説明

ミシンの給油ポンプ

【課題】予めシリンダ内に潤滑油を充填する作業を不要とする。
【解決手段】動作変換機構20により進退移動を行うプランジャ30と、シリンダ部41を備えるポンプ本体40と、シリンダ部に流入する方向への潤滑油の流動のみを許容する流入側逆止弁50と、シリンダ部から流出する方向への潤滑油の流動のみを許容する流出側逆止弁60とを備え、流入側逆止弁及び流出側逆止弁は、いずれも、所定方向に弾性的に撓むことで流路が開かれる板状の弁体51,61又は流出側逆止弁に関してはコイルバネ92に支持された弁体91と、弁体に対して潤滑油の流動方向上流側に設けられて当該流動方向上流側への撓みを阻止する板状の規制体53,63又は流入口75Aとを備え、板状の弁体51と板状の規制体63、板状の弁体61と板状の規制体53とをそれぞれ同一の平板81,83で形成し、一枚、二枚又は三枚の平板をポンプ本体に重ねて併設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシン内において潤滑油の循環を行うための給油ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工業用ミシンの機構は、高速回転で使用されるため釜機構やメタル軸受け等の摺動面に、潤滑油を必要とする。これらの部分に潤滑油が不足すると動作が円滑に行われないだけでなく、焼き付きを起こしてしまう可能性がある。そのため、これらの部分に絶えず給油が行われるように、多くのミシンは潤滑油を送給させる給油ポンプを備えている。
【0003】
かかる給油ポンプ100は、図12に示すように、ミシンモータを駆動源として回転を行う下軸101に固定装備された偏心カム102と、偏心カム102と復帰バネ103の作用により往復動作を行うピストン104と、ピストン104が挿入されるシリンダ部105が形成されたシリンダブロック106と、シリンダブロック106においてシリンダ部105を挟んで一方と他方とに形成された弁室107,108内に設けられた流入側と流出側の逆止弁109,110とを備えている。
【0004】
そして、上記給油ポンプ100の復帰バネ103はシリンダ部105の内部に配設されている。
また、流入側の逆止弁109は、弁室107内において押圧バネ111によりシリンダ部105への流入方向への流動のみを許容するように設けられたボール弁112とを備え、流出側の逆止弁110は、弁室108内において押圧バネ113によりシリンダ部105への流出方向への流動のみを許容するように設けられたボール弁114とを備えている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−082150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のミシンの給油ポンプ100は、各逆止弁109,110がボール弁112,114と押圧バネ111,113とを備える構成のため、これらを配置するための弁室107,108が必須となり、ポンプの小型化が困難であるという問題があった。
また、上記ミシンの給油ポンプ100は、シリンダ部105内に復帰バネ103が配設されているので、ピストン104が最も後退した場合(下死点に位置する場合)でもシリンダ部105は復帰バネ103の配設スペースを確保するための必要最小限の容積を確保する必要があること、また、前述した二つの弁室107,108がシリンダ部に併設されていることにより、シリンダ部105内に空気などの気体が少しでも存在していると、当該気体のみを収縮することで、ポンプ効率が急激に低下するという問題があった。
また、これに伴い、シリンダ部105内に潤滑油が全く入っていない状態からミシンモータを駆動しても、給油ポンプ100により潤滑油の循環を行うことできないことから、一旦、シリンダ部105まで潤滑油を抜いてしまうと、給油ポンプ100の再駆動時には、予め作業者が人為的にシリンダ部105内に潤滑油を充填する作業が必要となるという問題も生じていた。
【0007】
本発明の目的は、簡単な構成で、好適に潤滑油を供給することができるミシンの給油ポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、ミシンモータを駆動源として回転を行う駆動軸のトルクを直動往復動作に変換する動作変換機構と、前記動作変換機構により進退移動を行うプランジャと、前記プランジャを進退移動可能に支持すると共にシリンダ部を備えるポンプ本体と、前記シリンダ部に連通すると共に当該シリンダ部に流入する方向への潤滑油の流動のみを許容する流入側逆止弁と、前記シリンダ部に連通すると共に当該シリンダ部から流出する方向への潤滑油の流動のみを許容する流出側逆止弁とを備えるミシンの給油ポンプにおいて、前記流入側逆止弁及び流出側逆止弁は、いずれも、弁体と、前記弁体の流動許容方向上流側において前記弁体により閉塞可能な潤滑油の通過口が設けられた規制体とを備え、
前記流入側逆止弁及び流出側逆止弁のうちいずれか一方は、前記弁体として、潤滑油の流動許容方向下流側に向かって弾性的に撓むことで流路が開かれる板状の弁体を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記流入側逆止弁及び流出側逆止弁は、いずれも、前記板状の弁体を備え、前記流入側逆止弁の弁体と前記流出側逆止弁の規制体とを同一の平板に形成し、前記流入側逆止弁の規制体と前記流出側逆止弁の弁体とを同一の他の平板に形成し、これら二枚の平板を前記ポンプ本体に対して重ねて併設したことを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記二枚の平板は、形状及び構造が同一に形成され、一方の平板の弁体と他方の平板の規制体とが対向し、一方の平板の規制体と他方の平板の弁体とが対向するように重ねて前記ポンプ本体に併設されることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項2又は3記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