説明

マニピュレータ用関節部

【課題】組立てが容易でコストの低減化を図り、高精度のマニピュレータ動作を行うことができる小型のマニピュレータ用関節部を提供する。
【解決手段】基部アーム3及び回動アーム4の端部同士を連結し、端部を支点として前記回動アーム4を回動させるマニピュレータ用関節部6である。マニピュレータ用関節部6は、基部アーム3の端部に設けられたスリーブ15と回動アーム4の端部に設けられた装着孔22との間に配置され、回動アーム4をスリーブ15に対して回転自在に支持する転がり軸受12、13と、回動アーム4にスリーブ15回りの回動を伝達する駆動ワイヤ10と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間の指に似た動作を機械的に行うマニピュレータにおいて複数のアームを回動自在に連結するマニピュレータ用関節部に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械の加工ライン、組立てライン等では、省力化、自動化のために種々のロボットアームを使用している。
ロボットアームは、複数のアームを関節部を介して連結した装置であり、関節部の構成部材として、複列の転がり軸受を組み込んだ装置が知られている(例えば、特許文献1)。また、パートナーロボットや家事ロボットの腕の指部分の関節にはすべり軸受等が使用されているが,より滑らかな動きや様々な方向からの負荷容量が必要なため,これら関節部分にも転がり軸受が適用されている。
【0003】
特許文献1の関節部に組み込まれている転がり軸受は、軸受の軸方向断面幅と半径方向断面高さの比を所定値に設定することで内輪及び外輪の厚さ寸法を増大させ、高剛性、高回転精度、低トルク、低発熱を図っている。
【0004】
また、転がり軸受に適用される、生分解性を有するグリース組成物としては、ポリオールエステルを主成分とするグリース組成物(例えば、特許文献2参照。)や、にはペンタエリスリトールを主成分とするグリース組成物(例えば、特許文献3参照。)、植物油を主成分とするグリース組成物(例えば、特許文献4参照。)が考案されている。
さらに、小型化を図った転がり軸受としては、二つの軸受の配置を工夫したり、外輪や内輪を他の部品と共用化したものが知られている(例えば、特許文献5及び6参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006―329420号公報
【特許文献2】特開平6−1989号公報
【特許文献3】特開平8−20789号公報
【特許文献4】特開2002−323053号公報
【特許文献5】特開2002−122153号公報
【特許文献6】特開平7−167133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ロボットアームのような大型の装置ではなく、人間の指に似た動作を機械的に行うマニピュレータの技術開発も行われており、それらを用いた腕(指)を備えたパートナーロボットや家事ロボットの実現が期待されている。
しかしながら、マニピュレータの関節部には、前述した特許文献1に記載のロボットアーム用転がり軸受を採用することはできない。すなわち、内輪及び外輪の厚さ寸法を増大させる特許文献1の転がり軸受の諸元を適用するとマニピュレータ用の転がり軸受が大型になってしまうので、小型化が必要なマニピュレータ用関節に採用することはできない。
【0007】
また、特許文献1は、転がり軸受の構成部材である外輪及び内輪が、固定部品(外輪押さえ、内輪押さえ等)を介して関節部に固定されており、固定部品の組み込みに多くの手間と時間を要し、しかも、複列の転がり軸受を組み込まなければならないので、関節部の組立てコストの面で問題がある。
【0008】
さらに、パートナーロボットや家事ロボットの腕の指部分の関節部分は一つ一つが独立した動きをする必要があるため、その駆動方法は部品内に通したワイヤを利用したり、小型モータを組み込んだりと様々である。そのため、仕様をすべり軸受から転がり軸受に変更する際にはただ軸受部を変更するだけでなく、ワイヤの通す部分やモータ内蔵部分等のスペースを考慮しなければならない。こういった背景により、使用する転がり軸受にはより小型なものが要求されてきている。しかしながら軸受サイズを単純に小さくしてしまうと、ワイヤやモータ等のスペースを確保しやすくなるものの、負荷容量そのものが小さくなってしまうために使用時の性能や耐久性に影響が生じてしまう。
【0009】
また、今後小型のロボット関節は人間にとってより身近な存在となると考えられており、より人体への安全性や環境面の配慮が必要となる。このため、パートナーロボットや家事ロボットに転がり軸受に使用されるグリースとして、生分解性グリースを使用することが望まれているが、特許文献2,3に記載のグリース組成物は汎用グリースと比較して潤滑性能に劣り、特許文献4に記載のグリースも外部から水滴が入り込んだ場合著しく性能が低下するという問題があった。
また、特許文献5,6では、小型化した転がり軸受についての記載はあるが、ロボットアームについての記載はない。
【0010】
そこで、本発明は、組立てが容易な転がり軸受を採用することで組立てコストの低減化を図ることができるとともに、高精度のマニピュレータ動作を行うことができる小型のマニピュレータ用関節部を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は以下の構成により達成される。
(1) 基部アーム及び回動アームの端部同士を連結し、前記端部を支点として前記回動アームを回動させるマニピュレータ用関節部であって、
前記基部アームの前記端部に設けられた関節軸と前記回動アームの前記端部に設けられた装着孔との間に配置され、前記回動アームを前記関節軸に対して回転自在に支持する転がり軸受と、
