説明

マグネシウム合金圧延板成形体およびそれを用いた電気機器

【課題】電気機器の筐体として好適に用いることが可能なように構造部品取付部を備えたマグネシウム合金圧延板成形体を得る。
【解決手段】電気機器の筐体、特に折り畳み開閉構造を備えた携帯型電気機器の外装部分に用いられ、筐体の構造を形成するための構造部品取付部を備えたマグネシウム合金圧延板成形体であって、段差をもつ2面を形成するように折り曲げられてなる折り曲げ構造を備えており、マグネシウム合金圧延板成形体の板厚t(mm)と該2面の外間隔L(mm)が、3t≦L≦20tの関係を有するように構成した。また同成形体にヒンジ部品を取付開閉可能な筐体を備えた電気機器とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯型電気機器の筐体に好適に利用されるマグネシウム合金圧延板成形体に関するものである。特に、筐体のヒンジ部品など構造部品を取り付ける構造部品取付部を備えたマグネシウム合金圧延板成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムに種々の添加元素を含有したマグネシウム合金が、携帯電話やノート型パソコンといった携帯用電気機器の筐体などの部材の材料に利用されてきている。マグネシウム合金は、六方晶の結晶構造(hcp構造)を有するため常温での塑性加工性に乏しいことから、上記筐体などのマグネシウム合金成形体は、ダイキャスト法やチクソモールド法による鋳造材が主流である。最近、ASTM規格のAZ31合金に代表されるマグネシウム合金からなる板にプレス加工を施し、上記筐体を形成することが検討されている(例えば特許文献1)。また、特許文献2は、ASTM規格のAZ91合金からなり、プレス加工性に優れるマグネシウム合金圧延板を提案している。
【0003】
一方、携帯型電気機器には液晶画面等の表示部を主体とした上蓋部とキー入力部を主体とした本体部をヒンジ機構で連結した折り畳み開閉構造を備えたものが多く用いられている(例えば特許文献3)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−239644号公報
【特許文献2】特開2007−98470号公報
【特許文献3】特開平5−291757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マグネシウム合金圧延板は軽量でかつ塗装等による表面外観に特に優れるため、本発明者らは筐体の中でも特に開閉構造を備えた電気機器の上蓋外装部分に用いることを研究している。この場合、マグネシウム合金圧延板には他の筐体構成部材との接合、組み立てのための構造部品を取り付ける必要がある。マグネシウム合金板は、例えばアルミニウム合金板等の他の金属板に比べて硬く、剛性が強い。また軽量化のためには極力薄い板を用いる必要があり、板材に直接タップ孔を設けることや溶接なども困難である。電気機器全体を軽量小型化する意味から、構造部品を取り付けた全体の厚さも薄くすることが求められる。さらに、このような外装部分では表面にネジ等の部品が露出することは好ましくない。
【0006】
このため、マグネシウム合金圧延板を携帯型電気機器の筐体に用いるためには、構造部品を適切に取り付けられる構造が望まれていた。さらに機器の小型薄型化に伴い、薄い構造でも液晶パネル等の内部部品を曲げや衝撃から保護できるための強度が要求される。特に、開閉構造を備えた電気機器の開閉部を構成するヒンジ部品の取付部分は、外観の重要性に加えて、数万回の開閉に耐える強度も要求されるが、薄いマグネシウム合金圧延板での適切な構成は考えられていなかった。かかる取付部を設けるにはインサート成型等の工程が必要となる上、樹脂自体の曲げ強度や金属との接合強度が不足する問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討を進めた結果、マグネシウム合金圧延板は同鋳造材に比べると二段以上の曲げ加工ができ、非常に鋭利な角度に曲げ加工が可能、さらに表面の美観性と強度を併せ持つという特質を持つことに着目して本発明に至った。
【0008】
