販されているものを用いることができる。
【0019】
また、当業者であればTrichoderma属に属する菌(例えば、Trichoderma viride、Trichodermareesei、Trichoderma saturnisporum、Trichoderma ghanense、Trichodermakoningii、 Trichoderma hamatum、Trichoderma harzianum又はTrichodermapolysporum)の培養物から、従来技術を利用して配糖化酵素を単離・精製し、酵素剤として本発明に用いることができる。このような配糖化酵素のうち、特に好ましい例は、Trichoderma viride IAM 5141株の培養上清から得られる配糖化酵素(本明細書では、「TRa2」ということもある。)、及びそのホモログ、すなわち下記の(i)、(j)又は(k)を含有するタンパク質(好ましくは、下記の(i)、(j)又は(k)であるタンパク質)である:
(i)配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(j)配列番号:10に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつフラボノイド類の配糖化活性を有するタンパク質;
(k)配列番号:10に記載のアミノ酸配列と少なくとも60%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつフラボノイド類の配糖化活性を有するタンパク質。
【0020】
特に好ましい別の例は、上述の新規配糖化酵素タンパク質において推定分泌シグナル配列部分を除いた成熟タンパク質及びそのホモログ、すなわち下記の(p)、(q)又は(r)を含有するタンパク質(好ましくは、下記の(p)、(q)又は(r)であるタンパク質)である:
(p)配列番号:26に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(q)配列番号:26に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつフラボノイド類の配糖化活性を有するタンパク質;
(r)配列番号:26に記載のアミノ酸配列と少なくとも60%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつフラボノイド類の配糖化活性を有するタンパク質。
【0021】
配列番号:25には成熟タンパク質としてのTRa2をコードするcDNAの塩基配列、すなわち配列番号9の61-1389番目の塩基配列が、配列番号:26には成熟タンパク質としてのTRa2のアミノ酸配列、すなわち配列番号10の21-463番目のアミノ酸配列が示されている。
【0022】
また、下記のタンパク質も、本発明に用いることができる配糖化酵素の例として挙げることができる:
・Trichoderma属由来であり、好ましくはTrichoderma viride、Trichodermareesei、Trichoderma saturnisporum、Trichoderma ghanense、Trichodermakoningii、 Trichoderma hamatum、Trichoderma harzianum又はTrichodermapolysporum由来であり、配列番号:11〜24のいずれか一に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチドによってコードされる、フラボノイド類の配糖化活性を有するタンパク質。
【0023】
このようなタンパク質の好ましい例は、配列番号:11〜24のいずれか一に記載の塩基配列を含み、配列番号:6、9又は25に記載の塩基配列と高い同一性を有するポリヌクレオチドによってコードされる、フラボノイド類の配糖化活性を有するタンパク質である。
【0024】
なお、本明細書で「1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」というときの置換等されるアミノ酸の個数は、そのアミノ酸配列を有するタンパク質が所望の機能を有する限り特に限定されないが、1〜9個又は1〜4個程度であるか、性質の似たアミノ酸への置換であれば、さらに多くの個数の置換等がありうる。このようなアミノ酸配列に係るタンパク質を調製するための手段は、当業者にはよく知られている。ポリヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の同一性に関する検索・解析は、当業者には周知のアルゴリズム又はプログラム(例えば、BLASTN、BLASTX、BLASTP、ClustalW)により行うことができる。プログラムを用いる場合のパラメーターは、当業者であれば適切に設定することができ、また各プログラムのデフォルトパラメーターを用いてもよい。これらの解析方法の具体的な手法もまた、当業者には周知である。また、本明細書において、塩基配列に関し、高い同一性というときは、少なくとも60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を指す。また、アミノ酸配列に関し、高い同一性というときは、少なくとも60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を指す。
【0025】
本発明には1種類のみの配糖化酵素を用いることもでき、また複数種類の配糖化酵素を組み合わせて用いることもできる。
〔糖供与体〕
本明細書で「糖供与体」というときは、特別な場合を除き、本発明の方法において酵素の基質となり、加水分解されてフラボノイド類に対して糖残基を供給しうる糖質をいう。本発明に用いることができる糖供与体は、マルトトリオース残基を含む糖質であり、これには、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、デキストリン、γ-シクロデキストリン、及び可溶性澱粉が含まれる。本明細書で「デキストリン」というときは、特別な場合を除き、澱粉を加水分解したものをいい、「可溶性澱粉」というときは、特別な場合を除き、澱粉の加水分解物であって、熱水に可溶であるものをいう。加水分解は、酸、熱、酵素等のいずれの手法によってもよい。本発明においては、デキストリンとして、例えば平均分子量が約3,500のものを、可溶性澱粉として、例えば平均分子量が約100万のものを用いることができる。
【0026】
〔配糖体〕
本発明によって提供されるフラボノイド類の配糖体は、下式で表されるものである:
【0027】
【化1】
【0028】
式中:
R1〜R5は、少なくとも一つが糖残基であり、他はOH若しくはOCH3であるか、又は
R1〜R4は、少なくとも一つが糖残基であり、他はOH若しくはOCH3であり、R5はHであり;そして
Xは、H、CH3、ガロイル基又はメチル化されたガロイル基である。
【0029】
これには、さらに、下記のフラボノイド類の配糖体が含まれる:
式(I)中、
R1〜R4は、少なくとも一つがα結合したグルコース残基又はマルトース残基又はマルトオリゴ糖残基であり、他方はOHであり;
R5は、OH又はHであり;そして
Xは、H又はガロイル基である。
【0030】
これには、さらに、下式で表されるフラボノイド類の配糖体が含まれる:
5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
7-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
4'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン;
4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン;
3'-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;及び
3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート及びそれらの光学異性体。
【0031】
本発明により得られるフラボノイド類の配糖体は、対応するフラボノイド類に比較して、水溶性が向上しうる。例えば、5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンは(+)-カテキンに比べて少なくとも40倍以上の溶解性を示し、5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートも(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートに比べて著しく溶解性が向上することが確認できている(実施例参照)。そして、フラボノイド類を配糖化することは、フラボノイド類の呈味の改変にも寄与しうる。例えば、(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートを多く含む緑茶抽出物を配糖化処理したところ、配糖化処理していないものに比べて、配糖化処理物及び単一に精製した各配糖体(5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート、7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート、7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート)ともに、渋味が著しく低い値を示すことが確認でき、またパネラーによる官能評価でも苦味・渋味が少なくなり飲みやすいという評価結果が得られている。さらに、本発明者らの検討によると、カテキンに比べて4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンは熱に対して安定であったことから、本発明により得られるフラボノイド類の配糖体は、対応するフラボノイド類に比較して熱安定性が向上しうる。。