前記回動アームに前記関節軸回りの回動を伝達する駆動機構と、
を有することを特徴とするマニピュレータ用関節部。
(2) 前記転がり軸受の外輪は、前記回動アームの装着孔に内嵌されることを特徴とする(1)に記載のマニピュレータ用関節部。
(3) 前記転がり軸受の内輪は、前記基部アームの関節軸に外嵌されることを特徴とする(1)または(2)に記載のマニピュレータ用関節部。
(4) 前記転がり軸受は、
第1の内輪、第1の外輪、及び前記第1の内輪及び外輪間に転動自在に配置される複数の第1の転動体と、を有する第1の転がり軸受と、
第2の内輪、第2の外輪、及び前記第2の内輪及び外輪間に転動自在に配置される複数の第2の転動体と、を有する第2の転がり軸受と、
を備え、
前記第1の内輪は、前記第2の内輪に内周面全体が取り囲まれるように外嵌され、
前記第1の内輪の内周面の軸方向幅は、前記第2の内輪の軸方向幅の略1/3であることを特徴とする(2)または(3)に記載のマニピュレータ用関節部。
(5) 前記複数の第1及び第2の転動体は、互いに略等しい直径を有する玉であり、
前記複数の第1の転動体は、前記複数の第2の転動体よりも径方向外側に配置されており、
前記複数の第1の転動体のピッチ円と前記複数の第2の転動体のピッチ円の直径の差は、前記玉の直径の略4倍であり、
前記複数の第1の転動体と前記複数の第2の転動体の各中心点は、前記玉の略半径分だけ軸方向にずれていることを特徴とする(4)に記載のマニピュレータ用関節部。
(6) 前記転がり軸受は、
第1の内輪、第1の外輪、及び前記第1の内輪及び外輪間に転動自在に配置される複数の第1の転動体と、を有する第1の転がり軸受と、
第2の内輪、第2の外輪、及び前記第2の内輪及び外輪間に転動自在に配置される複数の第2の転動体と、を有する第2の転がり軸受と、
を備え、前記第1及び第2の内輪と、前記第1及び第2の外輪との少なくとも一方が一体的に形成されることを特徴とする(2)または(3)に記載のマニピュレータ用関節部。
(7) 前記第1及び第2の内輪は、前記関節軸によって構成されることを特徴とする(6)に記載のマニピュレータ用関節部。
(8) 前記転がり軸受は、
内輪、外輪、及び前記内輪及び外輪間に転動自在に配置される複数の針状ころと、を有する針状ころ軸受をさらに有することを特徴とする(2)または(3)に記載のマニピュレータ用関節部。
(9) 前記転がり軸受は、少なくとも前記関節軸の軸方向外側において、二重シール構造を有することを特徴とする(4)から(8)のいずれかに記載のマニピュレータ用関節部。
(10) 前記転がり軸受に封入される潤滑剤は、基油が植物油及び流動パラフィンから選ばれる1種以上からなり、増ちょう剤が金属石けんからなるグリース組成物であることを特徴とする(1)から(9)のいずれかに記載のマニピュレータ用関節部。
(11) 前記転がり軸受は、複数のポケットを周方向に形成して該ポケット内で前記転動体を保持する保持器を備え、前記保持器の隣接するポケットの間に所定量の潤滑剤が乗せられて封入されていることを特徴とする(1)から(10)のいずれかに記載のマニピュレータ用関節部。
(12) 前記駆動機構は、前記転がり軸受の外周、或いは前記回動アームの前記端部外周に掛け渡した線状部材と、当該線状部材に張力を付与して前記回動アームを前記関節軸回りに回動させる張力付与装置とを備えていることを特徴とする(1)から(11)のいずれかに記載のマニピュレータ用関節部。
(13) 前記駆動機構は、前記転がり軸受の外周、或いは前記回動アームの前記端部外周に、前記関節軸の軸心を円弧中心として円弧形状に形成した入力ギヤと、前記基部アームに配置した回転モータと、この回転モータの出力軸に固定されて前記入力ギヤに噛合しており、前記回転モータの正逆方向の回転駆動力を前記入力ギヤに伝達する出力ギヤとを備えていることを特徴とする(1)から(11)のいずれかに記載のマニピュレータ用関節部。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、基部アームの端部に設けられた関節軸と回動アームの端部に設けられた装着孔との間に配置され、回動アームを関節軸に対して回転自在に支持する転がり軸受と、回動アームに関節軸回りの回動を伝達する駆動機構と、を有するので、マニピュレータ用関節部を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るマニピュレータ用関節部を有するマニピュレータの概略を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態のマニピュレータ用関節部を示す要部断面図である。
【図3】第2実施形態のマニピュレータ用関節部の要部断面図である。
【図4】第3実施形態のマニピュレータ用関節部の要部断面図である。
【図5】第4実施形態のマニピュレータ用関節部の要部断面図である。
【図6】第4実施形態のマニピュレータ用関節部の変形例の要部断面図である。
【図7】第5実施形態のマニピュレータ用関節部の要部断面図である。
【図8】(a)は、第5実施形態のマニピュレータ用関節部の変形例の要部断面図であり、(b)は、第5実施形態のマニピュレータ用関節部の他の変形例の要部断面図である。
【図9】第6実施形態のマニピュレータ用関節部の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のマニピュレータ用関節部の各実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明に係るマニピュレータ用関節部を有するマニピュレータの概略を示す斜視図、図2は第1実施形態のマニピュレータ用関節部を示す要部断面図、図3は第2実施形態のマニピュレータ用関節部の要部断面図、図4は第3実施形態のマニピュレータ用関節部の要部断面図である。
