説明

ボイスコイル組立体を用いたスピーカー、および、その製造方法

【課題】 能率が高く、分割振動が発生しにくくて平坦な周波数特性が得られ、かつ、動作不良が発生しにくいスピーカー、および、その製造方法を実現する。
【解決手段】 磁気回路の磁気空隙にボイスコイル組立体の内巻矩形コイルが配置され、かつ、磁気回路の開放孔にボイスコイル組立体の両端部の外壁面が露出するようにして、スピーカーを製造する工程において、ボイスコイル組立体を磁気回路の磁気空隙に適切に配置する組立治具を、ボイスコイル組立体の外壁面に当接させてボイスコイル組立体を保持してスピーカーを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のマグネットを使用した磁気回路と、ボビンと、複数のコイルと、を使用したスピーカー振動部材と、を備えるスピーカーに関し、特に、全高が薄い平面薄型スピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
音声信号を音声に変換する動電型スピーカーに於いて、磁気回路を含むその全高を低く抑えるために、スピーカー振動板に平面型振動板を採用するスピーカーがある。平面型振動板は、コーン型振動板に比較してその全高が低くなるものの、分割振動せずに一体に振動するには剛性が不足しやすい。そこで、平面型振動板に固着するボビンが複数のボイスコイルを備え、複数のボイスコイルで平面型振動板を駆動することで、分割振動を抑制しようとするスピーカーが存在する。従来には、全高が薄い平面薄型スピーカーとして、複数のコイルを備えた平面振動板と、各コイルに対応した複数のマグネットを使用した磁気回路とを備えるスピーカーが使用されることがある。
【0003】
全高が薄い平面薄型スピーカーとして、凹凸を有する平面振動板に設けた深溝に複数のコイルを配置し、コイルを複数の磁石間に形成される磁気空隙に配置するスピーカーがある(特許文献1)。ここで、各コイルは、トラック型に巻き付けたコイルを分離工程で分離して形成し、これを平面振動板に装填接着している。また、プラスチックの薄板を真空成形で形成したボビンを備え、ボビンのスリットにコイルを挿入する平面スピーカーがある(特許文献2)。これらは、コイルを磁気回路の磁気空隙という最も磁束密度の高い場所に配置するので、平面スピーカーの能率を高めることができる。しかしながら、全高が薄い平面薄型スピーカーにおいて、複数のコイルを磁気空隙に配置するボビンを形成するにあたって、良好な音声再生のためには、ボビンを軽量で、かつ、剛性を有する構成とする必要がある。
【0004】
また、ボイスコイルを角形とするとともに、この角形ボイスコイルを複数個、その縦および横の辺を接合して集合体とし、この集合体を平板振動板に取り付け、このボイスコイル集合体を磁気回路で駆動してなる平板型スピーカーがある(特許文献3)。特許文献3の第3図に示すように、このスピーカーでは、一対の帯状ヨークの一長辺部間にマグネットを挟んで構成した磁気回路を複数備え、この磁気回路の帯状ヨークの他方側の長辺部間に、各ボイスコイルの各一辺部を挿入するように多数個配置している。なお、特許文献3は、ボイスコイル集合体が、枠体部にコイルを巻回してボイスコイルを角形に構成されており、その後にこれらを複数個、その縦および横の辺を接合して集合体にしている、と記載している。
【0005】
ただし、特許文献3の第2図に示されている限りにおいて、従来のこのボイスコイル集合体では、それぞれのボイスコイルはボビンに相当する枠部の外側に巻回されているので、隣り合うボイスコイル同士が接合したとしても、ボイスコイル集合体を構成する隣り合うボビン同士は、外側に巻回されたボイスコイルの線径による厚みの分だけ離間してしまい、密着させることができない。ボビンの剛性が不足する場合には、ボビンが振動して分割振動する、または、隣り合うボビン同士が接触し異音を生じるという問題があり、さらにこれを解決するためには、隣り合うボビン同士を連結させる接着剤等の付加的な重量物が必要になる。その結果、スピーカー振動板の重量が重くなり、スピーカーの再生能率が低下するという問題がある。
【0006】
また、従来には、ボビンの内径側にコイルを巻回したボイスコイルが、円筒状のボビンの内径側にコイルを巻回す場合の巻回工程数を減少させる方法とともに開示されている(特許文献4)。ただし、ボビンの内径側にコイルを巻回すスピーカーを組み立てる場合には、ボビンの内径側と磁気空隙を規定するポール等との間に挿入する従来のボイスコイルホルダー等の組立治具は、ボビンの内径側に巻回されたコイルが干渉するので、使用できないという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開昭60−18098号公報
【特許文献2】特開昭63−299500号公報
【特許文献3】実開昭55−88590号公報
【特許文献4】特開平7−131892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、能率が高く、分割振動が発生しにくくて平坦な周波数特性が得られ、かつ、動作不良が発生しにくいスピーカー、および、その製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスピーカーは、断面形状が矩形状に形成されて内部に矩形空間を有する矩形ボビンと、矩形ボビンの矩形空間を規定する内壁面に固着される内巻矩形コイルと、を備える内巻ボイスコイルを複数備え、一の内巻ボイスコイルの矩形ボビンの外壁面と、他の内巻ボイスコイルの矩形ボビンの外壁面とが密着固定され、かつ、隣接する2つの矩形空間の内壁面に固着される2つの内巻ボイスコイルが、密着している2つの矩形ボビンを挟んで配置されている一の内巻矩形コイルの一辺と、他の内巻矩形コイルの一辺と、において、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されている、ボイスコイル組立体と、ボイスコイル組立体の複数の内巻ボイスコイルを相互に接続した入力端ならびに出力端にその一端が接続して固定される錦糸線と、ボイスコイル組立体に固着するスピーカー振動板と、スピーカー振動板の外周端を振動可能に支持するエッジと、矩形平板状のプレートをそれぞれ冠し、かつ、それらの磁極性が隣同士で異なるように着磁して配置した複数のマグネットと、複数のマグネットと固着し、その両端部に開放孔を規定するヨークと、を有する磁気回路と、錦糸線の他端が接続して固定されるターミナルと、磁気回路に連結してターミナルおよびエッジの外周端を固定するフレームと、を備えるスピーカーであって、磁気回路が、隣同士のプレートの間、ならびに、プレートとヨークの間、に形成される磁気空隙に、ボイスコイル組立体の内巻矩形コイルが配置され、かつ、磁気回路の開放孔にボイスコイル組立体の両端部の外壁面が露出する。
