説明

ホーニング砥石

【課題】自動車用エンジンのシリンダ内面などの円形孔の内面に対する油溜まり溝の形成工程及びプラトー面の創出工程を短縮化することができるホーニング砥石を提供する。
【解決手段】ホーニング砥石10は、シリンダ孔14の内面14aに油溜まり溝を形成するための主砥粒15と、主砥粒15より粒径の小さな二次砥粒16と、が混在するレジンボンド砥粒層17を備え、レジンボンド砥粒層17を構成するレジンボンド18のヤング率を18GPa〜30GPaとしている。また、主砥粒15の粒径に対する二次砥粒16の粒径の大小比率が1/8〜3/4であり、主砥粒15の粒径が#200(平均粒径76μm)〜#600(平均粒径30μm)であり、二次砥粒16の含有率が2.5%〜50%(体積比)であり、二次砥粒16の含有率(体積比)が、主砥粒15の含有率(体積比)の1.0倍〜2.5倍である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エンジンのシリンダ内面などのホーニング加工に使用するホーニング砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
新品エンジンを始動した時、シリンダ内面に形成された油溜まり用溝の間の山部分が、往復運動するピストンリングによって削り取られてエンジンオイルに混入し、エンジンオイルと共にエンジン内部に供給されて摺動面に入り込み、焼き付きを起こすことがある。このような現象を防止するため、被加工面であるシリンダ内面に形成された油溜まり溝の間の山部分を、事前に削り取ってプラトー面を創り出す加工が行われている。
【0003】
このようなプラトー面を創出する方法として、従来、図5に示すような加工方法が採用されている。即ち、図5(a)に示すように、被削材Wに対し♯140(平均粒径107μm)〜#200(平均粒径76μm)のメタルダイヤモンド砥石で粗加工を施した後、図5(b)に示すように、♯325(平均粒径46μm)〜#600(平均粒径30μm)のメタルダイヤモンド砥石で仕上げ加工を施すことによって被加工面に油溜まり溝Tを形成し、最後に、図5(c)に示すように、♯1000(平均粒径15μm)〜#2000(平均粒径8μm)のメタルダイヤモンド砥石を用いて、隣り合う油溜まり溝Tの間の山部分Mを削り取ることによってプラトー面Pを形成するという方法が採用されている。
【0004】
一方、本願発明に関連する先行技術として、例えば、特許文献1記載の「ホーニング砥石」、特許文献2記載の「被加工物の内筒内面仕上げ方法及びホーニングヘッド構造」、特許文献3記載の「研削工具」などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−47957号公報
【特許文献2】特開平7−88757号公報
【特許文献3】特開昭61−100352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図5に示す従来の加工方法は、被加工面に油溜まり溝T及びプラトー面Tを創り出すまでに、3つの加工工程が必要であるため、多くの労力と時間が費やされている。また、これらの加工を行うためには、粒径の異なる砥粒が配設された少なくとも3種類の砥石を必要とする。
【0007】
一方、特許文献1記載の砥石は、超砥粒を固着した砥粒層部と、WA砥粒またはGC砥粒を固着した砥粒層部とを接合して一つの砥石としたものであるが、加工作業の初期段階においては、超砥粒を固着した砥粒層部と、WA砥粒(またはGC砥粒)を固着した砥粒層部と、の間の砥粒先端高さの差が有効に存在するので、被加工面にプラトー面が形成されるが、連続加工を行うと、前記砥粒先端高さの差がなくなり、プラトー面が形成されなくなる傾向が生じる。また、特許文献1記載の砥石は、二つの砥粒層部を接合するという手間がかかる上、これらの砥粒層部間での砥粒配設条件のばらつきが大きく、砥石の摩耗も不均一となり、加工後の真円度や均一な面粗さを確保することが困難である。
【0008】
また、特許文献2記載の砥石は、一つの砥石に粗加工用の粗い砥粒と仕上げ加工用の細かい砥粒を混在させた砥石であるが、加工中に粗い砥粒を脱落させることによって被加工面にプラトー面を形成するものであるため、砥石寿命が短く、連続加工を行ったときに粗い砥粒と細かい砥粒との間の砥粒先端高さの差がなくなり、プラトー面が形成されなくなる。また、粗い砥粒と細かい砥粒とを単に混在させただけでは、個々の砥石内あるいは複数個の砥石間での砥粒配設条件のばらつきが大きく、砥石の摩耗も不均一となり、加工後の真円度や均一な面粗さを確保することが困難である。
