説明

ポンプ装置

【課題】経年変化により適切に対処する。
【解決手段】エンジンが自動停止して機械式オイルポンプに代えて電磁ポンプにより発進用のクラッチに作動油を供給する際には、前回にエンジンが自動始動した際のタービン回転数Ntbの回転変化量ΔNtbを計算し(S210,S220)、回転変化量ΔNtbが閾値TH以上のときには(S230)、タービンに吹き上がりが生じており、クラッチに作用している油圧が適正圧に対して不足していると判断して、実行デューティ比Dsを初期時デューティ比D0からピーク時デューティ比Dpeakに向けて所定比率Dsetずつ近づくよう更新する(S250)。実行デューティ比Dsによる電流を印加して電磁ポンプを駆動することにより、電磁ポンプやクラッチに経年劣化が生じるものとしても、クラッチに適正圧を作用させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体圧駆動の機器に作動流体を圧送するポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のポンプ装置としては、エンジンからの動力を摩擦係合装置を介して車両の車軸に出力する自動変速機に搭載され、エンジンの動力により駆動して摩擦係合装置に油圧を供給する油圧ポンプと、摩擦係合装置に逆止弁を介して接続され電磁コイルの励磁と非励磁との繰り返しにより摩擦係合装置に油圧を供給する電磁ポンプとを備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−180303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したポンプ装置では、経年変化により、電磁ポンプの性能が低下したり、摩擦係合装置に要求される油圧が高くなったりする場合がある。この場合、摩擦係合装置に十分な油圧を供給することができなくなる結果、摩擦係合装置に滑りが生じ、スムーズな動力の伝達ができなくなってしまう。
【0005】
本発明のポンプ装置は、経年変化により適切に対処することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のポンプ装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の第1のポンプ装置は、
流体圧駆動の機器に作動流体を圧送するポンプ装置であって、
往復動に伴って作動流体の吸引と吐出とを行なうピストンと、電磁力により前記ピストンを往復動させる電磁部と、を有する電磁ポンプと、
前記機器に作用している流体圧を検出または推定する流体圧検出推定器と、
前記電磁部に印加する電流のデューティ比として使用可能なデューティ比範囲のうち吐出圧がピークを示すときのデューティ比であるピーク時デューティ比とは異なるデューティ比を制御量のデフォルト値として用いて前記電磁部を駆動制御し、前記検出または推定された流体圧が適正圧に対して不足するときには前記デフォルト値から前記ピーク時デューティ比に近づくよう制御量を変更して前記電磁部を駆動制御する駆動制御部と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の第1のポンプ装置では、電磁部に印加する電流のデューティ比として使用可能なデューティ比範囲のうち吐出圧がピークを示すときのデューティ比であるピーク時デューティ比とは異なるデューティ比を制御量のデフォルト値として用いて電磁部を駆動制御し、流体圧駆動の機器に作用している流体圧が適正圧に対して不足するときにはデフォルト値からピーク時デューティ比に近づくよう制御量を変更して電磁部を駆動制御する。これにより、経年変化に拘わらず流体圧駆動の機器に供給する流体圧を適正圧とすることができる。
【0009】
こうした本発明の第1のポンプ装置において、前記駆動制御部は、前記検出または推定された流体圧が適正圧に対して不足すると判断される毎に所定比率ずつ前記制御量としてのデューティ比を変更して前記電磁部を駆動制御することもできる。
【0010】
本発明の第2のポンプ装置は、
流体圧駆動の機器に作動流体を圧送するポンプ装置であって、
往復動に伴って作動流体の吸引と吐出とを行なうピストンと、電磁力により前記ピストンを往復動させる電磁部と、を有する電磁ポンプと、
前記機器に作用している流体圧を検出または推定する流体圧検出推定器と、
前記電磁部に印加する電流の周波数として使用可能な周波数範囲のうち吐出圧がピークを示すときの周波数であるピーク時周波数とは異なる周波数を制御量のデフォルト値として用いて前記電磁部を駆動制御し、前記検出または推定された流体圧が適正圧に対して不足するときには前記デフォルト値から前記ピーク時周波数に近づくよう制御量を変更して前記電磁部を駆動制御する駆動制御部と、