【0015】
マニピュレータ1は、図1に示すように、中空円筒形状の第1アーム2と、小径部3a及び大径部3bからなる中空円筒形状の第2アーム3と、一端側を中空円筒形状とし、他端部を球面形状とした中空円筒形状の第3アーム4と、第1アーム2の一端部及び第2アーム3の一端部を連結している第1関節部5と、第2アーム3の他端部及び第3アーム4の一端部を連結している第2関節部6とを備えている。
【0016】
(第1実施形態のマニピュレータ用関節部)
第2アーム3及び第3アーム4を連結している第2関節部6は、図1及び図2に示すように、第3アーム4の一端に形成した連結板4cを貫通するユニット装着孔7に嵌合する軸受ユニット8と、この軸受ユニット8の回転中心P位置に装着され、第2アーム3の一端に形成した連結板3cに配設される連結ネジ9と、軸受ユニット8の外周に掛け渡されており、軸受ユニット8を介して第3アーム4を連結ネジ9(回転中心P)回りに回動させる駆動ワイヤ10と、軸受ユニット8を所定角度まで回転させる引張力を駆動ワイヤ10に伝達する駆動力伝達装置11と、を備えている。
【0017】
ユニット装着孔7は、第3アーム4の長手方向に対して直交する方向に円形に開口して形成されている。軸受ユニット8は、2組の玉軸受12,13と、単一のハウジング14と、単一のスリーブ15とを一体化した部品である。
2組の玉軸受のうち一方の玉軸受(第1の転がり軸受)12は、外輪(第1の外輪)12a及び内輪(第1の内輪)12bと、外輪12aの軌道溝及び内輪12bの軌道溝間に転動自在に配設された複数の玉(第1の転動体)12cと、外輪12a及び内輪12bの間の軸方向の両端部を閉塞する環状シール体12dとを備えている。また、他方の玉軸受(第2の転がり軸受)13も、一方の玉軸受12と同一形状の外輪(第2の外輪)13a及び内輪(第2の内輪)13bと、外輪13aの軌道溝及び内輪13bの軌道溝間に転動自在に配設された複数の玉(第2の転動体)13cと、外輪13a及び内輪13bの間の軸方向の両端部を閉塞する環状シール体13dとを備えている。
【0018】
外輪12a,13a、内輪12b,13b及び玉12c,13cの材料は、標準的な使用条件では軸受鋼(例えば、SUJ2、SUJ3など)とするが、使用環境に応じて、耐食材料であるステンレス系材料(例えば、SUS440C等のマルテンサイト系ステンレス鋼材やSUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼材、SUS630等の析出硬化系ステンレス鋼材など)、チタン合金やセラミック系材料(例えば、Si34 、SiC、Al2 3、ZrO2 等)を採用してもよい。
【0019】
ハウジング14は、2組の玉軸受12,13の外輪12a,13aを内嵌し、第3アーム4のユニット装着孔7の内周部に外嵌される円筒形状の部材である。また、ハウジング14には、その内周面の軸方向略中央部に径方向内方に向かって突出する環状凸部14aが設けられている。スリーブ15は、玉軸受12,13の内輪12b,13bの内周部に嵌合する円筒形状の部材であり、内周面には連結ネジ9が螺合する雌ネジ部が形成される。
【0020】
また、2組の玉軸受12,13の外輪12a、13aの軸方向両側には、環状封止部材(シール部材またはシールド部材)40a,40b,41a,41bが取り付けられている。これにより、各玉軸受12,13は、玉軸受12,13に取り付けられた環状シール体12d、13dとともに二重シール構造を構成しており、軸受の密封性を高めることができるとともに、軸受空間内に封入されたグリースを漏れ難くしている。また、環状シール体12d、13dや環状封止部材40a,40b,41a,41bは、ラビリンス隙間が0より大きく0.05mm以下のラビリンスシール構造を構成している。隙間が0以下の場合にはシールトルクが発生してしまい、一方、0.05mmより大きいと、水や水蒸気が浸入する虞がある。
【0021】
潤滑剤としては、植物油と流動パラフィンの少なくとも一種類以上からなる基油と金属石けんからなる増ちょう剤とを含有するグリース組成物が軸受に封入されている。また、添加剤として動物油等(例えば合成マッコウ油:巴工業株式会社製NoroilSE)を極性添加剤として加えても良い。
このため、上記ラビリンス隙間によって、シールトルクの発生を防止するとともに、グリースの漏れ、及び外部からの水や水蒸気の混入を防ぎ、グリースの劣化を最小限に抑えられるため長時間安定した潤滑性能を得ることができる。また、仮にグリース組成物が漏れてもその生分解性能により環境に与える影響を最小限とすることが可能である。
なお、防錆油を使用しないために玉軸受12,13及び軸受ユニット8の金属材料はステンレス鋼を用いることが好ましい。
また、玉軸受12,13は、少なくとも関節部6の軸方向外側において、二重シール構造を有していればよく、軸方向内側の環状封止部材40b,41bが設けられなくてもよい。
【0022】
駆動ワイヤ10は、その先端部がハウジング14の外周に固定されたワイヤ止め部材16に係止されているとともに、第2アーム3を構成する大径部3bの内部空間を通過し、小径部3aの内部空間に配置したプーリ17に係合した後に、第1アーム2の内部空間に延在し、第1アーム2の外部に配置した駆動力伝達装置11に連結されている。
【0023】
また、第1アーム2及び第2アーム3を連結している第1関節部5も、詳細には説明しないが、第2アーム3の小径部3aに形成したユニット装着孔に嵌合する2組の玉軸受12,13を内蔵した軸受ユニット18と、この軸受ユニット18の回転中心位置に装着され、第1アーム2の一端に形成した連結板2cに配設される連結ネジ19と、軸受ユニット18の外周に掛け渡され、軸受ユニット18を介して第2アーム3を連結ネジ19回りに回動させる駆動ワイヤ20とを備えており、駆動ワイヤ20は、前述した駆動力伝達装置11に連結されている。
