プレキャストコンクリート柱の接合構造
【課題】簡単な計算で接合部の強度を評価することができるプレキャストコンクリート柱の接合構造を提供することを課題とする。
【解決手段】プレキャストコンクリート柱10を、このプレキャストコンクリート柱10よりも強度が低い柱支持構造体30に接合する接合構造において、柱支持構造体30の上面に形成された凹部31の底面31aと、その上方に所定の間隔をあけて配置されたプレキャストコンクリート柱10との間に、柱支持構造体30の強度以上でプレキャストコンクリート柱10の強度未満の強度を有する充填材50を充填して接合部を形成した。
【解決手段】プレキャストコンクリート柱10を、このプレキャストコンクリート柱10よりも強度が低い柱支持構造体30に接合する接合構造において、柱支持構造体30の上面に形成された凹部31の底面31aと、その上方に所定の間隔をあけて配置されたプレキャストコンクリート柱10との間に、柱支持構造体30の強度以上でプレキャストコンクリート柱10の強度未満の強度を有する充填材50を充填して接合部を形成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高強度のプレキャストコンクリート柱を、このプレキャストコンクリート柱よりも強度が低い柱支持構造体に接合する接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレキャストコンクリート柱の接合部には、プレキャストコンクリート柱自身の強度よりも強い強度を有するグラウト材を充填するのが一般的である。しかし、昨今のコンクリート技術の進歩により、流動性の高いグラウト材よりも強度が高い超高強度コンクリートによるプレキャストコンクリート柱が実現した。
【0003】
このような技術の進歩により、現在では、図8に示すような接合形式で、鉄筋コンクリート造の建築物を構築する場合がある。図8に示すように、同じ強度の超高強度プレキャスト部材である柱100および梁101の間にこれらの部材よりも低強度のグラウト材102を充填する場合には、図9のような形状のコンクリート供試体103で接合部の強度を評価することが提案されている(特許文献1参照)。このコンクリート供試体103は、同じ強度の超高強度プレキャスト部材103a,103aの間にこれらの部材よりも低強度のグラウト材103bを充填して形成されている。
【0004】
ところで、超高強度ではない普通コンクリートのプレキャストコンクリート柱の接合構造としては、特許文献2に示すようなものがあった。この接合構造は、鉛直部材(プレキャストコンクリート柱)の下端面に凹陥部を設けて、水平部材(柱支持構造体)の上端面に鉛直部材下端部が嵌入できる凹欠部を設け、この凹欠部に下端部が嵌入するように鉛直部材を建て入れて、凹陥部と凹欠部にグラウト材を注入して充填するようになっている。
【特許文献1】特開2007−46416号公報
【特許文献2】特開平5−230877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超高強度プレキャストコンクリート柱を用いた建築物の上層階では、図8のような接合構造が一般的であるので、特許文献1の評価方法を適用することが可能である。しかし、図10に示すように、一階の柱脚部などにおいて、柱下部に、柱100よりも断面が大幅に大きい床スラブ104などの柱支持構造体がある場合には、柱支持構造体(床スラブ104)を柱100と同じ強度で設計する必要はなく、その強度を低くすることができる。このような接合構造では、特許文献1の評価方法を適用することができず、現状では、簡単な計算で接合部の強度を評価することができない。
【0006】
また、特許文献2の接合構造は、普通コンクリートのプレキャストコンクリート柱の接合構造であって、超高強度コンクリートのプレキャストコンクリート柱の接合構造ではないので、充填材であるグラウト材の強度が、鉛直部材(プレキャストコンクリート柱)および水平部材(柱支持構造体)の強度よりも高くなっている。そのため、グラウト材を柱の一部と見なすことができず、簡単な計算で接合部の強度を評価することができない。
【0007】
そこで、本発明は前記の問題を解決すべく案出されたものであって、簡単な計算で接合部の強度を評価することができるプレキャストコンクリート柱の接合構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、プレキャストコンクリート柱を、当該プレキャストコンクリート柱よりも強度が低い柱支持構造体に接合する接合構造において、前記柱支持構造体の上面に形成された凹部の底面と、その上方に所定の間隔をあけて配置された前記プレキャストコンクリート柱との間に、前記柱支持構造体の強度以上で前記プレキャストコンクリート柱の強度未満の強度を有する充填材を充填して接合部を形成したことを特徴とするプレキャストコンクリート柱の接合構造である。
【0009】
ここで、プレキャストコンクリート柱は、コンクリート設計基準強度が150N/mm2以上の超高強度コンクリートにて形成された超高強度プレキャストコンクリート柱を示し、柱支持構造体も普通コンクリートよりも高い強度を有しているものとする。柱支持構造体は、柱の下部に配置された梁、床スラブや基礎等の柱を支持する構造体をいう。
【0010】
このような構成によれば、充填材は、柱支持構造体の内部に充填されて、柱支持構造体の強度以上でプレキャストコンクリート柱の強度未満の強度を有しているので、プレキャストコンクリート柱の一部ではなく柱支持構造体の一部と見なすことができる。したがって、一般的な簡単な計算で接合部の強度を評価することができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記プレキャストコンクリート柱の底面が、凹部内に挿入されて前記柱支持構造体の上端面よりも下方に位置することを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート柱の接合構造である。
【0012】
