説明

マルチアンテナ通信装置

【課題】誤り率が低い小型かつ低消費電力のマルチアンテナ通信装置を提供する。
【解決手段】3本のアンテナ1〜3と、アンテナ1〜3のそれぞれに2個ずつ設けられ、6個のスイッチ31〜36と、スイッチ31〜36が所定の期間だけ1つずつONする制御を、所定の順番で繰り返し行うスイッチ制御回路40と、スイッチ制御回路40の制御に従ってスイッチ31〜36から出力される受信信号を入力し、所定の受信処理を行う2個の受信回路60及び70とを備える。そして、スイッチ制御回路40は、信号入力元としてアンテナ1〜3のいずれもが連続して選択されず、かつ、信号出力先として受信回路60及び70のどちらも連続して選択されない順序で、スイッチ31〜36の切り換え制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナを用いたマルチアンテナ通信装置、特にMIMOやアダプティブアレイに用いられるマルチアンテナ通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表される移動体端末には、さらなる高速化が求められている。これに対して、MIMOは互いの相関の低い複数のアンテナを持つ送受信機で構成される。送信機の各アンテナからは、同じ周波数で異なる信号が送信される。受信機は、各アンテナが受信された信号を信号処理により元の信号に復調する。これにより、アンテナの数だけ伝送速度を上げることができる。
【0003】
しかしながら、このようなマルチアンテナ通信装置は、普通に作るとアンテナの数だけRF回路の数が増えてしまう。RF回路は、消費電力が他の回路に比べて大きいため、マルチアンテナ通信装置は、連続使用時間が短くなるというデメリットがあった。これに対して、アンテナの数よりRF回路の数が少ないマルチアンテナ通信装置が提案されている(特許文献1及び2を参照)。
【0004】
図13は、特許文献1に記載の従来のマルチアンテナ通信装置の構成を示す図である。図13では、4本のアンテナに対して2つの受信回路で受信を行う構成が示されている。しかしながら、図13では、4本のアンテナのうち感度のよい2本のアンテナが選択され、受信回路はその2本に固定して接続される。そのため、アンテナ4本分の伝送速度は得られない。
【0005】
図14は、特許文献2に記載の従来のマルチアンテナ通信装置の構成を示す図である。図14では、4本のアンテナに対して1つの受信回路で受信を行う構成が示されている。図14では、マルチプレクサによって4本のアンテナが受信信号のシンボルレートより早い間隔で切り換えられる。その後、RF回路でダウンコンバートされ、デマルチプレクサで4系統のベースバンド回路に再分配される。これにより、4本のアンテナで受信された信号がすべて復調され、アンテナ4本分の伝送レートが得られる。
【特許文献1】特開2006−109034号公報
【特許文献2】特開2006−135814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図14に示す従来のマルチアンテナ通信装置では、図15(a)に示すように、アンテナ1からアンテナ2に切り換える場合に電圧の不連続が発生する。このような電圧の不連続により、受信信号のスペクトラムは元の信号の帯域幅の何倍にも広がってしまう。利得に周波数特性のあるRF回路を用いてこのような信号を復調すると、波形が歪み、誤り率が増大する。
【0007】
これに対して、図15(b)に示すように、アンテナの切換時に窓関数を用いて連続に接続する方法が考えられる。これにより、信号のスペクトラムの広がりを抑圧できる。しかしながら、この方法では、窓関数で信号を減衰させた分が損失となる。その結果、雑音の影響が大きくなり、誤り率が増大する。
【0008】
それ故に、本発明の目的は、誤り率が低い小型かつ低消費電力のマルチアンテナ通信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、複数のアンテナで同時に信号を受信するマルチアンテナ受信機を備えたマルチアンテナ通信装置に向けられている。そして、上記目的を達成するために、本発明のマルチアンテナ通信装置は、N本のアンテナと、N本のアンテナのそれぞれにM(2≦M<N)個ずつ設けられ、各々のアンテナで受信された信号が入力されるN×M個のスイッチと、N×M個のスイッチが所定の期間だけ1つずつONする制御を、所定の順番で繰り返し行うスイッチ制御回路と、スイッチ制御回路の制御に従ってN×M個のスイッチから出力される受信信号を、アナログのシリアル信号として入力し、シリアル信号を整形した後、スイッチ制御回路で行われる制御タイミングに同期して、アナログからデジタルに変換するM個の受信回路と、M個の受信回路でデジタル化されたシリアル信号をそれぞれパラレル信号に変換して、N本のアンテナに対応したN個の信号を所定の順番で生成するシリアルパラレル変換部とを備え、スイッチ制御回路は、信号入力元としてN本のアンテナのいずれもが連続して選択されず、かつ、信号出力先としてM個の受信回路のいずれもが連続して選択されない順序で、N×M個のスイッチの切り換え制御を行う。
