説明

ホーンスピーカ

【課題】放音方向に対して凹状に湾曲された振動板を有するホーンスピーカの再生周波数特性を平坦にする。
【解決手段】フェイズプラグ16の背後には振動板17が支持されている。振動板17が振動すると、振動板17とフェイズプラグ16の間の音発生空間OS内の空気がフェイズプラグ16のスリット21,22に押し出され、ホーン14から音波が放射される。フェイズプラグ16の外周面42は隔離板50がある。隔離板50は、音発生空間OSと、フェイズプラグ16、ポールピース10、バックプレート31、環状マグネット32、トッププレート33、スペーサリング34、およびエッジ40により囲まれた空間ASとを隔離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放音方向に対して凹状に湾曲した振動板を有するホーンスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
ホーンスピーカは、音波を空間に放射するホーンと、ドーム状の振動板と、その振動板が発した音をホーンのスロート部に導くフェイズプラグとを有している。ホーンスピーカには、振動板の音放射面が放音方向に対して凸状に湾曲しているフロントタイプ(たとえば、特許文献1を参照)と振動板の音放射面が放音方向に対して凹状に湾曲しているリアタイプ(たとえば、特許文献2を参照)とがある。ここで、フロントタイプのホーンスピーカは、振動板における音放射面の各点からスロート部までの距離が不均一である。これに対し、リアタイプのホーンスピーカは、振動板における音放射面の各点から発した音をスロート部に導く複数のスリットがフェイズプラグに形成されており、これらの各スリットを経由した音の伝搬距離は均一である。このため、フロントタイプのホーンスピーカよりもリアタイプのホーンスピーカの方が振動板の音放射面の各点から発した音を位相の揃った音としてスロート部に導き易い。以上の理由から、位相的な干渉が発生しやすい高音域の音を取り扱うホーンスピーカとしてリアタイプを採用するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3040179号公報
【特許文献2】特開平6−141390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、これまでに提案されてきたリアタイプのホーンスピーカは、フロントタイプのホーンスピーカに比べて平坦な周波数特性を得がたいという問題があった。その理由は以下に説明する通りである。図8は、従来のリアタイプのホーンスピーカ8の縦断面図である。
【0005】
図8において、ホーン84のスロート部94は、バックプレート80の一端面に固定されている。このバックプレート80において、ホーン84と反対側の端面にはポールピース85の一底面が固定されている。そして、バックプレート80とポールピース85の中心には両者を貫いてホーン84のスロート部94に至る導音孔83が穿設されている。ポールピース85においてバックプレート80と反対側の底面は導音孔83に向かってすり鉢状に凹んでおり、このすり鉢状の面には複数のスリットを有するフェイズプラグ86が嵌め込まれている。そして、フェイズプラグ86の背後には振動板87が支持されている。この振動板87は、ドーム状に湾曲しており、その外周部に筒状のボイスコイルボビン88が設けられている。
【0006】
また、バックプレート80におけるホーン84と反対側の端面には、バックプレート80と同じ直径の環状マグネット82とトッププレート81があり、環状マグネット82は、バックプレート80とトッププレート81との間に挟持されている。環状マグネット82は、一方の底面(例えばバックプレート80側の底面)にN極があり、他方の底面(例えばトッププレート81側の底面)にS極がある。
【0007】
トッププレート81の内周壁は、微小な間隔を空けてポールピース85の外周壁と対向している。そして、バックプレート80と、環状マグネット82と、トッププレート81と、フェイズプラグ86と、ポールピース85とからなる磁気のループは、環状マグネット82が発生した磁力線を一巡させる磁気回路を構成している。そして、振動板87は、この磁気回路において、トッププレート81の内周壁とポールピース85の外周壁との間にある磁気ギャップAGに周端のボイスコイルボビン88を収めた状態で支持されている。
【0008】
