マスコンクリート構造体の構築方法
【課題】マスコンクリート構造体の表層部に発生する応力ひずみを抑制して、表面のひび割れの発生を抑えることができるマスコンクリート構造体の構築方法を提供する。
【解決手段】下部から1リフトごとにコンクリートを順次打設して上下方向に複数のコンクリート層2を構築するマスコンクリート構造体1の構築方法において、打設済の複数のコンクリート層2のうち、少なくとも最上部に位置するコンクリート層2を打設休止期間中に加熱することで、打設済の複数のコンクリート層2からなる打設済コンクリート構造体3の表層部4と内層部5との温度差を緩和するとともに打設済コンクリート構造体3の表層部4とその上部に新たに増打ちされる新設コンクリート構造体の内層部との温度差を緩和することを特徴する。
【解決手段】下部から1リフトごとにコンクリートを順次打設して上下方向に複数のコンクリート層2を構築するマスコンクリート構造体1の構築方法において、打設済の複数のコンクリート層2のうち、少なくとも最上部に位置するコンクリート層2を打設休止期間中に加熱することで、打設済の複数のコンクリート層2からなる打設済コンクリート構造体3の表層部4と内層部5との温度差を緩和するとともに打設済コンクリート構造体3の表層部4とその上部に新たに増打ちされる新設コンクリート構造体の内層部との温度差を緩和することを特徴する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスコンクリート構造体の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダム堤体や橋梁の橋脚部に用いられるマスコンクリート構造体は、下部から例えば1〜2m程度の高さの1リフトごとにコンクリートを順次打設して上下方向に複数のコンクリート層を形成する工法によって構築されている。
【0003】
ところで、近年、既存のダム堤体(旧堤体)に新堤体コンクリートを腹付けして、嵩上げする再開発工事が行われることがあるが、この新堤体コンクリートも体積の大きいマスコンクリート構造体であるので、所定高さの1リフトごとにコンクリートを順次打設する工法が採用されている。
【0004】
以上のようなマスコンクリート構造体を積雪量の多い寒冷地で構築する場合、越冬によるコンクリートの打設休止期間を設けなければならないことがある。この打設休止期間では、図13に示すように、新堤体コンクリート100の内層部101がコンクリートの水和反応によって温度上昇するのに対して、表層部102が外気によって冷却されるので、内層部101と表層部102との温度差が大きくなり、応力ひずみが発生する。この応力ひずみは、新堤体コンクリート100の上端と、旧堤体110との接合部103に集中して発生し、この接合部103にひび割れが発生してしまうことがあった。このひび割れが接合面に沿って伸展すると、新旧堤体の一体化を阻害する要因となる可能性があった。
【0005】
そこで、新堤体コンクリート100の内層部101と表層部102との温度差を小さくするために、従来より、新堤体コンクリート100の表面に断熱養生マットを敷設して表層部の温度低下を抑制する対策や、打設するコンクリートの温度を予め低くするプレクーリング(例えば、特許文献1参照)を行うといった対策が施されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−130971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記した断熱養生マットを敷設する対策では、表面部の温度低下をある程度抑えることができたが、接合部103にはひび割れが発生して伸展してしまう可能性があった。また、前記したコンクリートをプレクーリングする対策では、夏期のコンクリート温度を5℃程度低下させることができるが、冬期の越冬面(表面部)と内部との温度差については殆んど変化なく、越冬時の応力ひずみの発生の抑制に対しての効果は小さいと考えられる。
【0008】
そこで、本発明は前記の問題を解決すべく案出されたものであって、マスコンクリート構造体の表層部に発生する応力ひずみを抑制して、表面のひび割れの発生を抑えることができるマスコンクリート構造体の構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、下部から1リフトごとにコンクリートを順次打設して上下方向に複数のコンクリート層を構築するマスコンクリート構造体の構築方法において、打設済の複数の前記コンクリート層のうち、少なくとも最上部に位置する前記コンクリート層を打設休止期間中に加熱することで、打設済の複数の前記コンクリート層からなる打設済コンクリート構造体の表層部と内層部との温度差を緩和することを特徴とするマスコンクリート構造体の構築方法である。
【0010】
このような方法によれば、少なくとも最上部に位置するコンクリート層を打設休止期間中に加熱することで、打設済コンクリート構造体の表層部と内層部との温度差を効率的に緩和することができるので、マスコンクリート構造体の表層部に発生する応力ひずみを抑制して、表面のひび割れの発生を抑えることができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、下部から1リフトごとにコンクリートを順次打設して上下方向に複数のコンクリート層を構築するマスコンクリート構造体の構築方法において、打設済の複数の前記コンクリート層のうち、少なくとも最上部に位置する前記コンクリート層を、打設済の複数の前記コンクリート層からなる打設済コンクリート構造体の表層部と内層部との温度差を緩和するとともに前記打設済コンクリート構造体の前記表層部とその上部に新たに増打ちされる新設コンクリート構造体の内層部との温度差を緩和するように、打設休止期間中に加熱することを特徴とするマスコンクリート構造体の構築方法である。
【0012】
このような方法によれば、少なくとも最上部に位置するコンクリート層を打設休止期間中に加熱することで、打設済コンクリート構造体の表層部と内層部との温度差を効率的に緩和することができるので、マスコンクリート構造体の表層部に発生する応力ひずみを抑制して、表面のひび割れの発生を抑えることができる。さらに、前記の加熱によって、打設済コンクリート構造体の表層部と新設コンクリート構造体の内層部との温度差を効率的に緩和することができるので、打設済コンクリート構造体と新設コンクリート構造体との接合部に発生する応力ひずみを抑制して、その部分のひび割れの発生も抑えることができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、前記コンクリート層の加熱は、前記コンクリート層内に熱媒体流路を形成し、前記熱媒体流路内に熱媒体を流すことで行われることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマスコンクリート構造体の構築方法である。
【0014】
