説明

マトリックスヒータ

【課題】被加熱物の表面に意図的に温度勾配、温度分布を付与でき、とくに成形同時印刷システムの転写箔の予備加熱用として好適なマトリックスヒータを提供する。
【解決手段】基材上に、独立して温度制御可能な加熱素子を複数配列したことを特徴とするマトリックスヒータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の加熱素子の集合体から形成されるマトリックスヒータであって、とくに被加熱物側に意図的に温度勾配、温度分布を付与でき、成形同時印刷システムの転写箔の予備加熱用として好適なマトリックスヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、発熱体と該発熱体が保持される基材とを有するヒータはよく知られている(たとえば、特許文献1)。このようなヒータにおいては、絶縁状の基材上にセラミック等からなる発熱体が配列され、被加熱物を接触させることにより被加熱物の表面全体が均一に加熱されるようになっている。
【0003】
しかし、たとえば、従来のヒータを、成形同時転写印刷システム(製品の成形と同時に金型内で転写印刷を施す)における転写箔の予備加熱に用いると、以下のような問題が発生するおそれがある。すなわち、3次元曲面に印刷する転写印刷においては、曲面に対する転写箔の接触性を向上すべく該転写箔を予備的に加熱するのが一般的であるが、従来のヒータにおいては、被加熱物の表面全体が均一に加熱されるようになっているため、転写箔全体が加熱され、該箔全体が膨張し転写箔の位置決め精度、ひいては転写印刷性が低下するおそれがある。
【0004】
したがって、上記のような弊害を防止しつつ、より複雑な3次元曲面に転写箔の破断等を防止しつつ、しかも転写箔を位置決め精度よく密着させ転写印刷性を向上させるためには、被加熱物である転写箔の表面を部分的に加熱可能なヒータが望まれる。
【特許文献1】特開平2002−050657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、被加熱物の表面に意図的に温度勾配、温度分布を付与でき、たとえば成形同時印刷システムの転写箔の予備加熱用として好適なマトリックスヒータを提供することにある。なお、本発明者は、本発明に係るヒータと従来のヒータと区別すべく、とくに本発明に係るヒータをマトリックスヒータと命名した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るマトリックスヒータは、基材上に、独立して温度制御可能な加熱素子を複数配列したことを特徴とするものからなる。このような構成においては、複数の加熱素子はそれぞれ独立して温度制御可能に構成されているので、各加熱素子の加熱温度を任意に設定し調節できる。したがって、被加熱物に対し所望の温度勾配、温度分布を付与できる。また、被加熱物の互いに隔てられた部分のみを一つのマトリックスヒータで加熱できる。
【0007】
上記加熱素子は、被加熱物に対する温度勾配の付与の方向性等により任意に配列可能であるが、加熱素子を格子状に配列すれば、温度勾配の方向性、大きさ等を略任意に設定できる。
【0008】
上記加熱素子は、少なくとも発熱体を有するものから構成される。発熱体は特に限定されるものではないが、たとえばセラミックヒータ、芯線に裸線を巻きつけた裸発熱線ヒータ等を挙げることができる。
【0009】
セラミックヒータ等の発熱体の発熱電線材に、抵抗温度係数の比較的に大きい材料(たとえば1,000ppm/℃〜5,000ppm/℃が好適である)を選定して、非通電時に微弱電流を流してその電圧降下を測定することにより、該発熱体の温度を間接的に測定することも可能である。この場合、10mS〜500mSの間隔で前記温度測定のための非通電時間を設けることが望ましい。
【0010】
上記発熱体の相互の熱干渉による温度均一化の傾向を防止するためには、発熱体相互の熱結合を極力少なくするとともに、前記各発熱体全体を冷却する機構を備えることが好ましい。
【0011】
上記基材としては、たとえばポリイミド、耐熱性ポリエチレンテレフタレート、ガラス繊維、シリコーン、耐熱ゴム等の絶縁体を挙げることができる。
【0012】
本発明に係るマトリックスヒータは、被加熱物に意図的に所望の温度勾配、温度分布を付与できる。また、被加熱物の互いに隔てられた部分のみを一つのマトリックスヒータで加熱できる。したがって、広範な産業分野に利用可能であるが、とくに成形品の成形と同時に該成形品の表面に転写印刷を施す成形同時印刷システムにおける転写箔の予備加熱用に用いて好適なものである。
