説明

ホンシメジ新菌株

【課題】子実体の発生操作の際に覆土などの特別な操作を必要とせず、確実に短期間にホンシメジの商業生産が可能となるホンシメジの菌床人工栽培方法を提供する。
【解決手段】菌かき操作、注水操作又は覆土操作といういずれの子実体発生操作も行わない菌床人工栽培方法において、NBRC−100325と比較して子実体形成能が優れることを特徴とするホンシメジ新菌株、特に、ホンシメジUFC−1893(FREM P−20870)、ホンシメジUFC−1897(FREM P−20871)及びこれらの変異菌株から選択される菌株。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用キノコとして有名なホンシメジ(Lyophyllum shimeji (Kawam.) Hongo)の新菌株及びそれを用いた菌床人工栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホンシメジは、「香りマツタケ、味シメジ」と古くから言われる様に食用キノコである。味、歯切れ、舌ざわりともによく、天然ものは高級日本料理に珍重されるほど貴重なキノコとされている。
【0003】
また、シイタケ、ナメコ、ヒラタケ、ブナシメジ、エリンギ等の食用キノコは木材腐朽菌であり一年を通じて工業的に栽培することが可能である。しかし、ホンシメジは前述の木材腐朽菌のキノコと異なり植物との共生関係のライフサイクルを持つキノコであるため、永い間人工栽培が困難であるとされてきたが、マツタケと同様に美味な食用キノコであるため、古くから人工栽培が望まれていた。(例えば、非特許文献1参照)
ホンシメジについてはいくつかの栽培方法が検討されており、麦類とオガクズを用いたホンシメジの人工栽培方法が開示されており(例えば、特許文献1参照)、また麦類と鋸屑を用いた培地基材でのホンシメジ子実体の発生実験が報告されている(例えば、非特許文献1、2参照)。また、近年では、イネ科に属するキビ亜科の実類と木粉を用いた栽培方法も報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
ホンシメジについて従来の知られている栽培方法では、子実体の発生操作の際に培地表面を十分吸水させ、滅菌処理した赤玉土、鹿沼土、向日土等の園芸用土、天然土壌、パーライト、ピートモス、バーミキュライト等の無機鉱物用土、籾殻、ミズゴケ等の植物由来素材等で被覆する方法が行われていた(例えば、非特許文献3、4)。
【0005】
ところで、担子菌は一般に、同一種に属する菌株でありながら、採集された場所の違いにより菌糸の成長速度、子実体の形状、子実体の形成能力が個体により著しく異なることが知られている。
【0006】
NBRC−100325というホンシメジ菌株は、山口県内で採集され、滋賀県森林センターによって寄託された天然のホンシメジ菌株であり(例えば、非特許文献1及び非特許文献2)、農林水産省生産局の品種登録の出願公表において、対象品種として用いられている等、ホンシメジの栽培試験における報告として多くの報告がなされている菌株である(例えば、非特許文献5、非特許文献6及び非特許文献7)。
【特許文献1】特公平8−4427号公報
【非特許文献1】日本菌学会報、日本菌学会発行、第39巻、第13〜20頁(1998)
【非特許文献2】「キノコ年鑑」プランツワールド出版 2004年4月1日 P202
【特許文献2】特開2000−106752号公報
【非特許文献3】滋賀県森林センター業務報告書、滋賀県森林センター発行、第34巻、第1〜3頁(2001年7月)
【非特許文献4】林経協月報、社団法人日本林業経営者協会発行、No.442、第29〜34(1998年7月)
【非特許文献5】農林水産省生産局種苗課 審査室 第17499号 新生208号
【非特許文献6】日本きのこ学会誌、日本きのこ学会発行、VOL.13、No.1、第29〜33頁(2005)
【非特許文献7】「キノコとカビの基礎科学とバイオ技術」アイピーシー出版 2002年7月20日P365〜373
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の覆土を行う栽培方法では、複雑な処理工程を有するため、実際の現場においては余分な経費を必要とし、実施し難い工程であるという問題があった。
【0008】
また、ホンシメジNBRC−100325菌株や、これまでに各種の栽培試験により報告されているホンシメジの菌株では、子実体発生又は発蕈操作として、培地表面を被覆、覆土の工程を行わない場合には、子実体は発生するが、優良な子実体を確実に商業生産段階には至らないという問題があった(例えば、非特許文献6)。