このような方法によれば、簡単な構成で容易にコンクリート層内を効率的に加熱することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、マスコンクリート構造体の表層部に発生する応力ひずみを抑制して、表面のひび割れの発生を抑えることができるといった優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るマスコンクリート構造体の構築方法の1年目の施工状態を示した断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るマスコンクリート構造体の構築方法の2年目の施工状態を示した断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るマスコンクリート構造体の構築方法の3年目の施工状態を示した断面図である。
【図4】(a)は、1リフト分のコンクリート層を加熱する構造を示した断面図、(b)は、2リフト分のコンクリート層を加熱する構造を示した断面図、(c)は、3リフト分のコンクリート層を加熱する構造を示した断面図である。
【図5】加熱するリフト数と新堤体コンクリート構造体の最低温度との関係を示したグラフである。
【図6】加熱するリフト数と新堤体コンクリート構造体の最大ひずみとの関係を示したグラフである。
【図7】(a)は、表面から1リフト分下部のコンクリート層を加熱した状態を示した断面図、(b)は、表面からハーフリフト分下部のコンクリート層を加熱した状態を示した断面図である。
【図8】加熱する温水の通水温度と新堤体コンクリート構造体の最低温度との関係を示したグラフである。
【図9】加熱する温水の通水温度と新堤体コンクリート構造体の最大ひずみとの関係を示したグラフである。
【図10】本発明の実施形態に係るマスコンクリート構造体の構築方法によって構築されたダム堤体の1年目の越冬時の状態を示した断面図であって、(a)は温度分布図、(b)はひずみ分布図である。
【図11】本発明の実施形態に係るマスコンクリート構造体の構築方法によって構築されたダム堤体の2年目の越冬時の状態を示した断面図であって、(a)は温度分布図、(b)はひずみ分布図である。
【図12】本発明の実施形態に係るマスコンクリート構造体の構築方法によって構築されたダム堤体の3年目の越冬時の状態を示した断面図であって、(a)は温度分布図、(b)はひずみ分布図である。
【図13】従来のマスコンクリート構造体の構築方法によって構築されたダム堤体の越冬時の状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るマスコンクリート構造体の構築方法を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態では、積雪量の多い寒冷地で、既設のダム堤体(旧堤体)に新堤体コンクリートを腹付けしてダム堤体を嵩上げする再開発工事における新堤体コンクリート構造体をマスコンクリート構造体の一例として挙げて、その構築方向を説明する。
【0018】
図1乃至図3に示すように、旧堤体50の傾斜面51に沿って形成される新堤体コンクリート構造体(マスコンクリート構造体)1は、下部から1リフトごとにコンクリートを順次打設して上下方向に複数のコンクリート層2を構築することで形成される。1リフトとは、コンクリート層2の一層分の打設高さ(厚さ)を示し、例えば、1.5mに設定されている。積雪量の多い寒冷地では、越冬によるコンクリートの打設休止期間(例えば、11月から翌年3月まで)が設けられる。
【0019】
ところで、本発明は、図1及び図2に示すように、打設済の複数のコンクリート層2のうち、少なくとも打設休止期間中(以下「越冬中」と言う場合がある)に最上部に位置するコンクリート層2を、打設休止期間中に加熱することで、打設済の複数のコンクリート層2,2…からなる打設済コンクリート構造体3の表層部4と内層部5との温度差を緩和することを特徴とする。
【0020】
コンクリート層2の加熱は、図4の(a)に示すように、コンクリート層2内に熱媒体流路10を形成し、熱媒体流路10内に熱媒体を流すことで行われる。熱媒体流路10は、最上部に位置するコンクリート層2とその下側に位置するコンクリート層2との間に敷設された配管にて構成されている。熱媒体流路10は、例えば、1.5mピッチで蛇行して配置されており、内部に熱媒体として所定の温度に加熱された温水が通水される。熱媒体流路10を形成するに際しては、最上部の下側に位置するコンクリート層2を構築した後に、その表面に配管を敷設し、この配管を覆うようにコンクリートを打設して最上部のコンクリート層2を構築する。これによって、熱媒体流路10が、打設済コンクリート構造体3の表層部4に内蔵されて配置されることとなる。なお、コンクリート層2の加熱は、前記のように熱媒体流路10内に熱媒体を流す方法に限定されるものではなく、流体を用いずに電熱線や触媒等で加熱する等、他の方法で行うようにしてもよい。
【0021】
なお、熱媒体流路10の敷設位置は、最上部に位置するコンクリート層2とその下側に位置するコンクリート層2との間のみに限定されるものではない。例えば、前記位置に加えて、さらに上から2層目のコンクリート層2と3層目のコンクリート層2との間に熱媒体流路10を設けてもよいし(図4の(b)参照)、さらに下方に熱媒体流路10を設けてもよい(図4の(c)参照)。
【0022】
また、図7の(b)に示すように、最上部のコンクリート層2の内部で、1リフトの半分(ハーフリフト)の高さ位置に熱媒体流路10を設けてもよい。この場合、一旦、ハーフリフトの高さまでコンクリートを打設してコンクリート層2の半分を構築した後に、その上に熱媒体流路10を敷設してから、上部のコンクリートを打設することで、熱媒体流路10をコンクリート層2の中間部に配置させる。
【0023】
以上のような熱媒体流路10を備えた新堤体コンクリート構造体1の1年目の越冬中は、図1に示すように、熱媒体流路10内に温水を通水させて打設済コンクリート構造体3の表層部4を加熱する。
【0024】
このように、打設済コンクリート構造体3の表層部4を加熱することで、越冬中の外気温による表層部4の温度低下を抑えることができる。これによって、打設済コンクリート構造体3の表層部4と、コンクリートの水和反応によって温度上昇する内層部5との温度差を効率的に緩和することができる。したがって、新堤体コンクリート構造体1の表層部4に発生する応力ひずみを抑制できるので、表面のひび割れの発生を抑えることができる。特に応力ひずみが集中する新堤体コンクリート構造体1と旧堤体50との接合部6のひび割れの発生も抑えることができる。なお、熱媒体流路10の設置位置、設置数や通水温度に応じて、具体的な温度変化や応力ひずみを検討した結果については後述する。
【0025】
1年目の打設休止期間が終了したら、図2に示すように、1年目の打設済コンクリート構造体3の上部に、2年目の新設コンクリート構造体7を順次構築して新堤体コンクリート構造体1を構築していく。
【0026】
以上のように、打設休止期間(越冬期間)中に打設済コンクリート構造体3の表層部4を加熱しておくことで、新設コンクリート構造体7の構築期間においても、打設済コンクリート構造体3の表層部4と、新設コンクリート構造体7のコンクリートの水和反応によって温度上昇する内層部8との温度差を効率的に緩和することができるので、1年目の打設済コンクリート構造体3と2年目の新設コンクリート構造体7との接合部9に発生する応力ひずみを抑制して、その部分のひび割れの発生を抑えることができる。
【0027】