記ポンプ本体の下方に配置され、ポンプ本体に固定される土台を備え、前記ポンプ本体において前記シリンダ部はその底部が開口するように形成されると共に、前記二枚の平板が前記ポンプ本体と土台とに挟持されることにより、前記開口した底部を閉塞し、前記プランジャは前記動作変換機構により前記ポンプ本体側の平板に接する程度まで移動させられることを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項2から4のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記二枚の平板の間に、個々の前記弁体と個々の前記規制体との間となる配置で潤滑油の流量を調節する絞り穴を設けた平板を介挿することを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項1に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記流入側逆止弁は、前記板状の弁体を備え、前記流出側逆止弁は、当該流出側逆止弁の前記規制体の下流側に配置された弁体及びコイルバネを備え、前記コイルバネが前記弁体を前記規制体に押圧して当該規制体に設けられた前記通過口が閉塞されるとともに、前記コイルバネの収縮変形により当該弁体を当該規制体から乖離させることで当該通過口が開かれることを特徴とする。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記流入側逆止弁の前記弁体と、前記流出側逆止弁の前記規制体とを同一の平板に形成し、この平板を前記ポンプ本体に対して重ねて併設したことを特徴とする。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記ポンプ本体の下方に配置され、ポンプ本体に固定される土台を備え、前記ポンプ本体において前記シリンダ部はその底部が開口するように形成されると共に、前記平板が前記ポンプ本体と土台とに挟持されることにより、前記開口した底部を閉塞し、前記プランジャは前記動作変換機構により前記平板に接する程度まで移動させられ、前記流入側逆止弁の前記規制体は、前記土台により構成されたことを特徴とする。
【0016】
請求項9記載の発明は、請求項2から4及び請求項7から8のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記平板はバネ鋼材で形成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項10記載の発明は、請求項1から9のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記動作変換機構は、前記プランジャに対して進退移動方向のいずれか一方向のみの移動力を付与し、前記プランジャには、進退移動方向の残る方向の移動力を付与する復帰バネが併設され、当該復帰バネを、前記シリンダ部の外側に配置したことを特徴とする。
【0018】
請求項11記載の発明は、請求項1から10のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記動作変換機構は、前記駆動軸に固定装備された偏心カムであり、前記流入側逆止弁と流出側逆止弁とを前記駆動軸に直交する方向に並んで配置すると共に、前記プランジャの進退移動方向から見た断面形状を前記駆動軸に直交する方向に沿って長くなる形状としたことを特徴とする。
【0019】
請求項12記載の発明は、請求項11記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記プランジャの外周に設けられ、前記シリンダ部の内周面と前記プランジャの外周面との間をシールするOリングを備え、前記Oリングの外力無負荷の状態の形状は、前記プランジャの前記断面形状に対応して一方向に長くこれに直交する方向に扁平した長円状であることを特徴とする。
【0020】
請求項13記載の発明は、請求項1から12のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記プランジャの外周に設けられ、前記シリンダ部の内周面と前記プランジャの外周面との間をシールするOリングを複数備え、前記複数のOリングは、前記プランジャの進退移動方向軸について異なる位置に配置されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本願発明は、平板により流入側逆止弁又は流出側逆止弁を形成しているので、この板状の逆止弁を薄型化し、また、弁室をほぼ不要とするので、ポンプ全体の大幅な小型を実現することが可能である。
また、平板に対する加工により弁体や規制体を形成するので、加工・製造を容易にすることが可能である。
【0022】
特に、プランジャの進退移動方向から見た断面形状を駆動軸に直交する方向に沿って長くなる形状とし、流入側逆止弁と流出側逆止弁とを駆動軸に直交する方向に並んで配置したことにより、駆動軸に沿った方向についてポンプの小型化を図ることが容易となり、複数のポンプを駆動軸に沿って並べて配置することが容易となる。
この場合に、シリンダ部の内周面とプランジャの外周面との間をシールするOリングを適用するときは、Oリングの外力無負荷の状態の形状を、プランジャの断面形状に対応して一方向に長くこれに直交する方向に扁平した長円状とすることが好ましい。このOリングの長手方向を、プランジャ断面の長手方向に合わせて嵌め込むことで、Oリングがプランジャの外周面から不均一に突出することが防がれ、プランジャの周に亘って均一なシール性が確保される。
また、シリンダ部の内周面とプランジャの外周面との間をシールするOリングを適用する場合には、プランジャの進退移動方向軸について異なる位置に複数のOリングを配設することが好ましい。これにより、プランジャのシリンダ部に対する傾動を防止し平行度を保つことで、プランジャの進退移動の円滑性、効率性を向上することができ、2重のOリングが常に均一にシリンダ部の内周面に対して密着しシール性が向上する。
【0023】