この振動板87を支持する構成は次の通りである。まず、トッププレート81の環状マグネット82と反対側の端面には、スペーサリング90が固定されている。このスペーサリング90の内周壁と振動板87の外周部との間にはエッジ89が介在している。このエッジ89が振動板87を支持する役割を果たす。
【0009】
以上のような構成を有するホーンスピーカ8では、環状マグネット82の発生した磁束がトッププレート81とポールピース85の間の磁気ギャップAGを通過する。そして、ボイスコイルボビン88におけるボイスコイルに電流を流すと、ボイスコイルボビン88には、ポールピース85の中心軸axに平行な方向の駆動力が与えられ、ボイスコイルボビン88に固定された振動板87が振動する。振動板87が振動すると、この振動により、振動板87とフェイズプラグ86との間の空間OSの空気がフェイズプラグ86の各スリットを介して導音孔83に押し出されたり引き戻されたりする。そして、この押し出されたり引き戻されたりする空気の粗密波が、音波として導音孔83を経由し、ホーン84から放音される。
【0010】
ここで、図8に示すように、ホーンスピーカ8では、振動板87とフェイズプラグ86の間の薄い円板状の空間OSの外側に、バックプレート80、環状マグネット82、トッププレート81、スペーサリング90、エッジ89およびポールピース85によって包囲された気密状態の空間CSが連通している。ここで、空間CSの厚みは空間OSの厚みよりも大きくなっている。つまり、ホーンスピーカ8では、厚みが不連続な空間が連通することとなる。
【0011】
よって、振動板87をある周波数で振動させると、空間OSと空間CSとの間でヘルムホルツ共鳴に似た共鳴現象が発生する。その結果、図9に示すように、この共鳴現象を引き起こす周波数においてホーンスピーカ8の再生周波数特性にピークPやディップDが発生する。
【0012】
本発明は、このような背景の下に案出されたものであり、放音方向に対して凹状に湾曲された振動板を有するホーンスピーカの再生周波数特性を平坦にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、音を拡声して出力するホーンと、湾曲面状の振動板と、前記振動板によって覆われ、前記振動板から発した音を前記ホーンのスロート部に導入するフェイズプラグとを有するホーンスピーカにおいて、前記振動板を外側から取り囲んで支持するエッジと、前記エッジを外側から取り囲み、前記エッジを介して前記振動板を支持する振動板保持部材と、前記フェイズプラグから前記ホーンの側に向かって延在するようにして前記振動板の外周部に固定されたボイスコイルボビンと、前記ボイスコイルボビンを収容する磁気ギャップを有する磁気回路と、前記フェイズプラグの外周部から前記ボイスコイルボビンに向かって突出した隔離板であって、前記振動板の音波の放射する面と前記フェイズプラグの表面との間の空間である音発生空間と当該隔離板を挟んで前記音発生空間の反対側にある空間とを隔離する隔離板とを具備するホーンスピーカを提供する。
【0014】
この発明では、音発生空間と、隔離板を挟んで音発生空間の反対側にある空間との連通が隔離板によって阻止される。よって、本発明によると、ヘルムホルツ共鳴に似た共鳴現象の発生を防ぎ、ホーンスピーカの再生周波数特性を平坦にすることができる。
【0015】
また、本発明は、音波を空間に放射するホーンと、ドーム状の振動板と、前記振動板によって覆われ、前記振動板から発した音波を前記ホーンのスロート部に導入するフェイズプラグとを有するホーンスピーカにおいて、前記振動板の外周部に固定されたボイスコイルボビンであって、前記振動板の外周部における当該ボイスコイルボビンが固定された部分から前記ホーンの反対側の方に向かって折り返すように延在するボイスコイルボビンと、前記ボイスコイルボビンを収容する磁気ギャップを有する磁気回路と、前記振動板の外周部を取り囲むようにして前記振動板の外周部に固定された環状の隔離板と、前記フェイズプラグを包囲する環状のプレートであって、前記隔離板を収容し、かつ、前記磁気ギャップと連通する空間を内包する凹部を内周壁に有するプレートとを具備し、前記隔離板の外周端は、前記凹部の内周壁に固定され、前記凹部に内包される空間は、前記隔離板によって、前記振動板の音波を放射する面と前記フェイズプラグの表面との間の空間である音発生空間に連通する第1の空間と、前記磁気ギャップに連通する第2の空間とに隔離され、前記音発生空間及び前記第1の空間が、断面の厚みが均一な空間を構成することを特徴とするホーンスピーカを提供する。
【0016】