【0010】
また、本発明のスピーカーは、断面形状が格子状に形成されて内部に複数の矩形空間を有する格子状ボビンと、格子状ボビンの矩形空間を規定する内壁面にそれぞれ固着される複数の内巻矩形コイルと、を備え、隣接する2つの矩形空間の内壁面に固着される2つの内巻ボイスコイルが、内壁面を挟んで配置されている一の内巻矩形コイルの一辺と、他の内巻矩形コイルの一辺と、において、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されている、ボイスコイル組立体と、ボイスコイル組立体の複数の内巻ボイスコイルを相互に接続した入力端ならびに出力端に接続して固定される錦糸線と、ボイスコイル組立体に固着するスピーカー振動板と、スピーカー振動板の外周端を振動可能に支持するエッジと、矩形平板状のプレートをそれぞれ冠し、かつ、それらの磁極性が隣同士で異なるように着磁して配置した複数のマグネットと、複数のマグネットと固着し、その両端部に開放孔を規定するヨークと、を有する磁気回路と、錦糸線の他端が接続して固定されるターミナルと、磁気回路に連結してターミナルおよびエッジの外周端を固定するフレームと、を備えるスピーカーであって、磁気回路が、隣同士のプレートの間、ならびに、プレートとヨークの間、に形成される磁気空隙に、ボイスコイル組立体の内巻矩形コイルが配置され、かつ、磁気回路の開放孔にボイスコイル組立体の両端部の外壁面が露出する。
【0011】
また、本発明のスピーカーは、フレームが、磁気回路の開放孔と連通するフレーム孔を有し、磁気回路の開放孔およびフレーム孔から、ボイスコイル組立体の両端部の外壁面が露出する。
【0012】
さらに好ましくは、本発明のスピーカーは、磁気回路の開放孔、および、フレームのフレーム孔を塞ぐ防塵部材を、さらに有する。
【0013】
また、本発明のスピーカーの製造方法は、上記のスピーカーの製造方法であって、矩形平板状のプレートをそれぞれ冠し、かつ、それらの磁極性が隣同士で異なるように着磁して配置した複数のマグネットと、複数のマグネットと固着し、その両端部に開放孔を規定するヨークと、を有する磁気回路を形成する工程と、ターミナルを固定するフレームを磁気回路に連結する工程と、磁気回路の両端部の開放孔に、それぞれ、ボイスコイル組立体の外壁面に当接してボイスコイル組立体を保持する組立治具を挿入し、ボイスコイル組立体を磁気空隙に配置する工程と、ボイスコイル組立体の複数の内巻ボイスコイルを相互に接続した入力端ならびに出力端に、錦糸線の一端を接続して固定する工程と、ボイスコイル組立体から導出される錦糸線の他端を、ターミナルに接続して固定する工程と、ボイスコイル組立体にスピーカー振動板を接着する工程と、スピーカー振動板の外周端を振動可能に支持するエッジをフレームに接着する工程と、接着剤が固化した後に組立治具を抜去して、振動可能なスピーカー振動系を形成する工程と、を含む。
【0014】
さらに好ましくは、本発明のスピーカーの製造方法は、組立治具が、ボイスコイル組立体の外壁面と磁気回路の磁気空隙を規定するヨークとの間に挿入される2つの直線状保持部と、ボイスコイル組立体の両端に露出する外壁面に当接する端面保持部と、2つの直線状保持部ならびに端面保持部を連結する連結部と、を備え、スピーカー振動系を形成する工程において、組立治具を嵌合させて、接着剤を固化させる工程をさらに含む。
【0015】
また、本発明のスピーカーの製造方法は、磁気回路の開放孔、および、フレームのフレーム孔を塞ぐ防塵部材を、接着して固定する工程をさらに含む。
【0016】
以下、本発明の作用について説明する。
【0017】
本発明のスピーカーのボイスコイル組立体には、矩形ボビンおよび内巻矩形コイルからなる内巻ボイスコイルを複数密着固定させて形成した場合と、断面形状が格子状である一つの格子状ボビンに複数の内巻矩形コイルを密着固定させて形成した場合と、がある。すなわち、前者のボイスコイル組立体では、内巻矩形コイルはそれぞれの矩形ボビンの矩形空間を規定する内壁面に固着されていて、一の内巻ボイスコイルの矩形ボビンの外壁面と、他の内巻ボイスコイルの矩形ボビンの外壁面とが、帯部材及び接着剤で密着固定されている。また、後者のボイスコイル組立体では、格子状ボビンが複数の矩形空間を有しており、内巻矩形コイルはそれぞれの矩形空間を規定する内壁面に固着されている。
【0018】
例えば、前者のボイスコイル組立体を構成するそれぞれの内巻ボイスコイルは、その断面形状が矩形状に形成されて内部に矩形空間を有する矩形ボビンを含み、矩形ボビンが、クラフト紙、スパイラル紙の紙材料、もしくは、キャプトン、シルター、ティルの樹脂材料、もしくは、アルミ、または、チタンを含む金属材料、のいずれかの材料で形成されている。また、後者のボイスコイル組立体を構成する格子状ボビンは、抄紙材料、もしくは、ポリイミド、ポリエーテルイミド、液晶ポリマーの樹脂材料、もしくは、アルミ、または、チタンを含む金属材料、のいずれかの材料で形成されている。ボイスコイル組立体は、複数の内巻ボイスコイルを相互に接続した入力端ならびに出力端に接続する錦糸線を、さらに備えることで、音声信号電流を導通させることができる。
【0019】
ここで、内巻矩形コイルとは、巻き上げられたコイルの外観形状が、磁気回路の磁気空隙形状に対応して矩形であり、かつ、コイルの巻芯としてのボビンを備えないボビンレス状態のコイルであって、巻き上げられた状態のまま、矩形ボビンの矩形空間を規定する内壁面に固着される、あるいは、格子状ボビンの矩形空間を規定する内壁面にそれぞれ固着されるボイスコイルである。内巻矩形コイルの外寸法は、ボビンの矩形空間の内寸法にほぼ一致しており、内巻矩形コイルとボビンの矩形空間とは嵌合させられた上で、接着剤により密着固定されている。また、本発明のボイスコイル組立体では、密着している2つの矩形ボビンのそれぞれの内巻ボイスコイル、または、内壁面を挟んで配置されている2つの内巻ボイスコイルが、一の内巻矩形コイルの一辺と、これに最も接近する他の内巻矩形コイルの一辺と、において、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されている。
【0020】
