説明

ホスフィノフェロセン基含有オリゴマー

【課題】アミノ化反応などの触媒の成分として用いられるホスフィノフェロセン基含有オリゴマー、それと遷移金属とを含んでおりアミノ化反応などに用いることができ簡便に回収され再使用可能で安価な不均一触媒を提供する。
【解決手段】ホスフィノフェロセン基含有オリゴマーは、ホスフィノフェロセン基が結合しているポリオール脱水素残基を含有する繰返しユニットを有し、その繰返しにより数平均分子量を1000〜10000とするものである。不均一触媒は、このホスフィノフェロセン基含有オリゴマーと、それが配位する遷移金属とを含んでおり、溶媒不溶とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正孔輸送材料となるトリアリールアミン化合物のようなアミン化合物をアミノ化反応によって製造するための触媒に用いられるホスフィノフェロセン基含有オリゴマーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トリアリールアミン化合物は、高い正孔輸送能を有することから、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイに代わる薄型ディスプレイに用いられる有機エレクトロルミネセンス(EL)ディスプレイの正孔輸送材料として有用な化合物である。有機ELディスプレイがフラットパネルディスプレイとして注目され、それの市場展開での期待が増していることから、トリアリールアミン化合物の需要が、ますます高まっている。
【0003】
従来、下記化学式
【化1】

で例示されるTPDと称される化合物(1)やα−NPDと称される化合物(2)のようなビフェニレン基含有ジアミン系トリアリールアミン化合物を始めとする様々なトリアリールアミン化合物は、Pd系触媒又はCu系触媒を均一系触媒として用いたアミノ化反応により製造されている。
【0004】
例えば、非特許文献1に、下記化学反応式
【化2】

で示すようにトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pddba)とその中心金属Pdの配位子となる1,1−ビス(ジアリールホスフィノ)フェロセン(DPPF)とを均一系触媒として用いて、トリアリールアミン化合物(3)を、バックワルド−ハートウィックアミノ化反応により製造する方法が、開示されている。しかしこのような製造方法は、これらの高価な遷移金属系触媒を用いなければならず、しかも触媒の回収や再利用ができず金属Pdの廃棄処理を必要とすることから製造コストが高く、工業的な大量製造に向かない。
【0005】
一方、本発明者による特許文献1において、下記化学式(4)
【化3】

で例示されるように、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル化合物の5位が(メタ)アクリロイル基複数含有化合物の一つの(メタ)アクリロイル基の不飽和末端で置換され、別な2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル化合物の5’位が該(メタ)アクリロイル基複数含有化合物の他の(メタ)アクリロイル基の不飽和末端で置換されており、その繰返しにより、高分子量化されたビス(ジフェニルホスフィノ)ビナフチル基含有ポリマー(4)が、開示されている。このようなビス(ジフェニルホスフィノ)ビナフチル基含有ポリマー(4)とルテニウム化合物とから得られるルテニウム触媒を不均一触媒として用いると、不斉水素化反応を行うことができ、さらにルテニウム触媒を回収して用いて効率良く不斉水素化反応を繰返し行うことができている。このような不斉水素化反応は、この不均一系触媒を用いた方が、汎用の均一系触媒よりも高収率、高不斉収率で不斉な生成物を与える。
【0006】
また、本発明者らは、このビス(ジフェニルホスフィノ)ビナフチル基含有ポリマーを用いて、数種のバックワルドハート−ウィックのアミノ化反応を行い、ジアリールアミンアリールアルキルアミン、アリールジアルキルアミンのような種々のアミン化合物を製造できることを見出しているが、今のところトリアリールアミン化合物の製造には至っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ケリー ランカスター(Kelly Lancaster)ら、2009年、ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサエティ(Journal ofthe American Chemical Society)、第131巻、p.1717-1723