この発明では、音発生空間と第1の空間とにより、断面の厚みが均一な空間を構成する。よって、本発明によると、ヘルムホルツ共鳴に似た共鳴現象の発生を防ぎ、ホーンスピーカの再生周波数特性を平坦にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態であるホーンスピーカの縦断面図である。
【図2】同ホーンスピーカにおけるホーンの一部を除いた残りのを除く部分の拡大図である。
【図3】同ホーンスピーカにおける磁気ギャップAG1の周囲の部分の拡大図である。
【図4】本発明の第2実施形態であるホーンスピーカにおけるホーンを除く部分の拡大図である。
【図5】本発明の他の実施形態であるホーンスピーカにおける磁気ギャップAG1の周囲の拡大図である。
【図6】本発明の他の実施形態であるホーンスピーカの拡大図である。
【図7】本発明の他の実施形態であるホーンスピーカの拡大図である。
【図8】従来のホーンスピーカの縦断面図である。
【図9】従来のホーンスピーカの周波数特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、この発明の第1実施形態であるホーンスピーカ5の縦断面図である。図2は、図1におけるホーン14の一部を除いた残りの部分の拡大図である。図2に示すように、ポールピース10の外形は、小径の筒体と大径の筒体とを連結させたような形状をなしている。ポールピース10の中心には導音孔11が穿設されている。図1に示すように、ポールピース10の一端面における導音孔11の開口部13にはホーン14のスロート部55が連結されており、ポールピース10とホーン14とが一体となって、本発明のホーンスピーカ5のホーンを構成している。ポールピース10の他端面にはフェイズプラグ16が固定されている。フェイズプラグ16の背後には湾曲面であるドーム状の振動板17がある。この振動板17は、音波の放射面である凹面をフェイズプラグ16に向けて支持されている。この振動板17を支持する構成の詳細は、後述する。
【0019】
フェイズプラグ16は、振動板17の振動によって発生する音波の位相を揃える位相等化器としての役割を果たす部材である。フェイズプラグ16は、円錐状部材18とその外周を取り囲む環状部材19、及び環状部材19とその外周を取り囲む環状部材20を各々の間に隙間を空けるようにして一部連結した構造になっている。フェイズプラグ16として連結された部材19及び20における振動板17に対向する面は、振動板17における凹曲面の形状に対応した凸曲面(以下、この凸曲面を音集面45という)をなしている。円錐状部材18と環状部材19との間の隙間および環状部材19と環状部材20との間の隙間は、音集面45から導音孔11に向かって延在するスリット21,22を構成する。これらスリット21,22の各々の断面形状は、音響孔11に近づくに従って拡がるテーパ状をなしている。なお、図2では、スリット21,22の一部が集音面45に至る途中で閉塞しているが、これは、図2の断面におけるそれらの閉塞箇所において円錐状部材18と環状部材19および環状部材19と環状部材20が連結されていることを示すものである。
【0020】
ポールピース10の周りには、バックプレート31、環状マグネット32、およびトッププレート33がある。バックプレート31、環状マグネット32、およびトッププレート33は、異なる内周径を持った環状をなしている。バックプレート31は、ポールピース10の外周を取り囲んだ状態でポールピース10に対して固定されている。そして、バックプレート31、環状マグネット32、およびトッププレート33は、バックプレート31とトッププレート33の間に環状マグネット32を挟むようにして一体化されている。環状マグネット32は、一方の底面(例えばバックプレート31側の底面)にN極があり、他方の底面(例えばトッププレート33側の底面)にS極がある。
【0021】
このホーンスピーカ5では、バックプレート31、環状マグネット32、トッププレート33、ポールピース10、及びトッププレート33の内周壁36とポールピース10の外周壁37との間の隙間からなる磁気のループが、環状マグネット32が発生した磁力線を一巡させる磁気回路を構成している。ここで、環状マグネット32の内周壁35とポールピース10の外周壁37の間には空隙があり、トッププレート33の内周壁36とポールピース10の外周壁37の間にはさらに狭い隙間である磁気ギャップAG1がある。磁気回路を一巡する磁束は、この磁気ギャップAG1を横切る。
【0022】