を備えることを要旨とする。
【0011】
この本発明の第2のポンプ装置では、電磁部に印加する電流の周波数として使用可能な周波数範囲のうち吐出圧がピークを示すときの周波数であるピーク時周波数とは異なる周波数を制御量のデフォルト値として用いて電磁部を駆動制御し、流体圧駆動の機器に作用している流体圧が適正圧に対して不足するときにはデフォルト値からピーク時周波数に近づくよう制御量を変更して電磁部を駆動制御する。これにより、経年変化に拘わらず流体圧駆動の機器に供給する流体圧を適正圧とすることができる。
【0012】
こうした本発明の第2のポンプ装置において、前記駆動制御部は、前記検出または推定された流体圧が適正圧に対して不足すると判断される毎に所定値ずつ前記制御量としての周波数を変更して前記電磁部を駆動制御することもできる。
【0013】
また、間欠運転可能な原動機の出力軸に入力軸が接続されて該入力軸に入力される動力を摩擦係合要素を介して出力軸に伝達する動力伝達装置に搭載され、前記流体圧駆動の機器として前記摩擦係合要素の流体圧サーボに作動流体を圧送する本発明の第1または第2のポンプ装置において、前記原動機からの動力により作動して前記摩擦係合要素の流体圧サーボに流体圧を供給する機械式ポンプを備え、前記駆動制御部は、前記原動機が停止している最中に前記機械式ポンプに代えて前記摩擦係合要素の流体圧サーボに流体圧が作用するよう前記電磁部を駆動制御することもできる。この態様の本発明の第1または第2のポンプ装置において、前記流体圧検出推定器は、前記原動機の始動を伴って前記摩擦係合要素を係合する際の前記入力軸の吹き上がりを検出することにより該摩擦係合要素の流体圧サーボに作用している流体圧を推定し、前記駆動制御部は、前記流体圧検出推定器により前記入力軸の吹き上がりが検出されたときには、次回以降に前記原動機が停止した際に前記制御量を変更することもできるし、前記流体圧検出推定器は、前記原動機の始動を伴って前記摩擦係合要素を係合する際の振動を検出することにより該摩擦係合要素の流体圧サーボに作用している流体圧を推定し、前記駆動制御部は、前記流体圧検出推定器により所定程度以上の振動が検出されたときには、次回以降に前記原動機が停止した際に前記制御量を変更することもできる。こうすれば、機器に作用している流体圧を検出するための専用のセンサを設ける必要がない。
【0014】
さらに、本発明の第1または第2のポンプ装置において、前記駆動制御部は、前記制御量がピーク値に達している状態で前記検出または推定された流体圧が適正圧に対して不足すると判断される場合には前記原動機の間欠運転の実行を停止するものとすることもできる。こうすれば、摩擦係合要素の不具合の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例としての動力伝達装置20を搭載する車両10の構成の概略を示す構成図である。
【図2】自動変速機構の作動表を示す説明図である。
【図3】自動変速機構の各回転要素の回転速度の関係を示す共線図である。
【図4】油圧回路30の構成の概略を示す構成図である。
【図5】電磁ポンプの周波数と吐出圧との関係の一例を示す説明図である。
【図6】電磁ポンプのデューティ比Dsと吐出圧との関係の一例を示す説明図である。
【図7】ATECU29により実行される自動停止時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図8】学習処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明の一実施例としての動力伝達装置20を搭載する車両10の構成の概略を示す構成図であり、図2は自動変速機構28の作動表である。
【0018】
実施例の動力伝達装置20は、図示するように、例えば、FF(フロントエンジンフロントドライブ)タイプの車両10に搭載されるものとして構成されており、EGECU16による制御を受けて運転するエンジン12からの動力をトルクの増幅を伴って伝達するロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ26と、トルクコンバータ26からの動力を変速を伴って車輪18a,18bに伝達する自動変速機構28と、装置全体をコントロールするATECU29とを備える。実施例の車両10は、エンジン12と動力伝達装置20とを含む車両全体をコントロールするメインECU90を備えており、EGECU16やATECU29に対して通信により互いに制御信号やエンジン12,動力伝達装置20の運転状態に関するデータのやり取りを行なっている。このメインECU90には、シフトレバー91の操作位置を検出するシフトポジションセンサ92からのシフトポジションSPやアクセルペダル93の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ94からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル95の踏み込みを検出するブレーキスイッチ96からのブレーキスイッチ信号BSW,車速センサ98からの車速Vなどが入力されている。
