説明

フローティングキャリパ型ディスクブレーキ

【課題】 ホイールやロータ1の大きさを変える事なく、アルミニウム合金等、軽量な材料によりキャリパ2aを造った場合でも、このキャリパ2aの剛性を十分に確保すると共に、低振動及び低騒音を実現し、更に組み付け作業の容易化を図る。
【解決手段】 サポート3aに対しキャリパ2aを、ロータ1の軸方向の変位自在に支持する。サポート3aを構成する回入側、回出側各係合部8aに案内孔を、ロータ1の軸方向に貫通する状態で形成する。これら各案内孔に、それぞれの両端部を上記キャリパ2aのシリンダ部12と爪部13aとに支持固定した、案内ピン5a、5aの中間部を摺動自在に挿通する。これら各案内ピン5a、5aの先端部で、爪部13aに形成した爪部側通孔からアウタ側に突出させた部分に形成した係止部20を、この爪部13aに形成した係止溝26に係合させる事で、上記各案内ピン5a、5aの回転を阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係るフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、自動車の制動を行なう為に利用するもので、本発明はホイールやロータの大きさを変える事なく、軽量で低振動及び低騒音を図ると共に、組み付け作業の容易化を図るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の制動を行なう為のディスクブレーキとして従来から、サポートに対しキャリパを一対の案内ピンにより変位自在に支持したフローティングキャリパ型のものが、特許文献1〜3に記載される等により、従来から広く知られ、実際に広く使用されている。図29〜30は、この様なフローティングキャリパ型ディスクブレーキのうちの特許文献1に記載されたものを示している。このフローティングキャリパ型のディスクブレーキは、制動時には、車輪(図示せず)と共に回転するロータ1に対しキャリパ2を変位させる。車両への組み付け状態では、このロータ1の一側に隣接させる状態で設けたサポート3を、取付孔4、4を介して車体(図示せず)に固定する。又、このサポート3に上記キャリパ2を、上記ロータ1の軸方向の変位を可能に支持している。
【0003】
この為に、このロータ1の回転方向に関して上記キャリパ2の両端部に一対の案内ピン5、5を、同じく上記サポート3の両端部に一対の案内孔6、6を、それぞれ上記ロータ1の中心軸に対し平行に設けている。これら各案内孔6、6は、一端を塞がれた有底状である。そして、上記両案内ピン5、5を上記両案内孔6、6内に、軸方向の摺動自在に挿入している。
【0004】
又、上記サポート3の両端部で、上記ロータ1の周方向に離隔した位置に、それぞれ回入側、回出側両係合部8、9を設けている。これら各係合部8、9は、上記ロータ1の外周部を図29の上下方向に跨ぐ様に、先端がU字形に屈曲しており、これら両係合部8、9にパッド10a、10bを構成するプレッシャプレート11、11の両端部を、上記ロータ1の軸方向の摺動を可能に係合させている。又、上記パッド10a、10bを跨ぐブリッジ部7で連結された、シリンダ部12と爪部13とを有する上記キャリパ2を配置している。このシリンダ部12の内面に上記ロータ1に向け開口する状態で設けたシリンダ孔16に、インナ側(車両の幅方向内側で図29の下側)のパッド10aを上記ロータ1に対して押圧するピストン14を、液密に嵌装している。
【0005】
制動を行なう場合には、上記シリンダ孔16内に圧油を送り込み、上記ピストン14により上記インナ側のパッド10aのライニング15を、上記ロータ1の内側面に、図29の下から上に押し付ける。すると、この押し付け力の反作用として上記キャリパ2が、上記両案内ピン5、5と上記両案内孔6、6との摺動に基づいて、図29の下方に変位し、上記爪部13がアウタ側(車両の幅方向外側で図29の上側)のパッド10bのライニング15を、上記ロータ1の外側面に押し付ける。この結果、このロータ1が内外両側面側から強く挟持されて、制動が行なわれる。
【0006】
近年、ディスクブレーキの軽量化を図る手段の一つとして、軽量な材料であるアルミニウム合金によりキャリパ2を造る事が考えられ、一部で実際に行なわれている。但し、従来構造で、この様な軽量な材料によりキャリパ2を造る場合には、十分に剛性を確保する事を考慮すると、鉄系材料の鋳造等により造る従来構造のキャリパ2の場合と同じ寸法で造る事が難しい。即ち、この場合には、キャリパ2の厚さを大きくする等により剛性を確保する必要がある。又、軽量な材料により造ったキャリパ2の場合、制動時のロータ1とパッド10a、10bとの摩擦に伴う温度上昇に基づく剛性低下が、鉄系材料により造った従来構造のキャリパ2の場合よりも著しくなる。この様な事情から、従来構造で、上述の様な軽量な材料によりキャリパ2を造る場合には、車輪を構成するホイールの直径を大きくしたり、ロータ1の直径を小さくしてキャリパ2の剛性を確保する事により、剛性低下による問題が生じない様にしている。但し、上記ホイールの直径を大きくする場合には、コストが大きく嵩む原因となり、上記ロータ1の直径を小さくする場合には、このロータ1の熱容量が小さくなると言った問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開昭55−123029号公報
【特許文献2】特開平11−44331号公報
【特許文献3】実用新案登録第2596090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明のフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、この様な事情に鑑みて、ホイールやロータの大きさを変える事なく、軽量な材料によりキャリパを造った場合でも、このキャリパの剛性を十分に確保すると共に、低振動及び低騒音を実現し、更に組み付け作業の容易化を図るべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、前述の従来から知られているフローティングキャリパ型ディスクブレーキと同様に、サポートと、一対のパッドと、キャリパと、爪部及びピストンとを備える。
このうちのサポートは、車輪と共に回転するロータに隣接して車体に固定される。
又、上記一対のパッドは、上記ロータの両側にその軸方向に摺動可能にこのサポートに支持されている。
又、上記キャリパは、上記サポートに設けられた案内孔とこの案内孔に嵌り合う案内ピンにより、上記ロータの軸方向に変位可能に支持されている。