【0009】
本発明は、子実体の発生操作の際に覆土などの特別な操作を必要とせず、確実に短期間にホンシメジの商業生産が可能となるホンシメジの菌床人工栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、特別な子実体発生操作を必要とせず、容易に栽培できる産業上有望な菌株が、必ず存在するという考えに立ち、全国各地より系統の異なるホンシメジを収集した。その後PDA(ポテトデキストロース)寒天培地において菌糸体を単離後、当該培地で純粋培養後、スクリーニングという工程を得て得られたホンシメジ95菌株の中から、特別な子実体発生操作を必要とせず高収量で確実に良好な子実体形成能を有する菌株を見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第一は、菌かき操作、注水操作又は覆土操作といういずれの子実体発生操作も行わない菌床人工栽培方法において、NBRC−100325と比較して子実体形成能が優れることを特徴とするホンシメジ(Lyophyllum shimeji)新菌株を要旨とするものであり、好ましくは、前記ホンシメジ新菌株が、ホンシメジ(Lyophyllum shimeji)UFC−1893(FREM P−20870)、ホンシメジ(Lyophyllum shimeji)UFC−1897(FREM P−20871)及びこれらの変異菌株から選択される菌株であるものである。
【0012】
また、本発明の第二は、麦類を栄養源として含む培地に前記したホンシメジ新菌株を接種し、菌糸の培養工程の後、菌かき操作、注水操作又は覆土操作といういずれの子実体発生操作も行わず、子実体の生育工程を経て、得られた子実体を収穫することを特徴とするホンシメジの菌床人工栽培方法を要旨とするものであり、好ましくは、菌糸の培養工程が20〜25℃の温度条件下で行われ、子実体の生育工程が15〜19℃の温度条件下で行われる前記のホンシメジの菌床人工栽培方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、子実体の発生操作として覆土工程などを省略でき、子実体の形状に優れたホンシメジを高収量かつ確実に発生させ工業的に生産することができる。具体的には、施設栽培における商業生産において総栽培日数85日以下で、収量としては、850ml培養ビンの場合100g以上の、形状の良い大型のホンシメジを収穫することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0015】
ホンシメジの菌株の検討は以下の通りに行った。無機塩類として、滋賀県森林センターにより作成されたホンシメジ生産マニュアルに基づき、クエン酸0.5g、燐酸1カリウム0.1g、硫酸マグネシウム0.2g、アセチルアセトン5μl、塩化第2鉄50mg、硫酸マンガン0.03mg、硫酸銅1.5mg、硫酸コバルト0.3mg、硫酸ニッケル0.1mg、硫酸亜鉛1.0mgを蒸留水1リットルに希釈したものに12時間浸漬させた、ブナ鋸屑(有限会社新井商店)、押し麦(京都やましろ農業協同組合)を体積比3:2の割合で混合し含水率を58%±2に調整し、450ccガラスビン(大阪硝子(株))に150g充填後、中央に直径10mmの穴をあけ、プラスチックフタの中央部に呼吸フィルターST(三富産業(株))を貼り付けたものを使用し打栓し菌床とした。滅菌はオートクレーブで105℃60分、121℃45分滅菌を行ない、これに上記のPDA(ポテトデキストロース)寒天培地(ニッスイ製薬(株))で培養した菌糸体を12ccずつ接種し、25℃±2暗黒下、湿度60%±10の条件下で、培養し外見上ビン内に菌糸体が蔓延するまで培養した。
【0016】
その後40日間培養を続けた後、16℃±2℃、湿度95%±5%の発生室に移動し、成熟子実体が得られるまで培養を続け、ホンシメジの各菌株における子実体収量、子実体発生率、子実体の形状、総栽培日数について調査した。その結果を表1に示す。なお、本発明者らが収集したすべてのホンシメジ95菌株と、NBRCに寄託されているホンシメジの12菌株についても検討した。なお、表に示す番号は本発明者らが採集した際に、菌株の識別のために用いた通し番号であり特別な意味を有しない。
【0017】
【表1】

表1においてdata not availableとは総栽培日数95日を経過しても子実体が形成されないため、産業上の生産に適当でない菌株と判断したものである。また、表1における形状においてストレート型とは、子実体の柄が下方から傘に癒着する上方にかけてまっすぐな形状を示したのものを示し、ホテイ型とは、下方が上方と比較し、肥大しより天然のホンシメジが示す形状に近い子実体を示す。
