説明

ブレーキパッドおよびその製造方法

【課題】軽量で、かつ高強度であり、更に成形性に優れたブレーキパッドとその製造方法を提供する。
【解決手段】繊維、結合材、摩擦調整剤、ゴム成分を含む摩擦ライニング層と、繊維強化プラスチックで形成されるバックプレートとが積層され、一体に固着されてなるブレーキパッドであって、前記バックプレートを130〜200℃の条件で成形し、次いで前記摩擦ライニング層と前記バックプレートを0〜100℃で一体に成形したのちに、ブレーキパッド全体を加熱硬化して得られるブレーキパッド及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪車又は四輪自動車のディスクブレーキに用いられるブレーキパッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
二輪車又は四輪自動車に取り付けられているディスクブレーキに用いられるブレーキパッドは、一般に、鋼板製のバックプレートに基材繊維、有機結合材、摩擦調整剤からなる摩擦ライニング層を重ね合わせ、熱圧成形したものが用いられている。
【0003】
近年の自動車の軽量化に伴い、ブレーキ等の足回り部品には軽量化が求められている。例えば、特許文献1や特許文献2によれば、ブレーキパッド用のバックプレートは、樹脂を含む材料から成形される本体肉部に内設される補強板部を有する構造であり、したがってバックプレートは本体肉部が樹脂を含む材料で構成されることによって軽量になる構造であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−240273号公報
【特許文献2】特開2004−301134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1、2により示される構造について検討した結果、確かに軽量化は図れたが、バックプレートの熱伝導が低くなった結果、ブレーキパッドを熱圧成形すると製造する際の摩擦ライニング層の表面層の温度上昇速度に比較して摩擦ライニング層のバックプレート側の温度上昇速度が遅く、摩擦ライニング層内に膨れができやすく、製造歩留りを極端に下げることがあった。そこで本発明は、軽量で、かつ高強度であり、更に成形性に優れたブレーキパッドとその製造方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、繊維、結合材、摩擦調整剤を含む摩擦ライニング層と繊維強化プラスチックで形成されるバックプレートが積層され、摩擦ライニング層には樹脂とゴム成分が含まれ、一体に固着されてなるブレーキパッドであって、バックプレートは130〜200℃の条件で成形し、次いで、摩擦ライニング層とバックプレートを0〜100℃で一体に成形したのちに、ブレーキパッド全体を加熱硬化して得られるブレーキパッド(請求項1)及びその製造方法(請求項3)である。
【0007】
請求項2に記載される発明に係るブレーキパッドは、繊維強化プラスチックの両面又は片面に補強板を設置して繊維強化プラスチックで形成されるバックプレートを成形し、次いで摩擦ライニング層とバックプレートを一体に成形したのちに、ブレーキパッド全体を加熱硬化する請求項1記載のブレーキパッドである。
【0008】
請求項4に記載される発明に係るブレーキパッドの製造方法は、ブレーキパッド全体の加熱硬化において、前記ブレーキパッドの摩擦面に対して垂直に加圧力を与えながら、加熱硬化させる請求項3に記載のブレーキパッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軽量で、かつ高強度であり、更に成形性に優れたブレーキパッドとその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、繊維、結合材、摩擦調整剤を含む摩擦ライニング層と繊維強化プラスチックで形成されるバックプレートが積層され、一体に固着されてなるブレーキパッドであって、摩擦ライニング層の結合材には樹脂とゴム成分が含まれ、繊維強化プラスチックバックプレートを130〜200℃の条件で成形し、次いで、摩擦ライニング層とバックプレートを0〜100℃で一体に成形したのちに、ブレーキパッド全体を加熱硬化するブレーキパッドとその製造方法である。本構成によれば、バックプレートと摩擦ライニング層を一体に成形する際に、バックプレートと摩擦ライニング層間の膨れができにくい材料と製造工程であるので、軽量でパッドの亀裂や膨れ、接着界面の剥離に対して、きわめて信頼性の高いブレーキパッドを得ることができる。
【0011】
本発明のブレーキパッドに用いるバックプレートの作製法は、以下の通りである。まず、繊維強化プラスチックの原料に混入される繊維は、耐熱性の繊維を使用する。500℃以下で分解、収縮、溶融しない繊維が好ましい。例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維、ロックウール、アラミド繊維等がある。繊維は、繊維強化プラスチックを成形する際にコンプレッション成形やトランスファー成形、射出成形が可能であるように、繊維長が10mm以下の短繊維であることが好ましい。