また、振動板17の外周部にはボイスコイルボビン39が固定されている。ボイスコイルボビン39は、振動板17の外周部からホーン14の側に向かって延在する筒状をなしている。ボイスコイルボビン39にはボイスコイル(不図示)が巻回されている。振動板17が支持された状態において、ボイスコイルボビン39は磁気ギャップAG1に収容されている。
【0023】
振動板17を支持する構成は次の通りである。トッププレート33の環状マグネット32と反対側の端面にはスペーサリング34が固定されている。そして、スペーサリング34の内周壁41とボイスコイルボビン39の外周部との間にはエッジ40が介在している。図3の拡大図に示すように、エッジ40は、ボイスコイルボビン39の外周面71における振動板17と繋がっている端部よりも僅かに磁気ギャップAG1側からスペーサリング34に向かって拡がっている。エッジ40の外周端は、スペーサリング34の内周壁41に固定されている。また、フェイズプラグ16の集音面45の周端からはポールピース10に向かって円周状に延在する外周面42が形成されている。この外周面42には隔離板50が嵌め込まれている。隔離板50は環状をなしている。隔離板50の外周端はボイスコイルボビン39の内周面72に至るまで突出し、その内周面72におけるエッジ40の裏側にボイスコイルボビン39の振動を阻害しないように接触している。
【0024】
この隔離板50は、振動板17とフェイズプラグ16との間の空間(以下、音発生空間OSという)と当該隔離板50を挟んで音発生空間OSの反対側にある空間(図2の例では、隔離板50、フェイズプラグ16、ポールピース10、バックプレート31、環状マグネット32、トッププレート33、スペーサリング34、およびエッジ40により囲まれた空間:以下、空間ASという)とを隔離する機能を有する。つまり、本実施形態におけるホーンスピーカ5は、厚みがほぼ均一な音発生空間OSとその外側における当該空間OSと異なる厚みを持った空間ASとの連通が隔離板50によって阻止される構造となっている。
【0025】
ホーンスピーカ5の構成は、以上説明した通りである。このホーンスピーカ5は、以下のようにして動作する。振動板17のボイスコイルボビン39に巻回されているボイスコイル(不図示)に音声信号の電流を流すと、ボイスコイルボビン39には、ポールピース10の中心軸bxに平行な方向の駆動力が与えられ、ボイスコイルボビン39に固定された振動板17が振動する。振動板17が振動すると、この振動により、音発生空間OSの空気がフェイズプラグ16の各スリット21,22を介して導音孔11に押し出されたり引き戻されたりする。そして、この押し出されたり引き戻されたりする空気の粗密波が、音波として導音孔11を経由し、ホーン14から外部の室空間へ放射される。
【0026】
振動板17が振動している間、フェイズプラグ16の外周面42からボイスコイルボビン39に向かって突出している隔離板50は、ボイスコイルボビン39の内周面72上を摺動しつつ、音発生空間OS及び空間ASの間の空気の移動を阻止する。これにより、音発生空間OS内の空気が疎になるのに合わせて音発生空間OSから空間ASから空気が移動する現象や、音発生空間OS内の空気が密になるのに合わせて音発生空間OSから空間ASに空気が移動する現象が発生しなくなる。この結果、ヘルムホルツ共鳴に似た共鳴現象の発生が防止され、ホーンスピーカ5の再生周波数特性を平坦にすることができる。
【0027】
<第2実施形態>
図4は、この発明の第2実施形態であるホーンスピーカ5Aにおけるホーン14の一部を除いた残りの部分の拡大図である。このホーンスピーカ5Aのホーン14の形状は、第1実施形態のホーンスピーカ5のホーン14の形状(図1)と同じである。図4において、第1実施形態のホーンスピーカ5と同じ要素には同一の符号を付してある。第1実施形態では、隔離板50がフェイズプラグ16の外周面42に設けられていた。しかし、本実施形態におけるホーンスピーカ5Aでは外周面42に隔離板50を設けない。その代わりに、このホーンスピーカ5Aでは、エッジ40が、振動板17の外周部を支持する機能と第1実施形態における隔離板50の機能とを併有する。
【0028】