【0019】
トルクコンバータ26は、エンジン12のクランクシャフト14に接続されたポンプインペラ26aと、自動変速機構28の入力軸22に接続されポンプインペラ26aに対向配置されたタービンランナ26bとを備え、ポンプインペラ26aによりエンジントルクを作動油の流れに変換すると共にこの作動油の流れをタービンランナ26bが入力軸22上のトルクに変換することによりトルクの伝達を行なう。また、トルクコンバータ26は、ロックアップクラッチ26cを内蔵しており、ロックアップクラッチ26cを係合することによりエンジンのクランクシャフト14と自動変速機構28の入力軸22とを直結して直接にエンジントルクを伝達する。
【0020】
自動変速機構28は、プラネタリギヤユニットPUと三つのクラッチC1,C2,C3と二つのブレーキB1,B2とワンウェイクラッチF1とを備える。プラネタリギヤユニットPUは、ラビニヨ式の遊星歯車機構として構成されており、外歯歯車の二つのサンギヤS1,S2と、内歯歯車のリングギヤRと、サンギヤS1に噛合する複数のショートピニオンギヤPSと、サンギヤS2および複数のショートピニオンギヤPSに噛合すると共にリングギヤRに噛合する複数のロングピニオンギヤPLと、複数のショートピニオンギヤPSおよび複数のロングピニオンギヤPLとを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリアCRと、を備え、サンギヤS1はクラッチC1を介して入力軸22に接続されており、サンギヤS2はクラッチC3を介して入力軸22に接続されると共にブレーキB1によりその回転が自由にまたは禁止されるようになっており、リングギヤRは出力軸24に接続されており、キャリアCRはクラッチC2を介して入力軸22に接続されている。また、キャリアCRは、ワンウェイクラッチF1によりその回転が一方向に規制されると共にワンウェイクラッチF1に対して並列的に設けられたブレーキB2によりその回転が自由にまたは禁止されるようになっている。なお、出力軸24に出力された動力は、図示しないカウンタギヤやデファレンシャルギヤを介して車輪18a,18bに伝達される。
【0021】
また、自動変速機構28は、図2の作動表に示すように、クラッチC1〜C3とブレーキB1,B2のオンオフの組み合わせにより前進1速〜4速と後進とを切り替えることができるようになっている。なお、図3に、自動変速機構28の各変速段におけるサンギヤS1,S2とリングギヤRとキャリアCRの回転速度の関係を示す共線図を示す。
【0022】
自動変速機構28におけるクラッチC1〜C3のオンオフとブレーキB1,B2のオンオフは、油圧回路30により行なわれる。図4は、油圧回路30の構成の概略を示す構成図である。油圧回路30は、図示するように、エンジンからの動力によりストレーナ31を介して作動油を圧送する機械式オイルポンプ32と、機械式オイルポンプ32から圧送された作動油を調圧してライン圧PLを生成するレギュレータバルブ33と、ライン圧PLから図示しないモジュレータバルブを介して生成されるモジュレータ圧PMODを調圧して信号圧として出力することによりレギュレータバルブ33を駆動するリニアソレノイドSLTと、ライン圧PLを入力する入力ポート42aとドライブポジション用出力ポート(Dポート)42bとリバースポジション用出力ポート(Rポート)42cなどが形成されシフトレバー91の操作に連動して入力ポート42aと出力ポート42b,42cとの間の連通と遮断とを行なうマニュアルバルブ40と、マニュアルバルブ40のDポート42bから出力された作動油を入力ポート52aから入力すると共に調圧して出力ポート52bから出力するノーマルクローズ型のリニアソレノイドSLC1と、機械式オイルポンプ32を介さずにストレーナ31に吸入ポート72aが接続されると共にクラッチC1(クラッチ用油路38)に吐出ポート用油路35を介して吐出ポート72bが接続された電磁ポンプ70と、リニアソレノイドSLC1の出力ポート52b(出力ポート用油路34)と前進1速用(発進用)のクラッチC1(クラッチ用油路38)との接続と遮断とを行なう切替バルブ60と、クラッチ用油路38に接続されたアキュムレータ39などにより構成されている。なお、図4では、クラッチC1以外のクラッチC2,C3やブレーキB1,B2の油圧系については本発明の中核をなさないから省略しているが、これらの油圧系については周知のリニアソレノイドなどを用いて構成することができる。