その後、2年目の越冬面となる、2年目の打設済コンクリート構造体3の最上部に位置するコンクリート層2内に熱媒体流路10を形成する。熱媒体流路10は、1年目の越冬面近傍に形成された熱媒体流路10と同様の構成で、同様の工程によって形成される。そして、新堤体コンクリート構造体1の2年目の越冬中は、前記熱媒体流路10内に熱媒体を流すことで、2年目の打設済コンクリート構造体3の表層部4を加熱する。
【0028】
このように、2年目の越冬中においても、打設済コンクリート構造体3の表層部4を加熱することで、打設済コンクリート構造体3の表層部4と内層部5との温度差を効率的に緩和することができるので、マスコンクリート構造体1の表層部4に発生する応力ひずみを抑制して、表面のひび割れの発生を抑えることができる。
【0029】
2年目の打設休止期間が終了したら、図3に示すように、2年目の打設済コンクリート構造体3の上部に、3年目の新設コンクリート構造体7を順次構築して新堤体コンクリート構造体1を構築していく。
【0030】
以上のように、打設休止期間(越冬期間)中に打設済コンクリート構造体3の表層部4を加熱しておくことで、新設コンクリート構造体7の構築期間においても、2年目の打設済コンクリート構造体3の表層部4と、3年目の新設コンクリート構造体7の内層部8との温度差を効率的に緩和することができるので、打設済コンクリート構造体3と新設コンクリート構造体7との接合部9に発生する応力ひずみを抑制して、その部分のひび割れの発生を抑えることができる。
【0031】
なお、本実施形態では、3年目の施工によって新堤体コンクリート構造体1が完成するが、施工年数は3年に限定されるものではなく、ダム堤体の規模や、打設休止期間を除いた施工可能期間に応じて、施工年数が決定される。
【0032】
次に、熱媒体流路10の設置数をパラメータとして、新堤体コンクリート構造体1内部の最低温度と発生する応力ひずみを検討した結果を説明する。
【0033】
まず、図4の(a)に示すように、最上部のコンクリート層2の下部のみに熱媒体流路10を設けた場合(1リフト加熱)と、図4の(b)に示すように、最上部のコンクリート層2の下部と、その下側のコンクリート層2の下部に熱媒体流路10を二段で設けた場合(2リフト加熱)と、図4の(c)に示すように、最上部のコンクリート層2の下部と、その下側のコンクリート層2の下部と、さらに下側のコンクリート層2の下部に熱媒体流路10を三段で設けた場合(3リフト加熱)の三形態について、1年目と2年目における越冬時の新堤体コンクリート構造体1の最低温度と、新堤体コンクリート構造体1に発生する最大ひずみをFEM解析によって算出した。ここで、1リフト高さは1.5m、熱媒体流路10の配置ピッチは1.5m、熱媒体流路10内に流す温水の通水温度は20℃とする。また、越冬用の養生マット(図示せず)を、新堤体コンクリート構造体1の表面だけでなく、旧堤体50にも越冬面から2リフト上部の高さまで設置する。
【0034】
新堤体コンクリート構造体1内部(表層部4)の最低温度は、図5に示すように、1年目の越冬時では、1リフト加熱で「4.11℃」、2リフト加熱で「4.18℃」、3リフト加熱で「4.19℃」となる。なお、加熱なしの場合は、最低温度が「3.47℃」となる(図5中、黒三角参照)。また、2年目の越冬時では、1リフト加熱で「4.38℃」、2リフト加熱で「4.43℃」、3リフト加熱で「4.42℃」となり、加熱なしの場合は「3.73℃」となる(図5中、白三角参照)。
【0035】
新堤体コンクリート構造体1に発生する最大ひずみは、図6に示すように、1年目の越冬時では、1リフト加熱で「131.1μ」、2リフト加熱で「134.8μ」、3リフト加熱で「135.4μ」となる。なお、加熱なしの場合は、最大ひずみが「148.4μ」となる(図6中、黒三角参照)。また、2年目の越冬時では、1リフト加熱で「100.0μ」、2リフト加熱で「101.5μ」、3リフト加熱で「99.7μ」となり、加熱なしの場合は「109.9μ」となる(図6中、白三角参照)。
【0036】
以上の結果より、新堤体コンクリート構造体1の表層部4の加熱を行うことによって、表層部4の最低温度が、加熱なしの場合よりも高くなり、新堤体コンクリート構造体1に発生する最大ひずみを小さくできることが解った。なお、1リフト加熱から3リフト加熱にかけては、どのケースも略同等の最低温度と最大ひずみとなるので、表面に近い部分を加熱するのが効果的であることが解った。そして、加熱による費用と最大ひずみの低減効率を考慮して、1リフト加熱とするのが好ましいことが解った。
【0037】
次に、図7の(a)に示すように、最上部のコンクリート層2の下部に熱媒体流路10を設けた場合(1リフト加熱)において、温水の通水温度を、20℃,30℃,40℃と変化させて、1年目と2年目における越冬時の新堤体コンクリート構造体1の最低温度と、新堤体コンクリート構造体1に発生する最大ひずみをFEM解析によって算出した。また、図7の(b)に示すように、最上部のコンクリート層2の中間部に熱媒体流路10を設けた場合(ハーフリフト加熱)において、温水の通水温度を、30℃として、1年目と2年目における越冬時の新堤体コンクリート構造体1の最低温度と、新堤体コンクリート構造体1に発生する最大ひずみをFEM解析によって算出した。
【0038】
新堤体コンクリート構造体1内部(表層部4)の最低温度は、図8に示すように、1年目の越冬時では、1リフト加熱における通水温度20℃で「4.11℃」、通水温度30℃で「5.28℃」、通水温度40℃で「6.45℃」となる。ハーフリフト加熱(通水温度30℃)では、最低温度が「6.18℃」となる(図8中、黒丸参照)。なお、加熱なしの場合は、最低温度が「3.47℃」(図8中、黒三角参照)となる。また、2年目の越冬時では、1リフト加熱における通水温度20℃で「4.38℃」、通水温度30℃で「5.60℃」、通水温度40℃で「6.82℃」となる。ハーフリフト加熱(通水温度30℃)では、最低温度が「6.54℃」となる(図8中、白丸参照)。なお、加熱なしの場合は、最低温度が「3.73℃」となる(図8中、白三角参照)。
【0039】
新堤体コンクリート構造体1に発生する最大ひずみは、図9に示すように、1年目の越冬時では、1リフト加熱における通水温度20℃で「131.1μ」、通水温度30℃で「102.6μ」、通水温度40℃で「74.8μ」となる。ハーフリフト加熱(通水温度30℃)では、最大ひずみが「69.8μ」となる(図9中、黒丸参照)。なお、加熱なしの場合は、最大ひずみが「148.4μ」となる(図9中、黒三角参照)。また、2年目の越冬時では、1リフト加熱における通水温度20℃で「100.0μ」、通水温度30℃で「83.6μ」、通水温度40℃で「67.5μ」となる。ハーフリフト加熱(通水温度30℃)では、最大ひずみが「72.1μ」となる(図9中、白丸参照)。なお、加熱なしの場合は、最大ひずみが「109.9μ」となる(図9中、白三角参照)。
【0040】
以上の結果より、新堤体コンクリート構造体1の表層部4の加熱を行う際に、温水の通水温度を40℃とした場合が最も表層部4の最低温度が高くなる。つまり、通水温度を高くするほど、温度低下を抑制できるので、内層部5との温度差を小さくでき、新堤体コンクリート構造体1に発生する最大ひずみを小さくできることが解った。
【0041】
