説明

ブラシレスモータ

【課題】過大なコギングトルクが発生しない範囲での軸長方向の移動を許容するロータの支持構造を採用することにより、ロータの支持部での摩擦損失の低減とコギングトルクの抑制とを両立し得るブラシレスモータを提供する。
【解決手段】複数の磁極を等配してある磁石20を外周に備えるロータ2の回転軸4を軸受5,6により両持ち支持する。一方の軸受5の内輪を回転軸4に外嵌し、軸長方向への移動不可に拘束し、この軸受5の外輪を支持孔13に遊嵌し、両側に弾接する板ばね16,16により位置決めして、回転軸4及びロータ2を、板ばね16,16のばね力に抗して生じる軸受5の移動により、2mm以下の移動量での軸長方向の移動を可能として支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置において操舵補助用のモータとして用いられているブラシレスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングホイール等の操舵部材の回転操作に応じて操舵補助用のモータを駆動し、該モータの回転力を操舵機構に加えて操舵を補助する電動パワーステアリング装置においては、操舵補助用のモータとしてブラシレスモータが広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ブラシレスモータは、円筒形のロータを、ハウジングの内部に回転軸により回転自在に支持し、前記ハウジングの内周面に固設されたステータの内側に臨ませた構成となっている。ロータは、外周面に複数の磁極を有する磁石を備え、ステータは、周方向に等配をなして内向きに突設された複数の突出部に、夫々の間の溝(スロット)を利用して巻線を巻回してなるステータコイルを備えており、これらのステータコイルへの通電制御によりハウジングの内部に回転磁界を発生させ、この回転磁界内の磁石に回転力を加えてロータを回転させる構成となっている。
【0004】
ロータ外周の磁極の数(極数p)と、ステータの内周に並設されたスロットの数(スロット数n)との組合わせを適宜に設定して実現されており、電動パワーステアリング装置における操舵補助用のモータとしては、8極12スロット、10極12スロットのブラシレスモータ等、極数pに対するスロット数nの比(=n/p)が、1.2 〜1.5 の範囲にあるブラシレスモータが広く用いられている。
【特許文献1】特開平6−303752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、電動パワーステアリング装置に用いられるブラシレスモータにおいては、小型化の要求に応えるためにモータ効率を高めることが要求されると共に、操舵感の向上を図るために、引っ掛かりのない安定した回転が生じることが重要な課題となる。
【0006】
モータ効率の向上を図るためには、ロータの回転に伴う機械的な損失を低減することが有用である。ロータの機械的な損失の大部分は、ロータを支持する軸受における摩擦損失であり、この摩擦損失は、軸受に予圧を加えない支持構造を採用することにより大幅に低減することが可能である。
【0007】
一方、ブラシレスモータの安定した回転を阻害する一因としてコギングがある。コギングは、ステータとロータとの構造上の相対的な位置関係による磁束量の変化によって発生するが、軸長方向の両端部においてもステータとロータとの位置ずれによって漏れ磁束が変化するようになる。これにより、ロータに加わる回転トルクが変動して、該ロータの回転が不安定となる。このようなコギングによる回転トルクの変動成分、所謂、コギングトルクは、ステータの軸方向長さをロータの軸方向長さよりも十分に大きくし、ステータの両端部における漏れ磁束の影響を排除することにより抑制することができるが、この対策は、モータの大型化を伴うことから、電動パワーステアリング装置用のブラシレスモータ等、小型化が要求される用途での採用は難しい。
【0008】
そこで従来においては、ステータと略等しい軸方向長さを有するロータを用い、このロータを軸長方向への移動不可に拘束する支持構造を採用することにより、コギングトルクの発生を抑制して安定した回転を実現するようにしてある。
【0009】
しかしながら、ロータの軸長方向の移動を確実に拘束するためには、ロータを支持する軸受に予圧を加え、軸受とハウジング及びロータとの間の隙間を排除し、更には、軸受の内部に存在する隙間をも排除する必要があって、このような予圧下での支持構造を採用した場合、前述したように、ロータの回転に伴う摩擦損失が大きくなり、モータ効率の低下を招き、結果としてモータの大型化を招来することとなる。
【0010】
