説明

ホットメルト組成物および太陽電池パネル

【課題】高温下において圧力を受けても流動しにくく、実用的な溶融粘度を有するホットメルト組成物を提供する。
【解決手段】スチレン系ブロック共重合体、ブチルゴム、ホットメルト組成物全体に対して1〜20重量%の軟化点が150℃以上のポリプロピレン樹脂、ホットメルト組成物全体に対して1〜50重量%の無機充填材を含有することを特徴とするホットメルト組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホットメルト組成物の耐熱フロー性の改善、およびこれを用いた太陽電池パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は光エネルギーを電力に変換する発電装置であり、燃料等を必要とせず持続的に発電でき、可動部がなくメンテナンス性に優れ、二酸化炭素等の温室効果ガスを排出せず、屋根や壁に設置可能で場所を取らない等の特長を有し、宇宙空間、山岳地、離島のように他の発電、給電方法が困難な場所や、クリーンな発電装置として事業所や家庭にも設置されるようになっている。
【0003】
太陽電池パネルは、ガラスに対してセルと呼ばれる発電素子を緩衝性に優れるEVA等の封止樹脂を用いて保護し、さらにフィルムでラミネートすることによって製造されているが、EVA等の封止樹脂では水分のバリアー性が十分ではないため、ブチルゴム等を含有するホットメルト樹脂によって封止樹脂の外層に水分バリアー層が設けられ、金属フレームで保持することによってパネル化されている。
【0004】
近年、太陽電池パネルの製造コストを低減するため、裏面のフィルムをガラスに置き換えることにより、金属フレームを使用することなくパネル化する方法が検討されており、両面ともガラスが用いられていることからダブルガラス型と呼ばれている。ダブルガラス型では2枚のガラス板の間にセルと封止樹脂だけではなく、水分バリアー層となる樹脂も配置される。
【0005】
太陽電池パネルをこのような構成に一体化する工程は、150℃程度の高温において真空プレスすることによって行われている。一方、この温度域においてはブチルゴム等の樹脂成分も軟化して流動しやすくなっているため、プレスによって樹脂が流動してしまい、水分バリアー性が低下したり外観不良となりやすかった。また、単に軟化点が高い樹脂を用いたホットメルト樹脂では、溶融粘度が高くなり作業性が悪化したり、基材への密着性が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
特許文献1には、耐熱性等に優れるホットメルト型シーリング材が開示されているが、150℃程度の高温下でのプレス圧に対する流動性まで考慮されたものではなかった。
【特許文献1】特開平10-102024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高温下において圧力を受けても流動しにくく、実用的な溶融粘度を有し、基材への密着性に優れるホットメルト組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、スチレン系ブロック共重合体、ブチルゴム、軟化点が150℃以上のポリプロピレン樹脂、無機充填材を含有することを特徴とするホットメルト組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のホットメルト組成物は、高温下において圧力を受けても流動しにくい。また、実用的な溶融粘度を有するため、通常の塗布装置で作業性良く塗布することが可能である。さらに、ガラス等への各種基材密着性が良好である。よって、本発明のホットメルト組成物は耐熱性が必要とされる接着剤やシール材等の各種用途において優れた性能を発揮する。特に適する用途はダブルガラス型太陽電池パネルの水分バリアー層形成用シール材である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明で用いるホットメルト組成物の各必須成分について説明する。スチレン系ブロック共重合体はシール材に弾性、凝集力と基材への密着性などを確保するために配合されるものであって、弾性、凝集力を確保するためには平均分子量が30000〜500000のものが適合している。具体的にはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、α−メチルスチレン−ブタジエン−α−メチルスチレンブロック共重合体、α−メチルスチレン−イソプレン−α−メチルスチレンブロック共重合体や、これらの水素添加変性物、例えばスチレン−エチレン−(エチレン−プロピレン)−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)等が挙げられる。
【0011】
ブチルゴムはシール用ホットメルト組成物にシール性、耐候性、耐水性、耐熱性、衝撃吸収性などの付与を目的に配合されるもので、ムーニー粘度が20〜90であって、不飽和度0.5〜5.0程度ものが好ましい。ブチルゴムとスチレン系ブロック共重合体の配合量は、それぞれホットメルト組成物全体に対して20〜35重量%、3〜15重量%の範囲で選択することが好ましい。
【0012】