【0018】
表1から明らかなように、供試した菌株のうち、ホンシメジUFC−1893菌株、ホンシメジUFC−1897菌株の2菌株は、総栽培日数が80日以下と短かく、収量も約30g以上と多く、その栽培した子実体も、傘色、柄色、形状等天然ホンシメジとほぼ同等であり、特に優れた性状を示した。また食味の点においても自然界から採取されるものと変りがなかった。なお、ホンシメジUFC−1893菌株の由来は、長野県内より採取された野生菌株から、本発明者らにより作出した菌株である。ホンシメジUFC−1897菌株の由来は、岩手県盛岡市内より採取された野生菌株から本発明者らにより作出された菌株である。
【0019】
表1で示した、ホンシメジUFC−1893菌株、ホンシメジUFC−1897菌株の子実体及び胞子の形態的特徴は、以下の通りである。
【0020】
ホンシメジUFC−1893菌株の子実体は束生で、傘径は4cm前後、半球形から饅頭型、のちに開いて扁平となる。表面は、灰褐色となり、縁部は下方に巻く、肉は白色を帯び、ひだはやや垂生を呈しており、白色、柄は3.0〜5.5cm、白色下部はトックリ状を呈しているが、十分生育したものであれば、上下同大に近くなるものも有るが肉質は固く弾力があってしっかり詰まる。胞子は平滑で球形あるいはほぼ球形で、長径は4.8〜6.0μmである。
【0021】
ホンシメジUFC−1897菌株の子実体は単生で、傘径は4cm前後、半球形から饅頭型、のちに開いて扁平となる。表面は、灰褐色となり、縁部は下方に巻く、肉は白色を帯び、ひだはやや垂生を呈しており、白色、柄は4.5〜5.5cm、白色下部はトックリ状を呈しているおり、肉質は固く弾力があってしっかり詰まる。胞子は平滑で球形あるいはほぼ球形で、長径は5.5〜6.0μm。
【0022】
以上の特徴を今関六也、本郷次雄編著「原色日本新菌類図鑑(I)」保育社(昭和62年6月10日初版発行)の記載と比較すると、これらの菌株はホンシメジであることが明瞭となった。
【0023】
これらの供試菌株中、ホンシメジ(Lyophyllum shimeji)UFC−1893菌株とホンシメジ(Lyophyllum shimeji)UFC−1897菌株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにそれぞれFREM P−20870及びFREM P−20871として寄託されている。
【0024】
次に、ホンシメジUFC−1893(FREM P−20870)菌株の菌学的諸性質を以下に示す。
【0025】
麦芽エキス寒天培地(25℃)における生育状態:10日目でコロニー径は34mm、白色で密な菌糸、気中菌糸は少ない。15日目でコロニー径は42mm、20日目でコロニー径は55mmとなり、菌糸は、白色で密であり気中菌糸は少ない。菌糸伸長は放射状である。
【0026】
バレイショ・ブドウ糖寒天培地(25℃)おける生育状態:10日目でコロニー径は30mm、白色で密な菌糸、気菌糸を少ない。15日目でコロニー径は45mm、20日目でコロニー径は52mmとなり、菌糸は白色で密な菌糸。気菌糸は少なく、菌糸伸長は放射状である。。裏面の中心部がやや乳白色に着色する。
【0027】
オートミール寒天培地(25℃)における生育状態:10日目でコロニー径は18mm、菌糸は薄く放射状に伸びる。15日目でコロニー径は28mm、20日目でコロニー径は32mmとなり、菌糸は白色で密であり放射状に伸長する。気菌糸は薄い。
【0028】
Lフェノールオキシダーゼ検定用培地〔0.1%没食子酸添加ポテト・グルコース寒天培地〕(25℃)おける生育状態:10日目ではまったく生育しない。
【0029】
最適生育温度:PGY寒天培地(PGY液体培地に寒天を加えたもの)に直径5mmの種菌を接種し、各温度でそれぞれ培養して、14日後に各コロニー直径を測定したところ、最適生育温度は23〜25℃であった。また、5℃ではほとんど生育せず、30℃では全く生育しなかった。
【0030】
最適生育pH:PGY液体培地20mlを殺菌後、1規定塩酸又は1規定水酸化ナトリウム溶液で無菌的にpH3.0〜10.0の範囲で0.5毎に調整、直径6mmの種菌を接種し、15日間静置後、各乾燥重量を測定したところ、最適生育pHは5.5付近であった。また本菌菌株の生育範囲はpH3.0〜7.5の範囲であった。
【0031】
次に、ホンシメジUFC−1897(FREM P−20871)菌株の菌学的諸性質を以下に示す。
【0032】