本発明は、電気機器の筐体に用いられ、筐体の構造を形成するための構造部品取付部を備えたマグネシウム合金圧延板成形体であって、構造部品取付部は、マグネシウム合金圧延板が段差をもつ2面を形成するように折り曲げられてなる折り曲げ構造を備えており、該構造部品取付部を構成するマグネシウム合金圧延板の板厚t(mm)と該2面の外間隔L(mm)が、3t≦L≦20tの関係を有するマグネシウム合金圧延板成形体である。(請求項1)
【0009】
このように構成することで2面の段差を利用して構造部品の取付を行うことができると共に、折り曲げ構造を備えることで取付部分の成形体としての強度を確保することができ、筐体自体の変形や内部部品の保護に優れる。また取付のための他の樹脂部品等を必要としないので部品取付の強度が高い。また、折り曲げ構造は表示素子の固定にも有効に作用する。折り曲げ構造に液晶パネル等の表示素子パネルを挿入するだけで位置合わせが不要となり、組立て工程が簡素化できる。2面の外間隔を小さく構成出来るのは、マグネシウム合金圧延板がダイキャスト法やチクソモールド法による鋳造材に比べて鋭利に曲げることができる特性に着目したものである。一方、取付部に大きな段差の面を備えることは全体の厚さが厚くなる点から好ましくない。
【0010】
ここで、段差をもつ2面とは、図1に例示されるように、板をいわゆるU字状(図1(a))、コの字状(同(b))、または乙字状(同(c))など、図中のアとイのような2つの板状部分である面を形成するように曲げられた状態をいう。2つの面は略平行に形成されることが構造部品の取り付けのために好ましく、当該部品形状との関係に応じて種々の形態が可能である。略平行とは厳密ではないがほぼ並行な部分の意味で用いられ、およそ0度から15度以内の角度差を含めるものである。なお、板を円弧状に曲げた場合も、面の向きを連続して変化させたととらえることができ、段差をもつ2面に含めることができる(同(d))。
【0011】
また、2面の間隔Lとは、図1にそれぞれ記載の通り、段差を持つ板の外側面の間隔とする。2面が略平行である場合は間隔がほぼ一定であり当該面の平均間隔で定義する。コの字などの形状だが面が平行ではなく間隔が連続的に変化する場合や、上述の円弧状などのような場合は、最も間隔の大きな部分で定義する(図1(d))。L=2tが最小値、すなわちU字加工であれば折り曲げられた2面が間隔ゼロで密着した状態である。
【0012】
形成した2面に挟まれる内部に生じる空間に構造部品を取り付けるために、2面の間隔は構造部品の厚さ以上が必要となる。かかる間隔は、板材と部品の強度の関係を考慮すると少なくとも板厚tは必要である。一方で筐体全体の厚さの制限から20tを越えないことが好ましい。薄型化の観点からさらに好ましくは10t以下である。携帯型電子機器の筐体に用いられるマグネシウム合金圧延板の板厚tは0.1mmから1.0mm程度が好ましく用いることができ、特に外装部分の板厚としては耐衝撃性を考慮して0.4mmから0.8mmが好ましい。電子機器の小型薄型化を考慮すると全体の厚さは10mm程度を越えないことが好ましく、特に好ましくは5mm以下であり、小型機器では2mm以下がさらに好ましい。例えばU字状の曲げで板厚tが0.6mm、全体厚を3mmとすると、L=5tの関係となる。
【0013】
かかる観点から、本発明を好ましい寸法の範囲から見ると、板厚tが0.1mm以上1.0mm以下で、かつ段差を有する2面の外間隔Lが、0.3mm以上20mm以下の関係を有するマグネシウム合金圧延板成形体である。さらに好ましいtは、0.4mm以上0.8mm以下、さらに好ましいLは1mm以上5mm以下、さらには3mm以下である。
【0014】
用いるマグネシウム合金圧延板の素材としては、Alを0.1〜10質量%、Znを0.1〜4.0質量%含有し、残部がMgおよび不可避不純物からなる合金が好ましく(請求項2)、最も好ましくはAlを8.5〜10質量%、Znを0.5〜1.5質量%含有するASTM規格におけるAZ91相当の合金である。
【0015】
また、マグネシウム合金圧延板は、双ロール法により鋳造された後、複数回の圧延および300℃未満の温度で熱処理されたものを用いると良い。結晶粒の大きさのばらつきが小さく、曲げやプレス加工しても割れ等が生じにくく、かつ表面平滑性に優れるためである。
【0016】
折り曲げ構造の外側最小曲げ半径rと、板厚tが、r≦tの関係を有するとよい。(請求項3)
【0017】