【0023】
電磁ポンプ70は、スリーブ72内を摺動するピストン73に吸入用逆止弁74と吐出用逆止弁76とを内蔵しており、ソレノイド部71をオンからオフしたときには吐出用逆止弁76が閉弁すると共に吸入用逆止弁74が開弁して作動油を吸入ポート72aから吸入し、ソレノイド部71がオフからオンしたときには吸入用逆止弁74が閉弁すると共に吐出用逆止弁76が開弁して吸入した作動油を吐出ポート72bから吐出する。図5に、電磁ポンプ70に印加する電流の周波数と吐出圧の関係を示し、図6に、吐出圧がピークを示すときの周波数H0の電流により電磁ポンプ70を駆動する際のデューティ比Dsと吐出圧との関係を示す。電磁ポンプ70は、クラッチC1に適正圧を作用させるために要求される吐出圧P0よりも高い圧送能力を持つよう設計されており、実施例では、製品出荷時に吐出圧P0が得られる初期時デューティ比D0から最大吐出圧P1が得られるピーク時デューティ比Dpeakまでの範囲を用いて駆動される。
【0024】
切替バルブ60は、ライン圧PLを信号圧として入力する信号圧用入力ポート62aとリニアソレノイドSLC1の出力ポート52b(出力ポート用油路34)に接続された入力ポート62bとクラッチC1(クラッチ用油路38)に接続された出力ポート62cの各種ポートが形成されたスリーブ62と、スリーブ62内を軸方向に摺動するスプール64と、スプール64を軸方向に付勢するスプリング66とにより構成されている。この切替バルブ60は、ライン圧PLが信号圧用入力ポート62aに入力されているときにはスプリング66の付勢力に打ち勝ってスプール64が図中左半分の領域に示す位置に移動し入力ポート62bと出力ポート62cとを連通することにより出力ポート用油路34とクラッチ用油路38とを連通し、ライン圧PLが信号圧用入力ポート62aに入力されていないときにはスプリング66の付勢力によりスプール64が図中右半分の領域に示す位置に移動し入力ポート62bと出力ポート62cとの連通を遮断することにより出力ポート用油路34とクラッチ用油路38との連通を遮断する。
【0025】
ATECU29は、図示しないが、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートおよび通信ポートとを備える。このATECU29には、入力軸22に取り付けられた回転速度センサ99からのタービン回転数Ntbなどが入力ポートを介して入力されている。
【0026】
こうして構成された実施例の車両10では、シフトレバー91をD(ドライブ)の走行ポジションとして走行しているときに、車速Vが値0,アクセルオフ,ブレーキスイッチ信号BSWがオンなど予め設定された自動停止条件の全てが成立したときにエンジン12を自動停止する。エンジン12が自動停止されると、その後、ブレーキスイッチ信号BSWがオフなど予め設定された自動始動条件が成立したときに自動停止したエンジン12を自動始動する。
【0027】
次に、こうして構成された実施例の車両10の動作、特に、自動停止しているエンジン12を自動始動させる際の動作について説明する。図7は、ATECU29により実行される自動停止時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、前述した自動停止条件が成立したときに実行される。
【0028】
自動停止時制御ルーチンが実行されると、ATECU29は、エンジン12が停止したときに(ステップS100)、リニアソレノイドSLC1に印加する電流を最大とすると共に(ステップS110)、ピーク時周波数H0と実行デューティ比Dsとをもって電磁ポンプ70の駆動を開始し(ステップS120)、次にエンジン12の自動始動条件が成立するのを待つ(ステップS130)。ここで、実行デューティ比Dsは、ソレノイド部71のコイルに印加する電流のデューティ比であり、後述する学習処理により設定される。自動停止条件が成立してエンジン12が自動停止すると、これに伴って機械式オイルポンプ32も停止するから、ライン圧PLが抜け、切替バルブ60のスプール64は出力ポート用油路34とクラッチ用油路38との接続を遮断する。したがって、クラッチ用油路38に吐出ポート72bが接続された電磁ポンプ70を駆動することにより、クラッチC1に油圧を作用させることができる。