【0010】
好ましくは、M個の受信回路は、それぞれ、シリアル信号を整形する際に、アンテナを切り換える前に受信信号の増幅利得を徐々に下げ、アンテナを切換えた後に受信信号の増幅利得を徐々に上げる制御を行う。
また、N本のアンテナのそれぞれがM個の受信回路に接続されている時間は、特定の期間内で同じであることが望ましい。この場合、N本のアンテナのうちの未接続のn(n<N)本のアンテナが次にM個の受信回路のいずれかに接続される確率は、1/nである。
【0011】
また、N本のアンテナからスイッチ制御回路までの経路に、それぞれ通過帯域可変のバンドパスフィルタを備え、M個の受信回路は、それぞれ発振周波数可変のローカル信号発振器を備え、N個のアンテナとM個の受信回路との接続が切り換わると共に、バンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数が変化し、ローカル信号発振器の発振周波数が変化するように構成してもよい。
【0012】
典型的なバンドパスフィルタは、誘電体共振器と、第1及び第2のMEMSスイッチと、第1及び第2のキャパシタとを備え、誘電体共振器の一端と接地との間に、第1のMEMSスイッチ及び第1のキャパシタが挿入され、誘電体共振器の他端と接地との間に、第2のMEMSスイッチ及び第2のキャパシタが挿入される。そして、スイッチ制御回路の切り換え制御に同期して、第1及び第2のMEMSスイッチがON又はOFFする。
【0013】
また、典型的なローカル信号発振器は、入力する制御信号に応じて発振周波数を変化させるデジタル制御発振器と、デジタル制御発振器の出力を入力する分周器と、分周器の出力を入力する時間−デジタル変換器と、基準クロック発生器と、分周器の出力を直接及び時間−デジタル変換器を介して入力し、分周器の出力及び時間−デジタル変換器の出力と基準クロック発生器の出力との位相差信号を出力するデジタル位相比較器と、位相差信号を平滑化し、制御信号としてデジタル制御発振器に入力するデジタル低域通過フィルタと、メモリの内容を参照してデジタル制御発振器の制御信号と分周器の分周数の初期値とを設定する制御回路とを備える。なお、このローカル信号発振器は、キャリブレーション期間に切り換えるべき複数の周波数情報をデジタルベースバンド回路から取得し、周波数情報の信号をそれぞれ発振し、周波数情報に対応した制御信号情報と分周数情報とをそれぞれメモリに格納することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記構成によって、本発明のマルチアンテナ通信装置では、誤り率の増大を抑え、かつRF回路の数をアンテナの数より減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置の構成例を示す図である。この第1の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置は、第1〜第3のアンテナ1〜3と、アンテナスイッチ20と、信号切り換えスイッチ30と、第1〜第6のスイッチ制御回路41〜46と、第1の受信回路60と、第2の受信回路70と、送信回路80と、シリアルパラレル変換部(S/P)81と、デジタル信号プロセッサ(DSP)82と、分周回路83と、遅延制御回路84とを備える。
【0016】
アンテナスイッチ20は、第1〜第3のアンテナ1〜3に対応した3つのスイッチ21〜23を有する。信号切り換えスイッチ30は、3つのスイッチ21〜23について2つずつ設けられた6つのスイッチ31〜36を有する。第1の受信回路60は、帯域選択フィルタ61、低雑音増幅器62、ダウンミキサ63a及び63b、ベースバンドフィルタ(BBF)64a及び64b、サンプルホールド部(SH)65a及び65b、ADコンバータ(ADC)66a及び66bを含む。第2の受信回路70は、帯域選択フィルタ71、低雑音増幅器72、ダウンミキサ73a及び73b、ベースバンドフィルタ74a及び74b、サンプルホールド部75a及び75b、ADコンバータ76a及び76bを含む。
【0017】
なお、この図1は、受信信号としてQPSK信号を扱う通信装置を想定してダウンミキサ以降の構成を2つ(I信号用及びQ信号用)持つ構成例を示したものである。よって、例えばBPSK信号を扱う場合には、ダウンミキサ以降の構成はそれぞれ1つで済むことになる。