このホーンスピーカ5Aでは、ボイスコイルボビン39は、振動板17の外周部に固定されている。ボイスコイルボビン39は、振動板17における当該ボイスコイルボビン39が固定されている部分からホーン14の反対側(即ち、振動板17におけるドームの頂上側)の方に向かって折り返すように延在する筒状に構成されている。また、バックプレート31Aはバックプレート31(図2)よりも厚みが大きくなっている。バックプレート31Aの内周壁には凹部51と凸部56が形成されている。また、トッププレート33Aの内周径はトッププレート33(図2)の内周径よりも小さくなっている。トッププレート33Aの内周側の部分は振動板17の側に折れ曲がり振動板17の背後まで伸びる凸部57を構成している。そして、バックプレート31Aの凸部56とトッププレート33Aに凸部57との間に磁気ギャップAG2がある。
【0029】
また、本実施形態におけるホーンスピーカ5Aでは、振動板17が支持された状態において、ボイスコイルボビン39は磁気ギャップAG2に収容されている。この振動板17を支持する構成は次の通りである。ホーンスピーカ5Aでは、トッププレート33Aの端面にエッジ40を支持するスペーサリング34(図2)がない。その代わりに、ホーンスピーカ5Aでは、バックプレート31Aの凹部51内にエッジ40がある。
【0030】
より詳細に説明すると、エッジ40は、ボイスコイルボビン39におけるホーン14の側の端部からバックプレート31Aの凹部51内の空間(具体的には、凹部51の底面54とその両側面55,56によって囲まれた空間に向かって拡がっている。エッジ40の外周端は、凹部51におけるボイスコイルボビン39と対向する面である底面54に固定されている。このエッジ40により、凹部51内の空間は、磁気ギャップAG2に連通した空間BS’と空間OSに連通した空間BS”とに隔離される。
【0031】
ここで、エッジ40と、凹部51における底面54と直交する2つの面のうち磁気ギャップAG2から遠い方の面55(ホーン14側の面)の間の隙間の幅は、ボイスコイルボビン39が振動していないとき、フェイズプラグ16の外周面42とボイスコイルボビン39の間の隙間の幅と等しい。よって、本実施形態のホーンスピーカ5Aでは、エッジ40により隔離された2つの空間BS’及びBS”のうち音発生空間OSに連通する方の空間BS”が、音発生空間OSとともに、厚みが均一な空間XSを構成する。
【0032】
本実施形態では、振動板17が振動している間、音発生空間OS内の空気が疎になるのに合わせて空間BS”から音発生空間OSに空気が移動する現象や、音発生空間OS内の空気が密になるのに合わせて音発生空間OSから空間BS”に空気が移動する現象が発生する。しかし、音発生空間OSにおける音波を放射する面に直交する面で切った断面の厚みと、空間BS”における中心軸bx(ホーン14の延伸する方向の軸)を含む面で切った断面の厚みは均一であるから、ヘルムホルツ共鳴に似た共鳴現象は発生しない。よって、本実施形態によっても、ホーンスピーカ5Aの再生周波数特性を平坦にすることができる。
【0033】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態があり得る。例えば、以下の通りである。
(1)第1実施形態において、図5に示すように、フェイズプラグ16の外周面42とボイスコイルボビン39の間の隙間に設けられた隔離板50をボイスコイルボビン39の内側に固定してもよい。この場合、隔離板50は、エッジ40と同じように、振動板17の振動を阻害しないように適度な柔軟性や可撓性を持った部材(例えば、柔軟な樹脂や樹脂を含浸した織物、柔軟な蛇腹構造を持った部材)で構成するとよい。また、ボイスコイルボビン39の内側に固定した隔離板50によりエッジ40を代用してもよい。この実施形態では、図6に示すように、ボイスコイルボビン39の外周面71とスペーサリング34の内周壁41の間にエッジ40を設けず、隔離板50の先端をボイスコイルボビン39の内周面72に固定する。そして、この隔離板50によってボイスコイルボビン90を内側から支持する。この場合も図5の場合と同様に、隔離板50は、振動板17の振動を阻害しないように適度な柔軟性や可撓性を持った部材で構成するとよい。
【0034】
(2)第2実施形態におけるホーンスピーカ5Aでは、凹部51内の空間を磁気ギャップAGに連通した空間BS’と音発生空間OSに連通した空間BS”とに隔離する隔離板としての役割をエッジ40が果たした。しかし、そのような役割を果たす隔離板をエッジ40とは別に設けてもよい。この実施形態は、例えば、次のような構成によって実現できる。凹部51の底面54におけるボイスコイルボビン39の端部(ホーン14の側の端部)と向かい合う位置からボイスコイルボビン39に向かって環状の隔離板を延在させ、隔離板の内周をボイスコイルボビン39に当接させる。そして、凹部51の底面54における隔離板よりも磁気ギャップAG2側の位置とボイスコイルボビン39との間にエッジ40を介在させる。