また、1リフト加熱とハーフリフト加熱を比較すると、同じ条件の場合、ハーフリフト加熱の方が、新堤体コンクリート構造体1の表層部4の最低温度が高くなり、温度低下を抑制できるので、内層部5との温度差を小さくでき、新堤体コンクリート構造体1に発生する最大ひずみを小さくできることが解った。特に、1年目の越冬時には、1リフト加熱で通水温度40℃の場合よりもハーフリフト加熱で通水温度30℃の場合の方が、最大ひずみが小さくなる。
【0042】
次に、一段のハーフリフト加熱で通水温度30℃の場合について、1年目、2年目、3年目の越冬時の旧堤体50および新堤体コンクリート構造体1内部の温度分布とひずみ分布をFEM解析にて算出する。なお、図10乃至図12の(a)では、新堤体コンクリート構造体1内部の温度分布を濃淡で示しており、右側に温度分布と濃淡の対応を示している。また、図10乃至図12の(b)では、新堤体コンクリート構造体1内部のひずみ分布を濃淡で示しており、右側にひずみ分布と濃淡の対応を示している。
【0043】
1年目の越冬時の温度分布は、図10の(a)に示すように、新堤体コンクリート構造体1の内層部5の温度が一番高く(29.2℃)、内層部5から離間するに連れて徐々に温度が低下している。また、熱媒体流路10の周囲も若干温度が高くなっており、新堤体コンクリート構造体1の上端面の旧堤体50との接合部6は、「6.5℃」となっている。このような温度分布によって、発生するひずみ分布は、図10の(b)に示すように、ひび割れが一番発生しやすい新堤体コンクリート構造体1の上端面の旧堤体50との接合部6では、引張側である「20μ」と非常に小さい値となり、ひび割れの発生を防止することができる。また、旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との接合面12でのひずみは、例えば「43μ」であって、図の濃淡から全体を見ても「50μ」以下となり、旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との一体化を阻害するようなことはない。なお、図10中、堤体内に示された濃淡の濃い部分は、数値の低い側が示されている。
【0044】
2年目の越冬時の温度分布は、図11の(a)に示すように、2年目に構築された新堤体コンクリート構造体1の内層部5の温度が一番高く(27.0℃)、内層部5から離間するに連れて徐々に温度が低下している。また、2年目に形成された熱媒体流路10の周囲も若干温度が高くなっており、新堤体コンクリート構造体1の上端面の旧堤体50との接合部6は、「7.0℃」となっている。このような温度分布によって、発生するひずみ分布は、図11の(b)に示すように、ひび割れが一番発生しやすい新堤体コンクリート構造体1の上端面の旧堤体50との接合部では、引張側である「53μ」と非常に小さい値となり、ひび割れの発生を防止することができる。また、このとき、1年目の越冬面の旧堤体50との接合部6では、圧縮側である「−15μ」となり、ひび割れの発生を防止することができる。さらに、2年目においても、旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との接合面12でのひずみは、図の濃淡から全体を見ても「50μ」以下となり、旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との一体化を阻害するようなことはない。なお、図11中、堤体内に示された濃淡の濃い部分は、数値の低い側が示されている。
【0045】
3年目の越冬時の温度分布は、図12の(a)に示すように、3年目に構築された新堤体コンクリート構造体1の内層部5の温度が一番高いが、その部分の厚さが薄い為、外気温に冷やされて、「20.6℃」となっており、表層部4と内層部5との温度差が小さくなっている。このような温度分布によって、発生するひずみ分布は、図12の(b)に示すように、1年目の越冬面の旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との接合部6では、圧縮側である「−13μ」となり、2年目の越冬面の旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との接合部6では、圧縮側である「−9μ」となるので、ひび割れの発生を防止することができる。また、3年目の越冬時においても、旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との接合面12でのひずみは、全体を見ても「50μ」以下となり、旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との一体化を阻害するようなことはない。図12中、堤体内に示された濃淡の濃い部分は、数値の低い側が示されている。
【0046】
以上説明したように、本実施形態によれば、新堤体コンクリート構造体1の表層部4に発生する応力ひずみを抑制して、表面のひび割れの発生を抑えることができる。また、旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との間のひび割れの発生も抑えることができるので、旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1とを確実に一体化することができる。
【0047】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。たとえば、前記実施形態では、旧堤体50の斜面部に沿って構築される新堤体コンクリート構造体1をマスコンクリート構造体の一例としたが、マスコンクリート構造体は、これに限定されるものではなく、例えば、新設のダム堤体や、橋梁の橋脚部等のマスコンクリート構造体に対しても本発明は適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 新堤体コンクリート構造体(マスコンクリート構造体)
2 コンクリート層
3 打設済コンクリート構造体
4 表層部
5 (打設済コンクリート構造体の)内層部
7 新設コンクリート構造体
8 (新設コンクリート構造体の)内層部
10 熱媒体流路
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスコンクリート構造体の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダム堤体や橋梁の橋脚部に用いられるマスコンクリート構造体は、下部から例えば1〜2m程度の高さの1リフトごとにコンクリートを順次打設して上下方向に複数のコンクリート層を形成する工法によって構築されている。
【0003】
ところで、近年、既存のダム堤体(旧堤体)に新堤体コンクリートを腹付けして、嵩上げする再開発工事が行われることがあるが、この新堤体コンクリートも体積の大きいマスコンクリート構造体であるので、所定高さの1リフトごとにコンクリートを順次打設する工法が採用されている。
【0004】
以上のようなマスコンクリート構造体を積雪量の多い寒冷地で構築する場合、越冬によるコンクリートの打設休止期間を設けなければならないことがある。この打設休止期間では、図13に示すように、新堤体コンクリート100の内層部101がコンクリートの水和反応によって温度上昇するのに対して、表層部102が外気によって冷却されるので、内層部101と表層部102との温度差が大きくなり、応力ひずみが発生する。この応力ひずみは、新堤体コンクリート100の上端と、旧堤体110との接合部103に集中して発生し、この接合部103にひび割れが発生してしまうことがあった。このひび割れが接合面に沿って伸展すると、新旧堤体の一体化を阻害する要因となる可能性があった。