又、上記爪部及びピストンのうちの爪部は、上記キャリパの上記ロータを跨ぐブリッジ部の一方に設けられ、上記ピストンはこのブリッジ部の他方に嵌装されている。
又、上記案内ピンの基端部は、上記キャリパの一部でこのピストン側に設けられたシリンダ部の、上記ロータの回転方向端部に支持固定されている。
そして、上記ピストンの押し出しに伴い、上記一対のパッドを上記ロータの両側面に押し付けて制動を行なう。
特に、本発明のフローティングキャリパ型ディスクブレーキに於いては、上記案内孔をインナ、アウタ両側に開口する貫通孔とすると共に、この案内孔に上記案内ピンの中間部を摺動自在に挿通している。又、上記爪部のうちの上記ロータの回転方向端部で、上記ブリッジ部よりもこの回転方向片側に突出した部分に形成した一対の爪部側通孔に、上記案内ピンの先端寄り部分を挿通させ、この案内ピンの先端部と上記爪部との間に回り止め手段を設けている。
【発明の効果】
【0010】
上述の様に構成する本発明のフローティングキャリパ型ディスクブレーキの場合、案内ピンを爪部とシリンダ部とに、両持ち支持状態で支持固定できる為、これら爪部及びシリンダ部を含むキャリパの剛性が向上する。即ち、この案内ピンが、このキャリパの補強部材としての役目を果たし、シリンダ孔内に導入する圧油の油圧上昇によりこのキャリパが変形する傾向となった場合でも、このキャリパを変形しにくくできる。例えば、制動時には、この油圧上昇により、爪部とシリンダ部とが開く様に変形する傾向となるが、本発明によればこの変形を少なくする事ができる。この為、ホイールやロータの大きさを変える事なく、アルミニウム合金等、軽量な材料によりキャリパを造った場合でも、このキャリパの剛性を十分に確保でき、振動及び騒音を低く抑える事ができる。又、このキャリパの剛性を確保する為に、強度の高い材料により造った別の補強部材をこのキャリパに一体に鋳ぐるみする必要がなくなる。特に、キャリパをアルミニウム合金製とした場合には、キャリパは温度上昇により変形し易いので、本発明の構成を採用する事による、このキャリパの剛性向上の効果が顕著になる。更に、それによって、各パッドの偏摩耗を抑える事ができる。
【0011】
更に、上記案内ピンの先端部とこの爪部との間に設けた回り止め手段により、この案内ピンは回転できないので、この案内ピンの基端部を上記シリンダ部に、ナット等により結合固定する作業を容易に行なえる。又、案内ピンの回転を阻止する為の連れ回り防止用の工具を使用しながら、この作業を行なう必要がない。更に、案内ピンの先端部に、中間部に設けた杆部よりも径方向片側にのみ突出する係止部を設けて、この係止部により回り止め手段を構成した場合には、上記先端部に断面六角形のボルトの頭部を設ける場合に比べて、回り止め手段を構成する部分を小さくできる。この為、この回り止め手段を構成する部分が、上記爪部の本体部の外面から外側に突出するのを抑える事ができる。又、単にボルトの頭部を設けるだけでは、ナット等を基端部に締結する際の回り止めとしては不完全であり、連れ回り防止用の工具が必要になる場合がある。これに対して、上記係止部により回り止め手段を構成する場合には、この様な不都合を防止できる為、有効である。更に、この回り止め手段を構成する部分を、上記案内ピンの一部に据え込み鍛造を施す事により造る場合に、据え込み比を小さくでき、歩留りの向上を図れる。又、この案内ピンの回転を阻止できる為、案内ピンの中間部外周面と案内孔の内周面との間の隙間(ピンクリアランス)の設定の自由度の向上を図れる。
【0012】
又、本発明の場合には、上記案内孔を、インナ、アウタ両側に開口する貫通孔とすると共に、この案内孔に案内ピンの中間部を挿通している。この為、パッドを構成するライニングが摩耗した場合でも、この案内孔と案内ピンとの嵌合長さは変化しない。従って、このライニングの摩耗に拘らず、キャリパの姿勢を変化しにくくできる。又、案内ピンの中間部外周面と案内孔の外周面との間の、ロータの径方向に関する隙間を大きくした場合には、制動時の温度上昇等によりロータが回転中心に対し直角な仮想平面に対し傾斜する様に変形した場合に、上記案内ピンの中間部での自由度を保ち易くできる。この為、上記ロータの両側面に対し、爪部の内側面及びピストンの先端面を平行にし易くできる。この結果、このロータの両側面に対し一対のパッドのライニングが、内周縁から外周縁に亙ってほぼ均一に押し付けられ、このロータ自身の傾斜方向の変位に起因して、パッドやロータがこのロータの径方向に偏摩耗する事を防止できる。又、この場合に、上記案内ピンの中間部のうちで、案内孔の内側で円弧状に曲げ変形した部分の外周面を、案内孔の内周面に接触させる事ができる為、案内ピンの先端縁が案内孔の内周面に接触し易い従来構造の場合と異なり、当該接触部でのこじりを抑える事ができ、上記案内ピンを上記案内孔内で良好に摺動させ易くできる。
【0013】
又、上記案内孔を貫通孔としている為、この案内孔の内周面を精度良く仕上げる加工作業を行ない易くなる。又、この案内孔の加工時に発生する切粉を排出し易くなり、作業能率の向上を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した様に、上記回り止め手段を、案内ピンの先端部が、爪部側通孔の反ロータ側開口部に備えられた互いに平行な一対の側壁面のうちの、少なくとも何れかの側壁面に係合される事により構成したものとする。
【0015】
又、より好ましくは、請求項3に記載した様に、案内ピンを、爪部側通孔と、サポートに設けられた案内孔と、ブリッジ部の他方に設けられたシリンダ側通孔とを順に挿通させ、このシリンダ側通孔からこの他方の外側に突出した基端部に締結手段を結合したものとする。
この好ましい構成によれば、安価な構造で、案内ピンの基端部がシリンダ側通孔から抜け出る事を防止できると共に、案内ピンのがたつきを防止し、温度上昇時にもキャリパ剛性を十分に確保できる。
【0016】
又、より好ましくは、請求項4に記載した様に、案内ピンの中間部で案内孔に挿通した部分の外周面と、この案内孔の内周面との間の隙間の、この案内ピンの径方向の寸法を、ロータの両側面に平行な一方向に関するものと、このロータの両側面に平行でこの一方向に対し直交する方向に関するものとで互いに異ならせる。
このより好ましい構成によれば、案内ピンと案内孔との間隙の大小を、互いに直交する2方向に関して、設計者の随意に設定できる。
【0017】
又、より好ましくは、請求項5に記載した様に、案内ピンの中間部で案内孔内に挿通した部分の外周面と、この案内孔の内周面との間の隙間の寸法を、ロータの回転方向と、このロータの径方向とで互いに異ならせる。
【0018】