鋭利な角度により外装部材としての外観に優れ、工業製品としての価値が高まるだけでなく、電子機器全体の薄型軽量化に寄与できる。さらに金属板をプレス成形等で塑性加工を加えることで加工硬化により角部の硬度を高められ、角部などに衝撃が加わっても変形し難く、鋭利な角部を長期に亘り維持することができる。
【0018】
ここで、折り曲げ部の外側最小曲げ半径とは、折り曲げられた部分の外側表面の曲げ半径をいい、折り曲げ構造が複数の曲げ部を有する場合や連続的に半径が異なる場合は、その中で最小の曲げ半径を指す。図1にそれぞれ記載のrは当該外側曲げ半径を示し、2つの半径を有する折り曲げ部は、r1とr2の小さい方を外側最小曲げ半径とする。
【0019】
構造部品取付部は、筐体を構成するマグネシウム合金圧延板の端部が折り曲げられた構造であり、折り曲げられた端部側には少なくとも1つの部品取付孔を有するとよい。(請求項4)
【0020】
また、前述の通り当該構造部品取付部は、折り畳み開閉構造を有する電子機器に用いるヒンジ部品の取付部に好適に用いられる。(請求項5)
【0021】
さらに好ましい構造として、段差をもつ2面の間に構造部品を挟持可能とすればよい。(請求項6)
【0022】
U字状またはコの字状の部分を有する様に折り返された構造とすると当該部分の強度、剛性が増す。さらに前述のように塑性加工による素材自体の強度も向上する。折り返した部分にヒンジ部品などを挟み込むように取り付けることで、筐体表面からは隠れた部分で部品の取付が可能となり、外観上有利である。部品の取付のために取付孔を設けると便利である。部品をネジにより固定する場合には特にネジ孔が必要である。部品の固定はネジに限るものではなく、接着剤や接着テープ、あるいはスポット溶接やレーザ溶接等の溶接によることができる。本発明によれば構造部品を折り曲げた端部側に固定することにより、溶接であっても溶接痕を筐体外装面に出すことなく溶接が可能である。
【0023】
また、本発明は前述のマグネシウム合金圧延板成形体が筐体の外装板として用いられ、その構造部品取付部にヒンジ部品が固定されてなる折り畳み開閉構造を備えた電気機器である。(請求項8)
【0024】
特に、携帯用電気機器であるノート型パソコン、携帯電話など携帯情報端末や、携帯型ゲーム機、カメラなどに好適に用いられる。
【0025】
なお、ヒンジ部品とは、開閉構造を実現するために用いられるヒンジそのものと、それを取り付けるために付随的に用いられる部品、取り付けるためのネジ等を含んだ部品をいう。構造部品という場合は、ヒンジ部品のみならず他の筐体部分との連結用部品や、プリント基板、液晶画面、キーボード等々の電子部品との連結用部品など種々の構造組み立てに用いられる部品を総称していう。
【0026】
さらに本願の別な発明は、マグネシウム合金圧延板を折り返して形成した段差をもつ2面の間に、構造部品に加えて表示素子パネルを挟持可能なことを特徴とするマグネシウム合金圧延板成形体である。(請求項7)
【0027】
また、マグネシウム合金圧延板成形体を折り畳み開閉構造を備える電気機器の上蓋側外装板として用い、外装面裏側には、段差をもつ2面の間に表示素子パネルが挟持されている電気機器である。(請求項9)
【0028】
ノート型パソコンや携帯電話等の携帯型電気機器には、開閉可能に構成された一方の筐体(通常状態での上下構成から上蓋側とよぶ)には、外装面とは反対側の面に、液晶素子やプラズマ素子、EL素子等で構成される表示素子パネルを設けて各種情報を表示するものが多い。本発明のマグネシウム合金圧延板成形体における段差をもつ2面を利用して表示素子パネルを取り付ければ、別途の取付構造を設ける必要がなく簡便な構造で上蓋部を構成できるため、外観上およびコスト上のメリットが得られる。
【発明の効果】
【0029】
以上のように本発明によれば、電気機器の筐体として好適に用いることが可能なように構造部品取付部を備えたマグネシウム合金圧延板成形体が得られ、外観性と強度を兼ね備えた電気機器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を板材の準備工程から製造工程順を追って説明する。
【0031】
(マグネシウム合金の組成)