【0005】
そこで、新堤体コンクリート100の内層部101と表層部102との温度差を小さくするために、従来より、新堤体コンクリート100の表面に断熱養生マットを敷設して表層部の温度低下を抑制する対策や、打設するコンクリートの温度を予め低くするプレクーリング(例えば、特許文献1参照)を行うといった対策が施されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−130971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記した断熱養生マットを敷設する対策では、表面部の温度低下をある程度抑えることができたが、接合部103にはひび割れが発生して伸展してしまう可能性があった。また、前記したコンクリートをプレクーリングする対策では、夏期のコンクリート温度を5℃程度低下させることができるが、冬期の越冬面(表面部)と内部との温度差については殆んど変化なく、越冬時の応力ひずみの発生の抑制に対しての効果は小さいと考えられる。
【0008】
そこで、本発明は前記の問題を解決すべく案出されたものであって、マスコンクリート構造体の表層部に発生する応力ひずみを抑制して、表面のひび割れの発生を抑えることができるマスコンクリート構造体の構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、下部から1リフトごとにコンクリートを順次打設して上下方向に複数のコンクリート層を構築するマスコンクリート構造体の構築方法において、打設済の複数の前記コンクリート層のうち、少なくとも最上部に位置する前記コンクリート層を打設休止期間中に加熱することで、打設済の複数の前記コンクリート層からなる打設済コンクリート構造体の表層部と内層部との温度差を緩和することを特徴とするマスコンクリート構造体の構築方法である。
【0010】
このような方法によれば、少なくとも最上部に位置するコンクリート層を打設休止期間中に加熱することで、打設済コンクリート構造体の表層部と内層部との温度差を効率的に緩和することができるので、マスコンクリート構造体の表層部に発生する応力ひずみを抑制して、表面のひび割れの発生を抑えることができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、下部から1リフトごとにコンクリートを順次打設して上下方向に複数のコンクリート層を構築するマスコンクリート構造体の構築方法において、打設済の複数の前記コンクリート層のうち、少なくとも最上部に位置する前記コンクリート層を、打設済の複数の前記コンクリート層からなる打設済コンクリート構造体の表層部と内層部との温度差を緩和するとともに前記打設済コンクリート構造体の前記表層部とその上部に新たに増打ちされる新設コンクリート構造体の内層部との温度差を緩和するように、打設休止期間中に加熱することを特徴とするマスコンクリート構造体の構築方法である。
【0012】
このような方法によれば、少なくとも最上部に位置するコンクリート層を打設休止期間中に加熱することで、打設済コンクリート構造体の表層部と内層部との温度差を効率的に緩和することができるので、マスコンクリート構造体の表層部に発生する応力ひずみを抑制して、表面のひび割れの発生を抑えることができる。さらに、前記の加熱によって、打設済コンクリート構造体の表層部と新設コンクリート構造体の内層部との温度差を効率的に緩和することができるので、打設済コンクリート構造体と新設コンクリート構造体との接合部に発生する応力ひずみを抑制して、その部分のひび割れの発生も抑えることができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、前記コンクリート層の加熱は、前記コンクリート層内に熱媒体流路を形成し、前記熱媒体流路内に熱媒体を流すことで行われることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマスコンクリート構造体の構築方法である。
【0014】
このような方法によれば、簡単な構成で容易にコンクリート層内を効率的に加熱することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、マスコンクリート構造体の表層部に発生する応力ひずみを抑制して、表面のひび割れの発生を抑えることができるといった優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るマスコンクリート構造体の構築方法の1年目の施工状態を示した断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るマスコンクリート構造体の構築方法の2年目の施工状態を示した断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るマスコンクリート構造体の構築方法の3年目の施工状態を示した断面図である。
【図4】(a)は、1リフト分のコンクリート層を加熱する構造を示した断面図、(b)は、2リフト分のコンクリート層を加熱する構造を示した断面図、(c)は、3リフト分のコンクリート層を加熱する構造を示した断面図である。
【図5】加熱するリフト数と新堤体コンクリート構造体の最低温度との関係を示したグラフである。
【図6】加熱するリフト数と新堤体コンクリート構造体の最大ひずみとの関係を示したグラフである。
【図7】(a)は、表面から1リフト分下部のコンクリート層を加熱した状態を示した断面図、(b)は、表面からハーフリフト分下部のコンクリート層を加熱した状態を示した断面図である。
【図8】加熱する温水の通水温度と新堤体コンクリート構造体の最低温度との関係を示したグラフである。
【図9】加熱する温水の通水温度と新堤体コンクリート構造体の最大ひずみとの関係を示したグラフである。
【図10】本発明の実施形態に係るマスコンクリート構造体の構築方法によって構築されたダム堤体の1年目の越冬時の状態を示した断面図であって、(a)は温度分布図、(b)はひずみ分布図である。
【図11】本発明の実施形態に係るマスコンクリート構造体の構築方法によって構築されたダム堤体の2年目の越冬時の状態を示した断面図であって、(a)は温度分布図、(b)はひずみ分布図である。
【図12】本発明の実施形態に係るマスコンクリート構造体の構築方法によって構築されたダム堤体の3年目の越冬時の状態を示した断面図であって、(a)は温度分布図、(b)はひずみ分布図である。
【図13】従来のマスコンクリート構造体の構築方法によって構築されたダム堤体の越冬時の状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るマスコンクリート構造体の構築方法を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態では、積雪量の多い寒冷地で、既設のダム堤体(旧堤体)に新堤体コンクリートを腹付けしてダム堤体を嵩上げする再開発工事における新堤体コンクリート構造体をマスコンクリート構造体の一例として挙げて、その構築方向を説明する。