【0009】
さらに、特許文献3記載の砥石は、超砥粒と、その平均粒径の1/3以下の粒径の微細超砥粒とを含有する砥粒層を設けることにより、耐摩耗性を高めたものであるが、これにより、砥石の摩耗が抑制され、砥石自生が行われ難くなるため、砥粒の先端高さが揃ってしまい、被加工面にプラトー面を形成することができなくなる。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、自動車用エンジンのシリンダ内面などの円形孔の内面に対する油溜まり溝の形成工程及びプラトー面の創出工程を短縮化することができるホーニング砥石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のホーニング砥石は、ホーニング加工装置のホーニングヘッドの円周方向に沿った複数箇所に取り付けられる砥石であって、被加工面に油溜まり溝を形成するための主砥粒と、前記超砥粒より粒径の小さな二次砥粒と、が混在するレジンボンド砥粒層を備え、前記レジンボンド砥粒層を構成するレジンボンドのヤング率を18GPa〜30GPaとしたことを特徴とする。
【0012】
このような構成とすれば、本発明のホーニング砥石を用いて円形孔の内面などの被加工面に研削加工(従来の仕上げ加工に相当する研削加工)を施したとき、前記レジンボンド砥粒層から被加工面に加えられる加工圧によって主砥粒がレジンボンド層中に沈み込み、レジンボンド面が被加工面に接触する状態となる。この過程において、主砥粒によって被加工面に無数の細かな油溜まり溝が形成されるとともに、隣り合う油溜まり溝の間の山部分が二次砥粒によって削り取られるため、油溜まり溝の形成及びプラトー面の創出を一工程で完了させることができる結果、工程を短縮化することができる。
【0013】
なお、レジンボンドのヤング率が18GPa未満であると、主砥粒の沈み込みが増大して、主砥粒自体の突き出しを確保することができず、油溜まり溝を形成できなくなるので、ホーニング加工が成立せず、砥石としての実用性が失われ、30GPaを超えると、主砥粒の沈み込みが減少して、二次砥粒が作用しなくなるので、プラトー面が形成されなくなる。従って、レジンボンドのヤング率は前記範囲が好適である。
【0014】
この場合、主砥粒としては、ダイヤモンド砥粒、cBN砥粒などが好適であり、二次砥粒としては、cBN砥粒、GC砥粒、WA砥粒などが好適であり、レジンボンドとしては、フェノール樹脂が好適であるが、これらに限定するものではない。
【0015】
ここで、前記主砥粒の粒径に対する前記二次砥粒の粒径の大小比率が1/8〜3/4であることが望ましい。
【0016】
このような構成とすれば、主砥粒が被加工面に油溜まり溝を形成し、隣り合う油溜まり溝の間の山部分を二次砥粒が、削り取ってプラトー面を形成するという工程が効率良く行われる。なお、二次砥粒の粒径が主砥粒の3/4より大きくなると、油溜まり溝の間の山部分だけでなく、油溜まり溝内にも砥粒が食込むようになるため、プラトー面が形成されなくなり、1/8より小さくなると、研削能力が不足して油溜まり溝の間の山部分を除去することができなくなるため、プラトー面が形成されなくなる。従って、主砥粒の粒径に対する二次砥粒の粒径の大小比率は前記範囲が好適である。
【0017】
また、前記主砥粒の粒径は、#200(平均粒径76μm)〜#600(平均粒径30μm)であることが望ましい。
【0018】
このような構成とすれば、被加工面に、最適なサイズの油溜まり溝を保有するプラトー面を創出することができる。なお、主砥粒の粒径が#200(平均粒径76μm)より大きくなると深い油溜まり溝が形成されるのでエンジン潤滑油の消費量が増大し、#600(平均粒径30μm)より小さくなると浅い油溜まり溝しか形成されないので、エンジン潤滑油を溜める作用が低下し、エンジンの焼き付きを防止する効果も低下する。従って、前記主砥粒の粒径は前記範囲が好適である。
【0019】
一方、前記二次砥粒の含有率が2.5%〜50%(体積比)であることが望ましい。このような構成とすれば、隣り合う油溜まり溝の間の山部分が適切に削り取られた理想的なプラトー面を形成することができる。
【0020】