軟化点が150℃以上のポリプロピレン樹脂は、耐熱フロー性の向上及び溶融粘度の低下を目的として添加され、各種変性タイプであってもよい。具体例としては、軟化点が157℃であるビスコール440P(三洋化成工業社製、商品名)等が挙げられる。軟化点が150℃以上のポリプロピレン樹脂に代えて、軟化点が150℃未満のポリプロピレン樹脂のみを用いると耐熱フロー性が低下するため好ましくないが、軟化点が150℃以上のポリプロピレン樹脂に加えて軟化点が150℃未満のポリプロピレン樹脂を併用することは可能である。軟化点が150℃以上のポリプロピレン樹脂の配合量は、ホットメルト組成物全体に対して1〜20重量%とすることが好ましい。1重量%以上とすることで耐熱フロー性が顕著に発現し、20重量%未満とすることで基材への密着性低下等の問題が発生しにくい。
【0013】
無機充填材は耐熱フロー性の向上を目的として添加される。具体例としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、酸化チタン等が挙げられる。無機充填材の配合量は、ホットメルト組成物全体に対して1〜50重量%とすることが好ましい。1重量%以上とすることで耐熱フロー性が顕著に発現し、50重量%未満とすることで溶融粘度が高くなり過ぎるおそれが少ない。
【0014】
ホットメルト組成物には前記必須成分に加えて有機微粒子を添加することができる。有機微粒子の添加により、ホットメルト組成物からなるシール層がプレス圧を受けた際、有機微粒子の粒子径分の膜厚を確保することができるため、ホットメルト組成物が流動してしまうことを回避できる。
【0015】
有機微粒子は例えばスチレン、α−メチルスチレン,ビニルトルエン等の芳香族ビニル単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルエステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸アルキルエステル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体、(メタ)アクリロニトリル等のビニルシアン系単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル単量体を懸濁重合することによって得られる。
【0016】
有機微粒子の好ましい粒子径は要求されるシール層の膜厚によって異なるものの、200〜1000μm程度が好ましい。また、高温下でのプレス圧に耐えるため、ゲル分率が10%以上である必要があることが好ましく、より好ましいゲル分率は30%以上であり、さらに好ましいゲル分率は60%以上であり、特に好ましいゲル分率は90%以上である。ゲル分率とは、有機微粒子1gをアセトン30g中に入れ、ガラスビーカー中で1時間攪拌した後に遠心分離を行い、上澄みを除去して80℃で12時間減圧乾燥させた後に重量を測定し(Ag)、次式によって算出されるものである。
ゲル分率(%)=(A/1)×100
【0017】
ホットメルト組成物には前記配合成分の他、粘着付与樹脂、液状樹脂、酸化防止剤、シランカップリング剤、顔料等の各種添加剤を配合することができる。粘着付与樹脂として、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン樹脂、水添ロジン樹脂、石油樹脂、水添石油樹脂等が挙げられる。液状樹脂の具体例として、液状ポリブタジエンや液状ポリブテン等が挙げられる。
【0018】
酸化防止剤としては、銅系酸化防止剤、銅塩系酸化防止剤、ハロゲン化銅系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ヒンダートアミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、芳香族アミン、キレート化剤からなる金属不活性化剤等が挙げられる。
【0019】
フェノール系酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチルフェノール誘導体、2−メ
チル−6−t−ブチルフェノール誘導体、オクタデシル−3−(3,5−ジブチル−4−ビトロキシフェニル)プロピオネート、4,4−ブチリデン−ビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、ペンタエリスリチル・テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、2−{1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)−エチル}−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0020】
リン系酸化防止剤としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェイト、サイクリックネオペンタンテトラビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニルホスフェイト、ドステアリルペンタンエリスリトールジホスフェイト、リン酸2水素ナトリウム、リン酸1水素2ナトリウム等が挙げられる。
【0021】