【0018】
図1乃至図3に示すように、旧堤体50の傾斜面51に沿って形成される新堤体コンクリート構造体(マスコンクリート構造体)1は、下部から1リフトごとにコンクリートを順次打設して上下方向に複数のコンクリート層2を構築することで形成される。1リフトとは、コンクリート層2の一層分の打設高さ(厚さ)を示し、例えば、1.5mに設定されている。積雪量の多い寒冷地では、越冬によるコンクリートの打設休止期間(例えば、11月から翌年3月まで)が設けられる。
【0019】
ところで、本発明は、図1及び図2に示すように、打設済の複数のコンクリート層2のうち、少なくとも打設休止期間中(以下「越冬中」と言う場合がある)に最上部に位置するコンクリート層2を、打設休止期間中に加熱することで、打設済の複数のコンクリート層2,2…からなる打設済コンクリート構造体3の表層部4と内層部5との温度差を緩和することを特徴とする。
【0020】
コンクリート層2の加熱は、図4の(a)に示すように、コンクリート層2内に熱媒体流路10を形成し、熱媒体流路10内に熱媒体を流すことで行われる。熱媒体流路10は、最上部に位置するコンクリート層2とその下側に位置するコンクリート層2との間に敷設された配管にて構成されている。熱媒体流路10は、例えば、1.5mピッチで蛇行して配置されており、内部に熱媒体として所定の温度に加熱された温水が通水される。熱媒体流路10を形成するに際しては、最上部の下側に位置するコンクリート層2を構築した後に、その表面に配管を敷設し、この配管を覆うようにコンクリートを打設して最上部のコンクリート層2を構築する。これによって、熱媒体流路10が、打設済コンクリート構造体3の表層部4に内蔵されて配置されることとなる。なお、コンクリート層2の加熱は、前記のように熱媒体流路10内に熱媒体を流す方法に限定されるものではなく、流体を用いずに電熱線や触媒等で加熱する等、他の方法で行うようにしてもよい。
【0021】
なお、熱媒体流路10の敷設位置は、最上部に位置するコンクリート層2とその下側に位置するコンクリート層2との間のみに限定されるものではない。例えば、前記位置に加えて、さらに上から2層目のコンクリート層2と3層目のコンクリート層2との間に熱媒体流路10を設けてもよいし(図4の(b)参照)、さらに下方に熱媒体流路10を設けてもよい(図4の(c)参照)。
【0022】
また、図7の(b)に示すように、最上部のコンクリート層2の内部で、1リフトの半分(ハーフリフト)の高さ位置に熱媒体流路10を設けてもよい。この場合、一旦、ハーフリフトの高さまでコンクリートを打設してコンクリート層2の半分を構築した後に、その上に熱媒体流路10を敷設してから、上部のコンクリートを打設することで、熱媒体流路10をコンクリート層2の中間部に配置させる。
【0023】
以上のような熱媒体流路10を備えた新堤体コンクリート構造体1の1年目の越冬中は、図1に示すように、熱媒体流路10内に温水を通水させて打設済コンクリート構造体3の表層部4を加熱する。
【0024】
このように、打設済コンクリート構造体3の表層部4を加熱することで、越冬中の外気温による表層部4の温度低下を抑えることができる。これによって、打設済コンクリート構造体3の表層部4と、コンクリートの水和反応によって温度上昇する内層部5との温度差を効率的に緩和することができる。したがって、新堤体コンクリート構造体1の表層部4に発生する応力ひずみを抑制できるので、表面のひび割れの発生を抑えることができる。特に応力ひずみが集中する新堤体コンクリート構造体1と旧堤体50との接合部6のひび割れの発生も抑えることができる。なお、熱媒体流路10の設置位置、設置数や通水温度に応じて、具体的な温度変化や応力ひずみを検討した結果については後述する。
【0025】
1年目の打設休止期間が終了したら、図2に示すように、1年目の打設済コンクリート構造体3の上部に、2年目の新設コンクリート構造体7を順次構築して新堤体コンクリート構造体1を構築していく。
【0026】
以上のように、打設休止期間(越冬期間)中に打設済コンクリート構造体3の表層部4を加熱しておくことで、新設コンクリート構造体7の構築期間においても、打設済コンクリート構造体3の表層部4と、新設コンクリート構造体7のコンクリートの水和反応によって温度上昇する内層部8との温度差を効率的に緩和することができるので、1年目の打設済コンクリート構造体3と2年目の新設コンクリート構造体7との接合部9に発生する応力ひずみを抑制して、その部分のひび割れの発生を抑えることができる。
【0027】
その後、2年目の越冬面となる、2年目の打設済コンクリート構造体3の最上部に位置するコンクリート層2内に熱媒体流路10を形成する。熱媒体流路10は、1年目の越冬面近傍に形成された熱媒体流路10と同様の構成で、同様の工程によって形成される。そして、新堤体コンクリート構造体1の2年目の越冬中は、前記熱媒体流路10内に熱媒体を流すことで、2年目の打設済コンクリート構造体3の表層部4を加熱する。
【0028】
このように、2年目の越冬中においても、打設済コンクリート構造体3の表層部4を加熱することで、打設済コンクリート構造体3の表層部4と内層部5との温度差を効率的に緩和することができるので、マスコンクリート構造体1の表層部4に発生する応力ひずみを抑制して、表面のひび割れの発生を抑えることができる。
【0029】
2年目の打設休止期間が終了したら、図3に示すように、2年目の打設済コンクリート構造体3の上部に、3年目の新設コンクリート構造体7を順次構築して新堤体コンクリート構造体1を構築していく。
【0030】
以上のように、打設休止期間(越冬期間)中に打設済コンクリート構造体3の表層部4を加熱しておくことで、新設コンクリート構造体7の構築期間においても、2年目の打設済コンクリート構造体3の表層部4と、3年目の新設コンクリート構造体7の内層部8との温度差を効率的に緩和することができるので、打設済コンクリート構造体3と新設コンクリート構造体7との接合部9に発生する応力ひずみを抑制して、その部分のひび割れの発生を抑えることができる。
【0031】
なお、本実施形態では、3年目の施工によって新堤体コンクリート構造体1が完成するが、施工年数は3年に限定されるものではなく、ダム堤体の規模や、打設休止期間を除いた施工可能期間に応じて、施工年数が決定される。
【0032】
次に、熱媒体流路10の設置数をパラメータとして、新堤体コンクリート構造体1内部の最低温度と発生する応力ひずみを検討した結果を説明する。
【0033】
まず、図4の(a)に示すように、最上部のコンクリート層2の下部のみに熱媒体流路10を設けた場合(1リフト加熱)と、図4の(b)に示すように、最上部のコンクリート層2の下部と、その下側のコンクリート層2の下部に熱媒体流路10を二段で設けた場合(2リフト加熱)と、図4の(c)に示すように、最上部のコンクリート層2の下部と、その下側のコンクリート層2の下部と、さらに下側のコンクリート層2の下部に熱媒体流路10を三段で設けた場合(3リフト加熱)の三形態について、1年目と2年目における越冬時の新堤体コンクリート構造体1の最低温度と、新堤体コンクリート構造体1に発生する最大ひずみをFEM解析によって算出した。ここで、1リフト高さは1.5m、熱媒体流路10の配置ピッチは1.5m、熱媒体流路10内に流す温水の通水温度は20℃とする。また、越冬用の養生マット(図示せず)を、新堤体コンクリート構造体1の表面だけでなく、旧堤体50にも越冬面から2リフト上部の高さまで設置する。