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2008−018195号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、アミノ化反応などの触媒の成分として用いられるホスフィノフェロセン基含有オリゴマー、そのオリゴマーと遷移金属とを含んでおりアミノ化反応などに用いることができ簡便に回収され再使用可能で安価な不均一触媒、及びこの触媒を用いて、ラボスケールからプラントスケールまでの広範囲でアミノ化反応によってアミノ化炭化水素芳香族化合物やアミノ化複素芳香族化合物、とりわけアリールアミン化合物のような各種アミン化合物を製造できる簡易で収率及び効率の良いアミノ化方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載のホスフィノフェロセン基含有オリゴマーは、ホスフィノフェロセン基が結合しているポリオール脱水素残基を含有する繰返しユニットを有し、その繰返しにより数平均分子量を1000〜10000とすることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載のホスフィノフェロセン基含有オリゴマーは、請求項1に記載されたもので、前記ホスフィノフェロセン基が、ビス(ジアリールホスフィノ)フェロセン基又はビス(ジアルキルホスフィノ)フェロセン基であり、それのフェロセン骨格の両シクロペンタジエン環が夫々、異なる前記繰返しユニット中の前記ポリオール脱水素残基で置換されて前記結合していることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載のホスフィノフェロセン基含有オリゴマーは、請求項1に記載されたもので、前記ホスフィノフェロセン基と、前記ポリオール脱水素残基とが、カルボニル基、飽和又は不飽和カルボニル基、エーテル基、炭素数2〜8の不飽和アルケニル基、エステル基、アミド基、イミノ基、及びアミノ基から選ばれる少なくとも何れかのリンカー基を介して、前記結合していることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載のホスフィノフェロセン基含有オリゴマーは、請求項1に記載されたもので、前記ポリオール脱水素残基が、炭素数2〜10のジオール、トリオール及びテトラオールから選ばれる何れかのポリオールの水酸基が脱水素した残基であることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載のホスフィノフェロセン基含有オリゴマーは、請求項2に記載されたもので、前記ビス(ジアリールホスフィノ)フェロセン基中のアリールが、同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲノ基、ニトロ基、フェニル基及びナフチル基から選ばれる少なくとも何れかの置換基で置換されたフェニル又はナフチルであり、前記ビス(ジアルキルホスフィノ)フェロセン基中のアルキルが、同一又は異なり、炭素数1〜8の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状のアルキルであることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の不均一触媒は、請求項1〜5の何れかに記載のホスフィノフェロセン基含有オリゴマーと、それが配位している遷移金属とを含んでおり、溶媒不溶であることを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の不均一触媒は、請求項6に記載されたもので、アミン化合物のアミノ基が、ハロゲン化炭化水素芳香族化合物及びハロゲン化複素芳香族化合物の何れかのハロゲン基、又は炭化水素芳香族トリフラート化合物及び複素芳香族トリフラート化合物の何れかのトリフラート基と置換するアミノ化用触媒であることを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載のアミノ化方法は、請求項6に記載の不均一触媒の存在下、有機溶媒及び/又は水からなる溶媒中で、1級又は2級アミン化合物のアミノ基が、ハロゲン化炭化水素芳香族化合物及びハロゲン化複素芳香族化合物の何れかのハロゲン基、又は炭化水素芳香族トリフラート化合物及び複素芳香族トリフラート化合物の何れかのトリフラート基に反応して置換するアミノ化により、アミノ化炭化水素芳香族化合物又はアミノ化複素芳香族化合物を得た後、前記不均一触媒を、濾別することを特徴とする。