上記のボイスコイル組立体を用いて、本発明のスピーカーは実現される。すなわち、本発明のスピーカーは、このボイスコイル組立体に固着されるスピーカー振動板と、スピーカー振動板の外周端を振動可能に支持するエッジと、エッジの外周端ならびに磁気回路が連結するフレームと、を備える。磁気回路は、矩形平板状のプレートをそれぞれ冠し、かつ、それらの磁極性が隣同士で異なるように着磁して配置した複数のマグネットと、複数のマグネットと固着し、その両端部に開放孔を規定するヨークと、を備えているので、隣同士のプレートの間、ならびに、プレートとヨークの間、に形成される磁気空隙に、ボイスコイル組立体の内巻矩形コイルが配置される。つまり、ボビンの内壁面を挟んだ2つの内巻ボイスコイルが、隣同士のプレートの間に形成される磁気空隙に配置される。なお、本発明のスピーカーは、磁気回路の開放孔、および、フレームのフレーム孔を塞ぐ防塵部材を、さらに有していてもよい。
【0021】
その結果、分割振動が発生しにくくて平坦な周波数特性が得られる、平面薄型のスピーカーが実現される。本発明のボイスコイル組立体では、それぞれの内巻矩形コイルがボビンの矩形空間を規定する内壁面に固着されるので、ボイスコイル組立体を構成する隣り合うボビン同士、つまり、複数の内巻ボイスコイルを密着固定させて形成することができ、その結果、ボビンの剛性を高め、ボビンの分割振動、または、隣り合うボビン同士が接触することによる異音の発生といった動作不良を抑制することができる。また、隣り合うボビン同士を連結させる接着剤の量を減らすことができるので、スピーカー振動部材の重量が軽くなり、スピーカーの再生能率を向上させて安定した音声再生が得られる。なお、ボイスコイル組立体が格子状ボビンで構成される場合も、同様にボビンの剛性を高め、ボビンの分割振動の発生を抑制することができる。
【0022】
加えて、磁気回路が、その両端部にヨークが規定する開放孔を備えているので、これらの開放孔には、ボイスコイル組立体の両端部の外壁面が露出する。フレームが、磁気回路の開放孔と連通するフレーム孔を有する場合には、磁気回路の開放孔およびフレーム孔から、ボイスコイル組立体の両端部の外壁面が露出する。つまり、本発明のスピーカーのボイスコイル組立体では、内巻矩形コイルがボビンの矩形空間を規定する内壁面に固着されており、ボイスコイル組立体の外壁面にはコイルが存在しないので、スピーカーを製造する工程において、ボイスコイル組立体を磁気回路の磁気空隙に適切に配置する組立治具を、ボイスコイル組立体の外壁面に当接させてボイスコイル組立体を保持してスピーカーを製造することができ、その結果、ボイスコイル組立体が磁気回路に接触して異音を発生する、等の動作不良が発生しにくいスピーカーが実現される。組立治具が、2つの直線状保持部と、端面保持部と、これらを連結する連結部と、を備えている場合には、スピーカー振動系を形成する工程において、組立治具を嵌合させたまま接着剤を固化させて、接着剤が固化した後に組立治具を抜去して、振動可能なスピーカー振動系を形成することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のボイスコイル組立体を用いたスピーカーは、能率が高く、分割振動が発生しにくくて平坦な周波数特性が得られる平面薄型のスピーカーを実現することができ、また、動作不良が発生しにくく、安定した音声再生が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のボイスコイル組立体を用いたスピーカーは、能率が高く、分割振動が発生しにくくて平坦な周波数特性が得られ、かつ、動作不良が発生しにくい平面薄型スピーカーを実現するという目的を、磁気回路の磁気空隙にボイスコイル組立体の内巻矩形コイルが配置され、かつ、磁気回路の開放孔にボイスコイル組立体の両端部の外壁面が露出するようにして、スピーカーを製造する工程において、ボイスコイル組立体を磁気回路の磁気空隙に適切に配置する組立治具を、ボイスコイル組立体の外壁面に当接させてボイスコイル組立体を保持してスピーカーを製造するようにすることにより、実現した。
【0025】
以下、本発明の好ましい実施形態によるボイスコイル組立体を用いたスピーカー、および、その製造方法について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明の好ましい実施形態による平面薄型のスピーカー1を説明する図である。図1(a)は平面振動板6を上方に向けたスピーカー1を説明する斜視図であり、また、図1(b)は、平面薄型のスピーカー1の内部構造を説明するA−A’断面図である。なお、説明に不要な一部の内部構造等は、省略している。
【0027】
本実施例の平面薄型のスピーカー1は、略矩形の平面振動板6を含むスピーカー振動部材5を備える平面薄型のスピーカーであって、その振動板面積を形成する長さL(約140.8mm)に比べて、平面振動板6の幅W(約16.2mm)と、スピーカーとしての全高h(約20.0mm)とが小さく抑えられたスピーカーである。具体的には、スピーカー用磁気回路2と、この磁気回路2の底面側に固着する保持フレーム3と、平面振動板6の周囲を支持する樹脂製のフレーム4と、をさらに備えている。スピーカー用磁気回路2は、それらの磁極性が隣同士で異なるように着磁して1列に配置した14個の主マグネット22を含む磁気回路である。フレーム4は、平面薄型のスピーカー1を(図示しない)キャビネット等に固定するフレーム固定部を有する。
【0028】
スピーカー振動部材5は、平面振動板6と、平面振動板6の外周端を振動可能に支持するエッジ7と、平面振動板6の背面側に固着される後述するボイスコイル組立体10と、を備える。例えば、平面振動板6は、発泡樹脂(材料:PC(ポリカーボネート))の成形板であり、ゴム(材料:発泡ゴム)を含むエッジ7によってその外周部を支えられており、エッジ7の外周側はフレーム4に固着されている。ボイスコイル組立体10は、平面振動板6の背面側に固着されており、ボイスコイル組立体10に取り付けられる複数の内巻矩形コイル9(本実施例の場合は、14個)に音声信号電流が供給されると、磁気回路2によってボイスコイル組立体10は駆動力を受け、その結果、平面振動板6が振動すると、平面薄型のスピーカー1は音声を再生する。
【0029】
図1(b)に示すように、磁気回路2は、磁性体の金属から成るヨーク21と、14個の主マグネット22と、これらのマグネット22の上部にそれぞれ冠した矩形プレート23と、矩形プレート23の上部にそれぞれ冠した反発マグネット24と、から構成される。ヨーク21は、平面状のプレート部21aと、矩形プレート23との間に磁気空隙Gaを規定する(図示しない)側壁部21bと、を有する。具体的には、ヨーク21、および、矩形プレート23は、鉄板をプレス加工して成形される。
【0030】