【0034】
新堤体コンクリート構造体1内部(表層部4)の最低温度は、図5に示すように、1年目の越冬時では、1リフト加熱で「4.11℃」、2リフト加熱で「4.18℃」、3リフト加熱で「4.19℃」となる。なお、加熱なしの場合は、最低温度が「3.47℃」となる(図5中、黒三角参照)。また、2年目の越冬時では、1リフト加熱で「4.38℃」、2リフト加熱で「4.43℃」、3リフト加熱で「4.42℃」となり、加熱なしの場合は「3.73℃」となる(図5中、白三角参照)。
【0035】
新堤体コンクリート構造体1に発生する最大ひずみは、図6に示すように、1年目の越冬時では、1リフト加熱で「131.1μ」、2リフト加熱で「134.8μ」、3リフト加熱で「135.4μ」となる。なお、加熱なしの場合は、最大ひずみが「148.4μ」となる(図6中、黒三角参照)。また、2年目の越冬時では、1リフト加熱で「100.0μ」、2リフト加熱で「101.5μ」、3リフト加熱で「99.7μ」となり、加熱なしの場合は「109.9μ」となる(図6中、白三角参照)。
【0036】
以上の結果より、新堤体コンクリート構造体1の表層部4の加熱を行うことによって、表層部4の最低温度が、加熱なしの場合よりも高くなり、新堤体コンクリート構造体1に発生する最大ひずみを小さくできることが解った。なお、1リフト加熱から3リフト加熱にかけては、どのケースも略同等の最低温度と最大ひずみとなるので、表面に近い部分を加熱するのが効果的であることが解った。そして、加熱による費用と最大ひずみの低減効率を考慮して、1リフト加熱とするのが好ましいことが解った。
【0037】
次に、図7の(a)に示すように、最上部のコンクリート層2の下部に熱媒体流路10を設けた場合(1リフト加熱)において、温水の通水温度を、20℃,30℃,40℃と変化させて、1年目と2年目における越冬時の新堤体コンクリート構造体1の最低温度と、新堤体コンクリート構造体1に発生する最大ひずみをFEM解析によって算出した。また、図7の(b)に示すように、最上部のコンクリート層2の中間部に熱媒体流路10を設けた場合(ハーフリフト加熱)において、温水の通水温度を、30℃として、1年目と2年目における越冬時の新堤体コンクリート構造体1の最低温度と、新堤体コンクリート構造体1に発生する最大ひずみをFEM解析によって算出した。
【0038】
新堤体コンクリート構造体1内部(表層部4)の最低温度は、図8に示すように、1年目の越冬時では、1リフト加熱における通水温度20℃で「4.11℃」、通水温度30℃で「5.28℃」、通水温度40℃で「6.45℃」となる。ハーフリフト加熱(通水温度30℃)では、最低温度が「6.18℃」となる(図8中、黒丸参照)。なお、加熱なしの場合は、最低温度が「3.47℃」(図8中、黒三角参照)となる。また、2年目の越冬時では、1リフト加熱における通水温度20℃で「4.38℃」、通水温度30℃で「5.60℃」、通水温度40℃で「6.82℃」となる。ハーフリフト加熱(通水温度30℃)では、最低温度が「6.54℃」となる(図8中、白丸参照)。なお、加熱なしの場合は、最低温度が「3.73℃」となる(図8中、白三角参照)。
【0039】
新堤体コンクリート構造体1に発生する最大ひずみは、図9に示すように、1年目の越冬時では、1リフト加熱における通水温度20℃で「131.1μ」、通水温度30℃で「102.6μ」、通水温度40℃で「74.8μ」となる。ハーフリフト加熱(通水温度30℃)では、最大ひずみが「69.8μ」となる(図9中、黒丸参照)。なお、加熱なしの場合は、最大ひずみが「148.4μ」となる(図9中、黒三角参照)。また、2年目の越冬時では、1リフト加熱における通水温度20℃で「100.0μ」、通水温度30℃で「83.6μ」、通水温度40℃で「67.5μ」となる。ハーフリフト加熱(通水温度30℃)では、最大ひずみが「72.1μ」となる(図9中、白丸参照)。なお、加熱なしの場合は、最大ひずみが「109.9μ」となる(図9中、白三角参照)。
【0040】
以上の結果より、新堤体コンクリート構造体1の表層部4の加熱を行う際に、温水の通水温度を40℃とした場合が最も表層部4の最低温度が高くなる。つまり、通水温度を高くするほど、温度低下を抑制できるので、内層部5との温度差を小さくでき、新堤体コンクリート構造体1に発生する最大ひずみを小さくできることが解った。
【0041】
また、1リフト加熱とハーフリフト加熱を比較すると、同じ条件の場合、ハーフリフト加熱の方が、新堤体コンクリート構造体1の表層部4の最低温度が高くなり、温度低下を抑制できるので、内層部5との温度差を小さくでき、新堤体コンクリート構造体1に発生する最大ひずみを小さくできることが解った。特に、1年目の越冬時には、1リフト加熱で通水温度40℃の場合よりもハーフリフト加熱で通水温度30℃の場合の方が、最大ひずみが小さくなる。
【0042】
次に、一段のハーフリフト加熱で通水温度30℃の場合について、1年目、2年目、3年目の越冬時の旧堤体50および新堤体コンクリート構造体1内部の温度分布とひずみ分布をFEM解析にて算出する。なお、図10乃至図12の(a)では、新堤体コンクリート構造体1内部の温度分布を濃淡で示しており、右側に温度分布と濃淡の対応を示している。また、図10乃至図12の(b)では、新堤体コンクリート構造体1内部のひずみ分布を濃淡で示しており、右側にひずみ分布と濃淡の対応を示している。
【0043】
1年目の越冬時の温度分布は、図10の(a)に示すように、新堤体コンクリート構造体1の内層部5の温度が一番高く(29.2℃)、内層部5から離間するに連れて徐々に温度が低下している。また、熱媒体流路10の周囲も若干温度が高くなっており、新堤体コンクリート構造体1の上端面の旧堤体50との接合部6は、「6.5℃」となっている。このような温度分布によって、発生するひずみ分布は、図10の(b)に示すように、ひび割れが一番発生しやすい新堤体コンクリート構造体1の上端面の旧堤体50との接合部6では、引張側である「20μ」と非常に小さい値となり、ひび割れの発生を防止することができる。また、旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との接合面12でのひずみは、例えば「43μ」であって、図の濃淡から全体を見ても「50μ」以下となり、旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との一体化を阻害するようなことはない。なお、図10中、堤体内に示された濃淡の濃い部分は、数値の低い側が示されている。
【0044】