また、逆止弁を平板から形成することで弁室がほぼ不要となることから、プランジャが下死点にある時のシリンダ部と弁室からなる内部容積量を低減することができ、シリンダ内部に空気などの気体が存在する場合でも、ポンプ効率の低下の影響を低減することが可能となる。このため、一旦、ポンプを空にした状態から起動しても、潤滑油を吸引、吐出することができ、予め人為的にポンプ内に潤滑油を充填する作業を不要とすることができ、作業効率の向上を図ることが可能となる。
【0024】
また、プランジャの復帰バネを設ける構成とした場合には、当該復帰バネをシリンダ部の外側に配置する構成とすることにより、シリンダ内部容積を0とする構造を得ることが容易となり、気体が存在する場合のポンプ効率の低下をさらに低減することができる。
また、平板をバネ鋼材で構成すると耐久性が高く、ポンプが小型化される。
【0025】
流入側逆止弁及び流出側逆止弁のうちいずれか一方のみに、板バネの弁体を適用しても、弁室の縮小効果が得られる。
このように一方のみに適用する場合は、流入側逆止弁のみに板バネの弁体を適用し、流出側逆止弁としては、規制体の下流側に配置された弁体及びコイルバネを適用することが好ましい。この場合も、弁体及びコイルバネは規制体の下流側、すなわち、シリンダ部の外にあるから、プランジャの下死点を上昇させることはない。また、流入側逆止弁の板バネ弁体は撓んだときシリンダ部内に配置されるものの、流出側逆止弁の板バネ弁体はシリンダ部外に配置される。シリンダ部より流路断面積が縮小する流路では流速変化が激しくポンプ動作に伴う繰り返し荷重が大きくなるため、シリンダ部より流路断面積が縮小する流路に設置される流出側逆止弁の方に、コイルバネにより支持された弁体を適用して疲労限度を高めることが有効策となる場合がある。また、流入側逆止弁のみに板バネの弁体を適用する場合は、ポンプ本体に固定される土台により、上述の通過口が設けられた規制体を構成することができるから、板バネ弁体を形成する平板を1枚にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】発明の第1実施形態たるミシンの給油ポンプの斜視図である。
【図2】第1実施形態のミシンの給油ポンプの平面図である。
【図3】第1実施形態のミシンの給油ポンプの図2におけるW−W線に沿った断面図である。
【図4】第1実施形態のミシンの給油ポンプの一部をY−Z平面に沿って切り欠いた斜視図である。
【図5】第1実施形態におけるポンプ本体と土台とに挟持される二枚の平板を上下の並び順に従って重ならないように並べて図示した斜視図である。
【図6】第1実施形態の逆止弁の構造を示す拡大断面図であり、(A),(C)は弁開放状態、(B),(D)は弁閉塞状態を示す。
【図7】第2実施形態のポンプ本体と土台とに挟持される三枚の平板を上下の並び順に従って重ならないように並べて図示した斜視図である。
【図8】第2実施形態の各逆止弁の構造を示す拡大断面図であり、(A),(C)は弁開放状態、(B),(D)は弁閉塞状態を示す。
【図9】第3実施形態のミシンの給油ポンプの分解斜視図である。
【図10】第3実施形態のミシンの給油ポンプの2つの流出口の中心軸を含む平面についての断面図である。
【図11】第3実施形態のミシンの給油ポンプの1つの流入口及び1つの流出口の中心軸を含む平面についての断面図である。
【図12】従来のミシンの給油ポンプを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(実施形態の概要)
以下に、本発明を実施するための好ましい形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
最初に本発明の第1実施形態について図1から図6に基づいて説明する。
図1は第1実施形態たるミシンの給油ポンプ10の斜視図、図2は第1実施形態の平面図、図3は図2におけるW−W線に沿った断面図、図4は図1におけるY方向に沿ってその一部を切り欠いた斜視図である。また、図5は第1実施形態におけるポンプ本体と土台とに挟持される二枚の平板を上下の並び順に従って重ならないように並べて図示した斜視図であり、図6は第1実施形態の逆止弁の構造を示す拡大断面図である。なお、図3では後述する下軸1と偏心カム21を示したが、他の図では省略した。
【0028】
ミシンの給油ポンプ10は、図1に示すように、ミシンモータ(図示省略)の駆動により回転する駆動軸の一つである下軸1の下方に設置されている。なお、ここに例示する給油ポンプ10は、そのポンプ構造の主要部が二つ設けられた二連式であるが、無論、主要部が一つのものであっても良いことは言うまでもない。なお、一つのものとは、後述するシリンダ部41、プランジャ30、流入側逆止弁50、流出側逆止弁60等が各一個だけ備えられているものである。
給油ポンプ10の二連式の一方は、ミシンのオイルパンに溜まった潤滑油をオイルタンクに戻すために用いられ、もう一方はオイルタンクから潤滑油を供給する各機構部へ潤滑油を送り出すため用いられる。
なお、二連式のポンプの主要部を構成する各部(後述するシリンダ部41、プランジャ30、流入側逆止弁50、流出側逆止弁60等)については同一構造であることから、同一の構成については同じ符号を付して説明する。
【0029】
上記給油ポンプ10は、下軸1のトルクを直動往復動作に変換するための動作変換機構20と、動作変換機構20が有する二つの偏心カム21(後述)により進退移動(上下移動)を行う二つのプランジャ30と、それぞれのプランジャ30が挿入され、これらを上下移動可能に支持する二つのシリンダ部41が形成されたポンプ本体40と、各シリンダ部41に設けられ、各シリンダ部41に流入する方向への潤滑油の流動のみを許容する流入側逆止弁50と、各シリンダ部41に設けられ、各シリンダ部41から流出する方向への潤滑油の流動のみを許容する流出側逆止弁60と、各シリンダ部41に対する潤滑油の流入口75と流出口76とが形成された土台70とを備えている。
以下、各部を説明する。
なお、以下の説明において、前述したプランジャ30の進退移動方向を上下方向又はZ軸方向とし、Z軸方向に直交する平面上であって下軸1に平行な方向をY軸方向、下軸1に直交する方向をX軸方向とする。