【0018】
第1のアンテナ1は、スイッチ21を介してスイッチ31及び32に接続される。第2のアンテナ2は、スイッチ22を介してスイッチ33及び34に接続される。第3のアンテナ3は、スイッチ23を介してスイッチ35及び36に接続される。スイッチ31〜36は、第1〜第6のスイッチ制御回路41〜46の指示に従って、受信信号を第1の受信回路60又は第2の受信回路70に出力する。スイッチ31、33、及び35がオンの時は、第1〜第3のアンテナ1〜3が第1の受信回路60に接続され、スイッチ32、34、及び36がオンの時は、第1〜第3のアンテナ1〜3が第2の受信回路70に接続される。
【0019】
この第1〜第6のスイッチ制御回路41〜46は、所定のクロック信号(clock)を基準にして、分周回路83で生成される1/6周期ずつ遅延された各々のクロック信号に従って、スイッチ31〜36に指示を与える。分周回路83で生成される各クロック信号は、スイッチ31〜36が31→34→35→32→33→36の順番で巡回的に所定の間隔だけONされるように、第1〜第6のスイッチ制御回路41〜46へ与えられる。
【0020】
第1の受信回路60において、信号切り換えスイッチ30からの出力は、帯域選択フィルタ61及び低雑音増幅器62を介して、ダウンミキサ63a及び63bでI信号及びQ信号へ周波数コンバートされる。そして、周波数コンバートされたI信号及びQ信号は、ベースバンドフィルタ64a及び64bでそれぞれ妨害波が低減される。妨害波が低減された信号は、サンプルホールド部65a及び65bにおいて遅延制御回路84から与えられるクロック信号に同期してサンプルホールド処理された後、ADコンバータ66a及び66bにおいてそのクロック信号に同期してデジタル信号に変換される。この遅延制御回路84は、スイッチ31〜36がON/OFFするタイミングと、サンプルホールド部65a及び65b及びADコンバータ66a及び66bで電圧をサンプリングするタイミングとを調整している。これにより、スイッチ31〜36がON/OFFするスイッチング
雑音が小さくなるタイミングで、サンプリングすることが可能となる。第2の受信回路70においても同様の処理が行われる。
【0021】
ADコンバータ66a及び66bで変換されたデジタル信号は、第1〜第3のアンテナ1〜3の受信信号が所定のタイミングで巡回的にシリアル出力された信号となる。また、ADコンバータ76a及び76bで変換されたデジタル信号も、同様に第1〜第3のアンテナ1〜3の受信信号が所定のタイミングで巡回的にシリアル出力された信号となる。よって、シリアルパラレル変換部81において、この2つのデジタル信号をシリアルからパラレルに変換することで、第1〜第3のアンテナ1〜3の受信信号を分離することができる。パラレルに変換された信号は、デジタル信号プロセッサ82において第1〜第3のアンテナ1〜3の各受信信号として処理される。
【0022】
次に、図2を用いて、本発明の動作原理を説明する。
まず、第1のスイッチ制御部41のオン動作によって、第1のアンテナ1が第1の受信回路60に接続される。次に、第1のアンテナ1の受信信号を第1の受信回路60で復調している間、第4のスイッチ制御部44のオン動作によって、第2のアンテナ2が第2の受信回路70に接続される。次に、第2のアンテナ2の受信信号を第2の受信回路70で復調している間、第1のスイッチ制御部41のオフ動作及び第5のスイッチ制御部45のオン動作によって、第1の受信回路60の接続先が第1のアンテナ1から第3のアンテナ3に切り替わる。次に、第3のアンテナ3の受信信号を第1の受信回路60で復調している間、第4のスイッチ制御部44のオフ動作及び第2のスイッチ制御部42のオン動作によって、第2の受信回路70の接続先が第2のアンテナ2から第1のアンテナ1に切り替わる。
【0023】
次に、第1のアンテナ1の受信信号を第2の受信回路70で復調している間、第5のスイッチ制御部45のオフ動作及び第3のスイッチ制御部43のオン動作によって、第1の受信回路60の接続先が第3のアンテナ3から第2のアンテナ2に切り替わる。次に、第2のアンテナ2の受信信号を第1の受信回路60で復調している間、第2のスイッチ制御部42のオフ動作及び第6のスイッチ制御部46のオン動作によって、第2の受信回路70の接続先が第1のアンテナ1から第3のアンテナ3に切り替わる。次に、第3のアンテナ3の受信信号を第2の受信回路70で復調している間、第3のスイッチ制御部43のオフ動作及び第1のスイッチ制御部41のオン動作によって、第1の受信回路60の接続先が第2のアンテナ2から第1のアンテナ1に切り替わる。以降、この処理が繰り返し行われる。
【0024】