本発明成形体を構成するマグネシウム合金は、Mgに添加元素を含有した種々の組成のもの(残部:Mg及び不可避不純物)が利用できる。例えば、Mg−Al系、Mg−Zn系、Mg−RE(希土類元素)系、Y添加合金などが挙げられる。特に、Alを含有するMg−Al系合金は、耐食性が高い。Mg−Al系合金は、例えば、ASTM規格におけるAZ系合金(Mg−Al−Zn系合金、Zn:0.2〜1.5質量%)、AM系合金(Mg−Al−Mn系合金、Mn:0.15〜0.5質量%)、AS系合金(Mg−Al−Si系合金、Si:0.6〜1.4質量%)、Mg−Al−RE(希土類元素)系合金などが挙げられる。Al量は、1.0〜11質量%以下が好ましく、特に、Alを6〜10質量%、Znを0.5〜1.5質量%含有するMg−Al系合金、代表的にはAZ61、AZ80、AZ91は、AZ31合金と比較して、耐食性や強度、耐塑性変形性といった機械的特性に優れる。最も好ましくはAlを8.5〜10質量%、Znを0.5〜1.5質量%含有するASTM規格におけるAZ91相当の合金である。
【0032】
(素材板)
素材板は、双ロール法などの連続鋳造法、特に、WO/2006/003899に記載の鋳造方法で製造することが好ましい。連続鋳造法は、急冷凝固が可能であるため、酸化物や偏析などを低減でき、圧延加工性に優れる鋳造材が得られる。また、鋳造材に溶体化処理(加熱温度:380〜420℃、加熱時間:60〜600分)や時効処理といった熱処理を施すと、組成を均質化することができる。特に、Alの含有量が高いものは長時間溶体化を行うことが好ましい。素材板の大きさは特に問わないが、厚過ぎると偏析が生じ易いため、10mm以下、特に5mm以下が好ましい。
【0033】
(圧延)
上記素材板に複数回の圧延を施す。多数回に亘る圧延を行うことで、板厚を薄くできる上に、平均結晶粒径を小さくすることができる。また、例えば粒径10μm以上といった粗大な晶析出物を消滅させられ、曲げ加工やプレス加工性を高められる。AZ91合金などのAlを多く含むマグネシウム合金は、晶析出物が生成され易い傾向にあるが、上述のように複数回の圧延を行うことで、合金組成にかかわらず上記欠陥が少ない圧延板が得られる。圧延は、圧延ロールのロール周速(圧延速度)を30m/min以上として行う。ロール周速を比較的速い特定の範囲とし、複数回の圧延を施すことで、得られた圧延板には、加工歪みを均一的かつ十分に導入することができる。より好ましいロール周速は60m/min以上である。複数回の圧延のうち、少なくとも2回以上の圧延、好ましくは全ての圧延を上記特定の範囲のロール周速で行う。
【0034】
その他、圧延は、加工対象である素材板を200〜400℃、圧延ロールを150〜250℃に加熱し、1回あたりの圧下率を10〜50%として行うことが好ましい。公知の条件、例えば特開2007−98470号公報に開示される制御圧延などを組み合わせて利用してもよい。また、圧延加工途中に中間熱処理(加熱温度:250〜350℃、加熱時間:20〜60分)を行って、中間熱処理までの加工により加工対象に導入された歪みや残留応力、集合組織などを除去、軽減すると、その後の圧延での不用意な割れや歪み、変形を防止して、より円滑に圧延を行える。
【0035】
(熱処理)
最終圧延後の圧延板に300℃未満の比較的低温で熱処理を施す。従来、加工歪みの除去、及び完全な再結晶化を目的として、特にAl量が多い合金では300℃以上で熱処理を行っていた。これに対して、上記特定の圧延を行った圧延板は、加工歪みを十分かつ均一的に蓄積した結晶組織を有していることから比較的低温での再結晶が可能であるため、熱処理の温度を300℃未満とする。熱処理前において均一的な組織であるため、この熱処理により再結晶化した結晶粒は大きさのばらつきが小さい。よって、微細で均一的な結晶組織を有する曲げやプレス加工用の圧延板、具体的には、平均結晶粒径が6μm以下、最大粒径と最小粒径との差が2μm以下である圧延板が得られる。より好ましい熱処理の温度は、220℃以上280℃以下である。
【0036】
(曲げ加工)
上記得られた圧延板に曲げ加工を施して、段差をもつ2面を形成するような折り曲げ構造を備えた成形体を得る。曲げ加工は形状により1回で曲げられる場合もあるが複数回に分けて折り曲げる場合もある。いずれにおいても、加工性を高められるように200℃以上300℃以下の温度、特に220℃以上280℃以下の温間で行うことが好ましい。
【0037】