このように、電動パワーステアリング装置において操舵補助用のモータとして使用されるブラシレスモータにおいては、ロータの支持部の摩擦損失を低減し、モータ効率を高めてモータ自体を小型化することが要求される一方、コギングトルクを抑制して安定した回転を実現することが要求されているが、これらの要求に併せて応えることは難しいという問題がある。
【0011】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、コギングトルクとロータの軸長方向の移動との関係を検証し、過大なコギングトルクが発生しない範囲での軸長方向の移動を許容するロータの支持構造を採用することにより、ロータの支持部での摩擦損失の低減とコギングトルクの抑制とを両立し、高いモータ効率と安定した回転とを併せて実現し得るブラシレスモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1発明に係るブラシレスモータは、外周に等配をなして極数pを形成するように磁石を配置してあり、回転軸により回転自在に支持されたロータと、内周に等配されたn個のスロットを有し、前記ロータの外側を囲繞するように固設されたステータとを備え、前記極数pと前記スロットの数nとの比n/pが1.2〜1.5に設定してあるブラシレスモータにおいて、前記ロータは、2mm以下の移動量での軸長方向の移動を可能として支持してあることを特徴とする。
【0013】
また本発明の第2発明に係るブラシレスモータは、前記ロータの軸方向長さが、前記ステータの軸方向長さと略等しく設定してあることを特徴とする。
【0014】
更に本発明の第3発明に係るブラシレスモータは、前記ロータは、予圧を加えない2個の深溝玉軸受により両持ち支持してあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1発明に係るブラシレスモータにおいては、軸長方向への移動を可能とした支持形態にてロータを支持したから、ロータの支持部における摩擦損失を低減し、高いモータ効率を実現することができ、またロータの軸長方向の移動とコギングトルクとの関係を検証した結果から、ロータの軸長方向の移動量をコギングトルクが過大とならない2mm以下に制限したから、安定した回転を併せて実現することができる。
【0016】
また本発明の第2発明に係るブラシレスモータにおいては、ロータ及びステータの軸方向長さを略等しくしてあるから、モータ効率の向上と安定した回転とを大型化を伴うことなく実現することができる。
【0017】
更に本発明の第3発明に係るブラシレスモータにおいては、前述した条件下にてロータを支持する軸受として深溝玉軸受を用いてあるから、モータ効率の向上と安定した回転とを安価に実現することが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。図1は、本発明に係るブラシレスモータの全体構成を略示する縦断面図であり、図2は、図1のII−II線による横断面図である。
【0019】
これらの図に示す如く本発明に係るブラシレスモータは、薄肉円筒形をなすハウジング1の内部にロータ2とステータ3とを備えている。ロータ2は、高い透磁率を有する軟磁性材料製の円筒体であり、図2に示す如く、外周面に等配をなして複数(図においては10個)の磁極を形成してなる磁石20を備えている。
【0020】
ロータ2の軸心部には、回転軸4が同軸的に嵌着されており、ロータ2は、軸長方向の両側への回転軸4の突出部をハウジング1の両端壁10,11に各別の深溝玉軸受(以下単に軸受という)5,6により後述の如く支え、ハウジング1の内部において回転自在に両持ち支持されている。
【0021】
回転軸4の一端は、同側の軸受5による支持部を経てハウジング1の外部に適長延長され、ロータ2の回転を外部に取り出すための出力端40を構成している。また回転軸4の他端は、同側の軸受6による支持部を経て適長延長されており、この延長部には、同側の端壁11とエンドカバー12とにより囲われた空間内にレゾルバ7が構成されている。レゾルバ7は、ロータ2の回転位置の検出に広く用いられている公知の検出器であり、構成及び動作の詳細な説明は省略する。
【0022】
ステータ3は、珪素鋼板の薄板を軸方向に多数積層し、図2に示す如く、周方向に等配をなして内向きに突設された複数個(図においては12個)のコア30,30…と、これらの間のスロット31,31…とを備える円筒体として構成されており、複数のコア30,30…の夫々に、相互間のスロット31,31…に通された巻線を巻回してステータコイルが構成されている。なお図2に示すステータ3は、夫々のコア30,30…毎に周方向に12分割されてハウジング1又は専用の保持筒への圧入により一体化される構成としてある。
【0023】
このように構成されたステータ3は、ロータ2と略等しい軸長寸法を有しており、内周に突設されたコア30,30…が、ロータ2の外周の磁石20と軸長方向に整合し、また径方向にわずかなエアギャップを隔てて対向するようにハウジング1に内嵌固定されている。