ヒンダートアミン系酸化防止剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、1,2,3,4−テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシカルボニル)ブタン、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシルエチル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合体、1−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−1,1−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシカルボニル)ペンタン、N,N−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(オクチロン−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート等が挙げられる。
【0022】
ホットメルト組成物は上記各配合成分をバンバリーミキサー、加熱ニーダー、1軸ないし2軸エクストルーダーなどで混練りすることにより得られる。ホットメルト組成物の溶融粘度は、200℃において3000Pa・s以下であることが好ましく、2000Pa・s以下であることがより好ましい。200℃において3000Pa・sを超えると塗布性が低下するため、塗布作業に時間がかかったり、汎用的な塗布装置では負荷が大きくなるため装置の傷みが早くなる。また、溶融温度を上げれば溶融粘度は低下するものの、ホットメルト組成物が劣化しやすくなるため好ましくない。
【0023】
本発明のホットメルト組成物は各種基材への密着性に優れ、高温下において圧力を受けても流動しにくく、実用的な溶融粘度を有するため、ホットメルト型の接着剤やシール材として有用である。また、太陽電池パネルの封止樹脂の水分バリアー層形成用シール材として特に適する。
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0025】
ホットメルト組成物の製造
ブチルゴムであるButyl065(日本ブチル社製、商品名)140重量部、SEBSであるSEPTON2063(クラレ社製、商品名)20重量部、軟化点が157℃のポリプロピレン樹脂であるビスコール440P(三洋化成工業社製、商品名)50重量部、軟化点が145℃のポリプロピレン樹脂であるビスコール660P(三洋化成工業社製、商品名)20重量部、炭酸カルシウムであるBF200(白石カルシウム社製、商品名)120重量部、カーボンブラックであるダイアブラックMA100(三菱化学社製、商品名)3重量部、テルペン樹脂であるYSポリスターU130(ヤスハラケミカル社製、商品名)40重量部、酸化防止剤であるIrganox1010(チバガイギー社製、商品名)0.5重量部、液状ポリブテンであるHV−300(新日本石油化学社製、商品名)70重量部、シランカップリング剤であるAPDS(チッソ社製、商品名)1重量部をシグマブレイド型ニーダーで加熱混合して実施例1ホットメルト組成物を得た。同様に表1記載の配合にて実施例2、比較例1〜3の各ホットメルト組成物を得た。各ホットメルト組成物について、以下の方法で評価を行った。
【0026】
溶融粘度
ブルックフィールド社製デジタル粘度計(型式:DVI−I+)を用いて、200℃における溶融粘度(0.5rpm)を測定した。
【0027】
せん断試験
各ホットメルト組成物を20mm×20mm(厚み1mm)の正方形のシート状に成型し、これを長さ60mm×幅20mm(厚み2mm)の2枚のガラス板ではさみ、養生テープで固定した状態にて150℃雰囲気下で10分間放置し、取り出し後すぐに軽く圧締し、さらに1日間養生した。クロスヘッドスピード20mm/分でせん断試験を行い、凝集破壊となったものを○、界面破壊となったものを×と評価した。
【0028】
耐熱フロー試験
各ホットメルト組成物を14mm×14mm(厚み2mm)の正方形のシート状に成型し、2枚のガラス板(28g)ではさみ込み、正方形の形状をガラス板にマーキングすることによって試験体を作成した。試験体を150℃雰囲気下で1時間放置後、ホットメルト組成物が試験前の形(マーキングした形状)からはみ出して広がった距離を各辺毎に測定し、これを合計することによって評価した。
【0029】
【表1】

【0030】
各実施例は耐熱フロー性に優れており、密着性、溶融粘度も問題なかった。一方、各比較例はいずれも耐熱フロー性が十分ではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系ブロック共重合体、ブチルゴム、軟化点が150℃以上のポリプロピレン樹脂、無機充填材を含有することを特徴とするホットメルト組成物。
【請求項2】
ホットメルト組成物全体に対して、前記ポリプロピレン樹脂の含有量が1〜20重量%であり、前記無機充填材の含有量が1〜50重量%含有することを特徴とする請求項1記載のホットメルト組成物。
【請求項3】
さらに有機微粒子を含有することを特徴とする請求項1または2記載のホットメルト組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載のホットメルト組成物を用いて製造されたことを特徴とする太陽電池パネル。

【公開番号】特開2011−84688(P2011−84688A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240171(P2009−240171)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】