【0030】
(ポンプ本体)
ポンプ本体40は、平面視長方形状のブロックからなり、Z軸方向に沿って、貫通形成された二つのシリンダ部41が設けられている。二つのシリンダ部41は平面視長円状に形成されている。なお、平面視の平面とはX−Y平面である。
二つのシリンダ部41は、Y軸方向に沿って並んで設けられている。また、各シリンダ部41は、その断面形状である長円の長手方向がX軸方向を向いている。
また、ポンプ本体40のX軸方向一端部には、やはり、Z軸方向に沿って貫通した長穴状の取り付け穴42が形成されており、下軸1の下側において取り付けネジによりミシンフレームに固定装備されるようになっている。
【0031】
また、このポンプ本体40の下側には、ポンプ本体40とY軸方向の幅が等しく、X軸方向の幅が小さい平面視長方形状の土台70が四つのネジ71〜74により固定される。また、ポンプ本体40と土台70との間には、二つの流入側逆止弁50と二つの流出側逆止弁60を形成するための二枚の平板81,83が介挿されており、四つのネジ71〜74の締結によりこれらの平板81,83を挟持している。これらの平板81,83は、前述したポンプ本体40の各シリンダ部41の下方開口部を閉塞し、シリンダ部41の底板となる。
【0032】
(動作変換機構)
動作変換機構20は、互いに近接して並んだ状態で下軸1に固定装備された二つの円形の偏心カム21と、それぞれの偏心カム21に当接して下方に押圧される二つのプランジャ30を押し戻すための二つの復帰バネ22と、各復帰バネ22の押圧力を同時に二つのプランジャ30に伝達する連動板23とを備えている。
上記各偏心カム21は、その外周が各プランジャ30の上端面にその外周を当接させることで各プランジャ30を下軸1の回転周期に合わせて下方に押圧する外周カムである。これらの偏心カム21は位相を一致させた状態で下軸1に固定されている。
なお、偏心カム21は、円形に限らず、下軸1の回転によりプランジャ30を押圧できるいずれの形状でも良いし、下軸1の一回転に対して複数回押圧可能な形状でも良く、図9に示す三角形状の偏心カム102を用いても良い。
【0033】
上記連動板23は、二つの略コ字状の切り欠き23aが形成されており、それぞれの切り欠き23aは、各プランジャ30の上端部近傍であって長手方向に両端部に形成された嵌合溝31に嵌合して相互に固定される。これにより、連動板23と二つのプランジャ30が一体となって上下動を行うようになっている。
また、連動板23の下面におけるX軸方向両端部には、下方に突出した二つのボス23bが形成されており、各復帰バネ22が嵌め込まれて保持されるようになっている。
各復帰バネ22は、連動板23の下面と後述する土台70の上面との間に介挿され、連動板23及びこれに連結された二つのプランジャ30を上方に押圧するようになっている。
なお、図示省略したが、土台70の上面側には、各復帰バネ22が収納される円形溝が形成されている。
また、前述した二つのネジ72,73には、その頭部外周にフランジ状の抜け止め72a,73aが固定装備されている。このため、給油ポンプ10を下軸1の下側から取り外した場合でも、これら抜け止め72a,73aの下面が連動板23の上面に当接することで、復帰バネ22に押圧されて各プランジャ30が飛び出さないようになっている。なお、これら抜け止め72a,73aは、偏心カム21によりプランジャ30が最上昇位置に移動しても、抜け止め72a,73aと連動板23(図3において最上昇位置における連動板23を二点鎖線で図示)上面との間に所定量の隙間hが形成されるように、その高さが設定されている。
【0034】
(プランジャ)
各プランジャ30は、前述したように、シリンダ部41と同じ平面視が長円状であり、Z軸方向に沿って一様に同一形状に形成されている。そして、各プランジャ30はシリンダ部41に嵌合し、その上部を外部に突出した状態でシリンダ部41内においてZ軸方向に沿って往復移動が可能である。また、その上端面と下端面とはいずれも平滑に形成されている。そして、上端面近傍には前述したように嵌合溝31が形成され、連動板23を介して各復帰バネ22により上方に押圧されている。
また、各プランジャ30の下端面近傍における外周面には、リング溝32が形成されており、Oリング33が装着される。かかるOリング33により、プランジャ30の外周面とシリンダ部41の内壁とがシールされ、シリンダ部41内であってプランジャ30の下側に密閉領域が形成される。そして、プランジャ30の上下動により、流入側逆止弁50と流出側逆止弁60とを通じて、この密閉領域に潤滑油が流入又は流出する。
【0035】
プランジャ30は、前述したように、その上端面に偏心カム21の外周が当接しており、当該偏心カム21の下方変位が最も小さい時に最も高い位置(最上昇位置)となり、偏心カム21の下方変位が最も大きい時に最も低い位置(最下降位置)となる。
そして、各プランジャ30は、最下降位置に位置する時に、その下端面がシリンダ部41の底となる平板81の上面にほぼ接触し、シリンダ部41の容積(密閉領域の容積)がほぼ0となるように設計されている。
【0036】
また、各プランジャ30の下側には、その下端面に対向して、流入側逆止弁50と流出側逆止弁60とが設けられており、さらに、流入側逆止弁50を介して密閉領域が潤滑油の流入口75とつながっており、流出側逆止弁60を介して密閉領域が潤滑油の流出口76とつながっている。
また、流入側逆止弁50はプランジャ30の下端面における長手方向一端部側に位置し、流出側逆止弁60は他端部側に位置している。また、プランジャ30は長円状に形成されているので、ポンプの主要構成について長円と直交する方向(Y軸方向)について小型化を図ることができ、例えば、下軸1に沿って並んで複数のポンプを設けることも可能となる。
【0037】
(土台)
土台70の、各プランジャ30の底面の一端部に対向するそれぞれの位置には流入口75が上下に貫通形成されており、各プランジャ30の底面の他端部に対向するそれぞれの位置には流出口76が上下に貫通形成されている。