又、この場合に、請求項6に記載した構成の様に、案内ピンの中間部で案内孔内に挿通した部分の外周面と、この案内孔の内周面との間の隙間の寸法のうち、ロータの径方向に関する寸法を、このロータの回転方向に関する寸法よりも大きくする。
この様にすれば、制動に伴う温度上昇等によってロータが軸方向に倒れ勝手に変形した場合でも、爪部の内側面及びピストンの先端面を、このロータの両側面に追従し易くできる。しかも、上記案内ピンの中間部外周面と案内孔の内周面との間の、このロータの回転方向に関する隙間の寸法を小さくできる為、案内ピンが案内孔の内側でこの回転方向に動く事による、キャリパのがたつきを抑える事ができ、振動及び騒音の発生を低く抑える事ができる。
【0019】
又、より好ましくは、請求項7に記載した様に、ロータの両側に設けた一対のパッドのうち、アウタ側のパッドを構成するライニングの、このロータの回転方向に関する幅を、インナ側のパッドを構成するライニングの、この回転方向に関する幅よりも大きくする。
このより好ましい構成によれば、アウタ側のパッドの上記回転方向の幅を、インナ側のパッドのこの回転方向の幅よりも大きくする事により、上記アウタ側のプレッシャプレートの両端部と対向する爪部の剛性が高まり、制動時でのシリンダ孔の内部に導入する圧油の油圧上昇によってもこの爪部の両端部がインナ側に曲げ変形するのを小さく抑える事ができる。この結果、キャリパ剛性は更にアップし、しかも上記爪部の両端部にそれぞれの先端部を支持固定した、各案内ピンの曲げ変形を小さく抑える事ができる。
【0020】
更に、上記アウタ側のパッドを構成するライニングとロータとの接触面積が大きくなる為、当該接触部での接触圧を小さくでき、このライニングの偏摩耗を生じにくくできる。しかも、インナ側のパッドを構成するライニングは、ロータとの接触面圧の不均一を生じにくくする面から、ピストンの先端面に対向する部分よりもあまり大きくはできないのに対し、上記アウタ側のパッドはこの様な制約が少ない。この為、このアウタ側のパッドを構成するライニングの幅をインナ側のパッドを構成するライニングの幅よりも大きくすると言った構成を採用すれば、上記ロータと各パッドとの接触面圧を良好にしつつ、上記爪部の剛性向上を図れる。
【0021】
又、より好ましくは、請求項8に記載した様に、上述の請求項7に記載した構成に於いて、アウタ側のパッドを構成するライニングの厚さを、インナ側のパッドを構成するライニングの厚さよりも小さくする事により、アウタ側のパッドとインナ側のパッドとのライニングの体積を互いに同じにする。
このより好ましい構成によれば、アウタ側、インナ側両パッドの間で交換までの寿命(取り替え寿命)をほぼ同じにすると共に、制動力を十分に確保しつつアウタ側のパッドの厚さを小さくでき、ロータの軸方向に関するキャリパの寸法を小さくし易くできる。又、上記アウタ側のパッドを構成するライニングの厚さを小さくする事により、爪部とシリンダ部との内側面同士の間隔(フライス幅)を小さくする事ができ、キャリパの剛性をより高くする事ができる。
【実施例1】
【0022】
図1〜14は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施例1を示している。本実施例のフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、サポート3aと、一対のパッド10a、10bと、キャリパ2aと、爪部13aと、ピストン14とを備える。このうちのサポート3aは、車輪と共に回転するロータ1に隣接して車体に固定される。又、上記両パッド10a、10bは、上記サポート3aに支持された状態で、上記ロータ1の両側に配置されている。尚、このサポート3aを車体に支持する部分、このサポート3aに上記両パッド10a、10bを支持する部分、並びに、上記爪部13aと上記ピストン14とにより上記両パッド10a、10bを上記ロータ1の両側面に押圧する部分の構造及び作用に関しては、前述の図29〜30に示した構造を含め、従来から広く知られているディスクブレーキと同様であるから、詳しい図示並びに説明は省略する。又、上述の図28〜29に示した従来構造と同等部分には同一符号を付して重複する説明は、省略若しくは簡略にする。
【0023】
上記キャリパ2aは、アルミニウム合金の鋳造により造ったもので、上記サポート3aに対し、上記ロータ1の軸方向(図1〜4の左右方向、図5の上下方向、図6、7の表裏方向)の変位を可能に支持している。この為に、上記サポート3aのうちの上記ロータ1の周方向の両端部に設けた回入側係合部8a及び回出側係合部9aの内部に、インナ、アウタ両側に開口する案内孔6a、6aを、それぞれ上記ロータ1の軸方向に貫通する状態で形成している。尚、図示の例の場合、ロータ1は、図1に矢印イで示す方向に回転する。
【0024】
又、上記キャリパ2aの一部(インナ側端部)に設けたシリンダ部12に上記ロータ1の周方向両端側に突出する状態で形成した、一対のインナ側腕部17、17の先端部に、それぞれ案内ピン5a、5aの基端部を支持固定している。又、上記キャリパ2aの一部(アウタ側端部)の爪部13aに上記ロータ1の周方向両端側に突出する状態で形成した、一対のアウタ側腕部18、18の先端部に、それぞれ案内ピン5a、5aの先端部を支持固定している。この為に、これら各案内ピン5a、5aは、図10〜12に詳示する様に構成している。
【0025】
即ち、これら各案内ピン5aは、杆部19と、この杆部19の先端(図10〜11の左端)に一体に固設した係止部20とを備える。この係止部20の先半部(図10〜12の下半部)は、上記杆部19の径方向片側に突出している。又、この係止部20は、この杆部19の軸方向に見た形状を、図12に示す様な楕円形としている。即ち、この係止部20の外周面の円周方向反対側2個所位置に互いに平行な一対の平面部21、21を設けている。そして、この係止部20の外周面を、これら一対の平面部21、21の一端縁(図10〜12の下端縁)同士を断面円弧形の曲面部22により連結する事により構成している。又、この係止部20の先端面(図10、11の左端面、図12の表側端面)で片半部(図10〜12の上半部)を断面円弧形の曲面部23とし、同じく他半部(図10〜12の下半部)を平坦面としている。又、上記杆部19の基端部(図10〜11の右端部)外周面に雄ねじ部24を形成している。
【0026】