ヨーク21のプレート部21aには、14個の主マグネット22が、それぞれの磁極性が隣同士で異なるように一列に配置される。14個の主マグネット22は、それぞれ予め矩形プレート23が固着されて、矩形プレート23側がN極、もしくは、S極となるように二組に選別されて着磁される。そして、着磁された14個の主マグネット22は、ヨーク21のプレート部21aに治具を用いて、磁極性が隣同士で異なるように整列させられて、固着される。磁極性が隣同士で異なるところに形成される磁気空隙Gbでは、N極からS極へ向かって磁束が飛ぶので、磁気回路2に設けられるそれぞれの磁気空隙GaおよびGbでは、主マグネット22の配列にしたがった方向へ磁束が飛ぶ。なお、予め着磁された反発マグネット24は、矩形プレート23の側面から反発磁界による磁力線が飛ぶように、N極、もしくは、S極を選別して、接着剤で矩形プレート23の上面側に固着される。したがって、磁気回路2の隣同士の矩形プレート23の間(Gb)、ならびに、矩形プレート23とヨーク21の側壁部21bの間(Ga)、に形成される磁気空隙、すなわち、格子状に設けられた磁気空隙では、高い磁束密度分布が得られる。
【0031】
図2は、平面薄型のスピーカー1を構成するボイスコイル組立体10を説明する図である。図2(a)は、ボイスコイル組立体10を構成する内巻ボイスコイル11を説明する斜視図であり、図2(b)は、ボイスコイル組立体10の一部を拡大した断面図であり、図2(c)は、ボイスコイル組立体10の全体を示す斜視図である。また、図3は、平面薄型のスピーカー1の平面振動板6の背面側に固着されるボイスコイル組立体10の一部を拡大した断面図である。また、図2では、説明のために構成の一部を透明視して図示している。
【0032】
ボイスコイル組立体10を構成するそれぞれの内巻ボイスコイル11は、断面形状が矩形状に形成されて内部に矩形空間12aを有する矩形ボビン12と、矩形ボビン12の矩形空間を規定する内壁面12bに固着される内巻矩形コイル9と、を備える。具体的には、矩形ボビン12は、厚みt=0.10mmのキャプトンで形成されており、矩形の内寸法は、約8.5mm×約8.5mmである。矩形ボビン12は、断面形状が内壁面12bにより矩形状に形成されているので、内部に矩形空間12aを有するとともに、その外壁面12cが4面の平面を構成する。なお、矩形ボビン12は、キャプトン、シルター、ティル、等の樹脂材料以外でも、クラフト紙、スパイラル紙の紙材料を用いてもよく、また、アルミ、または、チタンを含む金属材料によって形成すればよい。
【0033】
また、内巻矩形コイル9は、線径0.12mmの銅線をボビンレス状態で、その外寸法が約9.1mm×約9.1mmの外観形状矩形になるように巻き回されたコイルであり、内巻矩形コイル9の外寸法は、矩形ボビン12の矩形空間12aの内寸法にほぼ一致している。内巻矩形コイル9を製造するにあたっては、仮の矩形の巻芯に線材を巻き付けた後に、線材に接着剤、もしくは、ワニスを塗布し、これが硬化した後に巻芯を抜去してボビンレス状態の内巻矩形コイル9を形成する。したがって、内巻ボイスコイル11の内巻矩形コイル9は、矩形ボビン12の矩形空間12aに嵌合させられた上で、内壁面12bに接着剤により密着固定される。なお、矩形ボビン12と内巻矩形コイル9の矩形とは、素材の折れ曲がりによる破断を防止するように矩形の角部が曲面で構成される場合を含む。この曲面は、磁気回路2を構成する矩形プレート22等に接触しない程度の大きさの半径により規定される曲面であればよい。
【0034】
次に、ボイスコイル組立体10の構成を説明する。具体的には、本実施例のボイスコイル組立体10は、14個の内巻ボイスコイル11を一列に固着した集合体として形成されており、図2(b)および図3では、これらのうちの4個の構成部分のみを拡大して図示している。一つの内巻ボイスコイル11aの矩形ボビン12の外壁面12cと、他の内巻ボイスコイル11bの矩形ボビン12の外壁面12cとを、接着剤で密着固定すれば、ボイスコイル組立体10を構成することができる。
【0035】
なお、内巻ボイスコイル11の矩形ボビン12の外壁面12c同士を密着固定するには、接着剤に加えて、全ての矩形ボビン12の外壁面12cを一周する帯部材13を併用して、これを接着剤で固定しても良い。また、ボイスコイル組立体10は、内巻ボイスコイル11を相互に接続した入力端ならびに出力端に接続する錦糸線14および15を、さらに備えている。また、内巻ボイスコイル11を一列に配置して相互に接着固定するには、それぞれの内巻ボイスコイル11の位置を規制する治具を用いても良い。
【0036】
また、本発明のボイスコイル組立体10では、密着している2つの矩形ボビン12のそれぞれの内巻ボイスコイル9が、一の内巻矩形コイルの一辺と、これに最も接近する他の内巻矩形コイルの一辺と、において、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されている。例えば、図2(b)に図示するボイスコイル組立体10では、内巻ボイスコイル11aの内巻ボイスコイル11aが有する内巻矩形コイル9aに、図示するような時計回りの電流Iaが流れる場合には、その右側に密着している内巻ボイスコイル11bの内巻ボイスコイル11bが有する内巻矩形コイル9bには、図示するような反時計回りの電流Ibが流れるように、内巻矩形コイル9aおよび9bは接続されている。つまり、内巻矩形コイル9aおよび9bは、左側に位置する内巻矩形コイル9aの矩形の右側の一辺と、右側に位置する内巻矩形コイル9bの矩形の左側の一辺とが、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されている。
【0037】
ここで、ボイスコイル組立体10は、矩形ボビン12の外壁面12c同士を接着剤で密着固定して構成されているので、内巻矩形コイル9aおよび9bは、密着した2枚の矩形ボビン12の内壁面12bないし外壁面12cを挟んで対峙する関係にあり、かつ、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されている。したがって、ボイスコイル組立体10を用いる平面薄型のスピーカー1では、図3に示すように、これらの内巻矩形コイル9aおよび9bが、磁気回路2の格子状の磁気空隙の隣接する2つの矩形プレート23の間に、2枚の矩形ボビン12の内壁面12bないし外壁面12cを挟んで対峙するように配置される。内巻矩形コイル9aおよび9bには、上面方向または下面方向のいずれかに電磁力が働くので、同様に配置された他の内巻矩形コイル9を磁気空隙に配置するボイスコイル組立体10には、上面方向または下面方向に駆動力が作用し、平面振動板6は、上方または下方へ変位することができる。その結果、平面振動板6が振動すると、平面薄型のスピーカー1は音声を再生する。
【0038】