【0032】
したがって本発明は、フラボノイド類と糖供与体とに、Trichoderma属由来(好ましくは、Trichoderma viride由来又はTrichoderma reesei由来)の配糖化活性を有する酵素剤を作用させる工程を含む、フラボノイド類の改質方法も提供する。本明細書で「改質」というときは、少なくとも水溶性の向上、呈味の改善及び安定性の向上のいずれかを意味する。
【0033】
本発明の改質方法においても、フラボノイド類の例として、カテキン類又はそのメチル化体を挙げることができ、糖供与体の例として、マルトトリオース残基を含む糖質(好ましくは、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、デキストリン、γ-シクロデキストリン又は可溶性澱粉)を挙げることができる。フラボノイド類の水溶性を向上する際も、酵素剤としては、Trichoderma属由来の配糖化活性を有するものを好適に用いることができ、また、Trichoderma viride由来の、セルラーゼ酵素剤又はβ-1,3-グルカナーゼ酵素剤として使用されているものを有効に用いうる。それぞれの用語についての説明は、上述したとおりである。
【0034】
〔本発明の配糖化酵素の酵素学的性質〕
本発明に用いることのできる酵素剤中に含まれる配糖化酵素のうち、特に好ましい例は、Trichoderma viride由来又はTrichoderma reesei由来の配糖化酵素である。この酵素は、フラボノイドと糖供与体との反応において、以下のような酵素学的特徴を有する。
【0035】
糖供与体選択性:
本酵素は、実施例に示した条件では、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、可溶性澱粉、デキストリン、γ-シクロデキストリン等を糖供与体とするが、セロビオース、デキストラン、マルトース一水和物、カルボキシメチルセルロースナトリウム、イソマルトオリゴ糖、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン等は糖供与体としない。また、グルコース1分子又は2分子からなる糖のみならず、グルコース3分子(G3)以上の糖鎖長の配糖体を産生することができる配糖化酵素である。
【0036】
基質特異性:
本酵素は、カテキン、エピガロカテキンガレート、ナリンゲニン、ケルセチン、ダイゼイン、ゲニステイン、ケンフェロール等の主要なフラボノイドやエスクレチンなどを含むポリフェノールに対し、広く作用し、配糖化することができる。
【0037】
反応最適pH、温度:
本酵素は、実施例に示した条件では、pH約4.5〜約7.0、特にpH約5.0〜約6.5でよく反応し、また約30〜約55℃、特に約45〜約55℃でよく反応する。
【0038】
〔配糖体の用途〕
本発明により得られた配糖体は、食品用組成物、医薬用組成物又は化粧用組成物として用いることができる。より詳細には、例えばカテキン類配糖体を配合したものは、カテキンと同様に、抗アレルギー、抗酸化、抗癌、抗炎症、抗菌・抗う歯、抗ウイルス、解毒、腸内フローラ改善、消臭、血漿コレステロール上昇抑制、血圧上昇抑制、血糖上昇抑制、血小板凝集抑制、痴呆予防、体脂肪燃焼、体脂肪蓄積抑制、持久力向上、抗疲労、腎機能改善のための剤として、あるいは食品用組成物、医薬用組成物又は化粧用組成物として用いることができる。
【0039】
食品用組成物は、栄養補助食品、健康食品、食事療法用食品、総合健康食品、サプリメント及び飲料を含む。飲料は、茶飲料、ジュース、清涼飲料、ドリンク剤を含む。医薬品組成物は、医薬品又は医薬部外品とすることができ、経口製剤又は皮膚用外用剤であることが好ましく、液剤、錠剤、顆粒剤、丸剤、シロップ剤、又はローション剤、スプレー剤、硬膏剤、軟膏剤の形態とすることができる。化粧用組成物は、クリーム、液状ローション、乳液状ローション、スプレーの形態とすることができる。
【0040】
本発明の食品用組成物、医薬用組成物又は化粧用組成物中における配糖体の配合量は、特に限定されないが、当業者であれば、対応するフラボノイド類の好ましい一日摂取量を参考に、溶解性、呈味等を考慮して、適宜設計することができる。例えば、組成物中における本発明の配糖体の配合量を0.01〜99.9重量%とすることができ、また本発明の配糖体を一日当たり100 mg〜20 gを1〜数回(例えば3回)に分けて摂取することができるように、組成物中の配合量を決定することができる。
【0041】
本発明の食品用組成物、医薬用組成物又は化粧用組成物には、食品、医薬又は化粧品として許容できる種々の成分を添加することができる。これらの添加剤及び/又は成分の例として、ビタミン類、糖類、賦形剤、崩壊剤、結合剤、潤沢剤、乳化剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤、着色剤、矯味剤、香料、凝固剤、pH調整剤、増粘剤、茶エキス、生薬エキス、無機塩等が挙げられる。
【0042】
〔他の態様〕
本発明において、酵素剤に含まれる酵素タンパク質は、適当な担体に固定化し、固定化酵素として用いることができる。担体としては、同様の目的で使用される従来の樹脂、例えば、塩基性樹脂(例えば、MARATHON WBA(Dow Chemical社製)、SAシリーズ、WAシリーズ又はFPシリーズ(三菱化学)、及びアンバーライトIRA904(オルガノ))、疎水性樹脂(例えば、ダイアイオンFPHA13(三菱化学)、HPシリーズ(三菱化学)、アンバーライトXAD7(オルガノ))等を用いることができる。他に、エキスプレスイオンD(Whatman)、DEAE-トヨパール650M(東ソー)、DEAE-セファロースCL4B(Amersham Biosciences)等も好適に用いうる。固定化の方法としては、従来の、物理的吸着、イオン結合又は共有結合を介して固定化する結合法、二価性官能基をもつ試薬で架橋固定化する架橋法、網目構造のゲル又は半透膜の中に酵素を包埋する包括法のいずれも採りうる。例えば、まず各樹脂5mlに対し、蒸留水に溶解した酵素20〜2,000 mg、例えば50〜400 mgを吸着させた後、上清を除去し、乾燥することによる。
【0043】
本発明により、Trichoderma属(例えば、Trichoderma viride、Trichoderma reesei、Trichodermasaturnisporum、Trichoderma ghanense、Trichoderma koningii、 Trichoderma hamatum、Trichoderma harzianum又はTrichodermapolysporum、好ましくはTrichoderma viride)由来の配糖化活性を有する酵素を含む、フラボノイド類を配糖化するための酵素剤も提供される。酵素剤は、1又は2以上の子嚢菌類の糸状菌由来の糖質分解酵素を含み、それ以外の添加物(例えば、酵素を安定化するための成分や、糖供与体成分、他の酵素)を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0044】
本発明により、フラボノイド類を効率的に配糖化することができる。特に、カテキン類の5位、7位、3'位、4'位の配糖化を効率的に行うことができる。
本発明によりフラボノイド類を配糖化することによって、水溶性を向上することができる。そのため、本発明により、フラボノイド類の経口吸収性を高めることができると考えられる。また、水溶性の向上は、水への溶解速度の向上、ひいては生体内での吸収速度の向上に資するものである。したがって、本発明により、フラボノイド類の有用な活性、例えば抗酸化活性を、生体内で効率よく発揮させることが可能となる。
【0045】
また、本発明によりフラボノイド類を配糖化することによって、フラボノイド類の呈味を改変することができる。特にフラボノイド類としてカテキン類のように苦味、渋味を呈するものを本発明により配糖化する場合には、そのような呈味を低減することができる。
【0046】
また、本発明によりフラボノイドを配糖化することによって、熱安定性を向上することができる。
【実施例】
【0047】
〔実施例1:Trichoderma培養液のカテキン配糖化活性〕
Trichoderma viride IAM 5141株のスラントから、酵母エキス(Difco)1%、ポリペプトン(日本製薬)1%、デキストリン(ナカライテスク)2%の液体培地 10mlに植菌し、30℃で1日間振とう培養を行い、前培養液とした。さらに、上記液体培地900mlに前培養液を全量植菌して30℃で3日間培養を行い、フィルターろ過により培養上清液を調製した。培養上清690mlに対して、硫酸アンモニウム387g(80%飽和)を添加し攪拌した後、遠心分離により沈殿を回収した。得られた沈殿に10mlの0.1M酢酸バッファー(pH5.0)を加え、粗酵素液とした。
【0048】
粗酵素液100μlに対して、カテキン3mg、デキストリン10mgを添加し、50℃で24時間攪拌して酵素反応を行った。反応液を0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)で10倍希釈し、10μlを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析を行った。
【0049】
分析条件