【0029】
エンジン12の自動始動条件が成立すると、エンジン12が自動始動されるようメインECU90を介してEGECU16にエンジン始動指令を送信すると共に(ステップS140)、図8に例示する学習処理を実行することにより実行デューティ比Dsを設定し(ステップS150)、エンジン12が完爆したときに(ステップS160)、電磁ポンプ70の駆動を停止して(ステップS170)、本ルーチンを終了する。エンジン12が自動始動すると、機械式オイルポンプ32が作動し、機械式オイルポンプ32から圧送された作動油はリニアソレノイドSLC1を介してクラッチC1に供給される。前述したように、エンジン12が自動停止しているときに電磁ポンプ70からクラッチC1に作動油を供給しているから、エンジン12が自動始動した直後にクラッチC1を迅速に係合することができ、発進をスムーズに行なうことができる。
【0030】
次に、図6の学習処理について説明する。学習処理では、今回の実行デューティ比Dsが更新済みか否かを判定する(ステップS200)。更新済みのときにはこれで処理を終了し、更新済みでないときには回転速度センサ99からタービン回転数Ntbを入力し(ステップS210)、入力したタービン回転数Ntbと前回このルーチンで入力したタービン回転数(前回Ntb)との偏差により回転変化量ΔNtbを計算し(ステップS220)、計算した回転変化量ΔNtbと閾値THとを比較する(ステップS230)。ここで、閾値THは、入力軸22の吹き上がりを判定するための閾値であり、予め実験により求めたものを用いることができる。いま、車両10が停車している状態でエンジン12を自動始動する場合を考えると、クラッチC1に滑りが生じないときには自動始動に伴ってエンジン12からの動力がトルクコンバータ26を介して伝達されても入力軸22は回転しないが、クラッチC1に滑りが生じるとエンジン12からトルクコンバータ26を介して伝達される動力により入力軸22が回転し吹き上がりが生じる。実施例では、この入力軸22の吹き上がりを検出することにより、クラッチC1に滑りが生じているかを判定し、クラッチC1や電磁ポンプ70の経年劣化などによりクラッチC1に作用させるべき油圧に不足が生じていないかを判断しているのである。回転変化量ΔNtbが閾値TH未満のときには、クラッチC1には適正圧が供給されていると判断して本処理を終了し、回転変化量ΔNtbが閾値TH以上のときには、現在の実行デューティ比Dsがピーク時デューティ比Dpeakよりも小さいか否かを判定し(ステップS240)、現在の実行デューティ比Dsがピーク時デューティ比Dpeakよりも小さいときには現在の実行デューティ比Dsに所定比率Dsetを加えることにより新たに実行デューティ比Dsに更新して(ステップS250)、本処理を終了する。ここで、所定比率Dsetは、クラッチC1に作用する油圧が適正圧に対して不足しているときに実行デューティ比Dsを初期時デューティ比D0からピーク時デューティ比Dpeakに段階的に近づけていくときの1回当たりのシフト量であり、例えば、3%や5%などのように定めることができる。ステップS230で回転変化量ΔNtbが閾値TH未満と判定されたときには、クラッチC1には適正圧が供給されており、本処理を終了する。こうして更新された実行デューティ比Dsは、次回に自動停止条件が成立してエンジン12を自動停止する際に用いられる。ステップS240で現在の実行デューティ比Dsがピーク時デューティ比Dpeak以上と判定されたときには、これ以上圧送能力を上げることができないにも拘わらず、クラッチC1に滑りが生じているから、次回以降に自動停止条件が成立してもエンジン12の自動停止を行なわない(間欠運転の停止)(ステップS260)。なお、この場合、図示しない警告ランプを点灯するなどして運転者に警告を発するものとすることができる。
【0031】
以上説明した実施例の動力伝達装置20によれば、エンジン12が自動停止して機械式オイルポンプ32に代えて電磁ポンプ70により発進用のクラッチC1に作動油を供給する際には、クラッチC1に適正圧が作用しているか否かを判定し、クラッチC1に作用している油圧が適正圧に対して不足しているときには実行デューティ比Dsを初期時デューティ比D0からピーク時デューティ比Dpeakに向けて所定比率Dsetずつ近づくよう更新し、実行デューティ比Dsで電流を印加することにより電磁ポンプ70を駆動するから、電磁ポンプ70やクラッチC1に経年劣化が生じるものとしても、クラッチC1に適正圧を作用させることができる。しかも、エンジン12を自動始動する際にエンジン12のクランクシャフト14にトルクコンバータ26を介して接続された自動変速機構28の入力軸22に吹き上がりが生じたか否かによりクラッチC1に作用している油圧を推定するから、専用のセンサを設ける必要がない。また、クラッチC1に滑りが生じているときに現在の実行デューティ比Dsが既にピーク時デューティ比Dpeak以上のときには、次回以降に自動停止条件が成立してもエンジン12の自動停止を行なわないから、クラッチC1の摩耗による不具合の発生を抑制することができる。