このような構成によれば、充填材がプレキャストコンクリート柱の底面だけでなく側面にも接することになるので、プレキャストコンクリート柱と柱支持構造体とのせん断方向の接合強度をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡単な計算で、プレキャストコンクリート柱と柱支持構造体との接合部の強度を評価することができるといった優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第一の実施形態を示した断面図である。図2は図1のA−A線断面図である。図3は本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第一の実施形態の施工手順を示した断面図である。
【0016】
第一実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造は、図1に示すように、プレキャストコンクリート柱10を、このプレキャストコンクリート柱10よりも強度が低い柱支持構造体30に接合する構造であって、柱支持構造体30の上面に形成された凹部31の底面31aと、その上方に所定の間隔をあけて配置されたプレキャストコンクリート柱10との間に、柱支持構造体30の強度以上でプレキャストコンクリート柱10の強度未満の強度を有する充填材50を充填して接合部を形成したことを特徴とする。
【0017】
本実施形態において、プレキャストコンクリート柱10は、コンクリート設計基準強度が例えば150N/mm2の超高強度コンクリートにて形成された超高強度プレキャストコンクリート柱である。また、柱支持構造体30は、普通コンクリートよりも高い強度(例えば、100N/mm2)の高強度コンクリートにて形成されている。柱支持構造体30は、柱の下部に配置された梁、床スラブや基礎等の柱を支持する構造体にて構成されている。
【0018】
プレキャストコンクリート柱10は、図1及び図2に示すように、断面正方形を呈しており、その下端部の四隅近傍には、プレキャストコンクリート柱10内部の主筋11の下端部と、柱支持構造体30から上方に延出するアンカー筋32の上端部が上下からそれぞれ挿入されるカプラー12が内蔵されている。主筋11およびアンカー筋32は、異径鉄筋が用いられている。カプラー12は、内部に鉄筋を挿入して充填材を充填することで鉄筋の機械式継手を構成する部材であって、内部に異径鉄筋の凹凸に対応する凹凸(図示せず)が形成されている。カプラー12は、本実施形態では、円筒状を呈して縦方向に配置されており、長手方向(高さ方向)中間部の径が最も大きく、この大径部分から上下端に向かって徐々に縮径した形状となっている。カプラー12の下端部は、プレキャストコンクリート柱10の下端部で開放されており、アンカー筋32の挿入口となっている。カプラー12の側面には、プレキャストコンクリート柱10の側面から繋がる連通孔13が形成されている。この連通孔13は、カプラー12内に充填材50を供給するために形成されており、また、一部の連通孔13は、カプラー12を介してプレキャストコンクリート柱10の下部に充填材50を注入するために用いられ、この連通孔13とカプラー12の内部空間とで、充填材注入流路14が構成されている。連通孔13は、上下方向に所定の間隔をあけて二箇所に形成されている。
【0019】
柱支持構造体30の上面に形成された凹部31は、断面形状が、プレキャストコンクリート柱10の断面より大きい正方形を呈しており、プレキャストコンクリート柱10を接合するのに必要な所定の深さ、好ましくは10mm以上の深さを有している。凹部31の外周面は、プレキャストコンクリート柱10の外周面から、深さ寸法と同等の長さ外側に広がった位置に形成されている。また、凹部31の底面31aの略中央部には、スペーサ20が配置されている。
【0020】
スペーサ20は、凹部31の底面31a上にプレキャストコンクリート柱10を所定の間隔をあけて配置するためのものである。スペーサ20は硬質樹脂やコンクリート等の材質にて形成されており、建込み施工時に上部に載置されるプレキャストコンクリート柱10の荷重に耐えられるように構成されている。スペーサ20は、凹部31の深さ寸法と同等の高さ寸法を備えており、プレキャストコンクリート柱10の下端部が、柱支持構造体30の上面と同等の高さに配置されるようになっている。スペーサ20は、上側が小径となる円錐台状に形成されており、上端周縁部の出隅部の角度が鈍角になるようになっている。
【0021】
充填材50は、グラウトモルタルにて構成されている。このグラウトモルタルは、柱支持構造体30の強度以上でプレキャストコンクリート柱10の強度未満の強度(例えば、130N/mm2)を発現できるとともに、前記の充填材注入流路14内を通過できる流動性を備えたものが用いられる。
【0022】
次に、前記構成のプレキャストコンクリート柱の接合構造の施工手順を、図3を参照しながら説明する。
【0023】
まず、図3の(a)に示すように、図示しない型枠内に配筋を施した後、その型枠内に高強度コンクリートを打設して、上面に凹部31を有する柱支持構造体30を形成する。ここで、凹部31の四隅の底面31aからアンカー筋32が上方に突出するように配置しておく。
【0024】
次に、図3に(b)に示すように、柱支持構造体30の凹部31の略中央部にスペーサ20を設置した後に、工場等で超高強度コンクリートによって予め形成しておいたプレキャストコンクリート柱10を、凹部31の上方から建て込んで、スペーサ20上に載置する。このとき、アンカー筋32の上部が、プレキャストコンクリート柱10の底部からカプラー12内に挿入される。このとき、スペーサ20を設けたことによって、プレキャストコンクリート柱10の設置高さを容易にガイドすることができる。
【0025】
その後、プレキャストコンクリート柱10の角度修正等の建て入れ精度の調整を行う。このとき、スペーサ20は円錐台状に形成されているので、その上端の周縁部の出隅部の角度が鈍角になっているので、プレキャストコンクリート柱10を傾けやすく角度修正が行いやすい。また、スペーサ20の出隅部の破損も発生しにくい。
【0026】