2年目の越冬時の温度分布は、図11の(a)に示すように、2年目に構築された新堤体コンクリート構造体1の内層部5の温度が一番高く(27.0℃)、内層部5から離間するに連れて徐々に温度が低下している。また、2年目に形成された熱媒体流路10の周囲も若干温度が高くなっており、新堤体コンクリート構造体1の上端面の旧堤体50との接合部6は、「7.0℃」となっている。このような温度分布によって、発生するひずみ分布は、図11の(b)に示すように、ひび割れが一番発生しやすい新堤体コンクリート構造体1の上端面の旧堤体50との接合部では、引張側である「53μ」と非常に小さい値となり、ひび割れの発生を防止することができる。また、このとき、1年目の越冬面の旧堤体50との接合部6では、圧縮側である「−15μ」となり、ひび割れの発生を防止することができる。さらに、2年目においても、旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との接合面12でのひずみは、図の濃淡から全体を見ても「50μ」以下となり、旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との一体化を阻害するようなことはない。なお、図11中、堤体内に示された濃淡の濃い部分は、数値の低い側が示されている。
【0045】
3年目の越冬時の温度分布は、図12の(a)に示すように、3年目に構築された新堤体コンクリート構造体1の内層部5の温度が一番高いが、その部分の厚さが薄い為、外気温に冷やされて、「20.6℃」となっており、表層部4と内層部5との温度差が小さくなっている。このような温度分布によって、発生するひずみ分布は、図12の(b)に示すように、1年目の越冬面の旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との接合部6では、圧縮側である「−13μ」となり、2年目の越冬面の旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との接合部6では、圧縮側である「−9μ」となるので、ひび割れの発生を防止することができる。また、3年目の越冬時においても、旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との接合面12でのひずみは、全体を見ても「50μ」以下となり、旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との一体化を阻害するようなことはない。図12中、堤体内に示された濃淡の濃い部分は、数値の低い側が示されている。
【0046】
以上説明したように、本実施形態によれば、新堤体コンクリート構造体1の表層部4に発生する応力ひずみを抑制して、表面のひび割れの発生を抑えることができる。また、旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1との間のひび割れの発生も抑えることができるので、旧堤体50と新堤体コンクリート構造体1とを確実に一体化することができる。
【0047】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。たとえば、前記実施形態では、旧堤体50の斜面部に沿って構築される新堤体コンクリート構造体1をマスコンクリート構造体の一例としたが、マスコンクリート構造体は、これに限定されるものではなく、例えば、新設のダム堤体や、橋梁の橋脚部等のマスコンクリート構造体に対しても本発明は適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 新堤体コンクリート構造体(マスコンクリート構造体)
2 コンクリート層
3 打設済コンクリート構造体
4 表層部
5 (打設済コンクリート構造体の)内層部
7 新設コンクリート構造体
8 (新設コンクリート構造体の)内層部
10 熱媒体流路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部から1リフトごとにコンクリートを順次打設して上下方向に複数のコンクリート層を構築するマスコンクリート構造体の構築方法において、
打設済の複数の前記コンクリート層のうち、少なくとも最上部に位置する前記コンクリート層を打設休止期間中に加熱することで、打設済の複数の前記コンクリート層からなる打設済コンクリート構造体の表層部と内層部との温度差を緩和する
ことを特徴とするマスコンクリート構造体の構築方法。
【請求項2】
下部から1リフトごとにコンクリートを順次打設して上下方向に複数のコンクリート層を構築するマスコンクリート構造体の構築方法において、
打設済の複数の前記コンクリート層のうち、少なくとも最上部に位置する前記コンクリート層を、打設済の複数の前記コンクリート層からなる打設済コンクリート構造体の表層部と内層部との温度差を緩和するとともに前記打設済コンクリート構造体の前記表層部とその上部に新たに増打ちされる新設コンクリート構造体の内層部との温度差を緩和するように、打設休止期間中に加熱する
ことを特徴とするマスコンクリート構造体の構築方法。
【請求項3】
前記コンクリート層の加熱は、前記コンクリート層内に熱媒体流路を形成し、前記熱媒体流路内に熱媒体を流すことで行われる
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマスコンクリート構造体の構築方法。
【請求項1】
下部から1リフトごとにコンクリートを順次打設して上下方向に複数のコンクリート層を構築するマスコンクリート構造体の構築方法において、
打設済の複数の前記コンクリート層のうち、少なくとも最上部に位置する前記コンクリート層を打設休止期間中に加熱することで、打設済の複数の前記コンクリート層からなる打設済コンクリート構造体の表層部と内層部との温度差を緩和する
ことを特徴とするマスコンクリート構造体の構築方法。
【請求項2】
下部から1リフトごとにコンクリートを順次打設して上下方向に複数のコンクリート層を構築するマスコンクリート構造体の構築方法において、
打設済の複数の前記コンクリート層のうち、少なくとも最上部に位置する前記コンクリート層を、打設済の複数の前記コンクリート層からなる打設済コンクリート構造体の表層部と内層部との温度差を緩和するとともに前記打設済コンクリート構造体の前記表層部とその上部に新たに増打ちされる新設コンクリート構造体の内層部との温度差を緩和するように、打設休止期間中に加熱する
ことを特徴とするマスコンクリート構造体の構築方法。
【請求項3】
前記コンクリート層の加熱は、前記コンクリート層内に熱媒体流路を形成し、前記熱媒体流路内に熱媒体を流すことで行われる
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマスコンクリート構造体の構築方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−111849(P2011−111849A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271474(P2009−271474)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(505252919)国土交通省北海道開発局長 (3)
【出願人】(595029886)アイドールエンジニヤリング株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(505252919)国土交通省北海道開発局長 (3)
【出願人】(595029886)アイドールエンジニヤリング株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
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