曲げ加工後に熱処理を施し、加工により導入された歪みや残留応力の除去、機械的特性の向上を図ってもよい。熱処理条件は、加熱温度:100〜450℃、加熱時間:5分〜40時間程度が挙げられる。また、加工後に得られた成形体の表面には、防食、保護、装飾などを目的とした被覆層を、塗装などの方法で具えると、耐食性と共に美観性を高められ、特に携帯型電気機器の外装筐体としては好適である。
【0038】
図2にて代表的な曲げ加工の方法を例示する。金型51は直角の角部を有する金属製のブロックである。金型51の上面に加工対象となるマグネシウム合金圧延板1を置き、端部に力を加えて折り曲げる(図2(a))。なお、図は加工の概念を模式的に示すために、板を抑える金型や折り曲げる金型は図示されていないが、通常の金属加工の手法でよい。次に、図2(a)によって端部が曲げられた板1を別な金型52を用いて再度折り曲げる(図2(b))。これにより同図(c)の如くに、コの字状に折り曲げられ、段差を有する2面を備えた形状とすることができる。
【0039】
金型51や52の肩部の曲げ半径を実質的に0mmとすることで、内側曲げ半径が実質的に0mmとなる曲げ部を得ることが出来る。このようにして曲げられた角部の外側曲げ半径rは、通常、板厚tと同等かそれ以上である。
【0040】
外側曲げ半径rが金属板の厚さt以下というような鋭利な角部を形成するためには、プレスによる加工を加える。図3はかかる加工を模式的に示す図である。図3(a)を説明する。曲げ加工されたマグネシウム合金圧延板1を金型53と54で固定し、パンチ用の金型55を図の上から下方向に押し込む。これにより角部が押し込まれ、外側曲げ半径rが小さくできる。外側曲げ半径rは略0mmとなるまで押し込むことが可能であるが、実際の携帯型電気機器の筐体外装部に用いるには0.1mm以上が好ましい。図3(b)は別な加工方法を示す図である。曲げ加工されたマグネシウム合金圧延板1を直角な角部を有する金型56に固定し、パンチ用金型57を図の左上から右下方向に押し込むことで、角部の外側曲げ半径rを小さくすることができる。図3(a)の方法では、rが小さくなる角部の材料が金型55で押し込まれる端部側から供給されるのに対して、図3(b)の方法では角部の材料自体を押しつぶすことで供給される。このため図3(a)の方法での加工によるほうが角部近傍の板厚への影響がなく、美観に優れ、かつ強度も高い成形体を得やすい点で好ましい。
【0041】
素材板の厚さはできるだけ薄い方が成型し易くなる。しかし、素材板自体を薄くし過ぎると、成型体の強度が低くなり、携帯型電気機器の筐体に望まれる強度や剛性を満たせなくなり易い。また、落下などの際に衝撃が加わり易い角部を加工硬化により硬度を増すには、角部を高い加工度で形成することが考えられる。しかし、高い加工度で曲げ成形や絞り成形を行うと、素材板において角部の形成箇所が部分的に引き延ばされて薄くなり、この薄肉化による強度の低下を招き易い。そこで、高い加工度のプレス成形を多段階に分けて行うことで、角部が極端に薄くなることが無く、強度の低下を抑えるようにしてもよい。
【0042】
上記製造方法によれば、外周面がつくる角部、即ち、外観をつくる角部が鋭利であるだけでなく、内周面がつくる角部も鋭利になる。すなわち、上記製造方法により得られたマグネシウム合金圧延板成形体の構造部品取付部は、各種構造部品を収納する空間が広く、有効に空間を活用することができるため、構造部品の取付に適する。
【0043】
(成形体)
図4は、以上の工程を経て加工されたマグネシウム合金圧延板成形体の一例を示す図であり、携帯用ノート型パソコンの筐体のうちで上蓋外装板を構成するものである。図4(a)は全体斜視図、(b)は構造部品取付部の断面図、(c)は裏側から見た平面図である。全体が約300mm×200mmの略平板状の形態をしており、構造部品取付部2が左右の端部に設けられている。板厚tは全体に均一であり0.6mmである。構造部品取付部2は板状体の端部をコの字型に2面が平行に向き合うように折り返した構造であって、2面の外間隔Lが1.8mm、すなわちL=3tの関係となっている。折り曲げ構造の外側最小曲げ半径rは板厚より小さい0.3mm、すなわちr=0.5tの関係であり、内側曲げ半径は略0mmである。図4(c)に示されるように、折り曲げられた部分には部品取り付け用の孔3が左右にそれぞれ2つ設けられている。
【0044】
(構造部品の取付)