プレキャストコンクリート柱10の建て入れ精度の調整が完了した後に、図3の(c)に示すように、プレキャストコンクリート柱10の周囲に、凹部31の周縁部を覆う板状の充填材オーバーフロー防止板21を設置する。その後、充填材50を、プレキャストコンクリート柱10の側面に開口する下側の連通孔13の一箇所から注入して、充填材注入流路14内を通過させて、凹部31に充填する。このとき、充填材50は、適度な流動性を有しているので、充填材注入流路14内を円滑に通過できる。充填材50で凹部31が充たされた後は、充填材注入流路14内が充たされるまで、充填材50が供給される。このとき、充填材オーバーフロー防止板21を設けているので、充填材50が、柱支持構造体30の表面に溢れ出ることはない。また、充填材50の注入に用いられた貫通孔13以外の貫通孔13からは充填材50が溢れるので、その貫通孔13の高さまで充填材50が充填されたことを確認できる。その後、所定時間養生して充填材50が固まったら、充填材オーバーフロー防止板21を取り除いて、かかる接合構造の施工が完了する。
【0027】
以上のように施工されたプレキャストコンクリート柱10の接合構造によれば、柱支持構造体30の強度以上でプレキャストコンクリート柱10の強度未満の強度を有している充填材50を、柱支持構造体30の面内に形成された凹部31に充填したことによって、充填材50は、プレキャストコンクリート柱10の一部ではなく柱支持構造体30の一部と見なすことができる。したがって、かかる接合構造では、プレキャストコンクリート柱10を柱支持構造体30に単純に接合したものとして構造計算をすることができるので、一般的で簡単な公知の計算で接合部の強度を評価できる。
【0028】
また、凹部31の底面31a上に、スペーサ20を設けたことによって、プレキャストコンクリート柱10の高さ方向位置を容易に決定できる。さらに、スペーサ20は円錐台状であるので、プレキャストコンクリート柱10の建入角度を容易に調整することができるとともに、スペーサ20上でプレキャストコンクリート柱10を傾けやすく、建入角度の調整がさらに容易になる。
【0029】
図4は本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第二の実施形態を示した断面図である。
【0030】
第一実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造では、凹部31と充填材注入流路14の全体に充填材50が充填されているのに対して、第二実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造は、図4に示すように、プレキャストコンクリート柱10の充填材注入流路14の内部に、継手用充填材51が充填されていることを特徴とする。なお、その他の構成については、図1に示した第一実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0031】
継手用充填材51は、充填材注入流路14を介して凹部31に充填材50を充填した後に、充填材注入流路14内に充填される。継手用充填材51は、例えば、膨張性充填材にて構成されており、この継手用充填材51がカプラー12内で硬化することにより、膨張力が主筋11、アンカー筋32およびカプラー12の全面に均等に作用し、継手部を完全な剛接合状態とすることができる。これによって、接合構造の固定強度をさらに高めることができる。
【0032】
図5は本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第三の実施形態を示した断面図である。
【0033】
第三実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造は、図5に示すように、柱支持構造体30の上面に第一実施形態の凹部31よりも深い凹部33が形成されており、プレキャストコンクリート柱10の底面10aが、凹部33内に挿入されて柱支持構造体30の上端面30aよりも下方に位置することを特徴とする。
【0034】
プレキャストコンクリート柱10の内部には、第一実施形態と同様のカプラー12と連通孔13とが設けられており、カプラー12の下部には、カプラー12の下端部より拡径した拡径円筒部15を構成するスリーブ16が連続的に連結している。拡径円筒部15は、凹部33内に挿入される部分と同等の高さで形成されている。すなわち、本実施形態では、連通孔13、カプラー12およびスリーブ16にて充填材注入流路14が区画形成されていることとなる。
【0035】
プレキャストコンクリート柱10は、スペーサ20の高さ寸法と同等の長さが、凹部33内に挿入されている。すなわち、スリーブ16の高さが、スペーサ20の高さと同等となっている。一方、凹部33の深さ寸法は、スリーブ16の高さ寸法とスペーサ20の高さ寸法とを合わせた長さと同等となっている。また、充填材50は、柱支持構造体30の上端面30aの高さまで凹部33内に充填されている。これによって、プレキャストコンクリート柱10の底部は、スリーブ16の高さ寸法だけ、充填材50内に収容されており、プレキャストコンクリート柱10の外側面10bが充填材50に密着することとなる。
【0036】
以上のような構成のプレキャストコンクリート柱の接続構造によれば、第一実施形態と同様の作用効果の他に、以下のような作用効果を得られる。
【0037】
本実施形態によれば、充填材50がプレキャストコンクリート柱10の底面10aだけでなく外側面10bにも接することになるので、プレキャストコンクリート柱10は図5中の左右前後方向から充填材50に支持されることとなり、プレキャストコンクリート柱10と柱支持構造体30とのせん断方向の接合強度をさらに高めることができる。
【0038】
図6は本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第四の実施形態を示した断面図である。図7は本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第四の実施形態の施工手順を示した断面図である。
【0039】
第三実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造では、凹部33と充填材注入流路14の全体に充填材50が充填されているのに対して、第四実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造は、図6に示すように、プレキャストコンクリート柱10の充填材注入流路14のカプラー12および連通孔13の内部に、継手用充填材51が充填されていることを特徴とする。なお、その他の構成については、図5に示した第三実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0040】