一方、前記各アウタ側腕部18、18に爪部側通孔25を、ロータ1の軸方向に貫通する状態で形成すると共に、これら各アウタ側腕部18、18の外側面(図1〜4の左側面)でこれら各爪部側通孔25の開口周縁部に、上記各案内ピン5a、5aの係止部20、20を係止自在な係止溝26、26を形成している。即ち、これら各係止溝26、26は、上記ロータ1の径方向と、本実施例に於いては、ほぼ一致する方向に形成したもので、図8、9に詳示する様に、上記各爪部側通孔25よりもこのロータ1(図1)の内径側に長く延びた底面部27と、互いに平行な一対の側壁面28、28とを備える。このうちの底面部27は、このロータ1の回転中心に対し直交する仮想平面上に位置する。又、これら両側壁面28、28同士の間隔を、上記各案内ピン5aの係止部20の外周面を構成する一対の平面部21、21同士の間隔よりも僅かに大きくしている。そして、この係止部20のインナ側面(図10の右側面)を上記係止溝26の底面部27に突き当て自在としている。
【0027】
そして、上記各案内ピン5a、5aを構成する杆部19の中間部を前記サポート3aに形成した各案内孔6aに、摺動自在に挿通すると共に、これら各杆部19の先端部を上記各爪部側通孔25に挿通している。又、上記各係止部20、20を上記各係止溝26、26の内側に進入させると共に、これら各係止部20、20のインナ側面をこれら各係止溝26、26の底面部27に突き当てている。そして、これら各係止部20の外周面を構成する平面部21、21のうち、一方の平面部21を、上記各係止溝26、26の側壁面28、28のうち、一方の側壁面28に係合させている。尚、図8では、上記各平面部21、21と各側壁面28、28との何れもが離隔した如く示しているが、実際の組み付け状態では、これら各平面部21、21と各側壁面28、28とのうち、少なくとも何れかの対向する面同士を係合(当接)させる。又、この状態で、上記各係止部20は、上記爪部13aを構成するアウタ側腕部18の本体部の外側面からは、突出していない(係止部20、20の先端面をアウタ側腕部18、18の本体部の外側面にほぼ倣う様にしている)。そして、本実施例の場合には、上記各係止部20、20と各係止溝26、26とにより、上記各案内ピン5a、5aの回転を阻止する回り止め手段を構成している。
【0028】
一方、前記インナ側腕部17、17の先端部にシリンダ側通孔29を、それぞれ上記ロータ1の軸方向に貫通する状態で形成している。そして、上記各案内ピン5a、5aの基端部に形成した雄ねじ部24を、上記各シリンダ側通孔29に挿通させると共に、この雄ねじ部24でこれら各シリンダ側通孔29から突出した部分にナット30を螺合し、更に緊締している。この構成により、上記各案内ピン5a、5aは、上記各インナ側腕部17、17と前記各アウタ側腕部18、18とに、それぞれの両端部を支持固定される。又、本実施例の場合には、上記各案内ピン5a、5aの中心軸o1 (図2、6)の双方を含む仮想平面上に、シリンダ孔16及びピストン14の中心軸o2 (図3、6、7)を位置させている。又、これら両中心軸o1 、o2 の図2、3、6、7と同方向で見た場合の上下方向位置を一致させている。
【0029】
上記各案内ピン5a、5aは、次の様にしてこれらインナ側、アウタ側両腕部17、18に支持固定する。先ず、上記各案内ピン5a、5aを、雄ねじ部24を形成した基端部の側から、上記各爪部側通孔25、前記各案内孔6a、上記各シリンダ側通孔29に、順に挿通させる。次いで、これら基端部に形成した雄ねじ部24でこれら各シリンダ側通孔29から突出した部分にナット30を螺合し、更に緊締する。これにより、上記各係止溝26に進入させた上記各係止部20のインナ側面がこれら各係止溝26の底面部27に強く押し付けられ、上記ナット30の内端面が上記各インナ側腕部17、17の側面に強く押し付けられる。又、上記各係止部20の平面部21と上記各係止溝26の側壁面28とが係合する事により、上記各案内ピン5a、5aの各案内孔6a内での回転が阻止される。又、この状態で、これら各案内ピン5a、5aの中間部外周面と上記各案内孔6aの内周面とが、軸方向の摺動自在に係合する。
【0030】
本実施例の場合、この様にして、上記各案内ピン5a、5aを上記各案内孔6aに挿入している為、前記キャリパ2aが前記サポート3aに、上記ロータ1の軸方向(図1〜4の左右方向)の変位可能に支持される。
【0031】
上述の様に構成する本発明のフローティングキャリパ型ディスクブレーキの場合、一対の案内ピン5a、5aを爪部13aとシリンダ部12とに、両持ち支持状態で支持固定できる為、キャリパ2aの耐振性がアップし、更に、ナット30を締結するので、これら爪部13a及びシリンダ部12を含むキャリパ2aの剛性が向上する。即ち、これら各案内ピン5a、5aが、このキャリパ2aの補強部材としての役目を果たし、シリンダ孔16内に導入する圧油の油圧上昇によりこのキャリパ2aが変形する傾向となった場合でも、このキャリパ2aを変形しにくくできる。例えば、制動時には、この油圧上昇により、爪部13aとシリンダ部12とが開く様に変形する傾向となるが、本発明によればこの変形を少なくする事ができる。この為、ホイールやロータ1の大きさを変える事なく、アルミニウム合金等、軽量な材料によりキャリパ2aを造った場合でも、このキャリパ2aの剛性を十分に確保でき、振動及び騒音を低く抑える事ができる。又、このキャリパ2aの剛性を確保する為に、強度の高い材料により造った別の補強部材をこのキャリパ2aに一体に鋳ぐるみする必要がなくなる。特に、キャリパ2aを本実施例の様にアルミニウム合金製とした場合には、キャリパ2aは温度上昇により変形し易いので、本発明の構成を採用する事による、このキャリパ2aの剛性向上の効果が顕著になる。更に、それによって各パッド10a、10bの偏摩耗を抑える事ができる。尚、この様な効果を得る為、上記各案内ピン5a、5aの先端部に設ける係止部20、20は、上記油圧上昇に伴って加わる軸方向の力に十分に耐え得る強度を有するものとする。
【0032】
更に、本発明の場合には、上記各案内ピン5a、5aの先端部で爪部13aから外側に突出した係合部20とこの爪部13aに設けた係止溝26とにより構成する回り止め手段により、これら各案内ピン5a、5aは回転できないので、これら各案内ピン5a、5aの基端部を上記シリンダ部12にナット30により結合固定する作業を容易に行なえる。又、各案内ピン5a、5aの回転を阻止する為の連れ回り防止用の工具を使用しながら、この作業を行なう必要がなくなる。更に、本実施例の場合には、各案内ピン5a、5aの先端部に、杆部19との結合部よりも円周方向片側にのみ突出する係止部20を設けると共に、この係止部20により上記回り止め手段を構成している為、上記先端部に断面六角形のボルトの頭部を設ける事により回り止め手段を構成する場合に比べて、回り止め手段を構成する部分を小さくできる。この為、この回り止め手段を構成する部分が、上記爪部13aを構成するアウタ側腕部18、18の本体部の外面から外側に突出するのを抑える事ができる。又、単にボルトの頭部を設けるだけでは、ナット等を基端部に締結する際の回り止めとしては不完全であり、連れ回り防止用の工具が必要になる場合がある。これに対して、上記係止部20により回り止め手段を構成する本実施例の場合には、この様な不都合を防止できる為、有効である。更に、この回り止め手段を構成する部分を、前記各案内ピン5a、5aの一部に据え込み鍛造を施す事により造る場合に、据え込み比を小さくでき、歩留りの向上を図れる。又、これら各案内ピン5a、5aの回転を阻止できる為、これら各案内ピン5a、5aの中間部外周面と各案内孔6aの内周面との間の隙間(ピンクリアランス)の設定の自由度の向上を図れる。