また、各流入口75及び各流出口76の内面には雌ネジが形成されており、流入ホース接続用のホースジョイント77と流出ホース接続用のホースジョイント78とがそれぞれ螺着されている。
【0038】
(流入側逆止弁及び流出側逆止弁)
図5は、ポンプ本体40と土台70とに挟持される二枚の平板81,83を上下の並び順に従って並べて図示した斜視図、図6は流入側逆止弁50と流出側逆止弁60の構造を示す拡大断面図である。
【0039】
ここで、図5及び図6を参照しつつ、流入側逆止弁50を例にその基本構造を説明する。上記平板81、83は、逆止弁50が流通を許容する方向に沿って並ぶように重ね合わせる。なお、各平板81,83は、前述した土台70の上面と同一サイズ、同一形状である。
流入側逆止弁50の流通許容方向における最も下流側となる平板81に片持ち梁状の弁体51を形成するために当該弁体51の外形に沿った形状(例えばC字状)のスリットが形成されている。かかる弁体51は、片持ち梁構造なので、その自由端側が上下に撓むことができる。
【0040】
そして、平板81に対して、流通許容方向における上流側に隣接する平板83には、弁体51に重なる位置に当該弁体51が完全に閉塞することが可能な大きさの通過口53が貫通形成されている。この通過口53の大きさが、流入側逆止弁50を通過する潤滑油の通過量を左右する、絞り穴としての機能を有する。平板83における通過口53の周囲の部分が規制体として機能することとなる(通過口53を規制体とも称する)。
【0041】
かかる構造により、通過口53は、弁体51よりも小さいことから、弁体51が通過口53側(流通許容方向上流側)に撓めないように規制されることとなる。その結果、流入方向IN側(流通許容方向、シリンダ部41の密閉領域の内圧が低くなる場合)に潤滑油が流通する場合には、弁体51は、上方に撓み、開口してその流通が許容される(図6(A)の状態)。また、その際の流量は通過口53の内径に応じた流量に制限される。また、流出方向OUT側に潤滑油が流通しようとする場合(シリンダ部41の密閉領域の内圧が高くなる場合)には、弁体51は通過口53側に圧力を受けるが、その方向には撓むことが阻止され、通過口53を閉塞した状態となり、流通は阻止される(図6(B)の状態)。
【0042】
このように、流入側逆止弁50は、平板81に形成された弁体51と平板83に形成された通過口53(厳密にはその周囲の部分からなる規制体)とにより構成される。
【0043】
また、流出側逆止弁60は、流入側逆止弁50とは流通許容方向が逆なので、平板83に形成された弁体61と平板83に形成された通過口63(厳密にはその周囲の部分からなる規制体)とにより構成される。そして、弁体61は前述した弁体51と同一構造であり、通過口63(規制体とも称する)は前述した通過口53(規制体)と同一構造である。
かかる構成により、流出側逆止弁60は、流出方向OUT側(流通許容方向、シリンダ部41の密閉領域の内圧が高くなる場合)に潤滑油が流通する場合には、弁体61は、下方に撓み、開口してその流通が許容される(図6(C)の状態)。また、流入方向IN側に潤滑油が流通しようとする場合(シリンダ部41の密閉領域の内圧が低くなる場合)には、弁体61は通過口63側に外部から圧力を受けるが、その方向には撓むことが阻止され、通過口63を閉塞した状態となり、流通は阻止される(図6(D)の状態)。
【0044】
平板81と平板83には、ポンプ本体40と土台70を固定するネジ71、72、73、74を貫通するための、装着穴64a、64b、64c、64dが形成されている。また、平板81と平板83には、復帰バネ22を貫通させる穴65aと65bとが形成されている。そして、平板81は、左右方向の中心線y1に対して、弁体51と通過口63の組が、装着穴64a、64cと装着穴64b、64dの組が、穴65aと65bの組が左右対称位置に形成されている。また、平板83は、左右方向の中心線y1に対して、弁体61と通過口53の組が、装着穴64b、64dと装着穴64a、64cの組が、穴65bと65aの組が左右対称位置に形成されている。
このため、平板81と平板83とは、同一の構造体であり、配置される向きの表裏が互いに逆となっているだけの違いしかない。なお、それぞれに形成された弁体及び通過口については、流入側逆止弁50と流出側逆止弁60との対応を明確に示すために異なる符号を付している。
弁体と通過口(規制体)とが形成された二枚の同一の平板を、弁体と通過口とが対向するように重ね合わせることで、隣接する流入側逆止弁50と流出側逆止弁60を形成することが可能である。このように部品の統一化によって製造コストの低減を図ることが可能である。
平板81と平板83は、厚さ0.05mmの薄板状のバネ鋼材で形成されており、ステンレス製のバネ鋼材でも好ましい。また、平板81と平板83は、繊維強化されたゴムからなる板材かれ形成されても良い。
【0045】
(ミシンの給油ポンプの動作)
上記構成からなる給油ポンプ10は、ミシンモータが駆動して下軸1が回転を行うと、偏心カム21も回転して周期的にプランジャ30を下方に押し下げる。プランジャ30は、復帰バネ22と偏心カム21の作用により、下軸1の回転速度に同期して上下動を行う。
その結果、プランジャ30の上昇時には、密閉領域内が減圧され、流入側逆止弁50において潤滑油の流入が許容され、内部に潤滑油が吸引される。一方、このとき、流出側逆止弁60は閉塞状態となる。
そして、プランジャ30の下降時には、密閉領域内が昇圧され、流出側逆止弁60において潤滑油の流出が許容され、外部に潤滑油が排出される。一方、このとき、流入側逆止弁50は閉塞状態となる。
このようにして、プランジャ30が上下動を繰り返すことで、流入口75からは流入ホース接続用のホースジョイント77を通じて潤滑油の吸引が間欠的に行われ、流出口76からは流出ホース接続用のホースジョイント78を通じて潤滑油の送出が完結的に行われることとなる。
【0046】
次に、図7、8に基づいて、本願発明の第2実施形態について説明する。