継手用充填材51は、充填材注入流路14を介して凹部33および拡径円筒部15に充填材50を充填した後に、充填材注入流路14のカプラー12および連通孔13の内部に充填される。継手用充填材51は、第二実施形態と同様に、膨張性充填材にて構成されており、この継手用充填材51がカプラー12内で硬化することにより、膨張力が主筋11、アンカー筋32およびカプラー12の全面に均等に作用し、継手部を完全な剛接合状態とすることができる。これによって、接合構造の固定強度をさらに高めることができる。なお、充填材50は、柱支持構造体30の上端面30aの高さまで充填されており、凹部33およびプレキャストコンクリート柱10の拡径円筒部15に充填されている。
【0041】
次に、前記構成のプレキャストコンクリート柱の接合構造の施工手順を、図7を参照しながら説明する。
【0042】
まず、図7の(a)に示すように、図示しない型枠内に配筋を施した後、その型枠内に高強度コンクリートを打設して、上面に凹部33を有する柱支持構造体30を形成する。ここで、凹部33の四隅の底面33aからアンカー筋32が上方に突出するように配置しておく。
【0043】
次に、図7の(b)に示すように、柱支持構造体30の凹部33の略中央部にスペーサ20を設置した後に、工場等で超高強度コンクリートによって予め形成しておいたプレキャストコンクリート柱10を、凹部33の上方から建て込んで、スペーサ20上に載置する。このとき、アンカー筋32の上部が、プレキャストコンクリート柱10の底面10aから拡径円筒部15を通過してカプラー12内に挿入される。このとき、スペーサ20を設けたことによって、プレキャストコンクリート柱10の設置高さを容易にガイドすることができる。
【0044】
その後、プレキャストコンクリート柱10の角度修正等の建て入れ精度の調整を行う。このとき、スペーサ20は円錐台状に形成されているので、その上端の周縁部の出隅部の角度が鈍角になっており、プレキャストコンクリート柱10を傾けやすく角度修正が行いやすい。また、スペーサ20の出隅部の破損も発生しにくい。
【0045】
プレキャストコンクリート柱10の建て入れ精度の調整が完了した後に、図7の(c)に示すように、プレキャストコンクリート柱10の周囲に、凹部31の周縁部を覆う板状の充填材オーバーフロー防止板21を設置する。その後、充填材50を、プレキャストコンクリート柱10の側面に開口する下側の連通孔13の一箇所から注入して、カプラー12およびスリーブ16内を通過させて、凹部33に充填する。このとき、充填材50は、適度な流動性を有しているので、充填材注入流路14内を円滑に通過できる。充填材50で凹部33および拡径円筒部15が充たされたところで、充填材50の供給を停止する。このとき、充填材オーバーフロー防止板21を設けているので、充填材50が、柱支持構造体30の表面に溢れ出ることはない。なお、充填材50はその供給量を管理することで、凹部33および拡径円筒部15が充たされることを検知すればよい。その後、継手用充填材51を、各カプラー12の下側に形成された連通孔13から順次注入して各カプラー12内に供給して充填する。このとき、各カプラー12の上側の貫通孔13からは注入された充填材50が溢れるので、その高さまで充填材50が充填されたことを確認できる。その後、所定時間養生して充填材50が固まったら、充填材オーバーフロー防止板21を取り除いて、かかる接合構造の施工が完了する。
【0046】
以上のような構成のプレキャストコンクリート柱の接続構造によれば、第三実施形態と同様の作用効果の他に、継手用充填材51がカプラー12内で硬化することにより、継手部を完全な剛接合状態とすることができる。これによって、接合構造の固定強度をさらに高めることができるといった作用効果を得られる。
【0047】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、プレキャストコンクリート柱10および凹部31,33の形状は断面正方形に限られるものではなく、断面円形や断面多角形等の他の形状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第一の実施形態を示した断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】(a)乃至(c)は、本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第一の実施形態の施工手順を順次示した断面図である。
【図4】本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第二の実施形態を示した断面図である。
【図5】本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第三の実施形態を示した断面図である。
【図6】本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第四の実施形態を示した断面図である。
【図7】(a)乃至(d)は、本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第四の実施形態の施工手順を順次示した断面図である。
【図8】従来のプレキャストコンクリート柱と梁材との接合構造を示した側面図である。
【図9】接合部の強度を評価するためのコンクリート供試体を示した斜視図である。
【図10】従来のプレキャストコンクリート柱と床スラブとの接合構造を示した側面図である。
【符号の説明】
【0049】
10 プレキャストコンクリート柱
10a 底面
30 柱支持構造体
31 凹部
31a 底面
33 凹部
33a 底面
50 充填材
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高強度のプレキャストコンクリート柱を、このプレキャストコンクリート柱よりも強度が低い柱支持構造体に接合する接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレキャストコンクリート柱の接合部には、プレキャストコンクリート柱自身の強度よりも強い強度を有するグラウト材を充填するのが一般的である。しかし、昨今のコンクリート技術の進歩により、流動性の高いグラウト材よりも強度が高い超高強度コンクリートによるプレキャストコンクリート柱が実現した。