本例では、取り付けられる構造部品はノート型パソコンの上蓋となる液晶表示部と、キーボードを備えた本体部を連結して開閉の要となるヒンジ部品である。図5は図4の成形体にヒンジ部品が取付られた状態の構造部品取付部2を模式的に拡大して示している。図5(a)は正面から見た図、同(b)は左側面から見た図、同(c)は底面側から見た図である。
【0045】
ヒンジ部品41は、コの字状に折り曲げられて形成された空間21に挿入され、2つの部品取付孔を貫通する2本のビス31で成形体に固定されている。このように固定することで、上蓋となる成形体の表面にはビスが露出することない。ヒンジ部品も上蓋の上面からも側面からも見えないように裏側に取り付けられるので、美観性に優れた電気機器を構成することができる。さらに、かかる成形体は側面が折り曲げられているため、曲げ直角方向、すなわち角部の延伸方向Aの剛性が極めて高くなる。よって、上蓋を使用者が開閉する際に、使用者の開閉しようとする手の位置とヒンジの回転軸との間に加わる力によって、液晶表示部を含む上蓋全体が曲がることを抑制し、これに起因する電気機器の故障を効果的に防止できる。さらには角部の強度が高いことから耐衝撃性にも優れた筐体とすることができる。
【0046】
本発明にかかる構造部品取付部の構造は上記のようにコの字型に折り曲げたものに限らず、種々の構造が可能である。図6はこれらを例示する模式図である。図6(a)は板状体1の一辺を乙状に加工して構造部品取付部2を設け、ヒンジ部品4をビス31によって取り付けた例、同(b)(c)は、円形状(筒状)に加工して、内部の円筒状の空間に構造部品として円柱状の軸部品4を挿入した例である。円形状に折り曲げた場合には面の角度が連続して変化するために、段差を有する2面を特定し難いが、図1(d)で示したようにU字状に折り曲げた場合の特異例として、円形状の直径となる部分を2面と捉えることが可能である。
【0047】
さらに、図7は複数段の曲げ加工を行って形成された成形体の一例を示すものである。本例では、面ア、イ、ウ、エの内部に形成される空間21を利用して構造部品を取り付けるようにしたものであり、かかる部分全体を構造部品取付部とするものである。この場合は、2つのコの字形状の曲げが組み合わされている。向かい合う段差を有する面同士、アとイ、ウとエをそれぞれ独立に本発明の2面と捉えることができ、それぞれの外間隔はL1、L2である。いずれかの組み合わせの2面が本発明の要件を満たしていれば、構造部品の取り付けに好適に用いることができる。
【0048】
図8は本発明のマグネシウム合金圧延板成形体を折り畳み開閉可能な電子機器に利用した一例を模式的に示す図である。図8(b)は電子機器7の構成を示す。筐体は上蓋部71と本体部73の2つがヒンジ部75で開閉可能に連結されている。本体部にはキーボード74が備わっており、上蓋部には表示素子61からなる表示部が備わっている。筐体の上蓋外装部にはマグネシウム合金圧延板1が用いられている。化粧板72は部品取付部等を覆うように設けられた内装部品である。
【0049】
図8(a)にて上蓋部の構造を説明する。上蓋外装板にはマグネシウム合金圧延板1が用いられている。マグネシウム合金圧延板1は、コの字状に折り返されて形成された段差をもつ2面からなる構造部品取付部を有しており、ヒンジ部品の取付構造は前述の通りである。ここで特徴とするのは、段差をもつ2面を利用して表示素子パネル62を取付可能としていることである。表示素子パネル62は液晶等の表示素子61とそれに付随する電気回路を備えた液晶表示パネル等である。表示素子パネル62は成形体である上蓋外装板と略同じ幅を持ち、コの字状に形成された両側端の折り曲げ構造におけるコの字を形成する2面の間にスライド装着して挟持することができる。図示はしていないが、スライド装着後の固定手段は通常用いられる方法を用いることができる。例えばネジで押さえる、ばね部材で挟み込む、接着剤を用いる等である。ネジ孔が必要な場合は、ヒンジ部品を取付と同様に成形体にネジ孔を設けることができる。
【0050】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係るマグネシウム合金圧延板成形体の構造部品取付部の形状例を模式的に示す図である。
【図2】本発明に係るマグネシウム合金圧延板成形体の構造部品取付部の形成方法である曲げ加工を説明する図である。
【図3】本発明に係るマグネシウム合金圧延板成形体の曲げ部の加工方法を説明する図である。