カラム:Develosil C30-UG-5(4.6x150mm)
グラジエント条件: 5%B液 → 50%B液 / 20分間
溶離液A:0.1%TFA / 蒸留水
溶離液B:90%アセトニトリル/ 0.08%TFA
流量:1ml/min
検出波長:280nm
図1に示したとおり、上記反応によるカテキン配糖体の生成を確認できた。また、糖供与体としてγ-サイクロデキストリンを用いた場合にも同様の配糖体の生成を確認できた。このことから、T. viride IAM5141株はデキストリン又はγサイクロデキストリンを糖供与体として、カテキンを配糖化する酵素を分泌生産していることが示唆された。
【0050】
〔実施例2:Trichoderma属由来の種々の酵素剤の性質〕
(+)−カテキン 3mgを0.1M 酢酸バッファー(pH5) 100μlに溶解して、各酵素剤 10mg又は10μl及び可溶性澱粉(ナカライテスク) 10mg又はデキストリン 10mgを混合し、50℃で1日撹拌した。反応後、その遠心上清を10倍希釈してHPLC分析を行った。分析条件は実施例1の通りとした。
【0051】
用いた酵素剤及び実験結果を下表に示した。
【0052】
【表1】
【0053】
メーカーに拠らず広く、セルラーゼとして市販されているTrichoderma属由来の酵素剤に、カテキン類の配糖化活性が認められることを見出した。
〔実施例3:フラボノイド配糖体の製造(1)〕
a. 5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン及び7-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンの製造:
(+)-カテキン60mgに対して、可溶性澱粉(ナカライテスク)200mg、セルラーゼT「アマノ」4 (天野エンザイム) 200mg、0.1M 酢酸バッファー(pH5) 2 mlを混合し、50℃、3日間撹拌した。反応後、その遠心上清をカラム:Develosil C30-UG-5(20×250 mm, 野村化学)、A液: 0.1% TFA/蒸留水, B液: 90% アセトニトリル/0.08%TFA, 溶出条件:20% B液、流速:4 ml/min、検出波長:280 nmで分画精製を行った。生成した主ピーク画分を回収して凍結乾燥標品を調製した。
【0054】
7-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン:m/z 450.9、NMR :δppm (D2O);2.48 (1H, dd), 2.80 (1H, dd), 3.42 (1H, t), 3.4-3.7 (4H, m), 3.80 (1H, t), 4.14 (1H, q), 4.69 (1H, d), 5.47 (1H, d), 6.23 (1H, d), 6.27 (1H, d), 6.78 (1H, dd), 6.84 (1H, d), 6.86 (1H, d)。
【0055】
5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン:m/z 450.8、NMRδppm (D2O);2.62 (1H, dd), 2.81 (1H, dd), 3.43 (1H, t), 3.45-3.55 (1H, m), 3.6-3.7 (3H, m), 3.83 (1H, t), 4.18 (1H, dd), 4.76 (1H, d), 5.61 (1H, d), 6.09 (1H, d), 6.31 (1H, d), 6.77 (1H, d), 6.8-6.9 (2H, m))。
【0056】
b. 5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートの製造:
(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート120 mgに対して、デキストリン(ナカライテスク)400 mg、セルラーゼ“オノズカ”RS(ヤクルト薬品工業)400 mg、0.1 M 酢酸バッファー(pH 5) 3 mlを混合し、50 ℃、 3日間撹拌した。反応後、その遠心上清をカラム:Develosil C30-UG-5(20×250 mm)、溶出条件:40%メタノール、流速:3 ml/min、検出波長:280 nmで分画精製を行った。主ピーク画分は5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートであった。
【0057】
5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート:m/z 643.0、NMRδppm (D2O);;2.8- 3.1 (2H, m), 3.52 (1H, t), 3.7-3.8 (4H, m), 3.91 (1H, t), 5.01 (1H, s), 5.54 (1H, s), 5.6 (1H, broad s), 6.35 (1H, s), 6.43 (1H, s), 6.57 (2H, s), 6.95 (2H, s))。
【0058】
c. 7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート及び7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートの製造:
エピガロカテキンガレート3gに対して、パンセラーゼBR(ヤクルト薬品工業)5g、デキストリン 10g、0.1M 酢酸バッファー(pH5) 100mlを混合し、50℃,4時間撹拌した。反応後、その遠心上清をセファロースLH20(Amersham Biosciences)100mlカラムに吸着させた。蒸留水200ml、30%エタノール200ml、40%エタノール 200mlでステップワイズ溶出を行い、配糖体画分を回収・凍結乾燥品を調製した。さらに50mgを蒸留水 5mlに溶解して、カラム:DevelosilC30-UG-5(20×250mm)、A液:0.1%TFA/蒸留水,B液:90%メタノール/0.1%TFA、溶出条件:30%B、流速:3ml/min、検出波長:280nmで分画精製を行った。主成分として、7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート及び7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートを得た。
【0059】
7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート:m/z 621.1, NMRδppm (D2O);2.98 (1H, d), 3.08 (1H, d), 3.53 (1H, t), 3.68 (1H, s), 3.7-3.9 (3H, m), 3.92 (1H, t), 5.14 (1H, s), 5.62 (2H, broad s), 6.40 (1H, s), 6.48 (1H, s), 6.61 (2H, s), 6.99 (2H, s)。
【0060】
7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート:m/z 783.1、NMRδppm (D2O);2.93 (1H, dd), 3.00 (1H, dd), 3.43 (1H, t), 3.60 (1H, dd), 3.7-3.9 (9H, m), 4.18 (1H, t), 4.96 (1H, s), 5.21 (1H, d), 5.51 (1H, bs), 5.59 (1H, d), 6.35 (1H, d), 6.43 (1H, d), 6.57 (2H, s), 6.96 (2H, s)。
【0061】
〔実施例4:フラボノイド配糖体の製造(2)〕
1. PCRによるα−アミラーゼホモログの部分配列のクローニング:
デキストリン及びγ‐サイクロデキストリンは、グルコースがα-1,4結合で結合したポリマーであり、目的とする酵素はこれを分解する活性を有していることから、α−アミラーゼファミリー様の酵素である可能性が示唆された。
【0062】
そこで、トリコデルマと同じ子嚢菌類の糸状菌でゲノム配列が明らかになっている微生物のうち、Aspergillus nidulans、Neurosporacrassa、Magnaporthe grisea、Fusarium graminearum のゲノム情報データベースから、プロテインファミリーデータベース(PFAM)のalpha-amylase, catalytic domain(accession No. PF00128)のモチーフを持つ推定ORFのアミノ酸配列をそれぞれ9個、6個、8個、6個抽出した。これらを配列相同性検索プログラムであるClustalWによりアライメントを作成し、系統樹作成プログラムであるTree viewにより系統樹を作成し、相同性をもとにグループ分けを行った。図2のグループ1の4つのアミノ酸配列(括弧内はGenebank アクセッションNo.)MG02772.4(EAA47529)、MG10209.4(EAA48146)、AN3388.2(EAA63356)、FG03842.1(EAA71544)をアライメントし、保存性の高い部分(図3 下線部)のアミノ酸配列に対応するオリゴDNAを合成した。
【0063】
AMY-12f:
5'-TAYTGYGGNGGNACNTTYAARGGNYT-3'(配列番号:1)
AMY-15r:
5'-TTYTCNACRTGYTTNACNGTRTCDAT-3'(配列番号:2)
AMY-17r:
5'-GGTNAYRTCYTCNCKRTTNGCNGGRTC-3'(配列番号:3)