麦芽エキス寒天培地(25℃)における生育状態:10日目でコロニー径は37mm、白色で密な菌糸、気中菌糸は少ない。15日目でコロニー径は44mm、20日目でコロニー径は59mmとなり、菌糸は、白色で密であり気中菌糸は少ない。菌糸伸長は放射状である。
【0033】
バレイショ・ブドウ糖寒天培地(25℃)おける生育状態:10日目でコロニー径は35mm、白色で密な菌糸、気菌糸を少ない。15日目でコロニー径は51mm、20日目でコロニー径は58mmとなり、菌糸は白色で密な菌糸。気菌糸は少なく、菌糸伸長は放射状である。。裏面の中心部がやや乳白色に着色する。
【0034】
オートミール寒天培地(25℃)における生育状態:10日目でコロニー径は16mm、菌糸は薄く放射状に伸びる。15日目でコロニー径は25mm、20日目でコロニー径は37mmとなり、菌糸は白色で密であり放射状に伸長する。気菌糸は薄い。
【0035】
フェノールオキシダーゼ検定用培地〔0.1%没食子酸添加ポテト・グルコース寒天培地〕(25℃)おける生育状態:10日目ではまったく生育しない。
【0036】
最適生育温度:PGY寒天培地(PGY液体培地に寒天を加えたもの)に直径5mmの種菌を接種し、各温度でそれぞれ培養して、14日後に各コロニー直径を測定したところ、最適生育温度は23〜25℃であった。また、5℃ではほとんど生育せず、30℃では全く生育しなかった。
【0037】
最適生育pH:PGY液体培地20mlを殺菌後、1規定塩酸又は1規定水酸化ナトリウム溶液で無菌的にpH3.0〜10.0の範囲内で0.5毎に調整、直径6mmの種菌を接種し、15日間静置後、各乾燥重量を測定したところ、最適生育pHは5.5付近であった。また本菌菌株の生育範囲はpH3.0〜7.5の範囲であった。
【0038】
更に、ホンシメジUFC−1893(FREM P−20870)菌株及びホンシメジUFC−1897(FREM P−20871)菌株と他のホンシメジ菌株との異同について、寒天培地上における対峙培養によって調べた。供試したホンシメジ菌株は、表1に示した95菌菌株すべてである。また、NBRCに寄託されているホンシメジの12菌株についても同様に試験した。
【0039】
試験方法は以下の通りである。供試菌株の二核菌糸をPDA(ポテトデキストロース)寒天培地より5mm×5mm×5mmのブロックとして切り出し、それぞれをPDA(ポテトデキストロース)寒天培地の中央部に対峙して接種し(2cm間隔)、25℃、20日間暗黒条件下において培養後、両コロニー境界部に帯線が生じるか否かを判定した。結果を表2に示す。なお、帯線を生じた場合は+、帯線を生じない場合は−と表記した。なお、ここで、帯線には着色していない拮抗状態のものも含む。なお、表2では、ホンシメジUFC−1893、UFC−1897、NBRC−100325の対峙培養について示したが、実際には供試した全ての菌株において対峙培養を実施した。
【0040】
【表2】

【0041】
表2に示したように、ホンシメジUFC−1893(FREM P−20870)、ホンシメジUFC−1897(FREM P−20871)の2菌株は、供試菌株すべてと帯線を形成し、同じ菌株間において対峙線の形成が見られなかったことから、それぞれ新しい菌株であることは明白である。
【0042】
本発明のホンシメジ新菌株は、上記したホンシメジUFC−1893(FREM P−20870)菌株及びUFC−1897(FREM P−20870)菌株以外に、これらの変異菌株、及びこれらの菌株を親菌株とする菌株と対峙培養によって帯線を形成しない菌株が挙げられるが、本発明はこれらの菌株に限定されるものではなく、これらの菌株と対峙培養によって帯線を形成する菌株であっても、特別な子実体発生操作を実施しせずに確実に良好な子実体形成能を有するホンシメジ菌株で天然からの選抜、分離された菌株や、交配、変異誘導、プロトプラスト処理、細胞融合、遺伝子操作などによって育種され、人工栽培に用いることが可能なホンシメジ菌株であればいずれも本発明に含まれる。
【0043】
次に、本発明の第二のホンシメジの菌床人工栽培方法について説明する。本発明の栽培方法としては、通常の菌床栽培方法としてエノキタケ、ヒラタケ、ブナシメジなどのキノコ栽培に用いられている方法を適用することができ、ビン栽培、袋栽培、トロ箱栽培等の菌床栽培方法が挙げられる。一例としてビン栽培について述べると、その方法とは培地調製、ビン詰め、殺菌、接種、培養、子実体発生操作、生育、収穫の各工程からなる。次にこれらを具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