【0018】
請求項9に記載のアミノ化方法は、請求項8に記載されたもので、前記1級又は2級アミン化合物が、炭素数1〜20の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状のアルキル基、炭素数6〜24の炭化水素芳香族基、及び/又は複素芳香族基を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のホスフィノフェロセン基含有オリゴマーは、パラジウムやルテニウムなどの遷移金属に配位するリガンドとなる成分で、不均一触媒にするのに用いられるものである。
【0020】
このオリゴマーを遷移金属に配位させた触媒は、水や有機溶媒に不溶な固体であり、トリアリールアミン化合物のような各種アミン化合物へ誘導するアミノ化反応などの不均一触媒として用いることができ、所望のアミン化合物を、ナノモル乃至ミリモルレベルのラボスケールの少量から、グラム乃至トンレベルのプラントスケールの大量に至るまでの広範囲で、収率良く、製造するのに用いることができる。しかも、この不均一触媒は、濾過のような簡易な操作だけで、反応系から簡便に単離して、効率良く回収できるうえ、アミノ化反応などに再使用しても同様に所望のアミン化合物を収率良く、製造するのに、繰返し用いることができるものである。この不均一触媒は、高価な遷移金属を有効に無駄なく活用でき、回収効率、再使用効率が良いので、経済性に優れている。また、環境を汚染しないよう使用後の触媒中の遷移金属を分離精製するような煩雑な後処理を必要とせず、環境保全に資する。
【0021】
この不均一触媒は、遷移金属で触媒作用する各種反応に用いることができる。特にこの不均一触媒を用いたアミノ化方法によれば、とりわけ1級又は2級アミンを、選択的に、ハロゲン化炭化水素芳香族化合物、ハロゲン化複素芳香族化合物、炭化水素芳香族トリフラート化合物、複素芳香族トリフラート化合物のような芳香族化合物に反応させて、複雑で立体障害の大きなトリアリールアミン化合物のような各種アミン化合物を、効率良く、製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0023】
本発明のホスフィノフェロセン基含有オリゴマーは、下記化学式(11)
【化4】

(式(11)中、−Z−はポリオールHO−Z−(OH)の水酸基が脱離した残基であり、−Y−及び−Y−はポリオール水酸基脱水素残基とホスフィノフェロセン基の一方のシクロペンタジエン環とを結合させるスペーサーとなるリンカー基であり、nはポリオール水酸基脱水素残基のポリオールに由来しそのポリオールの水酸基数に応じた1〜3の数)で表される繰返しユニットが、複数繋がったものである。
【0024】
このホスフィノフェロセン基含有オリゴマーは、前記化学式(11)の[ ]内で示されるような、ホスフィノフェロセン基に結合しているポリオール脱水素残基−O−Z−O−を含有する繰返しユニットを有し、その繰返しにより数平均分子量を1000〜10000、好ましくは、後述の合成実施例で示される数平均分子量の範囲内、又は質量分析で分子イオン最大ピークを有するものである。
【0025】
このホスフィノフェロセン基含有オリゴマーは、ある一つの繰返しユニット内のホスフィノフェロセン基の一方のシクロペンタジエン環が、その繰返しユニット内のリンカー基−Y−と結合し、又、その繰返しユニット内のホスフィノフェロセン基の他方のシクロペンタジエン環が、隣り合う別な繰返しユニット内のリンカー基−Y−と結合し、それが繰返されていることによって、繰返しユニットが複数、結合して、直鎖状乃至はデンドリマー状に、連なっている。
【0026】