【0033】
又、本発明の場合には、上記各案内孔6aを、インナ、アウタ両側に開口する貫通孔とすると共に、これら各案内孔6aに各案内ピン5a、5aの中間部を挿通している。この為、パッド10a、10bを構成するライニング15、15が摩耗した場合でも、これら各案内孔6aと各案内ピン5a、5aとの嵌合長さは変化しない。従って、このライニング15、15の摩耗に拘らず、キャリパ2aの姿勢を変化しにくくできる。
【0034】
又、各案内ピン5a、5aの中間部外周面と各案内孔6aの外周面との間の、ロータ1の径方向に関する隙間を大きくした場合には、制動時の温度上昇等によりロータ1が、図13に示す様に、このロータ1の回転中心に対し直角な仮想平面に対し傾斜する様に変形した場合に、上記各案内ピン5a、5aの中間部での自由度を、保ち易くできる。この為、上記ロータ1の両側面に対し、爪部13aの内側面及びピストン14の先端面を平行にし易くできる。例えば、この両側面の傾斜に伴い、このピストン14の中心軸を、図13にo2 で示す位置からo2 ´で示す位置に上記回転中心に対し傾斜させる事ができる。この結果、上記ロータ1の両側面に対し一対のパッド10a、10bのライニング15、15が、内周縁から外周縁に亙ってほぼ均一に押し付けられ、このロータ1自身の傾斜方向の変位に起因して、パッド10a、10bやロータ1がこのロータ1の径方向に偏摩耗する事を防止できる。又、この場合に、図14に示す様に、上記各案内ピン5aの中間部で、各案内孔6aの内側で円弧状に曲げ変形した部分の外周面を、案内孔6aの内周面に接触させる事ができる為、当該接触部でのこじりを抑える事ができる。これに対して、前述の図28〜29に示した従来構造の場合には、各案内ピン5を有底円筒状の案内孔6内に挿通している為、上述の様にロータ1の傾斜に追従してキャリパ2がこのロータ1の回転中心に対し直交する仮想平面に対し傾斜すると、図15に示す様に、案内ピン5の先端縁が案内孔6の内周面に接触し易くなる。この様な従来構造の場合には、この先端縁とこの内周面との間でこじりが生じ易くなる。本発明の場合には、この様な不都合をなくせる為、上記各案内ピン5a、5aを上記各案内孔6a内で良好に摺動させ易くできる。
【0035】
又、上記各案内孔6aを貫通孔としている為、これら各案内孔6aの内周面を精度良く仕上げる加工作業を行ない易くなる。又、これら各案内孔6aの加工時に発生する切粉を排出し易くなり、作業能率の向上を図れる。
【0036】
又、本実施例の場合には、上記各案内ピン5a、5aの中心軸o1 (図2、6)の双方を含む仮想平面上に、シリンダ孔16及びピストン14の中心軸o2 (図3、6、7)を位置させている。この為、上記各案内ピン5a、5aをロータ1の径方向に関してより外径側に位置させる事ができ、これら各案内ピン5a、5aにより補強する、アウタ側腕部18、18の長さをより短くできる。この為、上記キャリパ2aの剛性をより高くし易くできる。
【0037】
更に、本実施例の場合には、各案内ピン5a、5aを、爪部側通孔25と、サポート3aに設けた案内孔6aと、シリンダ側通孔29とを、順に挿通させ、このシリンダ側通孔29からシリンダ部12外側に突出した基端部にナット30を結合したものとしている。この為、安価な構造で、上記各案内ピン5a、5aの基端部が各シリンダ側通孔29から抜け出る事を防止できると共に、各案内ピン5a、5aのがたつきを防止できる。尚、本発明は、この様に各案内ピン5a、5aの基端部にナット30を結合する構造に限定するものではない。但し、ナット30以外の部材を使用して、この基端部をシリンダ部12に支持固定する場合でも、各案内ピン5a、5aに加わる軸方向の力に対し、十分に耐え得る強度を有する形状及び構造を有するものとする。
【実施例2】
【0038】
次に、図16は、請求項1〜4に対応する、本発明の実施例2を示している。本実施例の場合には、各案内ピン5aを構成する杆部19aの中間部で各案内孔6aに挿通した部分の外周面の断面形状を楕円形としている。これに対して、これら各案内孔6aの内周面は、単なる円筒面としている。そして、上記各案内ピン5aの両端部を、キャリパ2aを構成する爪部13aとシリンダ部12(図1等参照)とに、これら各案内ピン5aの回転を阻止した状態で支持固定している。又、この状態で、これら各案内ピン5aの杆部19aの中間部で、外周面の楕円の短径方向を、ロータ1(図1等参照)の両側面に平行な一方向とし、同じく長径方向をロータ1の両側面に平行でこの一方向に対し直交する方向としている。より具体的には、本実施例の場合には、上記一方向(杆部19aの外周面の楕円の短径方向)を、一対の案内ピン5aの中心軸の両方を含む仮想平面に対し直交する方向とする。この為、上記杆部19aの外周面の楕円の長径方向は、これら両中心軸の両方の方向に対し直交する方向とする。この構成により、上記各案内ピン5aの中間部で各案内孔6a内に挿通した部分の外周面と、これら各案内孔6aの内周面との間の隙間の上記各案内ピン5aの径方向の寸法のうち、ロータ1の両側面に平行な一方向に関する寸法D1 (=d1 +d2 )は、このロータ1の両側面に平行でこの一方向に対し直交する方向に関する寸法D2 (=d3 +d4 )よりも大きくなる(D1 >D2 )。この様に構成する本実施例の場合には、案内ピン5aと案内孔6aとの間隙の大小を、互いに直交する2方向に関して、設計者の随意に設定できる。
その他の構成及び作用に就いては、上述した実施例1の場合と同様である為、同等部分には同一符号を付して、重複する図示並びに説明は省略する。
【実施例3】
【0039】