【0024】
ここで、図1に示すマニピュレータ1には、詳細には図示しないが、第1関節部5には、駆動ワイヤ20の引張力により軸受ユニット18が回動する方向に対して軸受ユニット18を逆方向(図1の符号Y1で示す方向)に回動させようとする力を発生させる反力部材(例えばバネ等の弾性部材)が内蔵されているとともに、第2関節部6にも、駆動ワイヤ10の引張力により軸受ユニット8が回動する方向に対して軸受ユニット8を逆方向(図1の符号Y2で示す方向)に回動させようとする力を発生させる反力部材(例えばバネ等の弾性部材)が内蔵されているものとする。
【0025】
なお、本発明の基部アームが第1アーム2及び本発明の回動アームが第2アーム3に対応し、または、本発明の基部アームが第2アーム3及び本発明の回動アームが第3アーム4に対応し、本発明の複列の転がり軸受が2組の玉軸受12,13に対応し、本発明のマニピュレータ用関節部が第1関節部5または第2関節部6に対応し、本発明の関節軸が連結ネジ9,19に対応し、本発明の線状部材が駆動ワイヤ10に対応し、本発明の張力付与装置が駆動力伝達装置11に対応している。
【0026】
上記構成のマニピュレータ1は、駆動力伝達装置11の駆動により駆動ワイヤ20に引張力を付与すると、軸受ユニット18の2組の玉軸受12,13に支持されたハウジング14がスムーズに連結ネジ19回りに回動するので、第2アーム3が、図1に示すY1方向に対して逆方向に所定角度まで高精度に回動する。また、駆動力伝達装置11の駆動により駆動ワイヤ10に引張力を付与すると、軸受ユニット8の2組の玉軸受12,13に支持されたハウジング14がスムーズに連結ネジ9回りに回動するので、第3アーム4が、図1に示すY2方向に対して逆方向に所定角度まで高精度に回動する。また、駆動力伝達装置11の駆動を解除して駆動ワイヤ20を所定量だけ戻すと、第2アーム3は反力部材の力によりY1方向に所定角度まで回動する。さらに、駆動力伝達装置11の駆動を解除して駆動ワイヤ10を所定量だけ戻すと、第2アーム4は反力部材の力によりY2方向に所定角度まで回動する。
【0027】
したがって、本実施形態は、軸受ユニット8,18に小型の2組の玉軸受12,13を配置して第2アーム3及び第3アーム4を回動させることができるので、マニピュレータ用関節部(第1関節部5及び第2関節部6)を小型化することができる。
また、第1関節部5及び第2関節部6は、ユニット化された軸受ユニット18,8を構成部材としているので、組立てが容易であり、組立てコストの低減化を図ることができる。
【0028】
また、軸受ユニット8,18は、単一のハウジング14と単一のスリーブ15との間に2組の玉軸受12,13が組み込まれた部材であり、マニピュレータ1の組立て作業時には玉軸受12,13の難しい取付けが不要となるので、さらに組立てコストの低減化を図ることができる。また、故障時又はメンテナンス時の軸受12、13の交換が容易である。
さらに、本実施形態は、軸受ユニット8,18に掛け渡した駆動ワイヤ10,20に駆動力伝達装置11から引張力が付与されると、連結ネジ9,19の軸心を回転中心として第2アーム3、第3アーム4がスムーズに回動するので、高精度のマニピュレータ動作を実現することができる。
【0029】
(第2実施形態のマニピュレータ用関節部)
次に、本発明に係る第2実施形態のマニピュレータ用関節部について、図3を参照して説明する。なお、本実施形態の関節部は、図1で示した第2アーム3の他端部及び第3アーム4の一端部を連結する関節部として使用されるものとして説明する。また、本実施形態の関節部は、図1で示した第1アーム2の一端部及び第2アーム3の一端部を連結する関節部として使用してもよい。
【0030】
本実施形態の関節部21は、第3アーム4の一端側に形成したユニット装着孔22に嵌合する軸受ユニット23と、この軸受ユニット23の回転中心P位置に装着され、第2アーム3の一端に形成した連結板3cにねじ固定される連結ネジ24と、ユニット装着孔22の開口周縁から環状に突出しているワイヤ係合部25の外周に掛け渡されており、第3アーム4を連結ネジ24(回転中心P)回りに回動させる駆動ワイヤ10と、第3アーム4を所定角度まで回転させる引張力を駆動ワイヤ10に伝達する駆動力伝達装置11(図1参照)と、を備えている。
【0031】
軸受ユニット23は、互いに隣接配置した2組の玉軸受26,27と、単一のハウジング28と、単一のスリーブ29とを一体化した部品である。
2組の玉軸受のうち一方の玉軸受(第1の転がり軸受)26は、外輪(第1の外輪)26a及び内輪(第1の内輪)26bと、外輪26aの軌道溝及び内輪26bの軌道溝間に転動自在に配設された複数の玉(第1の転動体)26cと、外輪26a及び内輪26bの間の軸方向の一方の端部を閉塞する環状シール体26dと、全体が円環状若しくは円筒状をなして複数のポケットを周方向にわたって間欠的に形成し、各ポケット内に玉26cを配置している保持器(第1の保持器)26eとを備えている。また、他方の玉軸受(第2の転がり軸受)27も、一方の玉軸受26と同一形状の外輪(第2の外輪)27a及び内輪(第2の内輪)27bと、外輪27aの軌道溝及び内輪27bの軌道溝間に転動自在に配設された複数の玉(第2の転動体)27cと、外輪27a及び内輪27bの間の軸方向の一方の端部を閉塞する環状シール体27dと、全体が円環状若しくは円筒状をなして複数のポケットを周方向にわたって間欠的に形成し、各ポケット内に玉27cを配置している保持器(第2の保持器)27eとを備えている。
【0032】