ホスフィノフェロセン基が、置換基を有していてもよいビス(ジアリールホスフィノ)フェロセン基又はビス(ジアルキルホスフィノ)フェロセン基であることが好ましい。このホスフィノフェロセン基中のリン原子は、パラジウムやルテニウム等の反応触媒中心金属に配位するためのものである。ビス(ジアリールホスフィノ)フェロセン基中のアリールが、同一又は異なり、炭素数1〜8で直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状のアルキル基、炭素数1〜8で直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状のアルコキシ基、フッ素、塩素、ヨウ素のようなハロゲノ基、ニトロ基、フェニル基、ナフチル基のような置換基で置換されていてもよいフェニル又はナフチルであることが好ましい。また、ビス(ジアルキルホスフィノ)フェロセン基中のアルキルが、同一又は異なり、フッ素、塩素、ヨウ素のようなハロゲノ基、ニトロ基のような置換基で置換されていてもよい炭素数1〜8の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状のアルキルであることが好ましい。
【0027】
ホスフィノフェロセン基とポリオール脱水素残基とを結合するリンカー基−Y−及び−Y−は、同一又は異なり、カルボニル基例えば−CO−;不飽和カルボニル基例えば−CH=CH−CO−、−CH=C(CH)−CO−、−CO−CH=CH−、−CO−C(CH)=CH−や、それらの飽和カルボニル基;エーテル基;炭素数2〜8の不飽和アルケニル基;エステル基;アミド基;イミノ基;及びアミノ基のようなリンカー基であることが好ましい。このようなリンカー基−Y−及び−Y−は、ウィッティヒ−ホルナー−エモンズ(Wittig−Horner−Emmons)反応、クライゼン反応、アルドール反応、ウィッティヒ反応、アルデヒド基の還元に続くS2反応のような求核置換反応、ポリオールから誘導したアミン類との縮合反応、還元アミノ化反応などにより、形成される。
【0028】
ポリオール脱水素残基がポリオールに由来し、そのポリオールの全水酸基から水素が脱離している残基であることが好ましい。そのポリオールは、炭素数2〜10のジオール例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、平均繰返し数5以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ノナンジオール;炭素数2〜10のトリオール例えばトリメチロールプロパン;炭素数2〜10のテトラオール例えばペンタエリスリトール、シクリトールが挙げられる。化学式(11)中のnは、このポリオールの水酸基に応じて、1〜3の数となる。
【0029】
このホスフィノフェロセン基含有オリゴマーは、単一化合物であってもよいが、繰返しユニットの繰返し数や直鎖状乃至はデンドリマー状に連なる化学構造の異なる複数の化合物の混合物であってもよい。
【0030】
本発明の不均一触媒は、このホスフィノフェロセン基含有オリゴマーのリン原子が、単数又は複数の遷移金属原子に、配位することにより、塩又は中性の触媒となっており、各種有機溶媒及び/又は水のような溶媒に不溶なものである。
【0031】
この不均一触媒は、各種反応の促進の触媒として用いられ、特に、芳香族化合物へアミノ化するアミノ化用触媒であることが好ましい。
【0032】
この不均一触媒をアミノ化用触媒として用いて、アミノ化反応をする場合、それの触媒量存在下、有機溶媒及び/又は水からなる溶媒中で、1級又は2級アミン化合物のアミノ基が、ハロゲン化炭化水素芳香族化合物及びハロゲン化複素芳香族化合物の何れかのハロゲン基、又は炭化水素芳香族トリフラート化合物及び複素芳香族トリフラート化合物の何れかのトリフラート基に反応して置換するアミノ化により、アミノ化炭化水素芳香族化合物又はアミノ化複素芳香族化合物を得ることができる。その反応の後に、不均一触媒を、濾別し、必要に応じて有機溶媒や水で洗浄したり精製したりすることにより、不均一触媒を再生することができる。
【0033】
原料の1級又は2級アミン化合物は、特に限定されないが、炭素数1〜20の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状のアルキル基、炭素数6〜24の炭化水素芳香族基、及び/又は複素芳香族基を含有するアミン化合物、具体的には、N−フェニル−N−ナフチルアミン、N−フェニル−N−メタトリルアミン、ジフェニルアミンが挙げられる。