【0035】
(3)図7に示すように、ホーンスピーカ8において、環状マグネット82の内側に環状の非磁性部材100を設け、この非磁部材100の内周とポールピース85との間の隙間の厚さと、フェイズプラグ86と振動板87との間の空間OSの厚さとが同じになるように構成してもよい。このようなホーンスピーカ8の構成を概念的に示すと、「音波を空間に放射するホーンと、ドーム状の振動板と、前記振動板によって覆われ、前記振動板から発した音波を前記ホーンのスロート部に導入するフェイズプラグとを有するホーンスピーカにおいて、前記フェイズプラグを収容するポールピースと、前記ポールピースを包囲し、前記フェイズプラグと共に磁気回路を構成する環状マグネットと、前記環状マグネットと前記ポールピースの外周面の間に設けられた環状の非磁性部材とを有し、前記ポールピースの外周面と前記非磁性部材の内周面の間の隙間の厚さが前記振動板と前記フェイズプラグの間の隙間の厚さと同じになるように構成されていることを特徴とするホーンスピーカ。」となる。
【符号の説明】
【0036】
5,5A…スピーカ、10…ポールピース、11…導音孔、14…ホーン、16…フェイズプラグ、17…振動板、18…円錐状部材、19,20…環状部材,31…バックプレート、32…環状マグネット、33…トッププレート、39…ボイスコイルボビン、40…エッジ、50…隔離板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波を空間に放射するホーンと、ドーム状の振動板と、前記振動板によって覆われ、前記振動板から発した音波を前記ホーンのスロート部に導入するフェイズプラグとを有するホーンスピーカにおいて、
前記振動板を外側から取り囲んで支持するエッジと、
前記エッジを外側から取り囲み、前記エッジを介して前記振動板を支持する振動板保持部材と、
前記フェイズプラグから前記ホーンの側に向かって延在するようにして前記振動板の外周部に固定されたボイスコイルボビンと、
前記ボイスコイルボビンを収容する磁気ギャップを有する磁気回路と、
前記フェイズプラグの外周部から前記ボイスコイルボビンに向かって突出した隔離板であって、前記振動板の音波の放射する面と前記フェイズプラグの表面との間の空間である音発生空間と当該隔離板を挟んで前記音発生空間の反対側にある空間とを隔離する隔離板と
を具備することを特徴とするホーンスピーカ。
【請求項2】
前記振動板は前記隔離板を介して前記フェイズプラグに支持されていることを特徴とする請求項1に記載のホーンスピーカ。
【請求項3】
音波を空間に放射するホーンと、ドーム状の振動板と、前記振動板によって覆われ、前記振動板から発した音波を前記ホーンのスロート部に導入するフェイズプラグとを有するホーンスピーカにおいて、
前記振動板の外周部に固定されたボイスコイルボビンであって、前記振動板の外周部における当該ボイスコイルボビンが固定された部分から前記ホーンの反対側の方に向かって折り返すように延在するボイスコイルボビンと、
前記ボイスコイルボビンを収容する磁気ギャップを有する磁気回路と、
前記振動板の外周部を取り囲むようにして前記振動板の外周部に固定された環状の隔離板と、
前記フェイズプラグを包囲する環状のプレートであって、前記隔離板を収容し、かつ、前記磁気ギャップと連通する空間を内包する凹部を内周壁に有するプレートとを具備し、
前記隔離板の外周端は、前記凹部の内周壁に固定され、前記凹部に内包される空間は、前記隔離板によって、前記振動板の音波を放射する面と前記フェイズプラグの表面との間の空間である音発生空間に連通する第1の空間と、前記磁気ギャップに連通する第2の空間とに隔離され、前記音発生空間及び前記第1の空間が、断面の厚みが均一な空間を構成することを特徴とするホーンスピーカ。
【請求項4】
前記隔離板は前記プレートの凹部の内周壁に固定されており、前記振動板は前記隔離板を介して前記プレートに支持されていることを特徴とする請求項3に記載のホーンスピーカ。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−244050(P2011−244050A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111776(P2010−111776)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】