これら2組の玉軸受26,27の保持器26e,27eの隣接するポケットの間には、所定量の潤滑剤が乗せられている。潤滑剤は、第1実施形態に記載の生分解性グリースに加え、鉱油系グリースや合成油系(例えば、リチウム系、ウレア系等)のグリースや油であり、高温環境用途などではフッ素系グリースまたはフッ素系の油、あるいはフッ素樹脂、MoS2 などの固体潤滑剤である。但し、固体潤滑剤は玉26c,27cや外輪26a,27a、内輪26b,27bの軌道溝に直接塗布する。
【0033】
また、ハウジング28は、2組の玉軸受26,27の外輪26a,27aを内嵌し、第3アーム4のユニット装着孔22の内周部に嵌合する円筒形状の部材である。より具体的に、ハウジング28は、その内部が延出方向に沿って中空を成す円筒状に構成されており、外周面には、軸方向一方側(図4中下側)端部に雄ネジ部28bが形成され、軸方向他方側(図3中上側)端部に外径側に突出する鍔部28aが形成される。そして、雄ネジ部28bに六角ナット40が締め付けられる。
スリーブ29は、玉軸受26,27の内輪26b,27bの内周部に嵌合する円筒形状の部材であり、連結ネジ24が挿通する一端側の内周面にはテーパ面29aが形成されているとともに、テーパ面29aに連続して軸心位置に貫通孔29bが形成されている。
【0034】
そして、上記構成の軸受ユニット23を、ワイヤ係合部25が形成されているユニット装着孔22の開口部側から挿入し、他方側から六角ナット40を雄ネジ部28bに締め付けて、ハウジング28の鍔部28aをユニット装着孔22の開口周縁のワイヤ係合部25に当接させて軸受ユニット23に第3アーム4を固定する。続いて、スリーブ29の貫通孔29bに挿通した連結ネジ24を連結板3cに形成した雌ネジ3c1にねじ込んでいき、連結ネジ24のテーパ面形状の頭部をスリーブ29のテーパ面29aに当接させることで第2アーム3の連結板3cに軸受ユニット23が固定され、第2アーム3に対し第3アーム4が回動可能に固定される。ここで、軸受ユニット23及び第2アーム3の連結板3cに固定された連結ネジ24の頂部には、玉軸受26を閉塞する閉塞板30が接合されている。
【0035】
駆動ワイヤ10は、その先端部がユニット装着孔22の開口周縁から環状に突出しているワイヤ係合部25の外周のワイヤ止め部材16に固定された後に、ワイヤ係合部25に掛け渡され、図1に示すように、第2アーム3を構成する大径部3bの内部空間を通過し、小径部3aの内部空間に配置したプーリ17に係合した後に、第1アーム2の内部空間に延在し、第1アーム2の外部に配置した駆動力伝達装置11に連結されている。
【0036】
上記構成の関節部21を使用したマニピュレータ1は、駆動力伝達装置11の駆動により駆動ワイヤ10に引張力を付与してワイヤ係合部25に回転力を伝達すると、軸受ユニット23の2組の玉軸受26,27に支持された外輪ハウジング28がスムーズに連結ネジ24回りに回動するので、第3アーム4が、図1に示したY2方向に対して逆方向に所定角度まで高精度に回動する。
【0037】
したがって、本実施形態も、軸受ユニット23に小型の2組の玉軸受26,27を近接して配置して第3アーム4を回動させることができるので、マニピュレータ用の小型の関節部21を提供することができる。
また、関節部21は、ユニット化された軸受ユニット23を構成部材としているので組立てが容易であり、組立てコストの低減化を図ることができる。
【0038】
また、軸受ユニット23は、単一の外輪ハウジング28と単一の軸部材29との間に2組の玉軸受26,27が組み込まれた部材であり、マニピュレータ1の組立て作業時には玉軸受26,27の難しい取付けが不要となるので、さらに組立てコストの低減化を図ることができる。
また、本実施形態は、第3アーム4の端部に形成した環状のワイヤ係合部25に掛け渡した駆動ワイヤ10に駆動力伝達装置11から引張力が付与されると、連結ネジ24の軸心を回転中心として第3アーム4がスムーズに回動するので、高精度のマニピュレータ動作を実現することができる。
【0039】
さらに、軸受ユニット23を構成する2組の玉軸受26,27の保持器26e,27eの隣接するポケットの間には所定量の潤滑剤が乗せられており、連結ネジ24の軸心を回転中心として玉軸受26,27が回転する際のトルクが抑制されるので、駆動ワイヤ10に小さな引張力を付与するだけで関節部21をスムーズに可動させることができる。
【0040】
(第3実施形態のマニピュレータ用関節部)
次に、本発明に係る第3実施形態のマニピュレータ用関節部について、図4を参照して説明する。なお、図3で示した構成と同一構成部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0041】
本実施形態の関節部31は、第2実施形態のように第3アーム4の一端側(ワイヤ係合部25)に駆動ワイヤ10を掛け渡さず、第3アーム4の一端の外周に、連結ネジ24の軸心(回転中心P)を中心とした円弧形状に第3アームギヤ32が形成されている。
また、第2アーム3の他端側には回転モータ33が配置されており、この回転モータ33の出力軸34に同軸に固定したはすば歯車(ヘリカルギヤ)35が第3アームギヤ32に噛合している。
【0042】
なお、本発明の入力ギヤが第3アームギヤ32に対応し、本発明のはすば歯車35が出力ギヤに対応している。
上記構成の関節部31を使用したマニピュレータ1は、回転モータ33の正逆方向の駆動によりはすば歯車35が正逆方向に回転すると、このはすば歯車35に第3アームギヤ32が噛合している第3アーム4が、図1に示したY2方向、或いはY2方向に対して逆方向に回動する。
【0043】
したがって、本実施形態は、第2実施形態と同様の作用・効果を奏することができるとともに、回転モータ33が正逆方向に駆動すると、はすば歯車35及び第3アームギヤ32を介して第3アームギヤ32が連結ネジ24の軸心を回転中心としてスムーズに回動するので、高精度のマニピュレータ動作を実現することができる。