培地調製とは、人工栽培に用いる各種培地を計量、攪拌し、加水して水分調整する工程をいう。培地に含まれる栄養分としては、特に限定されるものではないが、穀粒を由来としたデンプン類及びその他栄養分を含ませるのが好ましい。穀粒を由来としたデンプン類とは、生物学上イネ科に分類される、コムギ(Triticum aestivum L.)、ライムギ(Secale cereale L.)・ビールムギ(Hordeum distichum L.)等であり、より好ましくはオオムギ(Hordeum vulgare L. var. hexastlchon Aschers.)から得られるものである。培地基材としては、鋸屑、椰子の実繊維塊などが好適に用いられる。麦類とその他の培地基材の混合比率は、例として大麦の場合で説明すると、大麦がその他の基材に対して乾燥重量比で1重量部以上が好ましいが、本発明はこの比率に限定されるものではない。また、水分含量は好ましくは50〜70%、より好ましくは55〜65%、より好ましくは、58〜62%が適当である。
【0045】
ビン詰めとは、培養基をビンに詰める工程であり、通常400〜2300ml容の耐熱性広口培養ビンに、調製した培養基を例えば850mlビンの場合は500〜800g、好ましくは600〜750g圧詰し、中央に1〜3cm程度の穴を開け打栓する工程をいう。培地に開ける穴は中央に1つでも、2つ以上の複数であってもよい。より好ましくは、3つ以上である。
【0046】
殺菌とは、蒸気により培養基中のすべての微生物を死滅させる工程であればよく、通常常圧殺菌では98〜100℃、1〜4時間、高圧殺菌では105〜121℃、好ましくは121℃、30〜70分間行われる。
【0047】
接種とは、殺菌後放冷された培地に種菌を植え付ける工程であり、通常種菌としては、ホンシメジ菌株をPDA寒天培地等の寒天培地で25℃、30〜60日間培養し、それをブナ鋸屑を体積比え3、押し麦を体積比で2の割合で混合し、上記方法で殺菌し、無菌的に植え付け、25℃で60〜150日間培養後、菌糸体が蔓延したものを種金として用いる。これを1ビン当り15gほど無菌的に植え付ける。
【0048】
培養とは、菌糸を生育、熟成させる工程で、通常接種済みの培地を温度20〜25℃、湿度40〜70%において菌糸をまん延させ、更に熟成をさせる。熟成は省くこともできる。培養工程は、850mlビンの場合は通常60〜150日間、好ましくは100日間前後行われる。
【0049】
子実体の発生操作とは、培養工程を終了した後に栓を外し、子実体原基を形成させる工程で、通常10〜20℃、好ましくは15±2℃、湿度80%以上、照度1000ルクス以下で10〜20日間行う。本発明における子実体の発生操作としては、菌かき、覆土、注水の工程を一切必要とせずに確実に商業的価値の高い形状の子実体を形成することができることが大きな特徴である。
【0050】
生育とは、子実体原基から成熟子実体を形成させる工程で、通常、上記の子実体発生操作とほぼ同じ条件、すなわち、温度条件が10〜20℃、好ましくは15℃〜19℃、さらに好ましくは16℃〜18℃で、湿度80%以上、照度1000ルクス以下で、5〜15日間行う。この子実体の生育工程により成熟子実体を得ることができ、収穫を行って栽培の全工程を終了する。
【0051】
以上、本発明の菌床人工栽培方法をビン栽培方法により説明したが、袋栽培、トロ箱栽培においても上記の方法により実施することが可能である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0053】
実施例1
ビン栽培により子実体の収量、子実体の発生率、総栽培期間について検討した。まず種菌とするために、PDA(ポテトデキストロース)寒天培地でホンシメジUFC−1893(FREM P−20870)菌株、ホンシメジUFC−1897(FREM P−20871)菌株を接種し、25℃で40日間培養した。
【0054】
一方、市販のキノコ栽培容器である900ccガラスビン(ダイソー(株))に、ブナ鋸屑90g、オオムギ121g、体積比でブナ鋸屑、オオムギを体積比3:2として良く混合し、充填量を、合計480±1g、含水率60±2%湿潤状態にしたものを圧詰して、中央に直径1cm程度の穴を3つあけ、打栓後105℃60分、121℃45分間オートクレーブ滅菌を行い、放冷して固形培地とした。なお、栽培容器とした、フタは、直径約10mmの穴を1つあけ、呼吸フィルターを貼り付ける加工を施した。
【0055】