【0003】
このような技術の進歩により、現在では、図8に示すような接合形式で、鉄筋コンクリート造の建築物を構築する場合がある。図8に示すように、同じ強度の超高強度プレキャスト部材である柱100および梁101の間にこれらの部材よりも低強度のグラウト材102を充填する場合には、図9のような形状のコンクリート供試体103で接合部の強度を評価することが提案されている(特許文献1参照)。このコンクリート供試体103は、同じ強度の超高強度プレキャスト部材103a,103aの間にこれらの部材よりも低強度のグラウト材103bを充填して形成されている。
【0004】
ところで、超高強度ではない普通コンクリートのプレキャストコンクリート柱の接合構造としては、特許文献2に示すようなものがあった。この接合構造は、鉛直部材(プレキャストコンクリート柱)の下端面に凹陥部を設けて、水平部材(柱支持構造体)の上端面に鉛直部材下端部が嵌入できる凹欠部を設け、この凹欠部に下端部が嵌入するように鉛直部材を建て入れて、凹陥部と凹欠部にグラウト材を注入して充填するようになっている。
【特許文献1】特開2007−46416号公報
【特許文献2】特開平5−230877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超高強度プレキャストコンクリート柱を用いた建築物の上層階では、図8のような接合構造が一般的であるので、特許文献1の評価方法を適用することが可能である。しかし、図10に示すように、一階の柱脚部などにおいて、柱下部に、柱100よりも断面が大幅に大きい床スラブ104などの柱支持構造体がある場合には、柱支持構造体(床スラブ104)を柱100と同じ強度で設計する必要はなく、その強度を低くすることができる。このような接合構造では、特許文献1の評価方法を適用することができず、現状では、簡単な計算で接合部の強度を評価することができない。
【0006】
また、特許文献2の接合構造は、普通コンクリートのプレキャストコンクリート柱の接合構造であって、超高強度コンクリートのプレキャストコンクリート柱の接合構造ではないので、充填材であるグラウト材の強度が、鉛直部材(プレキャストコンクリート柱)および水平部材(柱支持構造体)の強度よりも高くなっている。そのため、グラウト材を柱の一部と見なすことができず、簡単な計算で接合部の強度を評価することができない。
【0007】
そこで、本発明は前記の問題を解決すべく案出されたものであって、簡単な計算で接合部の強度を評価することができるプレキャストコンクリート柱の接合構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、プレキャストコンクリート柱を、当該プレキャストコンクリート柱よりも強度が低い柱支持構造体に接合する接合構造において、前記柱支持構造体の上面に形成された凹部の底面と、その上方に所定の間隔をあけて配置された前記プレキャストコンクリート柱との間に、前記柱支持構造体の強度以上で前記プレキャストコンクリート柱の強度未満の強度を有する充填材を充填して接合部を形成したことを特徴とするプレキャストコンクリート柱の接合構造である。
【0009】
ここで、プレキャストコンクリート柱は、コンクリート設計基準強度が150N/mm2以上の超高強度コンクリートにて形成された超高強度プレキャストコンクリート柱を示し、柱支持構造体も普通コンクリートよりも高い強度を有しているものとする。柱支持構造体は、柱の下部に配置された梁、床スラブや基礎等の柱を支持する構造体をいう。
【0010】
このような構成によれば、充填材は、柱支持構造体の内部に充填されて、柱支持構造体の強度以上でプレキャストコンクリート柱の強度未満の強度を有しているので、プレキャストコンクリート柱の一部ではなく柱支持構造体の一部と見なすことができる。したがって、一般的な簡単な計算で接合部の強度を評価することができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記プレキャストコンクリート柱の底面が、凹部内に挿入されて前記柱支持構造体の上端面よりも下方に位置することを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート柱の接合構造である。
【0012】
このような構成によれば、充填材がプレキャストコンクリート柱の底面だけでなく側面にも接することになるので、プレキャストコンクリート柱と柱支持構造体とのせん断方向の接合強度をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡単な計算で、プレキャストコンクリート柱と柱支持構造体との接合部の強度を評価することができるといった優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第一の実施形態を示した断面図である。図2は図1のA−A線断面図である。図3は本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第一の実施形態の施工手順を示した断面図である。
【0016】
第一実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造は、図1に示すように、プレキャストコンクリート柱10を、このプレキャストコンクリート柱10よりも強度が低い柱支持構造体30に接合する構造であって、柱支持構造体30の上面に形成された凹部31の底面31aと、その上方に所定の間隔をあけて配置されたプレキャストコンクリート柱10との間に、柱支持構造体30の強度以上でプレキャストコンクリート柱10の強度未満の強度を有する充填材50を充填して接合部を形成したことを特徴とする。
【0017】
本実施形態において、プレキャストコンクリート柱10は、コンクリート設計基準強度が例えば150N/mm2の超高強度コンクリートにて形成された超高強度プレキャストコンクリート柱である。また、柱支持構造体30は、普通コンクリートよりも高い強度(例えば、100N/mm2)の高強度コンクリートにて形成されている。柱支持構造体30は、柱の下部に配置された梁、床スラブや基礎等の柱を支持する構造体にて構成されている。