なお、前記二次砥粒の含有率が2.5%より小さくなると、被加工面に作用する砥粒数が少なくなり、油溜まり溝の間の山部分を削り取る程度の充分な研削能力を得られなくなり、50%より大きくなると、レジンボンド量が相対的に減少して砥粒保持力が低下し、異常摩耗が生じ、砥石として機能しなくなる。従って、前記二次砥粒の含有率(体積比)は、前記範囲が好適である。
【0021】
また、前記二次砥粒の含有率(体積比)が、主砥粒の含有率(体積比)の1.0倍〜2.5倍であることが望ましい。このような構成とすれば、隣り合う油溜まり溝の間の山部分が適切に削り取られた、理想的な形状のプラトー面を形成することができる。
【0022】
なお、前記二次砥粒の含有率(体積比)が主砥粒の含有率(体積比)の1.0倍より小さくなると、被加工面に作用する砥粒数が少なくなり、油溜まり溝の間の山部分を削り取る程度の充分な研削能力が得られなくなり、主砥粒の含有率(体積比)の2.5倍より大きくなると、二次砥粒が耐摩耗材として働き、砥石の自生作用が抑制されるため、連続加工性が阻害される。従って、前記二次砥粒の含有率(体積比)は前記範囲が好適である。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、自動車用エンジンのシリンダ内面などの円形孔の内面に対する油溜まり溝の形成工程及びプラトー面の創出工程を短縮化することができるホーニング砥石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態であるホーニング砥石を組み込んだホーニング加工装置を示す断面図である。
【図2】図1に示すホーニング砥石の斜視図である。
【図3】図2のA−A線における断面図である。
【図4】図3に示すホーニング砥石による加工状態を示す断面図である。
【図5】円形孔の内面のホーニング加工におけるプラトー面の創出工程を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に示すように、本実施形態のホーニング砥石10は、台金であるシュー13に固着された状態でホーニング装置(図示せず)のホーニングヘッド11の円周方向に沿った複数箇所に取り付けられている。ホーニングヘッド11の内部には、テーパコーン12が上下動可能に挿入され、複数のホーニング砥石10付きのシュー13がテーパコーン12の外周側に等間隔に係合されている。研削作業中は、テーパコーン12の下降により、シュー13を介してホーニング砥石10が、被加工面である、シリンダ孔14の内面14aに向けて押圧される。
【0026】
図2,図3に示すように、シュー13の長手方向に沿って固着されたホーニング砥石10は、シリンダ孔14の内面14aに油溜まり溝T(図5参照)を形成するための主砥粒15と、主砥粒15より粒径の小さな二次砥粒16と、が混在するレジンボンド砥粒層17を備え、レジンボンド砥粒層17を構成するレジンボンド18のヤング率を22GPaとしている。レジンボンド18はフェノール樹脂によって形成されている。
【0027】
ここで、ホーニング砥石10の製造方法について説明する。フェノール樹脂粉末(体積比48.75%)と、主砥粒15である#400(平均粒径37μm)のダイヤモンド砥粒(体積比18.75%)と、二次砥粒16である#800(平均粒径20μm)のGC砥粒(体積比32.5%)と、を攪拌機(図示せず)にて混合し、これによって得られた混合物(図示せず)を成形金型(図示せず)に充填する。この後、前記成形金型を所定の成形機械にセットし、成形圧力800kg/cm2、成形温度170℃の条件下で加圧加温し、ホーニング砥石10の原形(図示せず)を成形する。
【0028】
成形されたホーニング砥石10の原形を、エポキシ系樹脂の接着剤を用いてシュー13に接着して、ホーニングヘッド11に組み込んだ後、その状態でホーニングヘッド11を円筒研削盤(図示せず)の加工軸に取り付け、GC砥石を用いて、所定の外径になるようにツルーイングを施すと、ホーニング加工に使用可能なホーニング砥石10が完成する。なお、前述したホーニング砥石10の製造方法は、一例であって、これに限定するものではない。
【0029】
次に、図1に示すように、複数のホーニング砥石10を備えたホーニングヘッド11を用いてシリンダ孔14の内面14aにホーニング加工を施した場合について説明する。この場合のホーニング砥石10の構成及び加工条件などは、以下に示す通りであるが、これに限定するものではない。
【0030】
ホーニングヘッド11の回転数:300rpm
ホーニングヘッド11の主軸往復速度:20m/min