第1実施形態では、流入側逆止弁50と流出側逆止弁60とは、二枚の平板81,83により構成されていた。これに対して第2実施形態は、三枚の平板81,82,83により構成されている。中間の平板82には、通過穴53,63に対向するように、絞り穴52,62が形成されている。絞り穴52,62は、通過穴53,63より小さく、ポンプの供給量の調節を任意且つ容易に行う機能を有する。また、図8に示すように、弁体51、61が水平一直線になった際、当該弁体51、61が絞り穴52,62を完全に閉塞できる大きさに形成されている。
【0047】
(ミシンの給油ポンプの効果)
給油ポンプ10は、二枚乃至三枚の平板により流入側逆止弁50及び流出側逆止弁60を形成しているので、これら逆止弁50、60を薄型化し、また、弁室をほぼ不要とするので、ポンプ全体の大幅な小型を実現することが可能である。
また、平板に対する加工により弁体や規制体を形成するので、加工・製造を容易にすることが可能である。
また、各逆止弁50,60を平板から形成することで弁室がほぼ不要となることから、プランジャが下死点にある時のシリンダ部41と弁室からなる内部容積量を低減することができ、シリンダ内部に空気などの気体が存在する場合でも、ポンプ効率の低下の影響を低減することが可能となる。このため、一旦、ポンプを空にした状態から起動しても、潤滑油を吸引、吐出することができ、予め人為的にポンプ内に潤滑油を充填する作業を不要とすることができ、作業効率の向上を図ることが可能となる。
【0048】
特に、プランジャ30の復帰バネ22をシリンダ部41の外部に配置し、プランジャ30は平板81に接する位置まで下降するので、シリンダ部41の密閉領域の内部容積をほぼ0とすることができ、これにより、シリンダ内部に空気などの気体が存在する場合のポ
ンプ効率の低下をさらに低減することができ、ポンプを空にした状態からの起動をより円滑に行うことができ、作業効率のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0049】
また、給油ポンプ10は、二枚の平板81,83の間に絞り穴52,62を設けた平板82を介挿するので、ポンプの供給量の調節を任意且つ容易に行うことが可能となる。
【0050】
次に、図9から図11に基づいて、本願発明の第3実施形態について説明する。
第1実施形態では、流入側逆止弁50と流出側逆止弁60とは、二枚の平板81,83により構成されていた。これに対して第3実施形態は、一枚の平板81のみを適用する点、流出側逆止弁が平板81とは独立の弁体91及びコイルバネ92を備える点で異なり、さらに土台70A及び流出ホース接続用のホースジョイント78Aの形状が異なる。また、第3実施形態では、プランジャ30Aの外周面には、2つのリング溝32A,32Bが形成されており、2つのOリング33A,33Bが装着される。以下これらの第1実施形態とは異なった部分を中心に説明する。その他の形態は、第1実施形態と同様である。
【0051】
まず、第3実施形態では、バネ鋼板からなる1枚の平板81がポンプ本体40と土台70Aとの間に挟持される。平板81の構成は第1実施形態と同じであり、弁体51は流入側逆止弁の弁体を構成し、弁体51の通過口63の周囲部分が流出側逆止弁の規制体を構成する。
土台70Aには、流入路を確保するために、流入ホース接続用のホースジョイント80が一体に形成されている。流入側逆止弁の規制体は、土台70Aの流入口75Aの内径(少なくとも平板81に接する端部の内径)が弁体51の直径より小さいことによって、土台70Aによって構成される。また、土台70Aには、小判状のシリンダ穴(シリンダ部)41、41が平行に2個形成され、さらに、その両端部に復帰バネ22の装着穴40A,40Aが形成されている。
【0052】
流出ホース接続用のホースジョイント78Aの土台70Aへの接続端部の中空部にコイルバネ保持部93が形成されている。コイルバネ保持部93にコイルバネ92の一端部が挿入されてコイルバネ92は保持される。コイルバネ保持部93は、コイルバネ92の外径が収まる内径を有した流路で、コイルバネ保持部93より下流の流路がコイルバネ92の外径より小さい内径に形成されることによって、コイルバネ92の一端が係止される構造である。
コイルバネ92の他端に弁体91が固定されている。弁体91は、例えば平板81と同じ材料や、樹脂板等で構成し、通過口63を塞ぐものであれば足りる。
コイルバネ92が弁体91を規制体(通過口63の周囲部分)に押圧して通過口63が閉塞されるとともに、プランジャ30Aの下降時には油圧により弁体91が押されて、コイルバネ92が収縮変形し、これにより弁体91を規制体(通過口63の周囲部分)から乖離させることで通過口63が開かれる機構が構成されている。
【0053】
以上のように構成された第3実施形態によれば、流入側逆止弁は第1実施形態と同様に開閉機能する。
弁開放時には流入側逆止弁の弁体51はシリンダ部41側に撓む。潤滑油が流入口75Aより流路断面積が大きい空間であるシリンダ部41に流入する際には流速は緩和される。これに対し、シリンダ部41より流路断面積が小さい空間である流出口76に流出する際には流速は高まる。
以上のことから、第1、第2実施形態の弁体61に負荷されるポンプ動作に伴う繰り返し荷重は、弁体51のそれより大きなものとなり、この点を考慮して設計する必要がある。第1、第2実施形態では、平板83の材質や厚みを選択して十分な耐久性を達成するように設計することができるが、より安価で、より耐久性を向上させるためには、第3実施形態が好ましい。
特に、第3実施形態にあっては、コイルバネ92の弾性により弁体91を可動状態に支持する。そのため、吐き出し部分における繰り返し荷重に耐える高い耐久性を達成することが容易である。
コイルバネ92としては規格品を適用でき、弁体91は平板81の抜き捨て部分で構成することも可能である。
第3実施形態によれば、一枚の平板81のみをポンプ本体40と土台70Aとの間に挟むので、第1,2実施形態に比較しても給油ポンプの小型化がさらに図られる。
【0054】