【0018】
プレキャストコンクリート柱10は、図1及び図2に示すように、断面正方形を呈しており、その下端部の四隅近傍には、プレキャストコンクリート柱10内部の主筋11の下端部と、柱支持構造体30から上方に延出するアンカー筋32の上端部が上下からそれぞれ挿入されるカプラー12が内蔵されている。主筋11およびアンカー筋32は、異径鉄筋が用いられている。カプラー12は、内部に鉄筋を挿入して充填材を充填することで鉄筋の機械式継手を構成する部材であって、内部に異径鉄筋の凹凸に対応する凹凸(図示せず)が形成されている。カプラー12は、本実施形態では、円筒状を呈して縦方向に配置されており、長手方向(高さ方向)中間部の径が最も大きく、この大径部分から上下端に向かって徐々に縮径した形状となっている。カプラー12の下端部は、プレキャストコンクリート柱10の下端部で開放されており、アンカー筋32の挿入口となっている。カプラー12の側面には、プレキャストコンクリート柱10の側面から繋がる連通孔13が形成されている。この連通孔13は、カプラー12内に充填材50を供給するために形成されており、また、一部の連通孔13は、カプラー12を介してプレキャストコンクリート柱10の下部に充填材50を注入するために用いられ、この連通孔13とカプラー12の内部空間とで、充填材注入流路14が構成されている。連通孔13は、上下方向に所定の間隔をあけて二箇所に形成されている。
【0019】
柱支持構造体30の上面に形成された凹部31は、断面形状が、プレキャストコンクリート柱10の断面より大きい正方形を呈しており、プレキャストコンクリート柱10を接合するのに必要な所定の深さ、好ましくは10mm以上の深さを有している。凹部31の外周面は、プレキャストコンクリート柱10の外周面から、深さ寸法と同等の長さ外側に広がった位置に形成されている。また、凹部31の底面31aの略中央部には、スペーサ20が配置されている。
【0020】
スペーサ20は、凹部31の底面31a上にプレキャストコンクリート柱10を所定の間隔をあけて配置するためのものである。スペーサ20は硬質樹脂やコンクリート等の材質にて形成されており、建込み施工時に上部に載置されるプレキャストコンクリート柱10の荷重に耐えられるように構成されている。スペーサ20は、凹部31の深さ寸法と同等の高さ寸法を備えており、プレキャストコンクリート柱10の下端部が、柱支持構造体30の上面と同等の高さに配置されるようになっている。スペーサ20は、上側が小径となる円錐台状に形成されており、上端周縁部の出隅部の角度が鈍角になるようになっている。
【0021】
充填材50は、グラウトモルタルにて構成されている。このグラウトモルタルは、柱支持構造体30の強度以上でプレキャストコンクリート柱10の強度未満の強度(例えば、130N/mm2)を発現できるとともに、前記の充填材注入流路14内を通過できる流動性を備えたものが用いられる。
【0022】
次に、前記構成のプレキャストコンクリート柱の接合構造の施工手順を、図3を参照しながら説明する。
【0023】
まず、図3の(a)に示すように、図示しない型枠内に配筋を施した後、その型枠内に高強度コンクリートを打設して、上面に凹部31を有する柱支持構造体30を形成する。ここで、凹部31の四隅の底面31aからアンカー筋32が上方に突出するように配置しておく。
【0024】
次に、図3に(b)に示すように、柱支持構造体30の凹部31の略中央部にスペーサ20を設置した後に、工場等で超高強度コンクリートによって予め形成しておいたプレキャストコンクリート柱10を、凹部31の上方から建て込んで、スペーサ20上に載置する。このとき、アンカー筋32の上部が、プレキャストコンクリート柱10の底部からカプラー12内に挿入される。このとき、スペーサ20を設けたことによって、プレキャストコンクリート柱10の設置高さを容易にガイドすることができる。
【0025】
その後、プレキャストコンクリート柱10の角度修正等の建て入れ精度の調整を行う。このとき、スペーサ20は円錐台状に形成されているので、その上端の周縁部の出隅部の角度が鈍角になっているので、プレキャストコンクリート柱10を傾けやすく角度修正が行いやすい。また、スペーサ20の出隅部の破損も発生しにくい。
【0026】
プレキャストコンクリート柱10の建て入れ精度の調整が完了した後に、図3の(c)に示すように、プレキャストコンクリート柱10の周囲に、凹部31の周縁部を覆う板状の充填材オーバーフロー防止板21を設置する。その後、充填材50を、プレキャストコンクリート柱10の側面に開口する下側の連通孔13の一箇所から注入して、充填材注入流路14内を通過させて、凹部31に充填する。このとき、充填材50は、適度な流動性を有しているので、充填材注入流路14内を円滑に通過できる。充填材50で凹部31が充たされた後は、充填材注入流路14内が充たされるまで、充填材50が供給される。このとき、充填材オーバーフロー防止板21を設けているので、充填材50が、柱支持構造体30の表面に溢れ出ることはない。また、充填材50の注入に用いられた貫通孔13以外の貫通孔13からは充填材50が溢れるので、その貫通孔13の高さまで充填材50が充填されたことを確認できる。その後、所定時間養生して充填材50が固まったら、充填材オーバーフロー防止板21を取り除いて、かかる接合構造の施工が完了する。
【0027】
以上のように施工されたプレキャストコンクリート柱10の接合構造によれば、柱支持構造体30の強度以上でプレキャストコンクリート柱10の強度未満の強度を有している充填材50を、柱支持構造体30の面内に形成された凹部31に充填したことによって、充填材50は、プレキャストコンクリート柱10の一部ではなく柱支持構造体30の一部と見なすことができる。したがって、かかる接合構造では、プレキャストコンクリート柱10を柱支持構造体30に単純に接合したものとして構造計算をすることができるので、一般的で簡単な公知の計算で接合部の強度を評価できる。
【0028】
また、凹部31の底面31a上に、スペーサ20を設けたことによって、プレキャストコンクリート柱10の高さ方向位置を容易に決定できる。さらに、スペーサ20は円錐台状であるので、プレキャストコンクリート柱10の建入角度を容易に調整することができるとともに、スペーサ20上でプレキャストコンクリート柱10を傾けやすく、建入角度の調整がさらに容易になる。