【0032】
実施例の動力伝達装置20では、クラッチC1に作用している油圧が適正圧に対して不足しているときには実行デューティ比Dsを所定比率Dsetずつピーク時デューティ比Dpeakに近づけるものとしたが、不足の程度(実施例では、回転変化量ΔNtbの大きさ)に基づいて所定比率Dsetを変更するものとしてもよい。
【0033】
実施例の動力伝達装置20では、電磁ポンプ70に印加する電流の周波数(周期)を固定してデューティ比Dsだけを変更するものとしたが、デューティ比Dsを固定して周波数だけを変更するものとしてもよいし、周波数とデューティ比の両方を変更するものとしてもよい。なお、電磁ポンプ70に印加する電流の周波数を変更する際には、図5に示すように、デフォルト値を吐出圧がピークを示すときのピーク時周波数H0からずらしたポイントに設定し、クラッチC1に作用している油圧が適正圧に対して不足しているときに、デフォルト値からピーク時周波数H0に向けて所定値ずつ近づけるものとすればよい。この場合、所定値は、クラッチC1に作用している油圧が適正圧に対して不足する程度に応じて変更するものとしてもよい。
【0034】
実施例の動力伝達装置20では、エンジン12を自動始動する際の自動変速機構28の入力軸22の回転変化量ΔNtbと閾値THとを比較することによりクラッチC1に作用している油圧が適正圧に対して不足しているか否かを判定するものとしたが、これに限定されるものではなく、エンジン12を自動始動する際にGセンサにより検出される振動の程度が閾値以上か否かにより判定するものとしてもよい。また、クラッチ用油路38に油圧センサを設けてこの油圧センサにより検出される油圧に基づいて判定するものとしても構わない。
【0035】
実施例の動力伝達装置20では、実行デューティhDsがピーク時デューティ比Dpeak以上のときにはエンジン12の間欠運転を停止するものとしたが、間欠運転を実行するものとしても差し支えない。
【0036】
実施例の動力伝達装置20では、前進1速〜4速の4段変速の自動変速機構28を備えるものとしたが、自動変速機構としては、これに限定されるものではなく、2段変速や3段変速や5段以上の変速段とするなど如何なる段数のものを用いるものとしてもよい。
【0037】
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、クラッチC1が「流体圧駆動の機器」に相当し、電磁ポンプ70が「電磁ポンプ」に相当し、回転速度センサ99と図8の学習処理のステップS210〜S230を実行するATECU29とが「流体圧検出推定器」に相当し、図7の自動停止時制御ルーチンや図8の学習処理を実行するATECU29が「駆動制御部」に相当する。また、機械式オイルポンプ32が「機械式ポンプ」に相当する。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0038】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、動力伝達装置の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
10 車両、12 エンジン、14 クランクシャフト、16 EGECU、20 動力伝達装置、22 入力軸、24 出力軸、26 トルクコンバータ、26a ポンプインペラ、26b タービンランナ、26c ロックアップクラッチ、28 自動変速機構、29 ATECU、30 油圧回路、31 ストレーナ、32 機械式オイルポンプ、33 レギュレータバルブ、34 出力ポート圧用油路、35 吐出ポート用油路、38 クラッチ用油路、39 アキュムレータ、40 マニュアルバルブ、42a 入力ポート、42b Dポジション用出力ポート、42c Rポジション用出力ポート、60 切替バルブ、62 スリーブ、62a 信号圧用入力ポート、62b 入力ポート、62c 出力ポート、64 スプール、66 スプリング、70 電磁ポンプ、71 ソレノイド部、72 シリンダ、72a 吸入ポート、72b 吐出ポート、73 ピストン、74 吸入用逆止弁、76 吐出用逆止弁、90 メインECU、91 シフトレバー、92 シフトポジションセンサ、93 アクセルペダル、94 アクセルペダルポジションセンサ、95 ブレーキペダル、96 ブレーキスイッチ、98 車速センサ、99 回転速度センサ、SLT,SLC1 リニアソレノイド、S1,S2 サンギヤ、R リングギヤ、PS ショートピニオンギヤ、PL ロングピニオンギヤ、CR キャリア、C1〜C3 クラッチ、B1,B2 ブレーキ、F1 ワンウェイクラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体圧駆動の機器に作動流体を圧送するポンプ装置であって、