なお、複数の内巻矩形コイル9を相互に接続するにあたり、直列接続か並列接続かは問われない。それぞれの内巻矩形コイル9のインピーダンスならびに全体での合成インピーダンスを考慮して、直列接続と並列接続とを併用して接続してよい。また、音声信号電流を流す回転方向を、隣り合うコイル同士が逆回転方向になるようにするには、複数の内巻矩形コイル9の巻線方向を変更した二種類のコイルを用意してもよいし、全ての内巻矩形コイル9の巻線方向が同じであっても、巻き始め側と巻き終わり側を入れ替えて相互に接続してもよい。
【0039】
このボイスコイル組立体10では、それぞれの内巻矩形コイル9が矩形ボビン12の矩形空間12aを規定する内壁面12bに固着されるので、ボイスコイル組立体10を構成する隣り合う矩形ボビン12の外壁面12c同士を、隙間を空けることなく接着固定することができる。その結果、ボイスコイル組立体10の全体の強度が向上するので、平面振動板6ならびにボイスコイル組立体10を含むスピーカー振動部材5は、分割振動が発生しにくくて平坦な周波数特性が得られる平面薄型のスピーカー1を実現することができる。
【0040】
また、このボイスコイル組立体10では、従来のボビンの外側にコイルを巻回したボイスコイルを複数隣接させて構成するボイスコイル組立体で見られる問題点を解決できる。すなわち、隣り合う矩形ボビン12同士が接触することによる異音の発生といった動作不良が無くなり、あるいは、隣り合う矩形ボビン12同士を連結させる接着剤の量を減らすことができる結果、スピーカー振動部材5の重量が軽くなり、スピーカー1の再生能率を向上させて安定した音声再生が可能になる。
【0041】
また、本実施例の平面薄型のスピーカー1は、それぞれ全14個の主マグネット22及び内巻矩形コイル9が、共通で矩形である場合であるが、マグネット及びコイルの数は2個以上であればよく、また、矩形であれば長方形であってもよい。
【実施例2】
【0042】
図4は、平面薄型のスピーカー1を構成する他の実施例のボイスコイル組立体30を説明する図である。図4(a)は、ボイスコイル組立体30の平面図であり、図4(b)は、ボイスコイル組立体30の全体を示す斜視図である。ボイスコイル組立体30は、断面形状が格子状に形成されて内部に14個の矩形空間31aを有する格子状ボビン31と、この矩形空間31aを規定する内壁面31bにそれぞれ固着される14個の内巻矩形コイル9と、を備える。本実施例のボイスコイル組立体30は、先の実施例のボイスコイル組立体10に代えて平面薄型のスピーカー1を構成することができるので、共通する磁気回路2、並びに、平面振動板6を含むスピーカー振動部材5、等については、共通の番号を付して、説明並びに図示を省略する。
【0043】
格子状ボビン31は、樹脂材料の液晶ポリマーを射出成形金型で成形し、平均肉厚0.2mmの格子状(梯子状)に形成されており、一列に配置された14個の矩形空間31aを規定している。内巻矩形コイル9は、格子状ボビン31の矩形空間31aに嵌合させられた上で、内壁面31bに接着剤により密着固定される。なお、本実施例のように樹脂を成形した格子状ボビン31の場合には、矩形空間31aを規定する内壁面31bに、内巻矩形コイル9が係止する(図示しない)段部を設けてもよい。
【0044】
本実施例のボイスコイル組立体30においても、複数の内巻矩形コイル9は、先の実施例のボイスコイル組立体10と同様に接続されている。すなわち、隣接する2つの矩形空間31aの内壁面31bに固着される2つの内巻矩形コイル9aおよび9bは、その間の内壁面31bを挟んで配置されている内巻矩形コイル9aの一辺と、内巻矩形コイル9bの一辺と、において、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されている。したがって、14個の内巻矩形コイル9は、ボイスコイル組立体30に働く駆動力の方向が一致するように、相互に接続される。
【0045】
格子状ボビン31は、剛性と耐熱に優れる液晶ポリマー樹脂で一体に形成された構造体であるので、先の実施例において矩形ボビン12同士を連結する場合よりもさらにその剛性を高めることができる。したがって、この格子状ボビン31を用いるボイスコイル組立体30は、ボイスコイル組立体30、ならびに、平面振動板6を含むスピーカー振動部材5が分割振動するのを抑制することができる。また、格子状ボビン31の形状寸法を精度良く製造することができるので、その結果、安定した音声再生が可能なスピーカー1が実現される。
【0046】
なお、格子状ボビン31を構成する材料は、液晶ポリマー以外にものポリイミド、ポリエーテルイミド、等の樹脂材料であれば良く、その成形方法も押出成形でもよく、上記の射出成形に限られるものではない。また、格子状ボビン31は、抄紙によって成形した紙材料でも良い。さらに、アルミ、または、チタンを含む金属材料をインパクト成形することで、格子状ボビン31を得ても良い。
【0047】
本実施例の平面薄型のスピーカー1では、14個の主マグネット22を用いる磁気回路2の場合を例示したが、磁気回路2の構成はこれに限られるものではない。磁気回路2で配列されるマグネットの個数は、14個よりも少なくても、さらに多くてもよく、また、その配列も一列に限られるものではない。2行2列以上の行列状であってもよい。
【実施例3】
【0048】
図5は、本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー1に用いる磁気回路2を説明する図である。図5(a)は、磁気回路2を構成する磁気回路モジュール2mを説明する斜視図であり、図5(b)は、磁気回路2を説明する斜視図である。図5に図示して説明する磁気回路2は、6個の磁気回路モジュール2mが連結されて構成されている。すなわち、図5の磁気回路2は、磁気回路モジュールのマグネットの磁極性が隣同士で異なるように、3個の磁気回路モジュール2aと、磁気回路モジュール2aに対して着磁方向を逆にされた磁気回路モジュール2bと、が交互に一列に出現するように連結されている。
【0049】
それぞれの磁気回路モジュール2mは、略矩形平板状のプレート23と、プレート23の底面に固着する主マグネット22と、主マグネット22の底面に固着するヨーク21と、プレート23の上面に固着する反発マグネット24と、を有する。プレート23およびヨーク21は、軟鉄、パーマロイ、等の磁性材料で形成されている。また、主マグネット22および反発マグネット24は、ネオジウム等の希土類を含む磁石材料で形成されている。プレート23、主マグネット22、ヨーク21、および、反発マグネット24は、接着剤で固着されている。また、ヨーク21は、主マグネット22が連結するプレート部21aと、プレート23の略矩形の一辺との間に略直線状の磁気空隙Gaを形成する側壁部21bを備えており、本実施例の場合には平行な2箇所の側壁部21bに対応して、磁気空隙Gaが略矩形の二辺に形成される。なお、主マグネット22および反発マグネット24は、それぞれの磁石が同じ磁極性を示す面がプレート23を挟むように配置されているので、この磁気空隙Gaに高い磁束密度を示す反発磁界を形成する。