【図4】本発明に係るマグネシウム合金圧延板成形体の一例を示す図である。
【図5】本発明に係るマグネシウム合金圧延板成形体にヒンジ部品を取り付けた構成例を示す図である。
【図6】本発明に係るマグネシウム合金圧延板成形体にヒンジ部品を取り付けた他の構成例を示す模式図である。
【図7】本発明に係るマグネシウム合金圧延板成形体の構造部品取付部の形状例として複数の段差を有する2面を備えた場合を示す図である。
【図8】本発明に係るマグネシウム合金圧延板成形体を折り畳み開閉構造を備えた電気機器に用いた構成例を示す図であり、(a)は成形体に表示素子パネルを装着する状態を例示する図、(b)は電気機器である。
【符号の説明】
【0052】
ア,イ,ウ,エ 段差を有する面
t 板厚
L 2面の外間隔
r,r1,r2 外側曲げ半径
1 マグネシウム合金圧延板
2 構造部品取付部
21 空間
3 部品取付孔
31 ビス
4,41,42,43 ヒンジ部品
51〜57 金型
61 表示素子
62 表示素子パネル
7 電気機器
71 上蓋部
72 化粧板
73 本体部
74 キーボード
75 ヒンジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器の筐体に用いられ、該筐体の構造を形成するための構造部品取付部を備えたマグネシウム合金圧延板成形体であって、
該構造部品取付部は、マグネシウム合金圧延板が段差をもつ2面を形成するように折り曲げられてなる折り曲げ構造を備えており、該構造部品取付部を構成するマグネシウム合金圧延板の板厚t(mm)と該2面の外間隔L(mm)が、3t≦L≦20tの関係を有することを特徴とするマグネシウム合金圧延板成形体。
【請求項2】
前記マグネシウム合金圧延板は、Alを0.1〜10質量%、Znを0.1〜4.0質量%含有し、残部がMgおよび不可避不純物からなる合金であることを特徴とする、請求項1に記載のマグネシウム合金圧延板成形体。
【請求項3】
前記折り曲げ構造の外側最小曲げ半径rと、前記板厚tが、r≦tの関係を有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のマグネシウム合金圧延板成形体。
【請求項4】
前記構造部品取付部は、前記マグネシウム合金圧延板の端部が折り曲げられた形状であり、該折り曲げられて形成された2面のうち端部側の面には少なくとも1つの部品取付孔を有することを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のマグネシウム合金圧延板成形体。
【請求項5】
前記構造部品取付部は、折り畳み開閉構造を有する電子機器に用いるヒンジ部品の取付部であることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のマグネシウム合金圧延板成形体。
【請求項6】
前記段差をもつ2面の間に構造部品を挟持可能なことを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のマグネシウム合金圧延板成形体。
【請求項7】
さらに前記段差をもつ2面の間に表示素子パネルを挟持可能なことを特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のマグネシウム合金圧延板成形体。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のマグネシウム合金圧延板成形体が筐体の外装板として用いられ、前記構造部品取付部にヒンジ部品が固定されてなる折り畳み開閉構造を備えることを特徴とする電気機器。
【請求項9】
前記外装板は、折り畳み開閉構造を備える電気機器の上蓋側外装板であり、前記外装板の外装面裏側には、前記段差をもつ2面の間に表示素子パネルが挟持されていることを特徴とする、請求項8に記載の電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−147259(P2010−147259A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323023(P2008−323023)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】