先に培養したT. viride IAM5141菌体約1gの湿菌体よりDNeasy plant Maxi Kit(QIAGEN)により、ゲノムDNAを抽出した。このゲノムDNA50ngを鋳型として、プライマーAMY-12fとプライマーAMY-15r、又はプライマーAMY-12fとプライマーAMY-17rを用いてPCR反応を行った。すなわち、ExTaq(タカラバイオ社製)を用いて、94℃ 2分、(94℃ 1分、50℃1分、72℃ 1分)を30サイクル、72℃ 10分の反応を行った。PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分析したところ、プライマーAMY-12fとプライマーAMY-15rの組み合わせで約0.6kbp、プライマーAMY-12fとプライマーAMY-17rの組み合わせで約1.0kbpの断片が確認できた。そこで、これらのDNA断片をアガロースゲルから切り出し、GFX PCR DNA and Gel Band Purifiction Kit(アマシャムバイオサイエンス)によりDNAを精製した。これをTOPO-TA cloning kit(インビトロジェン)にてクローニングし、塩基配列の解析をABI3100Avant(アプライドバイオシステムズ社製)にて行った。前者で得られた塩基配列は後者で得られた塩基配列に含まれていた。この塩基配列をGenBankに登録されているアミノ酸配列に対してBlastxにより相同性検索を行ったところ、MG10209.4(EAA48146)と最も高い相同性を示した。
【0064】
2. アミラーゼホモログのゲノム配列の決定:
得られた約1.0kbpの塩基配列をもとに、以下のプライマーを設計し、Inverse PCR(逆PCR)を行った。
【0065】
TRa2-2:
5'-CCAACCTGGTATCTACATAC-3'(配列番号:4)
TRa2-3:
5'-AGATGGCATCAAATCCCAT-3'(配列番号:5)
まず、T. viride IAM5141より調製したゲノムDNAをHindIIIあるいはPstIで完全消化し、ligation high(東洋紡)により、16℃で一晩反応させ、セルフライゲーションにより閉環させた。これらのDNA 0.1μgを鋳型として、上記プライマーTRa2-2及びTRa2-3を用いてPCR反応を行った。PCRは、LA Taq(タカラバイオ)を使用して、94℃ 2分、(95℃ 30秒、66℃ 15分)を30サイクル、72℃ 10分の反応を行った。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で分析したところ、HindIIIで消化したゲノムDNAを鋳型としたものでは約2kb、PstIで消化したゲノムを鋳型としたものでは約4.5kbのDNA断片が確認できた。これらをそれぞれアガロースゲルから切り出し、前述と同様にクローニングした。挿入された断片の両端からそれぞれ塩基配列を決定した。HindIIIで消化したゲノム由来のものとPstIで消化したゲノム由来のものは、当該制限酵素サイトまでの塩基配列が一致していた。こうして得られた塩基配列を、先に得られた部分配列と連結した。この塩基配列を図4(TRa2-gDNA)及び配列番号:6に示す。図2グループ1の4つの配列との比較及び、開始コドンや終始コドンの出現などからα−アミラーゼホモログのコード領域を推定した。開始コドンは塩基番号423-425のATG、終始コドンは1926-1928のTAAであると考えられた。
【0066】
3. α−アミラーゼホモログのcDNAのクローニング:
先に培養したT. viride IAM5141株の菌体約0.1gより、RNeasy plant mini kitにより全RNAを抽出した。1μgの全RNAをスーパースクリプトファーストストランドシステム for RT-PCR(インビトロジェン)でランダムヘキサマーを用いて、cDNAを合成した。
【0067】
先に得られたゲノム配列をもとに、以下のプライマーを設計した。
TRa2EcoRI-f2:
5'-GGAATTCATGAAGCTTCGATCCGCCGTCCC-3'(配列番号:7)
TRa2XhoI-r2:
5'-CCGCTCGAGTTATGAAGACAGCAGCACAAT-3'(配列番号:8)
合成されたcDNAを鋳型として、上記プライマーTRa2EcoRI-f2及びTRa2XhoI-r2を用いて、PCR反応を行った。PCRは、Ex Taq(タカラバイオ)を使用し、94℃ 2分、(94℃ 1分、55℃ 1分、72℃ 2分)を30サイクル、72℃ 10分の反応を行った。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で分析したところ、約1.5kbのDNA断片が確認できた。これをアガロースゲルより切り出し、GFXにて精製した。得られたDNA断片をTOPO-TA cloning kit(インビトロジェン)にてクローニングして、プラスミドpCRTRa2-cDNAを構築し、cDNAの塩基配列を決定した(図4、図5及び配列番号:9)。先に得られたゲノムDNA配列とcDNA配列を比較したところ、ゲノム配列には2つのイントロンが含まれていた(図4)。cDNA配列には、1392bpのORFがあり、463アミノ酸残基からなるタンパク質をコードしていた(図5及び配列番号:10)。この遺伝子をTRa2と命名した。本遺伝子によりコードされる推定アミノ酸配列をSignalP(Nielsen H. et.al., Protein Eng., 10, 1-6, 1997 )で解析した結果、N末端から20アミノ酸残基は分泌シグナル配列であると考えられた。さらに、TRa2によりコードされる推定アミノ酸配列を前述の方法に従って相同性検索を行ったところ、AN3388.2(EAA63356)ともっとも高い相同性を示した。TRa2タンパク質の推定アミノ酸配列を、既知のα-アミラーゼであるタカアミラーゼのアミノ酸配列と比較した。その結果、α-アミラーゼファミリー酵素の4つの保存領域が本酵素においても保存されており(図6、2重下線)、活性中心とされるアスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、アスパラギン酸残基がすべて保存されていた(図6、*印アミノ酸残基)。
【0068】
4. TRa2タンパク質の酵母での分泌発現系の構築:
プラスミドpCRTRa2-cDNAを制限酵素EcoRI及びXhoIで消化して得られた約1.5kbの断片を、プラスミドpYE22m(Biosci. Biotech. Biochem., 59(7), 1221-1228, 1995)を制限酵素EcoRI及びSalIで消化した断片とligation high(東洋紡)を用いて連結し、プラスミドpYETRa2を得た。
【0069】
プラスミドpYETRa2により、酵母S. cerevisiae EH1315株を酢酸リチウム法により、形質転換した。得られた形質転換株をTRa2-1株とした。TRa2-1株をYPD(Difco)液体培地 10mlに一白金耳植菌し、30℃で2日間振とう培養した。TRa2タンパク質はN末に20アミノ酸残基からなる分泌シグナル配列が存在するので、培養液中に分泌されると考えられた。そこで遠心分離により、菌体を沈殿させ培養上清を回収した。
【0070】
5. TRa2の糖分解活性の測定:
培養上清500μlをMicrocon YM-30(アミコン)を用いて、約5倍に濃縮した。上記濃縮液10μlを、0.5%のマルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、デキストリン、α-サイクロデキストリン、β-サイクロデキストリン、又は γ-サイクロデキストリンを含む20mM 酢酸バッファー(pH5.0)100μlに添加し、50℃で1時間反応させた。
【0071】
反応終了後、以下のとおりTLCにて分析した。プレートは、シリカゲルG-60プレート(メルク)を使用し、展開液として、2−プロパノール:アセトン:0.5M乳酸=2:2:1を使用した。検出は、硫酸:エタノール=1:9を噴霧して風乾したのち、ホットプレートで熱することにより行った。その結果、ベクターpYE22mにて形質転換したコントロール株(C-1株)の培養液では、いずれの糖の分解も確認できなかった。一方、TRa2-1株の培養液ではマルトトリオース、マルトテトラオース、デキストリン及びγ-サイクロデキストリンが分解されて主にマルトース及びグルコースが生成することが確認できたが、マルトース、α-サイクロデキストリン及びβ-サイクロデキストリンの分解は確認できなかった。
【0072】
6. TRa2の糖転移活性の測定:
培養上清の原液、又はVIVASPIN 10,000MWCO/PES製(VIVASCIENCE社)にて約5倍に濃縮した培養上清濃縮液100μlに(+)-カテキン又は(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート 3mgと、デキストリン10mgを加えて、50℃にて1日間攪拌しながら反応させた。反応終了後、反応液を0.1%トリフルオロ酢酸溶液にて10倍希釈し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて、実施例1と同様の条件で分析した。その結果、ベクターpYE22mにて形質転換したコントロール株(C-1株)の培養上清と反応させた反応液には、反応生成物が確認できなかったのに対し、TRa2-1株では、カテキン配糖体及びエピガロカテキン-3-O-ガレート配糖体の生成が確認できた(図7)。
【0073】
7. TRa2によるカテキン配糖体の製造:
TRa2-1株をYPD液体培地200mlに植菌し30℃で3日間振とう培養した。遠心分離により菌体を集め、培養上清を得た。この培養上清100mlを限外ろ過ディスク:NMWL30000/再生セルロースで0.1M 酢酸バッファー(pH5) 100mlを加えながら50mlになるまで濃縮し、TRa2酵素液とした。上記TRa2酵素液50mlに(+)-カテキン1.5gとデキストリン 5gを混合し、45℃,18hr撹拌した。反応液を遠心分離し、上清をLH20(Amersham Biosciences)樹脂60ml/Ф2.5×20cmカラムに吸着させた。蒸留水120ml、10%エタノール240mlで溶出し、配糖体画分を回収・凍結乾燥し、凍乾末530mgを得た。その50mgをとって蒸留水 5mlに溶かし、DevelosilC30-UG-5カラム20×250mm、A:0.1%TFA/蒸留水,B:90%メタノール/0.1%TFA,30%B、3ml/min、280nmで分取した。HPLCの保持時間の早い順にピーク1〜6を回収・凍結乾燥した。MS及びNMR解析から、ピーク1は5-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン、ピーク2は5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン、ピーク3は4'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン、ピーク4は4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン、ピーク5は3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン、ピーク6は3'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンであることが示唆された。
【0074】
5-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン:m/z 615.2、NMRδppm (D2O);2.71 (1H, dd), 2.85 (1H, dd), 3.42 (1H, t), 3.56-3.85 (9H, m), 4.19 (1H, t), 4.26 (1H, dd), 4.87 (1H, d), 5.70 (1H, d), 6.19 (1H, d), 6.39 (1H, d), 6.83 (1H, dd), 6.90-6.93 (2H, m) 。
【0075】
5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン:m/z 450.8、NMRδppm (D2O);2.62 (1H, dd), 2.81 (1H, dd), 3.43 (1H, t), 3.45-3.55 (1H, m), 3.6-3.7 (3H, m), 3.83 (1H, t), 4.18 (1H, dd), 4.76 (1H, d), 5.61 (1H, d), 6.09 (1H, d), 6.31 (1H, d), 6.77 (1H, d), 6.8-6.9 (2H, m) 。
【0076】
4'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン:m/z 615.2、NMRδppm (D2O);2.54 (1H, dd), 2.81 (1H, dd), 3.43 (1H, t), 3.60 (1H, dd), 3.68-3.94 (9H, m), 4.19-4.28 (2H, m), 4.82 (1H, d), 5.44 (1H, d), 5.62 (1H, d), 6.04 (1H, d), 6.11 (1H, d), 6.91 (1H, dd), 7.00 (1H, d), 7.22 (1H, d)。
【0077】
4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン:m/z 453.2、NMRδppm (D2O);2.45 (1H, dd), 2.73 (1H, dd), 3.45 (1H, t), 3.65-3.75 (4H, m), 4.11 (1H, dd), 4.7-4.75 (2H, m), 5.53 (1H, d), 5.95 (1H, d), 6.02 (1H, d), 6.83 (1H, dd), 6.91 (1H, d), 7.15 (1H, d) 。
【0078】
3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン:m/z 615.2、NMRδppm (D2O);2.54 (1H, dd), 2.80 (1H, dd), 3.44 (1H, t), 3.59 ( 1H, dd), 3.67-3.90 (9H, m), 4.17-4.24 (2H, m), 4.83 (1H, d), 5.41 (1H, d), 5.55 (1H, d), 6.03 (1H, d), 6.10 (1H, d), 7.10 (1H, d), 7.06 (1H, d), 7.26 (1H, d)。
【0079】
3'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン:m/z 453.2、NMRδppm (D2O);2.43 (1H, dd), 2.73 (1H, dd), 3.27 (1H, s), 3.44 (1H, t), 3.6-3.7 (4H, m), 3.88 (1H, t), 4.10 (1H, dd), 4.69 (1H, d), 5.46 (1H, d), 5.93 (1H, s), 6.01 (1H, s), 6.89 (1H, d), 6.94 (1H, dd), 7.18 (1H, d) 。
【0080】
8. TRa2によるエピガロカテキン-3-O-ガレート配糖体の製造:
TRa2-1株をYPD液体培地100mlに植菌し30℃で3日間振とう培養した。遠心分離により菌体を集め、培養上清を得た。この培養上清45mlを限外ろ過ディスク:NMWL30000/再生セルロースで0.1M 酢酸バッファー(pH5) 50mlを加えながら20mlになるまで濃縮し、TRa2酵素液とした。TRa酵素液 20mlに(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート600mgとデキストリン 2gを混合し、50℃、1日撹拌した。反応液を遠心し、上清をLH20樹脂25ml/Ф1.5×30cmカラムに吸着させた。蒸留水100ml、10%エタノール100ml、20%エタノール100ml、30%エタノール200mlで溶出し、30%エタノール画分を回収・凍結乾燥した。凍乾末120mgを蒸留水12mlに溶かし、DevelosilC30-UG-5カラム20×250mm、A:0.1%TFA/蒸留水,B:90%メタノール/0.1%TFA,40%B、3ml/min、280nmで分取した。MS及びNMR解析から、ピーク2は7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート、ピーク5は3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート、ピーク6は3'-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートであることが示唆された。一方、ピーク3はMS(m/z 621.2、1107.3)から、グルコシドとマルトテトラオシドの混合物であることが示唆され、保持時間からグルコシドは7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートであると考えられた。
【0081】
7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート:m/z 783.2、NMRδppm (CD3OD); 2.88 (1H, dd), 2.01 (1H, dd), 3.26 (1H, t), 3.46 (1H, dd), 3.6-3.9 (9H, m), 4.08 (1H, t), 5.00 (1H, s), 5.20 (1H, d), 5.43 (1H, d), 5.54 (1H, s), 6.27 (1H, d), 6.34 (1H, d), 6.51 (2H, d), 6.94 (2H, d)。
【0082】
3'-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート:m/z 621.1, δppm (CD3OD);2.88 (1H, dd), 2.99 (1H, dd), 3.42 (1H, dd), 3.51 (1H, t), 3.69 (1H, m), 3.8-3.9 (3H, m), 4.88 (1H, d), 4.98 (1H, s), 5.49 (1H, broad s), 5.95 (1H, d), 5.96 (1H, d), 6.65 (1H, d), 7.01 (2H, s), 7.11 (1H, d) 。
【0083】
3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート:m/z 783.2, δppm (CD3OD);2.87 (1H, broad d), 2.99 (1H, dd), 3.27 (1H, t), 3.44-3.48 (2H, m), 3.6-3.8 (4H, m), 3.85 (2H, d), 3.98 (1H, dd), 4.06 (H, t), 4.85 (1H, d), 4.99 (1H, s), 5.28 (1H, d), 5.49 (1H, broad s), 5.94 (1H, d), 5.96 (1H, d), 6.64 (1H, d), 7.01 (2H, s), 7.09 (1H, d) 。