【0024】
本発明に係るブラシレスモータは、従来と同様、ステータ3の内周に並ぶコイルに順次通電し、該ステータ3の内側に回転磁界を発生することにより回転駆動される。ロータ2の外周の磁石20の複数の磁極は、ステータ3への通電により生じる回転磁界内に位置しており、各磁極には回転トルクが加わり、この回転トルクの作用によるロータ2の回転が回転軸4の一側の出力端40に取り出される。この間、ロータ2の回転位置は、回転軸4の他側に設けたレゾルバ7により検出されており、ステータ3の通電制御のためのフィードバック情報として用いられる。
【0025】
本発明に係るブラシレスモータの特徴は、ロータ2の両側において回転軸4を支持する軸受5,6による回転軸4の支持構造、特に、出力端40の側の軸受5による支持構造にある。
【0026】
図3は、ロータ2の一側の軸受5による支持部周辺の拡大図である。図示の如く軸受5の内輪50は、回転軸4に外嵌され、該回転軸4の中途の大径部41と、出力端40に嵌着されたカップリング42とにより両側から挾持して、軸長方向への移動不可に固定されている。一方軸受5の外輪51は、ハウジング1の同側の端壁10に設けた支持孔13に軸長方向への移動可能に遊嵌し、支持孔13の底壁14と、支持孔13の開口部を塞ぐ蓋板15とに所定の間隙を隔てて対向させてあり、外輪51の両側には、底壁14及び蓋板15との間に夫々介装された板ばね16,16が弾接させてある。
【0027】
以上の構成により軸受5の外輪51は、両側に弾接する板ばね16,16のばね力の力バランスにより支持孔13の中央に位置決めされるが、軸方向の力が加わった場合、板ばね16,16のばね力に抗して端壁14及び蓋板15との間隙の範囲内にて移動可能である。軸受5の内輪50は、回転軸4の中途に軸長方向への移動不可に固定されているから、回転軸4及び該回転軸4に固定されたロータ2は、支持孔13内にて生じる軸受5の外輪51の移動に伴って、内輪50と共に軸長方向へ移動することができる。
【0028】
他方の軸受6は、図1に示す如く、回転軸4の中途部に内輪を外嵌し、ハウジング1の他側端壁11に設けた支持孔17に外輪を内嵌して、該回転軸4を回転自在に支持している。軸受6の内外輪と回転軸4又は支持孔17との嵌め合わせは、少なくとも一方を所定の公差下での締まり嵌めとし、他方又は両方を所定の公差下でのすきま嵌めとしてある。例えば、軸受6の外輪と支持孔17とを締まり嵌めとし、軸受6と回転軸4とをすきま嵌めとした場合、該軸受6は、支持孔17を備えるハウジング1に対しては軸長方向の移動不可に拘束されるが、回転軸4に対しては軸長方向の移動が可能であり、内輪との間の滑りにより回転軸4及びロータ2の軸長方向の移動を許容することができる。
【0029】
以上のようにロータ2を支持する軸受5,6は、内外輪の少なくとも一方がハウジング1又は回転軸4に対して遊嵌されており、両軸受5,6に予圧が付与されていない。従ってロータの2の前述した回転は、両軸受5,6の滑らかな転動に伴う小なる摩擦損失下にて生じ、この摩擦損失による効率低下を抑えて高いモータ効率を実現することができる。
【0030】
また軸受5,6により支持された回転軸4は、軸長方向への移動が可能であり、ロータ2の回転は、ハウジング1に固定されたステータ3に対して軸長方向の位置ずれを伴って生じるが、この位置ずれ量は、回転軸4の一側を支持する軸受5の図3に示す支持構造により、軸受5の両側に確保された隙間の範囲内に制限される。
【0031】
ステータ3との間に位置ずれが生じた状態でロータ2が回転した場合、ステータ3の軸長方向両端部における漏れ磁束の影響が大きくなり、ロータ2に加わる回転トルクが不安定に変動する前述したコギングトルクが発生する虞れがある。図4、図5は、コギングトルクの発生挙動を調べた結果を示す図である。
【0032】
図4、図5の横軸は、ロータ2とステータ3との軸長方向の位置ずれ量を示し、同じく縦軸は、位置ずれ量を変えた状態でブラシレスモータを駆動した際に発生するコギングトルクの実測値を示している。また図4、図5中の四角印は、ロータ長とステータ長とが等しい場合の結果を、丸印は、ステータ長よりもロータ長が2mm短い場合の結果を、三角印は、逆に、ステータ長よりもロータ長が2mm長い場合の結果を夫々示している。
【0033】
図4は、実施の形態と同様の10極12スロットのブラシレスモータにおける結果である。本図に示す如くコギングトルクの大きさは、ロータ2とステータ3との位置ずれ量が2mm以下である条件下においては略一定であり、2mmを超えると共に急増する傾向を示す。またこの傾向は、ステータ長とロータ長との差が、±2mmの範囲において全く同様に発生することもわかる。
【0034】