次に、図17は、請求項1〜6に対応する、本発明の実施例3を示している。本実施例の場合には、上述の図16に示した実施例2の構造で、各案内ピン5aの杆部19aの中間部で、外周面の楕円の長径方向を、ロータ1(図1等参照)の回転方向(図17に矢印イで示す方向)に、同じく短径方向を、ロータ1の径方向(図17に矢印ロで示す方向)に、それぞれ一致させている。この構成により、上記各案内ピン5aの中間部で各案内孔6a内に挿通した部分の外周面と、これら各案内孔6aの内周面との間の隙間の、上記各案内ピン5aの径方向の寸法のうち、ロータ1の径方向に関する寸法D3 (=d5 +d6 )は、このロータ1の回転方向に関する寸法D4 (=d7 +d8 )よりも大きくなる(D3 >D4 )。
【0040】
この様に構成する本実施例の場合には、制動に伴う温度上昇等によってロータ1が軸方向に倒れ勝手に変形した場合でも、爪部13aの内側面及びピストン14(図3等参照)の先端面を、このロータ1の両側面に追従し易くできる。しかも、上記各案内ピン5aの中間部外周面と各案内孔6aの内周面との間の、このロータ1の回転方向に関する隙間の寸法を小さくできる。この為、各案内ピン5aが各案内孔6aの内側でこの回転方向に動く事による、キャリパ2aのがたつきを抑える事ができ、振動及び騒音の発生を低く抑える事ができる。
【実施例4】
【0041】
次に、図18は、やはり請求項1〜6に対応する、本発明の実施例4を示している。本実施例の場合には、各案内ピン5aを構成する杆部19bの中間部で各案内孔6a内に挿通した部分の外周面の径方向反対側2個所位置に、互いに平行な一対の平面部31、31を設けている。そして、この構成により、上記各案内ピン5aの外周面と各案内孔6aの内周面との間の隙間の寸法のうち、ロータ1の径方向(図18に矢印ロで示す方向)に関する寸法D3 ´(=d5 ´+d6 ´)を、このロータ1の回転方向(図18に矢印イで示す方向)に関する寸法D4 ´(=d7 ´+d8 ´)よりも大きくしている(D3 ´>D4 ´)。
その他の構成及び作用に就いては、上述の図17に示した実施例3の場合と同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【実施例5】
【0042】
次に、図19〜23は、請求項1〜3、7、8に対応する、本発明の実施例5を示している。本実施例の場合には、爪部13bの回転方向両端部に設ける一対のアウタ側腕部18aの厚みを、インナ側(図19の上側)に増して、ブリッジ部7のアウタ寄り部分(図19の下端寄り部分)の、ロータ1の回転方向(図19の左右方向)両側面に、これら各アウタ側腕部18aの基端部の一部を結合している。そして、これら各アウタ側腕部18aに形成した爪部側通孔25に案内ピン5a、5aの先端部を挿通させ、これら各先端部をこれら各アウタ側腕部18aに支持固定している。この構成により、上記爪部13bの剛性をより高くする事ができる。
【0043】
又、本実施例の場合には、ロータ1の両側に設けた一対のパッド10a、10bのうち、アウタ側のパッド10bを構成するライニング15bの、ロータ1の回転方向に関する幅W1 を、インナ側のパッド10aを構成するライニング15aの、この回転方向に関する幅W2 よりも大きくしている(W1 >W2 )。又、上記アウタ側のパッド10bを構成するライニング15bの厚さT1 を、上記インナ側のパッド10aを構成するライニング15aの厚さT2 よりも小さくする(T1 <T2 )事により、アウタ側、インナ側両パッド10b、10aのライニング15b、15aの体積を互いに同じにしている。
【0044】
上述の様に構成する本実施例の場合、アウタ側のパッド10bを構成するライニング15bの、ロータ1の回転方向に関する幅W1 を、インナ側のパッド10aを構成するライニング15aの、この回転方向に関する幅W2 よりも大きくしている(W1 >W2 )。この為、上記アウタ側のパッド10bを構成するプレッシャプレート11bの両端部と対向する爪部13bの剛性が高まり、制動時でのシリンダ孔16に導入する圧油の油圧上昇によっても各アウタ側腕部18aがインナ側に曲げ変形するのを小さく抑える事ができる。
【0045】
即ち、本発明の場合には、上記制動時に於ける上記圧油の油圧上昇に伴い、ブリッジ部7を中心として爪部13bとシリンダ部12とが開く様に変形する傾向となる。そして、各案内ピン5a、5aの基端部がシリンダ部12の各インナ側腕部17、17によりインナ側に引っ張られ、各アウタ側腕部18aがこれら各案内ピン5a、5aを介してインナ側に変形する傾向となる。この場合、これら各アウタ側腕部18aの曲げ変形の支点は、図23に示す様に、アウタ側のパッド10bの、ロータ1の回転方向に関する両端縁付近となる。この為、このパッド10bのこの回転方向両端縁から各アウタ側腕部18aの幅方向端縁迄の距離L1 が短ければ、これら各アウタ側腕部18aのインナ側(図23の下側)への変形量を小さくできる。従って、同図に誇張して示す様に、これら各アウタ側腕部18aにそれぞれの先端部を固定した各案内ピン5aが中間部で傾斜する角度θ1 を小さく抑える事ができる。逆に、図24に示す様に、上記パッド10bの上記回転方向両端縁から上記各アウタ側腕部18aの幅方向端縁迄の距離L2 が長くなると、これら各アウタ側腕部18aのインナ側(図24の下側)への変形量が大きくなる。この為、同図に誇張して示す様に、これら各アウタ側腕部18aにそれぞれの先端部を固定した、各案内ピン5aが中間部で傾斜する角度θ2 が大きくなる。これに対して、本実施例の場合には、上記幅W1 を上記幅W2 よりも大きくしている為、上記圧油の油圧上昇によっても各アウタ側腕部18aがインナ側に曲げ変形するのを小さく抑える事ができる。この結果、キャリパ2aの剛性は更にアップし、しかも上記アウタ側腕部18aにそれぞれの先端部を支持固定した、各案内ピン5a、5aの曲げ変形を小さく抑える事ができる。
【0046】
更に、上記アウタ側のパッド10bを構成するライニング15bとロータ1との接触面積が大きくなる為、当該接触部での接触圧を小さくでき、このライニング15bの偏摩耗を生じにくくできる。しかも、インナ側のパッド10aを構成するライニング15bは、ロータ1との接触面圧の不均一を生じにくくする面から、ピストン14の先端面に対向する部分よりもあまり大きくはできないのに対し、上記アウタ側のパッド10bはこの様な制約が少ない。この為、アウタ側のパッド10bを構成するライニング15bの幅W1 をインナ側のパッド10aを構成するライニング15aの幅W2 よりも大きくした、本実施例によれば、上記ロータ1と各パッド10a、10bとの接触面圧を良好にしつつ、爪部13bの剛性向上を図れる。
【0047】