【0084】
9.His-tagを付加したTRa2タンパク質(TRa2-His)の発現:
TRa2-His発現用プラスミドの構築と形質転換酵母の取得
TRa2タンパク質のC末端にHis-tagを付加して酵母で発現させるために、以下のプライマーを設計した。
TRa2HisXhoI-r2: Gctcgagttagtggtggtggtggtggtgtgaagacagcagcaa(配列番号:27)
プラスミドpCRTRa2-cDNAを鋳型として、プライマーTraEcoRI-f2とプライマーTRa2HisXhoI-r2を用いて、PCR反応を行った。PCRは、Ex Taq(タカラバイオ)を使用し、94℃ 2分、(94℃ 1分、58℃ 1分、72℃ 2分)を25サイクル、72℃ 10分の反応を行った。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で分析したところ、約1.5kbのDNA断片が確認できた。これをアガロースゲルより切り出し、GFXにて精製した。得られたDNA断片をTOPO-TA cloning kit(インビトロジェン)にてクローニングして、塩基配列を確認しプラスミドpCRTRa2-cDNA-Hisとした。pCRTRa2-cDNA-HisをEcoRIとXhoIで消化して約1.5kbのDNA断片を、プラスミドpYE22mを制限酵素EcoRI及びSalIで消化した断片とligation high(東洋紡)を用いて連結し、プラスミドpYE-TRa2-Hisを得た。
プラスミドpYE-TRa2-Hisにて酵母S. cerevisiae EH1315株を形質転換した。得られた形質転換株をTRa2-3株とした。
【0085】
培養
TRa2-3株をSD(-Trp) 20 mlにて30℃、16 hr培養した。前培養液をSD(-Trp) + 100 mM KH2PO4-KOH (pH 6.0) 1 Lに植菌し、30℃、3 days培養した。遠心分離により培養液上清を回収した。
【0086】
精製
培養液上清をBuffer S1[20 mM NaH2PO4-NaOH (pH 7.4)、10 mM イミダゾール、0.5 M NaCl、15 mM 2-メルカプトエタノール]にて平衡化したN2+キレート済みのChelating Sepharose Fast Flow (5 ml、Pharmacia Biotech)カラムにアプライし、同バッファー(40 ml)で洗浄した。続いてBuffer E1[20 mM NaH2PO4-NaOH (pH 7.4)、200 mM イミダゾール、0.5 M NaCl、15 mM 2-メルカプトエタノール]によりカラムに結合したタンパク質を溶出した。活性画分を集め、VIVASPIN(30,000 MWCO、VIVASCIENCE)を用いて脱塩、濃縮した。
【0087】
続いて、酵素溶液をBuffer S2[20 mM KH2PO4-KOH (pH 7.4)、15 mM 2-メルカプトエタノール、0.1% CHAPS]にて平衡化したResource Q (1 ml、Pharmacia Biotech)カラムにアプライ(1.5 ml/min)し、同バッファー(10 ml)で洗浄した。続いてBuffer E2[20 mM KH2PO4-KOH (pH 7.4)、0.6 M NaCl、15 mM 2-メルカプトエタノール、0.1% CHAPS]の0-100%直線濃度勾配(60 ml)によりカラムに結合したタンパク質を溶出した。活性画分を集め、VIVASPIN(30,000 MWCO、VIVASCIENCE)を用いて脱塩、濃縮した。
【0088】
再度、同手順でResource Qカラムクロマトグラフィーを行い、活性を示しかつSDS-PAGE上で単一バンドの画分を集め、VIVASPIN(30,000 MWCO、VIVASCIENCE)を用いて脱塩、濃縮した。
【0089】
酵素活性測定:
糖転移活性
反応液(10 mM エピガロカテキン-3-O-ガレート、10 mg デキストリン、100 mM Acetate-NaOH(pH 5.3)、酵素溶液)100 μlを45℃、24 hr攪拌し、0.5% TFA 100 μlを添加することで反応を停止した。反応停止後のサンプルを遠心分離し、上清を回収した。生成物を以下のような条件でHPLCにて分析し、エピガロカテキン-3-O-ガレート配糖体の生成を確認した。HPLC条件:溶離液A、0.1% TFA;溶離液B、90% アセトニトリル、0.08% TFA;分析カラム、Devolosil C30-UG-5 (4.6 x 150 mm、NOMURA CHEMICAL);流速、1 ml/min;分離モード、0 min-5%B、20 min-50%B、20.5 min-5%B、25 min-5%B
〔実施例5:糖選択性及び糖鎖長特異性〕
糖供与体選択性1:
(+)-カテキン6mgに対して、セルラーゼ「オノズカ」RS 20mg、各種糖供与体 20mg、0.1M 酢酸バッファー(pH5) 200μlを混合し、50℃,1日撹拌した。反応後、その遠心上清を10倍希釈しHPLC分析を行った。糖供与体はセロビオース(Sigma)、デキストラン(Sigma)、マルトース(ナカライテスク)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(ナカライテスク)、可溶性澱粉(ナカライテスク)、デキストリン(ナカライテスク)、イソマルトオリゴ糖(和光純薬)、α-シクロデキストリン(和光純薬)、γ-シクロデキストリン(和光純薬)、トレハロース二水和物(ナカライテスク)を使用した。
【0090】
【表2】
【0091】
可溶性澱粉、デキストリン、γ-シクロデキストリンに作用してカテキン配糖体を生成したが、他の糖類には作用しなかった。
糖供与体選択性2:
(+)-カテキン3mgに対して、セルラーゼ「オノズカ」RS 10mg、各種糖供与体10 mg、0.1 M 酢酸バッファー(pH5) 100μlを混合し、50℃で1日撹拌した。糖供与体はマルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース及びデキストリン(ナカライテスク)、γ-シクロデキストリン(和光純薬)を使用した。反応後、その遠心上清を10倍希釈しHPLC分析を行った。
【0092】
結果を下表に示した。
【0093】
【表3】
【0094】
〔実施例6:基質特異性〕
TRa2-1株をYPD培地10 mlにて、30℃で一晩振とう培養した。静止期に達した培養液を同培地に接種し(2%(v/v))、30℃で3日間振とう培養した。培養後、遠心分離にて上清を回収し、5倍に濃縮してTRa2の粗酵素溶液を得た。酵素反応溶液(0.5 mM 及び 10 mM 糖受容体基質((+)-カテキン、(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート、エスクレチン、ナリンゲニン、ケルセチン、ダイゼイン、ゲニステイン、ケンフェロール)、10 mg デキストリン、100 mM 酢酸バッファー (pH 5.2)、粗酵素溶液)100μlにて45℃、24 hr反応させ、HPLCにて分析した。結果を図8に示した。
【0095】
受容体基質と配糖体生成物の面積比(%)は、(+)-カテキン:10%、(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート:17.7%、エスクレチン:3.5%、ナリンゲニン:4.4%、ケルセチン:9.4%、ダイゼイン:10.7%、ゲニステイン:6.8%、ケンフェロール:3.1%であった。
【0096】
〔実施例7:最適pH、温度の検討〕
(+)-カテキン6mgに対して、パンセラーゼBR(ヤクルト薬品工業) 20mg、デキストリン(ナカライテスク)20mg、各種緩衝液 200ulを混合し、50℃、6時間撹拌した。緩衝液は0.1M 酢酸バッファー(pH4〜5.5)、0.1M リン酸バッファー(pH6〜7)、0.1M トリス塩酸バッファー(pH7.6〜9)を用いた。反応後、その遠心上清を10倍希釈しHPLC分析を行った。結果を図9(左)に示した。
【0097】
(+)-カテキン6mgとデキストリン(ナカライテスク)20mgを0.1M 酢酸バッファー(pH5) 200ulに50℃で溶かし、放冷後パンセラーゼBR(ヤクルト薬品工業)20mgを混合し、20〜60℃、6時間撹拌した。反応後、その遠心上清を10倍希釈しHPLC分析を行った。結果を図9(右)に示した。
【0098】
〔実施例8:配糖体の熱安定性〕
100μMの(+)-カテキン又は実施例4で得た4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンを含む10mM リン酸カリウムバッファー(pH7.0) 30μlを4〜100℃の各温度で0〜4時間処理した後、氷中に移し、続いて0.1% TFA 60μlを加えて実施例1と同様にHPLCで分析した。各温度で処理したときの(+)-カテキン又は4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンの残存量を図10に示した。カテキンに比べ4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンは熱に対して安定であった。
【0099】
〔実施例9:配糖体の溶解性〕