【0034】
このアミノ化反応は、高収率である上、不均一触媒を、濾紙濾過やセライト膜濾過などの簡易な濾別手段で、回収できるので、面倒な後処理が不要であり、不均一触媒を再利用して、高価で貴重な遷移金属を有効に使用することができる。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明を適用するホスフィノフェロセン基含有オリゴマーを合成し、不均一触媒を調製した後、アミノ化方法を実施して、トリアリールアミン化合物を製造した例について、詳細に説明する。
【0036】
(合成実施例1: 1,1’−ビス(ホルミル)フェロセン(22)の合成)
【化5】

フェロセン(21)(16g,147mmol,1当量)、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA,56mL,368mmol,2.5当量)の混合溶液に対して、1.62Mのn−ブチルリチウム−ヘキサン溶液(227mL,368mmol,2.5当量)を0℃で30分間かけて滴下した。得られた溶液を、室温で24時間撹拌した。得られたオレンジ色の懸濁液に対してN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(29mL,368mmol,2.5当量)を−78℃で加え、室温で12時間撹拌した。反応液に対して1N塩酸(200mL)を加えて反応を停止させ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて中和したのち、クロロホルム(300mL×3回)で抽出した。有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過した後、溶媒を留去することにより粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/クロロホルム=5/1→2/1)で精製し、1,1’−ビス(ホルミル)フェロセン(22)(26g,96mmol,収率65%)を、濃赤色固体として得た。
H及び13C核磁気共鳴スペクトル法(NMR)により、理化学分析を行った。その結果を以下に示す。
H NMR (CDCl3) δ 4.68 (s, 4H), 4.89 (s, 4H), 9.96 (s, 2H).
13C NMR (CDCl3) δ 70.87, 74.18, 80.34, 192.81.
これらの理化学的データは、それの化学構造を支持する。
【0037】
(合成実施例2: 1,1’−ビス(2,6−ジオキサシクロヘキシル)フェロセン(23)の合成)
【化6】

1,1’−ビス(ホルミル)フェロセン(22)(15g,55mmol,1当量)、塩化ジルコニウム(1.04mg,4.4mmol,8mol%)、プロピレングリコール(12mL,165mmol,3当量)、トリエチルオルソフォルメート(37mL,220mmol,4当量)、及びモレキュラーシーブ4A(15g)を、ジクロロエタン100mLに加え、得られた懸濁液を、50℃で12時間撹拌した。反応終了後、反応液を濾過したのち、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(200mL)を加えクロロホルム(150mL×3回)で抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過した後、溶媒を留去することにより粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル/トリエチルアミン=100/10/1→10/10/1)で精製し、1,1’−ビス(2,6−ジオキサシクロヘキシル)フェロセン(23)(18.6g,収率87%)を、濃黄色固体として得た。
H及び13C NMRにより、理化学分析を行った。その結果を以下に示す。
H NMR (CDCl3) δ 5.32 (s, 2H), 4.24 (s, 4H), 4.12 (dd, 4H, J = 4.5, 11 Hz), 4.07 (s 4H), 3.84 (t, 4H, J = 11 Hz), 2.05 (m, 2H), 1.40 (d, 2H, J = 13.5 Hz).
13C NMR (CDCl3) δ 100.46, 86.55, 68.93, 67.37, 67.23, 25.84.