【0029】
図4は本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第二の実施形態を示した断面図である。
【0030】
第一実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造では、凹部31と充填材注入流路14の全体に充填材50が充填されているのに対して、第二実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造は、図4に示すように、プレキャストコンクリート柱10の充填材注入流路14の内部に、継手用充填材51が充填されていることを特徴とする。なお、その他の構成については、図1に示した第一実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0031】
継手用充填材51は、充填材注入流路14を介して凹部31に充填材50を充填した後に、充填材注入流路14内に充填される。継手用充填材51は、例えば、膨張性充填材にて構成されており、この継手用充填材51がカプラー12内で硬化することにより、膨張力が主筋11、アンカー筋32およびカプラー12の全面に均等に作用し、継手部を完全な剛接合状態とすることができる。これによって、接合構造の固定強度をさらに高めることができる。
【0032】
図5は本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第三の実施形態を示した断面図である。
【0033】
第三実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造は、図5に示すように、柱支持構造体30の上面に第一実施形態の凹部31よりも深い凹部33が形成されており、プレキャストコンクリート柱10の底面10aが、凹部33内に挿入されて柱支持構造体30の上端面30aよりも下方に位置することを特徴とする。
【0034】
プレキャストコンクリート柱10の内部には、第一実施形態と同様のカプラー12と連通孔13とが設けられており、カプラー12の下部には、カプラー12の下端部より拡径した拡径円筒部15を構成するスリーブ16が連続的に連結している。拡径円筒部15は、凹部33内に挿入される部分と同等の高さで形成されている。すなわち、本実施形態では、連通孔13、カプラー12およびスリーブ16にて充填材注入流路14が区画形成されていることとなる。
【0035】
プレキャストコンクリート柱10は、スペーサ20の高さ寸法と同等の長さが、凹部33内に挿入されている。すなわち、スリーブ16の高さが、スペーサ20の高さと同等となっている。一方、凹部33の深さ寸法は、スリーブ16の高さ寸法とスペーサ20の高さ寸法とを合わせた長さと同等となっている。また、充填材50は、柱支持構造体30の上端面30aの高さまで凹部33内に充填されている。これによって、プレキャストコンクリート柱10の底部は、スリーブ16の高さ寸法だけ、充填材50内に収容されており、プレキャストコンクリート柱10の外側面10bが充填材50に密着することとなる。
【0036】
以上のような構成のプレキャストコンクリート柱の接続構造によれば、第一実施形態と同様の作用効果の他に、以下のような作用効果を得られる。
【0037】
本実施形態によれば、充填材50がプレキャストコンクリート柱10の底面10aだけでなく外側面10bにも接することになるので、プレキャストコンクリート柱10は図5中の左右前後方向から充填材50に支持されることとなり、プレキャストコンクリート柱10と柱支持構造体30とのせん断方向の接合強度をさらに高めることができる。
【0038】
図6は本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第四の実施形態を示した断面図である。図7は本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第四の実施形態の施工手順を示した断面図である。
【0039】
第三実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造では、凹部33と充填材注入流路14の全体に充填材50が充填されているのに対して、第四実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造は、図6に示すように、プレキャストコンクリート柱10の充填材注入流路14のカプラー12および連通孔13の内部に、継手用充填材51が充填されていることを特徴とする。なお、その他の構成については、図5に示した第三実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0040】
継手用充填材51は、充填材注入流路14を介して凹部33および拡径円筒部15に充填材50を充填した後に、充填材注入流路14のカプラー12および連通孔13の内部に充填される。継手用充填材51は、第二実施形態と同様に、膨張性充填材にて構成されており、この継手用充填材51がカプラー12内で硬化することにより、膨張力が主筋11、アンカー筋32およびカプラー12の全面に均等に作用し、継手部を完全な剛接合状態とすることができる。これによって、接合構造の固定強度をさらに高めることができる。なお、充填材50は、柱支持構造体30の上端面30aの高さまで充填されており、凹部33およびプレキャストコンクリート柱10の拡径円筒部15に充填されている。
【0041】
次に、前記構成のプレキャストコンクリート柱の接合構造の施工手順を、図7を参照しながら説明する。
【0042】
まず、図7の(a)に示すように、図示しない型枠内に配筋を施した後、その型枠内に高強度コンクリートを打設して、上面に凹部33を有する柱支持構造体30を形成する。ここで、凹部33の四隅の底面33aからアンカー筋32が上方に突出するように配置しておく。
【0043】
次に、図7の(b)に示すように、柱支持構造体30の凹部33の略中央部にスペーサ20を設置した後に、工場等で超高強度コンクリートによって予め形成しておいたプレキャストコンクリート柱10を、凹部33の上方から建て込んで、スペーサ20上に載置する。このとき、アンカー筋32の上部が、プレキャストコンクリート柱10の底面10aから拡径円筒部15を通過してカプラー12内に挿入される。このとき、スペーサ20を設けたことによって、プレキャストコンクリート柱10の設置高さを容易にガイドすることができる。