【0044】
(第4実施形態のマニピュレータ用関節部)
次に、本発明に係る第4実施形態のマニピュレータ用関節部について、図5を参照して説明する。なお、図3で示した構成と同一構成部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0045】
本実施形態の関節部51では、2つの玉軸受52,53が第2アーム(基部アーム)3の一端に形成した連結板3cから円筒状に延出する関節軸54と第3アーム4(回動アーム)の一端側に形成した装着孔22との間に配置される。関節軸54内には、連結ネジ55が挿入され、ナット56によって玉軸受26を閉塞する閉塞板30が接合されている。また、駆動ワイヤ10は、装着孔22の開口周縁から環状に突出しているワイヤ係合部25の外周に掛け渡されており、第3アーム4を連結ネジ55(回転中心P)回りに回動させ、駆動力伝達装置11(図1参照)は、第3アーム4を所定角度まで回転させる引張力を駆動ワイヤ10に伝達する。
【0046】
2組の玉軸受のうち一方の玉軸受(第1の転がり軸受)52は、外輪(第1の外輪)52a及び内輪(第1の内輪)52bと、外輪52aの軌道溝及び内輪52bの間に転動自在に配設された複数の玉(第1の転動体)52cと、全体が円環状若しくは円筒状をなして複数のポケットを周方向にわたって間欠的に形成し、各ポケット内に玉52cを配置している保持器(第1の保持器)52eとを備えるアンギュラ玉軸受である。また、他方の玉軸受(第2の転がり軸受)53も、外輪(第2の外輪)53a及び内輪(第2の内輪)53bと、外輪53aの軌道溝及び内輪53bの軌道溝間に転動自在に配設された複数の玉(第2の転動体)53cと、全体が円環状若しくは円筒状をなして複数のポケットを周方向にわたって間欠的に形成し、各ポケット内に玉53cを配置している保持器(第2の保持器)53eとを備えるアンギュラ玉軸受である。両アンギュラ玉軸受52、53の接触角は交差する互いに異なる方向を向いている。
【0047】
外輪52aと外輪53aは、略等しい外径を有して、隣接して装着孔22にそれぞれ内嵌される一方、内径は外輪53aが外輪52aより小さくなるように形成されている。また、外輪53aは、内周寄り部分が外輪52aと軸方向にオーバーラップするように筒状に延出しており、この延出部分の内周面に軌道溝が形成される。
【0048】
内輪53bは、関節軸54に外嵌されており、また、内輪52bは、内輪53bの軌道溝から外れた位置で、内輪53bに内周面全体が取り囲まれるように外嵌されている。また、内輪52bは、内周面の軸方向幅が内輪53bの軸方向幅の略1/3である一方、外周寄り部分が内輪53bと軸方向にオーバーラップするように筒状に延出しており、この延出部分の外周面に軌道溝が形成されている。
【0049】
第1及び第2の玉軸受52、53の玉52c、53cは、互いに略等しい直径を有し、玉52cは、玉53cよりも径方向外側に配置されており、玉52cのピッチ円と玉53cのピッチ円の直径の差は、玉52c、53cの直径の略4倍であり、玉52cと玉53cの各中心点は、玉52c、53cの略半径分だけ軸方向にずれている。
【0050】
このような構成によれば、負荷容量を大きく減少させることなく薄型化することが可能であるため、性能面、耐久性に影響を及ぼすことなくマニピュレータ用関節部5、6とすることが可能である。
その他の構成及び作用については、上記実施形態と同様である。
【0051】
なお、本実施形態の変形例として、図6に示すように、上記実施形態の2組の玉軸受52,53を2セット並列に並べて、その中間のスペースSにワイヤを通したり、モータを配置することも可能である。また、図5では、連結板3cに関節軸54が一体に形成されていたが、図6に示すように、関節軸54は連結板3cと別体として、関節軸54に連結ネジ55を固定するようにしてもよい。
【0052】
(第5実施形態のマニピュレータ用関節部)
次に、本発明に係る第5実施形態のマニピュレータ用関節部について、図7を参照して説明する。なお、図3で示した構成と同一構成部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0053】
本実施形態の関節部61では、2つの玉軸受62,63が第2アーム(基部アーム)3の一端に形成した一対の連結板3cに挟持された関節軸65と第3アーム4(回動アーム)の一端側に形成した装着孔22との間に配置される。また、駆動ワイヤ10は、装着孔22の開口周縁から環状に突出しているワイヤ係合部25の外周に掛け渡されており、第3アーム4を関節軸65(回転中心P)回りに回動させ、駆動力伝達装置11(図1参照)は、第3アーム4を所定角度まで回転させる引張力を駆動ワイヤ10に伝達する。
【0054】
複列玉軸受62,63は、各外輪62a、63aが装着孔22に内嵌された単一の外輪部材64によって構成され、各内輪62b、63bが関節軸65によって構成される。従って、一方の玉軸受(第1の転がり軸受)62は、外輪部材64によって構成される外輪(第1の外輪)62a及び関節軸65によって構成される内輪(第1の内輪)62bと、外輪部材64の軌道溝62a1及び関節軸65の軌道溝62b1の間に転動自在に配設された複数の玉(第1の転動体)62cと、外輪62a及び内輪62bの間の軸方向の一方の端部を閉塞する環状シール体62dと、全体が円環状若しくは円筒状をなして複数のポケットを周方向にわたって間欠的に形成し、各ポケット内に玉62cを配置している保持器(第1の保持器)62eとを備える。また、他方の玉軸受(第2の転がり軸受)63も、外輪部材64によって構成される外輪(第2の外輪)63a及び関節軸65によって構成される内輪(第2の内輪)63bと、外輪部材64の軌道溝63a1及び関節軸65の軌道溝63b1間に転動自在に配設された複数の玉(第2の転動体)63cと、外輪63a及び内輪63bの間の軸方向の一方の端部を閉塞する環状シール体63dと、全体が円環状若しくは円筒状をなして複数のポケットを周方向にわたって間欠的に形成し、各ポケット内に玉53cを配置している保持器(第2の保持器)63eとを備える。