プランジャ30Aの外周面には、2つのリング溝32A,32Bが周設されている。Oリング33Aがリング溝32Aに嵌め入れられ、Oリング33Bがリング溝32Bに嵌め入れられて、2つのOリング33A,33Bがプランジャ30Aに装着されている。2つのリング溝32A,32Bは、プランジャ30Aの進退移動方向軸について異なる位置に設けられている。したがって、2つのOリング33A,33Bは、プランジャ0Aの進退移動方向軸について異なる位置に配置される。Oリング33A,33Bは、このようにプランジャ30Aの外周に設けられ、シリンダ部41の内周面とプランジャ30Aの外周面との間をシールする。そのため、Oリング33A,33Bは、シリンダ部41の内周面に接触しており、プランジャ30Aは、シリンダ部41に対してOリング33A,33Bを支点として支持された状態となる。2つのOリング33A,33Bは、プランジャ30Aの進退移動方向軸について異なる位置に配置されているので、プランジャ30Aのシリンダ部41に対する傾動を防止しプランジャ30Aの軸とシリンダ部41の軸との平行度を保ち、プランジャ30Aの円滑で効率的な進退移動を実行できる。上下に離れて2重のOリング33A,33Bが常に均一にシリンダ部41の内周面に対して密着しており、そのシール性が確保できる。
【0055】
第1、第2実施形態と同様に、プランジャ30Aの進退移動方向から見た断面形状を駆動軸に直交する方向に沿って長くなる形状とされている。
このようなプランジャ30Aの扁平長尺な断面形状に対応して、Oリング33A,33Bの外力無負荷の状態の形状も、図9に示すような扁平長尺状に形成されている。
すなわち、Oリング33A,33Bの外力無負荷の状態の形状は、プランジャ30Aの断面形状に対応して一方向に長くこれに直交する方向に扁平した長円状とされている。
扁平長尺な断面形状のプランジャ30Aに、円形のOリングを外嵌すると、そのOリングは、プランジャ30Aの長軸方向に伸張変形し、長軸方向より短軸方向にプランジャ30Aの外周面からはみ出しやすくなる場合がある。この場合は、Oリングが装着されたプランジャ30Aをシリンダ部41に挿入しにくいという不都合がある。
第3実施形態では、外力無負荷の状態で長円状のOリング33A,33Bの長手方向を、プランジャ30A断面の長手方向に合わせて嵌め込むことで、Oリング33A,33Bがプランジャ30Aの外周面から不均一に突出することが防がれ、プランジャ30Aの周に亘って均一なシール性が確保される。また、Oリング33A,33Bが装着されたプランジャ30Aをシリンダ部41に円滑に挿入することができる。
【0056】
なお、以上の第3実施形態で採用した2つのOリング33A,33Bによる上下2重のシール構造、及びOリング33A(33B)の長円形状のうち、双方又は一方を、第1又は第2実施形態に対して適用した形態を実施することでも、その作用効果を得ることができることは勿論である。
上記のように、第3実施形態では、より耐久性を向上させるために、流入側逆止弁が板状の弁体51と規制体(土台70Aの流入口75A)から構成され、流出側逆止弁が弁体91と規制体(通過口63の周囲部分)から構成されている。しかし、通常の耐久性能で十分であれば、第1実施形態や第2実施形態でも好ましい。
これらの実施形態から、この発明のミシンの給油ポンプは、ミシンモータを駆動源として回転を行う駆動軸のトルクを直動往復動作に変換する動作変換機構20と、動作変換機構により進退移動を行うプランジャ30と、プランジャ30を進退移動可能に支持すると共にシリンダ部41を備えるポンプ本体40と、シリンダ部41に連通すると共に当該シリンダ部に流入する方向への潤滑油の流動のみを許容する流入側逆止弁50と、 前記シリンダ部に連通すると共に当該シリンダ部から流出する方向への潤滑油の流動のみを許容する流出側逆止弁60とを備えている。
そして、流入側逆止弁及び流出側逆止弁は、いずれも、弁体51、91と、弁体の流動許容方向上流側において弁体により閉塞可能な潤滑油の通過口75A,76が設けられた規制体とを備え、流入側逆止弁及び流出側逆止弁のうちいずれか一方は、弁体51として、潤滑油の流動許容方向下流側に向かって弾性的に撓むことで流路が開かれる板状の弁体を備えていればよい。
また、第3実施形態の流出側逆止弁は、流出側逆止弁の規制体(通過口63の周囲部分)の下流側に配置された弁体91及びコイルバネ92を備えいる。そして、コイルバネ93が弁体91を規制体に押圧して規制体に設けられた通過口63が閉塞されるとともに、コイルバネ92の収縮変形により弁体91を規制体から下流側(OUT側)に向けて乖離させることで通過口63が開かれる。
また、第3実施形態では、流入側逆止弁の弁体51と、流出側逆止弁の規制体とを同一の平板81に形成し、この平板81をポンプ本体40に対して重ねて併設している。
また、第3実施形態では、ポンプ本体40の下方に配置され、ポンプ本体40に固定される土台70Aを備えている。そして、ポンプ本体40においてシリンダ部41はその底部が開口するように形成されると共に、平板81がポンプ本体40と土台とに挟持されることにより、開口した底部を閉塞する。また、プランジャ30Aは動作変換機構20により平板81に接する程度まで移動させられる。さらに、流入側逆止弁の規制体は、土台70Aにより構成されている。
【0057】
(その他)
動作変換機構は、外周カムを例示したが、これに限らず、溝カムでも良い。その場合、カムの溝に応じてプランジャ30が上下動を行うように連結されることとなるので、復帰バネ22は不要である。また、動作変換機構は、カム機構に限らず、クランク機構であっても良い。例えば、下軸1に固定装備された偏心カムを一端に擁するコンロッドの他端部をプランジャ30に連結し、下軸1の回転に同期してプランジャ30を上下動させても良い。その場合も復帰バネ22は不要である。
また、動作変換機構を構成する偏心カム21は、2個のプランジャ30それぞれ対して1個もうけたが、2個のプランジャに当接する1個の偏心カム21に置き換えることも容易に考えられる。
また、上記実施形態では、給油ポンプに2個のプランジャを配置して、効率よく所定の給油量を得るようにしたが、1個のプランジャで給油することも容易に考えられる。
【符号の説明】
【0058】
1 下軸(駆動軸)
20 動作変換機構
21 偏心カム
22 復帰バネ
30 プランジャ
40 ポンプ本体
41 シリンダ部