(+)-カテキン又は実施例3で得た5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンを10〜450mg/mlの各濃度になるよう水に添加し、激しく攪拌することにより溶解させた。その後、遠心分離により沈殿物を除去し上清をHPLCにより分析し、(+)-カテキン及び5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンの量を定量した。また、(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート又は5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートを同様に溶解性の検討を行った。その結果を図11に示した。
【0100】
(+)-カテキンはほとんど水に溶けないのに対し、5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンは少なくとも40倍以上の溶解性を示した。(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートも同様に配糖体化することで、著しく溶解性が向上することを確認した。
【0101】
〔実施例10:固定化酵素の調製〕
固定化樹脂としてエキスプレスイオンD(Whatman)、ダイアイオンFPHA13(三菱化学)、DEAE-トヨパール650M(東ソー)、DEAE-セファロースCL4B(Amersham Biosciences)、アンバーライトIRA904(オルガノ)について検討を行った。まず各樹脂5mlを蒸留水8mlに溶解したセルラーゼRS 240 mgに添加して30分間撹拌した後、蒸留水で2回洗浄して凍結乾燥を行い固定化酵素とした。各固定化酵素5 mlをカラム(12 x 150 mm)につめて、カテキン450 mgに対してデキストリン1500 mg、0.1 M 酢酸バッファー(pH 5)15 mlを循環させ、50℃、4日間反応を行った。反応後、反応液を10倍希釈しHPLC分析を行った。その結果を表4に示した。
【0102】
【表4】
【0103】
〔実施例11:メチル化カテキンの配糖化〕
(-)-エピガロカテキン-3-(3"-O-メチル)ガレート 2.7mgに対して、パンセラーゼBR 9mg、デキストリン 9mg、0.1M酢酸バッファー(pH5)90μlを混合し、50℃、18時間撹拌した。反応後、その遠心上清を10倍希釈しHPLC分析を行った。その結果を図12に示した。
【0104】
〔実施例12:酵素剤併用による配糖化〕
(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートを多く含む緑茶抽出物(商品名テアビゴ、DSM ニュートリション ジャパン)30gに対して、パンセラーゼBR 100g、クラスターデキストリン(江崎グリコ)100g、α-サイクロデキストリン 100g、サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(天野エンザイム)100mlを0.1M酢酸バッファー(pH5)1000mlに混合し、50℃、3.5時間撹拌した。反応後、その遠心上清をセファロースLH20(Amersham Biosciences)1000mlカラムに吸着させた。蒸留水6000mlで洗浄後、30%エタノール6000mlでステップワイズ溶出を行い、濃縮・凍結乾燥して配糖体画分13.9gを調製した。
【0105】
〔実施例13:配糖体の味に関する評価〕
実施例12で調製した配糖体(BR−1)、単一に精製した各配糖体;5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート(5G-1)、5-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート(5GG-1)、7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート(7G-1)及び原料である緑茶抽出物(TVG-1)を各200ppmとなるように蒸留水に溶解し、人間の舌を模した「人工脂質膜」電極の電位差を味の強弱として表す味センサー(味香り戦略研究所)により味質の評価を行った。その結果を図13に示す。コントロールである緑茶抽出物(TVG-1)に比べて、各配糖体ともに渋味が著しく低い値を示し、配糖体とすることで味質が改善された。またパネラーによる官能評価でも苦味・渋味が少なくなり飲みやすいといった評価結果であった。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】図1は、Trichoderma viride IAM 5141 粗酵素液でカテキンを処理した際の、HPLC分析チャートである。
【図2】図2は、Aspergillus nidulans、Neurosporacrassa、Magnaporthe grisea、Fusarium graminearum のゲノム情報データベースから抽出した、alpha-amylase, catalytic domain(accession No. PF00128)のモチーフを持つ推定ORFのアミノ酸配列について、系統樹作成プログラムであるTree viewにより作成した系統樹を示した図である。
【図3】図3は、図2のグループ1の4つのアミノ酸配列をアライメントし、保存性の高い部分(下線部)を示した図である。
【図4】図4は、TRa2のゲノムDNA配列(配列番号:6)とcDNA配列(配列番号:9)を比較した図である。
【図5】図5は、TRa2のcDNA塩基配列、及びそれに対応する推定アミノ酸配列を示した図である。2重下線部は推定分泌シグナル配列。
【図6】図6は、TRa2の推定アミノ酸配列とタカアミラーゼ前駆体アミノ酸配列(GBNo.BAA00336)の一次構造を比較した図である。下線部:TRa2の推定分泌シグナル、破線下線部:タカアミラーゼの分泌シグナル、2重下線部:α‐アミラーゼファミリー酵素で高度に保存されている4つの領域、*印アミノ酸残基:触媒部位に位置するアミノ酸残基。
【図7】図7は、形質転換体(TRa2-1株)の培養上清の原液、又はその濃縮液に、(+)-カテキン又は(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートと、デキストリンを加えて反応させた際の、反応液のHPLC分析チャートである。
【図8】図8は、形質転換体(TRa2-1株)の培養上清から調製したTRa2の粗酵素溶液に、各糖受容体基質((+)-カテキン、(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート、エスクレチン、ナリンゲニン、ケルセチン、ダイゼイン、ゲニステイン、ケンフェロール)、デキストリンを加えて反応させた際の、配糖化活性を示したグラフである。
【図9】図9は、酵素剤の配糖化反応における至適pH、及び至適温度を示したグラフである。
【図10】図10は、(+)-カテキン又は4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキンを含む溶液を4〜100℃の各温度で0〜4時間処理した後の、それぞれの残存量を示したグラフである。
【図11】図11は、(+)-カテキン及びその配糖体、並びに(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート及びその配糖体の、水への溶解性を示したグラフである。
【図12】図12は、(-)-エピガロカテキン-3-(3"-O-メチル)ガレート、デキストリン及び酵素剤を混合して反応した際の、反応液のHPLC分析チャートである。
【図13】図13は、(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートを多く含む緑茶抽出物(TVG-1)、その配糖体画分(BR−1)、及びBR−1に含まれる各配糖体の単一精製物(5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート(5G-1)、5-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート(5GG-1)、7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート(7G-1))についての、味センサーによる味質レーダーチャートである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラボノイド類と糖供与体とに、Trichoderma属由来(好ましくは、Trichoderma viride由来又はTrichoderma reesei由来)の配糖化活性を有する酵素剤を作用させる工程を含む、フラボノイド類の配糖体の製造方法。
【請求項2】
フラボノイド類が、カテキン類又はそのメチル化体であり;そして
糖供与体が、マルトトリオース残基を含む糖質(好ましくは、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース及びデキストリン、γ-シクロデキストリン又は可溶性澱粉)である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
フラボノイド類の配糖体が、下式で表されるものである、請求項2に記載の製造方法:
【化1】
式中:
R1〜R5は、少なくとも一つが糖残基であり、他はOH若しくはOCH3であるか、又は
R1〜R4は、少なくとも一つが糖残基であり、他はOH若しくはOCH3であり、R5はHであり;そして
Xは、H、CH3、ガロイル基又はメチル化されたガロイル基である。
【請求項4】
フラボノイド配糖体が、式(I)中、R1〜R4は、少なくとも一つがα結合したグルコース残基又はマルトース残基又はマルトオリゴ糖残基であり、他方はOHであり;
R5は、OH又はHであり;そして