以上のように、本発明の第1の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置によれば、2つの受信回路(第1の受信回路60及び第2の受信回路70)で、3つのアンテナ(第1〜第3のアンテナ1〜3)の受信信号を復調することができる。また、復調時に波形の不整合が発生しないため、誤り率の増大が低減できる。
【0025】
なお、ベースバンドフィルタ64a、64b、74a、及び74bに、スイッチドキャパシタフィルタを用いてもよい。スイッチ41〜46とスイッチドキャパシタフィルタとを規定の遅延時間をもって同期させることにより、スイッチ41〜46の切り換え雑音の影響を低減することができる。
【0026】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置の構成例を示す図である。この第2の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置は、上述した第1の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置と、低雑音増幅器162及び172の構成が異なる。以下、この低雑音増幅器162及び172の説明を行い、他の構成については同一の参照符号を付
して説明を省略する。
【0027】
低雑音増幅器162及び172は、利得切り換え機能を備えている。この利得切り換え機能について図4を参照して説明する。
第1の受信回路60において、第1のアンテナ1から第3のアンテナ3へ切り換わる際の動作を説明する。まず、低雑音増幅器162及び172が、受信信号の増幅利得を下げる。次に、第1のスイッチ制御回路41がオフ動作し、第5のスイッチ制御回路45がオン動作する。最後に、低雑音増幅器162及び172が、受信信号の増幅利得を上げる。
【0028】
図5は、利得切り換え機能を備えた低雑音増幅器162及び172の回路例を示す図である。図5において、IN端子から入力された差動信号は、カスコード接続された増幅部503で増幅され、OUT端子から出力される。電流切り換え回路501のスイッチを順番にオフすることにより、カレントミラー構成のバイアス回路部502の電流が減少し、増幅部503の利得が下がる。逆にスイッチを順番にオンしていくと、バイアス回路部502の電流が増加し、増幅部503の利得が上がる。
【0029】
以上のように、本発明の第2の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置によれば、アンテナ切り換え時におけるスイッチ切り換え雑音の影響を低減することができる。また、図4に示すように、2つのアンテナ間での切り換えに伴う信号の減衰が大きな時間は、この2つ以外のアンテナの復調を行っている時間であるため、誤り率は増大しない。
【0030】
(第3の実施形態)
上述した第1及び第2の実施形態では、第1〜第3のアンテナ1〜3を順番に切り換える方法を説明した。しかし、この方法の場合、繰り返し周波数の強いスプリアス信号が発生する。このスプリアス信号の発生は、アプリケーションによっては誤り率の増大につながる。
【0031】
そこで、この第3の実施形態では、第1〜第3のアンテナ1〜3を切り換える順番をランダムにする方法を説明する。なお、本発明の第3の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置の構成例は、図1又は図3を同様であるため省略する。
【0032】
図6は、第3の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置が実行するアンテナ切り換え手順を示すフローチャートである。図7は、図6のフローチャートを実行した結果の一例を示す図である。
【0033】
マルチアンテナ通信装置の実行が開始された直後は、いずれか1つのアンテナを第1の受信回路60に接続する(ステップS1)。次に、残る2つのアンテナのうち、一方のアンテナを第2の受信回路70に接続する(ステップS2)。この次は、第1の受信回路60に接続されたアンテナを切り換えない処理(ステップS3)、又は残る未接続のアンテナを第1の受信回路60に接続する処理(ステップS4)が、選択される。これらの選択は、共に50%の確率で行われる。この次は、第2の受信回路70に接続されたアンテナを切り換えない処理(ステップS5)、又は未接続のアンテナを第2の受信回路70に接続する処理(ステップS6)が、選択される。これらの選択も、共に50%の確率で行われる。このステップS3〜S6の選択が繰り返し行われる。
【0034】