往復動に伴って作動流体の吸引と吐出とを行なうピストンと、電磁力により前記ピストンを往復動させる電磁部と、を有する電磁ポンプと、
前記機器に作用している流体圧を検出または推定する流体圧検出推定器と、
前記電磁部に印加する電流のデューティ比として使用可能なデューティ比範囲のうち吐出圧がピークを示すときのデューティ比であるピーク時デューティ比とは異なるデューティ比を制御量のデフォルト値として用いて前記電磁部を駆動制御し、前記検出または推定された流体圧が適正圧に対して不足するときには前記デフォルト値から前記ピーク時デューティ比に近づくよう制御量を変更して前記電磁部を駆動制御する駆動制御部と、
を備えるポンプ装置。
【請求項2】
請求項1記載のポンプ装置であって、
前記駆動制御部は、前記検出または推定された流体圧が適正圧に対して不足すると判断される毎に所定比率ずつ前記制御量としてのデューティ比を変更して前記電磁部を駆動制御する
ポンプ装置。
【請求項3】
流体圧駆動の機器に作動流体を圧送するポンプ装置であって、
往復動に伴って作動流体の吸引と吐出とを行なうピストンと、電磁力により前記ピストンを往復動させる電磁部と、を有する電磁ポンプと、
前記機器に作用している流体圧を検出または推定する流体圧検出推定器と、
前記電磁部に印加する電流の周波数として使用可能な周波数範囲のうち吐出圧がピークを示すときの周波数であるピーク時周波数とは異なる周波数を制御量のデフォルト値として用いて前記電磁部を駆動制御し、前記検出または推定された流体圧が適正圧に対して不足するときには前記デフォルト値から前記ピーク時周波数に近づくよう制御量を変更して前記電磁部を駆動制御する駆動制御部と、
を備えるポンプ装置。
【請求項4】
請求項3記載のポンプ装置であって、
前記駆動制御部は、前記検出または推定された流体圧が適正圧に対して不足すると判断される毎に所定値ずつ前記制御量としての周波数を変更して前記電磁部を駆動制御する
ポンプ装置。
【請求項5】
間欠運転可能な原動機の出力軸に入力軸が接続されて該入力軸に入力される動力を摩擦係合要素を介して出力軸に伝達する動力伝達装置に搭載され、前記流体圧駆動の機器として前記摩擦係合要素の流体圧サーボに作動流体を圧送する請求項1ないし4いずれか1項に記載のポンプ装置であって、
前記原動機からの動力により作動して前記摩擦係合要素の流体圧サーボに流体圧を供給する機械式ポンプを備え、
前記駆動制御部は、前記原動機が停止している最中に前記機械式ポンプに代えて前記摩擦係合要素の流体圧サーボに流体圧が作用するよう前記電磁部を駆動制御する
ポンプ装置。
【請求項6】
請求項5記載のポンプ装置であって、
前記流体圧検出推定器は、前記原動機の始動を伴って前記摩擦係合要素を係合する際の前記入力軸の吹き上がりを検出することにより該摩擦係合要素の流体圧サーボに作用している流体圧を推定し、
前記駆動制御部は、前記流体圧検出推定器により前記入力軸の吹き上がりが検出されたときには、次回以降に前記原動機が停止した際に前記制御量を変更する
ポンプ装置。
【請求項7】
請求項5記載のポンプ装置であって、
前記流体圧検出推定器は、前記原動機の始動を伴って前記摩擦係合要素を係合する際の振動を検出することにより該摩擦係合要素の流体圧サーボに作用している流体圧を推定し、
前記駆動制御部は、前記流体圧検出推定器により所定程度以上の振動が検出されたときには、次回以降に前記原動機が停止した際に前記制御量を変更する
ポンプ装置。
【請求項8】
請求項5ないし7いずれか1項に記載のポンプ装置であって、
前記駆動制御部は、前記制御量がピーク値に達している状態で前記検出または推定された流体圧が適正圧に対して不足すると判断される場合には前記原動機の間欠運転の実行を停止する
ポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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