これらの理化学的データは、それの化学構造を支持する。
【0038】
(合成実施例3: 1,1’−ビス(2,6−ジオキサシクロヘキシル)−2,5’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(24)の合成)
【化7】

1,1’−ビス(2,6−ジオキサシクロヘキシル)フェロセン(23)(5g,12.8mmol,1当量)のエーテル溶液に対して、1.54M t−ブチルリチウム(シクロヘキサン/ジエチルエーテル溶液)の20mL(32mmol,2.5当量)を−78℃で30分間かけて滴下し、室温で2時間撹拌した。得られた懸濁液に対しクロロジフェニルホスフィン(ClPPh)(8.5g,38.4mmol,3当量)を−78℃で加え室温まで昇温しながら12時間撹拌した。反応終了後、水(200mL)を加え、クロロホルム(150mL×3回)で抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過した後、溶媒を留去することにより粗生成物を得た。粗生成物にジエチルエーテルを100mL加え、−10℃で12時間冷却して得られた固体を濾取し、真空乾燥することで、1,1’−ビス(2,6−ジオキサシクロヘキシル)−2,5’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(24)の5.7g(7.5mmol,収率58%)を、黄色固体として得た。
H及び13C NMRにより、理化学分析を行った。その結果を以下に示す。
H NMR (CDCl3) δ 1.27 (d, 2H, J = 13.2 Hz), 1.97 (m, 2H), 3.31 (s, 2H), 3.74 (s, 2H), 3.83 (d, 1H, J = 4.7 Hz), 3.86 (d, 1H, J = 4.7 Hz), 3.93 (s, 2H), 4.07 (s, 2H), 4.22 (s, 2H), 4.73 (s, 2H), 5.59 (d, 2H, J = 1.0 Hz), 7.12-7.15 (m, 4H), 7.19-7.20 (m, 5H), 7.23-7.26 (m, 3H), 7.28-7.32 (m, 3H), 7.39-7.42 (m, 5H).
13C NMR (CDCl3) δ 140.22 (d, JC-P = 9.2 Hz), 137.61 (d, JC-P = 9.2 Hz), 135.07 (d, JC-P = 21.1 Hz), 132.32 (d, JC-P = 17.4 Hz), 129.02, 128.03 (d, JC-P =7.3 Hz), 127.56 (d, JC-P = 5.5 Hz), 127.26, 99.43 (d, JC-P = 7.3 Hz), 92.82 (d, JC-P = 22.0 Hz), 75.47, 72.75 (d, JC-P = 12.8 Hz), 72.42, 72.31 (d, JC-P = 3.7 Hz), 67.18 (d, JC-P = 4.6 Hz), 66.71(d, JC-P 2.8 Hz), 25.67.
これらの理化学的データは、それの化学構造を支持する。
【0039】
(合成実施例4: 1,1’−ビス(ホルミル)−2,5’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(25)の合成)
【化8】

1,1’−ビス(2,6−ジオキサシクロヘキシル)−2,5’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(24)(5g,6.6mmol)のアセトン/水(200mL/10mL)溶液に対して、触媒量のパラトルエンスルホン酸(TsOH)(5mg)を加え、室温で10時間撹拌した。得られた懸濁液に対し、水を200mL加え、クロロホルム(150mL×3回)で抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過した後、溶媒を留去することにより粗生成物を得た。粗生成物にジエチルエーテルを100mL加え、洗浄することで1,1’−ビス(ホルミル)−2,5’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(25)(3.6g,5.6mmol,収率85%)を、黄色固体として得た。
H及び13C NMRにより、理化学分析を行った。その結果を以下に示す。
H NMR (CDCl3) δ 3.63 (s, 2H), 4.65 (t, 2H, J = 4.7 Hz), 5.15 (s, 2H), 7.01-7.04 (m, 6H), 7.15-7.21 (m, 8H), 7.28-7.31 (m, 6H), 10.05 (d, 2H, JP-H = 2.2 Hz).
13C NMR (CDCl3) δ 75.20, 77.69, 82.54, 84.58, 84.68, 128.48 (m), 129.75, 132.15 (d, JC-P = 19.3 Hz), 134.66 (d, JC-P = 21.1 Hz), 135.54 (d, JC-P = 11.0 Hz), 192.49 (d, JC-P = 9.2 Hz).