これに上記の寒天培地で培養した菌糸体を約40mlを接種し、まず暗所にて、温度23±2℃、湿度55±10%の条件下、培養基に目視上菌糸が蔓延するまで30日間培養した。次にこれを同様の方法で作製した培地を用いて、固形培地種菌として25±1g接種し試験を行った。栽培の試験には更に50日間培養を続け熟成させた。照度20〜200ルックス、温度15±2℃、湿度90±5%の条件下で30日間培養を続け、子実体原基を形成させ成熟子実体を得た。収穫された収量はホンシメジUFC−1893(FREM P−20870)菌株で110g、ホンシメジUFC−1897(FREM P−20871)菌株で112g、NBRC-100325で90gであった。ホンシメジUFC−1893(FREM P−20870)菌株、ホンシメジUFC−1897(FREMP−20871)菌株ともに子実体は、天然に近い形状を呈しており高品質であった。得られた子実体の収量、子実体の発生率、総栽培期間、備考を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
得られた子実体の形状を図1及び図2に示す。
【0058】
実施例2
市販されている3種類のキノコ栽培容器を用いて子実体の収量、子実体の発生率、総栽培期間について検討した。使用した各種容器は、ポリプロピレン製のエノキタケビン600ml(千曲化成(株))ビン口径58mm培地、ナメコビン(千曲化成(株))ビン口径78mm、ヒラタケビン850ml(千曲化成(株))ビン口径58mmに、それぞれ、ブナ鋸屑、オオムギを体積比で、3:2とし、中央に直径1cm程度の穴を1つあけ、打栓後105℃60分、121℃45分間オートクレーブ滅菌を行い、放冷して前培養した固形培地を25±1g接種した。なお、培地充填量は、それぞれ、エノキタケビン450g、ナメコビン600g、ヒラタケビン600gとした。培養条件は実施例1と同様に行い、子実体原基を形成させ成熟子実体を得た。収穫された収量、子実体の発生率、総栽培期間を表4に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
ホンシメジUFC−1893(FREM P−20870)菌株、ホンシメジUFC−1897(FREM P−20871)菌株ともに口径58mmのエノキタケビン、ヒラタケビンで栽培した場合に傘、柄の一部が変形してしまう傾向が見られたが、口径78mmのナメコビンを使用した場合に、子実体は天然に近い形状を呈しており高品質の子実体を形成した。なお、いずれの栽培容器においても確実に子実体を形成した。
【0061】
ホンシメジUFC−1893(FREM P−20870)菌株で110g、ホンシメジUFC−1897(FREM P−20871)菌株で112g、NBRC-100325で90gであった。ホンシメジUFC−1893(FREM P−20870)菌株、ホンシメジUFC−1897(FREM P−20871)菌株ともに子実体は、天然に近く形状を呈しており非常に美味であった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】ビン栽培により形成したホンシメジUFC−1893株の子実体を示す写真である。
【図2】ビン栽培により形成したホンシメジUFC−1897株の子実体を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
菌かき操作、注水操作又は覆土操作といういずれの子実体発生操作も行わない菌床人工栽培方法において、NBRC−100325と比較して子実体形成能が優れることを特徴とするホンシメジ新菌株。
【請求項2】
ホンシメジ新菌株が、ホンシメジUFC−1893(FREM P−20870)、ホンシメジUFC−1897(FREM P−20871)及びこれらの変異菌株から選択される菌株である請求項1記載のホンシメジ新菌株。
【請求項3】
麦類を栄養源として含む培地に請求項1又は2記載のホンシメジ新菌株を接種し、菌糸の培養工程の後、菌かき操作、注水操作又は覆土操作といういずれの子実体発生操作も行わず、子実体の生育工程を経て、得られた子実体を収穫することを特徴とするホンシメジの菌床人工栽培方法。
【請求項4】
菌糸の培養工程が20〜25℃の温度条件下で行われ、子実体の生育工程が15〜19℃の温度条件下で行われる請求項3記載のホンシメジの菌床人工栽培方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−17754(P2008−17754A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191601(P2006−191601)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】