50 流入側逆止弁
51 弁体
52 絞り穴
53 通過口(規制体)
60 流出側逆止弁
61 弁体
62 絞り穴
63 通過口(規制体)
81,82,83 平板
91 弁体
92 コイルバネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンモータを駆動源として回転を行う駆動軸のトルクを直動往復動作に変換する動作変換機構と、
前記動作変換機構により進退移動を行うプランジャと、
前記プランジャを進退移動可能に支持すると共にシリンダ部を備えるポンプ本体と、
前記シリンダ部に連通すると共に当該シリンダ部に流入する方向への潤滑油の流動のみを許容する流入側逆止弁と、
前記シリンダ部に連通すると共に当該シリンダ部から流出する方向への潤滑油の流動のみを許容する流出側逆止弁とを備えるミシンの給油ポンプにおいて、
前記流入側逆止弁及び流出側逆止弁は、いずれも、弁体と、前記弁体の流動許容方向上流側において前記弁体により閉塞可能な潤滑油の通過口が設けられた規制体とを備え、
前記流入側逆止弁及び流出側逆止弁のうちいずれか一方は、前記弁体として、潤滑油の流動許容方向下流側に向かって弾性的に撓むことで流路が開かれる板状の弁体を備えることを特徴とするミシンの給油ポンプ。
【請求項2】
前記流入側逆止弁及び流出側逆止弁は、いずれも、前記板状の弁体を備え、
前記流入側逆止弁の弁体と前記流出側逆止弁の規制体とを同一の平板に形成し、前記流入側逆止弁の規制体と前記流出側逆止弁の弁体とを同一の他の平板に形成し、
これら二枚の平板を前記ポンプ本体に対して重ねて併設したことを特徴とする請求項1に記載のミシンの給油ポンプ。
【請求項3】
前記二枚の平板は、形状及び構造が同一に形成され、一方の平板の弁体と他方の平板の規制体とが対向し、一方の平板の規制体と他方の平板の弁体とが対向するように重ねて前記ポンプ本体に併設されることを特徴とする請求項2記載のミシンの給油ポンプ。
【請求項4】
前記ポンプ本体の下方に配置され、ポンプ本体に固定される土台を備え、
前記ポンプ本体において前記シリンダ部はその底部が開口するように形成されると共に、前記二枚の平板が前記ポンプ本体と土台とに挟持されることにより、前記開口した底部を閉塞し、
前記プランジャは前記動作変換機構により前記ポンプ本体側の平板に接する程度まで移動させられることを特徴とする請求項2又は3記載のミシンの給油ポンプ。
【請求項5】
前記二枚の平板の間に、個々の前記弁体と個々の前記規制体との間となる配置で潤滑油の流量を調節する絞り穴を設けた平板を介挿することを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載のミシンの給油ポンプ。
【請求項6】
前記流入側逆止弁は、前記板状の弁体を備え、
前記流出側逆止弁は、当該流出側逆止弁の前記規制体の下流側に配置された弁体及びコイルバネを備え、
前記コイルバネが前記弁体を前記規制体に押圧して当該規制体に設けられた前記通過口が閉塞されるとともに、前記コイルバネの収縮変形により当該弁体を当該規制体から乖離させることで当該通過口が開かれることを特徴とする請求項1に記載のミシンの給油ポンプ。
【請求項7】
前記流入側逆止弁の前記弁体と、前記流出側逆止弁の前記規制体とを同一の平板に形成し、この平板を前記ポンプ本体に対して重ねて併設したことを特徴とする請求項6に記載のミシンの給油ポンプ。
【請求項8】
前記ポンプ本体の下方に配置され、ポンプ本体に固定される土台を備え、
前記ポンプ本体において前記シリンダ部はその底部が開口するように形成されると共に、前記平板が前記ポンプ本体と土台とに挟持されることにより、前記開口した底部を閉塞し、
前記プランジャは前記動作変換機構により前記平板に接する程度まで移動させられ、
前記流入側逆止弁の前記規制体は、前記土台により構成されたことを特徴とする請求項7記載のミシンの給油ポンプ。
【請求項9】
前記平板はバネ鋼材で形成されていることを特徴とする請求項2から4及び請求項7から8のいずれか一項に記載のミシンの給油ポンプ。
【請求項10】
前記動作変換機構は、前記プランジャに対して進退移動方向のいずれか一方向のみの移動力を付与し、
前記プランジャには、進退移動方向の残る方向の移動力を付与する復帰バネが併設され、
当該復帰バネを、前記シリンダ部の外側に配置したことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のミシンの給油ポンプ。
【請求項11】
前記動作変換機構は、前記駆動軸に固定装備された偏心カムであり、
前記流入側逆止弁と流出側逆止弁とを前記駆動軸に直交する方向に並んで配置すると共に、
前記プランジャの進退移動方向から見た断面形状を前記駆動軸に直交する方向に沿って長くなる形状としたことを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のミシンの給油ポンプ。
【請求項12】
前記プランジャの外周に設けられ、前記シリンダ部の内周面と前記プランジャの外周面との間をシールするOリングを備え、
前記Oリングの外力無負荷の状態の形状は、前記プランジャの前記断面形状に対応して一方向に長くこれに直交する方向に扁平した長円状であることを特徴とする請求項11に記載のミシンの給油ポンプ。
【請求項13】
前記プランジャの外周に設けられ、前記シリンダ部の内周面と前記プランジャの外周面との間をシールするOリングを複数備え、
前記複数のOリングは、前記プランジャの進退移動方向軸について異なる位置に配置されたことを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載のミシンの給油ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−96013(P2012−96013A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211165(P2011−211165)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】