これらの理化学的データは、それの化学構造を支持する。
【0040】
(合成実施例5(A):ホスフィノフェロセン基含有オリゴマー(27A)の調製)
【化9】

1,1’−ビス(ホルミル)−2,5’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(25)(100mg,0.156mmol)とトリメチロールプロパントリスジエチルホスホノアセテート(26)(71.6mg,0.104mmol)のテトラヒドロフラン(THF)溶液(10mL)に、塩基としてナトリウムエトキシド(EtONa,27.2mg,0.40mmol)を加え、室温で3時間撹拌し、ウィッティヒ−ホルナー−エモンズ反応を行った。得られた黄色懸濁液に、飽和クエン酸水溶液(20mL)を加えて、反応を停止させた後、クロロホルム(30mL×3回)で抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過した後、溶媒を留去することにより粗生成物を得た。粗生成物をクロロホルム(5mL)に溶解させ、メタノールに加えることで、目的生成物であるホスフィノフェロセン基含有オリゴマー(27A)(30mg)を、黄色固体として得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC,移動相:THF)により、ポリスチレン換算で重量平均分子量(Mw)を求めたところ、1685であった。
【0041】
(合成実施例5(B)〜5(D):ホスフィノフェロセン基含有オリゴマー(27B)〜(27D)の調製)
合成実施例5(A)中、ウィッティヒ−ホルナー−エモンズ反応での溶媒、塩基、温度及び反応時間を、表1のように代えたこと以外は、合成実施例5(A)と同様にして、目的生成物であるホスフィノフェロセン基含有オリゴマー(27B)〜(27D)を得た。それらについて、GCPによる数平均分子量、又は高速原子衝撃イオン化質量分析(FAB−MS)による最大強度のイオンピークを、分子量として、表1中にまとめて示す。これらホスフィノフェロセン基含有オリゴマー(27A)〜(27D)は、繰返しユニット数の異なる複数の化合物の混合物として測定されている。
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例1 トリアリールアミン化合物の製造)
【化10】

Pd(dba)(6.6mg,0.0725mmol)、合成実施例5で得たホスフィノフェロセン基含有オリゴマー(27A)(20.7mg,1.4mmol/g,0.029mmol)、N−フェニル−1−ナフチルアミン(28)(76.7mg,0.35mol)、3−ブロモトルエン(29)(50mg,0.29mmol)、ナトリウムt−ブトキシド(56.2mg,0.58mmol)のトルエン溶液(2mL)をシールドチューブに入れて、窒素ガスを封入後、24時間140℃で撹拌した。反応終了後、室温まで冷却し、酢酸エチルを加えた。その懸濁液をセライトで濾過したところ、ホスフィノフェロセン基含有オリゴマー(27A)が配位したパラジウムを含む不均一触媒の25mgが、濾取されて回収された。一方、濾液から、溶媒を留去して得た粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)で精製すると、目的のトリアリールアミン化合物(30)(32.5mg,0.10mmol,収率36%)を、白色固体として得た。
H及び13C NMRにより、トリアリールアミン化合物(30)の理化学分析を行った。その結果を以下に示す。
H NMR (CDCl3) δ 2.21 (s, 3H), 6.75 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 6.79-7.02 (m, 5H, 7.07 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.11-7.21 (m, 2H), 7.27-7.38 (m, 2H), 7.40-7.50 (m, 2H), 7.75 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.87 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.94 (d, J = 8.4 Hz, 1H)
これらの理化学的データは、それの化学構造を支持する。
【0044】