又、本実施例の場合には、アウタ側のパッド10bを構成するライニング15bの厚さT1 を、インナ側のパッド10aを構成するライニング15aの厚さT2 よりも小さくする事により、アウタ側、インナ側両パッド10b、10aのライニング15b、15aの体積を互いに同じにしている。この為、アウタ側、インナ側両パッド10aの間で交換までの寿命(取り替え寿命)をほぼ同じにすると共に、制動力を十分に確保しつつアウタ側のパッド10bの厚さT1 を小さくでき、ロータ1の軸方向に関するキャリパ2aの寸法を小さくし易くできる。又、上記アウタ側のパッド10bを構成するライニング10bの厚さT1 を小さくする事により、爪部13bとシリンダ部12との内側面同士の間隔(フライス幅)を小さくする事ができ、キャリパ2aの剛性をより高くする事ができる。
その他の構成及び作用に就いては、前述の図1〜14に示した実施例1の場合と同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0048】
又、上述した各実施例の様に、インナ側のシリンダ部12に設けるピストン14を1個とした、所謂1−POTの構造を採用する場合には、インナ側のパッド10aのライニング15、15aとロータ1との接触圧の不均一を生じにくくする面から、このライニング15、15aのこのロータ1の回転方向に関する幅をあまり大きくはできない。これに対して、上記シリンダ部12に設けるピストン14を2個以上とする、例えば2−POT等の構造を採用した場合には、上記ライニング15、15aとロータ1との間に作用する接触面圧を良好にしつつ、上記インナ側のライニング15、15aの幅を大きくする事が可能になる。この場合には、本実施例の場合と異なり、インナ、アウタ両側のパッド10a、10bを構成するライニング15a、15bの幅を同じとしたままで、これら両ライニング15a、15bの幅を大きくし易くできる。何れにしても、各パッド10a、10bを構成するライニング15a、15bとロータ1との接触圧をより均一に近付ける事で、振動及び騒音で優れた効果を得られるディスクブレーキを提供できる。
【実施例6】
【0049】
次に、図25〜28は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施例6を示している。上述した各実施例の場合には、各案内ピン5aの係止部20(図1等参照)に設けた、軸方向全長に亙る一対の平面部21(図8、10〜12参照)により、これら各案内ピン5aの各案内孔6a(図2等参照)内での回転を阻止する為の回り止め手段を構成している。これに対して、本実施例の場合には、各案内ピン5bの係止部32の、軸方向一部のみにより、上記回り止め手段を構成している。即ち、本実施例の場合には、これら各案内ピン5bの係止部32は、全体を円板状とすると共に、基端部(図25の右端部、図28の上端部)の外周面の径方向反対側2個所位置に、互いに平行な一対の平面部33、33を設けている。これら両平面部33、33同士の間隔d33は、杆部19の直径D19とほぼ同じにしている。
【0050】
一方、爪部13aの両端部に設けたアウタ側腕部18で、各爪部側通孔25のアウタ側開口周縁部に形成した係止溝26aは、ロータ1(図1等参照)の外径側に開口する断面U字形の第一の切り欠き34と、この第一の切り欠き34の幅W34よりも大きな幅W35を有する第二の切り欠き35とを、各爪部側通孔25の奥側から順に設けている。このうちの第一の切り欠き34を構成する、互いに平行な一対の側壁面36、36同士の間隔W34は、上記係止部32を構成する各平面部33、33同士の間隔d33よりも僅かに大きくしている(W34>d33)。又、上記第二の切り欠き35の内側に、この係止部32の先半部を進入自在としている。
【0051】
そして、上記各案内ピン5bの先端部を上記各爪部側通孔25内に挿入した状態で、上記係止部32の基端部で外周面に一対の平面部33、33を有する部分を上記第一の切り欠き34内に、この係止部32の基半部を上記第二の切り欠き35内に、それぞれがたつきなく挿入している。この構成により、この係止部32の基端部が上記第一の切り欠き34の内面に係合して、上記各案内ピン5bの各案内孔6a(図2等参照)内での回転が阻止される。従って、本実施例の場合には、上記係止部32の基端部と第一の切り欠き34とが、前記回り止め手段を構成する。
その他の構成及び作用に就いては、前述の図1〜14に示した実施例1の場合と同様である為、重複する説明並びに図示は省略する。
尚、回り止め手段を構成する為の、各案内ピン5a、5bの先端部に設ける係止部20、32の形状は、上述した各実施例で示した形状に限定されるものではなく、各種の形状を採用できる事は勿論である。
【0052】
又、上述した各実施例に於いて、案内ピン5a、5bにナット30を結合する際に、インナ側腕部17とアウタ側腕部18、18aとがこの案内ピン5a、5bの軸方向に作用する軸力によって、これら両腕部17、18が接近する方向にあまり変形しない様にする為の適宜の構成を採用する事もできる。例えば、図10、11、31に示す様に、案内ピン5aの杆部19の一部に段差部37を設け、インナ側腕部17とアウタ側腕部18とが上述の様に接近する方向に変形する傾向となった場合に、このインナ側腕部17の内側面(図31の左側面)がこの段差部37に突き当たって、それ以上の変形が阻止される様にする事もできる。この場合に、上記杆部19のうち、上記段差面37から係止部20の内側面(図31の右側面)迄の軸方向寸法L1 (図11、31)は、上記インナ側腕部17の内側面から、上記アウタ側腕部18の外側面(図31の左側面)で上記案内ピン5aの係止部20の内側面が突き当たる部分迄の長さL2 (図19、31)よりも僅かに小さくなる様に設定しておく(L1 <L2 )。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施例1を示す略斜視図。
【図2】一部を省略して示す、図1のA矢示図。
【図3】図1のB−B断面図。
【図4】キャリパと案内ピンとのみを取り出して示す略斜視図。
【図5】図2の奥側半部を、上方から見た図。
【図6】図5の下方から見た図。
【図7】同じく上方から見た図。
【図8】図6のC部を、拡大して、ロータの径方向を上下方向に一致させた状態で示す図。
【図9】案内ピンを省略した状態で示す、図8のD−D断面図。
【図10】案内ピンのみを取り出して示す斜視図。
【図11】同じく正面図。
【図12】図11の左方から見た図。
【図13】制動時の温度上昇等によるロータの変形に伴って、キャリパがこのロータの回転中心に対し直角な仮想平面に対し傾斜する状態を示す、図3と同様の図。
【図14】案内ピンが曲げ変形する状態を説明する為の図。
【図15】従来構造に於ける、図14と同様の図。