図5は、8極12スロットのブラシレスモータにおける結果である。この場合においてもコギングトルクの大きさは、位置ずれ量が2mm以下である場合には略一定であり、2mmを超えると共に急増する傾向を示す。更に8極12スロットのブラシレスモータの場合には、ステータ長とロータ長との差もコギングトルクに影響を及ぼし、この差が、2mmである場合、発生するコギングトルクが全体的に大きくなる傾向を示す。
【0035】
これらの図の結果によりコギングトルクは、ステータ3とロータ2とが軸長方向に位置ずれした状態で回転する際に発生するが、10極12スロット又は8極12スロットのブラシレスモータの場合、即ち、極数pに対するスロット数nの比(=n/p)が、1.2 〜1.5 の範囲にあるブラシレスモータの場合、ロータ2とステータ3との位置ずれ量を2mm以下に抑えることにより、発生するコギングトルクの大きさを十分に小さいレベルに保ち得ることがわかる。
【0036】
本発明に係るブラシレスモータにおいては、回転中のロータ2は軸長方向に移動することができ、該ロータ2は、ステータ3との間に位置ずれが生じた状態で回転するが、このとき発生する位置ずれ量は、前述した如く、回転軸4の一側を支持する軸受5の両側の隙間の範囲内に制限される。本発明においては、軸受5の幅、支持孔13の深さ、及び板ばね16,16の厚さの設定により、前記隙間を適宜に設定し、ロータ2の移動長さ、即ち、この移動により発生するステータ3とロータ2との位置ずれ量を2mm以下に抑えるようにしてある。
【0037】
このように本発明に係るブラシレスモータにおいては、ロータ2を軸長方向への移動可能に支持してあるから、前述の如く、摩擦損失を小さく保ち、モータ効率の向上を図ることができ、更に、ロータ2の移動量を2mm以下に制限してあるから、コギングトルクを軽微に抑えることができ、電動パワーステアリング装置における操舵補助用のモータ等、小型で安定した回転が要求される用途に好便に用いることができる。
【0038】
コギングトルクの抑制は、図4及び図5に示すように、ステータ3の軸方向長さがロータ2の軸方向長さと略等しい条件下においても実現することができ、ステータ3の長大化によるブラシレスモータの大型化を招く虞れもない。
【0039】
なお以上の実施の形態においては、2mm以下の移動範囲内にてロータ2を移動可能に支持する支持構造を、回転軸4の出力端40の側を支持する軸受5により実現しているが、他方の軸受6により実現してもよく、また両方の軸受5,6により実現してもよい。
【0040】
また以上の実施の形態においては、軸受5の外輪51の両側に板ばね16,16を弾接させ、これらの板ばね16,16のばね力に抗して生じる軸受5の移動によりロータ2を移動可能に支持する構成としてあるが、片側のみに板ばねを設ける構成、他のばね又はゴム等の弾性体を板ばねに代えて用いる構成等、他の適宜の構成によりロータ2を移動可能に支持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るブラシレスモータの全体構成を略示する縦断面図である。
【図2】図1のII−II線による横断面図である。
【図3】ロータの一側の軸受による支持部周辺の拡大図である。
【図4】コギングトルクの発生挙動を調べた結果を示す図である。
【図5】コギングトルクの発生挙動を調べた結果を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
2 ロータ、3 ステータ、4 回転軸、5,6 深溝玉軸受、20 磁石、31 スロット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に等配をなして極数pを形成するように磁石を配置してあり、回転軸により回転自在に支持されたロータと、内周に等配されたn個のスロットを有し、前記ロータの外側を囲繞するように固設されたステータとを備え、前記極数pと前記スロットの数nとの比n/pが1.2〜1.5に設定してあるブラシレスモータにおいて、
前記ロータは、2mm以下の移動量での軸長方向の移動を可能として支持してあることを特徴とするブラシレスモータ。
【請求項2】
前記ロータの軸方向長さは、前記ステータの軸方向長さと略等しく設定してある請求項1記載のブラシレスモータ。
【請求項3】
前記ロータは、予圧を加えない2個の深溝玉軸受により両持ち支持してある請求項1又は請求項2記載のブラシレスモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−11599(P2008−11599A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176635(P2006−176635)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000100872)アイチエレック株式会社 (58)
【Fターム(参考)】