【発明の効果】
【0013】
上記のようなマトリックスヒータは、複数の加熱素子がそれぞれ独立して温度制御可能に構成されているので、被加熱物に意図的に温度勾配、温度分布を付与できる。また、一つのマトリックスヒータで被加熱物の互いに隔てられた部分のみを加熱できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明に係るマトリックスヒータの望ましい実施の形態を図面を参照して説明する。図1および図2は本発明の一実施態様に係るマトリックスヒータを示している。図において1は、マトリックスヒータを示している。マトリックスヒータ1は、基材2を有している。基材2上には、複数の加熱素子3が設けられている。本実施態様においては、加熱素子3は格子状に配列されている。各加熱素子3は、発熱体としてのセラミックヒータ4を有している。また、加熱素子3内には、セラミックヒータ4の温度を検知する温度センサ5が設けられている。セラミックヒータ4は固定材料17(たとえば、シリコーン系材料)により基材2上に固定されている。各セラミックヒータ4および各温度センサ5は温度制御手段6に接続されている。セラミックヒータ4の表面、つまり被加熱物の接触面側には絶縁性のシート状部材18が設けられている。なお、本実施態様においては、セラミックヒータ4は固定材料17により基材2上に固定されているが、図3に示すように通電用導電材料からなる脚部20により基材2上に固定することも可能である。図3のような構成においては、固定材料17が廃止され、各セラミックヒータ4同士の熱結合が極力少なくなるとともに、各セラミックヒータ4全体を冷却できるので、相互の熱干渉による温度均一化の傾向を確実に防止することができる。
【0015】
温度制御手段6は、加熱素子3ごとに設定温度が入力可能に構成されている。そして、温度制御手段6は、各温度センサ5により検知される温度に基づき各セラミックヒータ4をオン・オフするように構成されている。したがって、各加熱素子3は互いに独立して温度制御されるようになっている。
【0016】
また、セラミックヒータ4の発熱電線材に、抵抗温度係数の比較的に大きい材料(たとえば1,000ppm/℃〜5,000ppm/℃が好適である)を選定して、非通電時に微弱電流を流してその電圧降下を測定することにより、該セラミックヒータ4の温度を間接的に測定することが可能である。この場合、10mS〜500mSの間隔で前記温度測定のための非通電時間を設けることが望ましい。
【0017】
本実施態様においては、複数の加熱素子3はそれぞれ独立して温度制御可能に構成されているので、各加熱素子間において加熱温度を任意に設定し調節できる。したがって、被加熱物に対し所望の温度勾配、温度分布を付与できる。また、被加熱物の互いに隔てられた部分のみを一つのマトリックスヒータで加熱できる。
【0018】
また、本実施態様においては、各加熱素子3は格子状に配列されているので、温度勾配、温度分布を略任意に設定できる。
【0019】
図4は、上記マトリックスヒータ1を転写箔の予備加熱用に用いた成形同時印刷システム7を示している。成形同時印刷システム7は、金型8と転写箔送り手段11とを有している。金型8は射出成形機(図示略)に取り付けられており、固定型9と可動型10とから構成されている。転写箔送り手段11は、供給リール12と巻取りリール13とを有している。また、転写箔14は、厚さ約40〜50μのポリエチレンテレフタレート(PET)から構成されており、該転写箔14の長手方向に転写部15が所定の間隔をおいて設けられている。そして、供給リール12と巻取りリール13とが同時に駆動されることにより、転写箔14が一定量送り出されることにより、転写箔14上の転写部15が金型8のキャビティー(図示略)に位置合せされるようになっている。転写部15のキャビティーへの位置合せは、たとえばCCDカメラによる画像処理等によりなされるようになっている。該位置合せは、転写箔14の幅方向端部に設けられた位置合せ用のマーカ19のずれを検知することにより行われるようになっている。
【0020】
このような成形同時印刷システムにおいては、転写箔送り手段11が駆動されることにより、転写部15がキャビティーへ位置合せされる。そして、成形機からキャビティー内に樹脂が充填され成形品(図示略)が成形される。また、同時に成形直後の成形品側の熱により転写部15の絵柄が成形品の表面に転写印刷されるようになっている。