以上のように、本発明の第3の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置によれば、アンテナ切り換えの順番をランダムにする。これにより、スプリアス信号が、帯域を持った擬似雑音となる。従って、周波数スペクトラムのピーク雑音のレベルが下がり、誤り率の増大が低減される。
【0035】
(第4の実施形態)
図8は、本発明の第4の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置の構成例を示す図である。この第4の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置は、上述した第1の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置と、フィルタ切り換え制御回路90、帯域通過フィルタ91〜93、及びローカル信号発振器67及び77の構成が異なる。以下、このフィルタ切り換え制御回路90、帯域通過フィルタ91〜93、及びローカル信号発振器67及び77の説明を行い、他の構成については同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0036】
帯域通過フィルタ91は、スイッチ21とスイッチ31及び32との間に、帯域通過フィルタ92は、スイッチ22とスイッチ33及び34との間に、帯域通過フィルタ93は、スイッチ23とスイッチ35及び36との間に、それぞれ挿入される。フィルタ切り換え制御回路90は、帯域通過フィルタ91〜93の通過周波数を制御する。ローカル信号発振器67は、ダウンミキサ63a及び63bに入力するローカル信号の発振周波数を変化させ、ローカル信号発振器77は、ダウンミキサ73a及び73bに入力するローカル信号の発振周波数を変化させる。ダイレクトコンバージョン方式の通信装置である場合、帯域通過フィルタ91〜93の中心周波数とローカル信号発振器67及び77から出力されるローカル信号の発振周波数とは、一致する。
【0037】
次に、図9を用いて、本発明の動作原理を説明する。
まず、第1のアンテナ1が第1の受信回路60に接続される。このとき、帯域通過フィルタ91の中心周波数とローカル信号発振器67から出力されるローカル信号の発振周波数は、周波数1に設定される。次に、第2のアンテナ2が第2の受信回路70に接続される。このときも、帯域通過フィルタ92の中心周波数とローカル信号発振器77から出力されるローカル信号の発振周波数は、周波数1に設定される。そして、第3のアンテナ3が第1の受信回路60に接続され、同様に周波数1が用いられる。
【0038】
次に、第1のアンテナ1が第2の受信回路70に接続される。このとき、帯域通過フィルタ91の中心周波数とローカル信号発振器77から出力されるローカル信号の発振周波数は、周波数2に設定される。この後、第2のアンテナ2及び第3のアンテナ3が接続された場合の周波数2での設定における信号が受信される。そして次に、第1のアンテナ1が接続された場合の周波数1での設定における信号が受信され、以後は同じ手順で受信が繰り返し行われる。
【0039】
図10は、帯域通過フィルタ91〜93の構成例を示す図である。INPUTから信号が入力され、SAW共振器(誘電体共振器)を介してOUTPUTから出力される。SAW共振器の両端には、MEMSスイッチを介してMIMキャパシタの一方端が接続されている。MIMキャパシタの他方端は、GNDに接続されている。帯域通過フィルタの中心周波数は、MEMSスイッチをON/OFFさせることで切り換える。これにより、通過帯の中心周波数を可変できかつ損失の小さい帯域通過フィルタが実現できる。
【0040】
図11は、ローカル信号発振器67及び77の構成例を示す図である。ローカル信号は、デジタル制御発振器(DCO)から出力される。DCOの発振周波数は、All Digital Phase Locked Loop(AD−PLL)により制御される。DCOの出力信号の一部が、周波数分周器によって数百MHzの信号に変換される。周波数分周器の出力の一部は、デジタル位相比較器に入力される。また、周波数分周器の出力は、時間−デジタルコンバータ(TDC)にも入力され、TDCの出力は、デジタル位相比較器に入力される。直接デジタル位相比較器に入力された信号は、発振周波数の疎調用(正確には基準クロックの整数倍の精度)に用いられ、TDCを介してデジタル位相比較器に入力された信号は、発振周波数の微調用に用いられる。TDCでは、入力信号の位相が基準クロックの位相に対してインバータがいくつ分の遅延時間に相当するかを検出する
。デジタル位相比較器は、これらの入力信号に応じてDCOの発振周波数をどの程度変化させるかをリアルタイムで求めて、デジタルLPFに出力する。デジタルLPFは、DCOの発振周波数があまりにも急激に変化しないように制御信号を平滑化する。DCOは、制御信号に応じて内部のキャパシタをスイッチ切換し、発振周波数を制御する。