なお、合成実施例、調製実施例での何れも、特に記載がない限り、五酸化二リンによって乾燥させた窒素雰囲気下で行った。NMRスペクトル測定法は、JEOL ECX−400(日本電子株式会社製の商品名:400MHz for H,100MHz for 13C)で測定を行い、内部標準としてテトラメチルシランを基準に、測定結果をδ値(ppm)で表示した。GPCによる重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ装置GPC−101(昭和電工株式会社製の商品名)により、カラムとして細孔多分散型GCPカラムであるshodex LF−804(昭和電工株式会社製の商品名)を用い、移動相溶媒としてTHFを用いて、測定を行い、ポリスチレン換算で表示したものである。MSによる分子量は、質量分析計JM−700(日本電子株式会社製の商品名)により、FAB−MS測定を行った。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のホスフィノフェロセン基含有オリゴマーは、回収可能な触媒の原料成分として、用いられる。このオリゴマーと遷移金属とを含む不均一触媒は、アミノ化炭化水素芳香族化合物やアミノ化複素芳香族化合物、とりわけアリールアミン化合物のような各種アミン化合物を製造するのに有用である。
【0046】
この不均一触媒を用いたアミノ化方法により、有機エレクトロルミネセンス(EL)ディスプレイの正孔輸送材料として有用なアリールアミン化合物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスフィノフェロセン基が結合しているポリオール脱水素残基を含有する繰返しユニットを有し、その繰返しにより数平均分子量を1000〜10000とすることを特徴とするホスフィノフェロセン基含有オリゴマー。
【請求項2】
前記ホスフィノフェロセン基が、ビス(ジアリールホスフィノ)フェロセン基又はビス(ジアルキルホスフィノ)フェロセン基であり、それのフェロセン骨格の両シクロペンタジエン環が夫々、異なる前記繰返しユニット中の前記ポリオール脱水素残基で置換されて前記結合していることを特徴とする請求項1に記載のホスフィノフェロセン基含有オリゴマー。
【請求項3】
前記ホスフィノフェロセン基と、前記ポリオール脱水素残基とが、カルボニル基、飽和又は不飽和カルボニル基、エーテル基、炭素数2〜8の不飽和アルケニル基、エステル基、アミド基、イミノ基、及びアミノ基から選ばれる少なくとも何れかのリンカー基を介して、前記結合していることを特徴とする請求項1に記載のホスフィノフェロセン基含有オリゴマー。
【請求項4】
前記ポリオール脱水素残基が、炭素数2〜10のジオール、トリオール及びテトラオールから選ばれる何れかのポリオールの水酸基が脱水素した残基であることを特徴とする請求項1に記載のホスフィノフェロセン基含有オリゴマー。
【請求項5】
前記ビス(ジアリールホスフィノ)フェロセン基中のアリールが、同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲノ基、ニトロ基、フェニル基及びナフチル基から選ばれる少なくとも何れかの置換基で置換されたフェニル又はナフチルであり、前記ビス(ジアルキルホスフィノ)フェロセン基中のアルキルが、同一又は異なり、炭素数1〜8の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状のアルキルであることを特徴とする請求項2に記載のホスフィノフェロセン基含有オリゴマー。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のホスフィノフェロセン基含有オリゴマーと、それが配位している遷移金属とを含んでおり、溶媒不溶であることを特徴とする不均一触媒。
【請求項7】
アミン化合物のアミノ基が、ハロゲン化炭化水素芳香族化合物及びハロゲン化複素芳香族化合物の何れかのハロゲン基、又は炭化水素芳香族トリフラート化合物及び複素芳香族トリフラート化合物の何れかのトリフラート基と置換するアミノ化用触媒であることを特徴とする請求項6に記載の不均一触媒。
【請求項8】
請求項6に記載の不均一触媒の存在下、有機溶媒及び/又は水からなる溶媒中で、1級又は2級アミン化合物のアミノ基が、ハロゲン化炭化水素芳香族化合物及びハロゲン化複素芳香族化合物の何れかのハロゲン基、又は炭化水素芳香族トリフラート化合物及び複素芳香族トリフラート化合物の何れかのトリフラート基に反応して置換するアミノ化により、アミノ化炭化水素芳香族化合物又はアミノ化複素芳香族化合物を得た後、前記不均一触媒を、濾別することを特徴とするアミノ化方法。
【請求項9】
前記1級又は2級アミン化合物が、炭素数1〜20の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状のアルキル基、炭素数6〜24の炭化水素芳香族基、及び/又は複素芳香族基を含有することを特徴とする請求項8に記載のアミノ化方法。

【公開番号】特開2012−188386(P2012−188386A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53421(P2011−53421)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(503446121)
【出願人】(510040868)
【出願人】(000162076)共栄社化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】