【0021】
また、このような成形同時印刷システムにおいては、転写箔送り手段11が駆動され転写部15がキャビティーに位置合せされると、マトリックスヒータ1により転写箔14の転写部15が予備加熱されるようになっている。マトリックスヒータ1は、成形品の取出機が成形品を取り出すタイミングで矢印方向に移動され、転写部15を予備加熱するようになっている。なお、予備加熱温度は任意に設定可能であるが、図4のシステムにおいては100〜200℃に設定されている。
【0022】
そして、上記マトリックスヒータ1は、複数の加熱素子3がそれぞれ独立して温度制御可能に構成されているので、被加熱物である転写部15に意図的に温度勾配、温度分布を付与して加熱できる。また、たとえば転写部15が転写箔14の幅方向に隔てられて存在する場合(多数個同時成形の場合)であっても、一つのマトリックスヒータ1で互いに隔てられた転写部15のみを加熱できる。したがって、転写箔14の転写部15以外の部分の加熱による膨張変形が防止されるので、それぞれの転写部15の位置精度は低下しない。また、転写部15に所定の温度勾配を形成して予備加熱しておく方が成形品への転写印刷の仕上がり性を向上できる場合には、転写部15に所定の温度勾配を付与して加熱することも可能になる。また、複数の加熱素子3はそれぞれ独立して温度制御可能に構成されており、成形品の形状等に即応し各加熱素子3の設定温度を容易に変更することができるので、優れた汎用性を備えている。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明に係るマトリックスヒータは、たとえば所定の温度勾配を付与して被加熱物を加熱することができるとともに、被加熱物の互いに隔てられた部分のみを一つのマトリックスヒータで効率的に加熱できる。したがって、広範な産業分野において適用可能であるが、とくに成形同時印刷システムの転写箔の予備加熱用として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施態様に係るマトリックスヒータの概略構成図である。
【図2】図1のマトリックスヒータの部分拡大断面図である。
【図3】図1とは別の態様のマトリックスヒータの部分拡大断面図である。
【図4】図1のマトリックスヒータを用いた成形同時印刷システムの概略構成図である。
【符号の説明】
【0025】
1 マトリックスヒータ
2 基材
3 加熱素子
4 セラミックヒータ
5 温度センサ
6 温度制御手段
7 成形同時印刷システム
8 金型
9 固定型
10 可動型
11 転写箔送り手段
12 供給リール
13 巻取りリール
14 転写箔
15 転写部
17 固定材料
18 シート状部材
19 マーカ
20 脚部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、独立して温度制御可能な加熱素子を複数配列したことを特徴とするマトリックスヒータ。
【請求項2】
前記加熱素子が格子状に配列されている、請求項1のマトリックスヒータ。
【請求項3】
前記加熱素子が少なくとも発熱体を有している、請求項1または2のマトリックスヒータ。
【請求項4】
前記発熱体がセラミックヒータからなる、請求項3のマトリックスヒータ。
【請求項5】
前記発熱体の0でない抵抗温度係数を利用して、該発熱体の抵抗値の変化を測定して温度を推定する機能を備えた、請求項3または4のマトリックスヒータ。
【請求項6】
前記発熱体の相互の熱干渉による温度均一化の傾向を防止するために、発熱体相互の熱結合を極力少なくするとともに、前記各発熱体全体を冷却する機構を備えた、請求項3ないし5のいずれかに記載のマトリックスヒータ。
【請求項7】
前記ヒータが、成形同時印刷システムにおける転写箔の予備加熱用のヒータからなる、請求項1ないし6のいずれかに記載のヒータ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−147286(P2006−147286A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334591(P2004−334591)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(595097508)有限会社ソラーナテクノ (5)
【出願人】(595097494)株式会社アンペール (4)
【Fターム(参考)】