【0012】
繊維強化プラスチックの原料に用いられるプラスチックは、熱硬化性樹脂が好ましい。特に、フェノ―ル樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド樹脂等が好ましい。
【0013】
成形に用いられる繊維強化プラスチックの原料は、上記の粉末状、又は液状の樹脂に、上記の繊維と、強度、弾性率等を向上させる充填材が混合した形態であり、コンプレッション成形やトランスファー成形、射出成形に最適な形態である。
【0014】
通常、バックプレートの厚みは2.5〜7mmである。繊維強化プラスチックを両面又は片面から補強することで高強度、高剛性のブレーキパッドを得ることができる。補強板として用いる材料は、引張強さが400MPa以上の材料が好ましい。そのような材料としては、鉄板又はアルミニウム合金板、長繊維を基材とする繊維強化樹脂板を使用することができる。繊維強化プラスチックの両面に補強板を設置すれば、バックプレートを成形する際に、繊維強化プラスチックの樹脂硬化時の収縮や補強板と繊維強化プラスチックの熱膨張の差による反り発生を防ぐこともできる。
【0015】
バックプレートを成形するには、原料を予備加熱し、成形金型内に材料充填し、130〜200℃で数分間保持して、バックプレートが所定の厚さになるように一体成形する。補強板を一体に成形する場合には、繊維強化プラスチックの両面またに片面に補強板が設置されるように成形金型に補強板をセットする。長繊維を基材とする繊維強化樹脂を補強板に用いる場合には、そのプリプレグをあらかじめ金型にセットし、繊維強化プラスチックと同時に補強板のプレプレグの繊維強化樹脂を硬化させても良い。
【0016】
このようにして成形されたバックプレートに摩擦ライニング層を積層する。上記で製作されたバックプレートの片面(摩擦ライニング層側)に接着剤を塗布し、コンプレッション成形機にセットし、その上に枠型を置き、摩擦ライニング層となる成形粉原料を枠型内に投入する。摩擦ライニング層をバックプレートと一体にして、成形型温度は0〜100℃とし、ブレーキパッド面圧として200MPa以上の圧力を加え指定の形状に成形する。
【0017】
摩擦ライニング層に用いられる繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維、ロックウール、アラミド繊維、アクリル繊維等があるが、バックプレートに熱が伝わりにくいように、金属繊維や炭素繊維は5体積%以下にして、少なくとも、バックプレートに当接する部分において、熱伝導率が2W/mK以下であるようにすると、バックプレートの樹脂部が劣化しにくいブレーキパッドを得ることができる。
【0018】
摩擦ライニング層に用いられる結合材は、熱硬化性樹脂であって、フェノール骨格を有し、熱劣化しても炭素として残りにくい樹脂である有機結合材が好ましい。このような有機結合材としては、フェノール樹脂やアクリルや各種エラストマで変性したフェノール樹脂等を用いる事ができる。
【0019】
本発明のブレーキパッドに用いられる摩擦ライニング層は、ゴム成分を含む。一般的な摩擦ライニング層の製造方法においては、結合材を含む摩擦材原料を混合した摩擦材組成物を100〜200℃で熱圧成形し、熱処理、加工して製造される。ここで、100〜200℃の温度は、摩擦材組成物中の結合材がゲル化及び硬化する為の温度である。通常、成形中に結合材がゲル化することで、結合材が摩擦材組成物を覆い、その後硬化することで所定の形状を保つことが出来る。これに対し、本発明のブレーキパッドに用いられる摩擦ライニング層は、ゴムの粘着性により所定の形状に押し固めることが出来るため、成形時に結合材の樹脂を反応させる熱圧成形を行う必要がなく、成形を0〜100℃の温度において短時間で行うことが可能であり、バックプレートと摩擦ライニング層を一体に成形する際に、バックプレートと摩擦ライニング層間の膨れができにくい材料である。
【0020】
摩擦ライニング層に用いられるゴムは、天然ゴム、合成ゴムを使用することができ、合成ゴムではスチレンブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、ブチルゴム等を用いることができる。これらのうち1種類か2種類以上のゴムを0.5〜15体積%含有させることが好ましい。
【0021】
摩擦ライニング層に用いられる摩擦調整剤は、アルミナやジルコニア等の無機粉末粒子、黒鉛、硫化アンチモン、硫化錫等の金属硫化物、カシューダスト、ゴムダスト等の有機粉末を用いることができる。
【0022】