【0041】
なお、上記構成の場合、AD−PLLの収束時間に課題が残る。従って、ローカル信号の発振周波数をシンボルレートの整数倍で切り換える必要があり、従来のハンドオフの切り換え時間よりは早い収束時間が必要となる。これに対して、キャリブレーションを行い、PLLの初期状態を予め求めることにより、収束時間を短くすることができる。
【0042】
図12は、キャリブレーションから受信開始までの手順を示すフローチャートである。
まず、受信を開始する前にデジタルベースバンド回路から周波数1及び周波数2の値を取得する(ステップS11)。その値に基づいて、まず周波数1で発振を行う(ステップS12)。このとき、発振周波数とダウンミキサとは、スイッチ等で切断してDCO出力を終端する。これにより、ローカル信号がダウンミキサに入力されるのを防ぐ。AD−PLLが収束した後、その時のDCOの制御信号の情報(制御信号情報1)と分周器の分周数(分数数情報1)とをメモリに格納する(ステップS12)。
【0043】
同様にして周波数2で発振させ、制御信号情報2と分数数情報2とをメモリに格納する(ステップS13)。次に実際に信号の受信が開始される。このとき、発振回路はダウンミキサに接続される。さらに、メモリから制御信号情報1と分周数情報1とを読み出して、DCO及び分周器の初期値としてセットする。そして、AD−PLLを動作させ、周波数1のローカル信号を得る(ステップS14)。同様に周波数2を発振するときも、メモリから制御信号情報2と分周数情報2とを読み出して、DCO及び分周器の初期値としてセットし、AD−PLLを動作させる(ステップS15)。
【0044】
上記方法により、予め収束した条件からAD−PLLを動作させることができ、異なる周波数のローカル信号を得るための切換時間を格段に短くすることができる。
【0045】
以上のように、本発明の第4の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置によれば、フィルタの通過帯域及びダウンミキサへ出力するローカル信号の発振周波数を制御する。これにより、損失の少ない安定したアンテナ切り換え制御を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のマルチアンテナ通信装置は、MIMOやアダプティブアレイといった複数のアンテナを用いたアプリケーションの無線通信機器の無線回路部等への利用に適している。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置の構成例を示す図
【図2】第1の実施形態の動作原理を説明するタイミングチャート
【図3】本発明の第2の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置の構成例を示す図
【図4】第2の実施形態の動作原理を説明するタイミングチャート
【図5】低雑音増幅器162及び172の回路例を示す図
【図6】第3の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置が実行するアンテナ切り換え手順を示すフローチャート
【図7】第3の実施形態の動作原理を説明するタイミングチャート
【図8】本発明の第4の実施形態に係るマルチアンテナ通信装置の構成例を示す図
【図9】第4の実施形態の動作原理を説明するタイミングチャート
【図10】帯域通過フィルタ91〜93の構成例を示す図
【図11】ローカル信号発振器67及び77の構成例を示す図
【図12】第4の実施形態に用いられるキャリブレーションから受信開始までの手順を示すフローチャート
【図13】従来のマルチアンテナ通信装置の構成を示す図
【図14】従来の他のマルチアンテナ通信装置の構成を示す図
【図15】従来のマルチアンテナ通信装置における課題を説明する図
【符号の説明】
【0048】
11〜13 アンテナ
20 アンテナスイッチ
21〜23、31〜36 スイッチ
30 信号切り換えスイッチ
41〜46 スイッチ制御回路
60、70 受信回路
61、71 帯域選択フィルタ
62、72、91〜93、162、172 低雑音増幅器
63a、63b、73a、73b ダウンミキサ
64a、64b、74a、74b ベースバンドフィルタ
65a、65b、75a、75b サンプルホールド部
66a、66b、76a、76b ADコンバータ
67、77 ローカル信号発振器
80 送信回路
81 シリアルパラレル変換部
82 デジタル信号プロセッサ
83 分周回路
84 遅延制御回路
90 フィルタ切り換え制御回路
501 電流切り換え回路