ホーニング砥石10の配置本数:6本
レジンボンド砥粒層17のサイズ:長さ75mm×高さ4mm×幅4mm
レジンボンド18のヤング率:22GPa
レジンボンド18の材質:フェノール樹脂
主砥粒15の粒径:37μm(♯400)
二次砥粒16の粒径:20μm(♯800)
主砥粒15の粒径に対する二次砥粒16の粒径の大小比率:20/37(約1/2)
二次砥粒16の含有率(体積比):32.5%
主砥粒15の含有率に対する二次砥粒16の含有率の割合:1.7倍
【0031】
このような条件下で、図1に示すように、シリンダ孔14の内面14aにホーニング加工を施すと、図4に示すように、ホーニング砥石10のレジンボンド砥粒層17から内面14aに加わる加工圧によって主砥粒15がレジンボンド18中に沈み込み、レジンボンド砥粒層17の表面17aが内面14aに接触する状態となる。この過程において、主砥粒15によって内面14aに、図5(c)に示すような無数の細かな油溜まり溝Tが形成されるとともに、隣り合う油溜まり溝Tの間の山部分Mが二次砥粒16によって削り取られプラトー面Pが形成される。このように、ホーニング砥石10を用いることにより、従来の加工方法では二工程を要していた、油溜まり溝Tの形成工程及びプラトー面Pの創出工程が一工程で完了するようになるため、ホーニング工程を大幅に短縮化することができる。
【0032】
従来、図5(b),(c)に示す二つの工程に60秒〜90秒程度の時間を要していたが、ホーニング砥石10を使用することにより、図5(b),(c)に示す加工を一工程で完了することができ、それに要する時間も30秒〜60秒程度に短縮することができた。また、ホーニング砥石10を使用することにより、ホーニング盤1軸分の投資費用を抑制し、ホーニング盤の設置スペースも削減することができる。
【0033】
さらに、前記ホーニング加工過程においては、図5(c)に示すように、プラトー面Pに、油溜まり溝Tより細かな複数の微細溝t(溝Tよりも幅及び深さの小さな微細溝t)が形成され、これらの微細溝tも油溜まり溝Tと同様の油溜め作用を発揮するので、エンジンの焼き付き防止に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のホーニング砥石は、自動車用エンジンのシリンダ内面などのホーニング加工において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
10 ホーニング砥石
11 ホーニングヘッド
12 テーパコーン
13 シュー
14 シリンダ孔
14a 内面
15 主砥粒
16 二次砥粒
17 レジンボンド砥粒層
17a 表面
18 レジンボンド
M 山部分
P プラトー面
T 油溜まり溝
t 微細溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホーニング加工装置のホーニングヘッドの円周方向に沿った複数箇所に取り付けられる砥石であって、被加工面に油溜まり溝を形成するための主砥粒と、前記主砥粒より粒径の小さな二次砥粒と、が混在するレジンボンド砥粒層を備え、前記レジンボンド砥粒層を構成するレジンボンドのヤング率を18GPa〜30GPaとしたことを特徴とするホーニング砥石。
【請求項2】
前記主砥粒の粒径に対する前記二次砥粒の粒径の大小比率が1/8〜3/4であることを特徴とする請求項1記載のホーニング砥石。
【請求項3】
前記主砥粒の粒径が#200(平均粒径76μm)〜#600(平均粒径30μm)であることを特徴とする請求項1または2記載のホーニング砥石。
【請求項4】
前記二次砥粒の含有率が2.5%〜50%(体積比)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のホーニング砥石。
【請求項5】
前記二次砥粒の含有率(体積比)が、主砥粒の含有率(体積比)の1.0倍〜2.5倍であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のホーニング砥石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−11522(P2012−11522A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152409(P2010−152409)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】