次いで、摩擦ライニング層をバックプレートと積層し、一体に成形したのちに加熱処理を行う。これは、摩擦ライニング層とバックプレートに含まれる熱硬化樹脂の反応を促進するためのものである。一般に熱処理は、熱硬化樹脂の硬化が促進され、分解反応が進まない180〜250℃で数時間保持して行うことが好ましい。加熱硬化において、ブレーキパッドの摩擦面に対して垂直に加圧力を与えながら、加熱硬化させると好ましい。加熱硬化において、ブレーキパッド数枚を重ね、片端からバネを用いて荷重をかけると、加熱硬化の際に摩擦ライニング層とバックプレート間の剥離を防止しながらブレーキパッドを作製することができる。また、補強板を有する繊維強化プラスチックバックプレートの製造方法においては、熱膨張差や樹脂の硬化収縮に伴うバックプレートの反りを低減することができる。
【0023】
以下の実施例により本発明のブレーキパッドについて、更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
バックプレートの繊維強化プラスチックの結合材にはフェノール樹脂を用いた。混合する耐熱性の繊維としては、ガラス繊維とロックウールを用いた。混合するガラス繊維の平均繊維長は3.0mmのものを採用した。これらの繊維を全体で60質量%混入して粉末状の原料を得た。
【0024】
粉末状の原料を70MPaで予備成形して、90℃に予備加熱した。成形金型内に予備加熱した繊維強化プラスチック原料を置き、160℃、50MPaの加圧力で3分間保持して、バックプレート総厚みで6.5mmになるように成形した。
【0025】
摩擦ライニング層となる成形品の原料としては、銅繊維、ロックウール、アラミド繊維を基材繊維として全体の8体積%、フェノール樹脂を有機結合材として20体積%、ポリブタジエンゴムを10体積%、黒鉛、硫酸バリウム等の摩擦調整剤を残部含むものを用いた。
これらの材料を加圧ニーダで30分間攪拌して粉末状の成形粉原料を得た。
【0026】
成形されたバックプレートに摩擦ライニング層を積層してブレーキパッドを作製するために、バックプレートの片面に接着剤を塗布した。バックプレートをコンプレッション成形機にセットし、その上に枠型を置き、摩擦ライニング層となる成形粉原料を枠型内に投入した。しかる後、100MPaで加圧しつつ、摩擦ライニング層とバックプレートを一体に成形し、指定のブレーキパッド形状に成形した。
【0027】
更に、摩擦ライニング層と繊維強化プラスチックに使用されている樹脂を硬化させるため、200℃の熱処理炉内に4時間保持して加熱処理を行った。加熱処理においては、ブレーキパッドを10枚重ね、片端からバネによって20MPaでブレーキパッドを加圧した。
【0028】
このようにして成形したブレーキパッドは、亀裂や摩擦ライニング層とバックプレート間の剥離が発生せず、プレート面の平面度は0.04mmと良好であり、鉄製のバックプレートに対して、約50%の軽量になった。
【0029】
[実施例2]
補強板として3.0mmの鋼板を用い、実施例1と同様にして成形した。実施例1と同様の摩擦ライニング層を積層し、指定のブレーキパッド形状に成形した。このようにして成形したブレーキパッドは、亀裂や摩擦ライニング層とバックプレート間の剥離が発生せず、プレート面の平面度は0.10mmと良好であり、鉄製のバックプレートに対して、約70%の軽量になった。また、高温耐久試験において、実施例1に比較して変形が少なくなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維、結合材、摩擦調整剤、ゴム成分を含む摩擦ライニング層と、繊維強化プラスチックで形成されるバックプレートとが積層され、一体に固着されてなるブレーキパッドであって、前記バックプレートを130〜200℃の条件で成形し、次いで前記摩擦ライニング層と前記バックプレートを0〜100℃で一体に成形したのちに、ブレーキパッド全体を加熱硬化して得られるブレーキパッド。
【請求項2】
繊維強化プラスチックの両面又は片面に補強板を設置して、繊維強化プラスチックで形成されるバックプレートを成形し、次いで摩擦ライニング層と前記バックプレートを一体に成形したのちに、ブレーキパッド全体を加熱硬化する請求項1記載のブレーキパッド。
【請求項3】
繊維、結合材、摩擦調整剤、ゴム成分を含む摩擦ライニング層と繊維強化プラスチック又は補強板を有する繊維強化プラスチックで形成されるバックプレートを積層し、一体に固着するブレーキパッドの製造方法であって、前記バックプレートは130〜200℃の条件で成形し、次いで、前記摩擦ライニング層と前記バックプレートを0〜100℃で一体に成形したのちに、ブレーキパッド全体を加熱硬化するブレーキパッドの製造方法。
【請求項4】
ブレーキパッド全体の加熱硬化において、前記ブレーキパッドの摩擦面に対して垂直に加圧力を与えながら、加熱硬化させる請求項3に記載のブレーキパッドの製造方法。

【公開番号】特開2013−57337(P2013−57337A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194881(P2011−194881)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(391033078)日本ブレーキ工業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】