【図16】本発明の実施例2に於ける、案内孔と案内ピンとの関係を示す部分断面図。
【図17】同実施例3に於ける、案内孔と案内ピンとの関係を示す部分断面図。
【図18】同実施例4に於ける、案内孔と案内ピンとの関係を示す部分断面図。
【図19】同実施例5を、一部を切断した状態で、ロータの径方向外側から見た図。
【図20】図19のE−E断面図。
【図21】右半部に図19のF−F断面を、左半部に同図の上方から見たものを、それぞれ示す図。
【図22】右半部に図19の下方から見たものを、左半部に同図のG−G断面を、それぞれ示す図。
【図23】アウタ側のパッドを構成するプレッシャプレートの幅が長い場合での、アウタ側腕部が変形する状態を、(A)は変形前で、(B)は変形後で、それぞれ示す略図。
【図24】アウタ側のパッドを構成するプレッシャプレートの幅が短い場合での、アウタ側腕部が変形する状態を、(A)は変形前で、(B)は変形後で、それぞれ示す略図。
【図25】本発明の実施例6に使用する案内ピンの先端寄り部分を示す図。
【図26】図25のH−H断面図。
【図27】実施例6に於ける、図8と同様の図。
【図28】図27を上方から見た図。
【図29】従来構造の1例を、一部を切断した状態で、ロータの径方向外側から見た図。
【図30】図29のI−I断面図。
【図31】インナ側、アウタ側両腕部の変形を抑える為の構造を示す部分断面図。
【符号の説明】
【0054】
1 ロータ
2、2a キャリパ
3、3a サポート
4 取付孔
5、5a、5b 案内ピン
6、6a 案内孔
7 ブリッジ部
8、8a 回入側係合部
9、9a 回出側係合部
10a、10b パッド
11、11a、11b プレッシャプレート
12 シリンダ部
13、13a、13b 爪部
14 ピストン
15、15a、15b ライニング
16 シリンダ孔
17 インナ側腕部
18、18a アウタ側腕部
19、19a、19b 杆部
20 係止部
21 平面部
22 曲面部
23 曲面部
24 雄ねじ部
25 爪部側通孔
26、26a 係止溝
27 底面部
28 側壁面
29 シリンダ側通孔
30 ナット
31 平面部
32 係止部
33 平面部
34 第一の切り欠き
35 第二の切り欠き
36 側壁面
37 段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータに隣接して車体に固定されるサポートと、このロータの両側にその軸方向に摺動可能にこのサポートに支持された一対のパッドと、このサポートに設けられた案内孔とこの案内孔に嵌り合う案内ピンにより上記ロータの軸方向に変位可能に支持されたキャリパと、このキャリパの上記ロータを跨ぐブリッジ部の一方に設けられた爪部及びこのブリッジ部の他方に嵌装されたピストンとを備え、上記案内ピンの基端部は、上記キャリパの一部でこのピストン側に設けられたシリンダ部の上記ロータの回転方向端部に支持固定されており、このピストンの押し出しに伴い、上記一対のパッドを上記ロータの両側面に押し付けて制動を行なうフローティングキャリパ型ディスクブレーキに於いて、上記案内孔をインナ、アウタ両側に開口する貫通孔とすると共に、この案内孔に上記案内ピンの中間部を摺動自在に挿通し、上記爪部のうちの上記ロータの回転方向端部で、上記ブリッジ部よりもこの回転方向片側に突出した部分に形成した爪部側通孔に上記各案内ピンの先端寄り部分を挿通させ、この案内ピンの先端部と上記爪部との間に回り止め手段を設けた事を特徴とするフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。
【請求項2】
上記回り止め手段は、案内ピンの先端部が、爪部側通孔の反ロータ側開口部に備えられた互いに平行な一対の側壁面のうちの、少なくとも何れかの側壁面に係合される事により構成されたものである、請求項1に記載したフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。
【請求項3】
案内ピンが、爪部側通孔と、サポートに設けられた案内孔と、ブリッジ部の他方に設けられたシリンダ側通孔とを順に挿通させ、このシリンダ側通孔からこの他方の外側に突出した基端部に締結手段を結合したものである、請求項1又は請求項2に記載したフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。
【請求項4】
案内ピンの中間部で案内孔に挿通した部分の外周面と、この案内孔の内周面との間の隙間の、この案内ピンの径方向の寸法を、ロータの両側面に平行な一方向に関するものと、このロータの両側面に平行でこの一方向に対し直交する方向に関するものとで互いに異ならせた、請求項1〜3の何れかに記載したフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。
【請求項5】
案内ピンの中間部で案内孔内に挿通した部分の外周面と、この案内孔の内周面との間の隙間の寸法を、ロータの回転方向と、このロータの径方向とで互いに異ならせた、請求項4に記載したフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。
【請求項6】
案内ピンの中間部で案内孔内に挿通した部分の外周面と、この案内孔の内周面との間の隙間の寸法のうち、ロータの径方向に関する寸法を、このロータの回転方向に関する寸法よりも大きくした、請求項5に記載したフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。
【請求項7】
ロータの両側に設けた一対のパッドのうち、アウタ側のパッドを構成するライニングの、このロータの回転方向に関する幅を、インナ側のパッドを構成するライニングの、この回転方向に関する幅よりも大きくした、請求項1〜6の何れかに記載したフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。
【請求項8】
アウタ側のパッドを構成するライニングの厚さを、インナ側のパッドを構成するライニングの厚さよりも小さくする事により、アウタ側、インナ側両パッドのライニングの体積を互いに同じにした、請求項7に記載したフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2006−2855(P2006−2855A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180154(P2004−180154)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】