【0050】
また、磁気回路モジュール2のヨーク21は、略凹字状の断面形状を有しており、その略凹字状を示す両端面が、隣接配置される他の磁気回路モジュールのヨークと連結する連結部21cを形成し、また、連結して構成した磁気回路の開放孔を規定する。つまり、連結部21cは、磁気回路モジュール2のヨーク21が、他の磁気回路モジュール2のヨーク21と密着して連結する部分であり、磁気回路2の磁力線が通過する部分として機能するとともに、接着剤で固着されて磁気回路モジュール同士の機械的な連結を構成する。
【0051】
さらに、磁気回路モジュール2の連結部21c同士が固着されることで、磁気回路モジュール2aおよび2bのそれぞれのプレート23同士が、磁気空隙Gaと連通し、かつ、磁気空隙Gaと直交する略直線状の磁気空隙Gbを形成する。磁気回路モジュール2aおよび2bは、着磁方向を相互に逆にされているので、これらの間に規定される磁気空隙Gbにも、高い磁束密度を示す磁界が形成される。また、図5では、6個の磁気回路モジュール2を一列に連結しているので、磁気回路モジュール2aの磁気空隙Gaと、磁気回路モジュール2bの磁気空隙Gaとが、一直線上に配置されるので、磁気回路2の全体としてみると、磁気空隙Gaおよび磁気空隙Gbから成る格子状(または、梯子状)の磁気空隙が形成される。また、ヨーク21は、略凹字状の断面形状を有しているので、これらを連結した磁気回路2は、その両端部に開放孔2xをそれぞれ規定している。
【0052】
図6は、本実施例のスピーカー用磁気回路2の製造方法を説明する図である。図6(a)は、磁気回路モジュール2mの製造工程を説明する斜視図であり、図6(b)は、磁気回路2の製造工程を説明する斜視図である。複数の磁気回路モジュール2mのそれぞれは、磁気空隙Gaを規定する組立治具Jaを使用して製造され、これらの磁気回路モジュール2mから構成される磁気回路2は、組立治具Jbを使用して製造される。
【0053】
図6(a)に示すように、組立治具Jaは、プレート23とヨーク21の側壁部21bとの間に嵌入されて、磁気空隙Gaを規定する。組立治具Jaは、プレート23の周囲を覆うような略矩形の断面形状を有する筒状体であり、内部にプレート23および主マグネット22を収容する空間を備える。また、組立治具Jaは、ヨーク21の連結部21cに係合する突出部を有しているので、プレート23および着磁されていない主マグネット22に接着剤を塗布したうえで組立治具Jaをヨーク21に嵌入すると、磁気空隙Gaならびに磁気空隙Gbを規定するプレート23とヨーク21の相対的な位置関係は、一意に固定される。したがって、接着剤が固着した後に組立治具Jaを抜き去ると、磁気空隙Gaを有し、かつ、着磁されていない磁気回路モジュール2mが形成される。
【0054】
次に、この着磁されていない磁気回路モジュール2mを着磁して、プレート23側において一方の磁極性を示す磁気回路モジュール2aと、他方の磁極性を示す磁気回路モジュール2bと、をそれぞれ形成する。前述の通り、磁気回路モジュール2aと2bとは、着磁工程において着磁方向を逆にされているだけであり、何らかのマーキングを施せば、容易に区別することができる。その後、それぞれの磁気回路モジュール2aおよび2bのプレート23の天面に、予め着磁した反発マグネット24を固着する。前述の通り、反発マグネット24は、それぞれ反発磁界を形成するように、向きを確認されたうえで固着される。
【0055】
また、図6(b)に示すように、磁気回路2は、組立治具Jbを使用して、磁気回路モジュール2aおよび2bを連結することで製造される。組立治具Jbは、嵌入された6個の磁気回路モジュール2aおよび2bのそれぞれのヨーク21の連結部21c同士が、密着するような寸法を有する格子状の治具であり、磁気回路モジュール同士を隔てる格子状の壁部が、それぞれのプレート23同士が形成する磁気空隙Gbを規定する。予め異なる方向に着磁されて磁極性が異なる磁気回路モジュール2aおよび2bを、組立治具Jbに交互に異なる磁極性が出現するように嵌入する際に、連結部21cに接着剤を塗布しておけば、異なる磁極性が出現しているヨーク21の連結部21c同士が固着して、接着剤が固着した後に組立治具Jbを抜き去れば、磁気回路2が形成される。
【0056】
なお、図6(b)に示した磁気回路2は、それぞれのヨーク21に嵌合する保持フレーム3をさらに備えている。保持フレーム3は、磁気回路2の背面側から全ての磁気回路モジュール2を覆うように形成された略凹字形の断面を有する部材であり、ヨーク21に接着剤で固着されている。保持フレーム3は、図示したような鉄等の磁性材料であっても、アルミ、樹脂、等の非磁性材料であっても良い。保持フレーム3は、全てのヨーク21に嵌合するので、連結部21c同士の接着固定を補強して、強固に磁気回路モジュール2aおよび2bを連結して、動作不良が発生しにくいスピーカー用磁気回路2を実現することができる。組立治具Jbを抜き去るのは、保持フレーム3を固着する前でもよいが、好ましくは、図6(b)に図示するように、保持フレーム3を固着した後でもよい。なお、保持フレーム3は、前述のフレーム4と一体に形成されていてもよく、略凹字形の断面を有するので、磁気回路2の開放孔2xと連通するフレーム孔3xを有している。
【0057】
複数の磁気回路モジュール2から構成される本発明のスピーカー用磁気回路2は、磁気空隙Gaおよび磁気空隙Gbの両方において、高い磁束密度を示す反発磁界を形成することができる。従来の磁気回路において、分割されていない1つの部材から構成されたヨークを備える場合に比べても、組立治具Jbを使用することでヨーク21の連結部21c同士が密着して接着固定されている限り、磁気空隙GaおよびGbで磁束密度が著しく低下することはない。
【0058】
その一方で、予め着磁方向の異なる磁気回路モジュール2aおよび2bを用意する工程は、通常のスピーカーに用いる磁気回路の着磁工程と基本的に変わりがないので、従来からのスピーカーの製造設備をそのまま利用することができる利点がある。つまり、複数のマグネットを備えるスピーカー用磁気回路2であっても、製造上の作業効率が良く、製造コストを抑制することができる。また、反発型磁気回路としての磁気回路モジュール2aおよび2bをそれぞれ用意することにより、スピーカー用磁気回路2の組立作業時に、着磁した小さな主マグネットのみをハンドリングする必要が無くなるので、作業効率が大きく向上する。
【0059】