Xは、H又はガロイル基である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
フラボノイド類の配糖体が、下記からなる群より選択されるものである、請求項4に記載の製造方法:
5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
7-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
4'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン;
4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン;
3'-O-α-D-グルコピラノシル- (+)-カテキン;
3'-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;及び
3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート。
【請求項6】
酵素が、固定化されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
下式で表される化合物:
【化2】
(式中、
R1〜R4は、少なくとも一つがα結合したグルコース残基又はマルトース残基又はマルトオリゴ糖残基であり、他方はOHであり;
R5は、OH又はHであり;そして
Xは、H又はガロイル基である)。
【請求項8】
下記からなる群より選択されるものである、請求項7に記載の化合物:
5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
7-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
4'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン;
4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン;
3'-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;及び
3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の化合物を含む、食品用、医薬用又は化粧用組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の組成物を含む、飲料。
【請求項11】
フラボノイド類と糖供与体とに、Trichoderma属由来(好ましくは、Trichoderma viride由来又はTrichoderma reesei由来)の配糖化活性を有する酵素剤を作用させる工程を含む、フラボノイド類の改質方法。
【請求項12】
フラボノイド類が、カテキン類又はそのメチル化体であり;そして
糖供与体が、マルトトリオース残基を含む糖質(好ましくは、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、デキストリン、γ-シクロデキストリン又は可溶性澱粉)である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
Trichoderma属由来の配糖化活性を有する酵素を含む、フラボノイド類を配糖化するための酵素剤。
【請求項1】
フラボノイド類と糖供与体とに、Trichoderma属由来(好ましくは、Trichoderma viride由来又はTrichoderma reesei由来)の配糖化活性を有する酵素剤を作用させる工程を含む、フラボノイド類の配糖体の製造方法。
【請求項2】
フラボノイド類が、カテキン類又はそのメチル化体であり;そして
糖供与体が、マルトトリオース残基を含む糖質(好ましくは、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース及びデキストリン、γ-シクロデキストリン又は可溶性澱粉)である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
フラボノイド類の配糖体が、下式で表されるものである、請求項2に記載の製造方法:
【化1】
式中:
R1〜R5は、少なくとも一つが糖残基であり、他はOH若しくはOCH3であるか、又は
R1〜R4は、少なくとも一つが糖残基であり、他はOH若しくはOCH3であり、R5はHであり;そして
Xは、H、CH3、ガロイル基又はメチル化されたガロイル基である。
【請求項4】
フラボノイド配糖体が、式(I)中、R1〜R4は、少なくとも一つがα結合したグルコース残基又はマルトース残基又はマルトオリゴ糖残基であり、他方はOHであり;
R5は、OH又はHであり;そして
Xは、H又はガロイル基である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
フラボノイド類の配糖体が、下記からなる群より選択されるものである、請求項4に記載の製造方法:
5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
7-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
4'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン;
4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン;
3'-O-α-D-グルコピラノシル- (+)-カテキン;
3'-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;及び
3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート。
【請求項6】
酵素が、固定化されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
下式で表される化合物:
【化2】
(式中、
R1〜R4は、少なくとも一つがα結合したグルコース残基又はマルトース残基又はマルトオリゴ糖残基であり、他方はOHであり;
R5は、OH又はHであり;そして
Xは、H又はガロイル基である)。
【請求項8】
下記からなる群より選択されるものである、請求項7に記載の化合物:
5-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
7-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
5-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
7-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
7-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;
4'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン;
4'-O-α-D-グルコピラノシル-(+)-カテキン;
3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(+)-カテキン;
3'-O-α-D-グルコピラノシル-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート;及び
3'-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の化合物を含む、食品用、医薬用又は化粧用組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の組成物を含む、飲料。
【請求項11】
フラボノイド類と糖供与体とに、Trichoderma属由来(好ましくは、Trichoderma viride由来又はTrichoderma reesei由来)の配糖化活性を有する酵素剤を作用させる工程を含む、フラボノイド類の改質方法。
【請求項12】
フラボノイド類が、カテキン類又はそのメチル化体であり;そして
糖供与体が、マルトトリオース残基を含む糖質(好ましくは、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、デキストリン、γ-シクロデキストリン又は可溶性澱粉)である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
Trichoderma属由来の配糖化活性を有する酵素を含む、フラボノイド類を配糖化するための酵素剤。
【図1】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図7】
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【図13】
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【図6】
【図8】
【公開番号】特開2008−174507(P2008−174507A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10766(P2007−10766)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】
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