502 バイアス回路部
503 増幅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナで同時に信号を受信するマルチアンテナ受信機を備えたマルチアンテナ通信装置であって、
N本のアンテナと、
前記N本のアンテナのそれぞれにM(2≦M<N)個ずつ設けられ、各々のアンテナで受信された信号が入力されるN×M個のスイッチと、
前記N×M個のスイッチが所定の期間だけ1つずつONする制御を、所定の順番で繰り返し行うスイッチ制御回路と、
前記スイッチ制御回路の制御に従って前記N×M個のスイッチから出力される受信信号を、アナログのシリアル信号として入力し、当該シリアル信号を整形した後、前記スイッチ制御回路で行われる制御タイミングに同期して、アナログからデジタルに変換するM個の受信回路と、
前記M個の受信回路でデジタル化されたシリアル信号をそれぞれパラレル信号に変換して、前記N本のアンテナに対応したN個の信号を前記所定の順番で生成するシリアルパラレル変換部とを備え、
前記スイッチ制御回路は、信号入力元として前記N本のアンテナのいずれもが連続して選択されず、かつ、信号出力先として前記M個の受信回路のいずれもが連続して選択されない順序で、前記N×M個のスイッチの切り換え制御を行う、マルチアンテナ通信装置。
【請求項2】
Mが2である、請求項1に記載のマルチアンテナ通信装置。
【請求項3】
前記M個の受信回路は、それぞれ、前記シリアル信号を整形する際に、アンテナを切り換える前に受信信号の増幅利得を徐々に下げ、アンテナを切換えた後に受信信号の増幅利得を徐々に上げる制御を行う、請求項1又は2に記載のマルチアンテナ通信装置。
【請求項4】
前記N本のアンテナのそれぞれが前記M個の受信回路に接続されている時間は、特定の期間内で同じである、請求項1又は2に記載のマルチアンテナ通信装置。
【請求項5】
前記N本のアンテナのうちの未接続のn(n<N)本のアンテナが、次に前記M個の受信回路のいずれかに接続される確率は、1/nである、請求項4に記載のマルチアンテナ通信装置。
【請求項6】
前記N本のアンテナからスイッチ制御回路までの経路に、それぞれ通過帯域可変のバンドパスフィルタを備え、
前記M個の受信回路は、それぞれ発振周波数可変のローカル信号発振器を備え、
前記N個のアンテナと前記M個の受信回路との接続が切り換わると共に、前記バンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数が変化し、前記ローカル信号発振器の発振周波数が変化する、請求項1に記載のマルチアンテナ通信装置。
【請求項7】
前記バンドパスフィルタは、
誘電体共振器と、
第1及び第2のMEMSスイッチと、
第1及び第2のキャパシタとを備え、
前記誘電体共振器の一端と接地との間に、前記第1のMEMSスイッチ及び前記第1のキャパシタが挿入され、
前記誘電体共振器の他端と接地との間に、前記第2のMEMSスイッチ及び前記第2のキャパシタが挿入され、
前記スイッチ制御回路の切り換え制御に同期して、前記第1及び第2のMEMSスイッチがON又はOFFする、請求項7に記載のマルチアンテナ通信装置。
【請求項8】
前記ローカル信号発振器は、
入力する制御信号に応じて発振周波数を変化させるデジタル制御発振器と、
前記デジタル制御発振器の出力を入力する分周器と、
前記分周器の出力を入力する時間−デジタル変換器と、
基準クロック発生器と、
前記分周器の出力を直接及び前記時間−デジタル変換器を介して入力し、前記分周器の出力及び前記時間−デジタル変換器の出力と前記基準クロック発生器の出力との位相差信号を出力するデジタル位相比較器と、
前記位相差信号を平滑化し、前記制御信号として前記デジタル制御発振器に入力するデジタル低域通過フィルタと、
メモリの内容を参照して前記デジタル制御発振器の制御信号と前記分周器の分周数の初期値とを設定する制御回路とを備える、請求項7に記載のマルチアンテナ通信装置。
【請求項9】
前記ローカル信号発振器は、キャリブレーション期間に切り換えるべき複数の周波数情報をデジタルベースバンド回路から取得し、当該周波数情報の信号をそれぞれ発振し、前記周波数情報に対応した制御信号情報と分周数情報とをそれぞれ前記メモリに格納する、請求項8に記載のマルチアンテナ通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−194533(P2009−194533A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31899(P2008−31899)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】