なお、例えば、さらに大型の磁気回路を必要とする場合には、磁気回路を構成する磁気回路モジュール2mを、さらに8個、10個、14個、と増加させて、磁気回路モジュールの数に応じた組立治具Jbを用意すればよく、様々な設計変更の要求に対応が可能である。したがって、磁気効率の高いスピーカー用磁気回路2を容易に構成することができる。
【0060】
図7および図8は、本実施例のスピーカー1を製造する工程を説明する図である。具体的には、図7(a)は、ボイスコイル組立体を保持してスピーカーを製造する組立治具Jxを説明する斜視図であり、図7(b)は、組立の工程において、組立治具Jxが挿入された状態のスピーカー1を説明する拡大斜視図であり、平面振動板6を含むスピーカー振動部材5、等については、一部の図示を省略している。また、図8(a)は、組立治具Jxが挿入された状態のスピーカー1を説明する拡大斜視図であり、図8(b)は、組立治具Jxが抜去された状態のスピーカー1を説明する拡大斜視図である。なお、図7(b)および図8では、細長形状のスピーカー1の一端側のみを拡大して図示している。
【0061】
図7(a)に示すように、組立治具Jxは、POM(ポリアセタール)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の樹脂、または、真鍮、等の非磁性体の金属、等で形成したスピーカー振動系の組立治具であり、スピーカー1を製造する工程において、磁気回路2の両端に設けられた開放孔2xからそれぞれ挿入して、ボイスコイル組立体40の両端を保持する組立治具である。組立治具Jxは、ボイスコイル組立体40の外壁面42と磁気回路2の磁気空隙Gaを規定するヨーク21の側壁部21bとの間に挿入される2つの直線状保持部Jx1と、ボイスコイル組立体40の両端に露出する外壁面42に当接する端面保持部Jx2と、2つの直線状保持部Jx1ならびに端面保持部Jx2を連結する連結部Jx3と、を備える。また、2つの直線状保持部Jx1の断面形状は、それぞれ、ボイスコイル組立体40の外壁面42とヨーク21の側壁部21bとの間に挿入される幅が狭い部分と、ボイスコイル組立体40の格子状ボビン41が載置される幅が広い部分と、を有しており、その段差部分がボイスコイル組立体40の内巻矩形コイル9を磁気空隙GaおよびGbに配置するボイスコイル載置部Jx4を規定している。また、端面保持部Jx2の周縁部には、磁気回路2の開放孔2xに当接するフランジ部Jx5が形成されており、組立治具Jxの端面保持部Jx2が、ボイスコイル組立体40の両端の外壁面42に当接する位置を規制する。
【0062】
図7(b)、および、図8(a)に示すように、組立治具Jxは、磁気回路2の開放孔2xに連通する保持フレーム3のフレーム孔3xから挿入されて、直線状保持部Jx1および端面保持部Jx2が、ボイスコイル組立体40の両端の外壁面42に当接する。つまり、細長い略矩形状の格子状ボビン41を有するボイスコイル組立体40の四隅を、磁気回路2の両端の開放孔2xから挿入する組立治具Jxで規制することにより、ボイスコイル組立体40の内巻矩形コイル9を磁気空隙GaおよびGbに配置することができる。したがって、このスピーカー1は、組立治具Jxを抜去すれば、開放孔2xおよびフレーム孔3xを通じてボイスコイル組立体40の両端部の外壁面が露出する。ボイスコイル組立体40の両端部の外壁面が露出するとは、開放孔2xおよびフレーム孔3xを通じて、ボイスコイル組立体40の両端部の外壁面が外面視できる状態であり、組立治具Jxが当接可能になる。なお、本実施例のスピーカー1におけるボイスコイル組立体40は、内巻矩形コイル9の総数、および、格子状ボビン41の具体的な形状、等が異なる他は、先の実施例におけるボイスコイル組立体30と同等のボイスコイル組立体である。
【0063】
図8(a)および、図8(b)に示すように、スピーカー振動部材5を含むスピーカー振動系を形成する工程において、組立治具Jxを嵌合させたまま接着剤を固化させることができる。スピーカー振動部材5は、平面振動板6と、平面振動板6の外周端を振動可能に支持するエッジ7と、平面振動板6の背面側に固着される後述するボイスコイル組立体40と、を含み、それぞれは接着剤で固着される。ボイスコイル組立体40の複数の内巻ボイスコイル9を相互に接続した入力端ならびに出力端に(図示しない)錦糸線の一端が接続されて固定されているので、錦糸線の他端を、(図示しない)ターミナルに接続して固定し、さらに、ボイスコイル組立体40にスピーカー振動板6を接着し、スピーカー振動板6の外周端を振動可能に支持するエッジ7をフレーム4に接着する。したがって、接着剤が固化した後に組立治具Jxを抜去して、振動可能なスピーカー振動系を形成することができる。工数を削減して品質を安定させることができる製造工程が実現し、本実施例のスピーカー1では、格子状ボビン41を有するボイスコイル組立体40が、磁気回路2と接触して異音を発生する、といった動作不良を抑制することができる。
【0064】
また、本実施例のスピーカー1では、組立治具Jxを抜去した後に、磁気空隙GaおよびGbに連通する開放孔2x、および、フレーム孔3xを塞ぐ防塵部材50をさらに設けて、磁気回路2の内部に鉄粉等の異物が侵入するのを防止するようにしてもよい。防塵部材50は、通気性を有する織布又は不織布等で形成すればよく、開放孔2x、および、フレーム孔3xを覆うように、周囲を保持フレーム3に接着して固定する。防塵部材50は、パンチングネット等の通気性を有する材料であってもよく、開放孔2x、および、フレーム孔3xを覆っても、磁気回路2内部の空気によるコンプライアンスの上昇を抑制するようにするのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のスピーカー振動部材およびその製造方法は、平面振動板を備えるスピーカーのみならず、ヘッドホンの振動板にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の好ましい実施形態による平面薄型のスピーカーを説明する図である。(実施例1)
【図2】本発明の好ましい実施形態による平面薄型のスピーカーを構成するボイスコイル組立体を説明する図である。(実施例1)
【図3】本発明の好ましい実施形態による平面薄型のスピーカーを説明する拡大図である。(実施例1)
【図4】本発明の他の好ましい実施形態による平面薄型のスピーカーを構成するボイスコイル組立体を説明する図である。(実施例2)
【図5】本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカーの磁気回路を説明する図である。(実施例3)
【図6】本実施例のスピーカー用磁気回路の製造方法を説明する図である。(実施例3)