【0044】
その後、プレキャストコンクリート柱10の角度修正等の建て入れ精度の調整を行う。このとき、スペーサ20は円錐台状に形成されているので、その上端の周縁部の出隅部の角度が鈍角になっており、プレキャストコンクリート柱10を傾けやすく角度修正が行いやすい。また、スペーサ20の出隅部の破損も発生しにくい。
【0045】
プレキャストコンクリート柱10の建て入れ精度の調整が完了した後に、図7の(c)に示すように、プレキャストコンクリート柱10の周囲に、凹部31の周縁部を覆う板状の充填材オーバーフロー防止板21を設置する。その後、充填材50を、プレキャストコンクリート柱10の側面に開口する下側の連通孔13の一箇所から注入して、カプラー12およびスリーブ16内を通過させて、凹部33に充填する。このとき、充填材50は、適度な流動性を有しているので、充填材注入流路14内を円滑に通過できる。充填材50で凹部33および拡径円筒部15が充たされたところで、充填材50の供給を停止する。このとき、充填材オーバーフロー防止板21を設けているので、充填材50が、柱支持構造体30の表面に溢れ出ることはない。なお、充填材50はその供給量を管理することで、凹部33および拡径円筒部15が充たされることを検知すればよい。その後、継手用充填材51を、各カプラー12の下側に形成された連通孔13から順次注入して各カプラー12内に供給して充填する。このとき、各カプラー12の上側の貫通孔13からは注入された充填材50が溢れるので、その高さまで充填材50が充填されたことを確認できる。その後、所定時間養生して充填材50が固まったら、充填材オーバーフロー防止板21を取り除いて、かかる接合構造の施工が完了する。
【0046】
以上のような構成のプレキャストコンクリート柱の接続構造によれば、第三実施形態と同様の作用効果の他に、継手用充填材51がカプラー12内で硬化することにより、継手部を完全な剛接合状態とすることができる。これによって、接合構造の固定強度をさらに高めることができるといった作用効果を得られる。
【0047】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、プレキャストコンクリート柱10および凹部31,33の形状は断面正方形に限られるものではなく、断面円形や断面多角形等の他の形状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第一の実施形態を示した断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】(a)乃至(c)は、本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第一の実施形態の施工手順を順次示した断面図である。
【図4】本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第二の実施形態を示した断面図である。
【図5】本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第三の実施形態を示した断面図である。
【図6】本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第四の実施形態を示した断面図である。
【図7】(a)乃至(d)は、本発明に係るプレキャストコンクリート柱の接合構造の第四の実施形態の施工手順を順次示した断面図である。
【図8】従来のプレキャストコンクリート柱と梁材との接合構造を示した側面図である。
【図9】接合部の強度を評価するためのコンクリート供試体を示した斜視図である。
【図10】従来のプレキャストコンクリート柱と床スラブとの接合構造を示した側面図である。
【符号の説明】
【0049】
10 プレキャストコンクリート柱
10a 底面
30 柱支持構造体
31 凹部
31a 底面
33 凹部
33a 底面
50 充填材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート柱を、当該プレキャストコンクリート柱よりも強度が低い柱支持構造体に接合する接合構造において、
前記柱支持構造体の上面に形成された凹部の底面と、その上方に所定の間隔をあけて配置された前記プレキャストコンクリート柱との間に、前記柱支持構造体の強度以上で前記プレキャストコンクリート柱の強度未満の強度を有する充填材を充填して接合部を形成した
ことを特徴とするプレキャストコンクリート柱の接合構造。
【請求項2】
前記プレキャストコンクリート柱の底面が、凹部内に挿入されて前記柱支持構造体の上端面よりも下方に位置する
ことを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート柱の接合構造。
【請求項1】
プレキャストコンクリート柱を、当該プレキャストコンクリート柱よりも強度が低い柱支持構造体に接合する接合構造において、
前記柱支持構造体の上面に形成された凹部の底面と、その上方に所定の間隔をあけて配置された前記プレキャストコンクリート柱との間に、前記柱支持構造体の強度以上で前記プレキャストコンクリート柱の強度未満の強度を有する充填材を充填して接合部を形成した
ことを特徴とするプレキャストコンクリート柱の接合構造。
【請求項2】
前記プレキャストコンクリート柱の底面が、凹部内に挿入されて前記柱支持構造体の上端面よりも下方に位置する
ことを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート柱の接合構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2009−114738(P2009−114738A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289223(P2007−289223)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
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