【0055】
従って、複列玉軸受62,63の外輪62a,63a及び内輪62b、63bをそれぞれ一体化すると共に、さらに内輪62b、63bを関節軸65によって構成することにより、上記実施形態と同等の負荷容量を保ったまま、複列玉軸受の外径を小さくすることが可能となり、性能、耐久性に影響を与えることなくコンパクトなマニピュレータ用関節部を構成することができる。
その他の構成及び作用については、上記実施形態と同様である。
【0056】
なお、図8(a)に示す変形例のように、複列玉軸受62,63は、2つの外輪62a,63aを別々に設け、内輪62b,63bのみ一体化して関節軸65によって構成するようにしても同様の効果を奏することができる。また、図8(b)に示す他の変形例のように、複列玉軸受62,63は、2つの内輪62b,63bを別々に関節軸65に外嵌させて設け、外輪62a,63aのみ一体化して構成するようにしても同様の効果を奏することができる。
【0057】
(第6実施形態のマニピュレータ用関節部)
次に、本発明に係る第6実施形態のマニピュレータ用関節部について、図9を参照して説明する。なお、図2で示した構成と同一構成部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0058】
本実施形態の関節部71では、第2アーム(基部アーム)3の一端に形成した一対の連結板3c間に設けられたスリーブ15と第3アーム4(回動アーム)の一端側に形成した装着孔22との間には、2つの玉軸受72,73に加え、2つの玉軸受72,73間に針状ころ軸受が配置されている。また、スリーブ15と一対の連結板3cは、両側から連結ネジ9によって結合されている。また、駆動ワイヤ10は、装着孔22の開口周縁から環状に突出しているワイヤ係合部25の外周に掛け渡されており、第3アーム4を連結ネジ9(回転中心P)回りに回動させ、駆動力伝達装置11(図1参照)は、第3アーム4を所定角度まで回転させる引張力を駆動ワイヤ10に伝達する。
【0059】
このため、2組の玉軸受のうち一方の玉軸受(第1の転がり軸受)72は、外輪(第1の外輪)72a及び内輪(第1の内輪)72bと、外輪72aの軌道溝及び内輪72bの間に転動自在に配設された複数の玉(第1の転動体)72cと、外輪72a及び内輪72bの間の軸方向の一方の端部を閉塞する環状シール体72dと、全体が円環状若しくは円筒状をなして複数のポケットを周方向にわたって間欠的に形成し、各ポケット内に玉72cを配置している保持器(第1の保持器)72eとを備える。また、他方の玉軸受(第2の転がり軸受)73も、外輪(第2の外輪)73a及び内輪(第2の内輪)73bと、外輪73aの軌道溝及び内輪73bの軌道溝間に転動自在に配設された複数の玉(第2の転動体)73cと、外輪73a及び内輪73bの間の軸方向の一方の端部を閉塞する環状シール体73dと、全体が円環状若しくは円筒状をなして複数のポケットを周方向にわたって間欠的に形成し、各ポケット内に玉73cを配置している保持器(第2の保持器)73eとを備える。また、2組の玉軸受72、73の間に配置された針状ころ軸受74は、外輪(第3の外輪)74a及び内輪(第3の内輪)74bと、外輪74aの軌道溝及び内輪74bの間に転動自在に配設された複数の針状ころ(第3の転動体)74cとを備える。
【0060】
また、外輪72a、73a、74aは、装着孔22にそれぞれ内嵌されており、内輪72b、73b、74bは、スリーブ15に外嵌されている。
【0061】
このように、針状ころ軸受74を用いれば、同サイズの玉軸受を使用した場合に比べてラジアル方向の負荷容量を大きくすることが可能であり、また、玉軸受72,73と組み合わせることによりアキシアル負荷にも耐えうる構造とすることができる。
これにより、重いものを持ち上げたり、激しく稼動するような用途で使用されるマニピュレータ用関節部においては、運動中に玉軸受72,73の負荷容量を越えてしまった場合でも針状ころ軸受74によって負荷を受けることができるので、揺動性能や耐久性能に影響を生じることがない。この針状ころ軸受を適用する形態は、産業用ロボットアームの関節部にも適用することができる。
【0062】
なお、本実施形態では、2組の玉軸受72,73と針状ころ軸受74を有する構成としたが、1つの玉軸受72と針状ころ軸受74を有する構成であってもよく、アキシアル負荷を受ける他の転がり軸受と針状ころ軸受74を有する構成であればよい。
【0063】
なお、上記各実施形態の関節部で使用した転がり軸受は、外輪、内輪、転動体、保持器等の構成は、上記各態様の実施の形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能である。
また、上記各実施形態は、実施可能な範囲において、組み合わせて適用することが可能である。
【0064】
さらに、第1実施形態においては、シール部材をラビリンスシールとしたが、ユニット駆動用のモータやワイヤ等のパワーが強く、トルクなどが特に問題とならないような用途においては、接触シールを用いることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 マニピュレータ
2 第1アーム(基部アーム)
3 第2アーム(基部アーム、回動アーム)
4 第3アーム(回動アーム)
5 第1関節部(マニピュレータ用関節部)
6 第2関節部(マニピュレータ用関節部)
8、18、23 軸受ユニット
9、19、24 連結ネジ(関節軸)
10、20 駆動ワイヤ(線状部材)
11 駆動力伝達装置(張力付与装置)