【図7】本実施例のスピーカー1を製造する工程を説明する図である。(実施例3)
【図8】本実施例のスピーカー1を製造する工程を説明する図である。(実施例3)
【符号の説明】
【0067】
1 スピーカー
2 磁気回路
2m、2a、2b 磁気回路モジュール
21 ヨーク
22 主マグネット
23 矩形プレート
24 反発マグネット
3 保持フレーム
4 フレーム
5 スピーカー振動部材
6 平面振動板
7 エッジ
9 内巻矩形コイル
10、30、40 ボイスコイル組立体
11 内巻ボイスコイル
12 矩形ボビン
12a 矩形空間
12b 内壁面
12c 外壁面
13 帯部材
14、15 錦糸線
31、41 格子状ボビン
31a 矩形空間
31b 内壁面
42 両端部の外壁面
50 防塵部材
Ga、Gb 磁気空隙
Ja、Jb、Jx 組立治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が矩形状に形成されて内部に矩形空間を有する矩形ボビンと、該矩形ボビンの該矩形空間を規定する内壁面に固着される内巻矩形コイルと、を備える内巻ボイスコイルを複数備え、一の該内巻ボイスコイルの該矩形ボビンの外壁面と、他の該内巻ボイスコイルの該矩形ボビンの外壁面とが密着固定され、かつ、隣接する2つの該矩形空間の内壁面に固着される2つの該内巻ボイスコイルが、密着している2つの該矩形ボビンを挟んで配置されている一の該内巻矩形コイルの一辺と、他の該内巻矩形コイルの一辺と、において、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されている、ボイスコイル組立体と、
該ボイスコイル組立体の複数の該内巻ボイスコイルを相互に接続した入力端ならびに出力端にその一端が接続して固定される錦糸線と、
該ボイスコイル組立体に固着するスピーカー振動板と、
該スピーカー振動板の外周端を振動可能に支持するエッジと、
矩形平板状のプレートをそれぞれ冠し、かつ、それらの磁極性が隣同士で異なるように着磁して配置した複数のマグネットと、該複数のマグネットと固着し、その両端部に開放孔を規定するヨークと、を有する磁気回路と、
該錦糸線の他端が接続して固定されるターミナルと、
該磁気回路に連結して該ターミナルおよび該エッジの外周端を固定するフレームと、
を備えるスピーカーであって、
該磁気回路が、該隣同士のプレートの間、ならびに、該プレートと該ヨークの間、に形成される磁気空隙に、該ボイスコイル組立体の該内巻矩形コイルが配置され、かつ、該磁気回路の該開放孔に該ボイスコイル組立体の両端部の外壁面が露出する、
スピーカー。
【請求項2】
断面形状が格子状に形成されて内部に複数の矩形空間を有する格子状ボビンと、該格子状ボビンの矩形空間を規定する内壁面にそれぞれ固着される複数の内巻矩形コイルと、を備え、隣接する2つの該矩形空間の内壁面に固着される2つの該内巻ボイスコイルが、該内壁面を挟んで配置されている一の該内巻矩形コイルの一辺と、他の該内巻矩形コイルの一辺と、において、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されている、ボイスコイル組立体と、
該ボイスコイル組立体の複数の該内巻ボイスコイルを相互に接続した入力端ならびに出力端に接続して固定される錦糸線と、
該ボイスコイル組立体に固着するスピーカー振動板と、
該スピーカー振動板の外周端を振動可能に支持するエッジと、
矩形平板状のプレートをそれぞれ冠し、かつ、それらの磁極性が隣同士で異なるように着磁して配置した複数のマグネットと、該複数のマグネットと固着し、その両端部に開放孔を規定するヨークと、を有する磁気回路と、
該錦糸線の他端が接続して固定されるターミナルと、
該磁気回路に連結して該ターミナルおよび該エッジの外周端を固定するフレームと、
を備えるスピーカーであって、
該磁気回路が、該隣同士のプレートの間、ならびに、該プレートと該ヨークの間、に形成される磁気空隙に、該ボイスコイル組立体の該内巻矩形コイルが配置され、かつ、該磁気回路の該開放孔に該ボイスコイル組立体の両端部の外壁面が露出する、
スピーカー。
【請求項3】
前記フレームが、前記磁気回路の前記開放孔と連通するフレーム孔を有し、
該磁気回路の該開放孔および該フレーム孔から、前記ボイスコイル組立体の両端部の外壁面が露出する、請求項1および2に記載のスピーカー。
【請求項4】
前記磁気回路の前記開放孔、および、前記フレームの前記フレーム孔を塞ぐ防塵部材を、さらに有する、
請求項1から3のいずれかに記載のスピーカー。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のスピーカーの製造方法であって、
矩形平板状のプレートをそれぞれ冠し、かつ、それらの磁極性が隣同士で異なるように着磁して配置した複数のマグネットと、該複数のマグネットと固着し、その両端部に開放孔を規定するヨークと、を有する磁気回路を形成する工程と、
前記ターミナルを固定する前記フレームを該磁気回路に連結する工程と、
該磁気回路の両端部の該開放孔に、それぞれ、該ボイスコイル組立体の外壁面に当接して該ボイスコイル組立体を保持する組立治具を挿入し、該ボイスコイル組立体を前記磁気空隙に配置する工程と、
該ボイスコイル組立体の複数の該内巻ボイスコイルを相互に接続した入力端ならびに出力端に、前記錦糸線の一端を接続して固定する工程と、
該ボイスコイル組立体から導出される該錦糸線の他端を、該ターミナルに接続して固定する工程と、
該ボイスコイル組立体に前記スピーカー振動板を接着する工程と、
該スピーカー振動板の外周端を振動可能に支持するエッジを該フレームに接着する工程と、
接着剤が固化した後に該組立治具を抜去して、振動可能なスピーカー振動系を形成する工程と、
を含む、スピーカーの製造方法。
【請求項6】
前記組立治具が、前記ボイスコイル組立体の外壁面と前記磁気回路の前記磁気空隙を規定する前記ヨークとの間に挿入される2つの直線状保持部と、前記ボイスコイル組立体の両端に露出する外壁面に当接する端面保持部と、該2つの直線状保持部ならびに該端面保持部を連結する連結部と、を備え、
前記スピーカー振動系を形成する工程において、該組立治具を嵌合させて、前記接着剤を固化させる工程をさらに含む、
請求項5に記載のスピーカーの製造方法。
【請求項7】
前記磁気回路の前記開放孔、および、前記フレームの前記フレーム孔を塞ぐ防塵部材を、接着して固定する工程をさらに含む、
請求項5または6に記載のスピーカーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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