12、13、26、27、52、53、62、63、72、73 玉軸受(転がり軸受)
12a 、13a、26a、27a、52a、53a、62a、63a、72a、73a 外輪
12b、13b、26b、27b、52b、53b、62b、63b、72b、73b 内輪
12c 、13c、26c、27c、52c、53c、62c、63c、72c、73c 玉(転動体)
14、28 ハウジング
15、29 スリーブ
26e、27e 保持器
32 第3アームギヤ(入力ギヤ)
33 回転モータ
34 出力軸
35 はすば歯車(出力ギヤ)
54、65 関節軸
74 針状ころ軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部アーム及び回動アームの端部同士を連結し、前記端部を支点として前記回動アームを回動させるマニピュレータ用関節部であって、
前記基部アームの前記端部に設けられた関節軸と前記回動アームの前記端部に設けられた装着孔との間に配置され、前記回動アームを前記関節軸に対して回転自在に支持する転がり軸受と、
前記回動アームに前記関節軸回りの回動を伝達する駆動機構と、
を有することを特徴とするマニピュレータ用関節部。
【請求項2】
前記転がり軸受の外輪は、前記回動アームの装着孔に内嵌されることを特徴とする請求項1に記載のマニピュレータ用関節部。
【請求項3】
前記転がり軸受の内輪は、前記基部アームの関節軸に外嵌されることを特徴とする請求項1または2に記載のマニピュレータ用関節部。
【請求項4】
前記転がり軸受は、
第1の内輪、第1の外輪、及び前記第1の内輪及び外輪間に転動自在に配置される複数の第1の転動体と、を有する第1の転がり軸受と、
第2の内輪、第2の外輪、及び前記第2の内輪及び外輪間に転動自在に配置される複数の第2の転動体と、を有する第2の転がり軸受と、
を備え、
前記第1の内輪は、前記第2の内輪に内周面全体が取り囲まれるように外嵌され、
前記第1の内輪の内周面の軸方向幅は、前記第2の内輪の軸方向幅の略1/3であることを特徴とする請求項2または3に記載のマニピュレータ用関節部。
【請求項5】
前記複数の第1及び第2の転動体は、互いに略等しい直径を有する玉であり、
前記複数の第1の転動体は、前記複数の第2の転動体よりも径方向外側に配置されており、
前記複数の第1の転動体のピッチ円と前記複数の第2の転動体のピッチ円の直径の差は、前記玉の直径の略4倍であり、
前記複数の第1の転動体と前記複数の第2の転動体の各中心点は、前記玉の略半径分だけ軸方向にずれていることを特徴とする請求項4に記載のマニピュレータ用関節部。
【請求項6】
前記転がり軸受は、
第1の内輪、第1の外輪、及び前記第1の内輪及び外輪間に転動自在に配置される複数の第1の転動体と、を有する第1の転がり軸受と、
第2の内輪、第2の外輪、及び前記第2の内輪及び外輪間に転動自在に配置される複数の第2の転動体と、を有する第2の転がり軸受と、
を備え、前記第1及び第2の内輪と、前記第1及び第2の外輪との少なくとも一方が一体的に形成されることを特徴とする請求項2または3に記載のマニピュレータ用関節部。
【請求項7】
前記第1及び第2の内輪は、前記関節軸によって構成されることを特徴とする請求項6に記載のマニピュレータ用関節部。
【請求項8】
前記転がり軸受は、
内輪、外輪、及び前記内輪及び外輪間に転動自在に配置される複数の針状ころと、を有する針状ころ軸受をさらに有することを特徴とする請求項2または3に記載のマニピュレータ用関節部。
【請求項9】
前記転がり軸受は、少なくとも前記関節軸の軸方向外側において、二重シール構造を有することを特徴とする請求項4から8のいずれかに記載のマニピュレータ用関節部。
【請求項10】
前記転がり軸受に封入される潤滑剤は、基油が植物油及び流動パラフィンから選ばれる1種以上からなり、増ちょう剤が金属石けんからなるグリース組成物であることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のマニピュレータ用関節部。
【請求項11】
前記転がり軸受は、複数のポケットを周方向に形成して該ポケット内で前記転動体を保持する保持器を備え、前記保持器の隣接するポケットの間に所定量の潤滑剤が乗せられて封入されていることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のマニピュレータ用関節部。
【請求項12】
前記駆動機構は、前記転がり軸受の外周、或いは前記回動アームの前記端部外周に掛け渡した線状部材と、当該線状部材に張力を付与して前記回動アームを前記関節軸回りに回動させる張力付与装置とを備えていることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のマニピュレータ用関節部。
【請求項13】
前記駆動機構は、前記転がり軸受の外周、或いは前記回動アームの前記端部外周に、前記関節軸の軸心を円弧中心として円弧形状に形成した入力ギヤと、前記基部アームに配置した回転モータと、この回転モータの出力軸に固定されて前記入力ギヤに噛合しており、前記回転モータの正逆方向の回転駆動力を前記入力ギヤに伝達する出力ギヤとを備えていることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のマニピュレータ用関節部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−131299(P2011−131299A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291213(P2009−291213)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】